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特開2023-107018傾斜地の地盤安定化施工効果を判定する方法及びプログラム並びにシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107018
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】傾斜地の地盤安定化施工効果を判定する方法及びプログラム並びにシステム
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20230726BHJP
   E02D 1/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
E02D17/20 106
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008097
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】505398941
【氏名又は名称】東日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510155313
【氏名又は名称】地質計測株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100077539
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 義仁
(72)【発明者】
【氏名】三塚 隆
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 国臣
(72)【発明者】
【氏名】竹本 将
(72)【発明者】
【氏名】村上 豊和
(72)【発明者】
【氏名】久田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳
【テーマコード(参考)】
2D043
2D044
【Fターム(参考)】
2D043AB07
2D043AC01
2D043AC05
2D044EA07
(57)【要約】
【課題】地盤安定化施工効果を定量的に判定する。
【解決手段】地盤安定性を評価するために、傾斜地の複数の地点から振動計測情報を取得する第1ステップ(S1)、前記取得した各振動計測情報を周波数分析することにより、前記複数の地点における振動の周波数特性を取得する第2ステップ(S2)、前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性に基づき前記傾斜地の安定性を評価する第3ステップ(S3)、を実行する。該傾斜地の地盤安定化施工効果を判定をするために、安定化施工前に、前記第1乃至第3ステップを行うことにより、施工前の安定性評価結果を取得する第4ステップ(S6)、安定化施工後に、前記第1乃至第3ステップを行うことにより、施工後の安定性評価結果を取得する第5ステップ(S8)、施工前及び後の安定性評価結果の比較に基づき施工効果を判定する第6ステップ(S9)、を実行する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜地の複数の地点から振動計測情報を取得する第1ステップと、
前記取得した各振動計測情報を周波数分析することにより、前記複数の地点における振動の周波数特性を取得する第2ステップと、
前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性に基づき前記傾斜地の安定性を評価する第3ステップと、
前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前に、前記第1乃至第3ステップを行うことにより、施工前の安定性評価結果を取得する第4ステップと、
前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行った後に、前記第1乃至第3ステップを行うことにより、施工後の安定性評価結果を取得する第5ステップと、
前記施工前の安定性評価結果と前記施工後の安定性評価結果との比較に基づき施工効果を判定する第6ステップ、
を備える地盤安定化施工効果を判定する方法。
【請求項2】
前記第3ステップは、前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性を示す指標として、前記複数の地点における振動の周波数成分毎の振幅比を求めることを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
前記第3ステップは、前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性を示す指標として、前記複数の地点における振動の周波数成分毎のコヒーレンスを求めることを含む、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記第3ステップは、前記振幅比又は前記コヒーレンスが1に近いほど前記傾斜地の安定性が高いと評価する、請求項2又は3の方法。
【請求項5】
前記第6ステップは、前記施工前の安定性評価結果を示す第1の数値と前記施工後の安定性評価結果を示す第2の数値の比又は差に基づき、施工効果を示す数値を算出するステップを含む、請求項1乃至4のいずれかの方法。
【請求項6】
前記第1の数値は、所定の周波数帯域についての前記施工前の安定性評価結果の平均値又は代表値であり、前記第2の数値は、所定の低周波数帯域についての前記施工後の安定性評価結果の平均値又は代表値である、請求項6の方法。
【請求項7】
前記第6ステップは、所定の低周波数帯域についての前記施工前の安定性評価結果と前記施工後の安定性評価結果との比較に基づき施工効果を判定する、請求項1乃至6のいずれかの方法。
【請求項8】
コンピュータに、請求項1乃至7のいずれかの方法における前記各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項9】
振動計と、
前記振動計を介して傾斜地の複数の地点から取得した各振動計測情報を周波数分析することにより、該複数の地点における振動の周波数特性を取得する第1手段と、
前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性に基づき、前記傾斜地の安定性を評価する第2手段と、
前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前に前記第1及び第2手段を介して取得される安定性評価結果と、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行った後に前記第1及び第2手段を介して取得される安定性評価結果とを比較し、この比較に基づき施工効果を判定する第3手段と、
を備える地盤安定化施工効果を判定するためのシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や鉄道沿いの斜面や住宅地の急傾斜面など、傾斜地の地盤を安定化するための施工の効果を判定する方法に関し、さらには、そのためのプログラム及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
振動を計測することに基づき地盤構造を判定する手法として、下記特許文献1に示されたものがある。特許文献1に開示された技術は、振動計測情報を周波数分析することに基づき表面波を抽出し、表面波の分散曲線から地盤構造を推定するようにしている。しかし、傾斜地の地盤の安定性を評価することに関しては示唆がない。傾斜地の地盤の安定性を評価する技術としては、例えば下記特許文献2~4に示されたものがある。特許文献2は、斜面の力学モデルと降雨量データに基づいて斜面の崩壊危険度を判定することを開示している。特許文献3は、斜面の複数箇所に受振器を設置し、各箇所の振動特性を比較することにより斜面の安定性を評価することを開示している。特許文献4は、斜面の複数の観測点を測位衛星で観測し、各観測点の変位速度に基づき斜面の安定性を評価することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-12291号公報
【特許文献2】特開2002-70029号公報
【特許文献3】特開2003-149044号公報
【特許文献4】特開2020-84589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
傾斜地は、その地盤の安定性が悪いと、地滑りが生じる等の問題がある。そのため、上記特許文献1~4に示すように、傾斜地の地盤の安定性を適切に評価することが行われている。一方、傾斜地の地滑り等を防止し安定化を図るために、グラウンドアンカー等を施工することが行われている。しかし、地盤安定化施工効果を定量的に判定する手法は存在していない。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、傾斜地の地盤安定化施工効果を判定する方法及びプログラム並びにシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る地盤安定化施工効果を判定する方法は、傾斜地の複数の地点から振動計測情報を取得する第1ステップと、前記取得した各振動計測情報を周波数分析することにより、前記複数の地点における振動の周波数特性を取得する第2ステップと、前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性に基づき前記傾斜地の安定性を評価する第3ステップと、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前に、前記第1乃至第3ステップを行うことにより、施工前の安定性評価結果を取得する第4ステップと、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行った後に、前記第1乃至第3ステップを行うことにより、施工後の安定性評価結果を取得する第5ステップと、前記施工前の安定性評価結果と前記施工後の安定性評価結果との比較に基づき施工効果を判定する第6ステップ、を備える。
【0007】
本発明によれば、傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前と後の安定性評価結果をそれぞれ取得し、これらの安定性評価結果の比較に基づき地盤安定化施工効果を定量的に把握することができる。
【0008】
本発明は方法の発明として構成し実施することができるのみならず、装置(システム)の発明として構成し実施することができる。また、本発明は、コンピュータまたはDSP等のプロセッサのプログラムの形態で実施することができるし、そのようなプログラムを記憶した記憶媒体の形態で実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る方法を実施するために使用される装置/システムの構成例を示すブロック図。
図2図1に示したシステムを使用して行われる本発明に係る方法の一実施例を示すフローチャートであり、(a)は地盤安定性評価ルーチンを示す図、(b)は施工効果判定ルーチンを示す図。
図3】本発明に係る方法を実施する対象とし得る傾斜地の一例を示す外観斜視図であって、地盤安定化のための施工前の状態を示す図。
図4図3に例示した傾斜地の縦断面略図であり、(a)は地盤安定化のための施工前の状態を示す図、(b)は施工後の状態を示す図。
図5】施工前及び施工後の安定性評価結果の一例として、周波数成分毎の振幅比(応答倍率)を指標とする安定性評価結果を示すグラフ。
図6】施工前及び施工後の安定性評価結果の一例として、周波数成分毎のコヒーレンスを指標とする安定性評価結果を示すグラフ。
図7】施工前及び施工後の安定性評価結果の代表値の一例として、図5に示すような周波数成分毎の振幅比(応答倍率)の所定の低周波数帯域(例えば略3~15Hz)における平均値を、各計測地点対についてプロットした例を示すグラフ。
図8】施工前及び施工後の安定性評価結果の代表値の一例として、図6に示すような周波数成分毎のコヒーレンスの所定の低周波数帯域(例えば略3~15Hz)における平均値を、各計測地点対についてプロットした例を示すグラフ。
図9図7に示すような施工前及び施工後の応答倍率の比(増加率=施工後÷施工前)を、各地点対(No.1~No.4)についてプロットした例を示すグラフ。
図10図8に示すような施工前及び施工後のコヒーレンスの比(増加率=施工後÷施工前)を、各地点対(No.1~No.4)についてプロットした例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[システム構成]
図1は、本発明に係る方法を実施するために使用される装置/システムの構成例を示すブロック図である。このシステムは、1又は複数の振動計1とモバイルコンピュータ2を備える。1つの振動計1は、振動の3次元成分(X,Y,Z)を計測し得るもので、例えば3次元の各軸方向(X,Y,Z)の速度又は加速度を感知するセンサを内蔵している。この振動計1は、計測対象である地盤(本実施例では傾斜地)に設置され、3次元の各成分(X,Y,Z)についての振動計測情報を出力するように構成されている。振動計1で計測された振動計測情報は、データ取込部20を介してデジタルの振動計測情報としてコンピュータ2に取り込まれる。モバイルコンピュータ2は、携帯式の小型コンピュータであり、周知のように、CPU(中央処理装置)21、メモリ(電子メモリ及びハードディスク等を含む)22、ディスプレイ及びユーザインタフェース(UI/F)部23、通信インタフェース24等を含む。
【0011】
コンピュータ2のメモリ22内には、本発明に係る方法を実施するためのアプリケーションプログラムが記憶されている。コンピュータ2は、振動計1で計測された振動計測情報に基づいてこのアプリケーションプログラムを実行することにより、傾斜地の地盤安定化施工効果を判定するための装置としての機能を実現するように構成されている。図中のコンピュータ2のブロック枠内に、代表的なプログラムモジュールとして、周波数分析モジュールM1、地盤安定性評価モジュールM2、施工効果判定モジュールM3を例示してある。
【0012】
周波数分析モジュールM1は、計測対象地盤である傾斜地の任意の地点に設置された振動計1から取得した振動計測情報を周波数分析することにより、該地点における振動の周波数特性(周波数応答関数)を取得する処理を行う。振動計1を前記傾斜地の複数の地点に設置し、各地点から取得した振動計測情報に関して、周波数分析モジュールM1による処理を行うによって、該複数の地点における振動の周波数特性を取得することができる。この周波数分析モジュールM1を実行することにより、コンピュータ2は、振動計1を介して傾斜地の複数の地点から取得した各振動計測情報を周波数分析することにより、該複数の地点における振動の周波数特性を取得する第1手段として機能する。
【0013】
なお、地盤はどんなに静かな場所でも人が感じることができない振動で常に揺れていることが知られており、振動計1は、地盤の微小な揺れでも検知してその振動計測信号を出力するように構成されている。このように、振動計1は計測対象地盤における自然な振動を計測するものであり、本発明の実施にあたっては、格別の振動発生装置を用いて振動を発生させる必要はない。また、コンピュータ2は、各地点に対応して振動計1から取得した振動計測信号のデジタルデータをメモリ22内に記録し得るように構成されている。
【0014】
地盤安定性評価モジュールM2は、前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性に基づき、前記傾斜地の安定性を評価する処理を行う。この地盤安定性評価モジュールM2を実行することにより、コンピュータ2は、前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性に基づき、前記傾斜地の安定性を評価する第2手段として機能する。一例として、周波数特性の関連性を示す指標として、2つの計測地点における周波数成分毎の振幅比(応答倍率)を求めることを含んでいてよく、及び/又は、該2つの計測地点における周波数成分毎のコヒーレンスを求めることを含んでいてよい。例えば、この振幅比(応答倍率)が1に近いほど、両計測地点における揺れの特性が近似しており、地盤の安定性が高いと評価され得る。また、コヒーレンスの強度が1に近いほど、両計測地点における揺れの特性が近似しており、地盤の安定性が高いと評価され得る。このように、地盤安定性評価モジュールM2の処理による安定性評価結果は、具体的な数値(評価値)として提示され得る。
【0015】
施工効果判定モジュールM3は、計測対象地盤である前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前に前記周波数分析モジュールM1及び地盤安定性評価モジュールM2による処理を介して取得される安定性評価結果と、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行った後に前記周波数分析モジュールM1及び地盤安定性評価モジュールM2による処理を介して取得される安定性評価結果とを比較し、この比較に基づき施工効果を判定する処理を行う。この施工効果判定モジュールM3を実行することにより、コンピュータ2は、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前に前記第1及び第2手段(モジュールM1,M2)を介して取得される安定性評価結果と、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行った後に前記第1及び第2手段(モジュールM1,M2)を介して取得される安定性評価結果とを比較し、この比較に基づき施工効果を判定する第3手段として機能する。
【0016】
一例として、施工効果判定モジュールM3は、施工前の安定性評価結果を示す第1の数値と施工後の安定性評価結果を示す第2の数値の比又は差に基づき、施工効果を示す数値を算出する。例えば、施工前後の安定性評価結果(評価値)の比が1に近い、若しくはその差が0に近い場合は、施工前後の地盤安定性に余り変化がみられないことを意味するので、施工による効果は大きくなかったと判定し得る。これに対して、施工前後の安定性評価結果(評価値)の比が1に近くない、若しくはその差が大きい場合は、施工による効果が大きかったと判定し得る。このように、地盤安定化のために実際に行った施工の効果を定量的に判定することができる。
【0017】
また、一例として、前記第1の数値は、所定の周波数帯域についての前記施工前の安定性評価結果の平均値であり、前記第2の数値は、所定の周波数帯域についての前記施工後の安定性評価結果の平均値であってよい。あるいは、平均値に限らず、該第1及び第2の数値は、他の適宜の基準に従う代表値(例えば最小値若しくは最大値のような代表値)であってもよい。このように平均値又は代表値に基づき施工効果を示す数値を算出することにより、1つ又は限られた数の代表的な数値によって、施工効果を提示することができるので、非常に判りやすいものとなる。所定の周波数帯域とは、例えば、所定の低周波数帯域である。
【0018】
さらに、一例として、施工効果判定モジュールM3は、所定の低周波数帯域についての前記施工前の安定性評価結果と前記施工後の安定性評価結果との比較に基づき施工効果を判定する。所定の低周波数帯域とは、地盤のゆっくりとした揺れが属する周波数帯域であり、例えば、3乃至15Hz程度の範囲である。このようなゆっくりとした揺れが属する周波数帯域においては、地盤安定化施工効果の程度が顕著に現れ易い。したがって、全ての周波数帯域にわたって施工前後の安定性評価結果の比較を行うことなく、所定の低周波数帯域について施工前後の安定性評価結果の比較を行えばよい。
【0019】
[方法及びプログラムの一例]
図2は、図1に示したシステムを使用して実行することができる本発明に係る方法の一実施例を示すフローチャートである。(a)は地盤安定性評価ルーチンを示し、これは、コンピュータ2が前記周波数分析モジュールM1及び地盤安定性評価モジュールM2を実行することに基づき行われる。(b)は施工効果判定ルーチンを示し、これは、コンピュータ2が前記施工効果判定モジュールM3を実行することに基づき行われる。
【0020】
図2(a)において、ステップS1では、計測対象地盤である傾斜地の複数の地点に設置した振動計1から振動計測情報を取得し、コンピュータ2のメモリ22に記憶する(これを便宜上第1ステップという)。次に、ステップS2では、取得した各振動計測情報を周波数分析することにより、前記複数の地点における振動の周波数特性を取得し、コンピュータ2のメモリ22に記憶する(これを便宜上第2ステップという)。このステップS2の処理は、前記周波数分析モジュールM1により行われる。次に、ステップS3では、前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性に基づき前記傾斜地の安定性を評価する(これを便宜上第3ステップという)。このステップS3の処理は、前記地盤安定性評価モジュールM2により行われる。ステップS3の処理によって得られた安定性評価結果は、計測対象とした前記複数の地点に対応付けてコンピュータ2のメモリ22内に記憶される(ステップS4)。具体的には、ステップS3の処理において、前記複数の地点における振動の周波数特性の関連性を示す指標として、2つの地点における周波数成分毎の振幅比(応答倍率)を求めること、及び、該2つの地点における周波数成分毎のコヒーレンスを求めることを行う。計測地点を3以上に設定する場合は、適宜の2つの地点からなる対毎に、各対の2地点における周波数成分毎の振幅比(応答倍率)とコヒーレンスを求めればよい。ステップS4においては、ステップS3で求めた振幅比(応答倍率)及びコヒーレンスを、各対の2地点における安定性評価結果としてメモリ22内に記憶する。
【0021】
施工効果判定を行う場合は、まず、計測対象地盤である前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前に、図2(b)の施工効果判定ルーチンを起動する。図2(b)において、ステップS5では、計測対象地盤である前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前であるか否かを判断する。施工前であれば、S5のYESからステップS6に行き、図2(a)に示す前記地盤安定性評価ルーチンを行うことにより、施工前の安定性評価結果を取得する。取得した施工前の安定性評価結果は、前述のステップS4の処理により、メモリ22内に保存される。すなわち、ステップS5及びS6によって行われる処理は、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行う前に、前記第1乃至第3ステップ(地盤安定性評価ルーチン)を行うことにより、施工前の安定性評価結果を取得する処理であり、これを便宜上第4ステップという。ステップS6を行った後はリターンし、地盤安定化のための施工が行われるまで(施工が終了するまで)待機する。
【0022】
次に、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を終了した後に、図2(b)の施工効果判定ルーチンを再起動する。施工終了後であるから、図2(b)のステップS5はNOに分岐し、ステップS7に進む。ステップS7では、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を終了したか否かを判断する。施工終了したならば、S7のYESからステップS8に行き、図2(a)に示す前記地盤安定性評価ルーチンを行うことにより、施工後の安定性評価結果を取得する。なお、このステップS8では、前記ステップS6で取得したのと同じ2地点の各対に関して、施工後の安定性評価結果をそれぞれ取得する。取得した施工後の安定性評価結果は、前述のステップS4の処理により、メモリ22内に保存される。すなわち、ステップS7及びS8によって行われる処理は、前記傾斜地の地盤を安定化するための施工を行った後に、前記第1乃至第3ステップ(地盤安定性評価ルーチン)を行うことにより、施工後の安定性評価結果を取得する処理であり、これを便宜上第5ステップという。ステップS8の後、ステップS9に進む。
【0023】
ステップS9では、メモリ22内に保存した前記施工前の安定性評価結果と前記施工後の安定性評価結果との比較に基づき施工効果を判定する(これを便宜上第6ステップという)。このステップS9の処理は、前記施工効果判定モジュールM3により行われる。具体例として、ステップS9では、施工前の安定性評価結果を示す第1の数値と施工後の安定性評価結果を示す第2の数値の比(増加率)に基づき、施工効果を示す数値を算出する。さらに具体的には、前記第1の数値は、所定の低周波数帯域(例えば3乃至15Hz程度の周波数帯域)についての前記施工前の安定性評価結果の平均値であり、前記第2の数値は、該所定の低周波数帯域についての前記施工後の安定性評価結果の平均値である。算出された施工効果を示す数値は、メモリ22内に保存されて、その後の必要に応じて随時読み出され得るようにしてよいし、また、ディスプレイ23等を介して適宜表示されるようにしてよい。こうして、数値によって明確に施工効果を提示することができるようになる。
【0024】
[実例]
さらに、図3以降の図も参照して、本発明に係る方法の実施例を説明する。図3は、地盤安定化のための施工前の状態を示す傾斜地の一例を示す外観斜視図であり、図4(a)はその縦断面略図である。図4(b)は地盤安定化施工後の状態を示す該傾斜地の縦断面略図である。
【0025】
図3は、例えば建設中の高速道路において地すべりが進行している斜面を示しており、該斜面の上部領域30においては既に複数のグラウンドアンカー32の埋め込み設置による地盤安定化工事が完了している状態を示している。該斜面の下部領域31は、地山のままであり、地盤安定化工事が未だ行われていない。本実施例においては、この下部領域31を対象として行う地盤安定化施工の施工効果を判定する例について説明する。
【0026】
施工前の安定性評価
判定対象とする領域(下部領域31)における地盤安定化施工前の振動特性を計測するために、複数の振動計1を該判定対象とする領域(下部領域31)の適宜の地点に分散して配置する。一例として、該判定対象とする領域(下部領域31)の上部箇所31aに、横並びに、ほぼ同じ高さで、適宜の間隔を空けて、5台の振動計1を設置する。便宜上、各振動計1を設置する地点を、符号No.1, No.2, No.3, No.4, No.5 で区別する(図1及び図3参照)。例えば、地点No.5を基準とし、基準の地点No.5に対して、地点No.4, No.3, No.2, No.1の順で距離が離れているとする。追って述べるように、基準の地点No.5に対して他の各地点が対をなし、4つの対(No.5とNo.4の対、No.5とNo.3の対、No.5とNo.2の対、No.5とNo.1の対)に関して振動の周波数特性の関連性をそれぞれ評価することにより、地盤安定性を評価する。
【0027】
このように振動計1を設置し、施工効果判定ルーチン(図2(b))を起動すると、コンピュータ2(図1)は、各地点No.1~No.5における振動計測情報をデータ取込部20を介して入力する。施工前であるから、コンピュータ2は図2(b)に示す施工効果判定ルーチンのステップS6を実行する。ステップS6では、コンピュータ2に入力された各地点No.1~No.5における振動計測情報に基づき、図2(a)に示す地盤安定性評価ルーチンを実行する。具体的には、取得した各振動計測情報を周波数分析することにより各地点No.1~No.5における振動の周波数特性(周波数応答関数)を取得し(図2(a)のS2)、各地点No.1~No.5における振動の周波数特性の関連性に基づき前記判定対象とする領域(下部領域31)の安定性を評価する(図2(a)のS3、S4)。なお、振動計1は、物理的に別個の5台の振動計1を用意して各地点No.1~No.5に設置してもよいし、あるいは、物理的には1台の振動計1のみを用意し、これを各地点No.1~No.5に順に置き換えて設置することで各地点No.1~No.5における振動計測情報を順次にコンピュータ2に取込み記憶させるようにしてもよい。
【0028】
一例として、施工効果判定ルーチンのステップS6で行われる地盤安定性評価ルーチンのステップS3においては、各計測地点No.1~No.5における振動の周波数特性の関連性として、対を成す2つの地点における周波数成分毎の振幅比(応答倍率)を対毎に求めること、及び、該対を成す2つの地点における周波数成分毎のコヒーレンスを対毎に求めることを行う。これにより、各対(地点No.5とNo.4の対、No.5とNo.3の対、No.5とNo.2の対、No.5とNo.1の対)についての周波数成分毎の振幅比(応答倍率)からなるデータが、施工前の第1タイプの安定性評価結果として、各3次元軸方向(X,Y,Z)についてそれぞれ算出され、メモリ22内に記憶される。また、各対(地点No.5とNo.4の対、No.5とNo.3の対、No.5とNo.2の対、No.5とNo.1の対)についての周波数成分毎のコヒーレンスからなるデータが、施工前の第2タイプの安定性評価結果として、各3次元軸方向(X,Y,Z)についてそれぞれ算出され、メモリ22内に記憶される。このように異なる2タイプ(応答倍率とコヒーレンス)の地盤安定性評価を行うことにより、安定性評価精度を高めることができる。なお、2タイプ(応答倍率とコヒーレンス)に限らず、どちらか一方のみであってもよく、あるいは他のタイプの周波数特性の関連性に基づき鑑定性を評価してもよい。
【0029】
図5及び図6は、地盤安定性評価ルーチンのステップS3において求められる安定性評価結果の一例を示す図であり、図5は第1タイプの指標に関する安定性評価結果すなわち周波数成分毎の振幅比(応答倍率)の一例を示し、図6は第2タイプの指標に関する安定性評価結果すなわち周波数成分毎のコヒーレンスの一例を示す。図5及び図6共に、地点No.5とNo.1の対についての安定性評価結果を示している。また、図5及び図6において、(a)はX方向の振動成分についての安定性評価結果を示し、(b)はY方向の振動成分についての安定性評価結果を示し、(c)はZ方向の振動成分についての安定性評価結果を示す。図5及び図6共に横軸は周波数(Hz)を示し、図5の縦軸は振幅比(応答倍率)を示し、図6の縦軸はコヒーレンスを示す。特に図示しないが、他の対(地点No.5とNo.4の対、No.5とNo.3の対、No.5とNo.2の対)についても同様に、周波数成分毎の振幅比(応答倍率)及びコヒーレンスについての安定性評価結果が得られる。なお、図5において、符号Rpで示した特性は、前記ステップS6の処理によって取得される施工前の安定性評価結果(応答倍率)を示す。また、図6において、符号Cpで示した特性は、前記ステップS6の処理によって取得される施工前の安定性評価結果(コヒーレンス)を示す。
【0030】
或る周波数成分の振幅比(応答倍率)は、その値が1に近いほど、計測対象たる2地点における地盤の安定性が高いと評価し得る指標となる。すなわち、計測対象たる2地点における当該周波数成分の振幅が等しければその振幅比(応答倍率)は1であり、両者の振幅が相違していれば、その相違に応じて1から遠ざかる値を示す。同様に、或る周波数成分のコヒーレンス(相関性)は、その値が1に近いほど、計測対象たる2地点における地盤の安定性が高いと評価し得る指標となる。すなわち、計測対象たる2地点における当該周波数成分の相関性が高ければそのコヒーレンスは1であり、両者の相関性が低ければ、それに応じて1から遠ざかる値を示す。例えば、図5において、振幅比(応答倍率)についての施工前の安定性評価結果を示す値Rpは、略3~15Hz程度の帯域で比較的高い値を示しているが、それでも0.1前後であり、1にはかなり遠い。これは地盤安定性が低いことを示している。同様に、図6において、コヒーレンスについての施工前の安定性評価結果を示す値Cpは、略3~15Hz程度の帯域で比較的高い値を示しているが、それでも0.1前後であり、1にはかなり遠い。これも地盤安定性が低いことを示している。
【0031】
施工後の安定性評価
その後、図3に示された斜面の下部領域31を対象として行う地盤安定化施工を行う。図4(b)は地盤安定化施工後の状態を示しており、下部領域31における地山を削った後の斜面に複数のグラウンドアンカー33をすべり線よりも深く埋め込み設置し、これにより地盤を安定化させている。この施工終了後に、判定対象とする領域(下部領域31)における地盤安定化施工後の振動特性を計測するために、施工前に計測を行ったのと同じ地点No.1~No.5に振動計1をそれぞれ設置する。
【0032】
このように振動計1を設置し、施工効果判定ルーチン(図2(b))を再起動すると、コンピュータ2(図1)は、各地点No.1~No.5における振動計測情報をデータ取込部20を介して入力する。施工終了後であるから、コンピュータ2は図2(b)に示す施工効果判定ルーチンのステップS8を実行する。ステップS8では、コンピュータ2に入力された各地点No.1~No.5における振動計測情報に基づき、図2(a)に示す地盤安定性評価ルーチンを実行する。施工効果判定ルーチンのステップS8で行われる地盤安定性評価ルーチンのステップS3においては、前述と同様に、各計測地点No.1~No.5における振動の周波数特性の関連性として、対を成す2つの地点における周波数成分毎の振幅比(応答倍率)を対毎に求めること、及び、該対を成す2つの地点における周波数成分毎のコヒーレンスを対毎に求めることを行う。これにより、各対(地点No.5とNo.4の対、No.5とNo.3の対、No.5とNo.2の対、No.5とNo.1の対)についての周波数成分毎の振幅比(応答倍率)からなるデータが、施工後の第1タイプの指標に関する安定性評価結果として、各3次元軸方向(X,Y,Z)についてそれぞれ算出され、メモリ22内に記憶される。また、各対(地点No.5とNo.4の対、No.5とNo.3の対、No.5とNo.2の対、No.5とNo.1の対)についての周波数成分毎のコヒーレンスからなるデータが、施工後の第2タイプの指標に関する安定性評価結果として、各3次元軸方向(X,Y,Z)についてそれぞれ算出され、メモリ22内に記憶される。
【0033】
前述したように、図5及び図6には、地点No.5とNo.1の対についての安定性評価結果が例示されており、図5において、符号Raで示した特性は、前記ステップS8の処理によって取得される施工後の安定性評価結果(応答倍率)を示す。また、図6において、符号Caで示した特性は、前記ステップS8の処理によって取得される施工後の安定性評価結果(コヒーレンス)を示す。例えば、図5において、振幅比(応答倍率)についての施工後の安定性評価結果を示す値Raは、略5~15Hz程度の帯域で比較的高い値を示しており、1にかなり近い。これは地盤安定性が施工前よりもかなり高くなったことを示している。同様に、図6において、コヒーレンスについての施工後の安定性評価結果を示す値Caは、略5~15Hz程度の帯域で比較的高い値を示しており、1にかなり近い。これも地盤安定性が施工前よりもかなり改善されたことを示している。
【0034】
施工効果の判定
例えば、図5におけるRpとRaの関係及び図6におけるCpとCaの関係を見ると判るように、振幅比(応答倍率)Rp,RaとコヒーレンスCp,Caのいずれの指標も、施工後の値Rp、Cpの方が施工前の値Rp、Cpよりも1に近い値になっている。このように施工前の安定性評価結果Rp、Cpと施工後の安定性評価結果Ra、Caとを比較することにより、施工による効果の有無及びどの程度効果があつたかどうかを判定することができる。すなわち、施工前の安定性評価結果を示す第1の数値(Rp、Cp)と施工後の安定性評価結果を示す第2の数値(Ra、Ca)との比又は差が大きければ、施工による効果が有ったと判定することができ、かつ、その比又は差により施工効果の程度を数値的に判定することができる。図5及び図6を参照すると、施工前の安定性評価結果を示す第1の数値(Rp、Cp)と施工後の安定性評価結果を示す第2の数値(Ra、Ca)の差は、特定の低周波数帯域(例えば略3~15Hz程度の帯域)において顕著に認めることができる。これは土及び/又は岩等からなる地殻一般の特性によるものであり、特定の低周波数帯域に着目することには普遍性がある。
【0035】
そこで、地盤安定性施工効果の判定を効率的に行うために、所定の周波数帯域(例えば略3~15Hz程度の低周波数帯域)に着目して、本実施例の施工効果判定ルーチンのステップS9(第3ステップ)においては、該所定の周波数帯域についての施工前の安定性評価結果(Rp、Cp)の代表値と、該所定の周波数帯域についての施工後の安定性評価結果(Ra、Ca)の代表値を算出し、両者の値を比較する(比又は差を求める)ようにしている。この代表値とは、例えば平均値であり、あるいはその他の基準で定めた代表値(例えば最大値又は最小値等)であってもよい。以下の説明では、代表値として平均値を用いるものとする。
【0036】
詳しくは、図2(b)のステップS9において、計測地点の各対(地点No.5とNo.4の対、地点No.5とNo.3の対、地点No.5とNo.2の対、地点No.5とNo.1の対)のそれぞれについて、所定の低周波数帯域(例えば略3~15Hz程度)における、(1)施工前の振幅比(応答倍率)Rpの平均値、(2)施工後の振幅比(応答倍率)Raの平均値、(3)施工前のコヒーレンスCpの平均値、(4)施工後のコヒーレンスCaの平均値、を算出する。
【0037】
図7は、そのようにして算出した(1)各地点対の施工前の振幅比(応答倍率)の平均値、及び(2)各地点対の施工後の振幅比(応答倍率)の平均値、をプロットした例を示している。図7(a)はX方向の振動計測情報に基づく算出例、(b)はY方向の振動計測情報に基づく算出例、(c)はZ方向の振動計測情報に基づく算出例を示す。また、丸マークで示したプロットは施工前の振幅比(応答倍率)の平均値を示し、三角マークで示したプロットは施工後の振幅比(応答倍率)の平均値を示す。
【0038】
また、図8は、そのようにして算出した(3)各地点対の施工前のコヒーレンスの平均値、及び(4)各地点対の施工後のコヒーレンスの平均値、をプロットした例を示している。図8(a)はX方向の振動計測情報に基づく算出例、(b)はY方向の振動計測情報に基づく算出例、(c)はZ方向の振動計測情報に基づく算出例を示す。また、丸マークで示したプロットは施工前のコヒーレンスの平均値を示し、三角マークで示したプロットは施工後のコヒーレンスの平均値を示す。
【0039】
図7及び図8共に、横軸のNo.1~No.4は各地点対を表示する略号であり、No.1は地点No.5とNo.1の対を示し、No.2は地点No.5とNo.2の対を示し、No.3は地点No.5とNo. 3の対を示し、No.4は地点No.5とNo.4の対を示す。図7及び図8共に、すべての計測地点対及び方向において、施工後は施工前に比べて算出値が1に近づいていることが分かる。これは、施工対象領域31における地盤安定化施工(グラウンドアンカー33の施工)により地盤が一体化し安定したことを示すものであり、施工効果を検証することができることが理解できる。なお、図7及び図8を見ると、振幅比(応答倍率)及びコヒーレンス共に、横軸のNo.1からNo.4に向かって値が大きくなる傾向にあることが判る。これは、基準地点No.5と対をなしている各地点No.1~No.4と該基準地点No.5との距離が近いほど振動特性の相関が高くなることを意味している。
【0040】
さらに、図2(b)のステップS9においては、各地点対(略号No.1~No.4で示す各対、つまり、地点No.5とNo.1の対、地点No.5とNo.2の対、地点No.5とNo. 3の対、地点No.5とNo.4の対)について、図7図8に示すような施工前の安定性評価結果の前記算出値(つまり第1の数値(応答倍率Rp又はコヒーレンスCp)の平均値)と図7図8に示すような施工後の安定性評価結果の前記算出値(つまり第2の数値(応答倍率Ra又はコヒーレンスCa)の平均値)の比(増加率)をそれぞれ計算することを、振動方向成分X,Y,Z毎に行い、振動方向成分X,Y,Z毎の施工効果を定量的に示す数値を算出する。なお、別の例として、比(増加率)の計算に代えて、差を計算してもよい。
【0041】
図9は、そのようにして算出した振動方向成分X,Y,Z毎の各地点対(略号No.1~No.4で示す各対)の応答倍率Rp、Raについての比(増加率=施工後÷施工前)をプロットした例を示している。また、図10は、そのようにして算出した振動方向成分X,Y,Z毎の各地点対(略号No.1~No.4で示す各対)のコヒーレンスCp、Caについての比(増加率=施工後÷施工前)をプロットした例を示している。図9及び図10を見ると、振幅比(応答倍率)及びコヒーレンス共に、横軸のNo.1からNo.4に向かって値が小さくなる傾向にあることが判る。これは、基準地点No.5と対をなしている各地点No.1~No.4と該基準地点No.5との距離が遠いほど、両地点間の施工前の相関性が低いことにより、施工前後の安定性評価結果の比(増加率=施工後÷施工前)によって定量的に表現される施工効果の数値は、相対的に大きな値となることを意味している。すなわち、基準地点No.5に近い地点No.4での計測に基づく安定性評価結果よりも、基準地点No.5に遠い地点No.1での計測に基づく安定性評価結果を使用して、施工効果を判定する方が大きなダイナミックレンジを持つ施工効果判定値を得ることができる。
【0042】
図2(b)のステップS9において算出された図9及び図10に示すような施工前後の応答倍率の比(増加率)及びコヒーレンスの比(増加率)は、最終的な判定結果データとしてメモリ22内に保存され、また、ディスプレイ23において可視的に表示され、さらにはプリンタ等によって紙出力され得る。こうして、施工対象地盤(領域31)で行った地盤安定化のための施工の効果を判定/確認することができる。例えば、図9を見ると、地点No.1における施工前後の応答倍率の比(増加率)は、X方向成分に関して約2.2、Y方向成分に関して約4.2、Z方向成分に関して約3.2であり、2倍乃至4倍程度の地盤安定化が達成されていることが数値によって具体的に理解できる。同様に、図10を見ると、地点No.1における施工前後のコヒーレンスの比(増加率)は、X方向成分に関して約3.5、Y方向成分に関して約4.4、Z方向成分に関して約4.4であり、3倍乃至4倍程度の地盤安定化が達成されていることが数値によって具体的に理解できる。一方、図示例とは異なり、もし地盤安定化のための施工効果が低かった場合は、施工前後の応答倍率の比(増加率)及び/又はコヒーレンスの比(増加率)は、1倍前後の低い値を示すので、施工効果が少なかったことが数値によって具体的に理解できる。
【0043】
上記実施例では、4つの計測地点対(No.5とNo.4の対、No.5とNo.3の対、No.5とNo.2の対、No.5とNo.1の対)に関して振動の周波数特性の関連性をそれぞれ評価するようにしているが、これに限らず、少なくとも1つの計測地点対(例えばNo.5とNo.1の対)に関して振動の周波数特性の関連性を評価し、これに基づき上記のように施工効果を判定するようにしてよい。
【0044】
なお、本発明による判定方法を実施した結果、施工効果が少なかったことが判明した場合は、必要に応じて危険箇所としての指定を行い、さらに追加の安定化工事を行う等の必要な対策を講ずればよい。
【0045】
図2(a)のステップS3(第3ステップ)で求める振動の周波数特性の関連性に関する指標は、上述した周波数成分毎の振幅比(応答倍率)及びコヒーレンスの両方に限らず、どちらか一方であってもよく、あるいは、これらに限らず、その他のタイプの指標であってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 振動計
2 モバイルコンピュータ
20 データ取込部
21 CPU(中央処理装置)
22 メモリ
23 ディスプレイ及びユーザインタフェース(UI/F)部
24 通信インタフェース
32、33 グラウンドアンカー
M1 周波数分析モジュール
M2 地盤安定性評価モジュール
M3 施工効果判定モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10