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  • 特開-多孔質膜の貫通孔径の測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106666
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】多孔質膜の貫通孔径の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/08 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
G01N15/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007521
(22)【出願日】2022-01-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 掲載日 令和3年11月10日 展示会名 膜シンポジウム2021 ウェブサイトのアドレス https://maku-jp.sakura.ne.jp/symposium/2021/
(71)【出願人】
【識別番号】000151243
【氏名又は名称】株式会社東レリサーチセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】吉本 茂
(72)【発明者】
【氏名】細見 博之
(57)【要約】
【課題】数nm~数百μmの貫通孔径を評価する。
【解決手段】多孔質膜を、多孔質支持体および封止材を用いて複合体に加工し、水銀圧入法を用いて複合体の細孔径を測定することにより多孔質膜の貫通孔径を測定する、多孔質膜の貫通孔径の測定方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜を、多孔質支持体および封止材を用いて複合体に加工し、水銀圧入法を用いて複合体の細孔径を測定することにより多孔質膜の貫通孔径を測定する、多孔質膜の貫通孔径の測定方法。
【請求項2】
前記多孔質膜および前記多孔質支持体は、いずれも、無機、有機、金属有機構造体からなる群から選ばれる少なくとも一つの固体物質により構成され、前記多孔質膜の細孔径よりも前記多孔質支持体の細孔径が大きい、請求項1に記載の多孔質膜の貫通孔径の測定方法。
【請求項3】
前記封止材は、無機、有機、金属有機構造体からなる群から選ばれるすくなくとも一つの固体あるいは液体物質により形成された固体材料に対し結合作用を示す材料である、請求項1または2に記載の多孔質膜の貫通孔径の測定方法。
【請求項4】
前記複合体において前記封止材から露出した前記多孔質膜の、測定する面を変更することで、細孔径の異方性を評価する請求項1~3のいずれかに記載の多孔質膜の貫通孔径の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀圧入法を用いた多孔質膜の貫通孔径の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料の細孔構造は、流体輸送性能に影響を与え、水銀圧入法やバブルポイント法などにより特徴づけられる。水銀圧入法は、加圧チャンバーを使用して、多孔質材料表面に接続した細孔に水銀を侵入させ、数nm~数百μmの細孔径および細孔容積を測定する方法である(非特許文献1)。任意の多孔質材料表面から水銀を侵入させる場合、エポキシ樹脂により任意の多孔質材料表面以外を被覆する方法もなされている(非特許文献2)。従来の水銀圧入法では、材料内部で閉塞した細孔(以下、閉塞孔と記すことがある)、または、材料表面においてある表面から別表面に相互接続した細孔(以下、貫通孔と記すことがある)を特徴づける。
【0003】
バブルポイント法は、多孔質膜の貫通孔径を選択的に測定する方法である(非特許文献3、4)。有機溶媒などで細孔を満たした多孔質膜に負荷する空気圧を徐々に高めていったときの空気流量との関係から、数十nm~数十μmの貫通孔径を測定する。
【0004】
流体輸送機能を持つ膜の開発において、分子やたんぱく質、ウィルスなどのナノ物質の分離選択性を付与した膜では、性能に影響を与えるナノスケールの貫通孔径の評価方法が求められる。また、多孔質膜のピンホールなどの欠陥も流体輸送性能に関わるため、マクロな貫通孔径の評価方法も優れた膜の開発に必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ISO 15901-1:2016(en)Evaluation of pore size distribution and porosity of solid materials by mercury porosimetry and gas adsorption - Part 1: Mercury porosimetry
【非特許文献2】Yuya Sakai, Choji Nakamura and Toshiharu Kishi: Evaluation of mass transfer resistance of concrete based on representative pore size of permeation resistance, Construction & Building Materials, Vol.51, 31, pp.40-46, 2013
【非特許文献3】ASTM F316-86:1986 Standard Test Methods for pore size characteristics of membrane filters by Bubble Point and Mean Flow Pore Test
【非特許文献4】Jena, Akshaya and Gupta, Krishna: Characterization of Pore Structure of Filtration Media, Fluid Particle Separation Journal, Vol. 14, 3, pp.227-241, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の水銀圧入法では選択的に貫通孔径を測定できず、バブルポイント法では数十nm~数十μmの貫通孔径測定に限定される課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、多孔質膜を多孔質支持体と封止材を用いて複合体に加工し、水銀圧入法を適用することで、数nm~数百μmの多孔質膜の貫通孔径を測定する方法を見出した。複合体は、任意の多孔質表面以外を封止材で被覆し、任意の多孔質膜表面から侵入した水銀が多孔質膜の貫通孔を通じて多孔質支持体に流れ込む特徴を持つ。
【0008】
すなわち、本発明は、多孔質膜を、多孔質支持体および封止材を用いて複合体に加工し、水銀圧入法を用いて複合体の細孔径を測定することにより多孔質膜の貫通孔径を測定する、多孔質膜の貫通孔径の測定方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、多孔質膜を含む複合体に水銀圧入法を適用することで、数nm~数百μmの多孔質膜の貫通孔径を評価できる。また、非対称な細孔構造を有する膜では、貫通孔径の異方性から機能発現に関わる細孔を特徴づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】多孔質膜を多孔質支持体と封止材を用いて作製した複合体断面図の例である。
図2】多孔質膜を多孔質支持体と封止材を用いて作製した複合体断面図の他の例である。
図3】各多孔質膜の空孔透過性を示す。
図4】複合体の水銀圧入データを示す。
図5】微多孔膜のバブルポイント圧力とMCE複合体の圧力しきい値を示す。
図6】Al-PO複合体2種の水銀圧入データからWashburn式に基づき見積もった貫通孔径を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明における多孔質膜は、無機、有機、金属有機構造体からなる群から選ばれる少なくとも一つの単独あるいは複数の固体物質により構成され、好ましくは細孔半径が約1.5 nm~約300 μmの範囲にある板状の材料である。
【0013】
本発明における多孔質支持体は、無機、有機、金属有機構造体からなる群から選ばれる少なくとも一つの単独あるいは複数の固体物質により構成され、好ましくは、多孔質膜より大きい細孔半径を有し、1 mm3以上の細孔容積を有する材料である。
【0014】
本発明における封止材は、無機、有機、金属有機構造体からなる群から選ばれる少なくとも一つの単独あるいは複数の固体あるいは液体物質により構成され、好ましくは、多孔質膜との接触面で作用するvan der Waals力、クーロン力などの分子間力が自身に作用する重力より大きく、多孔質膜および多孔質支持体との非接触面に接続する細孔半径が多孔質膜より小さい材料である。
【0015】
本発明における複合体の断面概略図を図1図2に例示した。複合体は、多孔質膜、多孔質支持体、封止材から構成され、封止材、多孔質膜、多孔質支持体の順に拡大した細孔径を有する特徴を持つことが例示される。図1は、多孔質膜上面から侵入した水銀が多孔質膜下面を通じて多孔質支持体に流れ込むことができる複合体の概略図である。図2は、多孔質膜上面から侵入した水銀が多孔質膜下面、または側面、またはその両方を通じて多孔質支持体に流れ込むことができる複合体の概略図である。
【0016】
複合体の多孔質膜を通過した水銀は、多孔質支持体への侵入に十分な圧力を有するため、複合体の水銀圧入データは、水銀侵入量が急激に増加する圧力しきい値を示す。圧力しきい値からWashburnの式に基づく多孔質膜の貫通孔径を見積もることができる。また、図2で例示した複合体において、多孔質膜の上面と下面を反転させた複合体では、貫通孔径の異方性を示す場合がある。この異方性は多孔質膜の非対称な細孔構造に由来する。従って、非対称な細孔構造を有する膜では、貫通孔径の異方性から機能発現に関わる細孔を特徴づけることができる。
【0017】
水銀圧入法は、多くの材料に非湿潤性を示す水銀を固体表面の細孔に圧力により強制的に侵入させ、その時の圧力と侵入量から細孔径および細孔容積を測定する方法である。具体的には、試料室とキャピラリから構成されるガラスセルに試料を入れ、装置の圧力チャンバーに取り付け、真空引きする。装置内部の水銀貯蔵室とガラスセルの圧力差を駆動力に、ガラスセルを水銀で満たす。ガラスセル内の圧力上昇により、水銀が細孔に浸入すると、キャピラリの水銀量が減少する。このキャピラリは、金属で外表面が覆われ、内部の水銀柱とキャパシタを形成する。ガラスセルの静電容量は、既知の量の水銀に対して校正されているため、細孔への水銀侵入量に対応する。圧力を約2 kPaから約400 MPaの範囲で制御し、圧力に対する水銀侵入量(水銀圧入データ)を記録する。水銀圧入法で特徴づけ可能な細孔半径のダイナミックレンジは、Washburnの式に基づくと、接触角130°で約1.5 nm~約300 μmとなる。
【0018】
本発明における細孔径は、貫通孔および閉塞孔の円柱状仮定における底面の直径あるいは半径として定義される。
【0019】
本発明における貫通孔は、両端が固体材料の2つの外面に接続する細孔として定義される。
【0020】
本発明における閉塞孔は、一端が固体材料の1つの外面に接続し、一端が固体で囲まれた細孔として定義される。
【0021】
以上より、多孔質膜を多孔質支持体と封止材を用いて複合体に加工し、水銀圧入法を適用することで、多孔質膜の貫通孔径を数nm~数百μmの範囲で測定することが可能となる。また、非対称な細孔構造を有する膜では、貫通孔径の異方性から機能発現に関わる細孔を特徴づけることができる。
【実施例0022】
以下、本発明を実施例により説明する。試料には、セルロース混合エステルタイプの多孔質膜4種(MCE#1~MCE#4)および片側にアルミナコートされたポリオレフィン系多孔質膜1種(Al-PO)を用いた。デジタルマイクロメータによるMCE#1~MCE#4の厚さは約100 μmで、断面SEM写真によるAl-POの厚さは21.8 μm(アルミナ層3.6 μm、ポリオレフィン層18 μm)であった。
【0023】
各多孔質膜の空気透過性、および、貫通孔径はバブルポイント法(JIS K3832)に対応したPMI社製パームポロメータを用いて評価した。空気透過性測定では、直径2.5 cmの乾燥した多孔質膜をサンプルホルダーに配置し、膜上面側と下面側の圧力差を上昇させ、空気透過量データを記録した。貫通孔径測定では、測定に先立ち、直径2.5 cmの多孔質膜をSilwick(表面張力γ:19.1 dyne/cm)に浸漬し、真空脱気法により、細孔にSilwickを充てんさせた。細孔がSilwickで満たされた膜をサンプルホルダーに配置し、膜上面側と下面側の圧力差を上昇させ、Silwickが排出される最小の圧力(バブルポイント圧力)を測定した。バブルポイント圧力PBから次式に基づいた貫通孔半径rBを見積もった。
rB=1.43γ/PB (1)。
【0024】
各試料の水銀圧入データはMicromeritics社製のオートポアIVにより測定した。圧力Pを4 kPaから400 MPaに上昇させ、Pの関数として水銀圧入容積Vを記録し、Pから次のWashburn式に基づき細孔半径rを見積もった。
【0025】
r=-2γcosθ/P (2)。
【0026】
ここで、水銀と試料の接触角θを130°、水銀の表面張力γを480 dyne/cmとした。上述の圧力範囲は(2)式より1.5 nm(400 MPa)から150 μm(4 kPa)の細孔半径に対応する。
【0027】
図3に各多孔質膜の空孔透過性を示す。MCE#1~#4では、厚さが同程度であるため、低透過性のMCEほど緻密な構造を有することを示唆する。またAl-POの空気透過性は最も低く、厚さがMCEの1/5程度であるため、MCE#4より緻密な構造を有していると考えられる。実際、MCE#1~MCE#4およびAl-POの貫通孔径は、空気透過性の低い膜ほど、貫通孔径が縮小した(表1)。最も低い空気透過性を示したAl-POでは、バブルポイント圧力が測定上限(1 MPa)以上であることから、(1)式より貫通孔半径は30 nm以下と見積もることができた。
【0028】
【表1】
【0029】
バブルポイント圧力を検出したMCE#1~MCE#4について、各膜を図1のような複合体に加工し、得られた水銀圧入データを図4に示す。圧力上昇により、MCE複合体の水銀侵入量はある圧力しきい値Ptで急激に増加した。水銀圧入量の急激な増加は、複合体の構造を考慮すると、MCE内部を通過した水銀が多孔質支持体に流れ込んだことに起因する。
【0030】
図5に微多孔膜のバブルポイント圧力とMCE複合体の圧力しきい値をプロットした。PtとPBは、比例関係にあるため、同じ構造特性の影響を受けたことを意味する。PBは貫通孔径を反映した値であるため(非特許文献4)、MCE複合体のPtから見積もることができた(2)式に基づく細孔径はMCEの貫通孔径に対応する。
【0031】
従って、微多孔膜の加工により得られる複合体に水銀圧入法を適用する本技術は数nmから数百 μmの貫通孔径が評価対象となる。
【0032】
続いて、複合体の構成を変更し、多孔質膜のナノ貫通孔径の異方性を捉えた例を示す。図2のように封止材からの露出面を変更したAl-PO複合体を2種作製した。複合体中のAl-POを反転して配置することで、i)アルミナ面が露出ii)ポリオレフィン面が露出した膜複合体を作製した。いずれも、水銀が上面(露出面)から浸入し、側面あるいは下面を通じて多孔質支持体に浸入できる構造である。
【0033】
図6にAl-PO複合体の水銀圧入データから(2)式に基づき見積もった貫通孔半径を示す。2種のAl-PO複合体はナノスケールの貫通孔径を有し、ポリオレフィン面露出複合体より、アルミナ面露出複合体で大きな水銀圧入半径を示した。貫通孔径の異方性は水銀の侵入経路の相違を意味し、アルミナ層がポリオレフィン層より粗大な細孔構造を持つことを示唆する。すなわち、アルミナ層への水銀侵入圧力よりポリオレフィン層への水銀侵入圧力は低いため、アルミナ面から侵入した水銀はアルミナ側面に抜ける一方で、ポリオレフィン面から侵入した水銀は側面あるいはアルミナ層を通過する経路を合理的に予想できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6