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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106746
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】周波数フィルタ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20230726BHJP
   H10N 30/045 20230101ALI20230726BHJP
   H10N 30/87 20230101ALI20230726BHJP
   H10N 30/063 20230101ALI20230726BHJP
   H10N 30/40 20230101ALI20230726BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H01L41/257
H01L41/047
H01L41/293
H01L41/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007661
(22)【出願日】2022-01-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「RFエネルギーハーベスティング応用向け圧電素子の研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】泉 航太
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真之
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB08
5J108CC11
5J108CC12
5J108EE03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】大電力の高周波電力に対するフィルタリングを行うことができる周波数フィルタを提供する。
【解決手段】周波数フィルタ10は、第1積層体11と、第1電極対12と、第2積層体13と、第2電極対14と、基板15と、を備える。第1積層体11は、圧電材料から成る第1層111と、圧電材料から成り前記第1層の分極とは異なるか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第2層112と、を交互に1層ずつ繰り返し複数積層されている。第1電極対12は、第1積層体11を積層方向に挟む。第2積層体13は、圧電材料から成る第3層131と、第1層の分極とは異なるか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第4層132と、を交互に1層ずつ繰り返し複数積層されている。第2電極対14は、第2積層体13を積層方向に挟む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 圧電材料から成り分極が所定の一方向を向いている第1層と、圧電材料から成り分極が前記第1層の分極とは異なる一方向を向いているか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第2層とを交互に1層ずつ繰り返して合わせて複数積層したものであって、前記第1層の厚さd1と前記第2層の厚さd2が前記第1層内の音速v1と前記第2層内の音速v2を用いて0.7×(v2/v1)d1≦d2≦1.5×(v2/v1)d1の関係にある第1積層体と、
b) 前記第1積層体を積層方向に挟むように設けられた1対の電極から成る第1電極対と、
c) 圧電材料から成り分極が所定の一方向を向いている第3層と、圧電材料から成り分極が前記第3層の分極とは異なる一方向を向いているか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第4層とを交互に1層ずつ繰り返して合わせて、前記第1層と前記第2層を合わせた数と同数積層したものであって、前記第3層の厚さd3と前記第4層の厚さd4が前記第3層内の音速v3と前記第4層内の音速v4を用いて0.7×(v4/v3)d3≦d4≦1.5×(v4/v3)d3の関係にあり、且つ、前記第1層の厚さd1と前記第3層の厚さd3が0.7×(v3/v1)d1≦d3≦1.5×(v3/v1)d1の関係にある第2積層体と、
d) 前記第2積層体を積層方向に挟むように設けられた1対の電極から成る第2電極対と、
を備え、さらに、
e) 一方の面が前記第1電極対の一方の電極と接し他方の面が前記第2電極対の一方の電極と接する絶縁材料から成る基板を備えるか、又は前記第1電極対の一方の電極と前記第2電極対の一方の電極が直接接触している
ことを特徴とする周波数フィルタ。
【請求項2】
前記第2層が圧電材料から成り、
前記第1層における分極の該第1層に平行な成分と、前記第2層における分極の該第2層に平行な成分が互いに逆方向を向いており、
及び/又は、
前記第4層が圧電材料から成り、
前記第3層における分極の該第3層に平行な成分と、前記第4層における分極の該第4層に平行な成分が互いに逆方向を向いている
ことを特徴とする請求項1に記載の周波数フィルタ。
【請求項3】
さらに、前記第1電極対のうちの前記第2電極対側とは反対の側にある電極、及び/又は前記第2電極対のうちの前記第1電極対側とは反対の側にある電極に接する吸音材を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の周波数フィルタ。
【請求項4】
a) 圧電材料から成り分極が所定の一方向を向いている第1層と、圧電材料から成り分極が前記第1層の分極とは異なる一方向を向いているか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第2層とを交互に1層ずつ繰り返して合わせて複数積層したものであって、前記第1層の厚さd1と前記第2層の厚さd2が前記第1層内の音速v1と前記第2層内の音速v2を用いて0.7×(v2/v1)d1≦d2≦1.5×(v2/v1)d1の関係にある第1積層体と、
b) 前記第1積層体を積層方向に挟むように設けられた1対の電極から成る第1電極対と、
c) 圧電材料から成り分極が所定の一方向を向いている第3層と、圧電材料から成り分極が前記第3層の分極とは異なる一方向を向いているか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第4層とを交互に1層ずつ繰り返して合わせて複数積層したものであって、前記第3層の厚さd3と前記第4層の厚さd4が前記第3層内の音速v3と前記第4層内の音速v4を用いて0.7×(v4/v3)d3≦d4≦1.5×(v4/v3)d3の関係にあり、且つ、前記第1層の厚さd1と前記第3層の厚さd3が0.7×(v3/v1)d1≦d3≦1.5×(v3/v1)d1の関係にある第2積層体と、
d) 前記第2積層体を積層方向に挟むように設けられた1対の電極から成る第2電極対と、
を備え、さらに、
e) 一方の面が前記第1電極対の一方の電極と接し他方の面が前記第2電極対の一方の電極と接する絶縁材料から成る基板を備えるか、又は前記第1電極対の一方の電極と前記第2電極対の一方の電極が直接接触している
周波数フィルタを用い、
複数の周波数を含む交流電力を前記第1電極対の2個の電極間に入力し、該複数の周波数のうちの1つの周波数を有する交流電力を前記第2電極対の2個の電極間で出力することを特徴とする周波数フィルタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話の基地局等で使用される、周波数のフィルタリングを行う周波数フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話サービスでは、市中に多数設置された基地局と携帯電話の端末との間で電波を送受信する。基地局及び端末のいずれにおいても、アンテナで受信した電磁波に含まれる多数の周波数から特定の周波数を抽出するという、周波数のフィルタリングを行う周波数フィルタが用いられている。
【0003】
このような周波数フィルタの例として、表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)フィルタが知られている(例えば特許文献1参照)。SAWフィルタは、1対の櫛形電極を噛み合わせて成るIDT(Interdigital transducer)を圧電体薄膜の表面に設けたものである。SAWフィルタには、圧電体薄膜の表面に配置した1対のグレーティング反射器で1又は2個のIDTを挟んで成る共振子型と呼ばれるものと、グレーティング反射器は設けずに2個のIDTを設けたトランスバーサル型と呼ばれるものがある。
【0004】
また、周波数フィルタの他の例として、バルク弾性波(Bulk Acoustic Wave:BAW)フィルタが知られている。BAWフィルタには、1層の圧電体薄膜とそれを挟むように表裏面に設けられた1対の電極から成るもの(ここでは「単位体」と呼ぶ)を1組として、1組の単位体のみから成るものと、単位体を2組を重ねたものから成るものがある。後者はSCF(Stacked Crystal Filter)とも呼ばれ(特許文献2参照)、電磁波を変換した電気信号を一方の組の1対の電極に入力すると、その電気信号に含まれる特定の周波数の電気信号が他方の組の1対の電極から出力される。1組の単位体のみから成るもの、SCFのいずれも、両端に空気を存在させるか又は両端を真空とすることにより、完全反射が生じる自由端となり、両端に反射器を設ける必要はない。空気の代わりに、基板に固定するために反射器層を設けたSMR(Solidly Mounted Resonator)もある。ここまでに述べたBAWフィルタの各例はいずれも、共振子型の周波数フィルタとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-088952号公報
【特許文献2】国際公開WO2010/079614号公報
【特許文献3】特開2018-190800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SAWフィルタは櫛形電極の櫛の間の耐電圧性が低く、大電力の高周波電力に対するフィルタリングを行うことができない。一方、BAWフィルタの圧電体薄膜(SCFでは各圧電体薄膜)の厚さはフィルタリングを行う周波数が高いほど薄くする必要があるが、圧電体薄膜の耐圧性は、当然、薄くなると低下する。そのため、BAWフィルタではフィルタリングを行う周波数が高い場合、大電力の高周波電力に対するフィルタリングを行うことが困難になるという問題があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、大電力の高周波電力に対するフィルタリングを行うことができる周波数フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る周波数フィルタは、
a) 圧電材料から成り分極が所定の一方向を向いている第1層と、圧電材料から成り分極が前記第1層の分極とは異なる一方向を向いているか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第2層とを交互に1層ずつ繰り返して合わせて複数積層したものであって、前記第1層の厚さd1と前記第2層の厚さd2が前記第1層内の音速v1と前記第2層内の音速v2を用いて0.7×(v2/v1)d1≦d2≦1.5×(v2/v1)d1の関係にある第1積層体と、
b) 前記第1積層体を積層方向に挟むように設けられた1対の電極から成る第1電極対と、
c) 圧電材料から成り分極が所定の一方向を向いている第3層と、圧電材料から成り分極が前記第3層の分極とは異なる一方向を向いているか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第4層とを交互に1層ずつ繰り返して合わせて、前記第1層と前記第2層を合わせた数と同数積層したものであって、前記第3層の厚さd3と前記第4層の厚さd4が前記第3層内の音速v3と前記第4層内の音速v4を用いて0.7×(v4/v3)d3≦d4≦1.5×(v4/v3)d3の関係にあり、且つ、前記第1層の厚さd1と前記第3層の厚さd3が0.7×(v3/v1)d1≦d3≦1.5×(v3/v1)d1の関係にある第2積層体と、
d) 前記第2積層体を積層方向に挟むように設けられた1対の電極から成る第2電極対と、
を備え、さらに、
e) 一方の面が前記第1電極対の一方の電極と接し他方の面が前記第2電極対の一方の電極と接する絶縁材料から成る基板を備えるか、又は前記第1電極対の一方の電極と前記第2電極対の一方の電極が直接接触している
ことを特徴とする。
【0009】
なお、第1層及び第3層を構成する圧電材料は同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。また、第2層又は第4層が圧電材料から成る場合には、それらの材料は第1層及び/又は第3層と同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。さらに、第2層及び第4層が共に圧電材料から成る場合には、それらの材料は同じ材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。
【0010】
また、第1層の分極方向と第3層の分極方向は同じ方向であってもよいし、異なる方向であってもよい。また、第2層又は第4層が圧電材料から成る場合には、第2層と第3層の分極方向、又は第4層と第1層の分極方向は、同じ方向であってもよいし、異なる方向であってもよい。さらに、第2層及び第4層が共に圧電材料から成る場合には、第2層と第4層の分極方向は同じ方向であってもよいし、異なる方向であってもよい。
【0011】
第1層と第2層は合わせて複数層有ればよい。第1層と第2層は少なくとも1層ずつ有ればよいが、第1層と第2層がそれぞれ複数層ずつ有ってもよい。また、第1層と第2層のうちのいずれか一方が他方よりも1層多く有ってもよい。第3層と第4層も、第1層と第2層の場合と同様である。
【0012】
前記第1電極対の一方の電極と前記第2電極対の一方の電極が直接接触している場合には、それら2つの電極が共通の電位となる(典型的には接地する)ようにすればよい。また、それら2つの電極が一体の(1個の)電極であってもよい。
【0013】
本発明に係る周波数フィルタは、共振子型として機能するBAWとは異なり、従来存在しなかったトランスバーサル型として機能するBAWである。以下、本発明に係る周波数フィルタの動作を説明する。
【0014】
本発明に係る周波数フィルタでは、複数の周波数を含む交流電力が第1電極対の2個の電極間に入力されると、第1積層体を構成する各第1層は圧電変換により機械的に振動するが、厚さ方向に伝播する振動の成分(この振動は縦波であっても横波であってもよい)はそれら複数の周波数のうち厚さd1及び音速v1(縦波であるか横波であるかによって相違する)により定まる特定の周波数で強くなる。また、第2層が圧電材料から成る場合には、第2層は前記複数の周波数のうち厚さd2及び音速v2により定まる特定の周波数で振動が強くなる。ここで、第2層の厚さd2が(v2/v1)d1又はそれに近い(0.7~1.5倍の)値を有することにより、第1積層体の各第2層は、前記特定の周波数(すなわち、第1層と同じ周波数)で、周波数毎に同じ位相で振動する。一方、第2層が圧電性を有しない絶縁材料から成る場合には、第2層には圧電効果による振動は生じないものの、第1層からの振動を受けて、第2層が第1層と同じ特定の周波数で強く振動する。その結果、第2層が圧電材料、圧電性を有しない絶縁材料のいずれから成る場合にも、第1積層体の全体には、1層あたり半整数となる波数に対応する前記特定の周波数を中心とする特定の周波数範囲内で強い機械的振動が生じる。
【0015】
こうして第1積層体で生じた前記周波数範囲での強い機械的振動は、基板を経て第2積層体に伝播する。第2積層体では、第1積層体から伝播した機械的振動により第3層及び第4層が励振される。ここで、第3層の厚さd3が(v3/v1)d1又はそれに近い(0.7~1.5倍の)値を有することにより、第2積層体の各第3層も前記周波数範囲内で振動する。また、各第4層は、圧電材料から成る場合にはその厚さd4が(v4/v3)d3又はそれに近い(0.7~1.5倍の)値を有することにより第3層と同じ周波数範囲内で振動し、圧電性を有しない絶縁材料から成る場合には第3層からの振動を受けて同じ周波数範囲内で振動する。これにより、第2電極対の間に圧電変換によって交流電力が発生する。この交流電力を電気信号として取り出すことにより、本発明に係る周波数フィルタは、第1電極対に入力された複数の周波数のうち前記周波数範囲内の周波数を有する交流電力を第2電極対から取り出す周波数フィルタとして機能する。
【0016】
本発明に係る周波数フィルタによれば、入力側である第1電極対の間に第1層及び第2層をそれぞれ複数層有すると共に、出力側である第2電極対の間に第3層及び第4層をそれぞれ複数層有するため、第1電極対の間及び第2電極対の間を、従来の共振器型のBAWよりも厚い圧電体製の部材(第1積層体及び第2積層体)によって電気的に絶縁することができる。そのため、耐電圧性を高くすることができ、フィルタリングを行う周波数範囲が高い場合であっても大電力の高周波電力に対するフィルタリングを行うことが可能となる。
【0017】
本発明に係る周波数フィルタにおいて、
前記第2層が圧電材料から成り、
前記第1層における分極の該第1層に平行な成分と、前記第2層における分極の該第2層に平行な成分が互いに逆方向を向いており、
及び/又は、
前記第4層が圧電材料から成り、
前記第3層における分極の該第3層に平行な成分と、前記第4層における分極の該第4層に平行な成分が互いに逆方向を向いている
という構成を取ることができる。
【0018】
このように、第1層と第2層、及び/又は第3層と第4層の間で、分極の各層に平行な成分が違いに逆方向である積層体は、例えばマグネトロンスパッタ法を用いて各層を作製する際に粒子の入射方向を1層おきに異なる方向とすることにより、容易に得ることができる。
【0019】
本発明に係る周波数フィルタにおいて、さらに、前記第1電極対のうちの前記第2電極対側とは反対の側にある電極、及び/又は前記第2電極対のうちの前記第1電極対側とは反対の側にある電極に接する吸音材を備えるようにしてもよい。これにより、第1積層体及び/又は第2積層体内を伝播する振動がそれら積層体の吸音材を設けた端面において反射することが抑えられる。これにより、第1積層体及び/又は第2積層体内において不要な共振が生じることを抑えることができる。
【0020】
本発明に係る周波数フィルタリング方法は、
a) 圧電材料から成り分極が所定の一方向を向いている第1層と、圧電材料から成り分極が前記第1層の分極とは異なる一方向を向いているか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第2層とを交互に1層ずつ繰り返して合わせて複数積層したものであって、前記第1層の厚さd1と前記第2層の厚さd2が前記第1層内の音速v1と前記第2層内の音速v2を用いて0.7×(v2/v1)d1≦d2≦1.5×(v2/v1)d1の関係にある第1積層体と、
b) 前記第1積層体を積層方向に挟むように設けられた1対の電極から成る第1電極対と、
c) 圧電材料から成り分極が所定の一方向を向いている第3層と、圧電材料から成り分極が前記第3層の分極とは異なる一方向を向いているか又は圧電性を有しない絶縁材料から成る第4層とを交互に1層ずつ繰り返して合わせて複数積層したものであって、前記第3層の厚さd3と前記第4層の厚さd4が前記第3層内の音速v3と前記第4層内の音速v4を用いて0.7×(v4/v3)d3≦d4≦1.5×(v4/v3)d3の関係にあり、且つ、前記第1層の厚さd1と前記第3層の厚さd3が0.7×(v3/v1)d1≦d3≦1.5×(v3/v1)d1の関係にある第2積層体と、
d) 前記第2積層体を積層方向に挟むように設けられた1対の電極から成る第2電極対と、
を備え、さらに、
e) 一方の面が前記第1電極対の一方の電極と接し他方の面が前記第2電極対の一方の電極と接する絶縁材料から成る基板を備えるか、又は前記第1電極対の一方の電極と前記第2電極対の一方の電極が直接接触している
周波数フィルタを用い、
複数の周波数を含む交流電力を前記第1電極対の2個の電極間に入力し、該複数の周波数のうちの1つの周波数を有する交流電力を前記第2電極対の2個の電極間で出力することを特徴とする。
【0021】
なお、本発明に係る周波数フィルタリング方法では、第1層と第2層を合わせた数(入力側の層数)と、第3層と第4層を合わせた数(出力側の層数)は、同じであっても異なっていてもよい。入力側の層数と出力側の層数が異なっている場合には、フィルタリングと同時に、入力した交流電力の電圧を昇圧(入力側の層数よりも出力側の層数の方が多い場合)又は降圧(入力側の層数よりも出力側の層数の方が少ない場合)するトランスとしても機能する(特許文献3参照)。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、大電力の高周波電力に対するフィルタリングを行うことが可能な周波数フィルタを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る周波数フィルタの第1実施形態を示す概略構成図。
図2】Al1-xScxN(0≦x≦0.45)から成る層における層に対する垂線からの分極の傾斜角度と電気機械結合係数の関係を示すグラフ。
図3】第1実施形態の周波数フィルタにおける動作を説明するための図。
図4】第1実施形態の周波数フィルタの一変形例を示す概略構成図。
図5】第1実施形態の周波数フィルタの他の変形例を示す概略構成図。
図6】第1実施形態の周波数フィルタのさらに他の変形例を示す概略構成図。
図7】本発明に係る周波数フィルタの第2実施形態を示す概略構成図。
図8】第1実施形態及び第2実施形態の周波数フィルタにつき、フィルタ特性を計算で求めた結果を示すグラフ。
図9】第2実施形態の周波数フィルタにつき、第1積層体及び第2積層体の層数が異なる複数の例のフィルタ特性を計算で求めた結果を示すグラフ。
図10】第2実施形態の周波数フィルタにつき、入力側及び出力側に接続したインピーダンスが異なる複数の例のフィルタ特性を計算で求めた結果を示すグラフ。
図11】作製した周波数フィルタの第1積層体を含む部分(a)及び第2積層体を含む部分(b)の断面を撮影した電子顕微鏡写真。
図12】作製した周波数フィルタの第1積層体につき測定した(0002)面極点図(a)、及びΨ走査曲線を示すグラフ(b)。
図13】作製した周波数フィルタの第2積層体につき測定した(0002)面極点図(a)、及びΨ走査曲線を示すグラフ(b)。
図14】作製した周波数フィルタにつきフィルタ特性の測定を行った結果(a)、及び得られたフィルタ特性の測定データに対して不要なピーク等を除去する信号処理を行った結果(b)を示すグラフ。
図15】本発明に係る周波数フィルタの第3実施形態を示す概略構成図。
図16】第1積層体の層数と第2積層体の層数が異なる例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1図16を用いて、本発明に係る周波数フィルタの実施形態を示す。
【0025】
(1) 第1実施形態
図1に示す第1実施形態の周波数フィルタ10は、第1積層体11と、第1電極対12と、第2積層体13と、第2電極対14と、基板15とを備える。
【0026】
第1積層体11は、圧電材料から成る第1層111と、圧電材料から成る第2層112を、基板15側から第1層111、第2層112、第1層111、第2層112の順に交互に複数(4つ)積層したものである。第1層111は、層に対して傾斜した(層に対して平行でも垂直でもない)方向の分極P1=(px, py)を有する。ここでpxは層に平行な方向に関する分極P1の成分、pyは層に垂直な方向に関する分極P1の成分を示す。第2層112が有する分極P2は、層に対して傾斜し、層に平行な方向に関する成分が-px(すなわち第1層111とは逆方向)であって層に平行な方向の成分がpy(すなわち第1層111と同方向)である(P2=(-px, py))。
【0027】
第1層111及び第2層112の圧電材料には、本実施形態ではいずれもウルツ鉱構造を有するAl1-xScxN(0≦x≦0.45)を用いる。なお、xが0.45を超えると、非圧電体となるAl1-xScxNの代わりに、ZnO等の他のウルツ鉱構造を有する圧電材料を用いてもよい。ウルツ鉱構造を有する圧電材料は、例えばマグネトロンスパッタ法を用いて圧電材料の粒子を基板の表面に対して傾斜した方向から入射させて堆積させることにより、層に対して傾斜した分極を有する圧電体層を容易に作製することができるという利点を有する。この方法を用いて第1積層体11を作製する際には、基板をそれに垂直な軸を中心に180°回転させたうえで圧電材料の粒子を堆積させるという操作を繰り返し行えばよい。
【0028】
なお、第1層111及び第2層112の圧電材料にAl1-xScxNを用いる場合には、分極P1及びP2の向きは、第1層111及び第2層112に対する垂線から27°~43°傾斜した方向とすることが好ましい。このような方向に傾斜させることにより、電気機械結合係数のうちk'15 2の値を大きくすることができ(図2参照)、後述のように第1積層体11内に生成される横波の強度を高くすることができる。
【0029】
第1層111及び第2層112は本実施形態ではいずれも同じ厚さとするが、両者の厚さは多少異なっていてもよい。具体的には、第1層111の厚さd1と第2層112の厚さd2が第1層111内の音速v1と第2層112内の音速v2を用いて0.7×(v2/v1)d1≦d2≦1.5×(v2/v1)d1の関係にあるように、第1層111の厚さd1と第2層112の厚さd2を定めればよい。本実施形態のように第1層111と第2層112が同じ圧電材料から成る場合にはv1=v2であるため0.7d1≦d2≦1.5d1の関係を満たせばよい。第1層111と第2層112が異なる圧電材料から成る場合には、圧電材料毎に音速を求めたうえで上記の関係から第1層111の厚さd1と第2層112の厚さd2を定めればよい。
【0030】
第1電極対12は、第1積層体11を積層方向に挟むように設けられた1対の電極121,122から成る。
【0031】
第2積層体13は、圧電材料から成る第3層131と、圧電材料から成る第4層132を、基板15側から第3層131、第4層132、第3層131、第4層132の順に交互に複数(4つ)積層したものである。本実施形態では、第2積層体13は第1積層体11と同じ構成とした。すなわち、第3層131と第4層132の材料にはいずれも同じ圧電材料であるAl1-xScxN(0≦x≦1)を用い、第3層131の分極はP1=(px, py)、第4層132の分極はP2=(-px, py)とした。また、第3層131と第4層132は同じ厚さとした。第2積層体13においても第1積層体11と同様に変形した構成を取ることができる。また、第1積層体11と第2積層体13のいずれか一方のみを変形した構成としたり、第1積層体11と第2積層体13を互いに異なる変形をした構成とすることもできる。
【0032】
第2電極対14は、第2積層体13を積層方向に挟むように設けられた1対の電極141,142から成る。
【0033】
基板15は、絶縁材料から成る板材であり、一方の面が第1電極対12の一方の電極122と接し他方の面が第2電極対14の一方の電極141と接している。基板15には、例えば、水晶製の板材を用いることができる。水晶は、音響インピーダンスがAl1-xScxNの音響インピーダンスに近いため、特に第1積層体11及び第2積層体13がAl1-xScxN製である場合に基板15の材料として好適に用いることができる。基板15の厚さは特に限定されないが、後述のように第1積層体11で発生する振動が第2積層体13に伝達する際に減衰し過ぎない程度の厚さとする。
【0034】
次に、図3を参照しつつ、第1実施形態の周波数フィルタ10の動作を説明する。
【0035】
フィルタリングの対象となる、複数の周波数を含む交流電力信号は、第1電極対12の電極121と電極122間に入力する。すると、第1積層体11を構成する各第1層111及び各第2層112は、圧電変換により機械的に振動する。その際、第1層111の分極P1と第2層112の分極P2の、それらの層に平行な成分が互いに逆方向であることにより、第1層111と第2層112はそれらの層に平行且つ互いに逆位相(180°異なる位相)で振動する。その結果、第1積層体11内には、厚さ方向(第1層111及び第2層112に垂直な方向)に伝播する横波の振動が生じる(図3参照)。この横波の振動は、入力した交流電力が有する複数の周波数のうち、第1層111及び第2層112の厚さ並びに音速(それらの層の材料に依存する)で定まる特定の周波数を中心とした特定の周波数範囲内にある振動周波数(前記特定の周波数と同じであってもよいし、該特定の周波数からずれていてもよい)で強く生じる。
【0036】
このように第1積層体11内で強く生じた前記振動周波数での横波の振動は、基板15を介して第2積層体13に伝播する。第2積層体13内では、各第3層131及び各第4層132が基板15から伝播した横波の振動により励振される。これにより、第2電極対14の電極141と電極142の間に、圧電変換によって前記振動周波数を有する交流電力が発生する。この交流電力を第2電極対14から取り出すことにより、前記振動周波数の交流電力信号が取り出される。
【0037】
以上のように、第1実施形態の周波数フィルタ10は、第1電極対12に入力された複数の周波数を含む交流電力信号のうち、前記特定の周波数範囲内にある周波数(前記振動周波数)の交流電力信号が第2電極対14から出力される周波数フィルタとして動作する。
【0038】
なお、ここでは第1電極対12を入力側、第2電極対14を出力側として説明したが、第2電極対14を入力側、第1電極対12を出力側とした場合にも上記と同様に動作する。
【0039】
第1実施形態の周波数フィルタ10では第1層111及び第2層112に、それらの層に対して傾斜した分極を有する圧電体層を用いたが、その代わりに、図4に示すように第1層111及び第2層112に垂直な分極Pを有する圧電体層を用いてもよい。この場合、第1層111と第2層112では分極Pが互いに逆方向となるようにする。あるいは、第1層111と第2層112のいずれか一方の層を該層に垂直な分極Pを有する圧電体層とし、他方の層を前記一方の層における分極Pとは逆方向の垂直成分を有し該他方の層に対して傾斜した圧電体層を用いてもよい。いずれの場合にも、第1積層体11内には縦波の振動が生成される。これらと同様の構成を第3層131及び第4層132に適用してもよい(図4参照)。
【0040】
あるいは、図5に示すように、第1層111及び第2層112に、それらの層に平行な分極Pを有する圧電体層を用いてもよい。この場合にも、第1層111と第2層112では分極Pが互いに逆方向となるようにする。あるいは、第1層111と第2層112のいずれか一方の層を該層に平行な分極Pを有する圧電体層とし、他方の層を前記一方の層における分極Pとは逆方向の平行成分を有し該他方の層に対して傾斜した圧電体層を用いてもよい。いずれの場合にも、第1積層体11内には上記第1実施形態と同様に横波の振動が生成される。これらと同様の構成を第3層131及び第4層132に適用してもよい(図5参照)。
【0041】
さらに他の変形例として、第1実施形態の周波数フィルタ10において基板15を設ける代わりに、図6に示すように、第1積層体11と第2積層体13の間に、第1電極対12の一方の電極(第1実施形態における電極122に相当)と第2電極対14の一方の電極(同・電極141に相当)を兼ねる電極151を設けてもよい。この場合、第1積層体11で生じた振動は、電極151を介して第2積層体13に伝播する。このような電極151は、第1層111~第4層が図4図5に示すような分極や、その他の分極を有する場合にも適用することができる。
【0042】
(2) 第2実施形態
次に、第2実施形態の周波数フィルタ20について説明する。この第2実施形態の周波数フィルタ20は、図7に示すように、第1実施形態の周波数フィルタ10にさらに、第1吸音材21及び第2吸音材22を設けたものである。第1吸音材21は、第1電極対12のうちの第2電極対14側とは反対の側にある電極121に接するように設けられている。第2吸音材22は、第2電極対14のうちの第1電極対12側とは反対の側にある電極142に接するように設けられている。第1吸音材21及び第2吸音材22にはいずれも、第1層111と同じ音響インピーダンスを有する材料から成るものであって、端面に凹凸を形成したものを用いた。このような凹凸を有する端面において音波が散乱されることにより吸音される。
【0043】
なお、第1吸音材21と第2吸音材22の双方を設ける代わりに、第1吸音材21と第2吸音材22のうちのいずれか一方のみを設けてもよい。また、第1吸音材21及び/又は第2吸音材22と、上述した第1実施形態の各変形例の構成を組み合わせてもよい。
【0044】
第2実施形態の周波数フィルタ20によれば、第1吸音材21及び/又は第2吸音材22を備えることにより、第1積層体11及び/又は第2積層体13内を伝播する振動が、それら積層体の吸音材を設けた端面において反射することが抑えられる。これにより、第1積層体11及び/又は第2積層体13内において不要な共振が生じることを抑えることができる。
【0045】
(3) 第1実施形態及び第2実施形態の周波数フィルタに関する計算及び実験例
まず、第1実施形態の周波数フィルタ10及び第2実施形態の周波数フィルタ20(いずれも、第1積層体11及び第2積層体の層数は4つずつ)につき、フィルタ特性を計算で求めた。フィルタ特性は、周波数毎の挿入損失の値で示される。この計算では、第1実施形態及び第2実施形態共に、第1層111、第2層112、第3層131及び第4層132のいずれも、Al1-xScxN(x=0.4)から成るものを用い、厚さを3.8μm、電気機械結合係数k'152を12%(層に垂直な方向からの分極の傾斜角が43°の場合に相当)とした。第1層111~第4層132の横波の音速v1~v4はいずれも3795m/sである。第2実施形態では、実際に第1吸音材21及び第2吸音材22を設ける代わりに、信号処理によって端面での反射の影響を除去することにより、擬似的にに第1吸音材21及び第2吸音材22が存在する状態を再現した。
【0046】
フィルタ特性の計算結果を図8に示す。第1実施形態では数十~200MHzの周波数幅を有する緩やかなピークの中にスパイク状のピークが多数見られる。このスパイク状のピークは、第1実施形態の周波数フィルタ10中の第1積層体11及び第2積層体13内で生じている不要な共振に起因している。それに対して第2実施形態では、緩やかなピークのみが見られ、スパイク状のピークは見られない。これは、第2実施形態の周波数フィルタ20では第1吸音材21及び第2吸音材22が存在することによって不要な共振が抑えられていることによる。一方、第1実施形態は第2実施形態よりも挿入損失が小さく(図8のグラフでは上側にあり)、信号の損失が抑えられる。
【0047】
第2実施形態の周波数フィルタ20につき、第1積層体11の層数(第1層111と第2層112の層数の和)及び第2積層体13の層数(第3層131と第4層132の層数の和)の双方を2,3及び4とした場合についてそれぞれ、フィルタ特性を計算した。ここで層数が3の場合には、第1層111及び第3層の層数を2、第2層112及び第4層132の層数を1とした。計算結果を図9に示す。なお、層数が4の場合は図8中の第2実施形態の計算結果と同じである。第1積層体11及び第2積層体13の層数が多いほど、通過帯域が狭くなると共に、挿入損失が小さくなり信号の損失が抑えられる。
【0048】
第2実施形態の周波数フィルタ20(第1積層体11及び第2積層体の層数は4つずつ)につき、インピーダンス整合を調整することによってフィルタ特性が変化することを計算で確認した。ここでは、周波数フィルタ20の入力側及び出力側にそれぞれR=50Ωの電気抵抗を挿入した場合と、入力側及び出力側にそれぞれR=50Ωの電気抵抗及びL=16nHのインダクタンスを挿入した場合についてフィルタ特性を計算した。計算結果を図10に示す。R=50Ωの電気抵抗のみを挿入した場合よりもR=50Ωの電気抵抗及びL=16nHのインダクタンスを挿入した場合の方が挿入損失が小さくなっており、インピーダンス整合を調整することによって挿入損失が改善されることが確認された。
【0049】
次に、第1実施形態の周波数フィルタ10(第1積層体11及び第2積層体の層数は4つずつ)を作製した結果を説明する。基板15には、水晶製であって表裏両面がz軸に垂直な面である板材を用いた。
【0050】
作製方法は以下の通りである。まず、基板15の両面に金属材を蒸着することにより、電極122及び141を作製した。次に、マグネトロンスパッタ装置の基板ホルダに、電極122側をスパッタターゲット側に向けて基板15を装着した。そのうえで、AlとScの合金から成るスパッタターゲットをスパッタすることにより生成される粒子を窒素ガス雰囲気下で基板15に対して傾斜した方向から電極122の表面に入射させることにより、第1層111を1つ形成した。続いて、基板15をそれに垂直な軸で180°回転させたうえで、上記と同様の方法で第1層111の表面に粒子を入射させることにより、第2層112を1つ形成した。この操作をさらに2回行うことにより、第1積層体11を作製した。
【0051】
次に電極141をスパッタターゲット側に向けるように基板15を装着し直し、上記と同様の方法で電極141の表面に粒子を入射させることにより、第3層131を1つ形成した。続いて、基板15をそれに垂直な軸で180°回転させたうえで、上記と同様の方法で第3層131の表面に粒子を入射させることにより、第4層132を1つ形成した。この操作をさらに2回行うことにより、第2積層体13を作製した。最後に、第1積層体11の基板15とは反対側の表面、及び第2積層体13の基板15とは反対側の表面にそれぞれ金属材を蒸着することにより、電極121及び142を作製した。
【0052】
図11に、作製した周波数フィルタ10の断面の電子顕微鏡写真を示す。図11(a)では第1積層体11側を拡大し、(b)では第2積層体13側を拡大している。なお、図11(a)では、図1に示した模式図とは上下を反転している。これらの電子顕微鏡写真から、第1積層体11、第2積層体13共に、交互にジグザグ状に配向した4つの層を有することがわかる。各層の分極は、電子顕微鏡写真の右欄外に矢印で示した方向を向いている。
【0053】
図12(a)に、作製した周波数フィルタ10の第1積層体11につき測定した(0002)面極点図を、図12(b)にΨ走査曲線を、それぞれ示す。これらの図においてΨは基板15に垂直な線に対する角度(傾斜角)、φは方位角を示している。Ψ走査曲線は(a)中の直線に沿ってΨを変化させながらX線回折の強度を得たものである。これらの図より、分極方向(Al1-xScxN結晶のz軸と同じ方向)は第1層111では傾斜角が平均で32.2°であって、第2層112では傾斜角が平均で26.8°であって方位角が第1層111の分極とはほぼ180°異なる。同様に、第2積層体13に関して、図13(a)に示した(0002)面極点図及び図13(b)に示したΨ走査曲線より、分極方向は第3層131では傾斜角が平均で24.6°であって、第4層132では傾斜角が平均で22.3°であって方位角が第3層131の分極とはほぼ180°異なる。
【0054】
作製した周波数フィルタ10につき、ネットワークアナライザを用いてフィルタ特性を測定した。その結果を図14(a)に示す。この測定結果と計算結果(図8)を対比すると、測定結果では300MHz以下の周波数領域において誘導損失が計算結果よりも小さくなっている。これは、横波の他に縦波の振動が生じていることによると考えられる。また、この測定結果では計算結果と同様に、積層体の端面での反射によるスパイク状のピークが見られる。
【0055】
そこで、得られた測定データに対して高速フーリエ変換をしたうえで逆高速フーリエ変換をするという信号処理を行った。その結果を図14(b)に示す。このような信号処理により、縦波の影響及び積層体の端面での反射による影響を除去することができることが確認された。
【0056】
(4) 第3実施形態
ここまでに示した各実施形態では、第1積層体及び第2積層体を構成する全ての層が圧電体材料から成るもの(圧電層)であったが、1層おきに圧電性を有しない絶縁材料から成る層(非圧電層)を設けた、すなわち圧電層と非圧電層を交互に積層した第1積層体及び/又は第2積層体を用いてもよい。図15に例示する周波数フィルタ30では、第1積層体31は第1層(圧電層)111と第2層(非圧電層)313を交互に積層した構成を有し、第2積層体33は第3層(圧電層)131と第4層(非圧電層)333を交互に積層した構成を有する。なお、圧電層の分極の方向は図示したものには限定されない。また、第1層111と第2層313の積層順や、第3層131と第4層333の積層順は、図示したものと逆であってもよい。さらに、第1積層体31及び第2積層体33の層数も図示したものには限定されず、2層、3層、あるいは5層以上であってもよい。第1積層体31及び第2積層体33以外の構成は、第1実施形態の周波数フィルタ10と同様であり、第1及び第2実施形態と同様の変形が可能である。
【0057】
(5) その他
ここまでに示した各実施形態では、第1積層体と第2積層体が同数の層を有するが、第1積層体と第2積層体が互いに異なる層数を有している場合にも、周波数フィルタとして機能する。但しその場合には、第1電極対及び第2電極対のいずれかに交流電気信号を導入すると、他方から出力される交流電気信号は入力時とは異なる電圧を有する。これは、そのような構造を有する周波数フィルタが、特許文献3に記載のようにトランスとして機能することによる。例えば、図16に示すように、第1積層体41の層数が2(第1層111と第2層112が1つずつ)、第2積層体43の層数が第1積層体41の層数よりも多い4(第3層131と第4層132が1つずつ)である場合、第1電極対12の電極121と電極122の間に交流電気信号を入力すると、第2電極対14の電極141と電極142の間に、入力した交流電気信号よりも高い電圧を有し周波数がフィルタリングされた交流電気信号が出力される。同じ構成を有する場合に第2電極対14の電極141と電極142の間に交流電気信号を入力すると、第1電極対12の電極121と電極122の間に、入力した交流電気信号よりも低い電圧を有し周波数がフィルタリングされた交流電気信号が出力される。なお、図16に示した構成は一例であって、第1~第3実施形態の場合と同様に、層数、分極の方向、非圧電層の有無、基板15の有無等の変形が可能である。
【0058】
ここまでに述べた複数の実施形態及びそれらの変形例の他にも、本発明の主旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10、20、30…周波数フィルタ
11、31、41…第1積層体
111…第1層
112…第2層
12…第1電極対
121、122…第1電極対の電極
13、33、42…第2積層体
131…第3層
132…第4層
14…第2電極対
141、142…第2電極対の電極
15…基板
151…第1電極対の一方の電極と第2電極対の一方の電極を兼ねる電極
21…第1吸音材
22…第2吸音材
313…第2層(非圧電層)
333…第4層(非圧電層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16