(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107103
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】電磁石および加速器システム
(51)【国際特許分類】
H05H 7/10 20060101AFI20230726BHJP
H05H 7/04 20060101ALI20230726BHJP
H05H 13/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
H05H7/10
H05H7/04
H05H13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008219
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 将直
(72)【発明者】
【氏名】羽江 隆光
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌広
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA13
2G085BA13
2G085BA14
2G085BA15
2G085BA16
2G085BC02
2G085BC03
2G085BC04
(57)【要約】
【課題】効率のよいセプタム電磁石の構成を実現する。
【解決手段】加速器内で加速されて周回する荷電粒子を加速器外へ導くための磁場を生成する電磁石は、軸方向が荷電粒子の周回経路を含むビーム軌道面に対して水平なコイルであるセプタムコイル部と、軸方向がビーム軌道面に対して垂直なコイルであるリターンコイル部と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器内で加速されて周回する荷電粒子を加速器外へ導くための磁場を生成する電磁石であって、
軸方向が前記荷電粒子の周回経路を含むビーム軌道面に対して水平なコイルであるセプタムコイル部と、
軸方向が前記ビーム軌道面に対して垂直なコイルであるリターンコイル部と、
を有する電磁石。
【請求項2】
前記セプタムコイル部は、前記周回経路のビームが通過する領域である周回ビーム通過領域の径方向外側にセプタム部を有し、
前記リターンコイル部は、前記周回経路から径方向外側に偏向されたビームが通過する領域である出射ビーム通過領域の外側に設置されたリターン部を有する、
請求項1に記載の電磁石。
【請求項3】
前記セプタムコイル部は、渦巻き状に単層に巻かれたコイルである、
請求項1に記載の電磁石。
【請求項4】
軸方向が前記セプタムコイル部の軸方向と平行であり、前記セプタムコイル部よりも前記周回経路の径方向内側にあり、前記周回ビーム通過領域に対して、前記セプタム部により生成される磁場と逆向きの磁場を生成するシールドコイルを更に有する、
請求項2に記載の電磁石。
【請求項5】
前記セプタムコイル部と前記リターンコイル部とが分離された別個のコイルである、
請求項1に記載の電磁石。
【請求項6】
前記セプタムコイル部は、前記ビーム軌道面を挟んで両側に配置された2つのセプタム部リターンを更に有する、
請求項2に記載の電磁石。
【請求項7】
前記セプタムコイル部は、前記ビーム軌道面を挟んで両側に配置される2つのコイルである、
請求項3に記載の電磁石。
【請求項8】
前記セプタムコイル部および前記リターンコイル部はホロコンダクタで構成されている、
請求項1に記載の電磁石。
【請求項9】
荷電粒子を周回させて加速する加速器と、
請求項1に記載の電磁石を有する出射器と、
を有する加速器システム。
【請求項10】
前記加速器は、前記周回経路に配設された真空ダクトと偏向電磁石と四極電磁石とを有し、前記真空ダクトが前記偏向電磁石および前記四極電磁石よりも小径であり、
前記出射器が、前記軸方向に見て前記偏向電磁石および前記四極電磁石と少なくとも一部が重なるように前記真空ダクトに対して接続されている、
請求項9に記載の加速器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セプタム電磁石およびそれを用いた加速器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
加速器システムは、電子、陽子、イオンなどの荷電粒子を加速器によって高速に加速し、出射するする装置である。加速器システムには、加速器内を周回する荷電粒子ビームを加速器外に取り出すためにセプタム電磁石が用いられる。セプタム電磁石は、加速器内の周回軌道を周回する荷電粒子ビームを加速器外へ向かうビーム出射軌道に導く装置であり、ビーム出射軌道を挟んで配置されるセプタムコイルとリターンコイルとを備えている。セプタム電磁石が周回軌道に発生させるセプタム磁場は、荷電粒子ビームを周回させるための周回磁場とは逆方向の磁場である。このセプタム磁場により周回軌道を周回していた荷電粒子ビームがビーム出射軌道に導かれる。
【0003】
加速器システムから取り出された荷電粒子ビームは、所定の位置まで輸送され、利用される。荷電粒子ビームの用途としては、原子核・素粒子物理実験、放射性核種製造、粒子線治療等がある。
【0004】
特許文献1には、入出射ビーム用のセプタムコイル1およびリターンコイル1と周回ビーム用のセプタムコイル2およびリターンコイル2という2対のコイルを有するセプタム電磁石が開示されている。出射軌道に磁場を生成するセプタムコイル1と、周回軌道に逆向きの磁場を生成するセプタムコイル2とが出射軌道と周回軌道の間に配置されている。セプタムコイル2が出射軌道側に作る磁場を利用することでセプタムコイル1の起磁力を小さくするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
様々な用途に利用されるセプタム電磁石には効率のよい構成が求められる。
【0007】
例えば、セプタム電磁石に要求される起磁力を低減するには、周回ビームと出射ビームを分離する隔壁をなるべく薄くすることが望ましい。隔壁を薄くするために一般的に常電導電磁石が用いられる。常電導電磁石には、コイルの熱を除去するために内部に冷却水を流すホロコンダクタが用いられる。隔壁を薄くするために真空中のビーム通過空間にセプタム電磁石を設置する場合、真空中でのホロコンダクタの冷却水がリークすることがないように、セプタムコイルとリターンコイルの間を結ぶ部分などをホロコンダクタを曲げて構成することにより継ぎ目を作らないことが望ましい。
【0008】
しかしながら、ホロコンダクタを曲げる場合、最小曲げ半径を確保することが要求される。したがって、ビーム出射軌道を挟むセプタムコイルとリターンコイルとの距離(横方向距離)は、ホロコンダクタの最小曲げ半径の2倍以上となる。ホロコンダクタの最小曲げ半径の2倍というのは一般的にビーム通過空間の幅よりも大きい。したがって、セプタムコイルあるいはリターンコイルとビーム通過領域との距離は必要以上に大きなものとなる。セプタムコイルあるいはリターンコイルとビーム通過領域との距離が大きければ、ビーム通過領域に所望の磁場を生成するために、セプタムコイルあるいはリターンコイルに求められる起磁力も大きくなってしまう。
【0009】
本開示に含まれるひとつの目的は、効率のよいセプタム電磁石の構成を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に含まれるひとつの態様による電磁石は、加速器内で加速されて周回する荷電粒子を加速器外へ導くための磁場を生成する電磁石であって、軸方向が荷電粒子の周回経路を含むビーム軌道面に対して水平なコイルであるセプタムコイル部と、軸方向がビーム軌道面に対して垂直なコイルであるリターンコイル部と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示のひとつの態様によれば、効率のよいセプタム電磁石の構成を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における加速器システムの構成を示す平面図である。
【
図2】実施例1におけるセプタム電磁石の断面図である。
【
図3】実施例1におけるセプタム電磁石の鳥観図である。
【
図4】実施例2におけるセプタム電磁石の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係る加速器システムを図面を参照して説明する。
【0014】
本発明は種々の態様により実施することが可能であるが、以下の実施形態はあくまでも例示であり、本発明が実施形態に限定されることはない。例えば、ここではシンクロトロンの実施形態を示すが、本発明は他の例としてサイクロトロンなどにも適用することができる。
【実施例0015】
図1は、実施例1における加速器システムの構成を示す平面図である。
【0016】
加速器システム100はシンクロトロンである。加速器システム100は、入射器1、ビーム入射装置2、偏向電磁石3-1~3-4、真空ダクト4-1~4-4、高周波加速空洞5、および四極電磁石6を備えた加速器と、セプタム電磁石7を備えた出射器とを有する。
【0017】
真空ダクト4-1、偏向電磁石3-1、真空ダクト4-2、偏向電磁石3-2、真空ダクト4-3、偏向電磁石3-3、高周波加速空洞5、真空ダクト4-4および偏向電磁石3-4は、この順序で環状に配置され、荷電粒子ビームの周回経路を形成している。
【0018】
入射器1は、荷電粒子を発生させてビーム入射装置2に供給する。ビーム入射装置2は、入射器1から供給された荷電粒子を真空ダクト4-1に入射する。各偏向電磁石3-1~3-4は、図面に向かってみた場合の荷電粒子ビームの進行方向を左方向に90°偏向させる。偏向電磁石3-1~3-4で偏向された荷電粒子ビームは各真空ダクト4-1~4-4内を直進する。高周波加速空洞5では、荷電粒子が周回経路を周回する周期に合わせて周波数が制御された高周波電場が印加される。荷電粒子は、高周波加速空洞5の高周波電場によって加速されながら周回経路を周回する。各真空ダクト4-1~4-4に設けられた四極電磁石6は、周回経路に所定の磁場を印加して荷電粒子ビームの空間的な広がりを調整する。
【0019】
図1を見て分かるように、真空ダクト4-3が偏向電磁石3-2、3-3および四極電磁石6よりも小径であり、セプタム電磁石7は、真空ダクト4-3の軸方向に見て偏向電磁石3-2、3-3および四極電磁石6と少なくとも一部が重なるように真空ダクト4-3に対して接続されている。荷電粒子ビームが周回経路で加速され、荷電粒子ビームのエネルギーが所定のエネルギーに達したときに、荷電粒子ビームはセプタム電磁石7によってビーム出射軌道に沿って外側に偏向され、加速器システム100から取り出される。
【0020】
図2は、実施例1におけるセプタム電磁石の断面図である。
図2には、
図1にあるセプタム電磁石7のA-A’断面が示されている。A側が周回経路の中心に近い側であり、A’側が周回経路の中心から遠い側である。
【0021】
セプタム電磁石7は、セプタムコイル部76とリターンコイル部77とを有している。セプタムコイル部76は、長手方向に通る孔82を有する中空で長尺の導体81であるホロコンダクタ8が単層に渦巻き状に巻かれたパンケーキコイルであり、セプタム部71とセプタム部リターン73とを含む。リターンコイル部77は、ホロコンダクタ8が複層に巻かれたパンケーキコイルであり、リターン部72とリターン部リターン74とを含む。図中のハッチングが施されたホロコンダクタ8は、図面の奥から手前に向かって電流が流れることを示し、ハッチングが施されていないホロコンダクタ8は、図面の手前から奥に向かって電流が流れることを示している。
【0022】
最もA側には周回経路の荷電粒子のビームが通過する領域である周回ビーム通過領域101がある。周回ビーム通過領域101のA’側にセプタム部71が配置される。セプタム部71のA’側には、周回経路から径方向外側すなわちA’側に偏向された荷電粒子のビームが通過する領域である出射ビーム通過領域102がある。出射ビーム通過領域102のA’側にはリターン部72が配置される。従って、セプタム部71とリターン部72とで出射ビーム通過領域102を挟んでいる。
【0023】
セプタムコイル部76は、軸方向が、周回経路を含む平面であるビーム軌道面に対して水平であり、セプタム部71と、そのセプタム部71よりもビーム軌道面から遠くに配置されたセプタム部リターン73とを接続するように巻かれた縦巻きのパンケーキコイルである。セプタムコイル部76には、ビーム軌道面を挟んで両側に配置された2つのセプタム部リターン73がある。セプタムコイル部76は、ビーム軌道面を挟んで両側に配置される2つのパンケーキコイルであるとも言える。
【0024】
リターンコイル部77は、軸方向が、ビーム軌道面に対して垂直であり、リターン部72と、そのリターン部72よりもA’側に配置されたリターン部リターン74とを接続するように巻かれた横巻きのパンケーキコイルである。
【0025】
図3は、実施例1におけるセプタム電磁石の鳥観図である。
図3を見て分かるように、セプタムコイル部76は、セプタム部71とセプタム部リターン73とを接続するようにホロコンダクタを図中の縦方向に曲げて構成される。また、リターンコイル部77は、リターン部72とリターン部リターン74とを接続するようにホロコンダクタを図中の横方向に曲げて構成される。
【0026】
以上説明したように、実施例1では、互いに分離された、軸方向がビーム軌道面に対して水平なセプタムコイル部76と、軸方向がビーム軌道面に対して垂直なリターンコイル部77との組合わせにより、セプタム部71とリターン部72の距離を任意に設定して効率のよい構成を実現することができる。例えば、セプタム部71とリターン部72との距離を、出射ビーム通過領域102の幅と一致させることができる。そうすれば、出射ビーム通過領域102の外側に余分な磁場を生じさせるための起磁力が不要となり、必要最小限の起磁力を発生する効率のよいセプタム電磁石7を実現できる。
【0027】
また、セプタムコイル部76が渦巻き状に単層に巻かれたコイルであるため、周回ビームと出射ビームを分離する隔壁が薄い効率のよい構成を実現することができる。
【0028】
また、セプタムコイル部76のコイルと、リターンコイル部77のコイルとが分離された別個のコイルとなっているので、曲げの少ない単純な構成が可能となり、組み立て工数の削減が可能となる。
【0029】
また、セプタムコイル部76のコイルが、ビーム軌道面を挟んで両側に配置された2つのセプタム部リターン73を有する構成なので、ビーム軌道面を挟んで両側に対称に磁場を生成することができる。
【0030】
また、セプタムコイル部76のコイルが、ビーム軌道面を挟んで両側に配置される2つのパンケーキコイルなので、ビーム軌道面を挟んで両側に対称に磁場を生成するセプタム電磁石7を、組み立て工数の少ない単純な構成で実現することができる。
【0031】
また、実施例1では、真空ダクト4-3が偏向電磁石3-2、3-3および四極電磁石6よりも小径であり、セプタム電磁石7が偏向電磁石3-2,3-3および四極電磁石6と少なくとも一部が重なるように真空ダクト4-3に対して接続されているので、加速器システム100を小型に構成することができる。
実施例2のセプタム電磁石7は、セプタムコイル部76とリターンコイル部77とシールドコイル75を有している。セプタムコイル部76とリターンコイル部77は実施例1のものと同様である。セプタムコイル部76は、長手方向に通る孔82を有する中空で長尺の導体81であるホロコンダクタ8が単層に渦巻き状に巻かれたパンケーキコイルであり、セプタム部71とセプタム部リターン73とを含む。リターンコイル部77は、ホロコンダクタ8が複層に巻かれたパンケーキコイルであり、リターン部72とリターン部リターン74とを含む。図中のハッチングが施されたホロコンダクタ8は、図面の奥から手前に向かって電流が流れることを示し、ハッチングが施されていないホロコンダクタ8は、図面の手前から奥に向かって電流が流れることを示している。
シールドコイル75は、周回ビーム通過領域101への漏れ磁場を抑制するコイルである。シールドコイル75は、セプタム部71およびセプタム部リターン73で構成されたセプタムコイル部76と同様に縦巻きコイルである。シールドコイル75は、その軸方向がセプタムコイル部76の軸方向と平行であり、セプタムコイル部76よりも周回経路の径方向内側にあり、周回ビーム通過領域101に対して、セプタム部71により生成される磁場と逆向きの磁場を生成する。
以上説明したように実施例2では、シールドコイル75を追加配置することで、周回ビーム通過領域101に所望の磁場を生成し、周回ビーム通過領域101への漏れ磁場の影響を抑制することができる。
なお、本実施例では、実施例1の構成に加えて上述したようなシールドコイル75を追加する例を示したが、他にも様々な変形例が可能である。縦巻きコイルあるいは横巻きコイルを周回ビーム通過領域101および出射ビーム通過領域102を避けた任意の位置に配置することが可能である。これにより、周回ビーム通過領域101あるいは出射ビーム通過領域102に所望の磁場を生成することができる。