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特開2023-107431窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子及びその製造方法並びに熱伝導樹脂組成物及び熱伝導性成形体
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  • 特開-窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子及びその製造方法並びに熱伝導樹脂組成物及び熱伝導性成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107431
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子及びその製造方法並びに熱伝導樹脂組成物及び熱伝導性成形体
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/06 20060101AFI20230727BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20230727BHJP
   C09C 1/02 20060101ALI20230727BHJP
   C09C 1/04 20060101ALI20230727BHJP
   C09C 1/28 20060101ALI20230727BHJP
   C09C 3/12 20060101ALI20230727BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20230727BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230727BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20230727BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C09C3/06
C09C1/40
C09C1/02
C09C1/04
C09C1/28
C09C3/12
C09K5/14 E
C08K3/22
C08K3/38
C08L101/00
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008629
(22)【出願日】2022-01-24
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2~3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、A-STEPトライアウト事業「絶縁性・熱伝導性を備えたSiC複合粒子開発による樹脂材料の高熱伝導化」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】391001619
【氏名又は名称】長野県
(71)【出願人】
【識別番号】595073432
【氏名又は名称】信濃電気製錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141450
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 剛
(72)【発明者】
【氏名】村野 耕平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002BG001
4J002CC031
4J002CD001
4J002CF161
4J002CF181
4J002CF211
4J002CG001
4J002CL001
4J002CM041
4J002CN011
4J002CP031
4J002DB016
4J002DE076
4J002DE106
4J002DE146
4J002DJ016
4J002DK007
4J002FB076
4J002FB096
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD206
4J002FD207
4J002GQ01
4J037AA09
4J037AA11
4J037AA17
4J037AA18
4J037AA24
4J037AA25
4J037CA18
4J037CA24
4J037CB23
4J037DD05
4J037EE03
4J037EE43
4J037FF11
4J037FF13
4J037FF22
(57)【要約】
【課題】窒化ホウ素粒子の熱伝導率の異方性が改善され、且つ熱伝導性及び電気絶縁性が十分に向上された耐熱性に優れた窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を提供する。
【解決手段】窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子の少なくとも一部の表面が窒化ホウ素粒子及びケイ素化合物から成る無機被膜で覆われている被覆粒子であって、前記被覆粒子を室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下であり、前記被覆粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)により、加速電圧5kVで元素濃度分析したとき、検出されるケイ素(Si)濃度及び炭素(C)濃度の各々とホウ素(B)濃度との比のうち、(Si/B)比が0.05~1で且つ(C/B)比が0.5以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子の少なくとも一部の表面が窒化ホウ素粒子及びケイ素化合物から成る無機被膜で覆われている被覆粒子であって、
前記被覆粒子を室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下であり、前記被覆粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)により、加速電圧5kVで元素濃度分析したとき、検出されるケイ素(Si)濃度及び炭素(C)濃度の各々とホウ素(B)濃度との比である(Si濃度/B濃度)比が0.05~1で且つ(C濃度/B濃度)比が0.5以下であることを特徴とする窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子。
【請求項2】
前記熱伝導性粒子が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1種であって、平均粒子径が5~100μmであることを特徴とする請求項1に記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子。
【請求項3】
前記窒化ホウ素粒子が、鱗片状であって、平均長径が0.1μm以上で且つ前記熱伝導性粒子の平均粒子径の1/5以下の六方晶窒化ホウ素粒子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子。
【請求項4】
熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子と、窒化ホウ素粒子と、前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子とのバインダーとしての下記化学式(1)で示されるシラン化合物とを混合して混合物とした後、
前記混合物に含有される有機物を除去できる温度であって、得られる前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子とを前記シラン化合物由来のケイ素化合物を介して一体化した加熱処理粒子を室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下となるように、前記混合物を加熱処理することを特徴とする窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【化1】
【請求項5】
前記熱伝導性粒子として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1種であって、平均粒子径が5~100μmのものを用いることを特徴とする請求項4に記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項6】
前記窒化ホウ素粒子として、鱗片状であって、平均長径が0.1μm以上で且つ前記熱伝導性粒子の平均粒子径の1/5以下の六方晶窒化ホウ素粒子を用いることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項7】
前記窒化ホウ素粒子を、前記熱伝導性粒子の体積に対して10~60vol.%となるように配合することを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項8】
前記シラン化合物を、前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子との合計体積に対して5~40vol.%となるように配合することを特徴とする請求項4~7のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項9】
前記加熱処理を、200℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項4~8のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂中に配合されていることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項11】
前記窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が、前記樹脂中に40~80vol.%配合されていることを特徴とする請求項10に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~3のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂中に配合されている熱伝導性樹脂組成物から成る成形体であって、厚み方向の熱伝導率が3W/m/K以上であり、且つ体積電気抵抗率が1×1014Ω・cm以上であることを特徴とする熱伝導性樹脂成形体。
【請求項13】
前記窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が、前記成形体を形成する樹脂中に40~80vol.%配合されていることを特徴とする請求項12に記載の熱伝導性樹脂成形体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子及びその製造方法並びに窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を含有する熱伝導樹脂組成物及び熱伝導性成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化及び高性能化に伴って、電子機器からの発熱密度が増大し、放熱対策の重要性が増している。電子機器の構成材料には電気絶縁性に優れた樹脂材料が多く使用されていることから、樹脂材料の高熱伝導化が望まれている。
従来、樹脂材料の熱伝導性向上には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、金属粉等の熱伝導に優れた熱伝導性粒子が樹脂中に配合されているが、樹脂材料に所望の熱伝導性を付与するには、熱伝導性粒子を樹脂中に高充填することを要する。樹脂材料中で熱伝導性粒子同士の接触による熱伝導路を形成するためである。
このように樹脂材料に所望の熱伝導性を付与するには、熱伝導性粒子を樹脂中に高充填することを要するから、電気絶縁性が要求される電子機器では、電気絶縁性にも優れた酸化ケイ素や酸化アルミニウムから成る熱伝導性粒子が用いられている。しかし、酸化ケイ素や酸化アルミニウムから成る熱伝導性粒子の熱伝導性は不十分であり、酸化ケイ素や酸化アルミニウムよりも優れた熱伝導性を有し、電気絶縁性にも優れた窒化ホウ素が熱伝導性粒子として注目されている。
【0003】
しかしながら、窒化ホウ素粒子は、嵩密度が低く樹脂材料への充填性に乏しく、樹脂中への充填・分散が困難である。また、例え樹脂中に窒化ホウ素粒子を配合しても、窒化ホウ素粒子は鱗片状であるから、得られる樹脂材料が硬く脆くなり易い。このような鱗片状の窒化ホウ素粒子の熱伝導率は、面内方向(A軸)では200W/m/Kであるものの、面内に垂直な方向(C軸)では2W/m/K程度と熱伝導率の異方性が非常に大きい。このような窒化ホウ素粒子を熱伝導性粒子として配合した樹脂材料を成形すると、窒化ホウ素粒子が樹脂の流動方向に沿って配向し、得られる成形品の厚み方向には窒化ホウ素粒子同士がC軸方向に接触した充填構造となり易く、成形品に十分な熱伝導率を付与し難い。
【0004】
このような窒化ホウ素粒子の熱伝導率の異方性を解消すべく、下記特許文献1では、窒化ホウ素一次粒子を凝集させた窒化ホウ素凝集粒子を樹脂材料に配合することが提案されている。また、下記特許文献2及び下記特許文献3では、熱伝導性粒子の表面に熱硬化性樹脂等の有機物バインダーを介して窒化ホウ素粒子を被覆した窒化ホウ素被覆粒子を樹脂材料に配合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-135731号公報
【特許文献2】特開2020-164591号公報
【特許文献3】特開2020-63179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前掲の特許文献1で提案された窒化ホウ素凝集粒子によれば、窒化ホウ素粒子の熱伝導率の異方性を改善できる。しかしながら、樹脂材料中に窒化ホウ素凝集粒子による熱伝導路を形成するには、窒化ホウ素凝集粒子を高充填することを要するが、窒化ホウ素粒子は樹脂との濡れ性が低いことから、熱伝導性が改善された樹脂組成物は硬く脆いものとなり易い課題がある。
【0007】
また、前掲の特許文献2及び特許文献3で提案されている、熱伝導性粒子の表面に熱硬化性樹脂等の有機物バインダーを介して窒化ホウ素粒子が接合された窒化ホウ素被覆粒子は、窒化ホウ素粒子の熱伝導率の異方性を改善でき、且つ窒化ホウ素粒子の優れた熱伝導性及び電気絶縁性を熱伝導性粒子に付与できる。しかしながら、この窒化ホウ素被覆粒子は、バインダーとして熱伝導率が低い有機物バインダーを用いていることから、その熱伝導性向上効果は不十分であり、且つ有機物バインダーの耐熱性が低く、高融点の樹脂材料には用いることができないという課題がある。
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、窒化ホウ素粒子の熱伝導率の異方性が改善され、且つ熱伝導性及び電気絶縁性が十分に向上された耐熱性に優れた窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子及びその製造方法、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を含有する熱伝導樹脂組成物及び熱伝導性成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子の少なくとも一部の表面が窒化ホウ素粒子及びケイ素化合物から成る無機被膜で覆われている被覆粒子であって、前記被覆粒子を室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下であり、前記被覆粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)により、加速電圧5kVで元素濃度分析したとき、検出されるケイ素(Si)濃度及び炭素(C)濃度の各々とホウ素(B)濃度との比である(Si濃度/B濃度)比が0.05~1で且つ(C濃度/B濃度)比が0.5以下であることを特徴とするものである。
【0010】
前記熱伝導性粒子が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1種であって、平均粒子径が5~100μmであるものが好ましい。
【0011】
前記窒化ホウ素粒子が、鱗片状であって、平均長径が0.1μm以上で且つ前記熱伝導性粒子の平均粒子径の1/5以下の六方晶窒化ホウ素粒子であるものが好ましい。
【0012】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法は、熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子と、窒化ホウ素粒子と、前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子とのバインダーとしての下記化学式(1)で示されるシラン化合物とを混合して混合物とした後、前記混合物に含有される有機物を除去できる温度であって、得られる前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子とを前記シラン化合物由来のケイ素化合物を介して一体化した加熱処理粒子を室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下となるように、前記混合物を加熱処理することを特徴とするものである。
【0013】
【化1】
【0014】
前記熱伝導性粒子として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1種であって、平均粒子径が5~100μmのものを用いることが好ましい。
【0015】
前記窒化ホウ素粒子として、鱗片状であって、平均長径が0.1μm以上で且つ前記熱伝導性粒子の平均粒子径の1/5以下の六方晶窒化ホウ素粒子を用いることが好ましい。
【0016】
前記窒化ホウ素粒子を、前記熱伝導性粒子の体積に対して10~60vol.%となるように配合することが好ましい。
【0017】
前記シラン化合物を、前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子との合計体積に対して5~40vol.%となるように配合することが好ましい。
【0018】
前記加熱処理を、200℃以上の温度で行うことが好ましい。
【0019】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る熱伝導性樹脂組成物は、上述した窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂中に配合されていることを特徴とするものである。
【0020】
前記窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が、前記樹脂中に40~80vol.%配合されていることが好ましい。
【0021】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る熱伝導性樹脂成形体は、上述した窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂中に配合されている熱伝導性樹脂組成物から成る成形体であって、厚み方向の熱伝導率が3W/m/K以上であり、且つ体積電気抵抗率が1×1014Ω・cm以上であることを特徴とするものである。
【0022】
前記窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が、前記成形体を形成する樹脂中に40~80vol.%配合されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、熱伝導性粒子の表面に窒化ホウ素粒子及びケイ素化合物から成る無機被膜層が形成され、窒化ホウ素粒子の異方性が改善され、且つ熱伝導性粒子に窒化ホウ素粒子の有する優れた熱伝導性、電気絶縁性及び化学的安定性を付与できる。この窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂中に配合された本発明に係る熱伝導性樹脂組成物は、従来の熱伝導性粒子よりも少量で樹脂に良好な熱伝導性を付与できる。更に、この熱伝導性樹脂組成物から成る本発明に係る熱伝導性樹脂成形体は、良好な電気絶縁を呈し、且つ樹脂の流動方向に対して垂直方向である成形体の厚み方向でも良好な熱伝導性を呈する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明を適用する窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の構造を模式的に示したものである。
図2】本発明を適用する窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子であって、熱伝導性粒子として酸化アルミニウム粒子を用いた窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子(図2(a))と酸化アルミニウム粒子(図2(b))との走査型電子顕微鏡写真である。
図3】本発明を適用する窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子であって、熱伝導性粒子として炭化ケイ素粒子を用いた窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子(図3(a))と炭化ケイ素粒子(図3(b))との走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0026】
本発明の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の構造を模式的に図1に示す。図1に示す窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子10は、熱伝導性粒子12の表面が窒化ホウ素粒子14とケイ素化合物16とから成る被膜層18で被覆されているものである。ケイ素化合物16は、熱伝導性粒子12の表面に窒化ホウ素粒子14を固着するバインダーである。
【0027】
図1に示す熱伝導性粒子12は、熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成るものである。このような熱伝導性粒子12としては、酸化アルミニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化亜鉛粒子、炭化ケイ素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子を挙げることができる。就中、酸化アルミニウム粒子、炭化ケイ素粒子、窒化アルミニウム粒子が好ましい。これらの熱伝導性粒子を二種以上混合使用してもよい。
【0028】
熱伝導性粒子12の平均粒子径は、5~100μmであることが好ましく、より好ましくは10~80μm、更に一層好ましくは15~50μmである。熱伝導性粒子12の平均粒子径が5μm未満の場合、窒化ホウ素粒子14とケイ素化合物16とから成る被膜層18による熱伝導性粒子12の被覆が困難となる傾向があり、熱伝導性粒子12の平均粒子径が100μmを超える場合、被膜層18で熱伝導性粒子12を被覆しても熱伝導性向上効果が得られ難くなる傾向がある。この平均粒子径は、JIS K1150(1994)に準拠したレーザ回析法により測定でき、体積基準分布のメジアン径とすることができる。また、熱伝導性粒子12の形態は、球状粒子、中空粒子、粉砕粒子、或いは一次粒子を造粒した凝集粒子であってもよい。
【0029】
図1に示す窒化ホウ素粒子14は、鱗片状の六方晶窒化ホウ素粒子であって、その平均長径が0.1μm以上であり、熱伝導性粒子12の平均粒子径の1/5以下(より好ましくは1/7以下、更に一層好ましくは1/8以下)のものが好ましい。平均長径が0.1μm未満の窒化ホウ素粒子14では、熱伝導性粒子12に窒化ホウ素粒子14による十分な熱伝導性向上効果が得られ難くなる傾向があり、熱伝導性粒子12の平均粒子径の1/5を超える窒化ホウ素粒子14では、被膜層18による熱伝導性粒子12の被覆が困難となる傾向がある。尚、鱗片状の窒化ホウ素粒子14の長径は最大径に該当するので、その平均長径は電子顕微鏡により100個の粒子の最大径を画像解析により測定した平均値である。
【0030】
図1に示す窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子10は、室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下(好ましくは0.5%以下、更に一層好ましくは0.3%以下)である。このような重量減が1%以下である窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子10は、全体が無機材料で形成されていることを意味する。従って、熱伝導性粒子12は無機材料で形成されているから、窒化ホウ素粒子14とケイ素化合物16とから成る被膜層18も無機材料から形成されている。ここで、重量減が1%を超える窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の場合、粒子内に有機物が残留しており、耐熱性や熱伝導性が低下する。
【0031】
このような無機材料から成る窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子10の表層部には、走査型電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)により、加速電圧5kVで元素濃度分析したとき、検出されるケイ素(Si)濃度及び炭素(C)濃度の各々とホウ素(B)濃度との比である(Si濃度/B濃度)比が0.05~1(好ましくは0.05~0.9、更に一層好ましくは0.05~0.8)となるように窒化ホウ素粒子14とケイ素化合物16とが配合されている。(Si濃度/B濃度)比が0.05未満の場合、バインダーとしてのケイ素化合物16の量が少なく被膜層18の形成が困難となり、(Si濃度/B濃度)が1を超える場合、窒化ホウ素粒子14の量が少なく窒化ホウ素粒子14による熱伝導性向上効果が得られ難くなる。
【0032】
また、(C濃度/B濃度)比は0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。(C濃度/B濃度)比が0.5を超える場合、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子10の表層部に有機物が残留しており、熱伝導性が低下する。
【0033】
走査型電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)は、物体に電子線照射することにより発生する特性X線を検出し、エネルギーで分光することにより元素分析を行う手法である。このEDSの加速電圧を調整することにより、物体を構成する元素毎の検出深さを調整できる。窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子10に対するSEM-EDSの加速電圧を5kVとしたとき、検出される元素はホウ素(B)及びケイ素(Si)の他に、熱伝導性粒子12の構成元素及び炭素(C)である。炭素(C)は、熱伝導性粒子12の構成元素に炭素が存在しない場合でも検出される。大気中の有機物の吸着や窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子10が収納容器等に触れたことによるものと考えられている。EDSの加速電圧を5kVとしたときの検出深さは0.5~1μm程度であると推察される。尚、SEM-EDSは、元素分析と同時に物体の走査型電子顕微鏡よる観察も行うことができる。
【0034】
以上述べてきた窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子10は、上述した熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子と、上述した窒化ホウ素粒子と、バインダーとして下記化学式(2)で示されるシラン化合物との混合物を加熱処理することにより得ることができる。
【0035】
【化2】
【0036】
化学式(2)で示されるシラン化合物としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。このようなシラン化合物を二種以上併用してもよいし、水、溶剤等で希釈したものを使用してもよい。
【0037】
混合物中の窒化ホウ素粒子の配合量は、熱伝導性粒子に対して10~60vol.%とすることが好ましい。但し、熱伝導性粒子の平均粒子径が小径になるほど、熱伝導性粒子の表面積が大きくなるから、熱伝導性粒子の表面を十分に被覆するには、窒化ホウ素粒子の配合量も、この範囲内で高めることが好ましい。また、窒化ホウ素粒子の配合量が多くなるほど、得られる窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の熱伝導性及び電気絶縁性が向上するが、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の用途に応じて調整することが好ましい。
【0038】
また、上記シラン化合物の配合量は、熱伝導性粒子と窒化ホウ素粒子との混合体積に対して5~40vol.%(より好ましくは10~30vol.%、更に一層好ましくは15~25vol.%)とすることが好ましい。シラン化合物の配合量が5vol.%未満の場合、熱伝導性粒子と窒化ホウ素粒子とが結合し難くなる傾向にあり、他方、シラン化合物の配合量が40vol.%を超える場合、粒子同士が過度に凝集する傾向にある。尚、熱伝導性粒子の平均粒子径が小径になるほど、熱伝導性粒子の表面積が大きくなるから、熱伝導性粒子の表面をケイ素化合物で十分に被覆するためには、上記シラン化合物の配合量を上記範囲内で高めることが好ましい。
【0039】
上述した熱伝導性粒子、窒化ホウ素粒子及び前記バインダーとしての化学式(2)で示されるシラン化合物を混合する。混合手段は、粒子を十分に混合することができる手段であれば、どのような手段を採用してもよい。例えば、ボールミル、遊星ボールミル、自転・公転式ミキサー等の容器攪拌型の混合機、ヘンシェルミキサー等のプロペラ型の攪拌機を好適に用いることができる。混合工程後に、粒子が凝集することがあるため、粉砕手段及び/又は分級手段を設けてもよい。尚、バインダーとしてのシラン化合物による粒子同士の結合を促進させるべく、本発明の効果を損なわない範囲で各種分散剤、溶剤、液状樹脂等を添加してもよい。
【0040】
得られた混合物を加熱処理する。この加熱処理は、混合物に含有される有機物を除去できる温度で加熱しつつ、熱伝導性粒子と窒化ホウ素粒子とをシラン化合物由来のケイ素化合物を介して一体化し、室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下の加熱処理粒子を得る処理である。この加熱処理の温度は、粒子同士を強固に結合させつつ、バインダーとしてのシラン化合物由来の反応生成物であるアルコールや未反応のシラン化合物及び有機分を除去する処理であるから、加熱処理温度を200℃以上とすることが好ましい。加熱処理温度が200℃未満の場合、未反応のバインダーを除去しきれない傾向となる。加熱処理温度の上限は製造コストとの関係から1300℃とすることが好ましい。より好ましい加熱処理温度は300~1100℃であり、更に一層好ましい加熱処理温度は500~1000℃である。加熱処理温度を500℃以上とすることにより、加熱処理粒子全体の有機分を迅速に除去でき好ましい。尚、このような加熱処理を窒素ガス雰囲気中で行うことにより窒化ホウ素の分解を防ぐことができ好ましい。
【0041】
このような加熱処理での反応は以下のように推察される。先ず、化学式(2)で示されるシラン化合物が有している少なくとも2個の加水分解基(-OR)が、熱伝導性粒子及び窒化ホウ素粒子の表面に存在する水酸基と化学結合し、残った加水分解基(-OR)が脱水縮合することで、ケイ素化合物を介して熱伝導性粒子と窒化ホウ素粒子との間に化学結合を形成し両粒子を一体化する。更に、熱伝導性粒子と窒化ホウ素粒子とを連結するケイ素化合物中及び混合物中の有機分を除去しつつ、全体の有機物も除去することにより、室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下の加熱処理粒子を得ることができる。
【0042】
このようにして得られた加熱処理粒子は、図1に示すように熱伝導性粒子12の表面が窒化ホウ素粒子14及びケイ素化合物16から成る被膜層18で覆われている窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子12である。このような窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子12は、窒化ホウ素粒子14の異方性が改善され、且つ熱伝導性粒子12に窒化ホウ素粒子14の有する優れた熱伝導性、電気絶縁性及び化学的安定性を付与できる。窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子12は、熱伝導性粒子12の一部が露出していてもよく、窒化ホウ素粒子14の一部が被膜層18から突出していてもよい。また、被膜層18の表面が窒化ホウ素粒子14あってもよく、ケイ素化合物16あってもよく、窒化ホウ素粒子14とケイ素化合物16とが複合した層であってもよい。
【0043】
窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、無機材料で形成され、優れた熱伝導性、電気絶縁性及び化学的安定性を有しているから、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂中に配合された熱伝導性樹脂は良好な熱伝導性を呈することができる。樹脂としては、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン等を挙げることができる。これらの樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で2種以上を混合して使用してもよい。就中、ポリイミドやフッ素樹脂等の成形温度の高い樹脂においても、無機材料から成る耐熱性の高い窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子12を好適に用いることができる。樹脂に配合する窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子12としては、平均粒子径の異なる複数の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を用いることで、熱伝導性樹脂組成物の粘度を下げ、樹脂に配合する材料の充填量を向上させることが可能となるため好ましい。樹脂に配合する材料としては、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の他に、一般的に熱伝導性樹脂中に配合される酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛等の無機粒子や表面処理剤、安定剤、界面活性剤等を挙げることができる。
【0044】
樹脂中に配合する窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の配合量は40~80vol.%とすることが好ましい。窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を酸化アルミニウム等の無機粒子と共に樹脂中に配合する場合、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を30vol.%以上とし、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子と無機粒子との合計配合量を90vol.%以下とすることが、熱伝導性樹脂組成物の粘度上昇による成形性の低下を防ぐことができ好ましい。この合計配合量を40~85vol.%とすることがより好ましく、50~80vol.%とすることが更に一層好ましい。
【0045】
窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子等を樹脂に混練する方法としては、公知の方法を採用することができる。例えば、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサー、ロールミル、一軸又は二軸押出機、ボールミル等の混錬機を用いる方法が挙げられる。
【0046】
このようにして得られた熱伝導性樹脂組成物を成形して得られた成形体は、厚み方向の熱伝導率が3W/m/K以上であり、且つ体積電気抵抗率が1×1014Ω・cm以上である熱伝導性成形体である。熱伝導性樹脂組成物を成形する際に、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂の流動方向に沿って配向しても、窒化ホウ素粒子は熱伝導性粒子にケイ素化合物から成るバインダーによって固着されているから、窒化ホウ素粒子が単独で樹脂の流動方向に沿って配向し、成形品の厚み方向の窒化ホウ素粒子同士がC軸方向に接触した充填構造を形成することを防止でき、成形品の厚み方向に良好な熱伝導性と電気絶縁性とを付与できる。尚、熱伝導性樹脂組成物の成形方法は、公知の成形方法のうち、樹脂に最適な成形方法を採用できる。
【実施例0047】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造)
実施例1
熱伝導性粒子として、デンカ株式会社製の平均粒子径が42.8μmの酸化アルミニウム粒子(DAW-45:商品名)を用い、窒化ホウ素粒子として、昭和電工株式会社製の平均長径が0.9μmの窒化ホウ素粒子(UHP-S2:商品名)を用いた。この平均長径は電子顕微鏡により100個の粒子の最大径を画像解析により測定した平均値である。両粒子を、酸化アルミニウム粒子:窒化ホウ素粒子との体積比率が75:25となるように混合した。混合は、株式会社シンキー製の自転・公転ミキサー(あわとり練太郎ARE-310:商品名)を用い、公転速度1300rpm、5分間の条件で実施した。更に、バインダーとして、信越シリコーン株式会社製の商品名KE-903である3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APS:H2NCH2CH2CH2-Si-(OCH3)3)を、混合粒子に対して15vol.%添加して、自転・公転ミキサーにより公転速度1300rpm、5分間の条件で混合した。次いで、酸化アルミニウム粒子、窒化ホウ素粒子及びバインダーから成る混合物を、自転・公転ミキサーにより公転速度2000rpm、1分間混合する混合作業を5回繰り返した。得られた混合物を150℃で3時間乾燥した後、凝集粒子を粉砕してから、800℃で2時間加熱処理を施して窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を得た。
【0049】
実施例2
実施例1のバインダーとして用いたAPSに代えて、東京化成工業株式会社製のN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン(AEAPS:H2NCH2CH2NH(CH2)3-Si-(OCH3)3)を用いた他は実施例1と同様にして窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を製造した。
【0050】
比較例1
実施例1のバインダーとして用いたAPSに代えて、三菱ケミカル株式会社製の商品名JER806のビスフェノールF型エポキシ樹脂と三菱ケミカル株式会社製の商品名JERキュアST11のアミン系硬化剤との混合液(混合比160:100)を用い、800℃で2時間加熱処理を施さなかった他は、実施例1と同様にして窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を製造した。
【0051】
比較例2
実施例1のバインダーとして用いたAPSに代えて、東京化成工業株式会社製のドデシルトリメトキシシラン(DTMS:H3C(CH2)11-Si-(OCH3)3)を用いた他は実施例1と同様にして窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を製造した。
【0052】
比較例3
実施例1のバインダーとして用いたAPSに代えて、東京化成工業株式会社製の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:(CH2OCH)-(CH2)3-O-CH2-Si-(OCH3)3)を用いた他は実施例1と同様にして窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を製造した。
【0053】
実施例3
実施例1において、熱伝導性粒子を酸化アルミニウム粒子に代えて、信濃電気製錬株式会社製の平均粒子径が19.8μmの炭化ケイ素粒子(SSC-A15:商品名)を用い、且つバインダーの添加量を混合粒子に対して20vol.%とした他は実施例1と同様にして窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を作製した。
【0054】
実施例4
実施例3において、バインダーとして3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APS)に代えて、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン(AEAPS)を用いた他は実施例3と同様にして窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を作製した。
【0055】
比較例4
実施例3のバインダーとして用いたAPSに代えて、三菱ケミカル株式会社製の商品名JER806のビスフェノールF型エポキシ樹脂と三菱ケミカル株式会社製の商品名JERキュアST11のアミン系硬化剤との混合液(混合比160:100)を用い、800℃で2時間加熱処理を施さなかった他は、実施例3と同様にして窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を製造した。
【0056】
(窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の電子顕微鏡写真)
実施例1で得られた窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の電子顕微鏡写真(1000倍)を図2(a)に示し、実施例1で用いた酸化アルミニウム粒子の電子顕微鏡写真(1000倍)を図2(b)に示す。また、実施例3得られた窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の電子顕微鏡写真(3000倍)を図3(a)に示し、実施例3で用いた炭化ケイ素粒子の電子顕微鏡写真(3000倍)を図3(b)に示す。いずれの窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、その表面が被膜で覆われていることが判る。
【0057】
(SEM-EDSによる窒化ホウ素被覆粒子の表面分析)
得られた窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を金蒸着した後、日本電子株式会社製のSEM-EDS(JSM-IT500A/LA:商品名)を用いて、加速電圧5kVの条件で窒化ホウ素被覆粒子の表面元素の分析を実施した。検出された元素の内、ホウ素(B)濃度に対するC(炭素)濃度、及びケイ素(Si)濃度の比を下記表1に示した。尚、元素分析は無作為に抽出した5個の粒子について実施し、その平均値を採用した。
【0058】
(500℃加熱時の重量減測定)
株式会社リガク製の熱重量測定装置(TG8120:商品名)を用いて、昇温速度20℃/minの条件で、窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を、室温から500℃まで加熱した際の重量減量を測定した。測定結果を下記表1に併記した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1において、バインダーとして上記化学式(2)で示されるシラン化合物を用いた実施例1、実施例2、実施例3及び実施例4の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、いずれもSEM-EDSにより、加速電圧5kVで元素濃度分析したとき、検出されるケイ素(Si)濃度及び炭素(C)濃度の各々とホウ素(B)濃度との比において、(Si濃度/B濃度)比が0.05~1の範囲内にあり且つ(C濃度/B濃度)比が0.5以下であって、室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下である。特に、実施例3及び実施例4の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、いずれも熱伝導性粒子として炭化ケイ素粒子を用いているものの、SEM-EDSによる表面の元素分析では、(C濃度/B濃度)比が0.5以下であることから、炭化ケイ素粒子の表面を窒化ホウ素粒子及びケイ素化合物からなる無機層が十分に被覆している。
【0061】
これに対し、上記化学式(2)で示されるシラン化合物と異なるバインダーを用いた比較例2及び比較例3の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、いずれも(C濃度/B濃度)比が0.5以下で且つ室温から500℃まで加熱したときの重量減も1%以下であるが、(Si濃度/B濃度)比は0.05未満である。また、バインダーとしてエポキシ樹脂を用いた比較例1及び比較例4の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、(C濃度/B濃度)比が0.5を超え且つ(Si/B)比も0.05未満であって、室温から500℃までの加熱による重量減は1%を超えており、実施例1~4の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子よりも耐熱性に乏しいものである。
【0062】
(熱伝導性樹脂組成物の調整及び樹脂成形体の製作)
三菱ケミカル株式会社製のビスフェノールF型エポキシ樹脂(JERキュアST11:商品名)2.4gと三菱ケミカル株式会社製のアミン系硬化剤(JERキュアST11:商品名)1.44gを自転・公転式ミキサーで混合・脱泡し、樹脂混合液を得た。得られた樹脂混合液100体積部に対して、上述した実施例1~4及び比較例1~4の各々の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の各々を150体積部添加して、自転・公転式ミキサーを用いて混合し、ペースト状の熱伝導性樹脂組成物を得た。次いで、得られたペースト状の熱伝導性樹脂組成物を直径50mmの円形金型に、成形後の厚みが約2mmになるように投入し、120℃60分間、圧力20MPaの条件で熱プレス成形し、樹脂成形体を得た。
【0063】
(参考例1)
上述した熱伝導性樹脂組成物の調整及び樹脂成形体の製作において、実施例1~4及び比較例1~4の各々の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子に代えて、デンカ株式会社製の酸化アルミニウム粒子(DAW-45:商品名)のみを用いた他は同様にして熱伝導性樹脂組成物を調整し樹脂成形体を製作した。
【0064】
(参考例2)
上述した熱伝導性樹脂組成物の調整及び樹脂成形体の製作において、実施例1~4及び比較例1~4の各々の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子に代えて、デンカ株式会社製の酸化アルミニウム粒子(DAW-45:商品名)と昭和電工株式会社製の窒化ホウ素粒子(UHP-S2:商品名)を、体積比率が75(酸化アルミニウム粒子):25(窒化ホウ素粒子)となるように、株式会社シンキー製の自転・公転ミキサー(あわとり練太郎ARE-310:商品名)で公転速度1300rpm、5分間の条件で混合して得た混合粒子を用いた他は同様にして熱伝導性樹脂組成物を調整し樹脂成形体を製作した。
【0065】
(参考例3)
上述した熱伝導性樹脂組成物の調整及び樹脂成形体の製作において、実施例1~4及び比較例1~4の各々の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子に代えて、信濃電気製錬株式会社製の炭化ケイ素粒子(SSC-A15:商品名)のみを用いた他は同様にして熱伝導性樹脂組成物を調整し樹脂成形体を製作した。
【0066】
(参考例4)
上述した熱伝導性樹脂組成物の調整及び樹脂成形体の製作において、実施例1~4及び比較例1~4の各々の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子に代えて、信濃電気製錬株式会社製の炭化ケイ素粒子(SSC-A15:商品名)と昭和電工株式会社製の窒化ホウ素粒子(UHP-S2:商品名)を、体積比率が75(炭化ケイ素粒子):25(窒化ホウ素粒子)となるように、株式会社シンキー製の自転・公転ミキサー(あわとり練太郎ARE-310:商品名)で公転速度1300rpm、5分間の条件で混合して得た混合粒子を用いた他は同様にして熱伝導性樹脂組成物を調整し樹脂成形体を製作した。
【0067】
(樹脂成形体の熱伝導性評価)
得られた樹脂成形体から10mm×10mm×2mm(厚み)の試験片を切り出し、熱伝導率測定用の試験片とした。試験片の厚み方向の熱拡散率及び比熱をNETZCH社製のレーザフラッシュ測定装置(LFA467:商品名)で測定した。また、試験片の密度をアルキメデス法により測定した。これらの測定結果から、熱伝導率を(熱伝導率=熱拡散率×密度×比熱)の式より算出した。結果を表2に示した。
【0068】
(樹脂成形体の絶縁性評価)
得られた樹脂成形体の体積電気抵抗率をHewlett-Packard社製のハイ・レジスタンス・メータ(HP4339B:商品名)を用いて測定した。結果を表2に併記した。
【0069】
【表2】
【0070】
表2から明らかなように、実施例1,2の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を配合した熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体は、比較例1~3の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を配合した熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体及び参考例1,2の熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体に比較して熱伝導率が向上しており、実施例3,4の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を配合した熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体も、比較例4の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を配合した熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体及び参考例3,4の熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体に比較して熱伝導率が向上している。従って、熱伝導性粒子の表面を窒化ホウ素粒子で被覆することで、熱伝導性粒子に窒化ホウ素の高熱伝導性を付与できる。
【0071】
実施例1,2の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を配合した熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体、比較例1~3の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を配合した熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体、参考例1,2の熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体は、いずれも体積電気抵抗値は1×1014Ω・cm以上であって略同じ値であった。但し、実施例3,4の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を配合した熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体は、体積電気抵抗値が1×1014Ω・cm以上であって、比較例4の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子を配合した熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体及び参考例3,4の熱伝導性樹脂組成物による樹脂成形体よりも体積電気抵抗値が向上されている。従って、熱伝導性粒子の表面を窒化ホウ素粒子で被覆することで、熱伝導性粒子に窒化ホウ素の電気絶縁性を付与できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子は、放熱シート、放熱グリース、TIM、封止材、高放熱部材、金属基板の絶縁層等の熱伝導性を向上させる充填剤用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0073】
10:窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子、12:熱伝導性粒子、14:窒化ホウ素粒子、16:ケイ素化合物、18:被膜層

図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子の少なくとも一部の表面が窒化ホウ素粒子及びケイ素化合物から成る無機被膜で覆われている被覆粒子であって、
前記被覆粒子を室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下であり、前記被覆粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)に搭載されたエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDS)により、加速電圧5kVで元素濃度分析したとき、検出されるケイ素(Si)濃度及び炭素(C)濃度の各々とホウ素(B)濃度との比である(Si濃度/B濃度)比が0.05~1で且つ(C濃度/B濃度)比が0.5以下であることを特徴とする窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子。
【請求項2】
前記熱伝導性粒子が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1種であって、平均粒子径が5~100μmであることを特徴とする請求項1に記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子。
【請求項3】
前記窒化ホウ素粒子が、鱗片状であって、平均長径が0.1μm以上で且つ前記熱伝導性粒子の平均粒子径の1/5以下の六方晶窒化ホウ素粒子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子。
【請求項4】
熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子と、窒化ホウ素粒子と、前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子とのバインダーとしての下記化学式(1)で示されるシラン化合物とを混合して混合物とした後、
前記混合物に含有される有機物を除去でき、且つ得られる前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子とを前記シラン化合物由来のケイ素化合物を介して一体化した加熱処理粒子を室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下となるように、前記混合物を500℃以上の温度で加熱処理することを特徴とする窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。

【化1】
【請求項5】
前記熱伝導性粒子として、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ケイ素、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選ばれた少なくとも1種であって、平均粒子径が5~100μmのものを用いることを特徴とする請求項4に記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項6】
前記窒化ホウ素粒子として、鱗片状であって、平均長径が0.1μm以上で且つ前記熱伝導性粒子の平均粒子径の1/5以下の六方晶窒化ホウ素粒子を用いることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項7】
前記窒化ホウ素粒子を、前記熱伝導性粒子の体積に対して10~60vol.%となるように配合することを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項8】
前記シラン化合物を、前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子との合計体積に対して5~40vol.%となるように配合することを特徴とする請求項4~7のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項9】
前記加熱温度を、500~1000℃の温度で行うことを特徴とする請求項4~8のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂中に配合されていることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
【請求項11】
前記窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が、前記樹脂中に40~80vol.%配合されていることを特徴とする請求項10に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~3のいずれかに記載の窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が樹脂中に配合されている熱伝導性樹脂組成物から成る成形体であって、厚み方向の熱伝導率が3W/m/K以上であり、且つ体積電気抵抗率が1×1014Ω・cm以上であることを特徴とする熱伝導性樹脂成形体。
【請求項13】
前記窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子が、前記成形体を形成する樹脂中に40~80vol.%配合されていることを特徴とする請求項12に記載の熱伝導性樹脂成形体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
前記の目的を達成するためになされた本発明に係る窒化ホウ素被覆熱伝導性粒子の製造方法は、熱伝導率が10W/m/K以上の無機材料から成る熱伝導性粒子と、窒化ホウ素粒子と、前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子とのバインダーとしての下記化学式(1)で示されるシラン化合物とを混合して混合物とした後、前記混合物に含有される有機物を除去でき、且つ得られる前記熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素粒子とを前記シラン化合物由来のケイ素化合物を介して一体化した加熱処理粒子を室温から500℃まで加熱したときの重量減が1%以下となるように、前記混合物を500℃以上の温度で加熱処理することを特徴とするものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
前記加熱温度を、500~1000℃の温度で行うことが好ましい。