(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107345
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】超音波探傷装置及び超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/265 20060101AFI20230727BHJP
G01N 29/28 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
G01N29/265
G01N29/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008502
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】安藤 富雄
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB07
2G047BA03
2G047BC07
2G047DB16
2G047EA10
2G047GA04
2G047GA05
2G047GA19
2G047GA21
2G047GE01
2G047GE04
2G047GJ02
(57)【要約】
【課題】対象物の表面に凹凸がある場合においても、探傷子を対象物の形状に追従させることができ、正確な探傷を行うことができる超音波探傷装置等を提供する。
【解決手段】検査対象部位Pを含む対象物Tに対して超音波パルスを発するとともに検査対象部位Pで反射した超音波パルスを検出する超音波探傷子10と、超音波探傷子10の走査を実現させる走査機構20と、を備える超音波探傷装置1であって、走査機構20は、柔軟性を有する関節機構を備えるロボットアーム20Aを含み、走査機構20により、超音波探傷子10が媒体Mを介して対象物Tに押し付けられながら走査するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象部位を含む対象物に対して超音波パルスを発するとともに前記検査対象部位で反射した超音波パルスを検出する超音波探傷子と、前記超音波探傷子の走査を実現させる走査機構と、を備える超音波探傷装置であって、
前記走査機構は、柔軟性を有する関節機構を備えるロボットアームを含み、
前記走査機構により、前記超音波探傷子が媒体を介して前記対象物に押し付けられながら走査するように構成されている、超音波探傷装置。
【請求項2】
前記ロボットアームは、複数の駆動軸を有し、
前記複数の駆動軸の各々は、前記柔軟性を有する関節機構として直列弾性アクチュエータを有する、請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
探傷中に前記超音波探傷子及び前記走査機構の少なくとも一方に加えられる衝撃力を検知する衝撃力検知部と、
前記衝撃力検知部で検知した衝撃力が所定の閾値を超える場合に警告情報を出力する警報出力部と、
を備える、請求項1又は2に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記警報出力部によって出力された警告情報の回数が所定の回数を超えた場合に走査を停止させる装置停止部を備える、請求項3に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
前記ロボットアームの先端部には、前記媒体を吐出するノズルが設けられている、請求項1から4の何れか一項に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記ノズルから吐出される前記媒体の量を探傷状況に応じて調整する吐出量調整部を備える、請求項5に記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
前記対象物の形状に関する情報に基づいて前記ロボットアームの動作を設定する動作設定部を備える、請求項1から6の何れか一項に記載の超音波探傷装置。
【請求項8】
前記対象物の画像情報を取得する撮像部を備える、請求項1から7の何れか一項に記載の超音波探傷装置。
【請求項9】
前記超音波探傷子からの超音波パルスが前記検査対象部位に届かない場合に検査不能情報を出力する異常出力部を備える、請求項1から8の何れか一項に記載の超音波探傷装置。
【請求項10】
前記ロボットアームの基部は、移動台車として機能するものであり、
前記対象物の特定部位に沿って前記超音波探傷子を移動させるように前記移動台車を移動させる台車制御部を備える、請求項1から9の何れか一項に記載の超音波探傷装置。
【請求項11】
検査対象部位を含む対象物に対して超音波パルスを発するとともに前記検査対象部位で反射した超音波パルスを検出する超音波探傷子と、柔軟性を有する関節機構を備えるロボットアームを含む走査機構と、を用いた超音波探傷方法であって、
前記走査機構により、媒体を介して前記超音波探傷子を前記対象物に押し付けながら走査する工程を含む、超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷装置及び超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、溶接部における不良部(クラック、溶け込み不足、スラグ巻き込み等)を検出するための自動探傷技術が種々提案されている。例えば近年においては、プローブを走査機構と組み合わせて使用する自動検査システムにおいて、プローブで走査して得た検査データを、それ以前に走査して得た検査データとともに記録装置に記録しておき、制御データ生成部で過去の検査データを読み込んで次に走査する制御条件を決定し、それを制御装置に供給する技術が提案されている(特許文献1参照)。かかる技術を採用すると、欠陥に対して最も感度のよい方向からプローブを自動的に走査させることができ、自動欠陥検出に対する感度を高めることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されたような従来の自動検査システムにおいては、過去の検査データを現在の検査に利用することはできるものの、現在の対象物の表面が波打ち形状を有していたり溶接歪みで変形したりしている場合には、探傷子が対象物の表面から離れてしまい、正確な探傷を行うことができない虞があった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、対象物の表面に凹凸がある場合においても、探傷子を対象物の形状に追従させることができ、正確な探傷を実現させることができる超音波探傷装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る超音波探傷装置は、検査対象部位を含む対象物に対して超音波パルスを発するとともに検査対象部位で反射した超音波パルスを検出する超音波探傷子と、超音波探傷子の走査を実現させる走査機構と、を備えるものであって、走査機構は、柔軟性を有する関節機構を備えるロボットアームを含み、走査機構により、超音波探傷子が媒体を介して対象物に押し付けられながら走査するように構成されているものである。
【0007】
また、本発明に係る超音波探傷方法は、検査対象部位を含む対象物に対して超音波パルスを発するとともに検査対象部位で反射した超音波パルスを検出する超音波探傷子と、柔軟性を有する関節機構を備えるロボットアームを含む走査機構と、を用いた方法であって、走査機構により、媒体を介して超音波探傷子を対象物に押し付けながら走査する工程を含むものである。
【0008】
ここで、「柔軟性を有する」とは、弾性、粘性、又は、弾性及び粘性を有していることをいう。弾性とは、応力を加えると変形し、応力を除去すると元に戻る性質をいい、弾性変形のし易さを示す可撓性という言葉で表現される場合もある。粘性とは、流体の流動速度を一様化する応力を生じさせる性質をいう。柔軟性を備えた駆動機構は、柔軟性を付与するための、例えば、磁性流体、機械ばね、空気ばね、磁力ばね及びベーンモータの何れか一つを少なくとも備えてもよい。
【0009】
かかる構成及び方法を採用すると、柔軟性を有する関節機構を備えるロボットアームを含む走査機構によって超音波探傷子の走査を実現させることができ、この走査機構により、超音波探傷子が媒体を介して対象物に押し付けられながら走査することができるので、対象物の表面に凹凸がある場合においても、超音波探傷子を対象物の形状に追従させることができる。従って、正確な超音波探傷を実現させることが可能となる。
【0010】
本発明に係る超音波探傷装置(超音波探傷方法)において、ロボットアームは、複数の駆動軸を有することができ、複数の駆動軸の各々は、柔軟性を有する関節機構として直列弾性アクチュエータを有することができる。
【0011】
本発明に係る超音波探傷装置において、探傷中に超音波探傷子及び走査機構の少なくとも一方に加えられる衝撃力を検知する衝撃力検知部と、衝撃力検知部で検知した衝撃力が所定の閾値を超える場合に警告情報を出力する警報出力部と、を備えることができる。
【0012】
本発明に係る超音波探傷装置において、警報出力部によって出力された警告情報の回数が所定の回数を超えた場合に走査を停止させる装置停止部を備えることができる。
【0013】
本発明に係る超音波探傷装置において、ロボットアームの先端部に、媒体を吐出するノズルを設けることができる。この際、ノズルから吐出される媒体の量を探傷状況に応じて調整する吐出量調整部を備えることができる。
【0014】
本発明に係る超音波探傷装置において、対象物の形状に関する情報に基づいてロボットアームの動作を設定する動作設定部を備えることができる。
【0015】
本発明に係る超音波探傷装置において、対象物の画像情報を取得する撮像部を備えることができる。
【0016】
本発明に係る超音波探傷装置において、超音波探傷子からの超音波パルスが検査対象部位に届かない場合に検査不能情報を出力する異常出力部を備えることができる。
【0017】
本発明に係る超音波探傷装置において、ロボットアームの基部を移動台車として機能させることができる。かかる場合において、対象物の特定部位に沿って超音波探傷子を移動させるように移動台車を移動させる台車制御部を備えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、対象物の表面に凹凸がある場合においても、探傷子を対象物の形状に追従させることができ、正確な探傷を実現させることができる超音波探傷装置等を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る超音波探傷装置の外観を説明するための図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る超音波探傷装置の機能的構成を説明するためのブロック図である。
【
図3】垂直探傷用の探傷子が使用されている状態を示すものであり、(A)は対象物中に欠陥がない場合の超音波パルスの経路を示す図であり、(B)は対象物中に欠陥がある場合の超音波パルスの経路を示す図である。
【
図4】斜角探傷用の探傷子が使用されている状態を示すものであり、(A)は対象物中に欠陥がない場合の超音波パルスの経路を示す図であり、(B)は対象物中に欠陥がある場合の超音波パルスの経路を示す図である。
【
図5】斜角探傷用の探傷子が使用されている場合において、対象物内部における反射を利用して検出距離を延ばした例を示す図である。
【
図6】送信パルス信号及びエコー信号に基づいた欠陥判定の例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る超音波探傷装置の探傷子を溶接ビード部に沿って移動させている状態を示す図である。
【
図8】スパッタにより探傷子の移動が阻害される状態を示す上面図である。
【
図9】正常な溶接ビード部を示すものであり、(A)は上面図、(B)は断面図である。
【
図10】オーバーラップ不良がある溶接ビード部を示すものであり、(A)は上面図、(B)は断面図である。
【
図11】アンダーカット不良がある溶接ビード部を示すものであり、(A)は上面図、(B)は断面図である。
【
図12】異物巻き込みがある溶接ビード部を示すものであり、(A)は上面図、(B)は断面図である。
【
図13】本発明の実施形態に係る超音波探傷方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施形態のみに限定する趣旨ではない。
【0021】
まず、本発明の実施形態に係る超音波探傷装置1の構成について説明する。
【0022】
本実施形態に係る超音波探傷装置(以下、「本装置」と称することがある)1は、
図1及び
図2に示すように、超音波探傷子10、超音波探傷子10の走査を実現させる走査機構20、各種構成を統合制御する制御装置100、等を備えている。本装置1は、走査機構20を構成するロボットアーム20A(後述)により、超音波探傷子10が媒体M(後述)を介して対象物Tに押し付けられながら走査するように構成されている。
【0023】
<超音波探傷子>
超音波探傷子10は、
図3~
図5に示すように、検査対象部位Pを含む対象物Tの表面に媒体Mを介して載置され、対象物Tに対して超音波パルスを発するとともに、検査対象部位Pで反射した超音波パルスを検出するように構成されている。
図3は、対象物Tの表面に対して垂直に超音波パルスを入射させる垂直探傷を行う際に使用される探傷子の例であり、
図4及び
図5は、対象物Tの表面に対して斜めに超音波パルスを入射させる斜角探傷を行う際に使用される探傷子の例である。斜角探傷における超音波パルスの入射角度は、適宜設定することができる。例えば、対象物Tの表面に垂直な法線に対して30°、45°、60°、70°等の特定の角度に設定したり、複数の角度で入射させる放射式にしたりすることができる。斜角探傷を行う場合には、
図5に示すように、対象物Tの裏面における超音波パルスの反射を利用して検出距離を延ばすこともできる。
【0024】
対象物Tの内部(検査対象部位P)に空隙等の欠陥が存在しない場合には、
図3(A)及び
図4(A)に示すように、対象物Tの底面で超音波パルスが反射し、底面エコーとして探傷子に戻ってくる。一方、対象物Tの内部に空隙等の欠陥Fが存在する場合には、
図3(B)及び
図4(B)に示すように、欠陥Fで超音波パルスが反射して、欠陥エコーとして探傷子に戻ってくる。本実施形態における超音波探傷子10には、このように超音波パルスが発射されてからエコーが検出されるまでの時間(送信パルスからエコーまでの超音波伝播距離)を検出する機能が備わっており、当該探傷子で検出された時間(距離)及び強度に関する情報は、制御装置100の欠陥判定部110(後述)に送られる。欠陥判定部110は、超音波探傷子10で検出された時間(距離)に基づいて欠陥判定を行う。例えば、対象物Tに欠陥Fが存在する場合には、
図6に示すように、送信パルスから欠陥エコーまでの距離(時間)W
Fが、欠陥Fが存在しない場合における送信パルスから底面エコーまでの距離(時間)W
Bよりも短くなることから、欠陥Fの存在を検出することができる。超音波探傷子10で使用される超音波パルスの周波数は、例えば1~10MHzの範囲内で、対象物Tの材質に応じて適宜設定することができる。また、欠陥の程度(空隙や傷の程度)は、欠陥エコーの強度に基づいて推測することができる。
【0025】
<走査機構>
走査機構20は、柔軟性を有する関節機構を備えるロボットアーム20Aを有している。ロボットアーム20Aは、例えば、垂直多関節ロボットであり、移動台車として機能するベース(基部)20Bと、複数のリンク20Lと、各リンク20Lを接続するジョイント20Jと、ジョイント20Jにおいてリンク20Lを回転駆動するための直列弾性アクチュエータ20D(
図2参照)と、を有している。本実施形態におけるロボットアーム20Aは、垂直多関節ロボットであり、
図1に示されるように、リンク20Lを伸ばすことによって、ベース20Bを動かすことなく、先端のリンク20Lに保持される超音波探傷子10を大きく動かすことができるように構成されている。但し、ロボットアームは、本実施形態で挙げたものに限られるものではなく、例えば、水平多関節型ロボット装置、パラレルリンク型ロボット装置であってもよい。
【0026】
複数のリンク20Lは、剛性を有する部材から構成されており、例えば、ベース20Bに対して回動可能に取り付けられた胴部に相当するリンク20Lと、胴部に対して回動可能に取り付けられた上腕部に相当するリンク20Lと、上腕部に対して回動可能に取り付けられた前腕部に相当するリンク20Lと、前腕部に対して回動可能に取り付けられた手先部(先端部)に相当するリンク20Lと、を有することができる。本実施形態においては、ロボットアーム20Aの手先に作用する力を検出する圧力センサが先端のリンク20Lに設けられている。圧力センサで検出された力に関する情報は、制御装置100に送られて、ロボットアーム20Aの駆動制御に使用されることとなる。
【0027】
ロボットアーム20Aの先端のリンク20Lには、超音波探傷子10を保持するための保持機構が設けられている。保持機構は、例えば、超音波探傷子10をねじによって固定するための雌ねじが形成された雌ねじ部から構成される。但し、超音波探傷子10を保持するための保持機構は、様々な構成を採用することが可能であり、例えば、超音波探傷子10を保持するための複数の吸着パッドと、制御装置100から送信される制御信号に基づいて吸着パッドに負圧を発生させるアクチュエータと、を備えるものや、或いは、金属等の磁性体材料から構成される超音波探傷子10を磁力により保持するための磁場を電磁的に発生させるためのコイルを備えるものであってもよい。また、先端のリンク20Lに、アクチュエータによって開閉する一対の可動プレート(グリッパと呼ばれる場合もある)を備えるエンドエフェクタを更に取り付け、可動プレート等によって、超音波探傷子10を挟持可能な保持機構を採用することも可能である。なお、超音波探傷子10の配線(ハーネス)11は、ロボットアーム20Aに這わせるか、又は、ロボットアーム20Aの内部に埋設させるようにする。
【0028】
本装置1の走査機構20のロボットアーム20Aは、複数のリンク20Lをそれぞれ回転駆動するための複数の駆動軸として機能する直列弾性アクチュエータ20D(「柔軟性を備えた駆動機構」の一例:
図2参照)を備えている。
【0029】
直列弾性アクチュエータ20Dは、SEA(Serial Elastic Actuators)とも呼ばれる駆動機構である。直列弾性アクチュエータ20Dは、駆動部20DAと、駆動部20DAに接続される弾性体20DEと、から構成されている。駆動部20DAは、例えばサーボモータから構成されており、弾性体20DEは、例えば機械ばねから構成されている。直列弾性アクチュエータ20Dにおいて駆動部20DAから出力される動力は、弾性体20DEを介して出力側のリンク20L(但し先端のリンク20Lの場合には超音波探傷子10を含む)に伝達され、これを回動させる。
【0030】
さらに、直列弾性アクチュエータ20Dは、負荷の大きさを取得するためのトルクセンサと、弾性体20DEの変位量を取得するためのセンサと、サーボモータの変位量を取得するためのセンサを含む複数のセンサと、を備えている。これらセンサは、ロボットアーム20Aの関節(ジョイント20J)に作用する力を検出する検出手段として機能する。これらセンサで検出された力に関する情報は、制御装置100に送られて、ロボットアーム20Aの駆動制御に使用されることとなる。なお、負荷の大きさは、例えば、駆動部20DAを構成するサーボモータに流れる電流量を取得する電流センサから取得することが可能であるが、弾性体20DEの変形量から算出する事も可能である。また、弾性体20DEを保持する軸受けやモータ減速機等、全ての駆動系を1つの弾性ユニットとして見なし、エンコーダ等による入力軸位置情報と同じくエンコーダ等による出力軸位置情報の差異から算出する事も可能である。
【0031】
弾性体20DEの変位量は、弾性体20DEの両端の変位量(回転角度)を取得するために弾性体20DEの両端にそれぞれ設けられた光学的センサ、弾性体20DEに磁石等を取り付けこの磁石等から発生する磁場を検出する磁気センサ、又は、弾性体20DEに設けられた歪センサ、等から取得することが可能である。弾性体20DEの変位量及び弾性体20DEの弾性定数に基づいて発生するトルクを取得することも可能となる。なお、上記と同様に、サーボモータの変位量は、エンコーダ等の光学的センサ、ホール素子等の磁気センサ、又は、歪センサ等から取得することが可能である。
【0032】
以上のような構成の下、柔軟性を備えた駆動機構に相当する直列弾性アクチュエータ20Dによって駆動される部分の慣性、質量及び長さ、外力並びに弾性体20DEである機械ばねの弾性率をパラメータとする運動方程式が成立する。このため、制御装置100は、機械ばねの弾性率及び変位量等に基づいて、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御を行うように構成される。
【0033】
なお、直列弾性アクチュエータ20Dは、駆動部20DAであるサーボモータの駆動軸に接続され、動力を機械ばね等の弾性体20DEに伝達するギヤを備えていてもよい。さらに、直列弾性アクチュエータ20Dは、粘性に基づいて衝撃を緩和させるダンパ機構及び動力の伝達をスイッチするためのクラッチ機構を備えてもよい。粘性を有するダンパ機構等の粘性体を付与する場合、又は、ギヤの歯車間の摩擦等から生じる減衰を加味する場合、運動方程式には、粘性定数がパラメータとして加えられた運動方程式が成立する。
【0034】
例えば、サーボモータの駆動軸にギヤが接続され、ギヤの出力軸に弾性体を介して負荷(下流側のリンク等)が接続される直列弾性アクチュエータ20Dの場合、ギヤの出力軸に生じるトルクは、サーボモータに流れる電流及びギヤ比に比例し、このトルクが、ギヤの出力軸の角加速度に慣性を乗じた値と、ギヤの出力軸の角加速度にギヤの粘性を乗じた値と、弾性体の変位量に弾性率を乗じた値と、の和と等しくなる運動方程式が成立する。かかる運動方程式に基づいて、直列弾性アクチュエータ20Dの伝達関数を導くことにより、インピーダンスを制御するメカニカル・コンプライアンス制御が可能となる。
【0035】
以上のような構成により、本実施形態におけるロボットアーム20Aの複数のリンク20Lを回動させることが可能になるため、リンク20Lの先端に取り付けられる超音波探傷子10の位置及び姿勢を自由に変化させることが可能となる。なお、本実施形態において、位置を示す情報は、合理的に必要と考えられる場合、姿勢を示す情報を含む場合がある。
【0036】
本実施形態におけるロボットアーム20Aのベース20Bは、
図1に示すように、走行機能を有する移動台車となっている。ベース20Aは、制御装置100の台車制御部120(後述)によって制御されることにより特定の態様で移動することができる。従って、本装置1は、
図7に示すように、対象物Tの表面の特定部位(例えば溶接ビード部の端部)に対して超音波探傷子10を倣わせながら自動探傷を行うことができるように構成されている。対象物Tの表面の特定部位に対して超音波探傷子10を「倣わせる」とは、当該特定部位に対して超音波探傷子10を(媒体Mを介して)当接させながら、超音波探傷子10を当該特定部位に対して相対的に移動させることをいう。相対的に移動させることは、並進移動に限られず、相対的に回転移動させることを含む。
【0037】
<媒体吐出ノズル>
本実施形態におけるロボットアーム20Aのうち超音波探傷子10に接続される先端のリンク20Lには、
図1に示すように、媒体Mを吐出する媒体吐出ノズル30が設けられている。媒体吐出ノズル30は、チューブ31を介して図示されていない媒体貯留部に接続されており、媒体貯留部から供給される媒体Mを一定期間毎に定量吐出したり、連続的に吐出したりすることができるように構成されている。また、本実施形態においては、媒体吐出ノズル30から吐出される媒体の量を探傷状況に応じて調整する吐出量調整部130(後述)が制御装置100に設けられており、反射される超音波レベルが所定の閾値よりも低くなったときに媒体の吐出量を増加させることができるようになっている。なお、媒体吐出ノズル30に接続されるチューブ31は、ロボットアーム20Aに這わせるように装着するか、又は、ロボットアーム20Aの内部に埋設させるようにする。
【0038】
媒体Mは、
図1、
図3~
図5、
図7に示すように媒体吐出ノズル30から対象物Tの表面に吐出され、超音波探傷子10と対象物Tの表面との間に介在して両者の間に形成される間隙をなくすように機能する。これにより、超音波探傷子10から発射される超音波パルスを対象物Tの内部に良好に入射させることができ、かつ、対象物Tの内部で反射した超音波パルスを超音波探傷子10に良好に戻すことができる。媒体Mは、上記機能を果たすものであれば特に限定されるものではなく、例えばグリセリン等を採用することができる。
【0039】
<衝撃力センサ・情報出力部>
本装置1はさらに、
図2に示すように、探傷中に超音波探傷子10及び走査機構20の少なくとも一方に加えられる衝撃力を検知する衝撃力センサ40と、衝撃力センサ40で検知した衝撃力が所定の閾値を超える場合に警告情報を出力する情報出力部50と、を備えている。
【0040】
本実施形態における衝撃力センサ40は、本発明における衝撃力検知部として機能するものであり、超音波探傷子10の一部、走査機構20のロボットアーム20Aの少なくとも一部、又は、超音波探傷子10及び走査機構20の双方に取り付けることができる。また、柔軟性を付与する弾性体20DEの弾性量を検出する事で、衝撃力センサを代替させる事も出来る。衝撃力センサ40で検出された衝撃力は、制御装置10の衝撃判定部140に送られてその値が所定の閾値を超えるかどうか判定される。衝撃判定部140は、衝撃力センサ40で検出された衝撃力が所定の閾値を超えるものと判定した場合に、所定の警告情報を生成し、情報出力部50を介して外部に警告情報を出力する。
【0041】
本実施形態における情報出力部50は、既に述べた警告情報に加えて、検査不能情報を出力することができる。制御装置100には、超音波探傷子10の移動が妨げられることにより超音波探傷子10からの超音波パルスが検査対象部位Pに届かず検査が不能になっているかどうかを判定する検査不能判定部150が設けられている。検査不能判定部150は、例えば、
図8に示すように、所定の検査対象部位(溶接ビード部)Pの近傍に比較的大きなスパッタSが存在することにより超音波探傷子10の移動が妨げられた結果、超音波探傷子10からの超音波パルスが検査対象部位Pに届かず検査が不能になっているかどうかを、超音波探傷子10の位置情報や、超音波探傷子10で検出するエコー信号等によって判定し、検査不能になっていると判定した場合に検査不能情報を生成し、情報出力部50を介して外部に検査不能情報を出力する。
【0042】
すなわち、本実施形態における情報出力部50は、本発明における警報出力部及び異常出力部として機能する。警告情報や検査不能情報としては、音声情報、画像情報、音声情報と画像情報の組み合わせ、等が挙げられる。情報出力部50としては、音声情報を出力するスピーカ、画像情報を出力するディスプレイ、スピーカとディスプレイの組み合わせ、等を採用することができる。
【0043】
<撮像部>
本装置1はさらに、
図1及び
図2に示すように、対象物Tの画像情報を取得する撮像部60を備えている。撮像部60は、自動探傷中に対象物Tの検査対象部位Pの画像情報を取得することにより、欠陥の種類の特定に寄与するものである。
【0044】
図9は、正常な溶接ビード部を示すものであり、
図10~
図12はいずれも、欠陥がある溶接ビード部を示すものである。超音波探傷子10のみを用いて自動探傷を行う場合には欠陥の種類を特定することが困難であるが、本実施形態においては、撮像部60を用いて検査対象部位Pの上方から画像情報を取得することにより、その欠陥が、例えば
図10に示すようなオーバーラップ不良(溶接金属を盛りすぎて溶け込んでいないはみだし部が形成される現象であり、応力集中で疲労破壊の原因になり得る)であるか、
図11に示すようなアンダーカット不良(加熱時の熱量が多過ぎる等の理由により端部に切り欠きが生じる現象であり、応力集中での破壊や腐食の原因になり得る)であるか、
図12に示すような異物巻き込み(スラグやガスを巻き込むことにより凹みや穴Hが生じる現象であり、溶接部の強度不足による破壊や変形の原因になり得る)であるかを、端部の状態(出っ張り・切り欠き)、ビード幅、ビード表面の画像情報、等から特定することができる。さらに、レーザ等の照射光を対象物Tに向けて照射する光源を撮像部60に併設することもできる。かかる光源は、特に端部の形状差を把握する上で有効である。この際、照射する光源の偏光角度を変更可能にし、特に金属表面の不要反射等を抑制することも可能である。
【0045】
<制御装置>
制御装置100は、本装置1の各種構成要素を統合制御するものであり、既に述べた欠陥判定部110、台車制御部120、吐出量調整部130、衝撃判定部140及び検査不能判定部150を有することに加え、装置停止部160、動作設定部170、アーム制御部180及び記憶部190を有している。
【0046】
装置停止部160は、情報出力部50によって出力された警告情報の回数が所定の回数を超えた場合に、本装置1の走査機構20の動作を停止させるための信号を生成し、走査を停止させるように機能する。警告情報の回数が所定の回数を超えることにより装置停止部160が作動したということは、超音波探傷子10や走査機構20に所定の閾値を超える衝撃力が所定の回数を超えて加えられていることを意味する。本装置1のユーザは、装置停止部160によって走査が停止された場合に、超音波探傷子10や走査機構20等に損傷等がないかどうかを点検することができる。
【0047】
動作設定部170は、対象物Tの形状に関する情報に基づいてロボットアーム20Aの動作を設定するように機能する。具体的には、動作設定部170は、対象物Tの三次元図面情報や溶接等付加情報に基づいて、ロボットアーム20Aの基準となる部位(例えば、手先位置に相当するリンク20Lのセンターポイント等:以下「基準部位」と称する)を所定の方向に沿って移動させるときの移動開始点(以下「始点」と称する)の位置、基準部位を始点から所定の方向に沿って移動させるときの移動目標点(以下「終点」と称する)の位置、始点と終点とを結ぶ経路、経路を移動する速度、基準部位が経路から離れることができる許容範囲、等のロボットアーム20Aの動作に関する各種情報を設定する。動作設定部170によって設定された動作に関する情報は、記憶部190に記憶されて、アーム制御部180によるロボットアーム20Aの制御に使用される。動作設定部170は、例えば、制御装置100に接続可能な教示装置から入力された情報に基づいてロボットアーム20Aの動作を設定することができる。
【0048】
アーム制御部180は、ロボットアーム20を駆動制御するように機能する。アーム制御部180は、従来の位置制御ではなく、直列弾性アクチュエータ20Dを利用したメカニカル・コンプライアンス制御に基づいてロボットアーム20Aを制御する。このため、対象物Tに凹凸があったり、超音波探傷子10と対象物Tとの間の相対的な位置関係が変動したりした場合においても、正確に自動探傷を行うことが可能となる。
【0049】
具体的には、アーム制御部180は、ロボットアーム20Aの基準部位を、動作設定部170で設定した経路に沿って移動させるために、各直列弾性アクチュエータ20Dの駆動部20DAに相当するサーボモータを制御する。この際、アーム制御部180は、基準部位を特定の経路に従って移動させるための各モータを制御するための制御命令を演算処理等により取得してロボットアーム20Aに供給することにより、ロボットアーム20Aを移動させる。例えば、アーム制御部180は、逆運動学演算(インバースキネマティクス)により、基準部位が経路上に位置するための各モータの回転角度を算出し、これに基づいて制御命令を生成して、記憶部190に格納することが可能である。
【0050】
記憶部190は、本実施形態に示される各処理を実行するためのコンピュータプログラム(経路生成アルゴリズムを含む)及び必要なデータその他の情報を格納する。
【0051】
制御装置100のハードウェア構成に関し、制御装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphical Processing Unit)等のプロセッサである演算素子と、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性記憶素子と、NORフラッシュメモリ、NANDフラッシュメモリ、HDD(Hard Disc Drive)等の不揮発性記憶素子と、これらを接続するバス等の通信手段と、を備えるコンピュータから構成することが可能である。不揮発性記憶素子は、非一時的(Non-transitory)に情報を記憶する記憶媒体である。揮発性記憶素子は、これらコンピュータプログラムの少なくとも一部及び演算処理結果等を一時的に記憶する。記憶部190は、これら記憶素子により構成される。また、記憶部190に格納されるコンピュータプログラムを演算素子が実行することにより、欠陥判定部110、台車制御部120、吐出量調整部130、衝撃判定部140、検査不能判定部150、装置停止部160、動作設定部170及びアーム制御部180として機能する。但し、これら演算素子、不揮発性記憶素子等の少なくとも一部は、インターネット等の通信ネットワークに接続された遠隔地に設置されていてもよい。例えば、演算素子は、通信ネットワークを介して、コンピュータプログラム又は必要なデータを取得するように構成されてもよい。
【0052】
制御装置100及びロボットアーム20Aは、無線又は有線による通信手段によって情報の送受信が可能に構成されている。
【0053】
なお、制御装置100には、本装置1に動作教示するための教示装置が接続されたり一体的に設けられたりしてもよい。また、教示装置は、ロボットアーム20Aに設けられてもよく、ディスプレイを含む入出力手段を教示装置の一部として利用してもよい。教示装置は、例えば、オンラインティーチングを行うための携帯型の教示ペンダントを備えることができる。教示装置は、制御装置100と同様に、演算素子、揮発性記憶素子、不揮発性記憶素子を備えることができ、さらに、ディスプレイを有する表示手段及び複数の操作キー並びにレバーを有する入力手段を備えることもできる。入力手段は、ディスプレイを押圧して入力を行うタッチパネル式の入力手段から構成されてもよい。
【0054】
続いて、
図13のフローチャート等を用いて、本実施形態に係る超音波探傷装置1による超音波探傷方法を説明する。
【0055】
まず、制御装置100の動作設定部170は、対象物Tの形状に関する情報に基づいて、ロボットアーム20Aの動作に関する各種情報(基準部位の始点及び終点の位置を示す情報、始点と終点とを結ぶ経路に関する情報、基準部位が経路から離れることができる許容範囲の情報等)を設定する(動作設定工程:S1)。動作設定部170は、これら情報を予め記憶する記憶部190から読み出すことにより設定してもよい。或いは、動作設定部170は、教示装置からこれら情報を取得して設定してもよい。さらに、動作設定部170は、始点及び終点の位置を示す情報に基づいて経路を演算により設定する際に、対象物Tの表面と基準部位との距離が許容範囲内となるような経路生成アルゴリズムを読み出し、これに基づいて経路を設定することにより、許容範囲を示す情報を設定してもよい。
【0056】
経路は、ロボットアーム20Aの先端のリンク20Lに接続された超音波探傷子10が対象物Tの検査対象部位(例えば溶接ビード部)Pの端部に沿うような形状に設定される。このような経路により、超音波探傷子10を検査対象部位Pの端部に倣わせることが可能になる。但し、変位量が大きすぎると、少なくとも一つの直列弾性アクチュエータ20Dの損傷を招く可能性がある。また、弾性体20DEの弾性変形の範囲内であっても、上述したように変位量が大きすぎると、超音波探傷子10が検査対象部位Pの端部に接触する力が大きくなりすぎるため、円滑な移動が困難になったり、超音波探傷子10自体の破損を招いたりする可能性がある。一方で、変位量が小さすぎると、超音波探傷子10が検査対象部位Pの端部から離れる可能性があり、正確な自動探傷が困難となる。このため、許容範囲は、上述した問題を抑制するように、実験等を通じて予め取得することが可能である。従って、基準部位が経路上に存在する時の超音波探傷子10と検査対象部位Pの端部との変位量が許容範囲内となるような経路が動作設定部170によって取得される。変位量が許容範囲内となるような経路を設定することにより、略一定の力で超音波探傷子10を検査対象部位Pの端部に倣わせることが可能となる。
【0057】
次いで、制御装置100の吐出量調整部130は、媒体吐出ノズル30から吐出される媒体Mの量を、対象物Tの材質や形状に関する情報に基づいて設定する(媒体吐出量調整工程:S2)。なお、媒体吐出量設定工程S2で設定された媒体Mの吐出量は、その後の探傷状況に応じて調整することができることは既に述べたとおりである。すなわち、吐出量調整部130は、反射される超音波レベルが所定の閾値よりも低くなったときに媒体Mの吐出量を増加させることにより、超音波探傷子10と対象物Tの表面との間に形成される間隙をなくすように制御する。
【0058】
続いて、制御装置100のアーム制御部180は、動作設定工程S1で設定した経路情報に基づいて、直列弾性アクチュエータ20Dへの制御命令を取得するとともに、取得した制御命令をロボットアーム20Aに供給する(制御命令供給工程:S3)。なお、一連の動作を実現するための制御命令が予め記憶部190に格納されている場合、制御装置100は、記憶部190から制御命令を読み出すことにより、これら情報を取得してもよい。制御装置100から制御命令を受け取ったロボットアーム20Aの基準部位は、始点の位置に移動する。この動作により、超音波探傷子10は、対象物Tの検査対象部位(例えば溶接ビード部)Pの端部近傍に配置される(探傷子配置工程:S4)。なお、探傷子配置工程S4が完了した時点では、超音波探傷子10が対象物Tの表面に接触していない。
【0059】
次いで、制御装置100は、媒体吐出ノズル30を開操作することにより、媒体吐出量調整工程S2で設定した量の媒体Mを対象物Tの表面に向けて吐出する(媒体吐出工程:S5)。この際、超音波探傷子10の進行方向の前方部分(超音波探傷子10が通過する部分)に向けて媒体Mが吐出されるように、予め媒体吐出ノズル30の吐出方向を調整しておくようにする。
【0060】
媒体吐出工程S5に続いて、制御装置100のアーム制御部180は、超音波探傷子10を対象物Tの表面(媒体Mが吐出された箇所)に配置した後、動作設定工程S1で設定された経路に沿って、すなわち、ロボットアーム20Aの先端のリンク20Lに接続された超音波探傷子10が対象物Tの検査対象部位(溶接ビード部)Pの端部に沿うように、ロボットアーム20Aの基準部位を移動させながら、超音波探傷子10から超音波パルスを発射させて、検査対象部位Pの探傷を行う(探傷工程:S6)。
【0061】
探傷工程S6において、ロボットアーム20Aは、超音波探傷子10が検査対象部位(溶接ビード部)Pの端部に対して倣わせる。具体的には、検査対象部位Pの端部に対して超音波探傷子10を(媒体Mを介して)当接させながら、超音波探傷子10を当該端部に対して相対的に移動させる。このような倣い動作を行っている間に、制御装置100は、変位量が許容範囲内に収まり、かつ、超音波探傷子10が検査対象部位Pの端部を略一定若しくは一定範囲の力(例えば、中心値±30%以内)で押し付けるように制御する。変位量が許容範囲内に収まらせるために、制御装置100は、許容範囲を超える変位が生じたか否かを周期的に判断する。許容範囲を超える変位が生じたと判断した場合、制御装置100は、ロボットアーム20Aの移動速度を減速させるような制御命令を生成し、ロボットアーム20Aの駆動部20DAに送出することにより減速させる。このような倣い動作を行うことにより、検査対象部位Pとロボットアーム20Aとの相対的な位置関係が変動しても、超音波探傷子10を追従させることが可能になる。なお、制御装置100の台車制御部120は、移動台車としてのベース20Bを適宜移動させることにより、ロボットアーム20Aの倣い動作をアシストすることができる。
【0062】
また、探傷工程S6において、超音波探傷子10は、超音波パルスが発射されてからエコーが検出されるまでの時間(送信パルスからエコーまでの超音波伝播距離)を検出し、この検出した時間(距離)に関する情報を、制御装置100の欠陥判定部110に送る。制御装置100の欠陥判定部110は、超音波探傷子10で検出された時間(距離)に基づいて欠陥判定を行う。なお、本実施形態においては、探傷中に撮像部60を用いて対象物Tの検査対象部位Pの上方から画像情報を取得することにより、その欠陥が、例えば
図10に示すようなオーバーラップ不良であるか、
図11に示すようなアンダーカット不良であるか、
図12に示すような異物巻き込みであるか、を端部の状態、ビード幅、ビード表面の画像情報、等から特定することができる。
【0063】
その後、制御装置100は、超音波探傷子10が終点の位置に到達した段階で、自動探傷を終了する。この際、制御装置100は、媒体吐出ノズル30を閉操作すると同時に、走査機構20を停止させるようにする。
【0064】
なお、探傷中に、超音波探傷子10や走査機構20に設置された衝撃力センサ40で検知された衝撃力が所定の閾値を超えると衝撃判定部140で判定された場合には、情報出力部50から警報が出力される。また、情報出力部50によって出力された警告情報の回数が所定の回数を超えた場合には、装置停止部160によって走査が停止させられる。さらに、超音波探傷子10の移動が妨げられることにより超音波探傷子10からの超音波パルスが検査対象部位Pに届かず検査が不能になっていると検査不能判定部150で判定された場合には、情報出力部50から検査不能情報が出力される。
【0065】
以上述べた実施形態に係る超音波探傷装置1によれば、柔軟性を有する関節機構を備えるロボットアーム20Aを含む走査機構20によって超音波探傷子10の走査を実現させることができ、この走査機構20により、超音波探傷子10が媒体Mを介して対象物Tに押し付けられながら走査することができるので、対象物Tの表面に凹凸がある場合においても、超音波探傷子10を対象物Tの形状に追従させることができる。従って、正確な超音波探傷を実現させることが可能となる。
【0066】
また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。たとえば、当業者の通常の創作能力の範囲内で、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態に追加することができる。また、ある実施形態における一部の構成要素を、他の実施形態の対応する構成要素と置換することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…超音波探傷装置
10…超音波探傷子
20…走査機構
20A…ロボットアーム
20B…ベース(移動台車)
20D…直列弾性アクチュエータ(柔軟性を有する関節機構)
20L…先端のリンク(先端部)
30…媒体吐出ノズル
40…衝撃力センサ(衝撃力検知部)
50…情報出力部(警報出力部、異常出力部)
60…撮像部
100…制御装置
120…台車制御部
130…吐出量調整部
160…装置停止部
170…動作設定部
M…媒体
P…検査対象部位
T…対象物
S6…探傷工程