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  • 特開-締結具の緩み止め構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107270
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】締結具の緩み止め構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 39/28 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
F16B39/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008354
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】522032280
【氏名又は名称】藤原 良
(74)【代理人】
【識別番号】240000268
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人英明法律事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155804
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 健氏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 良
(57)【要約】
【課題】ボルトを確実に締結する締結具の緩み止め構造の提供。
【解決手段】被固定物を、対象物へ固定する押さえボルトの緩み止構造であって、該緩み止め構造は、ボルトと、該ボルトが挿通する補助締結具とから構成され、該ボルトは、ボルト頭と、軸部が円筒部及び雄ねじ部とからなり、前記補助締結具は、保持体と、該保持体の内周面に嵌装固定された一方向回転機構とからなり、前記軸部とは螺合せずに挿通する挿通孔を有し、前記被固定物を前記対象物へ固定するときに、前記軸部の雄ねじ部を前記対象物に設けた雌ねじ部へ螺入するに際し、前記ボルトが締まる方向へ回転したときに該回転トルクは前記一方向回転機構に伝達されずに前記補助締結具は空転し、前記ボルトが緩む方向へ回転したときには該回転トルクは前記円筒部を介して前記一方向回転機構へ伝達される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被固定物を、対象物へ固定する押さえボルトの緩み止構造であって、
該緩み止め構造は、ボルトと、該ボルトが挿通する補助締結具とから構成され、
該ボルトは、
ボルト頭と、軸部が円筒部及び雄ねじ部とからなり、
前記補助締結具は、
保持体と、該保持体の内周面に嵌装固定された一方向回転機構とからなり、
前記軸部とは螺合せずに挿通する挿通孔を有し、
前記被固定物を前記対象物へ固定するときに、
前記軸部の雄ねじ部を前記対象物に設けた雌ねじ部へ螺入するに際し、
前記ボルトが締まる方向へ回転したときに
該回転トルクは前記一方向回転機構に伝達されずに前記補助締結具は空転し、
前記ボルトが緩む方向へ回転したときには
該回転トルクは前記円筒部を介して前記一方向回転機構へ伝達される
押えボルトの緩み止め構造。
【請求項2】
前記被固定物を前記対象物へ固定する際に、
前記補助締結具と該被固定物との間にパッドを介在させ、該パッドにより付勢された状態で固定することを特徴とする請求項1に記載の押さえボルトの緩み止め構造。
【請求項3】
前記一方向回転機構が、前記ボルト頭側へ一部突出して前記保持体へ嵌装固定され、
前記ボルト頭の首下側軸部の周囲に環状溝を設け、
締結時に、前記突出部が該環状溝と嵌合することを特徴とする請求項1に記載の押えボルトの緩み止め構造。
【請求項4】
前記被固定物を前記対象物へ固定する際に、
前記補助締結具と該被固定物との間にパッドを介在させ、該パッドにより付勢された状態で固定することを特徴とし、かつ、
前記一方向回転機構が、前記ボルト頭側へ一部突出して前記保持体へ嵌装固定され、
前記ボルト頭の首下側の軸部の周囲に環状溝を設け、
締結時に、前記突出部が前記環状溝と嵌合することを特徴とする請求項1に記載の押えボルトの緩み止め構造。
【請求項5】
前記パッドは、タイプAのデュロメーターで測定した硬度が65乃至75であることを特徴とする請求項2又は請求項4のいずれかに記載の押えボルトの緩み止め構造。
【請求項6】
前記補助締結具と前記被固定物とを固定したことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の押さえボルトの緩み止め構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結具、特に押さえボルトの緩み止め構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ねじ締結体は、ボルトとこれに螺合するナットとの締付けによってボルトの軸部に発生した軸力(引張力)と、被締結部材に発生した圧縮力(締付力)によって一体化され、両者が釣り合うことでその締結状態が維持される。
【0003】
一方、機械や構造物など奥側が肉厚であってボルトとナットとで被締結部材を挟んで締結できない場合などには、ねじ込んで締め付ける押さえボルトが採用され、肉厚の機械や構造物側に設けた雌螺子に螺合して、ナットを用いずに被締結部材を固定する。
【0004】
緩み止めボルトの構造としては、予めネジ孔に円盤状の受部材を挿入しておき、ボルトの先端に設けた裁頭円錐型の凸部を受部材に偏心篏合させることによって、ボルトに軸方向とは直行する方向の大きな剪断応力を作用せしめ、いわゆるクサビ効果によって確実にボルトをロックすることができるという技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、雌ねじに螺合する締付けねじ部を設けた軸部の上端に、該ねじ部のピッチより大きいピッチを有するゆるみ止めねじ部を設けた押えボルトであって、該ゆるみ止めねじ部に螺合するナット体が組み付けられた技術が開示されている(特許文献2参照)。ピッチの異なるねじ部を設けたことで、高いゆるみ止め効果を期待した技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-37936号公報
【特許文献2】特開2011-38552号公報
【特許文献3】特開平11-117954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の発明によれば、ボルトとは別体の小さな受部材をネジ孔に装着する煩雑な作業が必要となり、特に夜間における作業では該受け部材の装着作業が非常に困難となることがあった。
【0008】
また、特許文献2に記載の発明によれば、異なるピッチのねじ部を設けたことである程度の緩み防止効果は期待できるものの、ボルトとナットによる螺合結合という構造に頼っている限り、ボルトを締め過ぎることでねじ山が潰れたり、ボルト軸が塑性域に入り軸力が失われたり、或いは「遅れ破壊」(一定の引張荷重を受けているねじが、ある時間経過後に、外観上の変形を伴うことなく突然破断する現象。ねじの強度が高いほど発生しやすいといわれる。)など、従来の螺合結合という構造特有の課題を根本的に解決するまでには至っていない。
【0009】
そこで、本願発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意研究の結果、新規な着想を得て本願発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、被固定物を、対象物へ固定する押さえボルトの緩み止構造であって、該緩み止め構造は、ボルトと、該ボルトが挿通する補助締結具とから構成され、該ボルトは、ボルト頭と、軸部が円筒部及び雄ねじ部とからなり、前記補助締結具は、保持体と、該保持体の内周面に嵌装固定された一方向回転機構とからなり、前記軸部とは螺合せずに挿通する挿通孔を有し、前記被固定物を前記対象物へ固定するときに、前記軸部の雄ねじ部を前記対象物に設けた雌ねじ部へ螺入するに際し、前記ボルトが締まる方向へ回転したときに該回転トルクは前記一方向回転機構に伝達されずに前記補助締結具は空転し、前記ボルトが緩む方向へ回転したときには該回転トルクは前記円筒部を介して前記一方向回転機構へ伝達されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記被固定物を前記対象物へ固定する際に、前記補助締結具と該被固定物との間にパッドを介在させ、該パッドにより付勢された状態で固定する前記被固定物を前記対象物へ固定する際に、前記補助締結具と該被固定物との間にパッドを介在させ、該パッPにより付勢された状態で固定することを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、 前記一方向回転機構が、前記ボルト頭側へ一部突出して前記保持体へ嵌装固定され、前記ボルト頭の首下側軸部の周囲に環状溝を設け、締結時に、前記突出部が該環状溝と嵌合することを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記被固定物を前記対象物へ固定する際に、前記補助締結具と該被固定物との間にパッドを介在させ、該パッドにより付勢された状態で固定することを特徴とし、かつ、前記一方向回転機構が、前記ボルト頭側へ一部突出して前記保持体へ嵌装固定され、前記ボルト頭の首下側の軸部の周囲に環状溝を設け、締結時に、前記突出部が前記環状溝と嵌合することを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項2又は請求項4のいずれか記載の構成において、前記パッドは、タイプAのデュロメーターで測定した硬度が65乃至75であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の構成において、前記補助締結具と前記被固定物とを固定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被固定物を対象物へ確実に固定することができることに加え、ボルトとナットという従来の螺合結合構造に頼らないため、ボルトの締め過ぎにより、ねじ山が潰れたり、ボルト軸が塑性域に入り軸力が失われたり、或いは「遅れ破壊」を起こしたりといったことがなくなった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る押えボルトの斜視図である。
図2】本発明に係る押えボルトの正面図である。
図3】本発明に係る押えボルトの使用態様を示すA-A線断面図である。
図4】本発明に係るボルト、補助締結具、パッドを示す構成図である。
図5】本発明に係る補助締結具の構成を示す説明図である。
図6】ワンウェイクラッチの仕組みを示すB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明を構成する各部の大きさや形状、位置関係は本発明の理解を促すことを目的として概略的に記したものである。そして、各構成要素の材料や材質などは好適な組み合わせとして開示するものであり、本発明の主旨を逸脱することなく、この効果を達成可能な変更を妨げるものでない。
【0019】
ボルト1は、ボルト頭10とボルト軸部11から構成され、該ボルト軸部11は円筒部11a及び雄ネジ部11bとからなり、前記円筒部11aは、後述する一方向回転機構22のローラー22bの全長に略相当する長さを確保する。
【0020】
ボルト頭10の首下側軸部11の周囲には、後述する一方向回転機構22の端部22aが嵌合する環状溝dが設けられている。
【0021】
補助締結具2は、六角の外形をなした保持体21と、該保持体21の内周面に嵌装された一方向回転機構22とからなり、前記ボルト軸部11とは螺合しない挿通孔h1を有してなる。
【0022】
ここで、一方向回転機構の代表的な構造と原理は、例えば、前述した特許文献3に開示されているように、互いに同心に組み合わされた2個の部材のうち、一方の部材が両方向回転運動をした場合に、このうちの一方向の回転運動のみを他方の部材に伝達する場合に利用される機構である。この機構は「ワンウェイクラッチ」とも称され、具体的には、例えば、日本精工株式会社から発売されている「シェル型ローラクラッチ」を利用することができる。
【0023】
本実施の形態においては、一方向回転機構22は、保持体21の内周面へ嵌装される際に該一方向回転機構22の端部22aをボルト頭10側へ一部突出して固定するものとする。このような構成とすることで、該突出部22aは前記環状溝dと嵌め合う構造となることから、一方向回転機構22内への防塵・防水効果をもたらす。
【0024】
被固定物Aを、対象物B(ここでいう対象物とは、機械や建造物など、被固定物Aを固定する対象を指す。)へ取り付ける際の手順について説明する。
予め被固定物Aにはボルト軸11bが挿通する孔h2を穿ち、対象物Bには予めボルト11Bの雄螺子に螺合する雌螺子B1を螺設する。なお、対象物Bの材質によっては雄螺子を回転させながら対象物Bへ雌螺子B1を設けることとしても良い。
【0025】
被固定物Aを対象物Bの所定位置へ合わせ、補助締結具2及びパッドPをボルト軸11へ挿通した状態の押さえボルト(図1)のボルト軸11bを、被固定物Aの孔h2を介して対象物Bの目螺子B1へ螺合させ、ボルト頭10を締め付けることで、被固定物A、対象物B、補助締結具2、ボルト1とで一体的な締結状態が得られる。
【0026】
このとき、補助締結具2と被固定物Aとの間に樹脂製パッドPを介在させたことで該パッドPの弾性により付勢された状態で固定されることとなり、より安定した締結状態を維持することができる。なお、該パッドPはタイプAのデュロメーターで測定した硬度が65乃至75が好適である。
【0027】
補助締結具2の一方向回転機構22は、ボルト軸の円筒部11aに相対し、該円筒部11aの一方向の回転時(図6(A))にはローラー22bへは該回転トルクは伝わらず、他方向の回転時(図6(B))には該回転トルクは伝わる。即ち、ボルト1を締め付ける方向(右回転)へと回転させたときには、該回転トルクは該ローラー22bへは伝わらず、該ボルト1を緩める方向(左回転)へと回転させようとすると、該回転トルクが該ローラー22bへ伝わる構造である。
【0028】
ボルト1を締結すると、ボルト1、補助締結具2、被固定物Aそして対象物Bとで一体的な締結状態を形成する。該締結状態を緩めるためにはボルト1を左回転させなければならないところ、同回転方向のトルクは該一方向回転機構22により前記ローラー22bへと伝わるが、補助締結具2自体が締結固定されており、容易に回転することはない。しかもパッドPの付勢も相俟っていることから補助締結具2を同方向へ回転させるには、一方向回転機構22を破壊するほどの力を加える必要があり、通常の使用状態においてそのような力が加わる可能性は低い。
【0029】
本実施の形態によれば、ボルトの締め過ぎにより、ネジ山が滑ったり、ボルト軸が切れたりということがなくなるとともに被固定物を対象物へ確実に固定し、該締結状態を安定して維持することができるようになった。
【比較例】
【0030】
本発明と、通常のボルト・ナットを比較試験体として対比試験(NAS3350準拠ねじの緩み評価試験/JFEテクノリサーチ株式会社)を行った。
・試験装置:動電式振動試験装置(IMV社製i230)
・試験規格:米国航空企画NAS3350加速振動試験
<試験方法>
「比較試験体」:治具にボルトを螺合し、ワッシャーを介してナットで締結した締結体をスロットに設けた長穴内で自由に上下振動させ、当該締結体に衝撃を繰り返し加えた。
「本発明」:治具に本発明の軸部分を螺合し、補助締結具で締め付けた締結体を、同上、スロットに設けた長穴内で自由に上下振動させ、当該締結体に衝撃を繰り返し加えた。
振動数等は、共に以下の条件による。
・規定振動数:30Hz
・規定振動幅:11.4±0.4mmp-p
・規定衝撃幅:19mm
・規定振動回数:30,000回(約17分)
【0031】
上記試験の結果、通常のボルト・ナットにおいては、試験時間1分8秒で締結体が脱落したのに対して、本発明品においては試験時間1分34秒、即ち1.4倍の時間、締結状態を維持することができた。
【実施例0032】
前記実施の形態とは異なる実施例として、該補助締結具2と被固定物Aとを任意の手段・方法により固定するとした実施例を開示する。任意の手段・方法とは、該補助締結具と被固定物の材質等を考慮して効果的に接着可能であれば、特に限定しない。なお、他の構成要件等については、前記実施の形態と同じである。
【0033】
本実施例によれば、仮にボルト1に左回転(ボルトが緩む方向)の力がかかったとしても一方向回転機構22が機能しており、該ボルト1が同方向に回転することはない。よって、許容トルクを超えて該機構が破損するほどの力がでないかぎり、ボルト1が緩むことはない。
この点、通常のボルト・ナット構造と比較すると、仮にナットを被固定物へ固定して該ナットが回転しないとしても、ナットと螺合するボルトが緩む方向への回転そのものを防ぐ工夫ではないため、緩み防止という観点では、このような固定に意味はない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、特に、機械や構造物など奥側が肉厚であってボルトとナットで被締結部材を挟んで締結できない場合に利用される、いわゆる押さえボルトの代替技術として、幅広く利用が期待できるものである。
【符号の説明】
【0035】
1 ボルト
10 ボルト頭
11 軸部
11a 円筒部
11b ねじ部
2 補助締結具
21 保持体
22 一方向回転機構
22a 突出部
22b ローラー
A 被固定物
B 対象物
d 環状溝
h1 挿通孔
h2 ボルト通し孔
P パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6