(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107337
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】接合体、その製造方法、および電極埋設部材
(51)【国際特許分類】
C04B 37/02 20060101AFI20230727BHJP
C04B 35/582 20060101ALI20230727BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20230727BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20230727BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C04B37/02 C
C04B35/582
H05K7/20 D
H01L23/36 M
H01L23/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008490
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】大木 敬介
(72)【発明者】
【氏名】神 航介
【テーマコード(参考)】
4G026
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
4G026BA16
4G026BB21
4G026BC02
4G026BD11
4G026BE04
4G026BF57
4G026BG05
4G026BG21
4G026BH07
5E322AA01
5E322AA02
5E322EA02
5E322FA09
5F136BA30
5F136FA01
5F136FA04
5F136FA16
5F136GA31
(57)【要約】
【課題】接合面の浸食やコンタミネーションを抑制でき、接合強度が強く、金属部材の厚みが厚い接合体、その製造方法、および電極埋設部材を提供する。
【解決手段】セラミックス部材20は、少なくとも金属部材30の一方の主面に接合され、金属部材30は、金属部材30の一方の主面に垂直な方向の最大厚みが1mm以上であり、セラミックス部材20と金属部材30との接合界面の断面曲線のセラミックス部材側に断面曲線と交差せず2箇所以上で接触する長さ200μmの基準線分をとり、断面曲線の金属部材側に断面曲線と交差せず接触し、基準線分に対し長方形の対辺となる長さ200μmの第2の線分をとったときに、基準線分および第2の線分の距離は6.0μm以上であり、基準線分および第2の線分の内側のセラミックス部材20の酸素濃度が、基準線分より外側のセラミックス部材20の酸素濃度より高い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlNを主成分とするセラミックス部材および2000℃以上の融点を有する高融点金属からなる金属部材の接合体であって、
前記セラミックス部材は、少なくとも前記金属部材の一方の主面に接合され、
前記金属部材は、前記金属部材の一方の主面に垂直な方向の最大厚みが1mm以上であり、
前記金属部材の一方の主面に垂直な断面の500倍のマイクロスコープ画像において、前記セラミックス部材と前記金属部材との接合界面の断面曲線の前記セラミックス部材側に前記断面曲線と交差せず2箇所以上で接触する長さ200μmの基準線分をとり、前記断面曲線の前記金属部材側に前記断面曲線と交差せず接触し、前記基準線分に対し長方形の対辺となる長さ200μmの第2の線分をとったときに、前記基準線分および前記第2の線分の距離は6.0μm以上であり、
前記基準線分および前記第2の線分の内側の前記セラミックス部材の酸素濃度が、前記基準線分より外側の前記セラミックス部材の酸素濃度より高いことを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記セラミックス部材は、金属酸化物からなる第2相を含むことを特徴とする請求項1記載の接合体。
【請求項3】
前記金属部材は、第2の金属酸化物を1wt%以下含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
前記セラミックス部材は、周期律表第4族の金属を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の接合体。
【請求項5】
前記金属部材は、厚み方向に貫通する貫通孔、または前記一方の主面もしくは前記一方の主面に対向する側の他方の主面に溝を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の接合体。
【請求項6】
前記金属部材の一方の主面に対向する側の他方の主面に、さらにセラミックス部材が接合されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の接合体。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の接合体と、
前記接合体のセラミックス部材に埋設された電極と、を備えることを特徴とする電極埋設部材。
【請求項8】
AlNを主成分とするセラミックス部材および2000℃以上の融点を有する高融点金属からなる金属部材の接合体の製造方法であって、
AlN原料粉またはAlN原料粉に金属酸化物原料粉を添加した粉末を造粒した造粒粉を準備する工程と、
板状の前記高融点金属からなり、一方の主面に垂直な方向の最大厚みが1mm以上であり、前記一方の主面における長さ200μmの基準線分ごとの凹凸が6.0μm以上となるように粗面化された、焼成後前記金属部材となる金属部材前駆体を準備する工程と、
前記造粒粉または前記造粒粉から形成した成形体、および前記金属部材前駆体を、前記金属部材前駆体の前記一方の主面が積層方向に垂直になるようにカーボン型に積層する工程と、
前記カーボン型にカーボンパンチを挿入し、積層体を形成する工程と、
前記積層体を一軸加圧焼成する工程と、を含み、
前記一軸加圧焼成する工程は、前記造粒粉または前記成形体が前記金属部材前駆体の前記一方の主面の凹部に侵入し、前記凹部に侵入して焼成された前記セラミックス部材の酸素濃度が、前記凹部以外で焼成されたセラミックス部材の酸素濃度より高くなるように制御されることを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項9】
前記金属部材前駆体は、厚み方向に貫通する貫通孔、または前記一方の主面もしくは前記一方の主面と対向する側の他方の主面に溝を有することを特徴とする請求項8記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体、その製造方法、および電極埋設部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置に用いられるAlN製部材は、様々な機能を付加することを目的として、金属部材と接合させることがあった。
【0003】
特許文献1には、窒化アルミニウム部材と金属部材がAlロウ材で接合された接合体および半導体保持装置が開示されている。好適な態様として、窒化アルミニウム部材が、半導体ウエハーを設置するための設置面を備えた半導体保持部材であり、金属部材が、半導体保持部材と外部との間で熱量の伝達を行うための熱伝達部材である例が開示されている。また、熱伝達部材の例として、タングステン、モリブデン、銅、またはこれらの合金によって形成する、と開示されている。これらの金属部材はヒートシンクとして機能し一定の厚さを有している。
【0004】
また、特許文献2には、比較的大きな厚みを有し且つ導電性の高い焼結金属層を内蔵し、しかも、反りの発生が極めて小さく抑えられ、さらには焼結金属層と基板との接合強度も高く、電極埋設部材の用途に好適な窒化アルミニウム接合体及びその製造方法を提供することを目的として、接合面の少なくとも一部に、厚み15~100μmのタングステン又はモリブデンよりなる焼結金属層が形成された窒化アルミニウム焼結体の接合体であって、前記焼結金属層のシート抵抗値が1Ω/□以下であり、且つ前記焼結金属層の反りが100μm/100mm以下である窒化アルミニウム接合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-249465号公報
【特許文献2】特開2005-159334号公報
【特許文献3】特開平5-246769号公報
【特許文献4】特開昭62-78167号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本金属学会誌 第45巻第2号(1981) P.184-P.189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体製造プロセスで使用されるAlNセラミックは、ヒートシンク等に利用される高融点金属と一体化される場合があった。そのためには高融点金属は一定以上の厚みが必要であるが、特許文献2のような焼結金属層ではそのような構造とすることはできなかった。
【0008】
また、非特許文献1によると、AlNと高融点金属は接合材なしでは反応しないため接合体を作製することは困難であるとされてきた。そのため、従来はAlNセラミックと高融点金属の接合体は、接合界面にロウ材等を介在させて接合する(特許文献1、3、4)方法で製作されていた。
【0009】
しかし、これらの接合体を半導体製造プロセスで使用する場合、特許文献1、3、4の方法では、接合層であるロウ材の浸食、接合層からのコンタミネーションが懸念された。そのため、AlNセラミックと厚みの厚い高融点金属の接合体であって、接合材からのコンタミネーションや浸食の虞を抑制したAlN-高融点金属接合体が望まれていた。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、接合面の浸食やコンタミネーションを抑制でき、接合強度が強く、金属部材の厚みが厚い接合体、その製造方法、および電極埋設部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の接合体は、AlNを主成分とするセラミックス部材および2000℃以上の融点を有する高融点金属からなる金属部材の接合体であって、前記セラミックス部材は、少なくとも前記金属部材の一方の主面に接合され、前記金属部材は、前記金属部材の一方の主面に垂直な方向の最大厚みが1mm以上であり、前記金属部材の一方の主面に垂直な断面の500倍のマイクロスコープ画像において、前記セラミックス部材と前記金属部材との接合界面の断面曲線の前記セラミックス部材側に前記断面曲線と交差せず2箇所以上で接触する長さ200μmの基準線分をとり、前記断面曲線の前記金属部材側に前記断面曲線と交差せず接触し、前記基準線分に対し長方形の対辺となる長さ200μmの第2の線分をとったときに、前記基準線分および前記第2の線分の距離は6.0μm以上であり、前記基準線分および前記第2の線分の内側の前記セラミックス部材の酸素濃度が、前記基準線分より外側の前記セラミックス部材の酸素濃度より高いことを特徴としている。
【0012】
このように、金属部材の一方の主面に垂直な断面の500倍のマイクロスコープ画像において、セラミックス部材と金属部材との接合界面の断面曲線のセラミックス部材側に断面曲線と交差せず2箇所以上で接触する長さ200μmの基準線分をとり、断面曲線の金属部材側に断面曲線と交差せず接触し、基準線分に対し長方形の対辺となる長さ200μmの第2の線分をとったときに、基準線分および第2の線分の距離は6.0μm以上、すなわち、セラミックス部材と金属部材との接合界面の断面曲線が、200μmの長さごとに6.0μm以上の凹凸を有し、セラミックス部材の凸部の酸素濃度をそれ以外のセラミックス部材の酸素濃度と比較して高くすることにより、AlNセラミックスと金属部材との接合強度を強くでき、接合面の浸食やコンタミネーションを抑制した接合体が得られる。また、金属部材の厚みが厚いことで、金属部材をヒートシンクとして利用したり、接合体の強度や寸法精度を高めたりするなど、様々な用途に適用できる。
【0013】
(2)また、本発明の接合体において、前記セラミックス部材は、金属酸化物からなる第2相を含むことを特徴としている。
【0014】
このように、セラミックス部材が金属酸化物からなる第2相を含むことで、接合強度を保ちつつAlNセラミックスの性質を変更することができ、接合体の用途が広くなる。
【0015】
(3)また、本発明の接合体において、前記金属部材は、第2の金属酸化物を1wt%以下含むことを特徴としている。
【0016】
このように、金属部材が第2の金属酸化物を1wt%以下含むことで、AlNセラミックスと金属部材との接合強度が強くなり、接合体の信頼性が高くなる。
【0017】
(4)また、本発明の接合体において、前記セラミックス部材は、周期律表第4族の金属を含むことを特徴としている。
【0018】
このように、セラミックス部材が周期律表第4族の金属を含むことで、接合強度を保ちつつAlNセラミックスの性質を変更することができ、接合体の用途が広くなる。
【0019】
(5)また、本発明の接合体において、前記金属部材は、厚み方向に貫通する貫通孔、または前記一方の主面もしくは前記一方の主面に対向する側の他方の主面に溝を有することを特徴としている。
【0020】
このように、金属部材に厚み方向に貫通する貫通孔、または一方の主面もしくは他方の主面に溝を有することで、接合体の用途がさらに拡大する。
【0021】
(6)また、本発明の接合体において、前記金属部材の一方の主面に対向する側の他方の主面に、さらにセラミックス部材が接合されていることを特徴としている。
【0022】
このように、金属部材の両方の主面にAlNセラミックスが接合されることにより、接合体の用途がさらに拡大する。
【0023】
(7)また、本発明の電極埋設部材は、上記(1)から(5)のいずれかに記載の接合体と、前記接合体のセラミックス部材に埋設された電極と、を備えることを特徴としている。
【0024】
AlNは熱伝導率が高く絶縁性が高いため、AlNセラミックスおよび金属部材の接合体のAlNセラミックスに電極を埋設した電極埋設部材は、ヒーターモジュールとして利用することができる。
【0025】
(8)また、本発明の接合体の製造方法は、AlNを主成分とするセラミックス部材および2000℃以上の融点を有する高融点金属からなる金属部材の接合体の製造方法であって、AlN原料粉またはAlN原料粉に金属酸化物原料粉を添加した粉末を造粒した造粒粉を準備する工程と、板状の前記高融点金属からなり、一方の主面に垂直な方向の最大厚みが1mm以上であり、前記一方の主面における長さ200μmの基準線分ごとの凹凸が6.0μm以上となるように粗面化された、焼成後前記金属部材となる金属部材前駆体を準備する工程と、前記造粒粉または前記造粒粉から形成した成形体、および前記金属部材前駆体を、前記金属部材前駆体の前記一方の主面が積層方向に垂直になるようにカーボン型に積層する工程と、前記カーボン型にカーボンパンチを挿入し、積層体を形成する工程と、前記積層体を一軸加圧焼成する工程と、を含み、前記一軸加圧焼成する工程は、前記造粒粉または前記成形体が前記金属部材前駆体の前記一方の主面の凹部に侵入し、前記凹部に侵入して焼成された前記セラミックス部材の酸素濃度が、前記凹部以外で焼成されたセラミックス部材の酸素濃度より高くなるように制御されることを特徴としている。
【0026】
これにより、接合面の浸食やコンタミネーションを抑制した接合強度の大きいAlNセラミックスおよび高融点金属からなる金属部材の接合体が得られる。金属部材の厚みが厚いことで、金属部材をヒートシンクとして利用したり、AlNセラミックスの強度や寸法精度を高めたりするなど、様々な用途に適用できる。
【0027】
(9)また、本発明の接合体の製造方法において、前記金属部材前駆体は、厚み方向に貫通する貫通孔、または前記一方の主面もしくは前記一方の主面と対向する側の他方の主面に溝を有することを特徴としている。
【0028】
このように、厚み方向に貫通する貫通孔、または一方の主面もしくは他方の主面に溝を有する金属部材前駆体を使用することで、難加工性の高融点金属を予め加工しておくことができ、焼成後に加工するよりも容易に種々の構造のための形状を作製でき、接合体の用途がさらに拡大する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、AlNを主成分とするセラミックス部材および高融点金属からなる金属部材の接合面の浸食やコンタミネーションを抑制した接合体が得られる。また、金属部材の厚みが厚いことで、金属部材をヒートシンクとして利用したり、セラミックス部材の強度や寸法精度を高めたりするなど、様々な用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る接合体の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る接合体の一例における断面曲線周辺を一部拡大した模式的な断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る接合体の変形例を示す模式的な断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る電極埋設部材の一例を示す模式的な断面図である。
【
図5】(a)~(e)、それぞれ本発明の実施形態に係る製造方法の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
【
図6】(a)~(e)、それぞれ本発明の実施形態に係る製造方法の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
【
図7】(a)、実施例1の断面のSEM画像である。(b)~(g)、それぞれ実施例1の断面のEPMA分析のマッピングを示す写真である。
【
図8】(a)~(b)、それぞれ実施例1、比較例1の断面を2000倍で撮影したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0032】
[実施形態]
[接合体の構成]
まず、本発明の実施形態に係る接合体を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る接合体の一例を示す模式的な断面図である。本発明の実施形態に係る接合体10は、AlNを主成分とするセラミックス部材20および高融点金属からなる金属部材30が接合されて形成されている。AlNを主成分とするセラミックス部材とは、AlNを90wt%以上含むことをいう。また、高融点金属からなる金属部材とは、融点が2000℃以上のモリブデン(Mo)やタングステン(W)、タンタル(Ta)等が適用でき、純度99wt%以上のものを指す。これにより、一軸加圧焼成時の温度であっても金属部材30の変形が抑制される。また、同時にAlNと金属部材30との界面で900℃以上の比較的高温の融点を持つ高融点金属酸化物が形成されるため、AlNと金属部材30の接合界面の変形を抑制することができる。
【0033】
接合体10は、セラミックス部材20が少なくとも金属部材30の一方の主面に接合されている。また、金属部材30は、セラミックス部材20の最大径の50%以上の最大径を有することが好ましい。また、セラミックス部材20は、金属部材30の一方の主面の全面に接合されることが好ましい。これらの特徴を有することで、金属部材30を様々な用途に応じた形態で適用できる。また、セラミックス部材20は、金属部材30の一方の主面に他の部材を介さず直接接合されることが好ましい。他の部材を介すと、接合強度が小さくなる虞があるためである。
【0034】
セラミックス部材20は、金属酸化物からなる第2相を含むことが好ましい。これにより、接合強度を保ちつつセラミックス部材20の性質を変更することができ、接合体10の用途が広くなる。セラミックス部材20が金属酸化物からなる第2相を含む場合、第2相の金属酸化物を構成する金属は、Y、Caから選択された1種類以上であることが好ましく、Yであることがより好ましい。第2相を構成する金属酸化物は、AlNを主成分とするセラミックス部材の焼結助剤であってもよい。その場合、第2相を構成する金属酸化物は、セラミックス部材の焼結助剤として必要な量添加されていてもよい。例えば、Yを焼結助剤として添加される場合、Y2O3換算で0.1wt%以上5wt%以下添加されてもよい。また、セラミックス部材20は、AlNのみから構成されてもよい。
【0035】
セラミックス部材20は、さらに周期律表第4族の金属を含むことが好ましい。このように、セラミックス部材20が周期律表第4族の金属を含むことで、セラミックス部材20と金属部材30との接合強度を保ちつつセラミックス部材20の性質を変更することができ、接合体10の用途が広くなる。周期律表第4族の金属は、Ti、Hfから選択された1種類以上であることが好ましく、Tiであることがより好ましい。
【0036】
金属部材30は、金属部材30の一方の主面32に垂直な方向の最大厚みが1mm以上である。このように、金属部材30の厚みが厚いことで、金属部材30をヒートシンクやヒートスプレッダーとして利用したり、セラミックス部材20の強度や寸法精度を高めたりするなど、様々な用途に適用できる。金属部材30の一方の主面32とは、セラミックス部材20との接合面である。金属部材30の厚みが厚いとは、金属部材30の一方の主面32に垂直な方向の最大厚みが1mm以上であることとする。金属部材30の最大厚みが1mmより小さくなると寸法精度を高める効果が十分に発揮されなくなるため1mm以上であることが好ましい。
【0037】
金属部材30の一方の主面32に垂直な方向の最大厚みは、適用する用途に応じた厚みにすることが好ましい。本発明のような金属部材30の厚みの厚い接合体がなかったことを考慮すると、用途によっては、例えば、2mm以上であることが好ましく、3mm以上であることがより好ましく、4mm以上であることがさらに好ましい。
【0038】
図2(a)、(b)は、
図1に示す接合体における断面曲線周辺を一部拡大した模式的な一部拡大断面図である。接合体10は、基準線分L1および第2の線分L2の距離が6.0μm以上である。基準線分L1は、金属部材30の一方の主面32に垂直な断面の500倍のマイクロスコープ画像において、セラミックス部材20と金属部材30との接合界面の断面曲線のセラミックス部材側に設けられ、断面曲線と交差せず2箇所以上で接触する長さ200μmの線分であり、第2の線分L2は断面曲線の金属部材側に設けられ、断面曲線と交差せず接触し、基準線分L1に対し長方形の対辺となる長さ200μmの線分である。
【0039】
また、基準線分L1および第2の線分L2の内側のセラミックス部材20の酸素濃度が、基準線分L1より外側のセラミックス部材の酸素濃度より高い。すなわち、セラミックス部材の凸部28の酸素濃度が、凸部28以外のセラミックス部材の酸素濃度より高くなる。セラミックス部材の凸部28は、接合界面近傍に位置するセラミックス部材20のうち、金属部材側に突出した部分のことを指す。
【0040】
このように、金属部材30の一方の主面32に垂直な断面の500倍のマイクロスコープ画像において、セラミックス部材20と金属部材30との接合界面の断面曲線のセラミックス部材側に断面曲線と交差せず2箇所以上で接触する長さ200μmの基準線分L1をとり、断面曲線の金属部材側に断面曲線と交差せず接触し、基準線分L1に対し長方形の対辺となる長さ200μmの第2の線分L2をとったときに、基準線分L1および第2の線分L2の距離は6.0μm以上、すなわち、セラミックス部材20と金属部材30との接合界面の断面曲線が、200μmの長さごとに6.0μm以上の凹凸を有し、セラミックス部材の凸部28の酸素濃度をそれ以外のセラミックス部材の酸素濃度と比較して高くすることにより、AlNセラミックスと金属部材との接合強度を強くでき、接合面の浸食やコンタミネーションを抑制した接合体が得られる。
【0041】
なお、
図2(a)、(b)に示されるように、同一の断面であっても、基準線分L1をとる位置により基準線分L1および第2の線分L2の距離は異なる。基準線分L1および第2の線分L2の距離は、マイクロスコープ画像だけでなく、SEM画像等を用いて測定してもよく、倍率も500倍に限らず、200倍~2000倍の何れかであってもよい。
【0042】
セラミックス部材の凸部28の酸素濃度が、それ以外のセラミックス部材の酸素濃度よりも高くなる理由は、高融点金属表面に形成されていた自然酸化膜が高融点金属と反応し、焼成時に900℃以上の融点を示す高融点金属酸化物が生成し、これらが一部融液となってセラミックス部材側に拡散するためと推定される。これにより、セラミックス部材20と金属部材30とが酸素を介して化学結合で結合されるとともに、流動性を増したセラミックス部材が接合界面の凹凸に侵入し強いアンカー効果を発揮することで、さらに高い接合強度が得られるものと推定される。
【0043】
なお、セラミックス部材20および金属部材30の接合界面とは、EDXまたはEPMAによる断面の元素マッピングにおいて金属部材30を主に構成する金属元素が急激にその濃度を低下させる界面を指す。また、セラミックス部材20の内部とは、200倍のマイクロスコープ画像において接合界面の断面曲線を直線で近似したとき(以降、近似直線という)、近似直線に垂直にセラミックス部材20の方向に少なくとも1mm離間した領域とする。セラミックス部材20が金属酸化物からなる第2相を含んでいる場合、セラミックス部材20の第2相を構成する金属の濃度が一様である領域といってもよい。基準線分L1よりセラミックス部材20側にあるセラミックス部材20を基準線分L1より外側のセラミックス部材20とすると、基準線分L1より外側のセラミックス部材20は、基準線分L1をとる位置によって異なる。そのため、基準線分L1より外側のセラミックス部材20の酸素濃度は、セラミックス部材20の内部の酸素濃度としてもよい。また、接合界面近傍とは、近似直線に垂直な100μm以内の範囲とする。接合界面の断面曲線は、近似直線の方向に200μmの長さごとに2以上の金属部材30の凸部を有することが好ましい。
【0044】
セラミックス部材20、金属部材30、またはその接合界面に存在する金属、酸素および炭素の濃度変化は、EPMAによる当該領域の特性X線の強度(カウント数)の比較によって行うことができる。これにより界面近傍および内部の金属、酸素および炭素濃度の差を相対的に評価することができる。
【0045】
金属部材30は、第2の金属酸化物を1wt%以下含むことが好ましい。金属部材30が第2の金属酸化物を1wt%以下含むことで、セラミックス部材20と金属部材30との接合強度が強くなり、接合体10の信頼性が高くなる。第2の金属酸化物を構成する金属は、Y、Ce、Caから選択された1種類以上であることが好ましく、Y、またはCeであることがより好ましい。セラミックス部材20が金属酸化物からなる第2相を含んでいる場合、第2の金属酸化物を構成する金属は、セラミックス部材20の第2相の金属酸化物を構成する金属と同じであってもよい。金属部材30に予め含まれるこれらの金属酸化物成分が接合界面の金属や酸素濃度を高め、接合強度を高くすることができる。
【0046】
金属部材30は、厚み方向に貫通する貫通孔、または一方の主面32もしくは他方の主面34に溝を有することが好ましい。このように、金属部材30に厚み方向に貫通する貫通孔、または一方の主面32もしくは他方の主面34に溝を有することで、接合体10の用途がさらに拡大する。
【0047】
金属部材30は、セラミックス部材20および金属部材30の接合界面近傍に高融点金属のカーバイド化層を有してもよい。接合界面近傍に高融点金属のカーバイド化層を有するとは、EDXまたはEPMAによる断面の元素マッピングにおいて、接合界面を直線で近似したとき、その直線に垂直な100μm以内の範囲にC成分が検出されることをいう。高融点金属のカーバイド化層は脆化層であるため、カーバイド化層が存在することで接合強度が弱くなると考えられるが、本発明の接合体10は、カーバイド化層が生成された場合であっても高い接合強度が得られる。
【0048】
図3は、本発明の実施形態に係る接合体の変形例を示す模式的な断面図である。
図3に示されるように、金属部材30の一方の主面32に対向する側の他方の主面34に、さらにセラミックス部材20が接合されていることが好ましい。このように、金属部材30の両方の主面32、34にセラミックス部材20が接合されることで、接合体10の内部応力がバランスすることにより接合体10の信頼性が向上するとともに、接合体10の用途がさらに拡大する。また、セラミックス部材20で板状の高融点金属(金属部材30)を挟み込むことにより、接合体10の反りを抑制することができ、寸法精度の高い接合体10を作製することができる。
【0049】
[電極埋設部材の構成]
次に、本発明の実施形態に係る電極埋設部材を説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る電極埋設部材の一例を示す模式的な断面図である。本発明の実施形態に係る電極埋設部材50は、接合体10と、接合体10のセラミックス部材20に埋設された電極40と、を備える。
【0050】
接合体10は、上述した接合体10である。電極40は、接合体10のセラミックス部材20に埋設される。電極40の形状は、メッシュ状や箔状など、様々な形状とすることができる。また、材質も、モリブデン、タングステンなど、様々な材質とすることができる。電極40は、ヒーター用電極として使用できる。
【0051】
電極埋設部材50は、図示しない端子穴、端子が設けられていてもよい。
【0052】
本発明の接合体および電極埋設部材は、AlNを主成分とするセラミックス部材および高融点金属からなる金属部材の接合面の浸食やコンタミネーションを抑制した部材である。また、本発明の接合体および電極埋設部材は、金属部材の厚みが厚いことで、金属部材をヒートシンクやヒートスプレッダーとして利用したり、セラミックス部材の強度や寸法精度を高めたりするなど、様々な用途に適用できる。
【0053】
[接合体の製造方法]
次に、上記のように構成された接合体10の製造方法を説明する。
図5(a)~(e)は、それぞれ本発明の実施形態に係る製造方法の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
【0054】
まず、AlN原料粉またはAlN原料粉に金属酸化物原料粉を添加した粉末を造粒した造粒粉22を準備する。AlN原料粉末は、高純度であることが好ましく、その純度は、好ましくは96%以上、より好ましくは98%以上である。また、AlN粉末の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上1.0μm以下、より好ましくは0.3μm以上0.8μm以下である。金属酸化物原料粉として、例えばY2O3を用いる場合は、AlN原料粉に内比で0.1wt%~5wt%のY2O3を添加し、PVA系等のバインダ、分散剤、溶剤を添加してスラリーを調製し、スプレードライヤー等により造粒粉22を造粒する。
【0055】
次に、焼成後金属部材30となる金属部材前駆体36を準備する。金属部材前駆体36は、板状の高融点金属からなり、一方の主面に垂直な方向の最大厚みが1mm以上であり、一方の主面における長さ200μmの基準線分L1ごとの凹凸が6.0μm以上となるように粗面化される。
【0056】
金属部材前駆体36は、中心線平均粗さRaが1.0μm以上となるように加工されることにより、金属部材前駆体36の一方の主面が粗面化されることが好ましい。金属部材前駆体36の粗面化は、ブラスト加工であることが好ましい。これにより、一方の主面における長さ200μmの基準線分L1ごとの凹凸が6.0μm以上となるように、容易に粗面化することが可能である。
【0057】
Raが1.0μmより小さいと酸素濃度の高いセラミックス領域が接合界面の凹凸に侵入することが相対的に困難になる。接合強度は化学結合を主となるため、相対的に接合強度が低くなってしまう虞がある。また、金属部材前駆体36は、中心線平均粗さRaが5.0μm以下となるように加工されることが好ましい。Raが5.0μmより大きくても接合強度は得られるが、金属部材の加工精度が悪化し、接合体の寸法精度に悪影響を与える虞がある。
【0058】
また、金属部材前駆体36は、ローレット加工により、金属部材前駆体36の一方の主面を粗面化されてもよい。ローレット加工は、アヤ目ローレット等、従前の文様でよい。また、ローレット加工は、ワークの表面を削り取る切削加工でもワークを転がしながら圧力を加えて変形させる転造加工でもよい。
【0059】
次に、造粒粉22または造粒粉から形成した成形体、および金属部材前駆体36を、板状の金属部材前駆体36の一方の主面が積層方向に垂直になるように有底のカーボン型60(成形型)に積層する。
【0060】
成形体を積層する他の例として、得られた造粒粉22を用いて1または複数の成形体を作製する。成形体の成形方法としては、例えば、一軸加圧成形や冷間静水等方圧加圧(CIP:Cold Isostatic Pressing)法などの公知の方法を用いればよい。なお、成形体を形成する方法は、加圧成形に限らず、例えば、グリーンシート積層、または鋳込み成形であっても適用が可能である。
【0061】
電極埋設部材50を作製する場合は、造粒粉22を積層する際に、造粒粉22を仮プレスし電極40を配置しさらに造粒粉22を投入し仮プレスする、または、成形体を積層し電極40を配置しさらに成形体を積層することで、焼結後セラミックス部材20となる部分に電極40が埋設される。
【0062】
次に、カーボン型60にカーボンパンチ70を挿入し、積層体12を形成する。積層体12は、焼結後セラミックス部材20となる造粒粉22または成形体の層と、焼結後金属部材30となる板状の金属部材前駆体36の2層であってもよいし、板状の金属部材前駆体36が造粒粉22または成形体の層で挟まれた3層であってもよい。また、積層方向の側面は、板状の金属部材前駆体36が露出する部分があってもよいし、板状の金属部材前駆体36が造粒粉22または成形体で覆われていてもよい。
図5は、板状の金属部材前駆体36が造粒粉22で覆われて、3層で作製される場合を示している。
【0063】
次に、積層体12を一軸加圧焼成することで接合体10を作製する。焼成条件は、例えば、1700℃以上2000℃以下の温度、1MPa以上の圧力で、0.1時間以上10時間以下保持することで焼成することができる。
【0064】
このとき、一軸加圧焼成する工程は、造粒粉または成形体が金属部材前駆体36の一方の主面の凹部38に侵入し、凹部38に侵入して焼成されたセラミックス部材の酸素濃度が、凹部38以外で焼成されたセラミックス部材の酸素濃度より高くなるように制御される。すなわち、焼成後の接合体10において、セラミックス部材の凸部28の酸素濃度が、凸部28以外のセラミックス部材の酸素濃度より高くなるように制御される。このような制御は、一軸加圧する圧力、焼成温度、焼成時間、昇温または降温する時間等の焼成条件を材料に応じて制御することで行われる。例えば、Y2O3を5wt%含むAlNとMoの場合、900℃~1500℃での焼成時の保持時間を通常より長くすることが好ましく、例えば5時間以上とすることが好ましい。
【0065】
焼成後、所定の形状に加工する工程を設けてもよい。このとき、板状の金属部材前駆体36の積層方向の側面がセラミックス部材で覆われている場合、板状の金属部材前駆体36を露出する加工を行ってもよい。また、板状の金属部材前駆体36がセラミックス部材20の層で挟まれた3層である場合、セラミックス部材20のうちの一部、または一方のセラミックス部材20を全部取り去る加工をしてもよい。また、板状の金属部材前駆体36の形状を加工する工程を設けてもよい。このときは、板状の金属部材前駆体36の一方の主面32に垂直な方向の最大厚みが1mmを下回らないように加工をする。
【0066】
また、電極埋設部材50とした場合は、電極40の一部を露出させる工程や、電極40に端子を接続する工程を設けてもよい。
【0067】
なお、成形体を作製し積層する方法では、成形体を脱脂して脱脂体を作製する工程や脱脂体を仮焼して仮焼体を作製する工程を設けてもよい。その場合、例えば、脱脂温度は400℃以上800℃以下であることが好ましく、脱脂時間は1時間以上120時間以下であることが好ましい。脱脂雰囲気は、大気雰囲気または窒素雰囲気であることが好ましく、大気雰囲気であることがより好ましい。また、例えば、仮焼温度は1200℃以上1700℃以下であることが好ましく、仮焼時間は、0.5時間以上12時間以下であることが好ましい。仮焼雰囲気は、窒素や不活性ガス雰囲気であることが好ましいが、真空などの雰囲気であってもよい。
【0068】
また、板状の金属部材前駆体36は、厚み方向に貫通する貫通孔、または一方の主面32もしくは他方の主面34に溝を有することが好ましい。このように、厚み方向に貫通する貫通孔、または一方の主面32もしくは他方の主面34に溝を有する板状の金属部材前駆体36を使用することで、難加工性の金属部材前駆体を予め加工しておくことができ、焼成後に加工するよりも容易に種々の構造のための形状を作製でき、接合体10の用途がさらに拡大する。
【0069】
図6(a)~(e)は、それぞれ本発明の実施形態に係る製造方法の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
図6は、厚み方向に貫通する貫通孔、および一方の主面32に溝を有する板状の金属部材前駆体36を使用した製造方法の一例を示している。上記の製造方法との違いのみ説明する。
【0070】
厚み1mm以上の板状の金属部材前駆体36を準備する工程において、板状の金属部材前駆体36に、接合体10の設計に応じて、厚み方向に貫通する貫通孔、または一方の主面32もしくは他方の主面34に溝を加工する。そして、一方の主面における長さ200μmの基準線分ごとの凹凸が6.0μm以上となるように、金属部材前駆体36の一方の主面を粗面化する。また、積層体12を形成する工程において、加工によって形成された板状の金属部材前駆体36の貫通孔または溝には、造粒粉22または造粒粉から形成した成形体を充填することが好ましい。このように貫通孔または溝に造粒粉等を充填して焼成することで、焼成後のセラミックス部材に不具合が生じる虞が低減される。造粒粉22または造粒粉から形成した成形体のほか、これらの仮焼体や焼成体を充填してもよい。
【0071】
焼成後、所定の形状に加工する。このとき、板状の金属部材前駆体36の貫通孔または溝のセラミックスが充填された領域を加工することで、焼成後の後加工の負担を小さくすることができる。貫通孔は、例えば、電極取り出しのための給電端子を後付けするための孔、ガスを供給または吸引するための孔、基板を載置するためのリフトピン用の孔として使用される。その際には、貫通孔に充填して形成されたセラミックスの一部を残して加工することにより電気絶縁の機能を付加することができる。溝は、例えば、冷媒流路の一部として使用される。
【0072】
このような方法により、AlNを主成分とするセラミックス部材および高融点金属からなる金属部材の接合面の浸食やコンタミネーションを抑制した接合体または電極埋設部材を製造することができる。
【0073】
[実施例]
(接合体の作製)
(実施例1)
AlN原料粉に内比で5wt%のY2O3を添加し、バインダ(PVA)、分散剤、溶剤を添加してスラリーを調製し、スプレードライヤーにより造粒粉を造粒した。また、金属部材となる板状の金属部材前駆体として、径Φ50mm、厚み5mm、ブラスト加工により主面の中心線平均粗さRaを2.0μmに粗面化したの板状のMoを準備した。ブラスト加工は、粒度#100であるSiC粉を使用し、エア圧力0.15MPaという条件で行った。
【0074】
次に、造粒粉を有底のカーボン型に充填し、カーボンパンチでプレス成形し、径Φ80mm、厚み10mmの成形体を作製した。次に、Moを成形体上に載置した。次に、カーボン型に造粒粉をさらに充填してMoを埋設した。このとき、Moの上面より厚みが10mmになるように、造粒粉の充填およびカーボンパンチでの成形をした。
【0075】
そして、カーボンパンチをカーボン型に挿入した状態で、温度1800℃、圧力4MPa、N2雰囲気で2時間一軸ホットプレス焼成を行った。これにより直径80mmのAlN焼結体の内部に直径50mmの高融点金属のMoからなる金属部材を埋設することができた。このようにして、実施例1の接合体を作製した。その後、積層方向が長辺となるように3mm×4mm×19mmの実施例1の試験片を複数切り出した。
【0076】
(実施例2)
実施例1の造粒粉を、AlN原料粉に内比で5wt%のY2O3および0.9wt%のTiNを添加したものに変更した以外、同じ工程、条件で実施例2の接合体を作製した。
【0077】
(実施例3)
実施例1の高融点金属を、MoにY2O3が0.4wt%添加された合金に置き換えた以外、同じ工程、条件で実施例3の接合体を作製した。
【0078】
(実施例4)
実施例1の高融点金属を、Wに置き換えた以外、同じ工程、条件で実施例4の接合体を作製した。
【0079】
(実施例5)
実施例1の造粒粉を、AlN原料粉のみに変更した以外、同じ工程、条件で実施例5の接合体を作製した。
【0080】
(実施例6)
実施例1の焼成時間を、5時間とした以外は実施例1と同じ工程、条件で実施例6の接合体を作製した。
【0081】
(実施例7)
実施例1の造粒粉を、AlN原料粉に内比で7wt%のY2O3を添加したものに変更し、温度1800℃、圧力4MPa、N2雰囲気で10時間一軸ホットプレス焼成した以外は実施例1と同じ工程、条件で実施例7の接合体を作製した。
【0082】
(実施例8)
実施例1の金属部材前駆体の主面をローレット加工した以外は実施例1と同じ工程、条件で実施例8の接合体を作製した。ローレット加工は、JIS B 0951に規定される、アヤ目 m0.5とした。
【0083】
(実施例9)
実施例1の金属部材前駆体の主面をRa4.0μmとなるように粗面化した以外は実施例1と同じ工程、条件で実施例9の接合体を作製した。
【0084】
(実施例10)
実施例1の金属部材前駆体の主面をRa1.2μmとなるように粗面化した以外は実施例1と同じ工程、条件で実施例10の接合体を作製した。
【0085】
(比較例1)
実施例1の金属部材前駆体の主面を粗面化しなかった点以外は実施例1と同じ工程、条件で比較例1の接合体を作製した。なお、Raは0.8μmであった。
【0086】
(比較例2)
実施例2の金属部材前駆体の主面を粗面化しなかった点以外は実施例2と同じ工程、条件で比較例2の接合体を作製した。なお、Raは0.8μmであった。
【0087】
(接合強度の測定)
JIS R1601 2008(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)に準拠した3点曲げ強度試験により、接合体の接合強度の測定を行った。スパンは10mmとし、長手方向の中央部に接合面を配置してナイフエッジを接合面に合わせて測定を行った。試験片は各試料5個準備し、5個の測定値の平均値を各試料の接合強度の値とした。
【0088】
【0089】
(測定結果)
表1の通り、比較例1の接合強度は77MPaであり、比較例2の接合強度は、115MPaであった。これに対して、実施例1は、接合強度が325MPaとなり、従来の比較例と比べ4倍程度高い接合強度が得られていることが分かった。実施例2、4、6、7、8、および10は、それぞれ290MPa、240MPa、270MPa、215MPa、300MPa、および180MPaとなり、実施例1の試料よりは接合強度が低かったものの、比較例より高い接合強度を得られた。また、実施例3、5、および9は、それぞれ330MPa、345MPa、および340MPaとなり、実施例1の試料より高い接合強度が得られた。
【0090】
(基準線分および第2の線分の距離の測定)
次に、実施例1~10および比較例1~2の試料について、金属部材の一方の主面に垂直な断面の500倍のマイクロスコープ画像における、基準線分および第2の線分の距離を測定した。
【0091】
(測定結果)
表1の通り、比較例1、2における基準線分および第2の線分の距離の最小値は4μmであった。これに対して、実施例1は、基準線分および第2の線分の距離の最小値が14μmとなり、従来の比較例と比べて基準線分および第2の線分の距離が非常に長いことが分かった。実施例2、5~7は、15μmとなり、実施例1の試料より基準線分および第2の線分の距離の最小値が長いことが分かった。また、実施例4は、16μmとなり、実施例1の試料より基準線分および第2の線分の距離の最小値が長いことが分かった。また、実施例8は、120μmとなり、実施例1の試料より基準線分および第2の線分の距離の最小値が非常に長いことが分かった。また、実施例9は、29μmとなり、実施例1の試料より基準線分および第2の線分の距離の最小値が長いことが分かった。実施例10は、7μmとなり、実施例1の試料よりは基準線分および第2の線分の距離の最小値が短かったものの、比較例より基準線分および第2の線分の距離の最小値が長かった。
【0092】
(元素分析)
次に、実施例の試料について、積層方向に垂直な切断面をEPMAで元素分析をしてマッピングした。
図7(a)~(g)は、それぞれ実施例2のEPMAのマッピングを示す写真である。
図7(a)は、実施例2の断面の分析視野を2000倍で撮影したSEM画像である。
図7(b)~(g)は、それぞれ、Al、Mo、O、N、Ti、およびYをマッピングした写真である。
【0093】
図7(a)~(d)に示されるように、Oは、セラミックス部材(AlN)内にも存在するが、セラミックス部材の凸部にそれより多く存在していることが分かった。すなわち、セラミックス部材および金属部材の接合界面は、セラミックス部材の酸素濃度が、セラミックス部材の内部の酸素濃度よりそれぞれ大きいことが確かめられた。
【0094】
セラミックス部材の凸部は、相対的にAl、Oが多い一方、Nが少ないことから、金属部材およびセラミックス部材の接合界面は-Mo-(O-Al)-N-のような化学結合がなされているものと推定される。
【0095】
また、セラミックス部材の凸部に形成された成分は融点が相対的に低くなり、金属部材の凹部に容易に侵入し物理的なアンカー効果を発揮しているものと推定される。
【0096】
図8(a)、(b)は、それぞれ実施例1、比較例1の断面を2000倍で撮影したSEM画像である。同じ視野の断面について、予めEPMAで元素分析をしてマッピングした結果とSEM画像の色調の違い等を合わせた結果、接合体の接合界面の近傍は、
図7のSEM画像で上から順にAlNセラミックスの層、酸素リッチなAlNセラミックスの層、高融点金属であるMoの層という順に層状に構成されていることが分かった。また、比較例1の断面でも、各層の厚さは異なるが、同様の構成であることが分かった。
【0097】
実施例1におけるAlNセラミックスの層と酸素リッチなAlNセラミックスの層は、SEM画像上では色調の違いが表れており、酸素リッチなAlNセラミックスの層は、他のAlNセラミックスの層と比べて濃い色味となっている。また、酸素リッチなAlNセラミックスの層は、接合界面およびセラミックス部材の凸部に多く存在していた。これに対して、比較例1においても、酸素リッチなAlNセラミックスの層が接合界面付近に存在していると考えられるが、明確に視認できない。そのため、一方の主面における長さ200μmの基準線分ごとの凹凸が6.0μm以上となるように粗面化されることによって、接合界面およびセラミックス部材の凸部に酸素リッチなAlNセラミックスの層が形成されることが確認された。
【0098】
(実施例11)
実施例1の金属部材となる板状の金属部材前駆体を、径φ60mm、厚み10mmの板状のMoにφ6mmの貫通孔を4か所(PCD.40mm、等配)設けた。さらに幅5mm、深さ5mmの溝を金属部材の中心を通り直交するように形成し、径φ60mmの上下の表面をRa4.0μmとなるように粗面化した。そして、径φ80mmの成形体の上に金属部材を載置し、金属部材の貫通孔及び溝の空間に造粒粉を充填するとともに、Moの上面より厚みが10mmになるように造粒粉をさらにしてMoを埋設した以外、同じ工程、条件で実施例11の接合体を作製した。なお、実施例11における基準線分および第2の線分の距離は26μmであった。
【0099】
実施例11の接合体を焼成後、セラミックス部材に板状のMoの貫通孔を貫通する孔および板状のMoの溝まで達する溝を形成した。いずれも、接合体の焼成後に板状のMoを加工するよりも容易に形成することができた。接合体にこのような構造を形成する必要がある場合は、焼成前に予め板状の金属部材前駆体を加工しておくことが好ましいことが確かめられた。
【0100】
(実施例12)
(電極埋設部材の作製)
実施例12は、実施例1の製法において金属部材前駆体の上に位置するAlN焼結体(セラミックス部材)にヒーター電極を埋設し、高温下のプロセスで使用できるヒーターモジュールを作製した。
【0101】
造粒粉は、実施例1と同様のものを準備した。また、金属部材となる板状の金属部材前駆体として、径φ300mm、厚み8mmの板状のMoを準備した。そして、金属部材の径φ300mmの上下の表面をRa2.0μmで粗面化した。
【0102】
まず、ヒーター積層体を作製した。造粒粉を有底のカーボン型に充填し、カーボンパンチでプレス成形し、径φ320mm厚み8mmの成形体を作製した。次に、ヒーター電極を成形体上に載置した。ヒーター電極はMoメッシュ(線径0.1mm、メッシュサイズ#50、平織)をヒーター電極の抵抗値を合わせるため所定のパターンに裁断したものである。次に、カーボン型に造粒粉をさらに充填してヒーター電極を埋設することでヒーター積層体を作製した。このとき、ヒーター電極の上面より厚みが8mmになるように、造粒粉の充填およびカーボンパンチでの成形をした。
【0103】
次に、板状のMoをヒーター積層体上に載置した。そして、Moを載置したカーボン型に造粒粉をさらに充填してMoを埋設した。このとき、板状のMoの上面より厚みが8mmになるようにカーボンパンチで成形し、積層体を作製した。このようにして、ヒーター積層体、および板状のMoが積層された積層体を作製した。
【0104】
そして、カーボンパンチをカーボン型に挿入した状態で、温度1800℃、圧力4MPa、N2雰囲気で4時間一軸ホットプレス焼成を行った。焼成後、外形加工(φ300mm×18mm)を行った。電極と外部電源とを接続するための端子穴の穿設、端子の接続、および必要な絶縁構造の作製は、焼成後の加工時に同時に行った。このようにして、実施例12の電極埋設部材を作製した。
【0105】
(評価)
作製されたヒーターモジュールは、ヒーター電極に外部電源より通電することにより400℃に加熱することができた。
【0106】
以上により、本発明の接合体および電極埋設部材は、接合面の浸食やコンタミネーションを抑制でき、接合強度が強く、金属部材の厚みが厚い接合体および電極埋設部材であることが確かめられた。また、本発明の製造方法は、そのような接合体または電極埋設部材を製造できることが確かめられた。
【0107】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0108】
10 接合体
12 積層体
20 セラミックス部材
22 造粒粉
28 凸部
30 金属部材
32 一方の主面
34 他方の主面
36 金属部材前駆体
38 凹部
40 電極
50 電極埋設部材
60 カーボン型
70 カーボンパンチ