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特開2023-106732曲面壁構造の構築方法および曲面壁構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106732
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】曲面壁構造の構築方法および曲面壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/84 20060101AFI20230726BHJP
   E04G 11/06 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
E04B2/84 K
E04G11/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007638
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 博幸
【テーマコード(参考)】
2E150
【Fターム(参考)】
2E150BA12
2E150BA14
2E150BA19
2E150BA22
2E150BA25
2E150BA32
2E150CA16
2E150MA01X
(57)【要約】
【課題】日本国内において薄形でかつ任意の曲面形状の曲面壁が実現できるとともに、施工効率がよい曲面壁構造の構築方法および曲面壁構造を提供する。
【解決手段】この曲面壁構造の構築方法は、曲面壁構造の曲面形状の一部に対応する曲面をそれぞれ有する複数のエキスパンドメタル15を表面側に設置し、表面側からエキスパンドメタルの多数の開口および縦筋13と横筋14との間の空間を通してモルタルを内型枠20に達するように吹き付けることで一層による所定厚さのモルタル部17を構築し、モルタル部にエキスパンドメタルと縦筋と横筋とが埋め込まれ、エキスパンドメタルの曲面に沿うようにしてモルタル部の表面仕上げを行うことで曲面壁の曲面形状を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の曲面形状を有する曲面壁構造を構築する方法であって、
支持柱を所定間隔で設置し、
前記支持柱に水平方向に交差して支持されるように横架材を垂直方向に所定間隔で配置し、
前記横架材に支持されるようにして内型枠を配置し、
前記曲面壁の主鉄筋の内の縦筋を前記横架材に取り付け所定間隔で配置し、
前記縦筋に横筋を接続して所定間隔で配置し、
前記曲面形状の一部に対応する曲面をそれぞれ有する複数のエキスパンドメタルを前記横筋よりも表面側にそれぞれ設置し、
前記複数のエキスパンドメタルは複数の前記曲面により前記曲面形状に対応する全体曲面を有するようにそれぞれ変形されており、
前記表面側から前記エキスパンドメタルの多数の開口および前記縦筋と前記横筋との間の空間を通してモルタルを前記内型枠に達するように吹き付けることで一層による所定厚さのモルタル部を構築し、前記モルタル部に前記エキスパンドメタルと前記縦筋と前記横筋とが埋め込まれ、
前記エキスパンドメタルの前記曲面に沿うようにして前記モルタル部の表面仕上げを行うことで前記曲面形状を形成する、曲面壁構造の構築方法。
【請求項2】
前記横架材は、前記支持柱と前記縦筋との間に位置し、前記モルタル部からその一部が前記支持柱の側にはみ出るような横断面サイズを有する請求項1に記載の曲面壁構造の構築方法。
【請求項3】
前記曲面形状に対応するように変形した前記支持柱を前記曲面形状に対応する位置に設置し、
前記曲面形状に対応するように変形した前記横架材を前記支持柱に取り付ける請求項1または2に記載の曲面壁構造の構築方法。
【請求項4】
前記縦筋および前記横筋は、前記エキスバンドメタルの前記曲面に対応するように変形している請求項1乃至3のいずれかに記載の曲面壁構造の構築方法。
【請求項5】
前記内型枠は、前記エキスバンドメタルの前記曲面に対応するように変形している請求項1乃至4のいずれかに記載の曲面壁構造の構築方法。
【請求項6】
前記縦筋および前記横筋として、溶接により縦横のメッシュ状に予め組み立てられたメッシュ状鉄筋を所要寸法に切断してから配置する請求項1乃至5のいずれかに記載の曲面壁構造の構築方法。
【請求項7】
前記モルタルは、繊維補強モルタルである請求項1乃至6のいずれかに記載の曲面壁構造の構築方法。
【請求項8】
所定の曲面形状を有する曲面壁構造であって、
所定間隔で配置された支持柱と、
前記支持柱に水平方向に交差して支持されるように垂直方向に所定間隔で配置された横架材と、
前記横架材に支持されて所定間隔で配置された縦筋と、
前記縦筋に接続して所定間隔で配置された横筋と、
前記横筋よりも表面側に配置されかつ前記曲面形状の一部に対応する曲面をそれぞれ有する複数のエキスパンドメタルと、
前記エキスパンドと前記縦筋と前記横筋とが埋め込まれて一層による所定厚さに構築されたモルタル部と、を備え、
前記モルタル部には前記複数のエキスパンドメタルの各曲面に基づいて前記曲面形状が構成されている曲面壁構造。
【請求項9】
前記横架材は、前記支持柱と前記縦筋との間に位置し、前記モルタル部からその一部が前記支持柱の側にはみ出るような横断面サイズを有する請求項8に記載の曲面壁構造。
【請求項10】
前記曲面形状に対応するように変形した前記支持柱は前記曲面形状に対応する位置に設置され、
前記曲面形状に対応するように変形した前記横架材が前記支持柱に取り付けられている請求項8または9に記載の曲面壁構造。
【請求項11】
前記縦筋および前記横筋は、前記複数のエキスパンドメタルの各曲面に対応するように変形している請求項8乃至10のいずれかに記載の曲面壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲面形状を有する曲面壁構造の構築方法および曲面壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
2006年にシンガポールで建築家「伊東豊雄」設計による商業施設が建築されたが、その周囲には、同氏独特の曲面壁が構築され、それと調和するように、メイン構造の屋根部も曲面構成とされ、支保工を細かく配置し、その高さを屋根部の曲面の凹凸に合わせて調整し、その厚み分のコンクリートを打設し、各ポイントの高さマーカに合わせて、均し・押さえ作業を行うことにより、不定形の屋根スラブを構築している。その曲面スラブより、東側に流れ落ちるようにデザインされた複数の曲面壁列と、北側に並列して直立する独立した曲面壁列が、メインの施設建築を三次元的に包囲し、全体的に柔らかいイメージを醸し出している。この曲面壁は、図4に示すように、支持柱Pとしてφ245の鋼管を各壁に配し、型枠材FPを支持柱Pで支持するようにして取り付け、横架材HPとしてφ30の鋼管を渡し、2枚のエキスパンドメタルE1,E2が横架材HPを挟んで配置され、表面側から吹付ガンGNにより繊維補強モルタルを吹き付けてモルタル層Mを形成し構築されている。具体的な施工は、裏面側のエキスパンドメタルE1を設置してから繊維混入モルタルの吹付けを行い少なくともエキスパンドメタルE1を埋め込むように1層目のモルタル層M1を構築し、次に、表面側のエキスパンドメタルE2を設置してからエキスパンドメタルE2が埋め込まれるように繊維混入モルタルの吹付けを行い2層目のモルタル層M2を形成しその表面SFの表面仕上げを行う。このようにしてモルタル層Mをモルタル層M1,M2の2層に分割することで繊維混入モルタルの充填性を確保するとともに、2枚のエキスパンドメタルの両面においてかぶりを確保できる。2枚のエキスパンドメタルE1,E2は補強下地であるとともに、表面側のエキスパンドメタルE2は曲面形成部材でもある(非特許文献1参照)。
【0003】
上述のような曲面壁の一部について、構造要素の配置を図5(a)(b)に示す。支持柱は、φ245×10の鋼管であり、曲面壁に合わせて、3方向(XYZ軸方向)に緩いカーブを描くように設置され、また、施設本体の各層にロッド材で接合され、想定される外力による移動防止が図られている。曲面壁を構成する曲面パネルは、支持柱3本で高さ29.8mの1曲面を構成し、それらが横方向に一部連結している。当該構造方式により30m近い高さの厚さ75~85mmの薄い曲面壁が構築され、現在に至るまで大型商業施設のファサードを担っている。
【0004】
特許文献1は、立方状を成す型枠内に1対の曲面型板と仕切り板とがそれぞれ平行に所定の間隔をおいて配設され、曲面型板と仕切板の間隙内にメッシュ挿入後に気泡液混合のモルタルスラリーを流し込み硬化後に型枠と曲面型板と仕切り板を解体して得られる、曲面を有する軽量気泡コンクリートの塑造板からなる曲面壁を開示する[0020]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-172843号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】五洋建設株式会社HP「VIVOCITY建築工事」 https://www.penta-ocean.co.jp/business/project/pj_story/006.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図4のような曲面壁は、裏面側のエキスパンドメタルE1を取り付け、1層目のモルタル層M1を形成し、次に、表面側のエキスパンドメタルE2を取り付け、2層目のモルタル層M2を形成するようにして2枚のエキスパンドメタルを用いるため、工程が多くなり、施工効率が悪い。また、図5(a)(b)の曲面壁構造は、シンガポールを含む東南アジア域では、フィリピンとインドネシアを除き、地震が少ないこともあり、繊維補強モルタルとエキスパンドメタルという2つの構造要素のみで構造的には問題がないとされているが、日本国内では、耐震性能が充分であるかさらに検討が必要であり、建築物として認定されない可能性がある。
【0008】
特許文献1の軽量気泡コンクリートの塑造板からなる曲面壁は、その図1から明らかなように、上面から見て半円状の曲面で、単純な形状であり、複雑な曲面の施工には適用できず、また、1対の曲面型板が必要であり、大型曲面壁の現場施工に不向きである。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、日本国内において不定形で薄形の曲面壁が実現できるとともに、耐震性の高い曲面壁構造および施工効率がよい曲面壁構造の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための曲面壁構造の構築方法は、所定の曲面形状を有する曲面壁構造を構築する方法であって、
支持柱を所定間隔で設置し、前記支持柱に水平方向に交差して支持されるように横架材を垂直方向に所定間隔で配置し、前記横架材に支持されるようにして内型枠を配置し、前記曲面壁の主鉄筋の内の縦筋を前記横架材に取り付け所定間隔で配置し、前記縦筋に横筋を接続して所定間隔で配置し、前記曲面形状の一部に対応する曲面をそれぞれ有する複数のエキスパンドメタルを前記横筋よりも表面側にそれぞれ設置し、前記複数のエキスパンドメタルは複数の前記曲面により前記曲面形状に対応する全体曲面を有するようにそれぞれ変形されており、
前記表面側から前記エキスパンドメタルの多数の開口および前記縦筋と前記横筋との間の空間を通してモルタルを前記内型枠に達するように吹き付けることで一層による所定厚さのモルタル部を構築し、前記モルタル部に前記エキスパンドメタルと前記縦筋と前記横筋とが埋め込まれ、前記エキスパンドメタルの前記曲面に沿うようにして前記モルタル部の表面仕上げを行うことで前記曲面形状を形成する。
【0011】
この曲面壁構造の構築方法によれば、裏側から順に、支持柱、横架材、内型枠、縦筋、横筋およびエキスパンドメタルを設置し、表面側からエキスパンドメタルの多数の開口および縦筋と横筋との間の空間を通してモルタルを内型枠に達するように吹き付けることで一層による所定厚さのモルタル部を構築するので、エキスパンドメタル1枚を通したモルタル吹き付けにより1層でモルタル部を構築できる。エキスパンドメタルは、従来のように2枚ではなく、1枚で済み、このため施工効率が向上するとともに、モルタル部を所定の厚さにできかつ主鉄筋の縦筋と横筋とにより必要な強度を確保でき、比較的高さのある薄形の曲面壁を構築できる。また、各エキスパンドメタルの各曲面に沿うようにしてモルタル部の表面仕上げを行うことで任意の曲面形状を形成することができる。
【0012】
上記曲面壁構造の構築方法において、前記横架材は、前記支持柱と前記縦筋との間に位置し、前記モルタル部からその一部が前記支持柱の側にはみ出るようなサイズを有することが好ましい。これにより、横架材は、モルタル部からその一部が支持柱の側にはみ出るので、モルタル部の厚さに関与せず、曲面壁を所定の厚さの薄形にでき、また、構造設計上必要な横断面サイズが大きくなっても配置可能である。
【0013】
前記曲面形状に対応するように変形した前記支持柱を前記曲面形状に対応する位置に設置し、前記曲面形状に対応するように変形した前記横架材を前記支持柱に取り付けることが好ましい。
【0014】
前記縦筋および前記横筋は、前記エキスバンドメタルの前記曲面に対応するように変形していることが好ましい。
【0015】
前記内型枠は、前記エキスバンドメタルの前記曲面に対応するように変形していることが好ましい。なお、内型枠はモルタル部の表面仕上げの後に脱型される。
【0016】
前記縦筋および前記横筋として、溶接により縦横のメッシュ状に予め組み立てられたメッシュ状鉄筋を所要寸法に切断してから配置することが好ましい。
【0017】
前記モルタルは、繊維補強モルタルであることが好ましい。
【0018】
上記目的を達成するための曲面壁構造は、所定の曲面形状を有する曲面壁構造であって、
所定間隔で配置された支持柱と、前記支持柱に水平方向に交差して支持されるように垂直方向に所定間隔で配置された横架材と、前記横架材に支持されて所定間隔で配置された縦筋と、前記縦筋に接続して所定間隔で配置された横筋と、前記横筋よりも表面側に配置されかつ前記曲面形状の一部に対応する曲面をそれぞれ有する複数のエキスパンドメタルと、前記エキスパンドメタルと前記縦筋と前記横筋とが埋め込まれて一層による所定厚さに構築されたモルタル部と、を備え、前記モルタル部には前記複数のエキスパンドメタルの各曲面に基づいて前記曲面形状が構成されている。
【0019】
この曲面壁構造によれば、支持柱と、横架材と、縦筋と、横筋と、複数のエキスパンドメタルと、モルタル部と、を備え、モルタル部はエキスパンドメタルと縦筋と横筋とが埋め込まれて一層による所定厚さに構築されているので、エキスパンドメタルは、従来のように2枚ではなく、1枚で済み、モルタル部を所定の厚さにできかつ主鉄筋の縦筋と横筋により必要な強度を確保でき、比較的高さのある薄形の曲面壁を実現できる。また、複数のエキスパンドメタルの各曲面に基づいて任意の曲面形状が構成できる。
【0020】
上記曲面壁構造において、前記横架材は、前記支持柱と前記縦筋との間に位置し、前記モルタル部からその一部が前記支持柱の側にはみ出るような横断面サイズを有することが好ましい。これにより、横架材は、モルタル部からその一部が支持柱の側にはみ出るので、モルタル部の厚さに関与せず、曲面壁を所定厚さの薄形にでき、また、構造設計上必要な横断面サイズが大きくなっても配置可能である。
【0021】
前記曲面形状に対応するように変形した前記支持柱は前記曲面形状に対応する位置に設置され、前記曲面形状に対応するように変形した前記横架材が前記支持柱に取り付けられていることが好ましい。
【0022】
また、前記縦筋および前記横筋は、前記複数のエキスパンドメタルの各曲面に対応するように変形していることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、日本国内において薄形でかつ任意の曲面形状の曲面壁が実現できるとともに、施工効率がよい曲面壁構造の構築方法および曲面壁構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態による曲面壁構造の要部を示す側断面図である。
図2図1の曲面壁構造の要部を示す正面図である。
図3】本実施形態による曲面壁構造の施工工程を説明するためのフローチャートである。
図4】従来の曲面壁を示す要部側断面図である。
図5図4の曲面壁の正面図(a)および側面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による曲面壁構造の要部を示す側断面図である。図2図1の曲面壁構造の要部を示す正面図である。
【0026】
図1図2のように、本実施形態による曲面壁構造10は、所定間隔cで配置された支持柱11と、支持柱11に水平方向に交差して支持されるように垂直方向に所定間隔dで配置された横架材12と、横架材12に取り付けられて所定間隔eで配置された縦筋13と、縦筋13に接続されて所定間隔fで配置された横筋14と、横筋14よりも表面側に配置されたエキスパンドメタル15と、エキスパンドメタル15と縦筋13と横筋14とが埋め込まれて一層による所定の厚さaに構築されたモルタル部17と、を備え、前面のモルタル部17の表面18が所定の曲面形状に形成されている。
【0027】
縦筋13と横筋14は、曲面壁の主鉄筋を構成し、所定の強度を有する構造部材であり、溶接により縦横のメッシュ状に予め組み立てられたメッシュ状鉄筋から構成できる。メッシュ状鉄筋を所要寸法に切断してから、たとえば結束線によりモルタル製のスペーサ19を介して横架材12に取り付けることで縦筋13と横筋14とを同時に設置できる。
【0028】
また、エキスパンドメタル15は、曲面壁構造10による曲面壁の曲面形状の一部に対応する曲面を有するように凹凸状に変形されており、複数のエキスパンドメタル15による複数の曲面が一体となって曲面壁の曲面形状と全体的に対応するようになっている。また、支持柱11、横架材12、縦筋13および横筋14は、曲面壁構造10による曲面壁の曲面形状にそれぞれ対応するように変形されている。モルタル部17の表面18には、複数のエキスパンドメタル15の各曲面に基づいて曲面壁の曲面形状の一部が形成される。このように、エキスパンドメタル15は構造部材ではなく、専ら曲面壁の曲面形状形成のために配置される。
【0029】
横架材12は、所定の外径gの鋼管からなり、支持柱11に取り付けられた取付板12aに載置され、縦筋13を幅jのスペーサ19を介して支持する。横架材12は、支持柱11と縦筋13との間に位置し、モルタル部17からその一部が支持柱11の側にはみ出るような横断面サイズ(外径g)を有するが、横断面サイズは事前の構造計算によって定められる。これにより、横架材12は、縦筋13にスペーサ19を介して近接しモルタル部17からその一部が支持柱11の側にはみ出るので、モルタル部17の厚さaには関与せず、また、構造計算の結果、必要な横断面サイズが大きくなっても配置可能である。
【0030】
図1のように、裏面側かぶり厚h2は内型枠20の表側面と縦筋13までの間隔であり、表面かぶり厚h1はエキスパンドメタル15からモルタル部17の表面18までの間隔である。モルタル部17と支持柱11との間の隙間bに関し、隙間b=横架材12の外径g+スペーサ19の幅j-裏面側かぶり厚h2、であり、横架材12の外径gが裏面側かぶり厚h2よりも大きいので、所定の隙間bを確保できる。かかるモルタル部17によれば、表面側および裏面側で所定のかぶり厚h1,h2を確保しながら所定の厚さaの薄形の曲面壁を実現できる。なお、事前の構造計算の結果、横架材12の横断面サイズ(外径g)が小さく、隙間bが所定の寸法を得られない場合には、取付板12aの突出長を長くし、横架材12の取付板12aへの載置位置で調整する。
【0031】
図1のように、モルタル部17の構築のために横架材12に支持されて内型枠20が支持柱P側に取り付けられる。内型枠20は曲面壁の曲面形状の一部に対応する略曲面状に構成されている。モルタル部17の裏面は横架材12に支持される内型枠20によって形成される。
【0032】
また、エキスパンドメタル15は、鉄板やステンレス鋼板やアルミニウム板等を菱形や亀甲型等の網目状に機械加工したもので、比較的軽量であり、曲面壁の曲面形状の一部の曲面に対応するように凹凸状に比較的容易に変形させることができる。
【0033】
エキスパンドメタル15は、図1図2のように、たとえばモルタル製のスペーサ16を介して横筋14に取り付けられる。エキスパンドメタル15の多数の菱形の開口15aを通してモルタルMRを内型枠20に向けて吹き付けることができる。すなわち、エキスパンドメタル15の多数の菱形の開口15aを通過したモルタルMRは、メッシュ状の縦筋13と横筋14との間に形成された間隔e×fの空間が多数の菱形の開口15aよりもかなり大きいのでメッシュ状の縦筋13と横筋14との間の空間を通過して図1の実線のように内型枠20に達して堆積し、さらにモルタルMRが吹き付けられて図1の破線のようにエキスパンドメタル15の表面側へと堆積する。これにより、モルタル部17を、1枚のエキスパンドメタル15を通したモルタル吹きつけにより一層で構築することができる。
【0034】
図1図2の曲面壁構造の寸法等の具体例について説明する。縦筋13と横筋14は、φ6@200mm(間隔e,f)の縦横メッシュ鉄筋を用い、縦筋φ6は、結束、あるいは、溶接し、全数連結される。曲面壁の厚さaは75mmとし、エキスパンドメタル15は、(1.2T / W1.5:SW12 / LW30.5)を用いる。エキスパンドメタル15のメッシュの短目方向中心距離SWが12mm、長目方向中心距離LWが30.5mmであり、その開口15aのサイズと比べて、縦筋13と横筋14の縦横の間隔e,f(200mm)が充分に大きくなっている。横架材12は、鋼管φ76.3×3.2@900mm(間隔d)であり、支持柱11は、鋼管φ216.3×8.0@3000(間隔c)である。なお、これらの寸法等は一例であって、設計条件によって適宜変更される。
【0035】
上記具体例に基づいて日本国内で高さ20m以上の曲面壁を構築するために、地震荷重と風荷重とを考慮し検討すると、特に東京を対象地とした場合、構造要素として最も考慮する必要があるのは地震荷重ではなく風荷重であることが判明した。風荷重に関し、次の条件で計算した結果、曲面壁の鉄筋は必要鉄筋量を満足し、横架材12の曲げ応力度σbは、短期許容曲げ応力度fbに対し、σb/fb < 1.0 であり、許容値未満である。支持柱11の曲げ応力度σb、軸方向応力度σc は、許容曲げ応力度fb、短期許容圧縮応力度fcに対し、σb/fb+σc/fc < 1.0 であり、許容値未満である。
風荷重:基準法告示1458号 外装羽用風圧力
場所:東京
区分:地表面粗度区分III、高さ:H=29.8m
市町村ごとに定められる基準風速:Vo = 34m/s
【0036】
次に、図1図3を参照して本実施形態による曲面壁構造10の施工工程S01~S14を説明する。図3は、本実施形態による曲面壁構造の施工工程を説明するためのフローチャートである。
【0037】
図1図2のエキスパンドメタル(Exp.メタル)15を必要枚数用意し、各エキスパンドメタル15を、対応する曲面壁の曲面形状の一部にしたがって、それぞれ凹凸状の曲面に加工する(S01)。各エキスパンドメタル15は、寸法や曲面の形状等の検査・承認を経て、ナンバリングされ梱包されてから(S02)、曲面壁施工現場へ運搬される(S03)。
【0038】
曲面壁施工現場において、必要本数の支持柱11を建て込み(S04)、建物等の施設本体に連結する(S05)。次に、複数本の横架材12を、支持柱11に支持された取付板12aに載置して取り付ける(S06)。
【0039】
次に、裏面側において内型枠20を横架材12に支持されるようにして組み立てる(S07)。次に、縦筋13と横筋14とが一体になったメッシュ鉄筋をモルタル製のスペーサ19を介して取り付け横架材12に結束線や番線等で固定する(S08)。
【0040】
次に、運搬された各エキスパンドメタル15を、モルタル製のスペーサ16を介して横筋14に取り付ける(S09)。
【0041】
繊維補強モルタルの配合を確認してから(S10)、その配合により繊維補強モルタルを製造プラントで製造し(S11)、次に、図1のように、繊維補強モルタルMRを、吹き付けガンGNを用いて各エキスパンドメタル15に向けて内型枠20に達するように吹き付ける(S12)。これにより、モルタル部17を一層で構築する。
【0042】
次に、モルタル部17の表面18において、こて押さえ等の表面仕上げによる表面成形を行う(S13)。これにより、表面18が曲面壁の曲面形状の一部を構成する。次に、吹き付けモルタルの所要強度確認を経て、裏面側の内型枠20を脱型する(S14)。
【0043】
以上のように本実施形態の曲面壁構造10の構築方法によれば、裏面側から順に、支持柱11、横架材12、内型枠20、縦筋13、横筋14およびエキスパンドメタル15を設置し、表面側からエキスパンドメタル15の多数の開口15aおよび縦筋13と横筋14との間の空間を通して繊維補強モルタルMRを内型枠20に達するように吹き付けることで一層による所定厚さaのモルタル部17を構築するので、エキスパンドメタル1枚を通したモルタル吹き付けにより1層でモルタル部17を構築でき、かつ、エキスパンドメタル15は、従来のように2枚ではなく、1枚で済み、このため施工効率が向上するとともに、モルタル部17を所定の厚さaに構築できかつ主鉄筋の縦筋13、横筋14により必要な強度を確保でき、比較的高さのある薄形の曲面壁を構築できる。また、各エキスパンドメタル15の各曲面に沿うようにしてモルタル部17の表面仕上げを行うことで所定の曲面形状を形成することができる。
【0044】
また、エキスパンドメタルを1枚しか設置しない場合においても、緩やかな曲面形状の形成が可能である。また、モルタル製のスペーサ16の寸法を調整することで厚み方向のエキスパンドメタルの設置位置を適切に設定でき、均一かつ円滑な仕上げ面を形成できる。
【0045】
また、本実施形態において曲面壁の凹凸状の曲面形状は特に限定がなく、不定形で任意の形状の曲面壁を構築できる。たとえば、図5(a)(b)のような曲面壁を構築でき、また、同図に示すように、曲面壁に任意形状の開口部や切り欠き部を設けることもできる。
【0046】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態では横架材12を円筒状鋼管から構成したが、本発明はこれに限定されず、必要断面係数が得られる形状・寸法であれば、たとえば、四角形鋼管やC型鋼やアングル鋼などであってもよい。
【0047】
また、本実施形態では、縦筋12と横筋13とをメッシュ状鉄筋から構成したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、縦筋13と横筋14とを別々に配置するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、日本国内において地震荷重と風荷重に対応でき、薄形でかつ不定形の曲面形状の曲面壁を施工効率よく施工できるので、意匠的に美観を生じるようにデザインされた曲面壁を比較的低コストで構築できる。
【符号の説明】
【0049】
10 曲面壁構造
11 支持柱
12 横架材
12a 取付板
13 縦筋
14 横筋
15 エキスパンドメタル
15a 開口
16 スペーサ
17 モルタル部
18 モルタル部の表面
20 内型枠
GN スプレーガン
MR 繊維補強モルタル
a 曲面壁の厚さ
b モルタル部と支持柱との間の隙間
c 支持柱の間隔
d 横架材の間隔
e 縦筋の間隔
f 横筋の間隔
g 横架材の外径
h1,h2 かぶり厚
図1
図2
図3
図4
図5