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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107070
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20230726BHJP
   H02K 1/22 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K1/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008166
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧野 宏明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直哉
【テーマコード(参考)】
5H601
5H622
【Fターム(参考)】
5H601AA22
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD25
5H601FF02
5H601FF04
5H601GA24
5H601GA28
5H622AA02
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CA14
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP18
(57)【要約】
【課題】溝部の形成により副次的に発生するトルクリプルの影響を抑制することが可能な回転電機を提供する。
【解決手段】実施形態の回転電機は、円筒形状の鉄心内に1磁極を形成する永久磁石が周方向に複数配置された回転子と、前記回転子に対向する複数のスロットに巻線が施された固定子と、前記回転子の1磁極を磁極中心線で2分した前記回転子の領域の一方又は両方の外周面に形成され、当該回転子の外接円と同等の径の鉄心で分断された複数の溝部と、を備え、前記複数の溝部の各々は、前記回転子の回転中心に向かって凸な形状を有し、当該溝部の最深部間が、当該溝部の形成によって生じる所定次数のトルクリプルが互いに弱め合う位相関係となる間隔を空けて配置される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の鉄心内に1磁極を形成する永久磁石が周方向に複数配置された回転子と、
前記回転子に対向する複数のスロットに巻線が施された固定子と、
前記回転子の1磁極を磁極中心線で2分した前記回転子の領域の一方又は両方の外周面に形成され、当該回転子の外接円と同等の径の鉄心で分断された複数の溝部と、
を備え、
前記複数の溝部の各々は、前記回転子の回転中心に向かって凸な形状を有し、当該溝部の最深部間の距離が、当該溝部の形成によって生じる所定次数のトルクリプルが互いに弱め合う位相関係となる間隔を空けて配置される、回転電機。
【請求項2】
前記複数の溝部は、2つの溝部を有し、
前記2つの溝部は、当該溝部が有する最深部間の距離が、電気角度で6.5度より大きく9.0度未満の間隔を空けて配置される、
請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記複数の溝部は、3つの溝部を有し、
前記3つの溝部は、当該溝部が有する最深部間の距離が、電気角度で4.8度より大きく8.0度未満の間隔を空けて配置される、
請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
前記複数の溝部の最深部間の中間位置は、前記磁極中心線から電気角度で20.4度から32.4度、又は49.2度から58.0度の間隔を空けた位置に配置される、
請求項2又は3に記載の回転電機。
【請求項5】
前記複数の溝部は、隣り合う2つの溝部を2組有し、
各組をなす前記2つの溝部は、当該溝部が有する最深部間の距離が、電気角度で6.5度より大きく9.0度未満の間隔を空けて配置され、
前記2組の溝部のうち、一方の組が有する前記溝部の最深部間の中間位置と、他方の組が有する前記溝部の最深部間の中間位置とが、電気角度で20度より大きく31度未満の間隔を空けて配置される、
請求項1に記載の回転電機。
【請求項6】
前記複数の溝部は、隣り合う3つの溝部を2組有し、
各組をなす前記3つの溝部は、当該溝部が有する最深部間の距離が、電気角度で4.8度より大きく8.0度未満の間隔を空けて配置され、
前記2組の溝部のうち、一方の組が有する前記溝部の最深部間の中間位置と、他方の組が有する前記溝部の最深部間の中間位置とが、電気角度で20度より大きく31度未満の間隔を空けて配置される、
請求項1に記載の回転電機。
【請求項7】
前記複数の溝部は、隣り合う2つの溝部からなる組と、隣り合う3つの溝部からなる組との2組を有し、
前記2つの溝部は、当該溝部が有する最深部間の距離が、電気角度で6.5度より大きく9.0度未満の間隔を空けて配置され、
前記3つの溝部は、当該溝部が有する最深部間の距離が、電気角度で4.8度より大きく8.0度未満の間隔を空けて配置され、
前記2組の溝部のうち、一方の組が有する前記溝部の最深部間の中間位置と、他方の組が有する前記溝部の最深部間の中間位置とが、電気角度で20度より大きく、31度未満の間隔を空けて配置される、
請求項1に記載の回転電機。
【請求項8】
前記2組の溝部のうち、少なくとも一方の組が有する前記溝部の最深部間の中間位置は、前記磁極中心線から電気角度で20.4度から32.4度、又は49.2度から58.0度の範囲内で配置される、
請求項5~7の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項9】
前記複数の溝部の幅及び深さは、前記1磁極あたりに形成される全ての前記溝部の幅及び深さの合計値を表す指標に応じて決定される、
請求項1~8の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項10】
前記指標は、電気角1周期に対する前記溝部の幅の比と、前記固定子と前記回転子の前記外接円との離隔距離に対する前記溝部の深さの比とを乗算した乗算値を、前記1磁極あたりに形成される全ての前記溝部で合計することで算出され、
前記複数の溝部の幅及び深さは、前記指標の値が0.18未満となる範囲で決定される、
請求項9に記載の回転電機。
【請求項11】
前記溝部の一部又は全てには、非磁性体が充填される、
請求項1~10の何れか一項に記載の回転電機。
【請求項12】
前記回転子の外周は、非磁性体で覆われる、
請求項1~10の何れか一項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱炭素化社会の実現に向け、電動車両の普及が進んでいる。かかる電動車両の動力源は、一般的に永久磁石モータ等の回転電機が用いられている。また、回転電機では、モータ負荷時に電磁騒音の原因となるトルクリプルが発生するため、このトルクリプルを低減することが求められている。
【0003】
従来、トルクリプルを低減するための手法として、ロータの外周部に1つ又は複数の溝部を設けることが提案されている。例えば、8極48スロットのモータ構成において、電気12次の成分のトルクリプルを低減するため、磁極の中心線と対称的に、1極あたり1つ又は複数の溝部を設ける手法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-312316号公報
【特許文献2】特開2004-328956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、溝部の形成により特定の次数のトルクリプルについては低減することが可能であるが、溝部の影響により他の次数のトルクリプルがかえって増加する可能性がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、溝部の形成により副次的に発生するトルクリプルの影響を抑制することが可能な回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の回転電機は、円筒形状の鉄心内に1磁極を形成する永久磁石が周方向に複数配置された回転子と、前記回転子に対向する複数のスロットに巻線が施された固定子と、前記回転子の1磁極を磁極中心線で2分した前記回転子の領域の一方又は両方の外周面に形成され、当該回転子の外接円と同等の径の鉄心で分断された複数の溝部と、を備え、前記複数の溝部の各々は、前記回転子の回転中心に向かって凸な形状を有し、当該溝部の最深部間の距離が、当該溝部の形成によって生じる所定次数のトルクリプルが互いに弱め合う位相関係となる間隔を空けて配置される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る回転電機の軸心方向の断面図である。
図2図2は、図1に示した回転電機の1磁極を示す図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る回転電機での、溝部の構成を説明するための図である。
図4図4は、図3に示したP1部分の部分拡大図である。
図5図5は、第1の実施形態の溝部によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。
図6図6は、第1の実施形態に係る回転電機での、溝部の間隔とトルクリプルとの関係を示す図である。
図7図7は、第1の実施形態に係る回転電機での、溝部の大きさとトルク低下率との関係を示す図である。
図8図8は、第2の実施形態に係る回転電機での、溝部の構成を説明するための図である。
図9図9は、図8に示したP2部分の部分拡大図である。
図10図10は、第2の実施形態の溝部によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。
図11図11は、第2の実施形態に係る回転電機での、溝部の間隔とトルクリプルとの関係を示す図である。
図12図12は、第3の実施形態に係る回転電機での、溝部の構成を説明するための図である。
図13図13は、図12に示したP3部分の部分拡大図である。
図14図14は、第3の実施形態の溝部によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。
図15図15は、第3の実施形態に係る回転電機での、第1組及び第2組の間隔とトルクリプルとの関係を示す図である。
図16図16は、第4の実施形態に係る回転電機での、溝部の構成を説明するための図である。
図17図17は、図16に示したP4部分の部分拡大図である。
図18図18は、第4の実施形態の溝部によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。
図19図19は、第5の実施形態に係る回転電機での、溝部の構成を説明するための図である。
図20図20は、図19に示したP5部分の部分拡大図である。
図21図21は、第5の実施形態の溝部によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施形態に係る回転電機について説明する。
【0010】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る回転電機1の軸心方向の断面図である。図2は、図1に示した回転電機1の1磁極を示す図である。
【0011】
回転電機1は、概略円筒形状に形成された固定子(ステータ)10と、固定子10内に回転自在に収納された回転子(ロータ)20とを備える。
【0012】
固定子10の内周面には、径方向内方に向けて突出する複数のステータティース11が形成されている。ステータティース11間には、凹状のスロット部12が形成されている。各スロット部12は、固定子10の内周側に向けて開口している。なお、本実施形態の回転電機1では、スロット部12は48個形成されている。
【0013】
また、ステータティース11には、磁束発生用のコイルを構成する3相(U相、V相、W相)の巻線が分布巻により巻付形成されている(何れも図示せず)。3相の各コイルには、それぞれ位相がずれた交流電力が供給される。これにより、各コイルを通るような磁束が発生する。なお、各コイルは、ステータティース11に対し、直接巻回してもよいし、インシュレータを用いて装着するようにしてもよい。
【0014】
回転子20は、例えば複数の薄い鋼材を軸方向に積層した回転子鉄心で形成される。回転子20の中央部には、図面の表裏面方向(軸心方向)に延在する回転軸21が固設されている。回転軸21は、回転可能に指示されている。また、回転子20は、複数の永久磁石22を備えている。回転子20は、回転子20の外周面に向かって開く略V字型となるように、一対で1組の永久磁石22を1磁極として埋め込むIPM(Interior Permanent Magnet)構造となるように作成されている。
【0015】
より具体的には、回転子20には、図面の表裏面方向に延在する平板状の永久磁石22を収容する収容空間23aと、永久磁石22の幅方向の両端側に位置し、磁束の回り込みを制限するフラックスバリア23bとを有するV字状空間23が、回転子20の周方向に所定の間隔を隔てて複数形成されている。
【0016】
ここで、一つのV字状空間23の収容空間23aの各々に収容される永久磁石22の、回転子20の外周面側の磁性は同じである。また、隣り合うV字状空間23同士では、収容空間23aの各々に収容される永久磁石22の、回転子20の外周面側の磁性が相違する。つまり、本実施形態の回転電機1は、1磁極を形成する一対の永久磁石22毎に、N極とS極との表裏を交互に配置した、8極48スロットの構成となっている。
【0017】
また、V字状空間23内に収容された一対の永久磁石22の磁極の中心線CLは、当該V字状空間23が有する一対の収容空間23aの中間と、回転子20(回転軸21)の中心点24とを通る。さらに、この中心線CLとなす電気角度が90degとなる仮想直線VLは、隣り合うV字状空間23間の中間と、回転子20の中心点24とを通る。以下では、回転子20の外周面のうち、中心線CLを中心とした左右一対の仮想直線VLで区画される一の磁極に対応する領域を「一磁極領域」ともいう。
【0018】
上述した構成において、回転電機1では、固定子10の各コイルに交流電流が供給されると、回転子20にマグネットトルク及びリラクタンストルクが発生し、軸周りに回転駆動することで、永久磁石モータとして機能する。
【0019】
ところで、このような構成の回転電機1では、モータ負荷時に回転ムラであるトルクリプル(torque ripple)が発生する。トルクリプルが増加すると、振動や電磁騒音が増加するため、低減することが求められている。特に、電気騒音は、騒音の成分となる周波数帯が高く、不快な音になるため低減することが好ましい。
【0020】
そこで、本実施形態の回転電機1では、回転子20の外周面に溝部を複数形成することで、トルクリプルの低減化を図っている。具体的には、本実施形態の回転電機1では、一磁極領域毎に、2つの溝部を一組とする溝部群を1又は2つ形成し、一組をなす溝部間の間隔が、当該溝部を形成したことで生じる所定次数のトルクリプルが互いに弱め合う位相関係となるように形成されている。以下、図3及び図4を参照して、回転子20の外周面に設けられる溝部25の構成について説明する。
【0021】
図3は、第1の実施形態に係る回転電機1での、溝部25の構成を説明するための図であり、回転子20の1磁極部分を示している。また、図4は、図3に示したP1部分の部分拡大図である。
【0022】
図3及び図4に示すように、回転子20の外周面には溝部25が複数設けられる。具体的には、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に、一組をなす2つの溝部25がそれぞれ設けられる。
【0023】
ここで、溝部25の各々は、回転軸21の軸方向に亘って形成され、回転子20の回転中心に向かって凸な断面形状を有する。例えば、溝部25は、略円弧形状で形成される。溝部25の幅d1は、電気角度で6.0deg程度であり、溝部25の最深部の深さd2は、固定子10のステータティース11と回転子20の外接円との間の離隔距離(以下、ギャップ長Dともいう)の60%相当となっている。
【0024】
また、一組をなす2つの溝部25の間は、回転子20の外周面に外接する外接円と同等の径のスペーサ(回転子鉄心)によって分断されている。本実施形態では、一組をなす2つの溝部25は、当該溝部25の最深部間の距離d3が電気角度で7.5degとなるように間隔を空けて配置されている。
【0025】
また、一組の溝部25が形成される、回転子20の周方向の位置は、回転子20の一磁極領域において、V字状に配置された永久磁石22の角部に近接する付近に形成される。具体的には、本実施形態の回転電機1では、一組をなす2つの溝部25の最深部間の中間位置が、中心線CLから電気角度が53degとなる位置に配置されている。また、一磁極領域を中心線CLで2分した各領域に設けられる一組の溝部25は、中心線CLに対し線対称をなす位置に設けられる。
【0026】
なお、回転子20の一磁極領域において、一組の溝部25を形成する周方向の位置は、上記例に限らないものとする。但し、図3のように、中心線CLからより離れた永久磁石22の角部の付近に一組の溝部25を形成する場合には、一組をなす2つの溝部25の最深部間の中間位置は、中心線CLから電気角度で49.2degから58.0degの範囲に配置することが好ましい。また、本実施形態では、V字状に配置された永久磁石22の両角部のうち、中心線CLにより近い角部の付近に一組の溝部25を形成してもよい。この場合、一組をなす2つの溝部25の最深部間の中間位置は、中心線CLから電気角度で20.4degから32.4degの範囲に配置することが好ましい。また、本実施形態では、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に一組の溝部25を設けたが、これに限らず、何れか一方の領域に設ける形態としてもよい。
【0027】
以下、上述した構成の溝部25によるトルクリプルの低減効果について説明する。
【0028】
図5は、第1の実施形態の溝部25によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。図5において、横軸は、電気角周波数の次数を表しており、縦軸は、トルクリプルの大きさを表している。また、図5中に示す各グラフは、上述した回転電機1の負荷発生時のトルクリプルの解析結果(第1の実施形態)の他、他の回転電機の構成での負荷発生時のトルクリプルの解析結果を示している(比較例1~3)。
【0029】
ここで、比較例1は、回転子20の外周面に溝部を設けない構成の回転電機である。比較例2は、一磁極領域を中心線CLで2分した各領域に、1つの溝部を設けた構成の回転電機である。比較例3は、一磁極領域を中心線CLで2分した各領域に、2つの溝部を隣接して配置した構成の回転電機である。なお、比較例2、3で使用する溝部の形状及び大きさ(幅d1、深さd2)は、本実施形態での溝部25の大きさと同様であるとする。
【0030】
図5に示すように、溝部を設けない構成の回転電機では、電気12次成分のトルクリプルが顕著に現れる(比較例1参照)。一方で、溝部を一つ設けた回転電機や、2つの溝部を隣接配置した回転電機では、比較例1と比べて電気12次成分のトルクリプルが低下する(比較例2、3参照)。つまり、溝部を設けることで、電気12次成分のトルクリプルの低減できることが分かる。なお、電気6次及び電気18次のトルクリプルについては、比較例1~3で同程度となっている。
【0031】
しかしながら、電気24次成分のトルクリプルに着目すると、比較例2、3では、比較例1と比べ、トルクリプルが増加する傾向にある。この増加は、溝部を設けたことで副次的に発生した新たな電気24成分のトルクリプルが寄与するものと考えられる。
【0032】
そこで、本実施形態の回転電機1では、図6に示す溝部25の間隔とトルクリプルとの関係から、電気12次成分及び電気24次成分のトルクリプルを同時に低減可能な間隔を導出し、上述した構成に適用している。
【0033】
図6は、第1の実施形態に係る回転電機1での、溝部25の間隔とトルクリプルとの関係を示す図である。ここで、横軸は、溝部25間の間隔(最深部間の間隔)を表しており、縦軸は、トルクリプルの大きさを表している。なお、図6では、溝部を設けない比較例1での解析結果を基準にトルクリプルの値を規格化している。
【0034】
図6に示すように、電気12次成分では、溝部25の間隔が大きくなるにつれて、トルクリプルの値が増加する傾向にある。ここで、トルクリプルが1(pu)の状態は、比較例1の解析結果と同じであることを意味し、1(pu)未満であることは、比較例1よりもトルクリプルが低下していることを意味する。つまり、溝部25の間隔を電気角度が6.0degより大きく、12.5deg未満の範囲とすることで、電気12次成分のトルクリプルを比較例1より低下させることができる。
【0035】
一方、電気24次成分では、溝部25の間隔の変化に応じて下に凸となるグラフを描く。ここで、溝部25の間隔が電気角度6.5degより大きく、9.0deg未満の範囲では、トルクリプルが1(pu)以下となっている。
【0036】
そのため、溝部25の間隔を電気角度が6.5degより大きく、9.0deg未満の範囲に設定することで、トルクリプルの、電気12次成分の低減と、溝配置による副次的な電気24次成分の増加の抑制を同時に実現することができる。なお、両成分のトルクリプルが低下する理由は、主に以下の2点によるものと考えられる。1点目は、一組の溝部25を設けることで生じる新たな電気12次成分及び電気24次成分のトルクリプルの位相が、電気角周波数の次数毎に独立して作用(干渉)すること、2点目は、各溝が新たに作り出すトルクリプルが、電気12次成分は強め合う位相関係、電気24次成分は弱め合う位相関係となることにある。
【0037】
具体的には、上記の範囲で離隔させた一組の溝部25では、溝部25を設けることで生じた電気12次成分のトルクリプルの位相と、元来の電気12次成分のトルクリプルの位相とが、互いに弱め合う位相関係となる。また、上記の範囲で離隔させた一組の溝部25では、一方の溝部25を設けることで生じた電気24次成分のトルクリプルの位相と、他方の溝部25を設けることで生じた電気24次成分のトルクリプルの位相とが、互いに弱め合う位相関係となる。すなわち、一組の溝部25を上記の範囲で離隔することで、電気12次成分が低下し、かつ溝を設けたことによる電気24次成分の増加を抑制することになる。
【0038】
換言すると、一組をなす2つの溝部25を一磁極領域に設けたとしても、溝部25間の間隔が上記の範囲を逸脱した状態となっていれば、電気24次成分のトルクリプルに係る位相は弱め合う関係とはならない。そのため、例えば図5の比較例3では、電気24次成分のトルクリプルは1(pu)以上となる。
【0039】
上述したように、本実施形態の回転電機1では、一組をなす2つの溝部25間の間隔を電気角度7.5degとしている。かかる間隔は、電気角度が6.5degより大きく、9.0deg未満の範囲に該当し、図6に示す電気24次成分のトルクリプルのグラフの極小値に対応する。すなわち、一組をなす2つの溝部25は、当該溝部25の形成によって生じる電気24次成分のトルクリプルが互いに弱め合う位相関係となる間隔を空けて配置されている。
【0040】
したがって、本実施形態の回転電機1では、図5に示すように、電気12次成分のトルクリプルを比較例1よりも低減することができ、比較例2、3と同程度に電気12次成分のトルクリプルを低減することできる。また、本実施形態の回転電機1では、一組の溝部25を設けたことにより新たに発生する、副次的な電気24次成分のトルクリプルの増加を抑制することができ、比較例1よりも低減することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、一組をなす溝部25間の間隔を電気角度7.5degとしたが、これに限らず、電気角度が6.5degより大きく、電気角度が9.0deg未満の範囲内であれば、その値は特に問わないものとする。
【0042】
また、上述の実施形態では、溝部25の大きさとして、幅d1を電気角度6.0deg、深さd2をギャップ長Dの60%程度としたが、これに限らず、他の大きさで形成してもよい。但し、溝部25の大きさは、回転子20のトルク低下に影響するため、許容できる低下率の範囲で溝部25の大きさを定めることが好ましい。具体的には、回転子20に設けられる全ての溝部25の大きさを合計した値が増えるほど、トルク低下率も増加する傾向にある。
【0043】
図7は、第1の実施形態に係る回転電機での、溝部25の大きさとトルク低下率との関係を示す図である。同図において、横軸は、溝部25の大きさを示す指標を表しており、縦軸は、回転子20のトルク低下率の平均値を表している。
【0044】
なお、指標は、下記式(1)を算出して得られた値Mを、一磁極領域内の全ての溝部25で合計した合計値を意味する。例えば、同一サイズの溝部25が1磁極内にN個(例えば4個)設けられる場合、値MにN個を乗算した値が指標となる。
M=(電気角1周期に対する溝部25の幅d1の比)
×(ギャップ長Dに対する溝部25の深さの比)…(1)
【0045】
図7に示すように、トルク低下率は、指標が大きくなるほど上昇する傾向にある。具体的には、溝部25の大きさが増加するほど、固定子10と回転子20と間のギャップ長Dが等価的に広がり、これによって回転子20のトルクが低下する。
【0046】
そこで、図7に示した指標とトルク低下率との関係に基づき、溝部25の大きさを定めることで、トルクの低下率を所望の範囲で抑えることができる。例えば、トルク低下率を2%に抑える場合、指標が0.18未満となるように1磁極に形成する溝部25の大きさを定めることで、トルク低下率を2%以下に抑えることができる。なお、溝部25の大きさのうち、幅d1は距離d3未満の値であるとする。
【0047】
このように、トルクへの影響を加味した上で溝部25の大きさを決めることで、所望のトルクを維持し、且つ電気12次成分及び電気24次成分のトルクリプルを低下することが可能な回転電機1を実現することができる。
【0048】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、一組をなす2つの溝部25を1磁極あたり1又は2設ける構成とした。しかしながら、一組をなす溝部25の個数はこれに限るものではない。
【0049】
そこで、第2の実施形態では、一組をなす溝部25の個数を3個とした場合の構成について説明する。なお、第1の実施形態で説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付与し、説明を適宜省略する。
【0050】
図8は、第2の実施形態に係る回転電機1aでの、溝部25の構成を説明するための図であり、回転子20の1磁極部分を示している。また、図9は、図8に示したP2部分の部分拡大図である。
【0051】
図8及び図9に示すように、回転子20の外周面には溝部25が複数設けられる。具体的には、溝部25は、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に、一組をなす3つの溝部25がそれぞれ設けられる。
【0052】
ここで、溝部25の各々は、回転軸21の軸方向に亘って形成され、回転子20の回転中心に向かって凸な断面形状を有する。例えば、溝部25は、略円弧形状で形成される。溝部25の幅d1は、電気角度で4.8deg程度であり、溝部25の最深部の深さd2は、ギャップ長Dの60%相当となっている。
【0053】
また、一組をなす3つの溝部25の間は、回転子20の外周面に外接する外接円と同等の径のスペーサ(回転子鉄心)によって分断されている。本実施形態の回転電機1aでは、一組をなす3つの溝部25は、当該溝部25の最深部間の距離d3が電気角度で5.0degとなるように間隔を空けて配置されている。
【0054】
また、一組の溝部25が形成される、回転子20の周方向の位置は、回転子20の一磁極領域において、V字状に配置された永久磁石22の角部に近接する付近に形成される。具体的には、本実施形態の回転電機1aでは、一組をなす3つの溝部25の最深部間の中間位置が、中心線CLから電気角度が53degとなる位置に配置されている。また、一磁極領域を中心線CLで2分した各領域に設けられる一組の溝部25は、中心線CLに対し線対称をなす位置に設けられる。
【0055】
なお、回転子20の一磁極領域において、一組の溝部25を形成する周方向の位置は、上記例に限らないものとする。但し、図8のように、中心線CLからより離れた永久磁石22の角部の付近に一組の溝部25を形成する場合には、一組をなす3つの溝部25の最深部間の中間位置は、中心線CLから電気角度で49.2degから58.0degの範囲に配置することが好ましい。また、本実施形態では、V字状に配置された永久磁石22の両角部のうち、中心線CLにより近い角部の付近に一組の溝部25を形成してもよい。この場合、一組をなす3つの溝部25の最深部間の中間位置は、中心線CLから電気角度で20.4degから32.4degの範囲に配置することが好ましい。また、本実施形態では、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に一組の溝部25を設けたが、これに限らず、何れか一方の領域に設ける形態としてもよい。
【0056】
以下、上述した構成の溝部25によるトルクリプルの低減効果について説明する。
【0057】
図10は、第2の実施形態の溝部25によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。図10において、横軸は、電気角周波数の次数を表しており、縦軸は、トルクリプルの大きさを表している。また、図10中に示す各グラフは、上述した回転電機1aの負荷発生時のトルクリプルの解析結果(第2の実施形態)の他、比較例となる他の回転電機の構成での負荷発生時のトルクリプルの解析結果を示している(比較例1)。ここで、比較例1は、回転子20の外周面に溝部を設けない構成の回転電機である。
【0058】
図10に示すように、比較例1の回転電機では、電気12次成分のトルクリプルが顕著に現れる。一方で、本実施形態の回転電機1aでは、比較例1と比較し、電気12次成分及び電気24次成分の両成分のトルクリプルが低下している。なお、電気6次成分及び電気18次成分のトルクリプルについては、比較例1及び本実施形態でも同程度となっている。
【0059】
図11は、第2の実施形態に係る回転電機1aでの、溝部25の間隔とトルクリプルとの関係を示す図である。ここで、横軸は、溝部25間の間隔(最深部間の間隔)を表しており、縦軸は、トルクリプルの大きさを表している。なお、図11では、溝部を設けない比較例1での解析結果を基準にトルクリプルの値を規格化している。
【0060】
図11に示すように、電気12次成分では、溝部25の間隔が大きくなるにつれて、トルクリプルの値が徐々に増加する傾向にある。つまり、溝部25の間隔を電気角度8.0deg未満とすることで、電気12次成分のトルクリプルを比較例1より低下させることができる。
【0061】
一方、電気24次成分では、溝部25の間隔の変化に応じて下に凸となるグラフを描く。ここで、溝部25の間隔が電気角度4.8degより大きく、8.0deg未満の範囲では、トルクリプルが1(pu)以下となっている。
【0062】
そのため、溝部25の間隔を電気角度4.8degより大きく、8.0deg未満の範囲に設定することで、電気12次成分及び電気24次成分のトルクリプルを同時に低下させることができる。なお、両成分のトルクリプルが低下する理由は、第1の実施形態と同様である。具体的には、一組をなす3つの溝部25のうち、一部の溝部25を設けることで副次的に生じた電気24次成分のトルクリプルの位相と、残りの溝部25を設けることで副次的に生じた電気24次成分のトルクリプルの位相とが、互いに弱め合う位相関係となる。すなわち、一組の溝部25を構成する3つの溝部25の各々を、上記の範囲で離隔することで、電気12次成分及び電気24次成分のトルクリプルが低下することになる。
【0063】
換言すると、一組をなす3つの溝部25を一磁極領域に設けたとしても、溝部25間の間隔が上記の範囲を逸脱した状態となっていれば、電気24次成分のトルクリプルに係る位相は弱め合う関係とはならない。そのため、溝部25間の間隔が上記の範囲を逸脱した構成では、電気24次成分のトルクリプルが1(pu)以上となる可能性がある。
【0064】
上述したように、本実施形態の回転電機1aでは、一組をなす3つの溝部25間の間隔を電気角度7.5degとしている。かかる間隔は、電気角度が6.5degより大きく、9.0deg未満の範囲に該当し、図11に示す電気24次成分のトルクリプルのグラフの極小値に対応する。すなわち、一組をなす3つの溝部25は、当該溝部25の形成によって生じる電気24次成分のトルクリプルが互いに弱め合う位相関係となる間隔を空けて配置されている。
【0065】
したがって、本実施形態の回転電機1aでは、図10に示すように、電気12次成分のトルクリプルを比較例1よりも低減することができる。また、本実施形態の回転電機1aでは、一組の溝部25を設けたことにより新たに発生する、副次的な電気24次成分のトルクリプルの増加を抑制することができ、比較例1よりも低減することができる。
【0066】
なお、本実施形態では、一組をなす溝部25間の間隔を電気角度6.0degとしたが、電気角度4.8degより大きく、8.0deg未満の範囲内であれば、その値は特に問わないものとする。
【0067】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態について説明する。第1の実施形態では、一組をなす2つの溝部25を、一磁極領域を中心線CLで2分した領域あたり1設ける構成とした。しかしながら、領域あたりに設ける一組の溝部25の個数はこれに限るものではない。
【0068】
そこで、第3の実施形態では、第2の実施形態で説明した一組をなす2つの溝部25を、一磁極領域を中心線CLで2分した領域あたり2設ける場合の構成について説明する。なお、第1の実施形態で説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付与し、説明を適宜省略する。
【0069】
図12は、第3の実施形態に係る回転電機1bでの、溝部25の構成を説明するための図であり、回転子20の一磁極部分を示している。また、図13は、図12に示したP3部分の部分拡大図である。
【0070】
図12及び図13に示すように、回転子20の外周面には溝部25が複数設けられる。具体的には、溝部25は、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に、一組をなす2つの溝部25が2組設けられている。同図では、2組の溝部25のうち、第1の実施形態で説明した一組の溝部25と同様の位置に配置される一方の組を溝部25aで表記しており、他方の組を溝部25bで表記している。なお、各組を構成する溝部25の大きさ(幅d1、深さd2)及び距離d3は、第1の実施形態と同様である。以下、2つの溝部25aで構成される組を「第1組」、2つの溝部25bで構成される組を「第2組」ともいう。
【0071】
また、第1組と第2組との間は、回転子20の外周面に外接する外接円と同等の径のスペーサ(回転子鉄心)によって分断されている。本実施形態の回転電機1bでは、第1組を構成する25aの最深部間の中心位置と、第2組を構成する25bの最深部間の中心位置との間の距離d4が、電気角度30degとなっている。
【0072】
なお、本実施形態では、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に、中心線CLに対して線対称となる形で第1組及び第2組を設けたが、これに限らず、何れか一方の領域に第1組及び第2組を設ける構成としてもよい。
【0073】
以下、図14及び図15を参照し、上述した構成の溝部25によるトルクリプルの低減効果について説明する。
【0074】
図14は、第3の実施形態の溝部25によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。図14において、横軸は、電気角周波数の次数を表しており、縦軸は、トルクリプルの大きさを表している。また、図14中に示す各グラフは、上述した回転電機1bの負荷発生時のトルクリプルの解析結果(第3の実施形態)の他、比較例となる他の回転電機の構成での負荷発生時のトルクリプルの解析結果を示している(比較例1)。ここで、比較例1は、回転子20の外周面に溝部を設けない構成の回転電機である。
【0075】
図14に示すように、比較例1の回転電機では、電気12次成分のトルクリプルが顕著に現れる。一方で、本実施形態の回転電機1bでは、比較例1と比較し、電気12次成分及び電気24次成分の両成分のトルクリプルが低下している。なお、電気6次成分のトルクリプルについては、比較例1と比較し本実施形態が微増となっている。また、電気18次成分のトルクリプルについては、比較例1と本実施形態とで同程度となっている。
【0076】
図15は、第3の実施形態に係る回転電機1bでの、第1組及び第2組の間隔とトルクリプルとの関係を示す図である。ここで、横軸は、第1組と第2組との間隔(最深部の中間位置間の間隔)を表しており、縦軸は、トルクリプルの大きさを表している。なお、横軸の間隔は、中心線CLから遠い第1組の位置を固定した状態で、中心線CLに近い第2組の位置を変移させた際の間隔を意味する。
【0077】
破線のグラフは、第1組のみを設けた第1の実施形態での電気12次成分のトルクリプルの値を示している(図5参照)。また、実線のグラフは、第1組と第2組との間隔を変化させた際の、本実施形態の電気12次成分のトルクリプルの値を、比較例1の電気12次成分のトルクリプルの値で規格化したものである。
【0078】
図15に示すように、電気12次成分のトルクリプルは、第1組と第2組との間隔の変化に応じて下に凸となるグラフを描く。ここで、第1組と第2組との間隔が電気角度20degより大きく、31deg未満の範囲では、第1組のみを設けた第1の実施形態での電気12次成分のトルクリプルより低くなることが分かる。
【0079】
上述したように、本実施形態の回転電機1bでは、第1組と第2組との間隔を電気角度30degとしている。かかる間隔は、電気角度が20degより大きく、31deg未満の範囲に該当する。したがって、本実施形態の回転電機1bでは、図14に示すように、電気12次成分のトルクリプルを比較例1より低減することができる。
【0080】
また、第1組及び第2組を構成する溝部25の大きさ及び距離d3は、第2の実施形態と同様である。そのため、本実施形態の回転電機1bでは、溝部25を設けたことにより新たに発生する、副次的な電気24次成分のトルクリプルの増加を抑制することができ、電気24次成分のトルクリプルを比較例1よりも低減することができる。
【0081】
なお、本実施形態では、第1組と第2組との間隔を電気角度30degとしたが、電気角度が20degより大きく、31deg未満の範囲内であれば、その値は特に問わないものとする。
【0082】
[第4の実施形態]
次に、第4の実施形態について説明する。上述した第2の実施形態では、一組をなす3つの溝部25を、一磁極領域を中心線CLで2分した領域あたり1設ける構成とした。しかしながら、領域あたりに設ける一組の溝部25の個数はこれに限るものではない。
【0083】
そこで、第4の実施形態では、第2の実施形態で説明した一組をなす3つの溝部25を、一磁極領域を中心線CLで2分した領域あたり2設ける場合の構成について説明する。なお、第2の実施形態で説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付与し、説明を適宜省略する。
【0084】
図16は、第4の実施形態に係る回転電機1cでの、溝部25の構成を説明するための図であり、回転子20の一磁極部分を示している。また、図17は、図16に示したP4部分の部分拡大図である。
【0085】
図16及び図17に示すように、回転子20の外周面には溝部25が複数設けられる。具体的には、溝部25は、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に、一組をなす3つの溝部25が2組設けられている。図16では、2組の溝部25のうち、第2の実施形態で説明した一組の溝部25と同様の位置に配置される一方の組を溝部25aで表記しており、他方の組を溝部25bで表記している。なお、各溝部25の大きさ(幅d1、深さd2)及び距離d3は、第2の実施形態と同様である。以下、3つの溝部25aで構成される組を第1組、3つの溝部25bで構成される組を第2組という。
【0086】
また、第1組と第2組との間は、回転子20の外周面に外接する外接円と同等の径のスペーサ(回転子鉄心)によって分断されている。本実施形態の回転電機1cでは、第1組を構成する25aの最深部間の中心位置と、第2組を構成する25bの最深部間の中心位置との間の距離d4が、電気角度30degとなっている。
【0087】
なお、本実施形態では、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に、中心線CLに対して線対称となる形で第1組及び第2組を設けたが、これに限らず、何れか一方の領域に第1組及び第2組を設ける構成としてもよい。
【0088】
以下、図18を参照し、上述した構成の溝部25によるトルクリプルの低減効果について説明する。
【0089】
図18は、第4の実施形態の溝部25によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。横軸は、電気角周波数の次数を表しており、縦軸は、トルクリプルの大きさを表している。また、図18に示す各グラフは、上述した回転電機1cの負荷発生時のトルクリプルの解析結果(第4の実施形態)の他、他の回転電機の構成での負荷発生時のトルクリプルの解析結果を比較例1として示している。ここで、比較例1は、回転子20の外周面に溝部を設けない構成の回転電機である。
【0090】
図18に示すように、比較例1の回転電機では、電気12次成分のトルクリプルが顕著に現れる。一方で、本実施形態の回転電機1cでは、比較例1と比較し、電気12次成分及び電気24次成分の両成分のトルクリプルが低下している。なお、電気6次成分のトルクリプルについては、比較例1と比較し本実施形態が微増となっている。また、電気18次成分のトルクリプルについては、比較例1と本実施形態とで同程度となっている。
【0091】
ここで、第1組と第2組との間隔と、トルクリプルとは、上述した図15と同様の関係を有している。そのため、第1組と第2組との間隔を電気角度20degより大きく、31deg未満とすることで、電気12次成分のトルクリプルを、第1組のみを設けた構成(第2の実施形態の構成)よりも低下させることができる。
【0092】
上述したように、本実施形態の回転電機1cでは、第1組と第2組との間隔を電気角度30degとしている。かかる間隔は、電気角度20degより大きく、31deg未満の範囲に該当する。したがって、本実施形態の回転電機1cでは、図18に示すように、電気12次成分のトルクリプルを比較例1より低減することができる。
【0093】
また、第1組及び第2組を構成する溝部25の大きさ及び距離d3は、第2の実施形態と同様である。そのため、本実施形態の回転電機1cでは、溝部25を設けたことにより新たに発生する、副次的な電気24次成分のトルクリプルの増加を抑制することができ、電気24次成分のトルクリプルを比較例1よりも低減することができる。
【0094】
なお、本実施形態では、第1組と第2組との間隔を電気角度30degとしたが、電気角度が20degより大きく、31deg未満の範囲内であれば、その値は特に問わないものとする。
【0095】
[第5の実施形態]
次に、第5の実施形態について説明する。上述した第3の実施形態、第4の実施形態では、2又は3の溝部25で構成される第1組及び第2組を、一磁極領域を中心線CLで2分した各領域に2設ける構成とした。しかしながら、第1組及び第2組を構成する溝部25の個数は同数でなくてもよい。
【0096】
そこで、第5の実施形態では、第1組及び第2組を構成する溝部25の個数を相違させた形態について説明する。なお、上述の実施形態で説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付与し、説明を適宜省略する。
【0097】
図19は、第5の実施形態に係る回転電機1dでの、溝部25の構成を説明するための図であり、回転子20の1磁極部分を示している。また、図20は、図19に示したP5部分の部分拡大図である。
【0098】
図19及び図20に示すように、回転子20の外周面には溝部25が複数設けられる。具体的には、溝部25は、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に、5つの溝部25が設けられる。ここで、5つの溝部25のうち、中心線CLからより離れた位置に存在する2個の溝部25aからなる組は、上述した第3の実施形態の第1組に対応する。また、5つの溝部25のうち、中心線CLにより近い位置に存在する3個の溝部25bからなる組は、上述した第4の実施形態の第2組に対応する。なお、第1組を構成する溝部25aの大きさ(幅d1、深さd2)及び距離d3は、第1の実施形態で説明した一組をなす溝部25と同様である。また、第2組を構成する溝部25bの大きさ(幅d1、深さd2)及び距離d3は、第2の実施形態で説明した一組をなす溝部25と同様である。
【0099】
また、第1組と第2組との間は、回転子20の外周面に外接する外接円と同等の径のスペーサ(回転子鉄心)によって分断されている。本実施形態の回転電機1dでは、第1組を構成する25aの最深部間の中心位置と、第2組を構成する25bの最深部間の中心位置との間の距離d4が、電気角度30degとなっている。
【0100】
なお、本実施形態では、一磁極領域を中心線CLで2分した領域の各々に、中心線CLに対して線対称となる形で第1組及び第2組を設けたが、これに限らず、何れか一方の領域に第1組及び第2組を設ける構成としてもよい。
【0101】
以下、図21を参照し、上述した構成の溝部25によるトルクリプルの低減効果について説明する。
【0102】
図21は、第5の実施形態の溝部25によるトルクリプルの低減効果を説明するための図である。横軸は、電気角周波数の次数を表しており、縦軸は、トルクリプルの大きさを表している。また、図21に示す各グラフは、上述した回転電機1dの負荷発生時のトルクリプルの解析結果(第5の実施形態)の他、他の回転電機の構成での負荷発生時のトルクリプルの解析結果を比較例1として示している。ここで、比較例1は、回転子20の外周面に溝部を設けない構成の回転電機である。
【0103】
図21に示すように、比較例1の回転電機では、電気12次成分のトルクリプルが顕著に現れる。一方で、本実施形態の回転電機1dでは、比較例1と比較し、電気12次成分及び電気24次成分のトルクリプルが低下している。なお、電気6次成分のトルクリプルについては、比較例1と比較し本実施形態が微増となっている。また、電気18次成分のトルクリプルについては、比較例1と本実施形態とで同程度となっている。
【0104】
ここで、第1組と第2組との間隔と、トルクリプルとは、上述した図15と同様の関係を有している。そのため、第1組と第2組との間隔を電気角度20degより大きく、31deg未満とすることで、電気12次成分のトルクリプルを、第1組のみを設けた構成(第2の実施形態の構成)よりも低下させることができる。
【0105】
上述したように、本実施形態の回転電機1cでは、第1組と第2組との間隔を電気角度30degとしている。かかる間隔は、電気角度20degより大きく、31deg未満の範囲に該当する。したがって、本実施形態の回転電機1dでは、図21に示すように、電気12次成分のトルクリプルを比較例1より低減することができる。
【0106】
また、第1組及び第2組を構成する溝部25の大きさ及び距離d3は、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様である。そのため、本実施形態の回転電機1dでは、溝部25を設けたことにより新たに発生する、副次的な電気24次成分のトルクリプルの増加を抑制することができ、電気24次成分のトルクリプルを比較例1よりも低減することができる。
【0107】
なお、本実施形態では、第1組と第2組との間隔を電気角度30degとしたが、電気角度20degより大きく、31deg未満の範囲内であれば、その値は特に問わないものとする。また、本実施形態では、第1組を2個の溝部25で構成し、第2組を3個の溝部25で構成したが、これに限らず、第1組を3個の溝部25で構成し、第2組を2個の溝部25で構成してもよい。
【0108】
[変形例]
上述の第1~第5の実施形態では、回転子20の外周面に溝部25を複数設ける形態と説明した。溝部25は、回転子20の回転中心に向かって凸な断面形状を有するが、溝部25の一部又は全てに、非磁性体を充填する構成としてもよい。また、回転子20の外周を非磁性体で覆う構成としてもよい。これにより、回転子20が回転する際の溝部25による空気抵抗を低減することができるため、トルクの低下を防ぐことができる。
【0109】
以上、本発明のいくつかの実施形態(及び変形例)を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0110】
1、1a、1b、1c、1d 回転電機
10 固定子
11 ステータティース
12 スロット部
20 回転子
21 回転軸
22 永久磁石
23 V字空間
23a 収容空間
23b フラックスバリア
24 中心点
25、25a、25b 溝部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21