(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023106970
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ付形具及びガイドワイヤ付形方法
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
A61M25/09 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008026
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】591050729
【氏名又は名称】株式会社オーゼットケー
(71)【出願人】
【識別番号】591058459
【氏名又は名称】新和商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167092
【弁理士】
【氏名又は名称】鷹津 俊一
(72)【発明者】
【氏名】石橋 祐記
(72)【発明者】
【氏名】明石 嘉浩
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 陽彦
(72)【発明者】
【氏名】三橋 克伯
(72)【発明者】
【氏名】森下 喜郎
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA28
4C267BB02
4C267BB37
4C267CC08
4C267EE03
4C267FF03
(57)【要約】
【課題】
ガイドワイヤ付形具に挿入するガイドワイヤ内部のコアワイヤの方向にかかわらず、均一な、ガイドワイヤの付形加工の容易さと付形の品質とを得ることができるガイドワイヤ付形具及びガイドワイヤ付形方法を提供する。
【解決手段】
ガイドワイヤの先端を開口部22に挿入してガイドワイヤを通過させる略柱状の空間である入口通路部23と、入口通路部のうち最奥に位置する部分である出口部24を経て入口通路部と連通し且つ出口部から偏平状に広がる空間である付形部25と、付形部の内周部分を形成する環状の内壁25aと、内壁のうち、入口通路部の中心線Cの延長線C´と鈍角を成して交差する内壁である延長線交差部26と、内壁のうち、出口部から延長線交差部に至る内壁であり且つ延長線との間で鈍角を成す側の内壁である鈍角側内壁部27とを有する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤの先端を開口部に挿入して前記ガイドワイヤを通過させる略柱状の空間である入口通路部と、
前記入口通路部のうち最奥に位置する部分である出口部を経て前記入口通路部と連通し且つ前記出口部から偏平状に広がる空間である付形部と、
前記付形部の内周部分を形成する環状の内壁と、
前記内壁のうち、前記入口通路部の中心線の延長線と鈍角を成して交差する内壁である延長線交差部と、
前記内壁のうち、前記出口部から前記延長線交差部に至る内壁であり且つ前記延長線との間で鈍角を成す側の内壁である鈍角側内壁部と、
前記内壁のうち、前記出口部から前記延長線交差部に至る内壁であり且つ前記延長線との間で鋭角を成す側の内壁である鋭角側内壁部とを有し、
前記ガイドワイヤは、前記開口部から送り込まれるにつれ、順に前記入口通路部と前記付形部とに挿通される前記先端が前記延長線交差部近傍に当接し、この当接時に前記鈍角を成す側に曲がりつつ前記鈍角側内壁部に沿って摺動して全体が環状に配置されるように構成される、ガイドワイヤ付形具。
【請求項2】
前記鋭角側内壁部は、前記延長線から遠ざかる向きに膨出する形状を有する、請求項1に記載のガイドワイヤ付形具。
【請求項3】
前記ガイドワイヤを二重に配置することができる幅を有する前記出口部のうち、前記鈍角側内壁部と連続する略直線状の内壁を有する側の片側部分である鈍角側出口部と、
同じく前記出口部のうち、前記鈍角側出口部と反対側の片側部分である鋭角側出口部と、
前記鈍角側出口部において前記先端とその付近を前記ガイドワイヤ付形具の本体に押し付けて保持するように構成される保持部とを有し、
前記先端とその付近が前記保持部により保持された状態のままで前記ガイドワイヤが部分的に前記開口部から引き出され、前記付形部内部に環状に配置された前記ガイドワイヤの一部が前記鋭角側出口部を経て排出され且つ残部がより径小な環状に付形されるように構成される、請求項1または2に記載のガイドワイヤ付形具。
【請求項4】
前記鈍角側出口部及び前記鋭角側出口部においてお互いに対向する内壁である鈍角側出口対向部と鋭角側出口対向部とをそれぞれ有し、
前記鋭角側出口対向部と、前記鋭角側内壁部のうち前記鋭角側出口対向部と隣り合う一部分である鋭角側出口隣接部とを含んだ部分が入れ子になり、前記中心線と直交する方向に設けられる溝状のレール部に沿ってスライド可能なスライド部を有し、
前記スライド部がスライドし、前記鈍角側出口対向部と前記鋭角側出口対向部との間隔と、前記鈍角側内壁部と前記鋭角側出口隣接部との間隔とが拡がるように構成される、請求項3に記載のガイドワイヤ付形具。
【請求項5】
第1の本体部と第2の本体部とに分割され、前記第1の本体部の分割面である第1の分割面に前記入口通路部と前記付形部とが凹設され、前記第1の分割面と前記第2の本体部の分割面である第2の分割面とが自在に重なり又は離れることができるように前記各本体部が構成される、請求項1に記載のガイドワイヤ付形具。
【請求項6】
ガイドワイヤの先端を開口部に挿入して前記ガイドワイヤを通過させる略柱状の空間である入口通路部と、
前記入口通路部のうち最奥に位置する部分である出口部を経て前記入口通路部と連通し且つ前記出口部から偏平状に広がる空間である付形部と、
前記付形部の内周部分を形成する環状の内壁と、
前記内壁のうち、前記入口通路部の中心線の延長線と鈍角を成して交差する内壁である延長線交差部と、
前記内壁のうち、前記出口部から前記延長線交差部に至る内壁であり且つ前記延長線との間で鈍角を成す側の内壁である鈍角側内壁部と、
前記内壁のうち、前記出口部から前記延長線交差部に至る内壁であり且つ前記延長線との間で鋭角を成す側の内壁である鋭角側内壁部とを有するガイドワイヤ付形具を準備する準備工程と、
前記ガイドワイヤが、順に前記入口通路部と前記付形部とに挿通される前記先端が前記延長線交差部近傍に当接し且つこの当接時に前記鈍角を成す側に曲がりつつ前記鈍角側内壁部に沿って摺動して全体が環状に配置されるように、前記ガイドワイヤを前記開口部から送り込む送込み工程とを含む、ガイドワイヤ付形方法。
【請求項7】
前記準備工程において、
前記ガイドワイヤを二重に配置することができる幅を有する前記出口部のうち、前記鈍角側内壁部と連続する略直線状の内壁を有する側の片側部分である鈍角側出口部と、
同じく前記出口部のうち、前記鈍角側出口部と反対側の片側部分である鋭角側出口部と、
前記鈍角側出口部において前記先端とその付近を前記ガイドワイヤ付形具の本体に押し付けて保持するように構成される保持部とを有する前記ガイドワイヤ付形具を準備し、
前記送込み工程の後において、前記先端とその付近を前記保持部により保持しその状態のままで前記ガイドワイヤを部分的に前記開口部から引き出し、前記付形部内部に環状に配置された前記ガイドワイヤの一部を前記鋭角側出口部を経て排出し、かつ、残部をより径小な環状に付形する引出し工程を含む、請求項6に記載のガイドワイヤ付形方法。
【請求項8】
前記準備工程において、
前記鈍角側出口部及び前記鋭角側出口部においてお互いに対向する内壁である鈍角側出口対向部と鋭角側出口対向部とをそれぞれ有し、
前記鋭角側出口対向部と、前記鋭角側内壁部のうち前記鋭角側出口対向部と隣り合う一部分である鋭角側出口隣接部とを含んだ部分が入れ子になり、前記中心線と直交する方向に設けられる溝状のレール部に沿ってスライド可能なスライド部を有する前記ガイドワイヤ付形具を準備し、
前記引出し工程は、前記スライド部をスライドし、前記鈍角側出口対向部と前記鋭角側出口対向部との間隔と、前記鈍角側内壁部と前記鋭角側出口隣接部との間隔とを拡げる拡張ステップをさらに含む、請求項7に記載のガイドワイヤ付形方法。
【請求項9】
前記準備工程において、さらに、第1の本体部と第2の本体部とに分割され、前記第1の本体部の分割面である第1の分割面に前記入口通路部と前記付形部とが凹設され、前記第1の分割面と前記第2の本体部の分割面である第2の分割面とが自在に重なり又は離れることができるように前記各本体部が構成される前記ガイドワイヤ付形具を準備するとともに、前記第1の分割面と前記第2の分割面とが重なり合うように前記第1の本体部と前記第2の本体部とを接合し、
前記引出し工程の後において、前記ガイドワイヤを付形した後に前記第1の分割面と前記第2の分割面とが離れるように前記第1の本体部と前記第2の本体部との接合を解除した上で前記ガイドワイヤを前記ガイドワイヤ付形具から取り外す取外し工程を含む、請求項7または8に記載のガイドワイヤ付形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガイドワイヤ付形具及びガイドワイヤ付形方法に関し、特に偏平状に広がる空間である付形部にガイドワイヤを挿入して付形するガイドワイヤ付形具及びこのガイドワイヤ付形具を用いるガイドワイヤ付形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガイドワイヤの先端を入口通路部の開口部に挿入し、この入口通路部から飛び出す先端を押し型に押し付けて希望する形状に付形するように構成されるガイドワイヤ付形具がある(特許文献1)。
【0003】
ガイドワイヤとは、例えばカテーテルイントロデューサなどの血管への挿入及び留置を容易にするための柔軟性のあるワイヤ状の器具をいう。そこで、ガイドワイヤ付形具を用いて使用者がガイドワイヤの先端を折り返すような付形加工を行うことにより、ガイドワイヤが患者の血管の内壁を傷つける虞が低減される。また、前記のようなガイドワイヤ付形具による機械的な付形を行うために加熱処理工程、化学的処理工程などが不要であるから、使用者は例えば手術室のような医療現場においても付形加工を行うことができ、作業の場所を選ぶ必要がない。
【0004】
なお、本発明の発明者は、国際公開日が2021年1月28日である国際出願番号PCT/JP2020/027748に係る発明の発明者と同一の発明者である。また、この明細書を添付して行う特許出願は、上記の国際公開日から1年以内に行われるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ガイドワイヤには、その堅牢性を確保するために平板状のコアワイヤを内部に有するものがある。
図1はこうした平板状のコアワイヤを有するガイドワイヤの例であり、
図1(a)が金属製のコアワイヤの周りを樹脂製のプラスチックジャケットが被覆しているガイドワイヤの例を示し、また、
図1(b)がコアワイヤの周りにコイルが巻き付けられているガイドワイヤの例を示す。金属製のコアワイヤの材質の例としてはステンレススチールなどが挙げられ、プラスチックジャケットの材質の例としてはポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0007】
このような平板状のコアワイヤを有するガイドワイヤの場合、ガイドワイヤを曲げる方向と、コアワイヤの横断面における長手方向又は短手方向との関係によってガイドワイヤの曲がり易さは異なる。具体的には、
図2(a)の上図のように横断面におけるコアワイヤの短手方向が上下方向と一致する場合、すなわち、
図2(a)の下図のように前記長手方向と前記ガイドワイヤの曲がる方向とが同一である場合、ガイドワイヤは左右に曲げ難く、無理に曲げるためには大きな力を加えなければならない。逆に、
図2(b)上図のように横断面におけるコアワイヤの長手方向が上下方向と一致する場合、すなわち、
図2(b)下図のように前記短手方向と前記ガイドワイヤの曲がる方向とが同一である場合、
図2(a)の場合と比べてガイドワイヤは左右に曲げ易い。
【0008】
これに対して、例えばプラスチックジャケットが着色されていることが多く、ガイドワイヤを外から視るだけでコアワイヤの横断面における長手方向又は短手方向を見定めることは難しい。そのため、ガイドワイヤ付形具にガイドワイヤを挿入して先端を付形しようとするとき、偶々、
図2(b)のようにガイドワイヤを曲げ易い方向にコアワイヤが配置されている場合は付形加工がし易いが、
図2(a)のようにガイドワイヤを曲げ難い方向にコアワイヤが配置されている場合は付形加工の効率が悪く、しかも、必ずしも希望する形状に付形することができない可能性がある。このように、コアワイヤの方向に依ってガイドワイヤの付形加工の難易と付形の品質とにバラつきがあるような事態が生じる。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑み、ガイドワイヤの先端を折り返す付形を行う上で、ガイドワイヤ付形具に挿入するガイドワイヤ内部のコアワイヤの方向にかかわらず、均一な、ガイドワイヤの付形加工の難易と付形の品質とを得ることができるガイドワイヤ付形具及びガイドワイヤ付形方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はガイドワイヤの先端を開口部に挿入して前記ガイドワイヤを通過させる略柱状の空間である入口通路部と、前記入口通路部のうち最奥に位置する部分である出口部を経て前記入口通路部と連通し且つ前記出口部から偏平状に広がる空間である付形部と、前記付形部の内周部分を形成する環状の内壁と、前記内壁のうち、前記入口通路部の中心線の延長線と鈍角を成して交差する内壁である延長線交差部と、前記内壁のうち、前記出口部から前記延長線交差部に至る内壁であり且つ前記延長線との間で鈍角を成す側の内壁である鈍角側内壁部と、前記内壁のうち、前記出口部から前記延長線交差部に至る内壁であり且つ前記延長線との間で鋭角を成す側の内壁である鋭角側内壁部とを有し、前記ガイドワイヤは、前記開口部から送り込まれるにつれ、順に前記入口通路部と前記付形部とに挿通される前記先端が前記延長線交差部近傍に当接し、この当接時に前記鈍角を成す側に曲がりつつ前記鈍角側内壁部に沿って摺動して全体が環状に配置されるように構成される、ガイドワイヤ付形具を提供するものである。
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、挿入されたガイドワイヤの先端が延長線交差部近傍に突き当たって鈍角側に曲がりつつ内壁に沿って摺動するとき、仮に、このガイドワイヤの内部における平板状のコアワイヤが、その断面の長手方向と前記ガイドワイヤの曲がる方向とが略同一であり、
図2(a)のような位置にある場合でも、前記ガイドワイヤがその中心軸を中心に90°回転することを見出し本発明を完成させるに至った。その回転の結果、前記コアワイヤの断面の短手方向と前記ガイドワイヤの曲がる方向とが同一となるため、回転前と比べて前記ガイドワイヤは曲がり易い。また、前記コアワイヤの断面の長手方向と前記ガイドワイヤの曲がる方向とが同一でなくとも90°以下の角度を成している場合でも、前記ガイドワイヤはその90°以下の角度回転することを見出した。そして、その回転の結果、同様に前記コアワイヤの断面の短手方向と前記ガイドワイヤの曲がる方向とが同一となるため、回転前と比べて前記ガイドワイヤは曲がり易い。
【0012】
こうして、本発明のガイドワイヤ付形具に挿入する時のガイドワイヤの内部におけるコアワイヤの方向にかかわらず、当該ガイドワイヤが延長線交差部近傍に突き当たって内壁に沿って摺動することにより前記ガイドワイヤは曲がり易くなるように姿勢を変えることができる。そのため、本発明のガイドワイヤ付形具によって、均一な、ガイドワイヤの付形加工の容易さと付形の品質とを得ることができる。
【0013】
また、前記鋭角側内壁部は、前記延長線から遠ざかる向きに膨出する形状を有してもよい。
【0014】
すなわち、本発明のガイドワイヤ付形具の内壁が延長線から遠ざかる向きに膨出する鋭角側内壁部を有するため、ガイドワイヤの先端が鈍角を成す側に曲がりつつ前記内壁に沿って摺動するとき、前記ガイドワイヤの前記先端に連なる部分は、前記鋭角側内壁部に接近する又は接するようにして湾曲することができる。これにより、前記連なる部分が湾曲しない場合と比べて、前記先端は、前記内壁の壁面方向に対してより浅い角度を成しつつスムーズに摺動することができる。そのため、前記ガイドワイヤはより容易に回転することができ且つより効率的に付形することができる。
【0015】
こうして、本発明のガイドワイヤ付形具によって、均一な、ガイドワイヤの付形加工の容易さと付形の品質とを得ることができる。
【0016】
また、前記ガイドワイヤを二重に配置することができる幅を有する前記出口部のうち、前記鈍角側内壁部と連続する略直線状の内壁を有する側の片側部分である鈍角側出口部と、同じく前記出口部のうち、前記鈍角側出口部と反対側の片側部分である鋭角側出口部と、前記鈍角側出口部において前記先端とその付近を前記ガイドワイヤ付形具の本体に押し付けて保持するように構成される保持部とを有し、前記先端とその付近が前記保持部により保持された状態のままで前記ガイドワイヤが部分的に前記開口部から引き出され、前記付形部内部に環状に配置された前記ガイドワイヤの一部が前記鋭角側出口部を経て排出され且つ残部がより径小な環状に付形されるように構成されてもよい。
【0017】
本発明のガイドワイヤ付形具の使用者は、ガイドワイヤを送り込みその先端が鈍角側内壁部に沿って摺動して出口部に到達したのち、逆に、前記ガイドワイヤを部分的に開口部から引き出す。こうして、付形部内部の前記ガイドワイヤの環径を縮小させることにより前記ガイドワイヤを環状に付形することができる。このとき、保持部が前記ガイドワイヤの先端を保持することにより、前記先端の位置を確実に固定することができ、また、前記先端が片側部分の鈍角側出口部において保持されることにより、引き出そうとする前記ガイドワイヤをもう片側部分の鋭角側出口部に通すことができる。そのため、より効率的に前記ガイドワイヤの環径を縮小して付形加工を行うことが可能となる。
【0018】
また、前記鈍角側出口部及び前記鋭角側出口部においてお互いに対向する内壁である鈍角側出口対向部と鋭角側出口対向部とをそれぞれ有し、前記鋭角側出口対向部と、前記鋭角側内壁部のうち前記鋭角側出口対向部と隣り合う一部分である鋭角側出口隣接部とを含んだ部分が入れ子になり、前記中心線と直交する方向に設けられる溝状のレール部に沿ってスライド可能なスライド部を有し、前記スライド部がスライドし、前記鈍角側出口対向部と前記鋭角側出口対向部との間隔と、前記鈍角側内壁部と前記鋭角側出口隣接部との間隔とが拡がるように構成されてもよい。
【0019】
ところで、ガイドワイヤは血管へ挿入する上で、先端をJ字状に折り返すことによって血管に対する負担がより少ない。しかし、ガイドワイヤをJ字状に折り返す付形加工を行うときは、折り返す際に曲げるために加えられた力が大き過ぎれば、塑性変形後に残る特定の向きの応力が大きい。これにより、前記ガイドワイヤをガイドワイヤ付形具から外した後に折り返した部分が首を垂れるように曲がってしまう状態に至る場合がある。すなわち、鈍角を成す側に曲がりつつ先端が鈍角側内壁部に沿って折り返して付形される前記ガイドワイヤについて、折り返し部分ごと、その折り返した向きにさらに湾曲してしまう状態が生じる。また、こうした塑性変形による特定の向きの応力が過度に残存する状態を「扱き(しごき)」が加えられた状態ともいう。
【0020】
特に、ガイドワイヤの環径を縮小して付形加工するとき、鈍角側出口対向部と鋭角側出口対向部との間隔及び鈍角側内壁部と鋭角側内壁部との間隔が狭いと、送られるガイドワイヤの環状部分の曲率が小さい。そのため、前記ガイドワイヤは、こうした曲率が小さい状態で送られることによって強い扱きが加えられてしまう。その結果、前記ガイドワイヤの折り返し部分は、不必要に曲がってしまいがちである。
【0021】
これに対して、本発明のガイドワイヤ付形具は、スライド部をスライドし、前記鈍角側出口対向部と、前記スライド部の一部を成す前記鋭角側出口対向部との間隔、および、前記鈍角側内壁部と、前記スライド部の一部を成す鋭角側出口隣接部との間隔を拡げることにより、送られている状態のガイドワイヤを緩やかな曲線を描くように付形することができ、その結果、前記の折り返される部分の曲率を大きくすることができる。これにより、前記ガイドワイヤに加えられる扱きを緩和することができ、折り返した部分が首を垂れるように曲がってしまう状態を避けることができる。
【0022】
また、本発明のガイドワイヤ付形具は、スライド部がレール部に沿ってスライド可能なため、これらの間隔を自在に変更することができる。これにより、前記の折り返される部分の曲率を調整することができ、使用者の希望に従って、折り返した部分の曲がり具合又は反り返し具合を調整することができる。ここでいう反り返しとは、前記ガイドワイヤの折り返し部分が、折り返した向きの反対向きに反り返す状態を指す。
【0023】
こうして、本発明のガイドワイヤ付形具はより容易に希望する形状に付形することが可能となる。
【0024】
また、第1の本体部と第2の本体部とに分割され、前記第1の本体部の分割面である第1の分割面に前記入口通路部と前記付形部とが凹設され、前記第1の分割面と前記第2の本体部の分割面である第2の分割面とが自在に重なり又は離れることができるように前記各本体部が構成されてもよい。
【0025】
すなわち、入口通路部と付形部とが凹設された第1の本体部の第1の分割面に対して第2の本体部の第2の分割面を自在に重ね又は離すことができるため、ガイドワイヤを付形するときに前記第1の分割面と前記第2の分割面とが重なるように密着して前記ガイドワイヤを正確に導くことができる。また、付形後の前記ガイドワイヤをガイドワイヤ付形具から取り外すとき、前記入口通路部、前記付形部などに対して清掃、保守等を行うときなどに前記各分割面同士が離れるように露出させて容易に作業することができる。
【発明の効果】
【0026】
これらのように本発明では、ガイドワイヤ付形具に挿入するガイドワイヤ内部のコアワイヤの方向にかかわらず、均一な、ガイドワイヤの付形加工の容易さと付形の品質とを得ることができるガイドワイヤ付形具を提供する。また、J字状に折り返すことをはじめとして、効率的に希望する形状に付形することができるガイドワイヤ付形具及びガイドワイヤ付形方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】(a)左側の図がコアワイヤの周りをプラスチックジャケットが被覆しているガイドワイヤの横断面を示し、右側の図が同じくガイドワイヤの縦断面を示す。(b)左側の図がコアワイヤの周りにコイルが巻き付かれているガイドワイヤの横断面を示し、右側の図が同じくガイドワイヤの縦断面を示す。
【
図2】(a)上側の図がコアワイヤの長手方向とガイドワイヤの曲がる方向とが同一である場合のガイドワイヤの横断面を示し、下側の図が同じくガイドワイヤの縦断面を示す。(b)上側の図がコアワイヤの短手方向とガイドワイヤの曲がる方向とが同一である場合のガイドワイヤの横断面を示し、下側の図が同じくガイドワイヤの縦断面を示す。
【
図3】(a)本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。(b)同じくガイドワイヤ付形具の正面図を表わす。
【
図5】(a)本発明のガイドワイヤ付形具の左側面図を表わす。(b)同じくガイドワイヤ付形具の右側面図を表わす。
【
図6】スライド部を外した状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。
【
図7】(a)スライド部の背面図を表わす。(b)同じく平面図を表わす。
【
図8】スライド部が最も後側に位置する状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。
【
図9】(a)スライド部を少し前向きにスライドした状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。(b)同じくガイドワイヤ付形具の拡大平面図を表わす。
【
図10】(a)スライド部及び保持部を省略した本発明のガイドワイヤ付形具の拡大平面図を表わす。(b)ガイドワイヤの先端が出口部に戻った状態の本発明のガイドワイヤ付形具の拡大平面図を表わす。
【
図11】(a)保持部の平面図を表わす。(b)保持部の左側面図を表わす。(c)保持部の正面図を表わす。
【
図12】本発明のガイドワイヤ付形具の実施例における平面図を表わす。
【
図13】ガイドワイヤを入口通路部を進入させて送り込みつつある状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。
【
図14】ガイドワイヤをさらに送り込み先端が付形部を右向きに進む状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。
【
図15】ガイドワイヤが環状を描いてゆくところの状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。
【
図16】ガイドワイヤが折り返した状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。
【
図17】付形部内部にとどまるガイドワイヤの環径が次第に縮小される過程の状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。
【
図19】保持部とガイドワイヤとを省略した
図18の拡大平面図を表わす。
【
図20】スライド部をさらにスライドし且つガイドワイヤをさらに引き出した状態の本発明のガイドワイヤ付形具の平面図を表わす。
【
図22】(a)ガイドワイヤの折り返し部分ごとさらに湾曲する状態を表わす。(b)ガイドワイヤの折り返し部分が反り返す状態を表わす。
【
図23】ガイドワイヤの引出しを経てその付形が完了した状態の本発明のガイドワイヤ付形具を表わす。
【
図24】本発明のガイドワイヤ付形方法のフロー図を表わす。
【
図25】保持部が下側から上向きに嵌入される実施形態に係る本発明のガイドワイヤ付形具の左側面図を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態を、図を用いて例示する。
図3において11はガイドワイヤ付形具である。このガイドワイヤ付形具11は、
図1及び
図2に示したガイドワイヤを、
図4に示す例のようないわばJ字状に付形するために用いられる。ガイドワイヤは、下述する
図10(b)以降の図において符号Wを用いて指し示す。各図において矢印Uがガイドワイヤ付形具11の上下方向における上向きUを表す。矢印Dが上下方向における下向きDを表す。上向きの側を上側といい、下向きの側を下側という。矢印Lが左右方向における左向きを表す。矢印Rが左右方向における右向きを表す。左向きの側を左側といい、右向きの側を右側という。また、矢印Fが前後方向における前向きを表す。矢印Bが前後方向における後ろ向きを表す。前向きの側を前側といい、後ろ向きの側を後側という。
【0029】
ガイドワイヤ付形具11は
図3(a)の平面図に示す本体13を有する。この本体13は
図3(b)の正面図が示すように上下方向に分割され、下側に配置される第1の本体部14と上側に配置される第2の本体部15とによって構成される。第1の本体部14の分割面である第1の分割面14aと、第2の本体部15の分割面である第2の分割面15aとは略水平面である。第1の本体部14は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のような耐衝撃性、耐摩耗性、耐熱性、寸法精度が高い等の特性を備える合成樹脂によって形成される。第2の本体部15は、アクリル樹脂のような透明性の高い合成樹脂によって形成される。第2の本体部15は透明であり上側から素通しであるため、平面図において第1の分割面14a上の構造は実線で表される。
【0030】
第1の本体部14と第2の本体部15とは、蝶番又はボルト及びナットによって接合される。そのため、蝶番の開閉又はボルト及びナットの脱着によって第1の分割面14aと第2の分割面15aとは自在に重なり又は離れることができる。
【0031】
また、ガイドワイヤ付形具11はスライド部16と保持部17とを備える。スライド部16は、上下方向に偏平な略台形柱状の立体と、前後方向の長手方向を有し且つ上下方向に偏平な略直方体状の立体とを組み合わせた形状に形成され、後側の一部が第1の分割面14aに凹設される溝に嵌入される。保持部17は上下方向の長手方向を有する略四角柱状に形成され、下側の一部が第2の本体部15を上下方向に貫通する孔15bに嵌入される。
【0032】
図5(a)はガイドワイヤ付形具11の左側面図を表し、
図5(b)は同じく右側面図を表わす。また、
図6はスライド部16を外した状態の平面図を表わす。第1の本体部14は、前後方向に設けられ且つスライド部16の後側の一部が嵌入される溝状のレール部21を有する。レール部21は、
図5(a)(b)が示すように第1の分割面14aに下向きに凹設され、また、
図6が示すように左向きの側壁21a、右向きの側壁21a及び上向きの底壁21bを有する。これら側壁21a及び底壁21bは前後方向の面方向を有する。レール部21は上下方向に偏平な形状を有し、上下方向の深さは付形部25の深さよりも大きい。
【0033】
これに対して、スライド部16は
図7(a)の背面図及び
図7(b)の平面図が示すように前後方向且つ上下方向の左側面16a及び右側面16aと、前後方向且つ左右方向の底面16bを有する。スライド部16は、これら左右の側面16a,16aが左右の側壁21a,21aに接し且つ底面16bが底壁21bに接するとともに、レール部21に摺動して前後方向にスライドすることができる。スライド部16の上下方向の高さは、レール部21の上下方向の深さと略同一である。
【0034】
図8は、スライド部16が最も後側に位置する状態を示し、かつ、見易くするために保持部17の表示を省略した平面図である。第1の本体部14は
図5(a)が示すように左側面から右向きに凹む開口部22を有する。開口部22は右向きの頂点を有する半円錐体状の空間を形成する。この開口部22にガイドワイヤWの先端が挿入される。そして、開口部22と連通するように、
図8が示すように左右方向の略柱状の空間である入口通路部23が形成される。入口通路部23は、第1の分割面14aに下向きに凹設される。そして、入口通路部23は、そのうち、開口部22から見て最も奥に位置する部分である出口部24を有する。すなわち、出口部24は入口通路部23のうち最も右側に位置する。
【0035】
次に、第1の本体部14は、入口通路部23と連通し且つ出口部24から右向きに広がる付形部25を有する。付形部25は、入口通路部23と同様に第1の分割面14aに下向きに凹設される。付形部25は、
図5(a)(b)の側面においてかくれ線によって表わす通り上下方向に偏平な空間を形成する。そして、付形部25はその内周部分を形成する略環状の内壁25aを有する。
【0036】
ここで、入口通路部23の中心線Cは、その延長線C´が内壁25aと交差する。こうして交差する部分の内壁25aを延長線交差部26とよぶ。また、延長線C´は内壁25aと直交するのでなく、延長線交差部26において鈍角を成して交差する。
図8のように、延長線C´は延長線交差部26よりも後側の内壁25aと鈍角を成す。また、それと同時に延長線C´は延長線交差部26よりも前側の内壁25aと鋭角を成す。
図8の例においては、延長線C´は延長線交差部26において内壁25aと129.0°の角度を成して交差する。そして、これら内壁25aのうち、出口部24から前記の後側を通って延長線交差部26に至る内壁25aであって延長線C´と鈍角を成して交差する内壁25aを鈍角側内壁部27とよぶ。また、出口部24から前記の前側を通って延長線交差部26に至る内壁25aであって延長線C´と鋭角を成して交差する内壁25aを鋭角側内壁部28とよぶ。
【0037】
鋭角側内壁部28は、
図8の太い矢印によって示すように延長線C´から遠ざかる向きである前向きに膨出する形状を有する。
【0038】
ところで、スライド部16は、
図7(b)が示すように後ろ向きに突出する後端部31を有する。後端部31は
図7(a)が示すようにスライド部16の上下方向の厚さに対して上側の部分に配置されている。この後端部31の左側面を制止面31aとよぶ。そこで、
図8のようにスライド部16が最も後側に位置する状態においては、後端部31が中心線Cと交差するため、開口部22を経由して入口通路部23を右向きに進入するガイドワイヤWが制止面31aによってそれ以上の進入を阻まれる。これに対して、
図9(a)はスライド部16を少し前向きにスライドした状態を示す。この状態においては後端部31の背面31bが、出口部24よりも左側部分の入口通路部23の内壁における前端面と左右に連続する、または、入口通路部23よりもわずかに前側に位置するため、ガイドワイヤWが制止面31aによってその進入を阻まれない。この状態を入口通路部23の開放状態とよぶ。
【0039】
後端部31の背面31bは、下述する鋭角側出口対向部を構成する。
【0040】
図9(b)は、保持部17を想像線により表わした開放状態における拡大平面図である。この図においては、後端部31の背面31bが、出口部24よりも左側部分の入口通路部23の内壁における前端面23aと左右に連続している。
【0041】
図10(a)はスライド部16及び保持部17を省略した、出口部24付近の拡大平面図である。出口部24は、この図には示していないガイドワイヤWを前後に二重に配置することができる前後方向の幅を有する。この出口部24は、鈍角側内壁部27と連続する略直線状の内壁32aを有する側の片側部分である鈍角側出口部32と、この鈍角側出口部32と反対側の片側部分である鋭角側出口部33とによって構成される。このように、鈍角側出口部32が後ろ側に、鋭角側出口部33が前側にお互いに並んで配置される。
【0042】
鈍角側出口部32はその左端が閉塞部32bによって閉じられている。一方で、鋭角側出口部33は入口通路部23を右向けに延長した位置に設けられ、その左端が入口通路部23と連通する。
【0043】
図10(b)は、ガイドワイヤWが入口通路部23を右向きに進入して付形部25の内側を反時計向きに曲がりながら進んだのち、先端Waが出口部24に戻ってきた状態を示す。このとき、鋭角側出口33が前側のガイドワイヤWによって占められているため、先端Waは鈍角側出口部32に進入した後に閉塞部32bによって右向きに制止される。このように、出口部24は上側の鈍角側出口部32と下側の鋭角側出口部33とを有するため、ガイドワイヤWを前後に二重に配置することができる。そして、
図10(b)の前後二本のガイドワイヤWのうち、後側の出口部24に戻ってきたガイドワイヤWを後側ガイドワイヤWbとよび鈍角側出口部32の内部に配置される。先端Waは後側ガイドワイヤWbの一部を成す。もう一方の前側のガイドワイヤWを前側ガイドワイヤWfとよび、ガイドワイヤWfは鋭角側出口部33を左右に通過する。
【0044】
図11(a)(b)(c)は、それぞれ保持部17の平面図、左側面図及び正面図を表わす。保持部17は、下側の一部が第2の本体部15の孔15bに嵌入される。また、保持部17は下向きに突出する下端部34を有する。下端部34は平面視において保持部17の左右方向における略半分の幅を有するとともに左寄りに配置され、また、保持部17の前後方向における略半分の奥行きを有するとともに前寄りに配置される。また、下端部34は、下側ほど奥行きが小さくなるように背面が傾斜して形成される。
【0045】
下端部34は底面に左右方向の部分円柱状に形成される凹状部35を有する。この凹状部35は、
図10(b)の平面図において想像線によって表わす保持部17が孔15bに沿って下降することにより、先端Waとその付近のガイドワイヤWを上側から下向きに押すことができる。このとき、先端Waとその付近のガイドワイヤWは、鈍角側出口部32の底壁に相当する第1の本体部14によって下支えられているため、下端部34によって本体13に押し付けられて保持される状態となる。
【0046】
ただし、凹状部35が左右方向に細いため、保持部17は鈍角側出口部32の内部に配置される後側ガイドワイヤWbだけを下向きに押すことができ、前側ガイドワイヤWfを押さない。そのため、後側ガイドWbが鈍角側出口部32に留まるのに対して前側ガイドワイヤWfは鋭角側出口部33内で自在に左右方向に移動することができる。
【0047】
なお、ガイドワイヤ付形具11の実施例につき、その平面図における寸法の例を
図12に示す。ここにおいて、延長線C´と内壁25aとが129.0°の角度を成して交差している。ただし、延長線C´は内壁25aとの間において129.0°以外の角度を成して交差してもよく、ガイドワイヤWを送込むにつれ先端Waが引っ掛かることなく鈍角側内壁部26に沿って摺動するのであれば129.0°前後の角度を成して交差してもよい。
【0048】
以下においては、使用者が、本発明のガイドワイヤ付形具11を用いてガイドワイヤWの先端Waを折り返し、先端部分をJ字状に付形するまでのガイドワイヤ付形方法S100を順に
図13~
図21、
図23の平面図及び拡大平面図を用いて示す。これらの図においては保持部17を想像線によって表わすとともに、本来上方から視るときに保持部17によって隠れている構造なども実線で表わしている。また、ガイドワイヤ付形方法S100を
図24のフロー図によっても表わす。
【0049】
図13は、第1の本体部14と第2の本体部15とが上下方向に接合した状態を表わす。ガイドワイヤ付形具11を準備するとともに、これら本体部14,15を接合する工程を準備工程S110とよぶ。
【0050】
ここで、入口通路部23と付形部25とが凹設された第1の本体部14の第1の分割面14aに対して第2の本体部15の第2の分割面15aを自在に重ね又は離すことができるため、ガイドワイヤWを付形するときに第1の分割面14aと第2の分割面15aとが重なるように密着してガイドワイヤWを正確に導くことができる。
【0051】
図13は、使用者が先端Waを開口部22に挿入し、ガイドワイヤ付形具11の外から、ガイドワイヤWを入口通路部23を右向きに進入させて送り込みつつある状態を示す。ガイドワイヤWの進入方向を矢印により示す。この図において、スライド部16は
図8と同様にレール部21上の最も後側の位置に移動している。そのため、先端Waはスライド部16の制止面31aよりも右向きに進むことができない。このようにガイドワイヤWを開口部22に挿入してから、後述する
図16のように先端Waが閉塞部32bに突き当たって制止されるまでの工程を送込み工程S120とよぶ。この送込み工程S120においては保持部17が上昇されており、下端部34がガイドワイヤWに触れていない。
【0052】
図14は、使用者がスライド部16を少し前向きにスライドして、
図9(a)(b)のように入口通路部23を開放状態に置いた状態を示す。この状態では、ガイドワイヤWをさらに右向きに送り込むことができ、先端Waが鋭角側出口部33を経て付形部25内を右向きに進む。上昇している保持部17はガイドワイヤWの進行をさまたげない。そして、先端Waはほぼ延長線C´に沿って進んで延長線交差部26近傍に当接する。この先端Waが延長線交差部26近傍に当接する際のガイドワイヤWと内壁25aとの間で成す角度は、延長線C´と内壁25aとの間における角度と略同一である。本例においては鈍角側内壁部27との間で成す角度が129.0°であり、鈍角である。本発明者は、当接時にガイドワイヤWが自然にその進行方向と鈍角を成す側に曲がりつつ進むことを見出した。これにより、先端Waは延長線交差部26近傍に当接した後に、図の反時計回り向きに曲がって鈍角側内壁部27に沿って摺動する。その上で、付形部25内のガイドワイヤWは全体が環状に配置されるように曲がってゆく。
【0053】
なお、
図13において、最初にスライド部16が最も後側の位置に配置されている状態の例を示したが、最初からスライド部16が少し前側に配置されていて入口通路部23が開放状態であってもよい。その場合、使用者はスライド部16をスライドすることなく、最初から先端Waを付形部25内にまで進めることができる。
【0054】
ここで、本発明者は、鋭意検討の結果、挿入されたガイドワイヤWの先端Waが延長線交差部26近傍に突き当たって鈍角側に曲がりつつ鈍角側内壁部27に沿って摺動するとき、仮に、このガイドワイヤWの内部における平板状のコアワイヤCが、その断面の長手方向と前後方向とが略同一であり、
図2(a)のような位置にある場合でも、ガイドワイヤWがその中心軸を中心に90°回転することを見出し本発明を完成させるに至った。その回転の結果、コアワイヤCの断面の長手方向と上下方向とが略同一となるため、ガイドワイヤWは曲がり易い。また、コアワイヤCの断面の長手方向とガイドワイヤWの曲がる方向とが同一でなく90°以下の角度を成している場合でも、ガイドワイヤWはその90°以下の角度回転することを見出した。そして、その回転の結果、同様にコアワイヤCの断面の長手方向と上下方向とが略同一となるため、回転前と比べてガイドワイヤWは曲がり易い。
【0055】
こうして、ガイドワイヤ付形具11に挿入する時のガイドワイヤWの内部におけるコアワイヤCの方向にかかわらず、当該ガイドワイヤWが延長線交差部26近傍に突き当たって鈍角側内壁部27に沿って摺動することによりガイドワイヤWは曲がり易くなるように姿勢を変えることができる。そのため、ガイドワイヤ付形具11によって、均一な、ガイドワイヤWの付形加工の容易さと付形の品質とを得ることができる。
【0056】
図15は、使用者がガイドワイヤWを右向きに送り込み続け、先端Waが鈍角側内壁部27に沿って反時計回りに摺動しつつ、付形部25内のガイドワイヤWが全体として環状を描いてゆくところの状態を表わす。そして、延長線C´に対して鈍角側内壁部27の反対側に位置する鋭角側内壁部28は、延長線C´から遠ざかる向きである前向きに膨らんだ形状を有している。
【0057】
そのため、ガイドワイヤWの先端Waに連なる部分は、鋭角側内壁部28に接近する又は接するようにして湾曲することができる。これにより、先端Waに連なる部分が湾曲しない場合と比べて、先端Waは、鈍角側内壁部27の壁面方向に対してより浅い角度を成しつつスムーズに摺動することができる。そのため、ガイドワイヤWはより容易にその中心軸を中心に回転することができ且つより効率的に付形することができる。こうして、ガイドワイヤ付形具11によって、均一な、ガイドワイヤWの付形加工の容易さと付形の品質とを得ることができる。
【0058】
図16は、使用者がガイドワイヤWを送り込み続け、付形部25内において大きな環状を描いて反時計回りに曲がり、先端Waが上向きから左向きへと向きを変えながら折り返した状態を表わす。その結果、先端Waは出口部24に戻る。そして、
図10(b)と同様に先端Waは鈍角側出口部32に進入した後に閉塞部32bに突き当たって制止される。
【0059】
また、
図16において先端Waが閉塞部32bによって制止される後に、使用者は、保持部17を手指によって下降させ、凹状部35を下向きにガイドワイヤWに押し付けることにより保持部17の下端部34と第1の本体部14との間においてガイドワイヤWを保持する。このように、保持部17を下降させてから、後述する
図23のようにガイドワイヤWの付形が完了するまでの工程を引出し工程S130とよぶ。
【0060】
この引出し工程S130においては、ガイドワイヤWの先端Wa及びその付近を含む後側ガイドワイヤWbが保持部17によって下向きに押し付けられて保持されている。その状態で、使用者は開口部22から出ているガイドワイヤWを左向きに引っ張り、入口通路部23から引き出す。これにより、
図16のように付形部25内部に環状に配置されているガイドワイヤWの一部が鋭角側出口部33を経て付形部25から排出される。このとき、前側ガイドワイヤWfは押し付けられていないため左向きに自在に移動することができる。そして、付形部25内部にとどまるガイドワイヤWの残部は、環状の周囲が小さくなることに伴って環状の径が小さくなるように付形される。
【0061】
こうして、ガイドワイヤ付形具11の使用者は、最初にガイドワイヤWを送り込みその先端Waが鈍角側内壁部27に沿って摺動して出口部24に到達したのち、逆に、ガイドワイヤWを部分的に開口部22から引き出す。そして、付形部25内部のガイドワイヤWの環径を縮小させることによりガイドワイヤWを環状に付形することができる。このとき、保持部17が後側ガイドワイヤWbを保持することにより、先端Waの位置を確実に固定することができ、また、後側ガイドワイヤWbが片側部分の鈍角側出口部32において保持されることにより、引き出そうとする側の前側ガイドワイヤWbをもう片側部分の鋭角側出口部33に通すことができる。そのため、より効率的にガイドワイヤWの環径を縮小して付形加工を行うことが可能となる。
【0062】
また、使用者は、ガイドワイヤWを開口部22から引き出し始めるとともに、手指によりスライド部16を前向きに押してレール部21を摺動させるように前側にスライドする。
【0063】
図17は、付形部25内部にとどまるガイドワイヤWの残部の環径が次第に縮小される過程の状態を示す。
図18は、
図17のうち出口部24及びガイドワイヤWの環状部分の付近を拡大した拡大平面図である。鈍角側出口32における前向きの内壁である鈍角側出口対向部41と、鋭角側出口33における後ろ向きの内壁である鋭角側出口対向部42とは前後方向に対向する。そして、鋭角側内壁部28のうち鋭角側出口対向部42と隣り合う一部分を鋭角側出口隣接部43とよぶ。鋭角側出口隣接部43は右側ほど前側に位置するような斜面を形成している。これらの鋭角側出口対向部42と鋭角側出口隣接部43とは、スライド16の一部を構成する。すなわち、鋭角側出口対向部42と鋭角側出口隣接部43とを含むスライド16が第1の本体部14に対する入れ子を形成している。
図19は、鈍角側出口対向部41と鋭角側出口対向部42とを見易くするための、保持部17とガイドワイヤWとを表わさない状態の図である。
【0064】
図17及び
図18のようにスライド部16が前側にスライドすることにより、スライドした分の距離だけ、鋭角側出口対向部42及び鋭角側出口隣接部43は前向きに移動する。これにより、鈍角側出口対向部41と鋭角側出口対向部42との間隔が前後方向に拡がり、また、鈍角側内壁部27と鋭角側出口隣接部43との間隔が前後方向に拡がる。そのため、鋭角側出口対向部42及び鋭角側出口隣接部43が前向きに移動しなかった場合と比べて、前側ガイドワイヤWfは前側に位置する。こうして、ガイドワイヤWの環状部分は広がることができ、その曲率は移動しなかった場合よりも大きい。
【0065】
図20は、使用者が
図17及び
図18の状態よりもさらにガイドワイヤWを開口部22から引き出し、かつ、スライド部16を前向きに押してレール部21を摺動させるようにさらにスライドした状態を示す。
図21は、
図18と同様に
図20のうち出口部24及びガイドワイヤWの環状部分の付近を拡大した拡大平面図である。これらのように、鈍角側出口対向部41と鋭角側出口対向部42との間隔及び鈍角側内壁部27と鋭角側出口隣接部43との間隔を拡げるステップを拡張ステップS131とよぶ。
【0066】
このように、スライド部16がさらに前側にスライドすることにより、スライドした距離が長い分だけ、鋭角側出口対向部42及び鋭角側出口隣接部43はさらに前向きに移動する。これにより、鈍角側出口対向部41と鋭角側出口対向部42との間隔がさらに前後方向に拡がり、また、鈍角側内壁部27と鋭角側出口隣接部43との間隔がさらに前後方向に拡がる。そのため、尚更にガイドワイヤWの環状部分の曲率は、移動しなかった場合よりも大きい。
【0067】
ところで、ガイドワイヤWをJ字状に折り返す付形加工を行うときは、折り返す際に曲げるために加えられた力が大き過ぎれば、塑性変形後に残る特定の向きの応力が大きい。これにより、ガイドワイヤWを後述する取外し工程においてガイドワイヤ付形具11から外した後に折り返した部分が首を垂れるように曲がってしまう状態に至る場合がある。すなわち、鈍角を成す側に曲がりつつ先端Waが鈍角側内壁部27に沿って折り返して付形されるガイドワイヤWについて、折り返し部分ごと、その折り返した向きにさらに湾曲してしまう状態が生じる。このように、折り返し部分ごとさらに湾曲する状態の一例を
図22(a)に表わす。なお、こうした塑性変形による特定の向きの応力が過度に残存する状態を「扱き(しごき)」が加えられた状態ともいう。
【0068】
特に、ガイドワイヤWの環径を縮小して付形加工するとき、鈍角側出口対向部41と鋭角側出口対向部42との間隔及び鈍角側内壁部27と鋭角側内壁部28との間隔が狭いと、送られるガイドワイヤWの環状部分の曲率が小さい。そのため、ガイドワイヤWは、こうした曲率が小さい状態で送られることによって強い扱きが加えられてしまう。その結果、ガイドワイヤの折り返し部分は、
図22(a)のように図の上向きに不必要に曲がってしまいがちである。
【0069】
これに対して、本発明のガイドワイヤ付形具11は、スライド部16をスライドし、鈍角側出口対向部41と、スライド部16の一部を成す鋭角側出口対向部42との間隔、および、鈍角側内壁部27と、スライド部16の一部を成す鋭角側出口隣接部43との間隔を拡げることにより、送られている状態のガイドワイヤWを緩やかな曲線を描くように付形することができ、その結果、前記の折り返される部分の曲率を大きくすることができる。これにより、ガイドワイヤWに加えられる扱きを緩和することができ、
図22(a)のように、折り返した部分が首を垂れるように曲がってしまう状態を避けることができる。
【0070】
また、本発明のガイドワイヤ付形具11は、スライド部16がレール部21に沿ってスライド可能なため、これらの間隔を自在に変更することができる。これにより、前記の折り返される部分の曲率を調整することができ、使用者の希望に従って、折り返した部分の曲がり具合又は反り返し具合を程よく調整することができる。ここでいう反り返しとは、
図22(b)が示す例のように、ガイドワイヤの折り返し部分が図の下向きに反り返す状態を指す。この反り返しは、ガイドワイヤWが引っ張られて付形部25から入口通路部23に吸い込まれるとき、付形部25内と逆に環状の外向きに曲がる際の扱きによって生じる。この箇所を
図21における符号Sにより例示する。以上により、本発明のガイドワイヤ付形具11はより容易に希望する形状に付形することが可能となる。
【0071】
図23は、ガイドワイヤWの引出しを経てその付形が完了した状態を示す。この状態に至るまでの工程が引出し工程S130である。付形の完了後に、作業者は保持部17を上昇させて、ガイドワイヤWに対する押し付けによるガイドワイヤWの保持を止める。その上で、作業者は蝶番を開く、ボルト及びナットを外すなどによって第1の本体部14と第2の本体部15との接合を解除する。これにより、第1の分割面14aを露出させて作業者は付形後のガイドワイヤWをガイドワイヤ付形具11から取り外す。このように、保持部17を上昇させてからガイドワイヤWをガイドワイヤ付形具11から取り外すまでの工程を取外し工程S140とよぶ。
【0072】
このように、ガイドワイヤ付形具11において本体13が第1の本体部14と第2の本体部15とに分割されこれらを自在に接合し、また、接合を解除することができるため、使用者は、付形後のガイドワイヤWを容易にガイドワイヤ付形具11から取り外すことができる。そして、次に別のガイドワイヤWを付形するために、各本体部14、15同士を再度接合することができる。また、ガイドワイヤWの取外しだけのためでなく、入口通路部23、付形部25などに対して清掃、保守等を行うときなどにも各分割面14a,15a同士が離れるように露出させて容易に作業することができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について例示したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0074】
例えば、上記の例においては保持部17がガイドワイヤ付形具11の上側から下向きに嵌入される実施形態を示したが、保持部はガイドワイヤ付形具の下側から上向きに嵌入されてもよい。そして、準備工程S110において、これに合った第1の本体部114、第2の本体部115及び保持部117を準備してもよい。
図25は、この異なる実施形態におけるガイドワイヤ付形具111の左側面を表わす。このガイドワイヤ付形具111において、保持部117は、その上側の一部が第1の本体部114を上下方向に貫通する孔114bに嵌入される。この保持部117は、孔114bに沿って上昇することにより、先端Waとその付近のガイドワイヤWを下側から上向きに押すことができる。このとき、先端Waとその付近のガイドワイヤWは第2の本体部115によって上支えられているため、保持部117によって本体に押し付けらえて保持される状態となる。
【0075】
また、引出し工程S130において、
図23の状態を経た後においても、スライド部16のスライドによる往復動を繰り返す、または、ガイドワイヤWの送込みと引出しとを繰り返してもよく、しかも、これらを共に行ってもよい。このときに、スライド部16の後端部31がガイドワイヤWの折り返し部分を後ろ向きに押すことができ、使用者は、この折り返し部分を僅かずつに変形させることによって希望に合わせて形状を微細に調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、カテーテルイントロデューサなどの血管への挿入及び留置を容易にするための柔軟性のあるワイヤ状の器具であるガイドワイヤを付形するためのガイドワイヤ付形具及びガイドワイヤ付形方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0077】
11,111 ガイドワイヤ付形具
13 本体
14,114 第1の本体部
14a 第1の分割面
114b 孔
15,115 第2の本体部
15a 第2の分割面
15b 孔
16 スライド部
16a 側面
16b 底面
17,117 保持部
21 レール部
21a 側壁
21b 底壁
22 開口部
23 入口通路部
C 入口通路部の中心線
C´ 入口通路部の中心線の延長線
24 出口部
25 付形部
25a 内壁
26 延長線交差部
27 鈍角側内壁部
28 鋭角側内壁部
31 後端部
31a 制止面
31b 背面
32 鈍角側出口部
32a 内壁
32b 閉塞部
33 鋭角側出口部
W ガイドワイヤ
Wa 先端
Wb 後側ガイドワイヤ
Wf 前側ガイドワイヤ
34 下端部
35 凹状部
41 鈍角側出口対向部
42 鋭角側出口対向部
43 鋭角側出口隣接部
S100 ガイドワイヤ付形方法
S110 準備工程
S120 送込み工程
S130 引出し工程
S131 拡張ステップ
S140 取外し工程