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特開2023-107245生体分解性及び生体代謝性の腫瘍封止剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107245
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】生体分解性及び生体代謝性の腫瘍封止剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20230726BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20230726BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
A61L31/04
A61P35/00
A61K9/107
A61K9/14
A61K49/00
A61L31/04 120
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060636
(22)【出願日】2023-04-04
(62)【分割の表示】P 2021059451の分割
【原出願日】2018-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2017206227
(32)【優先日】2017-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523111979
【氏名又は名称】田中 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】近藤 利江
(72)【発明者】
【氏名】田中 武雄
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA29
4C076AA95
4C076BB12
4C076CC27
4C076FF16
4C081AB13
4C081AC10
4C081BA11
4C081BB02
4C081BB06
4C081CD011
4C081CD021
4C081CD091
4C081CE11
4C081DA15
4C081DC13
4C085HH01
4C085HH13
4C085JJ03
4C085LL18
(57)【要約】
【課題】本発明は、剤による重篤な副作用や放射線被爆がなく、腫瘍細胞を兵糧攻めにす
るという極めてシンプルで侵襲性の低い療法を改善して、根治を可能とする療法に使用さ
れる腫瘍封止剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、ニードルアクセス可能な腫瘍に直接注入可能であり、腫瘍
部位の血管を透過し、腫瘍組織に選択的に集積及び/又は接着し、生体内の水分により膨
潤し、一定時間定着して、腫瘍及び腫瘍周囲の細胞や血管を圧迫し、腫瘍全体を覆うこと
により、血管を含む周辺組織から腫瘍組織を遮断及び/又は隔離する微粒子状の腫瘍封止
剤、あるいは腫瘍部位の血管と腫瘍組織間を遮断する微粒子状の腫瘍封止剤に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高吸水性高分子化合物を基材とする微粒子を含む腫瘍封止剤。
【請求項2】
高吸水性高分子化合物が、下記:
PS1-X-PS2 (1)
(式中、PS1及びPS2は多糖類であり、Xはスペーサーである)
で表される構造を有する、請求項1に記載の腫瘍封止剤。
【請求項3】
PS1及びPS2は同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、βグルカン、キ
チン、キトサン、及びそれらの誘導体、並びにこれらの混合物からなる群から選択される
、請求項2に記載の腫瘍封止剤。
【請求項4】
βグルカン又はその誘導体が、セルロース又はカルボキシメチルセルロースである、請
求項3に記載の腫瘍封止剤。
【請求項5】
Xが、1種以上のポリカルボン酸無水物である、請求項2~4のいずれか1項に記載の
腫瘍封止剤。
【請求項6】
Xが、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物(BTCA)、ポリエチレン
グリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
(BPDA)、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、PEG(ポ
リエチングリコール)400、PEG2000、及びエピクロロヒドリンからなる群から
1種以上選択される架橋剤に由来する、請求項2~4のいずれか1項に記載の腫瘍封止剤
【請求項7】
高吸水性高分子化合物が、下記:
【化1】
(式中、m~rは、100~200である)
からなる群から1種以上選択される、請求項1に記載の腫瘍封止剤。
【請求項8】
微粒子が20nm~500nmの粒子径を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載
の腫瘍封止剤。
【請求項9】
微粒子がエマルションの形態で存在する、請求項1~8のいずれか1項に記載の腫瘍封
止剤。
【請求項10】
微粒子が造影剤及び/又は色素を包含する、請求項1~9のいずれか1項に記載の腫瘍
封止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍部位の血管を透過し、腫瘍組織に選択的に集積及び/又は接着し、生体
内の水分により膨潤し、一定時間定着して、腫瘍及び腫瘍周囲の細胞や血管を包囲し、腫
瘍全体あるいは一部を覆うことにより、血管を含む周辺組織から腫瘍組織を遮断及び/又
は隔離する微粒子状のデバイス、あるいは腫瘍部位の血管と腫瘍組織間を遮断する微粒子
状のデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓がんの低侵襲治療の一つとして、肝動脈塞栓術(TAE:trans-cathe
ter arterial embolization)がある。肝臓の障害度が高く、
手術ができないほど進行している場合など緩和医療や終末期医療に採用されている。これ
は、栄養動脈を塞栓し、血液が運ぶ栄養や酸素の供給を絶ち、がんを兵糧攻めにして死滅
させる治療法である。肝細胞は、肝動脈と門脈血管から栄養等を受けているが、がん化し
た肝細胞は肝動脈からしか栄養供給を受けない。一方、正常な肝細胞では門脈からの血流
が70%を占めているため、肝動脈を塞栓しても正常細胞が死滅することはないと言われ
ている。
【0003】
また、肝動脈塞栓術に抗がん剤を併用する肝動脈塞栓化学療法(TACE:trans
-catheter chemo-embolization)では、造影剤と抗がん剤
の混濁液を注入後に塞栓材で栄養動脈を塞栓する。このとき、混濁液が門脈に流れ出るこ
とがあり、肝動脈と門脈を塞栓して肝梗塞を起こす危険性がある。更に造影剤、抗がん剤
及び塞栓材が胆嚢や膵臓に流れれば胆嚢炎や膵炎になる可能性もある。
【0004】
このような危険性に鑑み、前述のような混濁液ではなく、高分子ポリマーを基材とする
数十μm~数百μm程度の粒子径の球状ビーズ(マイクロスフィア)に抗がん剤を吸着さ
せ、閉塞した血管内で徐放する機能を備えることによって、薬剤等が血管内に一機に流出
することを抑制する塞栓材も出現してきた。
【0005】
塞栓材には、前述のように高分子ポリマーを原材料として体内に永久留置する永久塞栓
材と、デンプンやゼラチンのような生体分解性物質を原材料として分解代謝される一時塞
栓材がある。しかし、多くの一時塞栓材は塞栓効果が充分ではなく、またゼラチンなど動
物由来物質は国内の学会で禁忌とされている。
【0006】
一方、塞栓効果の比較的大きな永久塞栓材では永久留置のリスクを覚悟しなければなら
ない。肝硬変のような元々肝臓の機能が損なわれている場合には、肝エネルギーレベルの
低下に伴って代謝障害が発生し、肝不全を起こしやすくなる。できるだけ肝機能のダメー
ジを抑えるためには、肝動脈と門脈の血流の再疎通が必要になる。
【0007】
そこで、特許文献1は、カテーテルや目的外の血管内において凝集詰まりを起こすこと
なく、血管内の目的部位にて完全に塞栓し、特定時間後に血流閉塞状態が解除され、生体
内で分解され、代謝又は体外に排出する生分解性物質からなる塞栓材を提案している。
【0008】
動脈塞栓療法(TAE/TACE)では、塞栓効果の不十分な一時塞栓材を使用したり
、隙間の生じる球形の塞栓ビーズ等を用いて不完全な塞栓状況が生じると、正常細胞への
血流を阻害してダメージを与えるばかりでなく、腫瘍環境を低酸素状態に導き、悪性化の
元凶となるリスクが高まる。
【0009】
非特許文献1によると、低酸素状態では、正常細胞さえもがんに対抗する免疫細胞の働
きを抑制するタンパク質を分泌し、免疫細胞の一部はがんの味方に回るという。低酸素状
態によって悪性度の低いがん細胞は死滅しても、組織に浸潤して拡大するような悪性度の
高いがん細胞は、他臓器に転移して浸潤能力を高めるという恐るべき状況が現出すること
が記載されている。
【0010】
一般に、がん治療においては、がん組織のみを処置することは極めて難しい。外科的切
除においては、がん細胞の取り残しを避けるため正常組織まで広めに切除する。抗がん剤
を用いる化学療法においては、点滴や静脈注射による投与で全身の正常組織にも大きなダ
メージを与えている。放射線照射においては、粒子線などビームが絞られてきたものの、
放射線の通過する正常組織へのダメージは避けられない。腫瘍組織及び腫瘍細胞のみを選
択的に治療できる療法が望まれる所以である。
【0011】
上記の通り、マイクロカテーテルを用いた療法(TAE/TACE)では、医師の技量
によるところも多いが、マイクロカテーテルを用いて腫瘍近傍の動脈の中から、腫瘍の栄
養動脈を選択的に塞栓することができる。
【0012】
薬物を投与する化学療法では、腫瘍のみを選択に腫瘍に送達させる工夫がなされるよう
になってきた。一つは、腫瘍に特異的な標識を目指して腫瘍細胞のみに薬剤が奏功する分
子標的機能の付与であり、アクティブターゲティング方式と呼ばれている。これに対し腫
瘍組織及び腫瘍細胞に特徴的な性質及び構造に即して薬剤が送達されるパッシブターゲテ
ィング方式もある。
【0013】
パッシブターゲティングの代表的な原理がEPR効果(Enhanced Perme
ability and Retention Effect)である。
【0014】
正常組織の血管は内皮細胞が隙間なく詰まっているため、高分子物質等が血管の途中か
ら漏れ出ることはないが、腫瘍血管は構造的に不完全で内皮細胞間の隙間が大きく、50
nm~500nmであると言われている。500nm以下の粒径を有する微粒子であれば
、腫瘍血管を透過することができる(Permeability)。
【0015】
また、腫瘍組織ではリンパ管が未発達であり、物質の循環が不完全になっている。その
ため腫瘍血管を透過した物質は、結果的に腫瘍近辺に滞留し、集積することになる(Re
tention)。
【0016】
薬剤送達に上記EPR効果を利用したDDS(Drug Delivery Syst
em)製剤の研究も盛んになっているが、実用化された例は少ない。例えば、リュープリ
ンやアドリアマイシンが知られている。薬剤を腫瘍近傍まで送達しても、然るべきタイミ
ングで細胞内に打込まなければ、薬剤としての効果は薄い。このため、細胞内に薬剤を浸
透させる更に巧妙な仕掛けが必要となる。
【0017】
医用材料として、優れた生体適合性、生体分解性、生体環境応答性などの目覚ましい進
歩があり、動物由来のリスクを回避できる人工合成化学物質が開発されている。
【0018】
人工合成化学物質として液晶を形成することが知られている両親媒性化合物において、
ミセル構造、ベクシル構造、デンドリマー構造などの生体接着性に劣るラメラ構造ではな
く、キュービック構造や逆ヘキサゴナル構造などの生体接着性に優れた非ラメラ構造等を
自己組織化する低分子液晶化合物が報告されている(特許文献2、特許文献3)。
【0019】
例えば、特許文献2及び3には、注射剤用基材(特許文献2)や、生体接着性を活かし
た癒着防止剤(特許文献3)が開発されている。しかし、これらの特許文献では、塞栓材
若しくは封止材、又は塞栓若しくは封止の用途に関する記述は無い。
【0020】
また、非特許文献2、特許文献4~5には、非ラメラ液晶を用いた動脈塞栓用塞栓材が
開示されている。しかし、非特許文献2、特許文献4~6に記載の塞栓剤は、両親媒性化
合物と水溶性有機溶媒等との混合液を非ラメラ液晶の前駆体としており、血管内でバルク
の液晶ゲルを形成させて血流を制御し、又は血管を閉塞する血管内に限定した塞栓であっ
て、EPR効果を活用した腫瘍組織への直接的集積や封止を意図していない。
【0021】
これまでに、本発明者らは、EPR効果を活用した腫瘍組織への直接的集積や封止を目
的として、非ラメラ液晶を形成することが可能な低分子の両親媒性化合物を基材とする微
粒子を含む生体分解性腫瘍封止剤を開発した(特許文献7)。しかしながら、細胞障害性
を少なからず有しており、正常組織への障害が懸念された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】特開2004-313759号公報
【特許文献2】国際公開第2011/078383号
【特許文献3】国際公開第2014/178256号
【特許文献4】中国特許第103040741号明細書
【特許文献5】中国特許第101822635号明細書
【特許文献6】中国特許第103536974号明細書
【特許文献7】国際公開第2017/104840号
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】日経サイエンス2014年11月号 R.K.ジェイン「腫瘍血管を味方につける」P61
【非特許文献2】「中国の科学技術の今を伝えるScience Portal China」第48号:新薬の研究・開発-呉伝斌『「放出制御製剤におけるキュービック液晶」についての研究の進展』2010年9月6日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、腫瘍細胞を兵糧攻めにし、具体的には酸素及び栄養を遮断することにより細
胞死に導く療法により、侵襲性が低く、医薬品による副作用や放射線の被爆リスクを排除
し、腫瘍の悪性化を回避し、他の療法との併用療法も可能である、患者のQOLを向上さ
せることができる腫瘍封止剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、高吸水性高分子化合
物を基材とする微粒子が、腫瘍血管内皮細胞の間隙を透過し、血管外の腫瘍組織に集積し
て、生体内の水分と接触することによって膨潤し、ゲル状組成物を形成することにより、
腫瘍への酸素と栄養の供給並びに腫瘍からの誘導因子の伝達を遮断することによって、そ
の腫瘍細胞を壊死に至らしめることを見出し、本発明を完成させた。
【0026】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]高吸水性高分子化合物を基材とする微粒子を含む腫瘍封止剤。
[2]高吸水性高分子化合物が、下記:
PS1-X-PS2 (1)
(式中、PS1及びPS2は多糖類であり、Xはスペーサーである)
で表される構造を有する、上記[1]に記載の腫瘍封止剤。
[3]PS1及びPS2は、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、βグル
カン、キチン、キトサン、及びそれらの誘導体、並びにこれらの混合物からなる群から選
択される、上記[2]に記載の腫瘍封止剤。
[4]βグルカン又はその誘導体が、セルロース、カルボキシメチルセルロース、又は
TEMPO酸化セルロースである、上記[3]に記載の腫瘍封止剤。
[5]Xが、1種以上のポリカルボン酸無水物である、上記[2]~[4]のいずれか
に記載の腫瘍封止剤。
[6]Xが、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物(BTCA)、ポリエ
チレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)、ビフェニルテトラカルボン酸二
無水物(BPDA)、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、PE
G(ポリエチングリコール)400、PEG2000、及びエピクロロヒドリンからなる
群から1種以上選択される架橋剤に由来する、上記[2]~[4]のいずれかに記載の腫
瘍封止剤。
[7]高吸水性高分子化合物が、下記:
【0027】
【化1】
【0028】
(式中、m~rは、100~200である)
からなる群から1種以上選択される、上記[1]に記載の腫瘍封止剤。
[8]微粒子が20nm~500nmの粒子径を有する、上記[1]~[7]のいずれ
かに記載の腫瘍封止剤。
[9]微粒子がエマルションの形態で存在する、上記[1]~[8]のいずれかに記載
の腫瘍封止剤。
[10]微粒子が造影剤及び/又は色素を包含する、上記[1]~[9]のいずれかに
記載の腫瘍封止剤。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、腫瘍細胞を兵糧攻めにする療法によって、抗がん剤等による重篤な副
作用や外科手術による大きな外傷もなく、固形悪性腫瘍を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、細胞間の隙間に本発明のナノデバイス(高吸収性高分子化合物)が侵入する様子を模式化した図である。
図2図2は、ナノデバイスの作用機序を示す図である。
図3図3は、乳癌細胞移植マウスにおいて、本発明のナノデバイスを投与された腫瘍と投与されていない腫瘍におけるルシフェリン発現による発光量の違いから、該ナノデバイスによる抗腫瘍効果を示す図である。
図4図3の担癌マウスへの本発明のナノデバイス投与による腫瘍体積の変化と、非投与腫瘍の体積変化とを比較した図である。
図5図5は、担癌動物モデルにおける抗腫瘍効果を検証した図である。ナノデバイス(封止剤)としてポリアクリルアミド系の高吸水性高分子化合物(本明細書中、「MD2」と称する場合がある)を癌組織に投与し、経時的に腫瘍サイズを測定した。
図6図6は、担癌動物モデルにおける抗腫瘍効果を検証した図である。ナノデバイス(封止剤)としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を原料とした高吸水性高分子化合物(本明細書中、「MD3」と称する場合がある)を癌組織に投与し、投与8日後に腫瘍を摘出し、腫瘍サイズを測定した。
図7図7は、ナノデバイス(MD3)による酸素遮断効果を示す図である。
図8図8は、インビトロにおけるナノデバイス(MD3)によるタンパク質/栄養素の遮断効果を示す図である。タンパク質/栄養素の供給源としてFBSを用い、ナノデバイスによりタンパク質の透過が遮断される割合を示す。
図9図9は、インビトロにおけるナノデバイス(MD3)によるヘモグロビンの遮断効果を示す図である。ヘモグロビンの供給源としてFBSを用い、ナノデバイスによりヘモグロビンの透過が遮断される割合を示す。
図10図10は、インビトロにおけるナノデバイス(MD3)によるグルコースの遮断効果を示す図である。ヘモグロビンの供給源としてFBSを用い、ナノデバイスによりグルコースの透過が遮断される割合を示す。
図11図11は、乳癌細胞移植マウスにおける、ナノデバイス(MD3)による腫瘍血管の阻血効果(酸素濃度減少)を示す図である。
図12図12は、腫瘍内血流の低下をICGを用いた血管造影により測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る腫瘍封止剤は、高吸水性高分子化合物を基材とし、腫瘍血管内皮細胞の間
隙を透過し得る粒子径を有する微粒子であって、この微粒子がその間隙を透過後、高い生
体接着性により間隙近傍に存在する腫瘍組織に付着した後、生体内の水分と接触すること
によって膨潤し、ゲル状組成物によるバリアを形成して、腫瘍への酸素と栄養の供給並び
に腫瘍からの誘導因子の伝達を遮断することによって、その腫瘍細胞を壊死に至らしめ、
その後、付着した微粒子が生体内で分解及び/又は代謝されることを特徴とする。また、
本発明に係る腫瘍封止剤は、上記特徴を有するが、腫瘍への栄養血管を圧迫して血流を阻
止することにより、腫瘍部位での血中の酸素濃度及び栄養供給を減少させ、腫瘍細胞を壊
死させる効果も有することから、本発明の腫瘍封止剤には、上記の付加的効果を有する血
流阻止剤としても機能する。
【0032】
1.高吸水性高分子化合物
本発明の腫瘍封止剤は、水分により膨潤し、ゲル状組成物を形成することができる高吸
水性高分子化合物を含有し、生体分解性及び/又は生体代謝性であってもよい。本明細書
で使用するとき、用語「高吸水性」とは、吸水量又は膨潤率が、乾燥時における基材の重
量又は容積の少なくとも2~10,000倍となる材料の特性を意味する。また、用語「
高分子」化合物とは、一般的には、複数の単量体の繰り返し構造から構成される重合体を
意味するが、本明細書においては、さらに架橋された重合体を含むものを指す。高分子化
合物の分子量は、典型的には、約10kDa~2,000kDaであるが、これに限定さ
れず、使用の目的に応じて適宜変更可能である。なお、本発明において使用される高吸収
性高分子化合物は、後述する式(1)で表される化合物の他に、ポリアクリルアミド、グ
リコサミノグリカン、グリコサミノグリカン架橋体、コラーゲン、コラーゲン架橋体、ポ
リアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ-L-乳酸、ま
たはこれらの誘導体であってもよい。また、本発明において使用される高吸水性高分子化
合物の膨潤度は、上記の通り、重量比又は体積比で2~10,000倍であってもよく、
例えば、2~1,000倍、2~500倍、2~300倍、2~200倍、又は2~10
0倍(上限値として、90倍、80倍、70倍、60倍、50倍、40倍、30倍、20
倍、15倍、10倍、9倍、8倍、7倍、6倍、5倍、4倍、3倍)であり得る。後述す
る式(1)で表される化合物では、X(スペーサー)は架橋剤に由来する分子であるが、
架橋剤を減少させて化合物を合成すると膨潤度及び膨潤速度が高くなる傾向にあった(デ
ータ示さず)。
【0033】
本発明の腫瘍封止剤として使用される高吸水性高分子化合物は、上記の特性を有するも
のであれば限定されないが、典型的には、下記の式(1):
PS1-X-PS2 (1)
(式中、PS1及びPS2は多糖類であり、Xはスペーサーである)
で表される構造を有するものであることが好ましい。より具体的には、上記「PS1」及
び「PS2」は同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、βグルカン、キチン、
キトサン、及びそれらの誘導体、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。当業
者であれば、本発明には、例えば、「PS1」がβグリカンであり、「PS2」がキチン
である高吸水性高分子化合物、又は「PS1」がβグリカンであり、「PS2」がキトサ
ンである高吸水性高分子化合物が包含されることを理解し得る。
【0034】
PS1及びPS2として表される多糖類としては、βグルカン、キチン、キトサン、ア
ミロース、デンプン、グリコーゲン及びそれらの誘導体、並びにこれらの混合物が挙げら
れる。βグルカンには、限定されないが、セルロースが含まれ、また、βグルカンの誘導
体には、典型的には、カルボキシメチルセルロース及びTEMP(2,2,6,6-テト
ラメチルピペリジン-1-オキシル)酸化セルロースが含まれる。
【0035】
上記の式(1)で表される構造中のスペーサー(「X」)は、架橋剤に由来する分子で
あって、多糖(「PS1」及び「PS2」)を架橋反応によって連結させ得るものであれ
ば限定されない。また、Xは、分子間に限らず、分子内の架橋にも使用され得る。より具
体的には、本発明において架橋反応によって多糖類を連結することができる架橋剤として
は、カルボン酸無水物、例えば、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物(B
TCA)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)、ビフェニルテ
トラカルボン酸二無水物(BPDA)、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(
DSDA)、DSDA及びエピクロロヒドリンからなる群から1種以上選択されることが
好ましい。なお、本発明において、使用される高吸水性高分子化合物が、高吸水性となる
ためには、分子内に同種又は異種の解離(イオン)性官能基を有することが好ましい。解
離性官能基としては、典型的には-COONaが例示されるが、水分子の結合と保持
には、このような結合性アニオンと遊離アニオンが不可欠である。また、当業者であれば
、製造した高吸水性高分子化合物の吸水量や膨潤率を好ましい数値となることを目的とし
て、多糖類の種類、使用量及び比率、並びに架橋剤の種類、添加量、比率及び架橋密度(
単に、架橋度としてもよい)などを適宜選択することができる。
【0036】
ゲル状組成物を形成することが可能な高吸水性高分子化合物の例としては、限定されな
いが、下記:
【0037】
【化2】
【0038】
(式中、m~rは、100~200である)
からなる群から1種以上選択される。これらの高吸水性高分子化合物の合成は、周知の技
術を用いて製造されてもよい(例えば、国際公開第WO2012/147255号、特表
2012-12462を参照されたい)。
【0039】
例えば、セルロースを原料とした高吸水性高分子化合物は、その鎖間をテトラカルボン
酸で架橋された構造を有する。該高吸水性高分子化合物を製造する方法は、簡単には以下
の通りである。出発原料であるセルロースを、塩化リチウム(LiCl)/N,N,-ジ
メチルアセトアミド(DMAc)、LiCl/N-メチルピロリドン(NMP)、フッ化
テトラブチルアンモニウム(TBAF)/ジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれか
に溶解させ、室温・常圧下においてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)
を触媒としてポリカルボン酸無水物とエステル架橋反応を行う。ポリカルボン酸無水物と
しては1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物(BTCA)、もしくは3,3
’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)が望ましい。
このエステル架橋反応によって、セルロースの水酸基とカルボン酸無水物間でエステル化
が進行し、セルロース分子鎖間でエステル性架橋が形成されると同時に、カルボン酸無水
物はカルボキシル基に変換される。また、本発明によれば、天然由来高分子鎖に限定され
ず、その誘導体も使用可能である。例えば、セルロースに関しては、カルボキシルメチル
セルロース(CMC)、CMCナトリウムや、アンモニウムCMCを用いてもよい。CM
Cを原料とした高吸水性高分子材料の製造については、後述する実施例2を参考にして行
うことができる。
【0040】
上記エステル架橋反応で得られた反応物をメタノール、アセトンなどの有機溶媒に沈殿
させ、塩基性水溶液によってpH7になるまで中和を行う。この中和反応により、生成し
たカルボキシル基は、カルボン酸塩へ変換される。これら操作によって、吸水性の役割を
果たすカルボン酸塩と、保水性の役割を果たすエステル性架橋された三次元架橋構造とを
持つ生分解性高吸水性高分子が得られる。
【0041】
架橋セルロース、架橋キチンなどの吸水・保水性能は、架橋密度(例えば、ポリカルボ
ン酸架橋密度)に依存するため、架橋剤の仕込み濃度、反応溶媒、原料であるセルロース
などの重合度などを制御することで様々な用途に適した特性を持つ高吸水性高分子化合物
を得ることが可能である。
【0042】
出発原料としては、セルロースの他に、キチン、キトサン、又はアミロースなどの多糖
類、さらにはこれらの混合物を用いても同様の性能を持つ高吸水性高分子を得ることがで
きる。ただし、出発原料としてキトサンや多糖類を用いる場合は、溶媒として酸水溶液と
有機溶媒の混合系、例えば10%酢酸水溶液/メタノール/NMPの1:1:1混合溶媒
などを用いて行うことができる。なかでも綿のセルロースなど、重合度1500以上のセ
ルロースを用いることで、現行市販品と同等以上の吸水性能を持つ生分解性高吸水性高分
子が得られるので好ましい。
【0043】
2.高吸水性高分子化合物の性質
本発明に係る生体分解性及び/又は生体代謝性の腫瘍封止剤に用いる高吸水性高分子化
合物は、水分と接触することによって膨潤し、ゲル状組成物を形成することができる。高
吸水性高分子化合物は、上述したように、広範な環境条件下で高い安定性を示す。上記高
吸水性高分子化合物を腫瘍封止剤として用いる場合、該高吸水性高分子化合物が、生体内
の水分によりゲル状物質として元の容積の数十倍~数百倍に膨潤することによって、腫瘍
細胞表面へ物理的に密着する現象を利用する。
【0044】
本発明に係る高吸水性高分子化合物が膨潤したゲルを形成できる水性媒体としては、特
に限定するものではないが、滅菌水、精製水、蒸留水、イオン交換水、超純水などの水;
生理的食塩水、塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液
、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、酢酸ナトリウム
水溶液等の電解質水溶液;リン酸緩衝溶液、トリス塩酸緩衝溶液などの緩衝溶液;グリセ
リン、エチレングリコール、エタノール等の水溶性有機物を含有する水溶液;グルコース
、スクロース、マルトース等の糖分子を含有する水溶液;ポリエチレングリコール、ポリ
ビニルアルコール等の水溶性高分子を含む水溶液;オクチルグルコシド、ドデシルマルト
シド、プルロニック(ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール/ポリエチレ
ングリコール共重合体)等の界面活性剤を含む水溶液;細胞内液、細胞外液、間質液、リ
ンパ液、髄液、血液、胃液、血清、血漿、唾液、涙、精液、尿などの体液等が挙げられる
【0045】
3.生体分解性及び/又は生体代謝性の腫瘍封止剤
本発明に係る生体分解性及び/又は生体代謝性の腫瘍封止剤は、高吸水性高分子化合物
を基材とし、腫瘍血管内皮細胞の間隙を透過し得る粒子径を有するナノ微粒子であって、
この微粒子がその間隙を透過後、高い生体接着性により間隙近傍に存在する腫瘍組織に付
着した後、生体内の水分と接触することによって膨潤し、ゲル状組成物を形成して、腫瘍
への酸素と栄養の供給並びに腫瘍からの誘導因子の伝達を遮断することによって、その腫
瘍細胞を壊死に至らしめ、その後、付着した微粒子が生体内で分解及び/又は代謝される
ことを特徴とする。
【0046】
上記の通り、本発明の腫瘍封止剤は、腫瘍血管内皮細胞の間隙を透過し得るナノオーダ
ーのサイズであることが必要とされるため、ナノ微粒子の生成では、基材とする高吸水性
高分子化合物の上記エステル重合反応プロセス中に微粒子化を行うことが好ましい。この
ナノ微粒子化には、限定されないが、マイクロフルイディクスを用いて行うことができる
。マイクロフルイディクスは、反応物質の流量及び流速を調整することで反応量を制御で
きるため、したがって、重合反応を進めながら生成するポリマー量に対応した微粒子化を
行うことにより粒径を管理することができるため非常に好ましい。また、マイクロフルイ
ディクスの使用は、上記のように粒子径のコントロールが比較的容易であるだけでなく、
粒子形状が球体に近いこと、化学修飾の工程を付加し易いことが利点として挙げられる。
しかしながら、マイクロフルイディクスで調製されたナノ微粒子は水分を含んだハイドロ
ゲル状態にあるため、フリーズドライにより固体の微粉末状態にすることが好ましい。
【0047】
ナノ微粒子は水分に触れると膨潤するため、水分を遮断するため油性溶液中で保管し、
その脂質と共に水性媒体にてエマルション化することが好ましい。ナノ微粒子をエマルシ
ョンの形態に調製するための水性媒体は、特に限定するものではないが、滅菌水、精製水
、蒸留水、イオン交換水、超純水などの水;生理的食塩水、塩化ナトリウム水溶液、塩化
カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶
液、炭酸ナトリウム水溶液、酢酸ナトリウム水溶液等の電解質水溶液;リン酸緩衝溶液、
トリス塩酸緩衝溶液などの緩衝溶液;グリセリン、エチレングリコール、エタノール等の
水溶性有機物を含有する水溶液;グルコース、スクロース、マルトース等の糖分子を含有
する水溶液;ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を含む水
溶液;オクチルグルコシド、ドデシルマルトシド、プルロニック(ポリエチレングリコー
ル/ポリプロピレングリコール/ポリエチレングリコール共重合体)等の界面活性剤を含
む水溶液;細胞内液、細胞外液、間質液、リンパ液、髄液、血液、胃液、血清、血漿、唾
液、涙、精液、尿などの体液等が挙げられる。
【0048】
上記微粒子の基剤として、上記高吸水性高分子化合物のみ含有してもよいが、さらに、
機能性物質(例えば、薬剤、造影剤、色素など)を包含してもよい。実用上、腫瘍封止剤
の封止状況(具体的には、血管を透過した後に腫瘍部位に付着、留置する状態や、付着後
に徐々に生体分解する経緯)を可視化するために、造影剤や色素のいずれか又はその両者
を含有させてもよい。このように、本発明の腫瘍封止剤は、造影剤及び/又は色素を包含
することができることから、臨床的にがんの診断に応用することができる。
【0049】
造影剤として、X線CT用には、疎水性造影剤であるヨウド系リピオドール、水性造影
剤であるイオパミロン等、MRI用には、Gd(ガドリニウム)系又はFe(鉄)系の磁
性物質、エコー用には超音波リポソーム粒子が挙げられる。これらは、1種類又は2種類
以上を含有させてもよい。
【0050】
また、手術前及び手術中の視認性を確保する色素として、疎水性のクマリンや水溶性の
フルオレセイン、ピラニン、シアニンなどの蛍光色素、ルシフェリンなどの発光色素が挙
げられる。これらは、1種類又は2種類以上を含有させてもよい。
【0051】
さらに、造影剤と色素を同時に、それぞれ1種類又は2種類以上を含有させてもよい。
【0052】
上記高吸水性高分子化合物と造影剤又は/及び色素との配合比は、100:1~1:1
00であってもよく、例えば、95:5、10:1、90:10、10:2、80:20
、10:3、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:8
0、10:90、5:95であり得る。好ましくは100:1~50:50であり、さら
に好ましくは10:1~10:3である。
【0053】
一般的に、腫瘍組織においては、腫瘍抹消血管は新生血管が多く、これらの血管を構成
する血管内皮細胞同士やがん細胞同士は正常細胞より接着性が低下していることから、細
胞と細胞との間には数ナノメートルから数マイクロメートルの隙間がある。その間隙にナ
ノ微粒子を拡散させることができる。図1は、腫瘍組織中の細胞外微小環境における本発
明の腫瘍封止剤、細胞及び間隙のサイズを比較したものである。間隙は間質と呼ばれ、コ
ラーゲンや線維芽細胞、血管(がん組織では新生血管)、リンパ管などで構成される。が
ん組織では、通常、リンパ管が発達しておらず、がん微小環境の間質には、コラーゲンや
線維芽細胞などの存在により微粒子の流動性を阻害している。本発明は、作用機序の1つ
として、この血管内皮細胞同士の間隙を微粒子が透過し、腫瘍組織に集積及び定着すると
いうEPR効果(enhanced permeability & retentio
n effect)を利用したものである。さらに、本発明の腫瘍封止剤は、がん細胞間
の間隙に侵入し、生体内の水分により数百倍に膨潤し、周囲のがん細胞や血管等を圧迫し
て、腫瘍全体を覆うことにより阻血効果をもたらす(図2)。
【0054】
高吸水性高分子化合物を基材とする微粒子は、後述するように、ジェットミルに代表さ
れる乾式粉砕技術、高圧ホモジナイザーやスプレイドライ、フリーズドライなどの湿式粉
砕技術および乳化重合技術やマイクロ流体技術を用いて調製されるが、粒径サイズは均一
ではなく、様々なサイズが混在しているが、20nm~500nmの粒径サイズが主体(
微粒子全体で好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上を占め、場合により10
0%占めてもよい)であって、20nm未満の微粒子又は500nm超の微粒子も存在し
得る。したがって、本明細書において、使用の形態に応じて、微粒子を粒径サイズによっ
て特定する場合、「20nm~500nm」である粒径を有する微粒子には、例えば、「
10nm~200nm」の粒径を有する微粒子、「300nm~700nm」の粒径を有
する微粒子等を排除することを意図しない。一方で、「20nm~500nm」の粒径サ
イズには、例示的に「20nm~400nm」、「20nm~300nm」、「20nm
~200nm」、「20nm~100nm」、「30nm~500nm」、「30nm~
400nm」、「30nm~300nm」、「30nm~200nm」、「30nm~1
00nm」、「40nm~500nm」、「40nm~400nm」、「40nm~30
0nm」、「40nm~200nm」、「40nm~100nm」、「50nm~500
nm」、「50nm~400nm」、「50nm~300nm」、「50nm~200n
m」、「50nm~100nm」、「100nm~500nm」、「100nm~400
nm」、「100nm~300nm」、「100nm~200nm」なども包含すること
が意図される。
【0055】
上記微粒子は、典型的には、任意の順番で、1種類又は2種類以上の上記高吸水性高分
子化合物又はその塩、造影剤又は/及び色素(含有させる場合)、1種類又は2種類以上
の適量の製薬上許容される界面活性剤、及び適量の水性媒体(例えば、生理食塩水、注射
用水)等を加えて撹拌・ホモジナイズすることによって調製できる。
【0056】
上記製薬上許容される界面活性剤としては、製薬又は化粧品分野で使用される任意のも
のを使用することができ、以下に限定するものではないが、例えば、プルロニック(例え
ば、プルロニックF127;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(200EO)(
70PO))、ポリソルベート80(オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン;Twe
en 80)等を用いることができる。
【0057】
一実施形態において、本発明の腫瘍封止剤は、上記微粒子を分散可能な濃度(例えば、
0.001~15重量%)で含んでもよいが、投与対象、投与量などによって決定される
【0058】
上記微粒子の確認方法として、微粒子の構造は、例えば、X線小角散乱(SAXS)や
クライオTEMによって解析できる。また、微粒子の粒子径分布は、例えば、動的光散乱
法やゼータ電位・粒径測定装置などによって測定できる。
【0059】
本発明の微粒子は、上記のように、1種類以上の高吸水性高分子化合物を界面活性剤等
と混合し、撹拌及びホモジナイズすることにより調製することができるが、後述する実施
例1及び2に示されるように、超音波破砕やマイクロ流体技術を用いても調製することが
できる。ここで、「マイクロ流体技術」とは、微小空間で流体を扱う技術の総称であるが
、該技術に使用されるデバイスを「マイクロ流体デバイス」と呼ぶ。これは、半導体微細
加工技術や精密機械加工技術を応用して作製された、深さ及び幅が典型的には数μm~数
100μm程度の流路構造を有する装置である。本明細書では、粉砕法によるフィルタリ
ングあるいは乳化重合技術及びマイクロ流体技術を用いて微粒子を作製しているが、所望
の粒径を有する微粒子を安定に調製することができることから、該技術を用いて微粒子を
作製することが好ましい。なお、微粒子の粒径は、当業者に周知の一般的な方法を用いて
測定することができる。
【0060】
4.生体分解性腫瘍封止剤の性質と特徴
(1)シリンジ又はマイクロカテーテル通過性
本発明に係る腫瘍封止剤は、前述したように、上記高吸水性高分子化合物をナノ微粒子
化して、油性媒体に分散したエマルションを含む。本エマルションによって、シリンジ又
はマイクロカテーテルの通過性を確保している。
(2)腫瘍血管透過性
腫瘍組織に特異的に形成された腫瘍新生血管は、血管を覆うペリサイト(血管周皮細胞
)が減少しているため、腫瘍血管における内皮細胞間の間隙は、正常細胞と比較して広が
っている。その間隙を漏れ出る粒子が存在する。本発明の腫瘍封止剤は、その間隙を通過
するのに十分小さな粒子径を持つ。間隙の大きさは個人差があり、腫瘍種別、部位にもよ
るが、一般に5nm以上700nm以下とされている。
(3)異なる粒子径で構成される分散性
上記腫瘍血管の間隙は大小様々である。本発明の腫瘍封止剤は、粒子径は単一ではなく
数百nm幅の分布をもつエマルションのため、どの間隙からも透過することによって集積
密度を増加させることができる。
(4)腫瘍組織集積性
前述のように腫瘍血管を透過した微粒子は、腫瘍周辺に放出されるが、正常組織と異な
り腫瘍組織では、リンパ管網が未発達である。このため体液と共にリンパ管経由で、他の
部位に運ばれることは無い。従って、放出された微粒子即ち本発明の腫瘍封止剤は、腫瘍
部位に留まる集積性がある。前記(2)と(4)を合わせてEPR効果と呼ぶ。
(5)酸素と栄養の遮断性
本発明の腫瘍封止剤がゲル状態となって集合体化するため、稠密に腫瘍組織を封止する
ことによって、腫瘍細胞は増殖に必要な栄養と酸素が遮断され、細胞死(壊死)に至る。
(6)伝達系転写誘導因子の伝達阻害性
腫瘍組織・細胞からは、各種誘導因子が発せられる。例えば、低酸素ストレス下のがん
細胞から発せられるHIF(低酸素誘導因子)は、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)に
伝達して腫瘍血管新生を促し、腫瘍への栄養と酸素の供給量を増大させ増殖に寄与してい
る。本発明の腫瘍封剤は、腫瘍組織を隙間なく覆い封じ込めることによって、これら腫瘍
から発せられる伝達因子の拡散を阻止することで悪性化を食い止めることができる。
(7)速やかな代謝・排泄
本発明の腫瘍封剤は、腫瘍細胞が壊死するのに十分な時間・期間を経た後は、体内酵素
による分解又は可溶化、一部はさらなる分解などを経て、体外へ排泄される。
(8)視認性及び可視化性
(5)までは本発明の腫瘍封剤の基本的な機能に限定した性質であるが、実用上の機能
として、医師が使用する場面で有用な機能を付加している。
第一が、目視による視認性である。色素(蛍光色素を含む)を包含することによって、
他の医薬品との取り違えリスクを軽減し、更にはマーカーとして手術部位・範囲を表示す
ることで、間違った箇所への施術を回避できる。
第二に、造影剤を包含させることにより、術中の画像装置によるモニタリングで的確な
箇所へ十分な施術が行われている又は行われたかを確認することができる。さらには、造
影剤のみを使用した時のように流出せずに腫瘍部位に定着するため、再度造影剤を注入す
る手術をすることなく、術後の腫瘍の状況を画像装置でモニタリングできる可視化性を有
する。
(9)塞栓性
本発明の腫瘍封止剤は、動脈塞栓用塞栓材としても使用できる。塞栓材としては、永久
塞栓材と同等の塞栓効果を発揮する一時塞栓材として、永久留置リスクを回避でき、更に
腫瘍封止効果と塞栓効果との相乗効果を期待することもできる。
【0061】
5.生体分解性腫瘍封止剤の使用
上記の通りに調製した腫瘍封止剤は、例えば、固形悪性腫瘍を診断及び/又は治療する
ために使用することができる。本明細書で使用するとき、「固形悪性腫瘍」には、有棘細
胞がん、乳がん、皮膚リンパ腫、血管肉腫、肝胆道系のがん、頭頸部がん、肺がん、中皮
腫、縦隔がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、小腸がん、結腸がん、結直腸がん、大腸が
ん、肛門がん、腎臓がん、尿道がん、膀胱、前立腺、尿道がん、陰茎がん、睾丸がん、婦
人科臓器のがん、卵巣がん、内分泌系のがん、皮膚がん、脳を含む中枢神経系のがん;軟
組織及び骨肉腫;並びに皮膚及び眼内起源の黒色腫を含む。使用形態としては、限定され
ないが、1種類又は2種類以上の高吸水性高分子を基材とする微粒子を油性媒体中に分散
させたエマルションの形態で使用してもよく、又は該微粒子を含む医薬組成物として使用
してもよい。このように、本発明の腫瘍封止剤は、固形悪性腫瘍などのがんの診断に適用
可能であるだけでなく、がんの治療に応用することもできることから、「セラノスティク
ス・デバイス」として称することができる。
【0062】
本発明によれば、シリンジ又はマイクロカテーテルを用いて、腫瘍封止剤が腫瘍近傍の
動脈から腫瘍を塞栓及び/又は血流を阻止するように導入されてもよい。一態様において
、本発明の生体分解性腫瘍封止剤は、ニードルアクセス可能ながんを治療対象とすること
ができるため、例えば、シリンジを用いて腫瘍近傍に局所投与することができる。ここで
、導入時の生体分解性腫瘍封止剤の量、濃度、回数、及び頻度等は、対象(被験者)の性
別、年齢、体重、患部の状態等を考慮して、医師及び獣医師が、適宜、調整することがで
きる。ここで、本発明の生体分解性腫瘍封止剤による治療対象は、哺乳動物であることが
好ましく、哺乳動物としては、限定されないが、ヒト、サル等の霊長類、マウス、ラット
、ウサギ、モルモット等のげっ歯類、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤ
ギ、フェレット等が挙げられる。
【0063】
後述する実施例3においては、乳癌細胞移植マウスにエマルション形態の腫瘍封止剤(
実施例1)の100μLを注射器によって、腫瘍近傍の血管より投与(具体的には、注入
)し、抗腫瘍効果が得られた。ヒトへの適用に関しては、これらの乳癌細胞移植マウスの
実験結果に基づいて、単純に体重換算すれば、例えば、ヒトの固形悪性腫瘍に対しては、
本発明の生体分解性腫瘍封止剤を1回あたり10ml~200ml程度の量を腫瘍近傍の
血管より投与することに相当する。また、本発明の生体分解性腫瘍封止剤は、所望の治療
効果が得られるまで、複数回(例えば、2~10回)、適宜、間隔(例えば、1日に2回
、1日に1回、1週間に2回、1週間に1回、2週間に1回)をおいて投与されてもよい
。なお、本発明の生体分解性腫瘍封止剤の1回あたりの投与量(具体的には、注入量)及
び投与頻度は、上記に限定されるものではなく、当業者(例えば、医師又は獣医師)が、
適宜調整して決定され得る。
【0064】
本発明の腫瘍封止剤を医薬組成物として使用する場合には、有効成分としての腫瘍封止
剤の他に、担体、賦形剤、及び/又は安定化剤等を適宜添加して形態で使用されてもよい
。また、本発明によれば、腫瘍封止剤、溶媒(生理食塩水など)、担体等をそれぞれ封入
した容器(バイアル等)、及び使用説明書等を含むキットとして提供される。また、本発
明の腫瘍封止剤は医用材料を包含する。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例
に限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]セルロースを原料とした高吸水性高分子化合物の製造
1gのセルロース(株式会社スギノマシン)を塩化リチウム(LiCl)/N-メチル
ピロリドン(NMP)溶液(5g LiCl/95g NMP)に添加し、室温で2日間
十分に撹拌し溶解させた。触媒としてN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP
)を1.14g添加し、架橋剤として1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物
(BTCA)を3.07g加えて、撹拌しながら24時間室温下で反応させた。このエス
テル架橋反応によって、セルロース分子鎖間に架橋を形成された。その後、反応生成物を
1Lのメタノール溶液中に析出させた後、10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH7
.0に調整した。続いて、沈殿物をホモジナイザーで粉砕し、ガラスフィルターを用いて
ろ過した。ろ過後、メタノールと水を用いて洗浄及びろ過を数回繰り返し、最終的に70
℃の条件で減圧乾燥してセルロース高吸水性高分子化合物を得た。なお、使用した試薬は
、特に明示されていない場合、いずれも東京化成工業株式会社から購入したものである(
以下、同様)。
【0067】
[実施例2]カルボキシメチルセルロース(CMC)を原料とした高吸水性高分子化合物
の合成
1.5M水酸化ナトリウム水溶液100mlをビーカー内で撹拌しながら、5gのCM
C(三晶株式会社)をダマにならないよう少量ずつ加えて完全に溶解させた。架橋剤とし
てポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)を0.5ml添加し、室
温で10分間よく撹拌し、その後、60℃で3時間架橋反応させた。反応生成物のハイド
ロゲルにメタノール200mlを加え、ホモジナイザーで湿式粉砕した。粉砕後、粒状に
なったハイドロゲルの粒子を、ガラスフィルターを用いてろ過した。ろ過後、洗浄液のp
Hが中性付近になるまでメタノールと水を用いて洗浄及びろ過を数回繰り返し、最終的に
70℃の条件で減圧乾燥してCMC高吸水性高分子化合物を得た。
【0068】
[実施例3]腫瘍部位の血流阻止効果に関する評価
(1)乳癌細胞移植マウスの作製
ルシフェラーゼを安定に発現する4T1乳癌細胞(4T1-Luc)を入手し、ヌード
マウスBalb/c nu/nu(日本チャールス・リバー株式会社)の皮下に2.5×
10細胞/mlのPBS/Geltrex(登録商標)=1/1(vol/vol)の
細胞懸濁液を0.04ml移植した。
【0069】
(2)血流阻止効果
上記の乳癌細胞を移植されたマウス腫瘍部位に、実施例1で作製した腫瘍封止剤(エマ
ルション)を局所投与した。投与後、ルシフェラーゼの基質であるD-ルシフェリンを含
むリン酸緩衝生理食塩水を腹腔内投与により投与して血流循環させ、上記乳癌細胞のルシ
フェラーゼ(Luc)活性をIn vivoイメージング装置(IVIS)(Spect
rum)で経時的に観察した。腫瘍部位では、血中のルシフェリンの存在によりLuc活
性に基づいて蛍光が確認される。図3Aに示されるように、エマルションの非投与マウス
では、移植した乳癌細胞のLuc発現により継続的に蛍光を観察できるのに対して、エマ
ルションを投与したマウスでは、投与直後から蛍光が減少したことから、エマルションの
投与により、血中のD-ルシフェリンの腫瘍への送達、エマルション投与により腫瘍部位
への血流が阻止されることが示唆された。また、この観察結果について、非投与マウスに
対する投与マウスにおけるLuc活性の比を算出し、経時的な変化を図3Bとして示す。
【0070】
(3)腫瘍抑制
エマルションを複数回投与した場合の腫瘍体積の変化について検討した。上記(1)に
記載したように、4T1-Lucを移植されたヌードマウスを用いて経時的に観察した。
エマルションの投与は、初回(1日目)、2日目、3日目、及び4日目に行った。腫瘍体
積の経時的な変化を図4に示す。図4から明らかなように、生理食塩水を投与した対照と
比較して、エマルションを投与したマウスの腫瘍体積は減少した。これは、およそ4回投
与後から、腫瘍体積の減少は顕著となった。
【0071】
[実施例4]担癌動物モデルにおける抗腫瘍効果の確認
本実施例では、実施例3で採用された乳癌細胞を皮下移植したマウスを担癌動物モデル
として用い、封止剤として市販のポリアクリルアミド系の高吸水性高分子化合物(粒径:
500~600nm)(三洋化成工業株式会社)(以下、「MD2」と称する場合がある
)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を原料とした高吸水性高分子化合物(粒
径:600~1500nm)(以下、「MD3」と称する場合がある)を用いて、それら
によるバリア形成に基づく抗腫瘍効果を検討した。
【0072】
(1)抗腫瘍効果
高吸収性高分子化合物を含む腫瘍封止剤(生理食塩水に含有する)及び生理食塩水のみ
(対照)をマウスに局所投与し、腫瘍成長の変化を観察した。
【0073】
(a)ポリアクリルアミド系の高吸水性高分子化合物(MD2)による抗腫瘍効果
図5に示されるように、生理食塩水(100μl)のみを投与した対照では、腫瘍成長
が経時的に観察された。これとは対照的に、生理食塩水に高吸水性高分子化合物を含有さ
せた溶液(10mg/ml)を投与した場合には、腫瘍成長を顕著に抑制することができ
た。6日目で比較してみると、両者に有意な差が認められた。
(b)CMC系の高吸水性高分子化合物(MD3)の場合
高吸収性高分子の投与前後による腫瘍体積の変化を測定した結果を図6にまとめた。図
6Aは、ビヒクルとして生理食塩水のみを用いた場合の結果を示す。投与直前の腫瘍体積
を基準として、投与8日後に腫瘍を摘出し、腫瘍体積を比較検討した。生理食塩水のみを
投与した対照では、腫瘍は342%に増大したが、高吸収性高分子を投与した対象では、
69%まで腫瘍体積が減少した。さらに、ビヒクルとして、生理食塩水+リピオドールを
用いた場合の結果を図6Bに示す。図6Aの結果と同様に、腫瘍体積の減少を観察するこ
とができたが、リピオドールの含有によって、腫瘍抑制効果は増大した。
【0074】
(2)封止効果(酸素遮断効果)
本発明の高吸収性高分子化合物(MD3)による腫瘍組織への酸素供給の遮断効果を検
証した。実験動物の腫瘍部位における、高吸収性高分子化合物による低酸素状態を可視化
するために、インビボ光音響3次元断層イメージングMSOT(MultiSpectr
al Optoacoustic Tomography)(機種名:MSOT inV
ision 256-TG;住友ファーマインターナショナル株式会社)を用いた。この
システムでは、ヘモグロビンの酸素飽和度を可視化することにより、画像として、酸素が
豊富な酸化ヘモグロビンを赤色、及び脱酸素の還元ヘモグロビンを青色に区別するこがで
きる。該システムによる低酸素状態を可視化した画像を図7に示す。左右の腫瘍に対して
、高吸収性高分子化合物を投与していない対照の腫瘍(左側)では、酸素が豊富な状態(
赤色)として確認できた。これに対して、高吸収性高分子化合物を投与した腫瘍(右側)
では、脱酸素の状態(青色)として視認され、腫瘍部位は低酸素状態にあることが確認で
きた。これにより、本発明の高吸収性高分子化合物が封止剤として抗腫瘍効果を有するこ
とが示された。
【0075】
[実施例5]インビトロにおける高吸収性高分子化合物のタンパク質及び栄養素の遮断能
力の検討
本発明の高吸収性高分子化合物による腫瘍組織への血中の各種物質の供給遮断は、生体
内の水分と接触による高吸収性高分子化合物の膨潤によるものと考えられる。これを検証
するために、本実施例では、インビトロにおいて高吸収性高分子化合物をゲル化し、ゲル
に対するタンパク質及び栄養素の通過(透過性)を指標として遮断効果を検討した。まず
、高吸収性高分子化合物(MD3)のゲルをPBS(-)を用いて調製した(最終濃度:
0.01g/mL)。次に、底を綿栓した2.5mlのシリンジに、上記で調製したゲル
を所定の容積(0.2、0.5、及び1.0ml)で注入した。続いて、ウシ胎児血清(
FBS)(100%又は10%)をシリンジ内のゲル上に充填した。その後、ゲルを通過
したFBSを回収し、該FBS中に残存する各成分(タンパク質/栄養素、ヘモグロビン
、及びヘモグロビン)の量を、対照の各成分量と比較することによって、ゲルによる封止
効果を検証した。なお、対照は、ゲルを充填せずに、底に綿栓をしたシリンジを通過させ
たFBSである。
【0076】
(1)タンパク質/栄養素の遮断
ゲルを通過して、回収されたFBS中に残存するタンパク質の量を紫外分光光度計によ
り測定し、標準曲線から求めた。ゲルによって遮断されたタンパク質の割合は、対照のF
BS中に存在するタンパク質の量とゲルを通過させた後のFBSに残存する量とを比較す
ることにより算出した。より具体的には、以下の式:
遮断されたタンパク質(%)=(対照中のタンパク質の量-ゲルを通過させた後に残存
するタンパク質の量)×100/対照中のタンパク質の量
により求めた。結果を図8に示す。希釈されたFBS(10%)を用いた場合、ゲルが飽
和に至っていないため、タンパク質の遮断効果が顕著に見られた。希釈していないFBS
(100%)を用いた場合には、ゲルが飽和した状態であるため、希釈したFBSと比較
して、タンパク質の遮断効果は小さかった。容積が0.5ml及び1.0mlのMD3を
用いた場合には、有意差が認められた。
【0077】
(2)ヘモグロビンの遮断
上記(1)のタンパク質/栄養素の遮断実験と同様にして、ゲルによるヘモグロビンの
遮断効果について検討した。結果を図9に示す。容積が0.5mlと1.0mlのMD3
を用いた場合には、ヘモグロビンの遮断効果に有意差が認められた。
【0078】
(3)グルコースの遮断
上記(1)のタンパク質/栄養素の遮断実験と同様にして、ゲルによるグルコースの遮
断効果について検討した。結果を図10に示す。1.0mLのMD3を用いた場合、約8
0%のグルコースがゲルに捕捉されたが、使用したゲルの量により、その効果は顕著に異
なった。また、装填したFBSの濃度の違いによって、遮断効果に差は生じなかった。
【0079】
このように、本発明の高吸収性高分子化合物は、タンパク質/栄養素、グルコース、ヘ
モグロビンなどの血清成分の透過を阻止できることが判明した。
【0080】
[実施例6]腫瘍血管における酸素濃度の測定及び阻血効果の検証
4T1-Luc細胞を移植したマウスを用いて、さらに高吸収性高分子化合物の投与に
よる腫瘍血管の阻血効果(酸素濃度減少)を検証した。該高吸収性高分子化合物(MD3
)の投与から1日後に、光音響3次元断層イメージングで腫瘍内の酸素状態を測定すると
、MD3を投与した側の腫瘍組織(左)では、還元型ヘモグロビン(青色)が増加してい
た(図11)。これにより、腫瘍組織内で血中酸素濃度が減少していることが観察され、
血流が遮断されたことが推定された。
【0081】
さらに、血清タンパク質と結合すると、ピーク波長845nmの発光を発するインドシ
アニングリーン(ICG)を造影剤として用いて、腫瘍組織内の血流を該造影剤の発光シ
グナルを経時的に測定することにより、血流の変化を測定した。MD3が投与された上記
のマウスにおいて、投与1日後に、ICG(株式会社同仁化学研究所、2.5mg/mL
、100μL(320nmol))を投与し、LED(発光ダイオード)照射によって蛍
光を励起させ、近赤外光イメージング装置(パーキンエルマー、IVIS Spectr
um)を用いて撮像し、画像から発光シグナルを測定した(図12)。その結果、MD3
が投与されていない腫瘍組織では、ICGによる発光が観察され、血流があることが観察
された。これに対して、MD3を投与した腫瘍組織では、ICGによる発光が観察されず
、血流が観察されなかった(図12A)。得られた画像からICGシグナルを平均して数
値化し、経時的にプロットした結果を図12Bに示す。MD3を投与していない腫瘍組織
では、ICG投与の直後からそのシグナルが増大したが、MD3を投与した腫瘍組織では
ICGシグナルが増大しなかった。以上の結果から、高吸収性高分子化合物は、腫瘍組織
への血流を遮断できることは判明した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の腫瘍封止剤の微粒子を用いることにより、癌の転移又は浸潤を防ぐ低侵襲性療
法の新たな選択肢が増えることが期待される。また、該微粒子は、塞栓剤として分解性や
可視化機能のアドバンテージを有しており、動脈塞栓療法の新しい塞栓剤としての可能性
が拓け、更に造影剤及び/又は色素を包含することができるため、癌の診断や施術時のマ
ーキング材への応用も展開できる。
【0083】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に
援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明
したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合がある
ことは、当業者に容易に理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12