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特開2023-107311パラ型全芳香族コポリアミド繊維及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107311
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】パラ型全芳香族コポリアミド繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/80 20060101AFI20230727BHJP
   D02J 1/22 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
D01F6/80 331
D02J1/22 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008433
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 悟
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
【テーマコード(参考)】
4L035
4L036
【Fターム(参考)】
4L035BB04
4L035BB11
4L035BB18
4L035BB66
4L035BB69
4L035BB81
4L035BB91
4L035EE20
4L035MG01
4L036MA06
4L036PA12
4L036UA07
4L036UA25
(57)【要約】
【課題】パラ型全芳香族コポリアミド繊維が本来有する強度、弾性率、耐熱性を維持しながら、耐摩耗性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】パラ型全芳香族コポリアミド繊維であり、繊度が1650~5000dtex、密度が1.3900~1.5000g/cm、ASTM D6611に準拠した耐摩耗性が12500回以上、であることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミド繊維を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ型全芳香族コポリアミドからなる繊維であって、パラ型全芳香族コポリアミド繊維の繊度が1650~5000dtex、密度が1.3900~1.5000g/cm、ASTM D6611に準拠した耐摩耗性が12500回以上、であることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【請求項2】
該パラ型全芳香族コポリアミド繊維の破断強度が20.0cN/dtex以上である請求項1に記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【請求項3】
該パラ型全芳香族コポリアミド繊維の破断強度当りの耐摩耗性が500(回)/(cN/dtex)以上である請求項1または2に記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【請求項4】
該パラ型全芳香族コポリアミド繊維がコポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミドである請求項1~3のいずれか1項に記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維。
【請求項5】
該パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法であって、該パラ型全芳香族コポリアミド繊維を多段延伸し、全延伸倍率に対する最終延伸倍率の比率が0.40~0.90であることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維、及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、パラ型全芳香族コポリアミド繊維が本来有する強度、弾性率、耐熱性を維持しながら、耐摩耗性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維を代表とするパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、高強力、高モジュラス、高耐熱性等に優れた繊維である。その高機能性を活かして、産業用繊維として様々な分野で使用されている。
【0003】
そのひとつとして、パラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いたロープは従来から知られており、例えば特開平11-286830号公報(特許文献1)等、数多くの提案がなされている。
しかしながら、従来のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、機械的強度には優れるものの、耐摩耗性が悪く、これをロープにして繰り返し使用すると毛羽立ちが発生し、強度が低下するという問題があった。
【0004】
特許文献2には、繊維表面にポリウレタン樹脂を含浸させ熱硬化性樹脂で被覆させることで、耐摩耗性が向上することが提案されている。
特許文献3には、繊維表面に融点50~90℃の炭化水素系ワックスが処理剤有効成分の80重量%以上を占める処理剤が、繊維重量を基準として4~10重量%溶融付着させることで、耐摩耗性が向上することが提案されている。
【0005】
特許文献4には、繊維にポリシロキサンおよび/またはフッ素系樹脂を被覆させることで、耐摩耗性が向上することが提案されている。
特許文献5には、繊維表面全体にシラン系コート剤を繊維に対する付着量が1~100重量%の範囲で付着させることで、耐摩耗性が向上することが提案されている。
【0006】
特許文献6には、繊維表面をプラズマ照射処理して大きさ10nm~1μmの凹凸を形成させた後、無電解メッキ法及び/又は電解メッキ法により金属をコーティングさせることで、耐摩耗性が向上することが提案されている。
しかしながら、これらの文献に記載の方法では、加工する手間とコストがかかってしまうだけでなく、パラ型全芳香族コポリアミド繊維が本来有する強度、弾性率、耐熱性を有効に活用できない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-286830号公報
【特許文献2】特開昭62-78276号公報
【特許文献3】特開平10-237767号公報
【特許文献4】特開平11-269737号公報
【特許文献5】特開2005-273066号公報
【特許文献6】特開2006-328599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術を背景になされたものであり、その目的は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維が本来有する強度、弾性率、耐熱性を維持しながら、耐摩耗性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、該パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造において、該繊維を多段延伸し、全延伸倍率に対する最終延伸の延伸倍率の比率を0.40~0.90にすることでパラ型全芳香族コポリアミド繊維が本来有する強度、弾性率、耐熱性を維持しながら、耐摩耗性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維が得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、
1.パラ型全芳香族コポリアミドからなる繊維であって、パラ型全芳香族コポリアミド繊維の繊度が1650~5000dtex、密度が1.3900~1.5000g/cm、ASTM D6611に準拠した耐摩耗性が12500回以上、であることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミド繊維、
2.該パラ型全芳香族コポリアミド繊維の破断強度が20.0cN/dtex以上である前記1に記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維、
3.該パラ型全芳香族コポリアミド繊維の破断強度当りの耐摩耗性が500(回)/(cN/dtex)以上である前記1、または2に記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維、
4.該パラ型全芳香族コポリアミド繊維がコポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミドである前記1~3のいずれか1項に記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維、そして、
5.該パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法であって、該パラ型コポリアミド繊維を多段延伸し、全延伸倍率に対する最終延伸倍率の比率が0.40~0.90であることを特徴とするパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維が本来有する強度、弾性率、耐熱性を維持しながら、耐摩耗性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維が得られる。本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維はロープの材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維>
本発明におけるパラ型全芳香族コポリアミドは、パラ型の芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、パラ型の芳香族ジアミン成分とからなるパラ型全芳香族ポリアミドを主成分とするパラ型全芳香族コポリアミドであり、m-フェニレンジアミン、等、パラ位以外の結合を形成する成分を少量用いた全芳香族コポリアミドを共重合成分として含んでいてもよい。ここで主成分とは全繰り返し単位の90モル%以上を指し、少量とは10モル%未満であることを指す。
【0014】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法>
本発明におけるパラ型全芳香族コポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライド(以下「酸クロライド」ともいう)成分と、芳香族ジアミン成分とを低温溶液重合、または界面重合などにより反応せしめることにより得ることができる。
【0015】
[パラ型全芳香族コポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
パラ型全芳香族コポリアミドの製造において、使用される芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。
【0016】
例えば、パラ型の芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、テレフタル酸クロライド、2-クロルテレフタル酸クロライド、2,5-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライドなどが挙げられる。
【0017】
これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。これらのなかでは、汎用性や得られる繊維の機械的物性等の観点からテレフタル酸ジクロライドが好ましい。なお、本発明においては、イソフタル酸ジクロライド等、パラ位以外の結合を形成する成分を用いてもよい。
【0018】
(芳香族ジアミン成分)
パラ型全芳香族コポリアミドの製造において、使用される芳香族ジアミン成分としては特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。
例えば、p-フェニレンジアミン、2-クロル-p-フェニレンジアミン、2,5-ジクロル-p-フェニレンジアミン、2,6-ジクロル-p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフォンなどを挙げることができ、主成分としてパラ型の芳香族ジアミン成分を用いる。
【0019】
これらは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。
これらのなかでは、高温熱延伸における安定性の観点から、p-フェニレンジアミンと3,4’-ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせ、またはp-フェニレンジアミンと4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが好ましい。
【0020】
p-フェニレンジアミンと4,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30~70モル%、70~30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40~60モル%、60~40モル%、最も好ましくは、それぞれ45~55モル%、55~45モル%とする。
【0021】
またパラフェニレンジアミンと3,4’-ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、パラフェニレンジアミンと3,4’-ジアミノジフェニルエーテルの全量に対して、それぞれ90~100モル%、10~0モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ95~100モル%、5~0モル%とする。
【0022】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分のモル比として、0.90~1.10の範囲とすることが好ましく、0.95~1.05の範囲とすることがより好ましい。
【0023】
芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分のモル比が0.90未満、または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0024】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸ジクロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、-25℃~100℃の範囲とすることが好ましく、-10℃~80℃の範囲とすることがより好ましい。
【0025】
[重合溶媒]
パラ型全芳香族コポリアミドを重合する際の溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。
【0026】
これらの溶媒は、1種単独であっても、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、前記で用いられる溶媒は、100ppm以下に脱水されていることが望ましい。
【0027】
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族コポリアミドに対する溶解性等の観点から、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0028】
[その他重合条件等]
生成するパラ型全芳香族コポリアミドの溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時のいずれかに、一般に公知の無機塩を適当量添加することもできる。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0029】
また、パラ型全芳香族コポリアミドの末端は、封止することもできる。末端封止剤を用いて末端を封止する場合には、例えば、フタル酸クロライドおよびその置換体、アニリンおよびその置換体等を末端封止剤として用いることができる。
【0030】
また、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために、脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩等を併用することもできる。
反応の終了後は、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加し、中和反応を実施してもよい。
【0031】
[重合後処理等]
上記のようにして得られるパラ型全芳香族コポリアミドは、アルコール、水等の非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族コポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得たポリマー溶液をそのまま紡糸用溶液(ポリマードープ)に調整して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族コポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記パラ型全芳香族コポリアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0032】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法>
本発明におけるパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、従来公知の方法(特開昭60-110918、特開平8-311715)にしたがって製造することができる。本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造するにあたっては、湿式紡糸法または半乾半湿式紡糸法を採用し、先ず、パラ型全芳香族コポリアミドおよび溶媒を含む均一な紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整し、紡糸口金から吐出する。
【0033】
[紡糸・凝固]
本発明の繊維の製造においては、上述の如く調整された紡糸用溶液(ポリマードープ)を用いて、湿式紡糸法、またはエアギャップを設けた半乾半湿式紡糸法によって繊維を成形する。
すなわち、先ず、上記で得られた紡糸用溶液(ポリマードープ)を紡糸口金から吐出し、続いて、凝固浴中の凝固液に接触させて繊維を形成する。
【0034】
凝固液としては、ポリマー(パラ型全芳香族コポリアミド)の貧溶媒が用いられるが、紡糸用溶液(ポリマードープ)の溶媒が急速に抜け出して、得られるパラ型全芳香族コポリアミド凝固糸に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。貧溶媒としては水、良溶媒としてはパラ型全芳香族コポリアミドドープ用の溶媒を用いることが好ましい。良溶媒/貧溶媒の質量比は、パラ型全芳香族コポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85~40/60の範囲とすることが好ましい。15/85より低い場合は凝固した糸中に欠陥ができやすくなる為、好ましくない。40/60より高い場合は凝固速度が遅く、繊維を引き取る速度が限られてしまう為好ましくない。
【0035】
[水洗・乾燥]
凝固で得られた繊維を凝固液から引き上げた後、水洗浴に通しながら水洗して繊維中に残留する溶媒を除去する。水洗液としては、ポリマー(パラ型全芳香族コポリアミド)の貧溶媒が用いられるが、水を用いることが好ましい。水洗水に用いられる液体の温度は特に限定されるものではないが、30~80℃の範囲が好ましい。30℃より低い場合は水洗効率が落ちる為、好ましくない。80℃より高い場合は安全上好ましくない。また必要に応じて水洗中で予備延伸を実施してもよいが、水洗での予備延伸倍率(=水洗後の走行糸速度/水洗前の走行糸速度。水洗倍率とも称す。)は1.00~1.40倍の範囲が好ましい。更に好ましくは1.00~1.30倍である。1.00倍未満だと糸にかかる張力が足りず、ローラーに巻きやすい為、好ましくない。1.40倍を超える場合は水洗での単糸切れもしくは断糸が発生しやすくなる。
【0036】
水洗後の繊維を水洗液から引き上げた後、乾燥ローラー又は非接触型の乾燥機に通しながら繊維中の水を除去する。乾燥条件は特に限定されるものではなく、繊維を十分に乾燥できる条件であれば問題ないが、作業性や糸の熱劣化を考慮すると、温度は150~250℃の範囲が好ましい。
【0037】
[延伸工程]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維(以下、繊維と記載することがある)は、全延伸倍率に対する最終延伸倍率の比率が0.40~0.90になるよう多段延伸させる必要がある。好ましくは0.55~0.90、より好ましくは0.60~0.85である。
【0038】
最終延伸倍率の比率が0.40未満であると、本願の目的とする高い耐摩耗性が達成することが困難であり、最終延伸倍率の比率が0.90を超えると、断糸等が発生し工程安定性が好ましくない。
【0039】
本発明での全延伸倍率とは、水洗工程での予備延伸倍率×延伸工程での延伸倍率である。
具体的には、乾燥工程を経た繊維をまず300~400℃の比較的低温で延伸し、次いで400~600℃、好ましくは400~550℃の高温で延伸を行って最終延伸倍率の比率が0.40~0.90にするよう多段延伸する。
【0040】
全延伸倍率はついては特に制限はないが、1.50~15.00倍が好ましく、更に好ましくは3.00~15.00倍、より好ましくは6.50~12.00倍である。全延伸倍率が15.00倍より超えるの場合、最終延伸での加熱が難しくなり、延伸断糸しやすくなる。全延伸倍率が1.50倍未満の場合、破断強度が低くなり、ロープとして使用できないことがある。
【0041】
多段延伸の回数は2~3段が好ましく、最も好ましくは2段である。1段以下の延伸の場合、単糸間の融着が起こり易く、繊維の物性・品位が低下してしまう。4段以上の延伸の場合、製造装置の自体のスケールが大きくなってしまうので、好ましくない。
【0042】
[その他工程]
延伸後は公知の方法によって、油剤付着、巻取り工程を経て最終的なパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得ることができる。
【0043】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維の物性>
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維の繊度が1650~5000dtex、密度が1.3900~1.5000g/cm、ASTM D6611に準拠した耐摩耗性が12500回以上、の特性を有するパラ型全芳香族コポリアミド繊維であり、かかる特性を有することにより、パラ型全芳香族コポリアミド繊維が本来有する強度、弾性率、耐熱性を維持しながら耐摩耗性に優れ、例えばロープの材料として用いることができる。
【0044】
<繊維の繊度>
本発明の繊維の繊度は、1650~5000dtexであることが必要であり、好ましくは2000~3400dtexである。繊維の繊度が1650dtex未満の場合、撚糸などの後加工の際、糸切れしやすい為、好ましくない。繊維の繊度が5000dtexを超える場合には、最終延伸工程での加熱が難しくなり、均一な延伸が困難となり、好ましくない。
【0045】
<繊維の密度>
本発明の繊維の密度は、ASTM D1505に準拠し、比重測定装置(柴山科学器械製TypeB)を使用し、密度勾配菅法で評価され、かかる繊維の密度が1.3900~1.5000g/cmであることが必要があり、好ましくは1.3900~1.4000g/cmであり、より好ましくは1.3930~1.4000g/cmである。繊維の密度が1.500g/cmより大きい場合には、本発明の繊維を用いたロープが重くなってしまう為、好ましくない。一方、繊維の密度が1.3900g/cmより小さい場合には、本発明の繊維の配向結晶が十分でなく、良好な破断強度が得られない。
【0046】
<繊維の耐摩耗性>
本発明の繊維の耐摩耗性は、ASTM D6611に準拠し、糸と糸を交叉させることにより糸同士を摩擦させ、破断するまでの摩擦回数であり、かかる繊維の耐摩耗性が12500回以上であることが必要である。繊維の耐摩耗性は、好ましくは13000回以上である。繊維の耐摩耗性が12500回より小さい場合には、繊維の耐摩耗性が低い為、ロープとして使用できないことがある。
【0047】
<繊維の単糸繊度>
本発明の繊維を構成する単糸の繊度は、0.5~20.0dtexであることが好ましい。より好ましくは0.8~10.0dtexであり、さらに好ましくは0.8~8.0dtexである、さらに好ましくは1.6~5.0dtexである。単糸繊度が0.5dtex未満の場合には、最終延伸工程での断糸が起こり易い為、好ましくない。単糸繊度が20.0dtexより大きい場合には、耐摩耗性は良好となるもののロープが固くなるため、好ましくない。
【0048】
<繊維の破断強度>
本発明の繊維の破断強度は、20.0cN/dtex以上であることが好ましい。20.0cN/dtexより小さい場合には、繊維自体の強度が低い為、ロープとして使用できないことがある。
【0049】
本発明の繊維は低い破断強度でも優れた耐摩耗性を示す。破断強度(cN/dtex)当りの耐摩耗性(回)は500(回)/(cN/dtex)以上が好ましい。さらに好ましくは600(回)/(cN/dtex)以上であり、特に好ましくは700(回)/(cN/dtex)以上である。破断強度当りの耐摩耗性が500(回)/(cN/dtex)未満の場合は、いくら強度が高くても耐摩耗性が劣る為、ロープとして使用できないことがある。
【0050】
<繊維の油剤付着量>
本発明の繊維に付着させる油剤の種類は特に限定されるものではない。従来公知の油剤を任意に使用することができる。油剤の付着量は特に限定はなく、水分量を0%に換算したパラ型全芳香族コポリアミド繊維に対して0.1~5.0質量%が好ましい。より好ましくは0.3~5.0質量%である。
【実施例0051】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0052】
(1)紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に、パラフェニレンジアミン50質量部と3,4’-ジアミノジフェニルエーテル50質量部を投入した後、テレフタル酸ジクロライド100質量部を添加し、重縮合反応を行ってコポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミドの紡糸用溶液(ポリマードープ)を得た。このときのポリマー濃度は6質量%、ポリマーの極限粘度(IV)は3.38(98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定)であった。
【0053】
(2)凝固工程
得られた紡糸用溶液(ポリマードープ)を用い、1000個の孔数を有する紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%、温度50℃の水溶液中に紡出して凝固させ、で繊維を得た(半乾半湿式紡糸法)。凝固させた繊維をドラフト比(凝固浴からの繊維の引き取り速度/ポリマードープの吐出線速度)1.6で凝固浴から引き取った。
【0054】
(3)水洗・乾燥工程
凝固浴から引き取った繊維を60℃の水洗浴に通して倍率1.22倍で予備延伸しながら通過させ、繊維中の残留するNMPを除去した。水洗浴を経た繊維は200℃に設定した乾燥ローラに接触させて、繊維中に含まれる水分を完全に除去した。
【0055】
(4)その他工程
乾燥工程を経た繊維を熱板上で二段階延伸した。最後に延伸した繊維に油剤を繊維の2.0質量%付与し、ボビンに巻取って、コポリパラフェニレン・3、4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維を得た。
【0056】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
【0057】
(1)繊維の繊度
得られた繊維を、公知の検尺機を用いて100m巻き取り、その質量を測定した。得られた質量に100を乗じた値を10000mあたりの質量、即ち繊度(dtex)として算出した。
【0058】
(2)繊維の破断強度
繊維の破断強度は、ASTM D885に準拠し、引張試験機(INSTRON社製、商品名:5565型万能試験機)により、糸試験用チャックを用いて以下の条件で引張破断強力を測定し、6回試験した引張破断強力の平均値を繊維の繊度で除した値を破断強度とした。
測定環境 :温度24℃、相対湿度66%
試験片 :500mm
試験速度 :250mm/分
撚係数 :1.0
【0059】
(3)繊維の密度
繊維の密度は、ASTM D1505に準拠し、比重測定装置(柴山科学器械製TypeB)を使用し、密度勾配菅法で測定した。
【0060】
(4)繊維の耐摩耗性
繊維の耐摩耗性は、ASTM D6611に準拠し、糸と糸を交叉させることにより糸同士を摩擦させた試験を行った、破断するまでの摩擦回数を測定し、4回試験した平均値を耐摩耗性とした。
【0061】
摩耗試験は以下の条件で実施した。
[測定条件]
測定環境 :温度24℃、相対湿度66%
荷重 :0.2cN/dtex
速度 :60回/min
繊維の撚方向 :S向き
繊維の撚係数 :1.0
交叉方向 :撚方向と反対方向
交叉回数 :1回(360°)
【0062】
<実施例1>
乾燥工程を経た繊維(繊度:15567dtex)を温度400℃の熱板上で1.05倍に延伸し、次いで温度530℃の熱板上で約6.66倍に延伸することにより、総繊度2238dtex、単糸数1000本のコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた糸の物性は表1に示す。
【0063】
<実施例2>
実施例1に記載の乾燥工程を経た繊維を温度400℃の熱板上で1.80倍に延伸し、次いで温度530℃の熱板上で約3.91倍に延伸したこと以外は実施例1と同様の方法で実施し、総繊度2246dtex、単糸数1000本のコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた糸の物性を表1に示す。
【0064】
<比較例1>
実施例1に記載の乾燥工程を経た繊維を温度400℃の熱板上で2.36倍に延伸し、次いで温度530℃の熱板上で約2.97倍に延伸したこと以外は実施例1と同様の方法で実施し、総繊度2242dtex、単糸数1000本のコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた糸の物性を表1に示す。
【0065】
<比較例2>
乾燥工程を経た繊維(繊度:20465dtex)を温度400℃の熱板上で2.36倍に延伸し、次いで温度530℃の熱板上で約3.91倍に延伸したこと以外は実施例1と同様の方法で実施し、総繊度2219dtex、単糸数1000本のコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた糸の物性を表1に示す。
【0066】
<比較例3>
実施例1に記載の乾燥工程を経た繊維を温度400℃の熱板上で2.36倍に延伸し、次いで温度530℃の熱板上で約3.91倍に延伸したこと以外は実施例1と同様の方法で実施し、総繊度1636dtex、単糸数1000本のコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた糸の物性を表1に示す。
【0067】
【表1】