(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107434
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】金属加工用耐熱工程シート
(51)【国際特許分類】
D21H 13/40 20060101AFI20230727BHJP
D21H 19/40 20060101ALI20230727BHJP
D04H 1/4218 20120101ALI20230727BHJP
【FI】
D21H13/40
D21H19/40
D04H1/4218
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008635
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】重松 俊広
【テーマコード(参考)】
4L047
4L055
【Fターム(参考)】
4L047AA05
4L047AB09
4L047BA22
4L047CB05
4L047CC14
4L055AF04
4L055AF35
4L055AF46
4L055AG25
4L055AG27
4L055BE08
4L055FA19
4L055FA30
(57)【要約】
【課題】高温下でも金属表面に傷が付き難く、金属表面が汚染され難い金属加工用耐熱工程シートを提供する。
【解決手段】扁平断面のガラス繊維とフィブリル化繊維を含有する基材と、モンモリロナイトを含有する表面層とを有することを特徴とする金属加工用耐熱工程シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平断面のガラス繊維とフィブリル化繊維を含有する基材と、モンモリロナイトを含有する表面層とを有することを特徴とする金属加工用耐熱工程シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼、非鉄金属等の製造工程において、高温製品の傷付きを防止するために製品の下敷きとして使用される金属加工用耐熱工程シートに関するものである。以下、本明細書において、「金属加工用耐熱工程シート」を「耐熱工程シート」と略記する場合がある。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼、非鉄金属分野などの製造工程において、高温で圧延されたシート状製品を積み重ねる場合、製品を高温で焼鈍する場合等には、製品の傷付きを防止するために製品の下敷きとして、金属加工用耐熱工程シートが使用される。耐熱工程シートには、耐熱性、耐屈曲性、耐摩耗性、柔軟性、表面平滑性等が要求される。
【0003】
上記耐熱工程シートとして、例えば、特許文献1では耐熱性有機繊維であるポリベンザゾール繊維と芳香族ポリイミド繊維とが重量分率で50%/50%~90%/10%の割合で絡合されてなる耐熱性フェルトが開示されている。しかしながら、有機繊維のみからなる耐熱クッション材は熱や荷重による劣化が大きく、処理温度が450℃を超える場合には強度低下が生じ耐久性が不十分である他、劣化により脱落した繊維が製品を汚染する問題があった。
【0004】
一方、無機繊維を用いる方法として、特許文献2にはセラミックファイバーとアラミド繊維とを混綿した後、ニードルパンチング処理してなる高耐熱性繊維製緩衝材が開示されており、特許文献3には玄武岩繊維を主材とし、無機繊維、金属繊維、耐熱有機繊維の1種類以上を混入してなる耐熱ニードルフェルト製のパッド材料が開示されている。無機繊維は耐熱性に優れる反面、剛直であり、有機繊維のステープルファイバーと比較して繊維間の絡みが生じにくく、脱落した繊維が製品を汚染する問題があった。
【0005】
また、特許文献4には、無機繊維層の両面に耐熱性有機繊維層をウェブの状態で積層して、3層以上の構造体とし、ニードルパンチ処理で絡合一体化して成型した耐熱クッション材が開示されている。この方法では最表面が耐熱性有機繊維で覆われることで高温処理後の強度低下や無機繊維の脱落が抑制されるものの、高温処理により劣化して脱落した有機繊維による製品汚染については改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-324267号公報
【特許文献2】特開平7-34367号公報
【特許文献3】特開平11-200211号公報
【特許文献4】特開2017-95840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高温下でも金属表面に傷が付き難く、金属表面が汚染され難い金属加工用耐熱工程シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記発明を見出した。
【0009】
扁平断面のガラス繊維とフィブリル化繊維を含有する基材と、モンモリロナイトを含有する表面層とを有することを特徴とする金属加工用耐熱工程シート。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属加工用耐熱工程シートは、ガラス繊維とフィブリル化繊維を含有する基材と、モンモリロナイトを含有する表面層とを有する。フィブリル化繊維がガラス繊維と絡み合い、複合化することにより、繊維脱落が抑制され、強度を向上させることが可能となる。また、耐熱性及び成膜性に優れるモンモリロナイトを含有する表面層を基材表面に設けることにより、金属加工に用いられる高温環境、特に450℃以上での耐熱性が向上し、基材の柔軟性を維持しながら、繊維脱落を更に低減させることができるとともに表面層自体の表面層脱落を抑制することが可能となり、金属表面が汚染され難いという効果が達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明における金属加工用耐熱工程シートは、扁平断面のガラス繊維とフィブリル化繊維を含有する基材と、モンモリロナイトを含有する表面層とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明におけるガラス繊維としては、例えば、チョップドストランド、グラスウール、グラスフレークが挙げられる。折れ難く、基材の形成能があればいずれのガラス繊維でも良い。
【0013】
本発明において、基材は扁平断面のガラス繊維を含有する。扁平断面のガラス繊維において、扁平断面の長径と短径のそれぞれの寸法は特に限定されず、その断面が長径と短径を有する繊維であれば良いが、長径と短径の比(以下、「長径と短径の比」を「扁平比」と記載する。)が3~5であることが好ましい。扁平比が3未満の場合、強度の向上効果が低くなる場合があり、一方、扁平比が5を超えた場合、扁平ガラス繊維の紡糸が困難になる場合や、抄紙において、繊維本数が減少するため、基材の地合が悪化する場合や、耐熱工程シートが薄くなり過ぎる場合や、ピンホールが発生し易くなる場合がある。
【0014】
扁平断面のガラス繊維の換算繊維径は、5~17μmが好ましく、6~14μmがより好ましく、7~11μmがさらに好ましい。また、短径は、2.8~9.6μmが好ましく、3.5~7.0μmがより好ましく、4.0~6.0μmがさらに好ましい。換算繊維径とは、扁平繊維の断面積と同面積を有する円形断面繊維の直径の値を意味する。換算繊維径が5μm未満の場合、経済的な紡糸が困難になり、一方、換算繊維径が17μmを超えた場合、繊維が太くなり過ぎて、剛性が高く、抄紙工程での分散が難しくなる場合がある。また、ガラス繊維の本数が減るため、空隙が大きくなり、表面層の塗工性や付着量が低下する場合がある。
【0015】
本発明において、基材は、扁平断面のガラス繊維に加えて、円形断面のガラス繊維を含有することもできる。円形断面のガラス繊維の繊維径は、1~11μmであることが好ましく、2~8μmであることがより好ましく、3~7μmであることがさらに好ましい。繊維径が1μm未満の場合、細か過ぎて抄造時に基材からガラス繊維が脱落し、基材の強度及び厚みが不十分となる場合がある。繊維径が11μmを超えた場合、ガラス繊維が太くなり過ぎて、基材の隙間が大きくなり、表面層を形成しても、粘土鉱物の粉落ちが増加する場合や柔軟性が悪化する場合がある。ガラス繊維の繊維径が1~11μmである場合、基材の隙間が細かく、均一となるため、表面層を形成後の粉落ちが少なく、柔軟性も優れた耐熱工程シートになる。
【0016】
ガラス繊維の繊維長は、1~15mmであることが好ましく、3~13mmであることがより好ましく、5~10mmであることがさらに好ましい。繊維長が1mm未満では、基材の強度が不足する場合があり、繊維長が15mmを超えた場合には、基材の地合が悪くなる場合やガラス繊維が絡まった塊やよれが発生し易くなる場合や柔軟性が悪化する場合がある。
【0017】
ガラス繊維の含有率は、基材を構成する全原料に対して、78~94質量%であることが好ましく、80~92質量%であることがより好ましく、82~90質量%であることがさらに好ましい。含有率が78質量%未満であると、基材強度や耐熱性が悪くなる場合があり、含有率が94質量%を超えると、ガラス繊維同士の結合は弱いことから、基材強度が弱くなり、表面層の塗工性が悪化する場合や、高温下でガラス繊維が脱落し易くなる場合がある。
【0018】
扁平断面のガラス繊維の含有率は、ガラス繊維全量に対して、75質量%以上100質量%以下が好ましく、80質量%以上100質量%以下がより好ましく、85質量%以上100質量%以下がさらに好ましい。含有率がこの範囲の場合、基材の乾燥時及び湿潤時の引張強度が強く、表面層の塗工性が優れる。また、耐熱工程シートの柔軟性が優れ、耐折強度が強くなり、使用時の角割れを防ぐことができる。含有率が75質量%未満の場合、基材からガラス繊維が脱落し易くなる場合がある。
【0019】
本発明におけるフィブリル化繊維としては、天然セルロース、溶剤紡糸セルロース等のセルロース;アクリル、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性樹脂;からなるフィブリル化繊維が挙げられる。これらの中でも、耐熱性が高く、親水性が高く、フィブリル化し易い全芳香族ポリアミドが好ましい。さらに好ましくは、ポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)、ポリ(m-フェニレンテレフタルアミド)樹脂等のメタ系全芳香族ポリアミドからなるパルプ状物が好ましい。メタ系全芳香族ポリアミドからなるパルプ状物は、抄紙機を用いて紙に似た構造物を作ることができる多数の微小なフィブリル部を有する薄葉状、もしくは鱗片状の小片であり、基材の空隙を埋め、シートを平滑にする効果がある。また、結晶構造内に存在する水分が加熱・減圧などにより除去される際に大きく収縮し、繊維ネットワークを強固にするため、基材の湿潤強度を向上させる効果がある。
【0020】
本発明におけるフィブリル化繊維の変法濾水度は、0~300mlであることが好ましく、より好ましくは0~200mlであり、さらに好ましくは0~100mlである。変法濾水度が300mlを超えた場合、フィブリル化繊維の幹部分の繊維幅が太く、フィブリル化があまり進んでいないため、ガラス繊維との緻密なネットワークが少なくなるため、引張強度が低下する場合がある。一方、変法濾水度が0ml未満の場合、フィブリル化繊維のファイン分が増えて、基材から脱落する割合が増え、歩留まりが低下する場合がある。また、繊維のフィブリル化処理に時間が掛かり、非常に高価なものになる。フィブリル化繊維のフィブリル化が進むと、変法濾水度は下がり続ける。そして、変法濾水度が0mlに達した後も、さらにフィブリル化すると、繊維がメッシュを通りすぎるようになり、変法濾水度が逆に上昇し始める。本発明では、このように、変法濾水度が逆上昇し始めた状態を「変法濾水度が0ml未満」と称している。
【0021】
本発明において、変法濾水度とは、ふるい板として線径0.14mm、目開き0.18mmの80メッシュ金網を用い、試料濃度を0.1%にした以外はJIS P8121-2:2012に準拠して測定した値のことである。
【0022】
本発明のフィブリル化繊維において、質量加重平均繊維長は、0.02mm以上1.50mm以下であることが好ましい。また、長さ加重平均繊維長は、0.02mm以上1.00mm以下であることが好ましい。平均繊維長が好ましい範囲よりも短い場合、基材からフィブリル化繊維が脱落する場合がある。平均繊維長が好ましい範囲よりも長い場合、繊維の離解が悪くなり、分散不良が発生し易くなる。
【0023】
フィブリル化繊維が、上記の質量加重平均繊維長と長さ加重平均繊維長を持つ場合、基材に含まれるフィブリル化繊維の含有率が少ない場合でも、フィブリル化繊維間やフィブリル化繊維とガラス繊維との間において、繊維による緻密なネットワーク構造が形成され、引張強度が高く、表面層形成用塗工液の浸透性や液保持性を高めることができる基材が得られ易くなる。
【0024】
フィブリル化繊維の平均繊維幅は、0.5μm以上40.0μm以下が好ましく、3.0μm以上35.0μm以下がより好ましく、5.0μm以上30.0μm以下がさらに好ましい。平均繊維幅が40.0μmを超えた場合、フィブリル化繊維とガラス繊維の絡み合いが減少するため、引張強度が低下する場合があり、平均繊維幅が0.5μm未満の場合、基材からフィブリル化繊維が脱落するようになり、交点が増え過ぎるためにバインダー繊維を増やさないと、引張強度が低下する場合がある。
【0025】
本発明において、フィブリル化繊維の質量加重平均繊維長、長さ加重平均繊維長及び平均繊維幅は、「JIS P 8226-2:2011、パルプ-光学自動分析法による繊維長測定方法 第2部:非偏光法」に基づき、OpTest Equipment Inc.社製ファイバークオリティーアナライザー(FQA-360)を使用して測定した値である。
【0026】
フィブリル化繊維は、繊維状、パルプ状等の樹脂をリファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置、高速の回転刃によりせん断力を与える回転式ホモジナイザー、高速で回転する円筒の内刃と固定された外刃との間でせん断力を生じる二重円筒式の高速ホモジナイザー、超音波による衝撃で微細化する超音波破砕器、耐熱性樹脂の懸濁液に少なくとも20MPaの圧力差を与えて小径のオリフィスを通過させて高速度とし、これを衝突させて急減速することにより、樹脂にせん断力、切断力を加える高圧ホモジナイザー、高速回転する細かなスリットを持つリング状刃物(ローター)と、固定された細かなスリットを持つリング状刃物(ステーター)とが、かみ合うように配置された離解機等を用いて処理することによって得ることができる。
【0027】
本発明において、フィブリル化繊維の含有率は、基材を構成する全原料に対して、3質量%以上12質量%以下であり、4質量%以上11質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。フィブリル化繊維の含有率が12質量%を超えた場合、高温下でガラス繊維の脱落が生じやすくなる。一方、フィブリル化繊維の含有率が4質量%未満である場合、フィブリル化繊維とガラス繊維の絡み合いが減少するため、引張強度が低下する場合がある。
【0028】
本発明の耐熱工程シートの基材には、バインダー繊維を含有することが好ましい。バインダー繊維としては、湿熱接着性バインダー繊維や熱接着性バインダー繊維を用いることができる。湿熱接着性バインダー繊維とは、湿潤状態において、ある温度で繊維状態から流動、又は容易に変形して接着機能を発現する繊維のことを言う。具体的には、熱水又は水蒸気(例えば、80~120℃程度)で軟化して自己接着、又は他の繊維に接着可能な熱可塑性繊維であり、例えば、ポリビニル系繊維(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなど)、セルロース系繊維(メチルセルロースなどのC1-3アルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシC1-3アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC1-3アルキルセルロース、又はその塩など)、変性ビニル系共重合体からなる繊維(イソブチレン、スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、又は、その無水物との共重合体、又はその塩など)などが挙げられる。本発明に用いる湿熱接着性バインダー繊維としては、ポリビニル系繊維が好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)繊維がより好ましい。ポリビニルアルコール繊維を用いた場合、繊維間に皮膜を形成し易く、基材強度がより高くなる。
【0029】
湿熱接着性バインダー繊維としては、架橋性官能基を有する化合物で変性された変性ポリビニルアルコール繊維、架橋剤を用いて紡糸時又は紡糸後に温和な条件下で架橋を行った架橋ポリビニルアルコール繊維が、低延伸糸に耐熱水特性を付与することが可能となり、より好ましい。
【0030】
架橋性官能基としては、シラノール基、カルボキシル基、メチロール基等が挙げられる。pH等を調整することによって、架橋性官能基を有する化合物で変性されたポリビニルアルコールを架橋させることなく水に溶解し、紡糸して、変性ポリビニルアルコール繊維を得ることができる。紡糸時又は紡糸後に、変性ポリビニルアルコール繊維を架橋させても良い。変性度は、好ましくは0.01~10mol%であり、より好ましくは、0.1~5mol%である。好適な例としては、シラノール変性ポリビニルアルコール(変性度0.1~2mol%)をアルカリ溶液(pH9~13)に溶解し、該溶液を酸性(pH5~6)にすることにより架橋させつつ紡糸し、乾燥後熱処理して得られるシラノール変性ポリビニルアルコール繊維が挙げられる。
【0031】
また、自己架橋性の無い未変性ポリビニルアルコールを紡糸後、各種有機系又は無機系架橋剤を付与して架橋せしめる方法によって得られた、架橋ポリビニルアルコール繊維を用いることもできる。無機系架橋剤としては、リン酸、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸チタニル等が挙げられる。また、有機系架橋剤として、メチロール系、エポキシ系、イソシアネート系、アルデヒド系等の架橋剤が挙げられる。これらの架橋剤を未変性ポリビニルアルコール紡糸原液に添加して紡糸した後、又は、未変性ポリビニルアルコールを単独で紡糸して架橋剤含有浴を通した後、熱処理することで架橋を進行させることができる。また、これらの方法を併用することも可能である。
【0032】
本発明に用いる湿熱接着性バインダー繊維は上記に限定されるものではないが、シラノール変性ポリビニルアルコール繊維は、ガラス繊維との接着性がさらに高まるため、基材の引張強度をさらに高めることができるため、特に好ましい。
【0033】
熱融着性バインダー繊維とは、抄造の乾燥時に熱融着して接着機能を発現する繊維のことを言う。熱融着性バインダー繊維としては、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型の複合繊維、あるいは単繊維等が挙げられ、特に、芯鞘型熱融着性バインダー繊維を含有することが好ましい。芯鞘型熱融着性バインダー繊維は、芯部の繊維形状を維持しつつ、鞘部のみを軟化、溶融させて繊維同士を接着させるのに好適である。芯鞘型熱融着繊維の芯部と鞘部を構成する樹脂成分は特に制限はなく、繊維形成能のある樹脂であれば良い。熱融着性バインダー繊維の具体例としては、ポリプロピレンの単繊維、ポリエチレンの単繊維、低融点ポリエステルの単繊維、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の組み合わせの複合繊維、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の組み合わせの複合繊維、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の組み合わせの複合繊維等が挙げられる。
【0034】
バインダー繊維の繊度は、0.1~5.6デシテックスであることが好ましく、0.4~2.2デシテックスであることがより好ましく、0.6~1.1デシテックスであることがさらに好ましい。繊度が0.1デシテックス未満の場合、繊維自体が非常に高価になり、また、基材が緻密で薄くなり過ぎる場合がある。一方、5.6デシテックスを超えた場合、ガラス繊維との接点が少なくなり、湿潤状態での強度維持が困難になる場合がある。また、均一な地合が取れない場合がある。バインダー繊維の繊維長は、1~15mmであることが好ましく、2~10mmであることがより好ましく、3~5mmであることがさらに好ましい。繊維長が1mm未満の場合、抄造時に抄紙ワイヤーからバインダー繊維が抜け落ちる場合があり、十分な強度の耐熱工程シートが得られない場合がある。一方、15mmを超えた場合、水に分散する際にバインダー繊維がもつれる場合があり、耐熱工程シートの地合が不均一になる場合がある。
【0035】
本発明において、バインダー繊維は、各バインダー繊維を単独で用いても良いし、混合して用いても良い。バインダー繊維の含有率は、基材を構成する全原料に対して、3~10質量%であることが好ましく、4~9質量%であることがより好ましく、5~8質量%であることがさらに好ましい。バインダー繊維が3質量%未満の場合、基材の強度が低下し、表面層を塗工する際に断紙する場合やガラス繊維が脱落する場合がある。一方、バインダー繊維の含有率が10質量%を超えた場合、基材を湿式抄造法で抄紙する際、ドライヤーからの剥離性が悪化する場合がある。
【0036】
本発明において、ガラス繊維、フィブリル化繊維や、上記で説明したバインダー繊維に加えて、必要に応じて、性能を阻害しない範囲で、各種繊維を配合することができる。その結果、さらに細かい空隙部を増やすことができ、粘土鉱物の保持性や耐熱工程シートの強度を向上させることができる。このような繊維としては、レーヨン、キュプラ、リヨセル繊維等の再生繊維;アセテート、トリアセテート、プロミックス等の半合成繊維;ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系、ベンゾエート、ポリクラール(Polychlal)、フェノール、メラミン、フラン、尿素、アニリン、不飽和ポリエステル、フッ素、シリコーン、これらの誘導体等の合成樹脂繊維、金属繊維、炭素繊維、アルミナ、シリカ、セラミックス、岩石繊維等の無機繊維を加えることができる。
【0037】
合成樹脂繊維は、単一の樹脂からなる繊維(単繊維)であっても良いし、2種以上の樹脂からなる複合繊維であっても良い。複合繊維としては、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型が挙げられる。また、上記各種繊維は、1種でも良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0038】
本発明において、基材の厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.15mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましい。また、1.0mm以下であることが好ましく、0.8mm以下であることがより好ましく、0.6mm以下であることがさらに好ましい。基材の厚みを上記の範囲とした場合において、本発明における基材では、抄紙工程や塗工工程で必要な引張強度を維持できるため、基材の抄造性も含め、各工程での作業性が良好なものとなる。基材の厚みが1.0mmを超えると、耐熱工程シートとして、柔軟性が損なわれて、取り扱い難くなる場合がある。基材の厚みが0.1mm未満であると、耐熱工程シートとして必要な強度が得られず、高温下での使用において亀裂や破断が生じる場合がある。
【0039】
本発明における基材の密度は、0.10g/cm3以上であることが好ましく、0.20g/cm3以上であることがより好ましい。また、0.50g/cm3以下であることが好ましく、0.40g/cm3以下であることがより好ましい。密度が0.10g/cm3未満である場合、基材の引張強度が弱くなり過ぎて、基材の取り扱い時や塗工時に破損する場合があり、0.50g/cm3を超えた場合、基材の柔軟性が悪化して、抄紙のリーラーで巻き取り難くなる場合がある。
【0040】
本発明における基材は、湿式抄造法(抄紙法)によって製造される湿式不織布であることが好ましい。湿式抄造法は繊維を水に分散して均一な抄紙スラリーとし、この抄紙スラリーを抄紙機で抄いて湿式不織布を製造する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機、これらの複合機が挙げられる。また、複数のヘッドボックスを有し、ワイヤー上で湿紙を重ね合わせる抄紙機にて製造することができる。抄紙スラリーには、繊維原料の他に、必要に応じて、分散剤、紙力増強剤、増粘剤、無機填料、有機填料、消泡剤などを適宜添加することができる。抄紙スラリーの固形分濃度は、0.5~0.001質量%程度であることが好ましい。この抄紙スラリーを、さらに所定濃度に希釈してから抄造し、湿紙ウェブを得る。ついで、抄造された湿紙ウェブは、プレスロールなどでニップされ、ついで、ヤンキードライヤーを使用し、バインダー繊維を溶融させて、強度を発現させる。ヤンキードライヤーにて乾燥することにより、乾燥された表面は平坦となり、表面の凹凸が少ない面を形成できる。その他、補助乾燥として、熱風乾燥機、加熱ロール、赤外線ヒーターなどの加熱装置を併用しても問題無い。この時の乾燥温度としては、湿紙ウェブの水分が十分に除去でき、バインダー繊維により強度を発現できる温度とすることが好ましい。
【0041】
本発明において、表面層はモンモリロナイトを含有している層である。この表面層が、基材表面を被覆することによって、高温下における耐熱工程シートからの繊維脱落を抑制することができる。
【0042】
本発明の表面層が含有するモンモリロナイトは、層状ケイ酸塩鉱物の1種であるスメクタイトに分類される粘土鉱物であり、ベントナイトの主成分としても知られる。モンモリロナイトは、ケイ酸四面体層-アルミナ八面体層-ケイ酸四面体層からなる積層構造を有し、その単位結晶は厚みが約1nm、長さが約0.1~1μmの薄板状であることから、成膜性に優れる。そのため、耐熱工程シートの表面層に用いた場合には、低塗工量であっても繊維脱落抑制の効果が高く、表面層自体の脱落も少なく、金属表面が汚染され難い。本発明の表面層は、上記のモンモリロナイトに加え、他の公知の粘土鉱物を併用することもできる。
【0043】
本発明において、モンモリロナイトの粒子径は、0.08μm以上20.0μm以下であることが好ましく、0.30μm以上15.0μm以下であることがより好ましく、0.40μm以上10.0μm以下であることがさらに好ましい。粒子径が20.0μmを超えると、耐熱工程シートとして用いた際に高温金属製品に傷が付いてしまう場合や、粉落ちが悪化する場合がある。一方、粒子径が0.08μm未満の場合、塗工液粘度が高くなり塗工が難しくなる場合や、得られた耐熱工程シートを高温下で使用した際に亀裂が生じる場合がある。なお、粘土鉱物の粒子径は、粘土鉱物を水で希釈し、撹拌機で分散し、これをレーザー散乱タイプの粒度測定機(マイクロトラック社製、商品名:MT3000)によって測定し、得られたメディアン径(D50、体積基準)を粒子径とした。
【0044】
表面層形成用塗工液を調製するための媒体としては、粘土鉱物を均一に溶解又は分散できるものであれば特に限定されない。例えば、トルエン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、イソプロピルアルコール等のアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等を必要に応じて用いることができる。また、使用する媒体は、基材を膨張させない媒体又は基材を溶解しない媒体が好ましい。
【0045】
表面層の含有率は、「表面層の塗工量(g/m2)/基材坪量(g/m2)×100」で算出される値であり、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。表面層の含有率が30質量%未満の場合、耐熱工程シートが高温下で扱われた場合に、基材からの繊維脱落が顕著となる。一方、表面層の含有率は100質量%未満が好ましい。表面層の含有率が高いほど、耐熱工程シートの厚みが増加し、耐熱性は高くなるが、表面層の含有率が100質量%以上の場合、粉落ちが発生する場合や、耐熱工程シートとして用いた際に高温金属製品に傷が付いてしまう場合がある。
【0046】
表面層を形成するために、粘土鉱物を含む塗工液を基材に塗工する装置としては、各種の塗工装置を用いることができる。例えば、2ロールサイズプレス、ゲートロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、キスタッチコーター、ディップコーター、コンマコーター(登録商標)等の含浸、又は塗工装置による各種コーターを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明において、表面層には、前記モンモリロナイトをはじめとする粘土鉱物の他に、ポリビニルアルコール等のバインダー樹脂、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の各種分散剤、塗工液の液安定性を増すため、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキサイド等の各種増粘剤、各種保水剤、各種の濡れ剤、防腐剤、消泡剤等の各種添加剤を、必要に応じて添加することもできる。一般に、媒体として有機溶剤を使用した非水系塗工液は表面張力が低く、媒体として水を用いた水系塗工液の表面張力は高い。本発明の基材は、塗工液の受理性が高いため、非水系塗工液も水系塗工液も、両方共に問題無く塗工することができるが、本発明において、媒体として水のみを用いた水系塗工液を使用することが好ましい。
【実施例0048】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において百分率(%)及び部は、断りの無い限り全て質量基準である。また、塗工量は絶乾塗工量である。
【0049】
実施例1
<フィブリル化繊維1の作製>
硫酸中の対数粘度1.5のポリ(m-フェニレンイソフタルアミド)10部を、塩化リチウム15部を含むN,N-ジメチルアセトアミド90部に溶解し、この溶液を高速回転でかき混ぜているホモミキサー中のグリセリン水溶液に導入してパルプ状物を得て、このパルプ状物をシングルディスクリファイナーに通し、フィブリル化させて変法濾水度を調整し、メタ系芳香族ポリアミドからなるパルプ状物(変法濾水度65ml)を得た。
【0050】
<基材の作製>
85部の扁平ガラス繊維(日東紡績株式会社製、長径28μm、短径7μm、繊維長13mm、扁平断面)、8部のシラノール変性PVA繊維(湿熱接着性バインダー繊維、商品名:SPG056-11、株式会社クラレ製、繊度0.6デシテックス、繊維長3mm)、7部のフィブリル化繊維1を、パルパーを用いて水中にて分散し、濃度0.5%の均一な抄紙スラリーを調成し、円網抄紙機を用いて湿紙ウェブを得て、表面温度120℃のヤンキードライヤーによって乾燥し、坪量50g/m2の基材を作製した。
【0051】
<表面層形成用塗工液1の調製>
主成分がモンモリロナイトであるベントナイト(商品名:クニピア(登録商標)G、クニミネ工業株式会社製)100部と、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.5部を水中に混合し十分撹拌し、固形分濃度6%、粒子径2.1μmの表面層形成用塗工液1を調製した。
【0052】
<耐熱工程シートの作製>
前記基材の一方の面に、表面層形成用塗工液1をワイヤーバーにて塗工量が10g/m2となるように塗工・乾燥し、次いで基材の反対面にも同様にして表面層形成用塗工液1を塗工量が10g/m2となるように塗工・乾燥し、総塗工量20g/m2、総坪量70g/m2の耐熱工程シートを作製した。
【0053】
実施例2
表面層形成用塗工液1を下記の表面層形成用塗工液2に変更した以外、実施例1と同様な方法で、総坪量70g/m2の耐熱工程シートを作製した。
【0054】
<表面層形成用塗工液2の調製>
主成分がモンモリロナイトであるベントナイト(商品名:クニピアG、クニミネ工業株式会社製)50部と、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.25部を水中に混合し十分撹拌し、粒子径2.1μmのベントナイト分散液を調製した。ついで、セピオライト(商品名:ミルコン(登録商標)SP-2、昭和KDE株式会社製)50部と水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロン(登録商標)T-50、東亜合成株式会社製)2.5部を水中に混合し十分撹拌し、粒子径15.0μmのセピオライト分散液を調製した。ついで、ベントナイト分散液全量とセピオライト分散液全量を混合、撹拌し、水で濃度を調整して、固形分濃度9%の表面層形成用塗工液2を調製した。
【0055】
実施例3
表面層形成用塗工液1を下記の表面層形成用塗工液3に変更した以外、実施例1と同様な方法で、総坪量70g/m2の耐熱工程シートを作製した。
【0056】
<表面層形成用塗工液3の調製>
主成分がモンモリロナイトであるベントナイト(商品名:ベンゲル(登録商標)、株式会社ホージュン製)100部と、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.5部を水中に混合し十分撹拌し、固形分濃度8%、粒子径2.0μmの表面層形成用塗工液3を調製した。
【0057】
比較例1
表面層形成用塗工液1を下記の表面層形成用塗工液4に変更した以外、実施例1と同様な方法で、総坪量70g/m2の耐熱工程シートを作製した。
【0058】
<表面層形成用塗工液4の調製>
セピオライト(商品名:ミルコンSP-2、昭和KDE株式会社製)100部と水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロンT-50、東亜合成株式会社製)5.0部を水中に混合し十分撹拌し、固形分濃度18%、粒子径15.0μmの表面層形成用塗工液4を調製した。
【0059】
比較例2
表面層形成用塗工液1を下記の表面層形成用塗工液5に変更した以外、実施例1と同様な方法で、総坪量70g/m2の耐熱工程シートを作製した。
【0060】
<表面層形成用塗工液5の調製>
カオリン(商品名:ASP(登録商標) NC X-1、BASF CORPORATION製)100部と、水溶性アクリル酸系分散剤(商品名:アロンT-50、東亞合成株式会社製)0.4部を水中に混合し十分撹拌し、固形分濃度60%、粒子径3.9μmの表面層形成用塗工液5を調製した。
【0061】
比較例3
表面層形成用塗工液1を下記の表面層形成用塗工液6に変更した以外、実施例1と同様な方法で、総坪量70g/m2の耐熱工程シートを作製した。
【0062】
<表面層形成用塗工液6の調製>
合成マイカ(商品名:ミクロマイカMK-100、片倉コープアグリ株式会社製)100部と、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.5部を水中に混合し十分撹拌し、固形分濃度10%、粒子径5.0μmの表面層形成用塗工液6を調製した。
【0063】
実施例及び比較例の基材及び耐熱工程シートについて、下記物性の測定と評価を行い、結果を表1に示した。
【0064】
<基材及び耐熱工程シートの坪量>
JIS P8124:2011に準拠して、基材の坪量及び耐熱工程シートの総坪量を測定した。表面層の絶乾塗工量は耐熱工程シートの坪量から基材の坪量を差し引いて算出した。
【0065】
<金属表面の傷付き>
各耐熱工程シートを0.3mm厚のアルミ板に挟み、0.4kPaの荷重下にて550℃に設定した電気炉にて8時間加熱処理を行った後、アルミ板表面の傷付きを目視で観察し、次の基準で評価した。
【0066】
○:傷付きはほとんど見られない。
△:弱い傷付きが一部に見られるが、問題にならないレベル。
×:明確な強い傷付きが見られ、問題となるレベル。
【0067】
<金属表面の汚染>
各耐熱工程シートを0.3mm厚のアルミ板に挟んで450℃に設定した電気炉にて8時間加熱処理を行った後、アルミ板表面に付着した脱落ガラス繊維、及び脱落表面層の量を目視で観察し、次の基準で評価した。
【0068】
○:ガラス繊維、表面層の脱落はほとんど見られない。
△:ガラス繊維、表面層の脱落が一部に見られる。
×:ガラス繊維、表面層の脱落が全面に見られる。
【0069】
【0070】
表1の結果から、本発明の金属加工用耐熱工程シートは、高温下でも金属表面に傷が付き難く、繊維及び表面層が脱落し難く、金属表面が汚染され難いことがわかる。