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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106730
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】アレイアンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/06 20060101AFI20230726BHJP
   H01Q 21/24 20060101ALI20230726BHJP
   H01Q 1/52 20060101ALI20230726BHJP
   H01Q 21/28 20060101ALI20230726BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20230726BHJP
   H01Q 19/22 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
H01Q21/06
H01Q21/24
H01Q1/52
H01Q21/28
H01Q13/08
H01Q19/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007633
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【弁理士】
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】山下 大輔
(72)【発明者】
【氏名】岩田 宗之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 康宏
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
5J045
5J046
【Fターム(参考)】
5J020AA00
5J020BC04
5J020BC13
5J020DA02
5J021AA05
5J021AA09
5J021AA11
5J021AB06
5J021BA00
5J021DB03
5J021HA05
5J021JA05
5J045AA05
5J045AA12
5J045CA01
5J045DA10
5J045FA02
5J045MA07
5J046AB03
5J046AB13
5J046UA03
(57)【要約】
【課題】複数のサブアレイを並べて構成され、アンテナ特性の劣化を防止しつつ拡張性に優れたアレイアンテナを実現する。
【解決手段】 アレイアンテナ1はN個の誘電体基板を用いたN個のサブアレイ10を有し、各々のサブアレイ10は、誘電体基板の導体層に形成され、X方向及びY方向のそれぞれに沿って配列される複数のアンテナ素子10と、複数のアンテナ素子10を1つずつ取り囲むように配置されるグランド導体21を備えている。N個のサブアレイ10は、隙間Gを介して隣接し、互いの平面領域の各辺を対向させて順次並べた外形線に囲まれた拡張平面領域を構成し、それぞれ他のサブアレイと対向する端部においてグランド導体21が設けられていないか、又は他の領域のグランド導体21より細くなっており、全てのアンテナ素子10は、Xの方向に一定間隔で配列されるとともにY方向に一定間隔で配列される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ誘電体層と導体層とを積層してなるN(Nは2以上の整数)個の誘電体基板を用いた互いに同一形状のN個のサブアレイを有するアレイアンテナであって、
各々の前記サブアレイは、
上面視で前記サブアレイの外形線に囲まれた平面領域において、前記誘電体基板の第1の導体層に形成され、互いに直交する第1の方向及び第2の方向のそれぞれに沿って配列される複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子を1つずつ取り囲むように配置されるグランド導体と、
を備えて構成され、
前記N個のサブアレイは、互いの間に隙間を設けながら隣接し、前記サブアレイの互いの前記平面領域の各辺を対向させて順次並べることで、上面視で前記N個のサブアレイを隣接して並べた外形線に囲まれた拡張平面領域を構成し、
前記N個のサブアレイのそれぞれは、他のサブアレイと対向する端部において、前記グランド導体が設けられていないか、又は他の領域のグランド導体より細くなっており、
前記N個のサブアレイの全ての前記アンテナ素子は、前記拡張平面領域において前記第1の方向に一定間隔で配列されるとともに前記第2の方向に一定間隔で配列される、
ことを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項2】
各々の前記誘電体基板には、前記複数のアンテナ素子とそれぞれ接続される複数のビア導体を含む給電構造が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ。
【請求項3】
前記給電構造は、各々の前記アンテナ素子に接続される1対の第1給電端子及び第2給電端子を含み、
前記複数のアンテナ素子は、それぞれの前記第1給電端子を介して前記第1の方向の偏波を励振し、それぞれの前記第2給電端子を介して前記第2の方向の偏波を励振する、
ことを特徴とする請求項2に記載のアレイアンテナ。
【請求項4】
前記第1の方向の偏波及び前記第2の方向の偏波のうち、一方が水平偏波であり、他方が垂直偏波であることを特徴とする請求項3に記載のアレイアンテナ。
【請求項5】
前記複数のアンテナ素子は、互いに同一の形状及び同一のサイズで形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のアレイアンテナ。
【請求項6】
前記複数のアンテナ素子は、前記誘電体基板の内部に埋設されていることを特徴とする請求項5に記載のアレイアンテナ。
【請求項7】
各々の前記誘電体基板の第2の導体層には、前記複数のアンテナ素子とは接続されない複数の無給電素子が更に形成され、各々の前記無給電素子は対応する前記アンテナ素子と上面視で重なる位置に配置されることを特徴とする請求項6に記載のアレイアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体基板を用いて複数のアンテナ素子を構成したアレイアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信の多様化に伴い、多数のアンテナ素子をアレイ状に並べて配置したアレイアンテナが広く用いられている。一般に、アレイアンテナを採用する場合、必要なアンテナ利得に応じた多数のアンテナ素子を高密度に配置する構成が求められる。例えば、特許文献1には、基板上に構成した複数のサブアレイをタイル状に配置したアレイアンテナが開示されている。特許文献1のタイル化アレイアンテナは、平面領域内で直交する2方向に自在にサブアレイを接続することができ、所望の個数のアンテナ素子を高い密度で自在に並べることができるので、アレイアンテナ全体のサイズの縮小と性能の確保に適している。ここで、複数のアンテナ素子を含むサブアレイを構成する場合、並び方向に隣接するアンテナ素子同士の素子間結合によってアンテナ特性が劣化する恐れがある。このようなアンテナ特性の劣化を抑制するために、サブアレイにおける個々のアンテナ素子をグランド導体で取り囲む配置が有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特表2010-507929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、上述のサブアレイの平面領域内に含まれる複数のアンテナ素子は、所定方向に沿って使用波長に応じた一定の間隔で配列する必要がある。この場合、複数のサブアレイを配置してアレイアンテナを構成する場合、隣接するサブアレイの間に隙間が存在するため、サブアレイを跨って隣接するアンテナ素子の間の距離が長くなることになると、それによりアンテナ特性が確保できなくなる懸念がある。これを回避するには、上述の隙間の分だけサブアレイの外形を小さくした上で、外周付近のアンテナ素子が外形線の近傍のグランド導体に接近した配置を採用せざるを得ない。しかし、このような配置では、サブアレイの外周付近のアンテナ素子がグランド導体に接近することでアンテナ特性を劣化させるという問題がある。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、複数のサブアレイを用いて拡張されたアレイアンテナを構成する場合、複数のアンテナ素子を並び方向に沿って一定の間隔で配列しつつ、グランド導体の影響によるアンテナ特性の劣化を抑制し得るアレイアンテナを実現するものである。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のアレイアンテナは、それぞれ誘電体層と導体層とを積層してなるN(Nは2以上の整数)個の誘電体基板を用いた互いに同一形状のN個のサブアレイ(10)を有するアレイアンテナ(1)であって、各々の前記サブアレイは、上面視で前記サブアレイの外形線に囲まれた平面領域において、前記誘電体基板の第1の導体層(L)に形成され、互いに直交する第1の方向(X)及び第2の方向(Y)のそれぞれに沿って配列される複数のアンテナ素子(20)と、前記複数のアンテナ素子を1つずつ取り囲むように配置されるグランド導体(21)とを備えて構成される。そして、前記N個のサブアレイは、互いの間に隙間(G)を設けながら隣接し、前記サブアレイの互いの前記平面領域の各辺を対向させて順次並べることで、上面視で前記N個のサブアレイを隣接して並べた外形線に囲まれた拡張平面領域を構成し、前記N個のサブアレイのそれぞれは、他のサブアレイと対向する端部において、前記グランド導体が設けられていないか、又は他の領域のグランド導体より細くなっており、前記N個のサブアレイの全ての前記アンテナ素子は、前記拡張平面領域において前記第1の方向に一定間隔(Dx)で配列されるとともに前記第2の方向に一定間隔(Dy)で配列される。
【0007】
本発明のアレイアンテナによれば、平面領域内に規則的に配列される複数のアンテナ素子をそれぞれ備えた複数のサブアレイを順次並べてアレイアンテナを構成する場合、複数のアンテナ素子の全体を第1及び第2の方向にそれぞれ一定間隔で配列した上で、隙間を挟んで所定方向に対向するサブアレイの間の端部のグランド導体を設けない(又は他のグランド導体より細くする)配置を採用した。これにより、サブアレイの外周付近におけるアンテナ素子とグランド導体の接近に起因するアンテナ性能の劣化を防止しつつ、複数のサブアレイを自在に並べてアレイアンテナの拡張性を高めることができる。
【0008】
本発明において、各々の誘電体基板には、複数のアンテナ素子とそれぞれ接続される複数のビア導体を含む給電構造を形成することができる。この場合、給電構造は、各々のアンテナ素子に接続される1対の第1給電端子及び第2給電端子を含む構成とし、複数のアンテナ素子が、それぞれの第1給電端子を介して第1の方向の偏波を励振し、それぞれの第2給電端子を介して第2の方向の偏波を励振するようにしてもよい。例えば、第1の方向の偏波及び第2の方向の偏波のうち、一方を水平偏波とし、他方を垂直偏波とすることができる。これにより、本発明のアレイアンテナは、水平偏波と垂直偏波の一方又は両方を自在に放射可能となる。
【0009】
本発明において、複数のアンテナ素子については多様な構造や形状を採用することができる。例えば、複数のアンテナ素子を互いに同一の形状及び同一のサイズで形成してもよい。また例えば、複数のアンテナ素子が誘電体基板の内部に埋設される構造としてもよい。この場合において、各々の誘電体基板の第2の導体層に、複数のアンテナ素子とは接続されない複数の無給電素子を更に形成し、各々の無給電素子は対応するアンテナ素子と上面視で重なる位置に配置してもよい。各々の無給電素子は、対向するアンテナ素子を強化することで、アンテナ利得を向上させる役割がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数のサブアレイからなるアレイアンテナにおいて、サブアレイの端部において部分的にグランド導体が除去されている構造を採用したので、隣接するサブアレイ間の隙間の近傍でアンテナ素子とグランド導体が接近することによるアンテナ特性の劣化を防止しつつ、複数のサブアレイを自在に並べることでアレイアンテナの拡張性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のアレイアンテナ1の一構造例を上方から見た平面図である。
図2】アレイアンテナ1に含まれるサブアレイ10の平面図である。
図3図2のサブアレイ10のA-A断面における断面構造図である。
図4】本実施形態のアレイアンテナ1との対比のため、比較例の平面構造及び本実施形態の平面構造をそれぞれ示す図である。
図5】比較例のアレイアンテナ1によるアンテナ利得の周波数特性を示す図である。
図6】本実施形態のアレイアンテナ1によるアンテナ利得の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について、図1図6を参照しながら説明する。本実施形態では、本発明を具体化したアレイアンテナについて説明を行う。ただし、以下に述べる実施形態は本発明を適用した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。なお、以下の実施形態では、説明の便宜のため、互いに直交するX方向(本発明の第1の方向)、Y方向(本発明の第2の方向)、Z方向をそれぞれ矢印にて示している。
【0013】
図1は、本実施形態に係るアレイアンテナ1の一構造例を上方(Z方向)から見た平面図である。図1に示すアレイアンテナ1は、それぞれ誘電体基板からなる4個のサブアレイ10を接続して構成される。すなわち、図1において、サブアレイ10(1)に対してX方向に隣接するサブアレイ10(2)が配置され、これら2個のサブアレイ10(1)、10(2)に対してY方向に隣接する2個のサブアレイ10(3)、10(4)が配置され、全体のアレイアンテナ1を構成している。そして、X方向又はY方向に隣接するサブアレイ10同士は、互いの間に設けられた隙間Gを挟んで対向している。図1では、アレイアンテナ1が4個のサブアレイ10を有する例を示すが、同一形状のサブアレイ10を組み合わせて全体のアレイアンテナ1を拡張できることを前提に、サブアレイ10の個数Nは自在に変更することができる。
【0014】
ここで、図2及び図3を用いて、図1のアレイアンテナ1に含まれる1個のサブアレイ10の構造を説明する。図2は、サブアレイ10を上面から見た平面図を示すとともに、図3は、図2のサブアレイ10のA-A断面における断面構造図を示している。なお、図2及び図3に関しては、図1の4個のサブアレイ10(1)、10(2)、10(3)、10(4)のそれぞれに対して共通の構造であることを前提に説明する。
【0015】
図2において、サブアレイ10の外形線に囲まれた平面領域には、X方向とY方向に沿ってそれぞれ4個ずつ配列された全部で16個のアンテナ素子20と、X方向及びY方向に延びる格子状に配置されたグランド導体21(21x、21y)とが形成されている。16個のアンテナ素子20の各々は、いずれも上面視で同一の形状及び同一のサイズの矩形状の導体パターンにより形成されている。また、各々のアンテナ素子20は、サブアレイ10のX方向の両端部を除き、X方向に延びるグランド導体21xとY方向に延びるグランド導体21yとにより取り囲まれている。これら16個のアンテナ素子20とグランド導体21x、21yは、サブアレイ10を構成する誘電体基板に含まれる後述の導体層に形成されている、また、前述の平面領域のうち16個のアンテナ素子20及びグランド導体21x、21yと上面視で重ならない領域には、誘電体層22が形成されている。すなわち、16個のアンテナ素子20とグランド導体21x、21yとは誘電体層22を介して電気的に分離されている。
【0016】
なお、本実施形態では1個のサブアレイ10に16個のアンテナ素子20が含まれる例を示しているが、サブアレイ10のサイズを増減させることで、1個のサブアレイ10に含まれるアンテナ素子20の個数を自在に設定することができる。また、各々のアンテナ素子20は、矩形の平面形状には限られず、かつ形状やサイズが互いに同一には限られないが、一定間隔で並べることができる多様な平面形状に設定することができる。
【0017】
以下、図2のグランド導体21x、21yの方向による配置の相違について説明する。図2の平面領域内において、X方向に沿って直線状に延びるグランド導体21xは、Y方向に隣接するアンテナ素子20の間に配置される3本と、サブアレイ10のY方向の両端に配置される2本とを含む5本が並列して配置される。これに対し、Y方向に沿って直線状に延びるグランド導体21yは、X方向に隣接するアンテナ素子20の間に配置される3本のみが配置される。すなわち、本実施形態の特徴は、サブアレイ10の平面領域のうち、X方向の両端部にはグランド導体21yが配置されていない点である。このような配置を採用する理由は、特に複数のサブアレイ10を用いて構成されるアレイアンテナ1におけるアンテナ性能と実装との両方に関わるが、詳細については後述する。
【0018】
サブアレイ10のうち16個のアンテナ素子20を含む平面領域においては、X方向に隣接するアンテナ素子20は一定の間隔Dxで配列され、Y方向に沿って隣接するアンテナ素子20は一定の間隔Dyで配列されている。そして、1個のサブアレイ10のみならず、X方向あるいはY方向に隙間Gを介して隣接する他のサブアレイ10においても、X方向に対向するアンテナ素子20xは前述の間隔Dxで配列されるとともに、Y方向に対向するアンテナ素子20yは前述の間隔Dyで配列される。すなわち、図1の4個のサブアレイ10を並べたときの外形線に囲まれた拡張平面領域において、全部で64個のアンテナ素子20の全てが、X方向に一定間隔で配列され、かつY方向にも一定間隔で配列されている必要がある。
【0019】
図2において、X方向の間隔DxとY方向の間隔Dyについては、互いに等しい値(Dx=Dy)に設定してもよいが、互いに若干異なる値に設定してもよい。ただし、間隔Dx、Dyは、使用波長に応じた適切な範囲に設定することが望ましい。例えば、アレイアンテナ1の用途として5G通信を想定すると、間隔Dx、Dyとしては5mm前後の値に設定することができる。
【0020】
一方、図3の断面構造図に示されるように、サブアレイ10を構成する誘電体基板は、Z方向に誘電体層22と導体層Lとを交互に積層した多層構造を有している。そして、図2の16個のアンテナ素子20は、略中央の導体層Lに形成され、誘電体基板の内部に埋設されている。各々のアンテナ素子20に関し、誘電体層22を貫くビア導体31の所定の給電位置(給電端子)から、ビア導体31の下端のパッドPに至る給電経路を含む給電構造となっている。パッドPは、サブアレイ10の底面に露出しており、外部からの信号を入力可能となっている。一方、上部の導体層Lには、16個のアンテナ素子20と上面視で重なる位置に16個の無給電素子23が形成されている。それぞれの無給電素子23の導体パターンは、アンテナ素子20やグランド導体21x、21yとは非接触であって互いに絶縁されている。無給電素子23の役割は、対向するアンテナ素子20を強化して利得向上を図ることにある。
【0021】
また、サブアレイ10の下部の導体層Lには、前述の複数のパッドPが形成されない領域にグランド導体24が形成されている。グランド導体24は、多層の誘電体層22を貫く複数のビア導体31を介して図2のグランド導体21x、21yと接続されている。サブアレイ10の全体では上部のグランド導体21と下部のグランド導体24とを合せた十分な面積を確保することで、サブアレイ10における一体的なグランドとしての機能を高めることができる。
【0022】
本実施形態のアレイアンテナ1においては、各々のアンテナ素子20の給電位置に応じた方向の偏波を放射することができる。すなわち、アンテナ素子20に対し、アンテナ素子20の中央部からX方向に偏移した給電位置(本発明の第1給電端子)を設定すると、X方向の電界成分を有する偏波が放射されるが、アンテナ素子20の中央部からY方向に偏移した給電位置(本発明の第2給電端子)を設定すると、Y方向の電界成分を有する偏波が放射される。ここで、アレイアンテナ1の設置に際し、大地に対して水平方向をX方向に合致させ、かつ垂直方向をY方向に合致させることを想定すると、X方向の偏波は水平偏波となり、Y方向の偏波は垂直偏波となる。また、図3の例では、各々のアンテナ素子20に関し、1系統の給電経路のみが設けられているが、例えば、2つの給電位置に対応する2個の給電経路を設けることで、水平偏波と垂直偏波の一方又は両方を放射可能とすることができる。
【0023】
また、アレイアンテナ1からは、主に前述の拡張平面領域の上方に向けて電波が放射されるが、複数のアンテナ素子20に給電される信号に対して位相差を付与することにより、電波の放射方向を制御することができる。すなわち、全てのアンテナ素子20に対し、同位相の信号を給電した場合、アレイアンテナ1の拡張平面領域に対してZ方向の上方(アレイアンテナ1の正面方向)に電波が放射される。これに対し、複数のアンテナ素子20に対し、X方向又はY方向に沿って順次位相をずらした信号を給電した場合、電波の放射方向をZ方向から所定の角度だけ傾斜した方向に制御することができる。この場合、前述の水平偏波と垂直偏波のいずれについても信号の位相を適切に制御することで、電波の放射方向を制御可能である。
【0024】
以下、図4図6を用いて、本実施形態のアレイアンテナ1のアンテナ特性について説明する。図4においては、本実施形態のアレイアンテナ1との対比のために、比較例の平面構造を図4(A)に示すとともに、本実施形態のアレイアンテナ1の平面構造を図4(B)に示している。図4は、図1のうちの4個のサブアレイ10(1)、10(2)、10(3)、10(4)が中央近傍で接近している部分的な領域に相当する。図1の中央近傍を拡大した構造の図4(B)と対比すると、図4(A)の比較例には4個のサブアレイ10がX方向に対向する各端部にグランド導体21a、21bを設けた点で異なっている。具体的には、図4(A)の比較例の平面構造においては、4個のサブアレイ10のうちY方向に延びる隙間Gを挟んだ端部領域に、Y方向に延びる前述のグランド導体21yの一部である1対のグランド導体21a、21bが対向配置されている。
【0025】
ここで、図4(A)の比較例において、隙間Gを挟んでX方向に隣接する2個のサブアレイ10(1)、10(2)のうちX方向に対向する1対のアンテナ素子20a、20bに着目する。この場合、他の全てのアンテナ素子20と同様、アンテナ素子20a、20bはX方向に前述の間隔Dxに保たれている。よって、隙間Gの幅を考慮すると、アンテナ素子20aとグランド導体21aの間の距離、及びアンテナ素子20bとグランド導体21bとの間の距離は、いずれも他のアンテナ素子20とグランド導体21yとの間の距離に比べると、相対的に小さくなることがわかる。これに対し、本実施形態の構造は、図4(B)に示すように、1対のアンテナ素子20a、20bの間にはグランド導体21yが設けられないため、1対のアンテナ素子20a、20bの間には誘電体層22と隙間Gのみが存在する点で図4(A)の比較例とは異なる。
【0026】
図5及び図6には、上述の構造上の相違を踏まえ、図4(A)の比較例及び図4(B)の本実施形態についてのアンテナ特性を検証した結果を示している。図5は、比較例のアレイアンテナ1によるアンテナ利得の周波数特性を示し、図6は、本実施形態のアレイアンテナ1によるアンテナ利得の周波数特性を示している。図5及び図6では、周波数帯域Bが26.5~29.5GHzの範囲の信号を入力し、水平偏波と垂直偏波をそれぞれ用いる場合のアンテナ利得についてシミュレーションにより検証を行った。また、図5及び図6では、アレイアンテナ1の放射方向として、アレイアンテナ1の拡張平面領域の正面方向(Z方向の上方)を向く場合の特性(実線)と、正面方向からX方向又はY方向に-60°だけ傾いた傾斜方向を向く場合の特性(破線)とを重ねて示している。
【0027】
まず、比較例については、図5(A)の水平偏波と図5(B)の垂直偏波のいずれの場合も、周波数帯域Bの範囲内で正面方向のアンテナ利得は概ね20dBを超え、傾斜方向のアンテナ利得は概ね15~18dBの範囲にある。これに対し、本実施形態については、図6(A)の水平偏波と図6(B)の垂直偏波のいずれの場合も、周波数帯域Bの範囲内で正面方向のアンテナ利得は概ね比較例と同程度であるが、傾斜方向のアンテナ利得は17~18dBの範囲であって比較例よりも増加する傾向にある。すなわち、比較例に比べて本実施形態の方が相対的に傾斜方向のアンテナ利得が大きいことから、アレイアンテナ1の傾斜角度に応じた電波強度の低下が抑制されることになる。
【0028】
例えば、アレイアンテナ1の実際の使用態様を想定すると、放射方向が正面方向からある程度傾斜したとき、電界強度が小さくなり過ぎることは好ましくない。よって、本実施形態の図6の特性は、比較例の図5の特性に比べると、アレイアンテナ1が正面方向から傾斜したときでも電界強度をある程度維持できるので、実際の使用態様に適したアンテナ特性を実現することができる。このようなアンテナ特性は、図4(B)の構造ではアンテナ素子20a、20bの間にグランド導体21yを設けない構造を採用したため、図4(A)の比較例のようにアンテナ素子20a、20bがグランド導体21a、21bに接近し過ぎることに起因する悪影響を防止した効果であると推察される。
【0029】
本実施形態において、アレイアンテナ1を拡張するために複数のサブアレイ10を並べて配置する際、実装面から隙間Gの幅をある程度確保する必要がある。例えば、前述の間隔Dxが5mm程度に設定される場合、隙間Gの幅として1mm程度が想定される。この点からもアンテナ素子20a、20bとグランド導体21yの接近を避けるためには図4(B)の構造が望ましい。一方、X方向に対向するアンテナ素子20a、20bの間に誘電体層22のみが存在する場合には、アンテナ素子20a、20b同士の素子間結合が問題となるが、本実施形態では、隙間Gに誘電体層22よりも誘電率の十分に低い空気層が存在するので、アンテナ素子20a、20b同士の素子間結合も抑制することができる。
【0030】
本実施形態では、X方向に隣接するサブアレイ10の各端部にグランド導体21yを設けない構造について説明したが、これに限らず、Y方向に隣接するサブアレイ10の各端部にグランド導体21xを設けない構造を採用してもよい。あるいは、X方向及びY方向の両方に隣接するサブアレイ10の各端部にグランド導体21x、21yを設けない構造を採用してもよい。いずれの構造を採用する場合であってもアンテナ性能として得られる効果の度合は異なるが、使用する水平偏波と垂直偏波の使用状況やアレイアンテナ1で必要な傾斜角度などに応じて適宜に選択することが望ましい。
【0031】
また、本実施形態では、隣接するサブアレイ10の対向する各端部にグランド導体21が設けられない構造を説明したが、これに限られず、隣接するサブアレイ10の対向する各端部にグランド導体21を設けつつ、他の領域のグランド導体21と比べ十分に細い幅に設定する場合であっても、本発明の効果を得ることができる。この場合におけるグランド導体21の幅は、アンテナ素子20とグランド導体21との接近に起因する悪影響を抑制できる程度の値に設定することが望ましい。
【0032】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更を施すことができる。すなわち、図1図3を用いて説明したアレイアンテナ1の基本構造は、本発明の作用効果を得られる限り、他の構造や材料を用いた多様なアレイアンテナ1に対して広く本発明を適用することができる。例えば、アンテナ素子20の種類、平面形状、給電方法、サイズなどについては、本発明の作用効果を得られる限り、多様な変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0033】
1…アレイアンテナ
10…サブアレイ
20、20x、20y、20a、20b…アンテナ素子
21、21x、21y、21a、21b、24…グランド導体
22…誘電体層
23…無給電素子
30、31…ビア導体
L…導体層
P…パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6