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特開2023-106680駆動機構、ロボットアーム及び駆動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106680
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】駆動機構、ロボットアーム及び駆動方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
B25J19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007543
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小関 真一
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707BS13
3C707CX05
3C707CY32
3C707HS27
3C707KS21
3C707KS33
3C707KS35
3C707KV08
3C707KW05
3C707MS05
3C707MS14
3C707MS27
(57)【要約】
【課題】剛性の高さを実現しつつ、かつ、衝突による衝撃の吸収を可能とする駆動機構、ロボットアーム及び駆動方法を提供すること。
【解決手段】本開示に係る駆動機構は、駆動可能に構成された駆動部と、前記駆動部に設けられた係合部と、被駆動部と、前記被駆動部に設けられ、前記係合部と係合することにより前記被駆動部を駆動可能に構成された被係合部と、前記係合部と前記被係合部との距離に基づいた弾性力を、前記係合部と前記被係合部との距離を小さくする方向に前記被駆動部に対して作用可能に構成された弾性体とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動可能に構成された駆動部と、
前記駆動部に設けられた係合部と、
被駆動部と、
前記被駆動部に設けられ、前記係合部と係合することにより前記被駆動部を駆動可能に構成された被係合部と、
前記係合部と前記被係合部との距離に基づいた弾性力を、前記係合部と前記被係合部との距離を小さくする方向に前記被駆動部に対して作用可能に構成された弾性体と
を備える駆動機構。
【請求項2】
前記弾性体は、前記係合部及び前記被係合部に接続されており、
前記係合部と前記被係合部とが係合した状態で、前記駆動部が前記被駆動部を駆動させる第1動作モードと、
前記係合部と前記被係合部とが係合していない状態で、前記駆動部が前記弾性体を介して前記被駆動部を駆動させる第2動作モードを実行可能に構成される請求項1に記載の駆動機構。
【請求項3】
回転方向に所定値以上の力が作用したときに、前記係合部と前記被係合部との係合は、解除可能に構成されている請求項1又は2に記載の駆動機構。
【請求項4】
前記係合部と前記被係合部との係合を解除可能に構成された機構と
を備える請求項1又は2に記載の駆動機構。
【請求項5】
前記駆動部は、前記駆動部の回転軸を中心軸とする環状部を備え、
前記被駆動部は、前記環状部に包囲され、前記回転軸を中心軸とする柱状部を備え、
前記係合部は、前記環状部に設けられ、外径方向に窪む凹部を備え、
前記被係合部は、前記柱状部に設けられ、外径方向に突出して前記凹部と接触する凸部を備える請求項1乃至4の何れか一項に記載の駆動機構。
【請求項6】
請求項1に記載の駆動機構と、
請求項1に記載の前記駆動機構の前記駆動部が設けられる第1リンクと、
請求項1に記載の前記駆動機構の前記被駆動部が設けられる第2リンクと
を備えるロボットアーム。
【請求項7】
駆動可能に構成された駆動部に設けられた係合部と、被駆動部に設けられた被係合部とが係合した状態で前記駆動部が駆動することにより、前記被駆動部を駆動させるステップと、
前記係合部と前記被係合部との係合が解除されるステップと、
前記係合部と前記被係合部との距離に基づいた弾性力を、前記係合部と前記被係合部との距離を小さくする方向に前記被駆動部に対して作用させるステップと、
前記駆動部に対して前記被駆動部を移動させて、前記係合部と前記被係合部とを係合させるステップと
を含む駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動機構、ロボットアーム及び駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカル・コンプライアンスを実現するロボットの駆動機構として、直列弾性アクチュエータが知られている。直列弾性アクチュエータをロボットアームに搭載することにより、ロボットアームが人、ワーク、設備等の障害物に衝突しても、直列弾性アクチュエータの弾性体が衝撃を吸収することから、衝突に伴う被害を抑制することが可能となる。さらに接触時に発生するトルク変動を直列弾性アクチュエータの弾性体が吸収するから、ロボットアームがワークを把持してクリアランスの少ない嵌合対象物に挿入して組み付ける作業や、ロボットアームが清掃ブレードを把持して窓の表面を接触させながら走査して掃除する作業等、以前は困難であった作業等を実現することが可能となる。
【0003】
しかしながら、直列弾性アクチュエータはバネ等の弾性体を搭載していることから、一般的に制御が困難である。特に弾性体の最低共振周波数が小さい場合、ロボットアームによって保持されるワークが重いと、通常の古典的制御理論に基づいたフィードバック制御では、弾性体が振動したりロボットアームの位置精度が悪化したりするといった問題が生じ得る。
【0004】
そこで直列弾性アクチュエータの制御が困難な作業においては、従来より広く知られている剛性の高い駆動機構を搭載したロボットアームが使用されている。ロボットアームの剛性を高めることにより振動や位置精度の悪化を抑制することが可能となる。
【0005】
しかしながら、ロボットアームが障害物に衝突して損傷させてしまうことがある。特許文献1には、剛性の高い駆動機構を搭載したロボットアームが周囲の障害物に衝突して人を含む障害物を損傷させてしまうという課題を解決するためのフェイルセーフ機構が記載されている。具体的には、ロボットアームの2つのリンクを接続する関節部に、ギヤの入力側の角度を検出するための第1の位置センサと、出力側の角度を検出するための第2の位置センサとを備えたロボットアームが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2017-507041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されるロボットアームにおいても、衝突によって制御が間に合わないタイミングで瞬間的に大きな衝撃が生じれば、ワークや人等の障害物の損傷は避けられない。特に安全柵等、物理的に人がロボット稼働エリアに入らないで運用される産業用ロボットであっても、ロボットの修理やティーチング修正等、非定常作業ではロボット可動範囲内に人が立ち入る事になるので、ロボットの予期せぬ動き等で人に対する障害の可能性は極めて大きく、実際に、日本国内では多数の事故事例が存在する。
【0008】
そこで本発明は、剛性の高さを実現しつつ、かつ、衝突による衝撃の吸収を可能とする駆動機構、ロボットアーム及び駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、駆動可能に構成された駆動部と、前記駆動部に設けられた係合部と、被駆動部と、前記被駆動部に設けられ、前記係合部と係合することにより前記被駆動部を駆動可能に構成された被係合部と、前記係合部と前記被係合部との距離に基づいた弾性力を、前記係合部と前記被係合部との距離を小さくする方向に前記被駆動部に対して作用可能に構成された弾性体とを備える駆動機構を開示する。
【0010】
前記弾性体は、前記係合部及び前記被係合部に接続されており、前記係合部と前記被係合部とが係合した状態で、前記駆動部が前記被駆動部を駆動させる第1動作モードと、前記係合部と前記被係合部とが係合していない状態で、前記駆動部が前記弾性体を介して前記被駆動部を駆動させる第2動作モードを実行可能に構成されてもよい。
【0011】
回転方向に所定値以上の力が作用したときに、前記係合部と前記被係合部との係合は、解除可能に構成されていてもよい。
【0012】
前記係合部と前記被係合部とを係合させるための弾性力を、前記係合部又は前記被係合部に対して作用可能に構成された第2弾性体と、前記第2弾性体から前記係合部又は前記被係合部に対して作用する弾性力を調整して前記係合部と前記被係合部との係合を解除可能に構成された調整機構とを備えてもよい。
【0013】
前記駆動部は、前記駆動部の回転軸を中心軸とする環状部を備え、前記被駆動部は、前記環状部に包囲され、前記回転軸を中心軸とする柱状部を備え、前記係合部は、前記環状部に設けられ、外径方向に窪む凹部を備え、前記被係合部は、前記柱状部に設けられ、外径方向に突出して前記凹部と接触する凸部を備えてもよい。
【0014】
本出願は、駆動機構と、前記駆動機構の前記駆動部が設けられる第1リンクと、前記駆動機構の前記被駆動部が設けられる第2リンクとを備えるロボットアームを開示する。
【0015】
さらに本出願は、駆動可能に構成された駆動部に設けられた係合部と、被駆動部に設けられた被係合部とが係合した状態で前記駆動部が駆動することにより、前記被駆動部を駆動させるステップと、前記係合部と前記被係合部との係合が解除されるステップと、前記係合部と前記被係合部との距離に基づいた弾性力を、前記係合部と前記被係合部との距離を小さくする方向に前記被駆動部に対して作用させるステップと、前記駆動部に対して前記被駆動部を移動させて、前記係合部と前記被係合部とを係合させるステップとを含む駆動方法を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態に係るロボットアームの模式図である。
図2】一実施形態に係る駆動機構を回転軸に垂直な平面で切断した模式的な断面図である。
図3】一実施形態に係る駆動機構の駆動方法を示す模式図である。
図4】一実施形態に係る駆動機構の駆動方法を示す模式図である。
図5】一実施形態に係る駆動機構の駆動方法のフローチャートである。
図6】一実施形態に係る駆動機構の駆動方法において係合が解除される場面を示す模式図である。
図7】他の実施形態に係る駆動機構の模式図である。
図8】他の実施形態に係る駆動機構の駆動方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。
【0018】
[第1実施形態]
【0019】
図1は本実施形態に係る駆動機構30が搭載されたロボットアーム20の模式図である。なお説明の便宜上、同図の駆動機構30は断面図で示されている。
【0020】
ロボットアーム20は、多関節(例えば7軸)からなる垂直型の多関節ロボットアームであり、ベース(不図示)と、ベースに接続される複数のリンクを備えている。リンクは、次のリンクを回転軸に従って回転させるためにリンクに対して回転可能に設けられたアクチュエータA(図3)を備えている。
【0021】
図1には、ロボットアーム20が備える複数のリンクのうちの一のリンクL1に設けられリンクL1に対して回転可能に構成されたアクチュエータAの出力部O1(「駆動部」の一例)と、出力部O1と係合することによって出力部O1の回転に伴って回転可能に構成された入力部I2(「被駆動部」の一例)を備えるリンクL2と、リンクL2に設けられリンクL2に対して回転可能に構成されたアクチュエータの出力部O2(「駆動部」の一例)と、出力部O2と係合することによって出力部O2の回転に伴って回転可能に構成された入力部I3(「被駆動部」の一例)とを備えるリンクL3を示している。同様に他のリンクは、基端側のリンクが備えるアクチュエータと係合する入力部と、先端側のリンクが備える入力部と係合することによって先端側のリンクを回転させるためのアクチュエータの出力部とを備えてよい。更に先端のリンク(例えばリンクL3)には、被保持物を保持するためのグリッパ等の保持手段が搭載されてよい。
【0022】
図2は本実施形態に係る駆動機構30が備える出力部O1及び入力部I2の回転軸AX1に垂直な平面で切断した断面図を示している。
【0023】
アクチュエータの出力部O1は、入力部I2に駆動力を伝達することにより入力部I2及びこれと一体的に設けられたリンクL2を駆動する部位である。同図に示されるように、本実施形態に係るアクチュエータの出力部O1は、回転軸AX1を中心軸として環状に形成された部分(以下、「環状部」という場合がある。)を備えている。アクチュエータにより出力部O1は、回転軸AX1を回転軸としてリンクL1に対して回転可能に構成されている。ここでアクチュエータは、ロボットアームに搭載されるアクチュエータとして知られた手段を適用することが可能であり、例えば、各リンクを駆動するためのアクチュエータは、電動機であるサーボモータから構成されてよい。
【0024】
リンクL1のアクチュエータの出力部O1には、リンクL2の入力部I2と係合するための係合部E1が設けられている。本実施形態に係る係合部E1は、環状をなす出力部O1の内周面に設けられ、外径方向に窪む凹部R11を備えている。
【0025】
一方で入力部I2及びこれと一体的に設けられたリンクL2は、アクチュエータの出力部O1の駆動力が伝達されることにより、駆動される部位(被駆動部)である。同図に示されるように、本実施形態に係る入力部I2は、出力部O1の環状部に包囲され、回転軸AX1を中心軸とする柱状(例えば円柱状)に形成される部分(以下「柱状部」という場合がある。)を備えている。
【0026】
リンクL2の入力部I2には、リンクL1の出力部O1と係合するための被係合部E2が設けられている。本実施形態に係る被係合部E2は、柱状部の外周面に設けられ、外径方向に突出する凸部P21を備えている。
【0027】
本実施形態においてはこのような凸部P21を備えた構成をプランジャにより実現している。プランジャは、リンクL2と一体的に回転可能に設けられ、柱状部の外周面から回転軸AX1に略垂直な外径方向に延伸して設けられた筒部P21Cと、筒部P21Cの内周面によって支持され、一部が筒部P21Cから突出した状態で筒部P21Cに支持されるボールP21Bと、ボールP21Bと筒部P21Cの内底面との間に挿入され、ボールP21Bを筒部P21Cの先端方向に付勢するスプリングP21S(「第2弾性体」の一例。図6)とを備える。
【0028】
以上のような構成によればボールP21BはスプリングP21Sによって外径方向に付勢されているから、出力部O1の凹部R11に入力部I2の凸部であるボールP21Bを接触させることにより出力部O1に設けられた係合部E1と、入力部O2の被係合部E2とを係合させた状態(以下、「ロック状態」と呼ぶ場合がある。)で、出力部O1から入力部I2に駆動力を伝達することが可能となる。
【0029】
更に、後述するように周方向に大きな力が入力部I2又は出力部O1に作用したときに、出力部O1の係合部E1と入力部I2の被係合部E2とは、係合を解除可能にも構成されている。スプリングP21Sは内径方向に圧縮できるから、係合部E1と被係合部E2との係合が解除されるとき、入力部I2のボールP21Bは、係合部E1から外れて環状部の円筒状の内周面に乗り上げる。スプリングP21Sは圧縮状態を維持するため、入力部I2のボールP21Bは、出力部O1の内周面を外径方向に押圧する。
【0030】
なお係合部E1及び被係合部E2の構成は、本実施形態に示されるものに限られるものではない。例えば、係合部が内径方向に突出する凸部を有し、被係合部が内径方向に窪む凹部を有してもよい。またボールプランジャに替えて、電磁摩擦クラッチ等の電磁力を利用したトルク伝達機構、流体クラッチ等の流体を利用したトルク伝達機構、磁性粉体クラッチ等の磁性体を利用したトルク伝達機構、力リミッタ機構、リンクロック機構乃至動力付ロック機構等の知られた構成を採用してもよい。また、入力部を柱状に出力部を環状に形成してもよいし、係合部及び被係合部をその他の形状から実現してもよい。ただし後述するようにボールプランジャ等のメカニカルロック機構を使用した場合、回転方向に所定値未満の力が作用する限りは、係合部E1と被係合部E2との間のロック状態を維持することが可能で、電気や圧縮空気等外部駆動力を必要としない為、外部駆動力のトラブル等に依存しない。
【0031】
駆動機構30は更に、係合部E1と被係合部E2との距離に基づいた弾性力を、係合部E1と被係合部E2との距離を小さくする方向に入力部I2に作用する弾性体を備えている。本実施形態においてはこのような弾性体として一端が出力部O1に接続され他端が入力部I2に接続される第1ばねS11及び第2ばねS12を備えている。さらに具体的に説明すると、出力部O1の環状部には、所定の中心角(例えば30度以上90度以下)を有する領域にわたって内周面から外径方向に窪んだ凹部(以下、「第2凹部R12」という場合がある。)が形成され、一方で入力部I2には、第2凹部R12に囲まれる領域に一部が存在するように第2凹部R12の底面に近接して外径方向に突出した凸部(以下、「第2凸部P22」という場合がある。)が形成される。
【0032】
そして一方の弾性体である第1ばねS11は、一端が第2凹部R12の側面(周方向を向いた面)に接続され他端が第2凸部P22の側面(第2凹部の壁面に周方向に対向する面)に接続されて周方向に延在し、他方の弾性である第2ばねS12は、一端が第2凹部R12の他方の側面(周方向を向いた面)に接続され他端が第2凸部P22の他方の側面(第2凹部R12の壁面と周方向に対向する面)に接続されて周方向に延在する。さらに第1ばねS11及び第2ばねS12は、係合部E1と被係合部E2とが係合しているとき自然長となるように構成されている。
【0033】
以上のような構成によれば係合部E1と被係合部E2とが係合しているとき第1ばねS11及び第2ばねS12は、自然長であることから入力部I2に弾性力をほとんど作用させない。しかしながら、係合部E1と被係合部E2との係合が解除されたとき第1ばねS11及び第2ばねS12の一方は圧縮し他方は伸長することにより、係合部E1と被係合部E2との距離を小さくする弾性力をそれぞれ入力部I2に作用させる。
【0034】
なお弾性体の構成は、本実施形態に示されるものに限られるものではない。例えば、用途に応じてばねの数を1本にし、又は、3本以上にしてもよい。ただしばねの数が1本の場合と比較して、複数のばねを対称的に設けることにより安定性を高めることが可能となる。
【0035】
また係合部E1と被係合部E2とが係合する位置において第1ばねS11及び第2ばねS12は必ずしも自然長でなくてもよく、例えば、圧縮乃至伸長していてもよい。複数のばねから入力部I2に作用する力の合力がゼロであれば、例えば、第1ばね及び第2ばねを圧縮ばねとして設けても、係合部E1と被係合部E2とが係合する位置において安定するように入力部I2を支持することが可能となる。
【0036】
本実施形態に係る駆動機構30は更に弾性体による振動を減衰するための減衰要素を備えている。本実施形態においてはこのような減衰要素として一端が出力部O1に接続され他端が入力部I2に接続される第1ダンパD11及び第2ダンパD12を備えている。さらに具体的に説明すると、一方の減衰要素である第1ダンパD11は、一端が第2凹部R12の側面(周方向を向いた面)に接続され他端が第2凸部P22の側面(第2凹部R12の壁面に周方向に対向する面)に接続されて周方向に延在し、他方の弾性である第2ダンパD12は、一端が第2凹部R12の他方の側面(周方向を向いた面)に接続され他端が第2凸部P22の他方の側面(第2凹部R12の壁面と周方向に対向する面)に接続されて周方向に延在する。
【0037】
更に駆動機構30は係合部E1と被係合部E2との変位量及び変位量に基づく荷重を取得するための変位センサSE1を備える。変位センサは、例えば、スケールや磁石等の被読み取り部と、スケールに対するリードヘッドや磁石に対するホール素子等の読み取り部とを備えてよく、被読み取り部又は読み取り部の一方は第2凹部R12(例えばロック状態において、第2凹部R12のうち第2凸部P22に近接する位置)に設けられてよく、他方は第2凸部P22に設けられてよい。変位センサSE1は、係合部E1と被係合部E2との変位量を取得可能であるから、係合部E1と被係合部E2とが係合しているロック状態であるか、係合部E1と被係合部E2とが係合していない非ロック状態(ロック脱状態)であるかを検出することが可能である。また、非ロック状態において、変位センサSE1は、係合部E1と被係合部E2との変位量を取得することが可能であるから、変位量に基づいて弾性体(第1ばねS11及び第2ばねS12)から作用する弾性力を取得することが可能である。
【0038】
加えて駆動機構30は、出力部O1と入力部I2との間に生じる負荷トルク(又は荷重)を検出するためのセンサSE2を備えている。特に本実施形態におけるロック状態において、第1ばねS11及び第2ばねS12は自然長であり、また、変位センサSE1は係合部E1と被係合部E2との変位量はゼロであるから、出力部O1と入力部I2との間に生じる負荷トルクに関する情報を取得することが困難である。そこで特にロック状態において、制御装置10は、センサSE2が検出した負荷トルクに関する情報を取得し、センサSE2が検出した負荷トルクに関する情報に基づいてロボットアーム20を制御可能に構成されている。センサSE2は、例えば、プランジャ支持部材(例えば筒部P21C)に取り付けられるひずみゲージから構成されてよい。
なお駆動機構30は、係合部E1と被係合部E2との間に作用する荷重を検出するためのセンサをさらに有してもよい。センサSE2は、例えば、スプリングP21Sのひずみ量を取得するひずみゲージから構成されてよい。ひずみゲージがスプリングP21Sのひずみ量を取得することにより入力部I2(ボールP21B)が出力部O1を押圧する荷重を検出することが可能となる。この荷重が大きいほど係合部E1と被係合部E2との係合の度合いが強くなるため、センサは、出力部O1と入力部I2とがしっかりと係合し、力が効率的に伝達できているか否かを検出することが可能である。制御装置10は、センサが検出したスプリングP21Sのひずみ量に関する情報(ひずみ量に応じて変動する情報を含む)を取得し、この情報に基づいてロボットアーム20を制御可能に構成されている。
【0039】
以上のような構成を備える駆動機構30は、例えば、ロボットアーム20の各リンクの筐体内にそれぞれ収容される。
【0040】
ロボットアーム20は更に、アクチュエータであるサーボモータの負荷及び変位量(出力軸の角度位置)を取得するための各センサを備えている。負荷の大きさは、例えば、サーボモータに流れる電流量を取得する電流センサから取得することが可能である。サーボモータの変位量は、エンコーダ等の光学的センサや電磁気センサ(電磁誘導式や静電容量式を含む)、ホール素子等の磁気センサ、又は、歪センサ等から取得することが可能である。
【0041】
[制御装置の構成]
【0042】
図3は、本実施形態に係るロボットシステム100の機能ブロック図である。制御装置10(図3)は、ロボットアーム20を制御する。本実施形態に係る制御装置10は、ロボットアーム20の基準となる位置(例えば、手先位置に相当するリンクのセンターポイント。以下、「基準位置」又は「基準部位」という。)の開始位置及びその時の姿勢を取得する開始位置取得部10Aと、目標位置及びその時の姿勢を取得する目標位置取得部10Bと、開始位置と目標位置を結ぶ経路を取得する経路取得部10Cと、経路取得部10Cによって取得された経路に従って、各アクチュエータAの駆動部に相当するサーボモータを制御するための制御命令を取得する制御命令取得部10Dと、記憶部10Eとを備える。
【0043】
開始位置取得部10Aは、例えば、制御装置10に接続可能な教示装置(不図示)から入力された開始位置及びその時のロボットアーム20の姿勢を取得する。教示装置は、現場で実際にロボットアーム20を動かしてその時の基準位置及び姿勢を開始位置として教示するオンラインティーチングに従う教示装置でもよいし、コンピュータプログラムによって基準位置の位置及び姿勢を開始位置として教示する、テキスト型、シミュレータ型、エミュレータ型、又は、自動ティーチング型等のオフラインティーチングに従う教示装置でもよい。
【0044】
目標位置取得部10Bは、例えば、開始位置と同様に、教示装置から入力された目標位置及びその時の姿勢を取得する。目標位置取得部10Bは、複数の目標位置及びその時の姿勢を取得することが可能である。
【0045】
経路取得部10Cは、開始位置と目標位置を接続する経路(計画軌跡)を演算処理等により取得する。
【0046】
制御命令取得部10Dは、基準位置を経路に従って移動させるために各アクチュエータAの駆動部にそれぞれ搭載される各モータを制御するための制御命令を演算処理等により取得し、ロボットアーム20に供給する。例えば、制御命令取得部10Dは、逆運動学演算(インバースキネマティクス)により、基準位置が経路上に位置するための各モータの回転角度を算出し、これに基づいて制御命令を生成して、記憶部10Eに格納することが可能である。
【0047】
記憶部10Eは、各実施形態に示される各処理を実行するためのコンピュータプログラム(経路生成アルゴリズムを含む)及び必要なデータその他の情報を格納する。
【0048】
以上述べた制御装置10のハードウェア構成に関し、制御装置10は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサである演算素子と、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性記憶素子と、NORフラッシュメモリ、NANDフラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)等の不揮発性記憶素子と、これらを接続するバス等の通信手段を備えるコンピュータから構成することが可能である。不揮発性記憶素子は、非一時的(Non-transitory)に情報を記憶する記憶媒体である。揮発性記憶素子は、これらコンピュータプログラムの少なくとも一部及び演算処理結果等を一時的に記憶する。記憶部10Eは、これら記憶素子により構成される。また、記憶部10Eに格納されるコンピュータプログラムを演算素子が実行することにより、開始位置取得部10A、目標位置取得部10B、経路取得部10C、制御命令取得部10Dとして機能する。但し、これら演算素子、不揮発性記憶素子等の少なくとも一部は、インターネット等の通信ネットワークに接続された遠隔地に設置されていてもよい。例えば、演算素子は、通信ネットワークを介して、コンピュータプログラム又は必要なデータを取得するように構成されてもよい。また制御装置10は、2又は3以上のプロセッサを演算素子として備えてもよい。更に制御装置10は、複数のコンピュータプログラムを実行可能に構成され、制御装置10による制御を第1コンピュータプログラムに基づいて実現してもよい。第1コンピュータプログラムは、記憶部10Eの不揮発性記憶素子に非一時的(non-transitory)に格納されてもよい。
【0049】
制御装置10とロボットアーム20は、無線又は有線による通信手段によって情報の送受信が可能に構成されている。
【0050】
なお制御装置10には、ロボットシステム100に動作教示するための教示装置が接続、又は、一体的に設けられてもよい。また、教示装置は、ロボットアーム20に設けられてもよく、例えば、ディスプレイを含む入出力手段を教示装置の一部として利用してもよい。教示装置は、例えば、携帯型の教示ペンダントを備える。教示装置は、制御装置10と同様に、演算素子、揮発性記憶素子、不揮発性記憶素子を備え、更に、ディスプレイを有する表示手段及び複数の操作キー並びにレバーを有する入力手段を備えている。入力手段は、ディスプレイを押圧して入力を行うタッチパネル式の入力手段から構成されてもよい。
【0051】
[駆動方法]
【0052】
以下、ロボットアーム20及びロボットアーム20に搭載される駆動機構30の駆動方法について説明する。図4は、ロボットアーム20及びロボットアーム20に搭載される駆動機構30の駆動方法を示す模式図である。図4の例では、ロボットアーム20の先端のリンクが入力部I2と一体的に設けられたリンクL2に相当する例を示している。先端のリンクL2には、被保持物を保持するための保持部が設けられている。図5は、このような駆動方法のフローチャートを示している。
【0053】
制御装置10は、係合部E1と被係合部E2とが係合しているロック状態の下、ロボットアーム20を制御して、各リンクを駆動する(ステップS51)。具体的には、制御装置10の経路取得部10Cは、開始位置取得部10Aが取得した開始位置と、目標位置取得部10Bが取得した一または複数の目標位置を接続する経路(計画軌跡)を演算処理等により取得し、制御命令取得部10Dは、経路取得部10Cが取得した経路に従って各アクチュエータAを制御するための制御命令を演算処理等により取得し、ロボットアーム20に供給する。ロック状態下では、アクチュエータの出力部O1の駆動力は、係合部E1及び被係合部E2との係合を介して、入力部I2に伝達される。このためリンクL1のアクチュエータの出力部O1の回転に伴って、入力部I2及びこれと一体的に設けられるリンクL2及びリンクL2の先端に設けられる保持部は回転する(図4(A))。
【0054】
このような通常動作においてロボットアーム20の一部が障害物(人、ワーク、設備及び他のロボットアームの場合がある)と干渉し、衝突してしまうことがある(ステップS52、図4(B))。同図では、リンクL2が障害物と干渉し、衝突してしまった様子を示している。このときリンクL2は障害物と干渉しているため、回転することが妨げられている。このため回転しようとするリンクL1と回転することが妨げられているリンクL2との間には回転方向に大きな力が作用することとなる。
【0055】
駆動機構30は、リンクL1とリンクL2との間において、回転方向に所定の力が作用すると、係合部E1と被係合部E2との間の係合が解除されるように構成されている。図6(A)は、係合部E1と被係合部E2とが係合している平常時(ロック状態)において凸部の一例であるボールP21Bに作用する力を説明する模式図であり、図6(B)は、係合が解除するときの力Fpの大きさを説明するための模式図である。なお説明の便宜上、同図において筒部P21Cは省略している。
【0056】
上述したようにボールP21Bには、スプリングP21Sから外径方向に向かう力Fgが作用している。一方でボールP21Bは出力部O1の凹部R11に接触しているから、ボールP21Bには、出力部O1の凹部R11からも力が作用している。同図に示されるように凹部R11が外径方向に対して角度θをなして傾斜する二つの対称的な傾斜面を有するとき、ボールP21Bには、各傾斜面から、傾斜面と垂直な方向に力Fcが作用している。そしてボールP21Bが静止しているとき、外径方向に向かう力と内径方向に向かう力が釣り合うから、力Fgと力Fcは、Fg=2Fc(sinθ)の関係を有する。
【0057】
一方で図6(B)に示されるように係合が解除するときボールP21Bには、回転方向の力Fpが作用し、一方の傾斜面からボールP21Bに作用する垂直抗力は0となる。他方の傾斜面からボールP21Bに作用する力を力Fc1とすると、力Fg、力Fc1及び力Fpは、ボールP21Bが動く直前において、Fg=Fc1(sinθ)及びFp=Fc1(cosθ)の関係を有するから、Fp=Fg/(tanθ)の関係を有する。
【0058】
よってリンクL1とリンクL2との間に回転方向にFg/(tanθ)未満の力が作用する限りは、係合部E1と被係合部E2との間のロック状態が維持され、Fg/(tanθ)以上の力が作用すると、係合部E1と被係合部E2との間の係合が解除可能となるように係合部E1及び被係合部E2は、構成されている。なおリンクL2が回転することに伴う遠心力の影響、及び、スプリングP23が圧縮することによる弾性力の影響等を更に考慮してロック状態が解除されるときのより正確な値を取得してもよい。
【0059】
図4(C)は、リンクL2が障害物と衝突してしまったため、回転方向Fg/(tanθ)以上の力が作用したために、係合部E1と被係合部E2との間の係合が解除された状態を模式的に示している。このとき係合部E1と被係合部E2は離間する(ステップS54)。制御装置10は、係合部E1と被係合部E2との変位量を取得する変位センサSE1の信号に基づいて、ロック脱状態に遷移したと判断するとロボットアーム20の駆動を停止する。
【0060】
ロック脱状態になると第1ばねS11は圧縮し、第2ばねS12は伸長する。よって第1ばねS11から入力部I2の第2凸部P22に対して、係合部E1と被係合部E2との距離が小さくなる方向(紙面時計回り)の弾性力が作用する。同様に第2ばねS12から入力部I2の第2凸部P22に対して、係合部E1と被係合部E2との距離が小さくなる方向(紙面時計回り)の弾性力が作用する。
【0061】
よって図4(D)に示されるようにリンクL2の駆動を妨げていた障害物を除くと、入力部I2は係合部E1と被係合部E2との距離が小さくなる方向(紙面時計回り)、すなわち係合部E1と被係合部E2とが接近する方向に移動する(ステップS55)。
【0062】
そして係合部E1と被係合部E2とはロック状態に復帰する(ステップS56)。すなわち第1ばねS11及び第2ばねS12の弾性力により入力部I2は周方向に回転移動するため、ボールP21Bは出力部O1の環状部の内周面上を摺接して回転移動してやがて凹部R12内に嵌る。
【0063】
制御装置10は、係合部E1と被係合部E2との変位量を取得する変位センサSE1の信号に基づいてロック状態に復帰したと判断すると、ロック状態の下、ロボットアーム20を制御して、各リンクを再駆動する。なお制御装置10は、係合部E1と被係合部E2との係合を促進するためにロック脱状態において出力部O1を駆動させてもよい。
【0064】
以上のとおりであるから、本実施形態に係る駆動機構30及び駆動方法によれば、ロック状態においては、剛性の高いロボットアーム20の駆動が可能となる。また、衝突による衝撃が生じるとロック状態が解除されて剛性が低下するように構成されているから、ロック状態が維持された場合と比較して、衝突時の安全性を高めることが可能となる。更に障害物等の負荷が除かれると、弾性力によって自動的に調心して、自動的にロック状態に復帰させることも可能となる。
【0065】
[第2実施形態]
【0066】
以下本発明の第2実施形態について説明する。なお各実施形態において、他の実施形態と同様の機能又は構成を有する構成要素については同様の名称等を付して詳細な説明を省略し異なる部分を中心に説明する。
【0067】
第1実施形態は回転駆動する駆動機構に本発明を適用したが、第2実施形態は直動する駆動機構に本発明を適用した実施形態に相当する。図7は本実施形態に係る駆動機構300の模式図である。この駆動機構300は、アクチュエータA0としてのモータと、モータによって回転するボールねじと、ボールねじと螺合することにより往復移動可能なナット部310と、ナット部310と一体的に駆動可能に構成された出力部O10(「駆動部」の一例)と、出力部O10と係合することによって出力部O10の往復移動に伴って往復移動可能に構成された入力部I20(「被駆動部」の一例)を示している。出力部O10は、例えば、物品の搬送用ステージとして設けられてよい。
【0068】
出力部O10には、入力部I20と係合するための係合部E10として、紙面下方に窪む凹部が形成されている。
【0069】
入力部I20は、アクチュエータの出力部O10の駆動力が伝達されることにより、駆動される部位(被駆動部)である。同図に示されるように、本実施形態に係る入力部I20には、出力部O10と係合するための被係合部E20として、紙面下方に突出する凸部が設けられている。凸部は第1実施形態と同様にプランジャから構成されてもよい。
【0070】
駆動機構300は更に、係合部E10と被係合部E20との距離に基づいた弾性力を、係合部E10と被係合部E20との距離を小さくする方向に入力部I20に作用する弾性体として、一端が出力部O10に接続され他端が入力部I20に接続される第1ばねS110及び第2ばねS120を備えている。
【0071】
以上のような構成によれば、制御装置(不図示)は、係合部E10と被係合部E20とが係合しているロック状態の下、アクチュエータA0としてのモータを制御して、入力部I20及びこれによって搬送される物品を往復移動させる。
【0072】
このような通常動作において入力部I20等が障害物と干渉し、衝突してしまうと、駆動方向に大きな力が作用するため係合部E10と被係合部E20との係合が解除されてしまう。しかしながら係合が解除されて係合部E10と被係合部E20との距離が大きくなると、第1ばねS110及び第2ばねS120の一方は伸長又は圧縮するため、係合部E10と被係合部E20との距離が小さくなる方向の弾性力が作用し、係合部E10と被係合部E20とはロック状態に復帰する。
【0073】
以上のとおりであるから、本実施形態に係る駆動機構300及び駆動方法によっても、ロック状態においては、剛性の高い駆動が可能となる。また、衝突による衝撃が生じるとロック状態が解除されて剛性が低下するように構成されているから、ロック状態が維持された場合と比較して、衝突時の安全性を高めることが可能となる。更に弾性力によって自動的にロック状態に復帰させることも可能となる。
【0074】
[第3実施形態]
【0075】
第1実施形態及び第2実施形態において、ロボットアーム等が障害物に衝突等することによって大きな力が作用すると、駆動機構は、係合部と被係合部とが係合していたロック状態から、係合部と被係合部との係合が解除されたロック脱状態に遷移するように構成されていた。また、制御装置は、ロック脱状態を検出すると、ロボットアーム等の駆動を停止していた。
【0076】
しかしながら、以下に記載するように、能動的にロック状態からロック脱状態に切り替え可能に駆動機構を構成してもよい。さらにロック脱状態において制御装置は、ロボットアーム等を駆動するように構成してもよい。
【0077】
[切り替え機構]
【0078】
第3実施形態に係る駆動機構は、係合部と被係合部とが係合するロック状態と、係合部と被係合部とが係合しないロック脱状態を能動的に切り替えるための切り替え機構を備えている。切り替え機構は、例えば、進退可能に構成されたプランジャと、プランジャを進退させるための電磁力を発生させる電磁コイルと、プランジャに付勢力を付与するためのスプリングを備えた電磁プランジャから構成されてもよい。例えば第1実施形態における駆動機構は、プランジャに替えて、切り替え機構として機能する電磁プランジャを搭載してもよい。このような駆動機構は、通常動作時においては、第1実施形態と同様にスプリングからの付勢力によって係合部と被係合部との間のロック状態を維持し、制御装置からの制御命令に基づいて電磁コイルにより電磁力を発生させて係合が解除される方向(例えば第1実施形態における内径方向)にプランジャを移動させることにより、ロック状態からロック脱状態に遷移可能に構成されてもよい。
【0079】
[ロック脱状態における制御]
【0080】
出力部O1と入力部I2とは、弾性体である第1ばねS11及び第2ばねS12とを介して接続されているから、ロック脱状態(例えば図4(D))において、出力部O1が駆動すると出力部O1の駆動力は、弾性体を介して入力部O2に伝達される。従って駆動機構30を、直列弾性アクチュエータ(SEA; Series Elastic Actuators)として機能させることが可能となる。モータから出力されるトルクは、弾性体を介して、剛性を有するリンクに伝達されるため、ロボットアームにより部材を対象物に接触させながら移動させる倣い動作を容易に実現することが可能になる。例えば、特許第6329149号及び欧州特許第2890528号には、SEAの一例が記載されている。
【0081】
以下では、係合部と被係合部とが係合した状態で、駆動部が被駆動部を駆動させる動作モードを第1動作モードと呼び、係合部と被係合部とが係合していない状態で、駆動部が弾性体を介して被駆動部を駆動させる動作モードを第2動作モードと呼ぶ場合がある。
【0082】
第2動作モードにおいては、SEAによって駆動される部分の慣性、質量及び長さ、外力並びに直列弾性アクチュエータが備える弾性体である機械ばねの弾性率をパラメータとする運動方程式が成立する。このため、制御装置10は、機械ばねの弾性率及び変位量等に基づいて、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御を行うように構成される。なお、直列弾性アクチュエータは、駆動部であるサーボモータの駆動軸に接続され、動力を機械ばね等の弾性体に伝達するギヤを備えていてもよい。更に、直列弾性アクチュエータは、粘性に基づいて衝撃を緩和させるダンパ機構及び動力の伝達をスイッチするためのクラッチ機構を備えてもよい。粘性を有するダンパ機構等の粘性体を付与する場合、又は、ギヤの歯車間の摩擦等から生じる減衰を加味する場合、運動方程式には、粘性定数がパラメータとして加えられた運動方程式が成立する。
【0083】
例えば、サーボモータの駆動軸にギヤが接続され、ギヤの出力軸に弾性体を介して負荷(下流側のリンク等)が接続される直列弾性アクチュエータの場合、ギヤの出力軸に生じるトルクは、サーボモータに流れる電流及びギヤ比に比例し、このトルクが、ギヤの出力軸の角加速度に慣性を乗じた値と、ギヤの出力軸の角加速度にギヤの粘性を乗じた値と、弾性体の変位量に弾性率を乗じた値との和と等しくなる運動方程式が成立する。この運動方程式に基づいて、直列弾性アクチュエータの伝達関数を導くことにより、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御が可能となる。尚、伝達関数を予め計測したり、可搬重量毎の挙動をプリセットする等で予測制御(フィードフォワード制御)する事も可能である。
【0084】
[駆動方法]
【0085】
以下本実施形態に係る駆動方法について説明する。図8は、このような駆動方法のフローチャートを示している。
【0086】
制御装置10は、係合部E1と被係合部E2とが係合しているロック状態の下、第1動作モードに従ってロボットアーム20を制御して、各リンクを駆動する(ステップS81)。第1動作モードは、入力部I2と出力部O1とが一体的に駆動する動作モードである。第1動作モードは、第1実施形態におけるステップS51と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0087】
次いで制御装置10は、ロボットアームにより被保持物を対象物に接触させながら移動させる倣い動作をする場面になると、第2動作モードに移行する。具体的には、電磁コイルに電磁力を発生させてプランジャ(例えば、ボールP21B)を内径方向に移動させた状態で出力部O1を回転させることにより、係合部と被係合部との係合を解除する(ステップS82)。
【0088】
そして制御装置10は、第2動作モードの下、弾性体を介して出力部O1から入力部I2に駆動力を伝達することによりメカニカル・コンプライアンス制御を実行する(ステップS83)。なお第2動作モードにおいてプランジャは、出力部O1の環状部の内周面上を摺接可能に構成されてもよい。プランジャが環状部の内周面上を摺接するときに弾性力を弱める摩擦力が生じるから、弾性力による振動を低減させることが可能となる。
【0089】
以上のとおりであるから、本実施形態に係る駆動機構及び駆動方法によれば、ロック状態においては、剛性の高いロボットアームの駆動が可能となり、ロック脱状態においては、剛性の低いロボットアーム等の駆動が可能となる。このため状況において動作モードを切り替えることにより好適にロボットアーム等を駆動することが可能となる。
【0090】
また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。たとえば、当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態に追加することができる。また、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態の対応する構成要素と置換することができる。
【符号の説明】
【0091】
10 制御装置
20 ロボットアーム
30 駆動機構
300 駆動機構
E1 係合部
E2 被係合部
E10 係合部
E20 被係合部
P21 凸部
P22 凸部
R11 凹部
R12 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8