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特開2023-106701子宮内膜症を鑑別する方法、鑑別用抗原タンパク質、抗体検査剤、および、抗体検査キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106701
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】子宮内膜症を鑑別する方法、鑑別用抗原タンパク質、抗体検査剤、および、抗体検査キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20230726BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230726BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20230726BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
G01N33/53 N ZNA
G01N33/50 T
C07K16/18
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007590
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】509088653
【氏名又は名称】株式会社メディクローム
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100156443
【弁理士】
【氏名又は名称】松崎 隆
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 尚文
(72)【発明者】
【氏名】藤森 敬也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 俊文
(72)【発明者】
【氏名】今井 順一
(72)【発明者】
【氏名】松倉 進
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CB30
2G045DA36
2G045FB03
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】非侵襲的な手法により子宮内膜症を鑑別する方法であって、さらに個人差の影響が低い確度の高い鑑別方法の提供。
【解決手段】被検者における子宮内膜症の鑑別を補助する方法であって、子宮内膜症鑑別マーカーに対する前記被検者由来の自己抗体を検出する工程を含み、子宮内膜症鑑別マーカーが、本発明に記載する鑑別抗原タンパク質の群より選択される少なくとも1つのタンパク質である、鑑別を補助する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者における子宮内膜症の鑑別を補助する方法であって、
鑑別用抗原タンパク質に対する前記被検者由来の自己抗体を検出する工程を含み、
前記鑑別用抗原タンパク質がA4GNTタンパク質、ADGRB3タンパク質、ANK1タンパク質、ARRB1タンパク質、ATP5Hタンパク質、BPHLタンパク質、C15orf57タンパク質、C19orf84タンパク質、C1orf216タンパク質、C5orf15タンパク質、C7orf25タンパク質、CCDC26タンパク質、CCL2タンパク質、CD320タンパク質、CDC73タンパク質、CDIP1タンパク質、CRCPタンパク質、CTNNBIP1タンパク質、CXorf21タンパク質、DR1タンパク質、EID1タンパク質、EIF1AYタンパク質、KCNMB3タンパク質、KIF3Cタンパク質、LRRFIP1タンパク質、MPHOSPH6タンパク質、MYH7タンパク質、PABPC1L2Aタンパク質、PAIP2タンパク質、PHC3タンパク質、PIANPタンパク質、PIH1D3タンパク質、POLE3タンパク質、POLR2Aタンパク質、POM121L12タンパク質、PSMA1タンパク質、PTPN20タンパク質、RARRES1タンパク質、RBM48タンパク質、RGCCタンパク質、RGP1タンパク質、RNASEH1タンパク質、SDCBP2タンパク質、SHC4タンパク質、SLC35E2Bタンパク質、SMOC1タンパク質、SPACA7タンパク質、STMN3タンパク質、TIAL1タンパク質、TMEM74タンパク質、TUBB2Aタンパク質、UQCR10タンパク質、XAGE2タンパク質、ZKSCAN8タンパク質、ZNF398タンパク質、および、ZNF471タンパク質からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質である、鑑別を補助する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鑑別を補助する方法であって、
前記検出工程が、前記56つの全てのタンパク質に対する自己抗体を検出する工程である、鑑別を補助する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鑑別を補助する方法であって、
前記検出工程が、前記鑑別用抗原タンパク質に対する前記被検者由来の自己抗体の抗体応答レベルを測定する工程である、鑑別を補助する方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の鑑別を補助する方法であって、
前記被験者は子宮内膜症とは異なる疾患を有する者を含む、鑑別を補助する方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の鑑別を補助する方法であって、
前記測定工程において得られた抗体応答レベルと、対応する鑑別用抗原タンパク質に対する子宮内膜症患者または健常者由来の自己抗体の抗体応答レベルとを比較する工程
をさらに含む、鑑別を補助する方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載の鑑別を補助する方法であって、
前記測定工程において得られた抗体応答レベルと、対応する鑑別用抗原タンパク質に対する子宮内膜症患者または健常者由来の自己抗体の抗体応答レベルとをクラスタ分析により比較する工程
をさらに含む、鑑別を補助する方法。
【請求項7】
請求項3または4に記載の鑑別を補助する方法であって、
前記測定工程において得られた抗体応答レベルを所定の閾値と比較する工程
をさらに含む、鑑別を補助する方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の鑑別を補助する方法であって、
前記被検者由来の自己抗体が前記被検者の体液由来である、鑑別を補助する方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の鑑別を補助する方法であって、
前記測定工程において、前記鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルの測定がタンパク質マイクロアレイより測定される、鑑別を補助する方法。
【請求項10】
被検者における子宮内膜症の鑑別に用いる鑑別用抗原タンパク質であって、A4GNTタンパク質、ADGRB3タンパク質、ANK1タンパク質、ARRB1タンパク質、ATP5Hタンパク質、BPHLタンパク質、BRAFタンパク質、C15orf57タンパク質、C19orf84タンパク質、C1orf216タンパク質、C5orf15タンパク質、C7orf25タンパク質、CCDC26タンパク質、CCL2タンパク質、CD320タンパク質、CDC73タンパク質、CDIP1タンパク質、CRCPタンパク質、CTNNBIP1タンパク質、CXorf21タンパク質、DR1タンパク質、EID1タンパク質、EIF1AYタンパク質、KCNMB3タンパク質、KIF3Cタンパク質、LRRFIP1タンパク質、MPHOSPH6タンパク質、MYH7タンパク質、PABPC1L2Aタンパク質、PAIP2タンパク質、PHC3タンパク質、PIANPタンパク質、PIH1D3タンパク質、POLE3タンパク質、POLR2Aタンパク質、POM121L12タンパク質、PSMA1タンパク質、PTPN20タンパク質、RARRES1タンパク質、RBM48タンパク質、RGCCタンパク質、RGP1タンパク質、RNASEH1タンパク質、SDCBP2タンパク質、SHC4タンパク質、SLC35E2Bタンパク質、SMOC1タンパク質、SPACA7タンパク質、STMN3タンパク質、TIAL1タンパク質、TMEM74タンパク質、TUBB2Aタンパク質、UQCR10タンパク質、XAGE2タンパク質、ZKSCAN8タンパク質、ZNF398タンパク質、および、ZNF471タンパク質からなる群より選択される少なくとも1つである、鑑別用抗原タンパク質。
【請求項11】
被検者における子宮内膜症の鑑別に用いるための抗体検査剤であって、
前記抗体検査剤は請求項10に記載の鑑別用抗原タンパク質を含み、
前記鑑別用抗原タンパク質に対する前記被検者由来の自己抗体を検出することにより子宮内膜症の罹患の有無を鑑別する、抗体検査剤。
【請求項12】
請求項11に記載の抗体検査剤であって、
前記鑑別用抗原タンパク質を表面に固定した基材を含む、抗体検査剤。
【請求項13】
被検者における子宮内膜症の鑑別鑑別に用いるための抗体検査キットであって、
請求項11または12に記載の抗体検査剤と、リファレンス抗体、緩衝液、保存料、希釈剤、ブロッキング液、洗浄液、および、使用説明書からなる群より選択される少なくとも1つの構成要素を含む、抗体検査キット。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮内膜症を鑑別する方法、鑑別用抗原タンパク質、抗体検査剤、および、抗体検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
子宮内膜症は子宮内膜組織が異所性に増殖する良性疾患であり、生殖年齢女性の約10%に発生し,月経痛をはじめとする疼痛および不妊を主症状とする。子宮内膜症の診断は腹腔鏡検査あるいは開腹手術による肉眼所見により診断され、病変採取による病理組織学的所見により確定するが、侵襲性を伴う外科的手術であるため患者の負担が大きい。
また、子宮内膜症における血中のバイオマーカーとして最も多く使用されているのはCA125であるが、子宮内膜症および重症度との相関性が必ずしも高くない。また、それ以外にも、文献的には、糖蛋白、炎症性サイトカイン、免疫学的分子、酸化ストレス、増殖因子、血管新生因子などが主に知られているものの(非特許文献1、2)、実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Costin Vlad Anastasiu, Marius Alexandru Moga, Andrea Elena Neculau et al. Biomarkers for the Noninvasive Diagnosis of Endometriosis: State of the Art and Future Perspectives. Int. J. Mol. Sci., 21, 1750, 2020.
【非特許文献2】Hila Greenbaum, Bat-El Lugassy Galper, Dean H. Decter, Vered H. Eisenberg, Endometriosis and autoimmunity: Can autoantibodies be used as a non-invasive early diagnostic tool? Autoimmunity Reviews 20, 102795, 2021.
【非特許文献3】Naoki Goshima, Yoshifumi Kawamura, Akiko Fukumoto et al. Human protein factory for converting the transcriptome into an in vitro-expressed proteome. Nature methods, 12, 1011-1027, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、非侵襲的な手法により子宮内膜症を鑑別する方法であって、さらに個人差の影響が低い確度の高い鑑別方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、約1万7千種類の抗原(タンパク質)を搭載したタンパク質マイクロアレイシステムを用い、子宮内膜症と診断された患者の検体および健常者の検体の血中抗体プロファイルを取得し解析した結果、子宮内膜症群で有意に存在している56種類の抗原に対する自己抗体を特定し、子宮内膜症鑑別マーカーとしたものである。本発明は上記知見に基づき完成したものであり、以下の態様を含む:
【0006】
すなわち、本発明は一態様において、
〔1〕被検者における子宮内膜症の鑑別方法であって、
鑑別用抗原タンパク質に対する前記被検者由来の自己抗体を検出する工程を含み、
前記鑑別用抗原タンパク質がA4GNTタンパク質、ADGRB3タンパク質、ANK1タンパク質、ARRB1タンパク質、ATP5Hタンパク質、BPHLタンパク質、C15orf57タンパク質、C19orf84タンパク質、C1orf216タンパク質、C5orf15タンパク質、C7orf25タンパク質、CCDC26タンパク質、CCL2タンパク質、CD320タンパク質、CDC73タンパク質、CDIP1タンパク質、CRCPタンパク質、CTNNBIP1タンパク質、CXorf21タンパク質、DR1タンパク質、EID1タンパク質、EIF1AYタンパク質、KCNMB3タンパク質、KIF3Cタンパク質、LRRFIP1タンパク質、MPHOSPH6タンパク質、MYH7タンパク質、PABPC1L2Aタンパク質、PAIP2タンパク質、PHC3タンパク質、PIANPタンパク質、PIH1D3タンパク質、POLE3タンパク質、POLR2Aタンパク質、POM121L12タンパク質、PSMA1タンパク質、PTPN20タンパク質、RARRES1タンパク質、RBM48タンパク質、RGCCタンパク質、RGP1タンパク質、RNASEH1タンパク質、SDCBP2タンパク質、SHC4タンパク質、SLC35E2Bタンパク質、SMOC1タンパク質、SPACA7タンパク質、STMN3タンパク質、TIAL1タンパク質、TMEM74タンパク質、TUBB2Aタンパク質、UQCR10タンパク質、XAGE2タンパク質、ZKSCAN8タンパク質、ZNF398タンパク質、および、ZNF471タンパク質からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質である、鑑別方法に関する。
ここで本発明の鑑別方法は一実施の形態において
〔2〕上記〔1〕に記載の鑑別方法であって、
前記検出工程が、前記56つの全てのタンパク質に対する自己抗体を検出する工程であることを特徴とする。
また本発明の鑑別方法は一実施の形態において
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の鑑別方法であって、
前記検出工程が、前記鑑別用抗原タンパク質に対する前記被検者由来の自己抗体の抗体応答レベルを測定する工程であることを特徴とする。
また本発明の鑑別方法は一実施の形態において
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記被験者は子宮内膜症とは異なる疾患を有する者を含むことを特徴とする。
また本発明の鑑別方法は一実施の形態において
〔5〕上記〔3〕または〔4〕に記載の鑑別方法であって、
前記測定工程において得られた抗体応答レベルと、対応する鑑別用抗原タンパク質に対する子宮内膜症患者または健常者由来の自己抗体の抗体応答レベルとを比較する工程をさらに含むことを特徴とする。
また本発明の鑑別方法は一実施の形態において
〔6〕上記〔3〕または〔4〕に記載の鑑別方法であって、
前記測定工程において得られた抗体応答レベルと、対応する鑑別用抗原タンパク質に対する子宮内膜症患者または健常者由来の自己抗体の抗体応答レベルとをクラスタ分析により比較する工程をさらに含むことを特徴とする。
また本発明の鑑別方法は一実施の形態において
〔7〕上記〔3〕または〔4〕に記載の鑑別方法であって、
前記測定工程において得られた抗体応答レベルを所定の閾値と比較する工程
をさらに含むことを特徴とする。
また本発明の鑑別方法は一実施の形態において
〔8〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記被検者由来の自己抗体が前記被検者の体液由来であることを特徴とする。
また本発明の鑑別方法は一実施の形態において
〔9〕上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記測定工程において、前記鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルの測定がタンパク質マイクロアレイより測定されることを特徴とする。
【0007】
また本発明の別の態様は、
〔10〕被検者における子宮内膜症の鑑別に用いる鑑別用抗原タンパク質であって、A4GNTタンパク質、ADGRB3タンパク質、ANK1タンパク質、ARRB1タンパク質、ATP5Hタンパク質、BPHLタンパク質、BRAFタンパク質、C15orf57タンパク質、C19orf84タンパク質、C1orf216タンパク質、C5orf15タンパク質、C7orf25タンパク質、CCDC26タンパク質、CCL2タンパク質、CD320タンパク質、CDC73タンパク質、CDIP1タンパク質、CRCPタンパク質、CTNNBIP1タンパク質、CXorf21タンパク質、DR1タンパク質、EID1タンパク質、EIF1AYタンパク質、KCNMB3タンパク質、KIF3Cタンパク質、LRRFIP1タンパク質、MPHOSPH6タンパク質、MYH7タンパク質、PABPC1L2Aタンパク質、PAIP2タンパク質、PHC3タンパク質、PIANPタンパク質、PIH1D3タンパク質、POLE3タンパク質、POLR2Aタンパク質、POM121L12タンパク質、PSMA1タンパク質、PTPN20タンパク質、RARRES1タンパク質、RBM48タンパク質、RGCCタンパク質、RGP1タンパク質、RNASEH1タンパク質、SDCBP2タンパク質、SHC4タンパク質、SLC35E2Bタンパク質、SMOC1タンパク質、SPACA7タンパク質、STMN3タンパク質、TIAL1タンパク質、TMEM74タンパク質、TUBB2Aタンパク質、UQCR10タンパク質、XAGE2タンパク質、ZKSCAN8タンパク質、ZNF398タンパク質、および、ZNF471タンパク質からなる群より選択される少なくとも1つである、鑑別用抗原タンパク質に関する。
【0008】
また本発明の別の態様は、
〔11〕被検者における子宮内膜症の鑑別に用いるための抗体検査剤であって、
前記抗体検査剤は上記〔10〕に記載の鑑別用抗原タンパク質を含み、
前記鑑別用抗原タンパク質に対する前記被検者由来の自己抗体を検出することにより子宮内膜症の罹患の有無を鑑別する、抗体検査剤に関する。
ここで本発明の抗体検査剤は一実施の形態において、
〔12〕上記〔11〕に記載の抗体検査剤であって、
前記鑑別用抗原タンパク質を表面に固定した基材を含むことを特徴とする。
また本発明の別の態様は、
〔13〕被検者における子宮内膜症の鑑別に用いるための抗体検査キットであって、
上記〔11〕または〔12〕に記載の抗体検査剤と、リファレンス抗体、緩衝液、保存料、希釈剤、ブロッキング液、洗浄液、および、使用説明書からなる群より選択される少なくとも1つの構成要素を含む、抗体検査キットに関する。
【発明の効果】
【0009】
現状、子宮内膜症の診断は侵襲性を伴う外科的手術によるが、本発明は非侵襲的な臨床検査として実用化できる可能性があるため、子宮内膜症の臨床管理に大きな利益をもたらす。
また子宮内膜症の鑑別に複数の子宮内膜症鑑別マーカーを用いた総和で鑑別した場合、鑑別の確度において各子宮内膜症鑑別マーカーにおける個人差を吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は下記実施例1において測定した、子宮内膜症患者(11例)および健常者(29~37歳女性:5例)の鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルの値を示す。
図2図2は、下記実施例1において測定した、子宮内膜症患者(11例)および健常者(29~37歳女性:5例)の鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルをヒートマップ図として示す。またヒートマップ図の下に、子宮内膜症鑑別マーカー(自己抗体)の抗体応答レベルから算出した各被検試料の抗体応答スコア(検体スコア)をグラフで示す。
図3図3は、下記実施例1において測定した、子宮内膜症患者群(11例)または健常者群(29~37歳女性:5例)に属する各被検試料の抗体応答スコアを群散布図としてプロットした図を示す。
図4図4は、下記実施例1において測定した、子宮内膜症患者群(11例)および健常者群(5例)に、検証群として実施例3において測定した、子宮内膜症患者(16例)および健常者(17~74歳女性:5例)を加えた鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルの値を示す。
図5図5は、下記実施例1において測定した、子宮内膜症患者群(11例)および健常者群(5例)に、検証群として実施例3において測定した、子宮内膜症患者(16例)および健常者(17~74歳女性:5例)を加えた鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルをヒートマップ図として示す。またヒートマップ図の下に、子宮内膜症鑑別マーカー(自己抗体)の抗体応答レベルから算出した各被検試料の抗体応答スコア(検体スコア)をグラフで示す。
図6図6は、図5のヒートマップ図および抗体応答スコアのグラフを、子宮内膜症群または健常者群ごとに抗体応答スコア順に並び替えた図およびグラフを示す。
図7図7は、図4で示した値をもとにして子宮内膜症患者(27例)および健常者(17~74歳女性:10例)に属する各被検試料の抗体応答スコアを群散布図としてプロットした図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.被検者における子宮内膜症を鑑別する方法
1-1.概要
本発明の第1の態様は、特定の抗原に対する自己抗体の抗体応答レベルを指標として、被検者が子宮内膜症に罹患しているか否かを鑑別することが可能な方法である。よって、本発明において当該自己抗体は子宮内膜症鑑別マーカーと言い換えることができる。本発明の第1の態様に係る鑑別方法は、ヒトにおける子宮内膜症の診断行為を含むものではない。そのため本発明の第1の態様は、被検者が子宮内膜症に罹患しているか否かの鑑別を補助する方法、または、被検者由来の試料を用いた子宮内膜症の検査方法とも言い換えることができる。
本発明の子宮内膜症鑑別マーカーは、56種のタンパク質群から選択されるいずれかのタンパク質を抗原として認識する自己抗体である。本明細書において子宮内膜症鑑別マーカーが認識するタンパク質を「鑑別用抗原タンパク質」という。被検者由来の試料は自己抗体を含むものであり、当該自己抗体は鑑別用抗原タンパク質に対して抗原抗体反応を生じうる。鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルを測定することで、被検者が子宮内膜症に罹患しているか否かを鑑別できる(または鑑別を補助できる)。
【0012】
1-2.定義
本明細書において「子宮内膜症」とは子宮内膜またはその類似組織が子宮外の骨盤内で発育・増殖する疾患をいう。
本明細書において「子宮内膜症鑑別マーカー」とは、子宮内膜症の罹患の有無を鑑別することのできるバイオマーカーとして利用可能な生体内に存在する自己抗体をいう。「子宮内膜症鑑別マーカー」は被検者などの生体由来の試料中に含まれる自己抗体であって、鑑別用抗原タンパク質を認識する自己抗体をいう。
【0013】
本明細書において「鑑別用抗原タンパク質」として用いることのできるタンパク質は、A4GNTタンパク質、ADGRB3タンパク質、ANK1タンパク質、ARRB1タンパク質、ATP5Hタンパク質、BPHLタンパク質、C15orf57タンパク質、C19orf84タンパク質、C1orf216タンパク質、C5orf15タンパク質、C7orf25タンパク質、CCDC26タンパク質、CCL2タンパク質、CD320タンパク質、CDC73タンパク質、CDIP1タンパク質、CRCPタンパク質、CTNNBIP1タンパク質、CXorf21タンパク質、DR1タンパク質、EID1タンパク質、EIF1AYタンパク質、KCNMB3タンパク質、KIF3Cタンパク質、LRRFIP1タンパク質、MPHOSPH6タンパク質、MYH7タンパク質、PABPC1L2Aタンパク質、PAIP2タンパク質、PHC3タンパク質、PIANPタンパク質、PIH1D3タンパク質、POLE3タンパク質、POLR2Aタンパク質、POM121L12タンパク質、PSMA1タンパク質、PTPN20タンパク質、RARRES1タンパク質、RBM48タンパク質、RGCCタンパク質、RGP1タンパク質、RNASEH1タンパク質、SDCBP2タンパク質、SHC4タンパク質、SLC35E2Bタンパク質、SMOC1タンパク質、SPACA7タンパク質、STMN3タンパク質、TIAL1タンパク質、TMEM74タンパク質、TUBB2Aタンパク質、UQCR10タンパク質、XAGE2タンパク質、ZKSCAN8タンパク質、ZNF398タンパク質、および、ZNF471タンパク質からなる56種のタンパク質である。「鑑別用抗原タンパク質」は、上記に列挙したタンパク質群より1つのタンパク質を選択して用いることもできるし、上記に列挙したタンパク質群より2以上(すなわち、2~56)の複数のタンパク質の組み合わせとして用いてもよい。本明細書において上記に列挙したタンパク質群より選択される複数のタンパク質の組み合わせを「鑑別用抗原タンパク質」として用いる場合、当該「鑑別用抗原タンパク質」を「鑑別用抗原タンパク質群」ともいう。好ましい実施の形態において、鑑別用抗原タンパク質または鑑別用抗原タンパク質群は56種全てのタンパク質を含む。
【0014】
「鑑別用抗原タンパク質」は、体液中に存在する自己抗体と免疫学的に反応するものであれば特に制限されず、ヒト、非ヒト動物等のいずれであってもよい。自己抗体の検出または測定精度を向上させるという観点から、鑑別用抗原タンパク質の由来は、検体と同種の由来であることが好ましく、例えば、ヒトの体液を検体として使用する場合には、抗原もヒト由来であることが好ましい。鑑別用抗原タンパク質は、ヒト又は非ヒト動物から回収・精製したものを使用してもよく、遺伝子工学的手法によって製造した組み換え体を使用してもよい。鑑別用抗原タンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードしている塩基配列は公知である。当業者であれば、実施例中に記載のGene ID情報を用いてNCBI等のデータベースよりアミノ酸配列または塩基配列情報を取得可能であり、ヒト由来鑑別用抗原タンパク質の組み換え体を公知の遺伝子工学的手法によって製造することができる。
【0015】
「鑑別用抗原タンパク質」は被検者由来の自己抗体と抗原抗体反応しうる限り、天然型のタンパク質、当該天然型タンパク質に対してアミノ酸変異やその他改変を有する変異体もしくは改変体、または、それらの一部(フラグメント)であってもよい。
本明細書において変異体とは、例えば鑑別用抗原タンパク質を構成するアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であって、被検者由来の自己抗体と抗原抗体反応しうるものを意味する。ここで「数個」とは、1~200個、1~190個、1~150個、1~10個、1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~10個のアミノ酸残基をいう。また改変体とはタンパク質のアミノ酸配列の一部に化学修飾を受けることにより当該鑑別用抗原タンパク質のアミノ酸配列にそれ以外の化学構造が付加されたタンパク質、または、当該鑑別用抗原タンパク質中の化学構造の一部が外されたタンパク質であって、被検者由来の自己抗体と抗原抗体反応しうるものを意味する。
【0016】
一実施の形態において、「鑑別用抗原タンパク質」に含まれるタンパク質は以下の(a)~(c)のポリペプチドとして特定することができる:
(a)配列番号1~56のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b)配列番号1~56のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が置換、付加、または、欠失したアミノ酸配列からなるポリペプチド
(c)配列番号1~56のいずれか1つに示されるアミノ酸配列に対して90%以上(より好ましくは、95%、96%、97%、98%、99%以上)の同一性を有するポリペプチド
なお、上記(b)または(c)により特定されるポリペプチドは、上記(a)のポリペプチドに対して特異的に結合する被検者由来の自己抗体と抗原抗体反応しうるポリペプチドである。
【0017】
本明細書において「同一性」とは、二つのアミノ酸配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両アミノ酸配列の一致度が最も高くなるようにしたときの、全アミノ酸残基数に対する比較するポリペプチドのアミノ酸配列中の同一アミノ酸数の割合(%)をいう。アミノ酸配列の同一性は、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定することができる。
【0018】
鑑別用抗原タンパク質は、免疫学的測定において固相に固定化し易くするために、他のタンパク質を融合させた融合タンパク質であってもよい。例えば、鑑別用抗原タンパク質とGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)やストレプトアビジン結合性ペプチド等の他のタンパク質との融合タンパク質とすることができる。また鑑別用抗原タンパク質は、自己抗体との抗原抗体反応を検出または測定可能なようにタグの付加や標識がされていてもよい。タンパク質を固相に固定化する手段や抗原抗体反応を検出または測定するためのタグや標識は公知の手段を採用することができる。
【0019】
「自己抗体」とは被検者の生体内に存在する抗体であって、自己の細胞や組織の成分を抗原として認識する抗体をいう。本明細書において「自己抗体」とは、被検者の生体内に存在する抗体であって、子宮内膜症鑑別マーカーを抗原として認識する抗体をいう。
【0020】
本明細書において、「抗体応答スコア」とは、「子宮内膜症鑑別マーカー」である自己抗体または「子宮内膜症鑑別マーカーセット」に含まれる各自己抗体における各鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベルにより定まるスコアである。スコアの種類や算定方法は特に制限されない。一実施の形態において抗体応答スコアは、それぞれの鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルをそのままスコアとして扱うことができる。また別の実施形態においては、子宮内膜症鑑別マーカーごとに抗体応答レベルのカットオフ値を設定し、当該カットオフ値との比較により定まるスコアとすることができる(例えば、特定の鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベルがカットオフ値以上であれば抗体応答スコアを「1」とし、カットオフ値未満であれば抗体応答スコアを「0」または「-1」とする)こともできる。
本明細書において、「検体スコア」とは被検試料ごとに与えられる「子宮内膜症鑑別マーカー」または「子宮内膜症鑑別マーカーセット」に対する自己抗体の抗体応答レベルにより求められるスコアである。スコアの種類や算定方法は特に制限されないが、例えば、「検体スコア」は各被検試料における「鑑別用抗原タンパク質」または「鑑別用抗原タンパク質群」に対する自己抗体の抗体応答レベルの総和または抗体応答スコアの総和として扱うことができる。
【0021】
本明細書において「測定値」とは、鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルの測定方法によって得られた値である。測定値は定量的な値として扱ってもよく、また定性的な値として扱ってもよい。測定値は、試料中の抗体量等をng(ナノグラム)やμg(マイクログラム)等の重量で表した絶対値であってもよいし、また対照値に対する吸光度や標識分子による蛍光強度等で表した相対値であってもよい。
なお、各自己抗体の抗体応答レベルの測定値は測定方法にもよるが、例えば、共通のサンプル(以下「共通リファレンス」という。)に対する相対比(抗体応答比)として算出することができる。抗体応答比を算出する際の共通リファレンスは、比較する試料間の測定条件において同じであればどのようなものでも構わない。例えば、Goat Reference Antibody Mixture I(Fukushima Protein Factory社)など市販の抗体混合物を共通リファレンスとして用いることもできる。
【0022】
本明細書において「抗体応答レベル」とは、鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の結合強度(親和性)、又は、抗体濃度を含む。ここでいう抗体応答レベルは、鑑別用抗原タンパク質の野生型タンパク質に対する抗体応答レベルに限らず、点突然変異遺伝子等の変異遺伝子などによりコードされるタンパク質に対する抗体応答レベルも含み得る。
【0023】
1-3.測定方法
本発明に係る被検者における子宮内膜症の鑑別する方法は、鑑別用抗原タンパク質に対する前記被検者由来の自己抗体を検出する工程を含む。ここで子宮内膜症鑑別マーカーとはより具体的には、A4GNTタンパク質、ADGRB3タンパク質、ANK1タンパク質、ARRB1タンパク質、ATP5Hタンパク質、BPHLタンパク質、BRAFタンパク質、C15orf57タンパク質、C19orf84タンパク質、C1orf216タンパク質、C5orf15タンパク質、C7orf25タンパク質、CCDC26タンパク質、CCL2タンパク質、CD320タンパク質、CDC73タンパク質、CDIP1タンパク質、CRCPタンパク質、CTNNBIP1タンパク質、CXorf21タンパク質、DR1タンパク質、EID1タンパク質、EIF1AYタンパク質、KCNMB3タンパク質、KIF3Cタンパク質、LRRFIP1タンパク質、MPHOSPH6タンパク質、MYH7タンパク質、PABPC1L2Aタンパク質、PAIP2タンパク質、PHC3タンパク質、PIANPタンパク質、PIH1D3タンパク質、POLE3タンパク質、POLR2Aタンパク質、POM121L12タンパク質、PSMA1タンパク質、PTPN20タンパク質、RARRES1タンパク質、RBM48タンパク質、RGCCタンパク質、RGP1タンパク質、RNASEH1タンパク質、SDCBP2タンパク質、SHC4タンパク質、SLC35E2Bタンパク質、SMOC1タンパク質、SPACA7タンパク質、STMN3タンパク質、TIAL1タンパク質、TMEM74タンパク質、TUBB2Aタンパク質、UQCR10タンパク質、XAGE2タンパク質、ZKSCAN8タンパク質、ZNF398タンパク質、および、ZNF471タンパク質からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質である。
【0024】
本発明に係る被検者における子宮内膜症の鑑別する方法は一実施の形態において、鑑別用抗原タンパク質に対する当該被検者由来の自己抗体を検出する工程が、当該鑑別用抗原タンパク質に対する当該被検者由来の自己抗体の抗体応答レベルを測定する工程である。
【0025】
以下、検出方法および測定方法について具体的に説明をする。
「検出工程」とは、子宮内膜症鑑別マーカーを抗原として認識する(抗体反応を示す)被検者由来の自己抗体の有無を検出する工程である。
「測定工程」とは、鑑別用抗原タンパク質に対する被検試料由来の自己抗体の抗体応答レベルを測定してその測定値を得る工程である。一実施の形態において自己抗体の抗体応答レベルの測定は、各鑑別用抗原タンパク質における単位量あたりの抗体応答レベルを測定することが好ましい。
【0026】
鑑別用抗原タンパク質は、上記56のタンパク質から少なくとも1つ以上を選択することができる。選択するタンパク質の数は、1~56のいずれの組み合わせでもよい。鑑別用抗原タンパク質の数が増えた場合、子宮内膜症の罹患の有無の鑑別の精度が向上する点において好ましい。二以上のタンパク質を選択する場合、当該タンパク質の組み合わせも限定されない。
一つまたは二以上のタンパク質を選択して測定する場合、一実施の形態において複数の鑑別用抗原タンパク質の組み合わせは、図4に示す抗体応答レベルの測定結果を参照して、子宮内膜症患者(27例)の80%以上(好ましくは、85%、90%、95%以上)の患者が鑑別可能なように鑑別用抗原タンパク質を選択する。より具体的には、3.00以上の抗体応答レベルを示した鑑別用抗原タンパク質と子宮内膜症患者との組み合わせを確認し、図4中の子宮内膜症患者のうちの80%以上において3.00以上の抗体応答レベルを示すことのできる複数の鑑別用抗原タンパク質の組み合わせとすることができる。また別の実施の形態では、図4中の子宮内膜症患者のうちの病歴がない患者の80%以上において3.00以上の抗体応答レベルを示すことのできる複数の鑑別用抗原タンパク質の組み合わせとすることができる。また好ましい一実施の形態において鑑別用抗原タンパク質の組み合わせは、健常者または子宮内膜症患者群との抗体応答レベルのp値が0.05以下、より好ましくは0.01以下となるように選択することができる。また別の実施の形態において当該鑑別用抗原タンパク質の組み合わせは、子宮内膜症患者群と健常者群においてROC曲線を描いた際に、感度および特異度が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上となるカットオフ値を設定可能なように選択することができる。しかしながら、複数の鑑別用抗原タンパク質の選択方法は上記の方法に限定されない。
【0027】
本明細書において「被検試料」とは、被検者より採取された試料である。「被検者」は特に制限されないが、子宮内膜症の罹患に疑いのある個体、または、子宮内膜症に罹患歴のある個体であってもよい。ここでいう「子宮内膜症に罹患歴のある個体」とは、現在子宮内膜症に罹患している患者、及び過去に子宮内膜症に罹患した子宮内膜症既往歴者を含む。また本明細書において「被検者」は、試料を提供し、検査に供されるヒト個体である。
【0028】
本明細書において「被検者」は、年齢、身長、体重等の身体的条件や、人数は特に制限はされない。被検者は女性であることが好ましい。一方、健常者は男性であっても女性であってもよく、女性であることがより好ましい。女性のみからなる健常者群の抗体応答レベルと被検者の抗体応答レベルと比較した場合、健常者群に男性を含む場合と比較して確度が高くなる点において好ましい。
本発明の鑑別方法は、被検者が子宮内膜症以外の他の疾患に罹患していても鑑別可能である。他の疾患の例としては、以下に限定されないが、高血圧、糖尿病、関節リウマチ、心疾患(心室中隔欠損症、心室中隔欠損症など)、腎疾患(嚢胞腎腎疾患など)、脂質異常症(高コレステロール血症など)、虫垂炎、脳血管障害(もやもや病など)を挙げることができる。
一方、本発明の鑑別方法は一実施の形態において、子宮内膜症以外の他の疾患に罹患していない被検者を対象とする。
【0029】
本明細書において「試料」とは、前記被検者から採取され、本態様の鑑別方法に供されるものであって、例えば、体液、組織、または、細胞が該当する。ここでいう「体液」とは、被検者から採取された液体状の生体試料をいう。例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、髄液(脳脊髄液)、尿、リンパ液、唾液、汗、粘液、涙、鼻汁、消化液、腹水、胸水、神経根周囲液、各組織若しくは細胞の抽出液等が挙げられる。好ましくは血液、間質液、リンパ液である。またここでいう「組織」及び「細胞」は、被検者のいずれの部位由来でもよいが、好ましくは生検により採取された、又は手術により切除された検体である。生検組織の例は、口唇腺、涙腺、顎下腺、及び腎臓由来の生検組織であるが、これに限定されない。
試料の採取は、体液であれば、当該分野の公知の採取方法に基づいて行なえばよい。例えば、血液やリンパ液であれば公知の採血方法に従えばよい。また組織又は細胞であれば、生検又は手術による外科的摘出により入手すればよい。
【0030】
本態様の検出方法において必要となる試料の量は、特に限定するものではない。血液、又はリンパ液のような体液であれば、少なくとも0.1mL、好ましくは少なくとも1mL、より好ましくは少なくとも10mLの容量があればよい。組織又は細胞であれば少なくとも10μg、好ましくは少なくとも0.1mgあれば望ましい。また生検材料でも構わない。被検試料は、子宮内膜症鑑別マーカーに対する自己抗体の抗体反応の検出または測定が可能なように、必要に応じて調製、処理することができる。例えば、血液であれば、採血後の遠心分離処理による血清の回収を挙げることができる。血清の調製方法は公知の方法に準じで行うことができる。試料が組織又は細胞であれば、ホモジナイズ処理や細胞溶解処理、遠心や濾過による夾雑物除去、プロテアーゼインヒビターの添加等が挙げられる。これらの処理の詳細についてはGreen & Sambrook, Molecular Cloning, 2012, Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Pressに詳しく記載されており、参考にすることができる。
【0031】
本明細書において「単位量」とは、任意に定められる試料の量をいう。例えば、容量(μL、mLで表される)や重量(μg、mg、gで表される)が該当する。単位量は特に特定しないが、一連の検出方法または測定方法で測定される単位量は一定とすることが好ましい。例えば、健常者由来の被検試料と子宮内膜症患者由来の被検試料とを比較する場合、単位量を一定とすることでより正確な検出が可能となる。特に、自己抗体の抗体応答レベルを絶対値として測定する際には、単位量を一定にする必要がある。
【0032】
以下、子宮内膜症鑑別マーカーの検出および抗体応答レベルの測定方法について具体的に説明をする。なお、抗原を特異的に認識する抗体の検出方法および抗原抗体反応における結合強度(親和性)の測定や、抗原を特異的に認識する抗体の抗体濃度の測定方法は公知である。以下では代表的な抗体の検出方法又は抗体の測定方法を説明するが、これらの方法に限定されず、公知の検出方法および測定方法を用いることができる。
【0033】
子宮内膜症鑑別マーカーの検出または測定は、鑑別用抗原タンパク質に対する被検者由来の自己抗体の結合の検出または抗体応答レベルを測定できるものであれば限定されず、公知の抗体検出または測定方法を採用することができる。このような方法としては以下に限定されないが、例えば、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法(LIA)、酵素抗体法、蛍光抗体法、イムノクロマトグラフィー法、免疫比濁法、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応測定法、赤血球凝集反応法、粒子凝集反応法等を挙げることができる。
【0034】
本発明の測定方法を、酵素免疫測定法などの標識免疫測定法を測定原理とする方法により実施する場合、間接法、サンドイッチ法、又は競合法等のいずれの手法においても本発明を適用することができる。本発明の測定方法においては、測定は用手法により行ってもよいし、又は分析装置等の装置を用いて行ってもよい。
間接法により鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の結合の検出または抗体応答レベルの測定を行う場合には、例えば、固相に鑑別用抗原タンパク質を固定し、被検者由来の試料中に含まれる自己抗体と鑑別用抗原タンパク質とを反応させ、反応後の自己抗体を認識する標識した抗ヒトIgG抗体を用いて自己抗体の検出または抗体応答レベルの測定を行うことができる。
【0035】
1-4.鑑別方法
本発明に係る被検者における子宮内膜症を鑑別する方法は、上記のようにして検出または測定した鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の有無または抗体応答レベルをもとに、子宮内膜症の有無を鑑別する。
【0036】
ここで、本発明の鑑別方法の一実施の形態は、測定工程において測定された鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルと、子宮内膜症患者由来の試料における対応する鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベルとを比較する工程を含み、子宮内膜症の罹患の有無を鑑別する。ここで、鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベルの比較は、単独の鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベル同士の比較に加え、二以上の鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベルより得られる抗体応答プロファイル同士の比較も含まれる。ここで抗体応答プロファイルとは複数の抗体応答レベルを含み、また、複数の抗体応答レベルを集合させた情報を意味する。
【0037】
被検試料に対して比較対象となる、子宮内膜症患者または健常者由来の自己抗体の抗体応答レベルまたは抗体応答プロファイルは、予め測定したものを用いてもよいし、または、新たに子宮内膜症患者または健常者由来の試料について鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルを検出または測定したものを用いても良い。
よって、本発明に係る鑑別方法は一実施の形態において、鑑別用抗原タンパク質に対する子宮内膜症患者または健常者由来の自己抗体を検出する工程を含む。また本発明に係る鑑別方法は一実施の形態において、子宮内膜症患者または健常者由来の自己抗体と鑑別用抗原タンパク質との抗体応答レベルを測定する工程をさらに含む。この工程により得られた抗体応答レベルまたは抗体応答プロファイル(以下、「抗体応答レベル等)という)と被検試料の抗体応答レベル等とを比較することができる。子宮内膜症患者もしくは健常者由来の試料は、1個体由来の試料でもよいし、2個体以上の試料を含んでいてもよい。由来する個体の数が多いほど、試料の個体差を平均化でき、検出の精度が高まるので好ましい。
【0038】
ここで、測定工程において得られた鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等と、子宮内膜症患者または健常者由来の被検試料における対応する鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等とを比較する工程は、例えば、被検試料が、子宮内膜症患者由来の試料における対応する鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等と同等の抗体応答レベル等を有する場合に子宮内膜症に罹患していると評価するか、または、健常者由来の試料における対応する鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等と異なる抗体応答レベル等を有する場合に子宮内膜症に罹患している(またはその可能性が高い)と評価することができる。また被検試料が健常者由来の試料における対応する鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等と同等の発現レベル等を有する場合に子宮内膜症に罹患していないと評価するか、または、子宮内膜症患者由来の試料における対応する鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等と異なる抗体応答レベル等を有する場合に子宮内膜症に罹患していない(またはその可能性が高い)と評価することができる。
【0039】
ここで、「同等の抗体応答レベル等を有する」とは鑑別用抗原タンパク質群に含まれる各タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等が同じであるかまたは類似していることをいう。また、「異なる抗体応答レベル等を有する」とは、鑑別用抗原タンパク質群に含まれる各タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等が類似していないことをいう。
鑑別用抗原タンパク質群に含まれる各タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等が同等であるか異なっているかについて判断する具体的な手法は、公知の方法を採用することができる。以下に限定されないが、例えば、(i)階層的クラスタリング分析に基づいて被検試料を子宮内膜症群および健常者群へ分類する方法、(ii)抗体応答レベル等の比較により評価する方法、(iii)閾値の設定により被検試料が子宮内膜症に罹患しているか否かを評価する方法などを挙げることができる。
【0040】
(i)階層的クラスタリング分析
本発明の鑑別方法は一実施の形態において、被検試料における鑑別用抗原タンパク質群に含まれる各タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベル等をクラスタ分析することにより被検試料の分類が可能となる。クラスタ分析に用いるデータは、鑑別用抗原タンパク質群に含まれる複数のタンパク質に対する自己抗体の抗体応答プロファイルであることが好ましい。
より具体的には、被検試料において測定した抗体応答レベル等を、子宮内膜症患者由来の試料における対応する鑑別用抗原タンパク質群に対する抗体応答レベル等と比較して階層的クラスタ分析を行うことができる。階層的クラスタリング分析により被検試料を提供する被検者子宮内膜症に罹患しているか否かを鑑別する際には、階層的クラスタを作成できるように、(i)被検試料における鑑別用抗原タンパク質群に対する抗体応答レベル等、および、(ii)子宮内膜症患者または健常者由来の試料における鑑別用抗原タンパク質群に対する抗体応答レベル等が必要となる。
階層的クラスタ分析の手法は公知の手法を採用することができる。特に本発明における好ましい実施形態においては、ユークリッド距離による群平均法によるクラスタ分析である。クラスタ分析には公知のソフトウェアを用いることができ、以下に限定されないが、例えば、市販のソフトウェアとしてExpressionView Pro software(MicroDiagnostic, Tokyo, Japan)を用いることができる。
階層的クラスタ分析を行うことで、子宮内膜症に罹患している患者由来に属するクラスタと、健常者に属するクラスタとからなる階層構造(樹形図)を描くことができる。これにより、被検試料を提供する被検者が、子宮内膜症に罹患しているか否かを鑑別することができる。
【0041】
(ii)抗体応答レベルの比較により評価する方法
一実施の形態においては、被検試料における鑑別用抗原タンパク質群に含まれる各タンパク質に対する抗体応答レベル等と、子宮内膜症患者または健常者由来の試料における対応する鑑別用抗原タンパク質群に含まれる各タンパク質に対する抗体応答レベル等とを比較することにより、被検者のホルモン治療感受性の有無を鑑別することができる。
以下に限定されないが、一形態を挙げて説明すると、複数の鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベルを測定し、子宮内膜症患者または健常者における各鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベルの合計値をそれぞれ群散布図として作図して、被検試料における自己抗体(子宮内膜症鑑別マーカーセット)の抗体応答レベルの合計値がどこにプロットされるかを確認する。プロットされた位置により、被検試料を提供する被検者が子宮内膜症に罹患している可能性が高いか否かを評価することができる。一実施の形態において、プロットした値が、比較対象の抗体応答レベル(もしくは抗体応答レベルの合計値)またはそれらの群散布図における平均値に対して有意差を有しないときに「同等の抗体応答レベル等を有する」と判断することができ、有意差を有するときに「異なる抗体応答レベル等を有する」と判断することができる。
【0042】
(iii)閾値の設定により鑑別する方法
一実施の形態においては、被検試料における子宮内膜症鑑別マーカーに対する抗体応答レベル等を、所定の閾値と比較することにより子宮内膜症に罹患しているか否かを鑑別することができる。
ここで、「所定の閾値」とは、子宮内膜症患者または健常者由来の試料における鑑別用抗原タンパク質に対する抗体応答レベル等に基づく所定のカットオフ値をいう。カットオフ値の設定は、例えば、以下のようにして設定することができるが、これに限定されない。すなわち、子宮内膜症患者、または、健常者由来の試料について鑑別用抗原タンパク質群に含まれるタンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルを測定し、各試料について抗体応答レベル等を算出する。次いで、得られた抗体応答レベル等の値からROC曲線を作成することにより所定のカットオフ値を導くことができる。ROC曲線は例えば、子宮内膜症患者における抗体応答レベルと健常者における抗体応答レベルとに基づいて作成することができる。カットオフ値を設定することにより、被検試料より得られた子宮内膜症鑑別マーカーに対する抗体応答レベル等が当該カットオフ値を超えるか否かで、子宮内膜症に罹患している否か、もしくはその可能性について鑑別することができる。
【0043】
「ROC曲線(Receiver Operatting Characteristic curve、受信者動作特性曲線)」は、縦軸を真陽性率(TPF: True Position Fraction)、すなわち感度、横軸を偽陽性率(FPF: False Position Fraction)、すなわち(1-特異度)とし、検査結果のどの値を所見ありと判断するかの閾値、つまりカットオフポイント(cutoff point)を媒介変数として変化させてプロットしていくことで作成される。特異度とは、陰性者を正確に陰性と判断する率である。
作成したROC曲線からカットオフ値を設定する方法は、基本的に感度、特異度をともに高める(1に近づくようする)ように設定することができる。そのためには、カットオフ値がROC曲線上で点(0,1)に最も近い点を与える値に設定すればよい。最も好ましい実施の形態においては、子宮内膜症患者群と健常者群由来の試料とを明確に区別可能なカットオフ値とすることである。
【0044】
1-5.効果
本態様の被検者における子宮内膜症の鑑別する方法によれば、被検者由来の試料における鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の存在、または、当該自己抗体の抗体応答レベルを調べることで、その被検者が子宮内膜症に罹患しているか否かを鑑別することができる。
【0045】
2.鑑別用抗原タンパク質
本発明の別の態様は、子宮内膜症の鑑別に用いる鑑別用抗原タンパク質を提供する。鑑別用抗原タンパクは第1の態様において説明した通りである。
【0046】
3.抗体検査剤
本発明の別の態様は、被検者における子宮内膜症の鑑別するための抗体検査剤を提供する。本発明の抗体検査剤は鑑別用抗原タンパク質を含む。一実施の形態において、本発明の抗体検査剤は鑑別用抗原タンパク質に加えて、当該鑑別用抗原タンパク質を表面に固定した基材を含んでもよい。
【0047】
本発明に用いることのできる基材としては、被検者由来の自己抗体が認識できるようにその表面上に鑑別用抗原タンパク質を固定化できるものであれば限定されない。抗体を用いた生物学的な解析に影響を与えない不活性な材質からなる物質が好ましい。このような基材としては、金属、金属酸化物、ガラス、石英、シリコン、セラミックなどの無機材料、エラストマー、プラスチック、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂などの合成高分子、キチン、キトサン、セルロースなどの天然高分子を挙げることができる。基板の形状は限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜などの平坦な形状や、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路、微粒子、多孔性担体、マイクロチップなどの立体的な形状が挙げられる。基板としては、ガラス、石英またはシリコンからなる基板がより好ましく、ガラスがさらに好ましい。
タンパク質を基材である固相に固定化する技術は公知であり、鑑別用抗原タンパク質と自己抗体とが抗原抗体反応をし得る限り限定されず、物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの併用等の公知の方法により行うことができる。
【0048】
本発明の抗体検査剤に対して、被検者由来の試料(例えば血清)を接触させることにより当該試料中に含まれる自己抗体が鑑別用抗原タンパク質に結合し、鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の検出、または、当該自己抗体の抗体応答レベルを測定することができる。
【0049】
4.キット
本発明の別の態様は、被検者における子宮内膜症の鑑別するための抗体検査キットを提供する。本発明の抗体検査キットは、抗体検査剤に加えて、リファレンス抗体、緩衝液、保存料、希釈剤、ブロッキング液、洗浄液、使用説明書等の任意の構成要素を適宜含む。
【0050】
以下実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例0051】
(実施例1.血中抗体プロファイリング)
本実施例では、子宮内膜症患者(11例)および健常者(29~37歳女性:5例)の血中に含まれる抗体のプロファイルを取得し、子宮内膜症患者を鑑別可能な子宮内膜症鑑別マーカーの抽出を試みた。
血中抗体プロファイル取得のためのタンパク質マイクロアレイは、16,680種類の合成ヒトタンパク質をカスタムアレイヤーでスライドガラス上にアレイ化したものを用いた。タンパク質マイクロアレイは、非特許文献3に記載の方法で作製した。具体的には、超微量分注装置(マイクロダイアグノスティク社製)を用いて、同社推奨のプロトコルに従ってタンパク質をスライドガラス(松波硝子工業社製)にプリントして作製した。
タンパク質マイクロアレイをエタノールで30秒間浸した後、超純水にて30秒間、2回洗浄した。次に、溶液置換のため、タンパク質マイクロアレイをタンパク質マイクロアレイ専用solution A(Fukushima Protein Factory社)に浸して、26℃の環境で5分間振盪した。その後、タンパク質マイクロアレイをブロッキングワン(Nacalai tesque)に浸して、26℃の環境で1時間振盪し、タンパク質マイクロアレイ専用solution Aに置換した。
タンパク質マイクロアレイ専用一次抗体希釈液(Fukushima Protein Factory社)に、4,000分の1量のGoat Reference Antibody Mixture I(Fukushima Protein Factory社)を添加した。この溶液を用いて、上記子宮内膜症患者および健常者由来のヒト血清をそれぞれ2,000分の1になるように希釈し一次抗体溶液とした。
一次抗体溶液2ミリリットルをタンパク質マイクロアレイ用カセットP-DE1(Fukushima Protein Factory社)に添加した。タンパク質マイクロアレイを当該カセットに挿入して蓋をし、専用クリップ8個で密閉し、37℃の環境で17時間反応させた(一次抗体反応)。
一次抗体反応後、タンパク質マイクロアレイをタンパク質マイクロアレイ専用 solution Aで26℃の環境で1分間洗浄を3回したのち、5分間静置し、再び3分間洗浄を3回した。
タンパク質マイクロアレイ専用二次抗体希釈液(Fukushima Protein Factory社)に500分の1量のCy3標識anti-Goat IgG抗体とAlexa Fluor 647標識anti-Human IgG抗体を添加し二次抗体溶液とした。
二次抗体溶液2ミリリットルをタンパク質マイクロアレイ用カセットP-DE1に添加した。タンパク質マイクロアレイを当該カセットに入れて蓋をし、専用クリップ8個で密閉し、26℃の環境で1時間反応させた(二次抗体反応)。
二次抗体反応後、タンパク質マイクロアレイをタンパク質マイクロアレイ専用solutionAで26℃の環境で1分間洗浄を3回したのち、5分間静置し、再び3分間洗浄を3回した。
タンパク質マイクロアレイをタンパク質マイクロアレイ専用solutionB(Fukushima Protein Factory社)で30秒間洗浄を2回した後、タンパク質マイクロアレイ専用最終洗浄液(Fukushima Protein Factory社)で30秒間洗浄を4回した。
タンパク質マイクロアレイを1,500 rpmで1分間遠心して乾燥させ、GenePix 4000B scannerでスキャンした。
GenePix Pro 7.0 software(Axon Instruments, Inc.,)を用いて、各被検試料におけるAlexa Fluor 647の蛍光強度はリファレンス抗体由来のCy3の蛍光強度で除することにより発現比(Alexa Fluor 647の蛍光強度/リファレンス抗体由来Cy3の蛍光強度)を算出した。次に発現比をLog2に変換し、外れ値を除いた中央68%の平均値で除することでノーマライズした。さらに、被検試料を加えずに取得したネガティブコントロールデータに対する2次比に変換した。最終的な値(少数点第3位以下四捨五入)を抗体応答レベル値と名付けた。なお、発現比の変換はExcel software(Microsoft, Bellevue, WA, USA)を用いた。
【0052】
(実施例2.子宮内膜症鑑別マーカーの抽出)
実施例1で得た子宮内膜症患者の血清(11例)と健常者(29~37歳女性)の血清(5例)の血中抗体プロファイルデータを用い、健常者群で抗体応答レベルの値が2.0以上であるものが0症例、かつ、子宮内膜症患者群で抗体応答レベルの値が3.0以上であるものが2症例以上の抗原を抽出したところ、56種類の抗原が特定された。56種の抗原は、A4GNTタンパク質、ADGRB3タンパク質、ANK1タンパク質、ARRB1タンパク質、ATP5Hタンパク質、BPHLタンパク質、C15orf57タンパク質、C19orf84タンパク質、C1orf216タンパク質、C5orf15タンパク質、C7orf25タンパク質、CCDC26タンパク質、CCL2タンパク質、CD320タンパク質、CDC73タンパク質、CDIP1タンパク質、CRCPタンパク質、CTNNBIP1タンパク質、CXorf21タンパク質、DR1タンパク質、EID1タンパク質、EIF1AYタンパク質、KCNMB3タンパク質、KIF3Cタンパク質、LRRFIP1タンパク質、MPHOSPH6タンパク質、MYH7タンパク質、PABPC1L2Aタンパク質、PAIP2タンパク質、PHC3タンパク質、PIANPタンパク質、PIH1D3タンパク質、POLE3タンパク質、POLR2Aタンパク質、POM121L12タンパク質、PSMA1タンパク質、PTPN20タンパク質、RARRES1タンパク質、RBM48タンパク質、RGCCタンパク質、RGP1タンパク質、RNASEH1タンパク質、SDCBP2タンパク質、SHC4タンパク質、SLC35E2Bタンパク質、SMOC1タンパク質、SPACA7タンパク質、STMN3タンパク質、TIAL1タンパク質、TMEM74タンパク質、TUBB2Aタンパク質、UQCR10タンパク質、XAGE2タンパク質、ZKSCAN8タンパク質、ZNF398タンパク質、および、ZNF471タンパク質であった。これらの抗原を「鑑別用抗原タンパク質」と名付け、鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体を「子宮内膜症鑑別マーカー」として抽出した。
【0053】
上記「鑑別用抗原タンパク質」のGene symbol、Gene name、Resource clone ID、および、アミノ酸配列を特定する配列番号を下記表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
子宮内膜症患者(11例)および健常者(29~37歳女性:5例)の鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルの値を図1に示す。
また実施例1で得られた抗体応答レベルから各検体の抗体応答スコアを算出した。具体的には、抗体応答レベル値のマイナスの値を0に置き換えてから、鑑別用抗原タンパク質56スポット分を合計した。図2は当該抗体応答レベルのヒートマップ図と検体ごとの抗体応答スコアをグラフとして表示する。図3は子宮内膜症患者群および健常者群ごとに各検体の抗体応答スコアを群散布図として示す。図3に示すように、子宮内膜症患者群と健常者群との間でスチューデントのt検定による二群比較をしたところ有意な差を示した(p=5.2347×10-6)。
【0056】
(実施例3.子宮内膜症鑑別マーカーによる鑑別の検証)
本実施例では、鑑別用抗原タンパク質に対する被検者由来の自己抗体の抗体応答レベルを測定することにより、子宮内膜症の罹患の有無が鑑別可能であるか検証した。
本実施例では、実施例1および2と異なる、新たな子宮内膜症患者の血清(16例)および健常者(17~74歳女性)の血清(5例)を検証群として用いた。なお検証群の子宮内膜症患者の中には他の疾患を有する者を一部含む。各検体番号と合併症との関係は以下の通り:FMU#16987:高血圧、FMU#17002:糖尿病、FMU#17028:関節リウマチ、FMU#17152:関節リウマチ、FMU#17275:心室中隔欠損症、FMU#17287:嚢胞腎、家族性高コレステロール血症、FMU#17308:虫垂炎、FMU#17310:もやもや病。上記検証群由来の血清を用いて、実施例1と同様に、鑑別用抗原タンパク質に対する被検者由来の自己抗体の抗体応答レベルを測定した。測定後、血中の抗体プロファイルデータの中から、実施例2で特定した56種類の抗原(鑑別用抗原タンパク質)に対する抗体応答レベルのデータを抽出し、実施例2で用いたデータと合わせて比較した。また検体ごとに実施例2と同様に抗体応答スコアを算出した。
【0057】
実施例3で測定した検証群(子宮内膜症患者(16例)および健常者(17~74歳女性:5例))における鑑別用抗原タンパク質に対する自己抗体の抗体応答レベルの値を図4に示す(図4は比較のための図1のデータを含む)。また図5は当該抗体応答レベルのヒートマップ図と検体ごとの抗体応答スコアをグラフとして表示する。さらに図6は、子宮内膜症群と健常者群それぞれに属する検体を抗体応答スコア順に並び替えた抗体応答レベルのヒートマップ図と対応する抗体応答スコアのグラフを示す。図6に示すように、検証群についても子宮内膜症患者では抗体応答レベルが高く、一方で健常者群では抗体応答レベルが低いことが確認できた。また子宮内膜症の罹患の有無については他の疾患に罹患していても鑑別が可能であった。
図7は子宮内膜症患者群および健常者群ごとに各検体の抗体応答スコアを群散布図として示す。図7に示すように、子宮内膜症患者群と健常者群との間でスチューデントのt検定による二群比較をしたところ有意な差を示した(p=2.332×10-10)。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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