(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107319
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】熱変形予測システム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230727BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20230727BHJP
G06F 30/27 20200101ALI20230727BHJP
G01N 25/16 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/10 100
G06F30/27
G01N25/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008450
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100130052
【弁理士】
【氏名又は名称】大阪 弘一
(74)【代理人】
【識別番号】100183438
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】貫井 隆行
【テーマコード(参考)】
2G040
5B146
【Fターム(参考)】
2G040AA01
2G040AB07
2G040CA17
2G040HA02
5B146DC03
5B146DC05
5B146DJ02
5B146DL08
5B146EA01
(57)【要約】
【課題】樹脂部品の熱変形予測に関して、工数を削減しながら品質を担保すること。
【解決手段】熱変形予測システム1は、熱変形に係る試験を実施した複数の試験済み樹脂部品の、形状を示す学習用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す学習用熱膨張データを説明変数とし、複数の試験済み樹脂部品の熱変形に係る試験結果を目的変数として、学習処理を行い、樹脂部品の熱変形を予測する結果予測AIモデルを構築する学習装置10と、結果予測AIモデルに対して、予測対象の樹脂部品の形状を示す予測用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す予測用熱膨張データを入力することにより、予測対象の樹脂部品の熱変形の予測結果を出力する予測装置50と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変形に係る試験を実施した複数の試験済み樹脂部品の、形状を示す学習用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す学習用熱膨張データを説明変数とし、前記複数の試験済み樹脂部品の熱変形に係る試験結果を目的変数として、学習処理を行い、樹脂部品の熱変形を予測する結果予測AIモデルを構築する学習装置と、
前記結果予測AIモデルに対して、予測対象の樹脂部品の形状を示す予測用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す予測用熱膨張データを入力することにより、前記予測対象の樹脂部品の熱変形の予測結果を出力する予測装置と、を備える熱変形予測システム。
【請求項2】
前記学習用形状データは、前記試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに該表面における凹凸形状をボクセル形式で表現した表面形状データと、前記試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに該表面の奥行き方向における構造物をボクセル形式で表現した奥行きデータと、を含んでおり、
前記学習用熱膨張データは、前記試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに対応する位置における熱膨張量をボクセル形式で表現した熱膨張マップを含んでいる、請求項1記載の熱変形予測システム。
【請求項3】
前記学習装置は、樹脂部品の形状を示す形状データ及び熱膨張に係る情報を示す熱膨張データから樹脂部品の熱変形を予測する学習モデルを転移学習することを更に実施することにより、前記結果予測AIモデルを構築する、請求項1又は2記載の熱変形予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、樹脂部品の熱変形予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐熱性を考慮した樹脂部品の形状設計を行う場合等において、樹脂部品の熱変形の度合いを予測(解析)する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。樹脂部品の熱変形の予測については、要件書のみから実施することが難しいため、例えば、シミュレーションや過去に実施した試験結果に基づいて実施される場合がある。耐熱性を考慮した樹脂部品の形状設計では、例えば、最初に設計者による部品形状の設計が行われ、設計された部品形状について耐熱性能のシミュレーションを実施し、シミュレーションの結果と過去に実施した試験結果とを比較してシミュレーションの妥当性を検討し、有識者による議論を実施して最終的な形状を決定し、必要に応じて設計変更を行った後に、図面出図を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した設計者による部品形状の設計については、経験や勘に頼った作業となっており、設計者のスキルによっては手戻りが発生することがある。また、上述した耐熱性能のシミュレーションについては、予測解析手順が複雑であるため解析結果を得るために多くの工数が費やされる場合がある。また、シミュレーションの結果と試験結果との比較には高度な専門知識が必要になるため、アウトプット品質についてばらつきが出るおそれがある。そして、シミュレーションの結果と試験結果との比較の結果、大幅な形状変更が発生した場合には、最初の部品形状の設計からやり直しになるため、多くの工数・リードタイムを要してしまうことがある。以上のように、従来の樹脂部品の形状設計においては、熱変形予測に関して、工数が増えること及びアウトプット品質を担保できないことが問題となっている。
【0005】
本発明の一態様は上記実情に鑑みてなされたものであり、樹脂部品の熱変形予測に関して、工数を削減しながら品質を担保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る熱変形予測システムは、熱変形に係る試験を実施した複数の試験済み樹脂部品の、形状を示す学習用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す学習用熱膨張データを説明変数とし、複数の試験済み樹脂部品の熱変形に係る試験結果を目的変数として、学習処理を行い、樹脂部品の熱変形を予測する結果予測AIモデルを構築する学習装置と、結果予測AIモデルに対して、予測対象の樹脂部品の形状を示す予測用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す予測用熱膨張データを入力することにより、予測対象の樹脂部品の熱変形の予測結果を出力する予測装置と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る熱変形予測システムでは、複数の試験済み樹脂部品に関して、形状を示すデータ及び熱膨張に係るデータが説明変数とされると共に、熱変形に係る試験結果が目的変数とされて学習処理が行われ、樹脂部品の熱変形を予測する結果予測AIモデルが構築されている。そして、本熱変形予測システムでは、結果予測AIモデルに対して予測対象の樹脂部品の形状を示すデータ及び熱膨張に係るデータが入力されて、予測対象の樹脂部品の熱変形の予測結果が出力される。このように、試験済み樹脂部品に係る情報が学習されて構築された結果予測AIモデルに、予測対象の樹脂部品の形状を示すデータ等が入力されて熱変形の予測結果が出力されることにより、設計者のスキルにかかわらずに、予測結果のアウトプット品質のばらつきを抑えることができる。さらに、従来シミュレーション結果を得るために必要となっていた多くの工数が不要となり、また、シミュレーションの結果と予測結果との比較(及び比較の結果に応じた設計のやり直し)が不要となるので、工数を大幅に削減することができる。以上のように、本発明の一態様に係る熱変形予測システムによれば、樹脂部品の熱変形予測に関して、工数を削減しながら品質を担保することができる。
【0008】
学習用形状データは、試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに該表面における凹凸形状をボクセル形式で表現した表面形状データと、試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに該表面の奥行き方向における構造物をボクセル形式で表現した奥行きデータと、を含んでおり、学習用熱膨張データは、試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに対応する位置における熱膨張量をボクセル形式で表現した熱膨張マップを含んでいてもよい。このように、学習用形状データ及び学習用熱膨張データのそれぞれがボクセル形式で表現されることにより、データ量を抑えながら必要な情報を表現することができ、学習処理をより好適に行うことができる。
【0009】
学習装置は、樹脂部品の形状を示す形状データ及び熱膨張に係る情報を示す熱膨張データから樹脂部品の熱変形を予測する学習モデルを転移学習することを更に実施することにより、結果予測AIモデルを構築してもよい。このような構成によれば、例えば学習用データが十分に準備されていない場合においても、学習モデルの転移学習によって、構築される結果予測AIモデルの予測精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、樹脂部品の熱変形予測に関して、工数を削減しながら品質を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る熱変形予測システムの機能構成を示す図である。
【
図3】熱膨張マップの生成について説明する図である。
【
図4】測定データのデータ拡張処理を説明する図である。
【
図5】測定データのデータ拡張処理を説明する図である。
【
図7】学習装置が実施する結果予測AIモデルの構築処理を示すフローチャートである。
【
図8】予測装置が実施する結果予測AIモデルを用いた熱変形の予測処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0013】
本実施形態に係る熱変形予測システムは、例えば耐熱性を考慮した樹脂部品の形状設計を行う際等において、樹脂部品の熱変形を予測するシステムである。熱変形予測システムは、樹脂部品についての過去の熱変形に係る試験結果や、過去のシミュレーション結果を多数学習することによって、熱変形を予測する結果予測AIモデルを構築する。このようにして構築された結果予測AIモデルを用いて樹脂部品の熱変形が予測されることにより、従来、有識者や設計者の経験等に基づき予測されていた樹脂部品の熱変形予測について、予測結果のアウトプット品質のばらつきを抑えることができる。また、従来、数日かけて実施されていた樹脂部品の熱変形予測について、結果予測AIモデルを用いて数十分程度で実施することができるので、工数・リードタイムの大幅削減を実現することができる。
【0014】
図1は、本実施形態に係る熱変形予測システム1の機能構成を示す図である。
図1に示されるように、熱変形予測システム1は、学習装置10と、予測装置50とを備える。
【0015】
学習装置10は、熱変形に係る試験を実施した複数の試験済み樹脂部品の、形状を示す学習用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す学習用熱膨張データを説明変数とし、複数の試験済み樹脂部品の熱変形に係る試験結果を目的変数として、学習処理を行い、樹脂部品の熱変形を予測する結果予測AIモデルを構築する。学習装置10は、さらに、樹脂部品の熱変形を予測する事前学習済みサロゲートモデルを転移学習することにより、結果予測AIモデルを構築してもよい(詳細は後述)。
【0016】
学習装置10は、その機能的構成要素として、前処理部11と、データ拡張部12と、データ拡張部13と、データセット部14と、学習部15と、を備えている。
【0017】
前処理部11は、過去に熱変形に係る試験を実施した複数の試験済み樹脂部品(以下、「過去開発部品」と記載する場合がある)の試験に係るデータであるデータAを取得する。データAには、複数の過去開発部品に係る3Dの形状を示す3D点群データと、過去開発部品の熱膨張量に係る締結位置・拘束力データ(詳細は後述)と、過去開発部品の熱変形に係る試験結果と、が含まれている。前処理部11は、データAの各情報の内、3D点群データと締結位置・拘束力データとを取得する。
【0018】
前処理部11は、複数の過去開発部品の3D点群データに基づき、熱変形に係る試験を行った対象の部位の表面に関して、2D意匠面形状データ(表面形状データ)と、2D奥行きデータ(奥行きデータ)とを取得(生成)する。2D意匠面形状データと、2D奥行きデータとを含むデータが、上述した学習用形状データである。
【0019】
2D意匠面形状データは、熱変形に係る試験を行った対象の部位の表面を示す2Dデータに、該表面における凹凸形状をボクセル形式で表現した画像データである。すなわち、2D意匠面形状データは、表面における位置毎に表面における凹凸の情報が付加された画像データである。
図2の上段には、2D意匠面形状データの一例が示されている。
図2に示される2D意匠面形状データの例では、意匠面(表面)のラウンドやエッジ等の情報が、色(濃淡)の違いとして表現されている。
【0020】
2D奥行きデータは、熱変形に係る試験を行った対象の部位の表面を示す2Dデータに、該表面の奥行き方向における構造物をボクセル会式で表現した画像データである。すなわち、2D奥行きデータは、表面における位置毎に、奥行き方向の構造物の情報が付加された画像データである。
図2の中段には、2D奥行きデータの一例が示されている。
図2に示される2D奥行きデータの例では、奥行き方向の構造物である、裏面リブ構造、裏面締結構造、及び段差等が、例えば領域を示す四角等で表現されている。
【0021】
前処理部11は、複数の過去開発部品の熱膨張量に係る締結位置・拘束力データに基づき、熱変形に係る試験を行った対象の部位の表面に関して、2D熱膨張マップを取得(生成)する。2D熱膨張マップが、上述した学習用熱膨張データである。締結位置・拘束力データとは、例えば対象の部位に関して、アノテーション処理によって、締結位置を示すメタデータが付加されたデータである。このようなアノテーション処理は、締結位置が熱膨張量に与える影響が大きいことに着目し実施されるものであり、例えば手動で実施される。
【0022】
2D熱膨張マップは、熱変形に係る試験を行った対象の部位の表面を示す2Dデータに対応する位置における熱膨張量をボクセル形式で表現した画像データである。すなわち、2D熱膨張マップは、表面における位置毎に、熱膨張量が付加された画像データである。
図2の下段には、2D熱膨張マップの一例が示されている。
図2に示される2D熱膨張マップの例では、熱膨張量の情報、が色(濃淡)の違いとして表現されると共に、熱膨張量に影響を与える締結位置が、例えば領域を示す四角等で表現されている。
【0023】
図3は2D熱膨張マップの生成について説明する図である。2D熱膨張マップの生成処理では、最初に、
図3(a)に示されるアノテーション処理が手動で実施される。
図3(a)に示されるように、アノテーション処理では、締結位置を示すメタデータ(四角で示した領域)が画像に付加される。具体的には、締結位置の座標とガタ隙値がメタデータとされる。つづいて、
図3(b)に示されるように、締結位置の座標に基づき同心円状に熱膨張量が分布するように熱膨張マップが生成される。詳細には、全ての締結位置の座標で上記の処理が実施され、ピクセル毎に平均値が取得されて、熱膨張マップが生成される。熱膨張量は、例えば、以下の(1)式により導出される。なお、CTEは熱膨張係数であり、iは距離を示す値である。
熱膨張量=(CTE×200×(15-i)×60)-ガタ隙値・・・(1)
【0024】
最後に、
図3(c)に示されるように、熱膨張マップについて部品形状にトリミングされ、上述した2D熱膨張マップが生成される。
【0025】
図1に戻り、前処理部11は、生成した2D意匠面形状データ、2D奥行きデータ、及び2D熱膨張マップについて、標準化処理を行う。その後、前処理部11は、学習用形状データである2D意匠面形状データ及び2D奥行きデータと、学習用熱膨張データである2D熱膨張マップとを説明変数(X)としてデータセットする。すなわち、前処理部11は、2D意匠面形状データ、2D奥行きデータ、及び2D熱膨張マップの3チャンネル分のデータを、多数の過去開発部品のそれぞれについて準備する。
【0026】
データ拡張部12は、前処理部11によって得られた説明変数のデータセットについて水増しを行う。データ拡張部12は、例えば、データセットの各データについて一部分をマスクするランダムイレージング処理を実施することにより、モデルの過学習を抑制しながらデータセットの水増しを行うことができる。
【0027】
データ拡張部13は、上述した過去開発部品の試験に係るデータであるデータAの各情報の内、過去開発部品の熱変形に係る試験結果(測定データ)を取得し、該測定データを拡張するデータ拡張処理を行う。
図4及び
図5は、測定データのデータ拡張処理を説明する図である。
【0028】
図4(a)に示されるように、測定データの拡張処理では、まず、ベクトロン等で測定された各ポイント(
図4(a)の例ではトラック前面の樹脂部品の各ポイント)の3D座標データを保有する。この場合、データの測定精度は担保されるが、
図4(b)に示されるように、測定データが離散的となる。
図4(b)の縦軸及び横軸は測定された各ポイントの座標を示しており、各ポイントにおける熱変形量(L方向変位量)が色(濃淡)の違いで示されている。このような離散的な測定データについて、各ポイント間のデータを考慮できれば、機械学習の精度向上が図られると考えられる。
【0029】
そこで、
図5(a)に示されるように、L方向変位量について、各ポイント間の補完マッピングが行われる。具体的には、放射基底関数を利用した補完が実施され、ニューラルネットワークにより関数が作成される。
図5(b)は薄板スプライン関数を利用してL方向変位量の実測値について拡張する例を示している。
図5(b)のドットは、各ポイントにおける実測されたL方向変位量を示している。
図5(b)の実線は、薄板スプライン関数を利用して拡張されたL方向変位量を示している。このようにして、離散的な測定データについて放射基底関数による補完を実施することで連続データに変換することができた。このようにしてデータ拡張された場合においても、データの質について問題ないことが確認された。
【0030】
データセット部14は、データ拡張された測定データを、多数の過去開発部品のそれぞれについて準備し、目的変数(Y)としてデータセットする。
【0031】
学習部15は、学習用形状データである2D意匠面形状データ及び2D奥行きデータ、並びに、学習用熱膨張データである2D熱膨張マップを説明変数とし、上述したデータ拡張後の測定データを目的変数として、学習処理を行い、樹脂部品の熱変形を予測する結果予測AIモデル100を構築する。学習部15は、例えばディープラーニングを行い、結果予測AIモデルを構築する。ディープラーニングの手法としては、例えば、実部品の変形について変形領域を出力可能なセマンテックセグメンテーション技術を活用することができる。より具体的には、セマンテックセグメンテーションのアルゴリズムであるU-Net手法を用いて、バックボーンとしてVGG16で学習を実施してもよい。学習部15は、例えば学習によって得られたAIモデルの重みを、結果予測AIモデル100として保存する。
【0032】
なお、学習部15は、例えば過去開発部品の試験結果の母数が十分でない場合等において、事前学習済みサロゲートモデル80の重みデータを転移学習することにより、結果予測AIモデル100を構築してもよい。ここでの事前学習済みサロゲートモデル80とは、実部品形状データ等からシミュレーション(CAE)解析結果を予測するAIモデルであり、事前学習によって予め構築されているAIモデルである。事前学習済みサロゲートモデル80は、前処理部11によってデータセットされた説明変数と同様に、2D意匠面形状データ、2D奥行きデータ、及び2D熱膨張マップを説明変数とし、CAE解析結果の熱変形量を目的変数として、例えばディープラーニング学習により構築されたモデルである。
【0033】
予測装置50は、結果予測AIモデル100に対して、予測対象の樹脂部品である新規開発部品の形状を示す予測用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す予測用熱膨張データを入力することにより、新規開発部品の熱変形の予測結果を出力する。
【0034】
予測装置50は、前処理部51と、予測部52と、を備えている。
【0035】
前処理部51は、まず、新規開発部品に係るデータであるデータBを取得する。データBには、例えば、新規開発部品に係る3Dの形状を示す3D点群データと、新規開発部品の熱膨張量に係る締結位置・拘束力データと、が含まれている。前処理部51は、複数の新規開発部品の3D点群データに基づき、対象の部位の表面に関して、2D意匠面形状データ(表面形状データ)と、2D奥行きデータ(奥行きデータ)とを取得(生成)する。これらのデータのデータ形式は、上述した前処理部11によって生成される2D意匠面形状データ及び2D奥行きデータと同様である。これらのデータが、予測用形状データである。
【0036】
前処理部51は、複数の新規開発部品の熱膨張量に係る締結位置・拘束力データに基づき、対象の部位の表面に関して、2D熱膨張マップを取得(生成)する。2D熱膨張マップのデータ形式は、上述した前処理部11によって生成される熱膨張マップと同様である。2D熱膨張マップが、予測用熱膨張データである。
【0037】
予測部52は、結果予測AIモデル100に対して、2D意匠面形状データ及び2D奥行きデータ(すなわち予測用形状データ)と、2D熱膨張マップ(予測用熱膨張データ)とを入力することにより、予測対象の樹脂部品である新規開発部品の熱変形の予測結果(AI予測結果)を出力する。
【0038】
図6は、予測部52によって出力される新規開発部品の熱変形のAI予測結果を説明する図である。
図6(a)は3種類の新規開発部品についての熱変形のAI予測結果を示している。
図6(b)は
図6(a)に示される各新規開発部品についての熱変形の実測定結果を示している。
図6(a)及び
図6(b)は、上段同士、中段同士、下段同士で、それぞれ同一の新規開発部品についての結果を示している。
図6(a)及び
図6(b)においては、熱変形量の情報が色(濃淡)の違いとして表現されている。
図6(a)及び
図6(b)に示されるように、いずれの新規開発部品についても、実測定結果とAI予測結果との間に大きな違いはなく、結果予測AIモデル100を用いて、高精度に熱変形の予測を行うことができた。
【0039】
結果予測AIモデル100は、シミュレーションの結果及び過去に実施した試験結果を学習したAIモデルであるので、人によるデータ解釈のばらつきが生じず、また、予測出力までが高速となる。具体的には、従来数日かけて実施していた予測を、数十分で実施することが可能になる。これにより、工数の大幅削減が達成される。
【0040】
次に、熱変形予測システム1の学習装置10が実施する結果予測AIモデル100の構築処理について、
図7を参照して説明する。
図7は、学習装置10が実施する結果予測AIモデル100の構築処理を示すフローチャートである。
【0041】
図7に示されるように、最初に、複数の過去開発部品について、2D意匠面形状データと、2D奥行きデータと、2D熱膨張マップとを含むデータセット(複数の過去開発部品に関する説明変数のデータセット)が取得される(ステップS1)。説明変数のデータセットは、水増し処理等が実施されてデータ拡張が実施される。
【0042】
つづいて、複数の過去開発部品について、熱変形に係る試験データをデータ拡張し、データ拡張された測定データが目的変数のデータセットとして取得される(ステップS2)。
【0043】
つづいて、学習処理が行われる(ステップS3)。学習処理は例えばディープラーニングにより行われてもよい。学習処理では、事前学習済みサロゲートモデル80の重みデータが転移学習されてもよい。最後に、学習によって得られたAIモデルの重みが、結果予測AIモデル100として出力される(ステップS4)。以上が、結果予測AIモデル100の構築処理である。
【0044】
次に、熱変形予測システム1の予測装置50が実施する結果予測AIモデル100を用いた熱変形の予測処理について、
図8を参照して説明する。
図8は、予測装置50が実施する結果予測AIモデル100を用いた熱変形の予測処理を示すフローチャートである。
【0045】
図8に示されるように、最初に、予測対象の樹脂部品である新規開発部品について、前処理が実施され、2D意匠面形状データと、2D奥行きデータと、2D熱膨張マップとが取得される(ステップS11)。
【0046】
つづいて、前処理後のデータが結果予測AIモデル100に入力され(ステップS12)、結果予測AIモデル100による熱変形の予測結果が出力される(ステップS13)。以上が、結果予測AIモデル100を用いた熱変形の予測処理である。
【0047】
次に、本実施形態に係る熱変形予測システム1の作用効果について説明する。
【0048】
本実施形態に係る熱変形予測システム1は、熱変形に係る試験を実施した複数の試験済み樹脂部品の、形状を示す学習用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す学習用熱膨張データを説明変数とし、複数の試験済み樹脂部品の熱変形に係る試験結果を目的変数として、学習処理を行い、樹脂部品の熱変形を予測する結果予測AIモデルを構築する学習装置10と、結果予測AIモデルに対して、予測対象の樹脂部品の形状を示す予測用形状データ及び熱膨張に係る情報を示す予測用熱膨張データを入力することにより、予測対象の樹脂部品の熱変形の予測結果を出力する予測装置50と、を備える。
【0049】
本実施形態に係る熱変形予測システム1では、複数の試験済み樹脂部品に関して、形状を示すデータ及び熱膨張に係るデータが説明変数とされると共に、熱変形に係る試験結果が目的変数とされて学習処理が行われ、樹脂部品の熱変形を予測する結果予測AIモデル100が構築されている。そして、本熱変形予測システム1では、結果予測AIモデル100に対して予測対象の樹脂部品の形状を示すデータ及び熱膨張に係るデータが入力されて、予測対象の樹脂部品の熱変形の予測結果が出力される。このように、試験済み樹脂部品に係る情報が学習されて構築された結果予測AIモデル100に、予測対象の樹脂部品の形状を示すデータ等が入力されて熱変形の予測結果が出力されることにより、設計者のスキルにかかわらずに、予測結果のアウトプット品質のばらつきを抑えることができる。さらに、従来シミュレーション結果を得るために必要となっていた多くの工数が不要となり、また、シミュレーションの結果と予測結果との比較(及び比較の結果に応じた設計のやり直し)が不要となるので、工数を大幅に削減することができる。以上のように、本実施形態に係る熱変形予測システム1によれば、樹脂部品の熱変形予測に関して、工数を削減しながら品質を担保することができる。
【0050】
学習用形状データは、試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに該表面における凹凸形状をボクセル形式で表現した2D意匠面形状データと、試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに該表面の奥行き方向における構造物をボクセル形式で表現した2D奥行きデータと、を含んでおり、学習用熱膨張データは、試験済み樹脂部品の表面を示す2Dデータに対応する位置における熱膨張量をボクセル形式で表現した2D熱膨張マップを含んでいてもよい。このように、学習用形状データ及び学習用熱膨張データのそれぞれがボクセル形式で表現されることにより、データ量を抑えながら必要な情報を表現することができ、学習処理をより好適に行うことができる。
【0051】
学習装置10は、事前学習済みサロゲートモデル80を転移学習することを更に実施することにより、結果予測AIモデル100を構築してもよい。事前学習済みサロゲートモデル80は、2D意匠面形状データ、2D奥行きデータ、及び2D熱膨張マップを説明変数とし、CAE解析結果の熱変形量を目的変数として、例えばディープラーニング学習により構築されたモデルである。このような構成によれば、例えば学習用データが十分に準備されていない場合においても、事前学習済みサロゲートモデル80の転移学習によって、構築される結果予測AIモデル100の予測精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0052】
1…熱変形予測システム、10…学習装置、50…予測装置、80…事前学習済みサロゲートモデル、100…結果予測AIモデル。