(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106722
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】防曇性被膜形成用塗布剤、防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品
(51)【国際特許分類】
C09D 175/08 20060101AFI20230726BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230726BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230726BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20230726BHJP
C03C 17/28 20060101ALI20230726BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230726BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230726BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C09D175/08
C09D7/63
C09K3/18 101
C03C17/30 A
C03C17/28 A
B05D5/00 G
B32B27/40
B32B17/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007614
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠木 りさ子
(72)【発明者】
【氏名】野村 拓史
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇貴
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4G059
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4D075CA34
4D075CA39
4D075DA06
4D075DB13
4D075DC13
4D075DC24
4D075EA07
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4D075EC43
4D075EC54
4F100AG00A
4F100AK51B
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4F100CA10B
4F100CA30B
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4F100GB32
4F100GB41
4F100JB05B
4F100JB06B
4G059AA01
4G059AA11
4G059AC21
4G059FA01
4G059FA17
4G059FA20
4G059FA30
4H020BA00
4J038DG131
4J038DG262
4J038DL051
4J038JA11
4J038JA27
4J038JB01
4J038KA06
4J038MA07
4J038MA09
4J038NA06
4J038PA07
4J038PA18
4J038PA19
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】1液で、毛染剤除去性及びうがい薬除去性に優れ、かつ水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい防曇性被膜形成用塗布剤、上記防曇性被膜形成用塗布剤を用いた防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品を提供すること。
【解決手段】(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートと、(B)オキシエチレンユニットを繰り返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に3つ以上有するポリオールと、(C)溶媒と、を含む、防曇性被膜形成用塗布剤、上記防曇性被膜形成用塗布剤を用いた防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートと、
(B)オキシエチレンユニットを繰り返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に3つ以上有するポリオールと、
(C)溶媒と、
を含む、防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項2】
前記ポリオール(B)が、分岐型ポリオールである、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項3】
前記ポリオール(B)が、環状ポリオールである、請求項1に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項4】
さらに、(D)撥水剤または(E)親水剤を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項5】
ウレタン形成成分中のイソシアネート基の数n(NCO)と、ウレタン形成成分中の水酸基の数n(OH)との比であるn(NCO)/n(OH)が1.0~3.0である、請求項1~4のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項6】
前記ポリイソシアネート(A)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項7】
前記ポリオール(B)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項8】
前記撥水剤(D)または親水剤(E)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%である、請求項4に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
【請求項9】
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品の製造方法であって、
基材の表面に、請求項1~8のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤を塗布し、塗膜を形成する工程(1)と、
前記塗膜から前記溶媒(C)を蒸散させ、前記塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する工程(2)と、
を備える、防曇性物品の製造方法。
【請求項10】
前記基材はガラス基材である請求項9に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項11】
前記ガラス基材の表面には、シランカップリング剤が塗布されている、請求項10に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項12】
前記工程(2)において、前記ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基と、前記ポリオール(B)のヒドロキシ基が反応し、ポリウレタンを形成する、請求項9~11のいずれか1項に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項13】
前記工程(2)において、前記塗膜を80~170℃で加熱する、請求項9~12のいずれか1項に記載の防曇性物品の製造方法。
【請求項14】
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品であって、
前記防曇性被膜は、請求項1~8のいずれか1項に記載の防曇性被膜形成用塗布剤の硬化物であるポリウレタン樹脂を含む被膜であり、
前記防曇性被膜の膜厚は5μm~50μmである、
防曇性物品。
【請求項15】
前記基材はガラス基材である請求項14に記載の防曇性物品。
【請求項16】
前記ガラス基材の表面には、シランカップリング剤が塗布されている、請求項15に記載の防曇性物品。
【請求項17】
水平に置いた前記防曇性被膜の表面に水を滴下し、60℃で1時間乾燥させた後に水垢を除去し、水垢が付着していた部分の膨潤部の段差が200nm以下である、請求項14~16のいずれか1項に記載の防曇性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防曇性被膜形成用塗布剤、防曇性物品の製造方法、及び防曇性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室用・洗面化粧台用の鏡、自動車の窓ガラスやカメラのレンズ等の透明基材の視認性を確保するために、これらの基材の表面に曇り防止機能を付与することが強く求められている。
【0003】
鏡やガラスなどのガラス基材の主面に生じる曇りは、無数の微小な水滴が基材表面上に生じる結露現象によって生じる。この曇りを防ぐために、基材表面上に生じた無数の微小な水滴を一様な水膜とする親水性被膜、水蒸気や水滴を被膜中に取り込むことで防曇性を発揮する吸水性被膜等を基材上に形成する技術が検討されている。
【0004】
昨今、防曇性だけでなく、基材表面に汚れが付きにくい防汚性を兼ね備えることが求められることがある。特許文献1には、防曇性に加えて、防汚性を付与するために、基材上にポリウレタン被膜と、防汚剤を含む組成物の硬化物からなる被膜とを積層した構造を有する防曇性物品が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、イソシアネート化合物、共重合ポリオール、アクリルポリオール、及び特定の構造の界面活性剤を含み、イソシアネート化合物とアクリルポリオールの含有量が特定の範囲内である防曇性被膜形成用塗布剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-4350号公報
【特許文献2】特許第6578479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、基材上にポリウレタン被膜を設け、さらにその上に防汚剤を含む組成物からなる被膜を積層することにより、防曇性と防汚性に優れる防曇性物品としている。
【0008】
特許文献1では、少なくとも、ポリウレタン被膜形成用の塗布剤と、防汚剤を含む塗布剤という2種の塗布剤が必要であり、かつ塗布工程を少なくとも2回行う必要がある。
【0009】
また、特許文献2では親水性及び耐傷付き性を両立する防曇性被膜形成用塗布剤が記載されているが、鏡やガラスなどの防曇性被膜を設けた防曇性物品の表面には、毛染剤やうがい薬が付着することがあり、これらの除去性に優れる防曇性物品が求められている。さらに、表面に付着した水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい防曇性物品が求められている。
【0010】
本開示は、1液で、毛染剤除去性及びうがい薬除去性に優れ、かつ水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい防曇性被膜形成用塗布剤を提供することを目的とする。
【0011】
また、本開示は、1回の塗布工程により毛染剤除去性及びうがい薬除去性に優れ、かつ水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい防曇性物品を製造できる防曇性物品の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本開示は、毛染剤除去性及びうがい薬除去性に優れ、かつ水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい、単層の防曇性被膜を有する防曇性物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の課題は、下記構成により解決される。
<1>
(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートと、
(B)オキシエチレンユニットを繰り返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に3つ以上有するポリオールと、
(C)溶媒と、
を含む、防曇性被膜形成用塗布剤。
<2>
前記ポリオール(B)が、分岐型ポリオールである、<1>に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
<3>
前記ポリオール(B)が、環状ポリオールである、<1>に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
<4>
さらに、(D)撥水剤または(E)親水剤を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
<5>
ウレタン形成成分中のイソシアネート基の数n(NCO)と、ウレタン形成成分中の水酸基の数n(OH)との比であるn(NCO)/n(OH)が1.0~3.0である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
<6>
前記ポリイソシアネート(A)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
<7>
前記ポリオール(B)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
<8>
前記撥水剤(D)または親水剤(E)の含有量が、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%である、<4>に記載の防曇性被膜形成用塗布剤。
<9>
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品の製造方法であって、
基材の表面に、<1>~<8>のいずれか1つに記載の防曇性被膜形成用塗布剤を塗布し、塗膜を形成する工程(1)と、
前記塗膜から前記溶媒(C)を蒸散させ、前記塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する工程(2)と、
を備える、防曇性物品の製造方法。
<10>
前記基材はガラス基材である<9>に記載の防曇性物品の製造方法。
<11>
前記ガラス基材の表面には、シランカップリング剤が塗布されている、<10>に記載の防曇性物品の製造方法。
<12>
前記工程(2)において、前記ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基と、前記ポリオール(B)のヒドロキシ基が反応し、ポリウレタンを形成する、<9>~<11>のいずれか1つに記載の防曇性物品の製造方法。
<13>
前記工程(2)において、前記塗膜を80~170℃で加熱する、<9>~<12>のいずれか1つに記載の防曇性物品の製造方法。
<14>
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品であって、
前記防曇性被膜は、<1>~<8>のいずれか1つに記載の防曇性被膜形成用塗布剤の硬化物であるポリウレタン樹脂を含む被膜であり、
前記防曇性被膜の膜厚は5μm~50μmである、
防曇性物品。
<15>
前記基材はガラス基材である<14>に記載の防曇性物品。
<16>
前記ガラス基材の表面には、シランカップリング剤が塗布されている、<15>に記載の防曇性物品。
<17>
水平に置いた前記防曇性被膜の表面に水を滴下し、60℃で1時間乾燥させた後に水垢を除去し、水垢が付着していた部分の膨潤部の段差が200nm以下である、<14>~<16>のいずれか1つに記載の防曇性物品。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、1液で、毛染剤除去性及びうがい薬除去性に優れ、かつ水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい防曇性被膜形成用塗布剤を提供することができる。
【0015】
また、本開示によれば、1回の塗布工程により毛染剤除去性及びうがい薬除去性に優れ、かつ水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい防曇性物品を製造できる防曇性物品の製造方法を提供することができる。
【0016】
さらに、本開示によれば、毛染剤除去性及びうがい薬除去性に優れ、かつ水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい、単層の防曇性被膜を有する防曇性物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[防曇性被膜形成用塗布剤]
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、
(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネートと、
(B)オキシエチレンユニットを繰り返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に3つ以上有するポリオールと、
(C)溶媒と、
を含む、防曇性被膜形成用塗布剤である。
<(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネート>
(A)イソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネート(「ポリイソシアネート(A)」とも呼ぶ。)について説明する。
【0018】
ポリイソシアネート(A)は、防曇性被膜(単に「被膜」とも呼ぶ。)の骨格成分を担い、被膜に吸水性と硬度を付与することができる。
【0019】
ポリイソシアネート(A)としては、特に限定されず、例えば、イソシアネート基を2つ以上5つ以下有する化合物が挙げられ、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ビス(メチルシクロヘキシル)ジイソシアネート、トルエンジイソシアネート等が挙げられる。
【0020】
また、ポリイソシアネート(A)は、多量体(例えば、二量体、三量体など)であってもよいし、アロファネート構造、アダクト構造、ビウレット構造及びイソシアヌレート構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を有していてもよい。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたダイマー、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたアロファネート構造を有する化合物、ヘキサメチレンジイソシアネートを出発原料としたビウレット構造を有する化合物等であってもよい。ポリイソシアネート(A)が多量体である場合、数平均分子量は100~20000であることが好ましく、150~5000であることがより好ましく、200~2000であることが特に好ましい。
【0021】
ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基はブロックイソシアネート基であってもよい。ブロックイソシアネート基を有するポリイソシアネート(A)を「ブロックポリイソシアネート(AH)」とも呼ぶ。
【0022】
ブロックイソシアネート基は、イソシアネート基をブロック剤で保護した基であり、熱処理によってブロック剤が解離し、イソシアネート基が再生するものである。
【0023】
ブロックポリイソシアネート(AH)は特に限定されず、例えば、前述のポリイソシアネートのイソシアネート基を公知のブロック剤で保護したものであってもよい。
【0024】
また、ブロックポリイソシアネート(AH)は、分子内にウレタン結合(-NHCOO-)を有していることが好ましい。
【0025】
ブロックポリイソシアネート(AH)の数平均分子量は100~20000であることが好ましく、150~5000であることがより好ましく、200~2000であることが特に好ましい。
<(B)オキシエチレンユニットを繰返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に3つ以上有するポリオール>
(B)オキシエチレンユニットを繰返し単位として備え、ヒドロキシ基を分子内に3つ以上有するポリオール(「ポリオール(B)」とも呼ぶ。)について説明する。
【0026】
ポリオール(B)はオキシエチレンユニットを繰返し単位として備えることで、防曇性被膜に吸水性を付与することができる。オキシエチレンユニットを繰返し単位として備えるとは、分子内に、「-(CH2CH2O)p-」を含むことを示す。pは2以上の整数を表す。
【0027】
ポリオール(B)としては、特に限定されないが、例えば、(B1)ポリエチレングリコール、(B2)オキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットとを繰り返し単位として備える共重合ポリオール等が挙げられ、上記(B1)と上記(B2)を両方含んでもよい。
【0028】
上記(B2)の共重合ポリオールは、開始剤にフォスファゼン化合物、ルイス酸化合物またはアルカリ金属化合物触媒を用い、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドを開環重合させて、ブロック付加またはランダム付加して得られる、ポリエーテルポリオールを使用することができる。
【0029】
上記(B2)の共重合ポリオールのオキシエチレンユニット/オキシプロピレンユニットのモル比は、45/55~90/10としてもよく、好ましくは70/30~80/20としてもよい。
【0030】
ポリオール(B)の数平均分子量は、200~10000であることがより好ましく、300~5000であることが更に好ましく、400~2000であることが特に好ましい。
【0031】
ポリオール(B)は、分岐型ポリオール(分子内に分岐構造を有するポリオール)又は環状ポリオール(分子内に四員環、五員環、六員環などの環状構造を有するポリオール)であることが好ましい。分岐型ポリオールとしては、例えば、トリメチロールプロパンエトキシラート、ペンタエリスリトールエトキシラート、ポリオキシエチレン(13)ポリグリセリルエーテル等が挙げられる。六員環型ポリオールとしては、例えば、ポリオキシエチレンメチルグルコシド(メチルグルセス-10、メチルグルセス-20など)、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。また、ポリオール(B)として分岐型ポリオールと環状ポリオールの両方を用いてもよい。
【0032】
ポリオール(B)は市中より入手可能で、例えば、Sigma-Aldrich製のトリメチロールプロパンエトキシラート及びペンタエリスリトールエトキシラート、阪本薬品工業製のポリオキシエチレン(13)ポリグリセリルエーテル(商品名「SCE-750」)、日油製のメチルグルセス-10(商品名「マクビオブライドMG-10E」)、日油製のメチルグルセス-20(商品名「マクビオブライドMG-20E」)、三洋化成製のモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(商品名「ポリソルベートT-20C」)などが挙げられる。
<(C)溶媒>
(C)溶媒(「溶媒(C)」とも呼ぶ。)について説明する。
【0033】
溶媒(C)として、酢酸エステル系溶媒又はケトン類を使用することが好ましい。具体的には、酢酸エステル系溶媒としては、酢酸アミル、酢酸アリル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、酢酸2-エチルへキシル、酢酸シクロへキシル、酢酸n-ブチル、酢酸s-ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、酢酸メチル、酢酸メチルシクロへキシル等が挙げられる。ケトン類としては、アセチルアセトン、アセトン、イソホロン、エチル-n-ブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、ジ-n-プロピルケトン、メチルオキシド、メチル-n-アミルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチル-n-ブチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、メチル-n-ヘプチルケトン、ジアセトンアルコール、これらの混合物等が挙げられる。特に、酢酸イソブチル、酢酸n-ブチル、酢酸s-ブチル、メチルエチルケトン等が好ましい。
<(D)撥水剤>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、(D)撥水剤(「撥水剤(D)」とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。
【0034】
撥水剤(D)は、防曇性被膜に防汚性を付与する成分である。
【0035】
撥水剤(D)は特に限定されないが、下記(D1)、(D2)及び(D3)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含むことが好ましい。
【0036】
(D1)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、ジアルキルシロキサン部位(SiR2O、Rはそれぞれ独立して、炭素数が1以上10以下の直鎖又は分岐状のアルキル基を表す)の数の平均が5~400である直鎖状ポリジアルキルシロキサン(「化合物(D1)」とも呼ぶ。)
(D2)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、フルオロカーボン部位を有するフルオロアルキルシラン(「化合物(D2)」とも呼ぶ。)
(D3)ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つの基を有し、フルオロカーボン部位を有するパーフルオロポリエーテル(「化合物(D3)」とも呼ぶ。)
上記化合物(D1)、(D2)及び(D3)における加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基としては、アルコキシ基が挙げられ、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
(化合物(D1))
化合物(D1)は、滑り性に優れるジアルキルシロキサン部位を有するので、被膜に防汚性を付与することができる。
【0037】
化合物(D1)において、防汚性と耐久性とがさらに良好な被膜とするためには、ジアルキルシロキサン部位(SiR2O)の数の平均が20~50であることが好ましい。
【0038】
SiR2OのRはメチル基又はエチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0039】
化合物(D1)としては、例えば、下記一般式[1]で表されるポリジメチルシロキサンが好適に用いられる。
【0040】
【0041】
一般式[1]中、X1及びX2は、それぞれ独立に、一価もしくは二価の官能基を表す。a及びbは、それぞれ独立に、0~3の整数であり、nは10~400の整数である。ただし、a+bは1以上であり、X1及びX2の少なくとも1つは、ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0042】
X1及びX2が表す一価もしくは二価の官能基の具体例としては、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシ基、アクリロイル基、アリル基、メルカプト基、-C(=O)-OR1基(R1は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖の飽和のアルキル基を表す)、-O-C(=O)R1基(R1は-C(=O)-OR1基のR1と同じ)、-A1-B1基(A1は二価の有機基を表し、B1はヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、-C(=O)-OR1基(R1は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖の飽和のアルキル基を表す)または-O-C(=O)R1基(R1は-C(=O)-OR1基のR1と同じ)を表す)、-A1-C(A2)(A3B2)(A4B3)基(A1は二価の有機基を表し、A2は水素原子または1価の有機基を表し、A3及びA4は、それぞれ独立に、二価の有機基を表す。B2またはB3は、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシ基、アクリロイル基、アリル基、メルカプト基、-C(=O)-OR1基(R1は炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖の飽和のアルキル基を表す)または-O-C(=O)R1基(R1は-C(=O)-OR1基のR1と同じ)である。
(化合物(D2))
化合物(D2)におけるフルオロカーボン部位は、CF2又はCF3であることが好ましい。
【0043】
化合物(D2)としては、下記一般式[2]で表される、片側末端に官能基を有するフルオロアルキルシランや、下記一般式[3]で表される、両側末端に官能基を有するフルオロアルキルシランが好適に用いられる。
【0044】
【0045】
一般式[2]中、Y1は、それぞれ独立に、一価の官能基を表す。pは1~3の整数であり、官能基の数を表す。mは2~6の整数である。ただし、少なくとも1つのY1は、ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つを表す。
【0046】
【0047】
一般式[3]中、Y2及びY3は、それぞれ独立に、一価の官能基を表す。mは2~6の整数であり、フルオロカーボン部位の数を表す。q及びrは、それぞれ独立に、1~3の整数であり、一価の官能基の数を表す。ただし、Y2及びY3の少なくとも1つは、ヒドロキシ基、加水分解でヒドロキシ基を生じる官能基、カルボキシ基、アミノ基、及びイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1つを表す。
【0048】
化合物(D2)は、皮脂成分、指紋、水垢等の汚れ成分に対する防汚性および除去性、さらに耐久性に優れたフルオロカーボン部位を有するため、得られる被膜の防汚性及び耐久性の向上に効果を奏する。
【0049】
また、化合物(D2)の分子中にフルオロカーボン部位の数が2~6であるパーフルオロアルキル基(CF3(CF2)t-1-)またはパーフルオロアルキレン基(-(CF2)u-)を有するものが好ましい。フルオロカーボン部位の数が増加すると、得られる防汚性被膜の耐久性が増加する。t及びuは整数を表し、前記「-」は結合手を示している。
(化合物(D3))
化合物(D3)におけるフルオロカーボン部位は、CF2又はCF3であることが好ましい。
【0050】
化合物(D3)としては、下記一般式[4]~[6]のいずれかで表されるものが好ましい。
【0051】
【0052】
一般式[4]中、Rf1は、式:-CpF2pO-(pは1~6の整数である。)で表される構造、または、-CqF2q-(qは1~8の整数である。)で表される構造である。Zは、それぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、具体的な基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等である。Rは炭素数が1~10のアルキル基であり、aは1~3の整数である。n及びn’はそれぞれ1~5の整数、m及びm’はそれぞれ0~2の整数である。
【0053】
【0054】
一般式[5]中、rは1~200の整数を表す。Zは、それぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、具体的な基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等である。
【0055】
【0056】
一般式[6]中、sは1~100の整数を表し、tは1~10の整数を表す。Zは、それぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖もしくは分岐鎖のアルコキシ基を表し、具体的な基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等である。
【0057】
化合物(D3)についても、化合物(D2)と同様に、皮脂成分、指紋、水垢等の汚れ成分に対する防汚性および除去性、さらに耐久性に優れたフルオロカーボン部位を有するので、得られる被膜の防汚性及び耐久性の向上に効果を奏する。
<(E)親水剤>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、(E)親水剤(「親水剤(E)」とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。
【0058】
親水剤(E)は特に限定されないが、下記一般式[7]~[9]のいずれかで表される化合物が好ましい。
【0059】
【0060】
[一般式[7]中、Xは単結合、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、または置換基を有していてもよい炭素数6~18のアリーレン基のいずれかを示し、Yは単結合、エステル結合、アミド結合、スルホン酸エステル結合、スルホン酸アミド結合、エーテル結合のいずれかを示す。ただし、Xが単結合の場合は、YもXと一緒になって単結合となる。また、nは2~22の自然数である。]
【0061】
【0062】
[一般式[8]中、Xは単結合、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキレン基、または置換基を有していてもよい炭素数6~18のアリーレン基のいずれかを示し、Yは単結合、エステル結合、アミド結合、スルホン酸エステル結合、スルホン酸アミド結合、エーテル結合のいずれかを示す。ただし、Xが単結合の場合は、YもXと一緒になって単結合となる。また、nは2~22の自然数である。]
【0063】
【0064】
[一般式[9]中、Rは炭素数10~22の直鎖、分岐鎖、または環状のアルキル基である。]
一般式[7]や一般式[8]の含フッ素化合物は本開示の防曇性物品に対して防汚性の機能を付与し、また、界面活性剤としても作用する。更に、これらの界面活性剤は、水酸基、メルカプト基、アミノ基等のイソシアネート反応性基を有しないものである。なお、防汚性とは、皮脂成分、指紋、水垢等の汚れ成分に対する耐汚染性および汚れ成分に対する除去性をいう。
【0065】
本開示では、一般式[7]で表される含フッ素界面活性剤、及び一般式[9]で表される四級アンモニウム塩が、親水性の高さや硬度を低下させない点から好ましい。
【0066】
一般式[9]で表される四級アンモニウム塩において、Rは炭素数15~22の直鎖、分岐鎖、または環状のアルキル基であることが好ましく、16~20の直鎖、分岐鎖、または環状のアルキル基であることがより好ましい。
【0067】
なお、常温で固体である界面活性剤(例えば前記四級アンモニウム塩)は膜表面に存在するわずかな界面活性剤が結晶化して、膜が白濁してしまう場合がある。そのため、常温で液体である界面活性剤(例えば一般式[7]で表される含フッ素界面活性剤)がより好ましい。また、一般式[7]で表される含フッ素界面活性剤においては、一般式[7]中、X、Yは単結合であることが好ましく、nは8~16の自然数であることが好ましく、9~13の自然数であることがより好ましい。
<(F)ポリテトラメチレンエーテルグリコール>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、さらに、(F)ポリテトラメチレンエーテルグリコール(「ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)」とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)の数平均分子量は100~4000であることが好ましく、500~2000であることがより好ましく、800~1200であることが特に好ましい。
<(G)数平均分子量が60~200の短鎖ポリオール>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、さらに、(G)数平均分子量が60~200の短鎖ポリオール(「短鎖ポリオール(G)」とも呼ぶ。)を含んでいてもよい。
【0068】
短鎖ポリオール(G)は、数平均分子量が60~200の範囲にある、鎖長の短いポリオールのことである。
【0069】
短鎖ポリオール(G)を含むことで、被膜の硬度が改善されやすくなる。短鎖ポリオール(G)の1分子あたりの水酸基数は、2又は3としてもよい。
【0070】
短鎖ポリオール(G)の例としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、2,2’-チオジエタノール等のアルキルポリオール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンがあげられ、それらを単独、又は混合物、若しくはそれらの数平均分子量が60~200の範囲の共重合体等を使用することができる。
【0071】
これらの中では、エチレングリコール、トリエチレングリコールが、被膜の硬度改善の観点から好ましく、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオールのような1級水酸基よりも活性の低い2級や3級水酸基を有する短鎖ポリオールは、塗布液の安定性(ポットライフの長期化)の点から好ましい。
<ウレタン形成成分>
本明細書で、「ウレタン形成成分」とは、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤に含まれる成分のうち、ポリウレタンを形成する際の原料となる成分から、撥水剤(D)及び親水剤(E)を除いた全ての成分である。
【0072】
典型的には、「ウレタン形成成分」とは、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のポリイソシアネート(A)、ポリオール(B)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)、及び短鎖ポリオール(G)のことを表す。
【0073】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、ポリイソシアネート(A)及びポリオール(B)を含有し、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)、及び短鎖ポリオール(G)を含有しない場合は、「ウレタン形成成分」は、ポリイソシアネート(A)及びポリオール(B)である。
【0074】
その他の場合についても、上記と同様に「ウレタン形成成分」を考えるものとする。
<各成分の含有量>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のポリイソシアネート(A)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、35~70質量%であることが更に好ましい。
【0075】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のポリオール(B)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、25~75質量%であることが好ましく、30~70質量%であることがより好ましく、30~65質量%であることが更に好ましい。
【0076】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の溶媒(C)の含有量は、例えば、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の固形分濃度が10~50質量%となるように、調整することができる。固形分とは、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の全成分から溶媒(C)を除いた全ての成分のことであり、固形分濃度とは、固形分の濃度(含有量)である。
【0077】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、撥水剤(D)または親水剤(E)を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の撥水剤(D)または親水剤(E)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~10.0質量%であることが好ましく、0.005~5.0質量%であることがより好ましく、0.01~2.0質量%であることが更に好ましい。
【0078】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のポリテトラメチレンエーテルグリコール(F)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、5~15質量%であることが好ましく、8~10質量%であることがより好ましい。
【0079】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、短鎖ポリオール(G)を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の短鎖ポリオール(G)の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、1~15質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましく、3~8質量%であることが更に好ましい。
<n(NCO)/n(OH)>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤におけるウレタン形成成分中のイソシアネート基の数n(NCO)と、ウレタン形成成分中の水酸基の数n(OH)との比であるn(NCO)/n(OH)は1.0~3.0であることが好ましく、1.1~2.5であることがより好ましく、1.2~2.0であることが更に好ましい。
【0080】
なお、ブロックイソシアネート基の数も、イソシアネート基の数n(NCO)に含める。
<その他の成分とその含有量>
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、防曇性被膜形成用塗布剤を塗布してなる塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する際の硬化速度を速くするために、硬化触媒を含んでもよい。
【0081】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、硬化触媒を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の硬化触媒の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.001~0.5質量%であることが好ましい。
【0082】
硬化触媒の例として、有機錫化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機ビスマス化合物等の有機金属化合物や、アミン化合物等が挙げられる。
【0083】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、塗膜の基材上での平滑性を促進させるレベリング剤を含んでもよい。
【0084】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、レベリング剤を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中のレベリング剤の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.01~0.50質量%であることが好ましく、0.05~0.25質量%であることがより好ましい。
【0085】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤は、塗膜の耐熱性、耐候性、耐水性を改善させる添加剤を含んでもよい。
【0086】
上記添加剤の例として、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、カルボジイミド系加水分解防止剤等が挙げられる。なお、上記添加剤は単独でも、複数のものを混合して用いても良い。
【0087】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤が、上記添加剤を含有する場合、本開示の防曇性被膜形成用塗布剤中の上記添加剤の含有量は、ウレタン形成成分100質量%に対して、0.2~10.0質量%であることが好ましく、0.5~2.0質量%であることがより好ましい。
【0088】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤の用途は、特に限定されないが、建築用には、浴室用、洗面化粧台用等の鏡、窓ガラス等、車両、船舶、航空機等には、窓ガラスあるいは鏡、具体的にはルームミラー、ドアミラー等があげられ、その他に眼鏡やカメラ等のレンズ、ゴーグル、ヘルメットシールド、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、試験機、精密機器ケース等の開口部やのぞき窓、道路反射鏡、携帯電話等の移動通信体のディスプレー等が挙げられる。
[防曇性物品の製造方法]
本開示の防曇性物品の製造方法は、
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品の製造方法の製造方法であって、
基材の表面に、前述の本開示の防曇性被膜形成用塗布剤を塗布し、塗膜を形成する工程(1)と、
前記塗膜から前記溶媒(C)を蒸散させ、前記塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する工程(2)と、
を備える、防曇性物品の製造方法である。
【0089】
上記工程(1)と上記工程(2)をこの順に行うことで、防曇性物品が得られる。
<基材>
基材としては、板状のものが好ましく使用され、代表的なものとしてはガラスが用いられる。そのガラスは自動車用ならびに建築用、産業用ガラス等に通常用いられているソーダライムガラス製の板ガラスであり、フロート法、デュープレックス法、ロールアウト法等による板ガラスであって、製法は特に問わない。
【0090】
ガラス種としては、クリアをはじめグリーン、ブロンズ等の各種着色ガラスやUV、IRカットガラス、電磁遮蔽ガラス等の各種機能性ガラス、網入りガラス、低膨張ガラス、ゼロ膨張ガラス等防火ガラスに供し得るガラス、強化ガラスやそれに類するガラス、合わせガラスのほか複層ガラス等、銀引き法あるいは真空成膜法により作製された鏡、さらには平板、曲げ板等各種ガラス製品を使用できる。
【0091】
基材の板厚は特に制限されないが、1mm以上10mm以下が好ましく、特に1mm以上5mm以下が好ましい。
【0092】
基材表面への防曇性被膜の形成は、基材の片面だけ、或いは用途によっては両面に行ってもよい。また、防曇性被膜の形成は、基材表面の全面でも一部分であってもよい。
【0093】
ガラス基材の表面は、ガラス基材と防曇性被膜との密着性を向上させるために、シランカップリング剤等のプライマー成分が塗布されたものであることが好ましい。前記基材への前記シランカップリング剤の塗布にあたって、前記シランカップリング剤は、アルコール及び水等で、0.05~2.0質量%程度に希釈されていてもよい。前記シランカップリング剤の例として、アミノシラン、メルカプトシラン及びエポキシシラン等が挙げられる。特には、アミノ基を有するシランカップリング剤が好ましく、γ-グリシドオキシプロピルトリメトキシ、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン等が特に好ましい。このように、基材上に上記カップリング剤を含む溶液を基材に塗布する工程は、前記基材と前記被膜との接着性が向上する、特に好ましい態様である。
【0094】
基材がガラス基材であり、かつガラス基材の表面には、アミノ基を有するシランカップリング剤が塗布されていることが好ましい。
【0095】
基材は、ガラス基材以外に、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム、ポリカーボネート等の樹脂等であってもよい。これら樹脂透明基材表面に前記防曇性被膜を形成して防曇性物品とし、該物品をガラス基材に貼付してもよい。
<工程(1)>
工程(1)は、基材の表面に、前述の本開示の防曇性被膜形成用塗布剤を塗布し、塗膜を形成する工程である。
【0096】
工程(1)の前に、前述の基材と、前述の本開示の防曇性被膜形成用塗布剤を準備する。
【0097】
本開示の防曇性被膜形成用塗布剤の基材への塗布は、例えば、ディップコート、フローコート、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷等の公知手段によって行うことができる。
<工程(2)>
工程(2)は、前記塗膜から前記溶媒(E)を蒸散させ、前記塗膜を硬化して防曇性被膜を形成する工程である。
【0098】
塗膜を硬化するということは、具体的には、塗膜中の原料を反応させてポリウレタンを形成し、塗膜を固化することを指す。
【0099】
工程(2)では、ポリイソシアネート(A)のイソシアネート基と、ポリオール(B)のヒドロキシ基が反応し、ポリウレタンを形成することが好ましい。
【0100】
工程(2)では、室温で放置又は170℃以下の熱処理で、前記塗膜の硬化と共に溶媒(C)の蒸散がなされ、塗膜が固化されて防曇性被膜となる。
【0101】
塗膜の硬化を促進させるためには、80~170℃で加熱を行うことが好ましく、100~165℃で加熱を行うことがより好ましく、120~160℃で加熱を行うことが更に好ましい。
[防曇性物品]
本開示の防曇性物品は、
基材と防曇性被膜とを有する防曇性物品であって、
前記防曇性被膜は、前述の本開示の防曇性被膜形成用塗布剤の硬化物であるポリウレタンを含む被膜であり、
前記防曇性被膜の膜厚は5μm~50μmである、
防曇性物品である。
【0102】
防曇性物品の基材については、[防曇性物品の製造方法]で記載したとおりである。特に、基材がガラス基材であり、かつガラス基材の表面には、アミノ基を有するシランカップリング剤が塗布されていることが好ましい。
【0103】
防曇性被膜の膜厚は5μm~50μmであり、10μm~45μmであることが好ましく、15μm~40μmであることがより好ましく、20μm~30μmであることが特に好ましい。
【0104】
防曇性被膜の鉛筆硬度が2H以上であることが好ましく、3H以上であることがより好ましい。
【0105】
防曇性物品の防曇性被膜は、水平に置いた防曇性被膜の表面に水を滴下し、60℃で1時間乾燥させた後に水垢を除去し、水垢が付着していた部分の膨潤部の段差が200nm以下であることが好ましい。
【実施例0106】
以下、本開示の実施例について説明するが、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0107】
本実施例及び比較例では、防曇性物品を製造するための防曇性被膜形成用塗布剤(塗布液)を調製し、基材上に塗布された塗布液からなる塗膜を熱処理し、硬化して防曇性被膜とすることで、防曇性物品を製造した。該塗布液の調製方法及び防曇性物品の製造方法は後述の通りである。次に、得られた防曇性物品について、以下に示す方法により品質評価を行った。
【0108】
〔防曇性被膜の膜厚〕:防曇性被膜の膜厚は、防曇性被膜表面にカッターで切り込みを入れ、防曇性被膜表面と基材表面の段差を表面粗さ計(小坂研究所社製 Surfcorder ET-4000A)で測定し、5点の平均値を防曇性被膜の膜厚とした。
【0109】
〔防曇性〕:温度10℃、湿度30%の室内において、防曇性物品の防曇性被膜膜表面に対し、15℃の飽和水蒸気を暴露させる。防曇性被膜膜表面が曇り始めた時間を防曇性被膜膜の防曇時間とした。防曇時間を膜厚で除した値を防曇性として評価した。
【0110】
〔鉛筆硬度〕:JIS K 5600 塗料一般試験方法(1999)に準拠して、荷重750gが負荷された鉛筆で防曇性被膜膜表面を2回引っ掻き、2回とも防曇性被膜膜の破れが無かった鉛筆の硬度を防曇性被膜膜の鉛筆硬度とした。
【0111】
〔毛染剤除去性〕:パラフェニレンジアミンを含有する、2液混合型の白髪染め用ヘアカラー剤(黒茶色)を直径10mm程度の円状で防曇性被膜膜表面に付着させ、1時間常温常湿(5~35℃ 、相対湿度45~85%)で放置後、付着部分の水洗を行い、ヘアカラー剤を洗い落とす。その後、無色透明な食器用中性洗剤(5倍希釈)を含ませたコットンをヘアカラー剤の着色部分に貼付け、1時間後、濡れた綿布で払拭する。試験後は、CM-2600d(コニカミノルタ社製)を用いて、着色部分の試験前後の色差を測定する。色差の算出には、ΔE94(CIE1994)の色差式を使用した。色差の値が小さい方が毛染剤除去性に優れる。
【0112】
〔うがい薬除去性〕:ポピドンヨード系のうがい薬を直径10mm程度の円状で防曇性被膜膜表面に付着させ、1時間常温常湿(5~35℃ 、相対湿度45~85%)で放置後、付着部分の水洗を行い、うがい薬を洗い落とす。その後、無色透明な食器用中性洗剤(5倍希釈)を含ませたコットンをうがい薬の着色部分に貼付け、1時間後、濡れた綿布で払拭する。試験後は、CM-2600d(コニカミノルタ社製)を用いて、着色部分の試験前後の色差を測定する。色差の算出には、ΔE94(CIE1994)の色差式を使用した。色差の値が小さい方がうがい薬除去性に優れる。
【0113】
〔耐水垢試験〕:水平に置いた防曇性被膜表面に水道水を滴下し、60℃で1時間乾燥させる。乾燥後に水垢を除去し、水垢が付着していた部分の膨潤部の段差を測定し、目視で膨潤が確認困難なもの(200nm以下)を合格(〇)とし、200nmを超えるものは不合格(×)とした。
[比較例1]
(防曇塗布液の調製)
イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートのダイマータイプのポリイソシアネート(商品名「デスモジュールN3200」;住化コベストロウレタン製)23.70gを準備し、これを薬剤Aとする。
【0114】
また、以下にあげる各成分が、以下の指定量で混合され、総量78.12gの薬剤Bが得られた。
<溶媒>
酢酸イソブチルとジアセトンアルコールとの混合液;60.00g
アセチルアセトン;1.80g
<吸水性ポリオール>
数平均分子量4000のオキシエチレン/オキシプロピレン共重合2官能ポリオール(商品名「トーホーポリオールPB-4000」;東邦化学工業製);9.78g
<脂肪族ポリエステルジオール>
数平均分子量1250の脂肪族ポリエステルジオール(商品名「プラクセルL212AL」;ダイセル製;4.89g、
<短鎖ポリオール>
エチレングリコール;1.63g
<レベリング剤>
有機変性シリコーンの基材湿潤剤KL-400HF(共栄社化学製);0.02g
上記の薬剤Aと薬剤Bを混合し、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(以下、DBTDL)0.04gを添加することで、101.86gの塗布液1を調製した。
【0115】
塗布液1の総量を100質量%としたとき、塗布液1中のウレタン形成成分は、39質量%であった。また、塗布液1の原料ベースで、イソシアネート基の数は、ポリオール中の水酸基の数に対して2.0倍量であった。塗布液1において、イソシアネート化合物は、ウレタン形成成分の総量100質量%に対して59.3質量%含まれている。
(基材の準備)
矩形状で、サイズが100mm×100mm×5mm(厚さ)のソーダライムガラス板の裏面に通常の方法で銀膜を形成して、鏡を準備した。89gのイオン交換水と、10gのプロパノールとの混合溶液と、アミノ系シランカップリング剤の、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(東京化成製)1gとの混合溶液を準備した。該混合溶液を染み込ませたセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M-1、50mm×50mm、小津産業製)で、前記鏡のガラス表面を払拭し、その後、水洗して、プライマー層が形成された鏡を基材として準備した。
(防曇性物品の形成)
該基材のプライマー層が形成された主面に、前記塗布液1をスピンコートにより塗布して塗膜を形成し、その後、約160℃で約10分間熱処理することにより、膜厚18μmの防曇性被膜が形成された防曇性物品を得た。
[実施例1]
(防曇塗布液の調製)
イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレートタイプのポリイソシアネート(商品名「MHG-80B」;固形分濃度80質量%;旭化成製)32.98gを準備した。これを薬剤Aとする。
【0116】
また、以下にあげる各成分が、以下の指定量で混合され、総量69.79gの薬剤Bが得られた。
<溶媒>
酢酸イソブチルとジアセトンアルコールとの混合液;43.40g
アセチルアセトン;2.25g、
<吸水性ポリオール>
以下の構造を持つ数平均分子量450の4官能ポリオールのペンタエリスリトールエトキシラート(15/4 EO/OH、分岐型ポリオール)(Sigma-Aldrich製);23.62g
【0117】
【化10】
a、b、c、dは正の整数であり、a+b+c+d=15である
【0118】
<レベリング剤>
有機変性シリコーンの基材湿潤剤KL-400HF(共栄社化学製);0.02g
<光安定剤>
ヒンダードアミン系光安定剤のアデカスタブLA-72(ADEKA製);0.50g
上記の薬剤Aと薬剤Bを混合し、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(以下、DBTDL)0.05gを添加することで、102.82gの塗布液2を調製した。
【0119】
塗布液2の総量を100質量%としたとき、塗布液2中のウレタン形成成分は、49質量%であった。また、塗布液2の原料ベースで、イソシアネート基の数は、ポリオール中の水酸基の数に対して1.0倍量であった。塗布液2において、イソシアネート化合物は、ウレタン形成成分の総量100質量%に対して52.8質量%含まれている。
(基材の準備)
矩形状で、サイズが100mm×100mm×5mm(厚さ)のソーダライムガラス板の裏面に通常の方法で銀膜を形成して、鏡を準備した。89gのイオン交換水と、10gのプロパノールとの混合溶液と、アミノ系シランカップリング剤の、X-12-972F(信越化学製)1gとの混合溶液を準備した。該混合溶液を染み込ませたセルロース繊維からなるワイパー(商品名「ベンコット」、型式M-1、50mm×50mm、小津産業製)で、前記鏡のガラス表面を払拭し、その後、水洗して、プライマー層が形成された鏡を基材として準備した。
(防曇性物品の形成)
該基材のプライマー層が形成された主面に、前記塗布液2をスピンコートにより塗布して塗膜を形成し、その後、約160℃で約10分間熱処理することにより、膜厚23μmの防曇性被膜が形成された防曇性物品を得た。
[実施例2]
実施例1の薬剤Bにおいて、吸水性ポリオールのペンタエリスリトールエトキシラートを、以下の構造を持つ数平均分子量450の3官能ポリオールのトリメチロールプロパンエトキシラート(分岐型ポリオール)(Sigma-Aldrich製)に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
【0120】
【化11】
e、f、gは正の整数であり、e+f+g=20
【0121】
[実施例3]
(防曇塗布液の調製)
ブロックイソシアネート(商品名「デュラネートSBB70P」;固形分濃度70質量%;旭化成製)45.05gを準備した。これを薬剤Aとする。
【0122】
また、以下にあげる各成分が、以下の指定量で混合され、総量57.71gの薬剤Bが得られた。
<溶媒>
酢酸イソブチルとジアセトンアルコールとの混合液;36.49g
アセチルアセトン;2.25g
<吸水性ポリオール>
以下の構造を持つ数平均分子量738の4官能ポリオールのポリオキシエチレン(13)ポリグリセリルエーテル(商品名「SCE-750」阪本薬品工業製);18.47g
【0123】
【化12】
Rはエチレンオキサイド(CH
2CH
2O)である。また、m、n、o、pは正の整数であり、m+n+o+p=13である。
【0124】
<撥水剤(防汚剤)>
両末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン化合物のKF-6123(信越化学工業製):0.005g
<光安定剤>
ヒンダードアミン系光安定剤のアデカスタブLA-72(ADEKA製);0.50g
上記の薬剤Aと薬剤Bを混合し、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(以下、DBTDL)0.025gを添加することで、102.78gの塗布液3を調製した。
【0125】
塗布液3の総量を100質量%としたとき、塗布液3中のウレタン形成成分は、49質量%であった。また、塗布液3の原料ベースで、イソシアネート基の数は、ポリオール中の水酸基の数に対して1.1倍量であった。塗布液3において、イソシアネート化合物は、ウレタン形成成分の総量100質量%に対して63.1質量%含まれている。
【0126】
塗布液2に代えて塗布液3を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
[実施例4]
(防曇塗布液の調製)
ブロックイソシアネート(商品名「デュラネートSBB70P」;固形分濃度70質量%;旭化成製)43.00gを準備した。これを薬剤Aとする。
【0127】
また、以下にあげる各成分が、以下の指定量で混合され、総量59.48gの薬剤Bが得られた。
<溶媒>
酢酸イソブチルとジアセトンアルコールとの混合液;42.10g
アセチルアセトン;2.03g
<吸水性ポリオール>
以下の構造を持つ数平均分子量634の4官能ポリオールのメチルグルセス-10(商品名「マクビオブライドMG-10E」;日油製、六員環型ポリオール);14.90g
【0128】
【化13】
a、b、c、dは正の整数であり、a+b+c+d=10である。
【0129】
<光安定剤>
ヒンダードアミン系光安定剤のアデカスタブLA-72(ADEKA製);0.45g
上記の薬剤Aと薬剤Bを混合し、硬化触媒としてジブチル錫ジラウレート(以下、DBTDL)0.023gを添加することで、102.50gの塗布液4を調製した。
【0130】
塗布液4の総量を100質量%としたとき、塗布液4中のウレタン形成成分は、44質量%であった。また、塗布液4の原料ベースで、イソシアネート基の数は、ポリオール中の水酸基の数に対して1.1倍量であった。塗布液4において、イソシアネート化合物は、ウレタン形成成分の総量100質量%に対して66.9質量%含まれている。
【0131】
塗布液2に代えて塗布液4を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
[実施例5]
実施例4の薬剤Bにおいて、撥水剤としてX-22-4952(信越化学工業製):0.005gを更に加えた以外は実施例4と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
[実施例6]
実施例5の薬剤Bにおいて吸水性ポリオールの「マクビオブライドMG-10E」を、構造は同じであるがa+b+c+d=20である数平均分子量1074の4官能ポリオールの「メチルグルセス-20(商品名「マクビオブライドMG-20E」;日油製、六員環型ポリオール)に変え、撥水剤を「X-22-4952」から両末端ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン化合物のKF-6123(信越化学工業製)に変えた以外は実施例5と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
[実施例7]
実施例5の薬剤Bにおいて、吸水性ポリオールとしてトリメチロールプロパンエトキシラート(以下、TEEと記載)(Sigma-Aldrich製)を更に加え、固形分質量比を「マクビオブライドMG-10E:TEE=50:50」と変えた以外は実施例5と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
[実施例8]
実施例5の撥水剤である「X-22-4952」から、親水剤の片末端ヘキサフルオロプロペン変性ポリオキシエチレン化合物のフタージェント212M(ネオス社製);0.45gに変えた以外は実施例5と同様の操作を行い、防曇性物品を得た。
【0132】
結果を下記表1に示す。
【0133】
【0134】
表1の結果より、実施例1~8の防曇性被膜形成用塗布剤は、1液で、毛染剤除去性及びうがい薬除去性に優れ、かつ水垢を除去した際に膨潤が発生しにくい防曇性被膜形成用塗布剤であることがわかった。
【0135】
また、実施例1~8ではポリオール成分として吸水性ポリオールだけを使用し、従来技術や比較例1で使用した吸水性ポリオール以外のポリオール成分である脂肪族ポリエステルジオール、短鎖ポリオール、アクリルポリオールなどを含まなかったが、十分な膜硬度の防曇性被膜を得ることができた。
本開示の防曇性物品は、建築用には、浴室用、洗面化粧台用等の鏡、窓ガラス等、車両、船舶、航空機等には、窓ガラスあるいは鏡、具体的にはルームミラー、ドアミラー等に利用できる。その他、眼鏡やカメラ等のレンズ、ゴーグル、ヘルメットシールド、冷蔵ショーケース、冷凍ショーケース、試験機、精密機器ケース等の開口部やのぞき窓、道路反射鏡、携帯電話等の移動通信体のディスプレー等にも利用可能である。