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特開2023-106792光触媒材料及びその製造方法、抗菌剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106792
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】光触媒材料及びその製造方法、抗菌剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20230726BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
B01J27/24 M
B01J35/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007730
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】519214260
【氏名又は名称】株式会社S-Nanotech Co-Creation
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 恭久
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 香織
(72)【発明者】
【氏名】山本 達之
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB11A
4G169BB11B
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169CA10
4G169CA11
4G169DA05
4G169EB18X
4G169FB03
4G169FC04
4G169FC08
4G169HA02
4G169HB06
4G169HC29
4G169HE05
4G169HE07
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】酸化亜鉛を用いた、触媒としての高い効果を有する光触媒材料を得る。
【解決手段】上記のp型ZnO微粒子を用いて、効果の大きな光触媒材料を得ることができる。この光触媒材料の製造方法においては、まず、上記のp型ZnO微粒子(粉末)を製造する酸化亜鉛粒子製造工程が行われる。この工程においては、前記のように、特許第4072620号に記載されたガス中蒸発法が用いられる。これによって、特に窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲であり、平均粒子径が10nm~500nmの範囲であるp型のZnO微粒子が多数得られる。このZnO微粒子は前記のような特性(光学特性、触媒特性)を有するため、前記のような光(紫外光から可視光のいずれかの波長領域の光)による高い光触媒効果が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧酸素雰囲気とされたチャンバー内において亜鉛材料を放電によって蒸発させた状態から粒子化させることによって製造された、結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲である酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする光触媒材料。
【請求項2】
結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲である酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする光触媒材料。
【請求項3】
結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲である酸化亜鉛粒子塗布膜を含むことを特徴とする光触媒材料。
【請求項4】
結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲であるp型の酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする光触媒材料。
【請求項5】
結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲であり、粒子径が10nm~500nmの範囲であるp型の酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする光触媒材料。
【請求項6】
複数の前記酸化亜鉛粒子と分散剤とが混合されたことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の光触媒材料。
【請求項7】
酸化亜鉛粒子を有する光触媒材料の製造方法であって、
減圧酸素雰囲気とされたチャンバー内において亜鉛材料を放電によって蒸発させた状態から粒子化させることによって、結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲であり、粒子径が50nm~200nmの範囲であるp型の前記酸化亜鉛粒子を複数製造する酸化亜鉛粒子製造工程を具備することを特徴とする光触媒材料の製造方法。
【請求項8】
複数の前記酸化亜鉛粒子と分散剤とを混合して前記酸化亜鉛粒子を分散させる分散工程を具備することを特徴とする請求項7に記載の光触媒材料の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の光触媒材料の製造方法によって製造されたことを特徴とする光触媒材料。
【請求項10】
請求項1から請求項6までのいずれか1項、又は請求項9に記載の光触媒材料を含むことを特徴とする抗菌剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛を用いた光触媒材料及びその製造方法、この光触媒材料を用いた抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(二酸化チタン)を用いた光触媒材料が知られており、例えば、特許文献1に記載されるように、この光触媒材料を用いた抗菌材や癌治療剤等も知られている。一方、酸化チタンと類似した特性を有する酸化亜鉛(ZnO)も同様に光触媒として用いられ、酸化亜鉛は安価であり、人体に対する毒性も低い。更に、非特許文献1に記載されるように、触媒反応の対象となる物質が酸化チタンとは異なる。このため、特許文献2、3に記載されるように、酸化亜鉛粒子を用いた光触媒材料も知られている。特に特許文献3に記載の光触媒材料においては、窒素をドーパント(アクセプタ)として用い、スパッタリングによって製造したp型ZnO薄膜が用いられている。この場合、毒性のある材料も用いられないため、その用途も広くなる。この際、高い光触媒効果を得るためには、アクセプタ濃度は1013cm-3以下に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-166022号公報
【特許文献2】特開2003-225573号公報
【特許文献3】特開2004-290794号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】野口雅弘、齋藤晴貴、尾形聖、三上義治、「酸化亜鉛光触媒の開発」、Ricoh Technical Report、No.32、p.40(2006年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化チタンや酸化亜鉛のバンドギャップエネルギーは紫外光に対応するため、一般的には高い光触媒効果を得るためには高強度の紫外光の照射が必要であり、通常の使用時における光触媒効果は十分ではなかった。また、特許文献3に記載されたような酸化亜鉛は安価であるために酸化チタンよりも好ましいが、その光触媒効果は不十分であった。
【0006】
すなわち、酸化亜鉛を用いた、触媒としての高い効果を有する安価な光触媒材料が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の光触媒材料は、減圧酸素雰囲気とされたチャンバー内において亜鉛材料を放電によって蒸発させた状態から粒子化させることによって製造された、結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲である酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする。
本発明の光触媒材料は、結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲である酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする。
本発明の光触媒材料は、結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲である酸化亜鉛粒子塗布膜を含むことを特徴とする。
本発明の光触媒材料は、結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲であるp型の酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする。
本発明の光触媒材料は、結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲であり、粒子径が10nm~500nmの範囲であるp型の酸化亜鉛粒子を含むことを特徴とする。
本発明の光触媒材料は、複数の前記酸化亜鉛粒子と分散剤とが混合されたことを特徴とする。
本発明の光触媒材料の製造方法は、酸化亜鉛粒子を有する光触媒材料の製造方法であって、減圧酸素雰囲気とされたチャンバー内において亜鉛材料を放電によって蒸発させた状態から粒子化させることによって、結晶中の窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲であり、粒子径が50nm~200nmの範囲であるp型の前記酸化亜鉛粒子を複数製造する酸化亜鉛粒子製造工程を具備することを特徴とする。
本発明の光触媒材料の製造方法は、複数の前記酸化亜鉛粒子と分散剤とを混合して前記酸化亜鉛粒子を分散させる分散工程を具備することを特徴とする。
本発明の光触媒材料は、前記光触媒材料の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
本発明の抗菌剤は、前記光触媒材料を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は以上のように構成されているので、酸化亜鉛を用いた、触媒としての高い効果を有する光触媒材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態となる光触媒材料の構造を模式的に示す図である。
図2】蛍光灯の光を照射した場合における実施例、比較例の吸光度の変化(光触媒効果)を測定した結果である。
図3】n型(a)、p型(b)の酸化亜鉛と溶媒の接触時におけるバンド構造の状況を模式的に示す図である。
図4】UVランプの光を照射した場合における実施例、比較例の吸光度の変化(光触媒効果)を測定した結果である。
図5】可視光を照射した場合における実施例、比較例の吸光度の時間経過を測定した結果である。
図6】光を照射した直後と、その後に暗所で24時間保管した後の比較例の吸光度(光触媒効果)、及びその累積積分値を測定した結果である。
図7】光を照射した直後と、その後に暗所で24時間保管した後の実施例の吸光度(光触媒効果)、及びその累積積分値を測定した結果である。
図8】光を照射した直後と、その後に暗所で24時間保管した後の実施例の吸光度の積分値である。
図9】実施例、比較例による抗菌効果を測定した結果である。
図10】実施例、比較例による菌数の時間経過を測定した結果である。
図11】繊維芽細胞に対して実施例となる光触媒材料の作用を適用した前(a)、後(b)、光触媒材料を付与したが光を照射しない場合(c)の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係る光触媒材料は、安価な酸化亜鉛(ZnO)を用いて構成される。ここでは、ZnOはZnO粒子(微粒子)として用いられる。また、ZnOは半導体材料であるが、このZnO微粒子はp型とされる。
【0011】
ZnO微粒子とは、平均粒径が10~500nm程度のZnOで構成された微粒子であり、バルクのZnOとは異なる性質をもつ。その製造方法は、特許第4072620号に記載されている。この微粒子は、ガス中蒸発法で製造することができる。ここでは、その図1に示されるように、チャンバー内において亜鉛(Zn)で構成されたターゲットが設置される。チャンバー内を酸素を含む減圧雰囲気とした中で、このターゲットと近接して真空中に設置された電極とこのターゲット間で放電(アーク放電やRF放電)を発生させることによって、ターゲット表面からZnを蒸発させる。蒸発したZnは、雰囲気中の酸素によって酸化されてZnOとなり、チャンバーの内壁に微粒子となって付着し、これがZnO微粒子となる。ターゲットの原料としては、濃度の高くない亜鉛インゴット、たとえば4N(純度99.99%)を用いることができる。このような純度の低い安価なインゴットを用いた場合であっても、ZnO微粒子においては、高品質なp型ZnO結晶が得られる。
【0012】
具体的には、チャンバー内の雰囲気として、例えば酸素ガスと窒素ガスを空気と同様の4:1のモル比としたものを用いることができる。このガス雰囲気を、アーク放電を生じやすい20×10Pa程度に減圧する。これにより、Znを酸化させてZnOとすると同時に、アクセプタとなる窒素(N)を同時に微粒子中に高濃度でドーピングすることができる。このため、形成されたZnO微粒子をp型とすることができる。また、特許第4072620号に記載されたように、この微粒子内のZnOの結晶性は高い。
【0013】
また、一般的には、n型のZnOと比べてp型のZnOを得ることは容易ではないのに対して、特許第4072620号に記載の製造方法によれば、容易にp型ZnO微粒子を得ることができる。更に、特許5277430号には、このZnO微粒子を塗布・焼結させてp型半導体層を形成し、n型ZnO層との積層構造を形成したpnダイオードを発光ダイオードとすることができる(発光させることができる)ことが記載されている。
【0014】
このように発光ダイオードとして動作させる場合に要求されるp型ZnOのアクセプタ濃度は、1016cm-3以上であり、特許文献3に記載のp型ZnO(1013cm-3以下)よりも高く、かつZnO微粒子における欠陥(酸素欠損等)が少ないことも要求される。また、実際に製造されたpnダイオードの整流特性(特許5277430号の図4)における順方向電圧(立ち上がり電圧)が大きくZnOのバンドギャップ(~3.3eV)に近いことからも、このZnO微粒子のフェルミ準位が価電子帯に近く、このZnO微粒子はアクセプタ濃度が高いp型であることが確認できる。すなわち、このp型ZnO微粒子が実際にこのような高いアクセプタ濃度をもち、かつ酸素欠損等が少ないことが特許5277430号に示されている。
【0015】
後述するように、このp型ZnO微粒子は、光触媒としての特に大きな効果を有する。上記のような小さな平均粒径をもつp型ZnO微粒子の比表面積は大きいため、特に触媒として用いる際には好ましい。
【0016】
この効果を高めるためには、このp型ZnO微粒子が凝集せずに分散した形態をとることが好ましいため、本発明の実施の形態に係る光触媒材料としては、図1に模式的に示されるように、複数の上記のp型ZnO微粒子10が分散剤20により分散された状態によって構成されているものが特に好ましい。分散剤としては、例えば水溶性アクリル酸系の分散剤(例えば商品名アロン:東亜合成(株)製)を用いることができる。ただし、後述するように、分散剤20が用いられず、例えばこのp型ZnO微粒子粉末が精製水などの液体(例えば脱イオン水やアルコールなど)と混合されていても効果が得られる。以下に、このp型ZnO微粒子のもつ光触媒作用について説明する。
【0017】
(第1の実施の形態)
まず、実施例1-1として、分散剤を用いない、超純水と上記のp型ZnO微粒子との混合物の触媒効果を調べた。ここでは、上記のp型ZnO微粒子を0.02g秤量し、20mlの精製水と混合し、超音波ホモジナイザーで50℃、3min混合した。混合後のこの液体1.5mlとメチレンブルー試薬300μlを混合した試料の吸光度の時間変化を調べた。この場合、p型ZnO微粒子の触媒効果は、吸光度の減少の度合いとして認識できる。
【0018】
比較例1-1として、p型ZnO微粒子を混合しない超純水を用いた試料、比較例1-2として、n型のZnO微粒子(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を上記のp型ZnO微粒子の代わりに用いた試料、実施例1-2として、上記のp型ZnO微粒子とこのn型ZnO微粒子とを1:1で混合して同様に作成した試料を用いた。前記のような発光ダイオードとは異なり、この場合にはp型ZnO微粒子とn型ZnO微粒子は超純水中で分散して存在するため、実質的にはpn接合による効果はなく、それぞれの微粒子による効果が混合して現れると考えられる。
【0019】
図2は、これらの試料における、蛍光灯を照射した際の0min(初期)、60min、120min、180min、240min経過後の吸光度(スペクトル)の比較例1-1(a)、比較例1-2(b)、実施例1-1(c)、実施例1-2(d)の測定結果である。ここで、バックグラウンド成分はbaseとして示されている。
【0020】
この結果において、光触媒効果は、610nm、670nmのピークの強度の減少に反映される。このため、ZnOによる光触媒効果があることは、ZnOが含まれる比較例1-2、実施例1-1、実施例1-2において比較例1-1よりも上記のピークの減少が大きいことから明らかであり、これらにおいては180minでこの吸光度はbaseとほぼ等しくなる。しかしながら、p型ZnO微粒子が含まれる実施例1-1、実施例1-2で特にこの減少が大きく、p型ZnO微粒子のみからなる実施例1-1で特に減少が大きい。
【0021】
このようにp型ZnO微粒子の光触媒効果が特に大きな理由は、以下のように考えられる。図3は、ZnOと溶媒とが接する前(左側)、接した後(右側)のバンド構造の状況(伝導帯エネルギーE、価電子帯エネルギーE、フェルミ順位E)を、n型について(a)、p型について(b)、それぞれ示す。ここでは、ZnOが発光ダイオードなどのデバイスで用いられるp型、n型の伝導性が制御された品質が良い半導体であるものとしており、このため、周知のように、n型(a)においてはEはEに近く、p型(b)においてはEはEに近い。ZnOが溶媒と接した場合には、Eと溶媒の酸化還元準位Eredoxとが等しくなったところで平衡状態となり、これに応じて図示されるようにバンド構造がn型とp型で逆向きに湾曲する。これに伴い、n型(a)と溶媒の界面ではZnOからのホール(h)によって酸化反応が進行しやすく、p型(b)と溶媒の界面ではZnOからの電子(e)によって還元反応が進行しやすくなる。上記のZnOによる光触媒効果には、図3(b)の状況が特に有効に機能していると考えられる。このようなp型におけるバンドの曲がりの効果を大きくするためにはアクセプタとなる窒素濃度は1016cm-3以上となる。
【0022】
上記の説明は溶媒中における効果であるが、実際には粒子の表面は結晶が途切れた欠陥が多く存在した状態であり、一般的にはEとEの中間付近にエネルギー準位をもつ表面欠陥が存在する。このため、ドープされた半導体を用いれば大気中においても同様のバンドの曲がりが生じ、高い光触媒効果が得られる。
【0023】
一般的な光触媒材料はこのような伝導性が制御された半導体ではないため、キャリア密度は低く、EはEとEの中間付近にあり、このような表面におけるバンドの曲がり、あるいはこれによる効果は小さい。このため、このような、p型であることによる効果は、従来より知られるような、半導体グレードではない酸化チタン粒子や酸化亜鉛粒子にはなく、上記のような高品質のp型ZnO微粒子に特有のものである。なお、例えば酸化チタンの光触媒の場合には、特許文献1に記載されたように、これを金属と組み合わせて金属側に電子を移動させて酸化チタン側にホールを蓄積させて図3(b)と同様の状況を実現させている。この場合には、この金属を酸化チタン粒子に成膜する必要があるため、製造コストが高くなることや、この金属の毒性等の問題が発生する。ZnO微粒子単体で図3(b)の状態を実現できる上記のp型ZnO微粒子を用いた場合には、こうした問題は発生しない。
【0024】
一方、前記のように、特許文献3に記載の技術においても、本願発明と同様に、ZnOに対して窒素がアクセプタとしてドーピングされている。ただし、特許文献3においては、アクセプタ濃度が1013cm-3以下の場合において高い光触媒効果が得られるとされているため、アクセプタ濃度の高い上記の実施例の結果は特許文献3の内容と矛盾するように見える。
【0025】
この点については、以下のように考えられる。特許文献3においては、アクセプタ濃度が高い場合に光触媒効果が低下する原因は、窒素添加によってドナー性の欠陥が生じたためにキャリア密度の低下が起こり、アクセプタとドナーの補償効果や欠陥の形成により移動度が低下したことであると考えられる。つまり、光触媒効果の低下はキャリア密度の低下によるフェルミ準位の低下による。電子・正孔の移動度が低下するためであると記載されている。すなわち、図3の状況については特許文献3に記載の技術においても本願発明と同様であり、図3(b)に示されたように、仮にこのような移動度の低下がなければ特許文献3に記載の技術においても、アクセプタ濃度が高い方が光触媒効果が大きいと期待される。しかしながら、実際には特許文献3の製造方法においては結晶へのダメージが大きいスパッタリング法を用いており、窒素添加量を増やすと高抵抗化もしくはn型化し、少なくとも本実施例のようにアクセプタ濃度は高まらず1013cm-3以上のp型半導体は得られていない。そのため1013cm-3以上のアクセプタ濃度における光触媒効果の知見は得られていない。この光触媒の移動度の低下は窒素添加がアクセプタ以上にドナー性の欠陥の生成に寄与してEが低下したためと考えられる。
【0026】
これに対して、上記の実施例において、窒素濃度が高いにも関わらず高い光触媒効果が得られたことは、発光ダイオードが実現できるような高いアクセプタ濃度をもち、高品質なp型半導体の場合における図3(b)の状況が実現されていることを意味する。このような違いは、両者の製造方法の違いに起因すると考えられる。すなわち、実施例の特性は、前記の製造方法に起因し、上記のp型ZnO微粒子は高いアクセプタ濃度をもつ高品質のものであることに起因すると考えられる。
【0027】
図4(a)~(d)は、図2と同様の測定を蛍光灯の代わりに主波長125nmの紫外線を発するUVランプを用いて行った結果である。ここでは、前記の場合よりも光強度が高いために経過時間が短く、0min、2min、4min、6min、8min、10minとなっている。この場合においても傾向は図2の場合と同様であり、実施例1-1、1-2において光触媒の効果が大きく、特に実施例1-1における効果が大きい。
【0028】
以上より、前記のp型ZnO微粒子は特に高い光触媒効果を有することが確認された。このため、このp型ZnO微粒子を含んで構成される光触媒材料は高い光触媒効果を有する。
【0029】
ここで、酸化亜鉛の禁制帯幅は室温で3.3eV程度であり、このエネルギーは紫外光に対応し、図2(蛍光灯使用)、図4(UVランプ使用)において用いられた光には、このエネルギーよりも大きなエネルギーの紫外光が含まれる。これに対して、白色LED(アイリスオーヤマ社製、型番LDL501、波長380nm以上、ピーク波長450nm)を光源として用いた場合の同様の測定も行った。白色LEDは、青色LEDが発する青色光と、この青色光の波長以上の波長の可視光の蛍光との混合光である疑似白色光を発するため、この結果においては酸化亜鉛の禁制帯幅以上のエネルギーの光の影響は含まれず、可視光域の光による効果のみが反映される。図5は、この場合における波長612nmでの吸光度の時間経過を測定した結果である。この結果より、白色LEDを用いた場合でも、実施例において比較例よりも高い触媒効果が得られることが確認できた。
【0030】
以上の結果より、前記のp型ZnO微粒子が特に高い触媒効果を有することが明らかである。このような効果は、この製造方法で製造されたp型ZnO微粒子に特有のものであると考えられる。
【0031】
(第2の実施の形態)
次に、上記の光触媒材料における、光照射後に暗所で保管した後の効果を調べた。ここでは、前記のp型ZnO微粒子を前記と同様に精製水と混合した実施例2-1、前記の比較例1-1と同様にZnO粒子を混合しない精製水を用いた比較例2-1、p型ZnO微粒子の代わりに前記のn型ZnO微粒子を用いた比較例2-2、前記の実施例1-2と同様にp型ZnO微粒子とn型ZnO微粒子を混合したものを用いた実施例2-2を製造した。これらの試料について、24時間以上暗所にて静置した後に紫外線を10分間照射し、暗所にてメチレンブルーを混合して前記と同様に吸光度を測定し、その後に暗所に24時間保管した後に同様に吸光度を測定した。
【0032】
図6(a)は比較例2-1、図6(b)は比較例2-2、図7(c)は実施例2-1、図7(d)は実施例2-2の、この場合の測定結果を示す。ここでは、照射直後かつメチレンブルーの混合直後(0h)における吸光度スペクトル、24時間保管後の吸光度スペクトル(24h後)が示されている。これらの図においては0hと24h後の結果の差分をより明確にするために、各吸光度スペクトルの(累積)積分値も同時に示している。また、図8は、各実施例、比較例でこの積分値を0hと24h後で比較した表である。
【0033】
この結果より、特に、実施例2-1、実施例2-2(特に実施例2-1)においては、0hから24h後においての吸光度の変化(減少)が著しい。この結果より、前記のp型微粒子は光触媒効果を有するが、この効果のためには光が常時照射される必要はなく、光照射の効果はその後、光を遮断しても長時間維持されることが明らかである。すなわち、一般的な光触媒材料においては光触媒の効果を発現させる時点での光照射が要求されるところ、実施例においては、光触媒効果のためには継続的な光照射は不要である。これは、上記のZnO微粒子中における遅い時定数のトラップに起因すると考えられる。
【0034】
(第3の実施の形態)
次に、上記のp型ZnO微粒子の抗菌作用について調べた。この抗菌作用は前記の光触媒作用に基づくものと考えられる。ここでは、紙製シールラベルの表面に各試料を塗布し、試料を乾燥させた後、シールラベルに菌を付着させた。このシールラベルにおける菌の数の時間経過が測定された。この測定は、Lumitester(キッコーマンバイオケミファ(株)製)によって行われた。
【0035】
ここでは、前記と同様にZnO微粒子を精製水に混合したものをシールラベルに塗布するために、更にバインダーとして水性ウレタンニスとが混合されたものが試料とされた。また、前記のような分散剤(アロン)を含むものと含まないものが用いられた。
【0036】
ここでは、実施例1-1等と同様の比率でp型ZnO微粒子を混合したものに分散剤(アロン)、バインダー(水性ウレタンニス)を混合した実施例3-1、実施例3-1におけるp型ZnO微粒子の半分を実施例1-2と同様にn型ZnO微粒子に置換した実施例3-2、水とバインダーのみの比較例3-1、実施例3-1におけるp型ZnO微粒子を全てn型ZnO微粒子に置換した比較例3-2を用いた。また、分散剤を用いない試料として、実施例3-1において分散剤(アロン)を添加しない実施例3-3、比較例3-1と同様の比較例3-3も、試料として用いた。
【0037】
図9の表は、上記の各試料における菌数の時間経過である。菌数のばらつきは大きいものの、p型ZnO微粒子が用いられた実施例3-1~3-3で菌数の減少が大きいことが明らかであり、特に実施例3-1における菌数の減少が大きい。このため、上記のp型ZnO微粒子は高い抗菌作用をもつ。この抗菌作用は、同様に光触媒として用いられる酸化チタンの場合から類推されるように、p型ZnO微粒子の光触媒作用に起因すると考えられる。
【0038】
図10は、実施例3-1、実施例3-2と比較例3-1、3-2、他社(SHARP(株))製のタングステン粒子を用いた比較例3-4との菌数の時間経過である。この結果は、p型ZnO微粒子およびp型ZnO微粒子とn型ZnO微粒子を混合したものは、n型ZnO微粒子や他社製品と比較すると、長時間光触媒作用により抗菌作用を維持することを示す。
【0039】
すなわち、上記のp型ZnO微粒子を用いて、光触媒効果の高い抗菌剤を得ることができる。この際、前記のように、照射される光は紫外光だけでなく可視光でもよく、かつこの光が常時照射される必要はない。
【0040】
次に、実際にヒトの繊維芽細胞に対する上記のp型ZnO微粒子の効果(光毒性)を調べた。図11(a)は、このような繊維芽細胞の顕微鏡写真であり、細長い構造体が繊維芽細胞である。この繊維芽細胞に対して、精製水10mlに対して前記のp型ZnO微粒子を1mg混合した試料を滴下し、光照射後に暗所保管した12h後の同様の顕微鏡写真が図11(b)である。ここで、暗点がp型ZnO微粒子である。図11(b)においては、繊維芽細胞が確認できず、p型ZnO微粒子の光毒性が確認された。ここで、光は初期にしか照射されなかったのに対し、光毒性の効果がその後にも持続した点については、図7の結果と同様である。
【0041】
図11(a)(b)の結果は、ヒトの繊維芽細胞に対する光毒性を示すものであるが、このように細胞を死滅させる作用を用いて治療剤を構成することができることは明らかである。一方、ヒトの繊維芽細胞に対して、光照射をしない試料を滴下すると細胞への影響は確認できなかった。図11(c)は、この場合の顕微鏡写真であり、線維芽細胞が確認できる。すなわち、初期の光照射によってp型ZnO粒子は細胞への影響を示し、上記のp型ZnO微粒子を用いて治療剤を構成することができる。この際、この治療剤に対して光(紫外光から可視光のいずれかの波長領域の光)を照射した後で投与した場合には、投与後に光を照射しなくとも、一定の効果が得られる。
【0042】
上記のように、上記のp型ZnO微粒子を用いて、効果の大きな光触媒材料、これを用いた抗菌剤や治療剤を得ることができる。この光触媒材料の製造方法においては、まず、上記のp型ZnO微粒子(粉末)を製造する酸化亜鉛粒子製造工程が行われる。この工程においては、前記のように、特許第4072620号に記載されたガス中蒸発法が用いられる。これによって、特に窒素濃度が1016cm-3~1020cm-3の範囲であり、平均粒子径が10nm~500nmの範囲であるp型のZnO微粒子が多数得られる。このZnO微粒子は前記のような特性(光学特性、触媒特性)を有するため、前記のような光(紫外光から可視光のいずれかの波長領域の光)による高い光触媒効果が得られる。触媒効果を高めるためには、比表面積を高くするために、ZnO微粒子の平均粒子径は小さいことが好ましい。
【0043】
これに対して、特許文献1に記載された光触媒材料は、酸化チタンが単独で用いられるものでなく、酸化チタン・チタン酸鉄接合構造を用いるため、製造が煩雑である。また、特許文献2に記載された光触媒材料においては、窒素を含む酸化亜鉛に更にMOXを添加する必要があり、製造コストが高い。すなわち、上記の発明の実施の形態に係る光触媒材料は、これらに比べて安価に製造が可能である。
【0044】
また、分散剤を用いる場合には、このZnO微粒子粉末を分散剤(アロン等)と混合して分散させる(分散工程)。この際、超音波ホモジナイザーやビーズミルを用いることによって、均一に分散や粉砕をさせることができる。上記に製造方法の一例を示したが、試料を分散させる方法はこの限りではない。また、上記の例では酸化亜鉛粒子を用いた場合が示されたが、同様の特徴(特に窒素ドーピング濃度)を有し、同様の光学特性等を有する場合には、微粒子としての形態を具備しない酸化亜鉛も、同様に光触媒材料、抗菌剤として有効である。このような形態としては、例えば薄膜がある。このような薄膜としては、例えば特許第6004404号に記載されたようなZnO粒子で構成された微粒子層と同様の構造を具備する薄膜の他に、他の方法で成膜された薄膜も含まれる。
【0045】
上記のp型ZnO微粒子を用いた場合に特有の点として、一時的な光照射の効果が持続するという点がある。このため、例えば酸化チタン等を用いた通常の光触媒材料においては、光触媒として機能させる時点で光(紫外光)を照射することが必要となったのに対し、上記のp型ZnO微粒子においては、光触媒として機能させる時点よりも前の時点で光を照射してもよい。すなわち、このために、光触媒材料あるいは抗菌剤として用いる場合における使用の態様を様々にすることができる。
【0046】
なお、上記の例では、上記のような窒素ドープされたp型ZnO微粒子がガス中蒸発法によって得られるものとしたが、同様の特性(アクセプタ濃度、結晶品質、光学特性、触媒特性等)を有するp型ZnO微粒子であれば、他の製造方法によって得られたものであっても、同様に用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
10 p型ZnO微粒子
20 分散剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11