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特開2023-106838酸変性樹脂組成物およびそれを含むポリアミド樹脂組成物ならびにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106838
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】酸変性樹脂組成物およびそれを含むポリアミド樹脂組成物ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20230726BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20230726BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C08L23/26
C08L77/00
C08K3/40
C08K7/14
C08F8/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007808
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小城戸 文彦
(72)【発明者】
【氏名】久保田 直也
(72)【発明者】
【氏名】野崎 修平
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】保谷 裕
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB21W
4J002BB21X
4J002CL01Y
4J002CL03Y
4J002CL05Y
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002GC00
4J002GL00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
4J100AA02Q
4J100AA03P
4J100AA05R
4J100AA06R
4J100AA07R
4J100AA08R
4J100AA09R
4J100AA15R
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA31
4J100HA61
4J100HC30
4J100HC36
4J100HF01
4J100HG04
4J100JA28
4J100JA57
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】ポリアミド樹脂に配合した場合に、耐衝撃性と成形時の流動性を両立できる酸変性樹脂組成物、耐衝撃性と成形時の流動性とに優れたポリアミド樹脂組成物、ならびにそれらの製造方法を提供することを課題としている。
【解決手段】酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)を含有し、要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たすことを特徴とする酸変性樹脂組成物(Q)。
(Q-a)密度が0.860~0.880g/cm3の範囲である。
(Q-b)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分の範囲である。
(Q-c)酸変性量が0.5~3質量%の範囲内である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)を含有し、
下記要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たすことを特徴とする酸変性樹脂組成物(Q)。
(Q-a)密度が0.860~0.880g/cm3の範囲である。
(Q-b)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分の範囲である。
(Q-c)酸変性量が0.5~3質量%の範囲内である。
【請求項2】
前記酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および前記酸変性プロピレン系重合体(B)の合計100質量%中、
前記酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)の含有量が1~99質量%であり、
前記酸変性プロピレン系重合体(B)の含有量が99~1質量%である、
請求項1に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【請求項3】
マレイン酸含有量が100ppm未満である、請求項1または2に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【請求項4】
前記酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、酸変性エチレン・1-ブテン共重合体(A1)である、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【請求項5】
前記酸変性プロピレン系重合体(B)が、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)および酸変性ランダムポリプロピレン(B2)よりなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【請求項6】
前記酸変性プロピレン系重合体(B)が、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)50~99.9質量%と、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)0.1~50質量%とを含有する(ただし、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)と、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)の合計は100質量%である)、請求項1~5のいずれか1項に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【請求項7】
前記酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)が、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体(b11)の酸変性物であり、
前記プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体(b11)が、
プロピレンから導かれる構成単位(b11-i)を51~80モル%、
エチレンから導かれる構成単位(b11-ii)を10~24モル%および
炭素原子数4~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b11-iii)を3~25モル%含有する(ただし、構成単位(b11-i)、(b11-ii)および(b11-iii)の合計を100モル%とする)、請求項5または6に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【請求項8】
ポリアミド(P)と、請求項1~7のいずれか1項に記載の酸変性樹脂組成物(Q)とを含有し、
前記ポリアミド(P)および前記酸変性樹脂組成物(Q)の合計100質量%中、
前記ポリアミド(P)の含有量が50~99質量%であり、
前記酸変性樹脂組成物(Q)の含有量が50~1質量%である
ポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアミド(P)が脂肪族ポリアミドである、請求項8に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
さらにガラス繊維を含有する、請求項8または9に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および未変性プロピレン系重合体(b)を混合し、未変性樹脂組成物を得る工程(I)と、
前記未変性樹脂組成物を、不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により酸変性し、下記要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たす酸変性樹脂組成物(Q)を得る工程(II)と
を含むことを特徴とする酸変性樹脂組成物(Q)の製造方法。
(Q-a)密度が0.860~0.880g/cm3の範囲である。
(Q-b)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分の範囲である。
(Q-c)酸変性量が0.5~3質量%の範囲内である。
【請求項12】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および未変性プロピレン系重合体(b)を混合し、未変性樹脂組成物を得る工程(I)と、
前記未変性樹脂組成物を、不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により酸変性し、下記要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たす酸変性樹脂組成物(Q)を得る工程(II)と、
ポリアミド(P)と前記酸変性樹脂組成物(Q)とを混合する工程(III)と
を含むことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(Q-a)密度が0.860~0.880g/cm3の範囲である。
(Q-b)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分の範囲である。
(Q-c)酸変性量が0.5~3質量%の範囲内である。
【請求項13】
さらにガラス繊維を混合する工程を含む請求項12に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系樹脂の酸変性物を含む酸変性樹脂組成物、該酸変性樹脂組成物を含むポリアミド樹脂組成物、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、その優れた物性によりエンジニアリングプラスチックとして大きな需要が期待されている。しかし、ポリアミド樹脂は、一般的に耐摩擦・摩耗性などの機械的強度や耐衝撃性が未だ十分とはいえず、この性能の改良が種々検討されている。ポリアミド樹脂の耐衝撃性を改良することができれば、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、レジャースポーツ用品、土木建築用部材等の様々な分野でのニーズに応えることができる。
【0003】
ポリアミド樹脂のアイゾット衝撃強度などの耐衝撃性を改良する方法として、α,β-不飽和カルボン酸をグラフトしたエチレン・α-オレフィン共重合体をポリアミド樹脂に配合する方法が提案されている(特許文献1~4)。しかしながら、本発明者の知見によれば、これらの公報に提案されているポリアミド樹脂組成物では、耐衝撃性を向上させようとすると、一定荷重下のたわみ温度に代表される耐熱性が低下してしまうという問題がある。
【0004】
また、ドアハンドル、フェンダー又はドアミラースティのような自動車用外装部材にポリアミド樹脂を用いる場合は、材料に高強度・高剛性が要求されるので、樹脂にガラス繊維等の無機充填材を高充填したものを射出成形することが多い。しかし、無機充填材を高充填すると、ポリアミド樹脂組成物自身の流動性が低下し易くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55-9662号公報
【特許文献2】特公昭62-13379号公報
【特許文献3】特開平9-87475号公報
【特許文献4】特開平7-97513号公報
【特許文献5】国際公開第2020/050326号
【特許文献6】国際公開第2020/072032号
【特許文献7】国際公開第2017/094720号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の状況から、ポリアミド樹脂が固有に備える機械的強度(耐衝撃性)をできるだけ損なうことなく、成形時の流動性に優れたポリアミド樹脂組成物の出現が求められる。
特許文献5には、半芳香族ポリアミドに、MFRの小さい無水マレイン酸変性ポリエチレンを配合することが開示されている。特許文献6には、ポリアミド6樹脂に、酸変性エチレン・1-ブテン共重合体と、金属ハロゲン化物とを配合した樹脂組成物が開示されている。また本願出願人は、ポリアミド樹脂に酸変性プロピレン系共重合体を配合した樹脂組成物、ポリアミド樹脂に酸変性エチレン系共重合体を配合した樹脂組成物を提案している(特許文献7参照)。しかしながら、本発明者の検討によれば、酸変性エチレン系共重合体の配合では流動性が低下する場合があり、酸変性プロピレン系共重合体の配合では耐衝撃性が低下する場合があった。
【0007】
本発明は、ポリアミド樹脂に配合した場合に、耐衝撃性と成形時の流動性を両立できる酸変性樹脂組成物、耐衝撃性と成形時の流動性とに優れたポリアミド樹脂組成物、ならびにそれらの製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔13〕の事項に関する。
〔1〕酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)を含有し、
下記要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たすことを特徴とする酸変性樹脂組成物(Q)。
(Q-a)密度が0.860~0.880g/cm3の範囲である。
(Q-b)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分の範囲である。
(Q-c)酸変性量が0.5~3質量%の範囲内である。
【0009】
〔2〕前記酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および前記酸変性プロピレン系重合体(B)の合計100質量%中、
前記酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)の含有量が1~99質量%であり、
前記酸変性プロピレン系重合体(B)の含有量が99~1質量%である、〔1〕に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【0010】
〔3〕マレイン酸含有量が100ppm未満である、〔1〕または〔2〕に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
〔4〕前記酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が、酸変性エチレン・1-ブテン共重合体(A1)である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
〔5〕前記酸変性プロピレン系重合体(B)が、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)および酸変性ランダムポリプロピレン(B2)よりなる群から選ばれる1種以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【0011】
〔6〕前記酸変性プロピレン系重合体(B)が、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)50~99.9質量%と、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)0.1~50質量%とを含有する(ただし、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)と、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)の合計は100質量%である)、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【0012】
〔7〕前記酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)が、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体(b11)の酸変性物であり、
前記プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体(b11)が、
プロピレンから導かれる構成単位(b11-i)を51~80モル%、
エチレンから導かれる構成単位(b11-ii)を10~24モル%および
炭素原子数4~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b11-iii)を3~25モル%含有する(ただし、構成単位(b11-i)、(b11-ii)および(b11-iii)の合計を100モル%とする)、〔5〕または〔6〕に記載の酸変性樹脂組成物(Q)。
【0013】
〔8〕ポリアミド(P)と、請求項1~7のいずれか1項に記載の酸変性樹脂組成物(Q)とを含有し、
前記ポリアミド(P)および前記酸変性樹脂組成物(Q)の合計100質量%中、
前記ポリアミド(P)の含有量が50~99質量%であり、
前記酸変性樹脂組成物(Q)の含有量が50~1質量%である
ポリアミド樹脂組成物。
【0014】
〔9〕前記ポリアミド(P)が脂肪族ポリアミドである、〔8〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔10〕さらにガラス繊維を含有する、〔8〕または〔9〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
【0015】
〔11〕未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および未変性プロピレン系重合体(b)を混合し、未変性樹脂組成物を得る工程(I)と、
前記未変性樹脂組成物を、不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により酸変性し、下記要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たす酸変性樹脂組成物(Q)を得る工程(II)と
を含むことを特徴とする酸変性樹脂組成物(Q)の製造方法。
(Q-a)密度が0.860~0.880g/cm3の範囲である。
(Q-b)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分の範囲である。
(Q-c)酸変性量が0.5~3質量%の範囲内である。
【0016】
〔12〕未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および未変性プロピレン系重合体(b)を混合し、未変性樹脂組成物を得る工程(I)と、
前記未変性樹脂組成物を、不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により酸変性し、下記要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たす酸変性樹脂組成物(Q)を得る工程(II)と、
ポリアミド(P)と前記酸変性樹脂組成物(Q)とを混合する工程(III)と
を含むことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(Q-a)密度が0.860~0.880g/cm3の範囲である。
(Q-b)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分の範囲である。
(Q-c)酸変性量が0.5~3質量%の範囲内である。
〔13〕さらにガラス繊維を混合する工程を含む〔12〕に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリアミド樹脂に配合した場合に、耐衝撃性と成形時の流動性を両立できる酸変性樹脂組成物、耐衝撃性と成形時の流動性とに優れたポリアミド樹脂組成物、ならびにそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態の構成に限定されるものではない。なお、本発明において、数値範囲を規定する「~」は、その下限値以上、上限値以下を意味する。
【0019】
≪ポリアミド樹脂組成物≫
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(P)と、酸変性樹脂組成物(Q)とを含有する。
【0020】
<酸変性樹脂組成物(Q)>
本発明の酸変性樹脂組成物(Q)は、酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)と、酸変性プロピレン系重合体(B)とを含有する。
【0021】
酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)
酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)の酸変性物である。酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)を不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により変性することにより得ることができ、好ましくは、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)をマレイン酸またはその無水物で変性することにより得ることができる。酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)を、1種単独で用いて調製したものであってもよく、2種以上組み合わせて用いて調製したものであってもよい。
【0022】
・未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)は、酸変性されていないエチレン・α-オレフィン共重合体であって、エチレンと、1種以上のα-オレフィンとを共重合して得たものであり、通常、エチレンと、1種以上の炭素原子数3~20のα-オレフィンとを共重合して得たものである。
【0023】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)を構成する炭素原子数3~20のα-オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、および1-エイコセンなどを含む炭素原子数3~20の直鎖状のα-オレフィン、ならびに、2-ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、および3-エチル-1-ヘキセンなどを含む炭素原子数4~20(好ましくは炭素原子数4~15)の分岐状のα-オレフィンが挙げられる。これらα-オレフィンの中でも炭素原子数3~15のα-オレフィンが好ましく、炭素原子数4~10のα-オレフィンがより好ましく、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンがさらに好ましく、1-ブテンが特に好ましい。
これらの炭素原子数3~20のα-オレフィンは、一種単独でもよく、二種以上のα-オレフィンを組み合わせたものであってもよい。
【0024】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)は、特に限定されるものではないが、以下の要件(a-1)~(a-3)の一つ以上を満たすことが好ましく、以下の要件(a-1)~(a-3)をすべて満たすことがより好ましい。
【0025】
要件(a-1)
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)が、エチレンから導かれる構成単位(a-i)および炭素原子数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(a-ii)を含み、構成単位(a-i)および構成単位(a-ii)の合計100モル%に対し、構成単位(a-i)を65~95モル%含み、構成単位(a-ii)を5~35モル%含む。
【0026】
構成単位(a-i)および構成単位(a-ii)の合計100モル%に対する構成単位(a-i)の含有量は、好ましくは70~93モル%であり、より好ましくは75~90モル%である。
また構成単位(a-i)および構成単位(a-ii)の合計100モル%に対する構成単位(a-ii)の含有量は、好ましくは7~30モル%であり、より好ましくは10~25モル%である。
【0027】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)が、上記要件(a-1)を満たすと、得られる酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、得られるポリアミド樹脂組成物の耐衝撃性を向上させるため好ましい。
【0028】
要件(a-2)
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)の、ASTM D1505に準拠して測定した密度が、0.850~0.895g/cm3の範囲である。
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)の密度は、好ましくは0.852~0.880g/cm3であり、より好ましくは0.855~0.875g/cm3である。
【0029】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)の密度が、上記範囲にあると、得られる酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、得られるポリアミド樹脂組成物の耐衝撃性を向上させるため好ましい。
【0030】
要件(a-3)
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)の、ASTM D1238に準拠して測定したメルトフローレート(MFR;190℃、2.16kg荷重)が、0.01~100g/10分の範囲である。
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)のメルトフローレートは、好ましくは0.05~50g/10分、より好ましくは0.1~20g/10分、さらに好ましくは0.2~10g/10分である。
【0031】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)のメルトフローレートが上記範囲にあると、得られる酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、得られるポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性が優れたものとなるため好ましい。
【0032】
・酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)
本発明に係る酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、上述の未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)を、不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により変性(グラフト変性)することにより得ることができる。好ましくは、本発明に係る酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)を、マレイン酸またはその無水物で変性することにより得ることができる。本発明に係る酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)は、酸変性エチレン・1-ブテン共重合体(A1)であることが特に好ましい。
酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)を含む本発明の酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合には、酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)が微分散することで、得られるポリアミド樹脂組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
【0033】
酸変性プロピレン系重合体(B)
酸変性プロピレン系重合体(B)は、未変性プロピレン系重合体(b)の酸変性物である。酸変性プロピレン系重合体(B)は、未変性プロピレン系重合体(b)を不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により酸変性することにより得ることができ、好ましくは、未変性プロピレン系重合体(b)をマレイン酸またはその無水物で変性することにより得ることができる。酸変性プロピレン系重合体(B)は、未変性プロピレン系重合体(b)を、1種単独で用いて調製したものであってもよく、2種以上組み合わせて用いて調製したものであってもよい。
【0034】
・未変性プロピレン系重合体(b)
未変性プロピレン系重合体(b)は、未変性プロピレン系重合体を1種単独で含んでもよく、2種以上組み合わせて含んでもよい。
【0035】
未変性プロピレン系重合体組成物(b)に含まれる未変性プロピレン系重合体は、プロピレンに由来する構成単位を主成分とする重合体であればよく、特に限定されるものではないが、たとえば、プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)、ランダムポリプロピレン(b2)、プロピレンの単独重合体(ホモPP)、ブロックポリプロピレンなどが挙げられる。未変性プロピレン系重合体(b)は、いずれも重合体の構成単位100モル%中、プロピレンに由来する構成単位を51モル%以上含有する。
【0036】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)は、プロピレンと1種以上のα-オレフィンとの共重合体であり、通常、プロピレンと、エチレンおよび炭素原子数4~20のα-オレフィンの一種以上との共重合体である。
エチレンおよび炭素原子数4~20のα-オレフィンとしては、具体的には、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、および1-エイコセンなどの直鎖状のα-オレフィン、ならびに、2-ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、および3-エチル-1-ヘキセンなどを含む炭素原子数4~20(好ましくは炭素原子数4~15)の分岐状のα-オレフィンが挙げられる。これらのα-オレフィンの中でもエチレンおよび炭素原子数4~15のα-オレフィンが好ましく、エチレンおよび炭素原子数4~10のα-オレフィンであることがより好ましく、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンがさらに好ましく、エチレンおよび1-ブテンが特に好ましい。これらのα-オレフィンは、1種単独でも2種以上の組み合わせであってもよい。
【0037】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)の好適な具体例としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体、が挙げられる。また、他のプロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)の好適な具体例としては、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体(b11)が挙げられ、中でも、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体が好ましい。
【0038】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)は、少なくとも以下の要件(b1-1)を満たすものであり、好ましくは以下の要件(b1-1)に加え、以下の要件(b1-2)~(b1-4)の一つ以上を満たし、より好ましくは以下の要件(b1-1)~(b1-4)をすべて満たす。
【0039】
要件(b1-1)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)が、プロピレンから導かれる構成単位(b1-i)を、全構成単位中51~80モル%含む。
【0040】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)は、プロピレンから導かれる構成単位(b1-i)と、エチレンおよび/または炭素原子数4~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b1-ii)との合計100モル%に対して、
好ましくは構成単位(b1-i)を51~80モル%、構成単位(b1-ii)を20~49モル%含み、
より好ましくは構成単位(b1-i)を6055~80モル%および構成単位(b1-ii)を20~40モル%含み、
さらに好ましくは構成単位(b1-i)を6560~80モル%および構成単位(b1-ii)を20~35モル%含む。
【0041】
また、プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)が、プロピレンから導かれる構成単位(b11-i)と、エチレンから導かれる構成単位(b11-ii)と、炭素原子数4~20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b11-iii)とを有するプロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体(b11)である場合、構成単位(b11-i)、(b11-ii)および(b11-iii)の合計100モル%に対して、
好ましくは構成単位(b11-i)を51~80モル%、構成単位(b11-ii)を10~24モル%、構成単位(b11-iii)を3~25モル%含み、
より好ましくは構成単位(b11-i)を60~80モル%、構成単位(b11-ii)を10~20モル%、構成単位(b11-iii)を3~23モル%含み、
さらに好ましくは構成単位(b11-i)を65~80モル%、構成単位(b11-ii)を11~19モル%、構成単位(b11-iii)を4~21モル%含む。
【0042】
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)、プロピレン・エチレン・α-オレフィン共重合体(b11)の各構成単位量が上記の範囲にあると、この酸変性体を含む酸変性プロピレン系重合体(B)を含有する本発明の酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、ポリアミド樹脂組成物の耐衝撃性、流動性が良好となるため好ましい。
【0043】
要件(b1-2)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)の、ASTM D1238に準拠して測定したメルトフローレート(MFR;190℃、2.16kg荷重)が、0.01~100g/10分である。
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)のメルトフローレート(MFR;190℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.05~50g/10分、より好ましくは0.1~20g/10分である、さらに好ましくは、0.2~10g/10分である。
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)のメルトフローレートが上記範囲にあると、この酸変性体を含む酸変性プロピレン系重合体(B)のメルトフローレートが良好な範囲となるため好ましく、また、この酸変性体を含む酸変性プロピレン系重合体(B)を含有する本発明の酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、ポリアミド樹脂組成物の耐衝撃性、流動性が良好となるため好ましい。
【0044】
要件(b1-3)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)の、アイソタクティックトライアッド分率(mm)が、85~99.9%である。
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)の、アイソタクティックトライアッド分率(mm)は、好ましくは85~97.5%、より好ましくは90~97%である。アイソタクティックトライアッド分率(mm)がこの範囲にあると、エチレンや1-ブテンなどのコモノマーを多く共重合させた場合でも、完全に結晶性が失われないため、機械物性などの観点から好適である。アイソタクティックトライアッド分率(mm)は、国際公開第2004-087775号の第21頁7行目から第26頁6行目までに記載された方法を用いて測定することができる。
【0045】
要件(b1-4)
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.2~3.5である。このような分子量分布を有すると、低分子量成分が少ないためべた付き感が抑制される。
【0046】
ランダムポリプロピレン(b2)は、プロピレンから導かれる構造単位が90モル%以上であるプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体である。
【0047】
未変性プロピレン系重合体(b)は、プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)およびランダムポリプロピレン共重合体(b2)よりなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)とランダムポリプロピレン共重合体(b2)とを含むことがより好ましい。
【0048】
未変性プロピレン系重合体(b)が、プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)とランダムポリプロピレン共重合体(b2)とを含む場合、未変性プロピレン系重合体(b)中のプロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)とランダムポリプロピレン共重合体(b2)との合計含有量を100質量部とした時、プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)を50~99.9質量部、ランダムポリプロピレン共重合体(b2)を0.1~50質量部含有することが好ましく、
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)を60~98質量部、ランダムポリプロピレン共重合体(b2)を2~40質量部含有することがより好ましく、
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)を65~95質量部、ランダムポリプロピレン共重合体(b2)を5~35質量部含有することがさらに好ましく、
プロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)を70~90質量部、ランダムポリプロピレン共重合体(b2)を10~30質量部含有することが特に好ましい。
【0049】
すなわち本発明において、酸変性プロピレン系重合体(B)は、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)および酸変性ランダムポリプロピレン(B2)よりなる群から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)と酸変性ランダムポリプロピレン(B2)とを含むことがより好ましい。
【0050】
酸変性プロピレン系重合体(B)が、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)と酸変性ランダムポリプロピレン(B2)とを含む場合、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)と酸変性ランダムポリプロピレン(B2)との合計含有量を100質量部とした時、酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)を50~99.9質量部、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)を0.1~50質量部含有することが好ましく、
酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)を60~98質量部、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)を2~40質量部含有することがより好ましく、
酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)を65~95質量部、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)を5~35質量部含有することがさらに好ましく、
酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)を70~90質量部、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)を10~30質量部含有することが特に好ましい。
【0051】
なお、酸変性プロピレン系重合体(B)は、上述の未変性プロピレン系重合体(b)を不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により変性することにより得ることができ、好ましくはマレイン酸またはその無水物で変性することにより得ることができる。また酸変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(B1)はプロピレン・α-オレフィン共重合体(b1)を、酸変性ランダムポリプロピレン(B2)はランダムポリプロピレン(b2)を、それぞれ不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により変性することにより得ることができ、好ましくはマレイン酸またはその無水物で変性することにより得ることができる。
【0052】
酸変性プロピレン系重合体(B)を含む本発明の酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合には、酸変性プロピレン系重合体(B)が微分散することで、得られるポリアミド樹脂組成物の耐衝撃性を向上させるとともに、ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性を向上させることができる。
【0053】
酸変性樹脂組成物(Q)
本発明の酸変性ポリオレフィン(Q)は、上述の酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)を含有する組成物であって、下記の要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たす。
【0054】
要件(Q-a)
密度が0.860~0.880g/cm3の範囲である。酸変性ポリオレフィン(Q)の密度は、ASTM D1505に準拠して測定することができる。
酸変性ポリオレフィン(Q)の密度は、好ましくは0.861~0.877g/cm3、より好ましくは0.863~0.875g/cm3の範囲である。
酸変性樹脂組成物(Q)の密度が上記範囲にあると、酸変性樹脂組成物(Q)のペレットのハンドリング性に優れるとともに、酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、得られるポリアミド樹脂組成物が耐衝撃性に優れる。
【0055】
要件(Q-b)
190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR)が0.1~100g/10分の範囲である。酸変性ポリオレフィン(Q)のメルトフローレートは、ASTM D1238に準拠して、190℃、2.16kg荷重の条件で測定することができる。
酸変性ポリオレフィン(Q)のメルトフローレートは、好ましくは0.3~50g/10分、より好ましくは0.5~25g/10分、さらに好ましくは0.6~10g/10分の範囲である。酸変性樹脂組成物(Q)のメルトフローレートが上記範囲あると、酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、得られるポリアミド樹脂組成物が耐衝撃性と成形時の流動性に優れる。
【0056】
要件(Q-c)
酸変性量が0.5~3質量%の範囲にある。酸変性ポリオレフィン(Q)の酸変性量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
酸変性ポリオレフィン(Q)の酸変性量は、好ましくは0.6~2.5質量%、より好ましくは0.65~2質量%、さらに好ましくは0.7~1.5質量%の範囲である。酸変性樹脂組成物(Q)の酸変性量が上記範囲あると、酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、得られるポリアミド樹脂組成物が耐衝撃性と成形時の流動性に優れる。
【0057】
酸変性樹脂組成物(Q)は、さらに下記の要件(Q-d)を満たすことが好ましい。
要件(Q-d)
マレイン酸含有量が100ppm未満である。
本発明において、マレイン酸含有量は、酸変性樹脂組成物(Q)中のマレイン酸および無水マレイン酸の含有量の総量を意味する。
酸変性樹脂組成物(Q)中に含まれるマレイン酸および無水マレイン酸は、通常、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および未変性プロピレン系重合体(b)を、マレイン酸または無水マレイン酸で変性した際の未反応物(残留マレイン酸)である。
【0058】
マレイン酸含有量が100ppm未満である酸変性樹脂組成物(Q)は、成型時に残アウトガスが少なくなるため金型汚染軽減の観点から優れている。このマレイン酸含有量は、90ppm以下が好ましく、80ppm以下がより好ましく、75ppm以下がさらに好ましい。マレイン酸含有量は、金型汚染軽減の観点から少ないほど好ましく、その下限は特に制限されるものではないが、通常酸変性樹脂組成物(Q)におけるマレイン酸含有量の範囲としては1ppm以上である。
なお、酸変性樹脂組成物(Q)中のマレイン酸含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0059】
酸変性ポリオレフィン(Q)は、酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)を含有し、上述の要件(Q-a)~(Q-c)を満たすものであればよく、特に限定されるものではないが、酸変性ポリオレフィン(Q)中における酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)の含有量は、酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)の合計100質量%に対し、好ましくは1~99質量%であり、より好ましくは15~97質量%、さらに好ましくは30~95質量%、特に好ましくは40~93質量%である。また酸変性プロピレン系重合体(B)の含有量は、酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)の合計100質量%に対し、好ましくは1~99質量%であり、より好ましくは3~85質量%、さらに好ましくは5~70質量%、特に好ましくは7~93質量%である。
【0060】
酸変性ポリオレフィン(Q)中における酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)の含有量がそれぞれ前記範囲にあると、
酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系組成物(B)の含有量の合計が前記範囲にあると、酸変性樹脂組成物(Q)をポリアミドに配合した場合に、得られるポリアミド樹脂組成物が耐衝撃性と成形時の流動性に優れる。
【0061】
酸変性樹脂組成物(Q)の製造方法
酸変性樹脂組成物(Q)は、酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)および酸変性プロピレン系重合体(B)を含有する。
【0062】
酸変性樹脂組成物(Q)の製造方法としては、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)を酸変性して得た酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体(A)と、未変性プロピレン系重合体(b)を酸変性して得た酸変性プロピレン系重合体(B)とを混合する方法、および、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)と未変性プロピレン系重合体(b)を混合した後に酸変性する方法が挙げられる。
【0063】
これらのうちでは、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)と未変性プロピレン系重合体(b)を混合した後に酸変性する方法、または、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)と未変性プロピレン系重合体(b)を混合する方法が好ましい。これらの方法では、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)と未変性プロピレン系重合体(b)とを同時に酸変性することで、酸変性に用いる不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物の残存量、好ましくはマレイン酸またはその無水物の残存量(マレイン酸含有量)を低減した酸変性樹脂組成物(Q)を製造することができる。
【0064】
この理由は明らかではないが、通常、プロピレン系重合体はエチレン系重合体よりも酸変性しにくく、マレイン酸または無水マレイン酸を用いて未変性プロピレン系重合体を酸変性した場合にはマレイン酸または無水マレイン酸の残留が生じやすいが、未変性プロピレン系重合体と未変性エチレン・α-オレフィン共重合体とを同時に酸変性することにより、残留する未反応のマレイン酸を減少させることができるためと考えられる。
【0065】
また酸変性は、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および未変性プロピレン系重合体(b)と、不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物、好ましくはマレイン酸またはその無水物とを、溶融条件下で接触させることにより行うことができ、その方法を限定するものではないが、残留する未反応のマレイン酸を減少させることができる点で、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および未変性プロピレン系重合体(b)を押出機内で同時に変性する押出変性が好ましい。この理由は定かではないが、未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および未変性プロピレン系重合体(b)を押出機内で同時に酸変性(共変性)することにより、良好なせん断発熱量が得られ、添加した無水マレイン酸等の多くが未変性物にグラフトすることで、得られる酸変性樹脂組成物(Q)中のマレイン酸含有量が少なくなると考えられる。
【0066】
<ポリアミド(P)>
本発明で用いるポリアミド(P)は、特に制限されず、本発明の効果を損なわない範囲において従来知られる脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミドのいずれであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。ポリアミド(P)としては、これらのポリアミドの中でも、脂肪族ポリアミドが好ましい。さらに脂肪族ポリアミドの中では、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド11、ポリアミド612、ポリアミド12がより好ましい。脂肪族ポリアミドの中でも、市場から容易に入手することができ、かつ高い耐熱性および吸水性を有するポリアミド66を用いることが特に好ましい。
【0067】
前記ポリアミドは、例えば、ラクタム等の開環重合によって製造することができる。ラクタムとしては、ε-カプロラクタムを用いると、開環重合によりポリアミド6が得られるため好ましい。ポリアミドの別の製造方法としては、例えば、炭素数4~12のジカルボン酸と、炭素数2~13のジアミンとを重縮合させることにより製造する方法が挙げられる。
【0068】
ポリアミドを製造する際に使用される代表的なジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸およびドデカンジカルボン酸などが挙げられる。またこれらの誘導体、例えばエステル、酸塩化物またはアミン塩などを使用することもできる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0069】
また、ポリアミドを製造する際に使用される代表的なジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0070】
本発明で用いるポリアミド(P)の、DSCにより測定される融点(Tm)は、通常175~330℃であり、好ましくは210~330℃である。
このような融点を有するポリアミド(P)を含む本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐熱性に優れるため好ましい。
【0071】
ポリアミド(P)の275℃、2.16kg荷重で測定されるメルトボリュームレイト(MVR)は、好ましくは1~200cm3/10min、より好ましくは1~150cm3/10min、特に好ましくは1~125cm3/10minである。このようなポリアミド(P)を用いることにより、ポリアミド樹脂が固有に備える耐衝撃性が十分発現する傾向にあり、流動性に優れた酸変性樹脂組成物(Q)と混合しても耐衝撃性が大きく損なわれることがない。その結果、本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐衝撃性と鏡面光沢度とのバランス、あるいは耐衝撃性と成形時流動性のバランスに優れるという本発明の効果がより顕著に奏される。
【0072】
<ガラス繊維>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じてガラス繊維を含んでもよい。具体的には、本発明のポリアミド樹脂組成物は、上述したポリアミド(P)と酸変性樹脂組成物(Q)との合計100質量部に対して、ガラス繊維を通常1~100質量部、好ましくは5~80質量部、より好ましくは10~60質量部をさらに含む、ガラス繊維含有ポリアミド組成物であってもよい。このようなガラス繊維を含有するポリアミド樹脂組成物は、得られる成形体の機械的強度をさらに向上させたい場合、あるいは調整された線膨張率(成形収縮率)を持つ成形体が必要な用途に有用である。
ガラス繊維の好適な例としては、平均繊維径が6~14μm、繊維長が1~10mmのものが挙げられる。
【0073】
<その他の成分>
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(P)および酸変性樹脂組成物(Q)に加え、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、他の合成樹脂、他のゴム、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、結晶核剤、顔料、塩酸吸収剤、銅害防止剤等の添加物を、ポリアミド(P)と酸変性樹脂組成物(Q)との合計100質量部に対して、通常0.01~10質量部、好ましくは0.1~5質量部含んでいてもよい。
【0074】
ポリアミド樹脂組成物
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上述したポリアミド(P)と、本発明の酸変性樹脂組成物(Q)と、必要に応じて上述したガラス繊維ならびにその他の成分を含有する。
各成分の配合割合は特に限定されるものではないが、ポリアミド(P)および酸変性樹脂組成物(Q)の合計100質量%中において、ポリアミド(P)の含有量が50~99質量%であり、酸変性樹脂組成物(Q)の含有量が50~1質量%であることが好ましく、
ポリアミド(P)の含有量が60~97質量%であり、酸変性樹脂組成物(Q)の含有量が40~3質量%であることがより好ましく、
ポリアミド(P)の含有量が70~93質量%であり、酸変性樹脂組成物(Q)の含有量が30~7質量%であることがさらに好ましい。
【0075】
ポリアミド樹脂組成物がガラス繊維を含む場合には、ポリアミド(P)と酸変性樹脂組成物(Q)との合計100質量部に対して、ガラス繊維の含有量が1~100質量部であることが好ましく、5~80質量部であることがより好ましく、10~60質量部であることがさらに好ましい。
また、ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド(P)、酸変性樹脂組成物(Q)およびガラス繊維以外のその他の成分をさらに含む場合、その他の成分の含有量は、ポリアミド(P)と酸変性樹脂組成物(Q)との合計100質量部に対して、0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~5質量部であることがより好ましい。
【0076】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(P)および本発明の酸変性樹脂組成物(Q)を含むことにより、成形時の流動性に優れ、成形性が良好であるとともに、得られる成形体が耐衝撃性に優れたものとなる。
【0077】
ポリアミド樹脂組成物の製造方法
本発明のポリアミド樹脂組成物は、例えば、ポリアミド(P)および酸変性樹脂組成物(Q)、並びに必要に応じて配合されるガラス繊維および添加剤を、種々の従来公知の方法で溶融混合することにより調製することができる。具体的には、上記各成分を同時に又は逐次的に、例えばヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーミキサー、リボンブレンダー等に装入して混合した後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練することによって製造することができる。特に、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練性能に優れた装置を使用すると、各成分がより均一に分散された高品質のポリアミド樹脂組成物が得られるため好ましい。また、これらの任意の段階で必要に応じてその他の添加剤、例えば酸化防止剤などを添加することもできる。
【0078】
好ましくは、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、前記未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および前記未変性プロピレン系重合体(b)を混合し、未変性樹脂組成物を得る工程(I)と、
前記未変性樹脂組成物を、不飽和カルボン酸およびその誘導体から選ばれる化合物により酸変性し、前記の要件(Q-a)~(Q-c)をすべて満たす酸変性樹脂組成物(Q)を得る工程(II)と、
ポリアミド(P)と前記酸変性樹脂組成物(Q)とを混合する工程(III)とを含む。
【0079】
また、ガラス繊維を含有するポリアミド樹脂組成物は、上述のように溶融混合によりポリアミド樹脂組成物を製造する際の任意の段階で、ガラス繊維を混合する工程を含むことにより製造することができ、また、ガラス繊維入りポリアミドと酸変性樹脂組成物(Q)とを上記のように溶融混練することによっても製造することができる。
【0080】
≪成形体≫
本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、カレンダー成形、発泡成形などの公知の成形方法により、各種成形体に成形することができ、公知の多様な用途に適用することができる。このような本発明に係る成形体は、耐衝撃性に優れるとともに、成形性に優れたポリアミド樹脂組成物から得られることにより表面性状にも優れたものとなる。
【実施例0081】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
<原料成分>
以下の実施例および比較例で用いた原料成分は以下のとおりである。
ポリアミド樹脂(P)
ポリアミド66(P-1):東レ社製、アミラン(登録商標)CM3001-N、溶融温度265℃、密度1140kg/m3
【0083】
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)
エチレン・1-ブテン共重合体(a-1):三井化学(株)製のエチレン・1-ブテン共重合体(EBR)を用いた。性状は、エチレン含量が80モル%、MFR(190℃、2.16kg荷重)が0.5g/10分、密度が860kg/m3であった。
【0084】
未変性プロピレン系重合体(b)
未変性プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体(b-1):
国際公開第2006/098452号に開示された方法(重合例4)に準拠して、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体(b-1)を調製した。得られた重合体の性状は、プロピレンに由来する骨格含有量68モル%、エチレンに由来する骨格含有量13モル%、1-ブテンに由来する骨格含有量19モル%であり、mmは92%、MFR(230℃、2.16kg荷重)は7g/10分、Mw/Mnは2.1、Tgは-29℃であった。
【0085】
未変性ランダムポリプロピレン(b-2):プロピレン含量が96.0モル%、エチレン含量が3.0モル%、1-ブテン含量が1.0モル%である、(株)プライムポリマー社製のランダムポリプロピレンを用いた。性状は、MFR(230℃、2.16kg荷重)が7g/10分、融点が140℃であった。
【0086】
未変性プロピレン・エチレン共重合体(b-3):エクソンモービルケミカルズ社製 Vistamaxx 6202を用いた。性状は、密度862g/m3、MFR(190℃、2.16kg荷重)9.1g/10分であった。
【0087】
ガラス繊維
ガラス繊維として、日本電気硝子製 T-251H(繊維長3mm、平均繊維径10μm)を用いた。
【0088】
<測定・評価方法>
ポリマー中のエチレン、プロピレン、α-オレフィン含量
エチレン、プロピレン、α-オレフィン含量の定量化は日本電子(株)製JNM GX-500型NMR測定装置を用いて、下記のように測定した。試料0.35gをヘキサクロロブタジエン2.0mlに加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で濾過した後、重水素化ベンゼン0.5mlを加え、内径10mmのNMRチューブに装入して、120℃で13C-NMR測定を行う。積算回数は、10,000回以上とする。得られた13C-NMRスペクトルにより、エチレン、プロピレン、α-オレフィンの組成を定量化した。
【0089】
MFR
未変性エチレン・α-オレフィン共重合体(a)および酸変性樹脂組成物(Q)については、ASTM D1238に準拠した190℃、2.16kg荷重の条件でメルトフローレート(MFR)を測定した。また、未変性プロピレン系重合体(b)については、ASTM D1238に準拠した230℃、2.16kg荷重の条件でメルトフローレート(MFR)を測定した。
【0090】
アイソタクティックトライアッド分率(mm)の測定
ヘキサクロロブタジエン溶液(テトラメチルシランを基準)で13C-NMRスペクトルを測定し、19.5~21.9ppmに表れるピークの全面積(100%)に対する21.0~21.9ppmに表れるピークの面積の割合(%)を求めた。
【0091】
分子量分布(Mw/Mn)
分子量分布(Mw/Mn)は、Waters社製ゲル浸透クロマトグラフAlliance GPC-2000型を用い、以下のようにして測定した。分離カラムは、TSKgel GNH6-HTを2本およびTSKgel GNH6-HTLを2本であり、カラムサイズはいずれも直径7.5mm、長さ300mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはo-ジクロロベンゼン(和光純薬工業)および酸化防止剤としてBHT(武田薬品)0.025重量%を用い、1.0ml/分で移動させ、試料濃度は15mg/10mLとし、試料注入量は500マイクロリットルとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、分子量がMw<1000およびMw>4×106の範囲については東ソー社製を用い、1000≦Mw≦4×106の範囲についてはプレッシャーケミカル社製を用いた。
【0092】
プロピレン系重合体(b)のガラス点移転(Tg)]
セイコーインスツルメンツ社製DSCを用い、測定用アルミパンに約5mgの試料をつめて、100℃/minで200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、10℃/minで-150℃まで降温し、ついで10℃/minで200℃まで昇温した吸熱曲線より求めた。
【0093】
密度
ASTM D1505に準拠して測定した。
【0094】
変性量
変性量(無水マレイン酸含量)は、FT-IRにてカルボニル基に帰属される波数1780cm-1ピーク強度に基づき、別途作成した検量線から求めた。
【0095】
マレイン酸含有量
マレイン酸含有量(残留マレイン酸量)は、試料(酸変性ポリオレフィン)約1gをキシレン/水混合溶媒で抽出し、抽出溶液のポリマーを除去した後、逆相カラムを用いた液体クロマトグラフでマレイン酸を分離し、別途作成した検量線から求めた。
【0096】
アイゾット衝撃強度
厚み1/8”の試験片を用い、ASTM D256に従って、23℃および-40℃でノッチ付きアイゾット衝撃強度を測定した。
【0097】
流動性
シリンダー温度290℃、射出圧力100MPa、金型温度80℃とした50t型締力の射出成形機にて、3.8mmφ半円のスパイラル状の溝を持った金型に射出成形し、流動距離を測定した。
【0098】
[実施例1]
酸変性ポリオレフィン(Q―1)の製造
エチレン・1-ブテン共重合体(a-1)90質量%、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体(b-1)8質量%及びランダムポリプロピレン(b-2)2質量%からなる樹脂組成物10kgと、無水マレイン酸(MAH)120g及び2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン(日油製 商品名パーヘキサ25B)6gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。次いで、得られたブレンド物を、スクリュー径30mm、L/D=40の2軸押出機のホッパーから投入し、樹脂温度200℃、スクリュー回転数240rpm、吐出量12kg/hrでストランド状に押し出した。得られたストランドを十分冷却した後、造粒することで、酸変性ポリオレフィン(Q-1)を得た。得られた酸変性ポリオレフィン(Q-1)の物性結果を表1に示す。
【0099】
[実施例2~3,参考例1]
酸変性ポリオレフィン(Q-2)、(Q-3)、(Q-4)の製造
実施例1の酸変性ポリオレフィン(Q-1)の調製にて、エチレン・α-オレフィン共重合体(A)及びプロピレン系重合体(B)の割合を表1の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、酸変性ポリオレフィン(Q-2)、(Q-3)、(Q-4)をそれぞれ調製した。物性を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
[実施例4]
ポリアミド樹脂組成物、成形体の製造
ポリアミド樹脂であるポリアミド66(P-1)60質量部と、実施例1で得た酸変性樹脂組成物(Q-1)10質量部とを、ヘンシェルミキサーを用いて混合してドライブレンド物を調製した。次いで、このドライブレンド物を290℃に設定したスクリュー径30mm、L/D=40の2軸押出機の主投入口に投入ししながら、副投入口からからガラス繊維30質量部を順次投入してガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物のペレットを調製した。この際スクリュー回転数180rpm、吐出量15kg/hrで押出した。得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを80℃で1昼夜乾燥した後、シリンダー温度:290℃、射出圧力:400kg/cm2、金型温度:80℃の条件で射出成形を行ない、物性試験用試験片を作製した。評価結果を表2に示す。
【0102】
[実施例5~6,比較例1]
酸変性樹脂組成物(Q)の種類を表2に示す通りに変更したことの他は、実施例4と同様にしてポリアミド樹脂組成物のペレットを調製し、射出成形により物性試験用試験片を作成した。評価結果を表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
上記の結果より、酸変性エチレン・α-オレフィン共重合体と酸変性プロピレン系重合体とを含有する酸変性樹脂組成物(Q-1)~(Q-3)を含む実施例4~6のポリアミド樹脂組成物では、酸変性プロピレン系共重合体のみを含有する酸変性樹脂組成物(Q-4)を含む比較例1のポリアミド樹脂組成物と比較して、高い流動性と高いIzod衝撃強度とを両立していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の酸変性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂への添加剤用途等に有用である。本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形時の流動性と成形体の耐衝撃性を両立するため、そのような物性が求められるポリアミド樹脂を用いる各種分野に好適に利用でき、エンジニアリングプラスチックとして産業上有用である。