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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106541
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】心臓ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/178 20210101AFI20230725BHJP
   A61M 60/81 20210101ALI20230725BHJP
   A61M 60/825 20210101ALI20230725BHJP
   A61M 60/232 20210101ALI20230725BHJP
   A61M 60/221 20210101ALI20230725BHJP
   A61M 60/237 20210101ALI20230725BHJP
   A61M 60/422 20210101ALI20230725BHJP
【FI】
A61M60/178
A61M60/81
A61M60/825
A61M60/232
A61M60/221
A61M60/237
A61M60/422
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085223
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2019522296の分割
【原出願日】2017-10-26
(31)【優先権主張番号】1618173.7
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】509337621
【氏名又は名称】キャロン カーディオ テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モルテニ,アレサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】レッドファーン,ブリオニー
(72)【発明者】
【氏名】フォスター,グラハム
(72)【発明者】
【氏名】ヒル,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム,ロビン
(72)【発明者】
【氏名】モリアーティー,クリストファー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】心臓ポンプの動作中に軸受を取り囲む流れの領域内で起こり得るあらゆる流れの静止領域をみだすことができる心臓ポンプを提供する。
【解決手段】血液入口(9)を備える心臓ポンプハウジング(7)を有する心臓ポンプ(1)であって、血液入口は、心臓ポンプハウジングの長手方向軸からオフセットしている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液入口を備える心臓ポンプハウジングを有する心臓ポンプであって、
滑り軸受組立体によって、前記心臓ポンプハウジングに対して回転可能に取り付けられるロータを有し、
前記血液入口が単一の開口部を備える場合、前記開口部の重心は、前記心臓ポンプハウジングの長手方向軸からオフセットされ、
前記血液入口が複数の開口部を備える場合、複数の前記開口部の領域を合わせた重心は、前記心臓ポンプハウジングの長手方向軸からオフセットされており、
前記心臓ポンプハウジングに流入する血液の圧力分布は、前記心臓ポンプハウジングの前記長手方向軸から半径方向にオフセットされ、血流が前記滑り軸受組立体の接触軸受界面を横切って半径方向に流れる、心臓ポンプ
【請求項2】
前記心臓ポンプハウジングは、少なくとも部分的に心臓の壁を通って延びるように構成される、請求項1に記載の心臓ポンプ。
【請求項3】
前記心臓ポンプが少なくとも部分的に心臓内に埋め込まれるとき、前記血液入口は前記心臓内に配置される、請求項1または2に記載の心臓ポンプ。
【請求項4】
前記血液入口は、前記心臓ポンプハウジングの前記長手方向軸からオフセットされた領域の中心を備える1つ以上の開口部を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項5】
前記血液入口は、前記心臓ポンプハウジングの前記長手方向軸の周りに1次の回転対称性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項6】
前記血液入口は、非軸対称である、請求項1~5のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項7】
前記心臓ポンプハウジング内で心臓ポンプロータを回転可能に支持するように構成された少なくとも1つの軸受組立体を有し、
前記血液入口は、前記少なくとも1つの軸受組立体を横切って、血流を前記半径方向にそらすように構成される、請求項1~6のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項8】
前記少なくとも1つの軸受組立体は、第2の接触軸受部と係合するように構成されるとともに、それによって接触軸受界面を画定するように構成された第1の接触軸受部を有し、
前記血液入口は、前記少なくとも1つの軸受組立体の前記接触軸受界面を横切って、血流を前記半径方向にそらすように構成される、請求項7に記載の心臓ポンプ。
【請求項9】
前記心臓ポンプハウジングは、前記心臓ポンプハウジングの前記血液入口および血液出口の間に、血流経路を画定する、請求項1~8のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項10】
前記血液入口は、前記血流経路に開口部を提供し、
前記開口部は、前記少なくとも1つの軸受組立体の前記接触軸受界面の軸方向上流側に配置されている、請求項8および9に記載の心臓ポンプ。
【請求項11】
前記血流経路は、前記血液入口に近接する血流の領域を含み、
前記血液入口を通る流れの断面積は、前記血液入口に近接する血流の前記領域の断面積の関数である、請求項9に記載の心臓ポンプ。
【請求項12】
前記血液入口に近接する流れの領域の断面積と前記血液入口を通る流れの領域の断面積との比は、1:0.2~1:1の範囲内である、請求項10に記載の心臓ポンプ。
【請求項13】
前記血液入口に近接する流れの領域の断面積は、前記血液入口を通る流れの断面積よりも大きい、請求項10または11に記載の心臓ポンプ。
【請求項14】
前記少なくとも1つの軸受組立体は、前記血液入口に近接する流れの領域に配置されている、請求項7または8、および請求項10~12のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項15】
前記血液入口は、前記心臓ポンプハウジングに通じるノズルを形成する、請求項1~14のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項16】
前記血液入口は、前記血液入口を通る流れを半径方向にオフセットするように構成された1つ以上の突起を有する、請求項1~15のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項17】
前記血液入口は、血液を半径方向に向けるように構成されている、請求項1~16のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【請求項18】
前記血液入口は、前記心臓ポンプの別の特徴の周りに、それを横切って、および/またはそれを通る血のクロスフローを確立するように構成される、請求項1~17のいずれか1項に記載の心臓ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット入口を有する心臓ポンプに関し、特に限定されないが、軸受組立体の改善された洗浄を有する心臓ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
進行性心不全は世界的に重大な健康問題であり、毎年何千もの死者が出ており、この病気を患っている人々は非常に質の低い生活の質に耐えている。進行性心不全に対する治療法の選択肢、例えば薬物療法および心臓の再同期化(ペースメーカー)は一般に失敗していることが証明されており、そして患者に残っている唯一の選択肢は心臓移植である。残念なことに、利用可能なドナーの数は需要のほんの一部を満たしているにすぎず、多くの人々は未処置のままになっている。
【0003】
心室補助装置(VAD)は、心臓移植に代わる治療法として過去10年間でますます受け入れられてきている。VADの使用は、ほとんどの場合、いったん装置が埋め込まれると、疾患の進行が停止し、心不全の症状が緩和され、患者が良好な生活の質を取り戻すことを示している。
【0004】
VADは心不全を治療するための実行可能な代替法と考えられ、ドナーの心臓が利用できないであろう何千人もの心不全患者に希望を提供する。
【0005】
一般論として、人間の心臓の心室への移植に適したVADのような心臓ポンプを提供することが知られている。これらの植え込み型ポンプの最も一般的なタイプは、それらの小さいサイズおよび機械的単純さ/信頼性のために、小型ロータリーポンプである。そのような公知の装置は、2つの主要な構成要素である心臓ポンプハウジングおよび心臓ポンプロータを有し、心臓ポンプハウジングは、心臓ポンプ入口および心臓ポンプ出口を画定し、心臓ポンプロータは、心臓ポンプハウジング内に収容され、流体にエネルギーを与えるように構成されている。
【0006】
したがって、心臓ポンプの要件は、心臓ポンプハウジング内で心臓ポンプロータを回転可能に支持する軸受システムである。心臓ポンプ用の軸受システム、および一般にポンプおよびモータなどのすべての回転機械は、理想的には、他のすべての自由度でロータに十分な拘束を与えながら、ロータの回転を可能にするという基本機能を達成する。すなわち、軸受システムは、ロータを軸方向、半径方向およびピッチ/ヨーで支持しなければならない。
【0007】
軸受システムの望ましい機能には、一般に、低い摩耗率および低い騒音および振動、ならびに血液ポンプの場合には、血液を閉じ込める、または血液にせん断応力または熱を導入する特徴を排除することが含まれる。
【0008】
既知の装置では、心臓ポンプロータは、多数の異なる種類の軸受システムのうちの1つを使用してハウジング内で回転可能に支持されてもよい。一般に、心臓ポンプに利用される軸受システムには3つのタイプがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
いくつかの心臓ポンプは、ハウジング内でロータを堅固に支持するために、例えば一対の滑り軸受けのような、血液に浸漬された接触軸受を使用する。しかしながら、そのような滑り軸受システムでは、ロータが接触軸受内に完全に閉じ込められることを保証することは困難であるかもしれない。さらに、従来技術の血液に浸漬された接触軸受は、軸受内、さらには軸受に近接した領域および軸受周辺の支持構造上にタンパク質性および他の生物学的沈着を受けやすい可能性がある。
【0010】
他の心臓ポンプは、ロータが血液の薄膜上に支持されている非接触流体力学的軸受システムを使用している。必要なレベルの流体力学的揚力を生み出すために、流体力学的軸受システムは小さな走行隙間を必要とする。結果として、これらの小さな走行隙間を通過する血液は、例えば溶血または血小板活性化をさらに引き起こして血栓症を引き起こすことによって血液の細胞成分に有害な影響を及ぼし得る高レベルの剪断応力を受ける可能性がある。
【0011】
心臓ポンプは、非接触磁気軸受システムを使用することもでき、この場合、ロータとハウジングとの間の走行隙間は、大きな隙間が軸受内に存在し、軸受内のせん断に関連する血液損傷が減少するように設計することができる。しかしながら、少なくとも1つの自由度で他の支持方法と組み合わせて、例えばアクティブ時期制御のような受動磁気軸受システムを使用することが一般的である。これは、設計のサイズ、複雑さ、および/または流体力学的サスペンションを著しく増大させる可能性があり、これは、製造公差に関する要件を増大させたり、血液損傷を招く可能性がある。
【0012】
全ての心臓ポンプにおける共通の問題は流れの停滞であり、心臓ポンプはポンプ内の流れの全ての領域を管理するように注意深く設計されている。特に流動停滞が発生する可能性がある1つの領域は、心臓装置の軸受を囲む流れの領域である。したがって、心臓ポンプの動作中に軸受を取り囲む流れの領域内で起こり得るあらゆる流れの静止領域を乱すことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一態様によれば、心臓ポンプハウジングの長手方向軸からずれた血液入口を含む心臓ポンプハウジングを備える心臓ポンプが提供される。血液入口は、血液入口を通って心臓ポンプハウジング内に流れた血液に不均一な圧力分布を与えるように構成されていてもよい。特に、血液入口を通って心臓ポンプハウジング内に流れ込んだ血液は、心臓ポンプハウジングの半径方向平面において、すなわち心臓ポンプハウジングの長手方向軸に対して不均一な圧力分布を有する可能性がある。
【0014】
血液入口は心臓ポンプハウジングの本体部に設けることができる。例えば、心臓ポンプハウジングは、心臓ポンプハウジングの組み立て後において血液入口を含む一体構造であり得る。場合によっては、心臓ポンプハウジングに取り付けて心臓ポンプハウジング内に血流をそらすように構成された別個の流入カニューレを心臓ポンプに設けることが知られている。そのような場合、流入カニューレの自由端への入口(例えば植え込まれた状態の心臓ポンプに近い流入カニューレの端部)は心臓ポンプハウジングの血液入口と見なされないことが理解される。
【0015】
心臓ポンプハウジングは、心臓ポンプの血液入口と血液出口との間に血流経路を画定し得る。
【0016】
血液入口は、半径方向、例えば心臓ポンプハウジングの長手方向軸に対して半径方向成分を有する方向に血液を方向付けるように構成されてもよい。血液入口は、心臓ポンプハウジングの長手方向軸からおよび/または長手方向軸に向かって血液を向けるように構成されてもよい。血液入口は、心臓ポンプの別の特徴の周りに、それを横切って、および/またはそれを通る血のクロスフローを確立するように構成されてもよい。例えば、血液入口は、横方向(例えば心臓ポンプハウジングの対角線方向または横断方向、周囲、横断方向および/または貫通方向)に血液を流すように構成することができる。血液入口は、心臓ポンプを通る血液の流れに対して、および/またはそれを横切って向流を確立するように構成されてもよい。
【0017】
本明細書中において、用語「心臓ポンプ」は、血液を送り出すように構成されている任意の種類のポンプを意味すると理解される。例えば、心臓ポンプは、半径方向、軸方向または混流様式を有する連続流ポンプであり得る。心臓ポンプはロータリーポンプであり得る。
【0018】
心臓ポンプは、心臓ポンプハウジング内で心臓ポンプロータを回転可能に支持するように構成され、それによって心臓ポンプロータの回転軸を画定するように構成された少なくとも1つの軸受組立体を含み得る。血液入口は、少なくとも1つの軸受組立体を横切って、すなわち心臓ポンプの回転軸に向かって、および/またはそこから離れるように血流を半径方向にそらすように構成され得る。
【0019】
少なくとも1つの軸受組立体は、心臓ポンプハウジングの長手方向軸と同心円状に配置することができる。心臓ポンプハウジングの長手方向軸は、心臓ポンプロータの回転軸と同一線上にあり得る。心臓ポンプハウジングの長手方向軸は、心臓ポンプロータの回転軸からずれていてもよい。少なくとも1つの軸受組立体、例えば少なくとも1つの軸受組立体の回転中心は、心臓ポンプロータの回転軸からずれていてもよい。
【0020】
少なくとも1つの軸受組立体は、第2の接触軸受部と係合するように構成された第1の接触軸受部を有する接触軸受を備え、それによって接触軸受界面を画定する。血液入口は、迂回するように(例えば少なくとも1つの軸受組立体の接触軸受界面を横切って、その上を通って、および/またはその周りに血流が半径方向にそらされるように)構成することができる。少なくとも1つの軸受組立体の接触軸受界面は、血液入口の下流(例えば液入口の少なくとも一部から長手方向にオフセットした位置)に配置されてもよい。例えば、心臓ポンプは、血液が血液入口を通って心臓ポンプハウジング内に、少なくとも1つの軸受組立体の接触軸受界面上に、それを横切って、および/または周りに直接流れるように構成されてもよい。これは、接触軸受界面に近接して存在する可能性のある流れ静止領域を乱すことを目的としている。
【0021】
心臓ポンプが少なくとも1つの軸受組立体を含む場合、少なくとも1つの軸受組立体(例えば少なくとも1つの軸受組立体の接触軸受界面)に対する血液入口の位置は、心臓ポンプの重要な特徴であり得る。例えば、一旦血液が心臓ポンプハウジングに入ると確実にするために、血液入口と接触支持インターフェースとの相対位置を特別に選択することができ、それは心臓ポンプハウジングの出口からそらすことなく少なくとも1つの軸受組立体に向かって流れ続ける。言い換えると、接触軸受界面は、心臓ポンプハウジングに入る血液が接触軸受界面に直接接触するようにするため、血液の流路内の一点に設けられてもよい。接触軸受界面は、心臓ポンプハウジングの1つ以上の他の特徴によって覆われていない心臓ポンプハウジングの位置に設けられてもよい。具体的には、血液入口(例えば血液流路への血液入口によって提供される少なくとも1つの開口部)は、上流(例えば少なくとも1つの軸受組立体の接触軸受界面の軸方向および/または半径方向上流側)に配置されてもよい。本明細書では、用語「上流」は、心臓ポンプの出口よりも心臓ポンプの入口の方に位置する血液の流路に沿った点を意味すると理解される。したがって、「軸方向上流」という用語は、心臓ポンプの長手方向軸に沿った方向において心臓ポンプの出口よりも心臓ポンプの入口の方に位置する血液の流路に沿った点を意味すると理解される。「半径方向上流側」という用語は、心臓ポンプの長手方向軸に対して垂直な方向において心臓ポンプの出口よりも心臓ポンプの入口の方に位置する血液の流路に沿った点を意味すると理解される。
【0022】
心臓ポンプハウジングは、少なくとも部分的に心臓の壁を通って延びるように構成されてもよい。例えば、心臓ポンプハウジングは、少なくとも部分的に心臓の壁を通って延びるように構成された流入カニューレのような入口チューブを含み得る。入口チューブは血液入口を含み得る。入口チューブは、心臓ポンプハウジングと一体、例えば集合体であり得る。
【0023】
血液ポンプは、心臓ポンプが少なくとも部分的に心臓内に埋め込まれるときに心臓内に配置されてもよい。例えば、血液入口は、入口チューブの一端に向かって提供されてもよく、その結果、血液入口は、埋め込まれた状態で、完全に心臓の一部分内にある。心臓ポンプは、完全に心臓内に埋め込まれるように構成されてもよい。心臓ポンプは、完全に心臓の外側に埋め込まれるように構成されてもよい。
【0024】
血液入口は、心臓内から心臓ポンプハウジング内の位置、例えば入口チューブ内の位置への血液の通過を画定することができる。血液入口は、心臓ポンプハウジングの壁を通って延びる通路、例えばダクトを含み得る。通路は断面が不均一であってもよく、例えば通路の断面は心臓ポンプハウジングの長手方向軸に沿って変化してもよい。
【0025】
通路は、心臓ポンプハウジングを横切って半径方向に血流を向けるように構成された内壁を含み得る。通路の内壁は、心臓ポンプハウジング内への血流のために通路を狭めるように構成された少なくとも1つの突起を含み得る。
【0026】
血液入口は1つ以上の開口部を含み得る。例えば、血液入口は、心臓ポンプハウジングの壁を通って延びる第1の開口部と、心臓ポンプハウジングの壁を通って延びる少なくとも1つの他の開口部とを含み得る。第1の開口部および少なくとも1つの他の開口部は、互いに異なる方向に延びてもよい。第1の開口部と少なくとも1つの他の開口部とは互いに交差してもよい。開口部は、心臓ポンプハウジングの半径方向平面における血液入口の最小断面積によって画定することができる。例えば、開口部は、心臓ポンプハウジング内への通路の最も狭い領域によって画定されてもよい。開口部は、局所的に減少した断面積を有する通路の一部によって画定されてもよい。
【0027】
1つ以上の開口部は、心臓ポンプハウジングの長手方向軸からずれている領域の中心を有してもよい。例えば、血液入口が単一の開口部を含む場合、領域の中心(例えば、心臓ポンプハウジングの半径方向平面における開口部の重心)は心臓ポンプハウジングの長手方向軸からずれていてもよい。血液入口が複数の開口部を含む場合、全体の領域中心、すなわち複数の開口部の領域を合わせた中心は、心臓ポンプハウジングの長手方向軸からずれていてもよい。このようにして、心臓ポンプハウジング内への血液の正味の流れは、心臓ポンプハウジングの長手方向軸から半径方向にずれていてもよい。
【0028】
血液入口が単一の開口部を含む場合、単一の開口部を通る血流の平均軸方向成分は心臓ポンプハウジングの長手方向軸から半径方向にずれていてもよい。血液入口が複数の開口部を含む場合、各開口部を通る血流の平均軸方向成分は、血液入口を通る全血流の全体的な軸方向成分が心臓ポンプハウジングの長手方向軸から半径方向にオフセットされるように合計され得る。
【0029】
血液入口は、心臓ポンプハウジングの半径方向平面内に非対称に配置されてもよい。血液入口は、心臓ポンプハウジングの長手方向軸の周りに1次の回転対称性、すなわち回転対称性がないことがある。血液入口は、例えば心臓ポンプハウジングの長手方向軸の周りに非軸対称であり得る。血液入口の各開口部は、例えば開口部の面積の中心を通って延びる軸の周りに非軸対称であり得る。
【0030】
各開口部は任意の適切な形状であり得る。例えば、血液入口は、円形、楕円形、楕円形、三日月形、三角形、正方形または長方形の形状、または他の任意の適切な形状を有する1つまたは複数の開口部を含み得る。特に、各開口部の断面形状、例えば開口部を通る血液の平均流路に垂直な平面における断面形状は、円形、楕円形、楕円形、三日月形、三角形、正方形または長方形、または他の適切な形を有することができる。
【0031】
各開口部は、心臓ポンプハウジング内への血流を制限するように作用し得る。血液入口は、血流を制限するように構成されたノズルを含み得る。各開口部は、心臓ポンプハウジング内への血流を加速するように構成されてもよい。血液入口は、入口を通って血流の中に延びる少なくとも1つの突起を含み得る。少なくとも1つの突起は、例えば心臓ポンプハウジングの半径方向平面内に不均一な圧力分布を生じさせるために、血液入口内の圧力分布を乱すように構成されてもよい。少なくとも1つの突起は、血液に不均一な圧力分布を与えるように構成されていてもよい。少なくとも1つの突起は、血流を迂回させるように、例えば、軸受組立体などの心臓ポンプの別の特徴に向かって血流を迂回させるように構成されてもよい。
【0032】
心臓ポンプは、心臓ポンプの血液入口と血液出口との間の血流として定義される一次流路を含み得る。心臓ポンプは、一次流路の一部を形成しない、心臓ポンプ内部の任意の再循環流として定義される二次流路をさらに含むことができる。例えば、心臓ポンプは、軸受組立体の周りに二次流れの1つ以上の領域を含み得る。血液入口は、流れの静止領域、例えば一次流れおよび/または二次流れの流れ静止領域を分断するように構成されてもよい。血液入口は、心臓ポンプを通る血液の一次流路を横切って向流を確立するように構成されてもよい。
【0033】
血液入口を通る流れの断面積は、心臓ポンプハウジング内の流れの領域、例えば血液入口に近接する流れの領域の断面積よりも大きい、ほぼ同じサイズ、またはそれより小さいことがある。軸受組立体は、血液入口に最も近い流れの領域に配置されてもよい。血液入口に近接する流れの領域は、一次流れの一部および/または二次流れの一部を含み得る。血液入口に最も近い流れの領域は、心臓ポンプハウジングの半径方向平面において、接触軸受界面と一致する断面積を有してもよい。
【0034】
血液入口に近接する流れの領域の断面積と血液入口を通る流れの領域の断面積との比は、約1:0.2から1:1の範囲内であり得る。血液入口に近接する流れの領域の断面積と血液入口を通る流れの領域の断面積との比は、約1:0.4から1:1の範囲内であり得る。血液入口に近接する流れの領域の断面積と血液入口を通る流れの領域の断面積との比は、約1:0.4から1:0.9の範囲内であり得る。血液入口に近接する流れの領域の断面積と血液入口を通る流れの領域の断面積との比は、約1:0.4から1:0.65の範囲内であり得る。このように、血液入口を通る血液の流れは、血液入口に近接する流れの領域内の血液の流れと少なくとも同じであるか、またはそれよりも速い。心臓ポンプを通る様々な断面の例示的な位置は、以下の説明に記載され、添付の図面に示される。
【0035】
例えば、血液入口が単一の開口部を含む場合、血液入口に近接する流れの領域の断面積は、血液入口の単一の開口部を通る流れの領域の断面積とほぼ同じサイズ、またはそれよりも大きくてもよい。血液入口が複数の開口部を含む場合、血液入口に近接する流れの領域の断面積は、複数の開口部を通る流れの領域の総断面積とほぼ同じサイズ、またはそれより大きくてもよい。
【0036】
オフセットされた血液入口は、血液が軸受組立体の接触界面上、その周囲、通って、および/またはそれを横切って洗浄されるように、心臓ポンプハウジングの外側から心臓ポンプハウジングの内側に血液を流すように構成され得る。本開示は、血液入口が血液入口の長手方向軸からずれており、それによって血流が軸受組立体を囲む領域内にかなりの半径方向の流れ成分を有するようにするので有利である。結果として、本開示は、少なくとも1つの軸受組立体を囲む流れの領域におけるタンパク質の堆積および/または血栓形成に関連し得る流れ静止領域の形成を軽減するのに役立つ。
【0037】
心臓ポンプは、心臓ポンプが組み立てられた構成にあるとき、心臓ポンプハウジングと心臓ポンプロータとの間に環状の血液ギャップを含み得る。血液入口は、血液を環状の血液ギャップに流すように構成されてもよい。軸受組立体は、血液入口と環状血液ギャップとの間に配置することができる。
【0038】
環状血液ギャップの断面積は、血液入口を通る流れの断面積よりも小さいか、ほぼ同じサイズであるか、またはそれよりも大きい場合がある。例えば、血液入口が単一の開口部を含む場合、環状血液ギャップの断面積は、血液入口の単一開口部を通る流れの断面積よりも小さい、ほぼ同じサイズ、またはそれより大きくてもよい。血液入口が複数の開口部を含む場合、環状血液ギャップの断面積は、血液入口の複数の開口部を通る流れの総断面積よりも小さい、ほぼ同じサイズ、またはそれより大きいことがある。
【0039】
環状血液ギャップの断面積と血液入口を通る流れの断面積との比(血液流入口を通る流れの断面積に対する環状血液ギャップの断面積の比)は、約1:0.2から1:3の範囲内であり得る。環状血液ギャップの断面積と血液入口を通る流れの断面積との比は、約1:0.8から1:2.5の範囲であり得る。環状血液ギャップの断面積と血液入口を通る流れの断面積との比は、約1:0.8から1:1.9の範囲であり得る。環状血液ギャップの断面積と血液入口を通る流れの断面積との比は、約1:0.8から1:1.45の範囲であり得る。このようにして、血液入口を通る血流は、環状流路ギャップを通る血流より遅くても、ほぼ同じでも、あるいは速くてもよく、あるいは実際には心臓ポンプを通る血流の平均流の平均流速でもよい。
【0040】
血液入口を通る流れの断面積は、心臓ポンプハウジング内の血液の流れ特性に応じて選択することができる。例えば、血液入口を通る流れの断面積は、血液入口に近接した流れの領域の断面積および/または環状血液ギャップの断面積の関数として決定されてもよい。
【0041】
本開示の別の態様によれば、血液入口を備える心臓ポンプハウジングが提供され、心臓ポンプハウジングの半径方向平面内に不均一な圧力分布を生じさせるように構成される。
【0042】
本開示の別の態様によれば、心臓ポンプハウジングの半径方向平面内に不均一な圧力分布を生じさせるように構成された1つまたは複数の機構を備える心臓ポンプが提供される。
【0043】
本開示の別の態様によれば、心臓ポンプの動作によって確立された流動様式、例えば心臓ポンプのインペラのポンプ作用によって確立された流動様式を乱すように構成された1つまたは複数の特徴を含む心臓ポンプが提供される。例えば、心臓ポンプは、血流中に延びる1つ以上の突起を含み、突起は血液の流動様式を乱して突起を囲む領域に不均一な圧力分布を生じさせるように構成されている。突起部は、心臓ポンプの軸受組立体に近い流れの領域に設けられてもよく、それにより突起部は軸受組立体を囲む血流に不均一な圧力分布を生じさせる。
【0044】
本開示の別の態様によれば、心臓の壁を少なくとも部分的に通って延びるように構成された入口チューブを含む心臓ポンプハウジングを備える心臓ポンプが提供される。心臓ポンプが心臓に埋め込まれ、血液入口が注入管の半径方向平面内に不均一な圧力分布を生じさせるように構成されている。入口チューブは、心臓ポンプが心臓に埋め込まれたときに心臓内に配置された血液入口を含み、血液入口は入口チューブの半径方向平面内に不均一な圧力分布を生じさせるように構成されている。
【0045】
本明細書における努力の不必要な重複およびテキストの繰り返しを避けるために、本開示の1つまたはいくつかの態様または配置のみに関して特定の特徴を説明する。しかしながら、技術的に可能である場合、本開示の任意の態様または配置に関して説明された特徴はまた、本開示の任意の他の態様または配置と共に使用されてもよいことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本開示をよりよく理解するために、そしてそれがどのように実施されるのかをより明確に示すために、ここで、例として添付の図面を参照する。
【0047】
図1】左心室に埋め込まれた心臓ポンプを備える心臓の切開図を示す。
図2】組み立てられた構成の心臓ポンプの斜視図を示す。
図3】組み立てられた構成の図2の心臓ポンプの断面図を示す。
図4図2および図3の心臓ポンプの部分断面図を示す。
図5】心臓ポンプの部分断面図を示す。
図6】組み立てられた構成の他の心臓ポンプの断面図を示す。
図7図6の心臓ポンプの部分断面図を示す。
図8】別の心臓ポンプの部分断面図を示す。
図9】別の心臓ポンプの部分断面図を示す。
図10】組み立てられた構成の他の心臓ポンプの斜視図を示す。
図11】組み立てられた構成の図10の心臓ポンプの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1は、心不全の治療のための心臓ポンプ1、例えば心室補助装置(VAD)が心臓5の左心室3に埋め込まれた構成を示す。本実施形態に係る心臓ポンプ1は、任意の適切な種類の心臓ポンプであり得る。例えば、心臓ポンプ1は、軸流心臓ポンプ、半径流心臓ポンプ、または混流心臓ポンプであり得る。したがって、技術的に可能な場合には、半径流心臓ポンプに関して説明した特徴を軸流心臓ポンプなどの任意の種類の心臓ポンプに使用できることを理解されたい。さらに、図1は心臓5の左心室3に埋め込まれた構成の心臓ポンプを示しており、心臓ポンプ1は、任意の適切な位置、例えば心臓5の完全に外側、または心臓5の完全に内側に埋め込むことができることを理解されたい。
【0049】
図1の心臓ポンプ1は、血液入口9と血液出口11とを備える心臓ポンプハウジング7を備える。心臓ポンプ1は、心臓ポンプハウジング7内に少なくとも部分的に配置された心臓ポンプロータを備える。心臓ポンプロータは、後述するように、1つ以上の軸受組立体によって、例えば回転可能に支持される。
【0050】
心臓ポンプ1は、心臓ポンプハウジング7と一体の流入管、例えば流入カニューレ14を備える。心臓ポンプが植え込まれた状態にあるとき、流入カニューレ14は少なくとも部分的に左心室3の内側に配置され、ポンプ室15は心臓5の外側に配置される。流入カニューレ14はポンプ室15の間を左心室3の壁を通って左心室3のチャンバ内に延び、その結果入口9は完全に左心室3内に位置する。ポンプ室15は、左心室3の頂部に位置し、出口11は別個の流出カニューレ17に接続されている。図1に示す例では、流出カニューレ17は下行大動脈19に吻合されているが、代替例では流出カニューレ17は上行大動脈21に吻合されていてもよい。
【0051】
いずれの図にも示されていないが、心臓ポンプ1は磁気駆動カップリング、例えばブラシレスDCモータを含むことができる。心臓ポンプロータ8は、磁気駆動継手の第1の部分、例えば1つ以上の永久磁石を含み得る。心臓ポンプハウジング7は、磁気駆動継手の第2の部分、例えば1つ以上の電気巻線を含み得る。磁気駆動カップリングは、ラジアル磁気駆動カップリングであり得る。磁気駆動カップリングは任意の適切な構成であり得ることが理解されるが、例えばラジアルフラックスギャップ電気モータである。
【0052】
VADの設計における最も重要な要素の1つは、心臓ポンプ1を通る血液の通過、特にベアリングの領域内の血液の通過である。軸受の周りの血流の領域、すなわち滑り軸受組立体の回転構成要素と静止構成要素との間の周方向の遷移の周りの領域は、流れ静止領域であり得、したがって血栓形成または実際にはあらゆる種類のタンパク質沈着を起こしやすい。したがって、これらの領域における熱の発生および幾何学的な制約がそれらを血栓形成および/またはポンプ沈着を特に起こし易くするので、軸受が新鮮な血液の絶え間ない供給で十分に洗浄されることが特に重要である。
【0053】
したがって、ポンプの原因となる血液のタンパク質成分および細胞成分が血流の連続的な供給にさらされるように、軸受の1つまたは複数の表面、例えば軸受の回転構成要素と静止構成要素との間の界面を直接さらすことが望ましい。この領域では沈着および血栓形成が凝集するのが防止される。
【0054】
本開示は、血液の細胞成分に対する損傷の危険性を低減する心臓ポンプ1に関する。例えば、本開示による心臓ポンプ1は、心臓ポンプ1内のタンパク質の堆積および/または血栓の形成を軽減し得、特に、心臓ポンプ1の1つ以上の軸受組立体に近接する領域内のタンパク質の堆積および/または血栓の形成を軽減し得る。
【0055】
2は心臓ポンプ1の一構成を示し、図3は長手方向軸A-Aに沿った心臓ポンプ1の断面図を示す。図4は、心臓ポンプ1の入口9を通る血液の流れを示す長手方向軸A-Aに沿った心臓ポンプ1の部分断面図を示す。
【0056】
心臓ポンプハウジング7は、心臓ポンプハウジング7内に少なくとも部分的に心臓ポンプロータ8を回転可能に支持するように構成される。心臓ポンプロータ8は、血液を送り出すように構成されかつ心臓ポンプロータ8の端部にまたは端部に向かって設けられるインペラ部25に回転可能に連結されている。心臓ポンプロータ8は、心臓ポンプロータ8が実質的に拘束されるように、1つまたは複数の種類の適切な軸受組立体によって支持されてもよい。例えば、心臓ポンプロータ8は、5自由度で回転し、長手方向軸A-Aを中心に回転してもよい。換言すれば、心臓ポンプ1の軸受システムは、軸受システムの基本的な機能である心臓ポンプロータ8の回転を可能にし、他の全ての自由度において心臓ポンプロータ8に十分な制約を与える。このようにして、軸受システムは心臓ポンプロータ8を軸方向および半径方向に、ならびにピッチおよびヨー方向に支持する。例えば、心臓ポンプロータ8は、第1の滑り軸受組立体および第2の滑り軸受組立体によって支持されてもよい。追加的または代替的に、心臓ポンプ1は、1つ以上の磁気軸受組立体および/または1つ以上の電磁軸受組立体を含み得る。図2図11に示す例では、心臓ポンプロータ8は、心臓ポンプの入口9に向かって配置された滑り軸受組立体23によって部分的に支持され、滑り軸受組立体23は少なくとも1つの他の軸受組立体と組み合わせて心臓ポンプロータ8を支持することが理解される。しかし、心臓ポンプ1の動作要件に応じて、心臓ポンプ1の任意の軸受組立体を心臓ポンプ1の任意の適切な部分に配置することができることを理解されたい。
【0057】
滑り軸受組立体23は、滑り軸受組立体23の軸受面が心臓ポンプ1の作動中に接触するように構成された一種の接触軸受組立体である。例えば、滑り軸受組立体23は中間転動体を含まなくてもよく、すなわち、運動は滑り軸受組立体23のそれぞれの部分の2つ以上の接触面間で直接伝達される。
【0058】
滑り軸受組立体23は、第1の滑り軸受部23Aを備える。第1の滑り軸受部23Aは、心臓ポンプ1の動作中に、第1の滑り軸受部23Aが心臓ポンプロータ8と共に回転しないように心臓ポンプロータ8に結合されている。図3から図9および図11に示す例では、第1の滑り軸受部23Aは心臓ポンプハウジング7と一体であるが、別の例(図示せず)では、第1の滑り軸受部23Aは、心臓ポンプハウジング7に固定されていてもよい。別の例では、第1の滑り軸受部23Aは、第1の滑り軸受部23Aの位置が心臓ポンプハウジング7に対して調整され得るように、心臓ポンプハウジング7に移動可能に結合、例えばねじ結合され得る。第1の滑り軸受部23Aは、心臓ポンプハウジング7とは異なる材料(例えばセラミック材料)から構成されてもよい。あるいは、第1の滑り軸受部23Aは、心臓ポンプハウジング7と同様の材料(例えばチタン合金)から構成されてもよい。第1の滑り軸受部23Aは、表面コーティングを含んでもよく、および/または滑り軸受組立体23の摩耗特性を改善するための表面処理を施してもよい。
【0059】
滑り軸受組立体23は、第2の滑り軸受部23Bを備える。第2の滑り軸受部23Bは、心臓ポンプ1の作動中に第2の滑り軸受部23Bが心臓ポンプロータ8と共に回転するように、心臓ポンプロータ8に連結されている。図3および図4に示す例では、第2の滑り軸受部23Bは心臓ポンプロータ8と一体であるが、別の例では、第2の滑り軸受部23Bは心臓ポンプロータ8にしっかりと固定された別個の構成要素であり得る。別の例では、第2の滑り軸受部23Bは、心臓ポンプロータ8に対して移動可能に連結されてもよく、例えばねじ込み式に連結されてもよく、その結果、第2の滑り軸受部23Bの位置は心臓ポンプロータ8に対して調整され得る。第2の滑り軸受部23Bは、心臓ポンプロータ8とは異なる材料(例えばセラミック)から構成することができる。あるいは、第2の滑り軸受部23Bは、心臓ポンプロータ8と同様の材料(例えばチタン合金)から構成されてもよい。第2の滑り軸受部23Bは、表面コーティングを含んでもよく、および/または滑り軸受組立体23の摩耗特性を改善するための表面処理を施してもよい。第1および第2の滑り軸受部23A、23Bは互いに異なる材料から構成されてもよく、例えば、第1および第2の滑り軸受部23A、23Bはそれぞれ異なるセラミック材料から構成されてもよい。
【0060】
第1の滑り軸受部23Aおよび第2の滑り軸受部23Bは、心臓ポンプロータ8および心臓ポンプハウジング7が組み立てられた構成にあるときに互いに接触するように互いに係合するように構成され、その結果、滑り軸受組立体23が心臓ポンプハウジング7内で心臓ポンプロータ8を回転可能に支持するように構成される。図3から図9および図11に示す例では、第1および第2の軸受部23A、23Bはそれぞれ、長手方向軸A-Aに対して垂直に配置された実質的に平坦な関節軸受面を備える。このように、第1及び第2の軸受部23A、23Bは、心臓ポンプロータ8の軸方向に心臓ポンプハウジング7内で心臓ポンプロータ8を支持するように構成されている。
【0061】
第1の滑り軸受部23Aは、球形セグメント、すなわち切頭球形キャップまたは球形円錐台を含むことができる。第1の滑り軸受部23Aは、球形セグメント、すなわち切頭球形キャップまたは球形円錐台を含むことができる。第2の滑り軸受部23Bは、略円板状であってもよい。しかし、第1および第2の軸受部23A、23Bは、滑り軸受組立体23が心臓ポンプロータ8を少なくとも軸方向に支持することを可能にする任意の適切な形態でありうることが理解され、例えば第1および/または第2の軸受部23A、23Bは、円錐台形部分を含み得る。
【0062】
変形例では、第1および第2の軸受部23A、23Bは、滑り軸受組立体23が心臓ポンプハウジング7内で心臓ポンプロータ8を少なくとも心臓ポンプロータ8の半径方向に支持するように構成されるように任意の適切な方法で配置できる。したがって、第1および第2の軸受部23A、23Bの軸受面は、任意の適切な形態であり得る。一例では、滑り軸受組立体23は、心臓ポンプロータ8を軸方向および半径方向に(例えば、第1および第2の軸受部23A、23Bは、1つまたは複数の湾曲部(例えば回転可能に接触するように構成された、部分的に球形または円錐形のベアリング面)を含み得る)支持するように構成されてもよい。例えば、滑り軸受組立体23は、少なくとも部分的な玉軸受およびソケット軸受を含み、第1および第2の軸受部23A、23Bの1つまたは複数の軸受面は実質的に共形である。一般に、滑り軸受組立体23は、点接触、線接触、または面接触の任意の組み合わせによって、第1および第2の軸受部23A、23Bの軸受面の間で、心臓ポンプロータ8が最大5自由度まで実質的に拘束されるように構成されてもよい。
【0063】
第1の軸受部23Aと第2の軸受部23Bとの間の接触面積は、滑り軸受組立体23の発熱および摩耗特性に関して最適化することができる。例えば、接触面積は、心臓ポンプ1の動作特性ならびに第1および/または第2の軸受部23A、23Bが製造される材料に応じて選択され得る適切な直径を有する実質的に円形の接触面積であり得る。一例では、実質的に円形の接触領域は、約10μmから3mmの範囲内、特に約300μmから1mmの範囲内の直径を有することができる。しかしながら、接触領域の形状は、任意の適切な形態および/またはサイズのものであり得ることが理解される。別の例では、滑り軸受組立体23は複数の接触領域を含むことができ、それらはそれぞれ所望のレベルの熱発生および摩耗特性を提供するように最適化することができる。
【0064】
上記の考察を考慮すると、心臓ポンプ1の設計における1つの重要な要素は、滑り軸受組立体23の周りの血液の流動様式である。例えば、滑り軸受組立体23を洗浄する目的で、例えば滑り軸受組立体23の軸受界面のように、新鮮な血液の連続流にさらされるように滑り軸受組立体23を配置することが望ましい。そして、存在する可能性がある流れ静止のあらゆる領域を混乱させる。例えば、滑り軸受組立体23の非回転部分23Aは、心臓ポンプ1の流入カニューレ14内に配置されたケージ状構造によって支持されてもよい。このようにして、滑り軸受組立体23の軸受界面は高流速の血液にさらされ、これは軸受界面を洗浄し、タンパク質沈着の危険性を最小にするのを助けるのに役立つ。しかしながら、滑り軸受組立体23は心臓ポンプの半径方向中心に設けられているので、それは心臓ポンプロータ8の回転軸線を画定するので、滑り軸受組立体23は高い軸方向の血流にさらされている。滑り軸受け界面を横切って新鮮な血液の実質的な半径方向の流れを提供することは難しい。
【0065】
本開示は、滑り軸受組立体23が軸方向および半径方向の両方向において新鮮な血液で実質的に洗浄されることを確実にするために、滑り軸受組立体23を横切って半径方向に血液を向けるように特別に構成される血液入口9を有する心臓ポンプ1を提供する点で有利である。しかしながら、血液入口9は、心臓ポンプの任意の適切な機構に向かってまたはそれから離れるように血液を方向付ける、例えば方向を変えるように構成されてもよい。
【0066】
図2図5は、心臓ポンプロータ8の回転軸A-Aから、すなわち滑り軸受組立体23の半径方向位置からオフセットした入口9を有する心臓ポンプ1の構成を示す。例えば、入口9は、滑り軸受組立体23の半径方向中心から半径方向にオフセットした軸B-Bを有する単一の開口部27を含む。
【0067】
図2図5の開口部27は、心臓ポンプハウジング7の半径方向平面に平行に設けられた円形開口部として示されている。しかし、開口部27は、任意の適切な形態を有してもよく、流入カニューレ14の入口9を通る血流が、例えば、心臓ポンプハウジング7から半径方向にずれる(例えば軸A-Aから偏心している)ように、心臓ポンプハウジング7の任意の適切な部分に設けられてもよい。
【0068】
例えば、心臓ポンプロータ8が心臓ポンプハウジング7内に支持されているとき、心臓ポンプロータ8の半径方向外面と心臓ポンプハウジング7の半径方向内面との間には環状ギャップがある。したがって、心臓ポンプロータ8が滑り軸受組立体23に取り付けられているとき、環状ギャップは軸A-Aと実質的に同心であり、環状ギャップ内の圧力分布は実質的に均一であることが理解される。入口9が軸A-Aから半径方向にずれている結果として、入口9に入った血液の流れは、滑り軸受組立体23からずれている圧力中心を有し、これにより、血流が滑り軸受組立体23を横切って半径方向に向けられる。このようにして、本開示による心臓ポンプ1は、心臓ポンプハウジング7に入る血液の流れに正味の半径方向成分を与えるように構成された血液入口9を提供し、それは軸受組立体23を横切って半径方向に血流をそらす。滑り軸受組立体23には、軸受界面を洗浄し、存在する可能性があるあらゆる流れ静止領域を乱す目的で、新鮮な血液の連続的な流れが供給されるので、これは有利である。したがって、滑り軸受組立体23を囲む領域における血栓形成および/またはタンパク質の堆積の危険性を軽減する。
【0069】
図2図5の構成では、開口部27は心臓ポンプ1の軸方向端部に設けられており、心臓ポンプハウジング7を貫通して軸方向に延び、開口部27を通る血流は、心臓ポンプ1の軸A-Aに平行な軸方向成分を有するようになっている。しかし、1つまたは複数の他の構成では、開口部27は、任意の適切な方向に心臓ポンプハウジング7を貫通して延びてもよく、その結果、軸受組立体23を横切る正味の半径方向血流が生じる。例えば、血液入口9は、血液流入カニューレ14に設けられた1つまたは複数のさらなる開口部を含むことができ、1つまたは複数の開口部は、心臓ポンプ1の軸A-Aからオフセットした領域の正味中心を有するように構成される。
【0070】
図2図5に示す配置では、開口部27は断面積、例えば減少したおよび/または最小の断面積を有し、それは、血液入口9に近接した流れの領域の断面積よりも小さい。血液入口9が複数の開口部を含む場合、複数の開口部の総断面積は、血液入口9に近接した流れの領域の断面積よりも小さくてもよい。このようにして、心臓ポンプ1を通る血液の所与の流速(例えば毎分3.5リットル)について、血液入口9を通って流れる血液の速度は、血液入口9に近接する流れの領域を通って流れる血液の速度よりも速くなる。
【0071】
図5は、心臓ポンプハウジング7の流入カニューレ14の断面積に関する詳細を示し、流入カニューレ14を通る流路の3つの代表的な断面を示す。例えば、血液入口9は、血液入口9を通る断面積X、血液入口9に近接した血流の領域を通る断面積Y、
例えば心臓ポンプ1が組み立てられた構成にあるとき軸受組立体23の周りの一次流れ領域および/または二次流れ領域、および/または心臓ポンプハウジング7と心臓ポンプロータ8との間の空間内の流れ領域を通る断面積Z、および心臓ポンプハウジング7と心臓ポンプロータ8との間の環状血液ギャップを有することができる。図5に示す配置では、血液入口9は、血液を血液入口9に最も近い流れの領域に、軸受組立体23を通り過ぎて、続いて環状の血液ギャップに流れ込むように構成されている。
【0072】
図5の構成では、血液入口9は、流入カニューレ14への入口点を画定する最小断面積を有することができる。このようにして、血液入口9の断面積Xは、流入カニューレ14に入る血液の流動特性を変えるように選択することができることが分かる。例えば、入口9内の血液の断面積X、または具体的には最小断面積のサイズは、流入カニューレ14に流入する血液の速度分布を変えるように選択することができる。結果として、血液内の圧力プロファイル、例えば流入カニューレ14の半径方向平面内の血液の圧力プロファイルは、血液入口9の選択された位置および/または形状に起因し得る。
【0073】
特に、血液入口9の断面積Xと血液入口9に近接する流れの領域の断面積Yとの比は、流入カニューレ14内に所望の圧力プロファイルを提供するように選択することができる。このようにして、本開示は、血液入口9を通過した血液中に実質的な半径方向の流れ成分を提供するように流入カニューレ14内の全体的な圧力分布を選択することを可能にする。このような特徴は、半径方向の流れ(例えば心臓ポンプ1の軸受組立体23のような構成要素の交差洗浄)を提供するようにポンプ内の流動様式を設計することを可能にするので、特に有利であり得る。したがって、圧力分布は、流入カニューレ14の長手方向軸A-Aに対する血液入口9の位置、および血液入口9の断面積Xと血液入口9に近接する流れの領域の断面積Yとの比を組み合わせることによって定義され得ることが理解される。言い換えれば、圧力分布は、流入カニューレ14の長手方向軸A-Aに対する血液入口9の断面積、例えば最小断面積の位置、および心臓ポンプ1の内部形状を組み合わせることによって定義することができる。
【0074】
追加的または代替的に、血液入口9の断面積Xと環状血液ギャップの断面積Zとの比は、同様に、流入カニューレ14内に所望の圧力プロファイルを提供するように選択されてもよい。
【0075】
図6および図7は、軸方向開口部27および半径方向開口部29を有する血液入口9を備えた心臓ポンプ1の他の構成を示している。図6および図7の構成では、軸方向開口部27は、図2図5のものと同様の円形開口部を含み、半径方向開口部29は、流入カニューレ14を通って軸C-Cに沿って半径方向に延びる細長いスロットを含む。図6および図7の構成では、軸B-Bは軸C-Cに対して垂直である。しかしながら、開口部27、29の軸B-B、C-Cは任意の適切な方向に延びてもよい。例えば、開口部27、29の軸B-B、C-Cはそれぞれ、入口チューブの長手方向軸A-Aに対して傾斜していてもよい。
【0076】
血液入口9が複数の開口部27、29を含む場合、開口部27、29は流入カニューレ14に形成されてもよい。その結果、流入カニューレ14内への血液の正味の流れは、流入カニューレ14の長手方向軸A-Aから半径方向にオフセットされる。例えば、複数の開口部27、29が同じサイズおよび形状である場合、複数の開口部27、29は流入カニューレ14の長手方向軸A-Aに関して非対称に配置されてもよい。このようにして、心臓ポンプハウジング7に流入する血液の圧力分布は長手方向軸A-Aから半径方向にオフセットされ、それによって血液が滑り軸受組立体23を横切って半径方向に流れるようになる。したがって、血液入口9が長手方向軸A-Aに関して回転対称性(例えば流入カニューレ14の長手方向軸A-A周りの次数1の回転対称性)を持たない場合、滑り軸受組立体23の周りにオフセット圧力分布が生じる。
【0077】
複数の開口部27、29が異なる形態のものである場合、複数の開口部27、29のそれぞれが心臓ポンプハウジング7内に異なる流量を提供するので、それらは回転対称に設けられてもよい。これは、上述したのと同様の方法で滑り軸受組立体23の周りの圧力分布を相殺するように働く。
【0078】
図8および図9は、心臓ポンプ1の他の構成を示す。図8では、流入カニューレ14は、単一の斜めの開口部31から形成された血液入口9を備える。開口部31は、血液が軸方向および半径方向の両方向で流入カニューレ14に入ることを可能にする。図9では、流入カニューレ14は、単一の半径方向開口部33から形成された血液入口9を備える。開口部33は、図5および図6に示す半径方向開口部29と同様に、血液が半径方向に流入カニューレ14に入ることを可能にする。図10および図11は、心臓ポンプ1の別の構成を示し、心臓ポンプ1は軸流心臓ポンプを含む。軸流心臓ポンプは、図1図9の半径方向流構成に示されるものと同様の特徴を備える。心臓ポンプは、図1に示すものと同様の方法で埋め込むことができ、あるいは代替の方法、例えば心臓の外側または完全に心臓内に埋め込むことができる。したがって、軸流心臓ポンプは、心臓の機能を補足するために実質的に同じ方法で機能し得ることが理解される。
【0079】
軸流心臓ポンプは、心臓ポンプハウジング7の長手方向軸A-Aからずれた血液入口9を有する心臓ポンプハウジング7を備える。図10および図11の構成では、血液入口9は、心臓ポンプ1の長手方向軸A-Aから半径方向にずれた単一の開口部35を備える。しかしながら、単一の開口部35は、上記の説明に従って任意の適切な方法で構成することができる。
【0080】
心臓ポンプ1の構成に関係なく、血液入口9に近接した血流の領域に半径方向の流れを増大させるため、血液入口9は、流入カニューレ14などの心臓ポンプハウジングの適切な部分に設けられた任意の適切な数のオフセット開口を含んでもよいことが理解される。
【0081】
したがって、本開示は、心臓ポンプ1の軸受組立体の洗浄を改善するように構成することができる血液入口9を有する心臓ポンプハウジングを提供するので有利である。特に、1つまたは複数のオフセット開口部27、29、31、33、35のサイズ、形状および/または位置は、心臓ポンプ1の滑り軸受組立体23のような軸受組立体の周囲に所望の流動様式を提供するように選択されてもよい。このようにして、軸受組立体の洗浄は、心臓ポンプ1の所望の用途に応じて調整することができる。例えば、心臓ポンプ1が第1の個体に埋め込まれる場合、軸受組立体を囲む領域に第1の流動様式を提供することが望ましい場合があり、心臓ポンプ1が第2の個体に埋め込まれる場合、軸受組立体を囲む領域に第2の流動様式を提供することが望ましい場合がある。したがって、軸受組立体周辺の流動様式は、個人の状態や個人の心臓の身体的特性に応じて選択できる。
【0082】
本発明は、1つまたは複数の例を参照して例として説明されてきたが、開示された例に限定されず、添付の特許請求の範囲によって定義される発明の範囲から逸脱することなく代替例が構築され得ることを当業者は理解するであろう。
図1
図2
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図11