(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106512
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】転写シート、加飾成形品及び加飾成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/023 20190101AFI20230725BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230725BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230725BHJP
B32B 7/06 20190101ALI20230725BHJP
【FI】
B32B7/023
B32B27/20 Z
B29C45/14
B32B7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083271
(22)【出願日】2023-05-19
(62)【分割の表示】P 2021058476の分割
【原出願日】2021-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北村 真一
(72)【発明者】
【氏名】柏木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】田代 寛
(57)【要約】
【課題】意匠性を低下させることなく成形品に反射防止機能を付与することができる転写シート、加飾成形品、及び加飾成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】転写シート10は、基体シート11と離型層12を有する離型シート13と、離型層12の上に形成された低屈折率層14と、低屈折率層14の上に形成されたハードコート層15と、ハードコート層15の上に形成された接着層16とを備える。低屈折率層14は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、(a)中空シリカ粒子、及び(b)粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体シートと離型層とを有する離型シートと、
前記離型層の上に形成された低屈折率層と、を備え、
前記低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、下記の(a)及び(b)を含有する、転写シート。
(a)中空シリカ粒子
(b)粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子
【請求項2】
前記低屈折率層は、前記活性エネルギー線硬化型樹脂と、前記(a)及び前記(b)の合計を100質量部として、前記(a)と前記(b)の含有量の合計が60~71質量部である、請求項1に記載の転写シート。
【請求項3】
前記低屈折率層は、前記活性エネルギー線硬化型樹脂を30~41質量部、前記(a)を40~50質量部、前記(b)を9~25質量部含む、請求項1または請求項2に記載の転写シート。
【請求項4】
前記低屈折率層は、膜厚が50~150nmである、請求項1から請求項3のいずれかに記載の転写シート。
【請求項5】
前記低屈折率層の上に形成されたハードコート層を更に備えた、請求項1から請求項4のいずれかに記載の転写シート。
【請求項6】
成形体と、
前記成形体の上に形成された低屈折率層と、を備え、
前記低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、下記の(a)及び(b)成分とを含有する、加飾成形品。
(a)中空シリカ粒子
(b)粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子
【請求項7】
基体シートと離型層を有する離型シートと、前記離型層の上に形成された低屈折率層と、を備え、前記低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、(a)中空シリカ粒子及び(b)粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子とを含有する、転写シートを準備する準備工程と、
前記転写シートを第1型に配置する配置工程と、
前記第1型と第2型とを型締めしてキャビティを形成する型締め工程と、
前記キャビティに溶融樹脂を射出する射出工程と、
前記溶融樹脂を冷却・固化することにより成形体を形成すると同時に、前記低屈折率層を成形体に転写して加飾成形品を成形する成形工程と、
前記第1型と前記第2型を型開きする型開き工程と、
前記加飾成形品を取り出す取出し工程と、を備えた加飾成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾成形品に適用され、反射防止機能を有する転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ(表示装置)は、様々な状況下で使用され、その用途は多岐に渡っている。自動車分野では、カーナビゲーションシステム、センターインフォメーションディスプレイ、メーターパネル等にディスプレイが使用され、様々な情報の提供が可能となっている。近年、静電容量式タッチパネル等の普及によりディスプレイを触って操作するようになったことから、見栄えだけでなく操作性、触り心地といった特性も要求され、更に、デザイン性への訴求から、平面形状から立体形状へのニーズが高まっている。
【0003】
従来、外光の映りこみによる視認性の悪化に対して、様々な方法でディスプレイ表面に反射防止加工を施す手法が用いられてきた。例えば、反射防止処理を施したフィルムに粘着層を形成してガラスへ貼合する貼合法や、ガラス基板に液膜処理で反射防止層を形成するディップ法等である。しかし、貼合法を適用すると、粘着層起因の歪みが生じてガラスの特徴である優れた視認性の低下を招く場合がある。ディップ法の場合は、枚葉で作製する必要があるため生産性の低下が懸念される。
【0004】
そこで、剥離可能な支持体上に設けられた反射防止層を転写して反射防止機能を付与する転写法が提案されている。例えば、特許文献1には、ポリメタクリル酸メチル板に転写用反射防止フィルムをラミネートし、その後、剥離可能な支持体を剥離させる転写用反射防止フィルムが開示されている。しかしながら、この技術は平面板が対象であり、3次元形状の成形品への適用は実用化が進んでいなかった。
【0005】
特許文献2では、絵柄や機能を付加した転写材を金型内に配置して射出成形することで、3次元形状の成形品の表面に意匠や機能を付与している。しかしながら、機能層として反射防止層を用いた場合、基体シート側の離型層と反射防止層との密着性が弱くなり、離型層の一部が反射防止層から剥離してしまう場合がある。成形前に離型層の一部が反射防止層から剥離していると、離型シート剥離後も跡になって残るおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-114305号公報
【特許文献2】特開平9-123694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、層間での浮きや剥がれを発生させることなく成形品に反射防止機能を付与することができる転写シート、加飾成形品、及び加飾成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、第1の発明は、基体シートと離型層とを有する離型シートと、離型層の上に形成された低屈折率層と、を備え、低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、下記の(a)及び(b)成分とを含有する、転写シートである。
(a)中空シリカ粒子
(b)粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子
【0009】
このように構成すると、特定の粒子径のシリカ粒子によって、反射防止機能を低下させることなく、離型層と低屈折率層とを適度に密着させて離型シートの浮きや剥がれを抑制できる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、(a)及び(b)との合計を100質量部として、(a)と(b)の含有量の合計が60~71質量部である、転写シートである。
【0011】
このように構成すると、離型層と低屈折率層との密着力をより向上させて、成形前の離型シートの浮きや剥がれによって離型シート剥離後に跡が残ることを防止することができる。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明において、低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂を30~41質量部、(a)を40~50質量部、(b)を9~25質量部含む、転写シートである。
【0013】
このように構成すると、反射防止機能と、低屈折率層と離型層との密着力を保ちながら、低屈折率層の耐擦傷性を向上させることができる。
【0014】
第4の発明は、第1から第3の発明において、低屈折率層は、膜厚が50~150nmである、転写シートである。
【0015】
このように構成すると、低屈折率層の反射防止機能をより向上させることができる。
【0016】
第5の発明は、第1から第4の発明において、低屈折率層の上に形成されたハードコート層を更に備えた、転写シートである。
【0017】
このように構成すると、低屈折率層のシリカ粒子表面がハードコート層に入り込むことで低屈折率層とハードコート層との密着力が上がり、離型シートを低屈折率層から剥離しやすくすることができる。
【0018】
第6の発明は、成形体と、成形体の上に形成された低屈折率層と、を備え、低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、下記の(a)及び(b)成分とを含有する、加飾成形品である。
(a)中空シリカ粒子
(b)粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子
【0019】
第7の発明は、基体シートと離型層を有する離型シートと、離型層の上に形成された低屈折率層と、を備え、低屈折率層は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、(a)中空シリカ粒子及び(b)粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子とを含有する、転写シートを準備する準備工程と、転写シートを第1型に配置する配置工程と、第1型と第2型とを型締めしてキャビティを形成する型締め工程と、キャビティに溶融樹脂を射出する射出工程と、溶融樹脂を冷却・固化することにより成形体を形成すると同時に、低屈折率層を成形体に転写して加飾成形品を成形する成形工程と、第1型と第2型を型開きする型開き工程と、加飾成形品を取り出す取出し工程と、を備えた加飾成形品の製造方法である。
【0020】
このように構成すると、特定の粒子径のシリカ粒子によって、反射防止機能を低下させることなく、離型層と低屈折率層とを適度に密着させて離型シートの浮きや剥がれを抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、各層の浮きや剥がれを発生させることなく成形品に反射防止機能を付与することができる転写シート、加飾成形品、及び加飾成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態による転写シート10の断面図である。
【
図2】本発明の実施形態による加飾成形品20の断面図である。
【
図3】本発明の実施形態による加飾成形品の製造方法のうち、配置工程の概略図である。
【
図4】本発明の実施形態による加飾成形品の製造方法のうち、吸引工程の概略図である。
【
図5】本発明の実施形態による加飾成形品の製造方法のうち、型締め工程の概略図である。
【
図6】本発明の実施形態による加飾成形品の製造方法のうち、射出工程の概略図である。
【
図7】本発明の実施形態による加飾成形品の製造方法のうち、型開き工程及び取出し工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。なお、本明細書中における「○○~△△」の記載は、別途記載が無い場合、上限と下限とを含む数値範囲を意味する。すなわち、「○○~△△」は「○○以上、△△以下」を意味する。
【0024】
図1を参照して、本実施形態による転写シート10は、基体シート11と離型層12を有する離型シート13と、離型層12の上に形成された低屈折率層14と、低屈折率層14の上に形成されたハードコート層15と、ハードコート層15の上に形成された接着層16とを備える。低屈折率層14は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、(a)中空シリカ粒子、及び(b)粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子を含有する。転写シート10のうち、低屈折率層14、ハードコート層15、及び接着層16は被転写物に転写される転写層17である。転写シート10は、成形後に離型層12と低屈折率層14の界面で剥離され、離型シート13は除去される。
【0025】
図2を参照して、本実施形態による加飾成形品20は、成形体21と、成形体21の上に形成された接着層16と、接着層16の上に形成されたハードコート層15と、ハードコート層の上に形成された低屈折率層14とを備える。加飾成形品20は、低屈折率層14が最表面の層である。
【0026】
<離型シート>
離型シート13を構成する基体シート11は、低屈折率層14やハードコート層15、接着層16を支持する用途で従来から使用されるシート材料である。構成材料としては特に制限はないが、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、酢酸セルロース系樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂シートを使用することができる。
【0027】
基体シート11の厚みは5~500μmであることが好ましい。基体シート11の厚みをこのような範囲に設定すると、適度な剛性を得ることができ、転写シート10を金型等に配置する時のハンドリング性を十分に確保できる。
【0028】
離型層12は、成形体21に転写層17を転写した後、離型シート13を剥離する際に、基体シート11ともに成形品から剥離する層である。離型層12によって、離型シート13の剥離面全体に低屈折率層14に対する離型性が付与される。離型層12を形成するためのインキ又は塗料は、有機溶媒、結合剤として熱硬化型樹脂を含む組成物を用いるとよい。熱硬化型樹脂の例としては、尿素、メラミン、グアナミン、アニリンのようなアミノ基を持った不乾性油変性アルキッドに、ホルムアルデヒドを付加縮合させて得られる樹脂を5~40重量%配合した樹脂組成物、又はメラミンと尿素の混合物をホルムアルデヒドと共縮合反応させて得られる樹脂、エポキシ樹脂とメラミン樹脂の混合物である樹脂などが挙げられる。特に、複雑な成形品形状に追従できる三次元成形性を得るために、アクリルメラミン系樹脂を用いることが好ましい。又、剥離性を向上させるために、離型層の表面自由エネルギーは40mJ/m2以上であることが好ましい。表面自由エネルギーは、水、ジヨードメタンを用いて離型層表面における接触角を測定し、得られた接触角の測定値をもとにOwens and Wendtの理論式を用いて算出する。接触角は、接触角計(協和界面科学株式会社製の「DM500」)を使用して、JIS R3257に準拠して測定することができる。
【0029】
離型層12の厚みは0.1μm~30μmであることが好ましい。このような範囲に設定すると、離型シートが低屈折率層から剥離しやすくなる。好ましい離型層の厚みは0.1~10μmであり、より好ましくは0.1~1μmである。
【0030】
<低屈折率層>
低屈折率層14は、成形体21に反射防止機能を付与するための層である。低屈折率層14は、目標とする外観、物理特性及びコストを元に適時設計できる。また、離型シート13を剥離することから、低屈折率層14と離型層12との界面密着性が重要であり、離型層12と適切に密着/剥離するよう、組成を設計する必要がある。
【0031】
低屈折率層14は、低屈折率層用樹脂組成物Lを乾燥・硬化させることで形成される。低屈折率層の硬化後の膜厚は、50~150nmの範囲内において、目的とする波長領域の最小反射率が最小となるように設定される。低屈折率層の厚みが上記の範囲内であれば、最小反射率が高くなり過ぎることがなく好適に使用できる。
【0032】
低屈折率層14の反射率は、0.5~2.0%とすることが好ましい。このような範囲であれば、加飾成形品に反射防止機能を付与することができる。尚、本明細書における反射率は、転写シートの低屈折率層やハードコート層の下に黒色の着色インキを3層重ねて印刷した隠蔽層を形成したうえで、成形後の加飾成形品の表面(低屈折率層の表面)の波長550nmでの反射率を、分光測色計(コニカミノルタ(株)製、商品名:CM-5)を用いてSCI方式で測定することができる。
【0033】
低屈折率層用樹脂組成物(L)は、中空シリカ粒子(以下、「中空シリカ粒子(a)」と言う。)、及び粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子(以下、「シリカ粒子(b)」と言う。)を含有する樹脂組成物である。中空シリカ粒子(a)に加えてシリカ粒子(b)を含有させると、低屈折率層に隣接する層にシリカ粒子(b)の表面の一部が入り込む。これにより、低屈折率層と隣接する層との密着力が向上する。
【0034】
低屈折率層用樹脂組成物Lには、低屈折率層中に中空シリカ粒子(a)、及びシリカ粒子(b)を保持するための活性エネルギー線硬化型樹脂を含み、更に、その他の成分を配合することができる。その他の成分としては、光開始剤、金属酸化物、光増感剤、安定化剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、密着性向上剤、防汚剤等が挙げられる。
【0035】
シリカ粒子(b)の平均粒子径は、中空シリカ粒子(a)の平均粒子径に対し、0.1~1.7倍である。シリカ粒子(b)の平均粒子径を中空シリカ粒子(a)の平均粒子径の0.1倍以上にすると、シリカ粒子(b)の表面が低屈折率層に隣接する離型層やハードコート層へ入り込みやすくなり、低屈折率層と離型層及びハードコート層との密着力が上がる。一方、シリカ粒子(b)の平均粒子径を中空シリカ粒子(a)の平均粒子径の1.7倍以下にすると、シリカ粒子(b)の平均粒子径に起因した拡散光が増加せず、反射防止機能を保つことができる。
【0036】
低屈折率層14は、中空シリカ粒子(a)、シリカ粒子(b)、及び活性エネルギー線硬化型樹脂との相対関係によって、屈折率が1.3~1.45になるように調整されることが好ましい。なお、本明細書における屈折率は、アッベ屈折計を用いて、JIS K 0062-1992に準じて測定することができる。
上記組成物中の各成分の配合量は、中空シリカ粒子(a)、シリカ粒子(b)、及び活性エネルギー線硬化型樹脂の合計の固形分を100質量部として、中空シリカ粒子(a)を40~50質量部、シリカ粒子(b)を9~25質量部、及び活性エネルギー線硬化型樹脂を30~41質量部とすることが好ましい。このような配合量にすると、活性エネルギー線硬化型樹脂の量に対する中空シリカ粒子(a)とシリカ粒子(b)の含有量が適切となるので、中空シリカ粒子(a)による反射防止機能とシリカ粒子(b)による隣接層との密着力を保ちつつ、低屈折率層の耐擦傷性を向上させることができる。
【0037】
低屈折率層14で用いられる中空シリカ粒子(a)の屈折率は、1.2~1.4が好ましい。中空シリカ粒子(a)の屈折率がこのような範囲に設定すると、反射防止機能を発現させつつ、中空シリカ粒子の適度な含有量により良好な塗膜強度を保つことができる。
【0038】
中空シリカ粒子(a)の平均粒子径は、約60nm以下であることが好ましい。平均粒子径が約60nm以下に設定すると、中空シリカ粒子の大きさに起因した拡散光の増加を抑制し、反射防止機能を良好に保つことができる。
【0039】
中空シリカ粒子(a)は、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤等により表面が修飾されることが好ましい。(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤等で中空シリカ粒子表面を修飾することにより、活性エネルギー線硬化型樹脂との共有結合が形成され、塗膜強度が強くなる傾向が見られる。さらに、中空シリカ粒子(a)を多く配合した場合には、低屈折率層と、これに接するように形成されるハードコート層との界面において、中空シリカ微粒子表面に修飾された(メタ)アクリロイル基と、ハードコート層に含有される活性エネルギー線硬化型樹脂との共有結合が形成され、界面密着が強くなる傾向が見られる。
【0040】
中空シリカ粒子(a)とシリカ粒子(b)の配合量は、中空シリカ粒子(a)、シリカ粒子(b)、及び活性エネルギー線硬化型樹脂の合計の固形分を100質量部として、中空シリカ粒子(a)とシリカ粒子(b)の合計が60~71質量部であることが好ましい。このような範囲に設定すると、低屈折率層と隣接する離型層やハードコート層との密着力を保つことができる。特に低屈折率層と離型層との密着力を上げることで、成形前の離型シートの浮きや剥がれを防止し、離型シート剥離後に跡が残ることを防ぐことができる。
【0041】
活性エネルギー線硬化型樹脂としては、紫外線や電子線などを照射することにより、架橋反応などを経て硬化する紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂などが挙げられる。具体的には、活性エネルギー線硬化型樹脂としては、例えば、ビニル基や(メタ)アクリロイル基などのエチレン性不飽和二重結合を有する単量体、オリゴマー、重合体などが挙げられる。
更に、活性エネルギー線硬化型樹脂としては、アクリレート化合物、ウレタンアクリレート化合物、エポキシアクリレート化合物等が挙げられ、単官能化合物、多官能化合物が適時選択して用いられる。特に、低屈折率の観点から、フッ素を含有した、アクリレート化合物、ウレタンアクリレート化合物、エポキシアクリレート化合物等が好ましい。
【0042】
低屈折率層で用いられる光開始剤としては、光ラジカル重合開始剤が挙げられる。光ラジカル重合開始剤は、光カチオン重合開始剤や光アニオン重合開始剤に比べて、反応時間を短縮することができロールtoロールでの作製に好適である。光開始剤の配合量は、中空シリカ粒子(a)、シリカ粒子(b)、及び活性エネルギー線硬化型樹脂の合計の固形分を100質量部として、通常1~10質量部であり、好ましくは2~8質量部である。配合量がこの範囲内であれば、低屈折率層が硬化不良となったり屈折率が高くなり過ぎたりすることがなく好適に用いることができる。
【0043】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル等のベンゾインまたはベンゾインアルキルエーテル;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸等の芳香族ケトン;ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール等のベンジルケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパン-1-オン等のアセトフェノン;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等のアシルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0044】
低屈折率層用樹脂組成物(L)は、系を均一にし、塗工を容易にするために有機溶媒で希釈して使用してもよい。そのような有機溶媒としては、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、エーテルエステル系溶剤、ケトン系溶剤、およびリン酸エステル系溶剤が挙げられる。
【0045】
<ハードコート層>
ハードコート層15は透明性を有し、加飾成形品に硬度を付与する層である。ハードコート層15としては、熱、紫外線又は電子線等のエネルギーを印加すると架橋又は硬化する、エネルギー硬化型樹脂を用いることが好ましい。ハードコート層の材質としては、シアノアクリレート系やウレタンアクリレートなどの電離放射線硬化型樹脂や、アクリル系やウレタン系などの熱硬化型樹脂が挙げられるが、特に限定されない。好ましくは、エネルギー硬化型樹脂は紫外線又は電子線を印加して架橋する活性エネルギー線硬化型樹脂である。活性エネルギー線硬化型樹脂は、印加するエネルギーの量を増減することにより架橋の程度を容易に調整することができる。尚、転写シートにおいて、ハードコート層は硬化された状態でもよく、未硬化又は半硬化の状態でもよい。未硬化又は半硬化のハードコート層は、転写シートを用いて加飾成形品を製造した後に硬化させることができる。
【0046】
ハードコート層15の材質としては、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂等のほか、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等のコポリマーが挙げられる。ハードコート層に硬度が必要な場合には、紫外線硬化型樹脂等の光硬化型樹脂や、放射線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂等を選定して用いるとよい。ハードコート層は、着色したものでも、未着色のものでもよい。
【0047】
光硬化型樹脂としては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン系アクリレート、エポキシ変性(メタ)アクリレート、ウレタン変性(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル変性ポリエステル等の不飽和エチレン系オリゴマーや不飽和エチレン系モノマーとを適宜混合したものに重合開始剤や増感剤を添加した組成物等が挙げられる。
【0048】
放射線硬化型樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を分子内に1個以上有するものやエポキシ基などのカチオン重合性基を分子内に1個以上有するものが挙げられる。エチレン性不飽和二重結合を分子内に1個以上有する樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステルポリアクリレート樹脂、ポリエステルポリメタクリレート樹脂、エポキシポリアクリレート樹脂、エポキシポリメタクリレート樹脂、ウレタンポリアクリレート樹脂、ウレタンポリメタクリレート樹脂、アクリルポリアクリレート樹脂、アクリルポリメタクリレート樹脂などが挙げられる。
【0049】
熱硬化型樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。なお、常温で硬化反応が進行するものも熱硬化型樹脂に含まれる。
【0050】
ハードコート層15を形成するのに好ましい活性エネルギー線硬化型樹脂は、例えばWO97/040990に記載されているような、熱及び活性エネルギー線硬化型樹脂である。上記公報には、(メタ)アクリル当量100~300g/eq、水酸基価20~500、重量平均分子量5000~50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分とする熱及び活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が記載されている。
【0051】
上記ポリマーの具体例として、グリシジル基を有するポリマーにアクリル酸などのα,β-不飽和カルボン酸を反応させて得られるものが挙げられている。また、多官能イソシアネートの具体例としては1,6-ヘキサンジイソシアネート等のジイソシアネートの3量体が挙げられている。
【0052】
熱及び活性エネルギー線硬化型樹脂は、加熱された場合、半ば架橋して流動性は失われるが、完全には架橋せず、柔軟性は維持される。それゆえ、後述する加飾成形品の製造時に、成形体表面が複雑な3次元形状であっても、ハードコート層を含む転写シートを成形体表面に追従させることができる。
【0053】
ハードコート層15の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0054】
ハードコート層15の厚みは、1μm~30μm、好ましくは1~25μm、より好ましくは1~20μmとする。ハードコート層の厚みをこのような範囲に設定すると、充分な表面硬度により成形品表面の保護機能が維持できる。
【0055】
ハードコート層15が活性エネルギー線硬化型樹脂を含む場合は、成形品の成形後に活性エネルギー線を照射して上記樹脂を架橋させる。活性エネルギー線硬化型樹脂を架橋させるのに好ましい活性エネルギー線は、例えば、電子線、X線、紫外線、可視光線等が挙げられるが、好ましくは、波長200~400nm、より好ましくは220~300nmの紫外線である。紫外線の光源としては、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、無電極型ランプ等が挙げられるが、好ましくは高圧水銀灯を用いる。
【0056】
<接着層>
接着層16は、ハードコート層15の上に形成される。接着層16は、ハードコート層15と成形体21との密着力を上げるための層である。
【0057】
接着層16の構成材料としては、成形体21に対する十分な接着性を得ることができれば特に限定されない。接着層の構成材料としては、感熱性を有する合成樹脂や感圧性を有する合成樹脂を適宜選択すればよい。
【0058】
例えば、成形体21の表面部分の構成材料がポリアクリル系樹脂の場合には、接着層16の構成材料としては、ポリアクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、例えば、成形体21の表面部分の構成材料がポリフェニレンオキシド共重合体、ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、接着層16の構成材料としては、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを適宜選択して採用すればよい。例えば、成形体21の表面部分の構成材料がポリプロピレン樹脂の場合は、接着層16の構成材料としては、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン- 酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0059】
接着層16の厚みは、0.1μm~10μm、好ましくは0.5~7μm、より好ましくは1~5μmである。このような範囲に設定すると、成形体と転写層の密着を保つことができるとともに、転写シートが加熱される際に、各層に熱が伝わることで各層が十分軟化するためクラックの発生を抑制することができる。
【0060】
転写シート10は、必要に応じて、隠蔽層、図柄層、アンカー層及び金属薄膜などを備えていてもよい。
【0061】
例えば、隠蔽層は成形体の地色を隠蔽して加飾成形品の意匠性を高めるための層である。隠蔽層は、例えば、ハードコート層15と接着層16との間に、インキ又は塗料を塗布することにより形成する。
【0062】
隠蔽層のバインダーとなる合成樹脂としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、熱可塑ウレタン系樹脂、メタアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ポリエチレン系樹脂、及び、塩素化ポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂であることが好ましい。
【0063】
隠蔽層に用いる着色剤としては、顔料又は染料が挙げられる。着色剤は転写シートを着色する用途に従来から使用される種類のものが用いられる。好ましい着色剤の具体例は、(1)インジゴ、アリザリン、カーサミン、アントシアニン、フラボノイド、シコニンなどの植物色素、(2)アゾ、キサンテン、トリフェニルメタンなどの食用色素、(3)黄土、緑土などの天然無機顔料、(4)アクリル系、ウレタン系などの無機顔料、(5)炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミニウムレーキ、マダーレーキ、コチニールレーキなどが挙げられる。
【0064】
隠蔽層を形成するために、金属薄膜細片をバインダー樹脂中に分散した、鏡面状金属光沢を有するインキ(以下、高輝性インキと言う。)を用いてもよい。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は、3~60質量部の範囲であることが好ましい。顔料として金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が成形体に対して平行方向に配向する結果、高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0065】
図柄層は文字又は絵柄を示す層である。図柄層の成分及び形成方法は、図柄に応じたパターン状に形成すること以外は隠蔽層と同様である。
【0066】
<転写シートの製造方法>
転写シート10の製造方法について説明する。
基体シート11の上に離型層12を塗布することにより、離型シート13を形成する。その後、離型シート13の上に、低屈折率層用樹脂組成物(L)を塗布し、必要に応じて乾燥した後に、活性エネルギー線照射により硬化することで低屈折率層14が形成される。これにより離型シート13上に低屈折率層単層が積層された積層体Xが得られる。
【0067】
積層体Xの低屈折率層14の上に、ハードコート樹脂組成物を塗布することで、ハードコート層15が形成される。これにより、上記積層体Xの低屈折率層14上にハードコート層15が形成された積層体Yが得られる。
【0068】
次いで、積層体Yのハードコート層15の上に、接着層用樹脂組成物を塗布し、硬化することで、接着層16が形成され、転写シート10が得られる。
低屈折率層用樹脂組成物(L)、ハードコート樹脂組成物、及び接着層用樹脂組成物の塗布方法としては、特に制限されず、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ダイコート法、インクジェット法、グラビアコート法等、公知のいかなる塗布方法も採用できる。
【0069】
活性エネルギー線としては、UV(紫外線)やEB(電子線)などが挙げられる。光照射量は、150~1000mJ/cm2程度必要であり、窒素雰囲気下においては、光照射量を、100mJ/cm2程度まで少なくすることが可能となる。
【0070】
転写シート10を製造する各工程は、生産性が大幅に向上するロールtoロール方式であることが好ましい。ロールtoロール方式とは、ロール状に巻いた長尺のフィルム支持体を繰り出しながら、塗布や乾燥、硬化、貼合を連続的に行い、再びロールに巻き取る搬送方式をいう。すべての工程をつなげてもよいが、工程ごとの加工時間が異なる場合は必要に応じて工程ごとに繰り出し、巻き取りをした方が生産性が高くなる。
【0071】
<加飾成形品の製造方法>
図3から
図7を参照して、加飾成形品20の製造方法について説明する。
加飾成形品20の製造方法は、転写シート10を準備する準備工程と、転写シート10を第1型101に配置する配置工程と、第1型101と第2型102とを型締めしてキャビティSを形成する型締め工程と、キャビティSに溶融樹脂110を射出する射出工程と、溶融樹脂110を冷却・固化することにより成形体21を形成すると同時に、転写層17を成形体に転写して加飾成形品20を成形する成形工程と、第1型101と第2型102を型開きする型開き工程と、加飾成形品20を取り出す取出し工程と、を備える。
【0072】
準備工程では、基体シート11と離型層12を有する離型シート13と、離型層12の上に形成された低屈折率層14と、低屈折率層14の上に形成されたハードコート層15と、ハードコート層15の上に形成された接着層16とを備える転写シート10を準備する。低屈折率層14は、活性エネルギー線硬化型樹脂と、中空シリカ粒子(a)及び粒子径が中空シリカ粒子の0.1~1.7倍であるシリカ粒子(b)とを含有する。転写シート10のうち、低屈折率層14、ハードコート層15、及び接着層16が成形体21に転写される転写層17である。
【0073】
図3を参照して、第1型101は凹部が形成された可動型、第2型102は凸部が形成された固定型であり、第1型101と第2型102は型締めによってキャビティSを形成する。第2型102には溶融樹脂の通路であるスプルー103が形成されている。配置工程では、転写シート10を第1型101のキャビティ面101aに沿って送り込み、キャビティ面101aと転写シート10の転写層17が一致するように転写シート10を配置する。転写シート10は、基体シート11と第1型101のキャビティ面101aが対向し、接着層16と第2型のキャビティ面102aが対向するように配置される。
【0074】
図4を参照して、ヒーター(図示せず)で加熱することにより転写シート10を軟化させ、第1型101側からのエアー吸引によりキャビティ面101aに転写シート10を沿わせる。
【0075】
図5を参照して、型締め工程では、第1型101と第2型102の型締めを行う。第1型101のキャビティ面101aに沿って配置された転写シート10と第2型102のキャビティ面102aとの間にキャビティSが形成される。
【0076】
図6を参照して、射出工程では、スプルー103からキャビティSに溶融樹脂110を射出する。次いで、溶融樹脂110を冷却・固化することにより成形体21を形成すると同時に、転写層17を成形体21に転写して加飾成形品20を成形する。
【0077】
図7を参照して、第1型101と第2型102を型開きして、成形体21に転写された転写層17と離型シート13とを剥離する。その後、ロボットハンド等(図示せず)により加飾成形品20を取り出す。加飾成形品20は、成形体21の上に、接着層16、ハードコート層15、低屈折率層14を含む転写層17が積層されている。
【0078】
ハードコート層15が活性エネルギー線硬化型樹脂を含む場合は、加飾成形品20を取り出した後に、紫外線等の活性エネルギー線を照射してハードコート層を硬化させる照射工程を実施する。
【0079】
以上から、本発明の実施形態による転写シート10では、低屈折率層14が中空シリカ粒子(a)とシリカ粒子(b)を含むため、中空シリカ粒子(a)による反射防止機能を維持しながら、シリカ粒子(b)の表面が離型層12に入り込むことにより低屈折率層14と離型層12とを適度に密着させることができる。よって、低屈折率層14による反射防止機能を維持しつつ、離型シート13の浮きや剥がれを抑制することができる。特に、活性エネルギー線硬化型樹脂と、中空シリカ粒子(a)及びシリカ粒子(b)の合計の固形分を100質量部として、中空シリカ粒子(a)とシリカ粒子(b)の含有量の合計が60~71質量部となるようにすると、低屈折率層14と離型層12との密着力がより向上する。これにより、成形前の転写シート10において離型シート13の一部が低屈折率層14から剥がれたり浮いたりすることを抑制でき、成形後の成形品表面に跡が残るといった意匠性の低下を防ぐことができる。
【0080】
又、シリカ粒子(b)表面がハードコート層15に入り込むことにより低屈折率層14とハードコート層15の密着力が向上する。これにより、離型シート13の離型層12と低屈折率層14の剥離をより容易にすることができる。
【0081】
尚、上記の実施形態では、転写シートを金型に配置し、溶融樹脂を金型内に射出することにより転写シートの転写層を樹脂に転写する成形同時転写を用いたが、転写シートは他の転写法に用いられてもよい。他の転写法としては、例えばロール転写やアップダウン転写などのアウトモールド転写が挙げられる。
【0082】
上記の実施形態では、ロールtoロール方式による製造方法であったが、転写シートを枚葉にしてから金型内に配置してもよい。
【0083】
上記の実施形態では、転写シートのうち金型のキャビティ面と一致する一部分のみに転写層が形成されていたが、転写シートの全面に転写層が形成されていてもよい。
【実施例0084】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明による実施形態を具体的に説明する。
(低屈折率層用樹脂組成物の調製)
低屈折率層用樹脂組成物(L-1~L-11)を、表1に示す種類及び固形分量の各成分を混合し、更に、光開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「IRGACURE184」(商品名))を混合し、次いで、各組成物に対して、固形分濃度が5質量部となるようにMEK(メチルエチルケトン)を混合して低屈折率層用塗液を得た。表1中に示す各成分の種類は、次の通りである。
【0085】
(活性エネルギー線硬化型樹脂)
α-1:東亜合成(株)製「アロニックスM-315」(商品名)、イソシアヌル酸EO変性ジおよびトリアクリレート、
(中空シリカ粒子)
a-1:粒子径60nmのシランカップリング処理済み中空シリカ粒子、日揮触媒化成(株)製「スルーリア4320」(商品名)、屈折率1.25
a-2:粒子径50nmのシランカップリング処理済み中空シリカ粒子、日揮触媒化成(株)製「スルーリア2320」(商品名)、屈折率1.30
(シリカ粒子)
b-1:粒子径10-15nmのシリカ粒子、日産化学(株)製「IPA-ST」(商品名)
b-2:粒子径40-50nmのシリカ粒子、日産化学(株)製「IPA-ST-L」(商品名)
b-3:粒子径70-100nmのシリカ粒子、日産化学(株)製「IPA-ST-ZL」(商品名)
【0086】
【0087】
(実施例1)
(転写シートの製造)
幅650mm、厚み38μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの一方の面全体に、グラビアコータ法を用いて、厚さ8μmの離型層を形成した。離型層を形成するためのインキとしてはウレタンアクリレート樹脂(紫外線硬化型樹脂)を含むものを用いた。離型層の乾燥厚さは0.5μmとした。
離型シートの離型層表面に、低屈折率用樹脂組成物(L-1)に光開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製「IRGACURE184」(商品名))を混合し、溶媒(メチルエチルケトン)で5質量部に希釈した低屈折率層用塗液をバーコーターにて硬化後の膜厚が90nmとなるように塗布し、120W高圧水銀灯にて50mJの紫外線を照射して硬化させることにより離型シート上に低屈折率層が形成された積層体Xを得た。
【0088】
続いて、前記積層体Xの低屈折率層上に、ウレタンアクリレート(日本合成化学社製「UV-1700B」)80部、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製「イルガキュアー184」)3.0重量部及び溶剤(MEK)100部を攪拌、混合して得たハードコート層用塗布液を、バーコート法により塗布し、乾燥させてハードコート用樹脂層を形成した。
【0089】
得られたハードコート用樹脂層の乾燥厚みは4μmとした。形成したハードコート用樹脂層は、引き続きラインの中で200℃に加熱して半ば架橋させてハードコート層とし、得られた中間積層体をロールに巻き取り、積層体Yを得た。
【0090】
得られたロールを印刷ラインにセットし、積層体Yを繰り出して、黒色の着色インキを3層重ねて印刷し隠蔽層を形成した。全ての隠蔽層を乾燥させた後、積層体の面全体を被覆するように、アクリル樹脂を厚み1μmとなるようにグラビア印刷法でコーティングし、接着層を形成することで、転写シートを作製した。低屈折率層、ハードコート層、隠蔽層及び接着層を合わせた転写層の厚みは15μmであった。
【0091】
続いて、得られた転写シートを射出成形用の可動型に送り込み、可動型のキャビティ面に転写シートを沿わせるように配置した。可動型と固定型を型締めしてキャビティに溶融樹脂を射出し、成形体を得ると同時にその表面に転写層を転写し、冷却・固化させた後に型開きして離型シートを剥離し、取り出した成形品に活性エネルギー線を照射することで、加飾成形品を得た。
【0092】
(実施例2~11)
低屈折率層用樹脂組成物として表1に記載した材料L-2~L-11を用いた以外は、実施例1と同様にして、転写シート及び加飾成形品を得た。
【0093】
上記の通り得られた各実施例及び比較例の転写シートを用いた加飾成形品について、反射防止性、意匠性、耐擦傷性評価を下記方法で実施したところ、表2の通りの結果が得られた。
【0094】
[反射率(SCI)]
分光測色計(コニカミノルタ(株)製、商品名:CM-5)を用いて、加飾成形品の表面(低屈折率層の表面)の波長550nmでの反射率をSCI方式で測定した。
[意匠性]
加飾成形品表面を目視で確認し、成形前の離型シートの浮きや剥がれによる跡の有無を確認した。
○:跡が確認出来ない
×:跡が確認出来る。
[耐擦傷性]
加飾成形品表面である低屈折率層表面に対し、#0000のスチールウールに100gfの荷重をかけて、ストローク幅25mm、速度30mm/secで10往復摩擦したあとの表面を目視で観察し、以下の基準に基づき評価した。耐擦傷性が維持されているというためには、○以上の評価が必要である。なお、スチールウールは、約10mmφにまとめ、表面が均一になるようにカットし、摩擦して均したものを使用した。
○:傷が0~10本
×:傷が11本以上
【0095】