(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010723
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】金属を圧延する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
B21B 1/22 20060101AFI20230113BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20230113BHJP
B21B 27/00 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B21B1/22 L
B21B1/22 C
B21B3/00 J
B21B27/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022172115
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2020182074の分割
【原出願日】2015-05-11
(31)【優先権主張番号】61/991,973
(32)【優先日】2014-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520119242
【氏名又は名称】アーコニック テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】ARCONIC TECHNOLOGIES LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スチュワート,パトリシア
(72)【発明者】
【氏名】ホイットル,ネビル,シー.
(72)【発明者】
【氏名】マッダラ,ダーマ
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ショーン
(72)【発明者】
【氏名】ケイスン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ワイス,ジュリー
(72)【発明者】
【氏名】リ,ミン
(72)【発明者】
【氏名】キルマー,レイモンド,ジェイ.
(57)【要約】
【解決手段】
テクスチャロールを使用して、高温で降伏強度が低下したシートを圧延する装置及び方法である。テクスチャ圧延は、圧延の様々な段階で欠陥を修復するために用いられ、その後の圧延段階を円滑にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の状態で提供される金属シートを圧延して第2の状態を達成するための方法であって、
金属シートが周囲温度での金属シートの降伏強度より低い降伏強度を示す温度にあるときに、前記金属シートをテクスチャロールで圧延することを含む、方法。
【請求項2】
金属はアルミニウムであり、金属シートがテクスチャロールによって圧延される温度は250~970°Fである、請求項1の方法。
【請求項3】
テクスチャロールは、1マイクロメートル~50マイクロメートルの表面粗さRaを有する、請求項2の方法。
【請求項4】
圧延ステップにおいて、金属シートの厚さは0%~30%減少する、請求項3の方法。
【請求項5】
圧延ステップにおいて、テクスチャは、金属シートの表面の60%~100%に転写される、請求項4の方法。
【請求項6】
圧延ステップにおいて、金属シートの厚さは0%~70%減少する、請求項3の方法。
【請求項7】
テクスチャロールで圧延するステップは、第1圧延ステップであり、前記第1圧延ステップに続いて金属シートに対して行われる第2圧延ステップをさらに含む、請求項2の方法。
【請求項8】
第2圧延ステップは、第2テクスチャ圧延ステップである、請求項7の方法。
【請求項9】
第1圧延ステップは、第2圧延ステップで使用されるテクスチャロールよりも粗いテクスチャを有するテクスチャロールを用いて行われる、請求項8の方法。
【請求項10】
第1圧延ステップ及び第2圧延ステップは、金属シートの結晶サイズを減少させる、請求項9の方法。
【請求項11】
第2圧延ステップは冷間圧下圧延によって行われる、請求項7の方法。
【請求項12】
第2圧延ステップは熱間圧下圧延によって行われる,請求項7の方法。
【請求項13】
第1圧延ステップは、金属シート中に潤滑剤を収容することができる表面特徴を形成する、請求項7の方法。
【請求項14】
複数の圧延ステップをさらに含み、テクスチャロールで圧延する第1圧延ステップは、前記第1圧延ステップがテクスチャロールでないロールで行われる場合を除いて、同じ圧延条件を用いて金属シートの最終的な目標状態を達成するために必要とされる圧延ステップの回数を低減する、請求項7の方法。
【請求項15】
第1圧延ステップは、第2圧延ステップの圧延を円滑にする、請求項7の方法。
【請求項16】
第1圧延ステップは、金属シートに存在する欠陥であって、第2圧延ステップによって修復されない欠陥を修復する、請求項7の方法。
【請求項17】
金属シートが低い降伏強度を示す温度での圧延ステップは、テクスチャロールの摩耗は、圧延が前記温度より低い温度で行われた場合に生じるテクスチャロールの摩耗より少ない、請求項2の方法。
【請求項18】
テクスチャロールの摩耗の減少は、テクスチャロールの寿命の延びに対応する、請求項17の方法。
【請求項19】
第1圧延ステップは、テクスチャロールでないロールによる同じ圧延プロセスと比べて、第2圧延ステップでの金属シートの転写を減少させる、請求項7の方法。
【請求項20】
金属シートが低い降伏強度を示すときの圧延ステップは、金属シートに存在する表面欠陥を消滅させる、請求項2の方法。
【請求項21】
金属シートが低い降伏強度を示すときの圧延ステップは、金属シートに存在する表面下の欠陥を消滅させる、請求項2の方法。
【請求項22】
金属シートが低い降伏強度を示すときの圧延ステップは、金属シート中の金属を変形させることによって再分配する、請求項2の方法。
【請求項23】
金属シートが低い降伏強度を示すときの圧延ステップは、金属シートがコイルに巻かれる前の最終圧延ステップとして行われる、請求項2の方法。
【請求項24】
前記圧延ステップによって取り除かれる表面欠陥は、10μm~1mmの範囲である、請求項20の方法。
【請求項25】
前記圧延ステップは、ワンススルー式潤滑、蒸発ロール冷却、ロール表面コーティング又は高圧水ブラスティングの少なくとも1つを伴う、請求項23の方法。
【請求項26】
金属シートの温度は、処理前の状態から持続して金属シートに存在する残留熱に起因する、請求項2の方法。
【請求項27】
金属シートの温度は、熱源によって金属シートに付与される熱に起因する、請求項2の方法。
【請求項28】
テクスチャロールのテクスチャは、EDT、ボールピーニング、ショットピーニング、研削又はクロスハッチ研削のうちの少なくとも1つによってテクスチャロールに付与される、請求項2の方法。
【請求項29】
テクスチャロールのテクスチャは認識可能なパターンを有する、請求項2の方法。
【請求項30】
テクスチャロールのテクスチャは認識可能なパターンを有しない、請求項2の方法。
【請求項31】
圧延ステップの後、金属シートを自動車用パネルに成形する成形ステップをさらに含む、請求項2の方法。
【請求項32】
自動車用パネルは閉鎖パネルである、請求項31の方法。
【請求項33】
成形ステップは複数の閉鎖パネルを作製し、複数の閉鎖パネルを接合するステップをさらに含む、請求項32の方法。
【請求項34】
自動車用パネルをホワイトボディに組み込むことをさらに含む、請求項31の方法。
【請求項35】
別の態様において、金属シートは、Micromill(登録商標)によって第1の状態で供給される、請求項1の方法。
【請求項36】
テクスチャロールで圧延するステップは、人間の目で認知可能なシートの表面欠陥を目立たなくする、請求項2の方法。
【請求項37】
欠陥は10μm~200μmのスケールである、請求項36の方法。
【請求項38】
テクスチャロールのテクスチャは600μin~1200μinの範囲であり、圧下率は5%~25%の範囲である、請求項37の方法。
【請求項39】
欠陥は人間の目では全く見えない、請求項38の方法。
【請求項40】
欠陥はスクラッチ又はスライバーの少なくとも1つである、請求項36の方法。
【請求項41】
欠陥は認識可能なパターンを形成する、請求項36の方法。
【請求項42】
パターンは反復パターンである、請求項41の方法。
【請求項43】
欠陥は、山頂から谷底までの平均距離を減少させることによって目立たなくされる、請求項36の方法。
【請求項44】
欠陥は、欠陥の領域の粗さを、欠陥近傍のバックグラウンド表面の粗さRaを近づけることによって目立たなくされる、請求項36の方法。
【請求項45】
テクスチャロールで圧延した後のシートは、0.1~5フィート離れた人間の視力では均一な等方性テクスチャとして認識される、請求項39の方法。
【請求項46】
金属を圧延して金属シートを製造するための圧延ミルであって、
金属シートが周囲温度での金属シートの降伏強度より低い降伏強度を示す温度にある位置に配置されたテクスチャロールを具える、圧延ミル。
【請求項47】
テクスチャロールの前に金属を加熱する加熱装置をさらに具える、請求項46の圧延ミル。
【請求項48】
鋳造機をさらに含み、前記鋳造機から出力された金属鋳造物は圧延ミルによって圧延される、請求項6の圧延ミル。
【請求項49】
鋳造機はMicromillである、請求項48の圧延ミル。
【請求項50】
金属シートが低い降伏強度を示す温度は約250~970°Fである、請求項46の圧延ミル。
【請求項51】
テクスチャロールは、表面粗さRaが1マイクロメートル~50マイクロメートルの範囲である、請求項46の圧延ミル。
【請求項52】
テクスチャロールでの圧下は0%~70%の範囲である、請求項51の圧延ミル。
【請求項53】
テクスチャロールの後に追加の圧延ステーションをさらに含む、請求項46の圧延ミル。
【請求項54】
追加の圧延ステーションはテクスチャ圧延ステーションを含む、請求項53の圧延ミル。
【請求項55】
追加のテクスチャ圧延ステーションは、テクスチャロールよりも微細な表面テクスチャを有する、請求項54の圧延ミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本願は、2014年5月12日に出願された米国仮特許出願第61/991973号「アルミニウムを圧延する装置及び方法」の利益を主張し、前記出願は、引用を以てその全体が本明細書に組み込まれる。
<分野>
本発明は、シート材料の製造に関し、より具体的には、アルミニウム及びアルミニウム合金等の金属をシートに圧延し、所望の表面及び表面下の特性を有するシート材料を製造するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
<背景>
アルミニウムを圧延し、得られた圧延シートに所定の表面テクスチャを付与する種々の方法が知られている。表面テクスチャは、ロールによってシート表面に付与されることができ、前記ロールの表面には、放電加工(EDT)、ロール研削、クロスハッチ研削、ボール又はショットピーニングなどのプロセスによりテクスチャが施されている。当該技術分野における「テクスチャロール(texture roll)」は、典型的には、表面の山部と谷部がランダム又は反復するパターンであって、等方性又は方向性のパターンを有するロールとして定義され、審美的目的又は機能的目的のために平均的な高さ及び間隔を有する。テクスチャ加工されたロール(textured roll)のテクスチャは、アルミニウム、スチール及び他の金属表面に対して、通常は冷間圧延工程後に低圧下量(3~10%)の範囲で付与される。EDTテクスチャを有する自動車用シートの場合、テクスチャは、通常、スキンパス(テンパー)ミルの最後のパスとして形成される。テクスチャをスキンパス又は冷間ミルでの冷間圧延後に施すことは、製品の冷間加工特性、ロールのサイズ及び圧延の低圧下量のために、ロール表面テクスチャのシートへの転写がしばしば制限される。この場合、転写される表面(incoming surface)がロール表面のテクスチャによって完全に除去されない表面又は覆われない表面になる。これは、スクラッチや上流工程からの金属スライバー等の特徴が存在するときは特に好ましくない。このスライバーという用語は、「母材金属の表面に圧延され、一端部のみが付着した薄く細長い断片」として定義される[McGraw-Hill Dictionary Of Scientific And Technical Terms、第3版、p.1491]。スライバーはまた、「材料の一部であるが一部分だけが付着したアルミニウムの薄い断片」と定義されることもできる[Visual Quantity Attributes of Aluminum Sheet and Plate, Al Assoc., 1994]。冷間圧延においてEDTロールによる圧下(reduction)が大きいと、残屑(debris)の生成が多くなり、最終製品として又はさらなる加工を受ける中間製品として製造されるシートの清浄度を低下させることになる。
【0003】
また、冷間圧延後のスキンパスは、工程にさらなるステップを追加するもので、製品のコストアップとなる。それゆえ、アルミニウムシートに所望の表面テクスチャを付与するための方法及び装置について、それらの改良及び/又は代替が依然として望まれている。
【発明の概要】
【0004】
<発明の要旨>
開示される主題は、第1の状態(state)で提供される金属シートを圧延(rolling)して第2の状態を達成する方法に関するもので、金属シートが周囲温度での金属シートの降伏強度より低い降伏強度を示す温度にあるとき、前記金属シートをテクスチャロールで圧延することを含む。
【0005】
本開示の別の態様において、金属はアルミニウムであり、金属シートがテクスチャロールによって圧延される温度は華氏250~970度である。
【0006】
別の態様において、テクスチャロールは、1マイクロメートル~50マイクロメートルの範囲の表面粗さを有する。
【0007】
別の態様において、圧延ステップにおける金属シートの厚さ減少は、0%~30%の範囲である。
【0008】
別の態様において、厚さの減少は0%~70%の範囲である。
【0009】
別の態様において、圧延ステップにおけるテクスチャの転写は、金属シートの表面の60%~100%である。
【0010】
別の態様において、テクスチャロールで圧延するステップは、第1圧延ステップであり、前記第1圧延ステップに続いて金属シートに対して行われる第2圧延ステップをさらに含む。
【0011】
別の態様において、第2ステップは、第2テクスチャ圧延ステップである。
【0012】
別の態様において、第1圧延ステップは、第2圧延ステップで使用されるテクスチャロールよりも粗いテクスチャを有するテクスチャロールを用いて行われる。
【0013】
別の態様において、第1圧延ステップ及び第2圧延ステップは、金属シートの結晶サイズを減少させる。
【0014】
別の態様において、第2圧延ステップは冷間圧下圧延によって行われる。
【0015】
別の態様において、第2圧延ステップは熱間圧下圧延によって行われる。
【0016】
別の態様において、第1圧延ステップは、金属シート中に潤滑剤を収容することができる表面形状を金属シートに形成する。
【0017】
別の態様において、複数の圧延ステップをさらに含み、テクスチャロールで圧延する第1ステップでは、金属シートの最終的な目標状態を達成するために必要とされる圧延ステップの数を削減する。
【0018】
別の態様において、圧延の第1ステップは圧延の第2ステップを円滑にする。
【0019】
別の態様において、圧延の第1ステップは、金属シートに存在する欠陥であって、圧延の第2ステップによっては修復されない欠陥を修復する。
【0020】
別の態様において、金属シートが低い降伏強度を示す温度での圧延ステップで生じるテクスチャロールの摩耗は、圧延がより低い温度で行われた場合に生じるテクスチャロールの摩耗よりも少ない。
【0021】
別の態様において、テクスチャロールの摩耗の減少は、テクスチャロールの寿命の延びに対応する。
【0022】
別の態様において、圧延の第1ステップは、圧延の第2ステップ中の金属シートの転写(transfer)を減少させる。
【0023】
別の態様において、金属シートが低い降伏強度を示すときの圧延ステップは、金属シートに存在する表面欠陥を取り除く。
【0024】
別の態様において、金属シートが低い降伏強度を示すときの圧延ステップは、金属シートに存在する表面下の欠陥を低減する。
【0025】
別の態様において、金属シートが低い降伏強度を示すときの圧延ステップは、金属シートの中の金属を変形することによって再分配する。
【0026】
別の態様において、金属シートが低い降伏強度を示すときの圧延ステップは、金属シートがコイルに巻かれる前の最終圧延ステップとして行われる。
【0027】
別の態様において、圧延ステップによって取り除かれる表面欠陥は、10μm~1mmの範囲である。
【0028】
別の態様において、圧延ステップは、ワンススルー式(once-through)潤滑、蒸発ロール冷却、ロール表面コーティング又は高圧水ブラスティングの少なくとも1つを伴う。
【0029】
別の態様において、金属シートの温度は、処理前の状態から持続して金属シートに存在する残留熱による温度である。
【0030】
別の態様において、金属シートの温度は、熱源によって金属シートに付与される熱による温度である。
【0031】
別の態様において、テクスチャロールのテクスチャは、EDT、ボールピーニング、ショットピーニング、研削又はクロスハッチ研削のうちの少なくとも1つによってテクスチャロールに付与される。
【0032】
別の態様において、テクスチャロールのテクスチャは認識可能な(discernable)パターンを有する。
【0033】
別の態様において、テクスチャロールのテクスチャは認識可能なパターンを有しない。
【0034】
別の態様において、圧延ステップの後に金属シートを自動車用パネルに成形するステップをさらに含む。
【0035】
別の態様において、自動車用パネルは閉鎖パネル(closure panel)である。
【0036】
別の態様において、成形するステップは、複数の閉鎖パネルを作製し、複数の閉鎖パネルを接合するステップをさらに含む。
【0037】
別の態様において、自動車用パネルをホワイトボディ(body-in-white)に組み込むことをさらに含む。
【0038】
別の態様において、シートは、Micromill(登録商標)によって第1の状態で供給される。
【0039】
別の態様において、テクスチャロールで圧延するステップは、人間の目で認識可能なシートの表面欠陥を目立たなくする。
【0040】
別の態様において、欠陥は10μm~200μmのスケールである。
【0041】
別の態様において、テクスチャロールのテクスチャは600μin~1200μinの範囲であり、圧下率は5%~25%の範囲である。
【0042】
別の態様において、欠陥は人間の目では全く見えない。
【0043】
別の態様において、欠陥はスクラッチ又はスライバーの少なくとも1つである。
【0044】
別の態様において、欠陥は認識可能なパターンを形成する。
【0045】
別の態様において、パターンは反復パターンである。
【0046】
別の態様において、欠陥は、山頂(peak)から谷底(valley)の平均距離を減少させることによって目立たなくされる。
【0047】
別の態様において、欠陥は、欠陥の領域を、欠陥近傍のバックグラウンド表面の粗さRaに近づけることによって目立たなくされる。
【0048】
別の態様において、テクスチャロールで圧延した後のシートは、0.1~5フィート離れた人間の視力では均一な等方性テクスチャとして認識される。
【0049】
別の態様において、金属を圧延して金属シートを製造するための圧延ミル(rolling mill)は、テクスチャロールを有し、前記テクスチャロールは、金属シートの温度が周囲温度での降伏強度よりも低い降伏強度を示す温度にある位置に配置される。
【0050】
別の態様において、圧延ミルは、テクスチャロールの前に金属を加熱する加熱装置を有する。
【0051】
別の態様において、圧延ミルは鋳造機を有し、鋳造機(casting mill)から出される金属鋳造物は圧延ミルによって圧延される。
【0052】
別の態様において、鋳造機はMicromillである。
【0053】
別の態様において、金属シートが低い降伏強度を示す温度は約250~970°Fの範囲である。
【0054】
別の態様において、テクスチャロールは、表面粗さRaが1マイクロメートル~50マイクロメートルの範囲である。
【0055】
別の態様において、テクスチャロールでの圧下は0%~70%の範囲である。
【0056】
別の態様において、圧延ミルは、テクスチャロールの後に追加の圧延ステーションを有する。
【0057】
別の態様において、追加の圧延ステーションはテクスチャ圧延ステーションを含む。
【0058】
別の態様において、追加のテクスチャ圧延ステーションは、テクスチャロールよりも微細な表面テクスチャを有する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
本開示をより完全に理解するために、例示的な実施形態に関する詳細な説明について、併せて考慮される添付の図面は次の通りである。
【0060】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に基づいてシート材料を製造するための装置及び方法の概略図である。
【0061】
【
図2】
図2は、シートに転写された粗さに対するロールの粗さを示すグラフであって、200、400及び600°Fにおいて3%圧下及び9%圧下したときの百分率として表したものである。
【0062】
【
図3A】
図3Aは、本開示の一実施形態に基づいてシート材料を製造するための装置及び方法の概略図である。
【0063】
【
図3B】
図3Bは、本開示の一実施形態に基づいてシート材料を製造するための装置及び方法の斜視図である。
【0064】
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に基づいてシート材料を製造するための装置及び方法の概略図である。
【0065】
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態に基づいてシート材料を製造するための装置及び方法の概略図である。
【0066】
【
図6】
図6は、本開示の一実施形態に基づいてシート材料を製造するための装置及び方法の概略図である。
【0067】
【
図7】
図7は、本開示の一実施形態に基づいてシート材料を製造するための装置及び方法の概略図である。
【0068】
【
図8】
図8は、シート中に異なる深さ及び向きを有する表面スクラッチのパターンの概略図である。
【0069】
【
図9A】
図9Aは、表面の第1スクラッチパターンの光学像である。
【
図9B】
図9Bは、表面の第1スクラッチパターンのトポグラフィ像(topography images)である。
【
図9C】
図9Cは、表面の第2スクラッチパターンの光学像である。
【
図9D】
図9Dは、表面の第2スクラッチパターンのトポグラフィ像である。
【0070】
【
図10】
図10は、金属が、圧延中に付着したり、金属シート又はスラブの表面へ圧入されることによって金属シート又はスラブの表面に存在する表面スライバーの光学像である。
【0071】
【
図11】
図11は、本開示の一実施形態に基づいて製造されたシートアルミニウムについて、EDTロールでの圧下率が異なる5つの例に対する一連の表面トポグラフィのスキャン(surface topography scans)結果を示す図である。
【
図11-1】
図11は、本開示の一実施形態に基づいて製造されたシートアルミニウムについて、EDTロールでの圧下率が異なる5つの例に対する一連の表面トポグラフィのスキャン(surface topography scans)結果を示す図である。
【0072】
【
図12】
図12は、本開示の一実施形態に基づいて製造されたシートアルミニウムについて、クロスハッチロールでの圧下率が異なる5つの例について一連の表面トポグラフィのマップ(surface topography maps)とラインプロファイルを示す図である。
【
図12-1】
図12は、本開示の一実施形態に基づいて製造されたシートアルミニウムについて、クロスハッチロールでの圧下率が異なる5つの例について一連の表面トポグラフィのマップ(surface topography maps)とラインプロファイルを示す図である。
【0073】
【
図13A】
図13Aは、表面スクラッチを有するシートサンプルに対して、Ra600μinのEDTロールを使用して、850°Fの温度にて5%の圧下率で圧延する前及び圧延した後における、一連の光学像、トポグラフィック像及びラインプロファイルである。
【
図13B】
図13Bは、表面スクラッチを有するシートサンプルに対して、Ra600μinのEDTロールを使用して、850°Fの温度にて10%の圧下率で圧延する前及び圧延した後における、一連の光学像、トポグラフィック像及びラインプロファイルである。
【
図13C】
図13Cは、表面スクラッチを有するシートサンプルに対して、Ra600μinのEDTロールを使用して、850°Fの温度にて20%の圧下率で圧延する前及び圧延した後における、一連の光学像、トポグラフィック像及びラインプロファイルである。
【0074】
【
図14A】
図14Aは、表面スクラッチを有するシートサンプルに対して、Ra1200μinのEDTロールを使用して、850°Fの温度にて5%の圧下率で圧延する前及び圧延した後における、一連の光学像、トポグラフィック像及びラインプロファイルである。
【
図14B】
図14Bは、表面スクラッチを有するシートサンプルに対して、Ra1200μinのEDTロールを使用して、850°Fの温度にて10%の圧下率で圧延する前及び圧延した後における、一連の光学像、トポグラフィック像及びラインプロファイルである。
【
図14C】
図14Cは、表面スクラッチを有するシートサンプルに対して、Ra1200μinのEDTロールを使用して、850°Fの温度にて20%の圧下率で圧延する前及び圧延した後における、一連の光学像、トポグラフィック像及びラインプロファイルである。
【0075】
【
図15】
図15は、異なるスクラッチ深さに対してEDTテクスチャロールで圧延した後のスクラッチ深さの減少率を示すグラフである。
【0076】
【
図16】
図16は、表面からの光散乱を測定する装置を示す図である。
【0077】
【
図17A】
図17Aは、EDT仕上げを有する試料の金属表面について、10%圧下後における一連の光学像と光散乱シグネチャー(light scatter signature)である。
【
図17B】
図17Bは、ミル仕上げを有する試料の金属表面について、10%圧下後における一連の光学像と光散乱シグネチャーである。
【
図17C】
図17Cは、EDT仕上げを有する試料の金属表面について、25%圧下後における一連の光学像と光散乱シグネチャーである。
【
図17D】
図17Dは、ミル仕上げを有する試料の金属表面について、25%圧下後における一連の光学像と光散乱シグネチャーである。
【0078】
【
図18A】
図18Aは、ミル仕上げを有する試料の金属表面について、5%、10%、15%及び25%圧下後における一連の光散乱シグネチャーである。
【
図18B】
図18Bは、EDT仕上げを有する試料の金属表面について、5%、10%、15%及び25%圧下後における一連の光散乱シグネチャーである。
【0079】
【
図19B】
図19Bは、EDTでテクスチャを付与された表面のテクスチャデータシグネチャーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本開示の態様は次の効果を有する。
・表面テクスチャリングは、テクスチャを付与されるシートが例えば250~970°Fの高温であるときに行われて、ロール圧力を低下させて、転写を促進する。
・テクスチャリングは、シートに存在するか又は上流プロセスで生じた表面上及び表面下の損傷(例えば、従来の冷間テクスチャリングによって有利に影響を与えられないスクラッチ、スライバー及び凹み等)を修復又は向上させるために用いられ、鋳造又は圧延プロセスによって転写された表面の特徴又はパターンを取り除くことにより、表面品質を向上させる。
・テクスチャリングは、圧延の中間段階として適用されることができ、後の段階で引き続いて圧延パスを行うことで、熱間ロール又は冷間ロールによる圧下圧延(reduction rolling)などの圧延プロセスにおける次のステップを向上させて容易にする。
・「粗い(rough)」表面を有するテクスチャロールによって付与される「粗い」テクスチャは、表面欠陥を修復すること、さらなる加工のためにシートを作製すること、及び有益な特性を有するシートを製造することに有用である。
・テクスチャリングは、高温で実施される場合、圧下と同時に行われることができる。
この表面テクスチャリングは、ある範囲の圧下量にわたって実施されることができ、表面の清浄度に殆ど或いは全く悪影響を及ぼすことなく、スクラッチやスライバー等の特徴を取り除くか又は覆うことができる。本開示のこれら及び他の態様については、以下でさらに説明する。
【0081】
図1は、アルミニウムシート等のシート材料12を製造するための装置10を示す。装置10は、最終的にシート12に形成されるアルミニウム金属の上流供給源14を含むことができる。様々な供給源14が本開示の装置及びプロセスに利用されることができ、この多様性を表すために、供給源は点線の矩形で囲んである。例えば、供給源14は、アルミニウムシート12を連続的に鋳造して圧延するために、溶融アルミニウムのリザーバからの出口15を含むことができ、この出口は、例えば高温スラブインゴットを押し出すプッシャー炉の出口、鋳造ボックスのノズル出口、コイル巻出機の出口、ロール若しくはスラブ鋳造機の出口、又はマイクロミルの出口である。なお、マイクロミル及びプロセスについては、Alcoa,Inc.が所有する米国特許第6672368号に記載されている。一実施形態において、装置10は、テクスチャをインラインで適用するために本開示に従って改変された熱間コイリングミルである。状態S1におけるアルミニウムシート12は、所定の温度(例えば950~1100°F)、凝固/硬度の状態、テンパー、寸法、表面テクスチャ、表面完全性及び表面下組織を呈する。任意選択的に、例えば、マイクロミルの出口15の場合、アルミニウムシート12を、アルミニウムシート12の厚さを減少させる1又は複数組の圧延ロール18A、18Bを通過させることができる。結果として、シート12は、所定温度、凝固の状態、硬度、テンパー、寸法、表面テクスチャ、表面完全性及び表面下組織を有する第2の状態S2となる。アルミニウムシート12は、供給源14から延在するので、周囲環境Eに曝されてアルミニウムシート12を冷却又は加熱することができる。アルミニウムシート12が装置10を通って進むにつれて、例えば、温度の他、硬度/降伏強度/可塑性等の関する状態は異なり、状態S1、S2 ...S5となる。温度変化に伴う状態の段階的変化に加えて、アルミニウムシート12は、装置10を通って進むにつれて寸法が変化する。例えば、状態S2のアルミニウムシート12は、任意選択的にロール20A、20Bによって厚さが減少して状態S3となり、再びロール22A、22Bにより状態S4となる。本開示の一態様において、シート12が例えば250~970°Fの高温度にあるとき、アルミニウムシート12には、テクスチャリングロール24A、24Bにより表面処理/テクスチャリングを施されることができる。シート12のこの特定の温度範囲は、例えば鋳造後にシート12が保有する残留熱エネルギーにより達成されることができるし、又はシート12がテクスチャリングロール24A、24Bによってテクスチャを付与される前に加熱されてもよい。テクスチャリングロール24A、24Bは、所望のテクスチャをシート12に付与するために、予め放電テクスチャリング(EDT)によって表面を形成することができるし、ボール又はショットピーニング、研削(grinding)、クロス研削(cross-grinding)等によって所望のテクスチャを形成することもできる。テクスチャ加工されたロールは、例えば、EDT、研削、ブラスティング、レーザービームテクスチャリング、電子ビームテクスチャリングによって作製され、ランダムな組合せの山頂と谷底を有し、例えば、山頂と谷底間の高さは、転写される表面特徴に所望されるRa0.5μm~50μmの範囲又はそれ以上である。これらの特徴は、用いられるプロセスに基づいた好ましい方向を、一般的には有していない。テクスチャロールは、方向性を有する(oriented)か、又は、研削、ベルト研磨、レーザー又は電子ビームテクスチャリング等のプロセスを用いて製造された決定的な特徴を有する点において好ましい向きを呈することもできる。これら特徴のサイズ及び方向は、これらのプロセスによって設計され制御されることができ、例えば、横方向に測定されたときの山頂から谷底までの高さがRa0.1μm~25μmである表面が生成される。研削は、研削剤と部品回転/移動速度との比に応じて、1度~45度の角度又はそれ以上の角度で長手方向に0.5mmから数センチの長さを有するトポグラフィを生成する。
【0082】
ロール24A、24Bによるテクスチャリングが、例えば250~970°Fの高温で行われる場合、高温度により降伏強度が低下するので、室温でのテクスチャリングに比べて圧下量が小さい低ロール圧力レベルでより大きなトポグラフィ転写が可能となる。本開示の一態様は、高温での低ロール圧力レベル及び低圧下量でのシート12のテクスチャリングを、テクスチャリング前にシートに存在する表面及び表面下の欠陥、例えばテクスチャロール24A、24Bより前のステーションにおけるロール、例えばロール20A、20B及び/又は22A、22Bに対する粘着性金属(adhesive metal)の転写によって引き起こされるスライバー等の欠陥を修復するのに用いることができる。高温テクスチャ圧延を実施する場合、シート12の温度範囲250~970°Fは、外層における温度であり、シートは、外側から内側に向かって温度勾配を有するので、内側部分は外側部分よりも高温であるか又は低温である。シートの温度は時間とともに変化し、また、シート12を加熱又は冷却することによって調節されることができるので、所望のテクスチャを得るのに適したテクスチャリングロール24A、24Bでテクスチャリングする直前に、シート12の外側部分が選択された温度範囲が達成されるように温度を測定し制御することができる。
【0083】
テクスチャリングロール24A、24Bは、シート12との摩擦相互作用によって駆動されることができ、前記シートは、コイル巻取機(図示せず)のコイル状シート12Eを回転させることによって引っ張られる。このシート駆動装置は、シート12の表面に悪影響を及ぼす前方へのスライド、即ちテクスチャロール24A、24Bの表面上でのシート12のスライドを低減するために、又はロール24A、24Bに対するシートの他の非同期移動を低減するために使用されることができる。テクスチャリングが高温度で行われるので、テクスチャリングロール24A、24Bのシート12に対するテクスチャ付与は、従来の低温で行われるテクスチャリングの場合よりも低いロール圧力で容易に付与されることができる。
【0084】
一実施例において、テクスチャリングロール24A、24Bは、約1~10μmの表面粗さRaを有することができる。状態S4のアルミニウムシート12の温度が250°F~970°Fである場合、テクスチャリングロール24A、24Bをシート12に押圧することで、必要に応じて約1~30%又はそれ以上の厚さ減少が達成され、状態S5では、テクスチャリングロール24A、24Bの表面テクスチャをシート12の表面12C、12Dの表面の約60~100%に転写する。状態S4のアルミニウムシート12は、可鍛性(malleable)がより大きいため、冷却及びテンパーが行われたアルミニウムシートよりも容易にテクスチャロール24A、24Bの印象(impressions)を受け入れることができるので、テクスチャリングは、より少ない圧力で、テクスチャリングロール24A、24Bの表面テクスチャに対してより忠実に転写されることができ、かつロール24A、24Bの磨耗が少なく、残屑の発生も少ない。同期テクスチャリング(シートの押出量(throughput rate)に対するテクスチャロール24A、24Bの回転速度)は、テクスチャ転写を向上させて、傷がより少ない一定したシート12表面をもたらす。高温テクスチャ圧延に伴うロール圧の低下は、テクスチャロール24A、24Bの磨耗を減少させることができ、これは、所定量のシート12を処理するのに必要とされるロールの変化がより少ないことを意味する。
【0085】
本開示の一態様は、アルミニウムシート12を放電テクスチャリング(EDT)によって表面処理されたテクスチャリングロール24A、24Bでテクスチャリングすることによって、アルミニウムシート12の高温での表面処理を達成することができる。或いはまた、ロール24A、24Bは、ボール若しくはショットピーニング、めっき、研削又は他の表面処理によってテクスチャ加工されることができ、アルミニウムシート12が例えば250~970°Fの高温にあるとき、シート12を表面処理するために用いられることができる。前述の温度範囲では、アルミニウムシート12はより軟かく、例えば未テンパー状態で<10kSiの低い降伏強度を有するアルミニウムシートが、テクスチャリング/表面処理ロールの作用によってより容易に形成される。また、アルミニウムシート12が、冷間圧延ミル等での冷間加工前に表面処理される場合、その表面処理は、アルミニウムシート12は冷間加工によって機械的にテンパー及び硬化されていないため、表面処理が容易に行われることができる。前述の利点は、テクスチャリングロール24A、24Bを、圧延ミルのライン、例えば、溶融物からアルミニウムシート12を製造する高温コイリングミルのラインに組み込むことで、前記ミルによる製造時にアルミニウムシート12に本来的に存在する熱を利用し、アルミニウムシート12がコイル巻取り前のまだ高温の状態のときに表面処理を施すことによって実現することができる。このようにして、アルミニウムシートは効率的に製造されることができ、コイル巻取りの前後において引き続いて行われる表面処理及び圧延処理を最小にするか、又はなくすことができる。以下に説明するように、別の実施形態において、冷却されたシート12は、テクスチャロールによる表面処理の前に加熱されることができる。
【0086】
ロール18A、18B、20A、20B、22A、22B、24A、24Bの各ロール及び環境Eは、例えばトンネル等の囲み構造によってもたらされる断熱により、及び/又は例えば天然ガス燃焼又は電気抵抗加熱若しくは誘導加熱によって加熱することにより温度制御されることができる。テクスチャリング/表面処理時のアルミニウムシート12の温度は、鋳造によってアルミニウムシート12に存在する熱エネルギーを保存することにより、及び/又は、例えば環境中の空気、放射、火炎などの加熱媒体に曝すことにより、又は、例えばロール20A、20B、22A、22B、鋳造ロール18A、18B及び/又はテクスチャリングロール24A、24Bなどの加熱された表面に接触させることにより、シート12に熱エネルギーを付与することによって制御されることができる。
【0087】
状態S5を達成するために、テクスチャリングロール24A、24Bによってアルミニウムシート12を表面処理した後、アルミニウムシート12は、放射線及び/又は空気又は水などの媒体に温度Tで曝されて、熱処理、冷却、硬化及び/又は焼戻しが行われる。例えば、シート12は、環境Eに曝されてもよく、又は、例えば、浴槽又はスプレーステーション、加熱されたトンネルを通過させて、選択された温度で水焼入れすることによって能動的に冷却又は加熱したり、又は冷却された空気又は暖められた空気にブロワー等を介して曝すことができる。本開示の一態様では、アルミニウムシート12の表面処理は、冷却、最終熱処理、焼戻し及び/又は硬化の前に行われることができる。必要に応じて、所望の処理を施した後、アルミシート12は、コイル12Eの状態に巻き取られ、従来の方法で保管及び輸送されることができる。
【0088】
本開示はテクスチャリングを高温で行うものであり、室温で行う従来のテンパー/スキンパス処理と比べて「より粗い(rougher)」(例えば、表面トポグラフィのRaが50μm)表面を付与することができる(この分野では、粗さの単位は、マイクロメータ(μm)とマイクロインチ(μin)が1μm=39.37μinとして、一般的に相互変換可能に使用される。例えば、米国において、テクスチャリングロールが、600又は1200EDTロールとして記載されているとき、これは、平均表面粗さRaが600μin又は1200μinであることを意味し、平均表面粗さRaが15.20μm又は30.48μmであるEDTロールに相当する)。高温では降伏強度が低下し、より低いロール圧力及びより低い圧下量でより高いトポグラフィ転写を可能にする。典型的には、表面の「粗い」トポグラフィ、大きな圧下量及び高い温度は、粘着性金属の転写を促進するので、シートの表面下を損傷する。本開示の方法では、低い負荷及び少ない圧下量で圧延することができ、前方へのスライドが殆ど無いか又は全く無いので、粘着性金属の転写及び表面下の損傷は著しく低減される。本開示の方法によれば、テクスチャがシート12に形成され、シート表面に多数の凹み(depressions)が形成される。高温のテクスチャ圧延でシート12に付与されたこれらの凹みは、その中に潤滑剤を収容できる点において有益であり、圧延を容易にし、場合によっては冷間圧延パスを削除する能力を有する。本開示の別の態様は、等方性の艶消仕上げを有するシートを、傷がこれまでよりも少ない状態で圧延することが可能なことである。シート12により粗いテクスチャを圧延する場合、この粗さRaにより、1巻き毎(wrap-to-wrap)の摩擦が大きくなり、コイル崩壊の虞れが低減する。本開示によるテクスチャリングは、シートの表面下に作用する(disturb)深さで行われ、シート12の最終製品の仕上げがより良好なものとなる。より具体的には、所定の供給源からのシート12を分析することにより、表面及び表面下の典型的な欠陥のスケールと分布を確認することができる。適当な大きさの表面粗さRaを有するテクスチャが選択され、テクスチャリングロール24A、24Bに施される。その結果、テクスチャリングロール24A、24Bによって形成された印象の深さ及び分解度(間隔)が、例えば、高温テクスチャリング中の軟化状態にあるとき、材料の再分布により、シートに存在する表面欠陥及び表面下欠陥が取り除く。本開示の別の態様において、EDTロールテクスチャは、圧延作業で生じる不均一な表面を取り除いて等方性の表面シグネチャーを生成する。この等方性表面シグネチャーはOptimap(登録商標)(Rhopoint Instruments)、Scatterscope(登録商標)(Scatterworks)又は3D干渉計若しくは共焦点顕微鏡などの光学的又はトポグラフィ測定システムで測定可能である。別の態様において、前記表面シグネチャーは、テクスチャ圧延プロセス及び標準の圧延プロセスを通じて追跡可能であり、表面コーティング又は表面処理によってハイライトされることができる。
【0089】
本開示の一態様は、装置10の中で連続する各段階を通過する際、状態の従順性とシート12内で鍛錬される変化は、その前の状態、特に、表面のテクスチャ及び完全性並びに表面下の組織に依存する。従来の加工状態と比べて、シート12の各段階での加工がスケール及びパターンが適当となるように、圧延、テクスチャリング又は他の処理の連続的段階における状態の変化が徐々に行われ、表面の進展の制御を行うものであり、以下に説明する。
【0090】
元のロール表面テクスチャからシート表面へ複製(replication)が最もうまく行なわれるには、ロールの表面テクスチャに金属の堆積を防止することが重要である。本開示の方法は、ワンススルー式潤滑、蒸発ロール冷却により、また、ロール表面コーティング及び高圧ウォーターブラスティング又は同様なロールクリーニングの使用により、前記防止を向上/可能にすることができる。これらの方法は、表面品質を維持しつつ、ロールを清浄かつ所望温度に維持し、摩擦を制御(シート潤滑により)制御する必要性に応えるものである。
【0091】
図2は、200、400及び600°Fの温度で圧下率が3%及び9%のとき、シート粗さ転写に対するロール粗さを示すグラフである。本開示の方法及び装置により、低い圧下率及びミル負荷にて、高パーセントのトポグラフィ転写が可能になる。これと比較して、冷間圧延EDTの転写率は著しく低く、例えば60%である。
【0092】
図3A及び
図3Bは、本開示の代替の実施形態を示しており、テクスチャリングロール124A、124Bが、例えば高温タンデムミルで圧延する前にスラブの予備テクスチャリングを行うための温間圧延ロール120A、120Bの前に配置される。より具体的には、装置110は、温度、凝固/硬度、テンパー及び寸法の第1状態S7でシート112を形成するアルミニウム金属の供給源114を含むことができる。供給源14に関して上述したように、ミニミル、先に形成されたコイル等のような多くの供給源がある。それゆえ、供給源114は、点線矩形により包括的に示されている。状態S7のアルミニウムシート112は、保有熱又は天然ガス若しくは電気誘導ヒータ等のヒータから付与される熱により、250~970°Fの温度を有する。テクスチャリングロール124A、124Bは、例えば、放電テクスチャリング(EDT)、研削又は他の方法で表面処理されたものでよく、シート112に作用して、選択されたテクスチャがシート112に付与され、状態S8が作られる。一実施例において、高温でのテクスチャリングは、例えば粗さがRa1μm~50μmRaの「粗い」テクスチャで行われる。テクスチャは、規則的なパターン、例えば、列、グリッド、一連のドットなどの形態であり、表面に作用して、シート112内の金属をより均一に再分布させて残留応力の少ない平坦なシートが作られる。得られたシートは、テーブルロールに起因するライン、スクラッチ又はスラブ傷等の目に見える表面欠陥や空隙のような表面下の欠陥がかき乱されて目立たなくなっている。このテクスチャリング及び修復効果は、例えば、ロール120A、120B、122A、122Bなどの後続のミルスタンドによる別のスケール又は「分解度(resolution)」でさらなる処理をするためのシート112を準備するのに用いられる。これらは、テクスチャロール124A、124Bが取り除くことができるスケール/分解度で欠陥を消去することができない。
【0093】
例えば、状態S7におけるシート112の表面及び表面下の欠陥は、第1スケールにあり、熱間圧延ロールの表面テクスチャは、第2スケールにある。第2スケールは、例えば30%の圧下率でシートに押しつけられたとき、2倍大きいか又は2倍小さい。状態S7のシート112が表面テクスチャを有するテクスチャロール124A、124Bにより第1スケールでシート112にテクスチャを付与され、5~10%の圧下率でシート112の中に押圧されると、状態S7に存在する第1スケールの欠陥は取り除かれる。なお、熱間圧延ロールでは、テクスチャは異なるスケールで付与されるため、この欠陥は、熱間圧延ロールでは実質的に取り除かれることができない。連続する圧延スタンドで圧延することによる表面進展の連続プロセスの観点からは、高温度テクスチャリングを用いると、シート112の表面を前処理するように特別に設計されたテクスチャの発展が可能であり、シート112に関する所定の特性及び機能を有する次のロール組に対して最適な表面を通過させることで、熱間圧延プロセスの差別化を可能にする。本開示の一態様は、開始条件又は状態(所与の温度、厚さ、幅、表面テクスチャ、表面下の特性、テンパー等について)の金属と、仕上げ条件又は状態(目標温度、厚さ、幅、表面テクスチャ、表面下の特性、テンパー等について)の金属との間に存在する圧延装置及びプロセスが、圧延作業の様々な段階における圧延テクスチャを用いることによって最適化されることができる。より具体的には、圧延工程は、製品の最終特性(品質)に関して改善されるだけでなく、例えば、圧延段階の数、所定の段階でのロール圧力等を低減することにより、また、ロールラインの様々な時点で高温テクスチャ圧延を選択的に使用することにより、目標製品を達成するのに必要な時間、エネルギー、設備及びスペースを最小にすることができ、これらは表面の進展を補助するために使用されることができる。本開示では、表面及び表面下における硬度/テンパーに関するシート及びその特性について効率的かつ有効な進展を達成するために、シートの初期状態、圧延工程(テクスチャ圧延ステーションの前及び後)の各段階での状態、シートの最終目標状態を考慮するものである。
【0094】
シートは、テクスチャリングロール124A、124Bを通過した後、次いで、熱間ロール120A、120B、122A、122Bなどの1又は複数の段階で圧下率の低い熱間圧延が行われる。テクスチャリングステップは、最終的に可視欠陥の無い等方性表面を達成する前の準備段階として、テーブルロールからスラブ損傷を除去することができる。テクスチャリングは、テクスチャリングされたシートが状態S8にあるときのシート表面の凹凸に潤滑剤をトラップすることにより、ロール120A、120Bで必要とされる圧延力を低下させることができる。これは、圧下能力の向上、圧延負荷の低減、及び/又はロールスタンドの通過数の低減により、所望する目標厚さ及び表面テクスチャが得られることを意味する。テクスチャリングステップはまた、シート112に対するロール120A、120Bの「噛込み(bite)」又は摩擦グリップを増大させることができる。噛込みの増加は、シート112の表面に(幅方向に)均等に分配されるので、シート112は、ロール120A、120B、122A、122Bの間をより真直ぐに通過する。シート112とロール120A、120B、122A、122Bとの間の摩擦相互作用の安定化により、シートはロール120A、120B、122A、122Bを安定したペースで通過することができる。スタンド間の材料流れが不均一であるとき(例えば、ロール120A、120Bを通過するシート112の速度がロール122A、122Bを通過する速度よりも速いとき)、シート中に波形(cobbles)(折曲げ部)が形成されるが、スタンド間のシート流れのバランスを保つことにより、この形成を回避することができる。テクスチャロール124A、124Bによりシート112をテクスチャリングすることで、ロール120A、120B、122A、122Bにおける圧下をより大きくすることができる。ロール124A、124Bによるテクスチャリングの前記効果は、低圧下量で熱間圧延したときにも生じるシート112の損傷を修復するのに必要な冷間圧延パス数を減らすことができ、より薄いゲージでの鋳造を可能にし、より良好な表面、例えば陽極酸化に適した等方性表面を有する製品を製造することができる。
【0095】
図3Bに示されるように、状態S7では、入ってくるシート112は表面欠陥112D及び表面下欠陥112SSDを有するが、このシート112は、次の段階、例えば温間ロール120A、120B及び122A、122Bの前に、実質的な改善及び進展が得られる。前述したように、状態S7のアルミニウムシート112は、可鍛性であり、冷却とテンパーが許容されたシートアルミニウムよりも容易に表面ロール124A、124Bの印象を受け入れることができる。その結果、表面処理はより少ない圧力で、ロール124A、124Bの表面テクスチャに対してより忠実になることができ、かつロール124A、124Bの磨耗が少なく、その他にも、高温テクスチャリングの前述した特性を示す。
【0096】
図4は、本開示の代替となる実施形態を示しており、例えば、冷間圧延ミルにインラインでテクスチャを施す状況において、テクスチャリングロール224A、224Bが冷間圧延ロール220A、220B及び222A、222Bの後に配置される。冷間ロール220A、220Bは、状態S11のシートの厚さを減少させて、状態S12のシート212を生成する。ロール222A、222Bは、シート212の厚さをさらに減少させて状態S13を形成する。一実施例において、シート212は、ロール220A、220Bによって厚さが約50%減少され、次いでロール222A、222Bによってさらに50%減少されることができる。次いで、シート212はヒータ230によって加熱され、前記ヒータはシート212の両側の対向する部分230A、230Bに配置される。ヒータは、電気抵抗、誘導加熱又は天然ガスを含む様々な種類のものであってよい。冷間圧延ロール220A、220B及び222A、222Bによりシート212を冷間加工することにより、段階S12及びS13でシート212の残留応力が増加し、シートの降伏強度が増大して、後のスタンドでの圧延をより困難にする。ヒータ230は、シートを250~970°Fの温度に加熱し、それによって、状態S14ではシート212の降伏強度が低下し、テクスチャロール224A、224Bによる圧延を容易にし、より低いロール力より大きなトポグラフィ転写を可能にする。上述のように、シート212への熱浸透深さは、所定の圧下量及び圧力でテクスチャリングを可能にする十分な熱浸透深さ及び軟化がもたらされるように選択/調節されることができる。
【0097】
高温でのテクスチャ圧延により、状態S15でのシート212の残留応力は、S14での残留応力よりも少なくなる。この残留応力の減少は、より平らなシートに反映される。すなわち、シートは、装置210に加えられる張力が無い自由状態にあるとき、相対的にすぐれた平坦度を示す。シート212の平坦度はまた、ロール224A、224Bによるテクスチャリングによって有利な影響がもたらされる。前記テクスチャリングは、テクスチャロール224A、224Bによってもたらされたテクスチャを有する仕上げロール製品に適したテクスチャを有するように選択されることができる。
【0098】
状態S14のアルミニウムシート212は、テクスチャロール224A、224Bによって厚さが減少され、状態S15とされる。前記テクスチャロールは、例えば放電テクスチャリング(EDT)又は他のプロセスによって予め表面処理されたものでよい。状態S14のシート212が250~970°Fの温度を有する場合、表面粗さRa1μm~10μmのテクスチャリングロール224A、224Bが、シート212に対して1klbs/in~10klbs/inの圧力で押しつけることで、厚さが約0~30%減少し、ロール224A、224Bの表面テクスチャは、状態S15のシート212の表面212H、212Iの約60~100%に転写される。
【0099】
本開示の高温テクスチャリングの方法は、従来の室温でのテンパースキムパス処理と比較して、「より粗い」表面トポロジー、例えば、Ra5μmの表面トポロジーが可能となる。高温は、降伏強度を低下させ、より低いロール圧力及びより低い圧下量でより大きなトポグラフィ転写を可能にする。一般的には、「粗い」表面トポグラフィ、大きな圧下量及び高い温度は、粘着性金属の転写を促進し、それゆえシート表面下の損傷を促進する。本開示の方法では、低負荷、低圧下量で、前方へ殆どスライドすることなく又は全くスライドすることなく、テクスチャリングすることにより、粘着性金属の転写及び表面下の損傷を著しく減少させるものである。本開示の方法では、ワンススルー式潤滑、蒸発ロール冷却により、また、ロール表面コーティング及び高圧ウォーターブラスティング又は同様なロールクリーニングの使用によって可能となる。前述の方策は、表面品質を維持しつつ、ロールを清浄かつ所望温度に維持し、摩擦を制御(シート潤滑により)制御する必要性に応えるものである。
【0100】
本開示の手法によれば、シート212に施されたテクスチャは、場合によっては、熱間又は冷間圧延における圧延パスを削除する能力に変換することができる。本開示の別の態様において、ミルの必要トン数が小さくなってエネルギー消費が低減され、圧下量が小さくなって残屑の発生が少なくなる。残屑が少なくなるとより清浄なシート212が得られる。圧延力の低下及び残屑発生の減少は、テクスチャリングロール224A、224Bの摩耗の減少に対応し、ロールの寿命はより長くなり、ロールの交換はより少なくなる。ロールトポグラフィの摩耗減少によりロール交換回数が減少するので、1つのコイル212Eから次のコイルへのシート表面粗さのRa変動は小さくなる。例えば、テクスチャリングロール224A、224Bを最後にして製造されたシート212のコイルと、新たなテクスチャ加工されたロール224A、224Bを用いて製造されたコイルとの間の変動においてである。高温テクスチャ圧延では、例えば圧延パスを削減できる等のコスト低減によりテクスチャリングされたシート212Eの費用を低減することができるので、テクスチャリングプロセスは、より多くの製品に利用可能である。圧延パスの削減により、圧延ミルにおけるロールの使用量を低減できるので、所定期間にわたるミルの出力能力が拡大する。
【0101】
図5は、アルミニウムシートなどのシート材料312を製造するための装置310を示す。装置310は、2組のテクスチャロール324A、324B及び340A、340Bを有し、それらはシート312の流れ方向に連続して配置される。シート312は、任意の供給源、例えば、圧延ミル又は鋳造ミルの先行ロールからテクスチャロールに送られ、冷却又は加熱されて、状態S16では例えば250~970°Fの高温度であり、テクスチャロール324A、324B及び340A、340Bによる高温テクスチャリングが行われる。この高温テクスチャリングは、上記のすべての特徴及び特性を有する。テクスチャロール324A、324Bは、大径のロールであってよく、シート312はパスでの厚さ減少が少ないか又は無い。テクスチャロール340A、340Bは、直径がより小さくてもよく、シート312の厚さ減少はより大きくてもよい。他の一実施形態において、熱間圧延ミルのワーキングロールスタンドは、テクスチャロール340A、340Bを製造するためにテクスチャリングされることができる。上述したように、高温テクスチャリングは、後続のロールスタンドによるその後の処理に備えて、シート312の表面を変更するために用いられることができる。装置310では、ロール組324A、324B及び340A、340Bによるテクスチャ圧延により、シート312に対して順次又は補助的にテクスチャを施すことで、段階的に表面を進展させることができる。一実施例において、第1組のテクスチャロール324A、324Bは、1~10Raの表面粗さを有し、第2組の340A、340Bは、1~5Raの表面粗さを有する。第1組のテクスチャロール324A、324Bが、表面及び表面下により大きく作用してより大きな粗さRaを有するテクスチャを付与し、次に、粗さがより小さなテクスチャを有する第2組のテクスチャロール340A、340Bが、第1組のテクスチャロール324A、324Bによって形成されたパターンを部分的にのみ取り除く。熱間ロール(例えば320A、320B)又は冷間ロールによるその後の圧延を行うためのシートを作るために、引き続き高温テクスチャリングを用いることもできる。
【0102】
前述した逐次的テクスチャリングは、結晶粒を小さくし、シート312の表面を破壊するために用いられることができ、状態S19におけるシート312の「オレンジ皮(orange peel)」のような凹凸表面を減少させ、特に陽極酸化された場合に、等方性によりすぐれる清浄な表面を生成することができる。高温でのテクスチャリングによって形成されたスラブの等方性トポグラフィは、その後のロールスタンド(例えば、320A、320B)での圧延力を低下させ、追跡を促進し、折曲げ部を低減し、圧下量が大きな圧延パスを少なくし、より薄いゲージで鋳造を行ない、シート312内の損傷を修復するための冷間圧延パスの数を低減し、表面品質を向上させる。
図5に示された逐次的テクスチャリング法は、複数の連続したテクスチャ圧延パスがステージS19における最終の圧延シート312に表されている点において、多様なシート312テクスチャを生成する能力を向上させる。前述の高温連続テクスチャリングは、ワンススルー式潤滑、蒸発ロール冷却により、また、ロール表面コーティング及び高圧ウォーターブラスティング又は同様なロールクリーニングの使用により、促進されることができる。
【0103】
図6は、アルミニウムシートなどのシート材料412を製造するための装置410を示す。装置410は、移送されるシート412の温度を上昇させるためのヒータ430を有し、シートは、冷間圧延ミルスタンド、鋳造ミルなどの様々な源から送られる。ヒータ430は、テクスチャロール424A、424Bによる高温テクスチャリングを行なえるように、状態S20のシート412の温度を、状態S21の250~970°Fに上昇させる。この高温テクスチャリングは、上述した全ての特徴及び特性を有しており、粗いトポグラフィ表面を用いたテクスチャリングにより、シート412の表面に作用して、金属をより均等に再分配し、さらなる処理の前に表面品質を改善することができる。高温テクスチャリングは、低負荷及び低圧下率でテクスチャリングを行えるため、前方へのスライドが殆ど無いか全く無く、表面下に損傷を引き起こす傾向が低減される。シート412が加熱によって軟化し、降伏強度が低下するので、テクスチャロール424A、424Bに対する圧力が低下し、高度なトポグラフィ転写を達成することができる。シートは、テクスチャリングロール424A、424Bを通過した後、次に、冷間ロール組420A、420Bによって圧延されて状態S23となり、次に冷間ロール422A、422Bによって圧延されることができる。装置410では、冷間圧延の前の高温プレテクスチャリングシート412が製造される。上述したように、高温テクスチャリングは、後続のロールスタンドによるその後の処理に備えて、シート412の表面を改質するために使用されることができる。装置410では、ロール組424A、424B及び420A、420Bによるテクスチャ圧延により、シート412に順次に又は補助的にテクスチャを施すことで、段階的に表面を進展させることができる。一実施例において、テクスチャロール424A、424BはRa1μm ~50μmの表面粗さを有し、第1組の冷間ロール420A、420Bは、Ra1μm~5μmの表面粗さを有し、テクスチャロール424A、424Bは、より大きな粗さRaでテクスチャを付与し、表面及び表面下により大きな作用を及ぼす。次に、粗さがより小さなテクスチャを有する第1組の冷間ロール420A、420Bは、テクスチャロール424A、424Bによって形成されたパターンを部分的にのみ取り除いて、厚さを実質的に減少させる。第2組の冷間ロール422A、422Bは、シートの厚さをさらに減少させ、及び/又は、シート412に対する追加のテクスチャを付与する。テクスチャリングロール424A、424Bの効果は、例えば、状態S22のシート412に、潤滑剤を保有できるポケットを形成することにより、ロール420A、420B及び422A、422Bによる冷間圧延を向上させて促進するものである。冷間圧延の向上により、冷間圧延のパスを削除して、傷がより少なく、等方性の艶消し仕上げされた状態S24のシートを生成することができる。高温テクスチャリングによってテクスチャの転写が向上し、状態S24のシート412は、より一定した表面を有する。上記の高温テクスチャリング及びそれに続く冷間圧延は、ワンススルー式潤滑、蒸発ロール冷却により、また、ロール表面コーティング及び高圧ウォーターブラスティング又は同様なロールクリーニングの使用によって促進されることができる。
【0104】
図7は、アルミニウムシートなどのシート材料512を製造するための装置510を示す。装置510は、移送されるシート512の温度を上昇させるためのヒータ530を有し、シートは、冷間圧延ミルスタンド、鋳造ミルなどの様々な源から送られる。ヒータ530は、テクスチャロール524A、524Bによる高温テクスチャリングを行なえるように、状態S25のシート512の温度を、状態S26の250~970°Fに上昇させる。この高温テクスチャリングは、上述した全ての特徴及び特性を有しており、粗い表面トポグラフィを用いたテクスチャリングにより、シート512の表面に作用して、金属をより均等に再分配し、さらなる処理の前に表面品質を改善することができる。高温テクスチャリングは、低負荷及び低圧下率でテクスチャリングを行えるため、前方へのスライドが殆ど無いか全く無く、表面下の損傷を引き起こす傾向が低減される。シート512が加熱によって軟化し、降伏強度が低下し、テクスチャロール524A、524Bに対する圧力が低下するが、それでも、状態S27のシート512の高度なトポグラフィ転写が達成される。シートは、テクスチャリングロール524A、524Bを通過した後、次に、第2組のテクスチャリングロール540A、540Bによって圧延されて状態S28となり、次に冷間ロール520A、520Bによって圧延され、状態S29のシート512が生じる。装置510では、冷間圧延の前の2回のテクスチャリングパスにて高温プレテクスチャリングシート512が製造される。テクスチャロール524A、524Bは、大径のロールであって、シート512には低圧下量でパスされる。テクスチャロール540A、540Bは、小径のロールであって、シート512への圧下量は大きい。他の一実施形態において、熱間ミルのワーキングロールスタンドは、テクスチャロール540A、540Bを作るために、テクスチャリングされることができる。上述したように、高温テクスチャリングは、後続のロールスタンドによるその後の処理の準備として、シート512の表面を改質するために用いられることができる。装置510では、ロール組524A、524B及び540A、540Bによるテクスチャ圧延により、シート512に対して順次に又は補助的にテクスチャを施すことで、段階的に表面を進展させることができる。一実施例において、第1組のテクスチャロール524A、524BはRa1μm~50μmの表面粗さを有し、第2組のロール540A、540Bは、1μm~5μmRaの表面粗さを有し、第1組のロールは、より大きな粗さRaでテクスチャを付与し、表面及び表面下により大きく作用する。次に、粗さがより小さなテクスチャを有する第2組のテクスチャロール540A、540Bは、テクスチャロール524A、524Bによって形成されたパターンを部分的にのみ取り除く。逐次的な高温テクスチャリングは、冷間ロール(例えば、520A、520B)によるその後の高められた圧延のためのシートを準備するのに用いられることができる。
【0105】
上述したように、高温テクスチャリングは、後続のロールスタンドによるその後の処理の準備として、シート312の表面を変更するために用いられることができる。装置510では、ロール組524A、524B及び540A、540Bによるテクスチャ圧延により、シート512に対して順次に又は補助的にテクスチャを施すことで、段階的に表面を進展させることができる。一実施例において、第1組のテクスチャロール524A、524Bは、Ra1μm~50μmの表面粗さを有し、第2組の540A、540Bは、Ra1μm~5μmの表面粗さを有する。テクスチャロール524A、524Bが、表面及び表面下に対してより大きく作用してより大きな粗さRaでテクスチャを付与し、次に、粗さがより小さなテクスチャを有する第2組のテクスチャロール540A、540Bが、テクスチャロール524A、524Bによって形成されたパターンを部分的にのみ取り除いて、厚さを実質的に減少させる。冷間ロール520A、520Bは、シートの厚さをさらに減少させ、及び/又は、シート512に対する追加のテクスチャを付与する。テクスチャリングロール524A、524B及び540A、540Bの効果は、例えば、状態S28のシート512に、潤滑剤を保有できるポケットを形成することにより、ロール520A、520Bによる冷間圧延を向上させて促進するものである。冷間圧延の向上により、冷間圧延のパスを削除して、状態S29で、傷がより少なく、等方性の艶消し仕上げを有するシートを生成することができる。高温テクスチャリングによってテクスチャの転写が向上し、状態S27及びS28では、シート512に対してより一定した表面がもたらされる。上記の高温テクスチャリング及びそれに続く冷間圧延は、ワンススルー式潤滑、蒸発ロール冷却により、また、ロール表面コーティング及び高圧ウォーターブラスティング又は同様なロールクリーニングの使用によって促進することができる。状態S29が達成された後、アルミニウムシート512は、熱処理、焼入れ及び/又は焼戻しが行われることができる。アルミニウムシート512は次にコイル512Eに巻き取られ、従来の方法で保管及び輸送されることができる。
【0106】
本開示の態様によれば、連続鋳造プロセスの終了時にシートにテクスチャを加えることにより、インラインに加えられたときにコストを大幅に低減する。追加の巻取り及び巻戻しは行わなくてもよく、鋳造及び圧延された状態のFテンパー特性が低く、トポグラフィ転写を向上させることができる。後者は、トポグラフィ転写が向上したことにより、圧下量がより小さく、ロールの寿命が長くなり、従来のテクスチャ又は新たに差別化された表面と同様なトポグラフィを達成することができる。圧下量が少なくなると、残屑の生成も減少して、EDTなどの幾つかのテクスチャを清浄化する必要性が最小限に抑えられる。鋳造機、熱処理等のプロセスによって生じる表面品質の問題は、標準的な熱処理毎にテクスチャリング後に実施されることができる。追加のステップで連続鋳造製品にテクスチャを追加することにより、所望される製品の特性(例えばF、O又はTテンパー)に応じて、トポグラフィのさらなる転写制御が可能となる。必要に応じて、テクスチャ後の熱処理が追加されることもできる。連続鋳造製品表面にインライン又はアットラインでテクスチャを付加するもう1つの潜在的な利点は、均一な表面を形成して、鋳造又は圧延後の表面特徴を最も小さく抑えられることである。
【0107】
EDTは、外観及び成形性を向上させるために、艶消仕上げの非方向性シートを製造するための仕上げ圧延に用いられる。同様の結果をもたらすことができる他のテクスチャリングプロセスとして、砥粒(abrasive)ロール、サンドブラストロール、交差角研削ロール、傾斜角研削ロール、レーザー又は電子ビームによるテクスチャロール、TopoCrom(登録商標)や他の高ノジュールクロムプロセスによるノジュラークロムメッキで堆積されたロール、ボールピーニングロール及びショットピーニングロールが含まれる。
【0108】
本開示の態様における潜在的利点として、テクスチャロールの長寿命化、改良されたトポグラフィ転写による独特のテクスチャ、インラインの場合、コイルの巻取り及び巻戻し作業を最小に抑えることによるコスト低減、一定した表面、鋳造及び圧延による表面アーティファクトの削減による回収の向上、ミル負荷の低減が含まれる。EDT又は同様なテクスチャが熱間ロールミル(HRM)で使用される場合、2つの更なる利点が得られ、潤滑剤とテクスチャの適切な組合せにより、より大きな圧下量でも噛込み不良は起こらず、パス削減が可能となる。これは、ケロシンバイトの補助を不要にすることができる点で重要である。
【0109】
連続鋳造製品表面にインライン又はアットラインでテクスチャを追加する態様の利点は、均一な表面を形成できることであり、鋳造又は圧延による表面特徴が最小に抑えられる。連続鋳造機、Micromill(登録商標)、ロール塗工機又はスラブ鋳造機の後直ちに、テクスチャリング(低コスト、低負荷装備にて)することにより、重要な表面用途では使用を禁じられるような特徴を、再分配し、除去し、覆い隠すことができる。例えば、Micromillによって作られたトポグラフィでは、鋳造金属の表面に望ましくない特徴及び/又はパターンが残る。熱間圧延プロセスにおけるテクスチャ表面に本開示の教示を使用することにより、その後の陽極酸化表面における外観の問題を低減又は除去することができる。この方法を用いることで、表面性能がより重要な用途向けのシートを低コストで製造することができる。
【0110】
本開示の方法及び装置を利用する過程で、第1スタンドの熱間圧延ワークロール間のニップに入る前に、熱間圧延用分散剤などの潤滑剤がシートに塗布された。EDTトポグラフィは「粗い」性質のために高圧のロールコーティングが予想されるが、その予想に反して、非常に低圧のロールコーティングが行われた。また、2つのスタンドミルでの圧延が大幅に向上したことにも留意されるべきである。第1に、ロール噛込みの「安定性(stability)」が大幅に向上し、シートの操舵動作がはるかに向上し、圧延工程を容易にしたことである。この安定性の向上は、低負荷で、予想より大きな圧下をもたらした。スタンド1のEDTワークロールの摩擦がより高いと、より大きな負荷力をもたらし、圧下能力が制限されると予想されたが、この現象は観察されなかった。標準の圧延条件ではスタンド1での圧下は57%であるが、EDTロールによる負荷力は、標準の研削ロールによる負荷力よりも大きくはなかった。スタンド1でEDTロールを用いると、負荷力を著しく増加させなくても、最大70%の圧下能力を向上させることができた。これは、研削されたトポグラフィでは不可能だったことである。また、シートをEDTテクスチャによるスタンド1からスタンド2に送ると、負荷力は著しく減少した。本開示の装置及び方法は、予想されたよりも負荷が低く、圧下が大きく、残屑及び表面劣化が少なかった。
【0111】
EDTは、外観及び成形性向上のために、艶消し仕上げの非方向性シートを作製するために仕上げ圧延で用いられるが、本開示の装置に使用するためのテクスチャリングロール(例えば24A、24B)を製造するのに他のテクスチャリング方法を用いることができる。例えば、EDTの供給元は、現在、熱間圧延ワークロールについて、その寸法及び重量に対して全てのサイズを取り扱う設備を有していない。EDTと同様な結果をもたらすことができる他のテクスチャリングプロセスとして、例えば、サンドブラストロール、交差研削ロール、TopoCromや他の高ノジュールクロムプロセスによるロール、ボールピーニングロール及びショットピーニングロールがある。
【0112】
上述したように、アルミニウム金属の供給源(14、114等)は様々であり、溶融物からインゴットを鋳造して、次に、例えば0.125乃至0.250インチの厚さに圧延したものでもよいし、連続鋳造法により鋳造したものでもよい。本開示の利点は、シート製品の完成までの処理において表面品質に悪影響を及ぼす特徴を排除し、目的を達成するのに必要な作業量及びエネルギーを削減することである。
【0113】
図8は、仮想シート612において、計画された複数の仮想表面スクラッチ612D1、612D2、612D3、612D4、612D5A、612D6、612D7、612D8、612D9、612D10、512D11を示す。仮想スクラッチ612D5Aは、複数で互いに平行であって、サブパターン612D5を形成し、仮想スクラッチのうちの他のもの、例えば612D1、612D2、612D3は、互いに近接して並べられており、それらのスクラッチは、観察者によって1つのパターン、例えば不完全な三角形612DT1に関連付けられることができる。スクラッチ又は他の欠陥612D5が認知可能なパターン(perceptible pattern)を伝達することができる場合、観察者は、認知可能なパターンを有さずランダムとして認知されるスクラッチ又は欠陥よりも、より多く観察することができる。同様に、スクラッチ612D4は、バックグラウンド612B又は同じような光学特性を有しないシート612の領域に存在することが認知されるので、スクラッチ612D4は、バックグラウンド612Bとは異なる光学特性を有する局部領域として認知される。スクラッチ、例えば、バックグラウンド612Bの表面より低い局部領域である612D1について記載すると、本開示の方法及び装置は、他の種類の表面欠陥、例えば、バックグラウンド表面612Bの上に突出する欠陥に起因する欠陥、又はバックグラウンド表面612Bを上下に揺動する欠陥若しくはバックグラウンド表面612Bとは異なる反射特性等の光学的特性を有する欠陥を修正するのに有効であることは理解されるべきである。十分に高い倍率で検査が行われた場合、どの表面も「粗い」又は高度に変化可能と観察されること、さらに、欠陥自体が視野を占領するほどに十分大きな倍率である場合、欠陥の認知が損なわれることは理解される。1つの方法は、関心のある欠陥の大きさ又はスケールを明示することであり、それらは、1倍~100倍の倍率で認知可能なものとして定義されることができる。あるいは、0.1~5フィートの距離で通常の人間の視力(裸眼)で観察可能である関心のある欠陥と定義することができる。さらなる代替例では、認知できない欠陥を有するバックグラウンド表面と見なす粗さRaの範囲は、0.1μmRa~2μmRaである。バックグラウンド表面に隣接して並べられた特徴でこの粗さRaを超えるものはどれも表面欠陥とみなされる。本開示の一態様において、上述の装置及び方法は、仮想シート612の欠陥と同様、シートの表面における認知可能な欠陥を部分的に又は完全に覆い隠すか又は消し去ることができる。これについては、以下に記載する実施例において説明する。
【0114】
図9Aは、タイプ3XXXアルミニウム合金のシート812の光学像であって、バックグラウンド表面812Bにスクラッチ812D1と812D2の端部が示されており、前記スクラッチは、深さ約10μm、幅約400μm、長さ50mmである。これらのスクラッチは、TABER(登録商標)リニアアブレーサ(Abrader)を用いて作られたもので、これは、ユーザーが速度、ストローク長さ及び試験荷重を選択して設定できる調節機構を有している。供試試料にスクラッチを生じさせるのに、異なる試験荷重が用いられた。異なる試験荷重を使用して、試験サンプルに傷を生じさせた。
図9Bは、白色光位相シフト干渉計によって得られたスクラッチ812D1のトポグラフィ像を示す。
【0115】
図9Cは、タイプ3XXXアルミニウム合金のシート912の光学像であって、バックグラウンド表面912Bにスクラッチ912D1と912D2の端部が示されており、前記スクラッチは、深さ約200μm、幅約1000μm、長さ50mmである。これらのスクラッチは、TABERリニアアブレーサ(Abrader)を用いて作られたもので、これは、ユーザーが速度、ストローク長さ及び試験荷重を選択して設定できる調節機構を有している。これらの供試試料は、
図9Aの試料よりも深いスクラッチを作るために、
図9Aのものよりも大きな試験荷重が用いられた。
図9Dは、白色光位相シフト干渉計によって得られたスクラッチ912D1のトポグラフィ像を示す。
【0116】
図10は、金属シート又はスラブ1012のバックグラウンド表面1012Bに存在する表面スライバー1012D1の光学像を示す。この種の表面欠陥は、圧延の結果として観察されるもので、ロールに金属が付着し、その金属が圧延されてスラブ/シートの表面に食い込むことによって形成される。
【0117】
図11は、本開示の一実施形態に従って製造された5XXXのシートアルミニウムに対して、表面粗さRaが5μmのEDTロール18A、18Bを用いて異なる5種類の圧下率で圧延されたアルミニウムシート12(
図1)の一連の表面トポグラフィのスキャン結果112S1~112S5を示す。シートアルミニウムは、
図1に示す装置10のような装置により、厚さが、2.5%、4.2%、12.7%、23.7%、28%減少されている。アルミニウムシートの供給源15(
図1)は、Micromill又は次の米国特許の何れかに記載されたミルである[第5515908号、第5655593号、第5894879号、第5772799号、第5772802号、第6045632号、第5769972号、第6102102号、第6391127号、第6623797号、第6672368号、第7089993号、第7503377号、第7125612号、第6581675号、第7182825号、第8403027号、第7846554号、第8697248号、第8381796号又は第8956472号]。これらの特許は、引用を以て本願に組み込まれるものとする。使用されたテクスチャリングロール24A、24Bは、EDTによってテクスチャ加工されたものである。シートに対する圧下は、シートが930°Fのときに行われ、トポグラフィのスキャンは、ロールラインで急冷後の段階で行われた。理解され得るように、表面トポグラフィのスキャン結果は、圧下量の増加と共に山頂と谷底がより均一になってEDTトポグラフィを複写することを示す。理解され得るように、Micromillのシート出力は、Micromillの動作パラメータによって変動し、前記パラメータには、表面品質、出力温度、厚さ及び合金組成が含まれる。本出願に開示された高温テクスチャ圧延の動作パラメータは、本明細書に記載の利点を達成するために、温度、圧下率及び粗さRaに関して、前記Micromillにより得られたシートの特定の出力特性に適合するよう調節されることができる。一実施例では、Micromillから出力されたシートの温度は、1100~1000°Fの範囲である。Micromillを出て、周囲温度及びハンドリング装置(鋳造機及び/又は搬送ベルト等)に曝された後、シートは、本開示で教示されるように、圧延及び/又は高温テクスチャ圧延が可能な温度に冷却され固化する。これは、鋳造条件(例えば、スループット速度、凝固状態及び合金組成)により又は他のステップを行なうことにより、ミルの出力と最初の圧延スタンドとの間での冷却を増大させて、これらの間の距離を増加させるか又はスループット速度を低下させることできるならば、970°Fを超える温度で行うことができる。
【0118】
図12は、本開示の一実施形態に従って製造された5XXXのシートアルミニウムに対して、表面粗さRaが5μmのクロスハッチロール24A、24Bを用いて異なる5種類の圧下率で圧延されたアルミニウムシート12の一連の表面トポグラフィのスキャンマップ1212M1~1212M5とラインプロファイル1212S1~1212S5を示す。シートアルミニウムは、
図1に示す装置10のような装置により、厚さが、2.5%、5.5%、9.3%、15.7%、22%減少されている。使用されたテクスチャリングロール24A、24Bは、クロスハッチ研削によってテクスチャ加工されたものである。シートに対する圧下は、シートが930°Fのときに行われ、トポグラフィのスキャンは、ロールラインで急冷後の段階で行われた。理解され得るように、表面トポグラフィのスキャン結果は、山部と谷部の変動が大きく、谷部の一部は深く、研削されたクロスハッチロールの特徴が残った好ましくない表面特徴である。
【0119】
図13Aは、600μin(15μm)RaのEDTを用いて850°Fの温度で圧延して厚さを8%減少させた後、バックグラウンド表面1312ABに表面欠陥1312AD(スクラッチ)を有するシート試料1312Aについて、一連の光学像1312AO、トポグラフィック像1312AT及びラインプロファイル1312APを示す。厚さを減少させる圧延を行なう前のシート試料は、
図9C及び
図9Dに示すように、バックグラウンド表面の粗さRaが1μm、スクラッチの深さが約1000μmであった。
図13Aから理解されるように、EDTテクスチャロールで5%圧下したものは、
図9C及び
図9Dに示されたものと比較してスクラッチ1312ADの認知性は低下した。トポグラフィック像1312AT及びラインプロファイル1312APによって示されるように、スクラッチ1312ADの視覚認知性(visual perceptibility)のこの低下は、表面寸法の変化で観察され、山頂と谷底の差の平均は、圧延前におけるシートの場合よりも45%少ない。圧下率が
図13Bの10%まで大きくなると、スクラッチの深さは70%減少し、
図13Cの20%まで大きくなると、スクラッチの深さは80%減少する。
【0120】
図14Aは、1200μin(30μm)RaのEDTを用いて850°Fの温度で圧延して厚さを5%減少させた後、バックグラウンド表面1512ABに表面欠陥1512AD(スクラッチ)を有するシート試料1512Aについて、一連の光学像1512AO、トポグラフィック像1512AT及びラインプロファイル1512APを示す。厚さを減少させる圧延を行なう前のシート試料は、
図9C及び
図9Dに示すように、バックグラウンド表面の粗さRaが1μm、スクラッチの深さが約1000μmであった。
図14Aから理解されるように、EDTテクスチャロールで5%圧下したものは、
図9C及び
図9Dに示されたものと比較してスクラッチ1512ADの認知性は低下した。トポグラフィック像1512AT及びラインプロファイル1512APによって示されるように、スクラッチ1512ADの視覚認知性のこの低下は、表面寸法の変化で観察され、山頂と谷底の差の平均は、圧延前におけるシートの場合よりも65%少ない。圧下率が
図14Bの10%まで大きくなると、スクラッチの深さは80%減少し、
図14Cの20%まで大きくなると、スクラッチの深さは100%減少する。
【0121】
図15は、600EDT(Ra600μin)又は1200EDT(Ra1200μin)のどちらかのテクスチャを有するEDTテクスチャロールで圧延した後、浅いスクラッチ(深さ約10μm、幅200μm)、中程度スクラッチ(深さ約100μm、幅500μm)及び深いスクラッチ(深さ約200μm、幅約1000μm)に対するスクラッチ深さにおける圧下率のグラフを示す。使用した圧延装置は
図7に示すものと同様であり、
図15のグラフを作成するための測定値は状態S27で採取した。状態S27は中間状態であり、この状態は、テクスチャロール524A、524B(Ra600μin又はRa1200μinの何れかのEDTテクスチャを有する)によって圧延した後であって、テクスチャロール540A、540Bで圧延する前である。浅い深さと中程度の深さのスクラッチは、1200EDTロールによる10%圧下で完全に又は略完全に消滅し、20%圧下では、600EDTロールによる20%圧下での深いスクラッチを除いて、その他スクラッチは全て消滅し、深いスクラッチは、600EDTロールによる20%圧下では80%が消滅したことは注目されるべきである。
【0122】
図16は、コンピュータ1742と表面1712から散乱する光を測定するためのスキャニングデバイス1744とを利用した装置1740を示す。コンピュータ1742は、表面1712の光散乱をモデル化する画像1742Iを表示する。スキャニングデバイスとコンピュータ1742をプログラミングするためのコンピュータソフトウェアは、アリゾナ州ツーソンのThe Scatter Works, Inc.から入手したScatterScope(登録商標)であってよい。
【0123】
図17Aは、本開示に従って処理されたアルミニウムシート1812の光学像1812Oを示しており、前記アルミニウムシートは、Ra200μin(5μm)RaのEDTテクスチャを有するテクスチャリングロール20A、20Bを具える装置10(
図1に示される)で10%圧下されたものである。光散乱シグネチャー1812Sは、試料1812の表面から採取された。
図17Bは、通常のミルで10%圧下されたミル仕上げを有するアルミニウムシート1912の光学像1912Oと、試料1912の表面から採取された光散乱シグネチャー1912Sを示す。通常のミル仕上げを有するシート1912が方向性シグネチャー1912Sを有するのに対し、EDTロールによる光散乱1812Sは、X方向及びY方向の光強度がより均一な(より円形のパターンに近似した)等方性光散乱を示す。
【0124】
図17Cは、本開示に従って処理されたアルミニウムシート2012の光学像2012Oを示しており、前記アルミニウムシートは、Ra200μin(5μm)のテクスチャリングロール20A、20Bを具える装置10(
図1に示される)で25%圧下されたものである。光散乱シグネチャー2012Sは、試料2012の表面から採取された。
図17Dは、通常のミルで25%圧下されたアルミニウムシート2112の光学像2112Oと、試料2112の表面から採取された光散乱シグネチャー2112Sを示す。光散乱2012SのX方向及びY方向の光強度の方向性は、10%圧下でのシート1812の光散乱1812Sと比べると大きいが、それでも、25%圧下でのミル仕上げ2112の光散乱2112Sよりは遙かに小さい。
【0125】
図18Aは、Ra50μin(1μm)のミル仕上げロールによって圧延されたミル仕上げを有するアルミニウムシート試料について、一連の光散乱シグネチャーを示すもので、2212S1は5%圧下、2212S2は10%圧下、2212S3は15%圧下、2212S4は25%圧下によるものである。
【0126】
図18Bは、Ra200μin(5μm)のEDTロールによって圧延されたEDT仕上げを有するアルミニウムシート試料について、一連の光散乱シグネチャーを示すもので、2312S1は5%圧下、2312S2は10%圧下、2312S3は15%圧下、2312S4は25%圧下によるものである。
図18Aと
図18Bの光散乱シグネチャーを比較すると、EDT仕上げは、ミル仕上げよりも、全ての圧下率において方向性が少ないという結論になる。
【0127】
図19Aは、ミル仕上げ表面について、Optimap(登録商標)PSD装置によって得られたテクスチャデータシグネチャー2412DSであり、この装置及び用いられたプロセスの特徴で定量化された方向性テクスチャを示している。
【0128】
図19Bは、EDTでテクスチャ加工された表面に対して、OptimapPSD装置によって得られたテクスチャデータシグネチャー2512DSであり、この装置及び用いられたプロセスの特徴で定量化された方向性が少ないことを示している。
図19A及び
図19Bに示された画像は、試料の表面領域が約95mm×70mmである。光散乱シグネチャー2312S1~2312S4は、試料の試験領域が直径約5mmの円形であるが、その非方向性はシートの大面積にわたって続くことは明らかであり、シート表面の全体が非方向性であることを示す。EDTロールテクスチャは、圧延作業の中で入ってくる非均一な表面を取り除いて、Optimap(Rhopoint Instruments)、Scatterscope(Scatterworks)、3D干渉計又は共焦点顕微鏡などの光学的又はトポグラフィ測定システムで測定可能な等方性表面シグネチャーを生成する。表面シグネチャーは、テクスチャ圧延プロセス及び標準圧延プロセスによって追跡可能であり、表面コーティング又は処理によって強調されることができる。
【0129】
前述の実施例では、例えば10μm~200μmの深さを有するスクラッチ等の表面欠陥を除去するために、比較的低い圧下率(例えば、0%~30%)で、高温、低降伏強度のテクスチャ圧延を用いたが、より大きな表面欠陥を取り除くために、さらに大きな圧下率を適用することもできる。例えば、表面粗さRa600μin又は1200μinを有するEDTロールは、1mmの深さを有するスクラッチその他の表面欠陥を除去するために、最大70%の圧下率を用いることができる。
【0130】
本開示の一態様は、上述の技術を用いて、自動車のボディパネルの成形用として好適な金属シートを製造することである。一実施形態において、本開示の実施形態によって製造された金属シートは、閉鎖パネル(例えば自動車のドア又はフード構造を形成するために互いに結合される金属パネル)を形成するために使用される。別の実施形態では、本開示の方法によって製造された金属シートは、ホワイトボディの少なくとも一部分を形成するために用いられることができる。なお、ホワイトボディという語は、塗装前、即ちガラス、トリム及び可動部品(サスペンション、動力伝達装置等)を取り付ける前の車本体用シート金属アッセンブリのことを記載するために用いられる。
【0131】
本明細書に記載された実施形態は単なる例示であり、当業者であれば、特許請求の範囲に記載の主題の精神及び範囲から逸脱することなく多くの変形及び修正を行うことができることは理解されるべきである。例えば、異なるアルミニウム合金に適合させるために、圧延温度及び圧下率を調節することができる。そのような変更及び修正の全ては、本開示及び特許請求の範囲に含まれるものとする。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の状態で提供されるアルミニウム合金金属シートを圧延して第2の状態を達成するための方法であって、
前記アルミニウム合金金属シートが250~970°F(121.1~521.1℃)の温度であって、前記アルミニウム合金金属シートが常温での降伏強度と比較して低い降伏強度を示す温度にあるときに、前記アルミニウム合金金属シートをEDTテクスチャロールでテクスチャ圧延することを含み、
前記テクスチャ圧延は、前記第1の状態で提供されたアルミニウム合金金属シートの表面を前記EDTテクスチャロールと接触させることを含み、
前記テクスチャ圧延は、前記EDTテクスチャロールのテクスチャを前記アルミニウム合金金属シートの表面に付与して、前記アルミニウム合金金属シートの厚さを減少させることで、前記第2の状態を達成することを含み、
前記テクスチャ圧延により達成された前記第2の状態のアルミニウム合金金属シートの表面は、認知できない表面欠陥と見なされるバックグラウンド表面粗さを有し、
前記バックグラウンド表面粗さが0.1μmRa~2μmRaである、方法。
【請求項2】
EDTテクスチャロールは、1μm~50μmの表面粗さRaを有する、請求項1の方法。
【請求項3】
前記テクスチャ圧延は、アルミニウム合金金属シートの厚さを最大30%減少させることを含む、請求項2の方法。
【請求項4】
前記テクスチャ圧延によるテクスチャの転写は、アルミニウム合金金属シートの表面の60%~100%である、請求項3の方法。
【請求項5】
前記テクスチャ圧延は、アルミニウム合金金属シートの厚さを最大70%減少させることを含む、請求項2の方法。
【請求項6】
前記テクスチャ圧延は、アルミニウム合金金属シートをコイルに巻き取る前の最終圧延ステップである、請求項1の方法。
【請求項7】
前記テクスチャ圧延前、アルミニウム合金金属シートの表面は表面欠陥を含み、前記表面欠陥の深さは、10μm~1mmの範囲である、請求項1の方法。
【請求項8】
前記テクスチャ圧延は、前記EDTテクスチャロールを清浄に、かつ所定温度に保つ工程、及び/又は摩擦を制御する工程を伴い、前記工程は、ワンススルー式潤滑、蒸発ロール冷却、ロール表面コーティング又は高圧水ブラスティングの少なくとも1つによって行われる、請求項7の方法。
【請求項9】
金属を圧延してアルミニウム合金金属シートを製造するための圧延ミルであって、
前記アルミニウム合金金属シートの温度が250~970°F(121.1~521.1℃)である位置に配置されたEDTテクスチャロールを具え、
前記EDTテクスチャロールは、前記250~970°F(121.1~521.1℃)の温度にあるアルミニウム合金金属シートの表面に直接接触するように構成され、
前記EDTテクスチャロールにより圧延されたアルミニウム合金金属シートの表面は、認知できない表面欠陥と見なされるバックグラウンド表面粗さを有し、前記バックグラウンド表面粗さが0.1μmRa~2μmRaである、圧延ミル。
【請求項10】
EDTテクスチャロールによる圧延の前に前記アルミニウム合金金属シートを加熱する加熱装置をさらに具える、請求項9の圧延ミル。
【請求項11】
金属を鋳造する鋳造機をさらに含み、前記鋳造機の生産物は、前記圧延ミルによって圧延された金属鋳造物を含む、請求項9の圧延ミル。
【請求項12】
鋳造は、連続鋳造プロセスによって行われる、請求項11の圧延ミル。
【請求項13】
EDTテクスチャロールは、表面粗さRaが1μm~50μmである、請求項9の圧延ミル。
【請求項14】
EDTテクスチャロールは、前記アルミニウム合金金属シートの厚さを最大70%減少させる、請求項13の圧延ミル。
【請求項15】
EDTテクスチャロールの後に追加の圧延ステーションをさらに含む、請求項9の圧延ミル。
【外国語明細書】