(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106892
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】アンテナ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/08 20060101AFI20230726BHJP
H01Q 19/10 20060101ALI20230726BHJP
H01P 11/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
H01Q13/08
H01Q19/10
H01P11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022007881
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】591250606
【氏名又は名称】三省電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079164
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 勇
(72)【発明者】
【氏名】中野 久松
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智希
(72)【発明者】
【氏名】清藤 巌
(72)【発明者】
【氏名】小西 隆義
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【テーマコード(参考)】
5J020
5J045
【Fターム(参考)】
5J020BA04
5J020BC13
5J020BD03
5J020CA04
5J020CA05
5J020DA02
5J020DA03
5J020DA04
5J045AA05
5J045AA21
5J045AB05
5J045DA10
5J045FA08
5J045MA07
(57)【要約】
【課題】メタマテリアル技術を応用してEBG反射板及びグランドのEBG構造体から漏洩する電磁波を抑制するアンテナ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】小形構造を有するアンテナであって、前後双方向に電磁界を放射するアンテナ素子1と、アンテナ素子1の後方への放射を前方へ反射するEBG反射板2と、EBG反射板2から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制する誘電体層4と、を有している。誘電体層4でEBG反射板2から後方へ放射する漏洩電磁波を抑制することにより、小さな反射面積を有しながら単方向に電磁界を放射させる。誘電体層4を設けることにより、EBG反射板2から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制するため、装置のアンテナ搭載エリアに金属部分が存在してもアンテナを金属部分等に接触させて搭載することができ、アンテナ搭載に課される制限を排除することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小形構造を有するアンテナであって、
前後双方向に電磁界を放射するアンテナ素子と、
前記アンテナ素子の後方への放射を前方へ反射するEBG反射板と、
前記EBG反射板から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制する誘電体層と、
を有することを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
前記アンテナであって、
前記誘電体層が前記EBG反射板のグランドに対峙する金属面を有していることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
前記アンテナであって、
前記EBG反射板の電磁波反射面を前記アンテナ素子の放射面より広く設定していることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項4】
前記アンテナであって、
前記誘電体層の前記金属面が金属板からなる平面構造であることを特徴とする請求項2に記載のアンテナ。
【請求項5】
前記アンテナであって、
前記誘電体層は、前記EBG反射板のグランドと前記金属板の間に誘電体を有し、放射を抑制しつつ前記漏洩電磁波を減衰させる構造であることを特徴とする請求項4に記載のアンテナ。
【請求項6】
前記アンテナであって、
前記アンテナ素子に放射面がパッチ状の逆Fアンテナ素子を用いたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項7】
前記アンテナであって、
前記誘電体層の前記金属面が、金属板からなる平面構造と、前記平面構造の縁部から立ち上げた側面構造の組合せからなるキャビティ構造であることを特徴とする請求項2に記載のアンテナ。
【請求項8】
前記アンテナであって、
前記アンテナ素子の放射面と前記EBG反射板の反射面間の距離、及び前記誘電体層の厚さ寸法をそれぞれ1/4λ(λ:使用周波数の波長)以下に設定したことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のアンテナ。
【請求項9】
前記アンテナにおいて、
前記EBG反射板のグランドに沿わせて同軸ケーブルを配置し、前記同軸ケーブルの内部導線を前記アンテナ素子の給電部に接続し、且つ前記同軸ケーブルの外部導線を前記EBG反射板のグランドに接続したことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項10】
前記アンテナにおいて、
前記誘電体層の前記金属板の最小寸法を前記EBG反射板のグランドの寸法とほぼ同一に設定したことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項11】
小形構造を有するアンテナの製造方法であって、
第1の誘電体基板を芯材に使用して前後双方向に電磁界を放射するアンテナ素子を形成する組立ステップと、
第2の誘電体基板を芯材に使用して前記アンテナ素子の後方への放射を前方へ反射するEBG反射板を形成する組立ステップと、
第3の誘電体基板を芯材に使用して前記EBG反射板から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制する誘電体層を形成する組立ステップと、
前記アンテナ素子と前記EBG反射板と前記誘電体層を三層構造に積層する組立ステップとを、実施することを特徴とするアンテナの製造方法。
【請求項12】
前記アンテナの製造方法であって、
前記アンテナ素子の給電部及びマッチング調節用接地部を前記EBG反射板のグランドに向けて形成する組立ステップと、
前記第2の誘電体基板と前記第3の誘電体基板の対面する端面の少なくとも一方の端面に、同軸ケーブルを受け入れて誘電体基板外に導出する座繰り、及び前記同軸ケーブルと前記アンテナ素子を結合する座繰りを形成する組立ステップと、
前記同軸ケーブルを前記座繰りに受け入れて内部芯線を前記給電部に前記座繰り内で接続し、前記マッチング調節用接地部を前記EBG反射板のグランドに前記座繰り内で接続する組立ステップと、を実施することを特徴とする請求項11に記載のアンテナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ素子からの後方放射を抑制するアンテナ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高実装密度に起因してアンテナ設置面積を十分に確保することは困難な状況にあり、アンテナの小形化、軽量化、薄型化が要求されている。前記要求に対応するアンテナとして低姿勢構造のアンテナが開発され、そのアンテナの一つとして逆Fアンテナが開発されている(特許文献1)
【0003】
特許文献1は、一対のアンテナ素子から電磁波を放射させており、前記一対のアンテナ素子からの電磁波の結合を抑制するため、前記逆Fアンテナ素子の後方にEBG板を配置している。
【0004】
特許文献1は、一対のアンテナ素子からの電磁波の結合を抑制するため、アンテナ素子とEBG板の間の距離を1/4λ(λは使用周波数の波長)に設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5112204号公報
【特許文献2】特許第5527316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、EBG板を一対のアンテナ素子の後方に配置しており、前記EBG板の縁部での周期境界条件に着目していない。
【0007】
そのため、特許文献1のEBG板の縁部から電磁波が食み出し、EBG板から後方のグランドに向けた電界が生じる可能性があり、その漏洩電磁波がアンテナ素子からの前方放射に影響を与えるという課題が残されている。
【0008】
特許文献2は、アンテナエレメントとマッシュルーム型周期構造とグランドを3層構造に形成した構造を採用することにより、アンテナの低背化を実現させている。
【0009】
特許文献2はアンテナの低背化を実現するため、共振器を用いることにより、マッシュルーム型周期構造の専有面積をアンテナエレメントのサイズ以下に抑える構造を採用している。
【0010】
特許文献2は、マッシュルーム型周期構造の縁部での周期境界条件に着目しておらず、マッシュルーム型周期構造の縁部から電磁波が食み出し、後方のグランドに向けた電界が生じ、その漏洩電磁波がアンテナ素子からの前方放射に影響を与えるという課題が残されていた。
【0011】
近年普及が拡大中のIoT/M2Mにおける無線端末の設置条件は、代表的なLPWA(Low Power Wide Area:商標)システムに見られるように、金属装置に直接取り付ける場合や、近傍に金属部品や水などがある場所に設置するなど、アンテナに最適な設置場所を確保することが困難になっており、電波の送受信環境はアンテナに悪影響を与える最悪の環境になっているのが実情である。
【0012】
特許文献2はマッシュルーム型周期構造から後方への漏洩電磁波を抑止する手段が講じられていないため、前記グランドを装置のアンテナ搭載エリアの金属部分に接近させて搭載させた際に、前記漏洩電磁波が逆位相の反射波として前方向へ反射されてしまい、アンテナの利得の劣化を招くという課題がある。このため、特許文献2のアンテナを装置に装備する際に搭載箇所が限定されるという課題がある。
【0013】
本発明の目的は、メタマテリアル技術を応用してEBG反射板及びグランドのEBG構造体から漏洩する電磁波を抑制するアンテナ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一般に小さな反射板を有するアンテナは前後双方向(±z方向)の電磁界を放射する。その双方向放射は反射板の反射面積の増加に伴い単方向放射へと変化するが、反射板面積の増加はアンテナ体積の増加を意味する。
本発明は、小さな反射面積を有しながら単方向に電磁界を放射するアンテナを提供するものである。
【0015】
具体的には、前記目的を達成するため、本発明に係るアンテナは、小形構造を有するアンテナであって、前後双方向に電磁界を放射するアンテナ素子と、前記アンテナ素子の後方への放射を前方へ反射するEBG反射板と、前記EBG反射板から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制する誘電体層と、を有することを特徴とする。
【0016】
前記アンテナであって、前記誘電体層が前記EBG反射板のグランドに対峙する金属面を有していることを特徴とする。
【0017】
前記アンテナであって、前記EBG反射板の電磁波反射面を前記アンテナ素子の放射面より広く設定していることを特徴とする。
【0018】
前記アンテナであって、前記誘電体層の前記金属面が金属板からなる平面構造であることを特徴とする。
【0019】
前記アンテナであって、前記誘電体層は、前記EBG反射板のグランドと前記金属板の間に誘電体を有し、放射を抑制しつつ前記漏洩電磁波を減衰させる構造であることを特徴とする。
【0020】
前記アンテナであって、前記アンテナ素子に放射面がパッチ状の逆Fアンテナ素子を用いたことを特徴とする。
【0021】
前記アンテナであって、前記誘電体層の前記金属面が、金属板からなる平面構造と、前記平面構造の縁部から立ち上げた側面構造の組合せからなるキャビティ構造であることを特徴とする。
【0022】
前記アンテナであって、前記アンテナ素子の放射面と前記EBG反射板の反射面間の距離、及び前記誘電体層の厚さ寸法をそれぞれ1/4λ(λは使用周波数の波長)以下に設定したことを特徴とする。
【0023】
前記アンテナであって、前記EBG反射板のグランドに沿わせて同軸ケーブルを配置し、前記同軸ケーブルの内部導線を前記アンテナ素子の給電部に接続し、且つ前記同軸ケーブルの外部導線を前記EBG反射板のグランドに接続したことを特徴とする。
【0024】
前記アンテナであって、前記誘電体層の前記金属板の最小寸法を前記EBG反射板のグランドの寸法とほぼ同一に設定したことを特徴とする。
【0025】
本発明に係る小形構造を有するアンテナの製造方法は、第1の誘電体基板を芯材に使用して前後双方向に電磁界を放射するアンテナ素子を形成する組立ステップと、第2の誘電体基板を芯材に使用して前記アンテナ素子の後方への放射を前方へ反射するEBG反射板を形成する組立ステップと、第3の誘電体基板を芯材に使用して前記EBG反射板から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制する誘電体層を形成する組立ステップと、前記アンテナ素子と前記EBG反射板と前記誘電体層を三層構造に積層する組立ステップとを、実施することを特徴とする。
【0026】
前記アンテナの製造方法であって、前記アンテナ素子の給電部及び接地部を前記EBG反射板のグランドに向けて形成する組立ステップと、前記第2の誘電体基板と前記第3の誘電体基板の対面する端面の少なくとも一方の端面に、同軸ケーブルを受け入れて誘電体基板外に導出する座繰り、及び前記同軸ケーブルと前記アンテナ素子を結合する座繰りを形成する組立ステップと、前記同軸ケーブルを前記座繰りに受け入れて内部芯線を前記給電部に前記座繰り内で接続し、前記マッチング調節用接地部を前記EBG反射板のグランドに前記座繰り内で接続する組立ステップと、を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように本発明によれば、前後双方向に電磁界を放射するアンテナ素子と、前記アンテナ素子の後方への放射を前方へ反射するEBG反射板と、前記EBG反射板に対峙する金属面を有し前記EBG反射板から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制する誘電体層と、を有している。
EBG反射板の反射面積とアンテナ素子後方への放射量は反比例の関係にあるが、本発明は前記EBG反射板を採用することにより、反射面積を縮小させ、且つ前記誘電体層を追加することにより、小さな反射面積を有しながら単方向に電磁界を放射することができるものである。
【0028】
さらに、本発明によれば、前記誘電体層を設けることにより、前記EBG反射板から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制するため、装置のアンテナ搭載エリアに金属部分が存在してもアンテナを装置に接触させて搭載することができ、アンテナ搭載に課される制限を排除することができるばかりでなく、アンテナの実効高さ寸法を低く抑えて小形化を実現することができる。
さらに、小形化構造を維持して前記EBG反射板から後方へ漏洩する漏洩電磁波を抑制することができ、前方向でのアンテナの利得低下のおそれがなく、安定した通信を実現することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係るアンテナを示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るアンテナを底面側から見た斜視図である。
【
図3】
図1のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るEBG反射板を示す平面図である。
【
図5】本発明の実施形態におけるアンテナ素子とEBG反射板の関係を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るアンテナにおける一例の誘電体層を示す斜視図である。
【
図7】(a)(b)は本発明の実施形態に係るアンテナの仰角面内放射パターンをシミュレーションした結果を示す特性図である。
【
図8】(a)(b)は比較のため誘電体層を有しないアンテナの仰角面内放射パターンをシミュレーションした結果を示す特性図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るアンテナと比較のためのアンテナのVSWR及び前方向における利得の周波数応答をシミュレーションした結果を示す特性図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るアンテナにおける他の例の誘電体層を示す断面図である。
【
図11】本発明の実施形態に係るアンテナにおける他の例の誘電体層を示す斜視図である。
【
図12】(a)(b)(c)(d)は本発明に係るアンテナを誘電体基板毎に分解し製造方法の製造過程における誘電体基板の状態を示す斜視図である。
【
図13】
図12に示す本発明の実施形態に係るアンテナへの給電構造の製造方法により製造したアンテナを示す斜視図である。
【
図14】(a)は
図13に示す本発明の実施形態に係るアンテナの内部構造を示す断面図、(b)はシミュレーションした放射パターンを示す特性図である。
【
図15】(a)は、本発明の実施形態に係るアンテナを金属板上に設置した状態を示す平面図、(b)はシミュレーションした放射パターンを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。
【0031】
一般に小さな反射板を有するアンテナは前後双方向(±z方向)の電磁界を放射するが、その双方向放射は反射板の反射面積の増加に伴い単方向放射へと変化する。そのため、反射板面積の増加はアンテナ体積の増加を意味する。すなわち、EBG反射板の反射面積とアンテナ素子後方への放射量は反比例の関係にある。
本発明はアンテナの小形化構造を実現するため、メタマテリアル技術を応用したEBG反射板を設けることにより、EBG反射板を設けない場合と比較して反射面積を縮小して小形化を実現し、さらにEBG反射板から後方へ放射する漏洩電磁波を抑制することにより、小さな反射面積を有しながら単方向に電磁界を放射させることを実現している。
【0032】
EBG反射板の反射面積とアンテナ素子後方への放射量は反比例の関係にあるから、EBG反射板を採用することによりアンテナの小形化を実現できるが、その反面、EBG反射板の反射面積がEBG反射板を設けない場合と比較して縮小されているから、EBG反射板から後方への漏洩電磁波の放射量が増加する。
従って、特許文献2に示すアンテナ素子の放射面積よりEBG反射板の反射面積を小さく設定するというメタマテリアル技術を採用すると、上述した反比例の関係から単方向への電磁波の放射を抑制することは不可能であり、縮小した反射面積分だけ漏洩電磁波の後方への放射を増加させてしまうことになる。
【0033】
そこで、本発明は、EBG反射板の後方へ誘電体層を設け、その誘電体層でEBG反射板から後方へ放射する漏洩電磁波を抑制することにより、小さな反射面積を有しながら単方向に電磁界を放射させる、すなわち漏洩電磁波の後方への放射を抑制して小さな反射面積を有しながら単方向に電磁界を放射させることを実現している。
【0034】
本発明によれば、前記誘電体層を設けることにより、前記EBG反射板から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制するため、装置のアンテナ搭載エリアに金属部分が存在してもアンテナを金属部分に接触させて搭載することができ、アンテナ搭載に課される制限を排除することができるばかりでなく、アンテナの実行高さ寸法を低く抑えて小形化を実現することができ、前記EBG反射板から後方へ漏洩する漏洩電磁波を抑制することができ、前方向でのアンテナの利得を増加させることができるものである。
【0035】
具体的に説明すると、本発明の実施形態に係るアンテナは
図1及び
図3に示すように、小形構造を有するアンテナであって、前後双方向に電磁界を放射するアンテナ素子1と、アンテナ素子1の後方への放射を前方へ反射するEBG反射板2と、EBG反射板2から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制する誘電体層4と、を有している。
【0036】
以下の説明では、アンテナ素子1にパッチ状平面による低姿勢構造の逆Fアンテナ素子を用いており、アンテナ素子1を逆Fアンテナ素子1として表記することにする。
【0037】
本発明の実施形態に係るアンテナは
図1、
図2及び
図3に示すように、最上層に逆Fアンテナ素子1を配置し、その下層にEBG反射板2を配置し、さらにその下層に誘電体層4を配置した3層構造として構築している。
【0038】
図1、
図2及び
図3に示すように、逆Fアンテナ素子1のパッチ状放射面1aは誘電体基板5の上面に形成し、誘電体基板5の下面にEBG反射板2を配置している。さらに
図1、
図2及び
図3に示すように、誘電体基板5の下層に誘電体基板6を配置し、誘電体基板6の下面にグランド3を形成している。
【0039】
本発明の実施形態に係る逆Fアンテナ素子1を更に詳細に説明すると、逆Fアンテナ素子1は
図1、
図3及び
図5に示すように、誘電体基板5の上面に形成したパッチ状放射面1aと、誘電体基板5を上下に貫通して上端でパッチ状放射面1aに接続した給電部1bと、誘電体基板5を上下に貫通して上端でパッチ状放射面1aに接続すると共に下端でグランド3に接続したマッチング調節用接地部1cから構成されている。逆Fアンテナ素子1の給電線1bに後述の同軸ケーブル12の内部導線12aを接続し、且つマッチング調節用接地部1cに後述の同軸ケーブル12の外部導線12bに接続することにより、逆Fアンテナ素子1に送信用データを伝送し、逆Fアンテナ素子1で受信した受信データを同軸ケーブル12を介して外部に取り出すように構成されている。
【0040】
誘電体基板5は厚さB、比誘電率εrの特性を有しており、使用周波数が5.15GHzの場合、厚さBを1.6mm、比誘電率εrを2.33に設定する。ただし、使用周波数は5.15GHzに限定されるものではなく、同様に、厚さB=1.6mm、比誘電率εr=2.33に限定されるものではない。
誘電体基板6は厚さB、比誘電率εrの特性を有しており、使用周波数が5.15GHzの場合、厚さBを1.6mm、比誘電率ε2を2.6に設定する。ただし、使用周波数は5.15GHzに限定されるものではなく、同様に、厚さB=1.6mm、比誘電率εr=2.33に限定されるものではない。使用周波数の波長をλとすると、厚さ1.6mmは約1/36.4λとなる。
【0041】
以上の寸法関係から明らかなように、誘電体基板5及び6の厚さBは使用周波数の波長λに関係つけられており、誘電体基板5,6の厚さは使用周波数の波長λの約1/4λ以下に設定することが望ましいものであり、使用(設計)周波数の波長をλとした場合、小型化を実現するには、1/10λ以下にすることが特に望ましいものである。
【0042】
上述したように、誘電体基板5の厚さBは1/4λ以下に設定されているから、アンテナ素子1の放射面1aがEBG反射板2の反射面2aに接近して配置されることになり、アンテナ素子1の放射面1aがEBG反射板2の反射面2aの間の距離は1/4λ以下に設定されている。
【0043】
逆Fアンテナ1の給電部1b及び接地部1cは
図5に示すように、EBG反射基板2(後述の反射素子2b)から絶縁して誘電体基板6を上下に貫通している。
【0044】
図1に示す実施形態では、アンテナ素子1として逆Fアンテナ素子を用いたが、これに限られるものではなく、直線状放射型のアンテナ素子、直線偏波あるいは円偏波の電磁波を放射するアンテナであってもよく、逆Fアンテナに限られるものではなく、要は前後双方向に電磁波を放射する構成であれば、いずれのものであっても良いものである。
【0045】
EBG反射板2を具体的に説明する。EBG反射板2は逆Fアンテナ素子1から後方への放射電磁波を前方(+z方向)に反射させる反射面2aを形成する反射素子2bと、誘電体基板6を上下に貫通して反射面2aとグランド3を接続しているビア2cを有している。
【0046】
反射面2aを形成する反射素子2bは
図1、
図3及び
図4に示すように、誘電体基板6の上面に周期的に配列して相互間を電気的に絶縁して6個形成してある。複数の反射素子2bは誘電体基板6に上下方向に貫通させて形成したビア2cによりグランド3に並列に接続されており、反射素子2b及びビア2c並びにグランド3がマッシュルーム形素子を構成している。
【0047】
周期的に配列したマッシュルーム形素子は人工的な磁気壁を形成することになり、この人工的な磁気壁は逆Fアンテナ素子1から後方へ放射される電磁波を前方へ反射させるEBG反射板2を形成している。
【0048】
本発明の実施形態においては、EBG反射板2を採用することにより、EBG反射板2を設けない場合と比較してアンテナ素子1から後方へ放射される放射電磁波を前方向(+z方向)に反射させる反射面2aの面積を縮小させている。EBG反射板2を設けた分だけEBG反射板2の反射面2aの面積を縮小させているが、EBG反射板2の反射面2aの面積とアンテナ素子1の放射面1aから後方への放射量が反比例の関係にあるから、アンテナ素子1の放射面1aから後方への放射量を可及的速やかに減少させるため、EBG反射板2の反射面2aの面積S1をアンテナ素子1の放射面1aの面積S2より広く設定している。
【0049】
図に示す実施形態ではEBG反射板2の反射素子2bを誘電体基板6上に6個に形成しているが、EBG反射板2の反射素子2bの設置個数は6個に形成されるものではなく、また図に示すEBG反射基板2の反射素子2bは正方形に成形したが、これに限られるものではなく、長方形あるいは多角形等に成形してもよく、図に示す形状に限られるものではない。複数のEBG反射板2の反射素子2bは
図4に示すように、相互間を絶縁して誘電体基板6の上面に形成している。
【0050】
本発明の実施形態は、EBG反射板2に対峙させて金属面4aを有する誘電体層4を有しており、EBG反射板2から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制することにより、アンテナ素子1の前方向(+z方向)でのアンテナの利得増加を実現させている。
【0051】
誘電体層4の構造を詳細に説明する。誘電体層4は
図1、
図2、
図3及び
図6に示すように、EBG反射板2のグランド3に対峙させた金属面4aを形成する平坦な金属板7を有しており、この金属板7により平面構造の金属面4aを形成している。
図3に示すように、金属板7の最小寸法はグランド3の寸法とほぼ同一寸法に設定している。これらの寸法設定はアンテナのインピーダンスを安定化させるものであり、そのインピーダンスが安定する範囲内では、金属板7の寸法をグランド3の寸法より拡大させても良いものである。
【0052】
【0053】
図3、
図6に示す実施形態に係る誘電体層4は、誘電体基板9の上面にグランド3を形成し、その下面に平坦な金属板7を形成することにより、EBG反射板2のグランド3と金属板7の間に誘電体である誘電体基板9を有し、EBG反射板2から漏洩する漏洩電磁波を捕捉して減衰させる構造を構築している。
誘電体基板9は厚さB、比誘電率εrの特性を有しており、使用周波数が5.15GHzの場合、厚さBを1.6mm、比誘電率εrを2.33に設定する。ただし、使用周波数は5.15GHzに限定されるものではなく、同様に、厚さB=1.6mm、比誘電率εr=2.33に限定されるものではない。
また、金属板7はグランド3に対峙する端面が平坦面であればよく、反対面に凹凸等が存在する場合であっても良いものである。設計(使用)周波数の波長をλとすると、厚さ1.6mmは約1/36.4λとなる。
【0054】
以上の寸法関係から明らかなように、誘電体基板9の厚さBは使用周波数の波長λに関係つけられており、誘電体基板9の厚さは使用周波数の波長λの約1/4λ以下に設定することが望ましいものであり、使用(設計)周波数の波長をλとした場合、小型化を実現するには、1/10λ以下にすることが特に望ましいものである。
【0055】
上述したように、誘電体基板9の厚さBは1/4λ以下に設定され、その誘電体基板9を挟んでグランド3及び金属板7が形成されているから、誘電体層4の厚さ寸法が約1/4λ以下に設定されることになる。
【0056】
図10及び
図11に示す実施形態に係る誘電体層4は、誘電体基板9の下面に形成した平坦な金属板7からなる平面構造の金属面4aと、金属板7の周縁をグランド3側に立ち上げた側壁10からなる金属面4bの組合せからなるキャビティ構造11を構成している。
【0057】
図10及び
図11に示す実施形態に係る誘電体層4は、グランド3側に側壁10を立ち上げて両者間に隙間dを確保し、誘電体基板9の比誘電率εと隙間dの関係に基づいてEBG反射板2から漏洩した電磁波を捕捉して抑制している。キャビティ構造11内はエネルギー密度が高く、金属板7及び側壁10並びにグランド3の表面を漏洩電磁波が流れることによるジュール損失と電界による誘電体内の誘電体損失による熱損失等が大きくなり、EBG反射板2から漏洩する漏洩電磁波のエネルギーが熱に変換されて減衰される。
【0058】
図3及び
図6に示す実施形態に係る誘電体層4による漏洩電磁波の抑制効果をシミュレーションした結果に基づいて説明する。
【0059】
図3に示すように、逆アンテナ素子1の給電部1bから励振させている。その励振周波数を5.15GHzに設定し、誘電体基板5の厚さBを1.6mm、比誘電率εrを2.33に設定し、誘電体基板6の厚さBを1.6mm、比誘電率εrを2.6に設定している。さらに、誘電体基板9の厚さBを誘電体基板5及び誘電体基板6の厚さと同一に設定している。
【0060】
図7(a)(b)は、本発明の実施形態に係るアンテナの仰角面内放射パターンをシミュレーションした結果を示す特性を示している。
図8(a)(b)は、比較のため誘電体層4を装備していないアンテナの仰角面内放射パターンをシミュレーションした結果を示している。
【0061】
図7(a)に示す実線が本発明の実施形態に係るアンテナにおける電界のθ方向成分Eθを、
図7(b)に示す点線が本発明の実施形態に係るアンテナにおける電界のφ方向成分Eφを表している。
【0062】
図8(a)に示す実線が比較用のアンテナにおける電界のθ方向成分Eθを、
図8(b)に示す点線が比較用の従来のアンテナにおける電界のφ方向成分Eφを表している。
【0063】
図7に示すように、本発明の実施形態の誘電体層4を追加装備したアンテナの仰角面内放射パターンから明らかなように、EBG構造体から後方(-z方向)への放射が抑制されていることがわかる。
【0064】
さらに、アンテナ素子1の前方向(+z方向)での利得が約2.2dB増加しており、使用周波数5.15GHzにおける利得が約5.9dBiであった。利得の3dB降下周波数比帯域幅は約20%であった。
【0065】
図9のP1は本発明の実施形態に係るアンテナにおける電圧定在波比(VSWR)の周波数応答を示しており、
図9のP2は比較用のアンテナにおける電圧定在波比(VSWR)の周波数応答を示している。
【0066】
アンテナにおいては電圧定在波(VSWR)が2以下であることが要求される。本発明の実施形態に係るアンテナは
図9から明らかなように、設計周波数5.15GHz周辺において、VSWRは2以下である。さらに、本発明の実施形態では
図9から明らかなように、VSWRが2以下となる周波数比帯域幅を約7%である。
【0067】
次に、本発明に係るアンテナにおけるアンテナ素子1への給電構造を
図13及び
図14に基づいて説明する。
【0068】
図13及び
図14(a)に示すように、同軸ケーブル12によりアンテナ素子1への給電を実施している。
図13に示すように、同軸ケーブル12はEBG反射板2のグランド3に沿わせて配置し、同軸ケーブル12の内部導線12aをアンテナ素子1の給電部1bに接続し、且つ同軸ケーブル12の外部導線12bをEBG反射板2のグランド3に接続している。
【0069】
同軸ケーブル12は、EBG反射板2のグランド3に沿わせて誘電体基板6及び誘電体基板9の合せ面から外部に導出させている。同軸ケーブル12の導出方向Hは
図13に示すように図示した方向に特定されるものではない。
【0070】
次に、本発明に係るアンテナの製造方法を
図12に基づいて説明する。
図12(a)(b)(c)(d)はアンテナの製造方法の製造過程における分解した誘電体基板の状態を図示している。
図12(a)はアンテナ素子1を形成する誘電体基板5を斜め方向から見た状態を図示している。
図12(b)はEBG反射板2及びグランド3を形成する誘電体基板6を斜め方向から見た状態を図示している。
図12(c)は
図12(b)の誘電体基板6を回転軸xの周りにグランド3が上向きになる姿勢に回転させて斜め方向から見た状態を図示している。
図12(d)は誘電体層4を形成する誘電体基板9を斜め方向から見た状態を図示している。
【0071】
図12(a)に示すように、第1の誘電体基板を芯材に使用して前後双方向に電磁界を放射するアンテナ素子1を形成する組立ステップを実施する。具体的に説明すると、
図12(a)に示すように、第1の誘電体基板としての誘電体基板5の上面に逆Fアンテナ素子1のパッチ状放射面1aを形成する。一例としてエッチング処理によりパッチ状放射面1aを誘電体基板5の上面に形成する。
【0072】
その後、誘電体基板5のパッチ状放射面1a内に
図12(b)に示す誘電体基板6に達するスルーホールT1,T2を開口する。1つのスルーホールT1は逆Fアンテナ素子1の給電部1bを形成するためのものであり、残りのスルーホールT2は逆Fアンテナ素子1のマッチング調節用接地部1cを形成するためのものである。
【0073】
図12(b)(c)に示すように、第2の誘電体基板を芯材に使用してアンテナ素子1の後方への放射を前方へ反射するEBG反射板2を形成する組立ステップを実施する。具体的に説明すると、
図12(b)に示すように、第2の誘電体基板としての誘電体基板6の上面にEBG反射板2の反射面2aを構成する6個の反射素子2bを形成する。6個の反射素子2bの相互間を絶縁している。一例として、エッチング処理により6個の反射素子2bを誘電体基板6の上面に形成する。また、エッチング処理により隣接する反射素子2b間を切り離して絶縁している。また、エッチング処理により誘電体基板5のスルーホールT1,T2に対応する部位にスペース17を隣接する反射素子2bから切り離して形成する。
【0074】
図12(c)に示すように、誘電体基板6の反射素子2bを形成する面と反対側の面にグランド3を全面に形成する。
【0075】
図12(b)に示すように、反射素子2bを形成した後、或いは反射素子2bを形成する際、各々の反射素子2b内に
図12(b)(c)に示すように誘電体基板6を上下に貫通するスルーホールT3を開口し、
図12(b)に示すスペース17内に
図12(a)に示す誘電体基板5のスルーホールT1,T2に連通させてスルーホールT4,T5を誘電体基板6の上下に貫通させて開口する。
【0076】
図12(c)に示すように、誘電体基板6の反射素子2bを形成した面と反対側の面上にグランド3を全面に形成する。
図12(c)に示すように、グランド3を形成する際、誘電体基板6のスルーホールT4の部位にスペース18を形成し、誘電体基板6のスルーホールT4の開口部位をグランド3から切り離して絶縁している。
図12(c)に示すように、グランド3を形成する際、スルーホールT5の開口端がグランド3に接続した状態でスルーホール5を誘電体基板6に形成する。
【0077】
図12(b)(c)に示すように、誘電体基板6のスルーホールT3内に金メッキを充填させて誘電体基板6にビア2cを形成し、誘電体基板6の複数の反射素子2bをグランド3にビア2cで並列に接続する。ここに、
図12(b)(c)に示す誘電体基板6の反射素子2b,ビア2c及びグランド3がマッシュルーム形素子のEBG反射板2を構成している。
【0078】
図12(a)に示す誘電体基板5のスルーホールT1,T2及び
図12(b)に示す誘電体基板6のスルーホールT4,T5内に金メッキを充填させて誘電体基板5及び6に
図3に示す給電部1b及びマッチング調節用接地部1cを形成する。スペース17が誘電体基板6に確保してあるため、給電部1b及びマッチング調節用接地部1cは反射素子2bから絶縁している。スペース18が誘電体基板6に確保されているため、給電部1bは誘電体基板6のグランド3から絶縁している。スルーホールT5の開口端がグランド3に接続しているため、マッチング調節用接地部1cがグランド3に接続した状態で形成する。
【0079】
従って、給電部1bは
図3及び
図13に示すように、上端が
図12(a)に示すパッチ状放射面1aに接続しており、下端がグランド3から絶縁している。マッチング調節用接地部1cは
図3及び
図13に示すように、上端が
図12(b)に示す反射素子2bに接続し、下端がグランド3に接続している。
ここに、パッチ状放射面1a,給電部1b及びマッチング調節用接地部1cがアンテナ素子1を構成している。
図13に示すアンテナ素子1は逆Fアンテナ素子を使用しているが、アンテナ素子1は前後方向に電磁波を放射する構成であれば逆Fアンテナ素子以外のアンテナ素子を用いても良いものである。
【0080】
図12(d)に示すように、第3の誘電体基板を芯材に使用してEBG反射板2から後方へ漏洩する電磁波を捕捉して抑制する誘電体層4を形成する組立ステップを実施する。具体的に説明すると、
図12(d)に示すように、第3の誘電体基板としての誘電体基板9の一面に金属面4aを全面に形成する。
図12(d)の実施形態では、誘電体基板9の金属面4aを金属板7により構成している。金属板7は誘電体基板9に金メッキをする或いは金属箔を張り付ける等により形成する。
【0081】
以上の組立ステップを経たのち、アンテナ素子1とEBG反射板2と誘電体層4を三層構造に積層する組立ステップを実施する。具体的に説明すると、
図12(d)に示すように金属板7を下面側に位置させて誘電体基板9上に、
図12(b)に示すように反射素子2bを上面側に位置させて誘電体基板6に積層する。
積層の際、誘電体基板6のスルーホールT3内の金メッキと誘電体基板9のグランド3が接続するように位置決めして誘電体基板6と誘電体基板9を積層させて両者間を接合する。
積層の際、誘電体基板5のスルーホールT1,T2の金メッキと誘電体基板6のスルーホールT4,T5内の金メッキを位置決めして誘電体基板5と誘電体基板6を接合する。
三層構造に積層した際、誘電体基板6のスルーホールT5内の金メッキが誘電体基板6のグランド3に接続し、誘電体基板6のスルーホールT4内の金メッキがスペース18によりグランド3から切り離して位置することになる。
【0082】
なお、図示した実施形態では、スルーホールT1,T2,T3,T4,T5を誘電体基板5,6,9毎に形成したが、これに限られるものではなく、誘電体基板5,6,9を積層した段階でこれらの誘電体基板5,6,9を渡って連続して形成し、それらのスルーホールT1,T2,T3,T4,T5に連続して金メッキを充填するようにしても良いものである。
図示した実施形態では、誘電体基板5にアンテナ素子1を複数形成し、誘電体基板6にEBG反射板2を誘電体基板5のアンテナ素子1に対応させて複数形成し、誘電体基板5,6,9を積層した状態でアンテナ素子1を単位として個々に分離してアンテナを構築するようにしても良いものである。
組立ステップを記述した順番で行う必要はなく、誘電体基板5にアンテナ素子1を形成する組立ステップと、誘電体基板6にEBG反射板2を形成する組立ステップと、誘電体基板9に誘電体層4を形成する組立ステップとを製造効率を考慮して順次変更して実施することは可能である。
【0083】
次に、アンテナ素子1に同軸ケーブル12を接続する構造の製造過程における誘電体基板の状態を
図12(a)(b)(c)に基づいて説明する。
【0084】
図12(a)(b)(c)に示すように、アンテナ素子1の給電部1a及びマッチング調節用接地部1bをEBG反射板2のグランド3に向けて形成する組立ステップを実施する。具体的には記述したように
図12(a)に示す誘電体基板5及び
図12(b)に示す誘電体基板6のスルーホールT1,T2,T4,T5を形成し、そのスルーホールT1,T2,T4,T5内に金メッキを充填し、アンテナ素子1のパッチ状放射面1aに接続した給電部1b及びマッチング調節用接地部1cを
図12(d)に示す誘電体基板9のグランド3に向けて形成する。
【0085】
図12(b)に示すように、誘電体基板6の反射素子2bと反対側の面に同軸ケーブル12を受け入れる座繰り14を形成し、アンテナ素子1の給電部1bに達する座繰り13を座繰り14に連通させて誘電体基板6に形成する。
図12(c)に示すように、誘電体基板9のグランド3を形成した面に同軸ケーブル12を受け入れる座繰り14を形成し、アンテナ素子1の給電部1bを受け入れる座繰り13を座繰り14に連通させて誘電体基板6に形成する。
図12(d)に示すように、誘電体基板9の座繰り13の端部を誘電体基板9のスペース18内に開口し、座繰り14内にパーツ15をグランド3に接続して装着する。
【0086】
図13に示すように、誘電体基板6の座繰り14と誘電体基板9の座繰り14で同軸ケーブル12を挟んで支持するとともに、同軸ケーブル12を誘電体基板9のグランド3に沿って外部に導出する。
図12(b)に示す誘電体基板6の座繰り13及び
図12(c)に示す誘電体基板9の座繰り13内に同軸ケーブル12の内部導線12aを受け入れ、誘電体基板9の座繰り13が開口したスペース18内で同軸ケーブル12の内部導線12aをアンテナ素子1の給電部1bに接続する。
図12(d)に示すように、誘電体基板9のパーツ15に同軸ケーブル12の外部導線12bを接続し、同軸ケーブル12の外部導線12bをパーツ15でグランド3に接続する。同軸ケーブル12の外部導線12bをパーツ15でグランド3に接続した際、パーツ15と外部導体12bの半田付け箇所を誘電体基板9に形成した逃げ部19内に収めることにより、誘電体基板6と誘電体基板9を密着させる。
【0087】
実施形態では、パーツ15を介して同軸ケーブル12を取り付ける構造を図示したが、パーツ15の誘電体基板6への食い込み量を制御することによりパーツ15による影響を抑制することが望ましいものである。また、パーツ15を用いる接続構造に限られるものではなく、点付け接合あるいは圧着接合等により同軸ケーブルとアンテナ素子を接合するようにしても良いものである。
【0088】
以上の製造過程を経て
図13に示すアンテナが完成する。
【0089】
図12及び
図13に示す実施形態では、座繰り13,14を誘電体基板6及び誘電体基板9の双方に形成したが、これに限られるものではなく、
図12(b)に示す誘電体基板6と
図12(c)に示す誘電体基板9の対面する端面の少なくとも一方の端面に、同軸ケーブル12を受け入れて誘電体基板5,6外に導出する座繰り14、及び同軸ケーブル12とアンテナ素子1を結合する座繰り13を形成しても良いものである。
【0090】
図12及び
図13に示す製造過程を経て
図14(a)に示すアンテナが完成する。
図14(a)に示すアンテナの放射パターンをシミュレーションした結果を
図14(b)に示す。
図14(a)と
図7(a)に示す特性を比較すると明らかなように、
図14(a)に示す同軸ケーブル12を用いた給電構造でアンテナ素子1に給電を実施しても、実用可能な範囲の放射パターンを得ており、
図14(a)に示す給電構造を採用することによる課題を生じることはないものである。
【0091】
図14(a)に示す同軸ケーブル12による給電構造を採用した本発明の実施形態に係るアンテナを
図15(a)に示すように外部の金属板16に直に搭載した場合をシミュレーションした結果を
図15(b)に示す。
図15(a)と
図7(a)に示す特性を比較すると明らかなように、
図15(a)に示す同軸ケーブルを用いた給電構造を装備したアンテナ素子1を外部の金属板(金属装置)に直に搭載しても、実用可能な範囲の放射パターンを得ており、
図15(a)に示す給電構造を採用することによる課題を生じることはないものである。
【0092】
代表的なLPWA(Low Power Wide Area:商標)システムに見られるように、金属装置に直接取り付ける場合や、近傍に金属部品や水などがある場所に設置することができ、常に安定したアンテナの設置を実現できることになる。
【0093】
以上のシミュレーションした結果から、本発明の実施形態の誘電体層4を追加装備することにより、後方(-z方向)への放射を抑制することができ、前方向(+z方向)の利得を約2.2dB増加することが分かった。
【0094】
以上の結果は
図10及び
図11に示す本発明の実施形態の誘電体層4を追加装備したアンテナにおいても同様の傾向を示している。
【0095】
以上のように、本発明の実施形態によれば、EBG構造体から漏洩するする漏洩電磁波が誘電体層により捕捉して抑制することにより、EBG構造体からの漏洩電磁波が減衰されることにより、アンテナ素子から前方に放射される電磁波に影響を与えることはなく、且つ所望の放射パターンを確保することができ、アンテナ素子の利得低下のおそれがなく、安定した通信を実現することができるものである。
【0096】
さらに、アンテナ素子とEBG反射板の間隔、EBG反射板とグランドの間隔及びグランドと金属板の間隔を1/4λ(λ:使用周波数の波長)以下に設定することにより、アンテナ素子と誘電体層の金属面の間隔を狭くすることができ、アンテナの低姿勢化に寄与することができる。
【0097】
さらに、本発明の実施形態は、EBG構造体から漏洩する漏洩電磁波を誘電体層で抑止している。
近年普及が拡大中のIoT/M2Mにおける無線端末の設置条件は、代表的なLPWA(Low Power Wide Area:商標)システムに見られるように、金属装置に直接取り付ける場合や、近傍に金属部品や水などがある場所に設置するなどが要求されるが、本発明の実施形態では、誘電体層の金属板を金属装置に接近させて搭載させる、或いは誘電体層の金属板を金属装置に接触させて搭載しても、漏洩電磁波によるアンテナの利得への影響が抑制することができ、電波の送受信環境に左右されることがなく設置することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明によれば、低姿勢化の設置条件を満たすことができるばかりでなく、近年普及が拡大しているIoT/M2Mにおける無線端末の設置条件を大幅に緩和することができるという利点を有している。
【符号の説明】
【0099】
1 アンテナ素子
1a パッチ状放射面
1b 給電部
1c マッチング調節用接地部
2 EBG反射板
2a EBG反射板の反射面
3 グランド
4 誘電体層
4a 金属面
5,6,9 誘電体基板
7 金属板
10 側壁
11 キャビティ構造