(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106693
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】ヘッド吐出面の払拭用ワイパを備えたインクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
B41J2/165 401
B41J2/165 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007573
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩
(72)【発明者】
【氏名】森園 和也
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA16
2C056FA10
2C056JB04
2C056JB15
(57)【要約】
【課題】洗浄液ノズルの下面部に形成された開口から鉛直方向下方に的確に垂らす洗浄液の量を確保することができ、且つ、不要な箇所に洗浄液が伝いにくいインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】ワイパ移動機構13によってワイパ8が払拭位置からの離反領域に移動されている状態で、ワイパ8の上方の洗浄液ノズル52の下面部に設けられた開口26から洗浄液が滴下される。洗浄液が滴下される開口26の周囲には、周縁突出部30、平面部27、側面部28が設けられ、これらの構成により、開口26から垂れる洗浄液が不適切な領域に伝うルートが解消され、開口26から鉛直方向下方に的確に垂れ落ちる洗浄液の量が確保される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面に設けられた吐出口からインクを吐出可能なヘッドと、前記ヘッドの吐出面を払拭するためのワイパと、を備えたインクジェットプリンタにおいて、
前記吐出面の払拭位置及び前記ヘッドの下面から離反した待機位置に前記ワイパを移動可能なワイパ移動機構と、
前記払拭位置からの離反領域で前記ワイパの上方から洗浄液を垂らす洗浄液ノズルと、
該洗浄液ノズルに接続され、前記洗浄液を該洗浄液ノズルに供給する洗浄液供給経路部と、を備え、
前記洗浄液ノズルは、設置状態における下面部に設けられた前記洗浄液を垂らすための開口の周縁に形成され、前記下面部から所定寸法突出する周縁突出部と、該周縁突出部の周囲に形成され、前記開口の開口方向に略直交して広がる平面部と、該平面部から上向きに延在する所定高さの側面部と、を有し、
前記洗浄液供給経路部は、前記側面部に対して略直交して該側面部に連結されたことを特徴とするヘッド吐出面の払拭用ワイパを備えたインクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記洗浄液ノズルの前記側面部が前記平面部に対して略直交するように形成されたことを特徴とする請求項1に記載のヘッド吐出面の払拭用ワイパを備えたインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記洗浄液供給経路部は、洗浄液を供給するチューブと、前記洗浄液ノズルに設けられ、該チューブが接続されるチューブ接続部と、を有し、
該チューブ接続部に接続されるチューブの端部と前記平面部とが水平方向に所定距離だけ離間されたことを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッド吐出面の払拭用ワイパを備えたインクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッド吐出面の払拭用ワイパを備えたインクジェットプリンタ、特に、ヘッド下面の吐出面のインクを払拭するワイパを備えたインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、インクジェットプリンタでは、インクを吐出する吐出口(ノズル)が下面に設けられたヘッドを備え、ヘッドの下方に配置されたシート状のメディア(印刷媒体)の上面にインクを吐出して印刷を行う。高精度な印刷を行うためには、吐出口におけるインクの状態、いわゆるノズルメニスカス(インク液面)が重要であり、例えば、吐出口に不要なインク滴が付着していると、吐出されるインク滴の飛行曲がりや着弾ずれ、着弾後のインクドットの形状不良などが生じてしまう。これらの結果、ノズルメニスカスの不良によって印刷画質が低下するおそれがある。そこで、インクジェットプリンタでは、ノズルメニスカスを整えることの他に、ヘッドの吐出面を清浄にすることなどを目的として、ヘッドの吐出面をワイパで払拭している。
【0003】
ワイパによるヘッド吐出面の払拭は、例えば、ヘッド(キャリッジ)の走査方向と直交方向に長手なブレード形状のワイパを固定しておき、このワイパの上面又は上縁を吐出面に当接させながらヘッドを走査して行われる。このワイパによるヘッドの吐出面の払拭(洗浄)効果を向上するために、例えば下記特許文献1では、ワイパの上面に洗浄液を垂らし落としてワイパを洗浄すると共にワイパの上面に洗浄液を付着させることが開示されている。ワイパの上面に洗浄液が付着されていれば、ヘッドの吐出面をより清浄に払拭することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
洗浄液をワイパの上面に垂らし落とす洗浄液ノズルは、ワイパの上方に配置しなければならない。また、洗浄液ノズルには、洗浄液を供給するための洗浄液の供給経路部としてのチューブ(パイプ)が接続される。このように、洗浄液ノズルにはチューブが接続され、且つ、洗浄液は洗浄液ノズルから下方に垂らされる。また、ワイパの上方に配置される洗浄液ノズルの高さは、インクジェットプリンタの高さ制限に伴って制限されるので、チューブは水平方向から洗浄液ノズルに接続される。すなわち、洗浄液を垂らすために下向きに開口される開口部とチューブが水平方向に差し込まれるチューブ接続部とが略直交配置される。これは、接続されるチューブの伸長方向と開口部から垂れ落ちる洗浄液の方向が直交することを意味する。
【0006】
このようにチューブ接続部と開口部を直交配置する場合には、洗浄液ノズルは、ホース継手であるエルボのような形状とされる。このとき、洗浄液ノズルのエルボ形状は、高さの制限から、洗浄液を垂らす開口部がチューブ接続部に高さ方向に接近した形状となる。しかしながら、このようなエルボ形状の洗浄液ノズルでは、開口部から垂れる洗浄液が洗浄液の供給経路部であるチューブ接続部側に伝い易く、開口部から鉛直方向下方に垂れ落ちる洗浄液が少なくなると共にチューブ接続部側に伝った洗浄液が不要な箇所から垂れてしまう。すなわち、開口部とチューブ接続部の間に高さ方向の段差を設けにくいことから、開口部から垂れた洗浄液がチューブ接続部側に流れやすくなってしまう。洗浄液ノズルの開口部から鉛直方向下方に垂れ落ちる洗浄液、すなわちワイパの上面に垂れ落ちる洗浄液の量が少なくなると、ヘッドの吐出面の洗浄効果も低下してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、下向きに開口している洗浄液ノズルの開口部から鉛直方向下方に垂らす洗浄液の量を的確に確保することができるインクジェットプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のヘッド吐出面の払拭用ワイパを備えたインクジェットプリンタは、
下面に設けられた吐出口からインクを吐出可能なヘッドと、前記ヘッドの吐出面を払拭するためのワイパと、を備えたインクジェットプリンタにおいて、
前記吐出面の払拭位置及び前記ヘッドの下面から離反した待機位置に前記ワイパを移動可能なワイパ移動機構と、前記払拭位置からの離反領域で前記ワイパの上方から洗浄液を垂らす洗浄液ノズルと、該洗浄液ノズルに接続され、前記洗浄液を該洗浄液ノズルに供給する洗浄液供給経路部と、を備え、前記洗浄液ノズルは、設置状態における下面部に設けられた前記洗浄液を垂らすための開口の周縁に形成され、前記下面部から所定寸法突出する周縁突出部と、該周縁突出部の周囲に形成され、前記開口の開口方向に略直交して広がる平面部と、該平面部から上向きに延在する所定高さの側面部と、を有し、前記洗浄液供給経路部は、前記側面部に対して略直交して該側面部に連結されたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、ワイパ移動機構によってワイパが払拭位置からの離反領域に移動されている状態で、ワイパの上方に位置している洗浄液ノズルの設置状態における下面部に設けられた開口から洗浄液が下方に垂れ落とされる。このとき、洗浄液が垂れ落とされる開口の周縁には周縁突出部が設けられているので、洗浄液はほぼ的確に下方に垂れ落ちる。また、この下面部には、開口の開口方向に対して略直交する所定の広さの平面部が周縁突出部の周囲に存在しているので、周縁突出部を乗り越えて平面部に伝う洗浄液が存在しても、平面部である程度留保することができる。また、この平面部には、所定の高さの側面部が延在し、平面部に対して段差を付加しているので、この段差よりも洗浄液が広がって伝うことが抑制される。そして、チューブなどで形成される洗浄液供給経路部は、この側面部に略直交するように連結されているので、洗浄液供給経路部まで洗浄液が伝うことはほぼ防止される。したがって、従来のように洗浄液ノズルの開口から溢れた洗浄液が適正な落下以外の方向に伝うルートが解消され、開口から鉛直方向下方に的確に垂れる洗浄液の量を確保することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、洗浄液ノズルの開口から不要な領域に伝う洗浄液の流れを解消することで、鉛直方向下方に的確に垂れる洗浄液の量を確保することができることから、ワイパの上面に十分な量の洗浄液を垂れ落とすことができ、ヘッドの吐出面の洗浄効果を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のインクジェットプリンタの一実施の形態を示す大型インクジェットプリンタの主要部のレイアウトを示す概略構成図である。
【
図2】
図1のインクジェットプリンタにおけるワイパインクの払拭方法の説明図である。
【
図3】
図1のインクジェットプリンタの洗浄液ノズルの斜視図である。
【
図6】
図1のインクジェットプリンタにおける吸収体ホルダの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のヘッド吐出面の払拭用ワイパを備えたインクジェットプリンタの一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態のインクジェットプリンタが適用された大型インクジェットプリンタの主要部のレイアウトを示す概略構成図である。この大型のインクジェットプリンタは、例えば、特開2020-131609号公報に記載されるものと同等の構成を有するので、全体構成図は省略する。すなわち、このインクジェットプリンタは、脚部によって支持される本体の上面に、利用者が印刷に関する操作を行うための操作パネルや、本体を覆うカバーなどを備えて構成される。また、本体の前面にはメディア(印刷媒体)を排出するための排出口が設けられ、この排出口の前方で且つ下方には、メディアをガイドするガイドが設けられている。
【0013】
このインクジェットプリンタでは、例えば、ロールに巻かれた一連のシート状のメディアをプラテンの上方に送給し、このプラテン上でメディアの上面にインクを吐出して印刷した後、排出口からメディアをガイド上に排出する。プラテンの上方に配置されてインクを吐出するヘッド1は、後述するように、キャリッジ2に搭載され、そのキャリッジ2がメディアの送給方向と交差する方向に往復移動し、メディアと交差する間にヘッド1からインクが吐出される。このヘッド1の往復移動(走査)方向が主走査方向であり、メディアの送給方向(その逆方向を含む)が副走査方向である。なお、メディアはシート状であればよく、その材質は、記録紙の他、樹脂製シートなどであってもよい。また、シート状のメディアは、必ずしも連続送給される必要はなく、例えば、プラテンの上に単独で配置されたシート材であってもよい。
【0014】
図1(a)は、このインクジェットプリンタの主要部の概略レイアウトを示す平面図、
図1(b)は、その左側面図である。この例では、図の右方がインクジェットプリンタの前方、左方が後方と規定されているので、
図1(b)を左側面図とした。以下では、これらの方向を引用して説明する(したがって、図示の方向と異なることもある)。この実施の形態のインクジェットプリンタは、キャリッジ2の下面に2個のヘッド1を備えている。前述のように、メディアはプリンタの後方から前方に向けて副走査方向に移動され、その間にヘッド1ごとキャリッジ2を主走査方向、すなわちプリンタの左右方向に往復移動させる。このヘッド1の主走査方向への往復移動の際、ヘッド1の下面に設けられた複数(多数)の吐出口のそれぞれからごく僅かなインク滴を吐出し、それらインク滴をメディアの上面に着弾させて印刷を行う。ヘッド1の下面のうち、吐出口が設けられている部分を吐出面1aともいう。なお、
図1(a)に示すヘッド1の位置は、後述するようにプリンタ待機状態における原位置であり、印刷時の位置とは異なる。
【0015】
前述のように、
図1(a)に示すプリンタ待機状態における原位置のそれぞれのヘッド1の下方には、ヘッド1の吐出面1aを覆うように接合される図示しないキャップが配設されている。これらのキャップは、ヘッド1の吐出面1aを覆った状態で、吐出口を保湿(乾燥防止)したり、吐出口からインクを強制的に吸引したりするためのものである。2つのヘッド1の吐出面1aを覆う2つのキャップは、共通する支持板部材上に搭載されており、ヘッド1を搭載するキャリッジ2が
図1(a)の位置に移動した際には、ヘッド1の吐出面1aから下方に離間している。その状態から、
図1(a)に示す昇降機構6によって支持板部材と共に2つのキャップが上昇され、2つのヘッド1の吐出面1aのそれぞれに当接されて各吐出面1aを覆う。プリンタ起動時には、2つのキャップは支持板部材と共に下降されてヘッド1の吐出面1aから離間され、その状態で2つのヘッド1がキャリッジ2と共に印刷位置に移動される。この実施の形態では、ヘッド1、キャリッジ2、キャップなどの構成や機能は重要とされないので、その詳細な説明は省略するが、キャップを昇降するための昇降機構6が、後述するワイパ8を(構造的には可動インク受け容器14などと共に)昇降する昇降機構6を兼ねている。なお、昇降機構6は昇降モータ7によって回転駆動される。
【0016】
ヘッド1の吐出面1aを払拭するためのワイパ8は、ワイパホルダ9によって保持され、そのワイパホルダ9は、前後方向に長手な可動インク受け容器14内に収容されている(
図2参照)。ヘッド1の吐出面1aを払拭する場合には、ワイパ8は
図1(a)の位置に固定されており、このワイパ8の上面(上縁)がヘッド1の吐出面1aに当接されている状態でヘッド1が主走査(左右)方向に走査(移動)され、吐出面1aに付着しているインクなどが払拭(ワイピング)される。この実施の形態のワイパ8は、柔軟性と強度を併せ持つ材料で構成される前後方向に長手で且つ左右方向に薄いブレード形状であり、上面(上縁)がヘッド1の吐出面1aと平行になるように配置される。このワイパ8を保持するワイパホルダ9も、前後方向に長手であり、ワイパ8がホルダ上面から上方に突出するようにワイパ8を保持している。なお、前方から見て、ワイパホルダ9の左側面にはアーム基端部11が一体に設けられ、このアーム基端部11から左側に突出し且つそこから下方に延伸するアーム部10が一体に設けられている。
【0017】
一方、可動インク受け容器14も前後方向に長手であり、具体的にはワイパ8がヘッド1の吐出面1aを払拭する払拭位置、すなわち
図1(a)に示す位置から、後述する吸収体32が配設されている位置、すなわち待機位置まで連通している。すなわち、払拭位置と待機位置は、プリンタ前後方向に離反している。この実施の形態では、ワイパ8及びワイパホルダ9は、後述するワイパ移動機構13によって払拭位置から待機位置まで往復移動され、その移動の間もワイパホルダ9を収容しておくために可動インク受け容器14が払拭位置から待機位置まで連通されている。更に、この可動インク受け容器14は、後述する洗浄液ノズル52から滴下される洗浄液がワイパ8の上面に垂れ落ちるように、ワイパ8及びワイパホルダ9の上部を上方に突出した状態で往復移動可能とするために、上部が開口されている。この可動インク受け容器14は、前方から見て上部左側に、前後方向に伸長する一連の丸棒からなるガイド部材16(
図2参照)が一体に設けられており、このガイド部材16がワイパホルダ9のアーム基端部11に摺動可能に挿通され、且つアーム基端部11の下端部の凹部17が可動インク受け容器14の左上縁部に係合し、これによって可動インク受け容器14に対するワイパホルダ9及びワイパ8の上下及び左右方向の位置を規制しながらワイパ8(ワイパホルダ9)が前後方向に往復移動される。なお、待機位置における可動インク受け容器14の下方には、個別の固定型のインク受け容器15が配設されている。
【0018】
前述のように、ワイパ8及びワイパホルダ9は、ワイパ移動機構13によって払拭位置から待機位置まで移動される。このワイパ移動機構13は、
図1(b)に簡潔に示すように、プーリ18及びベルト19で構成される。2個一対のプーリ18は、図に示すように、ワイパ8の払拭位置の後方と待機位置の前方のそれぞれに設けられ、それら2個のプーリ18に巻回されるベルト19は、例えばタイミングベルトで構成される。このベルト19は、
図2に示すように、ワイパホルダ9のアーム部10とアーム基端部11の間に挿通されており、巻回されるベルト19の上側部分がアーム部10のアーム基端部11側に設けられたベルト係合部20に係合している。このベルト係合部20は、タイミングベルト19の歯と噛合する歯部が上面に形成されたベルト受け部21と、このベルト受け部21の前後方向両側でベルト受け部21よりも僅かに上方に設けられた2個一対のベルト押え部22を備えて構成される。このベルト押え部22によってタイミングベルト19の歯がベルト受け部21の歯部に押し付けられている。なお、ワイパホルダ9のアーム部10は、ワイパ8の待機位置に設けられているフォトインタラプタ58(
図1(b)参照)の光路を遮るように構成されており、フォトインタラプタ58の光路が遮られた場合にワイパ8が待機位置にあると判定する。
【0019】
図2は、ワイパ8及びワイパホルダ9が待機位置にある状態での断面を示す。前述したように、この待機位置の下方には、固定型のインク受け容器15が配設されており、可動インク受け容器14の下降時には、可動インク受け容器4の下部が固定型のインク受け容器15に入り込むように構成されている。一方、待機位置の上方には、ワイパ8に付着しているワイパインクを吸収して除去するための吸収体32が配設されている。この吸収体32は、ポリオレフィン系樹脂製のスポンジをシート状に形成して構成されており、吸収体ホルダ33に支持された状態で、待機位置におけるワイパ8の上方では、水平方向に展開するように配設されている。
図6は、吸収体32を支持している状態の吸収体ホルダ33の斜視図、
図7は、その平面図である。この吸収体ホルダ33は、主としてワイパ8の上方で水平方向に展開されるシート状の吸収体32の下面を支持する受け部材34と、この受け部材34に開閉自在に取付けられ、その閉状態で、水平方向に展開されるシート状の吸収体32の上面を覆う蓋部材35で構成される。すなわち、ワイパ8の上方で水平方向に展開されるシート状の吸収体32は、受け部材34と蓋部材35で挟持される。
【0020】
図2から理解されるように、水平方向に展開されるシート状の吸収体32の下面は、待機位置におけるワイパ8の上方では開放されている。すなわち、このワイパ8の上方では、吸収体32の下面は受け部材34に支持されていない。したがって、昇降機構6によって待機位置でワイパ8が上昇されると、ワイパ8の上面(上縁を含む)が長手方向全域に亘って吸収体32の下面に当接され、付着しているワイパインクが吸収体32に吸収されて除去される。このときのワイパ8の吸収体32への昇降機構6による押付力は、種々の実験の結果、3.5N以上とすると、ワイパインクをポリオレフィン系樹脂製スポンジからなる吸収体32に確実に吸収させて除去することができる。この押圧力を受けるために、ワイパ8が下方から押付けられる領域では水平方向に展開されるシート状の吸収体32の上面が金属製の蓋部材35で覆われている。なお、後述するように、蓋部材35は受け部材34に設けられた係合部36の爪部37に係合されていて、下方からワイパ8が吸収体32に押付けられても、容易には外れない(動かない)ように構成されている。
【0021】
受け部材34は、所定の弾性を有する樹脂材料製で一体に形成されており、水平方向に展開されるシート状の吸収体32の下面を支持する板状の支持部38、この支持部38の右方端部から下方に向けて延設された板状のガイド部39、このガイド部39から所定の隙間を設けて右方に離間され且つガイド部39と平行に下方に向けて支持部38から延設された板状の背板部40、支持部38の前後方向両端から上方に向けて突設された壁部41を主として備える。支持部38の上面には、前後方向両端部において、シート状の吸収体32に設けられた円穴42に挿入される円筒部43が突設されている。また、ガイド部39から左方側に突設されたリブ44には、前後方向に長手で且つ上方に向けて突出する板状の係合部36が設けられている。この係合部36は、支持部38に設けられた前後方向に細長いスリット状の貫通穴45を通じて上方まで延設されており、その上端部の右側面には、閉状態の蓋部材35の上面に係合する爪部37が突設されている。
【0022】
蓋部材35は、所定の剛性を有する金属材料製で一体に形成されており、水平方向に展開されるシート状の吸収体32の上面を覆って押さえ付ける板状の蓋部46、この蓋部46の左方端部から下方に向けて延設された板状の手掛け部47、蓋部46の前後方向両端部から右方側に突設された連結部48を主として備える。蓋部材35の連結部48は、受け部材34の壁部41に対して前後方向内側に位置しており、この連結部48と受け部材34の壁部41に回転軸49が挿通されている。したがって、蓋部材35は、
図2に実線で示す吸収体挟持位置(閉位置)から同図に二点鎖線で示す開位置まで回動可能とされ、これにより蓋部材35は受け部材34に対して開閉可能に取付けられている。また、蓋部材35には、閉状態で受け部材34の係合部36と対向する位置に、前後方向に細長く且つ係合部36の爪部37が挿通可能なスリット50が形成されている。したがって、受け部材34の支持部38の上に吸収体32が搭載されている状態で、開状態の蓋部材35を閉位置まで回動させて閉じると、係合部36の弾性変形を伴いながら、係合部36の上端部に形成されている爪部37が蓋部材35のスリット50を通過し、更に係合部36の弾性復元力によって爪部37が蓋部材35の蓋部46の上面に被さり、この爪部37が蓋部材35の上面に係合することでワイパ押付け時に蓋部材35が開くのを防止している。なお、蓋部材35を開く場合には、係合部36を爪部37の突設方向と逆方向に押して爪部37の蓋部材35への係合を解除し、その状態で手掛け部47に手指を掛けて蓋部材35を開く。
【0023】
受け部材34のガイド部39と背板部40の間には、前後方向に長手なスリット状の挿通穴部51が設けられており、シート状の吸収体32のワイパ側(ワイパ8の当接領域)と反対側の端部32aを挿通穴部51内に挿通する。この吸収体32のワイパ側と反対側の端部32aは、受け部材34の背板部40に沿って可動インク受け容器14との間の隙間を通り、更に固定型のインク受け容器15の内部まで垂下されている。したがって、ワイパ8の当接部位、すなわち
図2の左上部で吸収体32に吸収されたワイパインクは、吸収体32の内部で反対側の端部32aに向けて次第に浸潤拡散し、最終的には反対側の端部32aに到達する。したがって、ワイパ8の当接領域と反対側の吸収体32の端部32aが固定型のインク受け容器15内に垂下されていれば、仮に吸収されたワイパインクが反対側の端部32aから垂れても固定型のインク受け容器15で受けることができ、それがプリンタの内部や外部に漏れてしまうことを防止することができる。
【0024】
吸収体ホルダ33の受け部材34の上部には、
図1にも示す洗浄液ノズル52が取付けられている(
図7では図示を省略)。この洗浄液ノズル52は、受け部材34から斜め左後方に突出するように設けられており、その突出先端部は、可動インク受け容器14内で前後方向に移動されるワイパ8の上面に対向するように配置されている。そして、この洗浄液ノズル52には、後述するチューブ接続部24に接続されるチューブ25を介して洗浄液が供給され、洗浄液ノズル52の突出先端部の下面から洗浄液が滴下されるように構成されている。この実施の形態では、ワイパ8は通常、待機位置にあり、ヘッド1の吐出面1aを払拭する場合に払拭位置側に移動される。この移動の際、ワイパ8の経路の途中で、ワイパ8を前後方向(特に後方)に移動させながら洗浄液ノズル52によって上方から洗浄液を滴下する(垂らす)ことにより、例えば吸収体32に吸収されなかったワイパ8の上面(上縁)以外の部分のワイパインクを洗い流すことが可能となると共に、ワイパ8の上面(上縁)に洗浄液を付着させることで、次に行われるヘッド1の吐出面1aの払拭をより確実なものとすることができる。また、洗浄液によって洗い流されたワイパインクは、そのまま可動インク受け容器14内に滴下・流下するので、ワイパインクがプリンタの内部や外部に漏れてしまうことを防止することができる。
【0025】
図3は、この実施の形態の特徴的な構成部分を示す洗浄液ノズル52の斜視図、
図4は、その左側面図である。前述したように、洗浄液ノズル52の高さは限られているので、洗浄液供給経路部の主たる構成要素であるチューブ接続部24の伸長方向と洗浄液を垂らすために下向きに開口されている開口26の開口方向とは互いに直交配置された状態となる。すなわち、チューブ25の伸長(差し込み)方向と開口26から滴下される(垂れ落ちる)洗浄液の方向が直交することを意味する。したがって、洗浄液ノズル52は、ホース継手であるエルボのように流入・流出方向が直交する形状となるが、高さの制限から開口26とチューブ接続部24が高さ方向に接近した形状となる。このように上下に短尺なエルボ形状の洗浄液ノズル52では、開口26とチューブ接続部24の間に高さ方向の明確な段差を設けにくく、下向きの開口26から滴下された洗浄液がチューブ接続部24側に伝って開口26以外の箇所から垂れてしまい、その結果、開口26から鉛直方向下方に滴下される洗浄液の量が低減してしまう。
【0026】
そこで、この実施の形態の洗浄液ノズル52では、洗浄液を滴下するために下向きに開口する開口26の周囲(正確には、後述する周縁突出部30の周囲)に所定面積の平面部(=下面部)27を設けた。この平面部27は、洗浄液ノズル52の設置状態で、面の向きが水平に対して約±15°の範囲に入る平面となっている。また、開口26の周縁には、平面部27から所定寸法で下方に突出する周縁突出部30が形成されている。この周縁突出部30は、開口26からの洗浄液の滴下を円滑に誘導する機能を有し、これにより周縁突出部30を乗り越えて平面部27に洗浄液が伝うのを抑制している。また、周縁突出部30を乗り越えて伝う洗浄液が存在したとしても、その周囲に広がる平面部27の存在によって、乗り越えた洗浄液を平面部27の表面にとどめておくことが可能となる。そして、この機能をより確実なものとするために、この実施の形態では、特に、チューブ接続部24側の側面部28までの平面部27の広さは、スペース的に可能な範囲で大きく確保している。
【0027】
また、平面部27から上向きに延在するチューブ接続部24側の側面部28は、平面部27に対して略直交するように形成されている。すなわち、平面部27から上向きに延在する側面部28は、略鉛直面である。したがって、仮に、洗浄液が平面部27を超えて側面部28に伝っても、側面部28が平面部27に対して略鉛直方向上向きに延在していることから、その側面部28に伝った洗浄液が更に開口26から広がる方向に伝っていくのが抑制される。この側面部28の存在は、洗浄液供給経路としての主要構成要素であるチューブ接続部24と平面部27の間で、高さ方向の段差を作り出している。なお、この実施の形態では、平面部27と周面部28とが交わる部分に屈曲稜線部29が形成される。この屈曲稜線部29は、洗浄液が伝いにくい角張った形状となり、これによっても洗浄液が平面部27を超えて側面部28まで伝うのを可及的に防止している。
【0028】
更に、チューブ接続部24に接続されるチューブ25の端部25aと平面部27を水平方向に所定距離だけ離間しておくことで、平面部27から伝う洗浄液がチューブ接続部24からチューブ25まで伝ってしまうことを防止することも可能であり、これにより不要な箇所、すなわちチューブ25から洗浄液が垂れてしまうような状態を回避することができる。これらの結果、この実施の形態では、洗浄液ノズル52の下向きに開口する開口26から鉛直方向下方、すなわちワイパ8の上面に的確に滴下される洗浄液の量を確保することができ、これにより続く吐出面1aの洗浄効果を向上することができる。もちろん、洗浄液が不要な箇所へ伝っていくことも回避することができる。
【0029】
図5は、この実施の形態の洗浄液ノズル52が開発される以前の従来の洗浄液ノズル52を示す斜視図である。
図5では、
図3、
図4の洗浄液ノズル52と同等の構成要件には同等の符号を付す。この洗浄液ノズル52でも、洗浄液を垂らす下向きの開口26の周囲には狭い範囲で平面部27が形成されており、それに続いてテーパ状の側面部28が形成されている。この構成では、開口26から平面部27を超えて側面部28へ洗浄液が伝うのを遮ることができない。更に、この洗浄液ノズル52に連結される洗浄液供給経路部の主要構成要素であるチューブ接続部24は、テーパ状の側面部28に連続するように形成されており、開口26から伝った洗浄液が洗浄液供給経路の方向へ伝っていくことを防止することができない。また、チューブ接続部24におけるチューブ25の端部25aと平面部27との水平方向の距離が
図3の距離に比べて短いことから、平面部27からチューブ接続部24に伝った洗浄液が、その量によってはチューブ25にまで伝ってしまう可能性が高く、チューブ25から垂れ落ちてしまうおそれもある。
【0030】
このように、この実施の形態のインクジェットプリンタでは、ワイパ移動機構13によってワイパ8が払拭位置からの離反領域に移動されている状態で、ワイパ8の上方に位置している洗浄液ノズル52の設置状態における下面部に設けられた開口26から洗浄液が下方に滴下される。このとき、洗浄液が滴下される開口26の周縁には周縁突出部30が設けられているので、洗浄液はほぼ的確に下方に垂れ落ちる。また、周縁突出部30の周囲には、開口26の開口方向に対して略直交する所定の広さの平面部27が存在しているので、周縁突出部30を乗り越えて平面部27に伝う洗浄液が存在しても、平面部27である程度留保することができる。また、この平面部27には、チューブ接続部24側に所定の高さの側面部28が延在し、平面部27に対して段差を付加しているので、この段差よりも洗浄液が広がって伝うことが抑制される。そして、チューブ25などで形成される洗浄液供給経路部は、この側面部28に略直交するように連結されているので、洗浄液供給経路部まで洗浄液が伝うことはほぼ防止される。したがって、洗浄液ノズル52の開口26から溢れた洗浄液が適正な落下以外の方向に伝うルートが解消され、開口26から鉛直方向下方、すなわちワイパ8の上に的確に垂れる洗浄液の量を確保することができる。特に、この実施の形態では、ワイパ移動機構13によってワイパ8を移動しながら洗浄液ノズル52から洗浄液を滴下することにより、ワイパ8の上面のワイパ幅方向全域に途切れなく洗浄液を所定量付与することができる。
【0031】
また、洗浄液ノズル52の平面部27に上向きに延在する側面部28が略鉛直であることにより、開口26から鉛直方向下方に滴下される洗浄液の量を確保することができる。
【0032】
また、洗浄液ノズル52のチューブ接続部24に接続されるチューブ25の端部25aと開口26の周囲の平面部27とが水平方向に所定距離だけ離間されていることにより、開口26から滴下される洗浄液がチューブ25まで伝ってしまうのを防止することができる。
【0033】
以上、実施の形態に係るインクジェットプリンタについて説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、洗浄液ノズル52を吸収体ホルダ33に設けたが、洗浄液ノズル52の配設位置はこれ以外の箇所であってもよい。
【0034】
また、上記実施の形態のインクジェットプリンタの主要構成部のレイアウトは一例であり、用途や仕様に応じて適宜変更・設定可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 ヘッド
6 昇降機構
8 ワイパ
9 ワイパホルダ
13 ワイパ移動機構
24 チューブ接続部
25 チューブ
25a 端部
26 開口
27 平面部(下面部)
28 側面部
29 屈曲稜線部
30 周縁突出部
32 吸収体
33 吸収体ホルダ
52 洗浄液ノズル