(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010706
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】分光カメラ、撮像方法、プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
G01J 3/26 20060101AFI20230113BHJP
G01J 3/02 20060101ALI20230113BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20230113BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
G01J3/26
G01J3/02 C
G02B3/00 A
G02B5/20
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168289
(22)【出願日】2022-10-20
(62)【分割の表示】P 2021198347の分割
【原出願日】2018-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2017017768
(32)【優先日】2017-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 充
(72)【発明者】
【氏名】加園 修
(57)【要約】
【目的】高精度の画像を得ることが可能な分光カメラを提供する。
【構成】一対のレンズからなる光学系と、光学系の瞳の位置に互いに対向して配された一対の反射面を有し、印加電圧に応じて前記一対の反射面の間隔を変化させ、間隔に応じた波長の光を選択的に透過する1のフィルタからなる波長選択部と、各々が光学系及び波長選択部を通過した光を集光するn個(nは自然数)のレンズを有するレンズアレイと、波長選択部と共役な位置に設けられ、n個のレンズにより集光された光を受光するn個の分割撮像領域を有する撮像素子と、を有し、一対のレンズを介して入射し且つ撮像素子によって受光された光は、全て前記1のフィルタを透過する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のレンズからなる光学系と、
前記光学系の瞳の位置に互いに対向して配された一対の反射面からなり、印加電圧に応じて前記一対の反射面の間隔を変化させ、前記間隔に応じた波長の光を選択的に透過する1のフィルタからなる波長選択部と、
各々が前記光学系及び前記波長選択部を通過した光を集光するn個(nは自然数)のレンズを有するレンズアレイと、
前記波長選択部と共役な位置に設けられ、前記n個のレンズにより集光された光を受光するn個の分割撮像領域を有する撮像素子と、
を有し、
前記一対のレンズを介して入射し且つ前記撮像素子によって受光された光は、全て前記1のフィルタを透過することを特徴とする分光カメラ。
【請求項2】
前記撮像素子が撮像した画像に基づいて前記波長選択部の透過波長の不均一性を検出する検出部を有することを特徴とする請求項1に記載の分光カメラ。
【請求項3】
前記検出部は、前記画像の画素毎の輝度値に基づいて前記波長選択部の透過波長の不均一性を検出することを特徴とする請求項2に記載の分光カメラ。
【請求項4】
前記検出部により検出された前記波長選択部の透過波長の不均一性に応じて前記画像に画像補正を行う画像処理部を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の分光カメラ。
【請求項5】
前記画像処理部は、前記撮像素子の前記n個の分割撮像領域のうちの少なくとも1つにおいて前記波長選択部の前記一対の反射面の間隔が均一な部分を通過した光を受光した画素の輝度値と前記一対の反射面の間隔が不均一な部分を通過した光を受光した画素の輝度値とに基づいて、前記画像補正を行うことを特徴とする請求項4に記載の分光カメラ。
【請求項6】
前記光学系の光路上に少なくとも1つのバンドパスフィルタを有し、
前記検出部は、前記n個の分割撮像領域のうち前記バンドパスフィルタを通過した光を受光した分割撮像領域により撮像された画像に基づいて、前記波長選択部の透過波長の不均一性を検出することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1に記載の分光カメラ。
【請求項7】
前記バンドパスフィルタは、前記レンズアレイの前記n個のレンズのいずれかが集光する光の光路上に設けられていることを特徴とする請求項6に記載の分光カメラ。
【請求項8】
透過波長が異なる複数の前記バンドパスフィルタを有し、
前記複数の前記バンドパスフィルタの各々は、前記レンズアレイの前記n個のレンズのうち異なるレンズが集光する光路上に夫々設けられていることを特徴とする請求項6に記載の分光カメラ。
【請求項9】
前記波長選択部の透過波長の不均一性に関する情報を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記不均一性に関する情報に基づいて、前記撮像素子が撮像した画像に画像補正を行う画像処理部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の分光カメラ。
【請求項10】
請求項1に記載の分光カメラによる撮像方法であって、
所定波長の光を前記光学系に入射するステップと、
前記印加電圧を変化させつつ前記所定波長の光を前記撮像素子に受光させるステップと、
前記撮像素子の前記n個の分割撮像領域における画素毎の輝度分布の情報に基づいて、
前記波長選択部の透過波長の不均一性の情報を得るステップと、
被写体を撮像して撮像画像を得るステップと、
前記透過波長の不均一性の情報に基づいて、前記撮像画像に画像補正を行うステップと、
を有することを特徴とする撮像方法。
【請求項11】
請求項1に記載の分光カメラにおいて、コンピュータに、
所定波長の光を前記光学系に入射するステップと、
前記印加電圧を変化させつつ前記所定波長の光を前記撮像素子に受光させるステップと、
前記撮像素子の前記n個の分割撮像領域における画素毎の輝度分布の情報に基づいて、前記波長選択部の透過波長の不均一性の情報を得るステップと、
被写体を撮像して撮像画像を得るステップと、
前記透過波長の不均一性の情報に基づいて、前記撮像画像に画像補正を行うステップと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを記録することを特徴とする記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光カメラ、撮像方法、プログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の分光情報を同時に取得し、取得した分光情報に基づいて画像を生成することが可能な分光カメラとして、プレノプティックカメラが用いられている。プレノプティックカメラにおいて、分光スペクトルを測定するため、メインレンズの絞り位置付近に分光透過率が異なる複数のバンドパスフィルタを配置した測定装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来技術では、有限個の固定されたバンドパスフィルタによりマルチスペクトル画像を取得するため、連続的なスペクトルを取得することができないという問題があった。
【0005】
また、一対の反射面の間隔を連続的に変化させることで、この反射面を透過する光の波長を連続的に変化させる技術は古くから知られている。この技術には反射面間の平行度や面精度が悪いと透過波長の半値幅が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題としては、一対の反射面の間隔を変化させることで透過波長の選択を行う分光カメラにおいて、製造上のばらつきなどに起因した波長選択性の悪化という問題が一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、一対のレンズからなる光学系と、前記光学系の瞳の位置に互いに対向して配された一対の反射面を有し、印加電圧に応じて前記一対の反射面の間隔を変化させ、前記間隔に応じた波長の光を選択的に透過する1のフィルタからなる波長選択部と、各々が前記光学系及び前記波長選択部を通過した光を集光するn個(nは自然数)のレンズを有するレンズアレイと、前記波長選択部と共役な位置に設けられ、前記n個のレンズにより集光された光を受光するn個の分割撮像領域を有する撮像素子と、を有し、前記一対のレンズを介して入射し且つ前記撮像素子によって受光された光は、全て前記1のフィルタを透過することを特徴とする。
【0008】
請求項10に記載の発明は、請求項1に記載の分光カメラによる撮像方法であって、所定波長の光を前記光学系に入射するステップと、前記印加電圧を変化させつつ前記所定波長の光を前記撮像素子に受光させるステップと、前記撮像素子の前記n個の分割撮像領域における画素毎の輝度分布の情報に基づいて、前記波長選択部の透過波長の不均一性の情報を得るステップと、被写体を撮像して撮像画像を得るステップと、前記透過波長の不均一性の情報に基づいて、前記撮像画像に画像補正を行うステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項11に記載の発明は、請求項1に記載の分光カメラにおいて、コンピュータに、所定波長の光を前記光学系に入射するステップと、前記印加電圧を変化させつつ前記所定波長の光を前記撮像素子に受光させるステップと、前記撮像素子の前記n個の分割撮像領域における画素毎の輝度分布の情報に基づいて、前記波長選択部の透過波長の不均一性の情報を得るステップと、被写体を撮像して撮像画像を得るステップと、前記透過波長の不均一性の情報に基づいて、前記撮像画像に画像補正を行うステップと、を実行させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1の分光カメラ10の構成を示す図である。
【
図2】物体点からの光がイメージセンサ13で受光される様子を模式的に示す図である。
【
図3】光学系11の瞳EYE上の一点からの光がイメージセンサ13で受光される様子を模式的に示す図である。
【
図4】瞳に物理的な開口部を配置した場合の例を示す図である。
【
図5】画素領域の選択により瞳に物理的な開口部を配置したのと同様の画像が得られることを模式的に示す図である。
【
図6】透過光の強度及び半値幅について、反射面間のギャップがほぼ均一である場合と端部付近においてギャップが不均一である場合とを比較して示す図である。
【
図7】フィルタの直前に開口絞りを配置する場合の例を示す図である。
【
図8】事前撮影の処理動作を示すフローチャートである。
【
図9】事前撮影において単一波長の光を照射する場合の例を模式的に示す図である。
【
図10】事前撮影において光学系11の手前の位置にバンドパスフィルタを装着して照明光を照射する場合の例を模式的に示す図である。
【
図11】事前撮影において波長選択フィルタFFの手前の位置にバンドパスフィルタを装着して照明光を照射する場合の例を模式的に示す図である。
【
図12】実撮影の処理動作を示すフローチャートである。
【
図13】実施例2の分光カメラ20の構成を示す図である。
【
図14】透過波長の同じバンドパスフィルタを複数設けた構成の例を示す断面図である。
【
図15】透過波長が異なるバンドパスフィルタを複数設けた構成の例を示す断面図である。
【
図16】半値幅が異なるバンドパスフィルタを複数設けた構成の例を示す断面図である。
【
図17】波長選択フィルタにごみが付着していた場合における撮影の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。なお、以下の各実施例における説明及び添付図面においては、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符号を付している。
【実施例0012】
図1は、実施例1に係る分光カメラ10の構成を示す断面図である。分光カメラ10は、例えば物体X(被写体)に光を照射し、物体Xから反射された光又は物体Xを透過した光を受光することによって撮像を行う。分光カメラ10は、光学系11と、マイクロレンズアレイ12及びイメージセンサ13からなるカメラ14と、画像処理部15と、を含む。マイクロレンズアレイ12は、物体Xと共役な位置に配置されている。また、イメージセンサ13は、光学系11の瞳と共役な位置に配置されている。
【0013】
光学系11は、例えば凸レンズからなる第1のレンズL1及び第2のレンズL2を含む。第1のレンズL1及び第2のレンズL2の間にある光学系11の瞳の位置には、波長選択フィルタFFが配置されている。光学系11は、物体Xの位置に応じて距離の調整が可能な機構(ピント合わせの機構)を有し、物体Xとマイクロレンズアレイ12との共役関係とを維持するように調整される。
【0014】
第1のレンズL1は物体Xからの光が入射する側(以下、入射側と称する)に配置され、第2のレンズL2はマイクロレンズアレイ12に光を出射する側(以下、出射側と称する)に配置されている。物体Xからの光は第1のレンズL1、波長選択フィルタFF及び第2のレンズL2を通ってマイクロレンズアレイ12に集光する。
【0015】
波長選択フィルタFFは、例えばファブリペロー型干渉フィルタから構成されている。波長選択フィルタFFは、対向して配置された反射膜RF1及びRF2からなり、反射膜間の間隔に応じた波長の光を透過する。波長選択フィルタFFは、電圧Vの印加を受け、反射膜RF1及びRF2の対抗する面同士の間隔d(以下、反射面間のギャップdと称する)を変化させることにより、透過する光の波長を選択的に設定することが可能に構成されている。
【0016】
なお、波長選択フィルタFFにおける反射面間のギャップdは、均一な間隔となるように形成されているのが理想的であるが、製造時や組み立て時におけるばらつきにより、実際には不均一な部分(以下、反射面間のギャップdの不均一性と称する)が存在する。本実施例の分光カメラ10は、かかる反射面間のギャップdの不均一性に応じて撮像画像を補正する機能を有する。
【0017】
マイクロレンズアレイ12は、縦横に配列されたn個(nは自然数)のマイクロレンズから構成されている。物体X上の異なる点からの光は、夫々異なるマイクロレンズに入射する。マイクロレンズの各々は通常のカメラにおける「画素」に対応し、マイクロレンズの数は通常のカメラにおける「画素数」に対応している。マイクロレンズアレイ12の各マイクロレンズは、光学系11を通過した光を受光し、イメージセンサ13に集光する。
【0018】
イメージセンサ13は、マイクロレンズアレイ12により集光された光を受光し、これを電子情報に変換して撮像画像を得る撮像素子である。イメージセンサ13は、マイクロレンズアレイ12の各々のマイクロレンズに対応するn個の分割撮像領域から構成されている。マイクロレンズアレイ12の各々のマイクロレンズに入射した光は、イメージセンサ13の対応する分割撮像領域で受光される。異なるマイクロレンズに入射した光は、夫々異なる分割撮像領域で受光され、受光される分割撮像領域が重複しないように構成され
ている。
【0019】
図2は、物体Xの一点(物体点Pと称する)からの光がイメージセンサ13で受光される様子を模式的に示す図である。物体点Pからの光は、第1のレンズL1、瞳EYE及び第2のレンズL2上の異なる領域を通って、マイクロレンズアレイ12のマイクロレンズML2に入射し、分割撮像領域R2で受光される。この物体点Pの像の輝度値は、分割撮像領域R2内における全画素の輝度値の総和で表される。従って、各分割撮像領域における全画素の輝度値の総和を取得することにより、マイクロレンズの位置にイメージセンサを配した通常のカメラで撮像した画像と同一の撮像結果(撮像画像)が得られる。
【0020】
図3は、光学系11の瞳EYE上の一点からの光がイメージセンサ13で受光される様子を模式的に示す図である。瞳EYE上の一点からの光(すなわち、瞳EYE上の一点に入射した光)は、第2のレンズL2の異なる領域及びマイクロレンズアレイ12の異なるマイクロレンズを通って、イメージセンサ13の各々の分割撮像領域における同じ箇所に集光する。
【0021】
再び
図1を参照すると、画像処理部15は、例えばCPU(Central Processing Unit)等から構成され、イメージセンサ13により取得された物体Xの画像に対して画像補正処理を行う。具体的には、画像処理部15は、事前撮影により得られたイメージセンサ13の各分割撮像領域における輝度分布に応じて画素領域を選択し、選択した画素領域の情報のみを用いて物体Xの撮像画像を構成する。事前撮影では、画像処理部15は、例えば波長選択フィルタFFへの印加電圧を掃引しながらイメージセンサ13により受光された信号をメモリ等の記憶部(図示せず)に記録し、記録された複数の信号情報に基づいて波長選択フィルタFFの透過波長の不均一性(すなわち、反射面のギャップdの不均一性)を示す輝度分布を得る。すなわち、画像処理部15は、波長選択フィルタFFの透過波長の不均一性を検出する検出部としての機能を有する。
【0022】
イメージセンサ13の分割撮像領域内の輝度分布は、マイクロレンズアレイ12の対応するマイクロレンズに入射した光が瞳を通過する際にどのような輝度分布であったかを表すものである。従って、あるマイクロレンズに入射した光の輝度値を対応する分割撮像領域の特定の画素領域の和として算出すれば、瞳の特定の領域(分割撮像領域内の画素領域に対応する領域)を通過して受光した光の強度が得られる。さらに、全てのマイクロレンズの輝度値を対応する分割撮像領域の同じ画素領域の和として算出すれば、瞳の特定の領域を通過した光による画像が得られる。これにより、例えば光学系11の瞳に所定の形状を有する物理的な開口部を配置した場合と同様の画像が得られる。
【0023】
図4は、ハート形の形状を有する物理的な開口部APを光学系の瞳位置に配置した場合の例を示す図である。イメージセンサ13の各分割撮像領域では、ハート形の形状(すなわち、開口部APの形状)の上下を反転させた画像が得られる。
【0024】
これに対し、本実施例の分光カメラ10では、選択した画素領域のみを用いて輝度値を計算することにより、
図5に示すように、光学系11の瞳に物理的な開口部(図では、ハート形の開口部)を配置した場合と同様の画像(図では、ハート形の上下を反転させた画像)を、物理的な開口部を配置することなく得ることができる。
【0025】
ところで、波長選択フィルタFFを構成するファブリペロー型干渉フィルタは、一組の平行な反射膜で構成される干渉フィルタであり、その反射面間のギャップを変化させることにより、透過する光の波長が変化する。反射面の反射率をR、反射面間のギャップをh0、入射光の波長をλとすると、ファブリペローフィルタの透過率T(λ)は、次の式(1)で表される。
【0026】
【0027】
R=1の反射面では、λ=2h0のときにだけ値を持ち、他の波長は通過させない完全な単色フィルタとなる。しかし、実際にはR<1となるため、λ=2h0を中心波長としたある範囲の波長を通過させることとなる。その半値幅FWHM(Full Width at Half Maximum)は、次の式(2)で表される。R→1の極限では、FWHM→0となる。
【0028】
【0029】
R→1の極限では、FWHM→0となる。しかし、反射率Rが1であるとしても、実際に作成されるファブリペローフィルタでは反射面間のギャップが不均一であるため、透過光は完全な単色とはならない。
【0030】
図6(a)及び(b)は、透過光の強度及び半値幅について、反射面間のギャップがほぼ均一である理想的な場合と端部付近においてギャップが不均一である場合とを比較して示す図である。
【0031】
図6(a)に示すように、フィルタの反射面内の全ての領域でギャップが均一な値(d=h
0)となっているときには、反射面内の全ての箇所における透過光の波長は2h
0であり、半値幅はほぼ0となる。
【0032】
これに対し、
図6(b)に示すように、ギャップが不均一である場合には、d≠h
0である領域ではλ=2h
0以外の波長の光が透過することになり、半値幅は広くなる。
【0033】
このような半値幅の広がりを改善するためには、一般的にフィルタの直前又は直後に開口絞りを配置することが考えられる。例えば、
図7(a)に示すように、フィルタの直前に開口絞りを配置することにより、光軸周辺のギャップが均一な領域のみに光を透過させ、半値幅を改善することができる。しかし、かかる方法では半値幅を改善することはできるものの、透過光の光量が小さくなってしまう。
【0034】
また、反射面間のギャップが光軸に対して非対称な不均一性を有する場合、
図7(b)のように光軸に対して対称な開口絞りを配置すると透過光の光量がさらに小さくなるため、
図7(c)に示すように、ギャップの不均一性に応じた開口絞りを配置する必要がある。しかし、実際にはどの部分が不均一なのかがフィルタによって様々であるため、適切な開口絞りを配置することは困難である。
【0035】
これに対し、本実施例の分光カメラ10では、イメージセンサ13の各分割撮像領域における特定の画素領域のみを選択的に用いることにより画像を構成することが可能である。従って、物理的な開口絞りを設けることなく、波長選択フィルタFFの反射膜RF1及びRF2の間隔が均一な領域を通過した光のみを用いた画像を得ることができる。
【0036】
次に、本実施例の分光カメラ10による撮像及び画素領域の選択方法について説明する。まず、被写体の撮影(実撮影)を行う前の事前撮影について、
図8のフローチャート及び
図9を参照して説明する。
【0037】
事前撮影では、
図9に示すように、レーザLRから出射された単一の波長λ
1の光を、レンズL3を介してスクリーンSCに照射する(ステップS101)。
【0038】
分光カメラ10は、波長選択フィルタFFに印加する電圧Vを掃引しながら、スクリーンSCの撮影を行う。画像処理部15は、撮像素子であるイメージセンサ13で受光された信号を記録する(ステップS102)。
【0039】
波長選択フィルタFFに印加する電圧Vを変化させることにより、反射膜RF1及びRF2の間隔が変化する。波長λ1の光を最も多く通過させる間隔となったときに、イメージセンサ13の各分割撮像領域の画像が最も明るくなる。このとき、分割撮像領域において得られた画像VDにおいて輝度が高い領域は、対応する瞳上の領域が波長λ1の光を通過している領域であり、反射面間のギャップd(すなわち、反射膜RF1及びRF2の間隔)が均一な領域を反映したものとなる。
【0040】
画像処理部15は、記録された複数の信号情報に基づいて、波長選択フィルタの反射面間のギャップdの不均一性(透過波長の不均一性)を反映した分割撮像領域の輝度分布を取得する(ステップS103)。
【0041】
なお、画素領域選択のための事前撮影を行う際には、単一波長のレーザ光で照明されたスクリーンSCを用いる代わりに、太陽光やハロゲン光などで照明されたスクリーンSCを波長λ1の光を通過するバンドパスフィルタを通して撮影しても良い。
【0042】
例えば、
図10に示すように、事前撮影時には入射側から見て光学系11の手前(すなわち、第1のレンズL1の手前)の光路上の位置に波長λ
1の光を透過するバンドパスフィルタBPFを配置して照明光WLを照射して撮影を行い、実撮影時にはバンドパスフィルタBPFを外して撮影を行う。これにより、波長選択フィルタFFの反射面間のギャップに応じた輝度の分布を示す画素領域の情報を取得し、輝度が高い画素領域のみを用いて画像を構成することが出来る。また、
図11に示すように、波長選択フィルタの手前の光路上の位置にバンドパスフィルタBPFを配置して事前撮影を行っても良い。すなわち、バンドパスフィルタBPFは光路上に配置されていれば良い。
【0043】
次に、被写体の撮影を行う実撮影について、
図12のフローチャートを参照して説明する。
【0044】
まず、被写体(物体X)に対して分光カメラ10をセットする(ステップS201)。分光カメラ10は、波長選択フィルタFFに印加する電圧Vを掃引しながら、物体Xの撮影を行う(ステップS202)。その際、事前撮影とは異なり、単一波長の光ではなく太陽光や白色光等の照明光を用いて被写体の撮影を行う。そして、画像処理部15は、撮像素子であるイメージセンサ13において受光された信号を記録する。
【0045】
画像処理部15は、事前撮影により得られた波長選択フィルタの反射面間のギャップdの不均一性を示す情報(すなわち、分割撮像領域内の輝度分布の情報)に基づいて、実撮影において反射面間のギャップdが均一な領域を通過した光を受光して得られた第1の画像情報と、不均一な領域を通過した光を受光して得られた第2の画像情報とを算出する(ステップS203)。画像処理部15は、第1の画像情報及び第2の画像情報に基づいて、最終的な撮像画像を得る(ステップS204)。
【0046】
以上のように、本実施例の分光カメラ10によれば、事前撮影において波長選択フィルタFFの反射面間のギャップdに応じた輝度の分布を示す画像情報を取得し、事前撮影において輝度値が高かった画素領域のみを選択的に用いることにより、波長選択フィルタFFの反射面間のギャップdが均一な領域を通過した光のみを用いて構成された撮像画像を得ることができる。従って、フィルタにおいて透過波長が不均一な領域が存在するような場合においても、高精度の画像を取得することが可能となる。
イメージセンサ13は、マイクロレンズアレイ12のマイクロレンズML1に対応する分割撮像領域R1を有する。分割撮像領域R1は、マイクロレンズML1に対応する位置(例えばイメージセンサの端部)に設けられている。分割撮像領域R1は画素選択用の分割撮像領域として機能し、その他の分割撮像領域は撮像用の分割撮像領域として機能する。
一方、マイクロレンズアレイ12のマイクロレンズML1以外の領域を通過した光は、バンドパスフィルタBPFを通らずに、イメージセンサ13のその他の分割撮像領域で受光される。従って、イメージセンサ13の分割撮像領域R1以外の分割撮像領域では、物体Xを撮影した通常の撮像画像が得られる。
画像処理部15は、分割撮像領域R1において得られた画素選択用の画像VDの画像情報に基づいて、分割撮像領域R1以外で得られた撮像画像に対して画像補正処理を行う。具体的には、画像処理部15は、画素選択用の画像VDに示される輝度分布に応じて画素領域を選択し、選択した画素領域のみを用いて物体Xの撮像画像を構成する。
従って、本実施例の分光カメラ20によれば、事前撮影及び実撮影という2つのステップで撮影を行う必要がある実施例1とは異なり、一度の撮影により、輝度が高い画素領域のみを用いた撮像画像を得ることが可能となる。
なお、本発明において波長選択フィルタFFは光学系11の瞳部分に配置されるため、瞳におけるある座標を通過した光はマイクロレンズアレイ12の全てのマイクロレンズに一様に入射する。従って、波長選択フィルタFFの反射面間のギャップdに不均一な部分(むら)がある場合には、フィルタのどこを通過した光がマイクロレンズアレイ12に入射するかは時刻により変化するが、各マイクロレンズに光が入射するタイミングは揃っているので、イメージセンサ13において得られる画像にむらは生じない。また、フィルタ上に汚れや欠陥部分があった場合には、汚れや欠陥の面積分だけ輝度が低下するものの、イメージセンサ13において得られる画像に画素の欠陥は生じない。
また、上記実施例では、分光カメラ10及び20がn個のマイクロレンズが縦横に配列されたマイクロレンズアレイ12を有する例について説明した。しかし、レンズの種類及び配列はこれに限られず、分光カメラはn個のレンズを有するレンズアレイを有していれば良い。
また、上記実施例2ではバンドパスフィルタがマイクロレンズの出射面側の表面に設けられている例について説明したが、バンドパスフィルタが配置される位置はこれに限られず、マイクロレンズに集光する光の光路上に配置されていれば良い。また、両端部のマイクロレンズに限らずn個のマイクロレンズのいずれかに対応した位置に配置されていれば良い。