(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107112
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】モータコアの製造方法およびこれに用いられる熱処理装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20230726BHJP
C21D 1/773 20060101ALI20230726BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20230726BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C21D9/00 S
C21D1/773 D
C21D1/00 F
H01F41/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008231
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】浅井 康一郎
【テーマコード(参考)】
4K034
4K042
5E062
【Fターム(参考)】
4K034CA05
4K034CA06
4K034GA08
4K042AA25
4K042BA12
4K042DA03
4K042DA06
4K042DB07
4K042DC02
4K042DC04
4K042DC05
4K042DE02
4K042DE04
4K042EA01
4K042EA03
5E062AC15
(57)【要約】
【課題】積層体における歪取りと粒成長を同時に行うことが可能なモータコアの製造方法を提供する。
【解決手段】モータコアの製造方法は、所定形状に加工された電磁鋼板の積層体Sを準備する準備工程S001と、低酸化性ガス及び/又は還元性ガスからなる露点-20℃以下の雰囲気ガス中において、500~800℃の雰囲気温度で積層体Sを加熱する第1加熱工程S003と、第1加熱工程の後、100Pa以下の真空中において、積層体Sを1000~1200℃で均熱する第2加熱工程S004と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定形状に加工された電磁鋼板の積層体を準備する準備工程と、
低酸化性ガス及び/又は還元性ガスからなる露点-20℃以下の雰囲気ガス中において、500~800℃の雰囲気温度で前記積層体を加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後、100Pa以下の真空中において、前記積層体を1000~1200℃で均熱する第2加熱工程と、
を備えているモータコアの製造方法。
【請求項2】
前記積層体をC/Cコンポジットからなる治具上に載置させた状態で加熱処理する、請求項1に記載のモータコアの製造方法。
【請求項3】
前記低酸化性ガスが窒素であり、前記還元性ガスが水素及び/又は一酸化炭素である、請求項1,2の何れかに記載のモータコアの製造方法。
【請求項4】
前記第1加熱工程前の前記電磁鋼板の平均結晶粒径を100μm未満とする、請求項1~3の何れかに記載のモータコアの製造方法。
【請求項5】
前記第2加熱工程後の前記電磁鋼板の平均結晶粒径を100~300μmとする請求項4に記載のモータコアの製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法を実施する熱処理装置であって、
前記積層体を熱処理する複数の熱処理室と、
該熱処理室に配置され前記積層体を支持し搬送するローラと、を備え、
前記熱処理室として、前記第1加熱工程を実施する第1加熱室と、前記第2加熱工程を実施する第2加熱室と、前記第2加熱工程後の前記積層体を徐冷する徐冷室とが直列に配置されたローラハース式の熱処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の製造方法を実施する熱処理装置であって、
(A)搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の加熱チャンバであって、前記第1加熱工程及び/又は前記第2加熱工程を実施する加熱チャンバと、
(B)前記搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の冷却チャンバであって、前記第2加熱工程後の前記積層体を徐冷する冷却チャンバと、
(C)被処理品を収容しヒータにて保温する保温チャンバと、前記加熱チャンバ若しくは冷却チャンバと前記保温チャンバとの間で前記積層体を受渡しする受渡しチャンバとを有する搬送ユニットと、
を備えた熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はモータコアの製造方法およびこれに用いられる熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータコアやステータコアといったモータコアは、帯状電磁鋼板をプレス加工で所定形状に打ち抜き、この所定形状の鋼板を積層することにより製造される。ここでプレス打ち抜き時や積層時のカシメ加工等において加工歪みが発生する。この加工歪みが残留した状態でモータコアを製造すると、磁路が歪んでしまい、モータは設計通りの性能を発揮することができないことが知られている。そこで、電磁鋼板の積層体を焼鈍することで、加工歪みの低減が図られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで磁気特性に優れたモータコアを得るためには、電磁鋼板の結晶粒を100μm以上となるように粒成長させることが有効とされている。しかしながら、従来の歪取り焼鈍の条件では焼鈍温度が低く、粒成長は若干程度しか期待できない問題があった。事前の熱処理等で所望の結晶粒径に調整された鋼板を使用することも考えられるが、材料調達のコストが高くなってしまう。
【0005】
本発明は以上のような事情を背景とし、積層体における歪取りと粒成長を同時に行うことが可能なモータコアの製造方法およびこれに用いられる熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
而してこの発明の第1の局面のモータコアの製造方法は次のように規定される。即ち、
所定形状に加工された電磁鋼板の積層体を準備する準備工程と、
低酸化性ガス及び/又は還元性ガスからなる露点-20℃以下の雰囲気ガス中において、500~800℃の雰囲気温度で前記積層体を加熱する第1加熱工程と、
前記第1加熱工程の後、100Pa以下の真空中において、前記積層体を1000~1200℃で均熱する第2加熱工程と、を備えている。
【0007】
このように規定された第1の局面のモータコアの製造方法によれば、第1加熱工程および第2加熱工程を含む一連の熱処理によって、積層体が短時間で粒成長可能な温度(1000~1200℃)にまで加熱されるため、積層体における歪取りと粒成長を同時に行うことができる。
また第1の局面のモータコアの製造方法では、積層体の加熱を、雰囲気ガスによる対流伝熱加熱とそれに続く真空加熱の2段階で行なっており、積層体の酸化を抑えつつ粒成長可能な温度まで効率良く積層体を加熱することができる。
【0008】
ここで、1000~1200℃の温度域では、処理中の積層体の剛性が低下し形状変化し易くなる。このため、前記積層体を、C/Cコンポジットからなる治具上に載置させた状態で加熱処理することが望ましい(第2の局面)。
【0009】
また、前記低酸化性ガスは窒素とすることができ、前記還元性ガスは水素及び/又は一酸化炭素とすることができる(第3の局面)。
【0010】
上記のようにこの発明のモータコアの製造方法によれば、積層体の歪取りと粒成長を同時に行うことができるため、前記第1加熱工程前の前記電磁鋼板の平均結晶粒径を100μm未満とし(第4の局面)、これを粒成長させて、前記第2加熱工程後の前記電磁鋼板の平均結晶粒径を100~300μmとすることができる(第5の局面)。
なお、積層体を構成する電磁鋼板の平均結晶粒径は、以下のように測定する。試験片を板厚断面が観察できるように切断し、ナイタールエッチングにより粒界を腐食させて発現させる。その後、100個以上の結晶粒の結晶粒径を線分法により測定し、平均結晶粒径を求める。
【0011】
この発明の第6の局面の熱処理装置は次のように規定される。即ち、
第1の局面に記載の製造方法を実施する熱処理装置であって、
前記積層体を熱処理する複数の熱処理室と、
該熱処理室に配置され前記積層体を支持し搬送するローラと、を備え、
前記熱処理室として、前記第1加熱工程を実施する第1加熱室と、前記第2加熱工程を実施する第2加熱室と、前記第2加熱工程後の前記積層体を徐冷する徐冷室とが直列に配置されたローラハース式の熱処理装置。
このように規定された第6の局面の熱処理装置を用いることで、第1の局面のモータコアの製造方法を実施することができる。
【0012】
この発明の第7の局面の熱処理装置は次のように規定される。即ち、
第1の局面に記載の製造方法を実施する熱処理装置であって、
(A)搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の加熱チャンバであって、前記第1加熱工程及び/又は前記第2加熱工程を実施する加熱チャンバと
(B)前記搬送軌道に沿って配置されたバッチ式の冷却チャンバであって、前記第2加熱工程後の前記積層体を徐冷する冷却チャンバと、
(C)被処理品を収容しヒータにて保温する保温チャンバと、前記加熱チャンバ若しくは冷却チャンバと前記保温チャンバとの間で前記積層体を受渡しする受渡しチャンバとを有する搬送ユニットと、
を備えた熱処理装置。
このように規定された第7の局面の熱処理装置においても、第1の局面のモータコアの製造方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態のモータコアの製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】同実施形態の製造方法に用いるローラハース式の熱処理装置の全体構成を示した図である。
【
図4】同実施形態の製造方法におけるヒートパターンの一例を示した図である。
【
図5】本発明の他の実施形態の熱処理装置の全体構成を示した図である。
【
図6】
図5の加熱チャンバ及び搬送ユニットの内部構造を示した図である。
【
図7】同加熱チャンバ及び搬送ユニットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
【0015】
本発明の一実施形態に係るモータコアの製造方法は、ロータコアやステータコアといったモータコアの製造の一工程として行うことができる。モータコアを構成する積層体Sは、図示しない別工程において、帯状電磁鋼板をプレス加工で打ち抜いて得た所定形状の鋼板を積層し、カシメ加工等によって結合したものである。
【0016】
本例の製造方法は、
図1に示すように、所定形状に加工された電磁鋼板の積層体Sを準備する準備工程S001と、積層体Sを構成する鋼板に付着した油分を蒸発させる脱脂工程S002と、積層体Sを露点-20℃以下の雰囲気ガス中において500~800℃の雰囲気温度で加熱する第1加熱工程S003と、積層体Sを真空中において1000~1200℃で均熱する第2加熱工程S004と、積層体Sを徐冷する徐冷工程S005と、徐冷後の積層体Sを急冷する急冷工程S006を備える方法とすることができる。
本例の製造方法では、これら一連の工程を実施することで積層体Sにおける歪取りと粒成長を同時に行うことができるため、準備工程S001において準備される電磁鋼板における粒径(平均結晶粒径)は、加工性の観点から100μm未満であることが望ましい。そして一連の工程を実施した後においては、その電磁鋼板の平均結晶粒径を磁気特性に優れる100~300μmとすることができる。
【0017】
図2は、当該製造方法に用いられるローラハース式の熱処理装置1の概略全体構成を示している。この熱処理装置1は、電磁鋼板の積層体Sを治具80に載せた状態で連続的に熱処理する。
【0018】
ここで積層体Sが載置される治具80は、
図3(A)で示すように、複数の板状のトレイ81(本例の場合は81A,81B,81C,81D)と、最上段のトレイ81Dを除くトレイ81A,81B,81Cの四隅部に立設された短柱状のスペーサ82と、を備えている。各トレイ81の平坦な上面には、
図3(B)で示すように、それぞれ複数の積層体Sが載置されている。これら積層体Sおよび治具80は、被処理品Wとして一体に搬送される。
本例の治具80は、耐熱度が高く1000~1200℃の温度域での強度低下が少ないC/Cコンポジット製とされている。C/Cコンポジット製とは、高強度炭素繊維で補強された炭素複合材料からなるものである。積層体SをC/Cコンポジット製の治具上に載置させることで、高温焼鈍時の積層体の変形を抑制することができる。
【0019】
次に、熱処理装置1の構成について説明する。
図2で示すように、熱処理装置1は炉体3の図中左側に装入用の入口6が形成され、また炉体3の図中右側に取出用の出口7が形成されている。これら入口6および出口7には、それぞれエアシリンダ式の開閉装置22により開閉駆動される扉23および扉24が設けられている。即ち、本例では図中左側から装入された積層体Sが図中右方向に向かって搬送される。
【0020】
炉体3の内部は、積層体Sが搬送される方向に沿って、前室10、脱脂室12、第1加熱室14、第2加熱室16、徐冷室18及び急冷室20が直列に配置されている。各室の間には、それぞれエアシリンダ式の開閉装置26が設けられ、各室に形成された開口の扉27,28,29,30,31を開閉駆動させている。
【0021】
前室10は、下流側の脱脂室12内に大気が侵入するのを防止する区間である。前室10には、真空ポンプ33に接続された脱気用の配管34が接続されており、前室10内が真空ポンプ33により100Pa以下の真空状態に減圧されるようになっている。
【0022】
脱脂室12は、打ち抜き工程において鋼板(積層体Sを構成する鋼板)に付着した油分を蒸発させる区間である。脱脂室12には、真空ポンプ36に接続された脱気用の配管37が接続されており、脱脂室12内が真空ポンプ36により100Pa以下の真空状態に減圧されるようになっている。また、脱脂室12内を脱脂可能な温度(300~500℃)まで加熱する加熱手段としての電熱式のヒータ38が設けられている。これにより脱脂室12内に収容された積層体Sは、真空下で加熱され、積層体Sに付着していたオイルを蒸発させることができる。なおオイルの蒸気は、脱気用の配管37を通じて外部に排出され、必要に応じコールドトラップで捕集される。
【0023】
第1加熱室14は、下流側の第2加熱室16および徐冷室18とともに積層体Sの焼鈍を行うための区間である。第1加熱室14には、内部に加熱手段としてのヒータ40が設けられている。また第1加熱室14には、真空ポンプ41に接続された脱気用の配管42が接続されるとともに、雰囲気ガス供給用配管44が接続されており、雰囲気ガス供給用配管44からは、露点-20℃以下の雰囲気ガスとしての窒化ガス(低酸化性ガス)が室内に供給可能とされている。
【0024】
第1加熱室14では、室内が500~800℃の雰囲気温度に設定され、第1加熱室14内の積層体Sに対して窒素ガスにより対流伝熱加熱が行なわれる。ガスを介した対流伝熱加熱を使うことで真空加熱に比べ、積層体Sの加熱時間を短くすることができる。ガスが加圧された状態であればさらに加熱能力を向上させることができる。
なお、C/Cコンポジット製の治具80は高温酸化性雰囲気に弱い問題があるが、第1加熱室14は低酸化性ガス及び/又は還元性ガスからなる露点-20℃以下の雰囲気であり、C/Cコンポジット製の治具80における耐酸化性の低下が良好に防止される。
【0025】
第2加熱室16は、100Pa以下の真空中において、積層体Sを1000~1200℃で均熱し、電磁鋼板の結晶粒を粒成長させる区間である。
このため第2加熱室16は、内部に加熱手段としての電熱式のヒータ48が設けられている。また、第2加熱室16は真空ポンプ49に接続された脱気用の配管50が接続されており、第2加熱室16内が真空ポンプ49により100Pa以下の真空状態に減圧されるようになっている。
高温雰囲気下では、雰囲気中の気体分子が少なくなり、ガスを使った対流伝熱加熱の能力が低下する。このため第2加熱室16内においては、コストメリットを考慮してガスの導入を不要とする真空加熱を実施する。
【0026】
徐冷室18は、均熱された積層体Sを所定の冷却速度で徐冷する区間である。
徐冷室18は、真空ポンプ52に接続された脱気用の配管53が接続されるとともに、雰囲気ガス供給用配管54が接続されており、雰囲気ガス供給用配管54からは露点-20℃以下の雰囲気ガスとしての窒素ガスが室内に供給可能とされている。
また徐冷室18は雰囲気ガス冷却用の熱交換器57と雰囲気ガス循環用のファン(図示省略)を備えており、徐冷室18内の雰囲気ガスは熱交換器57によって冷却可能とされ、これによって積層体Sが所定の冷却速度で徐冷される。
【0027】
急冷室20は、徐冷後の積層体Sを急速冷却する区間である。急冷室20においても、徐冷室18と同様に、雰囲気ガス供給用配管60が接続されており、また雰囲気ガス冷却用の熱交換器63と雰囲気ガス循環用のファン(図示省略)を備えている。
【0028】
熱処理装置1を構成する各室には、搬送用のローラ70が搬送方向に沿って並設されている。前室10、脱脂室12、第1加熱室14、第2加熱室16、徐冷室18及び急冷室20の各室内に配置されたローラ70は、それぞれローラ群71,72,73,74,75,76を構成している。これらローラ群71,72,73,74,75,76はそれぞれ独立駆動し、治具80に載置された積層体Sを搬送方向下流側(図中右方向)に順次搬送する。
【0029】
ローラ70はステンレス材や耐熱鋳鋼などからなる金属製のローラを用いることもできるが、900℃を超える温度で使用した場合に変形が生じやすいため、本例では第1加熱室14、第2加熱室16及び徐冷室18に設置されるローラ70について、高温度域での強度低下が少ないC/Cコンポジット製のローラを用いている。
【0030】
次に、積層体Sが装入された際の熱処理装置1における一連の熱処理動作について説明する。なお、熱処理装置1における一連の動作は
図4のヒートパターンに基づくものとする。
【0031】
先ず、積層体Sを治具80に載置された状態で準備する。
そしてローラ群71を駆動させ積層体Sを前室10に装入させる。扉23が閉じられると真空ポンプ33により室内の大気が室外に放出され、前室10内部が脱脂室12と同程度の真空圧まで減圧される。
【0032】
その後、前室10の出側の扉27および脱脂室12の入側の扉27を開いて、ローラ群71,72を駆動させ、積層体Sを脱脂室12内に移送し、扉27を閉じる。脱脂室12の内部は予め脱脂可能な温度(ここでは350℃)に保持されており、脱脂室12内に装入された積層体Sは脱脂可能な温度である350℃まで昇温せしめられ、積層体Sに付着していたオイルが蒸発せしめられる。
【0033】
その後、脱脂室12内部と第1加熱室14内部が同程度の真空圧まで減圧された状態で、脱脂室12の出側の扉28および第1加熱室14の入側の扉28を開いて、ローラ群72,73を駆動させ、積層体Sを第1加熱室14内に移送し、扉28を閉じる。
第1加熱室14の内部は予め所定の設定温度(ここでは700℃)に保持されており、第1加熱室14内に装入された積層体Sは第1加熱室14の設定温度である700℃まで昇温せしめられる。その際に昇温を促進するため、第1加熱室14内に窒素ガスが供給され、窒素ガスによる対流伝熱加熱とヒータ40による熱輻射によって、積層体Sの昇温が促進される。
【0034】
積層体Sが設定温度700℃近傍まで昇温したところで、第1加熱室14内の窒素ガスが真空排気され、第1加熱室14内部が第2加熱室16内部と同程度の真空圧(100Pa以下)まで減圧される。第1加熱室14の出側の扉29および第2加熱室16の入側の扉29を開いて、ローラ群73,74を駆動させ、積層体Sを第2加熱室16内に移送し、扉29を閉じる。
第2加熱室16の内部は予め所定の設定温度(ここでは1100℃)に保持されており、第2加熱室16内に装入された積層体Sは、100Pa以下の真空中において、ヒータ48による熱輻射によって設定温度にまで昇温せしめられ、その後均熱保持される。
【0035】
所定時間の均熱保持の後、第2加熱室16の出側の扉30および徐冷室18の入側の扉30を開いて、ローラ群74,75を駆動させ、積層体Sを徐冷室18内に移送し、扉30を閉じる。
徐冷室18では、徐冷室18内に供給された窒素ガスによる対流伝熱により、積層体Sが平均冷却速度200℃/Hで500℃まで徐冷される。
【0036】
徐冷後は、徐冷室18の出側の扉31および急冷室20の入側の扉31を開いて、ローラ群75,76を駆動させ、積層体Sを急冷室20内に移送し、扉31を閉じる。
急冷室20内では、雰囲気ガスを熱交換器63で冷却しながら雰囲気ガスを循環させて積層体Sを冷却する。そして冷却後、扉24を開いて積層体Sを搬出すれば、積層体Sの熱処理に関する一連の動作が完了する。
【0037】
以上のように本実施形態の熱処理装置1を用いたモータコアの製造方法によれば、第1加熱工程S003および第2加熱工程S004を含む一連の熱処理によって、積層体Sが粒成長可能な温度(1000~1200℃)にまで加熱されるため、積層体Sの歪取りと粒成長を同時に行うことができる。
またこの製造方法では、積層体Sの加熱を、露点-20℃以下の雰囲気ガスによる対流伝熱加熱とそれに続く真空加熱の2段階で行なっており、積層体Sの酸化を抑えつつ粒成長可能な温度まで効率良く積層体Sの加熱することができる。
【0038】
ここで、1000~1200℃の温度域では、処理中の積層体Sの剛性が低下し形状変化し易くなる。本実施形態では、積層体SをC/Cコンポジットからなる治具80上に載置させた状態で加熱処理することで、積層体Sの変形を抑制することができる。
【0039】
本実施形態の製造方法によれば、積層体Sの歪取りと粒成長を同時に行うことができるため、第1加熱工程前の電磁鋼板の平均結晶粒径を100μm未満とし、これを粒成長させて、第2加熱工程後の前記電磁鋼板の平均結晶粒径を磁気特性に優れる100~300μmとすることができる。
【0040】
次に本発明の他の実施形態の熱処理装置1Bについて説明する。
図5は熱処理装置1Bの全体構成を示した図である。同図において、90は図中左右方向に直線状に延設された搬送軌道たるレールで、このレール90に沿って複数のバッチ式の処理チャンバ(ここでは脱脂チャンバ93、加熱チャンバ94、および冷却チャンバ95)が、開口部100を同方向である図中上方に向けた状態で直線状に一列に配置されている。また同図中右端側には装入テーブル92が設けられ、左端側には抽出テーブル96が設けられている。
【0041】
熱処理装置1Bでは、積層体Sおよび治具80(
図3参照)からなる被処理品Wに対し、脱脂チャンバ93で脱脂工程(
図1参照)を実行し、加熱チャンバ94で第1加熱工程および第2加熱工程(
図1参照)を実行し、冷却チャンバ95で徐冷工程および急冷工程(
図1参照)を実行する。
【0042】
この例の熱処理装置1Bは、上記の脱脂チャンバ93,加熱チャンバ94,冷却チャンバ95に加えて、レール90上を走行する搬送ユニット97を有している。搬送ユニット97は受け渡しチャンバ98及び保温チャンバ99を備え、装入テーブル92、各処理チャンバ93,94,95および抽出テーブル96間での被処理品Wの受け渡しを行う。
【0043】
図6に、加熱チャンバ94及び搬送ユニット97の内部構造が示してある。
同図に示しているように加熱チャンバ94は、有底の円筒状の炉殻122と、その内部に配置された断熱材124とを有している。断熱材124は有底の円筒状の断熱壁125を構成している。そしてその断熱壁125は内側に処理室126を形成している。
この加熱チャンバ94には吸引口132が設けられている。吸引口132は吸引管を通じて図示を省略する真空ポンプに接続されており、加熱チャンバ94内部が真空ポンプにより真空吸引されるようになっている。
【0044】
加熱チャンバ94にはまた、その内部に露点-20℃以下の雰囲気ガスとしての窒素ガス(低酸化性ガス)を供給するための供給口134が設けられている。供給口134から供給された窒素ガスは、一旦ヘッダー136へと導かれ、更にこのヘッダー136に続く分岐管137及び分岐管137に設けられたノズル138から加熱チャンバ94内部、詳しくは断熱壁125内側の処理室126へと導入される。
【0045】
断熱壁125には、処理室126内で供給された窒素ガスを撹拌させて対流させ、被処理品Wの昇温期においてその昇温を促進する対流用のファン139と、これを回転させるモータ140とが設けられている。また断熱壁125には、モータ140を熱から保護するための水冷パネル141がモータ140近傍に設けられている。また処理室126内には加熱手段としてのヒータ128が設けられている。
【0046】
処理室126には架台130が設けられている。処理室126内の被処理品Wは、その架台130上に載置されて支持される。また加熱チャンバ94には、開口部100を開閉する引戸式の扉142が設けられている。
【0047】
以上、加熱チャンバ94についての構造を説明したが、他の脱脂チャンバ93や冷却チャンバ95も基本的に同様の構造である。但し、冷却チャンバ95においては、その内部に雰囲気ガスの温度を熱交換により低下させる熱交換器(図示省略)を備えている。
【0048】
搬送ユニット97は、各処理チャンバ93,94,95側の前部に受渡しチャンバ98を、反対側の後部に被処理品Wを保温するための保温チャンバ99を有している。
【0049】
受渡しチャンバ98は、耐圧性の角筒状の筒壁158を有しており、その内部に被処理品Wを収容する収容室160を形成している。この収容室160には受渡し機構162が設けられている。
受渡し機構162は、各処理チャンバ93,94,95と後部の保温チャンバ99との間で被処理品Wを受渡しするもので、フォーク部162Aと水平スライド部材162B,162Cとを有しており、それらを水平方向にスライドさせることによりフォーク部162Aにて被処理品Wを受渡しする。
【0050】
この受渡しチャンバ98には吸引口163が設けられており、この吸引口163が、
図7に示す真空ポンプ164に対して吸引管166Aを通じて接続され、受渡しチャンバ98の内部が真空ポンプ164により真空吸引されるようになっている。
吸引管166A上には電磁弁から成る開閉弁168Aが設けられており、開閉弁168Aの開閉によって、吸引口163と真空ポンプ164とが連通及び連通遮断されるようになっている。
【0051】
受渡しチャンバ98にはまた、
図7に示しているように供給口170が設けられており、この供給口170を通じて窒素ガスが受渡しチャンバ98内に供給されるようになっている。受渡しチャンバ98は、その前端即ち
図6中左端が扉を有しない開口部172とされている。受渡しチャンバ98にはこの開口部172周りに偏平な枠状パッキン174が設けられている。受渡しチャンバ98は、この枠状パッキン174を各処理チャンバ93,94,95の外面に気密に接触させる状態に、各処理チャンバ93,94,95側への前進移動により、それら各処理チャンバ93,94,95にドッキングされる。
【0052】
他方、後者の保温チャンバ99は有底円筒状をなす炉殻176の内部に断熱材178を有しており、その断熱材178が断熱壁180を構成している。断熱壁180は内側に収容室182を形成しており、そこに被処理品Wを収容するようになっている。収容室182には架台184が設けられている。収容室182内の被処理品Wは、その架台184上に載置されて支持される。
【0053】
この保温チャンバ99には、
図7に示しているようにその内部を真空吸引するための吸引口186が設けられており、この吸引口186が真空ポンプ164に対して吸引管166Bを通じ接続されている。この吸引管166B上には電磁バルブから成る開閉弁168Bが設けられており、開閉弁168Bの開閉動作によって吸引口186と真空ポンプ164とが連通及び連通遮断されるようになっている。
【0054】
保温チャンバ99は、断熱壁180の内部に、被処理品Wを保温するためのヒータ220が設けられている。そして保温チャンバ99には、
図2に示すように、断熱壁180の上部の開口204及び下部の開口206を開閉する断熱材製の扉210,212が設けられており、それらがシリンダ214,216にて開閉動作せしめられる。
【0055】
保温チャンバ99にはまた、冷却ガスとして窒素ガスを内部に供給する供給口(図示省略)が炉殻176に設けられている。またその内部には、供給された窒素ガスを熱交換により温度低下させる熱交換器(図示省略)と、窒素ガスを撹拌し、保温チャンバ56内で循環させる冷却ファン200と、これを回転させるモータ202とを有しており、それらが被処理品Wに対するガス冷却装置を構成している。
即ちこの実施形態では、保温チャンバ56に、被処理品Wを保温する保温機能と併せて冷却機能も備えられている。
【0056】
図6に示しているように、保温チャンバ99と受渡しチャンバ98との間、詳しくは保温チャンバ99の受渡しチャンバ98側の端部には開口部222が設けられており、この開口部222が、扉228によって開閉されるようになっている。
【0057】
次に熱処理装置1Bにおける一連の熱処理動作について説明する。なお、熱処理装置1Bにおける一連の動作は
図4のヒートパターンに基づくものとする。また搬送ユニット97と各処理チャンバ93,94,95との間の被処理品Wの受渡しの際には、両者の雰囲気(低露点雰囲気・真空)が合わせられた状態で被処理品Wの受渡しが行なわれるものとする。
【0058】
先ず、
図5の装入テーブル92上の被処理品Wを搬送ユニット97が受け取って搬送し、これを脱脂チャンバ93に装入する。被処理品Wを受け取った脱脂チャンバ93は、その内部で被処理品Wに対する脱脂を行う。
【0059】
その後、搬送ユニット97は脱脂された被処理品Wを脱脂チャンバ93から取り出して、これを保温チャンバ56で保温した上で、被処理品Wを加熱チャンバ94に装入する。これを受けた加熱チャンバ94は、その被処理品Wに対し加熱・均熱処理を行う。
詳しくは、被処理品Wが加熱チャンバ94内に装入されると、ヒータ128の加熱により第1加熱工程における設定温度である700℃近傍まで被処理品W昇温せしめられる。
【0060】
その際に昇温を促進するため、加熱チャンバ94内に窒素ガスが供給口134から供給されるとともに、対流ファン139が回転せしめられて、その対流ファン139による対流加熱とヒータ128による輻射熱とによって、被処理品Wが速やかに700℃近傍まで昇温せしめられる。
【0061】
被処理品Wが700℃近傍まで昇温したところで、加熱チャンバ94内部の窒素ガスが吸引口132を通じて真空排気され、加熱チャンバ94内部が設定された真空圧(100Pa以下)に減圧される。以降は100Pa以下の真空中において引き続きヒータ128による真空加熱が行われ、1100℃で被処理品Wが均熱される。
【0062】
加熱・均熱処理が終ると、搬送ユニット97が加熱チャンバ94から被処理品Wを取り出して、これを保温チャンバ99で保温した上で、これを冷却チャンバ95へと渡す。
これを受けた冷却チャンバ95は、その被処理品Wに所定の冷却速度で徐冷を行う。その際に、冷却チャンバ95内に窒素ガスが供給口134から供給されるとともに、対流ファン139が回転せしめられて、その対流ファン139による対流伝熱によって、被処理品Wが所定の冷却速度で冷却(徐冷)される。
【0063】
冷却後は、搬送ユニット97が冷却チャンバ95から被処理品Wを取り出して、抽出テーブル96上へと排出する。これにより積層体Sを含む被処理品Wの熱処理が完了する。
【0064】
以上のように、熱処理装置1Bを用いた場合でも、本実施形態のモータコアの製造方法を実施することが可能である、この熱処理装置1Bでは一つの加熱チャンバ94で第1加熱工程と第2加熱工程を実施しているが、第1加熱工程と第2加熱工程をそれぞれ別の加熱チャンバで実施するように構成することも可能である。また熱処理装置1Bでは一つの冷却チャンバ95で徐冷工程と急冷工程を実施しているが、徐冷工程と急冷工程をそれぞれ別の冷却チャンバで実施するように構成することも可能である。
また本例の保温チャンバ99は冷却機能を備えており、徐冷工程もしくは急冷工程の一部を保温チャンバ99で実施することも可能である。
【0065】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。例えば、上記実施形態では低酸化性ガス及び/又は還元性ガスからなる露点-20℃以下の雰囲気ガスとして窒素ガス(低酸化性ガス)を用いていたが、窒素を含む高温ガス中において窒素化合物が生成されるなどして積層体の粒成長が阻害される場合には窒素ガスに代えて、水素ガスを用いることも可能である。また、雰囲気ガスとして混合ガスを用いることも可能であり、窒素+水素、窒素+一酸化炭素、窒素+水素+一酸化炭素を例示することができる等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0066】
1,1B 熱処理装置
14 第1加熱室
16 第2加熱室
18 徐冷室
70 ローラ
80 治具
94 加熱チャンバ
95 冷却チャンバ
97 搬送ユニット
98 受渡しチャンバ
99 保温チャンバ
S 積層体
S001 準備工程
S003 第1加熱工程
S004 第2加熱工程
W 被処理品