(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107492
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】建築構造物の改修方法
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20230727BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20230727BHJP
C09D 183/02 20060101ALI20230727BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20230727BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230727BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/00 D
C09D183/02
B05D1/36 Z
B05D7/24 302U
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303E
B05D7/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008723
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河合 真佑
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB16X
4D075BB60Z
4D075CA13
4D075CA17
4D075CA38
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DA27
4D075DB11
4D075DC01
4D075DC05
4D075EA05
4D075EA06
4D075EA27
4D075EB22
4D075EB33
4D075EB43
4D075EB51
4D075EB56
4D075EC07
4D075EC30
4D075EC45
4D075EC51
4J038DB001
4J038DL022
4J038GA07
4J038GA09
4J038JB04
4J038JB05
4J038JC30
4J038JC35
4J038NA12
4J038PA07
4J038PB05
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】既存塗膜が無機コーティング材や有機無機複合コーティング材により形成されたものであっても密着性が良好であり、マイクロクラックが発生している既存塗膜であっても、密着が良好な建築構造物の改修方法を提供する。
【解決手段】既存塗膜に対して、エポキシ樹脂,グリシジル基含有シランカップリング剤,ポリアミン,アミノ基含有シランカップリング剤及びアルコキシシリケート重合体を含有した下塗塗料を塗装し、硬化乾燥させ、下塗り層を形成させた後に、上塗塗料を塗装することにより、既存塗膜が無機コーティング材や有機無機複合コーティング材により形成されたものであっても密着性が良好であり、マイクロクラックが発生している既存塗膜であっても、密着が良好なものとなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存塗膜に対して、
エポキシ樹脂,グリシジル基含有シランカップリング剤,ポリアミン,アミノ基含有シランカップリング剤及びアルコキシシリケート重合体を含有した下塗塗料を塗装し、硬化乾燥させ、下塗り層を形成させた後に、
上塗塗料を塗装する建築構造物の改修方法。
【請求項2】
前記アルコキシシリケート重合体のアルコキシ基がメチル基又はエチル基であり、その重合体の分子量に占めるSiO2の割合が25~55重量%の範囲である建築構造物の改修方法。
【請求項3】
前記下塗塗料中にアルコキシシリケート重合体が5~30重量%の範囲で、含まれる建築構造物の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
建築構造物の改修方法において、既存塗膜が有機質成分と無機質成分と複合成分からなる塗膜により形成されている建築構造物の改修方法。
【背景技術】
【0002】
建築構造物には、その構造物の保護や美観のために塗料によりコーティングされることが多い。この塗料により形成された塗膜は、建築構造物の外壁を雨や太陽光など自然環境から保護しているものである。
しかしながら、雨や太陽光などにより塗膜が劣化し、その既存塗膜を塗替える必要が生じる。
【0003】
この既存塗膜は、2層以上の複数層で形成されていることが多いが、自然環境に暴露されている時間が長くなることで、劣化が進み、色調などが変化などにより美観が損なわれ、外壁の不具合になることもあり、建築構造物への影響を及ぼすことになる。
そのため、数年から20年程度の暴露期間毎に外壁の保護や美観の回復のために、既存塗膜表面に塗装を行う塗替えを行い、塗膜表面に塗装する改修を行うことがある。
【0004】
さらに、近年では、この塗替え期間を長くするために、外装材の寿命を延ばすため、既存塗膜が無機コーティング材や有機質と無機質のバインダーを複合した有機無機複合コーティング材などにより形成される耐久性の高い塗膜を使用し、より高耐久化するために、無機質成分の含有量が増加する傾向である。
特に、外壁に用いられる窯業系サイディングボードなどの建築用外装材の表面に、その傾向が多く見られる。
【0005】
この既存塗膜に塗替えを行う場合には、上塗塗料との密着性確保のため下塗塗料の塗装を行うことが多い。
この下塗塗料には、各種あり、代表的なものとして、特許文献1に記載のようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1に記載された2液型下塗り塗料組成物は、エポキシ樹脂を含有する主剤と、アミン化合物を含有する硬化剤と、を混合してなる2液型下塗り塗料組成物であって、主剤が、主剤配合用シランカップリング剤を含有し、硬化剤が、硬化剤配合用シランカップリング剤を含有しているものである。
これにより、エポキシ樹脂を含有する主剤と、硬化剤と、を混合してなる2液型下塗り塗料組成物であっても、被塗装物である塗膜などの有機質に塗装した際に、前記成分に対する2液型下塗り塗料組成物への染み出し抵抗性を有するもので、既存塗膜との密着性についても向上させるものである。
【0008】
しかしながら、この特許文献1に記載されたものでは、有機質の既存塗膜に対しては、有効であるが、この既存塗膜が無機コーティング材や有機無機複合コーティング材の中には下塗塗料と密着性が劣ることがある。
また、この無機コーティング材や有機無機複合コーティング材により形成された既存塗膜は、比較的硬質のもののため、長期間の暴露状態により、その既存塗膜の表層にクラックが発生していることがある。
【0009】
このクラックには、目視で判断できるクラックと目視で判断できないマイクロクラックがあり、目視で判断できるクラックには、クラック部分を塗装前に補修することにより対応することが可能だが、マイクロクラックについては事前に対応することが難しい。
そのため、既存塗膜に密着が良好なものであってもマイクロクラックの部分の既存塗膜では、既存塗膜中での剥離が発生することが多い。
【0010】
本開示は、この既存塗膜が無機コーティング材や有機無機複合コーティング材により形成されたものであっても密着性が良好であり、マイクロクラックが発生している既存塗膜であっても、密着が良好な建築構造物の改修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
既存塗膜に対して、エポキシ樹脂,グリシジル基含有シランカップリング剤,ポリアミン,アミノ基含有シランカップリング剤及びアルコキシシリケート重合体を含有した下塗塗料を塗装し、硬化乾燥させ、下塗り層を形成させた後に、上塗塗料を塗装することである。
これにより、既存塗膜が無機コーティング材や有機無機複合コーティング材により形成されたものであっても密着性が良好であり、マイクロクラックが発生している既存塗膜であっても、密着が良好なものである。
【0012】
前記アルコキシシリケート重合体のアルコキシ基がメチル基又はエチル基であり、その重合体の分子量に占めるSiO2の割合が25~55重量%の範囲であることにより、既存塗膜との密着性や既存塗膜のマイクロクラックへの浸透性を確保することができる。
前記下塗塗料中にアルコキシシリケート重合体が5~30重量%の範囲で含まれることにより、既存塗膜との密着性や既存塗膜のマイクロクラックへの浸透性を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態を説明する。
本開示は、既存塗膜に対して、エポキシ樹脂,グリシジル基含有シランカップリング剤,ポリアミン,アミノ基含有シランカップリング剤及びアルコキシシリケート重合体を含有した下塗塗料を塗装し、硬化乾燥させ、下塗り層を形成させた後に、上塗塗料を塗装することである。
【0014】
まず、既存塗膜とは、建築用外装材などの基材上に塗料やインクなどにより形成されたもので、建築後に塗料により塗装された塗膜や、基材に前もって工場内の塗装設備によりライン塗装されたものなどがある。
この既存塗膜には、合成樹脂を主成分とした塗料により形成された有機質塗膜や無機系のバインダーを主成分とした無機質塗膜、これらを複合させた有機無機複合塗膜などがある。
【0015】
また、これらの中でも塗料の用途などにより、エナメル系や、マット系の着色塗料により形成された着色塗膜や、クリヤー塗料により形成されたクリヤー塗膜などがあり、これらを複数種積層された積層塗膜などが挙げられる。
この塗膜の形成方法では、建築現場での塗膜形成の場合、ほとんどが自然乾燥であるが、ライン塗装においては、常温乾燥,常温硬化,焼付け硬化,紫外線硬化,電子線硬化などのように方法により塗膜が形成される。
【0016】
これらの塗膜は、基材上に形成されるが、この基材には、コンクリートやモルタルなどがあり、その他にも建築用外壁材がある。
本開示の改修方法は、この建築用外壁に用いられることが多く、この建築用外壁には、窯業系サイディングボード,セラミック系サイディングボード,金属系サイディングボード,PC板,押出成形板,スレート板,ケイ酸カルシウム板,ALC板,金属板などがある。
【0017】
他に、木材,ガラス,陶磁器,合成樹脂などを用いた成型板なども挙げられる。
次に、エポキシ樹脂は、下塗塗料のバインダー成分であり、既存塗膜への密着性に大きく影響するものである。
【0018】
この エポキシ樹脂とは、当該エポキシ含有物質を構成する芳香族炭化水素基や脂肪族炭化水素基に直接結合した酸素に、エーテル結合を含む炭化水素基が結合している化合物で、エーテル結合を含む炭化水素基は、エーテル結合を1つ有していても良いし、複数有していても良い。
このエポキシ樹脂には、ビスフェノール変性エポキシ樹脂,グリシジルエステル変性エポキシ樹脂,グリシジルアミン変性エポキシ樹脂,ノボラック変性エポキシ樹脂,ダイマー酸変性エポキシ樹脂,脂肪族変性エポキシ樹脂,芳香族変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0019】
これらの中でも、被塗装物への密着性に優れているビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール変性エポキシ樹脂や、フェノールノボラック型エポキシ樹脂,クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック変性エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
また、ノボラック変性エポキシ樹脂がより好ましく用いられ、その中でもフェノールノボラック型エポキシ樹脂が望ましく用いられる。これらにより、塗膜の硬化性を向上させ、その強度発現を速やかにすることができる。
【0020】
このノボラック変性エポキシ樹脂の中でクレゾールノボラック型エポキシ樹脂には、DIC株式会社製のエピクロンN-660,エピクロンN-665,エピクロンN-670,エピクロンN-673,エピクロンN-680,エピクロンN-690,エピクロンN-695,エピクロンN-665-EXP,エピクロンN-672-EXP,エピクロンN-655-EXP-S,エピクロンN-662-EXP-S,エピクロンN-665-EXP-S,エピクロンN-670-EXP-S,エピクロンN-685-EXP-S,エピクロンN-673-80M,エピクロンN-680-75M,エピクロンN-690-75Mなどがある。
【0021】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂には、DIC株式会社製のエピクロンN-730A,エピクロンN-740,エピクロンN-770,エピクロンN-775,エピクロンN-740-80M,エピクロンN-770-70M,エピクロンN-865,エピクロンN-865-80M,エピクロン5900-60や三菱化学株式会社製のjER-152,jER-154などがある。
【0022】
次に、グリシジル基含有シランカップリング剤やアミノ基含有シランカップリング剤のようなシランカップリング剤は、ビニル重合性基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等の有機物と反応性を有する官能基が分子内に存在する、加水分解性珪素化合物である。
下塗塗料にグリシジル基含有シランカップリング剤を含有させ、有機物と反応性を有する官能基と無機物と反応性を有する珪素化合物とを有することで、既存塗膜が有機、無機又はその複合であっても、既存塗膜への密着性に優れるものとなる。
【0023】
このグリシジル基含有シランカップリング剤には、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどがあり、適宜選択して用いることができる。
【0024】
グリシジル基含有シランカップリング剤は、本開示の効果を損なわないものである限り特に制限されるものではないが、エポキシ樹脂を含有する主剤の安定性に優れることから、エポキシ基含有シランカップリング剤が好ましく、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0025】
ポリアミンは、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるものであり、脂肪族系,脂環族系,芳香族系,複素環系、これらアミンとカルボニル化合物等との合成物であるマンニッヒ系アミン化合物などを使用することができる。
これらのポリアミンは、本開示の効果を損なわないものである限り特に制限されるものではないが、高密度架橋を形成することにより耐ブリーディング性に優れる、マンニッヒ系アミン化合物が好ましく用いられる。
【0026】
このマンニッヒ系アミン化合物には、フェノール類と、ホルムアルデヒドと、m-キシレンジアミン(MXDA)などとを反応させて得られるものがある。具体的には、エアー・プロダクツ社製のアンカミン2432,アンカミン2089M、コグニスジャパン社製のバーサミンF20,バーサミンI-368,バーサミンM-1、シェル社製のエピキュアー3549,エピキュアー3378、Witco社製のTL0712、株式会社ADEKA製のアデカハードナーEH342M,アデカハードナーEH3427A,アデカハードナーEH350,アデカハードナーEH351、三和化学工業社製のサンマイドW-3000,サンマイドW-1000,サンマイドW-500,サンマイドCX-102、大都産業社製のダイトクラールSK-900FB,ダイトクラールX-985,ダイトクラールX-9422,ダイトクラールX-9581、DIC株式会社製のラッカマイドV6-221、ラッカマイドWN-170、ラッカマイドB1990-70EXなどが挙げられる。
【0027】
その他には、脂肪族系のものでは、アルキレンポリアミン,ポリアルキレンポリアミン、その他の脂肪族系ポリアミン類などが挙げられる。
脂環族系には、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4'-メチレンビスシクロヘキシルアミン、4,4'-イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、メンセンジアミンやこれらの化合物などがある。
【0028】
芳香族系には、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物、その他の芳香族系ポリアミン類やこれらの化合物などがある。
複素環系には、N-メチルピペラジン、モルホリン、1,4-ビス-(8-アミノプロピル)-ピペラジン、ピペラジン-1,4-ジアザシクロヘプタン、1-(2'-アミノエチルピペラジン)、1-[2'-(2"-アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、ジアザシクロエイコサン、ジアザシクロオクタコサンやこれらの化合物などがある。
【0029】
アミノ基含有シランカップリング剤は、有機物と反応性を有する官能基と無機物と反応性を有する珪素化合物とを有し、下塗塗料にアミノ基含有シランカップリング剤を含有させ、有機物と反応性を有する官能基と無機物と反応性を有する珪素化合物とを有することで、既存塗膜が有機、無機又はその複合であっても、既存塗膜への密着性に優れるものとなる。
【0030】
このアミノ基含有シランカップリング剤として、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン,N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン,3-アミノプロピルトリメトキシシラン,3-アミノプロピルトリエトキシシラン,3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン,フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン,N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランなどがある。
【0031】
アミノ基含有シランカップリング剤は、本開示の効果を損なわないものである限り特に制限されるものではないが、耐熱性に優れているフェニルアミノプロピルトリメトキシシラン,N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい。
アルコキシシリケート重合体は、加水分解性珪素化合物であり、既存塗膜の無機成分への密着性、浸透性に大きく影響するものである。
【0032】
このアルコキシシリケート重合体とは、一般式Si(OR1)4で表される加水分解性を有するアルコキシシリケートの重合体であり、化1に記載した構造の化合物である。
アルコキシシリケート重合体のアルコキシ基がメチル基又はエチル基であり、その重合体の分子量に占めるSiO2の割合が25~55重量%の範囲であることが好ましく、これにより、既存塗膜との密着性や既存塗膜のマイクロクラックへの浸透性を確保することができる。
【0033】
より好ましくは、アルコキシシリケート重合体のアルコキシ基がメチル基又はエチル基で、その重合体の分子量に占めるSiO
2の割合が30~50重量%の範囲であり、この範囲内であれば既存塗膜への浸透性、他成分との溶解性が良好である。
【化1】
【0034】
このアルコキシシリケート重合体には、三菱ケミカル株式会社製のMKCシリケートMS51,MKCシリケートMS56,MKCシリケートMS57,MKCシリケートMS56Sやコルコート株式会社製のメチルシリケート51,メチルシリケート53A,エチルシリケート40,エチルシリケート48などがある。
【0035】
これらの中でも貯蔵安定性、下地への浸透性、下塗塗料組成物への溶解性からRがエチル基であり、その重合体の分子量に占めるSiO2の割合が25~55重量%の重合体が好ましい。
この範囲内であれば、既存塗膜との密着性や既存塗膜のマイクロクラックへの浸透性が良好である。
【0036】
本開示の下塗塗料は、上記記載のエポキシ樹脂,グリシジル基含有シランカップリング剤,ポリアミン,アミノ基含有シランカップリング剤及びアルコキシシリケート重合体により構成されもので、既存塗膜が無機、有機無機複合コーティング材により形成されたものであっても密着性が良好である。
また、マイクロクラックが発生している既存塗膜であっても、密着が良好なものである。
【0037】
マイクロクラックとは、サイディングの既存塗膜表層に発生したクラックで、表面から100μm以下の深さの微細なクラックのことである。
このマイクロクラックは、目視による視認が困難なもので、これが発生していることによって、サイディングの耐久性を低下させ、撥水性,汚染性などに影響を与える場合も多い。
【0038】
この下塗塗料には、上記記載の成分の他に、一般塗料に配合される添加剤などを添加することができる。又、必要に応じ、酸化チタンなどの白色顔料や炭酸カルシウムなどの体質顔料、着色顔料などを含有させることも可能である。
この添加剤には、希釈剤,硬化促進剤,消泡剤,分散剤,増粘剤やレベリング剤,防腐剤,防藻剤,防黴剤、無機充填剤などがある。
【0039】
また、この下塗塗料の形態としては、エポキシ樹脂,グリシジル基含有シランカップリング剤,ポリアミン,アミノ基含有シランカップリング剤及びアルコキシシリケート重合体を使用時に混合して使用するものである。
これらの成分は反応しない組み合わせであればあらかじめ混合しておいてもよい。
【0040】
エポキシ樹脂とグリシジル基含有シランカップリング剤は、ポリアミン,アミノ基含有シランカップリング剤と反応するため、あらかじめ調合できる組み合わせが限られる。その調合物の組み合わせを下記に示す。
(1)エポキシ樹脂とグリシジル基含有シランカップリング剤とアルコキシシリケート重合体とを混合したもの。
(2)ポリアミンとアミノ基含有シランカップリング剤とアルコキシシリケート重合体とを混合したもの。
(3)エポキシ樹脂とグリシジル基含有シランカップリング剤とを混合したもの。
(4)ポリアミンとアミノ基含有シランカップリング剤とを混合したもの。
(5)エポキシ樹脂とアルコキシシリケート重合体とを混合したもの。
(6)グリシジル基含有シランカップリング剤とアルコキシシリケート重合体とを混合したもの。
(7)ポリアミンとアルコキシシリケート重合体とを混合したもの。
(8)アミノ基含有シランカップリング剤とアルコキシシリケート重合体とを混合したもの。
【0041】
これらの中でも(1)エポキシ樹脂とグリシジル基含有シランカップリング剤とアルコキシシリケート重合体の組合せたもの、(4)ポリアミンとアミノ基含有シランカップリング剤の組合せたものが好ましく、この組合せであればそれぞれの成分の相溶性が良好なものとなる。
【0042】
また、この組合された上記調合物を主剤及び硬化剤とした形態とし、更に調合物を組合せ混合物として、既存塗膜に塗布する。
この調合物の組合せは、上記(1)と(2),(1)と(4),(2)と(3)となり、この中でも(1)と(4)の組合せが好ましい。この調合物の組合せにより塗装時に混合する材料を2種類で本開示に必要な成分を含む下塗塗料を得ることができる。
【0043】
この(1)~(8)の調合物を得るための調合には、各種構成材料を撹拌、混合して得ることができ、その撹拌、混合方法には、特に制限のあるものではない。
この調合には、ペイントシェーカー、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロールミル、ロスミキサー、プラネタリーミキサー等の、従来公知の混合・撹拌装置を用いればよい。
【0044】
この調合物の混合方法は、ディスパー等の塗装現場で一般的に用いられる撹拌装置を用いればよい。このように混合されたものを下塗塗料として用いることができる。
本開示に使用することができる下塗塗料は、上記記載のような構成材料により構成されるものである。
【0045】
この構成材料の中で、用いられるエポキシ樹脂の不揮発分は、全成分に対して10~50重量%の範囲に配合されことが好ましく、10重量%より少ない場合は、塗膜が薄くなり密着性が低下することがある。
また、50重量%より多い場合では、有機質成分が過剰になり密着性が低下することがある。好ましくは、20~40重量%の範囲であり、この範囲内であれば、塗膜厚が十分で密着性が良好である。
【0046】
グリシジル基含有シランカップリング剤は、エポキシ樹脂の不揮発分に対して、1.0~15.0重量%の範囲に配合されることが好ましく、1.0重量%より少ない場合は、密着性が低下することがある。
15.0重量%より多い場合では、塗料粘度が上昇して不安定になることがある。より好ましくは、2.0~10.0重量%の範囲であり、この範囲内であれば、密着性及び、安定性が良好なものとなる。
【0047】
ポリアミンは、エポキシ当量と活性水素当量の比(活性水素当量/エポキシ当量)が0.1~2.0の範囲になるように配合されることが好ましく、0.1より少ない場合は、硬化不良になることがある。
2.0より多い場合でも、硬化不良になることがある。好ましくは、0.4~1.0の範囲であり、この範囲内であれば、適切に硬化が促進される。
【0048】
本開示におけるエポキシ当量とは、1当量のエポキシ基を含む樹脂の質量(g/eq)のことをいう。なお、活性水素当量もこれと同様である。
アミノ基含有シランカップリング剤は、ポリアミンの不揮発分に対して1.0~15.0重量%の範囲に配合されことが好ましく、1.0重量%より少ない場合は、密着性が低下することがある。
【0049】
15.0重量%より多い場合では、塗料粘度が上昇して不安定なものとなることがある。より好ましくは、2.0~10.0重量%の範囲であり、この範囲内であれば、密着性及び、安定性が良好なものとなる。
アルコキシシリケート重合体は、全成分に対して5.0~30.0重量%の範囲に配合されることが好ましく、既存塗膜との密着性や既存塗膜のマイクロクラックへの浸透性を確保することができる。
【0050】
5.0重量%より少ない場合は、既存塗膜との密着性や既存塗膜のマイクロクラックへの浸透性が不十分となることがある。30重量%より多い場合では、上塗塗料との密着性が低下することがある。
より好ましくは、10~15重量%の範囲であり、この範囲内であれば、既存塗膜との密着性、浸透性及び上塗塗料との密着性が良好なものとなる。
【0051】
この上記記載の下塗塗料は、一般的な塗装方法により既存塗膜に塗装される。この塗装方法には、スプレーなどの吹き付けや刷毛、ローラーなどによる塗装方法が行われる。
この下塗塗料の 不揮発分は、全成分に対して30~50重量%の範囲が好ましく、この範囲内であれば吹き付けや刷毛、ローラーなどで塗装しやすく、均一に塗装できる。
【0052】
このように形成された下塗り層の表面に上塗塗料を塗装する。この上塗塗料は、下塗塗料と密着するものであれば特に制限はないが、アクリル樹脂系塗料、ウレタン樹脂系塗料、アクリルシリコン樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料などがあげられる。
この上塗塗料も下塗塗料と同様で、一般的な塗装方法により既存塗膜に塗装される。この塗装方法には、スプレーなどの吹き付けや刷毛、ローラーなどによる塗装方法が行われる。
【0053】
本開示は、上記のようなものにより構成され、この既存塗膜が無機コーティング材や有機無機複合コーティング材により形成されたものであっても密着性が良好であり、マイクロクラックが発生している既存塗膜であっても、密着が良好なものとなる。
以下に、実験例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。
【0054】
(主剤及び硬化剤の調製等)
エポキシ樹脂を含有する主剤は、表1に記載の配合量で主剤1~11として作製した。また、ポリアミンを含有する硬化剤は、表2に記載の配合量で硬化剤1~4として作製した。
各々の撹拌・混合には、ハイスピードディスパーを用いた。前記主剤1~11と硬化剤1~4とを表3に記載の組み合わせで、下塗塗料を作製し、各種試験を行った。
【0055】
【0056】
・エピクロン5900-60 (DIC株式会社製) :フェノールノボラック型エポキシ樹脂(不揮発分:60% 、エポキシ当量674g/eq(不揮発分換算))
・Silanil258(BRBインターナショナル製):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・エチルシリケート40(コルコート株式会社製):アルコキシシリケート重合体(SiO2wt%:40%)
・MKCシリケート56(三菱ケミカル株式会社製):アルコキシシリケート重合体(SiO2wt%:56%)
【0057】
【0058】
・ラッカマイドB1990―70EX(DIC株式会社製):マンニッヒ系アミン化合物(不揮発分:70%、活性水素当量126g/eq(不揮発分換算))
・KBM-573(信越化学工業株式会社製):N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
【0059】
【0060】
実験例1~13の下塗塗料を用いて試験体の作製を行った。試験体の基板には、既存塗膜が無機コーティング材のサイディング板(サイディングA)とこのサイディング板を10年間屋外暴露したもの(サイディングB)に、実験例1~13の下塗塗料を塗装した。
この下塗塗料が硬化乾燥した後に、上塗塗料として水系アクリルシリコン樹脂塗料であるビュートップシリコン(菊水化学工業株式会社製)を塗装して、室温にて14日間養生し試験体とした。
【0061】
この試験体を下記記載の試験を行い、付着性を確認し、その評価を行った。
(耐水性)
試験体を23℃水中に10日間浸漬した後、50℃恒温器中で1日間乾燥させ、養生室に1日静置し密着性の評価を行った。
【0062】
(耐温水性)
試験体を60℃の温水中に8時間浸漬、室温で16時間静置、これを1サイクルとして10サイクル行った後、50℃恒温器中で1日間乾燥させ、養生室に1日静置し密着性の評価を行った。
【0063】
(耐温冷性)
試験体を23℃の水中に18時間浸漬した後、試験体を水から引き上げ直ちに-20℃恒温槽にて3時間冷却し、次いで50℃恒温槽にて3時間加温する操作を1サイクルとして、合計10サイクルを繰り返した後、50℃恒温器中で1日間乾燥させ、養生室に1日静置し密着性の評価を行った。
【0064】
これらの試験を行った後に、JIS K 5600-5-6(1999) 塗料一般試験方法-第5部:塗膜の機械的性質-第6節:付着性(クロスカット法)に準拠し、塗膜を4mm間隔で5×5マスの碁盤目状にカットし粘着テープ貼り付け後の剥離試験を実施して、塗膜が残存したマス目を数えて、その付着性を評価した。
その評価を表4に記載した。
【0065】
【0066】
表4におけるサイディングAの剥離箇所は、実験例6を除いて既存塗膜と下塗塗膜の界面剥離であり、実験例6では下塗塗膜と上塗塗膜の界面剥離であった。
サイディングBの剥離箇所は、既存塗膜表層の界面剥離であった。
【0067】
実験例1~6及び8の比較から、実験例1、4及び5の方が良好な結果が得られた。この結果からアルコキシシリケート重合体が、全成分に対して5.0~30.0重量%の範囲である場合に、既存塗膜が無機コーティング材のサイディング板に対して密着が良好であることが確認された。
実験例1、7の比較から、実験例1の方が良好な結果が得られた。この結果からアルコキシシリケート重合体の重合体の分子量に占めるSiO2の割合が25~55重量%の範囲である場合に、既存塗膜が無機コーティング材のサイディング板に対して密着が良好であることが確認された。
【0068】
実験例1、9の比較から、実験例1の方が良好な結果が得られた。この結果からグリシジル基含有シランカップリング剤は、エポキシ樹脂の不揮発分に対して、1.0~15.0重量%の範囲である場合に、既存塗膜が無機コーティング材のサイディング板に対して密着が良好であることが確認された。
実験例1、10及び11の比較から、実験例1の方が良好な結果が得られた。この結果からエポキシ樹脂の不揮発分は、全成分に対して10~50重量%の範囲である場合に、既存塗膜が無機コーティング材のサイディング板に対して密着が良好であることが確認された。
【0069】
実験例1、12及び13の比較から、実験例1の方が良好な結果が得られた。この結果からアミノ基含有シランカップリング剤は、ポリアミンの不揮発分に対して1.0~15.0重量%の範囲である場合に、既存塗膜が無機コーティング材のサイディング板に対して密着が良好であることが確認された。
実験例1~5及び7の比較から、アルコキシシリケート重合体の含有量が多いほど、サイディングBとの密着が良好な結果が得られた。この結果からアルコキシシリケート重合体が、サイディングBのマイクロクラックに浸透していることが確認された。