(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106960
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】半導体装置、モータ駆動システム、及び制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/20 20160101AFI20230726BHJP
H02P 6/185 20160101ALI20230726BHJP
【FI】
H02P6/20
H02P6/185
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008009
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 稔
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 聡
(72)【発明者】
【氏名】大槻 武志
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560AA07
5H560BB04
5H560BB07
5H560BB17
5H560DA14
5H560DC12
5H560EB01
5H560HA02
5H560SS01
5H560TT15
5H560UA05
(57)【要約】
【課題】より高トルクでモータを駆動することが可能な半導体装置、モータ駆動システム、及び制御方法を提供する。
【解決手段】半導体装置10は、駆動回路20の駆動によって3相モータ30に流れる電流を検出する電流検出回路11と、検出された電流に基づいて、駆動回路20を制御するコントローラ12とを備える。コントローラ12は、3相モータ30の静止時において、駆動回路20から3相モータ30の各相に検波電流を順次流すよう通電パターンを制御し、電流検出回路11により検出された検波電流から、第1相間、第2相間及び第3相間ごとに互いに逆方向に流れる検波電流の差である第1相間電流差、第2相間電流差、第3相間電流差を求め、第1相間電流差、第2相間電流差及び第3相間電流差の間の大小関係に基づいて、3相モータ30を初期駆動する際の通電パターンを決定するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相モータを駆動する駆動回路を制御するための半導体装置であって、
前記駆動回路の駆動によって前記3相モータに流れる電流を検出する電流検出回路と、
前記検出された電流に基づいて、前記駆動回路を制御するコントローラとを備え、
前記3相モータは第1相、第2相、及び第3相を有し、
前記コントローラは、
前記3相モータの静止時において、前記第1相と前記第2相との間の第1相間、前記第2相と前記第3相との間の第2相間、及び、前記第3相と前記第1相との間の第3相間に、前記駆動回路から検波電流を順次流すよう通電パターンを制御し、
前記電流検出回路により検出された前記検波電流から、前記第1相間、前記第2相間及び前記第3相間ごとに互いに逆方向に流れる検波電流の差である第1相間電流差、第2相間電流差、第3相間電流差を求め、
前記第1相間電流差、前記第2相間電流差及び前記第3相間電流差の間の大小関係に基づいて、前記3相モータを初期駆動する際の前記通電パターンを決定するように構成される、
半導体装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記3相モータの静止時において、第1通電パターンにより前記第1相から前記第2相へ第1電流を流し、第2通電パターンにより前記第1相から前記第3相へ第2電流を流し、第3通電パターンにより前記第2相から前記第3相へ第3電流を流し、第4通電パターンにより前記第2相から前記第1相へ第4電流を流し、第5通電パターンにより前記第3相から前記第1相へ第5電流を流し、第6通電パターンにより前記第3相から前記第2相へ第6電流を流すよう前記駆動回路を制御し、
前記電流検出回路は、前記第1電流乃至第6電流を検出し、
前記第1相間電流差は前記第1電流と前記第4電流との差であり、前記第2相間電流差は前記第2電流と前記第5電流と差であり、前記第3相間電流差は前記第3電流と前記第6電流との差である、
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記第1相間電流差、第2相間電流差及び第3相間電流差の間の大小関係に基づいて、前記3相モータの回転子の位置を検出し、
前記検出した回転子の位置を基本として前記初期駆動する際の前記通電パターンを決定するように構成される、
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記第1相間電流差、第2相間電流差及び第3相間電流差のうち最も大きい相間電流差に基づいて、前記回転子の位置を検出するように構成される、
請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記コントローラは、前記最も大きい相間電流差の算出元となる2つの電流の大小関係に基づいて、前記回転子の位置を検出するように構成される、
請求項4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記第1相間電流差、第2相間電流差及び第3相間電流差の間の大小関係に基づいて、前記基本とした位置に対し加算する加算パラメータを決定し、
前記加算パラメータの加算結果に基づいて、前記初期駆動する際の前記通電パターンを決定する、
請求項3に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記コントローラは、前記第1相間電流差、第2相間電流差及び第3相間電流差のうち最も大きい相間電流差以外の2つの相間電流差の大小関係に基づいて、前記加算パラメータを決定する、
請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記加算パラメータは、前記3相モータの電気角に対応している、
請求項6に記載の半導体装置。
【請求項9】
第1相、第2相、及び第3相を有する3相モータと、
前記3相モータを駆動する駆動回路と、
前記駆動回路を制御するための半導体装置とを備え、
前記半導体装置は、
前記駆動回路の駆動によって前記3相モータに流れる電流を検出する電流検出回路と、
前記検出された電流に基づいて、前記駆動回路を制御するコントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記3相モータの静止時において、前記第1相と前記第2相との間の第1相間、前記第2相と前記第3相との間の第2相間、及び、前記第3相と前記第1相との間の第3相間に、前記駆動回路から検波電流を順次流すよう通電パターンを制御し、
前記電流検出回路により検出された前記検波電流から、前記第1相間、前記第2相間及び前記第3相間ごとに互いに逆方向に流れる検波電流の差である第1相間電流差、第2相間電流差、第3相間電流差を求め、
前記第1相間電流差、前記第2相間電流差及び前記第3相間電流差の間の大小関係に基づいて、前記3相モータを初期駆動する際の前記通電パターンを決定するように構成される、
モータ駆動システム。
【請求項10】
第1相、第2相、及び第3相を有する3相モータを駆動する駆動回路を制御するための制御方法であって、
前記3相モータの静止時において、前記第1相と前記第2相との間の第1相間、前記第2相と前記第3相との間の第2相間、及び、前記第3相と前記第1相との間の第3相間に、前記駆動回路から検波電流を順次流すよう通電パターンを制御し、
前記第1相間、前記第2相間、及び前記第3相間に流れる検波電流を検出し、
前記検出された前記検波電流から、前記第1相間、前記第2相間及び前記第3相間ごとに互いに逆方向に流れる検波電流の差である第1相間電流差、第2相間電流差、第3相間電流差を求め、
前記第1相間電流差、前記第2相間電流差及び前記第3相間電流差の間の大小関係に基づいて、前記3相モータを初期駆動する際の前記通電パターンを決定するように構成される、
制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、モータ駆動システム、及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転子(ロータ)の位置を検出するホールセンサを有するセンサ付きモータに対し、小型化やローコスト化の観点からホールセンサの無いセンサレスモータが開発されている。
【0003】
センサレスの3相ブラシレスDC(Direct Current)モータを駆動する駆動システムでは、回転子の回転により非通電相の固定子巻線(ステータコイル)に発生する逆起電圧(BEMF:Back Electromotive Force)を検出することで、固定子巻線に対する回転子の磁極対の相対的位置を推定する。駆動システムは、推定した回転子の位置に基づいて3相の固定子巻線に駆動電流(または駆動電圧)を印加することで、モータを回転駆動する。
【0004】
センサレスモータの場合、モータ静止状態では逆起電圧が発生しないため、逆起電圧から回転子の位置を検出することができない。関連する技術として、例えば、特許文献1には、モータ静止時に回転子の位置を検出する静止位置検出回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ファンのように静止時から低トルクで回転可能な負荷に限らず、パワーツール(電動工具)のように回転を開始するために高トルクが必要な負荷にもモータが利用されている。このため、モータをより高トルクで駆動可能なモータ駆動技術が求められている。
【0007】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態によれば、半導体装置は、駆動回路の駆動によって3相モータに流れる電流を検出し、検出された電流に基づいて駆動回路を制御する。3相モータは第1相、第2相、及び第3相を有する。半導体装置は、3相モータの静止時において、第1相と第2相との間の第1相間、第2相と第3相との間の第2相間、及び、第3相と第1相との間の第3相間に、駆動回路から検波電流を順次流すよう通電パターンを制御する。半導体装置は、検出された検波電流から、第1相間、第2相間及び第3相間ごとに互いに逆方向に流れる検波電流の差である第1相間電流差、第2相間電流差、第3相間電流差を求める。半導体装置は、第1相間電流差、第2相間電流差及び第3相間電流差の間の大小関係に基づいて、3相モータを初期駆動する際の通電パターンを決定する。
【発明の効果】
【0009】
一実施の形態によれば、より高トルクでモータを駆動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る半導体装置の概要を示す構成図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1に係るモータ駆動システムの構成例を示す構成図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの通電パターンを説明するための図である。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの固定子巻線の磁極と回転子の磁極との位置関係を示す模式図である。
【
図4B】
図4Bは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの固定子巻線の磁極と回転子の磁極との位置関係を示す模式図である。
【
図4C】
図4Cは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの固定子巻線の磁極と回転子の磁極との位置関係を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの駆動制御の概要を説明するための電流波形図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの駆動制御の流れを示すフローチャートである。
【
図7A】
図7Aは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータのインダクティブセンス動作の流れを示すフローチャートである。
【
図7B】
図7Bは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータのインダクティブセンス動作の流れを示すフローチャートである。
【
図7C】
図7Cは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータのインダクティブセンス動作の流れを示すフローチャートである。
【
図7D】
図7Dは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータのインダクティブセンス動作の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施の形態1に係るブラシレスDCモータのインダクティブセンス動作の動作例を示す電流波形図である。
【
図9】
図9は、検討例におけるブラシレスDCモータの相間電流差及び電気角と基本通電パターン及び加算パラメータとの関係を示す図である。
【
図10A】
図10Aは、検討例におけるブラシレスDCモータの回転子の検出位置に対する通電パターンと発生するトルクの関係を示すグラフである。
【
図10B】
図10Bは、検討例におけるブラシレスDCモータの回転子の検出位置に対する通電パターンと発生するトルクの関係を示すグラフである。
【
図11A】
図11Aは、検討例におけるブラシレスDCモータの回転子の検出位置に対する通電パターンと発生するトルクの関係を示すグラフである。
【
図11B】
図11Bは、検討例におけるブラシレスDCモータの回転子の検出位置に対する通電パターンと発生するトルクの関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの相間電流差及び電気角と基本通電パターン及び加算パラメータとの関係を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの回転子の検出位置に対する通電パターンと発生するトルクの関係を示すグラフである。
【
図13B】
図13Bは、実施の形態1に係るブラシレスDCモータの回転子の検出位置に対する通電パターンと発生するトルクの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。また、様々な処理を行う機能ブロックとして図面に記載される各要素は、ハードウェア的には、CPU、メモリ、その他の回路で構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたプログラムなどによって実現される。したがって、これらの機能ブロックがハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。なお、各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0012】
(実施の形態の概要)
センサレスの3相ブラシレスDCモータを静止している状態から回転させる場合、例えば電気角60°毎に回転子の位置を検出し、トルクを発生させたい方向に電流を流すことで回転子を回転させる。
【0013】
ファンのような負荷が比較的軽いモータ駆動システムでは、静止している回転子を動作させるために大きなトルクを必要としない。このため、検出された回転子の位置からトルクが発生する通電パターン(例えばU相からV相)を単純に求めて初期駆動し、回転速度が上がった後は非通電相に発生している逆起電圧を検出することでモータを定常駆動させることができる。
【0014】
しかし、パワーツールのように静止時から高負荷がかかるモータ駆動システムでは、ホールセンサ付きモータと同等な高トルクを発生させることが困難な場合がある。特にIPM(Interior Permanent Magnet)モータの場合、SPM(Surface Permanent Magnet)モータよりも多くの回転子位置でコギングトルクが発生する。このため、同じモータでトルクを測定した場合、回転子の停止位置によっては、センサレスモータのトルクがセンサ付きモータのトルクに対し劣る場合がある。そこで、実施の形態では、センサレスモータにおいても、センサ付きモータと同等のトルクを得ることを可能とする。
【0015】
図1は、実施の形態に係る半導体装置の概要構成を示している。実施の形態に係る半導体装置10は、3相モータ30を駆動する駆動回路20を制御するための半導体装置である。
図1に示すように、実施の形態に係る半導体装置10は、電流検出回路11とコントローラ12を備えている。3相モータ30は、第1相(例えばU相)、第2相(例えばV相)、及び第3相(例えばW相)を有する。なお、第1相、第2相、第3相は、それぞれU相、V相、W相のいずれに対応していてもよい。
【0016】
電流検出回路11は、駆動回路20の駆動によって3相モータ30に流れる電流を検出する。コントローラ12は、電流検出回路11により検出された電流に基づいて、駆動回路20を制御する。コントローラ12は、3相モータ30の静止時において、第1相と第2相との間の第1相間、第2相と第3相との間の第2相間、及び、第3相と第1相との間の第3相間に、駆動回路20から検波電流を順次流すよう通電パターンを制御する。なお、第1相間、第2相間、第3相間は、それぞれ第1相と第2相との間、第2相と第3相との間、第3相と第1相との間のいずれに対応していてもよい。次に、コントローラ12は、電流検出回路11により検出された検波電流から、第1相間、第2相間及び第3相間ごとに互いに逆方向に流れる検波電流の差である第1相間電流差、第2相間電流差、第3相間電流差を求める。次に、コントローラ12は、第1相間電流差、第2相間電流差及び第3相間電流差の間の大小関係に基づいて、3相モータ30を初期駆動する際の通電パターンを決定する。
【0017】
実施の形態では、このような構成により、モータを初期駆動する際の通電パターンを適切に決定することができるため、モータを静止状態から高トルクで駆動することが可能となる。
【0018】
(実施の形態1)
次に、実施の形態1に係るモータ駆動システムについて説明する。
【0019】
<システム構成>
まず、本実施の形態のシステム構成について説明する。
図2は、本実施の形態に係るモータ駆動システムの構成例を示している。
図2に示すように、本実施の形態に係るモータ駆動システム1は、半導体装置100、インバータ回路200、ブラシレスDCモータ300を備えている。
【0020】
ブラシレスDCモータ300は、センサレスの3相ブラシレスDCモータである。なお、3相モータに限らず任意の数の相を有する多相モータを使用してもよい。ブラシレスDCモータ300は、例えば、パワーツールなどに使用されるIPMモータであるが、SPMモータなどのその他のモータでもよい。
【0021】
ブラシレスDCモータ300は、3相の負荷となる3つの固定子巻線301を有する。具体的には、ブラシレスDCモータ300は、U相の固定子巻線301U、V相の固定子巻線301V、W相の固定子巻線301Wを有する。固定子巻線301U、301V、301WはY結線されており、その結節点を中点302と称する。
【0022】
また、ブラシレスDCモータ300は、固定子巻線301U、301V、301Wと1つ以上の磁極対となる回転子(不図示)を有する。例えば、回転子は、2組の磁極を有する2極対の回転子である。なお、回転子は、2極対に限らずに任意の数の磁極対を有してもよい。インバータ回路200から固定子巻線301U、301V、301Wに所定の通電パターンでモータ電流が与えられることにより、ブラシレスDCモータ300の回転子が回転駆動される。
【0023】
インバータ回路200は、半導体装置100からの制御(通電制御信号)に応じてブラシレスDCモータ300を駆動する駆動回路である。インバータ回路200は、半導体装置100からの制御に応じてブラシレスDCモータ300の通電パターンを切り替えるスイッチング回路であるとも言える。
【0024】
インバータ回路200は、例えば、3相ブリッジ回路である。インバータ回路200は、直列接続されたMOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタの対を3組有する。3つのMOSトランジスタ対が電源電圧VMと接地電圧GNDの間に並列に接続されている。各MOSトランジスタ対がブラシレスDCモータ300の相に対応している。
【0025】
具体的には、インバータ回路200は、U相上アーム用のMOSトランジスタUHと、U相下アーム用のMOSトランジスタULと、V相上アーム用のMOSトランジスタVHと、V相下アーム用のMOSトランジスタVLと、W相上アーム用のMOSトランジスタWHと、W相下アーム用のMOSトランジスタWLとを有する。上アームをハイサイド(High Side)とも称し、下アームをローサイド(Low Side)とも称する。
【0026】
MOSトランジスタUHとMOSトランジスタULとは、この並び順で電源電圧VMを与える第1の電源ノード201と低電位側の接続ノード204との間に直列に接続される。MOSトランジスタUHとMOSトランジスタULとの接続点である出力ノードNUは、U相固定子巻線301Uの一端と接続される。
【0027】
MOSトランジスタVHとMOSトランジスタVLとは、第1の電源ノード201と接続ノード204との間にこの並び順で直列に接続される。MOSトランジスタVHとMO SトランジスタVLとの接続点である出力ノードNVは、V相固定子巻線301Vの一端と接続される。
【0028】
MOSトランジスタWHとMOSトランジスタWLとは、第1の電源ノード201と接続ノード204との間にこの並び順で直列に接続される。MOSトランジスタWHとMOSトランジスタWLとの接続点である出力ノードNWは、W相固定子巻線301Wの一端と接続される。
【0029】
例えば、上アームのMOSトランジスタUH、VH、WHは、PチャネルMOSトランジスタによって構成され、下アームのMOSトランジスタUL、VL、WLは、NチャネルMOSトランジスタによって構成される。なお、これに限らず、上アームのMOSトランジスタUH、VH、WHを、NチャネルMOSトランジスタによって構成し、下アームのMOSトランジスタUL、VL、WLを、PチャネルMOSトランジスタによって構成してもよい。また、全てのMOSトランジスタUH、UL、VH、VL、WH、WLを、NチャネルMOSトランジスタもしくはPチャネルMOSトランジスタのいずれかにより構成してもよい。さらに、インバータ回路200を構成する半導体スイッチング素子として、例えば、パワーMOSFETを使用するが、これに限らず、他の種類の電界効果トランジスタや、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor )等を用いてもよい。
【0030】
また、インバータ回路200は、2相間に流れるモータ電流を検出するためのシャント抵抗203を備える。シャント抵抗203は、接続ノード204と接地電圧GNDを与える第2の電源ノード202との間に接続される。
【0031】
半導体装置100は、インバータ回路200によるブラシレスDCモータ300の駆動動作を制御する半導体装置である。半導体装置100は、BEMF検出回路101、電流検出回路102、MCU(Micro Controller Unit)110を備えている。例えば、半導体装置100は、BEMF検出回路101を搭載した半導体チップ、電流検出回路102を搭載した半導体チップ、MCU110を搭載した半導体チップを含むSiP(System on Chip)により構成される。なお、これに限らずに、半導体装置100は、任意の数の半導体チップにより構成されてもよいし、その他の種類のパッケージにより構成されてもよい。また、BEMF検出回路101、電流検出回路102、MCU110をそれぞれ別の半導体装置(パッケージ)としてもよい。
【0032】
BEMF検出回路101は、ブラシレスDCモータ300における非通電相の固定子巻線に発生する逆起電圧(または相互誘電電圧)を検出するための回路である。具体的には、BEMF検出回路101は、インバータ回路200の出力ノードNU、NV、NWの電圧を検出する。例えば、BEMF検出回路101は、差動増幅器120、スイッチ回路130、仮想中点生成回路140を備えている。なお、ブラシレスDCモータ300に発生する逆起電圧(出力ノードNU、NV、NWの電圧)を検出できれば、その他の構成でもよい。
【0033】
スイッチ回路130は、MCU110からの制御に応じて、検出する電圧の相を選択する。スイッチ回路130は、インバータ回路200の出力ノードNU、NV、NWと接続される。スイッチ回路130は、MCU110から出力された相セレクト信号SLに応じて、出力ノードNU、NV、NWのうちの選択相の出力ノードと検出ノード131とを接続する。
【0034】
仮想中点生成回路140は、ブラシレスDCモータ300の中点302と同じ役割をする電圧を有する仮想中点142を与える。仮想中点生成回路140は、仮想中点142と出力ノードNUとの間に接続された抵抗素子141Uと、仮想中点142と出力ノードNVとの間に接続された抵抗素子141Vと、仮想中点142と出力ノードNWとの間に接続された抵抗素子141Wとを含む。例えば、仮想中点142の電圧を参照電圧Vrefとするが、ブラシレスDC300の中点302の電圧を参照電圧Vrefとしてもよい。
【0035】
差動増幅器120は、選択された相の出力ノードの電圧である検出ノード131の電圧Vdと、ブラシレスDC300の中点302と同等の電圧である仮想中点142の参照電圧Vrefとの差分を増幅する。例えば、差動増幅器120は、演算増幅器(Operational Amplifier)を用いて構成されている。差動増幅器120は、演算増幅器121と、抵抗素子122~125とを含む。なお、その他の構成の差動増幅器を使用してもよい。
【0036】
抵抗素子122は、参照電圧Vrefを供給する仮想中点142(または中点302)と演算増幅器121の+端子(非反転入力端子)との間に接続される。抵抗素子123の一端は演算増幅器121の+端子に接続され、抵抗素子123の他端には電圧素子126により接地電位GNDを基準とするオフセット電圧が与えられる。抵抗素子124は、検出ノード131と演算増幅器121の-端子(反転入力端子)との間に接続される。抵抗素子125は、演算増幅器121の-端子と出力端子との間に接続される。演算増幅器121の出力端子は、MCU110(後述のAD変換器112)の入力端子に接続される
【0037】
電流検出回路102は、ブラシレスDCモータ300の各相間に流れるモータ電流(検波電流と称する場合がある)を検出するための回路である。例えば、電流検出回路102は、シャント抵抗203に生じる電圧を出力することで、モータ電流を検出可能とする回路である。なお、その他の方法によりモータ電流を検出してもよい。
【0038】
例えば、電流検出回路102は、差動増幅器150により構成される。差動増幅器150は、シャント抵抗203の両端(ノード203a及び203b)における電圧の差分を
増幅する。例えば、差動増幅器150は、差動増幅器120と同様に、演算増幅器を用いて構成されている。差動増幅器150は、演算増幅器151と、抵抗素子152~155とを含む。なお、その他の構成の差動増幅器を使用してもよい。
【0039】
抵抗素子152は、シャント抵抗203の接続ノード204側のノード203aと演算増幅器151の+端子との間に接続される。抵抗素子153の一端は演算増幅器151の+端子に接続され、抵抗素子153の他端には電圧素子156により接地電位GNDを基準とするオフセット電圧が与えられる。抵抗素子154は、シャント抵抗203のGND側のノード203bと演算増幅器151の-端子との間に接続される。抵抗素子155は、演算増幅器151の-端子と出力端子との間に接続される。演算増幅器151の出力端子は、MCU110(後述のAD変換器113)の入力端子に接続される
【0040】
MCU110は、BEMF検出回路101により検出される逆起電圧や、電流検出回路102により検出されるモータ電流に基づいて、インバータ回路200の動作を制御するコントローラである。MCU110は、インバータ回路200から各相に印加する通電パターンを制御する制御回路であるとも言える。
【0041】
例えば、MCU110は、メモリ111及びCPU(Central Processing Unit)(不図示)等を含むコンピュータを1つの集積回路に組み込んで構成される。MCU110は、メモリ111に格納されたプログラムを実行することによって本実施の形態に係る種々の機能を実現する。さらに、メモリ111は、MCU110の動作に必要な情報、例えば、電流検出回路102によるモータ電流(検波電流)の検出値等を記憶する。なお、メモリ111をMCU110(または半導体装置100)の外部の記憶装置としてもよい。すなわち、MCU110は、モータ電流の検出値を外部の記憶装置から取得してもよい。
【0042】
MCU110は、さらにAD(Analog to Digital)変換器112、113を含む。AD変換器112は、差動増幅器120の出力をデジタル値に変換する。すなわち、AD変換器112は、BEMF検出回路101による逆起電圧(出力ノードNU、NV、NWの電圧)の検出値を取得する取得回路である。AD変換器113は、差動増幅器150の出力をデジタル値に変換する。すなわち、AD変換器113は、電流検出回路102によるモータ電流(この例ではシャント抵抗の電圧)の検出値を取得する取得回路である。
【0043】
MCU110は、ブラシレスDCモータ300の駆動制御として、AD変換器112が取得した逆起電圧やAD変換器113が取得したモータ電流に基づいて、回転子の位置を推定する。MCU110は、回転子の推定位置に基づいた通電制御信号をインバータ回路200のMOSトランジスタUH,UL,VH,VL,WH,WLのゲートにそれぞれ出力する。また、MCU110は、生成した通電制御信号に基づいて、スイッチ回路130を切り替えるための相セレクト信号SLを生成する。
【0044】
以下、本実施の形態に係るモータ駆動制御の前提となるブラシレスDCモータの動作モード、通電パターン、固定子巻線と回転子の位置関係を説明した上で、モータ駆動制御の動作について説明する。
【0045】
<動作モード>
MCU110は、ブラシレスDCモータ300の3段階の動作モードに応じて、動作モードに対応する検出対象を検出し、検出結果に応じてインバータ回路200によるブラシレスDCモータ300の駆動を制御する。以下に各動作モードについて説明する。
【0046】
[モード1]
モード1は、ブラシレスDCモータ300が始動される前の静止(停止)している時(始動時)の動作モードである。モード1では、モータ電流I(モード1のモータ電流を検波電流とも称する)を検出し、次の式(1)を用いて自己インダクタンスLから回転子の位置を推定する。なお、モード1における、静止時の回転子の位置推定(位置検出)をインダクティブセンス(Inductive Sense:I.S.)とも称する。
I=V/R(1-e^{-t×(R/L)} ・・・式(1)
I:モータ電流、V:印加電圧、R:相間抵抗、t:印加時間、L:自己インダクタンス
【0047】
式(1)は、回転子の位置で異なるL成分により、モータ電流Iが回転子の位置に依存することを示している。すなわち、モード1では、MCU110は、インバータ回路200のMOSトランジスタを制御し、一定時間各相間に電流を流し、各相に流れるモータ電流I(検波電流)を検出する。MCU110は、式(1)で時間に応じて変化するモータ電流Iの電流量を、電流検出回路102により検出する。モード1では、モータにトルクをかける必要がないため、位置の検出のみを目的とする検波電流を各相間に流し、回転子の位置を検出する。式(1)において、電圧V及び抵抗Rが一定であるため、検出したモータ電流Iから自己インダクタンスLを求め、求めた自己インダクタンスLから回転子の位置を推定できる。
【0048】
[モード2]
モード2は、ブラシレスDCモータ300がモード1の後に回り始めた時(初期駆動時)の動作モードである。モード2では、相互誘導で誘起される電圧e2を検出し、次の式(2)~式(4)を用いてモータを加速させる。なお、モード2における、初期駆動のための起動トルクの印加をキックとも称する。
Φ1=B1S=μn1I1S(通電相) ・・・式(2)
KΦ2(非通電相)∝Φ1(通電相) ・・・式(3)
e2∝-n2ΔΦ2/Δt ・・・式(4)
Φ1:通電相の磁束、B1:通電相の磁束密度、S:面積、μ:透磁率
I1:モータ電流、Φ2:非通電相の磁束、e2:相互誘導電圧(固定子巻線のインダクタンスの比で分圧された電圧)
【0049】
式(3)は、通電相の磁束Φ1と非通電相の磁束Φ2に比例関係があることを示している。モータが静止している時は、逆起電圧を検出できない。そこで、式(2)の磁束Φ1に対し磁束Φ2は式(3)の係数Kにより位置依存性があることを利用する。すなわち、式(4)で得られる電圧e2にも位置依存性がある。このため、モード2では、MCU110は、インバータ回路200のMOSトランジスタを制御して通電相に電流を流し、非通電相に生じる電圧e2をBEMF検出回路101により検出する。これにより、モータの回転子にトルクを与えながら回転子の位置を検出し、一定の回転まで回転子を加速させる。
【0050】
[モード3]
モード3は、ブラシレスDCモータ300がモード2の後に高速回転している時(回転時)の動作モードである。モード3では、逆起電圧Vを検出し、次の式(5)を用いてモータを回転させる。なお、モード3における、逆起電圧に基づくモータ駆動を定常駆動とも称する。
V=Blv[V] ・・・(式5)
V:逆起電圧、B:磁束密度、l:巻線長、
v:速度=2πrn[m/s](r:回転半径、n:巻き数)
【0051】
式(5)は、逆起電圧Vが磁束密度Bと速度vに依存することを示している。モード3では、v(モータの回転速度)に比例した逆起電圧Vが発生する。このため、MCU110は、BEMF検出回路101により逆起電圧Vを検出し、式(5)よりモータの回転子の位置を検出することで、モータを回転させる。
【0052】
<通電パターン>
MCU110は、モード1のインダクティブセンスにおいて、ブラシレスDCモータ300の各相間にモータ電流(検波電流)を流すことで、回転子の位置を検出する。具体的には、MCU110は、
図3に示すような6つの通電パターンA~Fにより各相間に電流IA~IFを流す。以下に各通電パターンについて説明する。なお、モード2及びモード3においても、同じ通電パターンにより電流(電圧)が印加される。
【0053】
[通電パターンA]
通電パターンA(例えば第1通電パターン)は、U相固定子巻線301U(例えば第1相)からV相固定子巻線301V(例えば第2相)に電流IA(例えば第1電流)を流すパターンである。具体的には、MCU110は、インバータ回路200のU相上アームのMOSトランジスタUHとV相下アームのMOSトランジスタVLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御する。なお、通電パターンAにおいて、W相を「無通電相」と称し、U相を「上流側通電相」と称し、V相を「下流側通電相」と称する。電流は、上流側通電相の固定子巻線から下流側通電相の固定子巻線の方向に流れる。他の通電パターンの場合にも同様に定義する。
【0054】
[通電パターンB]
通電パターンB(例えば第2通電パターン)は、U相固定子巻線301UからW相固定子巻線301W(例えば第3相)に電流IB(例えば第2電流)を流すパターンである。具体的には、MCU110は、インバータ回路200のU相上アームのMOSトランジスタUHとW相下アームのMOSトランジスタWLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御すする。
【0055】
[通電パターンC]
通電パターンC(例えば第3通電パターン)は、V相固定子巻線301VからW相固定子巻線301Wに電流IC(例えば第3電流)を流すパターンである。具体的には、MCU110は、インバータ回路200のV相上アームのMOSトランジスタVHとW相下アームのMOSトランジスタWLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御する。
【0056】
[通電パターンD]
通電パターンD(例えば第4通電パターン)は、V相固定子巻線301VからU相固定子巻線301Uに電流ID(例えば第4電流)を流すパターンである。具体的には、MCU110は、インバータ回路200のV相上アームのMOSトランジスタVHとU相下アームのMOSトランジスタULとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御する。
【0057】
[通電パターンE]
通電パターンE(例えば第5通電パターン)は、W相固定子巻線301WからU相固定子巻線301Uに電流IE(例えば第5電流)を流すパターンである。具体的には、MCU110は、インバータ回路200のW相上アームのMOSトランジスタWHとU相下アームのMOSトランジスタULとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御する。
【0058】
[通電パターンF]
通電パターンF(例えば第6通電パターン)は、W相固定子巻線301WからV相固定子巻線301Vに電流IF(第6電流)を流すパターンである。具体的には、MCU110は、インバータ回路200のW相上アームのMOSトランジスタWHとV相下アームのMOSトランジスタVLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御する。
【0059】
<固定子巻線と回転子の位置関係>
MCU110は、モード1のインダクティブセンスにおいて検出される回転子の位置に基づいて、モード2のキックにおいて起動トルクを印加するための通電パターンを決定する。
【0060】
図4A~
図4Cを用いて、キック時の回転子の回転と発生するトルクについて説明する。
図4A~
図4Cは、固定子巻線の磁極と回転子の磁極との位置関係を示している。
図4A~
図4Cは、回転子303の磁極が2極対(S極とN極の対が2つ)の回転子の例である。このため、この例では電気角は機械角の2倍の角度となる。
【0061】
図4Aは電気角120°先、
図4Bは電気角90°先、
図4Cは電気角0°における、固定子巻線の磁極と回転子の磁極との位置関係を示す。
図4Aはキックの開始時点の状態を示し、
図4Bはキックの開始後にトルクが増大し最大トルクとなる時点の状態を示し、
図4Cは最大トルクの後にトルクが減少しトルクが0となる時点の状態を示している。ここでは、
図4Cの電気角0°が回転子の停止位置となる。
【0062】
例えば、モード1のインダクティブセンスにおいて検出された回転子の位置に基づいて、通電パターンFでキックを行う例について説明する。この場合、
図4Aに示すように電気角120°先のトルク0の状態において、通電パターンFによりW相からV相へ電流の印加を開始する。すなわち、W相固定子巻線301WからV相固定子巻線301Vへ電流を流す。これにより、
図4Aに示す回転方向のトルクが回転子303に与えられ、トルクが増大する。なお、このとき、無通電相であるU相に生じる逆起電圧の符号は正である。
【0063】
次に、
図4Bに示すように、
図4Aの状態から電気角30°に相当する時間が経過する(電気角90°先の状態となる)。この例では、電気角=2×機械角であるため、回転子303は
図4Aの状態から機械角15°回転する。
図4Aから
図4Bへ進むにしたがってトルクが増大し、
図4Bのとき(電気角90°のとき)、回転子303に与えられるトルクは最大になる。例えば、電気角90°の位置は、IPMモータにおけるコギング停止位置である。なお、無通電相であるU相に生じる逆起電圧はほぼ0になる。
【0064】
次に、
図4Cに示すように、
図4Bの状態からさらに電気角90°に相当する時間が経過する(電気角0°の状態となる)。すなわち、回転子303は
図4Bの状態から機械角45°さらに回転する。
図4Bから
図4Cへ進むにしたがってトルクが減少し、
図4Cのとき、回転子303に与えられるトルクは0になる。この電気角0°(トルク0)の位置が励磁位置である。なお、無通電相であるU相の逆起電圧は負のピーク値となる(磁束がほぼ0となる)。
【0065】
<モータ駆動制御の概要>
次に、本実施の形態に係るモータ駆動制御の概要について説明する。
図5は、モータ駆動システム1において、停止中の位置検出から逆起電圧に基づく定常駆動を行う際のモータ電流波形の例を示している。
図5では、各相の電流波形に通電パターンA~Fが対応付けて示されている。なお、
図5では、横軸の長さは実際の時間に比例したものではない。
【0066】
図5の時刻t10以前においてモータは停止状態である。時刻t10から時刻t20までの期間は、モード1に対応している。この期間において、MCU110は、インダクティブセンスにより回転子の位置検出を行う。
【0067】
具体的に、MCU110は、インバータ回路200を制御することによって、6個の通電パターンA~Fの順に検波電流を固定子巻線301に印加する。この場合、モータに印加される電流およびその印加時間は、回転子が回転しない程度に制限される。
【0068】
MCU110は、回転子の位置検出(インダクティブセンス)の期間中に、対応する固定子巻線に生じる検波電流の大きさをシャント抵抗203及び電流検出回路102によって検出する。半導体装置100は、検波電流の検出結果に基づいて回転子の位置を検出する。具体的には、通電相の固定子巻線301の回転子側の磁極と、当該固定子巻線301と対向する位置にある回転子の磁極とが引き合う場合に、検出されるモータ電流値が最も大きくなる。
図5の例では、通電パターンAまたはBのときに、U相電流およびV相電流、または、U相電流およびW相電流の大きさ(絶対値)が最大となっている。
【0069】
次の時刻t20から時刻t30までの期間は、モード2に対応している。この期間において、MCU110は、インバータ回路200を制御することによって、ブラシレスDCモータ300に起動トルクを印加(キック)し、初期加速を行う。この場合、MCU110は、インダクティブセンスによって検出された回転子の位置に基づいて、できるだけ大きな印加トルクとなるように通電パターン(起動通電パターン)を決定する。
図5の例では、検出される回転子位置に対応する通電パターンAまたはB(このとき、印加トルクはほぼ0である)よりも、電気角で60°先または120°先に対応する通電パターンCにより固定子巻線301に電流(起動トルク)を印加する。なお、本実施の形態における起動通電パターンの決定方法については後述する。
【0070】
MCU110は、この起動トルクの印加中に、BEMF検出回路101を用いて無通電相に生じる逆起電圧(または相互誘電電圧)の大きさを検出する。より詳細には、MCU110は、初期印加時間T0(たとえば、無負荷で回転子が60°回転しない時間)だけ起動トルクを印加した後に、逆起電圧の大きさと閾値との比較を開始し、閾値を超えたときに起動トルクの印加を停止する。初期印加時間T0を設けている理由は、回転子が停止している状態では逆起電圧は0であるからである。MCU110は、起動トルクの印加を開始してから逆起電圧が閾値を超えるまで(すなわち、電流の印加を停止するまで)の時間が、最小印加時間Tmin以下になると、MCU110は初期加速を行う。
【0071】
MCU110は、キックにより回転子が回転し始めると、任意の回転数となるまで回転子の回転を初期加速させる。例えば、MCU110は、最後のキックにおける通電パターンを用いて、インバータ回路200から固定子巻線301に印加する電圧(電流)を増加させる。インダクティブセンス、キック(初期加速)を繰り返した後、次の時刻t30からt40の期間では、位相確認を行う。
【0072】
その後、時刻t40以降で、MCU110は、逆起電圧のゼロクロス検出に基づいて、ブラシレスDCモータ300のセンサレス駆動(定常駆動)を実行する。時刻t40以降がモード3に対応する。具体的には、MCU110は、最後のキックにおける通電パターンまたは初期加速における通電パターンに基づいて、次の時刻の通電パターンを決定する。MCU110は、電気角60°毎に、決定した通電パターンによりモータ電流が流れるようインバータ回路200を制御する。例えば、通電制御信号としてPWM(Pulse Width Modulation)信号をインバータ回路200へ出力し、PWM制御を行う。このとき、MCU110は、BEMF検出回路101を用いて、無通電相に生じる逆起電圧のゼロクロス点を検出する。以降、通電パターンを順次切り替えてモータ電流を印加する。
【0073】
<モータ駆動制御フロー>
次に、本実施の形態に係るモータ駆動制御の流れについてさらに説明する。
図6は、モータ駆動システム1におけるブラシレスDCモータの駆動制御の例を示している。
【0074】
モータ駆動システム1では、ブラシレスDCモータ300が回転している状態において、
図6の制御フローが開始される場合がある。例えば、ファンを駆動するシステムでは、起動前からファンが回転し続けている場合がある。このため、まず、MCU110は、ブラシレスDCモータ300が駆動中(回転中)か否か判定する(S101)。例えば、MCU110は、AD変換器112の出力が閾値Th+ヒステリシス量his(例えば-10)よりも大きいか否か判定する。すなわち、MCU110は、BEMF検出回路101により閾値+ヒステリシス量よりも大きい逆起電圧が検出されているか否か判定する。
【0075】
ステップS101において、AD変換器112の出力が閾値Th+ヒステリシス量his以下の場合、すなわち、回転子が停止状態の場合(S101/No)、AD変換器112の出力が閾値Th+ヒステリシス量hisを超えるまで、駆動中の判定を繰り返す。
【0076】
また、ステップS101において、AD変換器112の出力が閾値Th+ヒステリシス量hisよりも大きくなった場合(S101/Yes)、すなわち、回転子が回転状態の場合、MCU110は、ブラシレスDCモータ300に瞬間ブレーキをかける(S102)。すなわち、MCU110は、インバータ回路200の上アームの2相のMOSトランジスタ、または、下アームの2相のMOSトランジスタをオン状態に制御し、他をオフ状態に制御することで、ブラシレスDCモータ300にブレーキを生じさせる。また、MCU110は、インバータ回路200の6つのMOSトランジスタの全てをオフ状態とし、3相ハイインピーダンスとすることで、ブラシレスDCモータ300にブレーキを生じさせてもよい。
【0077】
次に、MCU110は、ブラシレスDCモータ300における3相逆起電圧を判定する(S103)。すなわち、MCU110は、BEMF検出回路101により3相の逆起電圧が検出されるか否か判定する。例えば、3相の逆起電圧の振幅が閾値よりも小さいか否か判定し、3相にいずれかの逆起電圧に振幅がある場合、各相の逆起電圧に基づいて、回転子が正方向に回転(正回転)しているか、逆方向に回転(逆回転)しているか判定する。
【0078】
ステップS103において、3相の逆起電圧の振幅が閾値よりも小さい場合、すなわち、回転子が停止状態の場合、MCU110は、インダクティブセンス動作を行う(S104)。MCU110は、ブラシレスDCモータ300の停止状態において、回転子の位置を検出するために、インダクティブセンスを行う。
図5の時刻t10から時刻t20で示したように、MCU110は、インバータ回路200を制御し、通電パターンA~Fの各パターンの検波電流を固定子巻線301に流す。MCU110は、最大の検波電流が得られるときの通電パターンに基づいて固定子巻線の位置を推定する。
【0079】
次に、MCU110は、インダクティブセンスの検出結果に基づいてキック動作を行う(S105)。後述するように、MCU110は、停止状態で推定された回転子の位置に基づいて、起動トルクを印加するための起動通電パターンを決定する。
図5の時刻t20から時刻t30で示したように、MCU110は、例えば、検出された回転子の位置に対して60°または120°先の電気角となるような起動通電パターンとそのときのインバータ回路200の出力電圧(電流)を決定する。MCU110は、インバータ回路200を制御し、決定した起動通電パターンで固定子巻線301への電流(起動トルク)の印加を開始する。
【0080】
次に、MCU110は、ブラシレスDCモータ300を初期加速させる(S106)。MCU110は、固定子巻線301への起動トルクの印加を開始し、印加の開始から初期印加時間T0が経過した時点でBEMF検出回路101を用いて逆起電圧の検出を開始する。MCU110は、起動トルクを印加し、初期印加時間T0までの間に逆起電圧が閾値を超えるか否か判定する。初期印加時間T0まで逆起電圧が閾値を超えない場合(初期印加時間T0がタイムアウトした場合)、回転子が停止状態であるため、ステップS104に戻り、再びインダクティブセンスを行う。
【0081】
初期印加時間T0までの間に逆起電圧が閾値を超えた場合、回転子が回転し始めているため、
図5の時刻t20から時刻t30に示したように、任意の回転数となるまで回転子の回転を初期加速させる。
【0082】
ステップS103において、回転子が正回転している場合、または、ステップS106において、回転子の回転数が任意の回転数に達した場合、MCU110は、逆起電圧のゼロクロス検出を行う(S107)。すなわち、MCU110は、
図5の時刻t40以降に示したように、ゼロクロス検出に基づく定常駆動動作を行う。
【0083】
次に、MCU110は、ブラシレスDCモータ300が停止中か否か判定する(S108)。例えば、MCU110は、AD変換器112の出力が閾値Thよりも小さいか否か判定する。すなわち、MCU110は、BEMF検出回路101により閾値Thよりも小さい逆起電圧が検出されているか否か判定する。閾値Thは、ステップS101の閾値と同じ値でもよいし、異なる値でもよい。ステップS108において、AD変換器112の出力が閾値Th以上の場合(S108/No)、すなわち、回転子が回転状態の場合、ゼロクロス検出に基づく定常駆動動作を繰り返す。
【0084】
ステップS108において、AD変換器112の出力が閾値Thより小さい場合(S108/Yes)、すなわち、回転子が停止状態にある場合、MCU110は、ブラシレスDCモータ300に3相ショートブレーキをかける(S109)。MCU110は、インバータ回路200の上アームの3相のMOSトランジスタ、または、下アームの3相のMOSトランジスタをオン状態に制御し、他をオフ状態に制御することで、ブラシレスDCモータ300にブレーキを生じさせる。また、ステップS103において、回転子が逆回転している場合も、3相ショートブレーキ制御を行う。
【0085】
次に、MCU110は、ブラシレスDCモータ300の停止中か否か判定する(S110)。例えば、MCU110は、BEMF検出回路101により3相の逆起電圧の振幅が閾値(例えば10LSB)以下か否か判定する。ステップS110において、逆起電圧の振幅が閾値よりも大きい場合(S110/No)、回転子が回転状態であるため、逆起電圧の振幅が閾値以下になるまで、停止判定を繰り返す。ステップS110において、逆起電圧の振幅が閾値以下となった場合(S110/Yes)、回転子が停止状態にあるため、S101に戻り駆動判定を行う。
【0086】
<インダクティブセンスフロー>
次に、本実施の形態に係るインダクティブセンス動作の詳細について説明する。
図7A~
図7Dは、インダクティブセンス動作の詳細な流れを示すフローチャートである。
図8は、インダクティブセンス動作の動作例を示す電流波形図である。ここでは、インダクティブセンス動作として、検波電流の検出から回転子の位置検出及び起動通電パターンの決定を行うまでの動作(例えば、
図6のS104~S105の一部)について説明する。
【0087】
図7A及び
図8に示すように、インダクティブセンス動作において、まず、MCU110は、6つの通電パターンにより各相間に検波電流を順次流し、各電流値を検出する(S201~S212)。
【0088】
具体的には、MCU110は、インバータ回路200を制御し、通電パターンAによりU相からV相に電流を流す(S201)。MCU110は、インバータ回路200のU相上アームのMOSトランジスタUHとV相下アームのMOSトランジスタVLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御することで、U相固定子巻線301UからV相固定子巻線301Vに検波電流IAを流す。このとき、MCU110は、回転子が回転しない程度の期間、検波電流IAを流すよう制御する。
【0089】
図8に示すように、まず、MCU110は、ショートブレーキ(例えば100μs)をかけ、インバータ回路200の全てのMOSトランジスタをオフ状態(Hi-z、ハイインピーダンス状態)にした後(例えば25μs)、第1サイクルで通電パターンAの通電制御を行う。各通電パターンの通電制御では、MCU110は、通電期間a、ショート期間b、非通電期間cの順に通電を制御する。例えば、通電期間aは20μs、ショート期間は75μs、非通電期間cは25μsである。この場合、6サイクルで810μsとなる。
【0090】
通電期間aにおいて、MCU110は、上記のように通電パターンAにより検波電流IAを流す。これにより、通電期間aの間、検波電流IA(正方向のU相電流、負方向のV相電流)が上昇する。次のショート期間bにおいて、MCU110は、V相下アームのMOSトランジスタVLとW相下アームのMOSトランジスタWLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御することで、V相固定子巻線301VとW相固定子巻線301Wをショートさせる。これにより、ショート期間bの間、検波電流IA(正方向のU相電流、負方向のV相電流)が緩やかに低下する。次の非通電期間cにおいて、MCU110は、全てのMOSトランジスタをオフ状態(Hi-z)に制御する。これにより、検波電流IA(正方向のU相電流、負方向のV相電流)が0となる。通電期間aで電流を流した直後に全てのMOSトランジスタをオフにすると、電源側に電流が流れ回路を破壊する可能性があるため、全てのMOSトランジスタをオフにする前に固定子巻線をショートさせることで電流を緩やかに低下させている。
【0091】
次に、MCU110は、U相からV相に流れた電流の電流値を検出する(S202)。MCU110は、ステップS201で通電パターンAにより流れた検波電流IAに応じて電流検出回路102から出力される検出値をAD変換器113によりAD変換し、AD変換した値を検波電流IAの電流値として取得する。例えば、MCU110は、通電期間aにおいて検出された検波電流IAの電流値(U相電流またはV相電流の絶対値)のうち最大値をメモリ111に格納する。
図8の第1サイクルでは、通電期間aの最後の時刻t11において、U相電流またはV相電流の絶対値が最大であるため、このときのU相電流またはV相電流の絶対値をメモリ111に格納する。なお、
図8に示すように、通電パターンAに対応する回転子の位置(POSI)、すなわち、検波電流IAが他の検波電流に比べて最も大きい場合に推定(検出)される回転子の位置をP0とする。
【0092】
なお、この例では、差動増幅器150の出力のAD変換結果(シャント抵抗の電圧)を電流値(電流に対応する値)として使用する。これに限らず、差動増幅器150の出力のAD変換結果とシャント抵抗203の抵抗値から電流値を求めて使用してもよい。他の通電パターンの電流を求める場合も同様である。
【0093】
次に、MCU110は、インバータ回路200を制御し、通電パターンBによりU相からW相に電流を流す(S203)。MCU110は、インバータ回路200のU相上アームのMOSトランジスタUHとW相下アームのMOSトランジスタWLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御することで、U相固定子巻線301UからW相固定子巻線301Wに検波電流IBを流す。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、
図8の例の第2サイクルにおいて、通電期間a、ショート期間b、非通電期間cの順に検波電流IB(正方向のU相電流、負方向のW相電流)の通電を制御する。
【0094】
次に、MCU110は、U相からW相に流れた電流の電流値を検出する(S204)。MCU110は、ステップS203で通電パターンBにより流れた検波電流IBに応じて電流検出回路102から出力される検出値をAD変換器113によりAD変換し、AD変換した値を検波電流IBの電流値として取得する。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、通電期間aにおいて検出された検波電流IBの電流値(U相電流またはW相電流の絶対値)のうち最大値をメモリ111に格納する。なお、
図8に示すように、通電パターンBに対応する回転子の位置(POSI)をP1とする。
【0095】
次に、MCU110は、インバータ回路200を制御し、通電パターンCによりV相からW相に電流を流す(S205)。MCU110は、インバータ回路200のV相上アームのMOSトランジスタVHとW相下アームのMOSトランジスタWLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御することで、V相固定子巻線301VからW相固定子巻線301Wに検波電流ICを流す。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、
図8の例の第3サイクルにおいて、通電期間a、ショート期間b、非通電期間cの順に検波電流IC(正方向のV相電流、負方向のW相電流)の通電を制御する。
【0096】
次に、MCU110は、V相からW相に流れた電流の電流値を検出する(S206)。MCU110は、ステップS205で通電パターンCにより流れた検波電流ICに応じて電流検出回路102から出力される検出値をAD変換器113によりAD変換し、AD変換した値を検波電流ICの電流値として取得する。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、通電期間aにおいて検出された検波電流ICの電流値(V相電流またはW相電流の絶対値)のうち最大値をメモリ111に格納する。なお、
図8に示すように、通電パターンCに対応する回転子の位置(POSI)をP2とする。
【0097】
次に、MCU110は、インバータ回路200を制御し、通電パターンDによりV相からU相に電流を流す(S207)。MCU110は、インバータ回路200のV相上アームのMOSトランジスタVHとU相下アームのMOSトランジスタULとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御することで、V相固定子巻線301VからU相固定子巻線301Uに検波電流IDを流す。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、
図8の例の第4サイクルにおいて、通電期間a、ショート期間b、非通電期間cの順に検波電流ID(正方向のV相電流、負方向のU相電流)の通電を制御する。
【0098】
次に、MCU110は、V相からU相に流れた電流の電流値を検出する(S208)。MCU110は、ステップS207で通電パターンDにより流れた検波電流IDに応じて電流検出回路102から出力される検出値をAD変換器113によりAD変換し、AD変換した値を検波電流IDの電流値として取得する。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、通電期間aにおいて検出された検波電流IDの電流値(V相電流またはU相電流の絶対値)のうち最大値をメモリ111に格納する。なお、
図8に示すように、通電パターンDに対応する回転子の位置(POSI)をP3とする。
【0099】
次に、MCU110は、インバータ回路200を制御し、通電パターンEによりW相からU相に電流を流す(S209)。MCU110は、インバータ回路200のW相上アームのMOSトランジスタWHとU相下アームのMOSトランジスタULとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御することで、W相固定子巻線301WからU相固定子巻線301Uに検波電流IEを流す。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、
図8の例の第5サイクルにおいて、通電期間a、ショート期間b、非通電期間cの順に検波電流IE(正方向のW相電流、負方向のU相電流)の通電を制御する。
【0100】
次に、MCU110は、W相からU相に流れた電流の電流値を検出する(S210)。MCU110は、ステップS209で通電パターンEにより流れた検波電流IEに応じて電流検出回路102から出力される検出値をAD変換器113によりAD変換し、AD変換した値を検波電流IEの電流値として取得する。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、通電期間aにおいて検出された検波電流IEの電流値(W相電流またはU相電流の絶対値)のうち最大値をメモリ111に格納する。なお、
図8に示すように、通電パターンEに対応する回転子の位置(POSI)をP4とする。
【0101】
次に、MCU110は、インバータ回路200を制御し、通電パターンFによりW相からV相に電流を流す(S211)。MCU110は、インバータ回路200のW相上アームのMOSトランジスタWHとV相下アームのMOSトランジスタVLとをオン状態に制御し他をオフ状態に制御することで、W相固定子巻線301WからV相固定子巻線301Vに検波電流IFを流す。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、
図8の例の第6サイクルにおいて、通電期間a、ショート期間b、非通電期間cの順に検波電流IF(正方向のW相電流、負方向のV相電流)の通電を制御する。
【0102】
次に、MCU110は、W相からV相に流れた電流の電流値を検出する(S212)。MCU110は、ステップS211で通電パターンFにより流れた検波電流IFに応じて電流検出回路102から出力される検出値をAD変換器113によりAD変換し、AD変換した値を検波電流IFの電流値として取得する。例えば、MCU110は、通電パターンAの場合と同様、通電期間aにおいて検出された検波電流IFの電流値(W相電流またはV相電流の絶対値)のうち最大値をメモリ111に格納する。なお、
図8に示すように、通電パターンFに対応する回転子の位置(POSI)をP5とする。
【0103】
次に、
図7Bに示すように、MCU110は、検出した電流値の差分を求める(S213)。MCU110は、ステップS201~S212で検出しメモリ111に格納した検波電流IA~IFの電流値を取得し、相間ごとに互いに逆方向の通電パターン(逆方向に流れる電流パターン)における2つの検波電流の差分(相間電流差)を求める。
【0104】
具体的には、MCU110は、通電パターンAによりU相からV相に流れる検波電流IAと、逆方向の通電パターンDによりV相からU相に流れる検波電流IDとの差分の絶対値を求め、求めた値を相間電流差T1(例えば第1相間電流差)とする。また、MCU110は、通電パターンBによりU相からW相に流れる検波電流IBと、逆方向の通電パターンEによりW相からU相に流れる検波電流IEとの差分の絶対値を求め、求めた値を相間電流差T2(例えば第2相間電流差)とする。また、MCU110は、通電パターンCによりV相からW相に流れる検波電流ICと、逆方向の通電パターンFによりW相からV相に流れる検波電流IFとの差分の絶対値を求め、求めた値を相間電流差T3(例えば第3相間電流差)とする。
【0105】
次に、
図7Bに示すように、MCU110は、求めた複数の相間電流差の間の大小関係を判定する(S214~S218)。MCU110は、求めた相間電流差T1、T2、T3を比較し、3つの相間電流差の間の大小関係を判定する。なお、
図7Bは一例であり、その他のステップにより相間電流差の間の大小関係を判定してもよい。
【0106】
具体的には、MCU110は、相間電流差T1と相間電流差T2を比較し、相間電流差T1が相間電流差T2よりも大きいか否か判定する(S214)。ステップS214で相間電流差T1が相間電流差T2よりも大きいと判定された場合(S241/Yes)、MCU110は、相間電流差T2と相間電流差T3を比較し、相間電流差T2が相間電流差T3よりも大きいか否か判定する(S215)。ステップS215で相間電流差T2が相間電流差T3よりも大きいと判定された場合(S215/Yes)、MCU110は、相間電流差T1>相間電流差T2>相間電流差T3の関係であると判断する。
【0107】
また、ステップS215で相間電流差T2が相間電流差T3以下であると判定された場合(S215/No)、MCU110は、相間電流差T1と相間電流差T3を比較し、相間電流差T1が相間電流差T3よりも大きいか否か判定する(S216)。ステップS216で相間電流差T1が相間電流差T3よりも大きいと判定された場合(S216/Yes)、MCU110は、相間電流差T1>相間電流差T3>相間電流差T2の関係であると判断する。ステップS216で相間電流差T1が相間電流差T3以下であると判定された場合(S216/No)、MCU110は、相間電流差T3>相間電流差T1>相間電流差T2の関係であると判断する。
【0108】
また、ステップS214で相間電流差T1が相間電流差T2以下であると判定された場合(S214/No)、MCU110は、相間電流差T2と相間電流差T3を比較し、相間電流差T2が相間電流差T3よりも大きいか否か判定する(S217)。ステップS217で電流差T2が電流差T3以下であると判定された場合(S217/No)、MCU110は、相間電流差T3>相間電流差T2>相間電流差T1の関係であると判断する。
【0109】
また、ステップS217で相間電流差T2が相間電流差T3よりも大きいと判定された場合(S217/Yes)、MCU110は、相間電流差T1と相間電流差T3を比較し、相間電流差T1が相間電流差T3よりも大きいか否か判定する(S218)。ステップS218で相間電流差T1が相間電流差T3よりも大きいと判定された場合(S218/Yes)、相間電流差T2>相間電流差T1>相間電流差T3の関係であると判断する。ステップS218で相間電流差T1が相間電流差T3以下であると判定された場合(S218/No)、相間電流差T2>相間電流差T3>相間電流差T1の関係であると判断する。
【0110】
次に、
図7C及び
図7Dに示すように、MCU110は、相間電流差の大小関係に基づいて、回転子の検出位置と加算パラメータを決定する(S219~S242)。加算パラメータ(キックパラメータ、KICK_NUMD)は、キックを行う際の通電パターンを求めるためのパラメータであり、回転子の検出位置(基本位置、基準位置)に対し加算されるパラメータである。加算パラメータは、検出位置に対応する通電パターン(基本通電パターン、基準通電パターン)に対して加算されるパラメータであるとも言える。加算パラメータは、ブラシレスDCモータ300の電気角に対応している。例えば、加算パラメータ“1”は、1つの通電パターンに相当する角度、例えば電気角60°に対応する。
【0111】
MCU110は、相間電流差の大小関係に基づいて加算パラメータを決定し、検出した回転子の位置に加算パラメータを加算することにより、初期駆動する際の起動通電パターンを決定する。MCU110は、相間電流差の大小関係に基づいて、回転子の位置を検出し、検出した回転子の位置を基準として起動通電パターンを決定するとも言える。
【0112】
この例では、MCU110は、相間電流差T1、T2、T3のうち最も大きい相間電流差に基づいて、回転子の位置を検出する。特に、最も大きい相間電流差の算出元となる2つの電流の大小関係に基づいて、回転子の位置を検出する。6つの検波電流にはモータの性質や巻線の特性等によりバラツキが生じ得るが、相間電流差を用いて回転子の位置を検出することにより、電流値のバラツキによる影響を抑えて精度よく回転子の位置を検出できる。また、MCU110は、相間電流差T1、T2、T3のうち最も大きい相間電流差以外の2つの相間電流差の大小関係に基づいて、加算パラメータを決定する。3つの相間電流差にはモータの性質や巻線の特性等によりバラツキが生じ得るが、3の相間電流差の間の大小関係を用いることで、相間電流差のバラツキによる影響を抑えて、適切に加算パラメータを決定することができる。
【0113】
具体的には、相間電流差T1>相間電流差T2>相間電流差T3の関係であると判断された場合(S215/Yes)、MCU110は、相間電流差T1の算出元となる検波電流IAと検波電流IDを比較し、検波電流IAが検波電流IDよりも大きいか否か判定する(S219)。ステップS219で検波電流IAが検波電流IDよりも大きいと判定された場合(S219/Yes)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP0に決定する(S220)。検出位置P0に対応する通電パターンAを基本通電パターンに決定しているとも言える。また、ステップS219で検波電流IAが検波電流ID以下であると判定された場合(S219/No)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP3に決定する(S221)。検出位置P3に対応する通電パターンDを基本通電パターンに決定しているとも言える。
【0114】
次に、MCU110は、加算パラメータ(KICK_NUMD)を“2”に決定する(S222)。ここでは、相間電流差T2が相間電流差T3よりも大きいため、加算パラメータを“2”とする。これにより、MCU110は、回転子の検出位置P0(基本通電パターンA)の場合、検出位置に加算パラメータ“2”を加えた位置P2(電気角120°先の位置)に対応する通電パターンCを、キックを行う際の起動通電パターンとする。また、MCU110は、回転子の検出位置P3(基本通電パターンD)の場合、検出位置に加算パラメータ“2”を加えた位置P5(電気角120°先の位置)に対応する通電パターンFを、キックを行う際の起動通電パターンとする。
【0115】
また、相間電流差T3>相間電流差T2>相間電流差T1の関係であると判断された場合(S217/No)、MCU110は、相間電流差T3の算出元となる検波電流ICと検波電流IFを比較し、検波電流ICが検波電流IFよりも大きいか否か判定する(S223)。ステップS223で検波電流ICが検波電流IFよりも大きいと判定された場合(S223/Yes)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP2に決定する(S224)。検出位置P2に対応する通電パターンCを基本通電パターンに決定しているとも言える。また、ステップS223で検波電流ICが検波電流IF以下であると判定された場合(S223/No)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP5に決定する(S225)。検出位置P5に対応する通電パターンFを基本通電パターンに決定しているとも言える。
【0116】
次に、MCU110は、加算パラメータ(KICK_NUMD)を“1”に決定する(S226)。ここでは、相間電流差T2が相間電流差T1よりも大きいため、加算パラメータを“1”とする。これにより、MCU110は、回転子の検出位置P2(基本通電パターンC)の場合、検出位置に加算パラメータ“1”を加えた位置P3(電気角60°先の位置)に対応する通電パターンDを、キックを行う際の起動通電パターンとする。また、MCU110は、回転子の検出位置P5(基本通電パターンF)の場合、検出位置に加算パラメータ“1”を加えた位置P0(電気角60°先の位置)に対応する通電パターンAを、キックを行う際の起動通電パターンとする。
【0117】
また、相間電流差T2>相間電流差T3>相間電流差T1の関係であると判断された場合(S218/No)、MCU110は、相間電流差T2の算出元となる検波電流IBと検波電流IEを比較し、検波電流IBが検波電流IEよりも大きいか否か判定する(S227)。ステップS227で検波電流IBが検波電流IEよりも大きいと判定された場合(S227/Yes)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP1に決定する(S228)。検出位置P1に対応する通電パターンBを基本通電パターンに決定しているとも言える。また、ステップS227で検波電流IBが検波電流IE以下であると判定された場合(S227/No)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP4に決定する(S229)。検出位置P4に対応する通電パターンEを基本通電パターンに決定しているとも言える。
【0118】
次に、MCU110は、加算パラメータ(KICK_NUMD)を“2”に決定する(S230)。ここでは、相間電流差T3が相間電流差T1よりも大きいため、加算パラメータを“2”とする。これにより、MCU110は、回転子の検出位置P1(基本通電パターンB)の場合、検出位置に加算パラメータ“2”を加えた位置P3(電気角120°先の位置)に対応する通電パターンDを、キックを行う際の起動通電パターンとする。また、MCU110は、回転子の検出位置P4(基本通電パターンE)の場合、検出位置に加算パラメータ“2”を加えた位置P0(電気角120°先の位置)に対応する通電パターンAを、キックを行う際の起動通電パターンとする。
【0119】
また、相間電流差T2>相間電流差T1>相間電流差T3の関係であると判断された場合(S218/Yes)、MCU110は、相間電流差T2の算出元となる検波電流IBと検波電流IEを比較し、検波電流IBが検波電流IEよりも大きいか否か判定する(S231)。ステップS231で検波電流IBが検波電流IEよりも大きいと判定された場合(S231/Yes)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP1に決定する(S232)。検出位置P1に対応する通電パターンBを基本通電パターンに決定しているとも言える。また、ステップS231で検波電流IBが検波電流IE以下であると判定された場合(S231/No)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP4に決定する(S233)。検出位置P4に対応する通電パターンEを基本通電パターンに決定しているとも言える。
【0120】
次に、MCU110は、加算パラメータ(KICK_NUMD)を“1”に決定する(S234)。ここでは、相間電流差T1が相間電流差T3よりも大きいため、加算パラメータを“1”とする。これにより、MCU110は、回転子の検出位置P1(基本通電パターンB)の場合、検出位置に加算パラメータ“1”を加えた位置P2(電気角60°先の位置)に対応する通電パターンCを、キックを行う際の起動通電パターンとする。また、MCU110は、回転子の検出位置P4(基本通電パターンE)の場合、検出位置に加算パラメータ“1”を加えた位置P5(電気角60°先の位置)に対応する通電パターンFを、キックを行う際の起動通電パターンタとする。
【0121】
また、相間電流差T3>相間電流差T1>相間電流差T2の関係であると判断された場合(S216/No)、MCU110は、相間電流差T3の算出元となる検波電流ICと検波電流IFを比較し、検波電流ICが検波電流IFよりも大きいか否か判定する(S235)。ステップS235で検波電流ICが検波電流IFよりも大きいと判定された場合(S235/Yes)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP2に決定する(S236)。検出位置P2に対応する通電パターンCを基本通電パターンに決定しているとも言える。また、ステップS235で検波電流ICが検波電流IF以下であると判定された場合(S235/No)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP5決定する(S237)。検出位置P5に対応する通電パターンFを基本通電パターンに決定しているとも言える。
【0122】
次に、MCU110は、キックパラメータ(KICK_NUMD)を“2”に決定する(S238)。ここでは、相間電流差T1が相間電流差T2よりも大きいため、加算パラメータを“2”とする。これにより、MCU110は、回転子の検出位置P2(基本通電パターンC)の場合、検出位置に加算パラメータ“2”を加えた位置P4(電気角120°先の位置)に対応する通電パターンEを、キックを行う際の起動通電パターンとする。また、MCU110は、回転子の検出位置P5(基本通電パターンF)の場合、検出位置に加算パラメータ“2”を加えた位置P1(電気角120°先の位置)に対応する通電パターンBを、キックを行う際の起動通電パターンとする。
【0123】
また、相間電流差T1>相間電流差T3>相間電流差T2の関係であると判断された場合(S216/Yes)、MCU110は、相間電流差T1の算出元となる検波電流IAと検波電流IDを比較し、検波電流IAが検波電流IDよりも大きいか否か判定する(S239)。ステップS239で検波電流IAが検波電流IDよりも大きいと判定された場合(S239/Yes)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP0に決定する(S240)。検出位置P0に対応する通電パターンAを基本通電パターンに決定しているとも言える。ステップS239で検波電流IAが検波電流ID以下である判定された場合(S239/No)、MCU110は、回転子の検出位置(POSI)をP3に決定する(S241)。検出位置P3に対応する通電パターンDを基本通電パターンに決定しているとも言える。
【0124】
次に、MCU110は、加算パラメータ(KICK_NUMD)を“1”に決定する(S242)。ここでは、相間電流差T3が相間電流差T2よりも大きいため、加算パラメータを“1”とする。これにより、MCU110は、回転子の検出位置P0(基本通電パターンA)の場合、検出位置に加算パラメータ“1”を加えた位置P1(電気角60°先の位置)に対応する通電パターンBを、キックを行う際の起動通電パターンとする。また、MCU110は、回転子の検出位置P3(基本通電パターンD)の場合、検出位置にキックパラメータ“1”を加えた位置P4(電気角60°先の位置)に対応する通電パターンEを、キックを行う際の起動通電パターンとする。
【0125】
<実施の形態1の効果>
次に、本実施の形態の効果について説明する。ここでは、本実施の形態と比較するため、インダクティブセンスにおいて、相間電流差T1、T2、T3のうち最も大きい相間電流差のみを使用して起動通電パターンを決定する例を検討例とする。
【0126】
図9は、検討例における、相間電流差T1、T2、T3及び電気角と、相間電流差から求める基本通電パター及び加算パラメータの関係を示している。
図9に示すように、電気角に対し相間電流差T1、T2、T3(絶対値)をプロットすると、上に凸の放物線の繰り返しとなる。相間電流差T1、T2、T3は、それぞれ60°ずれている。
図9では、相間電流差T1は、電気角60°と電気角240°で最大となり、相間電流差T2は、電気角120°と電気角300°で最大となり、相間電流差T3は、電気角0°と電気角180°で最大となる。この相間電流差T1、T2、T3と電気角の関係を用いて、インダクティブセンスで検出された検波電流から求めた相間電流差に基づいて、電気角(回転子の位置)を検出できる。
【0127】
検討例では、検波電流から求めた相間電流差T1、T2、T3のうち最も大きい相間電流差を選択し、選択した相間電流差の算出元である2つの検波電流の大小比較を行うことにより、電気角60°の範囲で回転子の位置を検出し、検出された位置から基本となる基本通電パターンを算出する。次に、検討例では、最も大きい相間電流差から求めた基本通電パターンに、固定値(例えば+2または+1)の加算パラメータを加算し、キックの際の起動通電パターンを求める。
【0128】
例えば、回転子が電気角120°付近に停止している場合、|T2|が1番大きい相間電流差となり、通電パターンBの検波電流IBと通電パターンEの検波電流IEでは検波電流IEが大きい事になる。この場合、検討例では、電気角90°から150°の間に回転子が停止していると検出し、検出位置から基本通電パターンとして通電パターンE(POSI=P4)を求める。さらに、検討例では、求めた基本通電パターンE(POSI=P4)に固定の加算パラメータ“2”を加えて、キックの際の起動通電パターンを通電パターンA(POSI=P0)とする。
【0129】
このように、検討例では、例えば、回転子が電気角120°付近に停止している場合には、|T2|の値が明らかに|T1|や|T3|の値より大きいため判定結果が安定する。すなわち、検討例では、最も大きい相間電流差を使用することで、電気角60°の分解能で回転子の位置を検出し、検出した電気角60°の範囲の位置(通電パターン)に固定値の加算パラメータを加算することで起動通電パターンを決定する。しかし、検討例では、最大で電気角60°の誤差範囲を含む検出位置に固定値の加算パラメータを加算しているため、回転子の停止位置によっては、適切な起動通電パターンにより起動トルクを印加できず、所望のトルクを得ることができない。
【0130】
IPMモータの場合、コギングトルクの影響により、通電していない回転子の停止位置は、
図9に示すように、-30°、30°、90°、150°、210°、270°、330°の位置となる。この停止位置は、検討例の位置検出範囲の境目の位置となる。そうすると、例えば、コギング停止位置の電気角150°付近に回転子が停止している場合、|T2|と|T3|の値が近似する。このため、検討例では、加算パラメータの固定値(例えば+2または+1)によっては、起動通電パターンにより起動した際に必要なトルクを発生させることができない。具体的には、検討例でモータに発生するトルクは、
図10A及び
図10B、
図11A及び
図11Bのようになる。
【0131】
図10A及び
図10Bは、検討例において加算パラメータを“2”に固定した場合にモータに発生するトルクを示している。
図11A及び
図11Bは、検討例において加算パラメータを“1”に固定した場合にモータに発生するトルクを示している。
図10A及び
図10B、
図11A及び
図11Bは、モータの電気角(回転子の位置)に対し発生するトルクの大きさ(トルク比)を示している。
図10A及び
図10B、
図11A及び
図11Bは、一般的なトルク曲線であり、電気角0°でトルク量がゼロ、電気角90°でトルク量が最大となる。
図10A、
図11Aは、IPMモータの回転子の停止位置を電気角0°とし、回転子の停止位置検出によって基本通電パターンが0°よりも前の通電パターンAとなるケースにおいて、発生するトルクを示している。
図10B、
図11Bは、IPMモータの回転子の停止位置を電気角0°とし、回転子の停止位置検出によって基本通電パターンが0°よりも先の通電パターンBとなるケースにおいて、発生するトルクを示している。
【0132】
まず、加算パラメータを“2”に固定した検討例では、
図10Aに示すように、最大の相間電流差により検出された回転子の停止位置(例えば-30°)に基づいて基本通電パターンがAとなる場合に、固定値の加算パラメータ“2”(60°+60°)を加える。そうすると、起動通電パターンC(V相からW相)により起動トルクが印加される。その結果、電気角90°で最大のトルク(100%)がモータに発生する。この場合、もし-30°に回転子が停止してれば回転子は120°動いて停止するが、通電パターンの電流を流して回転子が励磁する位置に対して回転子が30°ずれているため、IPMモータの回転子の移動量は90°となる。
【0133】
また、
図10Bに示すように、最大の相間電流差により検出された回転子の停止位置(例えば+30°)に基づいて基本通電パターンがBとなる場合に、固定値の加算パラメータ“2”(60°+60°)を加える。そうすると、起動通電パターンD(V相からU相)により起動トルクが印加される。その結果、電気角150°で最大トルクに対して50%のトルクがモータに発生する。
【0134】
次に、加算パラメータを“1”に固定した検討例では、
図11Aに示すように、最大の相間電流差により検出された回転子の停止位置(例えば-30°)に基づいて基本通電パターンがAとなる場合に、固定値の加算パラメータ“1”(60°)を加える。そうすると、起動通電パターンB(U相からW相)により起動トルクが印加される。その結果、電気角30°で最大トルクに対して50%のトルクがモータに発生する。
【0135】
また、
図11Bに示すように、最大の相間電流差により検出された回転子の停止位置(例えば+30°)に基づいて基本通電パターンがBとなる場合に、固定値の加算パラメータ“1”(60°)を加える。そうすると、起動通電パターンC(V相からW相)により起動トルクが印加される。その結果、電気角90°で最大のトルク(100%)がモータに発生する。
【0136】
このように、検討例では、加算パラメータを“2”または“1”に固定すると、
図10Bや
図11Aの場合には、最大のトルクに対し50%のトルクしか得られない。特に、IPMモータでは、コギングトルクの影響により
図10Bまたは
図11Aのケースとなるため、検討例では、十分なトルクを発生させることができない。例えば、
図9に示した例で、回転子が電気角150°付近に停止している場合には、
図10Bや
図11Aのケースとなり、50%のトルクとなる。
【0137】
一方、センサ付きモータでは、ホールセンサのホール信号は検討例の位置検出から30°位相がずれている。このため、同じモータでトルクを測定した場合、検討例では、回転子の停止位置によってはトルクがセンサ付きモータに対し劣ることになる。すなわち、検討例では、位置検出がセンサ付きモータに対し電気角30°ずれるため、特にIPMモータのようにトルクを必要とするシステムではトルクのムラとして現れ、センサ付きモータよりも低いトルクしか発生させることができない。
【0138】
これに対し、本実施の形態では、上記のように相間電流差T1、T2、T3の間の大小関係を使用して起動通電パターンを決定する。
図12は、本実施の形態における、相間電流差T1、T2、T3及び電気角と、相間電流差から求める基本通電パターン及び加算パラメータの関係を示している。
【0139】
図12に示すように、電気角に対する相間電流差T1、T2、T3の遷移は検討例と同様であり、検出される位置(電気角)に対応する基本通電パターンも検討例と同様である。一方、本実施の形態では、検討例と異なり、相間電流差T1、T2、T3の間の大小関係を使用して、加算パラメータを選択する。
【0140】
すなわち、本実施の形態では、検波電流から求めた相間電流差T1、T2、T3のうち最も大きい相間電流差を選択し、選択した相間電流差の算出元である2つの検波電流の大小比較を行うことにより、電気角60°の範囲で回転子の位置を検出し、検出された位置から基本通電パターンを算出する。次に、本実施の形態では、その他の2つの相間電流差の大小比較を行うことにより、電気角30°の範囲に対応する加算パラメータ(+1または+2)を選択し、選択した加算パラメータを基本通電パターンに加算し、キックの際の起動通電パターンを求める。
【0141】
例えば、相間電流差|T2|が1番大きい電流差であり、検波電流IEが検波電流IBよりもよりも大きい場合、本実施の形態では、検討例と同様、電気角90°から150°の間に回転子が停止していると検出し、検出位置から基本通電パターンとして通電パターンE(POSI=P4)を求める。
【0142】
さらに、本実施の形態では、その他の相間電流差|T1|と|T3|の大小関係に基づいて、加算パラメータとして“1”または“2”を選択する。|T1|>|T3|の場合、対応する加算パラメータ“1”を選択し、基本通電パターンE(POSI=P4)に加算パラメータ“1”を加えて、キックの際の起動通電パターンを通電パターンF(POSI=P5)とする。また、|T1|<|T3|の場合、対応する加算パラメータ“2”を選択し、基本通電パターンE(POSI=P4)に加算パラメータ“2”を加えて、キックの際の起動通電パターンを通電パターンA(POSI=P0)とする。
【0143】
このように、本実施の形態では、最も大きい相間電流差に加えて、その他の2つの相間電流差も使用することで、検討例の倍の分解能の電気角30°毎に対応する加算パラメータを求める。例えば、回転子が電気角150°付近に停止している場合、|T2|と|T3|の値が近似する。本実施の形態では、回転子が120°と150°の間に停止している場合(
図12の範囲R1)は加算パラメータを“2”とし、回転子が150°と180°の間に停止している場合(
図12の範囲R2)は加算パラメータを“1”とする。このため、検討例と比べて適切な起動通電パターンにより起動トルクを印加することができ、所望のトルクを得ることができる。具体的には、本実施の形態でモータに発生するトルクは、
図13A及び
図13Bのようになる。
【0144】
図13A及び
図13Bは、本実施の形態において加算パラメータを可変とした場合にモータに発生するトルクを示している。
図13A及び
図13Bは、
図10A及び
図10B、
図11A及び
図11Bと同様に、モータの電気角(回転子の位置)に対し発生するトルクの大きさ(トルク比)を示している。
図13Aは、
図10A、
図11Aと同様に、IPMモータの回転子の停止位置を電気角0°とし、回転子の停止位置検出によって基本通電パターンが0°よりも前の通電パターンAとなるケースにおいて、発生するトルクを示している。
図13Bは、
図10B、
図11Bと同様に、IPMモータの回転子の停止位置を電気角0°とし、回転子の停止位置検出によって基本通電パターンが0°よりも先の通電パターンBとなるケースにおいて、発生するトルクを示している。
【0145】
本実施の形態では、
図13Aに示すように、最大の相間電流差により検出された回転子の停止位置(例えば-30°)に基づいて基本通電パターンがAとなる場合に、他の相間電流差の比較結果から選択された加算パラメータ“2”(60°+60°)を加える。そうすると、起動通電パターンC(V相からW相)により起動トルクが印加される。その結果、電気角90°で最大のトルク(100%)がモータに発生する。
【0146】
また、
図13Bに示すように、最大の相間電流差により検出された回転子の停止位置(例えば+30°)に基づいて基本通電パターンがBとなる場合に、他の相間電流差の比較結果から選択された加算パラメータ“1”(60°)を加える。そうすると、起動通電パターンC(V相からW相)により起動トルクが印加される。その結果、電気角90°で最大のトルク(100%)がモータに発生する。
【0147】
このように、本実施の形態では、加算パラメータを可変とし、検出される停止位置に対応する加算パラメータを選択するため、
図13A及び
図13Bのいずれにおいても、最大トルクを得ることができる。特に、IPMモータでコギングトルクの影響により
図13Aまたは
図13Bのいずれかのケースとなった場合でも、本実施の形態により、常に100%のトルクを発生させることができる。例えば、
図12に示した例で、回転子が電気角150°付近に停止している場合には、
図13Aまたは
図13Bのケースとなり、100%のトルクとなる。したがって、本実施の形態では、検討例と比べて高いトルクを得ることができ、センサレスのIPMモータの場合でもセンサ付きモータと同等のトルクを発生させることができる。なお、SPMモータやその他のモータを使用した場合でも、同様に検討例に比べて高いトルクを得ることができる。
【0148】
なお、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0149】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は既に述べた実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0150】
1 モータ駆動システム
10 半導体装置
11 電流検出回路
12 コントローラ
20 駆動回路
30 3相モータ
100 半導体装置
101 BEMF検出回路
102 電流検出回路
110 MCU
111 メモリ
112 AD変換器
113 AD変換器
120 差動増幅器
121 演算増幅器
122、123、124、125 抵抗素子
126 電圧素子
130 スイッチ回路
131 検出ノード
140 仮想中点生成回路
141U、141V、141W 抵抗素子
142 仮想中点
150 差動増幅器
151 演算増幅器
152、153、154、155 抵抗素子
156 電圧素子
200 インバータ回路
201、202 電源ノード
203 シャント抵抗
203a、203b ノード
204 接続ノード
300 モータ
301、301U、301V、301W 固定子巻線
302 中点
303 回転子