(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107465
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】空調ダクト系統の設計システム及び設計方法、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
F24F 11/49 20180101AFI20230727BHJP
F24F 13/04 20060101ALI20230727BHJP
F24F 13/02 20060101ALI20230727BHJP
G06F 30/18 20200101ALI20230727BHJP
G06F 113/08 20200101ALN20230727BHJP
G06F 113/14 20200101ALN20230727BHJP
【FI】
F24F11/49
F24F13/04
F24F13/02 D
G06F30/18
G06F113:08
G06F113:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008680
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 元宏
【テーマコード(参考)】
3L080
3L260
5B146
【Fターム(参考)】
3L080AA02
3L080AC01
3L260BA07
3L260BA75
3L260CB57
3L260DA15
5B146AA03
5B146DJ03
(57)【要約】
【課題】分岐ダクトごとの風量を事前予測しながら空調ダクト系統を設計可能とすることで、配管施工現場における風量調節の負担を軽減する。
【解決手段】設計システム3によって、分岐チャンバー10及び複数の分岐ダクト21~26を含む空調ダクト系統1を設計するにあたって、分岐チャンバー自体の各分岐口11~16への空調空気の分配性能情報を設計システム3の記憶部33に保持させる。各分岐ダクト21~26の長さ及び局部抵抗を含む通風抵抗に関わる通風抵抗情報を設計システム3に設定入力する。設計システム3は、分配性能情報及び通風抵抗情報に基づいて、空調空気の各分岐ダクト21~26への分配情報Q21~Q26を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機からの空調空気が導入される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの複数の分岐口からそれぞれ延びる複数の分岐ダクトとを備えた空調ダクト系統を設計するシステムであって、
前記分岐チャンバー自体の各分岐口への空調空気の分配性能情報を保持する分配性能情報保持部と、
各分岐ダクトの長さ及び局部抵抗を含む通風抵抗に関わる通風抵抗情報の設定入力を受け付ける通風抵抗情報受付部と、
前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に基づいて、前記空調空気の各分岐ダクトへの分配情報を算出する分配情報算出部と、
を備えたことを特徴とする空調ダクト系統設計システム。
【請求項2】
前記分岐チャンバーにおける前記複数の分岐口の1つを塞いだ場合に残りの各分岐口へ分配される空調空気の風量に関する再分配性能情報を保持する再分配性能情報保持部を、さらに備え、
前記分配情報算出部が、前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に加えて、前記再分配性能情報に基づいて、前記算出を行なうことを特徴とする請求項1に記載の空調ダクト系統設計システム。
【請求項3】
各分岐ダクトの圧力損失が、前記空調機の送風圧力以下であるか否かを判定する判定部を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の空調ダクト系統設計システム。
【請求項4】
空調機からの空調空気が導入される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの複数の分岐口からそれぞれ延びる複数の分岐ダクトとを備えた空調ダクト系統を設計する空調ダクト系統設計方法であって、
前記分岐チャンバー自体の各分岐口への空調空気の分配性能情報を保持する工程と、
各分岐ダクトの長さ及び局部抵抗を含む通風抵抗に関わる通風抵抗情報を設定する工程と、
前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に基づいて、前記空調空気の各分岐ダクトへの分配情報を算出する工程と、
を備えたことを特徴とする空調ダクト系統設計方法。
【請求項5】
前記分岐チャンバーにおける前記複数の分岐口の1つを塞いだ場合に残りの各分岐口へ分配される空調空気の風量に関する再分配性能情報を保持する工程を、さらに備え、
前記算出工程では、前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に加えて、前記再分配性能情報に基づいて、前記算出を行なうことを特徴とする請求項4に記載の空調ダクト系統設計方法。
【請求項6】
各分岐ダクトの圧力損失が、前記空調機の送風圧力以下になるよう、前記通風抵抗情報を設定することを特徴とする請求項4又は5に記載の空調ダクト系統設計方法。
【請求項7】
空調機からの空調空気が導入される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの複数の分岐口からそれぞれ延びる複数の分岐ダクトとを備えた空調ダクト系統を設計する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記分岐チャンバー自体の各分岐口への空調空気の分配性能情報を保持する処理と、
各分岐ダクトの長さ及び局部抵抗を含む通風抵抗に関わる通風抵抗情報の設定入力を受け付ける処理と、
前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に基づいて、前記空調空気の各分岐ダクトへの分配情報を算出する処理と、
を備えたことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調ダクト系統を設計するシステム及び設計方法、並びにプログラムに関し、特に、空調機からの空調空気が分岐チャンバーから複数の分岐ダクトへ分配される構造の空調ダクト系統の設計システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、オフィスビル等の建物には、空調機からの空調空気を送る空調ダクト系統が設けられている。空調ダクト系統として、分岐チャンバーを含むものが知られている(特許文献1等参照)。分岐チャンバーは、1の導入口と、複数の分岐口を有している。空調機からの導入ダクトが導入口に接続されている。各分岐口から分岐ダクトが延びている。各分岐ダクトの先端部には、吹出し口が設けられている。各吹出し口が、建物の空調エリアの天井等に設置されている。
【0003】
通常、この種の空調ダクト系統は、建物の各階の天井裏スペースに設置されている。天井裏スペースの適当な箇所に分岐チャンバーが設置され、そこから各吹出し口へ分岐ダクトが配管されている。分岐チャンバーの設置位置や各分岐ダクトの配管経路は、施工のしやすさ等を考慮して決められている。このため、分岐ダクトどうしの長短差が大きくなりがちであり、出口風量のばらつきが大きくなりやすかった。そこで、配管施工後、各分岐ダクトに設けた風量調節機構によって、出口風量のばらつきがなるべく小さくなるよう調節していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-142059号公報(
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
配管施工現場において、分岐ダクトごとに風量調節機構によって風量調節するのは煩雑である。
本発明は、かかる事情に鑑み、分岐ダクトごとの風量を事前予測しながら空調ダクト系統を設計可能とすることで、配管施工現場における風量調節の負担を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明システムは、空調機からの空調空気が導入される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの複数の分岐口からそれぞれ延びる複数の分岐ダクトとを備えた空調ダクト系統を設計するシステムであって、
前記分岐チャンバー自体の各分岐口への空調空気の分配性能情報を保持する分配性能情報保持部と、
各分岐ダクトの長さ及び局部抵抗を含む通風抵抗に関わる通風抵抗情報の設定入力を受け付ける通風抵抗情報受付部と、
前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に基づいて、前記空調空気の各分岐ダクトへの分配情報を算出する分配情報算出部と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
好ましくは、前記設計システムが、前記分岐チャンバーにおける前記複数の分岐口の1つを塞いだ場合に残りの各分岐口へ分配される空調空気の風量に関する再分配性能情報を保持する再分配性能情報保持部を、さらに備え、
前記分配情報算出部が、前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に加えて、前記再分配性能情報に基づいて、前記算出を行なう。
【0008】
好ましくは、前記設計システムが、各分岐ダクトの圧力損失が、前記空調機の送風圧力以下であるか否かを判定する判定部を更に備えている。
好ましくは、前記設計システムが、前記分岐ダクト間の風量のばらつきが許容範囲か否かを判定するばらつき判定部を更に備えている。
【0009】
本発明方法は、空調機からの空調空気が導入される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの複数の分岐口からそれぞれ延びる複数の分岐ダクトとを備えた空調ダクト系統を設計する空調ダクト系統設計方法であって、
前記分岐チャンバー自体の各分岐口への空調空気の分配性能情報を保持する工程と、
各分岐ダクトの長さ及び局部抵抗を含む通風抵抗に関わる通風抵抗情報を設定する工程と、
前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に基づいて、前記空調空気の各分岐ダクトへの分配情報を算出する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
好ましくは、前記方法が、前記分岐チャンバーにおける前記複数の分岐口の1つを塞いだ場合に残りの各分岐口へ分配される空調空気の風量に関する再分配性能情報を保持する工程を、さらに備え、
前記算出工程では、前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に加えて、前記再分配性能情報に基づいて、前記算出を行なう。
【0011】
好ましくは、各分岐ダクトの圧力損失が、前記空調機の送風圧力以下になるよう、前記通風抵抗情報を設定する。
好ましくは、前記分岐ダクト間の風量のばらつきが許容範囲内になるよう、前記通風抵抗情報を設定する。
【0012】
本発明に係るプログラムは、空調機からの空調空気が導入される分岐チャンバーと、前記分岐チャンバーの複数の分岐口からそれぞれ延びる複数の分岐ダクトとを備えた空調ダクト系統を設計する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記分岐チャンバー自体の各分岐口への空調空気の分配性能情報を保持する処理と、
各分岐ダクトの長さ及び局部抵抗を含む通風抵抗に関わる通風抵抗情報の設定入力を受け付ける処理と、
前記分配性能情報及び前記通風抵抗情報に基づいて、前記空調空気の各分岐ダクトへの分配情報を算出する処理と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、分岐ダクトごとの風量を事前予測しながら空調ダクト系統を設計でき、施工現場における風量調節の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る空調ダクト系統の設計モデルの一例を示す平面図である。
【
図2】
図2は、前記空調ダクト系統の設計システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、設計のための分配性能情報及び再分配性能情報を実測するための空調ダクト系統実機の平面図である。
【
図4】
図4は、前記設計システムにおける設計方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、前記設計方法における再分配情報反映工程のサブルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、前記設計システムにおける設計方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、建物に設置された空調ダクト系統1の設計モデルの一例を示したものである。空調ダクト系統1は、分岐チャンバー10と、複数の分岐ダクト21~26を備えている。分岐チャンバー10は、1の導入口19と、複数の分岐口11~16を有している。
図1の設計モデルにおいては、分岐チャンバー10の形状として、円筒形状を想定しているが、これに限らず、四角い箱形状、その他の形状でもよい。空調機2からの導入ダクト9が導入口19に接続されている。各分岐口11~16から分岐ダクト21~26が延びている。分岐ダクト21~26には、曲がり部27aやオリフィス27bなどの局部抵抗発生部27が設けられている場合もある。分岐ダクト21~26の先端部には、それぞれ吹出し口21e~26eが設けられている。吹出し口21e~26eが、建物の空調エリアa1~a6にそれぞれ臨むように配置される。
図1の設計モデルにおいては、分岐ダクト21~26としてフレキシブルダクトを想定しているが、これに限らず、硬質板製ダクトなどであってもよい。
【0016】
図2に示すように、空調ダクト系統1を設計するための設計システム3は、パーソナルコンピュータ、サーバーコンピュータ、クラウドなどのコンピュータによって構成され、キーボード、タッチパネル等の入力部31と、CPU32(処理部)と、記憶部33とを含む。記憶部33には、空調ダクト系統1を設計する処理をコンピュータに実行させる空調ダクト系統設計プログラム33pと、実行に必要な空調ダクト系統設計データベース33dが格納されている。プログラム33pは、専用のアプリケーションでもよく、汎用の表計算ソフトウェアを用いて作成されたものであってもよい。データベース33dは、分岐チャンバーの識別情報ごとの後記実測データ(分配性能情報及び再分配性能情報)を含む。
【0017】
空調ダクト系統1は、次のようにして設計される。
設計に際して、予め分岐チャンバー実測データを実測によって求めておく。分岐チャンバー実測データは、分配性能情報及び再分配性能情報を含む。
<空調ダクト系統実機1A>
図3は、実測に用いる空調ダクト系統実機1Aを示したものである。空調ダクト系統実機1Aにおいては、分岐チャンバー10の各分岐口11~16に直管ダクト41~46が接続されている。各直管ダクト41~46の管軸が、対応する分岐口11~16の中心軸と一致するように向けられて、真っ直ぐに延びている。直管ダクト41~46は、対応する分岐口11~16の口径と同一の内径であり、かつすべての直管ダクト41~46の長さが互いに一定の長さになっている。前記一定の長さは、例えば1mである。
なお、直管ダクト41~46の口径が、対応する分岐口11~16の口径と若干異なっていてもよい。
【0018】
<分配性能情報取得工程>
空調ダクト系統実機1Aを用いて、分岐チャンバー10自体の各分岐口11~16への空調空気の分配性能情報を取得する。
詳しくは、空調機2からの一定の導入風量の空調空気を導入口19から分岐チャンバー10内に導入し、各直管ダクト41~46の出口端からの空調空気の流出風量(出口風量)を流量計によって測定する。複数の直管ダクト41~46どうし、ひいては分岐口11~16どうしの流出風量の比率は、分岐チャンバー10内に導入された空調空気が各分岐口11~16へ分配される分配比(分配性能情報)に相当する。理論上、全分岐口11~16からの流出風量の合計は、空調機2からの導入風量と一致する。
【0019】
直管ダクト41~46を設けることによって、流出風量を安定させることができ、測定の信頼性を高めることができる。直管ダクト41~46を付けることなく、分岐口11~16から外部へ直接、空調空気を流出させたとすると、流出時の空調空気が乱流となり、風量が安定しない。
【0020】
<再分配性能情報取得工程>
さらに、空調ダクト系統実機1Aを用いて、再分配性能情報を取得する。すなわち、空調ダクト系統実機1Aにおける複数(例えば6つ)の分岐口11~16のうちの1つを塞ぐ。そして、空調機2からの一定の導入風量の空調空気を導入口19から分岐チャンバー10内に導入しながら、前記1つの分岐口を塞いだ場合に残り(5つ)の各分岐口へ分配される空調空気の風量を実測する。実際には、複数(例えば6つ)の直管ダクト41~46のうちの1つを塞ぎ、残り(5つ)の各直管ダクトからの空調空気の流出風量(出口流量)を流量計によって測定する。複数の直管ダクト41~46ひいては分岐口11~16のすべてについて、1つずつ順次選択して塞ぎ、残りの分岐口からの流出風量を測定する。これら残りの分岐口どうしの流出風量の比率は、塞がれた分岐口から流出されるべきであった空調空気が残りの分岐口へ分配される分配比(再分配性能情報)に相当する。
【0021】
構造(形状、大きさ、分岐口の数及び配置などを含む)の異なる分岐チャンバーごとに空調ダクト系統実機を作成して、前記分配性能情報及び再分配性能情報からなる実測データを取得しておく。逆に言うと、1つの分岐チャンバーについて実測データを取得したら、それと同一の構造ないしは近似する構造の分岐チャンバーについては、前記1つの分岐チャンバーによる実測データを複写して使い回すことができる。
【0022】
図4~
図6のフローチャートに示すように、設計システム3による設計は次のような手順でなされる。
<起動~確認>
図4に示すように、設計システム3を構成するコンピュータにおいて、空調ダクト系統設計プログラム33pを起動すると(ステップ101)、設計しようとする空調ダクト系統に使用する分岐チャンバーの実測データがデータベース33dに格納(保持)されているか否かの確認がなされる(ステップ102)。格納済であれば、後記設計工程へ進む。
【0023】
<分配性能情報保持工程>
未格納であれば、その入力が求められる。具体的には、分配性能情報及び再分配性能情報を含む分岐チャンバー実測データの入力欄が画面表示される(ステップ103)。
これに応じて、設計者は事前に取得しておいた分岐チャンバー10の分配性能情報すなわち各分岐口11~16からの流出風量の測定値を、表示画面の分配性能情報入力欄に入力する(ステップ104)。
CPU32は、プログラム33pにしたがって、前記分配性能情報の入力を受け付けるとともに(ステップ104)、記憶部33のデータベース33dに格納(保持)する(ステップ105)。CPU32と記憶部33とによって「分配性能情報保持部」が構成される。
【0024】
<再分配性能情報保持工程>
さらに、設計者は、分岐チャンバー10の再分配性能情報を、表示画面の再分配性能情報入力欄に入力する(ステップ106)。複数の分岐口11~16のすべてについて1つずつ塞いだ場合の残りの分岐口への分配風量測定値を入力する。
CPU32は、プログラム33pにしたがって、前記再分配性能情報の入力を受け付けるとともに(ステップ106)、記憶部33のデータベース33dに格納(保持)する(ステップ107)。CPU32と記憶部33とによって「再分配性能情報保持部」が構成される。同一の分岐チャンバー10の分配性能情報と再分配性能情報とは、分岐チャンバー10の識別情報等によって互いに紐付ける。
【0025】
<設計工程>
分岐チャンバー実測データがデータベース33dに格納済みになったら、設計工程へ移行する。具体的には、設計データの入力欄が画面表示される(ステップ111)。
これに応じて、設計者は、その入力欄に設計データを入力する(ステップ112、115)。所要の設計データとしては、空調機2の能力情報及び分岐ダクト21~26の通風抵抗に関する通風抵抗情報が挙げられる。
【0026】
<空調機能力情報入力工程>
空調機2の能力情報には、出力風量Q0及び送風圧力P0が含まれる。
CPU32(空調機能力情報受付部)は、プログラム33pにしたがって、出力風量Q0及び送風圧力P0を含む空調機能力情報の入力を受け付けるとともに(ステップ112)、記憶部33の一時記憶領域に記憶させる(ステップ113)。
【0027】
<暫定風量算出工程>
続いて、CPU32(分配情報算出部)は、プログラム33pにしたがって、対応する分岐チャンバー実測データ中の分配性能情報を記憶部33から読み出し、空調機2からの空調空気の各分岐ダクト21~26への暫定の風量(分配情報)を算出する(ステップ114)。算出には、前記分配性能情報及び空調機能力情報等を変数とする流体力学理論に基づく所定の演算式が用いられる。
【0028】
例えば、空調機2の出力風量Q0に分岐チャンバー10の各分岐口11~16への分配比r11~r16(分配性能情報)を乗じることで、各分岐ダクト21~26へ分配される暫定の風量Q’21~Q’26(式1~6)が求められる。
Q’21=r11・Q0 (式1)
Q’22=r12・Q0 (式2)
Q’23=r13・Q0 (式3)
Q’24=r14・Q0 (式4)
Q’25=r15・Q0 (式5)
Q’26=r16・Q0 (式6)
【0029】
<通風抵抗情報入力工程>
通風抵抗情報は、分岐ダクト21~26ごとに設定入力される。通風抵抗情報としては、各分岐ダクト21~26の長さ、流路断面寸法(内径など)及び局部抵抗データが挙げられる。局部抵抗データは、各分岐ダクト21~26に局部的に設けられた通風抵抗を生じる部分のデータであり、
図1に示すように、曲がり部27aの有無もしくは数、曲がり部27aの曲がり角度θ、曲がり部27aの曲率半径R、オリフィス27bの有無もしくは数、オリフィス27bの開度、吹出し口21e~26eの開度などが挙げられる。
CPU32(通風抵抗情報受付部)は、プログラム33pにしたがって、前記通風抵抗情報の入力を受け付けるとともに(ステップ115)、記憶部33の一時記憶領域に記憶させる(ステップ116)。
【0030】
<再分配情報反映工程>
続いて、CPU32は、プログラム33pにしたがって、対応する分岐チャンバー実測データ中の再分配性能情報を記憶部33から読み出し、再分配情報反映工程を実行する(ステップ120)。該再分配情報反映工程の演算では、前記再分配性能情報及び通風抵抗情報等を変数とする流体力学理論に基づく所定の演算式が用いられる。
例えば、
図5に示すように、通風抵抗情報における、各分岐ダクト21~26の長さ及び流路断面寸法から得られる基本圧力損失に、各局部抵抗から換算した局部圧力損失を加算することによって、各分岐ダクト21~26の圧力損失p21~p26が求められる(ステップ120→201)。
さらに、全分岐ダクト21~26の圧力損失p21~p26の平均値paveが算出される(ステップ202)。
次いで、各圧力損失p21~p26が平均圧力損失paveより大きいか否かが判断される(ステップ203)。
ここでは、例えば、分岐ダクト21,22の圧力損失p21,p22が平均圧力損失paveより大きく(p21>pave、p22>pave)、他は平均圧力損失pave以下であるものとする(p23~p26≦pave)。
【0031】
圧力損失が平均圧力損失paveより大きい(高圧力損失の)分岐ダクト21,22については、その暫定風量Q’21,Q’22の一部分q21,q22が、他の(低圧力損失の)分岐ダクト23~26へ再分配されるものとする。好ましくは、再分配風量q21,q22は、圧力損失p21,p22と平均圧力損失paveとの差や比率に応じて算出される(ステップ204)。
【0032】
そして、再分配性能情報を用いて、高圧力損失の分岐ダクト21,22から他へ渡される再分配風量q21,q22のうち、各低圧力損失の分岐ダクト23~26が受け取る個別の再分配風量q23~q26が算出される(ステップ205)。例えば、再分配性能情報における、分岐口11を塞いだ場合の分岐口13への分配比をr’13とし、分岐口12を塞いだ場合の分岐口13への分配比をr”13とすると、式7によって分岐ダクト23への個別再分配風量q23が算出される。
q23=r’13・q21+r”13・q22 (式7)
【0033】
CPU32(再分配情報反映部)は、このようにして得られた再分配風量q21~q26を各分岐ダクト21~26における風量に反映させることによって、修正風量Q”21~Q”26を得る(ステップ206)。具体的には、高圧力損失の分岐ダクト21,22においては、暫定風量Q’21,Q’22から再分配風量q21,q22が差し引かれる(式8~9)。低圧力損失の分岐ダクト23~26においては、暫定風量Q’23~Q’26に再分配風量q23~q26が加算される(式10~13)。
Q”21=Q’21-q21 (式8)
Q”22=Q’22-q22 (式9)
Q”23=Q’23+q23 (式10)
Q”24=Q’24+q24 (式11)
Q”25=Q’25+q25 (式12)
Q”26=Q’26+q26 (式13)
まとめると、暫定風量が再分配性能情報により修正される。すなわち、分配情報に再分配性能情報が反映される(ステップ120、201~207)。
【0034】
図4に示すように、分配情報算出部としてのCPU32は、さらに、全分岐ダクト21~26の合計風量が空調機2の出力風量Q0と一致するように(式14)、各修正風量Q”21~Q”26に所定比率rを乗じることによって(式15~20)、最終的な各分岐ダクト21~26の算定風量Q21~Q26(分配情報)を算出する(ステップ121)。
Q0=Q21+Q22+Q23+Q24+Q25+Q26 (式14)
Q21=r・Q”21 (式15)
Q22=r・Q”22 (式16)
Q23=r・Q”23 (式17)
Q24=r・Q”24 (式18)
Q25=r・Q”25 (式19)
Q26=r・Q”26 (式20)
CPU32は、得られた算定風量Q21~Q26を画面表示する(ステップ122)。
【0035】
<判定工程>
図6に示すように、さらに、CPU32(判定部)は、得られた算定風量Q21~Q26のばらつきが許容範囲か否かを判定する(ステップ131)。例えば、ばらつきとして、算定風量Q21~Q26の平均値Qaveに対する各算定風量Q21~Q26の差又は比が算出される。該ばらつき値が、平均値Qaveの例えば±10%以内かが判定され、結果が画面表示される(ステップ132,133)。好ましくは、許容範囲外(例えば±10%超)の算定風量Q21~Q26には、画面上の結果表示にマーキングが付加される(ステップ133)。
【0036】
また、CPU32(判定部)は、分岐ダクト21~26の圧力損失p21~p26が、空調機2の送風圧力P0以下であるか否かを判定する(ステップ134)。判定結果は画面表示される(ステップ135,136)。好ましくは、送風圧力P0を超えている圧力損失には、画面上の結果表示にマーキングが付加される(ステップ136)。
【0037】
<設計やりなおし工程>
設計者は、判定結果の表示画面を確認して、全分岐ダクト21~26の算定風量Q21~Q26のうち1つでも、ばらつきが許容範囲外(例えば±10%超)のものがあるときは、すべての算定風量Q21~Q26のばらつきが許容範囲内になるよう、空調ダクト系統1の設計をやりなおす(ステップ137→ステップ111)。
また、全分岐ダクト21~26の圧力損失p21~p26のうち1つでも、空調機2の送風圧力P0を超えているものがあるときは、すべての圧力損失p21~p26が送風圧力P0以下になるよう、空調ダクト系統1の設計をやりなおす(ステップ137→ステップ111)。
ばらつきが許容範囲内又は全圧力損失p21~p26が送風圧力P0以下であっても、より良好な設計にするために、設計をやりなおしてもよい(ステップ137→ステップ111)。
【0038】
設計のやりなおしにおいては、特に、通風抵抗に関わる要素の見直しを行なう(ステップ115)。
例えば、分岐チャンバー10の配置を変更し、これに伴い、各分岐ダクト21~26の長さ、曲がり部27aの有無もしくは数、曲がり部27aの曲がり角度θ、曲がり部27aの曲率半径Rなどを変更する。これによって、通風抵抗情報が変更される(ステップ115~116)。
【0039】
CPU32は、変更後の設計データによって、算定風量Q21~Q26を再演算して結果を画面表示する(ステップ120(201~207)~122)。さらに、CPU32は、算定風量Q21~Q26のばらつきの判定及び圧力損失p21~p26が送風圧力P0以下であるかの判定を行ない、結果を画面表示する(ステップ131~136)。
【0040】
設計者は、再度の判定結果の表示画面を確認して、更に設計をやりなおすかどうかを判断する(ステップ137)。
このようにして、各分岐ダクト21~26の算定風量Q21~Q26のばらつきが許容範囲内になり、かつ圧力損失p21~p26が送風圧力P0以下になるように、通風抵抗情報を設定することができる。これによって、分岐ダクトごとの風量を事前予測しながら空調ダクト系統を設計することができる。したがって、施工現場においては、設計通りに空調ダクト系統を配管施工すればく、それによって各分岐ダクト21~26の風量ばらつきが許容範囲内であり、かつ、各分岐ダクト21~26の圧力損失が空調機2の送風圧力P0以下の空調ダクト系統を構築できる。この結果、施工現場における風量調節の負担を軽減することができる。
【0041】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、
図4~
図6のフローチャートの順番等は適宜変更できる。
分岐チャンバー実測データとして、分配性能情報だけを取得することとし、再分配性能情報の取得を省いてもよい。ステップ120では高圧力損失の分岐ダクト21,22への風量の一部分q21,q22を各低圧力損失の分岐ダクト23~26に均等に再配分する等して、再分配性能情報を不要にしてもよい。
分岐チャンバー実測データは、具体的な空調ダクト系統の設計時ではなく、設計システム3のプログラミング時ないしは配布の際にプログラム33pに付属するデータベース33dに組み込んで保持させてもよい。
分配情報は、分岐ダクト21~26ごとの風量に限らず、分配比であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えば、オフィスビルなどの建物の空調ダクト系統の設計に適用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 空調ダクト系統
1A 空調ダクト系統実機
2 空調機
3 設計システム
9 導入ダクト
10 分岐チャンバー
11~16 分岐口
19 導入口
21~26 分岐ダクト
21e~26e 吹出し口
27 局部抵抗発生部
27a 曲がり部
27b オリフィス
31 入力部
32 CPU
33 記憶部
33p 空調ダクト系統設計プログラム
33d 空調ダクト系統設計データベース
41~46 直管ダクト