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特開2023-107277フィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107277
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】フィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/36 20060101AFI20230727BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20230727BHJP
   A61Q 1/14 20060101ALI20230727BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20230727BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20230727BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230727BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230727BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20230727BHJP
   C12P 7/40 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
C07C229/36 CSP
A61K31/197
A61K8/44
A61Q1/14
A61Q5/00
A61Q19/00
A61K8/06
A61P43/00 107
A61P35/00
A61P29/00
C12N5/071
C12P7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008364
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】504447198
【氏名又は名称】二村 芳弘
(72)【発明者】
【氏名】二村 芳弘
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C083
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B064AD02
4B064AD07
4B064CA10
4B064CA11
4B064CC15
4B064CC30
4B064DA01
4B064DA20
4B065AA93X
4B065AC14
4B065BB08
4C083AC581
4C083AC582
4C083BB51
4C083CC01
4C083CC02
4C083DD21
4C083DD23
4C083DD30
4C083DD31
4C083DD41
4C083EE12
4C206AA01
4C206AA02
4C206AA03
4C206FA53
4C206KA04
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB11
4C206ZB22
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB12
4H006AB20
4H006AB28
4H006BN20
4H006BN30
4H006BS10
4H006BU40
(57)【要約】
【課題】 フィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体。
【解決手段】 フィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体は1分子のジテルペンと1分子のL-チロシンより構成されている。これらは共有結合により結合しているため、体内への蓄積性は少なく、安全である。その製造方法はチノリモを原料として乳酸桿菌で発酵させる発酵法または細胞培養法のいずれかである。フィブロネクチンの活性化を介したヒト表皮細胞の増殖性を示すことから美容領域や化粧料として利用される。また、ヒト角化細胞順化培養液乳化オイル、ヒト線維芽細胞順化培養液乳化オイルまたはヒト脂肪細胞順化培養液乳化オイルとして利用される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で示されるフィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はフィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィブロネクチンは細胞外マトリックスの一つを構成する糖たんぱく質であり、細胞の機能性及び細胞増殖性に関与している。フィブロネクチンは血液凝固因子として発見され、癌細胞の表面にも発現することから、機能には多様性を有すると考えられている。また、細胞の成長因子受容体との反応性が認められたことから、細胞の成長を調節する因子として研究されてきた。
【0003】
特に、フィブロネクチンの活性化は細胞の機能亢進と細胞増殖に関わることから、アンチエイジング分野で美容領域においても研究が行われた。
【0004】
フィブロネクチンの活性化に関係した発明として幹細胞の製造に用いられるフィブロネクチンフラグメントの発明がある。ここでは、フィブロネクチンを利用して種々の細胞への分化能力を保持した幹細胞を製造する方法が記載されている。(例えば、特許文献1参照)。しかし、特定の物質については開示されておらず、製造方法の領域である。
【0005】
また、例えば、単離されたフィブロネクチンIII型(FN3)ドメインであって、前記FN3ドメインが、ヒト血清アルブミンのドメインIまたはIIIに特異的に結合し、前記FN3ドメインの血清半減期が、配列番号67のアミノ酸配列を有するTencon25タンパク質の血清半減期よりも少なくとも10倍高い、単離されたFN3ドメインの発明があり、ここでは、血清中でのフィブロネクチンに関する検出に関する検索がなされている(例えば、特許文献2参照)。このようにフィブロネクチンに関する多くの研究と発明がなされている。しかし、細胞機能を亢進させ、正常な細胞機能と細胞増殖に関するフィブロネクチンの利用に関する発明は認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特願2018-530429
【特許文献2】特願2018-562935
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、既存の植物エキスによるフィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用は著しく軽度であり、産業上への利用が限定されるという課題がある。一方、化学合成された物質では安全性に問題があり、その利用が限られている。
【0008】
そこで、副作用が弱く優れたフィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈する天然由来の物質が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は下記の式(1)示されるフィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体に関するものである。
【0010】
【化1】
【発明の効果】
【0011】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
【0012】
請求項1に記載のジテルペン誘導体によれば、副作用が少ない、かつ、優れたフィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈する天然由来の物質が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
【0014】
フィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体とは以下の式(1)で示される構造からなる。
【0015】
【化2】
【0016】
ここに示したジテルペン誘導体はフィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈する。表皮細胞にはEGF受容体が存在し、EGF受容体がEGFを受け取り、表皮細胞の増殖を示す。EGF受容体の近傍にはフィブロネクチンが存在し、フィブロネクチンが活性化されることにより、EGF受容体が活性化されるという作用機序である。
【0017】
すなわち、ここで示すジテルペン誘導体はリガンドであるフィブロネクチンと結合する際、その結合の結合定数であるkm値を低下させる。これにより反応性が高まるというハイパーセンシティビディを引き起こす。かつ、ジテルペン誘導体は結合最大値であるVmaxも増大することから、結合中心とその周辺のサポート部分の両方の作用機序により働く。
【0018】
このジテルペン誘導体は式(1)で示すように1分子のジテルペンと1分子のL型チロシンより構成されている。分子式はC28H43N1O5であり、炭素28個、水素43個、窒素1個及び酸素5個から構成されている。
【0019】
このジテルペン誘導体はジテルペン及びL型チロシンを原料として有機化学的に合成することができ、標準品として構造解析の目的で利用できる。すなわち、テルペン、チロシンを利用し、エステル化結合反応、離脱反応、加水分解反応と縮合反応など有機化学的合成工程を組み合わせることにより目的とするジテルペン誘導体は製造される。このように合成された誘導体は、ダイヤイオンHP-20(三菱化学(株)社製)及びXAD-2またはXAD-4(ロームアンドハース社製)、セファデックスLH-20(アマシャムファルマシア社製)、イオン交換担体IRA-410(ロームアンドハース社製)、逆相担体DM1020T(富士シリシア社製)により精製され、純度95%以上の精製品を得ることができる。
【0020】
このジテルペン誘導体の構造は核磁気共鳴装置(例えば、ブルカー製NMR)により、CDCL3中における1H-NMRと13C-NMRの解析を行うことにより解析される。この構造は500MHzの1H-NMR解析により、0.95、1.37、1.38、1.39、1.56、2.36、2.52、2.63、3.16、3.41、3.60、3.85、4.09、4.72、4.83、5.93、5.99、6.62、6.70、7.49及び7.92ppmにピークが認められる。
【0021】
さらに、CDCL3中13C-NMRの解析により、14.1、22.6、25.6、28.3、29.3、29.7、31.8、33.3、34.0、35.8、36.4、45.5、51.2、56.2、56.5、80.7、93.7、117.6、127.1、127.9、131.4、134.4、146.0、164.8、170.0、172.8及び173.8ppmにピークが認められる。
【0022】
構成成分であるジテルペンとチロシンは共有結合により結合している。すなわち、チロシンのベンゼン環のメタ位とテルペンがメチレンを介して共有結合している。一般にジテルペンは自然界に存在しており、その安全性も高い。ここで示すジテルペン誘導体は過剰量を摂取した際には生体内で分解され、排泄されることから安全性が高い。また、体内や環境中での蓄積性は認められず、環境への安全性も高い。
【0023】
ここで示したジテルペン誘導体はテルペン部分に二重結合を有し、電子が豊富な状態を示すことから、還元作用を発揮する。この還元作用によりフィプロネクチンが安定化してさらに、細胞膜の電位も安定する。この還元作用により表皮細胞の細胞膜が安定的に保持される。また、このジテルペン誘導体は水溶性と脂溶性の両性を示し、特に、油脂などの脂溶性溶媒には乳化状態として存在する特性がある。乳化状態であるため、脂溶性と水溶性の境界に位置する皮膚細胞の細胞膜にも取り込まれやすい点は好ましい。
【0024】
このジテルペン誘導体はフィプロネクチンに直接結合してフィプロネクチンを安定化させる。フィプロネクチンは細胞膜マトリックスとして細胞間結合や細胞間の情報伝達に関与している。フィプロネクチンの活性化により、遺伝子の働きも安定することは好ましい。
【0025】
このジテルペン誘導体によるフィプロネクチン活性化の方法は感度の向上であり、いわゆる、ハイパーセンシティビティであり、フィブロネクチンの感度を高める。それとは別に、このジテルペン誘導体は肥満細胞ではヒスタミンの脱顆粒を抑制して炎症反応やアレルギー反応を抑制する。一方、このジテルペン誘導体の過剰量は肝臓や腎臓に存在している非特異的なエステラーゼにより分解され、ジテルペン及びチロシンが産生される。
【0026】
ジテルペン、アスパラギン酸及びチロシンはいずれも天然界に存在しており、安全性も確認されていることから、このジテルペン誘導体の安全性は高い。
【0027】
また、このジテルペン誘導体は脂肪に蓄積されることはなく、体内で濃縮されないことから蓄積性の毒性も少ない。さらに、環境に対しても蓄積性もなく、安全である。
【0028】
さらに、このジテルペン誘導体は皮膚以外でも上皮細胞の細胞外に存在するフィブロネクチンを活性化して細胞外マトリックスを増加させ、組織を保護する。たとえば、神経細胞や筋肉細胞、腸管細胞、肺胞上皮細胞も安定化させる。
【0029】
このジテルペン誘導体の製造方法としては有機化学的に合成する方法があり、その他に植物、野菜類、藻類や動物から抽出する方法、また、植物などを発酵して得ることが可能である。特に、ローヤルゼリー発酵エキスを培地としてヒト皮膚表皮細胞、ヒト皮膚線維芽細胞またはヒト脂肪細胞を培養して得られる培養上清にも含有されることから、培養上清を乳化する方法はジテルペン誘導体の製造方法として好ましい。
【0030】
このうち、ジテルペン誘導体の製造方法として発酵法により植物から製造されることは安全性が高く、製造効率が高いことから好ましい。発酵に用いられる植物としてはジテルペンを含有している緑茶、緑豆などの豆類、ラベンダーなどのハーブ類、ベルガモットやミカンなどの柑橘類が適している。特に、ジテルペンを豊富に含む藻類、特に、チノリモ(学名Porphyridium purpureum)などの紅藻類が原料として好ましい。さらに、チノリモを乳酸桿菌により発酵させた発酵液を精製する製造方法により製造されるフィブロネクチン活性化作用を介した表皮細胞増殖作用を呈するジテルペン誘導体とすることにより製造方法を限定した目的とするジテルペン誘導体が特定されることは好ましい。この発酵法による製造方法は化学合成による製造方法とは異なり、天然に存在する製造方法であり、不純物も天然物となることから安全性の点においても好ましい。
【0031】
この発酵の製造方法としてはチノリモを原料として乳酸桿菌により発酵する方法があり、これは目的とするジテルペン誘導体が多く産生され、かつ、天然の方法である。化学合成ではないことから、化粧品原料の他に、食用原料としても利用される。
【0032】
たとえば、清浄な発酵タンクにチノリモと乳酸桿菌を添加し、好気下で発酵される。
【0033】
原料となるチノリモは、日本産、中国産、アメリカ産、ロシア産などいずれの産地でも良いが、日本国内で採取されたチノリモはジテルペン含量が高いことから好ましい。
【0034】
チノリモは使用に際して洗浄して乾燥後、株式会社奈良機械製作所製の自由ミル、スーパー自由ミル、サンプルミル、ゴブリン、スーパークリーンミル、マイクロス、減圧乾燥機として東洋理工製の小型減圧乾燥機、株式会社マツイ製の小型減圧伝熱式乾燥機DPTH-40、エーキューエム九州テクノス株式会社製のクリーンドライVD-7、VD-20、中山技術研究所製DM-6などの粉砕機で粉砕される。この粉砕により発酵の工程が効率的に進行しやすいことから好ましい。
【0035】
用いる乳酸桿菌は学名Lactobacillusの真正細菌類ラクトバチルス科に属する微生物であり、食用や化粧品原料の製造に利用されている有用菌である。乳製品ではチーズやヨーグルト、野菜類では糠漬けなどに利用されている。
【0036】
この乳酸桿菌は安全性が高く、使用経験がある菌である。このうち、株式会社 秋田今野商店で取り扱われている乳酸桿菌は清酒用でもあり、乳酸酸性の環境を作り、発酵を効率的に実施することから好ましい。
【0037】
前記の発酵に関するそれぞれの添加量は、チノリモ1重量に対し、乳酸桿菌0.002~0.01重量が好ましい。乳酸桿菌は発酵される前に、前培養することは、発酵の初発時間を短縮し、発酵時間が短縮されることから好ましい。
【0038】
前記の発酵は清浄な培養用タンクで実施され、滅菌された水道水により前記の材料を混合することは好ましい。
【0039】
また、この発酵は、38~44℃に加温され、発酵は5日間から18日間行われる。発酵後、90℃程度の加温により乳酸桿菌が死滅し、発酵が停止される。この発酵の工程によって目的とするジテルペン誘導体が製造される。
【0040】
このような発酵工程で得られる他に、細胞培養法によっても製造される。すなわち、ローヤルゼリー発酵エキスを培地としてヒト皮膚表皮細胞、ヒト皮膚線維芽細胞またはヒト脂肪細胞を培養して得られる培養上清にも含有されることから、培養上清を乳化する方法はジテルペン誘導体の製造方法として好ましい。また、これらのヒト細胞順化培養液乳化オイルは細胞の由来によってヒト角化細胞順化培養液乳化オイル、ヒト線維芽細胞順化培養液乳化オイルまたはヒト脂肪細胞順化培養液乳化オイルに分類され、それぞれが化粧品原料として利用される。
【0041】
前記の発酵法または細胞培養法により生成されたジテルペン誘導体は脂溶性と水溶性の両性を示すことから含水エタノールで抽出されることは、生成物を効率良く回収でき、次の工程が実施しやすいことから、好ましい。また、得られたジテルペン誘導体を超音波破砕処理することは、生成物が分離しやすいことから、好ましい。また、凍結乾燥などにより、濃縮することは、以下の工程が短時間に実施できることから好ましい。
【0042】
前記のジテルペン誘導体を分離し、精製することは純度の高い物質として摂取量を減少させることができる点から好ましい。この精製の方法としては、分離用の樹脂などの精製操作を利用することが好ましい。
【0043】
例えば、分離用担体または樹脂により分離され、分取されることは好ましい。分離用担体または樹脂としては、表面が後述のようにコーティングされた、多孔性の多糖類、酸化珪素化合物、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリプロピレン、スチレン-ビニルベンゼン共重合体等が用いられる。0.1~300μmの粒度を有するものが好ましく、粒度が細かい程、精度の高い分離が行なわれるが、分離時間が長い欠点がある。
【0044】
例えば、逆相担体または樹脂として表面が疎水性化合物でコーティングされたものは、疎水性の高い物質の分離に利用される。陽イオン物質でコーティングされたものは陰イオン性に荷電した物質の分離に適している。また、陰イオン物質でコーティングされたものは陽イオン性に荷電した物質の分離に適している。特異的な抗体をコーティングした場合には、特異的な物質のみを分離するアフィニティ担体または樹脂として利用される。
【0045】
アフィニティ担体または樹脂は、抗原抗体反応を利用して抗原の特異的な調製に利用される。分配性担体または樹脂は、シリカゲル(メルク社製)等のように、物質と分離用溶媒の間の分配係数に差異がある場合、それらの物質の単離に利用される。
【0046】
これらのうち、製造コストを低減することができる点から、吸着性担体または樹脂、分配性担体または樹脂、分子篩用担体または樹脂及びイオン交換担体または樹脂が好ましい。さらに、分離用溶媒に対して分配係数の差異が大きい点から、逆相担体または樹脂及び分配性担体または樹脂はより好ましい。
【0047】
分離用溶媒として有機溶媒を用いる場合には、有機溶媒に耐性を有する担体または樹脂が用いられる。また、医薬品製造または食品製造に利用される担体または樹脂は好ましい。
【0048】
これらの点から吸着性担体としてダイヤイオン(HP-20型またはHP21型、三菱化学(株)社製)及びXAD-2またはXAD-4(ロームアンドハース社製)、分子篩用担体としてセファデックスLH-20(アマシャムファルマシア社製)、分配用担体としてシリカゲル、イオン交換担体としてIRA-410(ロームアンドハース社製)、逆相担体としてDM1020T(富士シリシア社製)がより好ましい。
【0049】
これらのうち、ダイヤイオンHP-20型、セファデックスLH-20及びDM1020Tはさらに好ましい。
【0050】
得られた抽出物は、分離前に分離用担体または樹脂を膨潤化させるための溶媒に溶解される。その量は、分離効率の点から抽出物の重量に対して1~35倍量が好ましく、4~25倍量がより好ましい。分離の温度としては物質の安定性の点から4~30℃が好ましく、10~25℃がより好ましい。
【0051】
分離用溶媒には、水、または、水を含有する低級アルコール、親水性溶媒、親油性溶媒が用いられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが用いられるが、食用として利用されているエタノールが好ましい。
【0052】
セファデックスLH-20を用いる場合、分離用溶媒には低級アルコールが好ましい。シリカゲルを用いる場合、分離用溶媒にはクロロホルム、メタノール、酢酸またはそれらの混合液が好ましい。
【0053】
ダイヤイオンHP-20型及びDM1020Tを用いる場合、分離用溶媒はメタノール、エタノール等の低級アルコールまたは低級アルコールと水の混合液が好ましい。
【0054】
また、活性を含む画分を採取して乾燥または真空乾燥により溶媒を除去し、粉末または濃縮液として得ることは溶媒による影響を除外できることから、好ましい。
【0055】
また、最終抽出を食用油や化粧料に用いる油脂で実施することは、得られる活性部分が油の中で安定に維持することから好ましい。例えば、大豆油、米ぬか油、グレープシード油、オリーブ油、ホホバ油で抽出することは好ましい。
【0056】
医薬品として注射剤または経口剤または塗布剤などの非経口剤として利用され、医薬部外品としては、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、石鹸、塗布剤、ゲル剤、歯磨き粉等に配合されて利用される。
【0057】
経口剤としては錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。前記の錠剤及びカプセル剤に混和される場合には、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤等とともに用いることができる。前記の錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。
【0058】
また、前記のカプセル剤の場合には、上記の材料にさらに油脂等の素材を含有させることができる。前記のシロップ剤及びドリンク剤の場合には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤等を添加することができる。
【0059】
非経口剤としては、軟膏剤、クリーム剤、水剤等の外用剤の他に、注射剤が挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールド等が用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤等とすることができる。
【0060】
注射剤には、液剤があり、その他、凍結乾燥剤がある。これは使用時、注射用蒸留水や生理食塩液等に無菌的に溶解して用いられる。
【0061】
食品製剤として抗炎症や美容を目的とした美容食品、抗炎症や美容を目的とした食品、ダイエット食品、肝臓細胞の維持を目的とした滋養強壮剤などに利用される。また、保健機能食品として、栄養機能食品や特定保健用食品に利用することは好ましい。
【0062】
得られた食品製剤をイヌやネコなどのペットや家畜動物に利用する場合、上皮細胞増殖作用を含む全身の健康を維持する目的として、飼料やサプリメントとして利用される。
【0063】
化粧料として常法に従って界面活性化剤、溶剤、増粘剤、賦形剤等とともに用いることができる。例えば、クリーム、毛髪用ジェル、洗顔剤、美容液、化粧水等の形態とすることができ、フィブロネクチン活性化を介した抗炎症作用を促進する化粧料となる。化粧料の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状または粉末状として用いることができる。また、ローヤルゼリー発酵エキスを培地としてヒト皮膚表皮細胞、ヒト皮膚線維芽細胞またはヒト脂肪細胞を培養して得られ、それぞれヒト角化細胞順化培養液乳化オイル、ヒト線維芽細胞順化培養液乳化オイルまたはヒト脂肪細胞順化培養液乳化オイルとして化粧品原料として利用される。
【0064】
また、植物活性化剤として植物の細胞壁や細胞膜成分を介した増殖作用機序により植物を元気にさせる用途にも使用できる。豆類、穀物、米類、根菜類や花にも使用でき、植物のフィブロネクチンを活性化させ、細胞の反応性を高めて収穫高や品質を高め、植物の生育と寿命を高める。切り花の保持にも利用できる。
【0065】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。なお、これらは一例であり、素材、原料や検体の違いに応じて常識の範囲内で条件を変更させることが可能である。
【実施例0066】
チノリモ(学名Porphyridium purpureum)を用いた。株式会社くらこんホールディングス(大阪府)が販売する乾燥チノリモは北海道や東北産であり、品質が高いことから好ましい。乾燥したチノリモ1kgをミキサーで攪拌した。
【0067】
得られたチノリモの粉砕物を清浄な発酵タンク(大脇エンジニア製、150kg容量)に入れた。
【0068】
これに水道水8Lに懸濁した。このチノリモ懸濁液をオートクレーブ(トミー精巧製、SR-240)に入れて121℃で滅菌した。
【0069】
これとは別に株式会社秋田今野商店から購入した乳酸桿菌を滅菌水に懸濁して37℃で1日間発酵させて前培養液とした。
【0070】
チノリモ懸濁液に前培養液0.1kgを添加して39℃から42℃の発酵タンクで7日間発酵させた。発酵の程度はジテルペン誘導体の分析、気泡の発生及び発酵液の色の変化などで観察した。7日間の発酵後、発酵液を98℃の沸騰湯槽に入れて20分間加温し、滅菌させた。これを冷却後、ろ過し、ろ液3.3Lを得た。これをジテルペン誘導体含有エキスとした。これを使用まで冷暗所保管した。
【0071】
前述のジテルペン誘導体含有エキスの3Lに6%エタノール含有精製水1Lを添加した。これを濾紙により濾過し、濾液をダイヤイオンHP-20型(三菱化学製)200gを6%エタノール液に懸濁・充填したカラムに供した。
【0072】
これに3Lの10%エタノール液を添加して清浄し、さらに、20%エタノール液を2L添加して洗浄した。この後、60%エタノールを供して目的とするジテルペン誘導体を溶出させた。精製されたジテルペン誘導体を減圧蒸留により、エタノール部分を除去し、水溶液とした。この精製工程を3回繰り返した。3回目の水溶液を減圧乾燥後、乾燥させ、粉末とし、これを検体1とした。
【0073】
以下にジテルペン誘導体の同定試験について説明する。
(試験例1)
【0074】
上記のように得られた実施例1のジテルペン誘導体である検体1をCDCL3を溶媒として核磁気共鳴装置(NMR、ブルカー製)で解析した。
【0075】
その結果、CDCL3中における500MHzの1H-NMR解析により、0.95、1.37、1.38、1.39、1.56、2.36、2.52、2.63、3.16、3.41、3.60、3.85、4.09、4.72、4.83、5.93、5.99、6.62、6.70、7.49及び7.92ppmにピークが認められた。
【0076】
さらに、CDCL3中13C-NMRの解析により、14.1、22.6、25.6、28.3、29.3、29.7、31.8、33.3、34.0、35.8、36.4、45.5、51.2、56.2、56.5、80.7、93.7、117.6、127.1、127.9、131.4、134.4、146.0、164.8、170.0、172.8及び173.8ppmにピークが認められた。
【0077】
以下に、13C-NMRの解析結果のチャートを示した。(横軸単位はppm、縦軸単位はピーク強度を示す。)
【0078】
つまり、実施例1の検体1は有機化学的に合成し精製された標準品と同一の分析結果を示した。これらの分析により目的とするジテルペン誘導体と同定された。すなわち、1分子のジテルペンとチロシンより構成され、式(1)で示す構造体と同一であった。また、高速液体クロマトグラフィーにより単一ピークを示す目的とするジテルペン誘導体が同定され、その純度は98.2%であった。
【0079】
以下に、フィブロネクチン活性化を介したヒト表皮細胞増殖作用の確認試験について述べる。
(試験例2)
【0080】
フナコシ株式会社より購入したヒト表皮細胞(商品名表皮角化細胞 (Epidermal Keratinocytes))と専用培地(CnT-PR)を試験に用いた。購入したヒト表皮細胞を専用培地にて懸濁して培養シャーレ(35mm径ファルコン製)に播種して37℃、5%炭酸ガス下で培養した。細胞の増殖性を確認後、細胞をトリプシン含有PBS溶液に懸濁して新しい培養シャーレに培地1mLとともに1000個の細胞を播種した。これを1日間培養し、ここに上記の検体1及びEGF(ヒト組換え体/動物由来物フリー型、富士フィルム和光純薬製)をPBSに溶解して最終濃度0.1mg/mLで添加した。溶媒対照として同量のPBSを添加した。これを48時間培養した。
【0081】
48時間後、生細胞数をトリパンブルー色素法により顕微鏡下で計数した。その結果、検体1の0.1mg/mlの添加により細胞数は溶媒対照群に比して平均値として230%に増加した。また、対照としたEGF添加では細胞数は対照群に比して188%となった。すなわち、検体1はEGFよりも優れた表皮細胞増殖作用を示した。
【0082】
さらに、前記の検体処理した表皮細胞についてフィプロネクチンの活性化状態をBIA(GE社製、T200型)法により定量した。BIAとはBiophysical Interaction Analysisのことである。つまり、生物物理学的相互作用解析法であり、生体内での分子間相互作用を測定する方法である。基盤にフィプロネクチン(富士フィルム和光純薬製、フィブロネクチン溶液、ヒト血漿由来)をコートしてこのフィプロネクチンとの細胞懸濁液との反応性を定量した。
【0083】
その結果、検体1を添加した表皮細胞のフィブロネクチンとの結合性のkm値は溶媒対照群に比して平均値として79%に減少し、Vmaxは186%に増加した。このkm値が減少するということは低濃度でもフィブロネクチンが結合することを示している。Vmaxは最大結合数であり、このVmaxが高いことは結合の最大値が高いことであり、結合が促進されていた。
【0084】
これらの結果から、検体1はフィブロネクチンを活性化して表皮細胞増殖作用を発揮したことになる。一方、対照としたEGFの添加群ではフィブロネクチンとの結合性のkm値は溶媒対照群に比して平均値として101%、Vmaxは102%であった。EGFはフィプロネクチンを活性化せず、細胞を増殖させることが判明した。
【0085】
以下にヒト癌細胞のアポトーシス誘導試験について述べる。なお、この試験方法は生化学的及び分子生物学的に有効成分の働きを検証できる再現性のある常法であり、試験成績も豊富であり、信頼性も高い方法であり、アポトーシス誘導にもフィブロネクチン活性化作用が関係している。
(試験例3)
【0086】
コスモバイオ株式会社から購入したヒト乳癌細胞株(MCF-7、No.300273、Human Breast Adenocarcinoma)を用いた。培養液として専用の培養液を用いて培養した1000個の細胞を35mm培養シャーレに播種し、5%炭酸ガス下、37℃で培養した。
【0087】
ここに、前記の実施例1で得られた検体1及び陽性対照として抗がん剤であるマイトマイシンC(ナカライタスク製、1mg/ml)をいずれも10mg/mlの最終濃度で添加した。これを48時間培養した。
【0088】
培養終了後、乳癌細胞数を顕微鏡的に計数した。さらに、上記と同様の方法により乳癌細胞のフィブロネクチンを測定した。また、アポトーシスの指標としてPI染色した後、核の断片的変形(アポトーシス像)を蛍光顕微鏡下で計数した。
【0089】
その結果、検体1の10mg/ml添加により乳癌細胞数は溶媒対照群に比して平均値として56%に減少した。一方、マイトマイシンCでは69%となった。この結果、検体1の方がマイトマイシンCよりも優れた乳癌細胞の抑制作用を呈した。
【0090】
また、BIAによるフィブロネクチン活性化作用測定の結果、対照群に比して検体1の添加ではVmaxは188%に増加し、フィブロネクチンの活性化作用を示した。アポトーシス像の計数では溶媒添加対照に比して222%のアポトーシスの増加を認めた。この結果は検体1が癌細胞抑制作用を増強することを示している。
【0091】
一方、安全性試験の一環として人工皮膚であるEpiSkin(SkinEthic社製)を用いた皮膚刺激性実験では、検体1の添加により刺激性は認められず、安全性が確認された。なお、この方法は細胞を用いる皮膚刺激性試験評価法として動物を使用しない方法として確立されている。
【0092】
さらに、目的とするジテルペン誘導体は上記のような発酵工程で得られたと同様に、ヒト細胞培養法によっても製造された。すなわち、ローヤルゼリー発酵エキスを培地としてヒト皮膚表皮細胞、ヒト皮膚線維芽細胞またはヒト脂肪細胞をそれぞれ培養して得られる培養上清を脂溶性溶媒により抽出して精製した。これにより発酵工程と同レベルの純度98.3%の目的とするジテルペン誘導体を製造することができた。得られたジテルペン誘導体は発酵法で得られたジテルペン誘導体と同様の生理活性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明で得られるジテルペン誘導体はフィブロネクチンの活性化作用を介した表皮細胞の増殖作用を示し、かつ、副作用が少ないことから、国民のQOLを改善し、健康な労働人口を増加させ、かつ、医療費を削減できる。
【0094】
本発明で得られるジテルペン誘導体はフィブロネクチンの活性化作用を介して癌細胞を減少させる作用を有することから、制癌の目的で利用できる。
【0095】
本発明で得られるジテルペン誘導体は食品としても利用できることから食品業界の発展に寄与する。