(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107222
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】防獣カバー、防獣構造及び防獣方法
(51)【国際特許分類】
F16L 57/00 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
F16L57/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023005697
(22)【出願日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2022007996
(32)【優先日】2022-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500480355
【氏名又は名称】株式会社フォーム化成
(71)【出願人】
【識別番号】522029914
【氏名又は名称】株式会社明星電気商会
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】柏木 東
(72)【発明者】
【氏名】高山 知之
(72)【発明者】
【氏名】石井 威浩
(72)【発明者】
【氏名】槻ノ木沢 保孝
(72)【発明者】
【氏名】高麗 徳行
【テーマコード(参考)】
3H024
【Fターム(参考)】
3H024AA04
3H024AB01
3H024AB06
3H024AC03
3H024AC05
(57)【要約】
【課題】 既設のケーブル等にも適用可能であり、十分な咬害特性を有する防獣カバー等を提供する。
【解決手段】 防獣カバー1は、主に、発泡体3とシート部材5等から構成される。発泡体3は、周方向の一部にスリット7を有する略筒状の部材である。発泡体3は、例えばポリエチレンやウレタン等の柔軟な発泡樹脂製であり、例えば発泡倍率として30倍程度の物を使用可能である。発泡体3の外周部には、シート部材5が配置される。シート部材5によって、発泡体3の外周部が被覆される。シート部材5は表面が平滑であり、例えばステンレス製等の金属シートが用いられる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護対象物に取り付けられる防獣カバーであって、
発泡体と、
前記発泡体の表面を被覆するシート部材と、
を具備し、
前記発泡体が、前記シート部材の外面からの圧力によって圧縮弾性変形可能であることを特徴とする防獣カバー。
【請求項2】
前記シート部材が、金属製であることを特徴とする請求項1記載の防獣カバー。
【請求項3】
前記シート部材が、ステンレス製であることを特徴とする請求項2に記載の防獣カバー。
【請求項4】
前記発泡体が、周方向の一部にスリットが形成される略筒状であることを特徴とする請求項1記載の防獣カバー。
【請求項5】
前記発泡体の外面形状が略円筒形状であることを特徴とする請求項4記載の防獣カバー。
【請求項6】
前記発泡体が、平板状であることを特徴とする請求項1記載の防獣カバー。
【請求項7】
前記シート部材が配置される側とは逆側の前記発泡体の表面に、複数の溝又は凹凸形状が形成されることを特徴とする請求項6記載の防獣カバー。
【請求項8】
前記発泡体の密度が、20kg/m3~45kg/m3であることを特徴とする請求項1記載の防獣カバー。
【請求項9】
前記シート部材の少なくとも一方の端部が前記発泡体からはみ出すように余長部を有し、前記余長部の裏面には、粘着層と、前記粘着層を保護するセパレータとが設けられることを特徴とする請求項1記載の防獣カバー。
【請求項10】
前記余長部が、少なくとも前記シート部材の互いに対向する両端部に設けられることを特徴とする請求項9記載の防獣カバー。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の防獣カバーを用いた防獣構造であって、
長尺体の外周を覆うように前記防獣カバーが固定されていることを特徴とする防獣構造。
【請求項12】
請求項9記載の防獣カバーを用いた防獣構造であって、
複数の前記防獣カバーが前記余長部によって連結され、連結された前記防獣カバーによって前記保護対象物が被覆されて固定されていることを特徴とする防獣構造。
【請求項13】
請求項10記載の防獣カバーを用いた防獣構造であって、
構造物の表面に配置された前記保護対象物を覆うように前記防獣カバーが配置され、前記余長部が前記構造物の表面に張り付けられて固定されていることを特徴とする防獣構造。
【請求項14】
請求項10記載の防獣カバーを用いた防獣構造であって、
前記保護対象物を挟み込むように一対の前記防獣カバーが配置され、それぞれの前記防獣カバー同士の互いに対向する前記余長部同士が張り合わせられて固定されていることを特徴とする防獣構造。
【請求項15】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の防獣カバーを用いた防獣方法であって、
保護対象物の外周を覆うように前記防獣カバーを固定し、
動物が前記防獣カバーに歯を押し当てた際に、前記発泡体が圧縮変形することで、前記防獣カバーが動物から受ける力を低減させるとともに、前記シート部材によって、前記発泡体を保護することで、動物が歯で前記防獣カバーの表面を削りとることを抑制することが可能であることを特徴とする防獣方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鼠等の動物による咬害を抑制することが可能な防獣カバー等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、鼠等の齧歯類の動物には、成長し続ける門歯を、硬いものを齧ることにより磨耗させるという習性がある。そのため、通信ケーブルや電力ケーブル等を敷設する場合、齧歯類による咬害が問題となる場合がある。そこで、咬害によるケーブルの損傷や、これによる漏電や火災等の事故が発生するのを未然に防ぐべく、種々の咬害対策が提案されている。
【0003】
例えば、カプサイシン等の鼠忌避剤を含有させて、防鼠特性を付与したケーブルが提案されている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0004】
また、ステンレス編組による防鼠層を有する防鼠光ファイバケーブルが提案されている(特許文献3)。
【0005】
また、ステンレステープと鼠忌避剤を含有させたシースとを組み合わせたケーブルが提案されている(特許文献4)。
【0006】
また、電気ケーブルの外周に、金属製の薄板を螺旋状に巻き付けるケーブル保護カバーが提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-271934号公報
【特許文献2】特開2001-035268号公報
【特許文献3】特開2020-008774号公報
【特許文献4】特開2017-174552号公報
【特許文献5】特開2000-228122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1、特許文献2のように、鼠忌避剤を用いると、ケーブル製造時や敷設時に作業者が鼠忌避剤に暴露するため、健康上及び安全上望ましくない他、防鼠効果の長期持続性についても課題がある。
【0009】
また、特許文献3、特許文献4のように金属テープや金属編組を使用する場合には、金属層に十分な厚みと強度がないと、鼠による咬害を十分に抑制することができない。例えば、金属層が薄いと、鼠の歯が金属テープを貫通して、内部のケーブルが咬害を受けるおそれがある。しかし、金属層部分を厚くすると、コスト増や重量増の要因となる。
【0010】
また、特許文献1~特許文献4は、特殊なケーブル構造であるため、一般的なケーブルと比較して製造コストがかかるという問題がある。また、既設のケーブルに対しては適用することができないという問題がある。
【0011】
一方、特許文献5のケーブル保護カバーは、既設のケーブルに等に対しても適用可能であるが、ケーブル等への巻き付け作業に時間を要するという問題がある。また、このケーブル保護カバーは、狭い場所での作業が容易ではない。また、前述したように、金属テープを巻き付けるのみであるため、金属層に十分な厚みと強度がないと、鼠等による咬害を十分に抑制することができないという問題がある。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、既設のケーブル等にも適用可能であり、十分な咬害特性を有する防獣カバー等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、保護対象物に取り付けられる防獣カバーであって、発泡体と、前記発泡体の表面を被覆するシート部材と、を具備し、前記発泡体が、前記シート部材の外面からの圧力によって圧縮弾性変形可能であることを特徴とする防獣カバーである。
【0014】
前記シート部材が、金属製であることが望ましく、さらに、前記シート部材が、ステンレス製であることが望ましい。
【0015】
前記発泡体が、周方向の一部にスリットが形成される略筒状であってもよく、この場合、前記発泡体の外面形状が略円筒形状であることが望ましい。
【0016】
また、前記発泡体が、平板状であってもよく、この場合、前記シート部材が配置される側とは逆側の前記発泡体の表面に、複数の溝又は凹凸形状が形成されることが望ましい。
【0017】
前記発泡体の密度が、20kg/m3~45kg/m3であることが望ましい。
【0018】
前記シート部材の少なくとも一方の端部が前記発泡体からはみ出すように余長部を有し、前記余長部の裏面には、粘着層と、前記粘着層を保護するセパレータとが設けられることが望ましい。
【0019】
前記余長部が、少なくとも前記シート部材の互いに対向する両端部に設けられてもよい。
【0020】
第1の発明によれば、例えば長尺体などの保護対象物の保護のために、あえて柔軟な発泡体と、表層に配置される平滑なシート部材とを組み合わせることで、鼠等が防獣カバーに歯を立てて削ろうとしても、発泡体の圧縮弾性変形によって噛み力を逃がすことができる。この際、シート部材が平滑であるため、歯が滑り、歯によって防獣カバーが削り取られることを抑制することができる。
【0021】
すなわち、従来のように、咬害対策としてケーブル等の表層を硬度の高い材質で被覆することでケーブル等を保護するのではないため、最外周のシート部材には、高い硬度や厚みが不要である。このため、保護構造としてコストや重量の増加を抑制し、取り扱い性が良好である。
【0022】
また、シート部材が金属製であれば、薄くても十分な耐久性と耐食性を確保することができ、特にステンレス製であればより好ましい。
【0023】
また、発泡体の外面形状が略筒形状であれば、保護対象物の外周に取り付けるのが容易である。特に、発泡体の外面形状が略円筒形状であれば、断面略円形のケーブル等への取り付けが容易であり、また、全面が曲面で構成され、大きな段差等が形成されないため、鼠等の歯の引っ掛かりがなく、より確実に咬害を抑制することができる。
【0024】
また、発泡体が、平板状であれば、保護対象物のサイズによらずに対応することができる。また、この際、シート部材が配置される側とは逆側の発泡体の表面に、複数の溝又は凹凸形状を形成することで、丸めて用いる際により丸めやすくなる。
【0025】
また、発泡体の密度が20kg/m3~45kg/m3であれば、適切な圧縮弾性力及び復元力を確保することができる。
【0026】
また、シート部材の少なくとも一方の端部に余長部を形成し、余長部の裏面に、粘着層とセパレータとが設けることで、ケーブル等への装着が容易である。また、余長部が、少なくともシート部材の互いに対向する両端部に設けられれば、防獣カバーを様々な態様で固定することができる。
【0027】
第2の発明は、第1の発明にかかる防獣カバーを用いた防獣構造であって、長尺体の外周に前記防獣カバーが固定されていることを特徴とする防獣構造である。
【0028】
第3の発明は、防獣カバーを用いた防獣構造であって、複数の前記防獣カバーが前記余長部によって連結され、連結された前記防獣カバーによって前記保護対象物が被覆されて固定されていることを特徴とする防獣構造である。
【0029】
第4の発明は、防獣カバーを用いた防獣構造であって、構造物の表面に配置された前記保護対象物を覆うように前記防獣カバーが配置され、前記余長部が前記構造物の表面に張り付けられて固定されていることを特徴とする防獣構造である。
【0030】
第5の発明は、防獣カバーを用いた防獣構造であって、前記保護対象物を挟み込むように一対の前記防獣カバーが配置され、それぞれの前記防獣カバー同士の互いに対向する前記余長部同士が張り合わせられて固定されていることを特徴とする防獣構造である。
【0031】
第6の発明は、第1~第5の発明にかかる防獣カバーを用いた防獣方法であって、保護対象物の外周を覆うように前記防獣カバーを固定し、動物が前記防獣カバーに歯を押し当てた際に、前記発泡体が圧縮変形することで、前記防獣カバーが動物から受ける力を低減させるとともに、前記シート部材によって、前記発泡体を保護することで、鼠等の齧歯類の動物が歯で前記防獣カバーの表面を削りとることを抑制することが可能であることを特徴とする防獣方法である。
【0032】
第2~第6の発明によれば、保護対象物への鼠等による咬害の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、既設のケーブル等にも適用可能であり、十分な咬害特性を有する防獣カバー等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図2】(a)は、防獣カバー1の軸方向から見た図、(b)は、防獣カバー1の端部近傍の側面図。
【
図3】(a)、(b)は、防獣構造10の施工方法の一例を示す図。
【
図5】(a)、(b)は、防獣カバー1aの使用方法を示す図。
【
図6】(a)は、防獣カバー1bを示す図、(b)、(c)は(a)のA部拡大図。
【
図7】(a)、(b)は、防獣カバー1bの使用方法を示す図。
【
図9】(a)は、防獣カバー1cを示す図、(b)、(c)は、防獣カバー1cの使用方法を示す図。
【
図10】(a)は、防獣カバー1dを示す図、(b)は、防獣カバー1eを示す図。
【
図11】(a)、(b)は、防獣カバー1c、1d、1eの使用方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明にかかる防獣カバー1の斜視図である。防獣カバー1は、保護対象物であるケーブルや配管等の長尺体の外周に取り付けられて、特に鼠などの齧歯類の動物による咬害を防止するために用いられる。
【0036】
防獣カバー1は、主に、発泡体3とシート部材5等から構成される。発泡体3は、周方向の一部にスリット7を有する略筒状の部材である。スリット7は、長手方向に対して略直線状に形成される。なお、図示した例では、発泡体3の外面形状が略円筒形状であるが、偏平形状等であってもよく、略矩形などでもよい。このように発泡体3は、略筒状であれば特に形態は限定されない。但し、発泡体3の外面形状は、全周にわたって角部や大きな段差等が形成されない曲面で構成されることが望ましい。
【0037】
発泡体3は、例えばポリエチレンやポリウレタン等の柔軟な発泡樹脂製であり、例えば発泡倍率として30倍程度の樹脂を使用可能である。なお、発泡体3の密度は、20kg/m3~45kg/m3(LDPEの場合、発泡倍率20倍~45倍)であることが望ましい。発泡体3の密度が大きすぎると、発泡体3の柔軟性が低下する。このため、発泡体3の密度は、36kg/m3以下(LDPEの場合、発泡倍率25倍以上)がより望ましく、30kg/m3以下(LDPEの場合、発泡倍率30倍以上)がさらに望ましい。なお、発泡体3の密度が小さすぎると、発泡体3の圧縮変形後の復元力が低下する。
【0038】
発泡体3の外表面には、シート部材5が配置される。シート部材5によって、発泡体3の外周部が被覆される。シート部材5は表面が平滑であり、例えばステンレス製等の金属製のシートが用いられる。なお、保護対象物が電力ケーブルの場合には、シート部材5としては不導体が適用されることが望ましい。ここで、表面が平滑とは、シート部材5の表面に、角形状や、発泡体3の表面のような引っ掛かりとなる凹凸加工形状がないことをいう。例えば、後述するように、シート部材5が重ね合わせられる場合や、テープ等で固定される場合には、その厚み分の段差が形成されるが、この程度の段差であれば許容される。
【0039】
なお、シート部材5は表面の金属層と裏面の樹脂層を有するラミネートシートであってもよい。シート部材5は、発泡体3の表面に対して、例えば接着剤によって一体化される。なお、接着剤としては、温度環境の影響を受けにくいアクリル系の接着剤が望ましい。
【0040】
図2(a)は、防獣カバー1の軸方向から見た端面図である。前述したように、発泡体3の外周にシート部材5が配置されて、シート部材5によって発泡体3の外周面が被覆される。この際、発泡体3の周方向長さが、シート部材5の周方向長さよりもわずかに長い事が好ましい。これは、スリット7側では、シート部材5に対して発泡体3の端部がわずかにはみ出す事で、シート部材5によって他の部材等を傷つけることを抑制すると共に、取扱時の安全性を向上することができる。
【0041】
図2(b)は、防獣カバー1の端部近傍の側面図である。発泡体3の軸方向長さは、シート部材5の軸方向長さよりもわずかに長い。このため、防獣カバー1の両端部において、シート部材5に対して発泡体3の端部がわずかにはみ出す。このように、シート部材5に対して、発泡体3のサイズを全体的わずかに大きくしておくことで、シート部材5の端面が防獣カバー1の縁部等に露出することを抑制することができる。このため、シート部材5によって他の部材等を傷つけることを抑制すると共に、取扱時の安全性を向上することができる。
【0042】
なお、発泡体3の厚みは、例えば3mm以上であることが望ましいが、4mm以上であればより望ましく、6mm以上であればさらに望ましい。施工現場によっては10mm以上になっても良い。薄すぎると、後述するクッション性が確保できず、厚すぎると外径が大きくなりすぎる。また、シート部材5の厚みは、0.03mm以上であれば十分であるが、0.04mm以上が好ましく、更に0.05mm以上がより望ましく、1.0mm以上としてもよい。なお、シート部材5の厚みを厚くしすぎると、コスト増及び重量増の要因となる。
【0043】
また、特に鼠を対象とする場合、防獣カバー1の外径(取付け時の外径)は、20mm以上であることが望ましく、更に望ましくは30mm、更には38mm以上とすることがより望ましい。外径が上記以上であれば、防獣カバー1の曲率が小さくなり、鼠の歯をより効率よく滑らせることができる。
【0044】
次に、防獣カバー1を用いた防獣構造について説明する。本実施形態の防獣カバー1は、既設のケーブル等に対して装着可能である。
図3(a)は、既設のケーブル9を示す概略図である。防獣カバー1は、例えば鼠等による咬害のおそれの高い部位に取り付けられる。
図3(b)に示すように、ケーブル9の側方から、スリットにケーブル9に差し込み、テープ等の固定部材11によって防獣カバー1をケーブル9へ固定する。なお、さらに、スリット7に沿ってテープ等の固定部材12を張り付けてもよい。このようにすることで、防獣カバー1の側面に発泡体3が露出することを抑制することができる。以上により、長尺体等の保護対象物の外周を覆うように防獣カバー1が固定された防獣構造10を形成することができる。
【0045】
ここで、従来の防獣ケーブル等は、鼠等の歯によって削られないように、金属層などの硬い保護層を形成することで対応してきた。しかし、発明者らは、鼠等の齧歯類が、歯を対象物に押し当てて削り取るようにして齧るという習性に着目し、防獣カバーをあえて逆に柔軟にすることで、歯の先端からの力を分散させ、咬害を防止することが可能であることを知見するに至ったものである。
【0046】
前述したように、発泡体3は柔軟な樹脂発泡体である。このため、発泡体3は、シート部材5の外面からの圧力によって圧縮弾性変形可能である。また、外力を除荷すると、発泡体3は復元力によって元の形態に戻ろうとする。なお、シート部材5が金属シートの場合には、シート部材5に塑性変形が生じるため、圧縮変形後、外力を除荷しても完全に元の形態には戻らないものの、シート部材5の硬度がそれほど高くなければ、多少の復元が可能である。
【0047】
本実施形態にかかる防獣カバー1を用いた防獣方法は、例えば鼠等の動物が防獣カバー1を削り取ろうとして、歯を防獣カバー1に押し当てると、発泡体3が圧縮変形することで、防獣カバーが動物から受ける局所的な力を低減させることができる。すなわち、防獣カバー1が歯の先端から受ける力を分散させて、力を逃がすことで、防獣カバー1に局所的な大きな力が付与されることを抑制することができる。
【0048】
また、シート部材5は表面が平滑であり、引っ掛かりがないため歯を滑らせることで、歯がシート部材5を貫通し、直接発泡体3にあたることを抑制することができる。このため、シート部材5によって、発泡体3を保護することができる。このように、動物が歯で防獣カバー1の表面を削りとることを抑制することができる。
【0049】
なお、前述したように、鼠等が防獣カバー1に噛みつくと、シート部材5が変形するが、発泡体3の復元力によって、シート部材5の多少の凹凸は復元される。また、前述したように、シート部材5への局所的な力は分散させるため、ディンプル状の凹みは生じにくい。
【0050】
一方、このような凹凸は、鼠等による繰り返しの噛みつきによりシート部材5の塑性変形によって徐々に大きくなるおそれがある。しかし、鼠等の齧歯類は、常に歯を削る必要があるため、歯が削れない(削りにくい)場所において、あえて何度も繰り返し歯を削ろうと試みはせず、別の場所に移動して歯を削る場所を探す習性がある。このため、鼠等が防獣カバー1に噛みついて歯を削ろうとしても、本実施形態のように、その初期段階において咬害に効果的に対処可能であれば、その後の咬害の発生及び拡大を抑制することができる。
【0051】
以上、本実施の形態によれば、ケーブル等の外周部の金属層等を過剰に厚くすることなく、また、鼠忌避剤等を使用することなく、効率よく動物による咬害を抑制することができる。すなわち、従来のように、金属層などの硬質な材質によって削られる量を減らそうとする対応や、削り取られても内部のケーブル等へ到達しにくいようにする対応と異なり、鼠等が歯を削りにくい構造とすることで、効率よく咬害を抑制することができる。
【0052】
次に、第2の実施形態について説明する。
図4は、第2の実施形態にかかる防獣カバー1aを示す斜視図である。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様の機能等を奏する構成については、
図1~
図3と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0053】
防獣カバー1aは、防獣カバー1と略同様の構成であるが、シート部材5の端部の構成が異なる。防獣カバー1aは、スリット7において、シート部材5の一方の端部が発泡体3からはみ出すように余長部13を有する。すなわち、前述した防獣カバー1では、シート部材5の端部が、発泡体3からはみ出さないように形成されたが、防獣カバー1aでは、余長部13のみが、発泡体3からはみ出すように形成される。
【0054】
余長部13の裏面には、粘着層(図示省略)と、粘着層を保護するセパレータ15とが設けられる。セパレータ15は、例えばポリエチレンフィルムである。なお、セパレータ15のサイズを余長部13よりも大きくすることで、前述したようにシート部材5の縁部で他の部材等が損傷することを抑制することができる。
【0055】
図5(a)は、防獣カバー1aの端面図である。前述したように、運搬時や保管時にはセパレータ15によって余長部13の粘着層が保護される。使用時には、
図5(b)に示すように、セパレータ15を剥離して、粘着層を露出させ、長尺体(図ではケーブル9)の外周に取り付けた状態で、余長部13をスリット7の他端側のシート部材5の外周面に張り付けることで、防獣カバー1aを長尺体に固定することができる。
【0056】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、余長部13を設けることで、他のテープなどの固定部材を使用することなく防獣カバー1aを長尺体に固定することができる。また、防獣カバー1aを長尺体に固定した状態で、外表面には実質的にシート部材5の厚み程度の段差しか形成されないため、鼠等が齧る際の歯の引っ掛かりになりにくい。
【0057】
なお、長尺体としては、ケーブルであっても配管であってもよい。この際、ケーブル9としては、光ファイバケーブルや金属線を用いた電線であってもよい。さらに、光ファイバと金属線の両者を含む複合ケーブルであってもよい。
【0058】
次に、第3の実施形態について説明する。
図6(a)は、防獣カバー1bを示す斜視図である。防獣カバー1bは、防獣カバー1aと同様の構成であるが、発泡体3が略筒状に成形されておらず、平板状である点で異なる。
【0059】
図6(b)は、
図6(a)のA部拡大図である。発泡体3の表面(シート部材5が配置される側とは逆側の表面)には、複数の溝4aが形成される。溝4aは、例えば余長部13が形成される辺に対して略平行に複数形成される。このようにすることで、この溝4aに沿って変形が容易となる。例えば、余長部13が形成される辺と、これと対向する辺(
図6(a)の左右方向)の端部を近づけていく方向に変形させる(例えば丸める)ことが容易である。
【0060】
なお、
図6(c)に示すように、発泡体3の表面(シート部材5が配置される側とは逆側の表面)に形成される溝4aに代えて、複数の凹凸形状を形成してもよい。発泡体3に形成される凹凸4bは、凸形状部と凹形状部とが規則的に格子状又は千鳥状に配置される。このように複数の凹凸4bを形成することで、溝4aを形成した場合と同様に発泡体3を変形させることが容易となる。この際、溝4aのような変形容易となる方向性を有さず、より変形の自由度を高めることができる。
【0061】
図7(a)は、防獣カバー1bの使用状態を示す図である。防獣カバー1bは、防獣カバー1aと同様に使用することができる。すなわち、ケーブル9等の保護対象物の外周に防獣カバー1bを巻き付けて、対向する端部同士を突き合わせた状態で、一端に設けられた余長部13を他端の縁部の外面に張り付けることで防獣カバー1bを固定することができる。この際、前述したように、発泡体3の内面側の表面に、溝4a又は凹凸4bが形成されているため、容易に発泡体3を丸めることが可能である。
【0062】
また、防獣カバー1bは、防獣カバー1aと異なり、略筒状に成形されていないため、より自由に変形させて使用することができる。例えば、
図7(b)に示すように、保護対象物であるケーブル9が小径である場合には、発泡体3の端部同士を突き合わせて丸めるのではなく、防獣カバー1bの端部の一部が互いに重なり合うようにして巻き付けて使用することもできる。
【0063】
なお、発泡体3が重なっている部位は、わずかに厚くなるため、余長部13側の発泡体3の端部近傍には、わずかな厚みの変化部が形成されるが、前述したように、発泡体3は柔軟であり、シート部材5は発泡体3と比較して剛性があるため、この部位における外面には段差はほとんど形成されずに、なだらかとなる。このように、防獣カバー1bは、保護対象物が小さい場合にも容易に適用可能である。
【0064】
図8は、防獣カバー1bの他の使用方法を示す図である。
図8に示す例では、複数の防獣カバー1bが余長部13によって連結される。図示した例では、左側の防獣カバー1bの余長部13は、右側の防獣カバー1bの外面に張り付けられる。このように、複数の防獣カバー1bについて、余長部13の形成方向を同一方向に向けて配置し、隣り合う防獣カバー1b同士を一方の余長部13で接合することで、より大きな防獣カバーを得ることができる。このため、保護対象物が大きい場合にも、連結された防獣カバー1bによって保護対象物の全周を被覆して固定することが可能である。
【0065】
第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、保護対象物のサイズに応じて、適切な使用方法を選択することで、サイズに応じて適切な形態で保護対象物を保護することが可能である。
【0066】
次に、第4の実施形態について説明する。
図9(a)は、防獣カバー1cを示す図である。なお、以下の説明においては、セパレータの図示を省略する。防獣カバー1cは、防獣カバー1bと同様の構成であるが、発泡体3の両側に余長部13が形成される点で異なる。すなわち、防獣カバー1cの余長部13は、少なくともシート部材5の互いに対向する両端部に設けられる。
【0067】
図9(b)は、防獣カバー1cの使用状態を示す図である。例えば、保護対象物が構造物17の表面(壁面や天井面、床面等)に沿って配置される場合には、保護対象物の外周の全周に巻き付けて使用するのではなく、構造物17に対して防獣カバー1cを固定してもよい。図示した例では、構造物17の表面に配置された保護対象物であるケーブル9を覆うように防獣カバー1cが配置され、両方の余長部13が構造物17の表面に張り付けられて固定される。
【0068】
また、
図9(c)に示すように、複数の防獣カバー1cを用いて保護対象物を覆ってもよい。図示した例では、保護対象物を挟み込むように一対の防獣カバー1cが配置され、それぞれの防獣カバー1c同士の互いに対向する余長部13同士が張り合わせられて固定される。
【0069】
第4の実施形態によれば、第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、両側にそれぞれ余長部13を設けることで、様々な使用方法で保護対象物を保護することが可能となる。
【0070】
なお、
図10(a)に示す防獣カバー1dのように、余長部13を対向する2辺に設けるのではなく、3辺に設けてもよい。また、
図10(b)に示す防獣カバー1eのように、余長部13を全ての辺に4か所設けてもよい。例えば、保護対象物が長尺体ではないような場合(例えばボックス状等)には、防獣カバー1d、1eを用いて、構造体への固定や(
図9(b))、互いに対向するように連結して(
図9(c))、保護対象物を3辺又は4辺で封止するように覆うことが可能である。
【0071】
また、
図11(a)に示すように、複数の防獣カバーを連結することで、より長さの長い防獣カバー1cを形成することもできる。図示した例では、一端に防獣カバー1cを配置し、中間から他端までを防獣カバー1dを配置して連結することで、対向する辺に余長部13を有する長い防獣カバーとすることができる。
【0072】
また、
図11(b)に示すように、一端から中間を防獣カバー1dとし、他端を防獣カバー1eとすることで、全ての辺に余長部13を有する大型の防獣カバーとすることもできる。
【0073】
このように、複数の形態の防獣カバーを組み合わせて連結することで、少ない種類の防獣カバーで、あらゆる形態・サイズの防獣カバーを現場にて得ることが可能となる。また、本実施形態の防獣カバー1、1a~1eは、ドブ鼠などの大型のラットに限らず、より小型のクマ鼠はもちろん、リスなどの他の齧歯類の動物による咬害に対しても効果的である。
【実施例0074】
厚さ6mmのポリエチレン発泡体の外周に厚さ0.04mmのステンレス箔を張り付けて、
図4に示すような断面形状の防獣カバー1aを制作して、耐咬害性能の評価を行った。なお、防獣カバーの内径は26mmであり、外径は38mmとした。得られた防獣カバーをケーブルサンプルの外周に取り付けて固定した。
【0075】
図12は、咬害試験方法を示す概略図である。ケージ20の内部に鼠21と箱23を入れた。箱23の内部には、餌25を入れ、箱23の入口27に、鼠21が通り抜けられないよう、防獣カバー1aが固定された1本のケーブルサンプル29を横向きに固定した。鼠21は、ケーブルサンプル29に咬害を加えてケーブルを折らないと餌25を得る事ができない。
【0076】
試験は3日間行い、その間、鼠21は水のみが与えられ、絶食状態である事から、ケーブルサンプル29に積極的に咬害を加える状況であり、厳しい条件での試験と言える。
【0077】
この結果、防獣カバー1a(シート部材)の表面に、多少の凹みが確認されたが、貫通穴は確認されなかった。したがって、内部の発泡体及びその内部のケーブルサンプルは損傷を受けなかった。以上により、本実施形態の防獣カバーは、咬害対策に有効であることが分かった。
【0078】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。