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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106638
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 28/18 20090101AFI20230726BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20230726BHJP
   H04W 24/04 20090101ALI20230726BHJP
【FI】
H04W28/18 110
H04W16/28
H04W24/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020094577
(22)【出願日】2020-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 聡
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA14
5K067EE02
5K067EE10
5K067JJ37
5K067KK03
(57)【要約】
【課題】高波数の電波を用いた通信において、端末の移動にも瞬時に対応し、短い通信距離で、且つ伝送遅延の小さい通信を可能にする通信システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る通信システムは、端末-基地局間、端末間、基地局間の通信を行う基地局と、光学的特性又は電磁気的特性が電気信号に従い動的かつリアルタイムで無線ネットワークが要求する超低遅延時間を満足する値で変化可能に構成されたメタマテリアルを備える。制御部は、端末、又は基地局に関する情報に従い、電気信号を制御してメタマテリアルの光学的特性又は電磁気的特性を変更する制御部を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末-基地局間、端末間、基地局間の通信を行う基地局と、
光学的特性又は電磁気的特性が電気信号に従い動的かつリアルタイムで無線ネットワークが要求する超低遅延時間を満足する値で変化可能に構成されたメタマテリアルと、
前記端末又は基地局に関する情報に従い、前記電気信号を制御して前記メタマテリアルの光学的特性又は電磁気的特性を変更する制御部と
を備えたことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記メタマテリアルは、誘電率、又は透磁率を電気的に制御可能な人工構造体を含む、請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記基地局は、時分割多重方式に従い、一のタイムスロットにおいて複数の端末のいずれか1つと通信可能に構成され、
前記制御部は、前記一のタイムスロットにおいて、前記複数の端末のうち通信を実行中の一の端末に適合する伝送経路を与えるよう、前記電気信号を制御して前記メタマテリアルの光学、または電磁的特性を変更する、請求項1に記載の通信システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記電気信号を制御して前記端末に対するビームフォーミングを実行可能に構成された、請求項1に記載の通信システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
5G通信システムは、大量のデータを、高速で且つ複数のデバイス間で送受信することを可能にする通信システムであり、既に運用が開始され実用化されている。5G通信システムにおいて要求される通信容量は、4G LTE等におけるよりも遥かに大きい容量であり(例えば、20Gbps程度)、その通信容量確保のための通信帯域幅の確保が重要となる。しかし、現在利活用されている2GHz帯には十分な帯域が残されていない。このため、5G通信システムでは、28GHz帯、60GHz帯、又はそれ以上の非常に高い周波数の電波が使用され、これにより広い通信帯域幅が確保される。しかし、使用される電波の周波数が非常に高いため、物理的な通信距離が従前の通信システムに比べ極端に短くなるという課題がある。このような避けられない課題点は、5G以降の通信システムにおいては、更に顕著になるものと予想される。このため、通信距離を確保するための様々な手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0067826号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0165850号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来提案されている手法では、端末が移動した場合において、ネットワークとして要求される伝送遅延時間仕様を満足することが困難であった。
【0005】
本発明は、低周波、高周波問わず交流を用いた無線通信において、端末の移動にも瞬時に対応し、伝送遅延の小さい通信を個々の端末に対して最適化可能な無線通信ネットワークを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係る通信システムは、端末-基地局間、端末間、基地局間の通信を行う基地局と、光学的特性又は電磁気的特性(以下、光、または電磁波の反射、屈折、減衰、吸収、回折、透過特性等を示す)が電気信号に従い動的かつリアルタイムで無線ネットワークが要求する超低遅延時間を満足する値で変化可能に構成されたメタマテリアルと、前記端末、又は基地局等に関する情報に従い、前記電気信号を制御して前記メタマテリアルの光学的特性又は電磁気的特性を変更する制御部を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低い、あるいは高い周波数の電波を用いた無線通信において、端末の移動にも瞬時に対応し、伝送遅延の小さい通信を個々の端末に対して最適化可能な無線通信ネットワークを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】従来技術に係る無線通信システムの概念図である。
図2図1に示した基地局4aのセル5a内に存在する端末6a、6b、又は6cと基地局4aとの間の障害物を考慮した電波伝搬の状況の一例を示す。
図3】従来技術に係る、5Gを代表する次世代通信システムにおいて使用されている通信システムを障害物回避に関する機能を含めた一例を示す概念図である。
図4】第1の実施の形態に係る通信システムを説明する概要図である。
図5】第1の実施の形態に係る通信システムを説明する概要図である。
図6】第2の実施の形態に係る通信システムを説明する概要図である。
図7】第2の実施の形態に係る通信システムの説明する概要図である。
図8】第2の実施の形態の通信システムにおいて、一例として使用され得る、NR(New Radio)のフレーム構造を説明している。
図9】第2の実施の形態に係る通信システムの動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0010】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0011】
[第1の実施の形態]
以下、第1の実施の形態に係る無線通信システムについて説明するが、対比のため、以下では、従来技術に係る無線通信システムについてまず説明し、続いて第1の実施の形態のシステムの説明を行う。
【0012】
図1の概念図を参照して、従来技術に係る無線通信システムを説明する。なお、以下の説明において、基地局4a~4cを総称する場合、単に「基地局4」のように称することがある。また、端末6a~6eを総称する場合、単に「端末6」のように称することがある。
【0013】
この無線通信システムは、4G LTEやWi-Fi、LPWA(Low Power Wide Area)などを基盤技術とするものであり得る。端末6a~6eは、それぞれ基地局4a、4b、4cがカバーできる範囲(セル)5a、5b、5cに存在している。図1に示す基地局4及び端末6の数は一例であって、これに限定されるものではない。
【0014】
一例として端末6aは、基地局4aのセル5a内に存在し、基地局4aを相手として通信している。この時、図1では、基地局4b、及び4cのセル5b、5cは、端末6aを含んでいない。従って、基地局4b又は4cからの無線電波は端末6aとの関係で通信可能距離を逸脱しており、基地局4b又は4cと端末6aとの間では通信はできない(基地局4bは、セル5b内に位置する端末6dとは通信可能であり、また、基地局4cは、セル5c内に位置する端末6eとは通信可能である)。なお、それぞれのセル5a、5b、5cが有する通信可能距離圏内にある端末6から得られた情報及び制御信号は、有線又は無線回線3を通り上位基地局(Upper Base Station)2に送信され、基幹回線網(コアネットワーク)1に送られ、例えば各基地局同士の状態や制御、情報管理、未来予測、セキュリティ情報、遅延補正など様々な情報が管理される。基地局の各々は、基地局と端末の間での通信を司る他、基地局同士の通信も実行可能とされている。また、基地局の各々は、端末間の通信を仲介するようにも構成される。
【0015】
図2を参照して、図1に示した基地局4aのセル5a内に存在する端末6a、6b、又は6cと基地局4aとの間の電波伝搬の状況の一例を示す。端末6aから放射される電波は、ガラス窓等の建物外壁10a´に対して、例えば入射角θ1で入射し、例えば符号12aで示す方向に反射(又は屈折、回折、散乱、吸収、透過)する。つまり、端末6aから放射される電波は、基地局4aに向かう途中でガラス等の建物外壁10a´に入射し、反射、屈折、回折、散乱、吸収、透過の現象を受けつつ伝播し、これによる伝搬損失が発生する。伝搬損失が大きいと、基地局4aと端末6aとの間の通信に必要な電力を空間11に作り出すことができない状況が発生する。
【0016】
端末6bについても同様に考えることができ、端末6bと基地局4aとの間の伝搬経路に存在するガラス窓等の建物外壁10b´に対して、例えば入射角θ2で建物外壁10b´に入射した電波は、例えば符号12bに示すような反射角で反射(又は屈折、回折、散乱、吸収、透過)する。つまり、端末6bから放射される電波は、基地局4aに向かう途中でガラス等の建物外壁10b´に入射し、反射、屈折、回折、散乱、吸収、透過の現象を受けつつ伝播し、これによる伝搬損失が発生する。伝搬損失が大きいと、基地局4aとの通信に必要な電力を空間11に作り出すことができない状況が発生する。これにより、基地局4aと端末6bの通信に必要な電力が領域11に確保できない状態となる。
【0017】
端末6cについても同様に考えることができ、入射角θ3で建物外壁10c´に電波が入射すると、例えば符号12cのような反射角で反射(又は屈折、回折、散乱、吸収、透過)する。その後の反射、屈折、回折、散乱、吸収、透過により、伝搬損失が低下し、基地局4aとの通信が阻害される。
【0018】
このような物理現象による電波伝搬損失を軽減するため、5Gを代表する次世代通信システムでは、図3に示されるような通信システムが検討されている。図3に示す通信システムでは、通信システム網内に存在する端末6a、6b、6cが、基地局4aとの高信頼通信(低遅延、低PER、高スループット)を行う必要がある。次世代通信網において要求される通信容量は4G LTEまでのものとは比較にならないほど大きく、例えば20Gbps程度が想定される。また、その通信容量確保のために通信帯域幅が重要となってくる。しかし、現在利活用されている2GHz帯には十分な利用可能な帯域が残されておらず、使用される搬送波周波数はSub6帯、28GHz帯、40GHz帯、あるいはそれ以上の超高周波化がされ、かつ広帯域が確保されることになる。この時の弊害として通信距離が理論的に悪化するという問題が発生する。このため、図3の通信システムでは、端末6a~6cと基地局4a~4cとの間にメタマテリアル技術を応用した、周波数選択板(以降、メタサーフェスと呼ぶ)10a~10cを備えている。メタサーフェス10a~10cは、特定の位置に限定されるものではなく、個数も図示のものに限定されるものではない。
【0019】
メタサーフェス10a~10cは、それぞれ、電波を意図的に入射角に対して反射、屈折させ、その反射角又は屈折角を調整可能に構成される。端末6aから放射される電波は、メタサーフェス10aに例えば入射角θ1aで入射し、屈折角θ1bで屈折し、基地局4aと端末6aの間にある領域11に必要な電力を供給する。この時、メタサーフェス10aに関しては、入射する電波の反射角又は屈折角を固定的ではあるが設定することができる。また、入射する電波の周波数選択性を持つ。端末6b、6cについても同様であり、メタサーフェス10b、10cに例えば入射角θ2a、θ3aで入射した電波は、上記と同様の理由から屈折角θ2b、θ3bをもってメタサーフェス10b、10cを透過、又は反射する。その反射角及び屈折角は、機械的ではあるが大きな時間的遅延量を持ちながらも変更することができる。
【0020】
このとき、メタサーフェス10a~10cにおいて、それぞれどの程度の反射角又は屈折角を持たせれば良いかは、実用上固定的な角度をもって設計される。反射角及び屈折角を調整するためには、このメタサーフェス10a、10b、10cの反射面又は屈折面自体の物理的角度を変更しなければいけない。または、メタサーフェス10a~10cに誘電体を搭載し、この誘電体と基板との間の物理的距離を変更することで、メタサーフェス10a~10cの反射/屈折特性又は周波数特性を大きな時間的遅延量を持ち変更することができる。すなわち、メタサーフェス10a~10cの物理的構成を機械的に変更することにより、メタサーフェス10a~10cの透過に関わる光学的特性、又は電磁気的特性を変更することができる。
【0021】
しかし、このようにメタサーフェス10a~10cの機械的構成を変更することにより、メタサーフェス10a~10cの反射、あるいは透過特性を変更するのでは、通信システムのカバレッジを無線ネットワークの要求する理想的な通信間時間遅延量を満足しながら拡大させることはできない。4G以前のような既存の無線通信システムにおいては、電波伝搬現象を中継器位置の増設、移設により改善させるか、又は得られたデータの信号処理を行うことで信号再生率を上げることにより、通信システム網において電波をより遠くへ飛ばし、カバレッジや通信品質を改善してきた。
【0022】
また、5G通信システムでも、基地局4aの通信相手となる端末6aは、常に移動することになるため、遮蔽物への入射角度に対する反射/屈折角等の特性が通信品質に与える影響(信号強度の損失や通信に関する時間遅延等)が非常に大きい。このため、5G通信システムの特徴の一つでもある、1msec以内といったシステム内の要求する超低遅延特性を実現することが難しい。端末6aが常に移動する場合、メタサーフェス10a~10cの反射面又は屈折面の物理的角度を常にこれに追従して機械的に移動させることになるために、5G通信システム網が求めるEnd to End(例えば、4aと6a)合計の通信遅延時間を1msec以内に抑えることは困難である。このように、端末6aの移動に追従したメタサーフェス10a~10cの角度の調整が困難である場合、電波の伝搬はかえってマルチパスを多くさせフェージングを多く引き起こし、網全体の通信品質を悪化させる可能性が高くなる。端末が移動することにより遮蔽物における最良の反射/透過方向への最適化ができないことに等しい。最適化が出来ない状態で伝搬した間に透過した電波は、伝搬遅延を生み、それ自体が受信点においてマルチパスフェージングを引き起こし、干渉波を生じさせる。
【0023】
また、メタサーフェス10a、10b、10cは、現状では電力増幅機能を持っていないため、セル内に設けるメタサーフェスやFSS(Frequency Selective Surface)等の場所を意図的に決めておく必要があり、また、要求される入射角に対する反射角、屈折角を現場に最適化させることは非常に難しい。また、既設の窓ガラスなどの角度は変化させることはできないため、周波数選択性はあるものの、特定の場所への反射又は屈折後のレベルを最適化した電波の放射を機械的機構により、全端末に対してリアルタイムに行うことはほぼ不可能である。
【0024】
これに対し、本発明の第1の実施の形態によれば、使用される無線通信方式に関係なく、伝搬経路の最短/最適化、通信品質を向上させ、システム網としての通信遅延時間を短縮又は改善することができる。この第1の実施の形態によれば、端末が移動したとしても、その移動位置に最適な通信状態を瞬時に設定し、これにより、その移動位置において伝搬経路が最短/最適となるよう瞬時にメタサーフェスを調整することができる。例えば、従来の機械式調整で行う方法では、応答速度が数千msecを要するが、電気式で行うことにより数nsec, あるいはpsecオーダーとなることで、基地局-端末間で要求される遅延時間数msecを満足することができ、かつ通信カバレッジの拡大、すなわち通信品質を全ての端末で向上、または改善する事ができる。すなわち、本実施の形態によれば、リアルタイムメタマテリアルの光学的特性又は電磁気的特性が、電気信号に従い動的かつリアルタイムで、無線ネットワークが要求する超低遅延時間を満足する値で変化することができる。
【0025】
図4及び図5は、第1の実施の形態に係る通信システムの特徴を説明する概要図である。図4は、システムの全体構成を示す例の1つであり、図5は、通信システムのうち、1つの基地局4aと端末6a~6cに着目した概要図である。
【0026】
図4に示すように、この第1の実施の形態のシステムは、図1の従来のシステムと同様、コアネットワーク1、上位基地局2、基地局4a~4cを備え、この基地局4a~4cと端末6a~6eが通信する。図5は、基地局4a~4cのうち、基地局4aを代表的に示している。なお、実際のシステム、及びデバイス構成について、端末数、基地局数、及び制御、端末情報管理機能が無線ネットワークのどのデバイスが保有していても構わないことをここに示す。
【0027】
このシステムは、基地局4と端末6との間の空間の任意の位置において、リアルタイムメタマテリアル(リアルタイムメタサーフェスとも呼ぶ、以下、リアルタイムメタマテリアルと呼ぶ)20を備えている。リアルタイムメタマテリアル20は、メタマテリアルの一態様であり、その光学的特性、または電磁気的特性を電気信号に基づき変化可能に構成されている。電気信号は、制御部30からの制御信号に従って変化し、これによりリアルタイムメタマテリアル20の光学的特性、または電磁気的特性を瞬時に変化させることができる機能を有するデバイスの総称とする。
【0028】
すなわち、リアルタイムメタマテリアル20は、従来のメタサーフェスのように、構成要素の角度等を機械的に変更し、透過、反射、屈折、吸収特性をもたらすものではなく、構成要素の材料的/化学的特性(例えば、誘電率や透磁率)を電気信号に基づいて変化させることで、その光学的特性、または電磁気的特性を瞬時に変化させることが可能に構成されている。一例としてリアルタイムメタマテリアル20は、その内部に誘電率や透磁率を電気的に制御可能な、例えばユニットセルを単位とし、整然/雑然と配置された人工構造体、あるいは液晶構造を含むことができる。ただし、リアルタイムメタマテリアル20は、電気信号の変化によりその光学的特性、または電磁気的特性を瞬時に変化させることができる機能を有していればよく、特定の構造や原理には限定されない。変化の対象とされる特性は、一例としては誘電率であるが、これに限定されるものではなく、電気信号に従って瞬時に変化でき、反射特性や屈折特性、あるいは吸収、透過特性に影響を与えることができるものであればよい。
【0029】
制御部30は、端末情報取得部40からの端末情報に従い制御信号を生成し管理する。端末情報取得部40は、基地局4又は端末6との間でデータ通信を行い、端末6が基地局4から受信している電波の強度、基地局4が端末6から受信している電波の強度、パケットエラー率、その端末6の位置情報などを端末情報として取得する。なお、制御部30は、端末6及びリアルタイムメタマテリアル20とは別の構造とされていてもよいし、端末6又はリアルタイムメタマテリアル20の一部に含まれるよう構成されていてもよい。端末情報取得部40も同様に、端末6及びリアルタイムメタマテリアル20とは別の構造とされていてもよいし、端末6又はリアルタイムメタマテリアル20の一部として構成されていてもよい。制御部30、端末情報取得部40は無線ネットワークの構成により、どのデバイスに有していても構わない。
【0030】
なお、端末6a~6eは、一例として、時分割多重方式(Time Division Duplex(TDD))により、自身の情報(位置情報他)を端末情報取得部40に送信することができる。すなわち、端末6a~6eからの実データ送信の前に、その送信のタイムスロットの前後において、自身の情報を送信することができる。このようなTDDのデータ送信により、端末6a~6cは、自身からの実データの送信の前に、リアルタイムメタマテリアルの周波数特性、反射/屈折特性等を変更することができる。
【0031】
この第1の実施の形態では、ある送信点から放射された電波が、送信点とは異なる場所に位置する受信点に到達するまでの空間で生じる反射、透過、屈折、回折、吸収、散乱等の伝搬特性が引き起こす受信点での電界強度、あるいは位相、遅延に与える悪影響を著しく減少させることができる。上述のリアルタイムメタマテリアル20の作用により、受信点において干渉の原因を生み出す伝搬中の反射波の数を少なくすることができるからである。また、電力を保ったまま最適な場所へ電波を透過させることができるため、マルチパスフェージングのパス数を減少させることができる。
【0032】
換言すると、この第1の実施の形態によれば、リアルタイムメタマテリアル20に対する電気信号(トリガ)により、リアルタイムメタマテリアル20の周波数特性、並びに反射/屈折特性を無線システム網が要求する遅延時間以内で完了させることができる。具体的には、伝搬路中に置かれたリアルタイムメタマテリアル20は、外部からの電気的信号(高周波信号、低周波信号)により、等価的にε-μ特性で第3象限に位置された特性を保有し、そのトリガ周波数、かつトリガレベルによりその第3象限ε-μ、または他の象限へと特性を変化させることができる。このように、従来機械式であった周波数特性又は反射/屈折特性の変化を、電気式に変えることで時間応答性を劇的に向上し、同時に無線通信カバレッジを広域化するとともに、無線ネットワーク内で実現すべき理想的な超低遅延通信を実現することができる。
【0033】
図5を参照して、第1の実施の形態の無線通信システムの動作を説明する。図5において、基地局4aは、そのセル内に存在する端末6a、6b、6cを含んでいる。端末6a~6cの間には、それぞれリアルタイムメタマテリアル20a~20cが存在している。リアルタイムメタマテリアル20a~20cは、制御部30からの制御信号に従い、その誘電率を制御され、端末6a~6cの位置に応じた通信角度の最適化、かつ周波数特性、反射/屈折特性が瞬時に与えられる。リアルタイムメタマテリアル20a~20cは、例えば建物の窓ガラスに設置することができるが、これ以外に車の窓若しくはボディ、移動体端末、ウェアラブル機器、標識、信号機、ポスト、電柱、道路(地面)の一部、ビルの外壁、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)含む航空物体、海中や海面を移動するAUV(Autonomous Underwater Vehicle)や潜水艦、又は船の船体などに使用することができる。同一の機能が得られる限り、リアルタイムメタマテリアル20の設置場所、構造等は不問である。
【0034】
図5において、端末6a~6cがある位置にあり、これらから放射される電波が、リアルタイムメタマテリアル20a~20cの各々に入射角θ1a、θ2a、θ3aで入射しているとする。例えば、端末6aから放射された電波は、基地局4aとの伝搬路途中に設けられたリアルタイムメタマテリアル20aに対して入射角θ1aをもって入射され、リアルタイムメタマテリアル20aにおいて電気信号に基づく反射角及び屈折角で基地局4aへ、例えば屈折角θ1bで放射される。リアルタイムメタマテリアル20b、20cについても同様であり、端末6bから放射された電波は、リアルタイムメタマテリアル20bに入射角θ2aをもって入射され、電気信号に基づく反射角及び屈折角で基地局4aへ、例えば屈折角θ2bで放射される。また、端末6cから放射された電波は、リアルタイムメタマテリアル20cに入射角θ3aをもって入射され、電気信号に基づく反射角及び屈折角で基地局4aへ、例えば屈折角θ3bで放射される。
【0035】
制御部30は、リアルタイムメタマテリアル20aが基地局4aから受信する電波の電界強度、及び基地局4aがリアルタイムメタマテリアル20aから受信する電波の電界強度が最大となるよう、電気信号(トリガ)を制御して、リアルタイムメタマテリアル20の屈折角を調整・最適化する。端末6aは移動体であるため、端末6aの位置は、符号6aの位置から符号6a1の位置に変化し得る(端末6aとリアルタイムメタマテリアル20aの位置関係が変化する)。
【0036】
端末6aが符号6a1の位置に移動すると、端末6aからの電波のリアルタイムメタマテリアル20aへの入射角はθ1a1に変化する。端末情報取得部40は、端末6aから受信した電波やデータに基づき、端末6aの状態又は位置を把握し、この情報を制御部30に転送する。制御部30は、この情報に従って、屈折角θ1bが維持されるように電気信号を制御し、リアルタイムメタマテリアル20aの誘電率を変更する。端末6aが移動したとしても、リアルタイムメタマテリアル20aと基地局4aとの位置関係は変化しない。このため、端末6aが移動する前(入射角θ1a)が屈折角θ1bであった場合、端末6aが符号6a1の位置に移動した際も同様に屈折角θ1bが得られるよう、リアルタイムメタマテリアル20aの誘電率を制御することで、最適な伝搬経路を端末6a~リアルタイムメタマテリアル20a~基地局4aの間で確保することができる。
【0037】
なお、基地局4a又はリアルタイムメタマテリアル20aは、ビームトラッキング、又はビームフォーミングの機能を有し得る。基地局4aとリアルタイムメタマテリアル20との間に障害物(自動車等の移動体、建設物、樹木等)が入り込んだ場合、リアルタイムメタマテリアル20aと基地局4aとの間の伝送経路を固定的にすることは好ましくない。このため、基地局4a又はリアルタイムメタマテリアル20aにおいて、ビームトラッキング又はビームフォーミングの機能を有し、伝送経路(ひいては屈折角)を適宜変更することが好適である。前記リアルタイムメタマテリアル20aにおけるビームフォーミングの制御は、制御部30からの制御信号に従い、電気信号を変化させることにより実行することができる。基地局4a及びリアルタイムメタマテリアル20aがビームトラッキング、ビームフォーミングの機能を持つことで、伝搬路内に障害物が侵入した条件下においても最適な伝搬経路を確保することができる。この機能は、他の基地局及びリアルタイムメタマテリアルにも同様に付与することができる。
【0038】
以上説明したように、この第1の実施の形態のシステムによれば、端末6a~6cが移動したとしても、その移動した位置において最適な伝搬経路を瞬時に確保し、超低遅延要求を満足するリアルタイムに通信を実行することが可能であり、結果的に基地局4aが管理するセル内に存在する端末の通信カバレッジが拡大し、セル内で最適化された伝搬経路を多く持つことになり、通信品質が向上する。電気的に周波数特性、反射/屈折特性を変化させることができるリアルタイムメタマテリアル20を持つことで、ある端末6がある時点で位置する場所に応じた最適な伝搬経路を要求される伝送遅延内で得ると共に、通信システム網が要求するEnd to Endでの通信遅延時間を満足することが可能となる。
【0039】
今後、5G、6G、それ以降に続く次世代無線通信の発展、構想に伴い、基地局1基あたりで数十~数百万台の端末接続数を達成することが期待される。基地局と端末のそれぞれがカバレッジの拡大機能を持つことにより、無線システム網としての通信品質を確保し、通信安定度を向上させ、End to Endの遅延時間を小さくし、リトライをできるだけ避け、これにより、周波数利用の効率化、バッテリの利用効率等々を高次元で同時に達成することができるシステムを提供することができる。
【0040】
また、第1の実施の形態のシステムによれば、従来技術に比べ、より同時多接続特性を改善することができる。通信遅延の現象と信号品質の向上は、同時に接続可能な台数の向上につながるためである。
【0041】
また、第1の実施の形態のシステムによれば、従来技術に比べ、アップリンク/ダウンリンクのスループットの向上、改善を図ることが可能になる。現在、例えば5Gにおけるアップリンクスループットの向上技術が次世代通信網を実現するための課題となっている。いかに通信帯域を確保しても、これと引き換えに通信可能距離が減少すると、通信品質が悪化し、同時多接続数も減少してしまう。そのため、単位帯域、また単位距離当たりのスループット値を如何に悪化させないかは、システム安定化のためには欠かせない技術となる。受信点において、送信元からの電界強度を上げられる対策を取るという事は、SN比を上げることになり、パケットエラー率の向上につながる。したがって、以上の理由から通信網全体のアップリンク/ダウンリンクのスループットの悪化を防ぐことができる。
【0042】
加えて、この第1の実施の形態のシステムによれば、端末又は基地局の設計簡易化、コスト削減、機能簡易化、小型化、軽量化を図ることができる。リアルタイムメタマテリアル20が送信相手又は基地局に対して最適な角度及び出力で電波を放射することができる中継器の役割を果たすため、送信元デバイスの設計簡易化につながり、親局までのカバレッジをシビアに考える必要がなくなる。このため、送信側デバイスの機能を一部省くことができるため、コスト削減につながる。また、ビームトラッキング機能がリアルタイムメタマテリアル側にあるため、送信側で過剰な制御が必要なくなることで、機能を簡易化することができる。上記理由から端末側のデバイスは、従来よりも小型化、軽量化を図ることができる。
【0043】
また、この第1の実施の形態のシステムによれば、従来技術に比べ通信カバレッジを拡大又は改善することができる。通信容量を確保するために、例えば5G通信システムでは、超広帯域通信が求められているが、低周波帯はすでに多くの既存無線システムにより利用されている。そのため、5Gでは、既存無線システムでは利用されていないミリ波帯を使い、超高速通信を実現している。しかし、搬送波周波数をミリ波帯にして通信容量を確保することと引き換えに、通信距離が激減し、障害物の影響を著しく受けるという問題が生じている。このため、通信カバレッジが低下し、通信システム網が不安定化するという問題が生じる。如何に通信距離、つまりカバレッジを確保するかは、無線通信システム網の安定化、また基地局数減少させるために非常に重要な要素となる。
【0044】
この第1の実施の形態によれば、伝送経路中に存在するリアルタイムメタマテリアル20により、送信先に対して最適な伝搬経路への再送が促される。従来システムにおいては、電波の反射又は透過時に電界強度が減少し、カバレッジが悪化していたが、この第1の実施の形態のシステムによれば、電気信号に従って、瞬時に最適角度、最適時間で反射又は屈折が行われるため、カバレッジを拡大・改善することができる。なお、上述の例では、リアルタイムメタマテリアル20を電気信号に従って制御する例を示したが、一部のメタマテリアルは、固定的又は機械的に制御されるものであってもよいことはいうまでもない。
【0045】
なお、第1の実施の形態(更には以下の第2の実施の形態)におけるリアルタイムメタマテリアル20の制御は、通信におけるデータレートなど、スループット低下を引き起こさない制御、及びそのための情報のやり取りが最適化されることが好ましい。本システムでは、無線通信がEnd to Endで行われることも想定される。また、基地局-端末間、または端末―端末間で行われる初期認証時の初期アクセスに関する技術については、NR(New Radio)を用いたアクセスが可能であるが、これに限定されるものではない。更に、本システムは、リアルタイムメタマテリアル20の周波数特性(振幅、位相含む)に関する設計次第で、5G通信システムのみならず、次期通信システムである6GなどのCellular系無線プロトコルにも適用可能であり、更に従来のすべての無線通信に適用が可能なヘテロジニアスネットワーク(5Gや6G等が混在)についても応用が可能である。
【0046】
[第2の実施の形態]
次に、図6及び図7を参照して、第2の実施の形態に係る無線通信システムについて説明する。図6、及び図7において、第1の実施の形態と同一の構成については同一の符号を付し、以下では重複する説明は省略する。
【0047】
この第2の実施の形態のシステムは、時分割多重方式(TDD)方式を基本理論に持つ無線プロトコルで通信を行うシステムとして説明する、端末側、基地局側にとって自分が送信する時間スロットが割り当てられることになるため、自分の送信場所に特異な伝搬条件下での通信最適条件を実現するための調整を伝搬路途中に設置されたリアルタイムメタサーフェスに対してカスタマイズすることが、通信網として要求する遅延時間仕様以下(例えば5Gシステム網が要求する遅延時間仕様は1msec以下)で完結させることができる。実用例を以下に示す。図7では、2つの基地4a、5aと、3つの端末6a~6cが例示されているが、この数は一例であることは言うまでもない。
【0048】
自身に割り当てられたタイムスロットの間、端末6aは、自身の送信場所(存在位置)に特異な伝搬条件下での通信最適条件を実現するよう、制御部30Bを介してリアルタイムメタマテリアル20Bを制御する。伝搬路途中に設置されたリアルタイムメタマテリアル20Bを、自身の通信最適条件に応じてカスタマイズすることにより、通信網として要求する遅延時間仕様以下(例えば5Gシステム網が要求する遅延時間仕様は1msec以下)で通信を完結させることができる。
【0049】
なお、この第2の実施の形態のリアルタイムメタマテリアル20Bは、制御部30Bからの制御信号に従い、透過モードと反射モードとのいずれかに切り替えることができるようにも構成され得る。このため、この第2の実施の形態のシステムでは、端末6a~6cは、リアルタイムメタマテリアル20Bを挟んで反対側に位置する基地局4a~4cだけでなく、同じ側に位置する基地局5a~5cとも最短距離又は通信最適条件にて通信を行うことができる。ただし、図6のシステムにおいて、リアルタイムメタマテリアルは、透過モード又は反射モードのいずれか一方のみに設定可能な構成としてもよい。以下では、TDDをベースとした無線プロトコル方式を採用し、且つ透過モードと反射モードとの間で切替可能なリアルタイムメタマテリアル20を使用した場合を例として説明する。
【0050】
図7を参照して、第2の実施の形態の動作を説明する。端末6a~cは、基地局4aのセル内又はその近傍を、高速又は低速で移動、若しくは静止しているとする。ある瞬間において、端末6a~6cはTDDをベースとした無線プロトコルを使用し送受信を行う。ある端末6(例えば端末6a)がデータを送信しているタイムスロットでは、他の端末(例えば端末6b、6c)は基地局4aと通信を行っていないか、又は同時刻に通信を行っていたとしても、異なる周波数チャネルで通信を行っている。
【0051】
一方、基地局5aも他の多くの端末に対して通信を行っており、基地局4aと端末6aとの間の通信が行われているタイミングと同時刻において、基地局5aと他の端末が通信している可能性がある。公知のLBT(Listen Before Talk)機能、キャリアセンス機能を利用して干渉を回避することなどにより、電波の干渉を回避することができる。隣り合う基地局間で同期がとられている場合は、端末間のシステムマネージメントが図られているため、干渉を極力避けることができる条件で運用され得る。
【0052】
上述したように、ある端末6が基地局4に対して通信している時間は、他の端末はその基地局4に対し同一周波数帯では通信を行っていない。このため、割り当てられたタイムスロット内でという制限はあるものの、基地局4-端末6間の電波の受信電界強度(例えばRSSI: Received Signal Strength Indicator)が最大となるように、又はパケットエラー率(PER: Packet Error Rate)が最小となるような、いわゆる最適なCSI(Channel State Index)情報に基づいて基地局4と端末6の間の回線設計を考慮に入れたリアルタイムメタマテリアル20Bの屈折角又は反射角を自通信において設定することができる。リアルタイムメタマテリアル20Bの制御を、例えばPUCCH、PDCCH(割当要求、その他制御信号情報、CSI情報を扱う物理チャネル)、PBCH、PCIDなどで得られるような情報を用いて行うことができる。なお、第2の実施の形態のシステムにおいて、所謂C/U分離(Communication/User、または、通信データ/ユーザ情報)に伴う制御信号を利用することもできる。また、ユーザ情報は、基地局4、端末6のどちらに持たせてもよい。
【0053】
図7図9を参照して、通信角度制御に関する各端末の時間シェアリングについての一例を説明する。図8は、一例として、NR(New Radio)のフレーム構造を説明している。また、図9は、通信角度制御の手順を示すフローチャートである。
【0054】
図7に例示される端末6a~6c、及び基地局4a、5aは、端末-基地局間のペアリングのための制御信号を送受信する。制御信号の送受信は、各端末に割り当てられたタイムスロットの時間内で実行される。基地局4a、5aは、そのタイムスロット内の短い時間間隔において、常に端末6を捕捉・追跡する。一方、端末6a~cも、同様に自身のタイムスロットの間において基地局4a又は5aを捕捉し、ペアリングを行うことができる(図9のステップS1)。
【0055】
図8の例では、無線フレーム、サブフレーム、タイムスロットが構成される。サブフレーム間隔は120KHzに設定され、タイムスロットは14個のシンボルで構成される。
【0056】
各端末6a~6cでやり取りされる無線フレームは、アップリンクとダウンリンクに分けることができるが、アップリンクとダウンリンクとでフレーム構造に差はない。無線通信時に必要な先頭スロットにプリアンブル(同期信号)、CCA(Clear Channel Assessment)、ランダムバックオフのような制御信号が実装されるが、そこにFSS制御信号も実装され得る。
【0057】
図7に示すように、端末6aは、自身のタイムスロットの間だけ(実際にはFSSの切り替え時間を考慮したマージンを持たせた時間幅t1だけ)、基地局4aに向けて制御信号を送信すべく、リアルタイムメタマテリアル30aへ向けて例えば入射角θaで電波を放射する。制御信号を含み入射角θaで入射された電波は、リアルタイムメタマテリアル30aの持つバックワード波出現現象を利用した最適角である屈折角θbで屈折し、基地局4aへ到達する(図8参照)。基地局4aは、端末6aからの電波を受信すると、ack信号を返送し、ペアリングを完了する。ペアリングのシーケンス完了後、端末6、又は基地局4a、5aが、互いの通信品質に関わる情報を基本信号に重畳させて送信する。通信品質に関する情報のほか、GNSS情報、追跡データ、リアルタイムメタマテリアル制御データを管理又は設定することができる。
【0058】
最適角である屈折角θbは、例えば上述した初期認証時に行われる初期アクセスに関する制御信号の授受において特定され得る。制御部30Bは、そのような屈折角θbが得られるよう、端末に関する情報に従って電気信号を制御し、リアルタイムメタマテリアル20Bを制御することができる。データの通信はこの最適角制御を行う通信直後、または次回の通信のタイミングで行われる。または、本システムが、ビーコン(図示せず)、基地局4a、または別の端末により、対象の端末の位置を把握し、常に最適角θbが得られるよう、対象端末の相対座標をトラッキングする機能を有していてもよい。基地局4a又は端末6aは、端末6aの動作方向(移動方向)を推定計算し、その結果に従い、基地局4aと端末6aとの間の通信の品質を特定し、他の基地局5aと端末6aとの間の通信の品質と比較する(図9のステップS2)。
【0059】
端末6aから基地局4aに送信された制御信号t1によっては、基地局4aと端末6aとの間の接続認証を得られない場合がある。又は、端末6aと基地局4aとの間の通信品質よりも、端末6aと他の基地局5aとの間の通信品質の方が上であると判定される場合もある。この場合、リアルタイムメタマテリアル20Bは、基地局5aと端末6aとの間の通信を確立するため、制御部30Bからの制御信号に従い、反射モードに切り替わることができる(図9のステップS3)。端末6aの位置情報、又は端末6aからの電波の強度情報に基づき、基地局5aが、基地局4aよりも端末6aに関する接続認証を得られる可能性の高いと判断される場合、リアルタイムメタマテリアル20Bは、端末6aとの通信のタイミングにおいて、入射角θaの電波を反射角θgで反射させる反射モードとなり、端末6aからの電波を最適角θgで基地局5aへ反射させる。
【0060】
端末6aの次に基地局4aに制御信号を送信することになる端末6bは、端末6aが信号を送信したタイミング(t1)とは別のタイミングt2にて、リアルタイムメタマテリアル20Bに対し、端末6aと同じフレーム構成で、制御信号を基地局4aに対して送信する。このとき、端末6bからリアルタイムメタマテリアル20aへの電波の入射角はθcである。端末6aの時と同様に、リアルタイムメタマテリアル30aは屈折角θdを与えられ、この屈折角θdにより、端末6bからの電波はリアルタイムメタマテリアル20Bにて屈折して基地局4aと向かう。基地局4aから端末6bへのack信号や送信信号については、端末6bから基地局4aへの通信原理と基本的に同じであり、常にトラッキングされている端末6bに対して最大電界強度となるよう、リアルタイムメタマテリアル30aが制御され、通信が確立される。反射モードへの切り替えも同様に実行され得る。
【0061】
端末6cについても同様であり、t1、t2に示すそれぞれ端末6a、端末6bからの送信制御信号とは別のタイミングt3で端末6cから基地局4aへと制御信号が送信される。図7の例では、リアルタイムメタマテリアル20Bは、入射角θeに対し、バックワード波を用いず、通常の屈折角を与えることができる。すなわち、リアルタイムメタマテリアル20Bは、図7のような位置にある端末6cに対し、ε-μ特性図で言うところの例えば第1象限に相当する制御を実行し、入射角θeの電波に対し、屈折角θfにて電波を屈折させ、基地局4aへ電波を到達させる。基地局4aから端末6c方向の送受信制御に関するアルゴリズムも端末6a、6bと同様であり、反射モードへの切り替えも同様に実行され得る。
【0062】
この第2の実施の形態のシステムによれば、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。加えて、リアルタイムメタマテリアルが、TDD方式のようにタイムスロットを持つ無線プロトコルを使用した通信の下、すべての端末の状態に最適な光学的特性、または電磁気的特性に瞬時に制御されるため、通信品質と通信間距離の向上、遅延時間の極小化を同時に実現でき、さらに基地局1基あたりの端末接続数を増加させることができる。
【0063】
[その他]
以上、本発明の実施の形態について説明した。本実施の形態の機能・説明から想起可能な物理的・電気的システム構成は、5G、6G、Wi-Fi、LPWA等の無線プロトコルにおいて一般的に使用されるものに限定されない。本発明は、全ての無線プロトコル(変調信号、無変調信号、また変調信号の種類)、AM波、ミリ波、光通信を含めた無線通信周波数、信号周波数帯域に適用が可能である。
【0064】
本発明は、超高周波帯に限らず、交流原理を用いた無線通信全てで適用が可能であり、特定のアプリケーション、または特定の周波数に完全に依存しない。さらに、本発明で使用されるリアルタイムメタマテリアルは、特定のメタマテリアル技術に限定されない。つまり、無線信号を電磁界、静電界的に反射、屈折、回折、透過、吸収、散乱し、通信品質を向上するもの、例えばリフレクタ、メタマテリアル以外のFSS等の応用が代用として可能なことは容易に想起できる範囲内であり、それらも本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0065】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…コアネットワーク、2…上位基地局、4a~4c…基地局、6a~6e…端末、10a´~10c´…建物外壁、10a~10c…メタマテリアル、20、20B…リアルタイムメタマテリアル、30…制御部、40…端末情報取得部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9