(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107456
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】抗微生物組成物及び抗微生物基体
(51)【国際特許分類】
A01N 59/20 20060101AFI20230727BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01P1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008660
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 広和
(72)【発明者】
【氏名】服部 早紀
(72)【発明者】
【氏名】杉本 早紀
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB18
4H011BC18
4H011BC19
4H011DA07
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】 耐水性に優れた抗微生物組成物及びこの抗微生物組成物を用いて製造する抗微生物基体を提供する。
【解決手段】 銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び分散媒を含むA液と、未硬化のバインダ及び重合開始剤を含むB液とから構成された抗微生物組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び分散媒を含むA液と、未硬化のバインダ及び重合開始剤を含むB液とから構成された抗微生物組成物。
【請求項2】
銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト、未硬化のバインダ、重合開始剤及び分散媒を含む抗微生物組成物。
【請求項3】
前記銅化合物は、銅のカルボン酸塩及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載の抗微生物組成物。
【請求項4】
前記抗微生物性金属は、銅、銀及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項5】
前記ゼオライトは、LTA型ゼオライト、LSX型ゼオライト、CHA型ゼオライト、BEA型ゼオライト及びFAU型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項6】
前記未硬化のバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダ及び無機バインダの混合物、並びに、有機・無機ハイブリッドのバインダからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~5のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項7】
前記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項6に記載の抗微生物組成物。
【請求項8】
前記未硬化のバインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~7のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項9】
前記分散媒は、アルコール及び/又は水である請求項1~8のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項10】
前記重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~9のいずれか1項に記載の抗微生物組成物。
【請求項11】
基材表面に、バインダ硬化物が固着した抗微生物基体であって、
前記バインダ硬化物は、
銅化合物と、抗微生物性金属担持ゼオライトと、重合開始剤とを含む抗微生物基体。
【請求項12】
前記バインダ硬化物が、前記基材上に膜状に形成されてなる請求項11に記載の抗微生物基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物組成物及び抗微生物基体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病原体である種々の微生物を媒介とした感染症が短時間で急激に広がる、いわゆる「パンデミック」が問題になっており、SARS(重症急性呼吸器症候群)や、ノロウィルス、鳥インフルエンザ等のウィルス感染による死者も報告されている。
【0003】
そこで、様々のウィルスに対して抗ウィルス効果を発揮する抗ウィルス剤の開発が活発に行われており、実際に様々な部材に抗ウィルス効果のあるPd等の金属や有機化合物からなる抗ウィルス剤を含む樹脂等を塗布したり、抗ウィルス剤が担持された材料を含む部材を製造することが行われている。
【0004】
特許文献1には、銅化合物、光重合開始剤、電磁波硬化型樹脂及び分散媒からなる抗微生物組成物及びそれを用いた抗微生物基体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された抗微生物組成物及びその硬化物は耐水性に乏しく、水を用いた清掃等によりその抗微生物活性が低下するという問題が見られた。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、耐水性に優れた抗微生物組成物及びこの抗微生物組成物を用いて製造する抗微生物基体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記抗微生物組成物の硬化物の耐水性が不十分である原因を鋭意研究した。その結果、上記抗微生物組成物の硬化物に水が接触すると、硬化物の表面の銅イオンが水に溶出してしまい、硬化物中の銅イオン量が減ってしまうためであることが分かった。
【0009】
本発明の第1の抗微生物組成物は、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び分散媒を含むA液と、未硬化のバインダ及び重合開始剤を含むB液とから構成されてなる。
【0010】
本発明の第2の抗微生物組成物は、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト、未硬化のバインダ、重合開始剤及び分散媒を含んでなる。
【0011】
本発明の第1の抗微生物組成物は、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び分散媒を含むA液と、未硬化のバインダと重合開始剤を含むB液とからなり、基材表面に付着せしめる直前に上記A液とB液とを混合し、本発明の第2の抗微生物組成物である、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト、未硬化のバインダ、重合開始剤及び分散媒を含む抗微生物組成物を調製する。
【0012】
このような抗微生物組成物を基材表面に付着することにより本発明の抗微生物基体を作製することができる。
本発明の抗微生物基体は、基材表面に、バインダ硬化物が固着した抗微生物基体であって、上記バインダ硬化物は、銅化合物と、抗微生物性金属担持ゼオライトと、重合開始剤とを含む。
【0013】
なお、本明細書において、抗微生物性金属担持ゼオライトとは、ゼオライト中のイオン交換可能な陽イオンの少なくとも一部が、抗微生物性金属イオンに交換されているゼオライトのことを意味する。このため、以下の説明においては「抗微生物性金属」は「抗微生物性金属イオン」を含むものとして扱う。
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物は、いずれも銅化合物及び抗微生物性金属担持ゼオライトを含んでいる。これらの抗微生物組成物の硬化物は、その表面が清掃時に水と接触すると、硬化物表面から銅化合物が銅イオンとして水中に溶出して、銅化合物の含有量が減ってしまう。しかしながら、ゼオライト中にイオン交換により保持された抗微生物性金属は水に溶出しにくいため、抗微生物組成物の硬化物中の銅化合物の減少を補うことができ、硬化物表面に水が接触した場合でも高い抗微生物活性を維持することが可能となる。このため、本発明の第1及び第2の抗微生物組成物の硬化物は、耐水性が高いのである。
なお、本発明の第1の抗微生物組成物では、保管中に上記A液中の銅化合物及び抗微生物性金属担持ゼオライトと上記B液中の未硬化のバインダとが接触しないので、バインダの硬化反応が進行せず、抗微生物組成物に黄変等の変化が生じにくい。このため、室温以上の温度で長期間にわたって保存が可能である。
【0014】
本明細書において、抗微生物とは、抗ウィルス、抗菌、抗カビ、防カビを含む概念である。本発明の抗微生物基体及び抗微生物組成物については、それぞれ抗ウィルス基体及び抗ウィルス組成物であることが望ましい。本発明の効果が最も顕著だからである。
【0015】
なお、本明細書において、上記抗微生物組成物は、抗ウィルス活性、抗菌活性、抗カビ活性及び防カビ活性のうちいずれか1種の活性を示す組成物であってもよく、抗ウィルス活性、抗菌活性、抗カビ活性及び防カビ活性のうち、いずれか2種類の活性を示す組成物であってもよく、いずれか3種類の活性を示す組成物であってもよく、4種類全ての活性を示す組成物であってもよい。なお、ウィルスについては、生物ではなく物質として分類することもあるが、本発明においては微生物として扱う。
【0016】
本明細書において、上記抗微生物基体は、抗ウィルス活性、抗菌活性、抗カビ活性及び防カビ活性のうちいずれか1種の活性を示す基体であってもよく、抗ウィルス活性、抗菌活性、抗カビ活性及び防カビ活性のうち、いずれか2種類の活性を示す基体であってもよく、いずれか3種類の活性を示す基体であってもよく、4種類全ての活性を示す基体であってもよい。
【0017】
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物は、重合開始剤を含むが、この重合開始剤は、ラジカルやイオンを発生させ、その際に銅化合物を還元させることができるため、銅の抗微生物活性を高くすることができるのである。一般に銅化合物(I)の方が銅化合物(II)よりも抗微生物活性が高く、銅が還元されることで抗微生物活性が改善される。
【0018】
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物では、上記銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、銅のカルボン酸塩及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種であることがより望ましく、銅のカルボン酸塩がさらに望ましい。
【0019】
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物では、上記銅化合物は、二価の銅化合物(銅化合物(II))であることが望ましい。一価の化合物(銅化合物(I))は、分散媒である水に不溶であり、粒子状に局在化するため、バインダ中への分散が不充分であり、抗微生物活性に劣るからである。また、二価の銅化合物を抗微生物組成物中に加え、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物がバインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。この点からも、水溶性の二価の銅化合物を用いることが最適である。
【0020】
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物では、抗微生物性金属担持ゼオライトを構成する抗微生物性金属は、銅、銀及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。これらの金属は、高い抗微生物活性を有しているからである。抗微生物性金属としては、銅が最適である。銅は、空気中の水及び酸素と反応してOHラジカルを生成させることができ、このOHラジカルが、ウィルス等の微生物を構成する蛋白質を分解してウィルスを失活させることができるからである。
【0021】
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物においては、抗微生物性金属担持ゼオライトを構成するゼオライトとしては、LTA型ゼオライト、LSX型ゼオライト、CHA型ゼオライト、BEA型ゼオライト及びFAU型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。これらのゼオライトは、イオン交換容量が高く、多くの抗微生物性金属イオンを担持することができ、また、抗微生物組成物の硬化物表面が水と接触した場合でも、抗微生物性金属イオンが水中に溶出することを確実に抑制できる。
【0022】
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物では、上記未硬化のバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダ及び無機バインダの混合物、並びに、有機・無機ハイブリッドのバインダからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。比較的容易に密着性に優れたバインダ硬化物を、基材表面に固着形成できるからである。
【0023】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。
これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により硬化して基材表面に上記銅化合物を固着できるからである。また、これらの有機バインダは、重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。上記電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上を使用することができる。また、上記熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上を使用できる。
【0024】
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物においては、上記未硬化のバインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0025】
本発明の抗微生物組成物では、上記分散媒は、アルコール及び/又は水であることが望ましい。上記分散媒中に銅化合物が良好に分散し、その結果、銅化合物が良好に分散したバインダ硬化物を形成することができるからである。
【0026】
本発明の抗微生物組成物では、上記重合開始剤は、水に不溶性の重合開始剤であることが望ましい。水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物を形成することができるからである。
【0027】
上記重合開始剤は、光重合開始剤であることが望ましい。光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅化合物(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0028】
上記重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
本明細書において、アルキルフェノン系の光重合開始剤には、アルキルフェノン及びその誘導体が含まれ、ベンゾフェノン系の光重合開始剤には、ベンゾフェノン及びその誘導体が含まれる。
これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅化合物(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0029】
本発明の抗微生物基体は、基材表面に、バインダ硬化物が固着した抗微生物基体であって、上記バインダ硬化物は、銅化合物と、抗微生物性金属担持ゼオライトと、重合開始剤とを含む。
【0030】
本発明の抗微生物基体は、重合開始剤を含むが、この重合開始剤は、ラジカルやイオンを発生させ、その際に上記銅化合物を還元させることができるため、銅の抗微生物活性を高くすることができる。一般に銅化合物(I)の方が銅化合物(II)よりも抗微生物活性が高く、銅化合物が還元されることで抗微生物活性が改善される。また、重合開始剤は、疎水性で水に不溶であるため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗微生物基体となる。
【0031】
本発明の抗微生物基体では、上記銅化合物及び抗微生物性金属担持ゼオライトの少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面から、ウィルス等の微生物と接触可能な状態で露出していることが望ましい。空気中の水や酸素と反応しやすく、ОHラジカルを生成してウィルス等の微生物の機能を失活させることができるからである。
【0032】
また、本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物が、抗微生物活性が要求される領域の表面に、島状に散在して固着形成されているか、又は、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在していることが望ましい。
上記バインダ硬化物が、抗微生物活性が要求される領域の表面に、島状に散在して固着形成されているか、又は、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合は、可視光線の基材表面に対する透過率が低下する等の不都合を防止することができる。そのため、基材が透明な材料である場合には、基材の透明性が低下することはなく、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合には、意匠等の外観を損ねることもない。
【0033】
また、本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物が島状に散在して固着形成されているか、又は、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合は、上記バインダ硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、上記バインダ硬化物の残留応力、冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有する上記バインダ硬化物を形成することができる。
【0034】
さらに、本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物が基材上に膜状に形成されていてもよい。
抗微生物活性を有するバインダ硬化物が基材上に膜状に形成されていると、島状に分散固定されている場合や基材表面に上記バインダ硬化物が固着形成された領域と上記バインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に比べて、上記バインダ硬化物の表面が滑りやすくなるためふき取り清掃に対する耐性に優れている。
【0035】
上記バインダ硬化物からなる膜の厚さは、0.1~500μmが望ましい。厚すぎると応力が発生して膜が剥離して抗微生物活性が低下し、膜が薄すぎても抗微生物活性を十分発揮できないからである。
上記基材に意匠が施されていない場合、あるいは、意匠性よりも抗微生物活性を優先させる場合には、上記のように、バインダ硬化物からなる膜が基材上に形成されていてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の第1及び第2の抗微生物組成物、並びに、抗微生物基体を実施の形態に即して説明する。
【0037】
<抗微生物組成物>
本発明の第1の抗微生物組成物は、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び分散媒を含むA液と、未硬化のバインダ及び重合開始剤を含むB液とから構成されてなることを特徴とする。
本発明の第1の抗微生物組成物は、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び分散媒を含むA液と、未硬化のバインダと光重合開始剤を含むB液とからなり、基材表面に付着せしめる直前に上記A液とB液とを混合する。この混合により、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト、未硬化のバインダ、光重合開始剤及び分散媒を含む、本発明の第2の抗微生物組成物が得られる。
【0038】
本発明の第2の抗微生物組成物は、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト、未硬化のバインダ、重合開始剤及び分散媒を含むことを特徴とする。
なお、本明細書において、抗微生物性金属担持ゼオライトとは、ゼオライト中のイオン交換可能な陽イオンの少なくとも一部が、抗微生物性金属イオンに交換されているゼオライトのことを意味する。このため、以下の説明においては「抗微生物性金属」は「抗微生物性金属イオン」を含むものとして扱う。
【0039】
本発明の第1及び第2の抗微生物組成物は、いずれも銅化合物及び抗微生物性金属担持ゼオライトを含んでいる。これらの抗微生物組成物の硬化物は、その表面が清掃時に水で処理されると、硬化物表面から銅化合物が銅イオンとして水に溶出して、銅化合物の含有量が減ってしまう。しかしながら、ゼオライト中にイオン交換により保持された抗微生物性金属は水に溶出しにくいため、抗微生物組成物の硬化物中の銅化合物の減少を補うことができ、硬化物表面に水が接触した場合でも高い抗微生物活性を維持することが可能となる。
なお、本発明の第1の抗微生物組成物では、保管中に上記A液中の銅化合物及び抗微生物性金属担持ゼオライトと上記B液中の未硬化のバインダとが接触しないので、バインダの硬化反応が進行せず、抗微生物組成物に黄変等の変化が生じにくい。このため、室温以上の温度で長期間にわたって保存が可能である。
【0040】
上記A液は、銅化合物を含む。
上記銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、銅のカルボン酸塩及び銅の水溶性無機塩からなる群から選択される少なくとも1種であることがより望ましく、銅のカルボン酸塩がさらに望ましい。
【0041】
上記銅のカルボン酸塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、酢酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅等が挙げられる。
上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅、硫酸銅等が挙げられる。
【0042】
上記銅化合物は、二価の銅化合物(銅化合物(II))であることが望ましい。一価の銅化合物(銅化合物(I))は、分散媒である水に不溶であり、粒子状に局在化する、バインダ中への分散が不充分であり、抗微生物活性に劣るからである。また、二価の銅化合物を抗微生物組成物中に加え、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物がバインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。この点からも、水溶性の二価の銅化合物を用いることが最適である。
【0043】
上記二価の銅のカルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、フタル酸銅(II)等が挙げられる。上記銅化合物としては、二価の銅のカルボン酸塩が望ましい。上記二価の銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
その他の二価の銅化合物としては、例えば、銅(II)(メトキシド)、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシド等が挙げられる。
【0044】
上記A液は、分散媒を含む。
上記分散媒は、安定性を考慮した場合にはアルコール及び/又は水が望ましい。上記分散媒中に銅化合物が良好に分散し、その結果、上記銅化合物が良好に分散したバインダ硬化物を形成することができるからである。
上記アルコールとしては、粘性を下げる事を考慮して、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール等のアルコールが挙げられる。これらのアルコールのなかでは、粘度が高くなりにくいメチルアルコール、エチルアルコールが望ましい。また、上記分散媒は、アルコールと水との混合液を使用することができる。
上記A液は、抗微生物性金属担持ゼオライトを含む。この抗微生物性金属担持ゼオライトを構成する抗微生物性金属は、銅、銀及び亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。これらの金属は、高い抗微生物活性を有しているからである。抗微生物性金属としては、銅が最適である。銅は、空気中の水及び酸素と反応してOHラジカルを生成させることができ、このOHラジカルが、ウィルス等の微生物を構成する蛋白質を分解してウィルス等の微生物を失活させることができるからである。
金属(銀、銅、亜鉛)の含有率としては特に限定はないが、例えば、0.1~20重量%程度とすることができる。
【0045】
上記抗微生物性金属担持ゼオライトを構成するゼオライトとしては、LTA型ゼオライト、LSX型ゼオライト、CHA型ゼオライト、BEA型ゼオライト及びFAU型ゼオライトからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。これらのゼオライトは、イオン交換容量が高く、多くの抗微生物性金属イオンを担持することができ、また、抗微生物組成物の硬化物表面が水処理された場合でも、抗微生物性金属イオンが水中に溶出することを抑制できる。
これらのゼオライトのうち、CHA型ゼオライトが最も望ましい。空気中の水及び酸素を吸着させやすく、ゼオライト中の抗微生物性金属イオンと水及び酸素を反応させてOHラジカルを発生させやすくすることができるからである。
【0046】
抗微生物性金属担持ゼオライトを構成するゼオライトの平均粒子径(二次粒子径)は、0.1~5.0μmであることが望ましい。
上記ゼオライトの結晶性は高い方が望ましい。OHラジカルを発生させる活性点である抗微生物性金属イオンを単分散させることができ、より反応性を高くすることができるからである。ゼオライトの結晶性は、第1ピーク(粉末X線回折のチャートに出現するピークのうち、最も高いピーク)の半値幅で定義することができる。例えば、ゼオライトがCHA型ゼオライトである場合、その半値幅が0.15°以下であることが望ましい。
上記ゼオライトは、市販品を購入することもでき、特開2016-26979号公報等に記載の方法で製造することもできる。
ゼオライト中に抗微生物性金属を担持させる方法としては、抗微生物性金属イオンを含む水溶液中に、ゼオライトを浸漬してイオン交換することで行うことができる。
抗微生物性金属イオンを含む水溶液としては、銅イオンであれば、酢酸銅水溶液、硝酸銅水溶液、硫酸銅水溶液及び塩化銅水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶液、銀イオンであれば、硝酸銀水溶液、亜鉛イオンであれば、塩化亜鉛水溶液及び硫酸亜鉛水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種の水溶液が望ましい。
ゼオライト中に銅を担持させる場合には、酢酸銅水溶液を使用することが望ましい。一度で多量の銅を担持することができるためである。例えば、銅濃度が0.1~2.5重量%の酢酸銅(II)水溶液を溶液温度が室温~50℃、大気圧にてイオン交換を行うことで、ゼオライトに銅を担持できる。
本発明の抗微生物組成物における抗微生物性金属担持ゼオライトでは、抗微生物性金属担持ゼオライトを構成するゼオライトに対して銅が3.0重量%以上担持されていることが望ましい。水や酸素と反応してОHラジカルの発生量を増やすことができるからである。
【0047】
上記B液は、未硬化のバインダを含む。
上記未硬化のバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダ及び無機バインダの混合物、並びに、有機・無機ハイブリッドのバインダからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0048】
上記無機バインダとしては、無機ゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。
【0049】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂及び熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。
これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により硬化して基材表面に上記銅化合物を固着できるからである。また、これらの有機バインダは、重合開始剤の銅に対する還元力を低下させることがないため有利である。
【0050】
上記電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用することができる。また、熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂及びフェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。
【0051】
上記未硬化のバインダの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0052】
上記アクリル樹脂としては、エポキシ変性アクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂(ウレタン変性アクリレート樹脂)、シリコン変性アクリレート樹脂等が挙げられる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0053】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組みわせたもの等が挙げられる。
上記アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0054】
上記金属アルコキシドとしては、アルコキシシランを使用することができる。加水分解によりシロキサン結合を形成してゾルとなり、乾燥によってゲル化してバインダ硬化物となすることができる。シリカゾル、アルミナゾル及び水ガラスについても、加熱、乾燥させることによりバインダ硬化物とすることができる。
【0055】
なお、上記電磁波硬化型樹脂とは、電磁波照射により原料であるモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応等が進行して製造される樹脂を意味している。
従って、上記抗微生物組成物は、上記電磁波硬化型樹脂の原料となるモノマーやオリゴマー(未硬化の電磁波硬化型樹脂)を含有している。
上記未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと、上記光重合開始剤と各種添加剤を含んだ組成物に電磁波を照射することにより、上記光重合開始剤は、開裂反応水素引き抜き反応、電子移動等の反応を起こし、これにより生成した光ラジカル分子、光カチオン分子、光アニオン分子等が上記モノマーや上記オリゴマーを攻撃してモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応が進行し、バインダ硬化物が生成することができる。本明細書において、このような反応により生成する樹脂を電磁波硬化型樹脂という。
【0056】
上記B液は、重合開始剤を含む。
上記重合開始剤は、還元力のある光重合開始剤を用いることが望ましい。
上記A液と上記B液とを混合したときに、上記光重合開始剤は、上記銅化合物を抗微生物活性が高い銅化合物(I)に還元するとともに、銅化合物(I)が酸化して抗微生物活性の劣る銅化合物(II)に変わることを抑制することができるからである。
そのため、本発明の抗微生物組成物から形成される抗微生物基体は、ウィルス及び/又はカビに最も効果的に作用する。上記銅化合物(I)の還元力によって、銅化合物(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカル等を発生させてウィルス又はカビを構成する蛋白を効果的に破壊するからである。
【0057】
上記重合開始剤は、水に不溶性の重合開始剤であることが望ましい。水に触れても溶出しないため、バインダ硬化物を劣化させることがなく、上記銅化合物の脱離を招かないからである。
上記銅化合物が水溶性であってもバインダ硬化物で保持されていれば、脱離を抑制できるが、バインダ硬化物中に水溶性物質が含まれていると、バインダ硬化物の上記銅化合物に対する保持力が低下して、上記銅化合物の脱離が生じると推定される。
また、上記水に不溶性の重合開始剤は、未硬化のバインダとして電磁波硬化型樹脂を用いた場合、可視光線、紫外線等の光により、容易に重合反応を進行させることができるからである。
【0058】
上記重合開始剤は、光重合開始剤が望ましい。光重合開始剤としては、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0059】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
【0060】
上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、又は3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0061】
上記アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0062】
上記分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、オキシフェニルサクサン、2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルトオキシフェニル酢酸と2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルとの混合物等が挙げられる。
【0063】
上記オキシムエステル系の光重合開始剤としては、例えば、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0064】
上記重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン系の光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましく、特に、上記重合開始剤は、ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含むことが望ましい。
これらの光重合開始剤は、特に、銅に対する還元力が高く、銅化合物(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0065】
上記重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤及びベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記B液において、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度は、0.5~10.0重量%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がB液において0.5~5.0重量%であることが望ましい。電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤と上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅に対する還元力を高くすることができるからである。架橋密度は85%以上、特に95%以上が望ましい。
【0066】
上記A液中の上記銅化合物の含有割合は、0.5~30.0重量%が望ましく、また、上記A液中の上記抗微生物性金属担持ゼオライトの含有割合は、0.2~30.0重量%であることが望ましい。また、上記分散媒の含有割合は、70.0~99.3重量%が望ましい。
また、上記B液中のバインダの含有割合は、70.0~99.5重量%が望ましく、上記重合開始剤の含有割合は、0.5~30.0重量%が望ましく、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤及び上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤を含む場合には、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度が、0.5~10.0重量%、上記ベンゾフェノン系の重合開始剤の濃度が、0.5~5.0重量%であることがより望ましい。
上記A液と上記B液の混合割合は、重量比でA液/B液=1/1~5/1であることが望ましい。
【0067】
また、上記A液とB液を混合して得られる本発明の第2の抗微生物組成物における、上記銅化合物の含有割合は0.25~25重量%、上記抗微生物性金属担持ゼオライトの含有割合は、0.1~25重量%、上記分散媒の含有割合は、35.0~83.0重量%が望ましい。また、本発明の第2の抗微生物組成物における上記バインダの含有割合は10.0~50.0重量%が望ましく、上記重合開始剤の含有割合は、0.05~15.0重量%が望ましい。
【0068】
上記A液及び上記B液、又は、それらを混合して得られる抗微生物組成物中には、必要に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
【0069】
<抗微生物基体>
本発明の抗微生物基体は、基材表面に、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び光重合開始剤を含むバインダ硬化物が固着している。上記バインダ硬化物中には、光触媒を含まないことが望ましい。
なお、本発明の抗微生物基体において、抗微生物性金属担持ゼオライトとは、ゼオライト中のイオン交換可能な陽イオンの少なくとも一部が、抗微生物性金属イオンに交換されているゼオライトのことを意味する。このため、以下の説明においては「抗微生物性金属」は「抗微生物性金属イオン」を含むものとして扱う。
【0070】
本発明の抗微生物基体において、上記バインダ硬化物は、本発明の抗微生物組成物により形成されることが望ましい。
本発明の抗微生物基体において、上記銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び上記重合開始剤は、上述した抗微生物組成物において記載したものを用いることが望ましい。また、上記バインダ硬化物は、上述した抗微生物組成物において記載した未硬化のバインダを硬化したものであることが望ましい。
【0071】
本発明の抗微生物基体は、基材表面のバインダ硬化物中に銅化合物及び抗微生物性金属担持ゼオライトを含んでいる。バインダ硬化物は、その表面が清掃時に水で処理されると、硬化物表面から銅化合物の一部が銅イオンとして水に溶出して、銅化合物の含有量が減ってしまう。しかしながら、ゼオライト中にイオン交換により保持された抗微生物性金属は水に溶出しにくいため、抗微生物組成物の硬化物中の銅イオンの減少を補うことができ、水により硬化物表面が処理された場合でも高い抗微生物活性を維持することが可能となる。
また、上記バインダ硬化物に含まれる上記重合開始剤が、銅化合物中の銅化合物(II)を還元して銅化合物(I)を生成せしめるため、銅化合物(I)の還元力によって、銅化合物(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカル等を発生させて、微生物を構成する蛋白質を破壊してウィルス等の微生物を失活させることができる。銅化合物(I)は空気中の水や酸素を還元すると、銅化合物(II)に変わるが、上記バインダ硬化物に含まれる上記光重合開始剤によって、再び銅化合物(I)に還元されるため、還元力が常に維持される。
【0072】
上記バインダ硬化物中の銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト、光重合開始剤及びバインダの含有量は固形分換算で、それぞれ、銅化合物が0.1~20重量%、抗微生物性金属担持ゼオライトが0.1~20重量%、重合開始剤が0.1~15重量%、バインダが70~99.7重量%であることが望ましい。
【0073】
上記基材としては、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。
また、本発明の抗微生物基体の基材となる部材も、特に限定されるものではなく、タッチパネルの保護用フィルムやディスプレイ用のフィルムであってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり等であってもよい。また、ドアノブ、トイレのスライド鍵等でもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0074】
本発明の抗微生物基体では、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが望ましい。
【0075】
本発明の抗微生物基体において、銅化合物(I)の抗微生物活性は、ウィルス及び/又はカビに対して最も効果が高い。一価の銅化合物がウィルスとカビを構成する蛋白を最も効果的に破壊するからである。
【0076】
本発明における抗微生物基体における銅化合物中のCu(I)/Cu(II)の比率は、バインダ、重合開始剤、銅化合物の選択、これらの濃度調整、及び、紫外線等の電磁波の照射時間や強度で調整することができる。
【0077】
なお、Cu(I)とは、銅のイオン価数が1であることを意味し、Cu+と表す場合もある。一方、Cu(II)とは、銅のイオン価数が2であることを意味し、Cu2+と表す場合もある。なお、一般的に、Cu(I)の結合エネルギーは、932.5eV±0.3(932.2~932.8eV)、Cu(II)の結合エネルギーは、933.8eV±0.3(933.5~934.1eV)である。
【0078】
本発明の抗微生物基体では、上記銅化合物及び抗微生物性金属担持ゼオライトの少なくとも一部は、上記バインダ硬化物の表面から、ウィルス等の微生物と接触可能な状態で露出していることが望ましい。ウィルス等の微生物と接触可能な状態で露出していると、ウィルス等の微生物の機能を失活させることができるからである。
【0079】
また、本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物が、抗微生物活性が要求される領域の表面に、島状に散在して固着形成されているか、又は、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在していることが望ましい。
上記バインダ硬化物が、抗微生物活性が要求される領域の表面に、島状に散在して固着形成されているか、又は、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合は、可視光線の基材表面に対する透過率が低下する等不都合を防止することができる。そのため、基材が透明な材料である場合には、基材の透明性が低下することはなく、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合には、意匠等の外観を損ねることもない。
【0080】
また、本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物が島状に散在して固着形成されているか、又は、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在する場合は、上記バインダ硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、上記バインダ硬化物の残留応力、冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有する上記バインダ硬化物を形成することができる。
【0081】
さらに、本発明の抗微生物基体では、上記バインダ硬化物が基材上に膜状に形成されていてもよい。
抗微生物活性を有するバインダ硬化物が基材上に膜状に形成されていると、島状に分散固定されている場合や基材表面に上記バインダ硬化物が固着形成された領域と上記バインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に比べて、上記バインダ硬化物の表面が滑りやすくなるためふき取り清掃に対する耐性に優れているのである。
【0082】
本発明の抗微生物基体における上記バインダ硬化物からなる膜の厚さは、0.1~500μmが望ましい。厚すぎると応力が発生して膜が剥離して抗微生物活性が低下し、膜が薄すぎても抗微生物活性を十分発揮できないからである。
上記基材に意匠が施されていない場合、あるいは、意匠性よりも抗微生物活性を優先させる場合には、上記のように、バインダ硬化物からなる膜が基材上に形成されていてもよい。
【0083】
次に、本発明の抗微生物組成物及び抗微生物基体の製造方法について説明する。
【0084】
(1)抗微生物組成物調製工程
本発明の第1の抗微生物組成物にかかる、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト及び分散媒からなるA液と未硬化のバインダと重合開始剤からなるB液をそれぞれ上述した含有割合で個別に調製することにより、本発明の第2の抗微生物組成物を製造することができる。本発明の第1の抗微生物組成物では、上記未硬化のバインダが変質せずに高温、長期間の保管が可能である。このため夏場でも冷却せずに保管することができる。
本発明の抗微生物組成物においては、A液中の銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライトとB液中の未硬化のバインダが接触せず、保管中に硬化反応が進行しないため、抗微生物組成物が黄変、劣化しない。このため、高温下でも長期の保存が可能となるのである。
【0085】
上記A液及び上記B液は、基材表面に付着せしめる直前に混合する。
上記A液と上記B液とを混合した後、ミキサー等で充分に攪拌し、均一な濃度で分散する付着用抗微生物組成物とした後、基材の表面に付着せしめることが望ましい。
【0086】
(2)付着工程
本発明の抗微生物基体の製造方法においては、付着工程として、上記付着用抗微生物組成物を基材に付着せしめる。
【0087】
上記付着用抗微生物組成物を、基材表面の抗微生物活性が要求される領域に島状に散在させるか、基材表面の抗微生物活性が要求される領域に上記付着用抗微生物組成物が付着された領域と上記付着用抗微生物組成物が付着されていない領域とを混在させた状態、すなわち、基材表面の一部が露出するような状態となるように上記付着用抗微生物組成物を付着せしめてもよく、上記付着用抗微生物組成物を、基材表面の抗微生物活性が要求される領域に膜状に形成してもよい。
【0088】
基材表面を上記した状態とするためには、例えば、スプレー法、二流体スプレー法、静電スプレー法、エアロゾル法等を用いて上記付着用抗微生物組成物を散布する方法、塗布用のバーコーター、アプリケーター等の塗布冶具を用いて上記付着用抗微生物組成物を塗布する方法等が挙げられる。
【0089】
上記付着工程において、スプレーを用いて上記付着用抗微生物組成物を霧の状態で噴霧し、基材表面に上記付着用抗微生物組成物の液滴を付着させてもよい。
上記二流体スプレー法とは、スプレー法の一種であり、高圧の空気等のガスと上記付着用抗微生物組成物とを混合した後、ノズルから霧の状態で噴霧し、基材表面に上記付着用抗微生物組成物の液滴を付着させることをいう。
上記静電スプレー法とは、帯電した付着用抗微生物組成物を利用する散布方法であり、上記したスプレー法により上記付着用抗微生物組成物を霧の状態で噴霧するが、上記付着用抗微生物組成物を霧状にするための方式には、上記付着用抗微生物組成物を噴霧器で噴霧するガン型と、帯電した付着用抗微生物組成物の反発を利用した静電霧化方式があり、さらに、ガン型には帯電した付着用抗微生物組成物を噴霧する方式と、噴霧した霧状の付着用抗微生物組成物に外部電極からコロナ放電で電荷を付与する方式とがある。霧状の液滴は、帯電しているため、基材表面に付着し易く、良好に上記付着用抗微生物組成物を、細かく分割された状態で基材表面に付着させることができる。
上記エアロゾル法とは、金属の化合物を含む上記付着用抗微生物組成物を物理的及び化学的に生成した霧状のものを対象物に吹き付ける手法である。
【0090】
上記付着工程により、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む付着用抗微生物組成物が、基材表面に島状に散在しているか、基材表面に上記付着用抗微生物組成物が付着された領域と上記付着用抗微生物組成物が付着されていない領域とが混在した状態となる。もちろん、上記付着用抗微生物組成物が、基材表面に膜状に形成されていてもよい。
【0091】
(3)乾燥工程
上記付着工程により付着された銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト、未硬化のバインダ、分散媒と重合開始剤とを含む付着用抗微生物組成物を乾燥させ、分散媒を蒸発、除去し、銅化合物、抗微生物性金属担持ゼオライト等を含むバインダ硬化物を基材表面に仮固定させるとともに、バインダ硬化物の収縮により、銅化合物をバインダ硬化物の表面から露出させることができる。乾燥条件としては、20~100℃、0.5~5.0分が望ましい。乾燥は、赤外線ランプやヒータ等で行うことができる。また、減圧(真空)乾燥させてもよい。
本発明の抗微生物基体を製造する際には、乾燥工程と後述する硬化工程を同時に行ってもよい。
【0092】
(4)硬化工程
本発明の抗微生物基体を製造する際には、硬化工程として、上記乾燥工程で分散媒を除去した付着用抗微生物組成物中、又は、分散媒を含む付着用抗微生物組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させ、バインダ硬化物とする。
未硬化のバインダを硬化させる方法としては、乾燥による分散媒除去、加熱や電磁波照射によるモノマー、オリゴマーの重合促進等がある。乾燥は、減圧乾燥、加熱乾燥等が挙げられる。また、バインダが熱硬化型樹脂の場合は、加熱により硬化が進行する。加熱はヒータ、赤外線ランプ、紫外線ランプ等で行うことができる。未硬化のバインダが電磁波硬化型樹脂である場合に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。
これらの工程により、上記した本発明の抗微生物基体を製造することができる。
【0093】
上記付着用抗微生物組成物中には、上記した光重合開始剤が添加されているので、バインダとしてモノマーやオリゴマーを含む場合は、それらの重合反応が進行する。また、光重合開始剤は銅を還元するため、銅化合物(II)を銅化合物(I)に還元でき、銅化合物(I)の量を増やすことができるため、ウィルス等の抗微生物活性の高いバインダ硬化物が得られるのである。
【0094】
上記付着工程により上記付着用抗微生物組成物は、島状に散在しているか、基材表面に上記付着用抗微生物組成物が付着された領域と上記付着用抗微生物組成物が付着されていない領域とが混在した状態となっているので、得られたバインダ硬化物も島状に散在しているか、基材表面にバインダ硬化物が付着された領域とバインダ硬化物が付着されていない領域とが混在した状態となっている。また、バインダ硬化物が基材表面に膜状に形成されていてもよい。
【0095】
上記バインダ硬化物の基材表面への被覆率は、抗微生物組成物中の抗微生物成分の濃度、分散媒の濃度等や散布の圧力、塗液の噴出速度、塗工時間等を操作することにより、調整することができる。スプレーガンを用いて噴射する場合は、スプレーガンのエアー圧力やスプレー塗布幅、スプレーガンの移動速度、塗液の噴出速度、塗布距離を変化させることにより、バインダ硬化物の被覆率を調整することができる。
【0096】
その後、紫外線照射をして、光重合開始剤の還元力を発現せしめる。上記抗微生物基体の製造方法におけるいずれかの工程中で、光重合開始剤の還元力を発現せしめるために、所定の波長の電磁波、例えば紫外線等を照射することが望ましい。特に光重合開始剤を用いた場合は、電磁波の照射により、ラジカルが発生し、銅化合物を還元することで、抗微生物活性、特に抗ウィルス活性の高い銅化合物(I)の量を増やすことができ、有効である。
また、上記抗微生物基体上のバインダ硬化物は、その表面が清掃等より水で処理されると、硬化物表面から銅化合物の一部が銅イオンとして水に溶出して、銅化合物の含有量が減ってしまう。しかしながら、ゼオライト中にイオン交換により保持された抗微生物性金属イオンは水に溶出しにくいため、バインダ硬化物中の銅イオンの減少を補うことができ、水により硬化物表面が処理された場合でも高い抗微生物活性を維持することが可能となる。
このため、銅化合物(I)とゼオライト中の抗微生物性金属イオンが空気中の水や酸素と反応してOHラジカルが発生し、高い抗微生物活性を発現できるのである。
【実施例0097】
(実施例1)
(1)CHA型ゼオライトの合成及び銅イオン交換
CHA型ゼオライトの合成及び銅イオン交換は、特開2016-26979号公報に従った。
Si源としてコロイダルシリカ(日産化学工業社製、スノーテックス)、Al源として乾燥水酸化アルミニウムゲル(富田製薬社製)、アルカリ源として水酸化ナトリウム(トクヤマ社製)と水酸化カリウム(東亜合成社製)、構造規定剤(SDA)としてN,N,N-トリメチルアダマンタンアンモニウム水酸化物(TMAAOH)25%水溶液(Sachem社製)、種結晶としてSSZ-13、脱イオン水を混合し、原料組成物を準備した。原料組成物のモル比は、SiO2:15mol、Al2O3:1mol、NaOH:2.6mol、KOH:0.9mol、TMAAOH:1.1重量%の種結晶を加えた。原料組成物を500Lオートクレーブに装填し、加熱温度180℃、加熱時間24時間で水熱合成を行い、平均粒子径2.0μmのゼオライトを合成した。次いで、合成したゼオライトを、1回目のイオン交換は銅濃度が2.34重量%の酢酸銅(II)水溶液を用い、2回目のイオン交換は銅濃度が0.59重量%の酢酸銅(II)水溶液を用い、溶液温度50℃、大気圧にて1時間、イオン交換を行い、ゼオライトに4.6重量%の銅を担持した。
【0098】
(2)A液の調製
酢酸銅(II)(富士フイルム和光純薬社製)230重量部、(1)で合成し銅イオン交換した銅イオン交換(銅担持)CHA型ゼオライト230重量部を純水12300重量部に溶解、分散させた後、マグネチックスターラーを用い、700rpmで15分撹拌して銅イオン交換(銅担持)CHA型ゼオライトが分散した酢酸銅水溶液を調製した。
(3)B液の調製
光重合開始剤(IGM社製:Omnirad184)160重量部と光重合開始剤であるベンゾフェノン80重量部を混合した。IGM社製のOmnirad184は、BASF社製のIrgacure184と同一物質であり、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。
この光重合開始剤の混合物195重量部と光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)6300重量部(水を40重量%含む)を混合した後、プロペラ型攪拌浴で700rpm、60分間の条件で攪拌混合し、紫外線硬化樹脂液を調製した。
【0099】
(4)保管
調製したA液及びB液を抗微生物組成物とした。
抗微生物組成物(A液とB液)を暗所にて35℃で120時間静置した。
【0100】
(5)A液とB液の混合
A液を470重量部、B液を250重量部それぞれ混合して、1分間攪拌することにより付着用抗微生物組成物とした。
【0101】
(6)付着用抗微生物組成物の塗布
この付着用抗微生物組成物を、刷毛を用いて光沢黒色メラミン化粧板上に膜状に塗布して厚さ20μmの連続膜を形成した。
【0102】
(7)乾燥・硬化
この後、光沢黒色メラミン化粧板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製:MP02)を用い、30mW/cm2の照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、基材である光沢黒色メラミン化粧板表面に銅化合物を含むバインダ硬化物が塗膜として連続した膜状に固着形成された抗微生物基体を得た。
【0103】
(比較例1)
基本的には実施例1と同様であるが、銅イオン交換(銅担持)CHA型ゼオライトを添加せず、抗微生物基体を製造した。
【0104】
(耐水試験)
実施例1及び比較例1にかかる抗微生物基体を、50℃の温水に24時間浸漬した。
【0105】
(ファージウィルスを用いた抗ウィルス評価)
この抗ウィルス試験は以下のように実施した。
実施例1及び比較例1で得られた抗微生物基体の耐水試験前後における抗ウィルス活性を評価するために、JIS Z 2801 抗菌加工製品―抗菌性試験方法・抗菌効果を改変した手法を用いた。改変点は、「試験菌液の接種」を「試験ウィルスの接種」に変更した点である。ウィルスを使用することによる変更点についてはすべてJIS L 1922繊維製品の抗ウィルス性試験方法に基づき変更した。測定結果は実施例1で得られた抗微生物基体についてJIS L 1922付属書Bに基づき、大腸菌への感染能力を失ったファージウィルス濃度をウィルス不活度として表示する。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活性化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用し、このウィルス不活度に基づいて抗ウィルス活性値を算出した。
【0106】
以下、手順を具体的に記載する。
(1)実施例1、比較例1で得られた抗微生物基体及び実施例1、比較例1で得られた抗微生物基体に耐水試験を施したものの合計4種類の試験試料について、当該抗微生物基体を1辺50mm角の正方形に切り出して試験試料とした。この試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験ウィルス液(>107PFU/mL)を0.1mL接種する。試験ウィルス液は108PFU/mLのストックを精製水で10倍希釈したものを使用した。
(2)対照試料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様にウィルス液を接種した。
(3)接種したウィルス液の上から40mm角のポリエチレンを被せ、試験ウィルス液を均等に接種させた後、25℃で所定時間反応させた。
(4)接種直後又は反応後、SCDLP培地10mLを加え、ウィルス液を洗い流した。
(5)JIS L 1922付属書Bによってウィルスの感染値を求めた。
(6)以下の計算式を用いて抗ウィルス活性値を算出した。
Mv=Log(Vb/Vc)
Mv:抗ウィルス活性値
Log(Vb):ポリエチレンフイルムの所定時間反応後の感染値の対数値
Log(Vc):試験試料の所定時間反応後の感染値の対数値
参考規格 JIS L 1922、JIS Z 2801
測定方法は、プラーク測定法によった。
得られた抗ウィルス活性値を表1に示す。
【0107】
【0108】
実施例1と比較例1の比較から、銅イオン交換(銅担持)ゼオライトを含む抗微生物基体は、耐水試験後も高い抗ウィルス活性を維持しており、耐水性に優れていることが分かった。