(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107156
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】ベイパーチャンバーおよびベイパーチャンバー製造用部材
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20230726BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20230726BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20230726BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20230726BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
F28D15/04 D
F28D15/02 101H
F28D15/02 L
F28F21/08 E
H01L23/46 B
H05K7/20 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008299
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】八月朔日 猛
(72)【発明者】
【氏名】古川 剛
(72)【発明者】
【氏名】田部井 純一
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA11
5E322AB06
5E322DB01
5E322FA01
5E322FA04
5F136CC14
5F136FA03
5F136FA51
5F136FA70
(57)【要約】
【課題】特に優れた熱輸送能力を有するベイパーチャンバーを提供すること。
【解決手段】本発明のベイパーチャンバーは、内部に空洞部を有するコンテナと、前記空洞部に配置され、ガラス繊維で構成された繊維基材と、前記空洞部に配置された作動液とを有することを特徴とする。前記ガラス繊維の太さは、1μm以上100μm以下であることが好ましい。前記繊維基材の坪量は、1g/m2以上300g/m2以下であることが好ましい。前記空洞部の高さは、10μm以上2000μm以下であることが好ましい。前記繊維基材の厚さは、10μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空洞部を有するコンテナと、
前記空洞部に配置され、ガラス繊維で構成された繊維基材と、
前記空洞部に配置された作動液とを有することを特徴とするベイパーチャンバー。
【請求項2】
前記ガラス繊維の太さは、1μm以上100μm以下である請求項1に記載のベイパーチャンバー。
【請求項3】
前記繊維基材の坪量は、1g/m2以上300g/m2以下である請求項1または2に記載のベイパーチャンバー。
【請求項4】
前記空洞部の高さが10μm以上2000μm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のベイパーチャンバー。
【請求項5】
前記繊維基材の厚さは、10μm以上1000μm以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のベイパーチャンバー。
【請求項6】
前記コンテナは、主としてCuまたはCu合金で構成されたものである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のベイパーチャンバー。
【請求項7】
前記コンテナは、シート材が接合して構成されるものであり、
前記シート材の厚さは、12μm以上500μm以下である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のベイパーチャンバー。
【請求項8】
前記空洞部に配置され、前記コンテナの厚さ方向の変形を防止する機能を有する変形防止部材を有する請求項1ないし7のいずれか1項に記載のベイパーチャンバー。
【請求項9】
前記変形防止部材は、前記繊維基材と一体的に形成されたものである請求項8に記載のベイパーチャンバー。
【請求項10】
前記変形防止部材は、前記作動液の流路壁として機能する部位を有するものであり、
前記繊維基材が、前記作動液の流路壁として機能する部位を貫通して配置されている請求項8または9に記載のベイパーチャンバー。
【請求項11】
ベイパーチャンバーの製造に用いられるベイパーチャンバー製造用部材であって、
ガラス繊維で構成された繊維基材と、未硬化状態の樹脂材料とを含むことを特徴とするベイパーチャンバー製造用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベイパーチャンバーおよびベイパーチャンバー製造用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、携帯端末やタブレット端末といったモバイル端末等で使用される中央演算処理装置(CPU)や発光ダイオード(LED)、パワー半導体等の発熱部材は、ヒートパイプによって冷却されている。
【0003】
近年では、モバイル端末等の薄型化のために、ヒートパイプよりも薄型化を図ることができるベイパーチャンバーの開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ベイパーチャンバー内には、作動液(作動流体)が封入されており、この作動液が発熱部材の熱を吸収して熱を移動させることで、発熱部材の冷却を行っている。
【0005】
より具体的には、ベイパーチャンバー内の作動液は、発熱部材に近接した部分(蒸発部)で発熱部材から熱を受けて蒸発して蒸気になり、その後蒸気が、蒸発部から離れた位置に移動して冷却され、凝縮して液状になる。
【0006】
ベイパーチャンバー内には、毛細管構造(ウィック)としての液流路部が設けられており、液状になった作動液は、この液流路部を通過して蒸発部に向かって輸送され、再び蒸発部で熱を受けて蒸発する。
【0007】
このようにして、作動液が、相変化、すなわち蒸発と凝縮とを繰り返しながらベイパーチャンバー内を還流することによりデバイスの熱を移動させ、放熱効率を高めている。
【0008】
しかしながら、ベイパーチャンバーにおいては、熱輸送能力のさらなる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、特に優れた熱輸送能力を有するベイパーチャンバーを提供すること、また、前記ベイパーチャンバーの製造に好適に用いることができるベイパーチャンバー製造用部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、下記(1)~(11)の本発明により達成される。
(1) 内部に空洞部を有するコンテナと、
前記空洞部に配置され、ガラス繊維で構成された繊維基材と、
前記空洞部に配置された作動液とを有することを特徴とするベイパーチャンバー。
【0012】
(2) 前記ガラス繊維の太さは、1μm以上100μm以下である上記(1)に記載のベイパーチャンバー。
【0013】
(3) 前記繊維基材の坪量は、1g/m2以上300g/m2以下である上記(1)または(2)に記載のベイパーチャンバー。
【0014】
(4) 前記空洞部の高さが10μm以上2000μm以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のベイパーチャンバー。
【0015】
(5) 前記繊維基材の厚さは、10μm以上1000μm以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のベイパーチャンバー。
【0016】
(6) 前記コンテナは、主としてCuまたはCu合金で構成されたものである上記(1)ないし(5)のいずれかに記載のベイパーチャンバー。
【0017】
(7) 前記コンテナは、シート材が接合して構成されるものであり、
前記シート材の厚さは、12μm以上500μm以下である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のベイパーチャンバー。
【0018】
(8) 前記空洞部に配置され、前記コンテナの厚さ方向の変形を防止する機能を有する変形防止部材を有する上記(1)ないし(7)のいずれかに記載のベイパーチャンバー。
【0019】
(9) 前記変形防止部材は、前記繊維基材と一体的に形成されたものである上記(8)に記載のベイパーチャンバー。
【0020】
(10) 前記変形防止部材は、前記作動液の流路壁として機能する部位を有するものであり、
前記繊維基材が、前記作動液の流路壁として機能する部位を貫通して配置されている上記(8)または(9)に記載のベイパーチャンバー。
【0021】
(11) ベイパーチャンバーの製造に用いられるベイパーチャンバー製造用部材であって、
ガラス繊維で構成された繊維基材と、未硬化状態の樹脂材料とを含むことを特徴とするベイパーチャンバー製造用部材。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、特に優れた熱輸送能力を有するベイパーチャンバーを提供すること、また、前記ベイパーチャンバーの製造に好適に用いることができるベイパーチャンバー製造用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のベイパーチャンバーの一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図2】本発明のベイパーチャンバーの他の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】本発明のベイパーチャンバーの他の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図4】本発明のベイパーチャンバーの他の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図5】本発明のベイパーチャンバーが備えるウィック構造体を模式的に示す平面図である。
【
図6】ベイパーチャンバー製造用部材の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】ベイパーチャンバー製造用部材の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図8】ベイパーチャンバー製造用部材の他の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図9】ベイパーチャンバー製造用部材の他の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図10】本発明のベイパーチャンバーの製造方法の一例を模式的に示す縦断面図である。
【
図11】本発明のベイパーチャンバーの製造方法の一例を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図を参照しつつ、本発明について詳細に説明する。
[1]ベイパーチャンバー
まず、本発明のベイパーチャンバーについて説明する。
【0025】
図1は、本発明のベイパーチャンバーの一例を模式的に示す縦断面図である。
図2~
図4は、それぞれ、本発明のベイパーチャンバーの他の一例を模式的に示す縦断面図である。
図5は、本発明のベイパーチャンバーが備えるウィック構造体を模式的に示す平面図である。なお、
図5中、ガラス繊維131の図示は省略した。以下の説明では、ベイパーチャンバー100は、
図1~
図4中の下側の面(第1のシート材21の表面)において、ベイパーチャンバー100が適用される部材(発熱部材)と接触する場合について中心的に説明するが、
図1~
図4中の上側の面において、ベイパーチャンバー100が適用される部材(発熱部材)と接触するようにして用いてもよい。また、
図1~
図4では、第1のシート材21が下側を向く状態を示しているが、ベイパーチャンバー100の使用時におけるベイパーチャンバー100の向きは、特に限定されず、例えば、第1のシート材21が上側を向く状態で用いてもよい。
【0026】
ベイパーチャンバー100は、内部に空洞部を有するコンテナ20と、前記空洞部に配置され、ガラス繊維131で構成された繊維基材13と、前記空洞部に配置された作動液(作動流体)30とを有している。
【0027】
これにより、特に優れた熱輸送能力を有するベイパーチャンバー100を提供することができる。
【0028】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、ベイパーチャンバーがガラス繊維で構成された繊維基材の代わりに、ガラス繊維以外の材料で構成された繊維基材を有する場合には、ベイパーチャンバーの熱輸送能力を十分に優れたものとすることが困難となる。
【0029】
[1-1]コンテナ
コンテナ20は、繊維基材13および作動液30を収納するものであり、主に、蒸発部においては、例えば、発熱部材のような冷却すべき部材と接触し、コンテナ20の内部に収納された作動液30に伝熱する機能を発揮し、凝縮部においては、気体状態から液体状態に相転移する作動液30から受け取った熱を放熱する機能を有している。
【0030】
コンテナ20は、いかなる材料で構成されたものであってもよいが、金属材料で構成されたものであるのが好ましい。
【0031】
金属材料は、一般に、高い熱伝導性を有するとともに、強度、延展性等にも優れている。したがって、例えば、ベイパーチャンバー100が適用される部材(例えば、発熱部材のような冷却すべき部材等)に対する形状追従性、密着性をより優れたものとすることができ、ベイパーチャンバー100としての実質的な熱輸送能力を特に優れたものとすることができるとともに、ベイパーチャンバー100の耐久性をより優れたものとすることができる。特に、金属製の比較的薄いシート材を用いてコンテナ20を好適に形成することができるため、ベイパーチャンバー100の薄型化、ベイパーチャンバー100の原料コストの低減等の観点からも有利である。
【0032】
コンテナ20を構成する金属材料としては、例えば、Cu、Al、Mg、Znやこれらのうち少なくとも1種を含む合金等が挙げられる。
【0033】
中でも、コンテナ20を構成する金属材料は、CuまたはCu合金であるのが好ましい。
【0034】
これにより、金属材料で構成されたコンテナ20を備えることによる効果をより顕著に発揮させることができる。すなわち、CuまたはCu合金は、各種金属材料の中でも、比較的安価であるとともに、特に優れた熱伝導性、延展性を有しているため、ベイパーチャンバー100が適用される部材(例えば、発熱部材のような冷却すべき部材等)に対する形状追従性、密着性を特に優れたものとすることができ、ベイパーチャンバー100としての実質的な熱輸送能力をさらに優れたものとすることができる。また、ベイパーチャンバー100の耐久性をさらに優れたものとすることができる。
【0035】
コンテナ20が金属製のシート材が接合して構成されるものである場合、当該シート材の厚さは、12μm以上500μm以下であるのが好ましく、18μm以上250μm以下であるのがより好ましい。
【0036】
これにより、ベイパーチャンバー100の薄型化、フレキシブル性(柔軟性)や熱輸送能力のさらなる向上、ベイパーチャンバー100の原料コストの低減等の観点から特に有利であるとともに、ベイパーチャンバー100の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。
【0037】
図示の構成では、コンテナ20は、第1のシート材21および第2のシート材22を用いて形成されている。
【0038】
第1のシート材21と第2のシート材22とは、同一の材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。
【0039】
また、第1のシート材21と第2のシート材22とは、同一の厚さのものであってもよいし、異なる厚さのものであってもよい。
【0040】
第1のシート材21と第2のシート材22とは、これらの外周部において、封止部23により封止されている。これにより、繊維基材13および作動液30が収納された空洞部が密封されており、液密状態、気密状態が保たれている。
【0041】
封止部23は、例えば、第1のシート材21または第2のシート材22と同一の材料で構成されていてもよいし、第1のシート材21および第2のシート材22と異なる材料で構成されていてもよい。
【0042】
封止部23は、例えば、メッキアップ、レーザー溶接、シーム溶接、冷間圧接、拡散接合、ロウ付け、接着により形成することができる。
【0043】
コンテナ20の内部に設けられた前記空洞部の高さは、10μm以上2000μm以下であるのが好ましく、20μm以上1000μm以下であるのがより好ましく、30μm以上500μm以下であるのがさらに好ましい。
【0044】
これにより、ベイパーチャンバー100が必要以上に厚型化することを防止しつつ、作動液30の流路部分(特に、気体状の作動液30の流路部分、および、液状の作動液30の流路部分)をより好適に確保することができる。
【0045】
[1-2]繊維基材
繊維基材13は、ガラス繊維131で構成されたものであり、コンテナ20内部の空洞部に配置されている。
【0046】
繊維基材13がガラス繊維131で構成されたものであることにより、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力を優れたものとすることができる。また、ガラス繊維は、一般に、紫外線を含む光の透過性に優れているため、後に詳述するようなベイパーチャンバー100の製造方法においては、露光工程での硬化反応が不本意に阻害されることを効果的に防止することができ、ベイパーチャンバー100の生産性、歩留まりを特に優れたものとすることができる。
【0047】
シート状の繊維基材(繊維シート)13を有することにより、例えば、ガラス繊維131が独立した状態ではなく、複数のガラス繊維131が絡み合った状態で含むことができ、例えば、ガラス繊維131同士の隙間を、液状の作動液30を毛細管現象が生じやすい状態に調整しやすい。したがって、気体状の作動液30の流路部分と、液状の作動液30の流路部分とをより好適に併存させることができ、前述した効果をより確実に発揮させることができる。また、後に詳述する変形防止部材10と繊維基材13との一体成型物であるウィック構造体の製造も容易となり、ウィック構造体中におけるガラス繊維131の配置状態、分布を調整しやすく、例えば、ウィック構造体中の各部位における不本意なガラス繊維131の分布むら(例えば、流路部分15となるべき部位にガラス繊維131が十分に存在しないこと等)を好適に防止することができる。また、繊維基材13がシート状であることにより、ウィック構造体が必要以上に厚型化することを好適に防止することができるとともに、ベイパーチャンバー100(ウィック構造体)の製造時における繊維基材13の不本意な変形、ウィック構造体中におけるガラス繊維131の不本意な移動をより好適に防止することができる。
【0048】
繊維基材(繊維シート)13を構成する繊維がガラス繊維131であることにより、ベイパーチャンバー100の耐久性を優れたものとすることができる。また、ガラス繊維は、一般に、紫外線を含む光の透過性に優れているため、後に詳述するようなベイパーチャンバー100の製造方法においては、露光工程での硬化反応が不本意に阻害されることを効果的に防止することができ、ベイパーチャンバー100の生産性、歩留まりを特に優れたものとすることができる。
【0049】
ガラス繊維131の太さは、特に限定されないが、1μm以上100μm以下であるのが好ましく、3μm以上30μm以下であるのがより好ましく、4μm以上15μm以下であるのがさらに好ましい。
【0050】
これにより、繊維基材13が必要以上に厚型化することを防止しつつ、ガラス繊維131同士の隙間をより好適な状態で確保することができ、ベイパーチャンバー100における毛細管現象による液状の作動液30の輸送能力をより優れたものとすることができる。その結果、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力をより優れたものとすることができる。
【0051】
繊維基材13において、ガラス繊維131は、例えば、複数本のガラス繊維131が束状にまとまった状態、すなわち、繊維束として含まれていてもよい。繊維束としては、例えば、諸撚糸状、片撚糸状、ラング撚糸状、組紐状等の形態が挙げられる。
【0052】
これにより、繊維基材13が必要以上に厚型化することを防止しつつ、ガラス繊維131同士の隙間をより好適な状態で確保することができ、ベイパーチャンバー100における毛細管現象による液状の作動液30の輸送能力をより優れたものとすることができる。その結果、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力をより優れたものとすることができる。
【0053】
繊維基材13の坪量は、1g/m2以上300g/m2以下であるのが好ましく、12g/m2以上165g/m2以下であるのがより好ましい。
【0054】
これにより、繊維基材13が必要以上に厚型化することを防止しつつ、ガラス繊維131同士の隙間をより好適な状態で確保することができ、ベイパーチャンバー100における毛細管現象による液状の作動液30の輸送能力をより優れたものとすることができる。その結果、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力をより優れたものとすることができる。
【0055】
繊維基材13は、例えば、不織布であってもよいし、織布であってもよい。
繊維基材13が織布である場合、当該織布としては、例えば、平織、綾織、朱子織、からみ織、模紗織、斜紋織、二重織等が挙げられる。
【0056】
また、本実施形態では、繊維基材13が、後述する変形防止部材10の流路壁16を貫通して配置されている。
【0057】
これにより、ベイパーチャンバー100でのガラス繊維131の不本意な移動がより効果的に防止され、前述したような効果がより顕著に発揮される。また、変形防止部材10、ウィック構造体の形状の安定性が向上し、ベイパーチャンバー100の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。また、後に詳述するようなベイパーチャンバー100の製造時におけるベイパーチャンバー製造用部材10’の取り扱いのしやすさ、変形防止部材10、ウィック構造体の取り扱いのしやすさが向上する。
【0058】
繊維基材13の厚さは、10μm以上1000μm以下であるのが好ましく、20μm以上500μm以下であるのがより好ましく、30μm以上200μm以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
これにより、繊維基材13、ウィック構造体が必要以上に厚型化することを防止しつつ、ガラス繊維131同士の隙間をさらに好適な状態で確保することができ、ベイパーチャンバー100における毛細管現象による液状の作動液30の輸送能力をさらに優れたものとすることができる。その結果、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力をさらに優れたものとすることができる。
【0060】
繊維基材13は、ガラス繊維131の密度が異なる部位を有していてもよい。例えば、繊維基材13は、その厚さ方向にガラス繊維131の密度が異なる部位を有していてもよい。
【0061】
シート状の繊維基材13(ガラス繊維131)は、
図1に示すように、ウィック構造体の厚さ方向のほぼ全体にわたって存在するものであってもよいし、
図2に示すように、ウィック構造体の厚さ方向の中央付近に偏在するものであってもよいし、
図3に示すように、ウィック構造体の第2の面12側に偏在するものであってもよいし、
図4に示すように、ウィック構造体の第1の面11側に偏在するものであってもよい。また、シート状の繊維基材13(ガラス繊維131)は、ウィック構造体の両面側(第1の面11側および第2の面12側)に偏在しており、これらの部位に比べて、ウィック構造体の厚さ方向の中央付近のガラス繊維131の含有率が低くなっていてもよい。
【0062】
ベイパーチャンバー100は、コンテナ20の空洞部に、複数の繊維基材13を含んでいてもよい。この場合、これらの繊維基材13は、同一の条件のものであってもよいし、異なる条件のものであってもよい。ベイパーチャンバー100が複数の繊維基材13を含む場合、例えば、ベイパーチャンバー100の厚さ方向に、複数の繊維基材13が積層されていてもよい。
【0063】
[1-3]作動液
コンテナ20の空洞部には、繊維基材13とともに、作動液30が配置されている。
【0064】
作動液30は、主に、コンテナ20内部の空洞部における熱輸送を行う機能を有している。
【0065】
作動液30としては、例えば、水、HCFC-22等のハイドロクロロフルオロカーボン、HFCR134a、HFCR407C、HFCR410A、HFC32等のハイドロフルオロカーボン、HFO1234yf等のハイドロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロエーテル、エタノール、メタノール等のアルコール、アセトン、炭酸ガス、アンモニア、プロパン等が一例として挙げられる。
【0066】
中でも、作動液30としては、水が好ましい。
これにより、繊維基材13やコンテナ20、変形防止部材10に対する濡れ性を好適なものとすることができ、ベイパーチャンバー100の実質的な熱輸送能力をより優れたものとすることができる。また、水は、作動液30として用いる場合における熱容量と蒸発・凝縮のしやすさとのバランスに優れた物質であるため、ベイパーチャンバー100の実質的な熱輸送能力をより優れたものとすることができる。また、ベイパーチャンバー100の生産コストの低減、安全性、環境負荷の小ささ等の観点からも好ましい。
【0067】
コンテナ20の空洞部(コンテナ20内部において、液体状態または気体状態の作動液が存在し得る空間)の体積に対する、空洞部内の作動液30の体積(コンテナ20の空洞部内の作動液30がすべて液体状態で存在する場合の体積)の比率は、5体積%以上80体積%以下であるのが好ましく、10体積%以上60体積%以下であるのがより好ましく、20体積%以上50体積%以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
これにより、コンテナ20の空洞部内における、液体状態および気体状態の作動液30の移動をより好適なものとし、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力を特に優れたものとすることができる。
【0069】
[1-4]変形防止部材
本実施形態では、コンテナ20の内部に設けられた空洞部に、繊維基材13および作動液30とともに、コンテナ20の厚さ方向の変形(例えば、作動液30の沸点を下げるために空洞部を減圧する際の変形等)を防止する機能を有する部材である変形防止部材10が配置されている。
【0070】
このような変形防止部材10がコンテナ20の空洞部に配置されていることにより、コンテナ20の空洞部に作動液30の流路をより好適に確保することができ、コンテナ20の変形により空洞部における作動液30の流動が阻害されてしまうことをより効果的に防止することができる。
【0071】
変形防止部材10は、作動液30の流路壁16として機能する部位を有するものであり、変形防止部材10の流路壁16が配されていない部位が作動液30の流路部分15となっている。
【0072】
流路壁16の幅L(流路壁16の長手方向に直交する断面での幅)は、特に限定されないが、5μm以上1000μm以下であるのが好ましく、10μm以上500μm以下であるのがより好ましい。
【0073】
これにより、コンテナ20の厚さ方向の不本意な変形を十分に防止することができる。特に、変形防止部材10が樹脂材料で構成されたものである場合に、流路壁16の幅が前記範囲内の値であると、ベイパーチャンバー100のフレキシブル性(柔軟性)も特に優れたものとすることができる。
【0074】
図示の構成では、変形防止部材10は、その長手方向に延在する流路壁16として機能する部位を複数有している。
【0075】
隣り合う流路壁16の間隔S(すなわち、流路部分15の幅)は、特に限定されないが、100μm以上1000μm以下であるのが好ましく、200μm以上800μm以下であるのがより好ましく、300μm以上700μm以下であるのがさらに好ましい。
【0076】
これにより、変形防止部材10、ベイパーチャンバー100の大型化を抑制しつつ、作動液30(気体状の作動液30および液状の作動液30)の移動をより円滑に行わせることができる。また、コンテナ20の厚さ方向の不本意な変形を十分に防止することができる。特に、変形防止部材10が樹脂材料で構成されたものである場合に、隣り合う流路壁16の間隔Sが前記範囲内の値であると、ベイパーチャンバー100のフレキシブル性(柔軟性)も特に優れたものとすることができる。
【0077】
流路部分15の幅S[μm]に対する流路壁16の幅L[μm]の比率(L/S)は、特に限定されないが、0.05以上0.50以下であるのが好ましく、0.08以上0.40以下であるのがより好ましく、0.10以上0.35以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
これにより、コンテナ20の厚さ方向の不本意な変形を十分に防止することができる。特に、変形防止部材10が樹脂材料で構成されたものである場合に、L/Sが前記範囲内の値であると、ベイパーチャンバー100のフレキシブル性(柔軟性)も特に優れたものとすることができる。また、変形防止部材10、ベイパーチャンバー100の大型化を抑制しつつ、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力、ベイパーチャンバー100の耐久性等をより優れたものとすることができる。これに対し、L/Sの値が前記下限値未満であると、コンテナ20を構成するシート材の厚さ、構成材料等によっては、コンテナ20の厚さ方向の変形が発生しやすくなる。また、L/Sの値が前記上限値を超えると、熱輸送効率が低下する。
【0079】
図示の構成では、流路部分15および流路壁16は、一定の幅を有するものであるが、これらは、幅が異なる部位を有するものであってもよい。
【0080】
また、図示の構成では、流路部分15および流路壁16は、一方向に直線的に設けられているが、これらは、湾曲する部位や屈曲する部位を有していてもよい。
【0081】
変形防止部材10の高さ(厚さ)は、10μm以上2000μm以下であるのが好ましく、20μm以上1000μm以下であるのがより好ましく、30μm以上500μm以下であるのがさらに好ましい。
【0082】
これにより、ベイパーチャンバー100が必要以上に厚型化することを防止しつつ、作動液30の流路部分(特に、気体状の作動液30の流路部分、および、液状の作動液30の流路部分)をより好適に確保することができる。
【0083】
変形防止部材10は、いかなる材料で構成されていてもよいが、樹脂材料で構成されたものであるのが好ましい。
【0084】
これにより、ベイパーチャンバー100を軽量化したり、フレキシブル性(柔軟性)に優れたものとする上で有利となる。
【0085】
変形防止部材10を構成する樹脂材料は、特に限定されないが、本実施形態では、硬化性樹脂(例えば、後に詳述するような光重合性樹脂や熱硬化性樹脂等)の硬化物(樹脂硬化物14)を含んでいる。
【0086】
これにより、ベイパーチャンバー100の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。
【0087】
また、変形防止部材10は、後に詳述するようなアルカリ可溶性樹脂を含んでいてもよい。
【0088】
変形防止部材10は、樹脂材料以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、充填剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、カップリング剤、難燃剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0089】
ただし、変形防止部材10中における樹脂材料以外の成分の含有率(複数種の成分を含む場合には、これらの含有率の総和)は、10.0質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0090】
図示の構成では、変形防止部材10は、その両面において、コンテナ20の内面と接触している(より具体的には、一方の面である第1の面11において、第1のシート材21と接触しており、他方の面である第2の面12において、第2のシート材22と接触している)が、変形防止部材10とコンテナ20との間には、他の部材が介在していてもよい。言い換えると、変形防止部材10は、例えば、他の部材を介して、コンテナ20の内面に固定されていてもよい。
【0091】
本実施形態では、変形防止部材10は、ウィックとして機能する繊維基材13と一体的に形成されたものである。言い換えると、変形防止部材10と繊維基材13との一体成型物は、コンテナの厚さ方向の変形を防止する機能を有する部材であるとともに、熱輸送に伴う作動液30の流動、特に、コンテナ20の蒸発部での受熱により気化した作動液30の流動や、コンテナ20の凝縮部での放熱により凝縮した作動液30の流動が行われる部材でもあるウィック構造体である。
【0092】
特に、ウィック構造体は、変形防止部材10と繊維基材13とを含み、かつ、変形防止部材10が配されていない作動液30の流路部分15の一部に繊維基材13(ガラス繊維131)が配されている。
【0093】
このように、変形防止部材10が、ウィックとして機能する繊維基材13と一体的に形成されたものであることにより、例えば、流路部分15を、気体状の作動液30の流路部分(流路部分15のうちガラス繊維131が存在しない部分、または、ガラス繊維131の密度が低い部分)と、液状の作動液30の流路部分(流路部分15のうち、ガラス繊維131が存在する部分、または、ガラス繊維131の密度が高い部分)とを有するものとすることができ、液状の作動液30の流路と気体状の作動液30の流路とを機能上分離することができる。その結果、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力を特に優れたものとすることができる。また、ベイパーチャンバー100の耐久性等もより優れたものとすることができる。
【0094】
上記のようなウィック構造体は、いかなる方法で形成されたものであってもよいが、後述するようなベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて形成されたものであるのが好ましい。
【0095】
これにより、例えば、後述するような方法により、ベイパーチャンバー100を高い生産性、高い歩留まりで製造することができ、ベイパーチャンバー100の信頼性をより優れたものとすることができる。
【0096】
ウィック構造体が後述するようなベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて形成されたものである場合、ウィック構造体は、1個のベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて製造されたものであってもよいし、複数個のベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて製造されたものであってもよい。複数個のベイパーチャンバー製造用部材10’を用いる場合、これらのベイパーチャンバー製造用部材10’は、ウィック構造体の面方向に配置して用いてもよいし、ウィック構造体の厚さ方向に配置(積層)して用いてもよい。
【0097】
[1-5]ベイパーチャンバーの全体構成
ベイパーチャンバー100の厚さは、50μm以上2100μm以下であるのが好ましく、80μm以上1070μm以下であるのがより好ましく、100μm以上570μm以下であるのがさらに好ましい。
【0098】
これにより、ベイパーチャンバー100の厚型化を防止しつつ、作動液30(気体状の作動液30および液状の作動液30)の移動をより円滑に行わせることができる。その結果、ベイパーチャンバー100の熱輸送能力を特に優れたものとすることができる。また、ベイパーチャンバー100の耐久性をより優れたものとすることができる。
【0099】
[1-6]ベイパーチャンバーの使用形態
次に、本発明のベイパーチャンバーの使用形態の例について説明する。
【0100】
本発明のベイパーチャンバーは、例えば、発熱部材の熱を所定の場所へ移動させる目的で用いるものであってもよいし、発熱部材の局所的な高温部の熱を均熱する目的で用いるものであってもよい。
【0101】
前述したように、本発明のベイパーチャンバーは、特に優れた熱輸送能力を有しており、発熱部材の熱を所定の場所へ移動させる場合でも、発熱部材の局所的な高温部の熱を均熱する場合でも、効率よく熱輸送することができる。
【0102】
以下、本発明のベイパーチャンバーを、所定の部材(発熱部材)の熱を移動する目的で使用する場合について中心的に説明する。
【0103】
発熱部材(例えば、CPU等)を冷却する目的で使用する場合、ベイパーチャンバーは、その表面の一部(蒸発部)が、発熱部材そのものやそれに接触する高熱伝導材料で構成された部材(例えば、熱伝導シート等)(以下、これらを総称して「発熱部材等」とも言う。)に接触した状態で用いられる。
【0104】
このとき、ベイパーチャンバーは、蒸発部とは異なる部位である凝縮部、すなわち、発熱部材から受け取った熱を放熱する部位において、放熱部材(例えば、ヒートシンク等)やそれに接触する高熱伝導材料で構成された部材(例えば、熱伝導シート等)(以下、これらを総称して「放熱部材等」とも言う。)に接触した状態であってもよい。
【0105】
特に、変形防止部材10が樹脂材料で構成されたものであると(特に、ベイパーチャンバー100が後述するようなベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて製造されたものであると)、ベイパーチャンバー100は、フレキシブル性(柔軟性)に優れたものとなる。
【0106】
発熱部材が設置された部位と放熱部材を設置すべき部位との間に段差がある場合、従来のヒートパイプやベイパーチャンバーとしてフレキシブル性(柔軟性)に劣るものを用いる場合には、前記の段差を解消・緩和するためのスペーサー(例えば、金属スペーサー等)を設置する必要があり、部品増によるコストアップや装置全体としての重量化等の問題を生じていたが、上記のような構成により、ベイパーチャンバー100は、フレキシブル性(柔軟性)に優れ、例えば、曲げ加工等を好適に行うことができるため、前記のスペーサーを省略した場合であっても、凝縮部および蒸発部における他の部材(発熱部材等および放熱部材等)との良好な密着状態を確保することができる。したがって、上記のような問題を好適に解消しつつ、良好な放熱性能を発揮することができる。
【0107】
また、ベイパーチャンバー100を湾曲、屈曲させることにより、他の部材との干渉を好適に回避することができるため、発熱部材を備える装置についての各部品のレイアウトの自由度が増す。
【0108】
また、ベイパーチャンバー100(ウィック構造体)が備える流路部分15や流路壁16の形状等を好適に調整することができるため、例えば、長方形等の単純な形状だけでなく、切り欠き部を有する形状等の複雑な形状を有し、当該形状に対応した流路部分15や流路壁16を有するベイパーチャンバー100であっても好適に製造することができる。したがって、例えば、発熱部材等や放熱部材等との接触面積を大きいものとしつつ、他の部材との干渉を好適に解消することができる。これにより、より良好な放熱性能を発揮することができる。
【0109】
また、例えば、発熱部材としてのモーターが収納された筐体(例えば、多関節ロボットの関節部等)内においては、モーターからの発熱を、筐体を介して外部に逃がすために、筐体内において、アルミニウム成形体および熱伝導シートを組み合わせて用いることがあったが、この場合、筐体が大型化する問題があった。これに対し、上述したようなベイパーチャンバー100を用いる場合、アルミニウム成形体を用いる必要がないため、筐体の小型化、部品点数削減等の観点から有利である。
【0110】
[2]ベイパーチャンバー製造用部材
次に、前述した本発明のベイパーチャンバーの製造、特に、ベイパーチャンバーが備える変形防止部材(ウィック構造体)の製造に、好適に用いることができるベイパーチャンバー製造用部材について説明する。
【0111】
図6は、ベイパーチャンバー製造用部材の一例を模式的に示す斜視図である。
図7は、ベイパーチャンバー製造用部材の一例を模式的に示す縦断面図である。
図8、
図9は、それぞれ、ベイパーチャンバー製造用部材の他の一例を模式的に示す縦断面図である。
【0112】
ベイパーチャンバー製造用部材10’は、繊維基材13と、未硬化状態の樹脂材料14’とを含むものである。
【0113】
これにより、フレキシブル性(柔軟性)に優れるとともに、特に優れた熱輸送能力を有するベイパーチャンバー100の製造に好適に用いることができるベイパーチャンバー製造用部材10’を提供することができる。また、ベイパーチャンバー100のフレキシブル性(柔軟性)を優れたものとすることができるため、ベイパーチャンバー100が適用される部材や配置等によらず、ベイパーチャンバー100と前記部材との密着状態を良好なものとすることができ、優れた熱輸送能力をより確実に発揮することができる。
【0114】
このような優れた効果が得られるのは、以下のような理由によるものと考えられる。すなわち、ベイパーチャンバー製造用部材10’が繊維基材13と未硬化状態の樹脂材料14’とを含むものであることにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて形成されるウィック構造体を、繊維基材13と樹脂硬化物14とを含む材料で構成されたものとすることができ、ベイパーチャンバー100全体として、優れたフレキシブル性(柔軟性)を発揮することができる。また、ベイパーチャンバー製造用部材10’が未硬化状態の樹脂材料14’を含むことにより、例えば、後述するような方法において、所定のパターンで光(露光光)を照射することにより、ベイパーチャンバー100における作動液30の流路部分15、特に、気体状の作動液30の流路部分(流路部分15のうちガラス繊維131が存在しない部分、または、ガラス繊維131の密度が低い部分)と、液状の作動液30の流路部分(流路部分15のうち、ガラス繊維131が存在する部分、または、ガラス繊維131の密度が高い部分)とを好適に形成することができる。より具体的には、気体状の作動液30を移動させる構造と、液状の作動液30を毛細管現象によって移動させる構造とを、好適な配置で形成することができる。これにより、作動液30の蒸発・凝縮のサイクルを速めることができ、ベイパーチャンバー100全体としての熱輸送能力を特に優れたものとすることができる。ただし、前記の気体状の作動液30の流路部分(流路部分15のうちガラス繊維131が存在しない部分、または、ガラス繊維131の密度が低い部分)において、一部の液状の作動液30が流通してもよいし、前記の液状の作動液30の流路部分(流路部分15のうち、ガラス繊維131が存在する部分、または、ガラス繊維131の密度が高い部分)において、一部の気体状の作動液30が流通してもよい。
【0115】
また、ベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて製造されるベイパーチャンバー100(ウィック構造体、変形防止部材10)が備える流路部分15や流路壁16の形状等を、ベイパーチャンバー100の用途、適用部位等に応じて好適に調整することができる。言い換えると、オンデマンド性に優れている。また、光照射、熱処理等の一般的な処理によりベイパーチャンバー100(ウィック構造体、変形防止部材10)を好適に製造することができ、煩雑な金属加工等を行わなくても、上記のような優れた特性のベイパーチャンバー100を製造することができる。また、気体状の作動液30の流路部分と、液状の作動液30の流路部分とを、共通の工程で形成することができ、これらの部分の位置合わせ等が不要であるため、ベイパーチャンバー100の製造における高い生産性、高い歩留まりを実現することができる。
【0116】
未硬化状態の樹脂材料14’は、硬化性の樹脂材料であって、硬化反応が完了していないものであればよく、一部硬化反応が進行したもの、例えば、Bステージの樹脂材料であってもよい。
【0117】
また、複数のガラス繊維131が絡み合った状態の繊維基材13を含むことにより、例えば、ベイパーチャンバー製造用部材10’中におけるガラス繊維131同士の隙間を、液状の作動液30を毛細管現象が生じやすい状態に調整しやすく、また、ベイパーチャンバー製造用部材10’中におけるガラス繊維131の配置部位を調整しやすい。したがって、ベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて形成されるウィック構造体において、気体状の作動液30の流路部分と、液状の作動液30の流路部分とをより好適に形成することができ、前述した効果をより確実に発揮させることができる。また、ベイパーチャンバー製造用部材10’の製造も容易となり、ベイパーチャンバー製造用部材10’中におけるガラス繊維131の配置状態、分布を調整しやすく、例えば、ベイパーチャンバー製造用部材10’中の各部位における不本意なガラス繊維131の分布むら(例えば、流路部分15となるべき部位にガラス繊維131が十分に存在しないこと等)を好適に防止することができる。
【0118】
図示の構成では、繊維基材13は、シート状をなすものであるが、繊維基材13の形状は、特に限定されない。
【0119】
また、図示の構成では、ベイパーチャンバー製造用部材10’は、シート状をなすもの、特に、シート状の繊維基材13に対応する形状を有するものであるが、ベイパーチャンバー製造用部材10’の形状は、特に限定されない。
【0120】
[2-1]樹脂材料
ベイパーチャンバー製造用部材10’は、未硬化状態の樹脂材料14’を含んでいる。
【0121】
樹脂材料14’は、未硬化の状態の硬化性樹脂を含むものであればよく、一部硬化反応が進んだもの(例えば、Bステージの樹脂)であってもよいし、未硬化の状態の硬化性樹脂に加えて、熱可塑性樹脂を含むものであってもよい。
【0122】
中でも、樹脂材料14’は、アルカリ可溶性樹脂と光重合性樹脂とを含むものであるのが好ましい。
【0123】
これにより、後述するような方法において、露光工程、現像工程により、所定のパターンを好適に形成することができるとともに、現像工程では、現像液として広く用いられている有機溶媒ではなく、環境負荷がより少ないアルカリ水溶液を好適に用いることができる。
【0124】
以下、アルカリ可溶性樹脂について説明する。
アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、クレゾール型、フェノール型、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、カテコール型、レゾルシノール型、ピロガロール型等のノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ヒドロキシスチレン樹脂、メタクリル酸樹脂、メタクリル酸エステル樹脂等のアクリル系樹脂、水酸基、カルボキシル基等を含む環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂(具体的には、ポリベンゾオキサゾール構造およびポリイミド構造の少なくとも一方を有し、かつ主鎖または側鎖に水酸基、カルボキシル基、エーテル基またはエステル基を有する樹脂、ポリベンゾオキサゾール前駆体構造を有する樹脂、ポリイミド前駆体構造を有する樹脂、ポリアミド酸エステル構造を有する樹脂等)等が挙げられる。
【0125】
アルカリ可溶性樹脂としては、例えば、アルカリ可溶性基および二重結合を有する樹脂を好適に用いることができる。
【0126】
これにより、現像処理時に二重結合部分が未反応の樹脂を除去する際に、現像液として通常用いられる有機溶剤の代わりに、環境に対する負荷のより少ないアルカリ水溶液を適用することができるとともに、二重結合部分が硬化反応に寄与することから、樹脂材料14’が硬化してなる樹脂硬化物14の耐熱性を維持することができる。
【0127】
アルカリ可溶性基および二重結合を有する樹脂としては、例えば、光および熱の両方で硬化可能な硬化性樹脂を挙げることができる。
【0128】
アルカリ可溶性基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基等が挙げられる。このアルカリ可溶性基は、熱硬化反応にも寄与することができる。
【0129】
このような樹脂としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基等の光反応基を有する熱硬化性樹脂や、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、カルボキシル基、酸無水物基等の熱反応基を有する光硬化性樹脂等が挙げられる。なお、光硬化性樹脂は、さらに、エポキシ基、アミノ基、シアネート基等の熱反応基を有していてもよい。具体的には、(メタ)アクリル変性フェノール樹脂、(メタ)アクリロイル基含有アクリル酸重合体、カルボキシル基含有(エポキシ)アクリレート等が挙げられる。
【0130】
これらの中でも、アルカリ可溶性樹脂としては、(メタ)アクリル基とフェノール性水酸基とを含むもの、または、(メタ)アクリル基とカルボキシル基とを含むものであるのが好ましく、(メタ)アクリル基とフェノール性水酸基とを含むものであるのがより好ましく、(メタ)アクリル変性フェノール樹脂であるのがさらに好ましい。
【0131】
これにより、アルカリ水溶液を用いた現像処理時における未反応の樹脂の除去をより好適に行うことができ、ベイパーチャンバー100の生産性、製造されるベイパーチャンバー100の信頼性をより優れたものとすることができる。
【0132】
特に、アルカリ可溶性樹脂が、(メタ)アクリル基とフェノール性水酸基とを含むものであると、上記のような効果が得られるとともに、後述するようなベイパーチャンバー100の製造方法における樹脂材料14’の解像性、すなわち、露光工程におけるパターンの再現性をより優れたものとすることができる。このような効果は、(メタ)アクリル基とフェノール性水酸基とを含むアルカリ可溶性樹脂の中でも、(メタ)アクリル変性フェノール樹脂を用いた場合により顕著に発揮される。
【0133】
(メタ)アクリル変性フェノール樹脂は、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック樹脂のフェノール性水酸基とアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等のグリシジル基と(メタ)アクリル基を有する化合物を反応させることにより得ることができる。その中でも、フェノールノボラックとメタクリル酸グリシジルを反応させたメタクリル変性フェノール樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂とメタクリル酸グリシジルを反応させたメタクリル変性フェノール樹脂が好ましい。
【0134】
これにより、上述したような効果がより顕著に発揮される。すなわち、アルカリ水溶液を用いた現像処理時における未反応の樹脂の除去をさらに好適に行うことができ、ベイパーチャンバー100の生産性、製造されるベイパーチャンバー100の信頼性をさらに優れたものとすることができ、また、露光工程におけるパターンの再現性をさらに優れたものとすることができる。
【0135】
アルカリ可溶性樹脂として光反応基を有する熱硬化性樹脂を用いる場合、前記光反応基の変性率(置換率)は、特に限定されないが、前記アルカリ可溶性基および二重結合を有する樹脂の反応基全体の20mol%以上80mol%以下であるのが好ましく、30mol%以上70mol%以下であるのがより好ましい。
【0136】
これにより、後述するようなベイパーチャンバー100の製造方法における樹脂材料14’の解像性、すなわち、露光工程におけるパターンの再現性をより優れたものとすることができる。その結果、微細なパターンを有する変形防止部材10(ウィック構造体)を備えるベイパーチャンバー100の製造により好適に適用することができる。
【0137】
一方、熱反応基を有する光硬化性樹脂を用いる場合、前記熱反応基の変性率(置換率)は、特に限定されないが、前記アルカリ可溶性基および二重結合を有する樹脂の反応基全体の20mol%以上80mol%以下であるのが好ましく、30mol%以上70mol%以下であるのがより好ましい。
【0138】
これにより、後述するようなベイパーチャンバー100の製造方法における樹脂材料14’の解像性、すなわち、露光工程におけるパターンの再現性をより優れたものとすることができる。その結果、微細なパターンを有する変形防止部材10(ウィック構造体)を備えるベイパーチャンバー100の製造により好適に適用することができる。
【0139】
前記アルカリ可溶性基および二重結合を有する樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、300,000以下であるのが好ましく、5,000以上150,000以下であるのがより好ましい。
【0140】
これにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’での樹脂材料14’の形状の安定性を十分に優れたものとしつつ、現像工程での樹脂材料14’の除去をより好適に行うことができる。
【0141】
なお、重量平均分子量は、例えば、G.P.C.を用いて評価でき、予め、スチレン標準物質を用いて作成された検量線により重量平均分子量を算出することができる。特に、測定溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、40℃の温度条件下で測定することができる。
【0142】
樹脂材料14’中におけるアルカリ可溶性樹脂の含有率は、特に限定されないが、10質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、15質量%以上70質量%以下であるのがより好ましい。
【0143】
これにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’での樹脂材料14’の形状の安定性を十分に優れたものとしつつ、露光工程における解像性、現像工程での現像性をより優れたものとすることができる。また、ベイパーチャンバー100の製造過程における加熱処理により、変形防止部材10(ウィック構造体)とコンテナ20(第1のシート材21、第2のシート材22)との接合強度、密着性をより優れたものとすることができる。
【0144】
次に、光重合性樹脂について説明する。
樹脂材料14’が前述したアルカリ可溶性樹脂とともに光重合性樹脂を含むことにより、パターニング性を向上させることができる。
【0145】
光重合性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、アクリロイル基またはメタクリロイル基を、一分子中に少なくとも1個以上有するアクリル系モノマーやオリゴマー等のアクリル系化合物、スチレン等のビニル系化合物等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0146】
これらの中でもアクリル系化合物を主成分とする紫外線硬化性樹脂が好ましい。アクリル系化合物は、光(露光光)を照射した際の硬化速度が速く、比較的少量の露光量で樹脂材料14’を好適にパターニングすることができる。
【0147】
アクリル系化合物としては、例えば、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルのモノマー等が挙げられ、より具体的には、ジアクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジアクリル酸1,6-ヘキサンジオール、ジメタクリル酸1,6-ヘキサンジオール、ジアクリル酸グリセリン、ジメタクリル酸グリセリン、ジアクリル酸1,10-デカンジオール、ジメタクリル酸1,10-デカンジオール等の2官能アクリレート、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、トリアクリル酸ペンタエリスリトール、トリメタクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサアクリル酸ジペンタエリスリトール、ヘキサメタクリル酸ジペンタエリスリトール等の多官能アクリレート等が挙げられる。
【0148】
中でも、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、エステル部位の炭素数が1以上15以下のアクリル酸エステル、メタクリル酸アルキルエステルがより好ましい。
これにより、反応性を向上させることができ、露光工程における感度が向上する。
【0149】
また、光重合性樹脂は、特に限定されないが、室温(23℃)で液状をなすものであるのが好ましい。
【0150】
これにより、露光光(特に、紫外線)による硬化反応性を向上させることができる。また、他の配合成分(例えば、アルカリ可溶性樹脂)との混合作業を容易にすることができる。室温で液状の光重合性樹脂としては、例えば、前述したアクリル化合物を主成分とする紫外線硬化性樹脂等が挙げられる。
【0151】
光重合性樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、5,000以下であるのが好ましく、150以上3,000以下であるのがより好ましい。
【0152】
これにより、樹脂材料14’の反応性を向上させることができ、露光工程における感度が向上するとともに、樹脂材料14’の解像性を向上させることができる。
【0153】
樹脂材料14’中における光重合性樹脂の含有率は、特に限定されないが、9質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、13質量%以上30質量%以下であるのがより好ましい。
【0154】
これにより、樹脂材料14’が硬化してなる樹脂硬化物14の耐熱性と可撓性とをより高いレベルで両立することができる。また、後述するようなベイパーチャンバー100の製造方法における樹脂材料14’の解像性、すなわち、露光工程におけるパターンの再現性をより優れたものとすることができる。その結果、微細なパターンを有する変形防止部材10(ウィック構造体)を備えるベイパーチャンバー100の製造により好適に適用することができる。
【0155】
樹脂材料14’中におけるアルカリ可溶性樹脂の含有率をXA[質量%]、樹脂材料14’中における光重合性樹脂の含有率をXP[質量%]としたとき、0.15≦XP/XA≦0.90の関係を満たすのが好ましく、0.19≦XP/XA≦0.87の関係を満たすのがより好ましく、0.22≦XP/XA≦0.33の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0156】
これにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’での樹脂材料14’の形状の安定性を、露光工程における解像性、現像工程での現像性、変形防止部材10(ウィック構造体)とコンテナ20(第1のシート材21、第2のシート材22)との接合強度、密着性、樹脂材料14’が硬化してなる樹脂硬化物14の耐熱性、可撓性等のバランスをさらに優れたものとすることができる。
【0157】
樹脂材料14’がアルカリ可溶性樹脂と光重合性樹脂とを含むものである場合、樹脂材料14’は、さらに、アルカリ可溶性樹脂とは異なる熱硬化性樹脂を含むものであるのが好ましい。
【0158】
これにより、変形防止部材10(ウィック構造体)の耐熱性をより優れたものとすることができる。また、後述するベイパーチャンバー100の製造過程において好適な粘着性を発現することができ、変形防止部材10(ウィック構造体)とコンテナ20(第1のシート材21、第2のシート材22)との接合強度、密着性をより優れたものとすることができる。
【0159】
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾールフェノール樹脂等のフェノール樹脂、ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、前記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂が特に好ましい。これにより、樹脂材料14’が硬化してなる樹脂硬化物14の耐熱性や、樹脂材料14’が硬化してなる樹脂硬化物14の繊維基材13、第1のシート材21、第2のシート材22に対する密着性をより優れたものとすることができる。
【0160】
特に、エポキシ樹脂としては、シリコーン変性エポキシ樹脂を使用することが好ましく、室温で固形のエポキシ樹脂(特に、ビスフェノール型エポキシ樹脂)と、室温で液状のエポキシ樹脂(特に、室温で液状のシリコーン変性エポキシ樹脂)とを併用することがより好ましい。
【0161】
これにより、樹脂材料14’が硬化してなる樹脂硬化物14の耐熱性と可撓性とをさらに高いレベルで両立することができる。また、後述するようなベイパーチャンバー100の製造方法における樹脂材料14’の解像性、すなわち、露光工程におけるパターンの再現性をさらに優れたものとすることができる。その結果、微細なパターンを有する変形防止部材10(ウィック構造体)を備えるベイパーチャンバー100の製造にさらに好適に適用することができる。
【0162】
樹脂材料14’中における前記熱硬化性樹脂の含有率は、特に限定されないが、10質量%以上60質量%以下であるのが好ましく、15質量%以上55質量%以下であるのがより好ましい。
【0163】
これにより、樹脂材料14’が硬化してなる樹脂硬化物14の耐熱性と靭性とをより高いレベルで両立することができる。
【0164】
樹脂材料14’中におけるアルカリ可溶性樹脂の含有率をXA[質量%]、樹脂材料14’中における前記熱硬化性樹脂の含有率をXT[質量%]としたとき、0.20≦XT/XA≦1.5の関係を満たすのが好ましく、0.30≦XT/XA≦1.2の関係を満たすのがより好ましく、0.55≦XT/XA≦0.80の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0165】
これにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’での樹脂材料14’の形状の安定性、露光工程における解像性、現像工程での現像性、樹脂材料14’が硬化してなる樹脂硬化物14の耐熱性、靭性、変形防止部材10(ウィック構造体)とコンテナ20(第1のシート材21、第2のシート材22)との接合強度、密着性等のバランスをさらに優れたものとすることができる。
【0166】
ベイパーチャンバー製造用部材10’中における樹脂材料14’の含有率は、10質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、15質量%以上45質量%以下であるのがより好ましく、20質量%以上40質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0167】
上記のような含有率の条件を満足することにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて製造されるベイパーチャンバー100(ウィック構造体)における、気体状の作動液30の流路部分と、液状の作動液30の流路部分との割合をより好適なものとすることができる。
【0168】
ベイパーチャンバー製造用部材10’中における、繊維基材13の含有率をXf[質量%]、樹脂材料14’の含有率をXr[質量%]としたとき、0.8≦Xf/Xr≦8.0の関係を満たすのが好ましく、1.0≦Xf/Xr≦7.0の関係を満たすのがより好ましく、2.0≦Xf/Xr≦6.0の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0169】
上記のような含有率の関係を満足することにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて製造されるベイパーチャンバー100(ウィック構造体)における、気体状の作動液30の流路部分と、液状の作動液30の流路部分との割合をより好適なものとすることができる。
【0170】
[2-2]繊維基材
本実施形態のベイパーチャンバー製造用部材10’は、繊維基材13を含んでいる。
【0171】
ベイパーチャンバー製造用部材10’中に含まれる繊維基材13は、前述したベイパーチャンバー100(ウィック構造体)の構成材料として説明した繊維基材13と同様の条件を満足するものであるのが好ましい。
これにより、前述したのと同様の効果が得られる。
【0172】
[2-3]硬化剤
ベイパーチャンバー製造用部材10’は、さらに硬化剤を含んでいてもよい。
【0173】
硬化剤(感光剤)としては、樹脂材料14’を硬化させるものであれば特に限定されず、例えば、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾインメチルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0174】
ベイパーチャンバー製造用部材10’中における硬化剤(感光剤)の含有率は、特に限定されないが、0.1質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上40質量%以下であるのがより好ましく、1.0質量%以上30質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0175】
これにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’の保存安定性を十分に優れたものとしつつ、後述するベイパーチャンバー100の製造時には、光重合反応をより好適に開始・進行させることができる。
【0176】
[2-4]その他の成分
ベイパーチャンバー製造用部材10’は、前述した成分以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう。)を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、充填剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、カップリング剤、難燃剤、酸化防止剤等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0177】
ただし、ベイパーチャンバー製造用部材10’中におけるその他の成分の含有率は、7.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましく、3.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0178】
[2-5]ベイパーチャンバー製造用部材の全体構成
ベイパーチャンバー製造用部材10’の形状は特に限定されないが、図示の構成では、シート状である。
【0179】
これにより、シート状のベイパーチャンバー100(ウィック構造体)を好適に製造することができる。
【0180】
ベイパーチャンバー製造用部材10’がシート状をなすものである場合、シート状の繊維基材13(ガラス繊維131)は、
図7に示すように、ベイパーチャンバー製造用部材10’の厚さ方向のほぼ全体にわたって存在するものであってもよいし、
図8に示すように、ベイパーチャンバー製造用部材10’の厚さ方向の中央付近に偏在するものであってもよいし、
図9に示すように、ベイパーチャンバー製造用部材10’の一方の面側に偏在するものであってもよい。また、シート状の繊維基材13(ガラス繊維131)は、ベイパーチャンバー製造用部材10’の両面側に偏在しており、これらの部位に比べて、ベイパーチャンバー製造用部材10’の厚さ方向の中央付近のガラス繊維131の含有率が低くなっていてもよい。
【0181】
ベイパーチャンバー製造用部材10’の厚さは、10μm以上2000μm以下であるのが好ましく、20μm以上1000μm以下であるのがより好ましく、30μm以上500μm以下であるのがさらに好ましい。
【0182】
これにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’を用いて製造されるベイパーチャンバー100が必要以上に厚型化することを防止しつつ、気体状の作動液30の流路部分と、液状の作動液30の流路部分とをより好適に形成することができる。
【0183】
[3]ベイパーチャンバーの製造方法
次に、本発明のベイパーチャンバーの製造方法について説明する。
【0184】
図10、
図11は、本発明のベイパーチャンバーの製造方法の一例を模式的に示す縦断面図である。
【0185】
本実施形態のベイパーチャンバー100の製造方法は、未硬化状態の樹脂材料14’を含む材料で構成されたベイパーチャンバー製造用部材10’を用意するベイパーチャンバー製造用部材用意工程(1a)と、ベイパーチャンバー製造用部材10’を、その一方の面である第1の面11において、金属材料で構成された第1のシート材21に接合する第1の接合工程(1b)と、第1のシート材21に接合されたベイパーチャンバー製造用部材10’に対して、所定のパターンで光(露光光)Eを照射する露光工程(1c)と、露光工程で光Eが照射されなかった部位の未硬化状態の樹脂材料14’を除去する現像工程(1d)と、現像工程を経たベイパーチャンバー製造用部材10’を、第1の面11とは反対側の面である第2の面12において、金属材料で構成された第2のシート材22に接合する第2の接合工程(1e)と、第1のシート材21と第2のシート材22との間の空間に作動液30を注入するとともに、当該空間を密封する作動液供給・密封工程(1f)とを有する。
【0186】
これにより、特に優れた熱輸送能力を有するベイパーチャンバーを好適に製造することができるベイパーチャンバーの製造方法を提供することができる。また、製造されるベイパーチャンバー100のフレキシブル性(柔軟性)を優れたものとすることができる。このため、例えば、ベイパーチャンバー100が適用される部材や配置等によらず、ベイパーチャンバー100と前記部材との密着状態を良好なものとすることができ、優れた熱輸送能力をより確実に発揮することができる。
【0187】
[3-1]ベイパーチャンバー製造用部材用意工程
ベイパーチャンバー製造用部材用意工程では、未硬化状態の樹脂材料14’を含む材料で構成されたベイパーチャンバー製造用部材10’、特に、前述したような未硬化状態の樹脂材料14’とともに繊維基材13を含むベイパーチャンバー製造用部材10’を用意する(1a)。
【0188】
ベイパーチャンバー製造用部材10’は、例えば、繊維基材13に、未硬化状態の樹脂材料14’を含む組成物を含侵させることにより得ることができる。
【0189】
前記組成物は、例えば、樹脂材料14’に加えて、前述したその他の成分を含んでいてもよい。また、前記組成物は、溶媒を含んでいてもよい。前記組成物が溶媒を含む場合、繊維基材13に前記組成物を含侵させた後に溶媒を揮発させることにより、ベイパーチャンバー製造用部材10’を得ることができる。
【0190】
前記組成物は、例えば、繊維基材13の第1の面11に対応する面側から付与してもよいし、繊維基材13の第2の面12に対応する面側から付与してもよいし、繊維基材13の第1の面11に対応する面および第2の面12に対応する面の両側から付与してもよい。
【0191】
繊維基材13に前記組成物を付与する方法としては、例えば、塗布法、噴霧法、浸漬法等が挙げられる。
【0192】
[3-2]第1の接合工程
第1の接合工程では、ベイパーチャンバー製造用部材10’を、その一方の面である第1の面11において、第1のシート材21に接合する(1b)。
【0193】
ベイパーチャンバー製造用部材10’を構成する未硬化状態の樹脂材料14’を第1のシート材21と接触させ、さらに、圧力をかけることにより、好適に接合することができる。圧力に加えて、加熱することにより、さらに好適に接合することができる。
【0194】
[3-3]露光工程
露光工程では、第1のシート材21に接合されたベイパーチャンバー製造用部材10’に対して、所定のパターンで光Eを照射する(1c)。
【0195】
これにより、樹脂材料14’のうち光Eが照射された部位が、選択的に硬化し、樹脂硬化物14となる。すなわち、光Eの照射パターンに対応するパターンで、樹脂硬化物14で構成された流路壁16となるべき部位に対応する硬化部を形成することができる。
【0196】
なお、本工程での硬化反応は、後の現像工程で、樹脂硬化物14を残存させつつ、未硬化の樹脂材料14’を除去することができる程度に進行させればよく、完全に進行させなくてもよい。
【0197】
本工程で照射する光Eの種類は、樹脂材料14’の種類に応じて決定されるが、紫外線であるのが好ましい。
【0198】
これにより比較的短時間の露光処理で好適に樹脂材料14’を硬化させることができ、ベイパーチャンバー100の生産性をより優れたものとすることができる。
【0199】
露光工程は、例えば、レーザー光等の光を所定のパターンで走査することにより行ってもよいが、フォトマスクを用いることにより好適に行うことができる。
【0200】
[3-4]現像工程
現像工程では、露光工程で光Eが照射されなかった部位の未硬化状態の樹脂材料14’を除去する(1d)。
【0201】
これにより、樹脂硬化物14および繊維基材13(ガラス繊維131)を残存させつつ、樹脂材料14’を除去することができる。これにより、所定のパターン、すなわち、光Eの照射パターンに対応するパターンの流路壁16となるべき部位を出現することができる。
【0202】
現像工程は、樹脂材料14’を選択的に溶解し、樹脂硬化物14を溶解しない現像液を用いることにより、好適に行うことができる。
【0203】
現像液の組成は、樹脂材料14’、樹脂硬化物14等により異なるが、例えば、樹脂材料14’が前述したようなアルカリ可溶性樹脂を含む物である場合、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等のアルカリ水溶液を好適に用いることができる。
【0204】
[3-5]第2の接合工程
第2の接合工程では、現像工程を経たベイパーチャンバー製造用部材10’を、第1の面11とは反対側の面である第2の面12において、第2のシート材22に接合する(1e)。
【0205】
第2のシート材22とベイパーチャンバー製造用部材10’との接合は、例えば、第2のシート材22またはベイパーチャンバー製造用部材10’に接着剤を付与して行ってもよいが、樹脂材料14’として前述した条件を満足するもの(特に、アルカリ可溶性樹脂および光重合性樹脂とともに、アルカリ可溶性樹脂とは異なる熱硬化性樹脂を含むもの)を用いると、ベイパーチャンバー製造用部材10’と第2のシート材22とを接触させた後に加熱することにより、前記熱硬化性樹脂が熱硬化の過程で接着性を発現し、第2のシート材22とベイパーチャンバー製造用部材10’(ウィック構造体)との接合強度を特に優れたものとすることができる。また、同様に、第1のシート材21とベイパーチャンバー製造用部材10’(ウィック構造体)との接合強度も特に優れたものとすることができる。
【0206】
特に、樹脂材料14’がアルカリ可溶性樹脂とは異なる熱硬化性樹脂を含むものである場合、樹脂材料14’に粘着性を発現させ、その後、樹脂材料14’を熱硬化させる熱処理を本工程で行うのが好ましい。
【0207】
これにより、変形防止部材10(ウィック構造体)とコンテナ20との密着性をより優れたものとすることができるとともに、変形防止部材10(ウィック構造体)の強度をより優れたものとすることができ、ベイパーチャンバー100の耐久性、信頼性をより優れたものとすることができる。
【0208】
本工程での加熱温度は、80℃以上250℃以下であるのが好ましく、90℃以上220℃以下であるのがより好ましく、100℃以上200℃以下であるのがさらに好ましい。
【0209】
これにより、ベイパーチャンバー100の構成材料の不本意な劣化等をより効果的に防止しつつ、前述したような効果がより顕著に発揮される。また、ベイパーチャンバー100の生産性をより優れたものとすることができる。
【0210】
また、本工程では、異なる条件での加熱を組み合わせて行ってもよい。具体的には、例えば、加圧状態での加熱処理(熱圧着)と、その後の加圧状態を解除した状態での加熱処理(ポストキュア)とを組み合わせて行ってもよい。
【0211】
また、本工程での加熱時間は、0.1分間以上600分間以下であるのが好ましい。
これにより、ベイパーチャンバー100の構成材料の不本意な劣化等をより効果的に防止しつつ、前述したような効果がより顕著に発揮される。また、ベイパーチャンバー100の生産性をより優れたものとすることができる。
【0212】
上記のように、加圧状態での加熱処理(熱圧着)と、その後の加圧状態を解除した状態での加熱処理(ポストキュア)とを組み合わせて行う場合、加圧状態での加熱処理(熱圧着)の処理時間は、0.1分間以上10分間以下であるのが好ましく、加圧状態を解除した状態での加熱処理(ポストキュア)での処理時間は、20分間以上480分間以下であるのが好ましい。
【0213】
[3-6]作動液供給・密封工程
作動液供給・密封工程では、第1のシート材21と第2のシート材22との間の空間に作動液30を注入するとともに、当該空間を密封する(1f)。
【0214】
作動液30の注入は、例えば、第1のシート材21と第2のシート材22との間の空間を、真空引きにより減圧した状態で好適に行うことができる。
【0215】
第1のシート材21と第2のシート材22との間の空間を減圧することで、作動液30の沸点を低下させることができ、作動液30の蒸発、凝縮のサイクルをより効率良く行うことができるため、熱輸送効果、均熱効果をさらに高めることができる。
【0216】
作動液30の注入後、作動液30の注入部が封止され、ウィック構造体(変形防止部材10および繊維基材13)、作動液30が収納された空間が、液密的、気密的に密封される。
【0217】
ウィック構造体(変形防止部材10および繊維基材13)、作動液30が収納された空間の密封は、封止部23の形成により行われる。
【0218】
封止部23の形成方法としては、例えば、メッキアップ、レーザー溶接、シーム溶接、冷間圧接、拡散接合、ロウ付け、接着等が挙げられる。
【0219】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、前述したものに限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0220】
例えば、ベイパーチャンバーの製造方法では、前述した工程に加えて、他の工程をさらに有していてもよい。
【0221】
また、本発明のベイパーチャンバーは、前述した方法で製造されたものに限定されず、いかなる方法で製造されたものであってもよい。
【0222】
例えば、前述した実施形態では、2枚の金属製のシート材(第1のシート材および第2のシート材)を用いて、コンテナを形成する場合について説明したが、コンテナは、1枚の金属製のシート材を用いて形成されたものであってもよいし、3枚以上の金属製のシート材を用いて形成されたものであってもよい。
【0223】
また、前述した実施形態では、ベイパーチャンバーが、発熱部材の熱を所定の場所へ移動させる目的で用いるものである場合について中心的に説明したが、ベイパーチャンバーは、例えば、発熱部材の局所的な高温部の熱を均熱する目的で用いるものであってもよい。
【実施例0224】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0225】
(実施例1)
[4]ベイパーチャンバーの製造
以下のようにして実施例1のベイパーチャンバーを製造した。
【0226】
[4-1]樹脂組成物の調製
[4-1-1]アルカリ可溶性樹脂(アルカリ可溶性基および二重結合を有する樹脂(光および熱の両方で硬化可能な硬化性樹脂:メタクリル変性ビスフェノールAノボラック樹脂:MPN)の合成)
【0227】
フェノールノボラック樹脂(フェノライトLF-4871、DIC社製)の固形分60%のメチルエチルケトン(MEK)溶液:500gを、2Lフラスコ中に投入し、これに触媒としてのトリブチルアミン:1.5g、および、重合禁止剤としてハイドロキノン:0.15gを添加し、100℃に加温した。
【0228】
その後、上記の混合物中にグリシジルメタクリレート:162.6gを30分間かけて滴下し、100℃で5時間攪拌して反応させることにより、不揮発分:69.9%のメタクリル変性フェノールノボラック樹脂を得た。このようにして得られたアルカリ可溶性樹脂としてのメタクリル変性フェノールノボラック樹脂は、分子内に、(メタ)アクリル基とフェノール性水酸基とを含むものである。また、このようにして得られたメタクリル変性フェノールノボラック樹脂(アルカリ可溶性樹脂)の変性率は45%であった。
【0229】
[4-1-2]樹脂ワニスの調製(樹脂組成物)
アルカリ可溶性樹脂(光および熱の両方で硬化可能な硬化性樹脂)としての上記のようにして合成したメタクリル変性フェノールノボラック樹脂(MPN):45質量部、光重合性樹脂としての室温で液状のメタクリルモノマー(新中村化学社製、NKエステル 3G):13質量部、熱硬化性樹脂としてのフェノールノボラック型エポキシ樹脂(DIC社製、エピクロンN-770):30質量部、熱硬化性樹脂としてのビスフェノールF(本州化学工業社製、Bis-F):10質量部を秤量し、さらにメチルエチルケトン(MEK)を添加し、樹脂成分濃度が71質量%となるように調整した。そして、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(N-770)が溶解するまで攪拌した。
【0230】
その後、さらに、硬化剤(感光剤)(IGM Resins B.V.社製、Irgacure651):1.7質量部、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシイミダゾール(四国化成工業社製、2PHZ-PW):0.3質量部を添加し、攪拌羽根(450rpm)にて、1時間攪拌することにより、樹脂組成物としての樹脂ワニスを得た。
【0231】
[4-2]ベイパーチャンバー製造用部材の製造
上記のようにして調製した樹脂組成物(樹脂ワニス)を用いて、以下のようにして、ベイパーチャンバー製造用部材を製造した。
【0232】
繊維基材を、上記のようにして得られた樹脂ワニス中に浸漬することにより、繊維基材を構成する繊維同士の隙間に樹脂ワニスを含侵させた。
【0233】
ここで、繊維基材としては、ガラスクロス(ユニチカ社製、#2116)95μm厚、坪量:104g/m2、軟化点:840℃の織布を用いた。
【0234】
その後、80℃で15分間、加熱・乾燥することにより、ベイパーチャンバー製造用部材を得た。
【0235】
このようにして得られたベイパーチャンバー製造用部材は、その厚さが150μmのシート状をなすものであり、
図8に示すように、その厚さ方向の中心付近に繊維基材が存在し、ベイパーチャンバー製造用部材の両面には、繊維は存在していなかった。
【0236】
[4-3]ベイパーチャンバーの製造
まず、上記のようにして得られたベイパーチャンバー製造用部材を用意し(ベイパーチャンバー製造用部材用意工程)、その一方の面である第1の面において、ベイパーチャンバー製造用部材を構成する未硬化状態の樹脂材料(樹脂組成物)の粘着性を利用して、第1のシート材としての銅製のシート材(厚さ:35μm)に接合した(第1の接合工程)。
【0237】
次に、第1のシート材に接合されたベイパーチャンバー製造用部材に対して、形成すべき流路壁に対応するパターンで開口部(光透過部)が設けられたフォトマスクを用いて、光の照射(露光)を行った(露光工程)。露光は、365nmを主波長とする水銀ランプを用い、露光量:700mJ/cm2という条件で行った。
【0238】
次に、アルカリ水溶液である3質量%の水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を現像液として用いて、現像液圧力:0.2MPa、現像時間:150秒間という条件で処理を行い、露光工程で光が照射されなかった部位の未硬化状態の樹脂材料を除去した(現像工程)。
【0239】
次に、現像工程を経たベイパーチャンバー製造用部材を、第1の面とは反対側の面である第2の面において、第2のシート材としての銅製のシート材(厚さ:35μm)に接触させ、1MPaの圧力で押圧した。この状態で、170℃×1分間の熱圧着を行い、次いで、オーブンで、180℃×90分間の熱処理(ポストキュア)を行うことにより、ベイパーチャンバー製造用部材と第2のシート材とを強固に密着させ、その後、硬化反応が完了することにより、ベイパーチャンバー製造用部材を用いて形成されたウィック構造体が、第1の面で第1のシート材とが強固に結合し、第2の面で第2のシート材と強固に接合した接合体が得られた(第2の接合工程)。すなわち、第2の接合工程では、ベイパーチャンバー製造用部材と第2のシート材とを接触させた状態で加熱することにより、まず、熱硬化性樹脂の熱硬化の過程で接着性(粘着性)が発現し、その後、さらに加熱を行うことにより、熱硬化性樹脂の硬化反応が完了した。
【0240】
その後、銅メッキにより第1のシート材と第2のシート材の周縁部を接合し第1のシート材と第2のシート材との間の空間を密封し、さらに、第1のシート材と第2のシート材との間の空間に、作動液としての純水を注入した。さらに、純水を注入する口を半田により封止した(作動液供給・密封工程)。これにより、ベイパーチャンバーが得られた。
【0241】
このようにして得られたベイパーチャンバーが備えるウィック構造体は、厚さが200μmで、
図5に示すような構造を有するものであり、その長手方向に延在し、樹脂硬化物を含む材料で構成され、作動液の流路壁として機能する部位を複数有するものであり、隣り合う流路壁の間隔(すなわち、流路部分の幅)が500μm、流路壁の幅が100μmのものであった。
【0242】
(比較例1)
繊維基材として、ガラスクロス(ユニチカ社製、#2116)の代わりに、有機不織布(デルスター社製、デルポア DP3130-48P、102μm厚、坪量:48g/m2、軟化点:110℃)を用いた以外は、前記実施例1と同様にしてベイパーチャンバーを製造した。
【0243】
[5]評価
ヒーター部の出力が可変可能でヒーター内部の温度が測定できるセラミックヒーター(坂口電熱社製、品番:ウルトラミック、ヒーター部12mm角、2.5mm厚)を用意した。セラミックヒーターを4Wおよび7Wに出力した時のヒーター内部温度はそれぞれ225℃、310℃であった。
【0244】
次に、セラミックヒーターを4W、7Wにそれぞれ出力し、実施例1および比較例1で製造したベイパーチャンバーの端部をセラミックヒーター部に載置し、セラミックヒーター内部の温度が安定した時の温度を測定した。
その結果を、表1に示す。
【0245】
【0246】
表1から明らかなように、本発明では、比較例と比べて、セラミックヒーターに適用した場合の温度低下が大きかった。これは、本発明のベイパーチャンバーが、特に優れた熱輸送能力を有することを示している。また、本発明のベイパーチャンバーは、フレキシブル性(柔軟性)に優れることが確認された。
【0247】
また、繊維基材を構成するガラス繊維の太さを、1μm以上100μm以下の範囲内で種々変更し、繊維基材の坪量を、1g/m2以上300g/m2以下の範囲内で種々変更し、繊維基材の厚さを、10μm以上1000μm以下の範囲内で種々変更し、ベイパーチャンバー製造用部材の厚さを、10μm以上2000μm以下の範囲内で種々変更し、コンテナの形成に用いるシート材の厚さを、12μm以上500μm以下の範囲内で種々変更し、ベイパーチャンバー製造用部材中における、繊維基材の含有率をXf[質量%]、樹脂材料の含有率をXr[質量%]としたときのXf/Xrの値を0.8以上8.0以下の範囲内で種々変更した以外は、前記実施例と同様にしてベイパーチャンバーを製造し、前記と同様に評価を行ったところ、前記と同様に優れた効果が得られた。
【0248】
また、繊維基材への樹脂ワニスの付与方法を変更することにより、ベイパーチャンバー製造用部材を
図7、
図9で示されるようなものとして製造し、これらのベイパーチャンバー製造用部材を用いて、
図1、
図3、
図4に示すような断面構造となるようにした以外は、前記実施例と同様にしてベイパーチャンバーを製造し、前記と同様に評価を行ったところ、前記と同様に優れた効果が得られた。
これに対し、比較例のベイパーチャンバーでは、満足のいく結果が得られなかった。