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特開2023-10659L-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物
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  • 特開-L-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010659
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】L-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/06 20060101AFI20230113BHJP
   C12N 9/96 20060101ALI20230113BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C12N9/06 B
C12N9/96
C12Q1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022109333
(22)【出願日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2021133019
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宅見 高史
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩士
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC05
4B050DD02
4B050EE10
4B050FF11E
4B050HH02
4B050HH04
4B050LL03
4B063QA01
4B063QQ16
4B063QQ23
4B063QQ80
4B063QR03
4B063QR49
4B063QS02
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】 プロテアーゼ処理及び再精製を行うことなく、L-グルタミン酸酸化酵素を安定化する方法を提供し、安定性に優れたL-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物、該組成物を用いたL-グルタミン酸の測定方法及び測定キットを提供するものである。
【解決手段】
L-グルタミン酸酸化酵素とカルシウム塩及び/又はナトリウム塩とを共存させることで、該酵素を安定化できることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物において、カルシウム塩及び/又はナトリウム塩を共存させる工程を含む、L-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上させる方法。
【請求項2】
L-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物において、カルシウム塩及び/又はナトリウム塩を共存させる工程を含む、pH3.0~9.0におけるL-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上させる方法。
【請求項3】
さらに酢酸塩を共存させる工程を含む、請求項1又は2に記載のL-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上させる方法。
【請求項4】
L-グルタミン酸酸化酵素、並びにカルシウム塩及び/又はナトリウム塩を含む、組成物。
【請求項5】
L-グルタミン酸酸化酵素1Uあたりのカルシウム塩濃度が0.0001μmol以上及び/又はナトリウム塩濃度が0.01μmol以上である、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
さらに酢酸塩を含む、請求項4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の組成物を用いる、L-グルタミン酸の測定方法。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の組成物を含む、L-グルタミン酸測定用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-グルタミン酸酸化酵素の安定化方法、該酵素を含む組成物、該酵素を用いたL-グルタミン酸の測定方法及び測定用キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
L-グルタミン酸は、様々な食品に含まれており、また旨味の主要物質であることから、食品の製造や開発の分野において簡便な測定が望まれている。一般的にはL-グルタミン酸は液体クロマトグラフィーにより測定されるが、L-グルタミン酸酸化酵素やL-グルタミン酸脱水素酵素を使用した測定キットもそれぞれ販売されており、特に酸性~弱酸性である場合が多い食品の分析においては、L-グルタミン酸酸化酵素を使用して測定する方法が簡便とされている。
【0003】
L-グルタミン酸酸化酵素は、Streptomyces属の菌株をふすま培地で固体培養後、緩衝液にて抽出し、精製することで取得していたが、大変煩雑な方法だった(特許文献1及び非特許文献1)。そのため、組換え大腸菌による製造法が開発されたが、得られる酵素が比活性や熱安定性の低い酵素だったため、現在では組換え大腸菌で発現させた後にプロテアーゼ処理し、再度精製を行うことで、組換えL-グルタミン酸酸化酵素において、ふすま培養液由来の酵素と同程度の比活性や熱安定性を有する酵素が得られることが知られている(特許文献2及び非特許文献2~5)。その他、Streptomyces属に属する微生物由来の多くのL-グルタミン酸酸化酵素が知られており、その配列も開示されている(特許文献3、4及び非特許文献6、7)。
【0004】
一方、組換え体大腸菌由来の酵素をプロテアーゼ処理して再精製する製造方法は煩雑な上、高コストな製造法であり、また、使用したプロテアーゼが夾雑物として残存するリスクを完全に排除できないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61-26357号公報
【特許文献2】特許第4002765号公報
【特許文献3】中国特許公開第104726471号公報
【特許文献4】中国特許公開第104726472号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Agric.Biol.Chem.,47(6),1323-1328,1983
【非特許文献2】Biotechno1.Lett.,39,913-919,2017
【非特許文献3】J.Biochem.,134,805-812,2002
【非特許文献4】日本農芸化学会2020年度中四国支部大会(第57回講演会)講演要旨集、P20
【非特許文献5】Biotechno1.Lett.,39,523-528,2017
【非特許文献6】Can.J.Microbiol.,47,269-275,2001
【非特許文献7】Protein Expression and Purification 129,108-114,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、プロテアーゼ処理及び再精製を行うことなく、L-グルタミン酸酸化酵素を安定化する方法を提供し、安定性に優れたL-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物、該組成物を用いたL-グルタミン酸の測定方法及び測定キットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、L-グルタミン酸酸化酵素とカルシウム塩及び/又はナトリウム塩とを共存させることで、該酵素を安定化できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]の態様に関する。
[1]L-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物において、カルシウム塩及び/又はナトリウム塩を共存させる工程を含む、L-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上させる方法。
[2]L-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物において、カルシウム塩及び/又はナトリウム塩を共存させる工程を含む、pH3.0~9.0におけるL-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上させる方法。
[3]さらに酢酸塩を共存させる工程を含む、[1]又は[2]に記載のL-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上させる方法。
[4]L-グルタミン酸酸化酵素、並びにカルシウム塩及び/又はナトリウム塩を含む、組成物。
[5]L-グルタミン酸酸化酵素1Uあたりのカルシウム塩濃度が0.0001μmol以上及び/又はナトリウム塩濃度が0.01μmol以上である、[4]記載の組成物。
[6]さらに酢酸塩を含む、[4]又は[5]に記載の組成物。
[7][4]~[6]の何れかに記載の組成物を用いる、L-グルタミン酸の測定方法。
[8][4]~[6]の何れかに記載の組成物を含む、L-グルタミン酸測定用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、プロテアーゼ処理及び再精製を行うことなく、より簡便にL-グルタミン酸酸化酵素を安定化することができ、安定性に優れたL-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物、該酵素を用いたL-グルタミン酸の測定方法及び測定キットを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】L-グルタミン酸酸化酵素の各温度におけるCaCl又はNaClによる安定化効果を示した図である。
図2】L-グルタミン酸酸化酵素の各pHにおけるCaClによる安定化効果を示した図である。
図3】1mM塩化カルシウム及び50mM酢酸緩衝液(pH6.0)を含むL-グルタミン酸酸化酵素組成物を用いて、L-グルタミン酸を測定した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
L-グルタミン酸酸化酵素は、以下の反応を触媒する酵素である。
L-グルタミン酸+O+HO→α-ケトグルタル酸+H+NH
L-グルタミン酸を酸化して、α-ケトグルタル酸を生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されず、公知のL-グルタミン酸酸化酵素を用いることができる。例えば、前記の特許文献又は非特許文献に記載のStreptomyces属に属する微生物由来のL-グルタミン酸酸化酵素が例示でき、非特許文献2、6若しくは7又は特許文献2~4に記載の公知配列を利用して組換え製造したL-グルタミン酸酸化酵素を使用することができる。
【0013】
また、本発明に適用することができるL-グルタミン酸酸化酵素は、L-グルタミン酸を酸化する活性を有する限り、上記に例示した配列のアミノ酸残基の一部が欠失、置換又は付加されていてもよく、また他のアミノ酸残基が付加されていてもよい。
【0014】
L-グルタミン酸酸化酵素は公知の方法で取得でき、例えば、L-グルタミン酸酸化酵素を産生する公知のStreptomyces属に属する微生物、S.mobaraensis、S.platensis、S.diastatochromogenes、S.viridosporus、S.afghaniensi等から該酵素の構造遺伝子を取得し、又は公知のアミノ酸配列を基に宿主に最適化した遺伝子配列を合成し、発現用ベクターに挿入後、該ベクターを用いて適切な宿主を形質転換して得られた形質転換体を培養し、遠心分離等で菌体又は培養上清を回収した後、菌体破砕等により抽出した粗酵素液を精製して得られる。
【0015】
宿主は、例えば大腸菌、枯草菌、放線菌等の原核細胞や、真菌(酵母、アスペルギルス属等の子嚢菌、担子菌等)、昆虫細胞、哺乳動物細胞等の真核細胞等を使用できるが、大腸菌が好ましい。
【0016】
本発明で使用されるL-グルタミン酸酸化酵素生産菌の培養には、通常の微生物培養用培地が使用できる。例えば、炭素源、窒素源、ビタミン類、無機物、その他使用する微生物が必要とする微量栄養素を程よく含有するものであれば、合成培地、天然培地の何れでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、スクロース、デキストリン、澱粉、グリセリン、糖蜜等が使用できる。窒素源としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩類、DL-アラニン、L-グルタミン酸等のアミノ酸類、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー等の窒素含有天然物が使用できる。無機物としては、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第二鉄等が使用でき、ビタミン類を使用してもよい。さらに、タンパク質の発現の調整に必要な化合物を適宜添加しても良い。
【0017】
本発明のL-グルタミン酸酸化酵素を得るための培養は、通常、振盪培養や通気攪拌等の方法により好気的条件下で行うのが良い。L-グルタミン酸酸化酵素生産菌の特性を踏まえて、L-グルタミン酸酸化酵素の生産に適した培養条件に設定すれば良い。例えば、培養温度は15℃から45℃、好ましくは20℃~40℃、pHは4.0~8.5、好ましくは5.0~8.0の範囲で行うのが好ましく、生産性を考慮して培養中にpH調整をしても良い。培養期間は0.5日から10日の範囲が好ましいが、流加培養や連続培養による生産量増大を行うのであれば、生産性が最適と判断される範囲で期間を延ばすことができる。この様な方法で培養することにより、培養物中にL-グルタミン酸酸化酵素を生成蓄積することができる。
【0018】
培養物中からL-グルタミン酸酸化酵素を得る方法は、通常のタンパク質の製造方法が利用できる。例えば、最初にL-グルタミン酸酸化酵素生産菌を培養後、遠心分離により培養上清液を得る。又は培養菌体を得、適当な方法で該培養微生物を破砕し、破砕液から遠心分離等によって上清液を得る。次に、これらの上清液中に含まれるL-グルタミン酸酸化酵素を、通常のタンパク質の精製方法で精製し、精製酵素を得ることができる。例えば、限外ろ過、塩析、溶媒沈殿、熱処理、透析、イオン交換クロマトグラフィー、疎水吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過、アフィニティークロマトグラフィー等を適宜組み合わせることによって精製できる。
【0019】
本発明では、L-グルタミン酸酸化酵素を、カルシウム塩及び/又はナトリウム塩と共存させることで、カルシウム塩及び/又はナトリウム塩非存在下に比べて、L-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上することができる。L-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上することで、L-グルタミン酸酸化酵素が失活するのを抑え、タンパク当たりの活性(比活性)を保持することができる。詳細には、L-グルタミン酸酸化酵素をカルシウム塩及び/又はナトリウム塩を含む酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)中で、40℃、1時間処理した場合、処理前の好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上の活性又は比活性を保持することができる。また、好ましくはpH2.5~pH9.5、より好ましくはpH3.0~pH9.0の範囲において、カルシウム塩及び/又はナトリウム塩非存在下と比べてL-グルタミン酸酸化酵素の安定性を向上することができ、特にpH7.0以上の範囲において、25℃、23時間処理で完全に失活する酵素をカルシウム塩及び/又はナトリウム塩と共存させることで、処理前の好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上の活性又は比活性を保持することができる。また、緩衝液によるL-グルタミン酸酸化酵素の安定化効果も期待でき、活性を低下させない緩衝液であれば特に限定されないが、キレート作用のない有機酸塩を含む緩衝液が好ましく、例えば、酢酸塩、スルホン酸塩等を含む緩衝液が例示でき、酢酸カリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、MES―NaOH緩衝液、HEPES-KOH緩衝液、トリス塩酸緩衝液等が好ましい。カルシウムイオンとキレートし易い、リン酸緩衝液は使用しないのが好ましく、クエン酸緩衝液は、好ましくはpH4.0以下及びpH6.0以上では使用しないのが好ましく、EDTA等のキレート剤も酵素活性に支障をきたす可能性のある銅イオン等を低減する場合を除き、使用しないのが好ましい。
【0020】
前記抽出及び精製時に、カルシウム塩を含む緩衝液又はカルシウム塩とナトリウム塩とを含む緩衝液を使用するのが好ましく、pH4.0~9.0の緩衝液が好ましく、pH4.5~8.5がより好ましい。
【0021】
本発明のL-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物は、L-グルタミン酸酸化酵素、並びにカルシウム塩及び/又はナトリウム塩を含む組成物であればよく、L-グルタミン酸酸化酵素を安定化できれば特に限定されないが、L-グルタミン酸酸化酵素1Uあたり、カルシウム塩濃度は0.0001μmol以上が好ましく、0.001μmol以上がより好ましく、0.1μmol以上がさらに好ましく、0.5μmol以上が特に好ましく、50μmol以下が好ましく、20μmol以下がより好ましく、10μmol以下がさらに好ましく、ナトリウム塩濃度は0.01μmol以上が好ましく、0.1μmol以上がより好ましく、1又は2μmol以上がさらに好ましく、5μmol以上が特に好ましく、1mmol以下が好ましく、500μmol以下がより好ましく、200μmol以下がより好ましい。また、L-グルタミン酸酸化酵素1mgあたり、カルシウム塩濃度は0.02μmol以上が好ましく、0.2μmol以上がより好ましく、20μmol以上がさらに好ましく、100μmol以上が特に好ましく、10mmol以下が好ましく、5mmol以下がより好ましく、2mmol以下がさらに好ましく、ナトリウム塩濃度は1μmol以上が好ましく、10μmol以上がより好ましく、100又は400μmol以上がさらに好ましく、1mmol以上が特に好ましく、200mmol以下が好ましく、100mmol以下がより好ましく、50mmol以下がより好ましい。また、緩衝液成分を含むのが好ましく、キレート作用のない有機酸塩を含むのが好ましく、例えば、酢酸塩、スルホン酸塩等を含む緩衝液成分が例示でき、酢酸カリウム緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、MES―NaOH緩衝液、HEPES-KOH緩衝液、トリス塩酸緩衝液等の成分が好ましい。本発明のL-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物は、カルシウム塩及び/又はナトリウム塩非存在下と比べて安定性が向上しており、失活を防ぐことで高い比活性を保持することができ、組成物中の該酵素の比活性は、好ましくは20U/mg以上、より好ましくは50U/mg以上、さらに好ましくは80U/mg以上、特に好ましくは100U/mg以上である。
【0022】
また、本酵素液を濃縮した場合、例えば0.1mg/mL以上、0.2mg/mL以上又は0.5mg/mL以上の場合、ナトリウム塩濃度が低いと、活性を有したまま不溶化する場合がある。不溶化は、タンパク質濃度や緩衝液の種類、pH等によっても変わるが、pH8.0より6.0の方がナトリウム塩濃度の影響を受けやすく、不溶化した酵素は、遠心により沈殿を回収できる。酵素濃縮液での不溶化を防ぐためには、[0021]に記載している量と同量のナトリウム塩を共存させるのが好ましい。
【0023】
ナトリウム塩やカルシウム塩の種類としては、L-グルタミン酸酸化酵素を安定化できれば特に限定されないが、例えば、塩化物塩(塩化カルシウムや塩化ナトリウム)、硫酸塩(硫酸カルシウムや硫酸ナトリウム)、酢酸塩(酢酸カルシウムや酢酸ナトリウム)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム)等の無機酸塩や有機酸塩を使用可能である。
【0024】
L-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物については、さらに、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン、糖類(例えば、トレハロース等)、糖アルコール類等から成る群より選ばれる1以上の成分を混合して使用することができる。本組成物は、液体でもよく、又は凍結乾燥等により乾燥組成物としてもよい。
【0025】
本発明のL-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物を用いて、L-グルタミン酸を測定することができる。具体的には、L-グルタミン酸を含む被検試料と本発明のL-グルタミン酸酸化酵素組成物を、混合や接触させる工程により、被検試料中のL-グルタミン酸を定量できる。本発明のL-グルタミン酸酸化酵素組成物の酵素の量は、1試料当り0.05から50U程度が好ましく、測定時の終濃度で0.01~10U/mLの範囲が好ましく、0.05~5U/mLがより好ましく、0.5~1U/mLがさらに好ましい。測定時のpHは、好ましくはpH2.5~9.0、より好ましくはpH3.0~pH9.0に設定でき、酸性域からアルカリ性域まで、広い範囲で測定可能である。
【0026】
本発明のL-グルタミン酸酸化酵素を含む組成物を用いて、L-グルタミン酸測定用キットを製造することができる。特に、本発明の安定化させた酵素は比活性や熱安定性が高い事から、目的の測定キットを簡便に製造することが可能となった。
【0027】
本発明のL-グルタミン酸測定用キットは少なくとも下記の反応液A及びBを含むのが好ましい。
(反応液A)
トリンダー試薬若しくは新トリンダー試薬、アスコルビン酸オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、並びに防腐剤を含む試薬組成物。
(反応液B)
L-グルタミン酸酸化酵素、カプラー化合物、安定化剤及び防腐剤を含む試薬組成物。
【0028】
測定対象となるL-グルタミン酸を含む試料としては特に限定されないが、例えば野菜、果物、種実類、魚介類、畜肉類等の食品、特に、ジュース、スープ、出汁等が例示でき、組織、細胞又は微生物培養で使用される培養液、培養物の抽出物等、血液、血清、尿等の生体試料等も例示できる。
【0029】
前記アスコルビン酸オキシダーゼは特に限定されないが、Cucurbita属に由来する酵素が例示でき、詳細にはキュウリ、カボチャ由来のアスコルビン酸オキシダーゼを使用することができる。ペルオキシダーゼについては特に限定されないが、一般的に試薬として販売されている西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼ等を使用することができる。また、本発明に使用するL-グルタミン酸酸化酵素の濃度は終濃度として0.01~50U/mLの範囲が好ましく、より好ましくは0.05~20U/mL、さらに好ましくは0.1~10U/mL、特に好ましくは0.5~5U/mLの範囲が好ましい。カルシウム塩濃度は終濃度として0.01~100mMの範囲が好ましく、より好ましくは0.05~50mM、さらに好ましくは0.1~20mMの範囲が好ましく、ナトリウム塩濃度は終濃度として1~2,000mMの範囲が好ましく、より好ましくは5~1,000mM、さらに好ましくは10~500mM、特に好ましくは20~200mMの範囲が好ましい。アスコルビン酸オキシダーゼは終濃度として0.1~100U/mLの範囲が好ましく、より好ましくは0.5~50U/mLの範囲が好ましく、さらに好ましくは2~20U/mLの範囲が好ましい。ペルオキシダーゼは終濃度として0.1~100U/mLの範囲が好ましく、より好ましくは0.5~50U/mLの範囲が好ましく、さらに好ましくは2~20U/mLの範囲が好しい。
【0030】
前記トリンダー試薬は例えばフェノールが例示でき、新トリンダー試薬としては例えばN-エチル-N-スルホプロピル-3-メトキシアニリン(ADPS)、N-エチル-N-スルホプロピルアニリン(ALPS)、N-エチル-N-スルホプロピル-3-メチルアニリン(TOPS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(ADOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(TOOS)等の公知の発色試薬が例示できる。これらの発色試薬は一種又は二種以上を混合して用いてもよいが、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン(TOOS)を使用することが好ましい。
【0031】
前記カプラー化合物はトリンダー試薬、又は新トリンダー試薬との組み合わせで発色する任意の化合物を使用することができ、例えば4-アミノアンチピリン(4-AA)、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)、アミノジフェニルアミン、1-(4-スルホフェニル)-2,3-ジメチル-4-アミノ-5-ピラゾロン(CP2-4)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-m-トルイジン又はその誘導体等を用いることができる。これらのカプラー化合物は一種、又は二種以上組わせて使用することができるが、特に4-アミノアンチピリンを使用することが好ましい。
【0032】
本発明のL-グルタミン酸測定キットでは反応液の腐敗、変質を防止する為、各種の防腐剤を使用することができる。防腐剤としてはアンピシリン、クロラムフェニコール、プロクリン(登録商標)等公知のものを使用することができ、特にクロラムフェニコール、プロクリンを使用することが好ましい。
【0033】
(酵素活性測定法)
本発明のL-グルタミン酸酸化酵素の酵素活性は、次の方法で測定できる。
酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)が終濃度100mM、4-アミノアンチピリンが終濃度0.5mg/mL、TOOSが終濃度0.5mg/mL、西洋わさびペルオキシダーゼが終濃度20units/mL、L-グルタミン酸ナトリウムが終濃度100mMになるよう石英セル(光路長1cm)に入れ、恒温セルホルダー付き分光光度計にセットして37℃で10分間インキュベートした後、酵素溶液0.05mlを加えて撹拌し(総液量3.0ml)、555nmにおける5分間の吸光度(Absorbance)変化(△ABS/min)を測定する。そして、次の式により酵素活性を算出する。1分間に1μmolのL-グルタミン酸が分解される酵素活性を1unit(U)と定義する。なお、酵素希釈液においては、カルシウム塩等を含んだ緩衝液に、さらに終濃度0.1%になるように牛血清アルブミンを添加しておくのが望ましい。
【0034】
【数1】
【実施例0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例0036】
(L-グルタミン酸酸化酵素組成物の製造方法)
非特許文献2に記載のStreptomyces mobaraensis由来L-グルタミン酸酸化酵素のアミノ酸配列(配列番号1)をコードし、大腸菌発現用に最適化した合成ポリヌクレオチドを、pET21(a)+ベクターに挿入し、該ベクターを用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換することで、L-グルタミン酸酸化酵素を産生する組換え大腸菌を取得した。なお、C末にはHis-tag配列を付与したタンパク質として発現するように酵素本来の終止コドンを削除し、pET21(a)+ベクターに由来する終止コドンを使用した。
【0037】
前記組換え大腸菌をLB液体培地で培養して得られた菌体を1mM塩化カルシウムを含む10mM酢酸カリウム緩衝液(pH5.0)に懸濁し、超音波破砕により菌体を破砕後、遠心して回収した無細胞抽出液を、イオン交換クロマトグラフィーとしてCellufine DEAE A-500mカラムに吸着させた後、1mM塩化カルシウムを含む10mM酢酸カリウム緩衝液(pH5.0)で洗浄し、該緩衝液から、同緩衝液にさらに1,000mM塩化ナトリウムを加えた緩衝液へのグラジエント溶出法で酵素を溶出させ、活性画分を回収した。回収した酵素を、1mM塩化カルシウム及び150mM塩化ナトリウムを含む20mM酢酸カリウム緩衝液(pH5.0)で置換することで、L-グルタミン酸酸化酵素組成物を取得した。
【0038】
L-グルタミン酸酸化酵素活性は前述の酵素活性測定法で、またタンパク質濃度はBSAを標準物質としたBradford法で測定した結果、タンパク質あたりのL-グルタミン酸酸化酵素活性(比活性)は、230U/mgであった。
【0039】
尚、基質として各10mMのL-グルタミン酸、L-グルタミン、L-アスパラギン酸又はD-グルタミン酸を使用して、L-グルタミン酸酸化酵素の作用性をそれぞれ確認したところ、L-グルタミン酸に対する活性を100%とした場合、L-グルタミン0.1%、L-アスパラギン酸0%、D-グルタミン酸0%となり、優れた基質特異性を有するL-グルタミン酸酸化酵素であることが確認できた。
【実施例0040】
(1.塩化カルシウム又は塩化ナトリウムによる安定化効果1)
実施例1の酵素組成物を脱塩した後、酵素の終濃度が0.176U/mLとなるように、各緩衝液と混合し、4~50℃の各温度で60分間処理した後、前述の酵素活性測定法に基づきで酵素活性を測定した。各緩衝液は、何れも終濃度で、50mM 酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)(CaCl及びNaCl非存在下)、0.1mM 塩化カルシウムを含む50mM 酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)(0.1mM CaCl)、1mM塩化カルシウムを含む50mM 酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)(1mM CaCl)、1mM 塩化ナトリウムを含む50mM 酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)(1mM NaCl)又は100mM 塩化ナトリウムを含む50mM 酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)(100mM NaCl)であり、塩化カルシウム又は塩化ナトリウムの安定化効果を評価した。処理前の酵素活性を100%として処理後の残存活性(%)を算出して図1に示した。また、40℃、60分間処理後の残存活性(%)を表1に示した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1及び図1より、塩化カルシウム又は塩化ナトリウムを添加することで、非存在下に比べ、何れも熱安定性が向上することが分かった。なお、L-グルタミン酸酸化酵素1Uあたりの塩化カルシウム又は塩化ナトリウムの使用量は、1mMの場合、5.68μmol、100mMの場合、568μmolだった。
【実施例0043】
(2.塩化カルシウムによる安定化効果2)
実施例1の酵素組成物を脱塩した後、酵素の終濃度が0.176U/mLとなるように、各緩衝液と混合し、25℃、23時間静置後、前述の酵素活性測定法に基づきで酵素活性を測定し、pH安定性を評価した。各緩衝液は、何れも終濃度で、50mM 酢酸カリウム緩衝液(pH3.2-5.8)、50mM クエン酸―リン酸酢酸緩衝液(pH4.4-7.2)、MES-NaOH緩衝液(pH5.4-7.0)、Tris塩酸緩衝液(pH7.1-8.8)であり、さらに終濃度1mMになるように塩化カルシウムを添加した場合(1mM CaCl存在下)と添加しない場合(CaCl非存在下)で各々評価した。処理前の酵素活性を100%として処理後の残存活性(%)を算出して図2に示した。
【0044】
図2より、CaCl非存在下に比べ、1mM CaCl存在下において、pH3~9での安定性が向上しており、特にpH6.0以上の安定性が顕著に向上することが分かった。
【実施例0045】
(3.酢酸塩による安定化効果)
L-グルタミン酸酸化酵素を精製する過程で、緩衝液としてリン酸カリウム緩衝液(pH5.5)を用いて精製を行ったところ、失活が原因と思われる活性回収率の低下が認められた。そのため、酢酸カリウム緩衝液(pH5.0)を用いて精製を行ったところ、失活が抑えられ、前記リン酸カリウム緩衝液を用いて得られた酵素に比べ、約10倍の比活性を有する酵素が得られた。また、図2のCaCl非存在下の残存活性が示すように、酢酸カリウム緩衝液がpH3.2~5.8において、25℃、23時間静置後も高い活性を保持していた。
【0046】
よって、リン酸カリウム緩衝液はL-グルタミン酸酸化酵素を失活させ易く、酢酸塩を含む緩衝液を使用することでL-グルタミン酸酸化酵素が安定化されることが分かった。
【実施例0047】
(L-グルタミン酸の測定)
1mM塩化カルシウム及び50mM酢酸緩衝液(pH6.0)を含むL-グルタミン酸酸化酵素組成物を用いて、次の試薬組成のキットを調製し、以下の手順でL-グルタミン酸の測定を実施した。
【0048】
L-グルタミン酸測定用の反応液Aとして、50mM酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)中に、終濃度として10U/mL アスコルビン酸オキシダーゼ、10U/mL ペルオキシダーゼ、0.8μmol/mL TOOS(新トリンダー試薬)を含む溶液を調製した。また反応液Bとして50mM酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)中に終濃度として0.8U/mL L-グルタミン酸酸化酵素、0.8μmol/mL 4-アミノアンチピリンを含む溶液を調整した。さらにL-グルタミン酸試料溶液として、終濃度として0~3,000mg/LのL-グルタミン酸ナトリウム溶液を調製した。
【0049】
各濃度の試料溶液各4μLを96穴プレートに添加し、そこに反応液Aを各90μL添加、混合した後、25℃で20分間静置し、さらに、反応液Bを各90μL添加、混合した後、さらに25℃で20分間静置した。静置後、マイクロプレートリーダーで555nmの吸光度を測定した結果、図3に示すように少なくとも3,000mg/Lまでの濃度範囲で高精度にL-グルタミン酸ナトリウムを測定できることが確認できた。
【実施例0050】
(L-グルタミン酸測定における夾雑物質の影響の確認)
食品成分等を対象とした分析においては、測定原理上、検体由来の夾雑物質であるアスコルビン酸やカタラーゼの影響を受ける可能性がある。そのため、実施例5で調製した試料溶液(L-グルタミン酸ナトリウム終濃度:1,500mg/L)に、さらに終濃度として0~1,000mg/LとなるようにL-アスコルビン酸を添加し、L-グルタミン酸測定におけるL-アスコルビン酸の影響を確認し、結果を表2に示した。また、アスコルビン酸の代わりに、さらに終濃度として0~1,000U/mLになるようにカタラーゼ(ウシ肝臓由来)を添加し、L-グルタミン酸測定におけるカタラーゼの影響を確認し、結果を表3に示した。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表2に示すように、L-アスコルビン酸の添加による相対吸光度変化は小さく、L-アスコルビン酸の影響をほぼ受けない測定方法であることが確認できた。また、表3に示すように、カタラーゼの添加による相対吸光度変化は小さく、カタラーゼの影響をほぼ受けない測定方法であることが確認できた。
【実施例0054】
(L-グルタミン酸酸化酵素の溶解性)
実施例1で得られた酵素溶液について、タンパク質濃度として1.5mg/mL程度になるように濃縮したところ、酵素が不溶化し、不溶化酵素が懸濁した状態になった(酵素懸濁液)。遠心分離により上清を除去して沈殿を回収後、本沈殿に対し、以下の緩衝液を、除去した上清と等量添加し、それぞれ沈殿と混合後、遠心し、上清の活性を測定して、結果を表4に示した。
【0055】
緩衝液1:50 mM 酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)、100 mM NaCl、1 mM CaCl
緩衝液2:50 mM 酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)、200 mM NaCl、1 mM CaCl
緩衝液3:50 mM 酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)、300 mM NaCl、1 mM CaCl
緩衝液4:20 mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、1 mM CaCl
緩衝液5:20 mM トリス塩酸緩衝液(pH8.0)、100 mM NaCl、1 mM CaCl
【0056】
濃縮後の酵素懸濁液の活性を100%とした場合の、各サンプルの相対活性を算出して表4に示したところ、塩化ナトリウム濃度が、pH6.0では300mM、pH8.0では100mMの場合において、明らかに溶解性が改善されていた。緩衝液5のL-グルタミン酸酸化酵素1Uあたりの塩化ナトリウムの使用量は0.3μmol、塩化カルシウムの使用量は0.003μmolだった。
【0057】
【表4】
【実施例0058】
(安定性試験)
実施例1で得られた酵素溶液について、タンパク質濃度として0.75mg/mL程度になるように濃縮後、遠心分離により上清を除去して沈殿を回収し、1mM塩化カルシウム及び300mM塩化ナトリウムを含む50mM酢酸カリウム緩衝液(pH6.0)を、除去した上清と等量添加し、沈殿と混合後、遠心し、上清を回収した。
回収した上清を、4℃又は30℃でそれぞれ4週間静置し、安定性を確認した。0週目の活性を100%とした場合の、2及び4週目の相対活性を算出して表5に示したが、何れの温度においても、活性低下は認められなかった。
【0059】
【表5】
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図1
図2
図3
【配列表】
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