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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107455
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】抗微生物剤及び抗微生物基材
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/08 20060101AFI20230727BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230727BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
A01N25/08
A01P1/00
A01N59/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008659
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 広和
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB18
4H011BC18
4H011BC19
4H011DA07
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】 高い抗微生物活性を有する抗微生物剤を提供する。
【解決手段】 金属担持ゼオライトからなる抗微生物剤であって、上記金属担持ゼオライトを構成する金属は、抗微生物性金属であり、上記金属担持ゼオライトを構成するゼオライトはCHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトであることを特徴とする抗微生物剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属担持ゼオライトからなる抗微生物剤であって、
前記金属担持ゼオライトを構成する金属は、抗微生物性金属であり、
前記金属担持ゼオライトを構成するゼオライトはCHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトであることを特徴とする抗微生物剤。
【請求項2】
前記金属担持ゼオライトを構成する前記ゼオライトの平均粒子径(二次粒子径)は、0.1μm~4μmである請求項1に記載の抗微生物剤。
【請求項3】
前記金属担持ゼオライトを構成する前記ゼオライトはCHA型ゼオライトであり、前記CHA型ゼオライトのシリカ・アルミナ比(SiO/Al)が20以下である請求項1又は2に記載の抗微生物剤。
【請求項4】
前記金属担持ゼオライト中の前記抗微生物性金属の担持量は、3重量%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の抗微生物剤。
【請求項5】
前記金属担持ゼオライトを構成する前記ゼオライトはCHA型ゼオライトであり、その粉末X線回折チャートに出現する第1ピークの半値幅が0.15°以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の抗微生物剤。
【請求項6】
前記抗微生物性金属は、銀、銅及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1~5のいずれか1項に記載の抗微生物剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の抗微生物剤がバインダを介して基材上に固着してなる抗微生物基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物剤及び抗微生物基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々のウィルスに対して抗ウィルス効果を発揮する抗ウィルス剤の開発が活発に行われており、実際に様々な部材に抗ウィルス効果のある金属や有機化合物からなる抗ウィルス剤を含む樹脂等を塗布したり、抗ウィルス剤が担持された材料を含む部材を製造することが行われている。
【0004】
特許文献1には、A型ゼオライト(LTA型ゼオライト)中のイオン交換可能な陽イオンの一部又は全部が銀イオン、銅イオン、及び亜鉛イオンからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属イオンで置換された金属担持ゼオライトと、塩素化イソシアヌル酸又はその塩とを含有する、インフルエンザウイルスに対する抗微生物剤(消毒剤)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-156785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された銅イオン等で置換された金属担持ゼオライトからなる抗微生物剤は、その抗微生物特性がなお不十分であり、実用化のためにさらなる改良が必要であった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、高い抗微生物活性を有する抗微生物剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記金属担持ゼオライトからなる抗微生物剤が十分な抗微生物活性を発現しない原因を鋭意研究した。その結果、上記抗微生物剤を構成するゼオライトの骨格構造(型)と抗微生物活性との間に因果関係が存在し、特定のゼオライトの骨格構造(型)の場合に、高い抗微生物活性を発現することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明の抗微生物剤は、金属担持ゼオライトからなる抗微生物剤であって、上記金属担持ゼオライトを構成する前記金属は、抗微生物性金属であり、上記金属担持ゼオライトを構成するゼオライトはCHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトであることを特徴とする。
【0010】
なお、本明細書において、金属担持ゼオライトとは、ゼオライト中のイオン交換可能な陽イオンの少なくとも一部が、抗微生物性金属イオンで置換された状態で担持されているゼオライトのことを意味する。このため以下の説明において「抗微生物性金属」は、「抗微生物性金属イオン」を含むものとして扱う。
抗微生物性金属イオンは、空気中の酸素や水と反応してOHラジカルを生成し、このOHラジカルが微生物のタンパク質を分解して、微生物の生物としての機能を失活させると考えられている。
本発明の抗微生物剤は、抗微生物性金属イオンを担持するゼオライトとしてCHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトを採用している。これらの骨格構造を持つゼオライトは、それ以外の骨格構造を持つゼオライト、例えばA型(LTA型)と比較して優れた抗微生物活性を示す。このため、抗微生物剤として極めて実用的である。抗微生物性金属イオンを担持するゼオライトとしてCHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトが優れている理由は明確ではないが、CHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトは、空気中の水及び酸素を吸着しやすく、ゼオライト中に担持された抗微生物性金属イオンが反応しやすいような骨格構造を備えており、ОHラジカルが効率よく生成する反応場として機能されやすいのであろうと推測している。
【0011】
本発明の抗微生物剤では、上記金属担持ゼオライトを構成する上記ゼオライトの平均粒子径(二次粒子径)は、0.1μm~4μmであることが望ましい。
金属担持ゼオライトを構成するゼオライトの平均粒子径がこの範囲であると、金属担持ゼオライトの比表面積が大きくなり、ゼオライトに吸着された水及び酸素とゼオライトに担持されている抗微生物性金属イオンの接触確率を上げて、微生物を失活させるためのОHラジカルの発生量が増えるからである。
【0012】
本発明の抗微生物剤では、上記金属担持ゼオライトを構成する上記ゼオライトはCHA型ゼオライトであり、上記CHA型ゼオライトのシリカ・アルミナ比(SiO/Al)が20以下であることが望ましい。
CHA型ゼオライトのシリカ・アルミナ比が小さいほど、抗微生物性金属イオンとしての吸着点が増加し、より多くのОHラジカルが発生しやすくなるからである。
【0013】
本発明の抗微生物剤では、上記金属担持ゼオライト中の上記抗微生物性金属の担持量は、3重量%以上であることが望ましい。
抗微生物性金属の担持量が3重量%以上であれば、ОHラジカルの発生及び微生物を失活させるために必要な反応活性点の数が増えるからである。
【0014】
本発明の抗微生物剤では、上記金属担持ゼオライトを構成する上記ゼオライトがCHA型ゼオライトであり、その粉末X線回折チャートに出現する第1ピークの半値幅が0.15°以下であることが望ましい。
粉末X線回折チャートに出現する第1ピークの半値幅を0.15°以下に調整して金属担持ゼオライトの結晶性を高くすることにより、ゼオライト中の抗微生物性金属を単原子の状態で高分散させることができ、ОHラジカルの発生及び微生物を失活させるために必要な反応活性点を有効に機能せしめることができる。
【0015】
本発明の抗微生物剤では、上記抗微生物性金属は、銀、銅及び亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。
これらの金属は、優れた抗菌、抗カビ、抗ウィルス性能を有しているからである。
【0016】
本発明の抗微生物基材は、本発明の抗微生物剤がバインダを介して基材上に固着してなる。このため優れた抗微生物活性を示し、抗微生物基材として極めて実用的である。
【0017】
なお、本発明でいう抗微生物とは、抗ウィルス、抗菌、抗カビ、防カビを含む概念である。本発明の抗微生物剤及び本発明の抗微生物基材については、それぞれ、抗ウィルス剤及び抗ウィルス基材であることが望ましい。本発明の効果が最も顕著だからである。ウィルスを物質に分類することもあるが、本発明では微生物として扱う。
【発明の効果】
【0018】
本発明の抗微生物剤及び抗微生物基材によれば、ウィルス、菌類、カビなどの真菌類に対しても高い消毒効果(病原性のある微生物を死滅・除去させて害のない状態にする効果)を有し、また、ゼオライトを主成分としているため人体に対しても安全であり、実用的な抗微生物剤及び抗微生物基材と言える。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の抗微生物剤及び抗微生物基材を実施の形態に即して説明する。
【0020】
本発明の抗微生物剤は、金属担持ゼオライトからなる抗微生物剤であって、上記金属担持ゼオライトを構成する金属は、抗微生物性金属であり、上記金属担持ゼオライトを構成するゼオライトはCHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトであることを特徴とする。
なお、本明細書において、金属担持ゼオライトとは、ゼオライト中のイオン交換可能な陽イオンの少なくとも一部が、抗微生物性金属イオンで置換された状態で担持されているゼオライトのことを意味する。このため以下の説明において「抗微生物性金属」は、「抗微生物性金属イオン」を含むものとして扱う。
【0021】
CHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトは、空気中の水や酸素を吸着しやすく、ゼオライト中に担持された抗微生物性金属イオンが反応しやすいような骨格構造を備えており、ОHラジカルが効率よく生成する反応的して機能されやすいのであろうと推測される。
【0022】
本発明の抗微生物剤において、抗微生物性金属イオンで置換された金属担持ゼオライトを構成するゼオライトの平均粒子径(二次粒子径)は、0.1~4.0μmであることが望ましい。金属担持ゼオライトを構成するゼオライトの平均粒子径がこの範囲であると、金属担持ゼオライトの比表面積が大きくなり、ゼオライトに吸着された水及び酸素とゼオライトに担持されている抗微生物性金属イオンの接触確率を上げて、微生物を失活させるためのОHラジカルの発生量が増えるからである。金属担持ゼオライトを構成する上記ゼオライトの平均粒子径(二次粒子径)は、0.4~2.0μmが最適である。
【0023】
本発明の抗微生物剤において、金属担持ゼオライトを構成するゼオライトがCHA型ゼオライトの場合は、CHA型ゼオライトのシリカ・アルミナ比(以下、「SAR」とも呼称し、「SiO/Al」の値を指す)が20以下であることが望ましい。CHA型ゼオライトのシリカ・アルミナ比が小さいほど、抗微生物性金属イオンとしての吸着点が増加し、より多くのОHラジカルが発生しやすくなるからである。CHA型ゼオライトのシリカ・アルミナ比は10~15が最適である。シリカ・アルミナ比は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)法により測定できる。
【0024】
本発明の抗微生物剤において、金属担持ゼオライト中の抗微生物性金属の担持量は、3重量%以上であることが望ましく、5重量%以上が望ましい。抗微生物性金属の担持量が3重量%以上であれば、ОHラジカルの発生及び微生物を失活させるために必要な反応活性点の数が増えるからである。金属担持ゼオライト中の抗微生物性金属の担持量はICP(高周波誘導結合プラズマ)法により測定できる。
【0025】
本発明の抗微生物剤において、金属担持ゼオライトを構成するゼオライトがCHA型ゼオライトの場合、その粉末X線回折チャートに出現する第1ピークの半値幅が0.15°以下であることが望ましい。粉末X線回折チャートに出現する第1ピークの半値幅を0.15°以下に調整して金属担持ゼオライトの結晶性を高くすることにより、ゼオライト中の抗微生物性金属を単原子の状態で高分散させることができ、ОHラジカルの発生及び微生物を失活させるために必要な反応活性点を有効に機能せしめることができる。なお、第1ピークとは、粉末X線回折チャートに出現するピークのうち、最もピーク高の高いものをいう。
【0026】
本発明の抗微生物剤において、抗微生物性金属としては、銀、銅及び亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが望ましい。これらの金属は、優れた抗菌、抗カビ、抗ウィルス性能を有しているからである。抗微生物性金属としては銅が最も望ましい。銅は、ウィルスを効果的に失活させることができるからである。
【0027】
本発明の抗微生物剤を製造するにあたり、CHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトは、市販品を購入することもでき、特開2016-26979号公報等に記載された方法で水熱合成することもできる。また、CHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライト中に抗微生物性金属イオンを置換して担持させる方法としては、特開2016-26979号公報等に記載されたような方法、即ち、抗微生物性金属イオンを含む水溶液中にCHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライトを浸漬することで実施することができる。
【0028】
CHA型ゼオライトは、Si源、Al源、アルカリ源、水及び構造規定剤からなる原料組成物を準備して水熱合成することができる。Si源としては、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲル等を用いることができ、Al源としては、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、金属アルミニウム等が挙げられる。アルカリ源としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、アルミン酸塩及び珪酸塩中のアルカリ成分を使用できる。構造規定剤としては、N,N,N-トリアルキルアダマンタンアンモニウムをカチオンとする水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、メチルカーボネート塩、硫酸塩及び硝酸塩;及びN,N,N-トリメチルベンジルアンモニウムイオン、N-アルキル-3-キヌクリジノールイオン又はN,N,N-トリアルキルエキソアミノノルボルナンをカチオンとする水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、メチルカーボネート塩、硫酸塩及び硝酸塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0029】
CHA型ゼオライトの水熱合成に用いられる反応容器は、既知の水熱合成に用いられるものであれば特に限定されず、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器であればよい。反応容器に原料組成物を投入して密閉して加熱することにより、ゼオライトを結晶化させることができる。加熱温度は、100~200℃であることが望ましく、120~180℃であることがより望ましい。加熱時間は、10~200時間であることが望ましい。
【0030】
CHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライト中に抗微生物性金属を担持させる方法としては、抗微生物性金属イオンを含む水溶液中に、ゼオライトを浸漬してイオン交換する方法が挙げられる。
抗微生物性金属イオンを含む水溶液としては、抗微生物性金属イオンが銅イオンであれば、酢酸銅水溶液、硝酸銅水溶液、硫酸銅水溶液及び塩化銅水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶液、銀イオンであれば、硝酸銀水溶液、亜鉛イオンであれば、塩化亜鉛水溶液及び硫酸亜鉛水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶液が望ましい。
CHA型ゼオライト又はBEA型ゼオライト中に銅を担持させる場合には、酢酸銅水溶液を使用することが望ましい。一度で多量の銅を担持することができるためである。例えば、銅濃度が0.1~2.5重量%の酢酸銅(II)水溶液を溶液温度が室温~50℃、大気圧にてイオン交換を行うことで、これらのゼオライトに銅を担持できる。
【0031】
本発明の抗微生物剤は、その使用形態としては特に限定はされず、固体状、ペースト状、スラリー状などのいずれの形状でもよい。固体状の例としては、粉末、顆粒、錠剤、ペレット、ピース等が挙げられる。
【0032】
本発明の抗微生物剤は、バインダ及び分散媒と混合されてスラリー状で使用されることが最も望ましい。スラリー状の場合、後述する基材上に抗微生物剤を塗布等により付着させやすいからである。基材上にスラリー状の抗微生物剤を付着させる方法としては、スプレー法、二流体スプレー法、静電スプレー法、エアロゾル法、塗布用のバーコーター、アプリケーター等の塗布治具を用いて塗布する方法等が挙げられる。
【0033】
使用されるバインダとしては、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0034】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。
これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により硬化して基材表面に上記銅化合物を固着できるからである。上記電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂及びエポキシアクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上を使用することができる。また、上記熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂及びフェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0035】
分散媒としては、有機溶媒、水などを使用できる。有機溶媒としてはアルコール、ベンゼン、アセトン、クロロホルム、DMSOなどを使用してもよい。
【0036】
本発明の抗微生物基材は、上述の液体状の抗微生物剤を、基材上の抗微生物特性が必要な領域に付着させた後、バインダを硬化させることにより得られる。
【0037】
上記基材としては、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。
また、タッチパネルの保護用フィルムやディスプレイ用のフィルムであってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり、ドアノブ、トイレのスライド鍵等でもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の他、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【実施例0038】
(実施例1)
(1)CHA型ゼオライトの合成及び銅イオン交換
CHA型ゼオライトの合成及び銅イオン交換は、特開2016-26979号公報に従った。Si源としてコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス)、Al源として乾燥水酸化アルミニウムゲル(富田製薬社製)、アルカリ源として水酸化ナトリウム(トクヤマ社製)と水酸化カリウム(東亜合成社製)、構造規定剤(SDA)としてN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物(TMAAOH)25%水溶液(Sachem社製)、種結晶としてSSZ-13、脱イオン水を混合し、原料組成物を準備した。原料組成物のモル比は、SiO:15mol、Al:1mol、NaOH:2.6mol、KOH:0.9mol、TMAAOH:1.1mol、HO:300molとした。また原料組成物中のSiO、Alに5.0重量%の種結晶を加えた。原料組成物を500Lオートクレーブに装填し、加熱温度180℃、加熱時間24時間で水熱合成を行い、SARが13、平均粒子径2.0μmのゼオライトを合成した。次いで、合成したゼオライトを、1回目のイオン交換は銅濃度が2.34重量%の酢酸銅(II)水溶液を用い、2回目のイオン交換は銅濃度が0.59重量%の酢酸銅(II)水溶液を用い、合成したCHA型ゼオライトをこれらの水溶液に浸漬することで、溶液温度50℃、大気圧にて1時間、イオン交換を行い、ゼオライトに5.0重量%の銅を担持した。なお、シリカ・アルミナ比(SAR)と銅のゼオライト中の担持量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)法により測定した。
以上の工程を経て、実施例1に係る抗微生物剤を作製した。
【0039】
(2)A液の調製
(1)で合成した銅イオン交換した銅担持CHA型ゼオライト230重量部を純水12300重量部に分散させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して銅担持CHA型ゼオライトが分散した溶液を調製した。
【0040】
(3)B液の調製
光重合開始剤(IGM社製:Omnirad184)160重量部と光重合開始剤であるベンゾフェノン80重量部を混合した。IGM社製のOmnirad184は、BASF社製のIrgacure184と同一物質であり、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
この光重合開始剤の混合物195重量部と光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)6300重量部(水を40重量%含む)を混合した後、プロペラ型攪拌浴で700rpm、60分間の条件で攪拌混合し、紫外線硬化樹脂液を調製した。
【0041】
(4)A液とB液の混合
A液を470重量部、B液を250重量部それぞれ混合して、1分間攪拌することにより付着用抗微生物組成物とした。
【0042】
(5)付着用抗微生物組成物の塗布
この付着用抗微生物組成物を、刷毛を用いて光沢黒色化粧板(基材)上に膜状に塗布して厚さ20μmの連続膜を形成した。
【0043】
(6)乾燥・硬化
この後、光沢黒色化粧板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cmの照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材である光沢黒色化粧板表面に銅化合物を含むバインダ硬化物が塗膜として連続した膜状に固着形成された抗微生物基材を得た。バインダ硬化物中には、銅担持ゼオライトが固形分換算で5重量%含まれている。
以上の工程を経て、実施例1に係る抗微生物基材を作製した。
【0044】
(実施例2)
基本的には、実施例1と同様であるが、ゼオライトとして平均粒子径3.0μmのBEA型ゼオライトを準備し、イオン交換により銅を担持し、実施例2に係る抗微生物剤を作製した。
このBEA型ゼオライトは、SARが28であり、銅の担持量は、6.0重量%であった。なお、シリカ・アルミナ比(SAR)と銅のゼオライト中の担持量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)法により測定した。
【0045】
また、実施例2に係る抗微生物剤を用い、実施例1と同様の方法で、実施例2に係る抗微生物基材を作製した。
【0046】
(比較例1)
ゼオライトとして市販である、平均粒子径2.7μmのA型(LTA型)ゼオライト(シナネンゼオミック社製、製品名:CA10N)を準備し、、イオン交換により銅を担持し、比較例1に係る抗微生物剤を作製した。
なお、このA型ゼオライトのシリカ・アルミナ比(SAR)は5であった。また、シリカ・アルミナ比(SAR)と銅のゼオライト中の担持量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)法により測定した。
【0047】
また、比較例1に係る抗微生物剤を用い、実施例1と同様の方法で、比較例1に係る抗微生物基材を作製した。
【0048】
(ファージウィルスを用いた抗ウィルス評価)
この抗ウィルス試験は以下のように実施した。
実施例1、2及び比較例1で得られた抗微生物基材の抗ウィルス活性を評価するために、JIS Z 2801 抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウィルスの接種」に変更した点である。ウィルスを使用することによる変更点についてはすべてJIS L 1922繊維製品の抗ウィルス性試験方法に基づき変更した。測定結果は実施例1、2及び比較例1で得られた抗微生物基材についてJIS L 1922付属書Bに基づき、大腸菌への感染能力を失ったファージウィルス濃度をウィルス不活度として表示する。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活性化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。
【0049】
以下、手順を具体的に記載する。
(1)実施例1、2及び比較例1で得られた抗微生物基材の合計3種類の試験試料について、当該抗微生物基材を1辺50mm角の正方形に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウィルス液(>10PFU/mL)を0.1mL接種する。試験ウィルス液は10PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用した。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウィルス液を接種した。
(3)接種したウィルス液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウィルス液を均等に接種させた後、25℃で所定時間反応させた。
(4)接種直後又は反応後、SCDLP培地10mLを加え、ウィルス液を洗い流した。
(5)JIS L 1922付属書Bによってウィルスの感染値を求めた。
(6)以下の計算式を用いて抗ウィルス活性値を算出した。
Mv=Log(Vb/Vc)
Mv:抗ウィルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの所定時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の所定時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。
得られた抗ウィルス活性値を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1、2と比較例1との対比から理解できるように、CHA型ゼオライト及びBEA型ゼオライトに銅を担持した抗微生物剤は、A型ゼオライトに銅を担持した抗微生物剤よりも、優れた抗ウィルス活性を示すことが分かる。