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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106751
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 11/04 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
B63B11/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007671
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 義典
(57)【要約】
【課題】アンモニアが漏洩した場合における乗員に対する影響を低減することができる船舶を提供する。
【解決手段】船舶1は、アンモニアを保持するアンモニアタンク31と、乗員が入り得る空間50と、を備える。従って、アンモニアタンク31からアンモニアが漏洩した場合、漏洩したアンモニアがガスとなって、乗員が入り得る空間50に侵入する可能性がある。これに対し、船舶1は、空間50へのアンモニアガスの侵入を抑制する侵入抑制部70を備えている。従って、アンモニアが漏洩した場合であっても、アンモニアガスが乗員が入り得る空間に侵入することを抑制することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを保持するアンモニア保持部と、
乗員が入り得る空間と、
前記空間へのアンモニアガスの侵入を抑制する侵入抑制部と、を備える船舶。
【請求項2】
前記空間は、前記乗員が居住する居住区、ボースンストア、操舵機室、ポンプルーム、カーゴハンドリングギアロッカーのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記侵入抑制部は、前記アンモニアガスを検出する検出部、及び前記アンモニアガスの侵入を予測する予測部の少なくとも一方を有する、請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
前記侵入抑制部は、流体と前記アンモニアガスとを接触させて前記アンモニアガスの侵入を抑制する、請求項1~3の何れか一項に記載の船舶。
【請求項5】
前記流体は水であり、水と前記アンモニアガスとを接触させて当該水に含ませることで、前記アンモニアガスの侵入を抑制する、請求項4に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶として、アンモニア水の漏洩を防止する構造を有するものが知られている(例えば、特許文献1)。この船舶では、アンモニアを貯蔵するタンクを二重構造とすることでアンモニアの漏洩を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-82796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の船舶では、アンモニアが漏洩した場合の対策が十分ではなかった。アンモニアが漏洩した場合、アンモニアガスとなって乗員に影響を及ぼさないように対策を行う必要がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、アンモニアが漏洩した場合における乗員に対する影響を低減できる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る船舶は、アンモニアを保持するアンモニア保持部と、乗員が入り得る空間と、空間へのアンモニアガスの侵入を抑制する侵入抑制部と、を備える。
【0007】
本発明に係る船舶は、アンモニアを保持するアンモニア保持部と、乗員が入り得る空間と、を備える。従って、アンモニア保持部からアンモニアが漏洩した場合、漏洩したアンモニアがガスとなって、乗員が入り得る空間に侵入する可能性がある。これに対し、船舶は、空間へのアンモニアガスの侵入を抑制する侵入抑制部を備えている。従って、アンモニアが漏洩した場合であっても、アンモニアガスが乗員が入り得る空間に侵入することを抑制することができる。以上より、アンモニアが漏洩した場合における乗員に対する影響を低減することができる。
【0008】
空間は、乗員が居住する居住区、ボースンストア、操舵機室、ポンプルーム、カーゴハンドリングギアロッカーのうちの少なくとも1つであってよい。侵入抑制部が、乗員の多い居住区、乗員が存在し得るボースンストア、操舵機室、ポンプルームのうちの少なくとも1つへのアンモニアガスの侵入を抑制することで、乗員に対する影響を低減することができる。
【0009】
侵入抑制部は、アンモニアガスを検出する検出部、及びアンモニアガスの侵入を予測する予測部の少なくとも一方を有してよい。この場合、侵入抑制部は、アンモニアが漏洩したタイミングにて、アンモニアガスの侵入を抑制することができる。
【0010】
侵入抑制部は、流体とアンモニアガスとを接触させてアンモニアガスの侵入を抑制してよい。この場合、侵入抑制部は、アンモニアが流体に溶けやすい性質を利用して、効率良くアンモニアの侵入を抑制することができる。
【0011】
流体は水であり、水とアンモニアガスとを接触させて当該水に含ませることで、アンモニアガスの侵入を抑制してよい。この場合、侵入抑制部は、アンモニアが水に溶けやすい性質を利用して、効率良くアンモニアの侵入を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アンモニアが漏洩した場合における乗員に対する影響を低減できる船舶を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る船舶の一例を示す概略断面図である。
図2】侵入抑制部の概略構成図である。
図3】居住区に設けられた流体供給機構を示す概略図である。
図4】ウォーター・カーテンを形成するためのブラインドを示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガス処理システムの好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「前」「後」の語は船体の進行方向に対応するものであり、「横」の語は船体の左右(幅)方向に対応するものであり、「上」「下」の語は船体の上下方向に対応するものである。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る船舶の一例を示す概略断面図である。船舶1は、例えば原油や液体ガス等の石油系液体貨物を運搬する船舶であり、例えば、オイルタンカーである。なお、船舶は、オイルタンカーに限定されず、例えば、バルクキャリア、その他、様々な種類の船舶であってよい。
【0016】
船舶1は、図1に示すように、船体11と、推進器12と、を備えている。船体11は、船首部2と、船尾部3と、機関室4と、ポンプルーム5と、貨物室6と、を有している。船体11の上部には(または船内には)甲板19が設けられている。船首部2は、船体11の前方側に位置している。船尾部3は、船体11の後方側に位置している。船首部2は、例えば満載喫水状態における造波抵抗の低減が図られた形状を有している。船首部2は、上側にボースンストア2aを有する。船尾部3は、上側に操舵機室3aを有する。推進器12は、船体11を推進させるものであり、例えばスクリューシャフトが用いられている。推進器12は、船尾部3における喫水線(海Wの水面)よりも下方に設置されている。また、船尾部3における喫水線よりも下方には、推進方向を調整するための舵15が設置されている。なお、推進器12及び舵15は、喫水線の下方に設置されるとは限らず、バラスト状態では喫水線より上方へあがる。
【0017】
機関室4は、船尾部3の船首側に隣り合う位置に設けられている。機関室4は、推進器12に駆動力を付与するためのエンジン16を配置するための区画である。甲板19上には、機関室4の上方に居住区33、及び排気用の煙突34が設けられる。ポンプルーム5は、機関室4の船首側に隣り合う位置に設けられている。ポンプルーム5は、ポンプ17等が配置される区画である。貨物室6は、船首部2とポンプルーム5との間に設けられている。貨物室6は、石油系貨物を収容するための区画である。貨物室6は、外板20と内底板21の二重船殻構造を採用することによって、カーゴオイルタンク26とバラストタンク27とに区画されている。カーゴオイルタンク26は、船舶1によって運搬される石油系貨物を積載する。バラストタンク27は、船の大きさ等に応じた量のバラスト水を収容する。
【0018】
甲板19には、アンモニアを貯留するアンモニアタンク31(アンモニア保持部)が設けられている。アンモニアタンク31には、液体の状態のアンモニアが貯留されている。図1においては、ポンプルーム5よりも前側にアンモニアタンク31が設けられ、船尾部3の上側にもアンモニアタンク31が設けられる。なお、アンモニアタンク31の数は特に限定されない。
【0019】
ここで、船舶1は、乗員が入り得る空間50を有する。アンモニアタンク31を有する船舶1では、このような空間50にアンモニアガスが侵入する可能性がある。これに対し、船舶1は、空間50へのアンモニアガスの侵入を抑制することができる。このような空間50には、居住区33、ボースンストア2a、操舵機室3a、ポンプルーム5、及びカーゴハンドリングギアロッカー64が該当する。なお、ボースンストア2aは、係留用の縄を保管するための部屋である。カーゴハンドリングギアロッカー64は、荷役するときの器具を保管するロッカーである。例えば、カーゴオイルタンク26のオイルを船舶1の配管と陸地の配管とをつなげる際に、配径を合わせるためのマニホルドを保管する部屋として用いられることがある。
【0020】
これらの空間50は、アンモニアガスが侵入し易い箇所を有しており、当該箇所は、アンモニアガスの侵入を防止する侵入口51に該当する。居住区33に対する侵入口51は、フレッシュ・エア・インテイク60が該当する。なお、居住区33は、扉からアンモニアガスが侵入する可能性があるものの、居住区33自体が正圧なので、扉から入ってこない。また、窓は全て嵌め込みなので、アンモニアガスは窓から入ってこない。なお、居住区33には自然通風があるが、これも居住区33自体が正圧のため、アンモニアガスは入ってこない。これに対し、フレッシュ・エア・インテイク60は、新鮮な空気を居住区33に取り込むための入口であるため、外気と共にアンモニアを取り込みやすい。
【0021】
ボースンストア2aに対する侵入口51は、当該ボースンストア2aの入口部61及び通気孔が該当する。操舵機室3aに対する侵入口51は、当該操舵機室3aの入口部62及び通気孔が該当する。ポンプルーム5に対する侵入口51は、ポンプルームエントランス63及び通気孔が該当する。ポンプルームエントランス63は、ポンプルーム5に出入りするための出入口である。ポンプルーム5へ行く場合、作業者は上甲板19上のポンプルームエントランス63から梯子で下る。カーゴハンドリングギアロッカー64に対する侵入口51は、カーゴハンドリングギアロッカー64の入口や通気孔が該当する。
【0022】
次に、図2を参照して、空間50へのアンモニアガスの侵入を抑制する侵入抑制部70について説明する。図2に示すように、侵入抑制部70は、流体供給機構71と、検出部72と、予測部73と、制御部74と、を備える。流体供給機構71は、侵入口51で流体を供給することによって、当該侵入口51から侵入しようとするアンモニアガスの侵入を防止する。流体供給機構71は、ノズル76と、流路77と、供給部78と、を備える。
【0023】
なお、このような侵入抑制部70は、侵入口51としての、フレッシュ・エア・インテイク60、ボースンストア2aの入口部61、操舵機室3aの入口部62、ポンプルームエントランス63、カーゴハンドリングギアロッカー64の少なくとも一つに設けられていればよい。
【0024】
ノズル76は、侵入口51に対して流体を供給する。流路77は、供給部78とノズル76とを接続し、流体をノズル76へ流通させる。供給部78は、流路77を介してノズル76へ流体を供給する。
【0025】
図3は、居住区33のフレッシュ・エア・インテイク60に対して、流体供給機構71を設けた様子を示す概略図である。図3に示すように、流路77が居住区33の外壁に沿ってはい回され、フレッシュ・エア・インテイク60の位置まで延びる。流路77は、図示されないポンプ(供給部78)から延びている。なお、供給部78としてのポンプは、居住区に水を供給するためのポンプが流用されてよい。フレッシュ・エア・インテイク60の上部には、ノズル76が配置され、当該ノズル76は、フレッシュ・エア・インテイク60の入口を覆うように流体を供給する。
【0026】
ここで、ノズル76は、流体として水を供給してよい。この場合、侵入抑制部70は、水とアンモニアとを接触させて当該水に含ませることで、アンモニアの侵入を抑制することになる。ノズル76は、水を拡散させて侵入口51を覆う様なウォーター・カーテンを形成する。流体供給機構71は、水を拡散させるように噴射したり、ノズル76を並列に複数本並べることによってウォーター・カーテンを形成してよい。あるいは、流体供給機構71は、侵入口51に部材を設けることによってウォーター・カーテンを形成してもよい。
【0027】
具体的に、図4に示すように、ノズル76の下方に、水平方向に延びる板状部材80を上下方向に複数並べることで、侵入口51を覆うようなブラインド81を形成してよい。板状部材80は、前後方向に傾斜することで、上方から落下してきた水WTを下方へ案内する。これにより、水WTは、ブラインド81の各板状部材80を伝って下方へ流れることで、ブラインド81の前面側にて水WTの膜を形成する。侵入口51から侵入したアンモニアガスは、ブラインド81において、板状部材80間の隙間を通過しようとする。このとき、アンモニアガスは、板状部材80間を流れる水WTと接触する。これによって、アンモニアは水WTに溶けて、ブラインド81を伝って下方へ流れていく。なお、ブラインド81の下方には、アンモニアが溶けた水WTを貯留するための箱が配置されていてよい。あるいは、アンモニアが溶けた水WTは、そのまま侵入口51外へ流してよい。
【0028】
なお、ノズル76が供給する流体は、水に限定されない。ノズル76は、エアを噴射することで、侵入口51から侵入しようとするアンモニアガスを吹き飛ばしてもよい。
【0029】
検出部72は、アンモニアを検出するセンサである。検出部72は、例えば、アンモニアの濃度を検出する濃度センサなどによって構成される。検出部72は、侵入口51に配置され、当該侵入口51にアンモニアガスが侵入しようとしたタイミングにて、アンモニアを検出する。検出部72は、検出信号を制御部74へ出力する。
【0030】
予測部73は、アンモニアガスの侵入を予測するシステムである。予測部73として、例えば、アンモニアの漏洩を把握することができるIAS(Integrated Automation System)を採用してよい。予測部73は、予測結果を制御部74へ出力する。予測部73の位置は特に限定されない。
【0031】
制御部74は、侵入抑制部70を制御する装置である。制御部74は、検出部72でアンモニアガスを検知したタイミング、または予測部73でアンモニアガスの侵入を予測したタイミングにて、流体供給機構71によって侵入口51へ流体を供給する。制御部74は、供給部78へ制御信号を送信することによって、自動的に流体を供給してもよい。あるいは、制御部74は、乗員に警告を出力することで、乗員が手動で供給部78を操作して流体を供給するように誘導してよい。
【0032】
なお、検出部72及び予測部73は両方設けられていなくともよく、少なくとも一方が設けられていればよい。
【0033】
次に、本実施形態に係る船舶1の作用・効果について説明する。
【0034】
本実施形態に係る船舶1は、アンモニアを保持するアンモニアタンク31と、乗員が入り得る空間50と、を備える。従って、アンモニアタンク31からアンモニアが漏洩した場合、漏洩したアンモニアがガスとなって、乗員が入り得る空間50に侵入する可能性がある。これに対し、船舶1は、空間50へのアンモニアガスの侵入を抑制する侵入抑制部70を備えている。従って、アンモニアが漏洩した場合であっても、アンモニアガスが乗員が入り得る空間に侵入することを抑制することができる。以上より、アンモニアが漏洩した場合における乗員に対する影響を低減することができる。
【0035】
空間50は、乗員が居住する居住区33、ボースンストア2a、操舵機室3a、ポンプルーム5、カーゴハンドリングギアロッカー64のうちの少なくとも1つであってよい。侵入抑制部70が、乗員の多い居住区33、乗員が存在し得るボースンストア2a、操舵機室3a、ポンプルーム5、カーゴハンドリングギアロッカー64のうちの少なくとも1つへのアンモニアガスの侵入を抑制することで、乗員に対する影響を低減することができる。
【0036】
侵入抑制部70は、アンモニアガスを検出する検出部72、及びアンモニアガスの侵入を予測する予測部73の少なくとも一方を有してよい。この場合、侵入抑制部70は、アンモニアが漏洩したタイミングにて、アンモニアガスの侵入を抑制することができる。
【0037】
侵入抑制部70は、流体とアンモニアガスとを接触させてアンモニアガスの侵入を抑制してよい。この場合、侵入抑制部70は、アンモニアが流体に溶けやすい性質を利用して、効率良くアンモニアの侵入を抑制することができる。
【0038】
流体は水であり、水とアンモニアガスとを接触させて当該水に含ませることで、アンモニアガスの侵入を抑制してよい。この場合、侵入抑制部70は、アンモニアが水に溶けやすい性質を利用して、効率良くアンモニアの侵入を抑制することができる。
【0039】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0040】
図1に示す船舶1の構造は一例に過ぎず、適宜変更されてよい。この場合、船舶1の中の侵入口51の位置が代わる場合、侵入抑制部70が設けられる位置もそれに伴って変更されてよい。
【符号の説明】
【0041】
1…船舶、31…アンモニアタンク(アンモニア保持部)、33…居住区、50…空間、51…侵入口、70…侵入抑制部、72…検出部、73…予測部。
図1
図2
図3
図4