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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106561
(43)【公開日】2023-08-01
(54)【発明の名称】神経の電気刺激用システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023086876
(22)【出願日】2023-05-26
(62)【分割の表示】P 2020531983の分割
【原出願日】2018-12-18
(31)【優先権主張番号】PA201700724
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】520050668
【氏名又は名称】イノコン メディカル エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】フヴァルス、トルステン フェルドガード
(72)【発明者】
【氏名】クヌドセン、ディアナ メルスク
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン、イエスパー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】尿失禁及び/又は便失禁などの骨盤底障害の治療に用いられるニューロモデュレーション電極の設計を提供する。
【解決手段】治療は、陰部背神経又は陰部神経の左枝及び/又は右枝に電気的な刺激を与えることで行われる。柔軟性の高い電極ユニットを使用することで、対象の神経に近い陰核亀頭やその近傍における皮膚組織又は粘膜に対して安定し、且つ、不快感なく接触させることができるので、ニューロモデュレーション用途に適した設計である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織構造が不規則な領域において患者の皮膚に装着して、適切な電気的接触と固定が得られるよう構成された電極ユニットであって、
柔軟性を有するとともに、本体構造を構成する非導電性のシェル部材と、
柔軟性を有するマトリックス部材と、
導電部材と、
外部のパルス発生器と接続するための手段を有する接続部材と、
ゴム状ゲル部材と、を含み、
前記柔軟性を有するマトリックス部材は、前記シェル部材の中に配置されており、前記導電部材を固定するとともに、前記ゴム状ゲル部材を支持するものであり、前記導電部材は、前記接続部材からの電気接続を前記ゲル部材に均等に分散させる手段を構成し、前記ゴム状ゲル部材は、さらに、前記電極ユニットを前記患者の皮膚に機械的に固定するものである、電極ユニット。
【請求項2】
前記シェル部材と前記ゴム状ゲル部材との間に、第2導電性ゲル部材が配置されている、請求項1に記載の電極ユニット。
【請求項3】
前記マトリックス部材は、グラフェン又はグラファイトのコーティングか、銀ベースのコーティングか、或いは、導電性スポンジ又は導電性ファブリックのメッシュ部材か、のうちの1つ以上である導電部材を備える、請求項1又は2に記載の電極ユニット。
【請求項4】
前記シェル部材は、デュロメータ硬度がショアA50以下の天然ゴム又は人造ゴムを含む、請求項1~3のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項5】
前記天然ゴムは、ラテックスである、請求項4に記載の電極ユニット。
【請求項6】
前記人造ゴムは、シリコーン、熱可塑性エラストマ(TPE)、又は、熱可塑性ウレタン(TPU)のうちの1つ以上である、請求項4に記載の電極ユニット。
【請求項7】
前記マトリックス部材は、前記シェル部材内に配置されて、前記ゴム状ゲル部材を物理的に強化するとともに、前記ゴム状ゲル部材を所定の位置に保持する手段を構成しており、前記シェル部材は、前記接続部材を前記導電部材と電気的に接触させる手段を構成し、前記シェル部材は、刺激を与える対象以外の身体部位又は衣服に対する保護要素となる、請求項1~6のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項8】
前記マトリックス部材は、複数の凸部及び/又は凹部を含み、前記凸部は、ピンであり、前記凹部は、くぼみであり、前記ピン及び/又は前記くぼみは、第1端と第2端を有し、前記第1端は、前記シェル部材に対向し、前記第2端は、前記ゴム状ゲル部材に対向する、請求項1~7のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項9】
前記ピン及び/又は前記くぼみは、前記シェル部材の面全体に分散して配置されているとともに、前記シェル部材に対して直角方向又は傾斜方向に延出又は進入するように形成されている、請求項8に記載の電極ユニット。
【請求項10】
前記ピン及び/又は前記くぼみは、前記シェル部材の一体部分である、請求項8又は9に記載の電極ユニット。
【請求項11】
前記シェル部材の外表面の少なくとも一部は、低摩擦コーティングで覆われている、請求項1~10のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項12】
前記電極ユニットは、前記ゴム状ゲル部材及び前記第2導電性ゲル部材の代わりに、前記シェル部材及び前記マトリックス部材の中に配置及び硬化された均質なゲル部材を有しており、前記導電部材と前記患者の皮膚の両方に接触する手段が1つの部材で構成される、請求項1~11のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項13】
前記電極ユニットは、可塑化されていない高粘度のチクソ性ゲル部材からなる第1部分、及び、前記ゲル部材が可塑化されてゴム状体を構成する第2部分を含み、両部分は、導電性ゲル部材を構成して、前記患者の皮膚に対する電気的な接続を形成する、請求項1~12のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項14】
前記接続部材は、複数の導電線ストランドを有する、請求項1~13のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項15】
前記複数の導電線ストランドは、扇形に分散された状態で、前記マトリックス部材の内部に配置されているか、又は、前記シェル部材内で前記マトリックス部材上に配置されている、請求項14に記載の電極ユニット。
【請求項16】
前記電極ユニットは、前記接続部材を構造的に支持する手段を含む非導電性のシェル部材を含み、当該手段は、凹部を形成するように成形された細部構造、又は、一部を覆うように範囲を制限したスクリム層である、請求項1~15のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項17】
前記ゲル部材からなる第1部分は、可塑化されておらず、エチレン共重合体又はゼラチンのうちの1つ以上が増粘剤として添加されている、請求項1~16のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項18】
前記マトリックス部材は、前記第1部分を構成する前記ゲル部材の粘度に適合する緻密度のマトリックス部材で構成されており、これら2つの部材は、前記導電部材に対する電気的接触を確保するとともに、前記第1部分を構成する前記ゲル部材と前記マトリックス部材が結合した状態を維持する、請求項1~17のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項19】
前記シェル部材の側壁は、エッジの長さが過剰に長くなるように設計されている、請求項1~18のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項20】
前記エッジは、カーテン状に蛇行した形状に形成されており、前記エッジに伸縮ばねの機能が付加されている、請求項19に記載の電極ユニット。
【請求項21】
前記側壁の高さは、10mm以下である、請求項19又は20に記載の電極ユニット。
【請求項22】
前記シェル部材の形状は、液滴形状、矩形、方形、円形、楕円形、又は、多辺形のうちの1つである、請求項1~21のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項23】
導電性の連続気泡型スポンジ、導電性ファブリック、又は、前記第2ゴム状ゲル部材の粘着を補助するように調節された緻密度を有するように成形された構造物に導電性コーティングを施したもの、のうちの1つである、柔軟なマトリックス部材を有する、請求項1~22のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項24】
前記マトリックス部材は、特定の緻密度にてピン及び/又はくぼみを含むように設計されており、前記マトリックス部材の表面積及び性質は、前記ゲル部材の粘度及び/又は粘
着性に合わせて設定されている、請求項1~23のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項25】
前記マトリックス部材は、前記ゲル部材の破断伸度、又は、歪み100%時の破断伸度と少なくとも同程度の破断伸度を有する、請求項1~24のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項26】
前記ピン及び/又は前記くぼみは、好ましくは、長さ対直径の比率が2:1より大きくなるように設計されている、請求項8~25のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項27】
少なくとも1つのピン又はくぼみにおけるピン長さ及び/又はくぼみ深さは、0.1mm~10mmの範囲内である、請求項8~26のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項28】
前記ピン及び/又はくぼみの直径及び/又は断面は、長さ方向において変化している、請求項8~27のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項29】
前記マトリックス部材は、前記シェル部材の一体部分である、請求項1~28のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項30】
前記マトリックス部材は、導電性の連続気泡型スポンジ、ファブリック、スクリム、又は、メッシュを介して、前記シェル部材に追加されている、請求項1~29のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項31】
前記マトリックス部材は、スチールウールを含む、請求項1~30のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項32】
前記接続部材のストランドは、前記マトリックス部材の内部に扇形に分散された状態で配置された上で、導電性カーボン/グラフェンベースの材料でコーティングされている、請求項1~30のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項33】
前記電極ユニットは、前記シェル部材において、スナップコネクタ、又は、磁力で結合するコネクタ、又は、磁化されたコネクタを有する、請求項1~32のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項34】
前記電極ユニットのゲル部材は、チクソ性が高く、比較的高い粘度に構成されており、シェル部材は、ソフトシリコーンを成形して形成されているとともに、適合した緻密度のマトリックス部材を有する、請求項1~33のいずれかに記載の電極ユニット。
【請求項35】
前記電極ユニットは、デュロメータ硬度の低い材料で予め形成され、導電部材でコーティングされたシェル部材を含み、当該導電部材は、前記電極ユニットに電荷を均一に分散させるよう構成されているとともに、柔軟なマトリックス部材に配置された接続部材との電気的な接続を確立するよう構成されており、前記マトリックス部材は、当該マトリックス部材に充填された第1液状ゲルを固定し、当該第1液状ゲルは、予め硬化させたヒドロゲルシートから変換して成る第2ゴム状ゲル部材を前記マトリックス部材が機械的に支持するような高さまで充填されており、当該第2ゴム状ゲル部材は、前記液状ゲルに対するバリアを形成するとともに、前記患者の皮膚に接触する、請求項1~34のいずれかに記載の電極ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、神経の電気刺激に関する。本発明は、より具体的には、排尿・排便機能障害などの骨盤底障害の治療を含む、ニューロモデュレーション治療に関する。ニューロモデュレーション治療では、介護者及び/又は利用者による調節が可能な所定のプログラムを含むパルス発生器と組み合わせて電極を使用する。
【背景技術】
【0002】
医学研究によれば、陰部背神経への電気刺激は、尿失禁及び便失禁の治療に有効である。陰部背神経は、純求心性/知覚線維で構成されており、電気刺激を与えても不要な運動機能が活性化されることはない。
【0003】
失禁障害は、世代、性別、及び、人種に関係なく、あらゆる人に起こりうる疾患であり、病気、ケガ、及び/又は、加齢に関連する可能性がある。電気的なニューロモデュレーションは、尿失禁又は便失禁などの機能障害の症状を無くしたり、重症な症状を大幅に緩和したりするのに効果があることが示されている。
【0004】
陰部背神経は、陰茎断面の上側約1/4に相当する背部表層を陰茎幹部に沿って延びて亀頭に到達し、そこから拡がっている。
【0005】
女性の場合、陰部背神経は、小陰唇と大陰唇の間の陰核亀頭の近傍における粘膜(又は、皮膚)の近接している傾向がある。
【0006】
脂肪層及び筋組織が無いといった要素は、対象神経の活性化に大きくプラスに作用するので、これらの部位は、男性においても、女性においても有効な刺激部位である。対象刺激部位は、脂肪層が限られているとともに、神経が筋肉に覆われていない[DOI:10.2298/JAC0802035K「Electrodes for transcutaneous (surface) electrical Stimulation」、2008年]。
【0007】
特定のプロダクトは、適切な刺激設定と表面電極を用いることでアクセス可能な陰部背神経(陰核/陰茎神経)を対象神経とする。[H.B.Goldman他、「Dorsal genital nerve stimulation for the treatment of overactive bladder symptoms」、Neurourology and urodynamics、第27巻6号499~503ページ、2008年1月;J.
Worsoee、L.Fynne、S.Laurberg、K.Krogh及びN.J.M.Rijkhoff、「The acute effect of dorsal genital nerve stimulation on rectal wall properties in patients with idiopathic faecal incontinence, Colorectal disease」:イギリス及びアイルランドの大腸肛門病学会、公式ジャーナル、第13巻9号e284~92ページ、2011年9月;Fjordback他、「Event driven electrical stimulation of the DPN for management of Neurogenic Detrusor Overactivity in Multiple Sclerosis」、Neurourology and Urodynamics、25:349-355
(2006年)]
【0008】
しかしながら、これらの部位は、日常的な活動における組織の動きが大きく、また、組織形状も複雑であることから、従来の表面電極を適切に装着するのが困難な部位でもある。さらに、連続刺激が効果的な治療に必須の用途では、従来技術の表面電極では、電極を日常活動中に所定の位置に維持し、機能させることが困難であるという課題がある。
【0009】
表面電極又はパッチ電極は、何十年間にもわたり神経組織の電気刺激に使用されてきた
。したがって、現在利用可能な経皮パッチ電極は、表面刺激に標準的に使用される手段であると言え、ほとんどすべての人体部位を対象とする用途、また、獣医用途に多く用いられている。生殖器部分、即ち、恥骨結合の近傍、及び/又は、陰核又は陰核包皮の近傍を対象領域とする場合、女性に使用する場合には特に、電極が有毛皮膚に装着可能であることは重要である。剃毛は、皮膚の炎症やかゆみの原因となることが知られており、多くの使用者にとって不快であろう。
【0010】
アノード、即ちリターン電極は、カソード、即ち刺激電極の近傍に配置される場合もあるし、離れた位置に配置される場合もある。後者の場合、比較的大きな電極を選択可能であるので、カソード電極の固定に関する問題の大部分は解消される。
【0011】
パッチ電極は、通常、導電性の粘着ゲル面を用いて皮膚に固定される。或いは、アクリル製又はゴム製の粘着性支持体を用いて固定される場合もある。このような種類の電極の一例が、Bergに付与された米国特許第4,066,078号に開示されている。このような電極は、多くの場合、予定された治療(外来診療における治療)において使用され、治療の間、電極が緩んで治療効果が損なわれないように、使用者は動きを制限される。他の電極では、例えば、心臓イベントやホルター心電計のモニタリング、又は、患者スクリーニングなどの用途において、何日も続けて装着される場合もある。
【0012】
陰部背神経のニューロモデュレーションを効果的に行うには、電極を対象組織に十分に密着させることが重要である。刺激電極と対象組織との間の電気的性能が一定である場合に、良好な臨床効果を得ることができる。したがって、本開示は、電極の設計に関し、日々の使用において、対象組織からずれたり、剥がれたり、或いは、接触が緩んだりすることを防止する特徴構造を有する電極を設計することを総合的な目的とする。さらに、電極の交換が容易な設計とすることも目的とする。衛生的な観点から、電極は、男性にも女性にも、衛生的に許容可能な手段であるというニーズを満たすというコンセプトの電極でなくてはならない。このため、使い捨ての電極が望ましいが、使用回数を制限した電極も許容可能である。よって、機械的な完全性(mechanically integrity)が高いことはそれほど重要ではない。
【0013】
粘着パッチは、用途に合わせて様々な形状にカットされることが多い。ただし、多くのパッチ電極の設計では、電極をフィットさせることが困難な解剖学的構造の身体部位に装着するための工夫は殆どされておらず、皮膚の刺激及び炎症を防ぐとともに、ホットスポット(hot spot)を低減するために、注入する電荷に合わせてサイズを変更しているに過ぎない。
【0014】
身体活動が避けられない状況で従来のパッチ電極を所定の位置に留置して機能させるには、何らかの付加的な支持が必要である。そのような支持は、一般的には、電極の固定を改善するために用いられるものであり、テープ、或いは、脳測定用電極の場合には、ヘルメット型の固定具などの様々な手段が知られている。したがって、そのような支持は、本発明の主要な目的の一つである、アクティブな刺激面の密着性の改善を実現するものではない。
【0015】
本発明のプロダクトは、特定の患者/ユーザ向に医療的に支援された設定に基づいて、要求された時に迅速に刺激を開始すること、又は、日中及び/又は夜間の連続使用を可能にすること、のいずれかが必要な用途で使用されうる。したがって、このプロダクトにおいては、所定の位置に電極を確実に留置して機能させることの重要性が高く、現在の市場における他の多くの用途とは異なる使用状況が想定されうる。歩く、自転車に乗る、走るなどの日常の活動、又は、スポーツ活動において必要な自由な動作が妨げられないことが重要であるため、電極を確実且つ快適に固定することの重要性がさらに強調される。また
、刺激を迅速に開始する必要があるため、対向電極の位置の修正や再装着を適時に行うことが不可能であるという課題がある。
【0016】
輪郭形状を適切に設計すれば一定の効果が得られるものの、これは、決定的に重要であるとは言えない。最小限必要な領域だけを活性化にするように電荷を適切に制限して、皮膚/組織の火傷の過度なリスクを回避する必要がある。また、電極のエッジによる食い込み/刺痛についても、十分な対処が必要である。支持要素は、電極の装着/交換の際に過度な手間を必要としないこと、また、取り外しを含めた使用の結果、許容できない痛み及び皮膚炎の原因とならないことが求められる。これらの課題が解決されていない電極は、長期の使用には適さない。
【0017】
Medtronic社による米国特許出願第2015/0352357号に記載されている電極の固定方法によれば、ブリーフやショーツなどの下着類を手段として用いて、刺激を与える組織とシステムを十分に接触させている。加えて、男性ユーザについては、電極を可撓性のリング状に形成して、さらに支持を行う。しかしながら、これらのいずれの設計も、電極の固定について記載した上記課題について、適切な解決手段を示唆したり、提供したりするものではない。特に、女性ユーザについての課題を解決する手段が求められる。男性用の電極リング支持の原理は、多くの用途で一般的に用いられている方法である。
【0018】
従来の表面電極又はパッチ電極は、スクリム生地又はメッシュ生地にリード線ストランド(lead strand)が配置されて、ゲル部材に電流を均一に分散させるよう構成されてい
る。一般的に、カシメ加工されたスナップコネクタ(swaged type snap connector)が硬質のポリマーシートに配置されており、このポリマーシートの下には、ゲル部材が直接に対向して配置されている。ゲル部材は、一般的に、硬質ポリマーをベースとする別のシート層に支持されている。しかしながら、これらの部材は、最終的に形成される電極の剛性を高める要素となるため、従来技術の電極を陰部背神経付近の組織に密着した状態に留置する妨げとなる。
【0019】
現在利用可能な電極の加工方法には、感圧接着テープの製造技術と多くの類似点があり、打抜き加工(die cutting)などの変換技術を用いて、電極パッチが形成される。これ
らの方法に加えて、リードの取り付け、或いは、カシメ加工されたコネクタや磁石を電極のパッチ部分に型打ちする際には、接着剤を用いた組立て技術も用いられる。多くの電極には、パルス発生器のリード線が取り付けられる金属やその他の導電性支持部材が組み込まれている。上記先行技術の電極は、層状又はシート状に押出成形したゲル部材を有する。Axelgaardに付与された欧州特許第1052933号に記載されたゲル部材は、様々な特性を有する複数の層によって構成されている。
【0020】
先行技術の電極の多くは、連続スクリム生地、ポリマーシート、及び、金属メッシュを含むことにより、柔軟なゲル要素を支持する設計のものである。したがって、これらの発明は、経皮的電気刺激用の電極のゲル部材を適切な位置に配置及び維持するための適切な手段を提供することを目的とするものであって、陰核包皮及び小陰唇などの複雑な形状の組織に装着するために必要な電極ユニットの軟質性及び柔軟性は、焦点として考慮されていない。完成後の電極ユニットは、当該電極ユニットが装着された組織に追従することが望ましい。先行技術によって現在提供されている電極には、刺激を与える対象部位に電極が留まって機能するために必要なレベルの柔軟性を備えるものはない。
【0021】
導電性ゲルは、強度が弱く、また、切欠きを受け易いので、ゲル部材にスクリム層が埋め込まれていることが多い。これにより、ゲル部材の取り扱い、及び、導電部材の表面に配置することが可能になる。しかしながら、これは、先行技術の電極設計のフレキシビリ
ティを制限する要因となっている。従来の表面電極の設計では、電極ユニットの裏側は、一般的に、スパンボンデッド(spun-bonded)のポリオレフィン系繊維から成る布地で構
成されている。スクリム層は、電極の積層構造における他の位置に配置されている場合もある。柔軟性のないスパンボンデッド・ファブリック(spun-bonded fabric)のスクリム層によって、電極体にリード部材が固定されているとともに、完成品としての電極における主な構造要素が構成されている。
【0022】
よって、組織形状が複雑な解剖学的部位の皮膚に対して、電極を確実に固定するための手段を提供することが緊急に必要とされている。
【発明の概要】
【0023】
本発明の実施形態は、上述した欠点を克服するか、又は、少なくとも改善するシステムを提供することを目的とする。
【0024】
上述したスクリム層の利点と、スクリム層を用いない場合の影響とを参照すると、ゲル部材は、取り扱いの際に伸縮したり、歪んだりする可能性がある。ただし、本発明においては、これが望ましい効果であり、ゲル部材の特徴により、ゲル部材の内部応力を最小限に抑えることができる。
【0025】
本明細書において、「電極」とも呼ぶ本発明の電極ユニットは、未だ適合化されていない柔軟性を提供することで、陰部背神経を刺激対象として女性の陰核包皮などの複雑な形状の組織に装着するのに適した設計を構成する。
【0026】
本開示は、複雑な湾曲形状のため電極の固定が難しい解剖学的部位に刺激電極を固定することに関し、電極ユニットが装着部位周辺の組織に追従して適合できるように設計された特徴を備える。本設計は、電極の導電性ゲル部材を物理的及び構造的に支持するフレームを構成するシェル部材を形成することを含み、当該シェル部材は、軟質性と柔軟性とを備えるものでありながら、皮膚から剥がすことが可能なように特別に調製されている。これは、シェル部材の壁の特性によって、或いは、シェル部材の一部であるか、又は、シェル部材に追加されるマトリックス部材(matrix member)の細部構造によって実現するこ
とができる。これら構造及び要素の組み合わせによれば、いずれかの種類のコネクタを設けることで動作可能な、様々な形状及びサイズの刺激電極ユニットを構成することができる。構造的な要素であるシェル部材は、経皮的電気刺激を伝達するために、皮膚本来の湾曲に適合するように設計されており、よって、柔軟性を備える要素であることが望ましい。
【0027】
シェル型のゲル固定部材によれば、衣類へのゲル部材の付着を防ぎつつ、女性の会陰部及び男性の生殖器など、恥骨結合近傍の解剖学的部位に軟質のゲル部材を装着することが可能になる。完成後の電極ユニットが柔軟であるので、装着部位の組織に緊密に合致する理想的な形態を取ることができる。なお、組立体をさらに柔らかく、さらに柔軟に構成しても機能的には問題ないが、そのような構成は、電極ユニットの耐用年数を制限する要因となり、場合によっては、電極ユニットの再利用の妨げとなる。
【0028】
本発明の第1の態様によれば、組織構造が不規則な領域において患者の皮膚に装着して、適切な電気的接触と固定が得られるよう構成された電極ユニットが提供される。前記電極ユニットは、柔軟性を有するとともに、本体構造を構成する非導電性のシェル部材と、柔軟性を有するマトリックス部材と、導電部材と、外部のパルス発生器と接続するための手段を有する接続部材と、ゴム状ゲル部材と、を含む。前記柔軟性を有するマトリックス部材は、前記シェル部材の中に配置されており、前記導電部材を固定するとともに、前記ゴム状ゲル部材を支持するものであり、前記導電部材は、前記接続部材からの電気接続を
前記ゲル部材に均等に分散させる手段を構成し、前記ゴム状ゲル部材は、さらに、前記電極ユニットを前記患者の皮膚に機械的に固定する。
【0029】
さらに別の実施形態では、前記シェル部材と前記ゴム状ゲル部材との間に、第2導電性ゲル部材が配置されている。これにより、前記電極ユニットの柔軟性を高める効果が得られる。
【0030】
より具体的に説明すると、本発明の電極ユニットは、陰部背神経の刺激に適しており、概して、導電部材の基体として機能するとともに、パルス発生器への電気的接続のための手段を有するシェル部材を含む。加えて、前記電極ユニットは、マトリックス部材を含み、当該マトリックス部材に、グラフェン又はグラファイトのコーティング(graphene or graphitized coating)か、銀ベースのコーティングか、又は、導電性スポンジ又は導電
性ファブリックのメッシュ部材か、のうちの任意の適当な種類の導電部材が配置、又は、塗布されている。上述の要素には、患者の皮膚に対する電気インターフェースを提供する手段として、導電性ゲル部材及びゴム状ゲル部材が充填されており、当該ゲル部材は、前記マトリックス部材上に付加された前記導電部材に接着されている。
【0031】
一実施形態では、前記マトリックス部材は、グラフェン又はグラファイトのコーティングか、銀ベースのコーティングか、或いは、導電性スポンジ又は導電性ファブリックのメッシュ部材か、のうちの1つ以上である導電部材を備える。
【0032】
一実施形態では、前記シェル部材は、デュロメータ硬度がショアA50以下の天然ゴム又は人造ゴムを含む。
【0033】
一実施形態では、前記人造ゴムは、ラテックスである。
【0034】
一実施形態では、前記人造ゴムは、シリコーン、熱可塑性エラストマ(TPE)、又は、熱可塑性ウレタン(TPU)のうちの1つ以上である。
【0035】
一実施形態の前記電極ユニットにおいて、前記マトリックス部材は、前記シェル部材内に配置されて、前記ゴム状ゲル部材を物理的に強化するとともに、前記ゴム状ゲル部材を所定の位置に保持する手段を構成しており、前記シェル部材は、前記接続部材を前記導電部材と電気的に接触させる手段を構成し、前記シェル部材は、刺激を与える対象以外の身体部位又は衣服に対する保護要素となる。このように、前記マトリックス部材は、シャーシ状部材(chassis-like component)として機能する。
【0036】
一実施形態では、前記マトリックス部材は、複数の凸部及び/又は凹部を含み、前記凸部は、ピンであり、前記凹部は、くぼみであり、前記ピン及び/又は前記くぼみは、第1端と第2端を有し、前記第1端は、前記シェル部材に対向し、前記第2端は、前記ゴム状ゲル部材に対向する。
【0037】
一実施形態では、前記ピン及び/又は前記くぼみは、前記シェル部材の面全体に分散して配置されているとともに、前記シェル部材に対して直角方向又は傾斜方向に延出又は進入するように形成されている。
【0038】
一実施形態では、前記ピン及び/又は前記くぼみは、前記シェル部材の一体部分である。
【0039】
一実施形態では、前記シェル部材の外表面の少なくとも一部は、低摩擦コーティングで覆われている。
【0040】
一実施形態では、前記電極ユニットは、前記ゴム状ゲル部材及び前記第2導電性ゲル部材の代わりに、前記シェル部材及び前記マトリックス部材の中に配置及び硬化された均質なゲル部材を有しており、前記導電部材と前記患者の皮膚の両方に接触する手段が1つの部材で構成される。
【0041】
より具体的には、前記マトリックス部材を設けたことより、塗布された導電性ゲル部材は、前記導電部材との接触を形成するために、高い剥離強度を有する必要がなくなる。よって、均一なゴム状ゲル部材は、前記導電部材と前記患者の皮膚の両方に接触するための手段を構成する。
【0042】
ただし、前記ゲル部材の柔軟性と軟質性をさらに高める構成として、前記シェル部材の中に、前記マトリックス部材と接触する第1部分として、可塑化されていないか、或いは、その度合いが低い導電性ゲル化合物(市販のAmGel(登録商標)のAG2500シリーズ又はAG700シリーズ)配置し、次いで、より高硬度に可塑化された別のゲル化合物(市販のAmGel(登録商標)のAG500シリーズ)でこの第1部分を覆うことで、患者の皮膚と間又は電極ユニットとの間のインターフェース面を構成することができる。第1部分と第2部分のゲル部材に求められる異なる特性に合わせて、第1部分は、グリセロール可塑剤又は他の可塑剤を含有していないか、或いは、第2部分における含有量よりも少ない。
【0043】
一実施形態では、前記電極ユニットは、可塑化されていない高粘度のチクソ性ゲル部材からなる第1部分、及び、前記ゲル部材が可塑化されてゴム状体を構成する第2部分を含み、両部分は、導電性ゲル部材を構成して、前記患者の皮膚に対する電気的な接続を形成する。
【0044】
一実施形態では、前記接続部材は、複数の導電線ストランドを有する。
【0045】
さらに別の実施形態では、前記複数の導電線ストランドは、扇形に分散された状態で、前記マトリックス部材の内部に配置されているか、又は、前記シェル部材内で前記マトリックス部材上に配置されている。
【0046】
より詳しく説明すると、患者の皮膚との間のインターフェース面全体に電流をより均一に分散するために、リード線の端部は、複数のストランドに解かれて、マトリックス部材内において扇状に拡げられた上で、導電部材が配置される。これにより、リード線の硬さが均一に分散される効果が生じ、全体として曲げ剛性の均一且つ非常に低い要素が構成される。したがって、剛性の要素がリード線に沿って集中することを回避できる。より大型の従来の電極においては、電流の分散が不十分、及び/又は、不確実なことがしばしば生じるが、このような問題は、電極ユニットを物理的に支持するシェル部材に、ゲルを支持するように配置されたマトリックス部材によって、電極ユニットの柔らかさや柔軟性を損なうことなく解決される。
【0047】
本発明の電極ユニットにおけるすべての要素は、あらゆる方向における当該電極ユニット全体の剛性を低減することを目的として採用されているので、前記リード線を固定する構造、又は、カシメ加工されたスナップコネクタ又はマグネットコネクタは、必要な機械的強度を得るとともに、接続部材のストランドの歪み逃しのために必要である。これは、リード線がシェル部材の壁を貫通する部分に、マトリックス部材上に配置された導電部材と電気的な接触を形成する部材を、範囲を限定して配置することで実現可能である。このためには、デュロメータ硬度の高いシリコーンから成る部分を一体成形すると、電極ユニット全体の剛性に与える影響を最小限に抑えることができるので望ましい。別の適切な態
様として、適切な大きさに切断したスクリムを電極ユニット外側側面に張り付けた上で、低摩擦のコーティングで覆ってもよい。
【0048】
より具体的には、一実施形態において、前記電極ユニットは、前記接続部材を構造的に支持する手段を含む非導電性のシェル部材を含み、当該手段は、凹部を形成するように成形された細部構造、又は、一部を覆うように範囲を限定したスクリム層である。
【0049】
一実施形態では、前記ゲル部材からなる第1部分は、可塑化されておらず、エチレン共重合体又はゼラチンのうちの1つ以上が増粘剤として添加されている。
【0050】
さらに別の実施形態では、前記マトリックス部材は、前記第1部分を構成する前記ゲル部材の粘度に適合する緻密度のマトリックス部材で構成されており、これら2つの部材は、前記導電部材に対する電気的接触を確保するとともに、前記第1部分を構成する前記ゲル部材と前記マトリックス部材が結合した状態を維持する。これにより、前記マトリックス部材は、柔らかく弾力性と柔軟性を有する構造を構成する。
【0051】
一実施形態では、前記シェル部材の側壁は、エッジの長さが過剰に長くなるように設計されている。
【0052】
さらに別の実施形態では、前記エッジは、カーテン状に蛇行した形状に形成されており、前記エッジに伸縮ばねの機能が付加されている。
【0053】
前記壁のリップ部(wall lips)の柔軟性を高めるために、カーテン状の構成を有する
ように設計することができる。これにより、柔軟性の高い材料を使用する必要性を低減したり、或いは、不要にしたりすることができる。壁の高さは、10mmまで高くすることも可能である。
【0054】
一実施形態では、前記側壁の高さは、10mm以下である。
【0055】
一態様において、前記シェル部材の全体設計としては、液滴形状が好ましく、これにより、ユーザは、様々な配置を選択肢とすることができる。ただし、矩形、方形、円形、楕円形、又は、その他の形状も可能である。電極設計の全体の機能においては、形状は決定的に重要な事項ではなく、治療及び装着対象の解剖学的部位に適応させることが望ましい。よって、一実施形態では、前記シェル部材の形状は、液滴形状、矩形、方形、円形、楕円形、又は、多辺形のうちの1つである。
【0056】
この設計によれば、電極ユニットの柔軟性を高めるとともに、電極ユニットのエッジに掛かる応力を最小限に抑え、ゲル部材を保持する力を追加することができるので、ゲル部材をより確実にシェル部材に固定することができる。
【0057】
さらに別の実施形態では、前記電極ユニットは、さらに、導電性の連続気泡型スポンジ、導電性ファブリック、又は、前記第2ゴム状ゲル部材の粘着を補助するように調節された緻密度を有するように成形された構造物に導電性コーティングを施したもの、のうちの1つである、柔軟なマトリックス部材を有する。
【0058】
一実施形態では、前記マトリックス部材は、特定の緻密度にてピン及び/又はくぼみを含むように設計されており、当該マトリックス部材の表面積及び性質は、前記ゲル部材の粘度及び/又は粘着性に合わせて設定されている。ピン及び/又はくぼみを設ける構成によれば、前記マトリックス部材は、十分な表面積を確保することができるので、ゲル部材をより確実に一体的に保持することができる。なお、ピンが、切り欠き耐性を有する設計
であることは重要である。一実施形態では、前記マトリックス部材は、前記ゲル部材の破断伸度、又は、歪み100%時の破断伸度と少なくとも同程度の破断伸度を有する。前記ピン及び/又は前記くぼみは、好ましくは、長さ対直径の比率が2:1より大きくなるように設計されており、そうでない場合には、くぼみ又は凹部を追加する必要が生じる。つまり、多くの用途において、ピンの長さ又はくぼみの深さは、2mmよりも長くなる。ただし、ピンの長さ及びくぼみの深さは、皮膚に接触させる部分の全体の面積を基準にして設計すべきである。よって、面積が小さい場合には、ピンの長さ及びくぼみの深さを2mmより短くすれば、電極ユニットの内部構造の強度や一体性に悪影響を与える危険はない。そのような用途においては、ピンの長さが0.1mmと短くても、電極ユニットを一体に保持する十分なグリップが得られると予想される。ただし、ピンの長さ及び/又はくぼみ穴は、10mmの高さや深さであってもよい。よって、一実施形態では、少なくとも1つのピン又はくぼみにおけるピン長さ及び/又はくぼみ深さは、0.1mm~10mmの範囲内である。
【0059】
穴の下部に切り込みを入れること(under-cutting)により、グリップを高めることが
できるので、ピンの一部、又は、全部を穴に置き換えることが可能である。ただし、この場合、シェル部材の壁が所定の厚みを有することが求められる。一実施例では、ピンを長くして、マトリックス部材がシェル部材から突出するように構成される。突出方向は直角とすることが可能であり、これにより、インターフェース面において導電部材を容易に保持することができる。一実施例では、長くしたピンの少なくとも一部が、シェル部材から斜めに突出するように構成される。これにより、ゲル部材及びゴム状部材をより確実に保持することができ、電極ユニットの分解に対する抵抗力を高めることができる。くぼみと同様に、ピンについても下部に切り込みを入れることが可能であり、ピンが規則的な形状を有する必要はない。したがって、前記ピン及び/又はくぼみの直径及び/又は断面は、長さ方向において変化しているような実施形態も、本発明の範囲に包含される。
【0060】
さらに、長さを伸ばしたり、比率を高くしたりすると、ゲル部材の一体性を維持できるという利点に加えて、ゲル部材が、患者の皮膚に対するよりも、シェル部材に密着する力をより高めることができる。ただし、シェル部材のリップ部の設計が、マトリックス部材の保持構造を適切に支持する設計であれば、長さと直径の比率を別の比率とすることも可能である。加えて、このマトリックス部材におけるピンの長さは、緻密度、つまり平方単位あたりの数にも影響される。したがって、マトリックス設計の緻密度が高ければ、使用するゲル部材に適切に対応させることにより、ピンの高さをさらに低くすることも可能である。マトリックスの緻密度は、一定である必要はなく、エッジ部分では緻密度を高くし、中央部分は低くするような設計も可能である。これは、エッジ部分では、電極ユニットを皮膚から取り外す際に受ける歪みが大きいからである。また、エッジをカーテン状の設計とすることによっても、ゲル部材とシェル部材の接触面積を大きくできるので、ゲル部材を保持する効果を高めることができる。
【0061】
前記マトリックス部材は、さらに、導電線ストランドを導電部材に対して、また、シェル部材に対して、一体に保つ性質を向上させる手段を形成する。このマトリックス部材の設計によれば、さらに、導電部材の面積及び/又は体積を増やすことができるので、充電電流のホットスポットが形成されるリスクを低減することができる。
【0062】
前記マトリックス部材は、前記電極ユニットの構成要素を一体化するシャーシ状部材であると考えることができる。一実施形態では、前記マトリックス部材は、前記シェル部材の一体部分である。一実施形態では、前記マトリックス部材は、導電性の連続気泡型スポンジ、ファブリック、スクリム、又は、メッシュを介して、前記シェル部材に追加されている。
【0063】
なお、前記マトリックス部材が剛性を高める要素を構成してはならず、よって、前記マトリックス部材を、例えばスチールウールのように、可撓性の材料、及び/又は、開放性の高い構造で構成すべきであることは理解されよう。一実施形態では、前記マトリックス部材は、スチールウールを含む。念のため説明すると、スチールウールなる用語は、鋼鉄からなる繊維のみを指すのではなく、スチールウールは、広義には、鉄、低品位炭素鋼線、アルミニウム、青銅、又は、ステンレス鋼などの様々な性質の材料から成る。これらの金属は、切削によって細いストランドに加工され、これが綿毛状の塊に束ねられることで、ウールに似た形態になる。したがって、このようなマトリックス部材の特徴、及び、ゲル部材の性質を、本実施形態に適合させることが望ましい。
【0064】
一実施形態では、前記接続部材のストランドは、前記マトリックス部材の内部に扇形に分散された状態で配置された上で、導電性カーボン/グラフェンベースの材料でコーティングされている。一実施形態では、前記電極ユニットは、さらに、前記シェル部材において、スナップコネクタ、又は、磁力で結合するコネクタ、又は、磁化されたコネクタを有する。スナップコネクタ又はマグネットコネクタは、剛性の要素を代表するものであるが、シェル部材の厚みが大きい設計であれば、シェル部材に、埋設又は取り付けることが可能である。ただし、下側に位置するシェル部材の面には、ゲル部材を塗布した場合に十分な接着が得られるような表面仕上げを行うとよい。スナップコネクタ又はマグネットコネクタを使用する設計では、患者は、所望の刺激部位に電極を装着する前に、当該コネクタを電極ユニットに接続するようになっている。スナップコネクタ又はマグネットコネクタは、装着者が電極ユニットを任意の位置に配置するための手段も構成する。
【0065】
電極ユニットの外側、即ち、刺激の対象とする組織とは反対を向く側は、患者が着用する下着に引っかからないように、低摩擦性の表面で構成することが望ましい。好適な設計においては、このような特性は、シリコーン外表面に、低摩擦性シリコーンをベースにした硬化コーティングを噴霧することで得られ、このようなコーティングとしては、例えば、NuSil社により市販されているMED6670、又は、適切に選択されたパリレンベースのコーティングが挙げられる。
【0066】
柔軟性は、部分的には断面形状によって決まるが、完成品としての刺激電極ユニットの柔軟性には、ゲルの固定方法、シェル部材の形状、寸法、及び、材料の組み合わせ、並びに、ゲル部材のすべてが寄与する。
【0067】
電極ユニットをレンズ形状又は液滴形状とすると、その内部形状にゲル部材が追従して、同様にレンズ形状、即ち、予め形成された形状を呈するので、刺激の対象とする特定の組織に適合した形状とすることができる。これは、シェル部材にゲル部材を充填した上で、硬化させることで構成することができる。
【0068】
接続部材として一般的なパッチのリードは、本質的に柔軟な設計であって、優れている。しかしながら、電極自体が柔軟性の高い設計であるので、典型的なカシメ加工のコネクタ又はマグネットコネクタを使用することも可能であり、これは、厚い電極設計の場合には、特に選択可能である。また、磁石などの他の接続要素も使用可能であり、特に、マグネットコネクタの長手方向の形状が電極の主曲げ線に合わせて設計されている場合に、使用可能である。
【0069】
経皮用途のパッチ電極に一般的に用いられる弾性係数の低いゴム状ゲル配合物などのゲル材料も、前記シェル部材と組み合わせて使用することが可能である。ゲル化合物の材料特性は、最終的な電極ユニットの設計に求められる全体の柔軟性レベルに合わせて調整することができる。
【0070】
一実施形態では、前記電極のゲル部材は、チクソ性が高く、比較的高い粘度に構成されており、シェル部材は、ソフトシリコーンを成形して形成されているとともに、適合した緻密度のマトリックス部材を有する。
【0071】
比較的高い粘度のゲル化合物材料を準備し、これを、ソフトシリコーンを成形して得られた、適切な緻密度のマトリックス部材を備えるシェル部材と組み合わせることにより、柔軟性の高い電極ユニット設計を実現することができる。
【0072】
一実施形態では、電極ユニットは、複数のゲル要素を構成するゲル部材を含み、これにより、最終的なゲル部材そのものの柔軟性を高めることができる。一連の流体ゲル材料の組み合わせと、様々なデュロメータ硬度レベルに可塑化されたゴム状ゲルとを用いることにより、最終的なゲル部材が構成される。ゲル要素の粘度を慎重に組み合わせることにより、最終のゲル部材の柔軟性をさらに高めることができる。電極ユニットの端部には、硬いゴム状ゲル部材を用いて、中央部には、液体とほぼ同じ挙動を示すゲル要素を用いる。シェル部材の底部には、液体状のゲルを配置し、電極と皮膚の間のインターフェースとなる頂部は、ゴム状ゲルで構成する。
【0073】
一実施形態の電極ユニットは、デュロメータ硬度の低い材料で予め形成され、導電部材でコーティングされたシェル部材を含み、当該導電部材は、前記電極ユニットに電荷を均一に分散させるよう構成されているとともに、柔軟なマトリックス部材に配置された接続部材との電気的な接続を確立するよう構成されており、前記マトリックス部材は、当該マトリックス部材に充填された第1液状ゲルを固定し、当該第1液状ゲルは、予め硬化させたヒドロゲルシートから変換して成る第2ゴム状ゲル部材を前記マトリックス部材が機械的に支持するような高さまで充填されており、当該第2ゴム状ゲル部材は、前記液状ゲルに対するバリアを形成するとともに、前記患者の皮膚に接触する。
【0074】
本発明の説明において、尿失禁の治療を目的としたシステムについての特定の実施形態を用いたが、本願は、この用途に限定されるものではなく、ニューロモデュレーションのために表面に刺激を与えるあらゆる用途に適用可能であり、本発明は、技術的課題の解決として、所定の部位に保持できる電極を用いることで、容易に電気的刺激を与えるための技術的特徴を備えるデバイスを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
本発明を説明する目的で、添付図面に様々な形態を示す。これらは、現状で好適であると認識されているものであるが、本発明は、図示した特定の配置や構成に限定されるものではない。
【0076】
図1】電極ユニットを示す図であり、患者の皮膚に装着する側が示されている。電極ユニットは、マトリックス部材の細部構造の一形態と、シェル部材の柔軟性を高めるように設計されたリップ部と、電極に刺激信号を供給するリードと、を備える。ここでは、電極ユニットは、マトリックス部材の細部構造としてピン(1)を備え、外周リップ部として、電極ユニットは、幾何学的に柔軟な形状に形成されたエッジ(2)を備え、また、電気エネルギーを皮膚に均一に分散させる導電部材を構成する導電性のグラファイトコーティングを備える。リード(3)には、図示されていないパルス発生器から信号が供給される。
図2】電極ユニットを、患者とは反対側の面である上面から見た図である。電極ユニットは、衣類への付着を抑制する滑らかな表面を有する低摩擦性の上面コーティング部材(4)を備えるとともに、パルス発生器から供給された刺激信号を分散させるインターフェースとしてのリード型コネクタ(5)を備える。
図3】シェル部材の中にゲル部材(6)が配置された電極ユニットを示す図である。一実施形態において、ゲル部材は、シェル部材のリップ部から下方に突出するように過充填されておおり、粘着性の高いリップ部(2)を構成する。
図4】電極ユニットを、患者とは反対側の面である上面から見た図である。この実施形態では、シェル部材は、レンズ形状(7)を有する。このレンズの内部には、マトリックス部材がゲルで固定されておらず、よって、適切な可塑度合(plasticization)及び粘度を有する任意のゲル部材と組み合わせることができる。また、皮膚との密着性を高めるために第2のゲル部材を追加することができる。
図5】電極ユニットのシェル部材の内部に配置された扇形リード線ストランド(8)を示しており、これは、マトリックス部材の内部に分散されたワイヤ素線で構成されている。加えて、電極ユニットのシェル部材の上面に成形された部材である、リードコネクタ固定部材(9)が示されている。
図6】カシメ加工されたスナップコネクタ(10)を特徴とする一実施形態の電極ユニットを示す図である。
図7】電極ユニットを示す図であり、患者の皮膚に装着する側が示されている。電極ユニットは、シェル部材内に配置された別の形態のマトリックス部材の細部構造と、シェル部材の柔軟性を高めるように設計されたリップ部と、ゲル部材をさらに確実に固定する構成と、磁石を使用した接触部材(13)と、を備える。ここでは、電極ユニットは、マトリックス部材の細部構造として、ピンとくぼみ/穴との組み合わせ(1及び11)を備え、外周リップ部として、電極ユニットは、幾何学的に柔軟な形状に形成されたエッジ(2)を有する。
図8図7で示した実施形態の外観図であり、シェル部材の中央にマグネットコネクタ(12)が配置されている。
図9】カーテン状のエッジ(2)の詳細を示す図であり、この設計は、上述の図面のいずれにおいても採用である。カーテン状エッジは、少なくとも3つ以上の曲線で構成することによって長くした、不規則、又は、規則的な線を有し、これにより、柔軟性をさらに高めるとともに、ゲル部材をさらに確実に固定することができる。カーテン形状における個々の部分が、互いに均等の寸法又は形状である必要はない。
【発明を実施するための形態】
【0077】
本発明を説明する目的で、添付図面に様々な形態を示す。これらは、現状で好適であると認識されているものであるが、本発明は、図示した特定の配置や構成に限定されるものではない。
【0078】
図1は、従来のリード接続(3)を用いた電極ユニットの一実施形態を示す。他にも、リード線をパルス発生器に接続する手段としては、図6に示すスナップコネクタ、及び、図8に示すマグネットコネクタも一般的に用いられる。さらに、ジャックコネクタや他の種類の電気的コネクタも、パルス発生器を接続する手段として適切な選択肢である。
【0079】
電極ユニットの幾何学的表面の面積は、電荷密度が高くなり過ぎて組織に炎症を生じさせることを防止するために、少なくとも25mm2である。図1の表面電極ユニットの形
状は、ユーザの好みに合わせた様々な配置が容易に行えるように設計されている。電極ユニットのシェル部材は、様々なポリマーで構成することが可能であり、例えば、デュロメータ硬度の低いシリコーン(low durometer silicones)、天然ゴム又は人造ゴム、ラテ
ックス、熱可塑性エラストマ又はゴム類の射出成形物、又は、場合によってはウレタンで構成することが可能である。なお、柔軟性の高いシェル部材を構成する材料を使用すればよく、よって、同様の性質を備える他の材料も選択可能であり、本発明の権利範囲に包含されると考えられる。
【0080】
取り付けられたリード接続におけるリード線部分、或いは、接続されたリード線は、柔らかく、曲げやすいものが好ましい。また、図6及び図7にそれぞれ示すカシメ加工のス
ナップコネクタ又はマグネットコネクタを用いる実施形態においては、電極ユニットが十分な厚みを有するよう構成する必要がある。十分な厚みがあれば、コネクタ要素における硬い部分を、電極ユニットが固定された皮膚に対して動かしたり、傾けたりすることができる。シェル部材が柔軟なシリコーンから成る構成では、スナップコネクタの固定部分は、それよりも硬度が高いシリコーンを材料として構成する設計が望ましく、これにより組立体の強度を高めることができる。したがって、スナップコネクタのサイズと同等のリング状の要素を、デュロメータ硬度の高いシリコーンで構成して、シェル部材に成形して取り付けることが望ましい。他にも、機械的に接続する方法として、スナップコネクタ又はマグネットコネクタを、加工テープ(converted tape)又は液体接着剤を用いてシェル部材に接着する方法がある。
【0081】
リード接続を用いる実施形態では、リード線の導電部分は、シェル部材を貫通してゲル部材に到達している必要があり、これにより患者の皮膚/組織に対する電気的な接続が確立される。リード線の一部は、シェル部材の外側に固定される。例えば、図5では、ブリッジ部材(bridge-element)によって、リード線がシェル部材の外側に固定されている。
【0082】
電極の主要部は、シェル部材で構成されており、この中に、ゲル材料、及び、刺激信号を供給する接続部材が配置される。ゲル部材は、電気刺激を与える皮膚に密着する必要があるが、ゲル部材の外表面は、粘着性も接着性も無い表面でなくてはならない。このような構成は、上面に低摩擦性のコーティングを塗布するか、及び/又は、衣服や身体の他の部分への接着を抑制するような滑らかな表面を有する構造とすることで実現できる。これにより、意図せず電極がずれてしまうリスクを低減する手段が提供される。
【0083】
ただし、シェル部材の主要な性質としては、柔軟性が高いにもかかわらず、成形された状態では、機械的強度の弱いゲル部材を支持する物理的な構造であるという点にある。シェル部材は、柔軟性の要件を考慮すると、破断前の最大伸度が、少なくとも25%である必要がある。ただし、シェル部材の応力-ひずみ特性は、塗布されるゲル部材と同等である必要があり、よって、破断時のひずみは、少なくとも100%であることが望ましい。これを超えるレベルであれば、電極ユニット全体の性質の改善としては限定的であるが、さらに利点が得られる。
【0084】
図3では、シェル部材を過充填することにより、図示のとおり、カーテン状のエッジの下側に延出するリップ部が形成されている。過充填は、図2に示すようなカーテン状のエッジの高さまでシェル部材に充填し、その上に、予め硬化させたゲルシートを蓋のように配置することによっても実現することができる。このようにすれば、水分をより多く含むゲル化合物を、ゲル部材の一部として含むことができる。
【0085】
厚みの小さい設計、又は、図4のようにレンズ形の設計の場合は、特別な表面処理を手段として用いて、ゲル部材に対して許容可能な態様及びレベルの接着性が得られるようにシェル部材の内表面の物理的特性又は形態的特性を調整する。これにより、当該手段は、マトリックス部材を構成する。この処理は、ゲル部材の十分なゴム状の性質とバランスが取れたものでなくてはならない。ただし、組み立てられた電極があらゆる方向に十分な柔軟性を有することが重要な性能の基準であるので、ゲル部材が硬すぎることは許容されない。
【0086】
図5は、リードコネクタの導電部分が扇形に拡がって配置されている様子が示されている。導電体を分散して配置するこの方法によれば、ゲル部材に対して電荷を均等に分散させ、よって、アクティブな電極領域全体に電荷を均等に供給する手段を実現することができる。加えて、扇形に配置された導電体により、ゲル部材をさらに安定させるとともに、マトリックス要素として、或いは、マトリックス部材を改善する要素として機能する。リ
ード線の導電部分がさらに長いものであれば、これらを縮れさせてメッシュ状にして、マトリックス部材を構成することができる。なお、この態様は、電荷を正確に分散させることはできないが、小型電極においては適切な場合もある。
【0087】
この扇形は、導電性リード線の複数のストランドをマトリックス部材全体に均等に分散させた後、これら導電性ストランドをマトリックス部材に組込むことで構成することができる。次いで、リード線の導電部分が浸るように、ゲル部材がマトリックス部材の上から注入され、次いで硬化させる。これにより、柔軟性を備える固体部材によって、電極を構成することができる。
【0088】
グラファイトコーティング材料、又は、他の一般的な導電性材料、例えば、銀ベースのコーティングを、単独で、或いは、追加で用いることができる。これにより、刺激電流をゲル面全体にさらに均一に分散させるよう改善することもできるし、或いは、この材料を、導電部材そのものとして機能させることもできる。電極と皮膚の間のインターフェースにおいて電流をさらに均一に分散させるために、コネクタ部材は、ゲルと接触する導電部材とのインターフェースを構成する部分において適切な電気的特性を有するように設計する必要がある。図7に示すように、磁力を利用した接続を有する実施形態においては、磁石の直下では、最適な電流の分散が得られないので、ゲルの性質によってこれを補う必要がある。或いは、磁石を電気接続部品の一部としない構成とするか、磁石そのものを電気的に分離するよう構成して、電流が集中するホットスポットを形成しないようにする必要がある。
【0089】
シェル部材のリップ部の表面領域の設計は、十分な表面積を確保するための追加の手段として、また、ゲル部材をシェル部材にさらに強固に固定するための手段として利用することができる。親水性又は保持力(grip)を高める何らかの特性を有するカーテン状のリップ部とマトリックス部材を合わせた表面積は、全体として、ゲル部材を患者の皮膚にではなく、シェル部材及びマトリックス部材に結合させるように機能する。図9に示すように、カーテン状のエッジの設計の手法には、実質的に限りがなく、規則的な形状でも、不規則な形状でもよく、鋭角な角部を有する形状でも、丸みを帯びた形状でもよい。いずれの場合も、患者の皮膚に接触する電極の投影面積に対して、エッジラインが十分に長くなるように設計する必要がある。
【0090】
好ましい設計においては、シェル部材は、デュロメータ硬度の低い液状シリコーンの射出成形により、或いは、デュロメータ硬度の低い高粘度シリコーンゴムを成形することにより構成される。例えば、00ショア50などのデュロメータ硬度の材料を用いる場合、壁の高さを約5mmに制限した場合、壁の厚みは最大で1mmまで許容可能である。
【0091】
例えば、カーテン状の設計など、壁の柔軟性を高めるような細部構造を備える場合は、壁の高さを約10mmまで延長することが可能であり、追加のゲル成分により柔軟性をさらに高めることができる場合は、さらに高くすることも可能である。ゲル成分及びリード部材を含めた電極ユニット全体の曲げ剛性は、装着部位の構造に、電極ユニットが最大限に追従できるように低く抑えることが求められる。
【0092】
シェル部材を構成するシリコーン材料のデュロメータ硬度が大きい場合には、厚み寸法を小さくし、これに応じて壁の高さ比も大きくして、最終的な電極ユニット全体の柔軟性が維持される設計にする必要がある。つまり、シリコーン材料のデュロメータ硬度が高いほど、壁の厚みを総じて薄くする必要があり、これに合わせて、壁の高さを高くするとともに、含有されるゲル材料の曲げ特性を高くする必要がある。
【0093】
より具体的には、シェル部材は、内部構造として、例えば、ピン又は穴の配列、繊維、
又は、連続気泡型スポンジ(open cell sponge)で構成されたマトリックス部材を有する。このマトリックス部材は、ゴム状ゲル部材を支持することを目的としており、ゲル部材の厚みが大きい場合には、5mmより高い壁が用いられるので、特に重要である。超軟性のゲル材料と組み合わせる場合、マトリックス部材の設計は、ゲル部材やその構成材料の一体性を維持する(integrity protection)手段にもなるので、さらに重要である。マトリックス部材は、ゴム状ゲル部材を支持するとともに、高粘度で所望のチクソ性を有するゲル部材(thixotropic gel-member)をマトリックス部材の中に配置することを可能にする。粘性ゲル化合物の特性は、ゲル部材の層の厚みに加えて、マトリックス部材の緻密度にも適合させる必要がある。ゲル部材がほとんど液体状である場合は、マトリックス部材の緻密度は、ゲル部材が硬化プロセスにおいて可塑化してゴム状を呈する場合の設計よりも、高く設計するべきである。有用なゲル部材の例として、Axelgaardに付与された米国特許第7252792号に開示されており、現在は市販されているゲル部材がある。水分量は、ゲル化合物の粘着性に影響するので、特定の組成の化合物層を用いると有利である。チクソ性の電解液、可塑化されていない高粘度のゲル、又は、可塑化の度合いが低いゲルを電極のマトリックス部材に浸透させておき、この材料に、可塑化したゴム状ゲルのシートを被せて蓋をすると、より厚く、より柔らかい電極を構成することができる。このように、複数の化合物を用いてゲル部材を構成する設計により、使用時におけるゲル部材自体の内部応力を低減できるとともに、より正確に組織の形状に追従させることができる。ゲル化合物が可塑化されてなるゴム状を呈するスキン層は、皮膚に大部分が付着して残留することがないように、十分な一体性を維持する性質ものが望ましい。
【0094】
マトリックス部材の重要な特徴は、皮膚から電極を取り外すときにゲル部材がシェル部材に密着した状態を維持できるように、十分な表面積を確保することである。マトリックス部材の細部構造が親水性を備える設計であると、ゲル部材をさらに確実に保持することが可能になる。ゲル部材は、マトリックス部材の内部に硬化されて固定されるので、ゲル部材は、マトリックス部材に支持されることで一体性が確保され、しかも、最終品としての電極ユニットの剛性は、わずかな増加に抑えられる。したがって、マトリックス部材は、ゲル部材との組み合わせで高い柔軟性を実現して、マトリックス部材が剛性を高める要素にならないような性質を有するものが望ましい。
【0095】
適切に設計された従来の電極においては、導電部材が皮膚に接触しないような配慮がなされている。導電部材は、金属メッシュで構成されているものが多いので、皮膚に接触すると、電荷の集中やホットスポットが形成され、刺激源になったり、場合によっては、危険を伴ったりする可能性がある。本電極ユニットのようにシェルを備える設計の場合、硬質の部材が含まれていないので、このような懸念は、限定的であり、ホットスポットは、ヒドロゲルをベースとする電極の場合に懸念される電極の乾燥のみに関連する事項となる。関連するリスクを抑制するために、マトリックス部材の設計は悪影響を与えるものであってはならない。
【0096】
しかしながら、マトリックス部材が皮膚と接触することは、想定されていない。これは、ゲル部材における最大限可能な領域を皮膚に固定するためでもある。シェル部材にゲル材料を意図的に過充填する設計の場合、マトリックス部材の高さは、柔らかなゲル化合物を一体的に維持する機能を最大限に発揮する壁の高さと同等でなくてはならない。
【0097】
マトリックス部材は、ゲル部材が患者の皮膚に付着するのではなく、ゲル部材を保持してシェル部材の内部に固定するように機能する。この機能は、マトリックス部材が十分な表面積を有する設計であること、及び、マトリックス部材が導電部材の取り付けのために親水性を備えること、により実現される。導電部材は、ゲル部材との密着性が良いという性質を備えることが望ましい。シェル部材のリップ部の表面領域の設計は、十分な表面積を確保するための追加の手段として考えることができる。リップ部とマトリックス部材と
を合わせた表面積は、親水性又は保持力を高める特徴を有しており、全体として、ゲル部材を患者の皮膚にではなく、シェル部材及びマトリックス部材に結合させるように機能する。
【0098】
オーバヘッド部分は、50%あれば十分であるが、より大きいオーバヘッド部分も有効である。マトリックス部材及びシェル部材のオーバヘッド部分が発揮する保持力が、皮膚に対する保持力に比べて小さすぎると、電極ユニットが分解してしまう可能性がかなり高くなる。よって、電極の取り外しに支障を来し、日常的に使用して交換することが許容されない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-06-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の皮膚に装着して、適切な電気的接触と固定が得られるよう構成された電極ユニットに使用するシェル部材であって、
柔軟性を有するとともに、ゴム状ゲル部材を支持する内部空間を規定する非導電性のシェル壁を有しており、
前記シェル壁は、デュロメータ硬度がショアA50以下の天然ゴム又は人造ゴムで形成されており、
前記シェル壁は、カーテン上に蛇行した形状に形成されたエッジ壁部を有しており、
前記シェル壁は、1mm以下の厚みを有しており、前記エッジ壁部は、5mm以下の高さを有する、シェル部材。
【請求項2】
患者の皮膚に装着して、適切な電気的接触と固定が得られるよう構成された電極ユニットに使用するシェル部材であって、
柔軟性を有するとともに、ゴム状ゲル部材を支持する内部空間を規定する非導電性のシェル壁を有しており、
前記シェル壁は、デュロメータ硬度がショアA50以下の天然ゴム又は人造ゴムで形成されており、
前記シェル壁は、1mm以下の厚みと、5mm以下の高さを有する、シェル部材。
【請求項3】
前記人造ゴムは、シリコーン、熱可塑性エラストマ(TPE)、又は、熱可塑性ウレタン(TPU)のうちの1つ以上である、請求項1又は2に記載のシェル部材。
【請求項4】
前記シェル壁の内表面は、グラフェン又はグラファイトのコーティングか、銀ベースのコーティングか、或いは、導電性スポンジ又は導電性ファブリックのメッシュ部材か、のうちの1つ以上である導電部材を備えている、請求項1~3のいずれかに記載のシェル部材。
【請求項5】
前記シェル壁の外表面の少なくとも一部は、摩擦を低減するためのコーティングで覆われている、請求項1~4のいずれかに記載のシェル部材。
【請求項6】
前記シェル壁の外表面には、複数の導電線ストランドを含む接続部材が設けられている、請求項1~5のいずれかに記載のシェル部材
【請求項7】
前記シェル壁の内表面は、マトリックス部材を備えており、前記マトリックス部材は、複数の凸部及び/又は凹部を含み、前記凸部は、ピンであり、前記凹部は、くぼみであり、前記ピン及び/又は前記くぼみは、第1端と第2端を有し、前記第1端は、前記シェル部材に結合し、前記第2端は、前記ゴム状ゲル部材に結合する、請求項1~6のいずれかに記載のシェル部材。
【請求項8】
前記ピン及び/又は前記くぼみは、前記シェル部材の一体部分である、請求項7に記載のシェル部材。
【請求項9】
前記シェル壁の内表面は、マトリックス部材を備えており、前記マトリックス部材は、導電性の連続気泡型スポンジ、導電性ファブリック、又は、前記第2ゴム状ゲル部材の粘着を補助するように調節された緻密度を有するように成形された構造物に導電性コーティングを施したもの、のうちの1つである、柔軟なマトリックス部材を有する、請求項1~6のいずれかに記載のシェル部材。
【外国語明細書】