IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クレシェンド・バイオロジックス・リミテッドの特許一覧

特開2023-10753プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体
<>
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図1
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図2
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図3
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図4
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図5
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図6
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図7
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図8
  • 特開-プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010753
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】プログラム細胞死(PD-1)に対するシングルドメイン抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230113BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20230113BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230113BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230113BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230113BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20230113BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230113BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230113BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230113BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20230113BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230113BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230113BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
C12P21/08
A01K67/027
C07K16/46
A61K39/395 N
A61K47/64
A61K47/60
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
A61P37/04
A61P37/06
A61P31/12
A61P37/08
A61P29/00
A61P25/00
G01N33/53 N
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022177574
(22)【出願日】2022-11-04
(62)【分割の表示】P 2019536936の分割
【原出願日】2018-01-08
(31)【優先権主張番号】1700207.2
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1700208.0
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1700210.6
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517142462
【氏名又は名称】クレシェンド・バイオロジックス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フィル・ヘイズ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・レッグ
(72)【発明者】
【氏名】マルティナ・レヴァンドフスカ
(72)【発明者】
【氏名】コレット・ジョンストン
(72)【発明者】
【氏名】ブライアン・マックギネス
(72)【発明者】
【氏名】マイク・ロマノス
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーン・ロサント
(72)【発明者】
【氏名】ユミン・テン
(57)【要約】
【課題】本発明は、PD-1とそのリガンドとの相互作用を遮断するPD-1結合剤、並びに疾患の処置、予防、及び検出におけるそのような結合剤の使用に関する。
【解決手段】CDR1、2、及び3の所定の組合せを含むヒトPD-1に結合する単離されたVHシングルドメイン抗体により、上記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のCDR1、2、及び3の組合せ:配列番号1、2、3;配列番号5、6、7;配列番号9、10、11;配列番号13、14、15;配列番号17、18、19;配列番号21、22、23;配列番号25、26、27;配列番号29、30、31;配列番号33、34、35;配列番号37、38、39;配列番号41、42、43;配列番号45、46、47;配列番号49、50、51;配列番号53、54、55;配列番号57、58、59;配列番号61、62、63;配列番号65、66、67;配列番号69、70、71;配列番号73、74、75;配列番号77、78、79;配列番号101、102、103;配列番号105、106、107;配列番号109、110、111;配列番号113、114、115;配列番号117、118、119;配列番号121、122、123;配列番号125、126、127;配列番号129、130、131;配列番号133、134、15;配列番号137、18、139;配列番号141、142、143;配列番号145、146、147;配列番号149、150、151;配列番号153、154、155;配列番号157、158、159;配列番号161、162、163;配列番号165、166、167;配列番号169、170、171;配列番号173、174、175;配列番号177、178、179;配列番号181、182、183;配列番号185、186、187;配列番号189、190、191;配列番号193、194、195;配列番号197、198、199;配列番号201、202、203;配列番号205、206、207;配列番号209、210、211;配列番号213、214、215;配列番号217、218、219;配列番号221、222、223;配列番号225、226、227;配列番号229、230、231;配列番号233、234、235;配列番号237、238、239;配列番号241、242、243;配列番号245、246、247;配列番号249、250、251;配列番号253、254、255;配列番号257、258、259;配列番号261、262、263;配列番号265、266、267;配列番号269、270、271;配列番号273、274、275;配列番号277、278、279;配列番号281、282、283;配列番号285、286、287;配列番号289、290、291;配列番号366、367、368;配列番号370、371、372;配列番号374、375、376;配列番号378、379、380;配列番号382、383、384;配列番号386、387、388;配列番号390、391、392;配列番号394、395、396;配列番号398、399、400;配列番号403、403、404;配列番号406、407、408;配列番号410、411、412;配列番号414、415、416;配列番号418、419、420;配列番号422、423、425;配列番号426、427、428;配列番号430、431、432;配列番号434、436、436;配列番号438、439、440;配列番号442、443、444;配列番号446、447、448;配列番号450、451、452;配列番号454、455、456;配列番号458、459、460;配列番号462、463、464;配列番号466、467、468;配列番号470、471、472;配列番号474、475、476;配列番号478、479、480;配列番号482、483、484;配列番号486、487、488;配列番号490、491、492;配列番号494、495、496;配列番号498、499、500;配列番号502、503、504;配列番号506、507、508;配列番号510、511、512;配列番号514、515、516;配列番号518、519、520;配列番号522、523、524;配列番号526、527、528、又は配列番号530、531、532のうちの1つを含むヒトPD-1に結合する単離されたVHシングルドメイン抗体。
【請求項2】
配列番号4、8、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、64、68、72、76、80、84、88、92、96、100、104、108、112、116、120、124、128、132、136、140、144、148、152、156、160、164、168、172、176、180、184、188、192、196、200、204、208、212、216、220、224、228、232、236、240、244、248、252、256、260、264、268、272、276、280、284、288、292、369、373、377、381、385、389、393、397、401、405、409、413、417、421、425、429、433、437、441、445、449、453、457、461、465、469、473、477、481、485、489、493、497、501、505、509、513、517、521、525、529、若しくは533から選択される配列、又はそれらと少なくとも60%、70%、80%、若しくは90%相同性を有する配列を含む、請求項1に記載の単離されたVHシングルドメイン抗体。
【請求項3】
ヒトV、D、及びJ領域を含むトランスジーンを発現するトランスジェニック齧歯類であって、好ましくはいかなる機能的な内因性の軽鎖及び重鎖も産生しないトランスジェニック齧歯類から得られた又は得ることができる、請求項1または2に記載の単離されたVHシングルドメイン抗体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体と本質的に同じエピトープに結合する、または、
請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体とヒトPD-1に対する結合に関して競合する、単離された結合剤。
【請求項5】
抗体又はその断片であり、場合により前記断片がFab、Fab′、F(ab′)2、dAb、Fd、Fv、又は一本鎖Fv断片、ヒト重鎖可変ドメイン(VH)、又は単離されたCDRであってもよい、請求項4に記載の単離された結合剤。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体を含む単離された結合剤。
【請求項7】
前記シングルドメイン抗体が、PD-1に結合しない第2の結合分子に連結され、好ましくは前記第2のシングルドメイン抗体が免疫腫瘍学標的に結合する、請求項6に記載の単離された結合剤。
【請求項8】
前記シングルドメイン抗体が、同じ、重複する、又は異なるエピトープでPD-1に結合する第2の結合分子に連結される、請求項6に記載の単離された結合剤。
【請求項9】
前記結合分子が抗体又はその断片であり、場合により前記結合分子がヒト重鎖可変ドメイン(VH)であってもよい、請求項4から8のいずれか一項に記載の単離された結合剤。
【請求項10】
毒素、酵素、放射性同位体、半減期延長部分、治療分子、又は他の化学部分にコンジュゲートされており、
場合により前記半減期延長部分がアルブミン結合部分、トランスフェリン結合部分、ポリエチレングリコール分子、組換えポリエチレングリコール分子、ヒト血清アルブミン、ヒト血清アルブミンの断片、及びアルブミン結合ペプチド又はヒト血清アルブミンに結合するシングルドメイン抗体からなる群から選択される、請求項1若しくは2に記載の単離されたVHシングルドメイン抗体、または請求項4から9のいずれか一項に記載の単離された結合剤。
【請求項11】
多特異性結合剤又は多価結合剤における請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体の使用。
【請求項12】
治療剤、好ましくは毒素、酵素、放射性同位体、又は他の化学部分である治療剤に連結された、請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体又は請求項4から10のいずれか一項に記載の結合剤を含む免疫コンジュゲート。
【請求項13】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体、請求項4から10のいずれか一項に記載の結合剤、又は請求項12に記載の免疫コンジュゲート、並びに薬学的担体を含む、医薬組成物。
【請求項14】
医薬として使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体、請求項4から10のいずれか一項に記載の結合剤、又は請求項12に記載の免疫コンジュゲート、又は請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
好ましくは骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚又は眼内悪性黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、精巣がん、乳がん、脳がん、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、食道がん、小腸がん、内分泌系のがん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、腎臓がん、軟部組織肉腫、尿道がん、膀胱がん、腎臓がん、肺がん、非小細胞肺がん、胸腺腫、尿路上皮癌、白血病、前立腺がん、中皮腫、副腎皮質癌、リンパ腫、例えばホジキン病、非ホジキンリンパ腫、胃がん、及び多発性骨髄腫から選択される、がん、免疫障害、神経疾患、炎症障害、アレルギー、移植拒絶反応、ウイルス感染症、免疫不全、及び他の免疫系関連障害の処置に使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体、請求項4から10のいずれか一項に記載の結合剤、又は請求項12に記載の免疫コンジュゲート、又は請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体、請求項4から10のいずれか一項に記載の結合剤、請求項12に記載の免疫コンジュゲート、又は請求項13に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、免疫応答を調節する方法。
【請求項17】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体をコードするヌクレオチド配列を含み、好ましくは配列番号293から365、又は534から575から選択される、単離された核酸分子。
【請求項18】
請求項17に記載の核酸を含むベクター、または
前記ベクター若しくは請求項17に記載の核酸を含み、好ましくは細菌、酵母、昆虫、植物、ウイルス、又は哺乳動物細胞である、宿主細胞。
【請求項19】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体を産生する方法であって、宿主細胞において前記結合分子をコードする核酸を発現させる工程及び宿主細胞から結合分子を単離する工程を含む、方法。
【請求項20】
請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体、請求項4から10のいずれか一項に記載の結合剤、請求項12に記載の免疫コンジュゲート、又は請求項13に記載の医薬組成物を含むキット。
【請求項21】
試験試料中のヒトPD-1の存在を検出する方法であって、前記試料を請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体及び少なくとも1つの検出可能な標識と接触させる工程、並びにヒトPD-1に対する前記シングルドメイン抗体の結合を検出する工程を含む、方法。
【請求項22】
ヒトPD-1に結合するシングルVHドメイン抗体を産生する方法であって、
a)ヒト重鎖V遺伝子を含む核酸構築物を発現するが、機能的な内因性の軽鎖又は重鎖を作製することができないトランスジェニック動物を、PD-1抗原によって免疫する工程、
b)前記動物からライブラリを生成する工程、
c)前記ライブラリからシングルVHドメイン抗体を単離する工程、
d)ヒトPD-1に結合するシングルVHドメイン抗体を同定する工程、及び
e)前記抗体を単離する工程
を含む、方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法によって得られた又は得ることができるシングルVHドメイン抗体。
【請求項24】
ヒトPD-1に結合するVHドメインを含む、単離された重鎖のみの抗体。
【請求項25】
請求項24に記載の重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック齧歯類。
【請求項26】
ヒトV、D、及びJ座を発現するが、機能的な内因性のラムダ及びカッパ軽鎖及び重鎖を産生しないトランスジェニックマウスから得られた又は得ることができる、ヒトPD-1に結合するVHドメインを含む重鎖のみの抗体。
【請求項27】
前記シングルドメイン抗体とは異なる結合特異性を有する第2の機能的部分に連結されており、場合により、前記第2の部分が、抗体、抗体断片、又は抗体模倣体であり、場合により、前記第2の部分が免疫腫瘍学標的に結合する、請求項1から3のいずれか一項に記載のシングルドメイン抗体を含む二特異性分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PD-1結合剤、特に抗PD-1 VHシングルドメイン抗体(sdAb)、並びに疾患の処置、予防、及び検出におけるそのような結合剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体に基づく治療薬は、腫瘍学、炎症、及び感染疾患などの分野において増加しつつあるヒト疾患に対する治療の重要な構成要素として出現している。実際に、抗体は、今日最もよく売れているクラスの薬物の1つであり、最もよく売れている上位10種の薬物のうち5種が抗体である。
【0003】
プログラム細胞死1(PD-1)タンパク質は、PDCD1遺伝子によってコードされ、55kDaのI型膜貫通タンパク質として発現される(Agata 1996 Int Immunol 8(5):765~72頁)。PD-1は、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり(Ishida 1992 EMBO 11(11):3887~95頁)、これはT細胞制御因子の広いCD28/CTLA-4ファミリーの阻害性メンバーである。このファミリーの他のメンバーには、CD28、CTLA-4、ICOS、及びBTLAが挙げられる。PD-1は、単量体として存在し、他のCD28ファミリーメンバーの特徴である不対システイン残基を欠如する(Zhang 2004 Immunity 20:337~47頁)。その細胞質ドメインは、シグナル伝達の際にリン酸化される免疫受容体チロシンベース阻害性モチーフ(ITIM)及び免疫受容体チロシンベーススイッチモチーフ(ITSM)を含む(Riley 2009 Immunol Rev 229(1):114~25頁)。
【0004】
PD-1は、B細胞、T細胞、及び単球において発現される(Agata 1996)。免疫学的自己寛容の維持におけるPD-1の役割は、自己免疫障害を発症するPDCD1-/-マウスにおいて証明された(Nishimura 1999 Immunity 11:141~51頁, Nishimura 2001 Science 291(5502):319~22頁)。したがって、PD-1経路は、自己免疫と寛容のバランスをとりながら抗原応答を調節する。
【0005】
PD-1には、その調節機能を媒介する2つのリガンドが存在する。PD-L1(B7-H1)は通常、樹状細胞、マクロファージ、休止B細胞、骨髄由来肥満細胞及びT細胞、並びに非造血細胞系列において発現される(Francisco 2010 Immunol Rev 236:219~42頁における論評)。PD-L2(B7-DC)は、主に樹状細胞及びマクロファージにおいて発現される(Tseng 2001 J Exp Med 193(7):839~45頁)。リガンド発現は、局所メディエータによって影響を受け、炎症性サイトカインによってアップレギュレートされうる。
【0006】
PD-1は、TCRシグナルを負に調節する免疫阻害性タンパク質として知られている。PD-1とPD-L1との間の相互作用は、免疫チェックポイントとして作用することができ、これによって例えば腫瘍浸潤リンパ球の減少、T細胞受容体媒介増殖の減少、及び/又はがん様細胞による免疫の回避が起こりうる。免疫抑制は、PD-1とPD-L1又はPD-L2との局所相互作用を阻害することによって逆転させることができる;PD-1とPD-L1及びPD-L2の両方との相互作用が遮断される場合、作用は相加的である。
【0007】
T細胞が、抗原提示細胞(APC)によって活性化されて同時刺激されるようになると、PD-1のT細胞発現が誘導される。PD-1がAPC上のリガンドと会合すると、PD-1を架橋し、これを免疫学的シナプス内でT細胞受容体(TCR)複合体へと集合させる(Yokosuka 2012 J Exp Med 209(9):1201~17頁)。T細胞の細胞質内で、PD-1シグナル伝達ドメインITIM及びITSMはリン酸化される。これは、T細胞受容体(TCR)シグナル伝達の様々な構成要素を減弱させるSrc-homology-2ドメイン含有チロシンホスファターゼ(SHP1/2)を誘導する。T細胞活性化が抑制されると、それによってサイトカイン応答、増殖、及び細胞溶解活性の低減が起こる。T細胞機能のこのダウンレギュレーションは、過剰刺激を防止し、弱い免疫原性の自己抗原に対して細胞を寛容化するために役立つ。
【0008】
がん又は感染症では、PD-1経路を利用することができ、それによって腫瘍又はウイルスは、有効な免疫認識を回避することができ、T細胞は「消耗した」表現型を示す。PD-L1はまた、尿路上皮、卵巣、乳房、子宮頸部、結腸、膵臓、胃、黒色腫、神経膠芽腫、及び非小細胞肺癌を含む多くの腫瘍タイプにおいて発現されることも示されている(Callahan 2014 J Leukoc Biol 94(1):41~53頁による論評)。がん間質細胞によって産生されるサイトカインは、腫瘍の微小環境においてPD-L1を更にアップレギュレートすることができる(He 2015 Nature Scientific Reports 5:13110頁)。その結果、腫瘍特異的T細胞は、PD-1シグナル伝達の際に非応答性となり、したがってその標的を除去することができない。制御性T細胞(T reg)もまた、高レベルのPD-1を発現することが示されており、それらは抗腫瘍応答を更に抑制する(Lowther 2016 JCI Insight 1(5):85935頁)。
【0009】
PD-1:PD-L1相互作用の破壊は、T細胞活性を増強する。抗PD-1モノクローナル抗体は、PD-1とそのリガンドの間の相互作用の遮断を証明している(Wang 2014 Cancer Immunol Res 2(9):846~56頁)。In-vitroでのT細胞機能は、T細胞と樹状細胞とのリンパ球混合反応における増殖及びサイトカイン応答の改善によって証明されるように、PD-1遮断によって増強することができる。黒色腫患者に由来する細胞傷害性リンパ球(CTL)もまた、抗体OPDIVO(ニボルマブ)を使用するin vitroでのPD-1遮断によって増強されることが示されており、Treg抑制に対して抵抗性となりうる(Wang 2009 Int Immunol 21(9):1065~1077頁)。この抗体は、黒色腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、腎細胞がん(RCC)及びその他における臨床での用量漸増試験において試験されている。これは、NSCLC患者における化学療法と比較して改善された全生存率を示す。別のPD-1遮断抗体であるKEYTRUDA(登録商標)(ペンブロリズマブ)は、CTLA-4遮断に対して不応性であるNSCLC患者において応答を証明する。OPDIVO(登録商標)及びKEYTRUDA(登録商標)はいずれも、ヒトPD-1とそのリガンドとの相互作用を機能的に遮断する。
【0010】
抗PD-1と抗CD3抗体との組合せによって、PD-1を膜上で架橋することによってPD-1シグナル伝達を誘導することが可能である(Bennett 2003 J Immunol 170:711~18頁, Keir 2005 J Immunol 175:7372~7379頁)。この機能は、T細胞活性が抑制されることから、抗腫瘍応答の際に有害でありうる。T細胞応答の抑制が望ましい場合、アゴニスト性の抗PD-1抗体又はエフェクター機能を有する抗体を、リウマチ性関節炎などの免疫関連疾患を処置するために使用することができるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2016/062990号
【特許文献2】国際公開第2003/000737号
【特許文献3】国際公開第2004/076618号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Agata 1996 Int Immunol 8(5):765~72頁
【非特許文献2】Ishida 1992 EMBO 11(11):3887~95頁
【非特許文献3】Zhang 2004 Immunity 20:337~47頁
【非特許文献4】Riley 2009 Immunol Rev 229(1):114~25頁
【非特許文献5】Nishimura 1999 Immunity 11:141~51頁
【非特許文献6】Nishimura 2001 Science 291(5502):319~22頁
【非特許文献7】Francisco 2010 Immunol Rev 236:219~42頁
【非特許文献8】Tseng 2001 J Exp Med 193(7):839~45頁
【非特許文献9】Yokosuka 2012 J Exp Med 209(9):1201~17頁
【非特許文献10】Callahan 2014 J Leukoc Biol 94(1):41~53頁
【非特許文献11】He 2015 Nature Scientific Reports 5:13110頁
【非特許文献12】Lowther 2016 JCI Insight 1(5):85935頁
【非特許文献13】Wang 2014 Cancer Immunol Res 2(9):846~56頁
【非特許文献14】Wang 2009 Int Immunol 21(9):1065~1077頁
【非特許文献15】Bennett 2003 J Immunol 170:711~18頁
【非特許文献16】Keir 2005 J Immunol 175:7372~7379頁
【非特許文献17】Green及びSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第4版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2012)
【非特許文献18】Therapeutic Monoclonal Antibodies: From Bench to Clinic, Zhiqiang An (Editor), Wiley, (2009)
【非特許文献19】Antibody Engineering、第2版、1及び2巻、Ontermann及びDubel編、Springer-Verlag, Heidelberg (2010)
【非特許文献20】Kabatら、(1971) Ann. NY Acad. Sci. 190:382-391
【非特許文献21】Kabatら、(1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242
【非特許文献22】Chothia及びLesk J. Mol. Biol. 196:901~917頁(1987)
【非特許文献23】Phage Display of Peptides and Proteins: A Laboratory Manual, Academic Press;第1版(10月28日、1996年) Brian K. Kay, Jill Winter, John McCafferty
【非特許文献24】Bruschi, C.V.及びGjuracic, K. Yeast Artificial Chromosomes, Encyclopedia of Life Sciences, 2002 Macmillan Publishers Ltd, Nature Publishing Group
【非特許文献25】Renら、Genomics, 84, 686, 2004;Zouら、J. Immunol., 170, 1354, 2003
【非特許文献26】Bruschi, C.V.及びGjuracic, K. Yeast Artificial Chromosomes, Encyclopedia of Life Sciences, 2002, Macmillan Publishers Ltd., Nature Publishing Group/www.els.net
【非特許文献27】Antibody Engineering、Benny Lo編、8章、161~176頁、2004
【非特許文献28】Antibody Engineering、Benny Lo編、19章、327~343頁、2004
【非特許文献29】Mainら、J Pharmacol Exp Ther. 2006年12月;319頁(3):1395~404頁
【非特許文献30】Dietzら、Cytometry 23:177~186頁(1996)
【非特許文献31】Miragliaら、J. Biomol. Screening 4:193~204頁(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、疾患の処置、特にがんの処置に使用するための代替の抗体ベースの処置の必要性に取り組むことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、単離されたシングルドメイン抗体、特に、PD-1に結合し、複数の望ましい特性を示すVHシングルドメイン抗体を提供する。
【0015】
本発明のシングルドメイン抗体は、ヒトPD-1に結合し、PD-1とPD-L1及び/又はPD-L2との相互作用を調節する。抗PD-1抗体は、好ましくは高い親和性でPD-1に結合し、PD-1とPD-L1及び/又はPD-L2との機能的相互作用を遮断する。一部の実施形態では、本発明のブロッキング抗体は、PD-L1、PD-L2に対するPD-1の結合を遮断し、及び/又はT細胞活性化を刺激若しくは増強しうる。一部の実施形態では、ブロッキング抗体は、免疫応答を刺激若しくは増強するために、並びに/又はがん及び他の疾患に罹患している対象を処置するために有用でありうる。
【0016】
このように、一態様では、本発明は、Table 1(表1)のCDR3から選択されるCDR3配列を含むヒトPD-1に結合する、単離されたシングルドメイン抗体を提供する。
【0017】
一実施形態では、シングルドメイン抗体は、配列番号1に示されるCDR1又はそれと少なくとも80%の相同性を有する配列、配列番号2に示されるCDR2又はそれと少なくとも80%の相同性を有する配列、及び配列番号3に示されるCDR3又はそれと少なくとも80%の相同性を有する配列を含む。
【0018】
一実施形態では、単離されたシングルドメイン抗体は、Table 1(表1)に示されるCDR1、CDR2、及びCDR3配列から選択されるCDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む。
【0019】
一実施形態では、シングルドメイン抗体は、配列番号4、8、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、64、68、72、76、80、84、88、92、96、100、104、108、112、116、120、124、128、132、136、140、144、148、152、156、160、164、168、172、176、180、184、188、192、196、200、204、208、212、216、220、224、228、232、236、240、244、248、252、256、260、264、268、272、276、280、284、288、292、369、373、377、381、385、389、393、397、401、405、409、413、417、421、425、429、433、437、441、445、449、453、457、461、465、469、473、477、481、485、489、493、497、501、505、509、513、517、521、525、529、若しくは533から選択される配列、又はそれらと少なくとも70%、80%、若しくは90%相同性を有する配列を含む。
【0020】
一実施形態では、シングルドメイン抗体は、毒素、酵素、放射性同位体、半減期延長部分、標識、治療分子、又は他の化学部分にコンジュゲートされる。
【0021】
一実施形態では、単離されたシングルドメイン抗体は、ヒトV、D、及びJ領域を含むトランスジーンを発現するトランスジェニック齧歯類から得られる又は得ることができる。
【0022】
本発明はまた、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体と本質的に同じエピトープに結合する単離された結合剤も提供する。
【0023】
本発明はまた、ヒトPD-1に対する結合に関して、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体と競合する単離された結合剤も提供する。
【0024】
本発明はまた、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体を含む単離された結合剤も提供する。
【0025】
一実施形態では、前記シングルドメイン抗体は、PD-1に結合しない第2の結合分子に連結される。
【0026】
一実施形態では、前記第2のシングルドメイン抗体は、免疫腫瘍学標的に結合する。
【0027】
一実施形態では、前記シングルドメイン抗体は、PD-1に結合する第2の結合分子に連結される。
【0028】
本発明はまた、多特異性結合剤又は多価結合剤における本明細書に記載されるシングルドメイン抗体の使用も提供する。
【0029】
本発明はまた、治療剤に連結された、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体又は結合剤を含む免疫コンジュゲートも提供する。
【0030】
本発明はまた、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体、本明細書に記載される結合剤、又は本明細書に記載される免疫コンジュゲート、及び薬学的担体を含む医薬組成物も提供する。
【0031】
本発明はまた、がん、免疫障害、神経疾患、炎症障害、アレルギー、移植拒絶反応、ウイルス感染症、免疫不全、又は他の免疫系関連障害を処置する方法であって、本明細書に記載される特許請求の範囲に従うシングルドメイン抗体、免疫コンジュゲート、又は医薬組成物の治療有効量を投与する工程を含む方法も提供する。
【0032】
本発明はまた、がん、免疫障害、神経疾患、炎症障害、アレルギー、移植拒絶反応、ウイルス感染症、免疫不全、又は他の免疫系関連障害を処置するための医薬の製造における、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体、結合剤、免疫コンジュゲート、又は医薬組成物の使用も提供する。
【0033】
本発明はまた、医薬として使用するための、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体、結合剤、免疫コンジュゲート、又は医薬組成物も提供する。
【0034】
本発明はまた、がん、免疫障害、神経疾患、炎症障害、アレルギー、移植拒絶反応、ウイルス感染症、免疫不全、及び他の免疫系関連障害の処置に使用するための、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体、結合剤、免疫コンジュゲート、又は医薬組成物も提供する。
【0035】
本発明はまた、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子も提供する。
【0036】
本発明はまた、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体を産生する方法であって、宿主細胞において前記結合分子をコードする核酸を発現させる工程、及び宿主細胞から結合分子を単離する工程を含む方法も提供する。
【0037】
本発明はまた、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体、結合剤、免疫コンジュゲート、又は医薬組成物を含むキットも提供する。
【0038】
本発明はまた、試験試料中のヒトPD-1の存在を検出する方法であって、前記試料を、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体及び少なくとも1つの検出可能な標識と接触させる工程、並びにヒトPD-1に対する前記シングルドメイン抗体の結合を検出する工程を含む方法も提供する。
【0039】
本発明はまた、ヒトPD-1に結合するシングルVHドメイン抗体を産生する方法であって:
a)ヒト重鎖V遺伝子を含む核酸構築物を発現し、機能的な内因性の軽鎖又は重鎖を作製することができないトランスジェニック動物を、PD-1抗原によって免疫する工程、
b)前記動物からライブラリを生成する工程
c)前記ライブラリからシングルVHドメイン抗体を単離する工程
d)ヒトPD-1に結合するシングルVHドメイン抗体を同定する工程、及び
e)前記抗体を単離する工程
を含む方法も提供する。
【0040】
本発明はまた、上記の方法によって得られた又は得ることができるシングルVHドメイン抗体も提供する。
【0041】
本発明はまた、ヒトPD-1に結合するVHドメインを含む単離された重鎖のみの抗体も提供する。
【0042】
本発明はまた、ヒトV、D、及びJ座を発現するが、機能的な内因性のラムダ及びカッパ軽鎖並びに重鎖を産生しないトランスジェニックマウスから得られた又は得ることができる、ヒトPD-1に結合するVHドメインを含む重鎖のみの抗体も提供する。
【0043】
本発明はまた、前記シングルドメイン抗体とは異なる結合特異性を有する第2の機能的部分に連結された上記のシングルドメイン抗体を含む二特異性分子も提供する。
【0044】
本発明の別の態様は、本明細書に記載される抗PD-1シングルドメイン抗体を使用して免疫応答を調節する方法に関する。
【0045】
本発明は更に、本明細書に記載される抗PD-1シングルドメイン抗体を使用してin vivoで腫瘍細胞の成長を阻害する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
本発明を、以下の非制限的な図面において更に説明する。
図1】a)結合アッセイ:CHOヒトPD-1に結合したVHを同定し、及びb)阻害アッセイ:PD-L1に対するPD-1結合の阻害。
図2】異なるシングルドメイン抗体を使用したPD-1/PD-L2阻害アッセイ。
図3】種の交叉反応性試験。a)ヒトPD-1に対するVHシングルドメイン抗体1.1及び1.57の結合。b)カニクイザルPD-1組換えタンパク質に対するVHシングルドメイン抗体1.1及び1.57の結合。c)マウスPD-1タンパク質に対するVHシングルドメイン抗体1.1及び1.57の結合。
図4】VHシングルドメイン抗体を使用したFMAT阻害アッセイ。a)一価のVHシングルドメイン抗体によるCHO PD-1/PD-L1アッセイ;b)一価のVHシングルドメイン抗体によるCHO PD-1/PD-L2アッセイ;c)二価の薬剤によるCHO PD-1/PD-L1アッセイ。
図5】異なるVHシングルドメイン抗体の血清中安定性。a)1.57 VHシングルドメイン抗体の血清中安定性。b)1.64 VHシングルドメイン抗体の血清中安定性。c)フォーマットしたVH 1.57-4GS-MSA結合剤の血清中安定性。
図6】CD4 T細胞に対するVHシングルドメイン抗体の結合。
図7】樹状細胞とCD4+T細胞との共培養を示す:a)リンパ球混合反応におけるヒトT細胞活性化に及ぼすPD-1特異的Humabody(登録商標)1.57の効果。b)リンパ球混合反応におけるヒトT細胞活性化に及ぼすPD-1特異的Humabody(登録商標)1.92の効果。
図8】皮下MC38マウス結腸腺癌のHuGEMM PD-1モデルにおけるHumabody(登録商標)化合物のin vivo有効性。
図9】機能的レポーターアッセイにおける一価のVHシングルドメイン抗体及び二パラトープ性。
【発明を実施するための形態】
【0047】
様々な態様及び実施形態を以下に更に詳しく説明する。以下の節では、本発明の異なる態様をより詳細に定義する。明らかに反対であることを示していない限り、そのように定義された各々の態様を、他の任意の態様又は複数の態様と組み合わせてもよい。特に、好ましいか又は有利であることが示された任意の特色を、好ましいか又は有利であることが示された他の任意の特色又は複数の特色と組み合わせてもよい。
【0048】
一般的に、本明細書に記載される細胞及び組織培養、病理学、腫瘍学、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学並びにタンパク質化学及び核酸化学及びハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法、並びにそれらの技術は、当技術分野で周知であり、当技術分野で一般的に使用される。本開示の方法及び技術は、それ以外であることを示していない限り、当技術分野で周知の、並びに本明細書を通して引用及び考察される様々な一般的な及びより特定の参考文献に記載される通常の方法に従って実施される。例えば、Green及びSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第4版、Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2012); Therapeutic Monoclonal Antibodies: From Bench to Clinic, Zhiqiang An (Editor), Wiley, (2009);及びAntibody Engineering、第2版、1及び2巻、Ontermann及びDubel編、Springer-Verlag, Heidelberg (2010)を参照されたい。
【0049】
酵素反応及び精製技術は、当技術分野で一般的に実施されているように、又は本明細書に記載されているように製造元の説明書に従って実施される。本明細書に記載される分析化学、合成有機化学、並びに医薬品化学及び薬化学に関連して使用される命名法、並びにその実験手順及び技術は、当技術分野で周知であり、一般的に使用されるものである。化学合成、化学分析、薬学的調製、製剤、及び送達、並びに患者の処置に関しては、標準的な技術を使用する。
【0050】
このように、本発明は、ヒトPD-1に結合し、PD-1とPD-L1との相互作用及び/又はPD-1とPD-L2との相互作用を遮断する単離されたシングルドメイン抗体、そのような結合分子を含む医薬組成物、並びにそのような結合タンパク質を作製するための単離された核酸、単離された組換え発現ベクター及び単離された宿主細胞を提供する。同様に、ヒトPD-1を検出するために本明細書に開示されるシングルドメイン抗体を使用する方法、及び疾患を処置する方法も提供される。別の態様では、本発明は、本明細書に記載される、ヒトPD-1に結合し、PD-1とPD-L1との相互作用及び/又はPD-1とPD-L2との相互作用を遮断するシングルドメイン抗体を含む結合分子を提供する。
【0051】
一態様では、本発明は、以下の特性のうちの1つ又は複数を示すシングルドメイン抗体に関する:
(a)実施例において測定されるKDでヒトPD-1に結合する;
(b)MLRアッセイにおいてIL-2分泌を増加させる;
(c)ヒトPD-1及びカニクイザルPD-1に結合する;
(d)マウスPD-1に結合しない;
(e)PD-1に対するPD-L1及び/又はPD-L2の結合を阻害する;
(f)in vivoで腫瘍細胞の成長を阻害する(例えば、実施例において測定した場合に)。
【0052】
上記の特性を測定するための適したアッセイを実施例に記載する。
【0053】
好ましい実施形態では、シングルドメイン抗体は、ドメインがヒト可変重鎖(VH)ドメインであるシングルドメイン抗体である。このように、ある特定の実施形態では、本発明は、ヒトPD-1に結合する単離されたシングルドメイン抗体であって、ドメインが可変重鎖ドメイン、好ましくはVHドメインであり、前記シングルドメイン抗体がヒトPD-1に結合し、PD-1とPD-L1との相互作用及び/又はPD-1とPD-L2との相互作用を遮断する、単離されたシングルドメイン抗体を提供する。
【0054】
上記の本発明のシングルドメイン抗体の特性は、本明細書に記載される治療方法及び使用に利用することができる。
【0055】
特に、以下に説明するように、本発明のシングルドメイン抗体は、多価フォーマット又は多特異的フォーマットで使用することができる。このように、本発明はまた、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体を含む多機能結合剤にも関する。
【0056】
本発明の分子は、野生型ヒトPD-1(UniProt受託番号Q15116、GenBank受託番号U64863、配列番号576)に特異的に結合する。残基1~20はプレ配列に対応し、残基171及びそれ以降は、PD-1の膜貫通ヘリックス及び細胞内ドメインを構成する。
【0057】
それ以外であることを明記していない限り、本明細書において使用される用語PD-1は、ヒトPD-1を指す。用語「プログラム細胞死1」、「プログラムされた細胞死1」、「タンパク質PD-1」、「PD-1」、「PD1」、「PDCD1」、「hPD-1」及び「hPD-1」は、互換的に使用され、ヒトPD-1の多様体、アイソフォーム、種相同体を含む。
【0058】
用語「PD-1結合分子/タンパク質/ポリペプチド/剤」「PD-1抗原結合分子タンパク質/ポリペプチド/剤」、「抗PD-1シングルドメイン抗体」、「抗PD-1シングル免疫グロブリン可変ドメイン」、「抗PD1重鎖のみの抗体」、又は「抗PD-1抗体」は全て、ヒトPD-1抗原に特異的に結合することができる分子を指す。結合反応は、例えば無関係な特異性の抗体を使用する陰性対照試験を基準とする標準的な方法によって示されうる。用語「PD-1結合分子/剤」は、PD-1結合タンパク質を含む。
【0059】
目的の抗原、例えばPD-1に「結合する」又は「結合することができる」、本明細書に記載されるシングルドメイン抗体及び多価又は多特異性結合剤を含む本発明の抗体又は結合分子は、抗体が、抗原を発現する細胞又は組織の標的化において治療剤として有用であるように十分な親和性で抗原に結合する抗体又は結合分子である。
【0060】
本明細書に記載されるシングルドメイン抗体及び多価又は多特異性結合剤を含む本発明の結合分子は、ヒトPD-1に特異的に結合する。言い換えれば、PD-1抗原に対する結合は、非特異的相互作用とは測定可能に異なる。実施例に証明されているように、本発明のシングルドメイン抗体は、マウスPD-1と交叉反応しない。好ましくは、本発明のシングルドメイン抗体は、ヒトPD-1に結合し、同様にカニクイザルPD-1にも結合する。
【0061】
本明細書に使用される特定のポリペプチド又は特定のポリペプチド標的上のエピトープに「特異的結合」又は「特異的に結合する」、又は「特異的である」という用語は、例えば、標的に対するKDが少なくとも約10-4 M、或いは少なくとも約10-5 M、或いは少なくとも約10-6 M、或いは少なくとも約10-7 M、或いは少なくとも約10-8 M、或いは少なくとも約10-9 M、或いは少なくとも約10-10 M、或いは少なくとも約10-11 M、或いは少なくとも約10-12 M、又はそれより高い分子によって示されうる。一実施形態では、用語「特異的結合」は、分子が、他の任意のポリペプチド又はポリペプチドエピトープに実質的に結合することなく、特定のポリペプチド又は特定のポリペプチド上のエピトープに結合する場合の結合を指す。
【0062】
用語「抗体」は、4つのポリペプチド鎖、すなわち2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖で構成される任意の免疫グロブリン(Ig)分子若しくはその抗原結合部分、又はIg分子の本質的なエピトープ結合特徴を保持するその任意の機能的断片、変異体、多様体、若しくは誘導体を指す。そのような変異体、多様体、又は誘導体抗体フォーマットは、当技術分野で公知である。
【0063】
完全長の抗体では、各々の重鎖は、重鎖可変領域又はドメイン(本明細書においてHCVRと省略される)及び重鎖定常領域で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、すなわちCH1、CH2、及びCH3で構成される。各々の軽鎖は、軽鎖可変領域又はドメイン(本明細書においてLCVRと省略される)及び軽鎖定常領域で構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLで構成される。
【0064】
重鎖及び軽鎖可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に更に細分することができ、それらの領域の間にはより保存されたフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域が介在する。各々の重鎖及び軽鎖可変領域は、3つのCDRと4つのFRで構成され、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で整列する。
【0065】
免疫グロブリン分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、クラス(例えば、IgG 1、IgG2、IgG 3、IgG4、IgA1、及びIgA2)又はサブクラスの分子でありうる。
【0066】
用語「CDR」は、抗体可変配列内の相補性決定領域を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域の各々には、可変領域の各々に関してCDR1、CDR2、及びCDR3と呼ばれる3つのCDRが存在する。用語「CDRの組」は、抗原に結合することができる単一の可変領域に存在する3つのCDRの群を指す。これらのCDRの正確な境界は、当技術分野で公知の異なるシステムに従って異なるように定義することができる。
【0067】
Kabatの相補性決定領域(CDR)は、配列多様性に基づいており、最も一般的に使用される(Kabatら、(1971) Ann. NY Acad. Sci. 190:382-391、及びKabatら、(1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242)。Chothiaは、代わりに構造ループの位置を指している(Chothia及びLesk J. Mol. Biol. 196:901~917頁(1987))。Kabatの付番システムは、可変ドメインにおける残基(軽鎖のおよそ1~107位の残基及び重鎖の1~113位の残基)を指す場合に一般的に使用される。
【0068】
本明細書において特に明記していない限り、Kabatによって記載されるシステムを使用する。用語「Kabat付番」、「Kabat定義」及び「Kabat表記」は、本明細書において互換的に使用される。これらの用語は、当技術分野で認識されるように、抗体の重鎖及び軽鎖可変領域又は抗原結合部分における他のアミノ酸残基より可変(すなわち、超可変)であるアミノ酸残基の付番システムを指す。
【0069】
キメラ抗体は、1つの種に由来する抗体、好ましくは齧歯類抗体の相補性決定領域(CDR)を含む可変ドメインを含み、抗体分子の定常ドメインがヒト抗体の定常ドメインに由来する組換えタンパク質である。獣医学応用の場合、キメラ抗体の定常ドメインは、ネコ又はイヌなどの他の種のドメインに由来しうる。
【0070】
ヒト化抗体は、1つの種の抗体、例えば齧歯類抗体のCDRが、齧歯類抗体の重鎖及び軽鎖可変鎖からヒト重鎖及び軽鎖可変ドメイン(例えば、フレームワーク領域配列)に移植されている組換えタンパク質である。抗体分子の定常ドメインは、ヒト抗体のそれに由来する。ある特定の実施形態では、親(齧歯類)抗体からの限定数のフレームワーク領域アミノ酸残基を、ヒト抗体フレームワーク領域配列に置換してもよい。
【0071】
用語「抗原結合部位」は、抗原に特異的に結合する領域を含む抗体の一部又は抗体断片を指す。抗原結合部位は、1つ又は複数の抗体可変ドメインによって提供されうる。好ましくは、抗原結合部位は、抗体又は抗体断片の会合したVH及びVL内に含まれる。
【0072】
抗体断片は、抗体の一部、例えば、F(ab')2、Fab、Fv、sFv、及びその他である。完全長の抗体の機能的断片は、完全長の抗体の標的特異性を保持する。したがって、組換えの機能的抗体断片、例えばFab(断片、抗体)、scFv(一本鎖可変鎖断片)、及びシングルドメイン抗体(dAb)は、mAbに基づく治療薬の代替として治療薬を開発するために使用されている。
【0073】
scFv断片(約25kDa)は、2つの可変ドメイン、VH及びVLからなる。天然において、VH及びVLドメインは、疎水性相互作用を介して非共有結合により会合し、解離する傾向がある。しかし、ドメインを親水性のフレキシブルリンカーに連結して一本鎖Fv(scFv)を作製することによって、安定な断片を工学操作することができる。
【0074】
最小の抗原結合断片は、単一の可変断片、すなわちVH又はVLドメインである。軽鎖/重鎖パートナーに対する結合はそれぞれ、標的結合にとって必要ではない。そのような断片は、シングルドメイン抗体において使用される。したがって、シングルドメイン抗体(約12~15kDa)は、VH又はVLドメインのいずれかを有する。
【0075】
一態様では、本発明は、単離されたシングルドメイン抗体、単離された可変シングルドメイン、又は単離された免疫グロブリンシングル可変ドメインに関し、前記単離されたシングルドメイン抗体、単離された可変シングルドメイン、又は単離された免疫グロブリンシングル可変ドメインは、ヒトPD-1に結合し、PD-1とPD-L1又はPD-L2との相互作用を遮断する。
【0076】
用語「シングルドメイン抗体、可変シングルドメイン、又は免疫グロブリンシングル可変ドメイン(ISV)」は、全て当技術分野で周知であり、標的抗原に結合する抗体の単一の可変断片を記載する。これらの用語は、本明細書において互換的に使用される。以下に説明するように、本発明の様々な態様の好ましい実施形態は、軽鎖の非存在下でPD-1抗原に結合する単一の重鎖可変ドメイン抗体/免疫グロブリン重鎖シングル可変ドメインに関する。ヒト重鎖シングル可変ドメイン抗体が特に好ましい。そのような結合分子はまた、本明細書においてHumabody(登録商標)と呼ばれる。Humabody(登録商標)は、Crescendo Biologics Ltd社の登録商標である。
【0077】
このように、一部の好ましい実施形態では、本発明の単離された結合剤/分子は、前記ドメインがヒト重鎖可変ドメインである少なくとも1つのシングルドメイン抗体を含むか、又はそれからなる。このように、一態様では、本発明の結合剤は、少なくとも1つのヒト免疫グロブリンシングル可変重鎖ドメインを含むか、又はそれからなり、それらはVLドメインを欠如する。
【0078】
用語「単離された」シングルドメイン抗体は、他のシングルドメイン抗体、異なる抗原特異性を有する抗体又は抗体断片を実質的に含まないシングルドメイン抗体を指す。その上、単離されたシングルドメイン抗体は、他の細胞材料及び/又は化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0079】
本明細書で使用する場合の「ブロッキングシングルドメイン抗体又はブロッキング抗体」又は「中和シングルドメイン抗体又は中和抗体」は、PD-1に対するその結合によって、PD-1の少なくとも1つの生物活性の阻害が起こる抗体を指す。例えば、本発明のシングルドメイン抗体は、PD-L1及び/又はPD-L2に対するPD-1の結合を防止又は遮断しうる。一実施形態では、本発明のシングルドメイン抗体は、PD-L1に対するPD-1の結合を遮断する。一実施形態では、本発明のシングルドメイン抗体は、PD-L2に対するPD-1の結合を遮断する。
【0080】
各々のシングルVHドメイン抗体は、3つのCDRと4つのFRとを含み、これらはアミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順序:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4で整列した。このように、本発明の一実施形態では、ドメインは、以下の式:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4を有するヒト可変重鎖(VH)ドメインである。
【0081】
本発明のシングルドメイン抗体に対して、その特性を改善するためにC末端又はN末端VHフレームワーク配列に対する修飾を行ってもよい。例えば、VHドメインは、C末端又はN末端の伸長又は欠失を含みうる。C末端伸長は、残基VTVSS(配列番号585)で終止するVHドメインのC末端に付加することができる。
【0082】
一実施形態では、本発明のシングルドメイン抗体は、1から50残基、例えば1から25、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個の追加のアミノ酸のC末端伸長又は欠失を含む。一実施形態では、本発明のシングルドメイン抗体は、ヒトCH1ドメインの追加のアミノ酸を含み、このためC末端はCH1ドメイン内に伸長する。一実施形態では、前記伸長は、少なくとも1つのアラニン残基、例えば単一のアラニン残基、一対のアラニン残基、又は3つのアラニン残基を含む。
【0083】
さらなるC末端又はN末端残基は、本発明のシングルドメイン抗体を、分子の検出を助ける別の部分又はタグにコンジュゲートするために使用されるリンカーでありうる。そのようなタグは当技術分野で周知であり、例えばリンカーHisタグ、例えばヘキサHis(HHHHHH、配列番号586)又はmycタグを含む。
【0084】
本明細書に使用される場合、用語「相同性」は一般的に、配列を整列させた後に、及び一部の実施形態では最大のパーセント相同性を達成するために必要に応じてギャップを導入した後に、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮することなく比較される参照ポリペプチドの残基と同一である配列におけるアミノ酸残基の百分率を指す。このように、2つのアミノ酸配列間のパーセント相同性は、2つの配列間のパーセント同一性と同等である。N末端若しくはC末端の伸長、タグ、又は挿入はいずれも、同一性又は相同性を低減させると解釈すべきではない。アライメントのための方法及びコンピュータープログラムは周知である。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、周知の数学的アルゴリズムを使用して決定することができる。
【0085】
本発明の様々な態様及び実施形態に従って、本発明のシングルドメイン抗体の可変ドメインは、好ましくはヒト可変ドメイン(VH)である。本明細書に使用される場合、ヒトVHドメインは、完全にヒトの又は実質的に完全にヒトのVHドメインを含む。本明細書に使用される場合、用語ヒトVHドメインはまた、例えば、国際公開第2016/062990号及び実施例に記載されるように、特に目的の抗原による免疫に応答して完全にヒトの免疫グロブリン重鎖座を発現するトランスジェニックマウスによって作製される重鎖のみの抗体から単離されるVHドメインも含む。一実施形態では、ヒトVHドメインはまた、ヒトVHドメインアミノ酸又はそのようなVHドメインをコードする核酸配列に由来する又は基づくVHドメインも含む。このため、用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する又はそれによってコードされる可変重鎖領域を含む。実質的にヒトのVHドメイン、又はヒトVHドメインに由来する若しくは基づくVHドメインは、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、in vitroで、例えばランダム若しくは部位特異的変異誘発によって導入された変異、又はin vivoで体細胞変異によって導入された変異)を含みうる。したがって、用語「ヒトVHドメイン」は、1つ又は複数のアミノ酸残基が改変されている実質的にヒトのVHドメインも含む。例えば、実質的にヒトのVHドメインは、完全にヒトの配列と比較して最大10個、例えば、1、2、3、4、又は5個のアミノ酸改変を含みうる。
【0086】
しかし、本明細書に使用される場合の用語「ヒトVHドメイン」又は「実質的にヒトのVHドメイン」は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植されている抗体を含まないと意図される。好ましくは、本明細書に使用される場合の用語「ヒトVHドメイン」は、1つ又は複数の既定の残基をラクダ化VHHドメインにおいて見出されうる特定の残基へと変化させるために、VHドメイン配列における既定の位置を選択して既定の位置で1つ又は複数の点突然変異を導入するように、例えば通常の変異誘発法によってin vitroで特に改変されているヒトVHドメインであるラクダ化VHドメインを含まないと意図される。
【0087】
一実施形態では、本発明は、以下のTable 1(表1)に示されるCDR3配列、又はそれと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、若しくはそれより高い配列同一性を有する配列を含む、ヒトPD-1に結合する単離されたシングルVHドメイン抗体に関する。例えば、ヒトPD-1に結合することができるシングルVHドメイン抗体は、配列番号3若しくは441から選択されるCDR3配列、又はこれらの配列のうちの1つと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、若しくはそれより高い配列相同性を有する配列を含みうる。一実施形態では、前記配列相同性は、少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%である。一実施形態では、前記配列相同性は、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%である。
【0088】
一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、配列番号1又は1若しくは2個のアミノ酸置換を有する配列番号1に示されるCDR1、配列番号2又は1から5個のアミノ酸置換を有する配列番号2に示されるCDR2、及び配列番号3又は1から5個のアミノ酸置換を有する配列番号3に示されるCDR3を有する。
【0089】
一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、配列番号3を含むCDR3配列、又は配列番号3と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%の相同性を有する配列を有する。一実施形態では、前記配列相同性は、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%である。
【0090】
一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、Table 1(表1)のCDR1、2、及び3配列、又はその組合せから選択されるCDR1、2、及び3配列の組合せを含む。一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、Table 1(表1)におけるクローンのいずれかに関して示されるCDR1、2、及び3配列の組から選択される一組のCDR1、2、及び3配列を含む。このように、一態様では、単離されたシングルドメイン抗体は、完全長の配列である配列番号4、8、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、64、68、72、76、80、104、108、112、116、120、124、128、132、136、140、144、148、152、156、160、164、168、172、176、180、184、188、192、196、200、204、208、212、216、220、224、228、232、236、240、244、248、252、256、260、264、268、272、276、280、284、288、292、369、373、377、381、385、389、393、397、401、405、409、413、417、421、425、429、433、437、441、445、449、453、457、461、465、469、473、477、481、485、489、493、497、501、505、509、513、517、521、525、529、又は533のCDR1~3から選択されるCDR1、CDR2、及びCDR3を含む。
【0091】
したがって、一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、配列番号1を有するCDR1、配列番号2を有するCDR2、及び配列番号3を有するCDR3(配列番号4のCDR)、配列番号5を有するCDR1、配列番号6を有するCDR2、及び配列番号7を有するCDR3(配列番号8のCDR)等々を含む。このようにVHシングルドメイン抗体は、以下のCDRの組合せ:配列番号1、2、3;配列番号5、6、7;配列番号9、10、11;配列番号13、14、15;配列番号17、18、19;配列番号21、22、23;配列番号25、26、27;配列番号29、30、31;配列番号33、34、35;配列番号37、38、39;配列番号41、42、43;配列番号45、46、47;配列番号49、50、51;配列番号53、54、55;配列番号57、58、59;配列番号61、62、63;配列番号65、66、67;配列番号69、70、71;配列番号73、74、75;配列番号77、78、79;配列番号101、102、103;配列番号105、106、107;配列番号109、110、111;配列番号113、114、115;配列番号117、118、119;配列番号121、122、123;配列番号125、126、127;配列番号129、130、131;配列番号133、134、15;配列番号137、18、139;配列番号141、142、143;配列番号145、146、147;配列番号149、150、151;配列番号153、154、155;配列番号157、158、159;配列番号161、162、163;配列番号165、166、167;配列番号169、170、171;配列番号173、174、175;配列番号177、178、179;配列番号181、182、183;配列番号185、186、187;配列番号189、190、191;配列番号193、194、195;配列番号197、198、199;配列番号201、202、203;配列番号205、206、207;配列番号209、210、211;配列番号213、214、215;配列番号217、218、219;配列番号221、222、223;配列番号225、226、227;配列番号229、230、231;配列番号233、234、235;配列番号237、238、239;配列番号241、242、243;配列番号245、246、247;配列番号249、250、251;配列番号253、254、255;配列番号257、258、259;配列番号261、262、263;配列番号265、266、267;配列番号269、270、271;配列番号273、274、275;配列番号277、278、279;配列番号281、282、283;配列番号285、286、287;配列番号289、290、291;配列番号366、367、368;配列番号370、371、372;配列番号374、375、376;配列番号378、379、380;配列番号382、383、384;配列番号386、387、388;配列番号390、391、392;配列番号394、395、396;配列番号398、399、400;配列番号403、403、404;配列番号406、407、408;配列番号410、411、412;配列番号414、415、416;配列番号418、419、420;配列番号422、423、425;配列番号426、427、428;配列番号430、431、432;配列番号434、436、436;配列番号438、439、440;配列番号442、443、444;配列番号446、447、448;配列番号450、451、452;配列番号454、455、456;配列番号458、459、460;配列番号462、463、464;配列番号466、467、468;配列番号470、471、472;配列番号474、475、476;配列番号478、479、480;配列番号482、483、484;配列番号486、487、488;配列番号490、491、492;配列番号494、495、496;配列番号498、499、500;配列番号502、503、504;配列番号506、507、508;配列番号510、511、512;配列番号514、515、516;配列番号518、519、520;配列番号522、523、524;配列番号526、527、528;配列番号530、531、532のうちの1つを含む。一実施形態では、CDRは配列番号438、439、440である。
【0092】
別の実施形態では、前記CDR1は、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の相同性を有する配列を含むか、又はからなる。一実施形態では、前記CDR2は、配列番号2のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の相同性を有する配列を含むか、又はからなる。一実施形態では、前記CDR3は、配列番号3のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%の相同性を有する配列を含むか、又はからなる。
【0093】
別の実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、Table 1(表1)におけるVHシングルドメイン抗体1.1から1.115のうちのいずれか1つに関して示されるポリペプチド配列、又はそれと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、若しくはそれより高い配列相同性を有する配列を含むか、又はからなる。一実施形態では、本発明は、VHシングルドメイン抗体1.41から1.115のいずれかに関して示されるCDR1、CDR2、及びCDR3の組合せを有するVHシングルドメイン抗体に関する。一実施形態では、本発明は、VHシングルドメイン抗体1.57に関して示されるCDR1、CDR2、及びCDR3配列を有するVHシングルドメイン抗体に関する。一実施形態では、本発明は、VHシングルドメイン抗体1.62から1.73のいずれかに関して示されるCDR1、CDR2、及びCDR3の組合せを有するVHシングルドメイン抗体に関する。一実施形態では、本発明は、VHシングルドメイン抗体1.74から1.115のいずれかに関して示されるCDR1、CDR2、及びCDR3の組合せを有するVHシングルドメイン抗体に関する。一実施形態では、本発明は、VHシングルドメイン抗体1.92の場合のようなCDR1、CDR2、及びCDR3の組合せを有するVHシングルドメイン抗体に関する。
【0094】
一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、配列番号4、8、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、64、68、72、76、80、104、108、112、116、120、124、128、132、136、140、144、148、152、156、160、164、168、172、176、180、184、188、192、196、200、204、208、212、216、220、224、228、232、236、240、244、248、252、256、260、264、268、272、276、280、284、288、292、369、373、377、381、385、389、393、397、401、405、409、413、417、421、425、429、433、437、441、445、449、453、457、461、465、469、473、477、481、485、489、493、497、501、505、509、513、517、521、525、529、若しくは533から選択されるアミノ酸配列、又はそれと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、若しくはそれより高い配列相同性を有する配列を含むか、又はからなる。一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、配列番号4、228、232、236、240、244、248、252、256、260、369、373、377、381、385、389、393、397、401、405、409、413、417、421、425、429、433、437、441、445、449、453、457、461、465、469、473、477、481、485、489、493、497、501、505、509、513、517、521、525、529、若しくは533から選択される配列、又はそれと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、若しくはそれより高い配列相同性を有する配列を含むか、又はからなる。一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、配列番号4、228、381、176、381、441から選択される配列、又はそれと少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、若しくはそれより高い配列相同性を有する配列を含むか、又はからなる。一実施形態では、前記配列相同性は、少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%である。一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、配列番号441を含むか、又はからなる。
【0095】
【表1A】
【0096】
【表1B】
【0097】
【表1C】
【0098】
【表1D】
【0099】
【表1E】
【0100】
【表1F】
【0101】
【表1G】
【0102】
【表1H】
【0103】
【表1I】
【0104】
【表1J】
【0105】
【表1K】
【0106】
【表1L】
【0107】
【表1M】
【0108】
一部の実施形態では、本発明は、1つ又は複数のアミノ酸置換、欠失、挿入、又は他の改変を有する上記のシングルVHドメイン抗体のいずれかの多様体であり、シングルドメイン抗体の生物機能を保持しているVHシングルドメイン抗体を提供する。このように、多様体VHシングルドメイン抗体の配列を、操作することができる。改変は、ネイティブ配列のVHドメイン抗体又はポリペプチドと比較してアミノ酸配列に変化が起こる1つ又は複数の置換、欠失、又は挿入を含みうる。アミノ酸置換は、1つのアミノ酸の、類似の構造及び/又は化学特性を有する別のアミノ酸への交換、例えばロイシンのセリンへの交換、すなわち保存的アミノ酸交換の結果でありうる。挿入又は欠失は、任意選択で約1から5アミノ酸の範囲でありうる。配列においてアミノ酸の挿入、欠失、又は置換を系統的に作製すること、及び得られた多様体を、完全長又は成熟ネイティブ配列によって示される活性に関して試験することによって、許容される多様性を決定してもよい。本明細書に記載されるVHシングルドメイン抗体の多様体は、非多様体分子と少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列相同性を有し、好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列相同性を有する。
【0109】
一実施形態では、改変は、保存的配列改変である。本明細書において使用される場合、用語「保存的配列改変」は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特徴に有意に影響を及ぼさない又は変化させないアミノ酸改変を指すと意図される。そのような保存的改変は、アミノ酸置換、付加、及び欠失を含む。改変は、当技術分野で公知の標準的な技術、例えば部位特異的変異誘発及びPCR媒介変異誘発によって本発明の抗体に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基を、類似の側鎖を有するアミノ酸残基と交換する置換である。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーが当技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。このように、本発明のシングルドメイン抗体のCDR領域内の1つ又は複数のアミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基と交換することができ、変化した抗体を、本明細書に記載される機能的アッセイを使用して機能(すなわち、上記の(c)から(l)に記載の機能)の保持に関して試験することができる。
【0110】
一部の実施形態では、本発明は、非改変のシングルドメイン抗体と比較して、1つ又は複数の配列改変を含み、結合親和性、特異性、熱安定性、発現レベル、エフェクター機能、グリコシル化、低減された免疫原性、又は溶解性などの特性の1つ又は複数が改善されている、Table 1(表1)に示される抗体から選択されるシングルドメイン抗体の多様体であるVHシングルドメイン抗体を提供する。
【0111】
当業者は、本明細書に記載される抗原結合分子を同定する、得る、及び最適化するために、in vitro及びin vivo発現ライブラリを含む異なる方法が存在することを承知しているであろう。これを実施例において更に説明する。ディスプレイ(例えば、リボソーム及び/又はファージディスプレイ)及び/又は変異誘発(例えば、誤りがちな変異誘発)などの、当技術分野で公知の最適化技術を使用することができる。したがって、本発明はまた、本明細書に記載のシングルドメイン抗体の配列最適化多様体も含む。
【0112】
一実施形態では、シングルドメイン抗体の免疫原性を減少させる改変を行うことができる。例えば、1つのアプローチは、1つ又は複数のフレームワーク残基を、対応するヒト生殖系列配列に復帰させることである。より具体的には、体細胞変異を受けたシングルドメイン抗体は、シングルドメイン抗体が由来する生殖系列配列とは異なるフレームワーク残基を含んでもよい。そのような残基は、シングルドメイン抗体フレームワーク配列を、シングルドメイン抗体が由来する生殖系列配列と比較することによって同定することができる。
【0113】
フレームワーク領域配列におけるアミノ酸残基の1つ又は複数を、その生殖系列構成に戻すために、例えば部位特異的変異誘発又はPCR媒介変異誘発によって、体細胞変異を生殖系列配列に「逆変異」させることができる。
【0114】
別のタイプのフレームワーク改変は、T細胞エピトープを除去するために、フレームワーク領域内の、又は更に1つ若しくは複数のCDR領域内の1つ又は複数の残基を変異させ、それによって抗体の潜在的免疫原性を低減させることを伴う。
【0115】
なお別の実施形態では、抗体のグリコシル化を改変する。例えば、無グリコシル化抗体(すなわち、抗体はグリコシル化を欠如する)を作製することができる。グリコシル化を、例えば、抗原に対する抗体の親和性を増加させるように変化させることができる。そのような炭水化物改変は、例えば抗体配列内のグリコシル化の1つ又は複数の部位を変化させることによって行うことができる。例えば、それによって1つ又は複数の可変領域フレームワークグリコシル化部位が除去され、それによってその部位でのグリコシル化が除去される1つ又は複数のアミノ酸置換を行うことができる。そのような無グリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を増加させうる。
【0116】
一実施形態では、多様体VHシングルドメイン抗体は、配列番号4、8、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、64、68、72、76、80、84、88、92、96、100、104、108、112、116、120、124、128、132、136、140、144、148、152、156、160、164、168、172、176、180、184、188、192、196、200、204、208、212、216、220、224、228、232、236、240、244、248、252、256、260、264、268、272、276、280、284、288、又は292のうちのいずれか1つから選択されるが、これらの配列と比較して1つ又は複数のアミノ酸置換、例えば、1から20個、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のアミノ酸置換を含む。一実施形態では、多様体VHシングルドメイン抗体は、配列番号4から選択される。一実施形態では、多様体VHシングルドメイン抗体は、配列番号228、256、又は441から選択される。一実施形態では、1つ又は複数のアミノ酸置換は、フレームワーク領域の1つ又は複数に存在する。別の実施形態では、1つ又は複数のアミノ酸置換はCDRの1つ又は複数に存在する。一実施形態では、アミノ酸置換は、フレームワーク及びCDR配列に存在する。一実施形態では、シングルドメイン抗体は、配列番号4、228、441、又は1つ若しくは複数のアミノ酸置換、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10個のアミノ酸置換を含む配列を含む、又はからなる。
【0117】
このように、これらのアミノ酸変化は、典型的に、ポリペプチドの生物活性、機能、又は他の所望の特性、例えば抗原に対するその親和性又はその特異性を変化させることなく作製することができる。一般的に、ポリペプチドの非必須領域における一アミノ酸置換は、生物活性を実質的に変化させない。更に、構造又は機能が類似であるアミノ酸の置換は、ポリペプチドの生物活性を破壊する可能性がより低い。本明細書に記載されるポリペプチド及びペプチドを構成するアミノ酸残基の略語、及びこれらのアミノ酸残基の保存的置換を、以下のTable 3(表2)に示す。
【0118】
【表2】
【0119】
一実施形態では、1位のQをEに交換する。
【0120】
一実施形態では、多様体VHシングルドメイン抗体は、配列番号4(Humabody(登録商標)1.1)を含むが、1つ又は複数の以下の位置:Y32、T33、T53、T56、I57、K58、Y59、T61、及び/又はW115でアミノ酸置換を有する。
【0121】
一実施形態では、VHシングルドメイン抗体は、配列番号4(Humabody(登録商標)1.1)を含むが、以下のアミノ酸置換:Y32→N、T33→S、T53→S、T56→G、I57→V、K58→I、Y59→F、T61→A、W115→S(Humabody(登録商標)1.57)を有する。
【0122】
一実施形態では、多様体VHシングルドメイン抗体は、配列番号228(Humabody(登録商標)1.57)を含むが、以下の位置:D31、N32、I58、A61、T35、S30、G56、S25Q117、M120、及び/又はQ1のうちの1つ又は複数又は全てでアミノ酸置換を有する。
【0123】
一実施形態では、多様体VHシングルドメイン抗体は、配列番号228(Humabody(登録商標)1.57)を含むが、以下:
1)D31→G、N32→S(Humabody(登録商標) 1.67);
2)S30→G、D31→G、N32→S、I58→K、A61→T(Humabody(登録商標)1.71);
3)T35→S(1.69);
4)S30→G、N32→S、G56→A、I58→K、A61→T(Humabody(登録商標)1.70);
5)S25→T、N32→S、S53→A、I58→R、A61→T(Humabody(登録商標)1.73);
6)N32→S、I58→K、A61→T、N84→D、I114→T(Humabody(登録商標)1.66);
7)S30→G、Q117→R、M120→T(Humabody(登録商標)1.68);
8)N32→S、T35→S(Humabody(登録商標)1.72);
9)N32→S、G56→A、I58→K、A61→T(Humabody(登録商標)1.62);
10)N32→S、I58→K(Humabody(登録商標)1.65);
11)Q1→E、N32→S、I58→K(Humabody(登録商標)1.64);
12)Q1→E、N32→S、I58→K、A61→T(Humabody(登録商標)1.63)
のうちの1つから選択されるアミノ酸置換を有する。
【0124】
一実施形態では、多様体VHシングルドメイン抗体は、配列番号256(Humabody(登録商標)1.64)を含むが、以下の位置:S32、D90、及び/又はA61のうちの1つ又は複数又は全てでアミノ酸置換を有する。
【0125】
一実施形態では、多様体VHシングルドメイン抗体は、配列番号256(Humabody(登録商標)1.64)を含むが、以下:
1.S32→E、D90→E(Humabody(登録商標)1.92)
2.S32→R、D90→E(Humabody(登録商標)1.99)
3.S32→Y、D90→E(Humabody(登録商標)1.89)
4.S32→E、D90→E A61→T(Humabody(登録商標)1.84)
5.D85→E A60→T(Humabody(登録商標)1.77)
6.S32→T、D90→E A60→T(Humabody(登録商標)1.82)
のうちの1つから選択されるアミノ酸置換を有する。
【0126】
上記で使用した付番は、残基の実際の位置に基づく。
【0127】
本発明のVHシングルドメイン抗体は、優れた安定性を示す。更に、本発明のVHシングルドメイン抗体はまた、ヒトPD-1に対して特異性を示し、カニクイザルPD-1に結合し、速いオンレート(on rate)を有する(実施例を参照されたい)。
【0128】
本発明のVHシングルドメイン抗体は、好ましくは本明細書において詳しく説明し、実施例で示されるKD、IC50、及び/又はEC50値を有する。VHシングルドメイン抗体は、ヒトPD-1に対して高い親和性で特異的に結合し、KDは、表面プラズモン共鳴(生体分子相互作用解析、BIAcore(登録商標))によって測定した場合に、少なくとも約10-8M~10-12M、例えば10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、又は10-12Mでありうる。本発明に従うシングルドメイン抗体は、機能的アッセイにおいて決定した場合に、好ましくはPD-1の阻害に関して10-8M~10-9Mの範囲のIC50値を有する。
【0129】
用語「KD」は、「平衡解離定数」を指し、平衡時の滴定測定で得た値、又は解離速度定数(Koff)を結合速度定数(Kon)で除算することによって得た値を指す。「KA」は、親和性定数を指す。結合速度定数、解離速度定数、及び平衡解離定数は、抗原に対する抗体の結合親和性を表すために使用される。結合及び解離速度定数を決定する方法は、当技術分野で周知である。蛍光ベースの技術を使用することにより、高い感度が得られ、平衡時に生理的緩衝液中で試料を調べることができる。BIAcore(登録商標)アッセイなどの他の実験アプローチ及び機器を使用することができる。
【0130】
本発明は更に、本発明のシングルドメイン抗体をコードする単離された核酸を提供する。核酸は、DNA及び/又はRNAを含みうる。一態様では、本発明は、CDR、例えばCDR3、2つ又は3つのCDRの組、又はTable 1(表1)に示される、及び上記で詳しく定義されるVHシングルドメイン抗体をコードする核酸を提供する。
【0131】
一態様では、本発明はこのように、配列番号293~365、及び534~575から選択される配列を含むか、又はからなる核酸配列にも関する。これらの核酸配列は、Table 1(表1)に示されるVHシングルドメイン抗体をコードする。
【0132】
一実施形態では、核酸配列は、配列番号293~365から選択される配列と、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、又はそれより高い配列相同性を有する。一実施形態では、前記配列相同性は、少なくとも60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%である。
【0133】
本発明に従う核酸は、DNA又はRNAを含んでもよく、完全又は部分的に合成又は組換えによって産生されてもよい。本明細書に記載されるヌクレオチド配列という言及は、明記された配列を有するDNA分子を包含し、本文がそれ以外であることを必要としていない限り、UがTの代わりに置換されている明記された配列を有するRNA分子を包含する。
【0134】
更に、本発明は、上記の少なくとも1つの核酸を含む核酸構築物に関する。構築物は、プラスミド、ベクター、転写又は発現カセットの形態でありうる。
【0135】
本発明はまた、上記の1つ又は複数の核酸構築物を含む単離された組換え宿主細胞にも関する。宿主細胞は、細菌、ウイルス、昆虫、植物、哺乳動物又は他の適した宿主細胞でありうる。一実施形態では、細胞は、大腸菌(E. coli)細胞である。別の実施形態では、細胞は酵母細胞である。別の実施形態では、細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0136】
一実施形態では、本明細書に記載される抗PD-1シングルドメイン抗体を作製する方法が提供され、方法は、シングルドメイン抗体をコードするポリヌクレオチドの発現にとって適した条件で宿主細胞を培養する工程、及びシングルドメイン抗体を単離する工程を含む。
【0137】
別の態様では、本発明は、本発明のPD-1シングルドメイン抗体のいずれかと、ヒトPD-1上の同じエピトープに結合する結合分子、例えば抗体、抗体断片、又は抗体模倣体を提供する(すなわち、PD-1に対する結合に関してTable 1(表1)のシングルドメイン抗体のいずれかと交叉競合する能力を有する抗体。このように、本発明のシングルドメイン抗体は、参照抗体として使用することができる)。好ましい実施形態では、交叉競合試験のための参照抗体は、シングルドメイン抗体1.1(配列番号4)、1.57(配列番号228)、又は1.92(配列番号441)である。
【0138】
そのような交叉競合抗体は、標準的なPD-1結合アッセイにおいてシングルドメイン抗体1.1~1.115のいずれかと交叉競合するその能力に基づいて同定することができる。例えば、BIAcore(登録商標)分析、ELISAアッセイ、又はフローサイトメトリーを使用して、本発明のシングルドメイン抗体との交叉競合を証明してもよい。
【0139】
一実施形態では、本発明は、上記のシングルドメイン抗体のいずれか1つが、競合アッセイにおいて結合剤を置換する、ヒトPD-1に結合することができる結合剤を提供する。一実施形態では、前記シングルドメイン抗体は、1.1(配列番号4)、1.57(配列番号228)、又は1.92(配列番号441)から選択される。一部の実施形態では、結合剤は、抗体、その機能的断片、例えばシングルドメイン抗体、又は抗体模倣タンパク質である。別の態様では、本発明は、結合剤が、競合アッセイにおいて上記のシングルドメイン抗体のいずれか1つを置換する、ヒトPD-1に結合することができる結合剤を提供する。一実施形態では、前記シングルドメイン抗体は、配列番号1.1(配列番号4)、1.57(配列番号228)、又は1.92(配列番号441)から選択される。別の態様では、本発明は、結合剤が、本発明のシングルドメイン抗体と本質的に同じエピトープに結合する、ヒトPD-1に結合することができる結合剤を提供する。
【0140】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載される及びTable1(表1)に記載されるVHドメインを含むか、又はそれと少なくとも70%、80%、若しくは90%の相同性を有する単離された重鎖のみの抗体を提供する。
【0141】
一態様では、本発明は、本発明に従うシングルドメイン抗体と少なくとも第2の部分とを含む結合剤に関する。このように、本発明はまた、多機能分子も提供する。一実施形態では、少なくとも第2の部分は、例えば抗体、又は抗体断片(例えば、Fab、F(ab')2、Fv、一本鎖Fv断片(scFv)、又はシングルドメイン抗体、例えばVHドメイン)、又は抗体模倣タンパク質から選択される結合分子である。一実施形態では、少なくとも第2の部分は、VHドメインである。一実施形態では、本発明のシングルドメイン抗体は、CH2及びCH3ドメインの1つ又は両方、及び任意選択でヒンジ領域を含む、抗体Fc領域又はその断片に連結させることができる。
【0142】
結合剤は、多価、例えば二価、又はマルチパラトープ性、例えば二パラトープ性でありうる。このように、結合分子は、第1のVHシングルドメイン抗体及びVH(A)、並びに第2のVHシングルドメイン抗体及びVH(B)を含んでもよく、このように、以下の式:VH(A)-VH(B)を有する。
【0143】
各々のVHは、CDR及びFR領域を含む。このように、結合分子は、以下の式:FR1(A)-CDR1(A)-FR2(A)-CDR2(A)-FR3(A)-CDR3(A)-FR4(A)-FR1(B)-CDR1(B)-FR2(B)-CDR2(BA)-FR3(B)-CDR3(B)-FR4(B)を有しうる。免疫グロブリンシングル可変ドメインA及びBの順序は特に限定されず、そのため、本発明のポリペプチドにおいて、免疫グロブリンシングル可変ドメインAはN末端に位置してもよく、免疫グロブリンシングル可変ドメインBはC末端に位置してもよく、又はその逆であってもよい。VHドメイン抗体は、典型的にリンカーを介して接続される。
【0144】
一実施形態では、結合分子は、二パラトープ性又は二特異性である。このように一態様では、本発明は、前記シングルドメイン抗体とは異なる結合特異性を有する第2の機能的部分に連結された本明細書に記載されるシングルドメイン抗体を含む二特異性分子に関する。
【0145】
一実施形態では、標的タンパク質PD-1に結合するが、異なる又は重複する部位に存在する第1及び第2の結合分子を含む、二パラトープ性結合分子が提供される。エピトープビニング試験では、完全な又は部分的なブロッキングが見出されうる。第1の結合分子は、本発明に従うシングルドメイン抗体である。一実施形態では、第2の結合分子は、ヒトPD-1とそのリガンドの1つとの相互作用を遮断するPD-1阻害剤である。一実施形態では、第2の結合分子は、PD-1とPD-L1との相互作用を遮断する。一実施形態では、第2の結合分子は、PD-1とPD-L2との相互作用を遮断する。一実施形態では、第2の結合分子は、PD-1とPD-L1及びPD-L2との相互作用を遮断する。第1の結合分子と第2の結合分子の順序は特に限定されず、逆にすることができる。
【0146】
一実施形態では、PD-1阻害剤は、VHシングルドメイン抗体である。このように、別の態様は、以下の式:VH(A)-L-VH(B)を有する結合分子に関し、式中VH(A)-は、本明細書に開示されるVHシングルドメイン抗体であり、VH(B)は、PD-L1及び/又はPD-L2に対するPD-1の結合を遮断するVHシングルドメイン抗体である。Lはリンカーである。適したリンカーには、例えばGS残基を有するリンカー、例えば(Gly4Ser)nが挙げられ、式中n=1~20、例えば、1~10、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10である。一実施形態では、リンカーは、(Gly4Ser)nであり、式中n=4又はそれより多い。別の実施形態では、方向はVH(B)-L-VH(A)である。
【0147】
本明細書において証明したように、本発明者らは、意外にも、以下の式:VH(A)-L-VH(B)(式中VH(A)は、ブロッキング分子であり、Bは上記の非ブロッキング分子である)を有する結合分子が、PD-L1及び/又はPD-L2に対するPD-1の結合を遮断するが、非ブロッキングVHシングルドメイン抗体に連結していないVHシングルドメイン抗体と比較して増強された効果を提供することを示した。効果は、一価の遮断剤と比較して10~25倍である。このように、本明細書に記載されるVHシングルドメイン抗体は、二パラトープ性分子においてPD-L1及び/又はPD-L2に対するPD-1の結合を遮断しないVHシングルドメイン抗体との組合せのために特に有用である。
【0148】
一実施形態では、PD-1阻害剤は、Nivolumab(登録商標)、Pembrolizumab(登録商標)、又はPidilizumab(登録商標)から選択される抗PD-1抗体である。一部の実施形態では、抗PD-1抗体は、Nivolumab(登録商標)である。Nivolumab(登録商標)の代替名には、MDX-1106、MDX-1106-04、ONO-4538、又はBMS-936558が挙げられる。他の実施形態では、抗PD-1抗体は、Pembrolizumab(登録商標)である。Pembrolizumab(登録商標)(商品名KEYTRUDA(登録商標)、過去の名称Lambrolizumab(登録商標)、同様にMerck3745、MK-3475、又はSCH-900475としても知られる)は、PD-1に結合するヒト化IgG4モノクローナル抗体である。一部の実施形態では、抗PD-1抗体は、Pidilizumab(登録商標)である。Pidilizumab(登録商標)(CT-011;Cure Tech)は、PD-1に結合するヒト化IgG1kモノクローナル抗体である。
【0149】
一実施形態では、PD-1阻害剤は、VHシングルドメイン抗体である。
【0150】
別の実施形態では、第2の結合分子は、PD-1に結合するが、ヒトPD-1とそのリガンドの1つとの相互作用を遮断しないPD-1阻害剤である。このように、本発明はまた、分子、例えばPD-1に結合するが、PD-1とそのリガンドとの機能的相互作用を遮断しないシングルドメイン抗体と共に二パラトープ性構築物における本発明のシングルドメイン抗体の使用にも関する。
【0151】
一実施形態では、結合分子は多価、例えば二価である。二価の結合分子は、同じ部位で同じ標的タンパク質、例えばヒトPD-1に結合する2つのVHシングルドメイン抗体を含む。一実施形態では、そのような分子は、同じHumabody(登録商標)VHを含みうる。別の実施形態では、そのような分子は、同じファミリーの一部である、すなわちTable 1(表1)に示される配列から選択される2つのVHシングルドメイン抗体を含みうる。別の実施形態では、そのような分子は、同じファミリーの一部ではないが、ヒトPD-1上の同じ部位に結合する2つのVHシングルドメイン抗体を含みうる。
【0152】
本発明の二パラトープ性及び二価の結合分子は、当技術分野で公知の方法を使用して構築することができる。
【0153】
ある特定の実施形態では、結合剤は、多特異性、例えば複数の機能を提供する二特異性の結合剤の形態である。そのような多特異性結合剤は、PD-1に対して第1の結合特異性を有する本発明に従うシングルドメイン抗体と、第2の結合特異性を有する少なくとも1つの更なる結合分子とを含む。前記の更なる結合分子は、抗体、抗体断片、又は抗体模倣体から選択することができる。一実施形態では、前記抗体断片は、F(ab')2、Fab、Fv、sFv、又はドメイン抗体から選択される。一実施形態では、前記抗体断片は、VHシングルドメイン抗体である。
【0154】
一実施形態では、結合剤は二特異性であり、PD-1に対して第1の結合特異性を有する本発明に従うシングルドメイン抗体と、第2の結合特異性を有する第2の結合分子とを含む。一実施形態では、第2の結合分子は、免疫調節剤、チェックポイント調節剤、T細胞活性化に関係する薬剤、腫瘍微小環境調節剤(TME)、又は腫瘍特異的標的に結合する。
【0155】
例えば、免疫調節剤は、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、TIM-3、LAG-3、CEACAM、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4、又はTGFRベータのうちの1つ又は複数の阻害剤から選択される免疫チェックポイント分子の阻害剤でありうる。別の実施形態では、免疫調節剤は、IL-2、IL-12、OX40、OX40L、CD2、CD3、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、B7-H3、B7-H4、又はCD83リガンド、CD3、CD8、CD28、CD4、又はICAM-1のうちの1つ又は複数のアゴニストから選択される共刺激分子の活性化剤である。一実施形態では、免疫調節剤は、LAG-3の阻害剤である。
【0156】
一実施形態では、上記の結合剤は、更なる結合分子を含む。このように、結合剤は、三特異性又は四特異性でありうる。更なる特異性も同様に想像される。上記の分子の任意の組合せを、多特異性結合剤、例えば本発明のシングルドメイン抗体と第2及び第3の結合特異性とを含む三特異性結合剤において作製することができる。
【0157】
別の実施形態では、少なくとも第2の部分は、結合分子の半減期を延長させるように作用しうる。第2の部分は、血清アルブミン、例えばヒト血清アルブミン(HAS)又はマウス血清アルブミン(MSA)に結合するタンパク質、例えば抗体又はその一部を含みうる。第2の部分は、血清アルブミン、例えばヒト血清アルブミン(HAS)又はマウス血清アルブミン(MSA)に結合するVHドメインを含みうる。
【0158】
第2の部分は、血清アルブミン、例えばヒト血清アルブミン(HSA)又はその多様体、例えばHSA C34Sを含みうる。更に、例えばVHドメインがFcドメインに融合されている、VHドメインとFcドメインとを含む本明細書に記載される結合分子も提供される。更に、第2の抗原に特異的に結合する第2の可変ドメインを含む結合分子も提供され、第2の抗原はヒトPD-1以外の抗原である。第2の抗原は、白血球分化抗原(CD)分子又は主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子でありうる。
【0159】
一実施形態では、本発明の抗PD-1シングルドメイン抗体又は多価結合剤は、検出可能な標識又は機能的標識によって標識される。標識は、フルオロフォア、蛍光剤、放射標識、酵素、化学発光剤、核磁気共鳴活性標識、又は光感作剤を含むがこれらに限定されない、シグナルを産生する又は産生するように誘導することができる任意の分子でありうる。このように、結合剤は、蛍光若しくは発光、放射活性、酵素活性、又は吸光を検出することによって検出及び/又は測定してもよい。
【0160】
なお他の実施形態では、本発明の抗PD-1シングルドメイン抗体又は多価結合剤は、少なくとも1つの治療部分、例えば薬物、酵素、又は毒素にカップリングされる。一実施形態では、治療部分は、毒素、例えば細胞傷害性放射性核種、化学毒素、又はタンパク質毒素である。
【0161】
別の態様では、本発明の抗PD-1シングルドメイン抗体又は多価結合剤は、例えば化学改変、特にPEG化によって、又はリポソームへの取り込みによって、又は血清アルブミンタンパク質を使用することによって、半減期を増加させるように改変される。
【0162】
半減期は、本発明の対応するVHシングルドメイン抗体の半減期より少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍、例えば少なくとも5倍、例えば少なくとも10倍、又は20倍超増加させてもよい。例えば、半減期の増加は、本発明の対応するVHシングルドメイン抗体と比較して1時間超、好ましくは2時間超、より好ましくは6時間超、例えば12時間超、又は更に24、48、又は72時間超でありうる。
【0163】
上記の多価結合剤を生成するために、2つの結合分子をリンカー、例えばポリペプチドリンカーによって接続する。適したリンカーには、例えばGS残基を有するリンカー、例えば(Gly4Ser)nが挙げられ、式中n=1~10、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10である。
【0164】
本明細書に記載されるシングルドメイン抗体は、PD-1抗原による刺激時に重鎖のみの抗体を発現するトランスジェニック齧歯類から得ることができる。トランスジェニック齧歯類、例えばマウスは、好ましくは内因性の抗体遺伝子を発現する許容量が低減されている。このように、一実施形態では、齧歯類は、内因性の軽鎖及び/又は重鎖抗体遺伝子を発現する許容量が低減されている。したがって、齧歯類は、例えば以下に詳しく説明するように、機能的な軽鎖及び/又は重鎖が産生されないように、内因性のカッパ及びラムダ軽鎖並びに/又は重鎖抗体遺伝子の発現を妨害する改変を含みうる。
【0165】
本発明はまた、ヒトPD-1に結合することができるヒト重鎖のみの抗体を産生する方法であって、
a)トランスジェニック齧歯類をPD-1抗原によって免疫する工程であって、前記齧歯類が、再構成されていないヒト重鎖V遺伝子を含む核酸構築物を発現し、機能的な内因性の軽鎖又は重鎖を作製することができない工程、
b)ヒト重鎖のみの抗体を単離する工程
を含む方法にも関する。
【0166】
更なる工程は、例えば前記マウスからVHドメイン配列を含む配列のライブラリを生成する工程、及び前記ライブラリからVHドメイン配列を含む配列を単離する工程によって、前記重鎖のみの抗体からVHドメインを単離する工程を含みうる。
【0167】
本発明はまた、ヒトPD-1に結合することができるシングルVHドメイン抗体を産生する方法であって、
a)トランスジェニック齧歯類をPD-1抗原によって免疫する工程であって、前記齧歯類が、再構成されていないヒト重鎖V遺伝子を含む核酸構築物を発現し、機能的な内因性の軽鎖又は重鎖を作製することができない工程、
b)前記マウスからVHドメイン配列を含む配列のライブラリを生成する工程、及び
c)前記ライブラリからVHドメイン配列を含む配列を単離する工程
を含む方法にも関する。
【0168】
更なる工程は、ヒトPD-1に結合し、PD-1とPD-L1との相互作用を遮断するシングルVHドメイン抗体又は重鎖のみの抗体を同定する工程、及び前記抗体を、例えば実施例に示される機能的アッセイを使用することによって単離する工程を含みうる。
【0169】
本明細書に記載されるポリペプチド、核酸、宿主細胞、産物、及び組成物を、in vitro発現ライブラリを使用して調製又は生成する方法は、以下の工程:
a)アミノ酸配列をコードする核酸配列の組、コレクション、又はライブラリを提供する工程;及び
b)PD-1に結合することができる/PD-1に対して親和性を有するアミノ酸配列に関して前記組、コレクション、又はライブラリをスクリーニングする工程;及び
c)PD-1に結合することができる/親和性を有するアミノ酸配列(複数)を単離する工程
を含みうる。
【0170】
上記の方法において、アミノ酸配列の組、コレクション、又はライブラリは、例えばスクリーニングを容易にするために、ファージ、ファージミド、リボソーム、又は適した微生物(例えば、酵母)上に提示されうる。アミノ酸配列(の組、コレクション、又はライブラリ)を提示及びスクリーニングするための適した方法、技術、及び宿主生物は、当業者に明らかである(例えば、Phage Display of Peptides and Proteins: A Laboratory Manual, Academic Press;第1版(10月28日、1996年) Brian K. Kay, Jill Winter, John McCaffertyを参照されたい)。
【0171】
ライブラリ、例えばファージライブラリは、抗原特異的な重鎖のみの抗体を発現する細胞又は組織を単離する工程、単離された細胞又は組織に由来するmRNAからVHドメイン(複数)をコードする配列をクローニングする工程、及びライブラリを使用してコードされるタンパク質を提示する工程によって生成される。VHドメイン(複数)は、細菌、酵母、又は他の発現系において発現させることができる。
【0172】
本発明者らはまた、単離されたVHシングルドメイン抗体、又はヒトVH生殖系列配列のアミノ酸産物を含む、若しくはヒトVH生殖系列配列に由来する、PD-1に結合するVHドメインを含む単離された重鎖のみの抗体にも関する。重鎖のみの抗体は、完全なヒト配列であってもよく、又はマウス配列を含んでもよい。
【0173】
本明細書に記載の本発明の様々な態様では、齧歯類という用語は、マウス又はラットに関連しうる。
【0174】
一実施形態では、齧歯類はマウスである。マウスは、非機能的な内因性のラムダ軽鎖座を含みうる。このように、マウスは、機能的な内因性のラムダ軽鎖を作製しない。一実施形態では、ラムダ軽鎖座を、部分的若しくは完全に欠失させるか、又は挿入、逆位、組換え事象、遺伝子編集、若しくは遺伝子沈黙化を通して非機能的にする。例えば、少なくとも定常領域遺伝子C1、C2、及びC3を欠失させてもよく、又は上記の挿入若しくは他の改変を通して非機能的にしてもよい。一実施形態では、マウスが機能的なラムダ軽鎖を作製しないように、座を機能的に沈黙化させる。
【0175】
更に、マウスは、非機能的な内因性のカッパ軽鎖座を含みうる。このように、マウスは、機能的な内因性のカッパ軽鎖を作製しない。一実施形態では、カッパ軽鎖座を、部分的若しくは完全に欠失させるか、又は挿入、逆位、組換え事象、遺伝子編集、若しくは遺伝子沈黙化を通して非機能的にする。一実施形態では、マウスが機能的なカッパ軽鎖を作製しないように、座を機能的に沈黙化させる。
【0176】
機能的に沈黙化した内因性のラムダ及びカッパL鎖座を有するマウスは、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれている国際公開第2003/000737号に開示されるように作製してもよい。
【0177】
更に、マウスは、非機能的な内因性の重鎖座を含みうる。このように、マウスは、機能的な内因性の重鎖を作製しない。一実施形態では、重鎖座を、部分的若しくは完全に欠失させるか、又は挿入、逆位、組換え事象、遺伝子編集、若しくは遺伝子沈黙化を通して非機能的にする。一実施形態では、マウスが機能的な重鎖を作製しないように、座を機能的に沈黙化させる。
【0178】
例えば、国際公開第2004/076618号(その全体が参照により本明細書に組み込まれている)に記載されているように、8個全ての内因性の重鎖定常領域免疫グロブリン遺伝子(μ、δ、γ3、γ1、γ2a、γ2b、ε、及びα)がマウスにおいて存在しないか、若しくはそれらが非機能的となる程度に部分的に存在せず、又は遺伝子δ、γ3、γ1、γ2a、γ2b及びεは存在しないが、隣接する遺伝子μ及びαは、それらが非機能的となる程度に部分的に存在せず、又は遺伝子μ、δ、γ3、γ1、γ2a、γ2b、及びεは存在しないが、αはそれが非機能的となる程度に部分的に存在せず、又はδ、γ3、γ1、γ2a、γ2b、ε、及びαは存在しないが、μはそれが非機能的となる程度に部分的に存在しない。部分的に欠失させるとは、内因性の座の遺伝子配列が、機能的な内因性の遺伝子産物が座によってコードされない程度に、すなわち機能的産物が座から発現されないように、欠失しているか又は例えば挿入によって破壊されていることを意味する。別の実施形態では、座は機能的に沈黙化している。
【0179】
一実施形態では、マウスは、非機能的な内因性の重鎖座、非機能的な内因性のラムダ軽鎖座、及び非機能的な内因性のカッパ軽鎖座を含む。したがって、マウスは、いかなる機能的な内因性の軽鎖又は重鎖も産生しない。このように、マウスはトリプルノックアウト(TKO)マウスである。
【0180】
トランスジェニックマウスは、異種の、好ましくはヒトの重鎖座を発現させるためのベクター、例えば酵母人工染色体(YAC)を含みうる。YACは、酵母において非常に大きいDNAインサートをクローニングするために使用することができるベクターである。天然の酵母染色体のような挙動を示すために必須の3つ全てのシス作用型構造エレメント(自律複製配列(ARS)、セントロメア(CEN)、及び2つのテロメア(TEL))を含むことに加えて、大きいDNAインサートを許容できることにより、それらは、染色体様の安定性にとって、及び酵母細胞における伝播の正確性にとって必要な最小サイズ(150kb)に到達することができる。YACの構築及び使用は、当技術分野で周知である(例えば、Bruschi, C.V.及びGjuracic, K. Yeast Artificial Chromosomes, Encyclopedia of Life Sciences, 2002 Macmillan Publishers Ltd, Nature Publishing Group)。
【0181】
例えば、YACは、CH1ドメイン、マウスエンハンサー、及び調節領域を欠如するマウス免疫グロブリン定常領域遺伝子と組み合わせて、再構成されていない過剰なヒトVH、D、及びJ遺伝子を含みうる。ヒトVH、D、及びJ遺伝子は、ヒトVH、D、及びJ座であり、それらは完全にヒトである再構成されていない遺伝子である。そのようなYACの例を、以下の実施例に提供する。
【0182】
当技術分野で公知の代替方法を、内因性のマウス又はラット免疫グロブリン遺伝子の欠失又は不活化のために、及びCH1ドメイン、マウスエンハンサー、及び調節領域を欠如するマウス免疫グロブリン定常領域遺伝子と組み合わせて、ヒトVH、D、及びJ遺伝子の導入のために使用してもよい。
【0183】
トランスジェニックマウスは、実施例に例証するように標準的な技術に従って作製することができる。トランスジェニックマウスを作製するための2つの最も特徴付けられた経路は、新鮮な受精卵母細胞の前核への遺伝子材料のマイクロインジェクションを介して、又は安定にトランスフェクトした胚性幹細胞を桑実胚若しくは胚盤胞期の胚に導入することを介して行われる。遺伝子材料を導入する方法にかかわらず、操作された胚は、偽妊娠雌性レシピエントに移入され、そこで妊娠を継続させて、候補となるトランスジェニック子孫を産まれさせる。
【0184】
これらの広範な方法の間の主な差は、ESクローンを、使用前に広範にスクリーニングして、トランスジェニック動物を作製することができる点である。これに対し、前核マイクロインジェクションは、その導入後の宿主ゲノムに遺伝子材料が組み込まれることに依存しており、一般的に、トランスジーンの取り込みの成功は、子孫が産まれるまで確認することができない。
【0185】
トランスジーンの取り込みの成功が起こるか否かを補助及び決定するために当技術分野で公知の多くの方法が存在する。トランスジェニック動物は、ゲノムへの構築物のランダムな組み込み、部位特異的組み込み、又は相同組換えを含む複数の手段によって作製することができる。薬物抵抗性マーカー(ポジティブ選択)、リコンビナーゼ、組換え媒介カセット交換、ネガティブ選択技術、及び組換え効率を改善するためのヌクレアーゼの使用を含む、トランスジーンの組み込み及びその後の改変を促進及び選択するために使用することができる様々なツール及び技術が存在する。これらの方法のほとんどがES細胞の改変において一般的に使用されている。しかし、技術の一部は、前核注射を介して媒介される遺伝子導入を増強するために有用性を有しうる。
【0186】
更なる精密化を使用して、所望のバックグラウンド内でトランスジェニック系統をより効率的に生成することができる。上記のように、好ましい実施形態では、内因性のマウス免疫グロブリン発現を沈黙化させて、薬物探索のために利用することができる重鎖のみのレパートリーを発現させるために、導入されたトランスジーンのみを使用することができるようにする。遺伝子操作されたマウス、例えば全ての内因性の免疫グロブリン座(マウス重鎖、マウスカッパ鎖、及びマウスラムダ鎖)を沈黙化させたTKOマウスを、上記のように使用することができる。導入された任意のトランスジーンのこのTKOバックグラウンドへの移入は、通常の交配、又はプロセスを効率的に拡大させるためにIVF工程を含めることによる交配のいずれかによって行うことができる。しかし、同様に、遺伝子導入手順の際にTKOバックグラウンドを含めることも可能である。例えば、マイクロインジェクションの場合、卵母細胞はTKOドナーに由来してもよい。同様に、TKO胚からのES細胞を、遺伝子導入において使用するために誘導することができる。
【0187】
免疫グロブリン座を発現するようにトランスジーンが導入されているトリプルノックアウトマウスを、本明細書においてTKO/Tgと呼ぶ。
【0188】
一実施形態では、マウスは国際公開第2016/062990号に記載されているとおりである。
【0189】
本発明はまた、齧歯類、好ましくはヒト重鎖座を発現し、PD-1抗原によって免疫されているマウスにも関する。本発明はまた、上記の齧歯類、好ましくはヒトPD-1に結合するヒトVHドメインを含む重鎖のみの抗体を発現するマウスにも関する。好ましくは、前記齧歯類は、機能的な内因性のカッパ及びラムダ軽鎖並びに/又は重鎖を作製することができない。ヒト重鎖座は、上記のとおりでありうるトランスジーン上に位置する。
【0190】
本発明はまた、ヒトVHドメインを含む、又はヒトPD-1抗原によって免疫し、ヒト重鎖座を発現する齧歯類、好ましくはマウスから得た若しくは得ることができる、抗ヒトPD-1シングルVHドメイン抗体又は抗ヒトPD-1重鎖のみの抗体にも関する。好ましくは、前記齧歯類は、機能的な内因性のカッパ及びラムダ軽鎖並びに/又は重鎖を作製することができない。ヒト重鎖座は、上記のとおりでありうるトランスジーンに位置する。
【0191】
本発明の別の態様では、本発明に従うシングルドメイン抗体と、任意選択で薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物が提供される。本発明のシングルドメイン抗体又は本発明の医薬組成物は、経口、局所表面、非経口、舌下、直腸、膣、眼、鼻腔内、肺、皮内、硝子体内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、脳内、経皮、経粘膜、吸入、又は特に耳、鼻、眼、若しくは皮膚への局所表面、又は吸入を含むがこれらに限定されない任意の通常の経路によって投与することができる。
【0192】
非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、直腸内小胞内、皮内、局所表面、又は皮下投与が挙げられる。好ましくは、組成物は非経口投与される。
【0193】
薬学的に許容される担体又は媒体は、微粒子であり得て、そのため、組成物は例えば錠剤又は散剤形態である。用語「担体」は、それと共に本発明の薬物抗体コンジュゲートが投与される希釈剤、アジュバント、又は賦形剤を指す。そのような薬学的担体は、液体、例えば水、並びに石油、動物、植物、若しくは合成起源の油を含む油、例えば、落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油、及びその他でありうる。担体は、食塩水、アカシアゴム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイド状シリカ、尿素、及びその他でありうる。加えて、補助剤、安定剤、濃化剤、潤滑剤、及び着色剤を使用することができる。一実施形態では、動物に投与する場合、本発明のシングルドメイン抗体又は組成物及び薬学的に許容される担体は無菌的である。水は、本発明の薬物抗体コンジュゲートを静脈内投与する場合の好ましい担体である。食塩水溶液及びデキストロース水溶液及びグリセロール溶液もまた、液体担体として、特に注射可能溶液として使用することができる。適した薬学的担体はまた、賦形剤、例えばデンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール、及びその他を含む。本発明の組成物は、望ましければ、微量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含みうる。
【0194】
本発明の医薬組成物は、液体、例えば溶液、乳剤、又は懸濁剤の形態でありうる。液体は、注射、輸注(例えば、IV輸注)、又は皮下による送達にとって有用でありうる。
【0195】
経口投与のために意図される場合、組成物は好ましくは固体又は液体形態であり、半固体、半液体、懸濁剤、及びゲル形態は、本明細書において固体又は液体のいずれかであると考えられる形態に含まれる。
【0196】
経口投与のための固体組成物として、組成物を、散剤、顆粒剤、圧縮錠、丸剤、カプセル剤、チューインガム、水、又は類似の形態に製剤化することができる。そのような固体組成物は典型的に、1つ又は複数の不活性な希釈剤を含む。加えて、以下のうちの1つ又は複数が存在しうる:結合剤、例えばカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、結晶セルロース、又はゼラチン;賦形剤、例えばデンプン、ラクトース、又はデキストリン;崩壊剤、例えばアルギン酸、アルギン酸ナトリウム、コーンスターチ、及びその他;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;滑剤、例えばコロイド状二酸化ケイ素;甘味料、例えばスクロース又はサッカリン;香味料、例えばペパーミント、サリチル酸メチル、又はオレンジ香料;並びに着色剤。組成物がカプセル剤(例えば、ゼラチンカプセル)の形態である場合、これは、上記のタイプの材料に加えて、液体担体、例えばポリエチレングリコール、シクロデキストリン、又は脂肪油を含みうる。
【0197】
組成物は、液体、例えばエリキシル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、又は懸濁剤の形態でありうる。液体は、経口投与又は注射による送達にとって有用でありうる。経口投与が意図される場合、組成物は、甘味料、保存剤、色素/着色剤、及び香味増強剤のうちの1つ又は複数を含みうる。注射による投与のための組成物では、界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、緩衝液、安定剤、及び等張剤のうちの1つ又は複数も同様に含めることができる。
【0198】
組成物は、1つ又は複数の投与単位の形態をとりうる。
【0199】
特定の実施形態では、処置を必要とする領域に組成物を局所投与するか、又は静脈内注射若しくは輸注によって組成物を投与することが望ましい場合がある。
【0200】
特定の障害又は状態の処置において有効/活性である本発明のシングルドメイン抗体の量は、障害又は状態の性質に依存し、標準的な臨床技術によって決定することができる。加えて、最適な投与量範囲を同定するために役立つように、in vitro又はin vivoアッセイを任意選択で使用することができる。組成物に使用される正確な用量もまた、投与経路及び疾患又は障害の重症度に依存し、医師の判断及び各々の患者の状況に従って決定すべきである。年齢、体重、性別、食事、投与時間、排泄速度、宿主の状態、薬物の組合せ、反応感度、及び疾患の重症度のような要因を考慮に入れるべきである。
【0201】
典型的に、量は、組成物の少なくとも約0.01重量%の本発明のシングルドメイン抗体である。経口投与が意図される場合、この量は、組成物の約0.1重量%~約80重量%の範囲に変化しうる。好ましい経口組成物は、組成物の約4重量%~約50重量%の本発明のsdAbを含みうる。
【0202】
本発明の好ましい組成物は、非経口用量単位が本発明のシングルドメイン抗体の約0.01重量%~約2重量%を含むように調製される。
【0203】
注射による投与に関して、組成物は、典型的に動物の体重の約0.1mg/kg~約250mg/kg、好ましくは動物の体重の約0.1mg/kgと約20mg/kgとの間、及びより好ましくは動物の体重の約1mg/kg~約10mg/kgを含みうる。一実施形態では、組成物は、約1~30mg/kg、例えば約5~25mg/kg、約10~20mg/kg、約1~5mg/kg、又は約3mg/kgの用量で投与される。投与スケジュールは、例えば1週間に1回から2、3、又は4週間に1回まで異なりうる。
【0204】
本発明は、哺乳動物、例えばヒト患者におけるPD-1媒介疾患又は障害を処置する方法であって、それを必要とする哺乳動物に本発明の抗体の有効量を投与する工程を含む方法を提供する。特に、本発明は更に、がん、免疫障害、神経疾患、炎症障害、アレルギー、移植拒絶反応、ウイルス感染症、免疫不全、及び他の免疫系関連障害から選択される障害の予防及び/又は処置のための方法であって、それを必要とする対象に、本発明のシングルドメイン抗体若しくは医薬組成物、又は本発明の医薬組成物の薬学的有効量を投与する工程を含む方法に関する。
【0205】
本明細書において使用される場合、「処置する」、「処置している」、又は「処置」は、疾患又は障害を阻害又は軽減することを意味する。例えば、処置は、疾患又は障害に関連する症状の発生の延期、及び/又は前記疾患と共に発生する又は発生すると予想されるそのような症状の重症度の低減を含みうる。用語は、既存の症状を改善する、更なる症状を予防する、及びそのような症状の基礎となる原因を改善又は予防することを含む。このように、用語は、処置される哺乳動物、例えばヒト患者の少なくとも一部に有益な結果が付与されることを表す。多くの医学的処置は、処置を受ける患者の全てではないが一部にとって有効である。
【0206】
用語「対象」、又は「患者」は、処置、観察、又は実験の対象である動物を指す。単なる例に過ぎないが、対象は、ヒト又は非ヒト哺乳動物を含むがこれらに限定されない哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類、マウス、ウシ、ウマ、イヌ、ヒツジ、又はネコを含むがこれらに限定されない。
【0207】
本明細書に使用される場合、用語「有効量」は、細胞、組織、又は対象に単独で投与される場合、又は追加の治療剤と組み合わせて投与される場合に、投与の条件下で所望の治療効果又は予防効果を達成するために有効である抗PD-1抗体の量を意味する。
【0208】
本発明はまた、疾患の処置又は予防に使用するための本発明のシングルドメイン抗体、又は医薬組成物にも関連する。
【0209】
別の態様では、本発明は、がん、免疫障害、神経疾患、炎症障害、アレルギー、移植拒絶反応、ウイルス感染症、免疫不全、及び他の免疫系関連障害の処置又は予防に使用するための本発明のシングルドメイン抗体又は医薬組成物を指す。
【0210】
別の態様では、本発明は、疾患の処置又は予防における本発明のシングルドメイン抗体、又は医薬組成物の使用に関する。
【0211】
別の態様では、本発明は、がん、免疫障害、神経疾患、炎症障害、アレルギー、移植拒絶反応、ウイルス感染症、免疫不全、及び他の免疫系関連障害の処置又は予防のための医薬の製造における本発明のシングルドメイン抗体又は医薬組成物の使用に関する。
【0212】
がんは、固形腫瘍又は非固形腫瘍から選択されうる。例えば、がんは、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚又は眼内悪性黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、精巣がん、乳がん、脳がん、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外陰癌、食道がん、小腸がん、内分泌系のがん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、腎臓がん、軟部組織肉腫、尿道がん、膀胱がん、腎臓がん、肺がん、非小細胞肺がん、胸腺腫、尿路上皮癌、白血病、前立腺がん、中皮腫、副腎皮質癌、リンパ腫、例えばホジキン病、非ホジキンリンパ腫、胃がん、及び多発性骨髄腫から選択されうる。
【0213】
一実施形態では、腫瘍は固形腫瘍である。したがって処置されうる固形腫瘍の例には、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、神経膠腫及びリンパ腫が挙げられる。そのような腫瘍の一部の例には、類上皮腫瘍、扁平上皮腫瘍、例えば頭頸部腫瘍、結腸直腸腫瘍、前立腺腫瘍、乳房腫瘍、小細胞及び非小細胞肺腫瘍を含む肺腫瘍、膵腫瘍、甲状腺腫瘍、卵巣腫瘍、及び肝腫瘍が挙げられる。他の例には、カポジ肉腫、CNS新生物、神経芽腫、毛細管性血管芽腫、髄膜腫及び脳転移、黒色腫、消化管及び腎臓癌、及び肉腫、横紋筋肉腫、神経膠芽腫、好ましくは多型神経膠芽腫、及び平滑筋肉腫が挙げられる。本発明のアンタゴニストが有効である血管形成皮膚がんの例には、扁平上皮癌、基底細胞癌、及び悪性のケラチノサイト、例えばヒト悪性ケラチノサイトの成長を抑制することによって処置することができる皮膚がんが挙げられる。
【0214】
一実施形態では、腫瘍は非固形腫瘍である。非固形腫瘍の例には、白血病、多発性骨髄腫、及びリンパ腫が挙げられる。
【0215】
一態様では、がんは、PD-L1陽性がんであると同定される。一態様では、がんは、局所進行切除不能、転移性、又は再発性がんである。
【0216】
その成長が本発明の抗体を使用して阻害されうる、好ましいがんには、典型的に免疫療法に応答するがんが挙げられる。処置するために好ましいがんの非制限的な例には、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓がん(例えば、明細胞癌)、前立腺がん(例えば、ホルモン不応性前立腺癌)、乳がん、結腸がん、及び肺がん(例えば、非小細胞肺がん)が挙げられる。
【0217】
一実施形態では、がんは、別の処置、例えば化学療法後に進行している。
【0218】
本発明のシングルドメイン抗体及び医薬組成物は、異常に高レベルのPD-1を発現する細胞(例えば、消耗したT細胞、B細胞、単球等)に関連するがんの処置にとって特に有用である。他の好ましいがんには、PD-1並びに/又はそのリガンドであるPD-L1及び/又はPD-L2の発現の上昇によって特徴付けられるがんが挙げられる。一実施形態では、がんは、高レベルのがん関連遺伝子変異及び/又は高レベルの腫瘍抗原発現を有するがんから選択される。別の実施形態では、がんは、免疫原性であることが公知であるか、又は他のがん治療による処置時に免疫原性となることができるがんから選択される。
【0219】
免疫障害は、移植対宿主病、関節炎、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎及び睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労性免疫機能障害症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、チャーグストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素症、クローン病、円板状エリテマトーデス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症線維筋炎、糸球体腎炎、グレーヴス病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、若年性関節炎、扁平苔癬、エリテマトーデス、メニエール病、混合結合組織病、多発性硬化症、視神経脊髄炎(NMO)、1型又は免疫媒介性糖尿病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、再生不良性貧血、結節性多発動脈炎、多発軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発筋炎及び皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、リウマチ性関節炎、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフマン症候群、全身性エリテマトーデス、エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞動脈炎、横断性脊髄炎、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、血管炎、例えば疱疹状皮膚炎性血管炎、白斑、及びウェゲナー肉芽腫症から選択されうる。
【0220】
神経疾患は、アルツハイマー病、てんかん、パーキンソン病、認知症、多発性硬化症、末梢神経障害、又は帯状疱疹後神経痛から選択されうる。
【0221】
本発明のシングルドメイン抗体又は医薬組成物は、唯一の活性成分として、又は1つ若しくは複数の他の治療剤と組み合わせて投与してもよい。治療剤は、疾患の処置において有用である化合物又は分子である。治療剤の例には、抗体、抗体断片、薬物、毒素、ヌクレアーゼ、ホルモン、免疫調節剤、アポトーシス促進剤、抗血管新生剤、ホウ素化合物、光活性剤又は色素、及び放射性同位体が挙げられる。抗体分子には、完全な抗体又はその断片(例えば、Fab、F(ab')2、Fv、一本鎖Fv断片(scFv)、又はシングルドメイン抗体、例えばVHドメイン、又は抗体模倣タンパク質が挙げられる。
【0222】
一実施形態では、シングルドメイン抗体は、既存の治療又は治療剤、例えば抗がん治療と組み合わせて使用される。このように、別の態様では、本発明はまた、本発明のシングルドメイン抗体又は医薬組成物及び抗がん治療の投与を含む組合せ治療にも関する。抗がん治療は、治療剤又は放射線治療を含んでもよく、これには、遺伝子治療、ウイルス治療、RNA治療、骨髄移植、ナノ治療、標的化抗がん治療、又は腫瘍溶解薬が挙げられる。他の治療剤の例には、他のチェックポイント阻害剤、抗新生物剤、免疫原性剤、減弱化がん様細胞、腫瘍抗原、抗原提示細胞、例えば腫瘍由来抗原若しくは核酸をパルスした樹状細胞、免疫刺激サイトカイン(例えば、IL-2、IFNa2、GM-CSF)、標的化低分子及び生物学的分子(例えば、シグナル伝達経路の構成要素、例えばチロシンキナーゼの調節剤、及び受容体チロシンキナーゼの阻害剤、及びEGFRアンタゴニストを含む腫瘍特異的抗原に結合する薬剤)、抗炎症剤、細胞傷害剤、放射性毒素剤、又は免疫抑制剤及び免疫刺激サイトカイン(例えば、GM-CSF)をコードする遺伝子をトランスフェクトした細胞、化学療法が挙げられる。一実施形態では、シングルドメイン抗体は手術と組み合わせて使用される。
【0223】
一実施形態では、本発明のシングルドメイン抗体又は医薬組成物は、免疫調節剤、チェックポイント調節剤、T細胞活性化に関係する薬剤、腫瘍微小環境調節剤(TME)、又は腫瘍特異的標的と共に投与される。例えば、免疫調節剤は、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA-4、TIM-3、LAG-3、CEACAM、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4、又はTGFRベータのうちの1つ又は複数の阻害剤から選択される免疫チェックポイント分子の阻害剤でありうる。別の実施形態では、免疫調節剤は、OX40、OX40L、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1 (CD11a/CD18)、ICOS (CD278)、4-1BB (CD137)、GITR、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、B7-H3若しくはCD83リガンド、CD3、CD8、CD28、CD4、又はICAM-1のうちの1つ又は複数のアゴニストから選択される共刺激分子の活性化剤でありうる。
【0224】
一実施形態では、PD-1阻害剤は、Nivolumab(登録商標)、Pembrolizumab(登録商標)、又はPidilizumab(登録商標)から選択される抗PD-1抗体である。
【0225】
本発明の特定の実施形態では、組成物は、化学療法剤又は放射線療法と同時に投与される。別の特定の実施形態では、化学療法剤又は放射線療法は、本発明の組成物の投与の、好ましくは少なくとも1時間、5時間、12時間、1日、1週間、1ヶ月前又は後に、より好ましくは本発明の組成物の投与の数ヶ月(例えば、最大3ヶ月)前又は後に投与される。
【0226】
一部の実施形態では、本発明のシングルドメイン抗体は、2つ又はそれより多くの治療剤と共に投与されうる。一部の実施形態では、本発明の結合剤は、2つ又はそれより多くの治療剤と共に投与されうる。
【0227】
本発明のシングルドメイン抗体又は医薬組成物は、他の治療又は治療化合物又は治療と同時又は異なる時期に、例えば、同時、個別に、又は連続的に投与されうる。
【0228】
なお別の態様では、本発明は、対象における免疫応答が調節されるように、本発明のシングルドメイン抗体を対象に投与する工程を含む、対象における免疫応答を調節する方法を提供する。好ましくは本発明の抗体は、対象における免疫応答を増強する、刺激する、又は増加させる。
【0229】
更なる態様では、本発明は、本発明の抗PD-1シングルドメイン抗体の治療有効量を対象に投与する工程を含む、対象における腫瘍細胞の成長を阻害する方法を提供する。
【0230】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの治療剤及び/又は診断剤にコンジュゲートされた本発明のシングルドメイン抗体を含む免疫コンジュゲートに関する。
【0231】
別の態様では、本発明は、疾患若しくは免疫応答を処置若しくは予防するため、及び/又は本発明のシングルドメイン抗体を含む疾患を診断する、予後を判定する、若しくはモニターするためにPD-1を検出するためのキットを提供する。そのようなキットは、PD-1タンパク質の検出を補助する他の構成要素、包装、説明書、又は材料を含みうる。キットは、上記の本発明の標識されたシングルドメイン抗体及び標識を検出するための1つ又は複数の化合物を含みうる。
【0232】
別の態様では、本発明は、凍結乾燥型で包装された、又は水性媒体中で包装された本発明のシングルドメイン抗体を提供する。
【0233】
本発明はまた、図面及び実施例を参照して本明細書に記載されるシングルドメイン抗体にも関する。
【0234】
別の態様では、本発明のシングルドメイン抗体は、診断試験及びアッセイなどの非治療目的のために使用される。試験試料中のヒトPD-1の存在を検出する方法は、前記試料を、本発明に従うシングルドメイン抗体、及び少なくとも1つの検出可能な標識と接触させる工程、並びにヒトPD-1に対する前記シングルドメイン抗体の結合を検出する工程を含む。
【0235】
一実施形態では、本発明は、がんを有する患者におけるPD-1媒介適応免疫抵抗を診断する方法に関する。方法は、試料を、検出可能な部分によって標識されている本明細書に開示されるシングルドメイン抗体と接触させる工程、及び免疫細胞、例えばCD8+T細胞、B細胞、及びマクロファージにおけるPD-1の発現を検出する工程を含む。試料は腫瘍組織でありうる。
【0236】
診断目的のための抗体の改変は当技術分野で周知である。例えば、抗体を、ビオチンなどのリガンド基、又は蛍光基、放射性同位体、若しくは酵素などの検出可能なマーカー基によって改変してもよい。本発明の化合物は、通常の技術を使用して標識することができる。適した検出可能な標識には、フルオロフォア、クロモフォア、放射活性原子、電子密度の高い試薬、酵素、及び特異的結合パートナーを有するリガンドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0237】
本明細書において特に定義していない限り、本開示に関連して使用した科学技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。前述の開示は、本発明を作製及び使用するための方法、並びにその最善の様式を含む本発明の範囲に包含される主題の一般的説明を提供するが、当業者が本発明を実践することができるように、及びその完全な書面での説明を提供するために、以下の実施例を提供する。しかし、当業者はこれらの実施例の細部が本発明を制限すると解釈すべきではなく、その範囲は、本開示に添付される特許請求の範囲及びその同等物から認識すべきである。本発明の様々な更なる態様及び実施形態は、本開示を考慮すれば業者に明らかであろう。
【0238】
本明細書において言及した全ての文書は、遺伝子受託番号の参照及び特許刊行物の参照を含む、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0239】
本明細書において使用される場合の「及び/又は」は、他方の存在下又は非存在下での2つの明記された特色又は構成要素の具体的開示であると解釈すべきである。例えば、「A及び/又はB」は、各々が本明細書において個々に記載されているかのように、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBの各々の具体的開示であると解釈すべきである。本文がそれ以外であることを指示していない限り、上記の特色の説明及び定義は、本発明の任意の特定の態様又は実施形態に限定されず、記載の全ての態様及び実施形態に等しく適用される。
【0240】
本発明を非制限的な実施例において更に説明する。
【実施例0241】
(実施例1)
Tg/TKOマウスの構築
内因性の重鎖及び軽鎖抗体発現に関して沈黙化されているバックグラウンド内の生殖系列構成にヒト重鎖抗体トランスジェニック座を有するマウス(トリプルノックアウト、又はTKO)を、既に記述されているとおりに作製した(国際公開第2004/076618号、国際公開第2003/000737号、Renら、Genomics, 84, 686, 2004;Zouら、J. Immunol., 170, 1354, 2003、及び国際公開第2016/062990号)。簡単に説明すると、トランスジェニックマウスを、CH1ドメイン、マウスエンハンサー、及び調節領域を欠如するマウス免疫グロブリン定常領域遺伝子と組み合わせて過剰なヒトVH、D、及びJ遺伝子を含む酵母人工染色体(YAC)を、新鮮な受精卵母細胞の前核にマイクロインジェクション後に誘導した。酵母人工染色体(YAC)は、酵母における非常に大きいDNAインサートのクローニングのために使用することができるベクターである。天然の酵母染色体のように挙動するために必須である3つ全てのシス作用構造エレメント(自律複製配列(ARS)、セントロメア(CEN)、及び2つのテロメア(TEL))を含むことに加えて、大きいDNAインサートを受容するその許容量によって、それらは酵母細胞における染色体様安定性、及び伝播の正確性にとって必要な最小のサイズ(150kb)に達することができる。YACの構築及び使用は当技術分野で周知である(例えば、Bruschi, C.V.及びGjuracic, K. Yeast Artificial Chromosomes, Encyclopedia of Life Sciences, 2002, Macmillan Publishers Ltd., Nature Publishing Group/www.els.net)。
【0242】
使用したYACは、複数のヒト重鎖V遺伝子、複数のヒト重鎖D及びJ遺伝子、マウスCH1遺伝子、及びマウス3'エンハンサー遺伝子を含んだ。これはCH1エクソンを欠如する。
【0243】
トランスジェニック創始マウスを、内因性の免疫グロブリン発現を欠如する動物と戻し交配して、記載の免疫試験に使用するTg/TKO系統を作製した。
【0244】
(実施例2)
免疫のための抗原
免疫は、R&D社から購入した組換えヒトPD-1 Fcキメラ、カタログ番号1086-PD、ロット番号FVQ081502B又はFVQ081503Aを使用した。
【0245】
組換えヒトPD-1-TetToxタンパク質を、別の異なる免疫に使用した。これは、ヒトPD-1の残基1~167に基づき、N末端でポリリンカーを介してPD-1に連結されたtet毒素を含む。同様に、N末端Hisタグ並びにタンパク質分解切断のためのリーダー配列及び制限部位も含まれる。
【0246】
表面上にヒトPD-1を発現するCHO細胞株を施設内で作製した。
【0247】
(実施例3)
免疫プロトコール
8~12週齢のTg/TKOマウスの各々に、フロイント完全アジュバント中で乳化した組換え精製ヒトPD-1-Fcタンパク質の50μg又は10μgのいずれかの初回プライミング用量を投与し、皮下に送達した後、フロイントの不完全アジュバント中で乳化した組換えタンパク質10μgの3回の追加免疫も同様に最初のプライミング後の様々な間隔で皮下投与した。組換え精製ヒトPD-1タンパク質抗原10μg又は20μgの最終用量を、リン酸緩衝食塩水中、アジュバントの非存在下で腹腔内に投与した。
【0248】
8~12週齢の異なるコホートのTg/TKOマウスの各々に、フロイント完全アジュバント中で乳化した組換え精製ヒトPD1-TetToxタンパク質10μgの初回プライミング用量を投与し、皮下に送達した後、フロイントの不完全アジュバント中で乳化した10μgの3回の追加免疫も同様に初回プライミング後の様々な間隔で皮下投与した。組換え精製ヒトPD-1-Tettoxタンパク質抗原10μの最終用量を、リン酸緩衝食塩水中、アジュバントの非存在下で腹腔内に投与した。
【0249】
別のコホートの動物に、上記の精製ヒトPD-1-Fcタンパク質50μgをプライミングした後、表面上にヒトPD-1を高レベルで発現する細胞1000万個の3回の追加免疫を行った。追加免疫はアジュバントを使用せずに行い、そのうち2回は皮下であり、3回目は腹腔内であった。組換え精製ヒトPD-1-Fcタンパク質10μgの最終用量を、リン酸緩衝食塩水中、アジュバントの非存在下で腹腔内に投与した。
【0250】
(実施例4)
血清のELISA
血清を免疫の前後にマウスから収集し、PD-1抗原による免疫に応答した血清中PD-1/Fc反応性重鎖抗体の存在に関してELISAによってチェックした。Nunc Maxisorpプレート(Nunc社、カタログ番号443404)を、1μg/ml組換えhuPD-1-FcのPBS(R&D 1086-PD)中の溶液、又はhPD-1 HISのPBS R&D(8986-PD又は9047-PD)中の溶液のいずれかによって4℃で一晩コーティングした。プレートを、0.05%(容積/容積v)Tween(登録商標)20(Sigma P1379)を補充したPBS(PBSタブレット、Oxoid社、カタログ番号BR0014G)を使用して洗浄した後、Tween 20を添加しないPBSによって洗浄した。非特異的タンパク質相互作用を遮断するために、3%(重量/体積)スキムミルク粉末(Marvel(登録商標))のPBS溶液をウェルに添加し、プレートを室温で少なくとも1時間インキュベートした後、不要物を捨てた。
【0251】
全血試料を13000rpmで5分間遠心分離して、血液から血清を分離した。血清の希釈液をポリプロピレンチューブ又はプレートにおいて3% Marvel(登録商標)/PBS中で調製し、室温で少なくとも1時間プレインキュベートした後、ブロックしたELISAプレートに移し、少なくとも1時間インキュベートした。非結合タンパク質を、PBS/Tween 20の後にPBSによる繰り返し洗浄によって除去した。PBS/3% Marvel(登録商標)中で調製したビオチンコンジュゲートヤギ抗マウスIgG、Fcガンマサブクラス1特異的抗体(Jackson社、カタログ番号115-065-205)の1:10,000の溶液を各ウェルに添加して、室温で少なくとも1時間インキュベートした。非結合検出抗体を、PBS/Tween(登録商標)20及びPBSによる繰り返し洗浄によって除去した。ニュートラアビジン-HRP溶液(Pierce社、カタログ番号31030)の3%Marvel(登録商標)/PBS中の溶液をELISAプレートに添加し、30分間結合させた後、上記のように洗浄した。ELISAを、TMB基質(Sigma社、カタログ番号、T0440)を使用して展開し、0.5M H2SO4溶液(Sigma社、カタログ番号320501)50μlを添加することによって反応を7分後に停止させた。吸光度をBMG Pherastarによって450nmで読み取った。
【0252】
マウスを、血清中の抗体の存在に関してELISAによってチェックした。マウスは全て、強い免疫応答を示した。
【0253】
(実施例5)
免疫したマウスからのライブラリの生成
組織収集及びホモジナイゼーション
上記の免疫したマウスからのライブラリの生成は、以下に概要するライブラリ生成の標準プロトコールに従った。
【0254】
脾臓全体、鼠径部及び上腕リンパ節を、標準的なプロトコールに従って使用した。
【0255】
RNA抽出及びRT-PCR
脾臓:上清400μlを総RNAの調製のために使用した。RNAを、Qiagen RNeasy(登録商標)キット(カタログ番号74104)を使用して製造元のプロトコールに従って抽出した。
【0256】
リンパ節:Kingfisherと本質的に同じプロセスによって調製した。
【0257】
VH配列を、Superscript III RT-PCR高正確性キット(Invitrogen社、カタログ番号12574-035)を使用して、製造元のプロトコールに従ってRNA試料から得た。各々の脾臓及びLN RNA試料に関して、VH1、VH2、VH3、VH4、又はVH6ファミリーのプライマーと組み合わせた単一のJHプライマーを使用して、RT-PCR反応を実施した。
【0258】
RT-PCR産物をプールして、リンパ節1~4及び脾臓からのVH1産物を組み合わせた。増幅した材料を、GeneJet(商標)精製キット(カタログ番号K0702)を使用して、製造元のプロトコールに従って水50μlで溶出させることによって精製した。
【0259】
ファージミドベクターへのクローニング
これらの試験においてファージミドベクターpUCG3を使用した。通常のPCRに基づく方法を使用して、増幅したVH配列からVHファージミドライブラリを構築した。簡単に説明すると、以下の手順を使用した:
【0260】
線形型のpUCG3を、PCRを使用して作製した。ベクターPCR産物(3152bp)を、Fermentas GeneJetゲル精製キット(カタログ番号K0691)を使用して、製造元の説明書に従ってゲル精製した。精製したVH RT-PCR産物を使用して、線形pUCG3からPCR反応をプライミングし、それによってVHの異種集団をpUCG3にクローニングした。
【0261】
PCR産物を1%(重量/体積)アガロースゲルにおいて分析した。
【0262】
ファージミドライブラリの生成
VH/ファージミドPCR産物を、動物起源毎にプールし、Fermentas PCR精製キット(カタログ番号K0702)を使用して製造元の説明書に従って精製した。最終的な溶出は、H2O 22μl中であった。
【0263】
溶出したDNAを使用してTG1大腸菌(Lucigen社、カタログ番号60502-2)を、2500V、25uF、200WでパルスしたBio-Rad GenePulser Xcellを使用する電気穿孔によって形質転換した。電気穿孔した細胞をプールした。
【0264】
形質転換体の10倍希釈シリーズを、2%(重量/体積)グルコース及び100μ/mlアンピシリンを有する2xTY寒天ペトリプレートに播種した。これらの皿で得られたコロニーを使用して、ライブラリサイズを推定した。形質転換体の残りを、2%(重量/体積)グルコース及び100μ/mlアンピシリンを補充した大きいフォーマットの2xTY寒天バイオアッセイ皿に播種した。全ての寒天プレートを30℃で一晩インキュベートした。
【0265】
2xTYブロス10mlを大きいフォーマットのバイオアッセイ皿に添加することによって、ライブラリを回収した。細菌コロニーを丁寧にこすり取り、OD600を記録した。アリコートを、50%(体積/体積)グリセロール溶液の等量を添加後、凍結バイアル中で-80℃で保存するか、又はファージ選択プロセスに直接使用した。
【0266】
(実施例6)
PD-1結合VHの単離のための選択戦略及び最適化
ライブラリファージストックの調製及びファージディスプレイ選択は、公表された方法(Antibody Engineering、Benny Lo編、8章、161~176頁、2004)に従って実施した。ほとんどの場合、パニングアプローチと組み合わせたファージディスプレイを使用して、結合VHドメインを単離した。しかし、可溶性選択及びストレス(例えば、熱)下で実施する選択を含む、多様な異なる選択方法が当技術分野において十分に記載されている。
【0267】
最適化のために、例えば抗原に対するVH親和性を増加させるために、標準的な方法を使用した。これらの最適化戦略は当技術分野で記載されている:
a)シャッフリング(Antibody Engineering、Benny Lo編、19章、327~343頁、2004);
b)無作為化オリゴヌクレオチド及びファージディスプレイ技術を使用したCDR3領域の標的無作為化(Mainら、J Pharmacol Exp Ther. 2006年12月;319頁(3):1395~404頁)及び
c)リボソームディスプレイ。
【0268】
(実施例7)
CHOヒトPD1細胞に対する結合及びPD-L1結合PD-1の阻害に関するペリプラズム抽出物のスクリーニング
ライブラリの選択後、ヒトPD-1を発現するCHO細胞に結合し、組換えヒトPD-1タンパク質と組換えヒトPD-L1タンパク質との間の相互作用を阻害する特異的VHを、細菌ペリプラズム抽出物のシングルポイントスクリーニングによって同定した。
【0269】
小規模細菌ペリプラズム抽出物を、深型ウェルプレートにおいて成長させた1ml培養物から調製した。開始培養物を使用して、0.1%(重量/体積)グルコース及び100μg/mlアンピシリンを補充した2×TYブロス(Melford社、カタログ番号M2130)を含む96ウェル深型プレート(Fisher社、カタログ番号MPA-600-030X)に接種し、37℃、250rpmで振とうさせた。OD600が、0.6~1に達すると、VH産生を、IPTG(最終濃度0.5mM)及びアンピシリンを補充した2×TY 100μlを添加することによって誘導し、培養物を、220rpmで振とうさせながら30℃で一晩成長させた。大腸菌を、3200rpmで10分間の遠心分離によって沈降させ、上清を捨てた。細胞沈降物を、氷冷抽出緩衝液(50mM MOP、0.5mM EDTA、0.5Mスクロース)120μlに再懸濁した後、1:5希釈した氷冷抽出緩衝液180μlを添加した。細胞を氷中で30分間インキュベートした後、4500rpm、4℃で15分間遠心分離した。上清を、アッセイで試験するためにポリプロピレンプレートに移した。
【0270】
上清中のHisタグVHのCHO細胞発現ヒトPD-1に対する結合を、マイクロウェルの底に沈降したビーズ又は細胞に局在する蛍光を検出する蛍光ベースのプラットフォームである蛍光マイクロボリュームアッセイ技術(FMAT)(Dietzら、Cytometry 23:177~186頁(1996)、Miragliaら、J. Biomol. Screening 4:193~204頁(1999)を使用して評価した。CHO TREXヒトPD-1細胞株を、標準的な手順によって完全長のヒトPD-1配列を使用して施設内で生成した。試薬は全て、PBS、0.1%ウシ血清アルブミン、0.01%アジ化ナトリウムを含むFMATアッセイ緩衝液(pH7.4)中で調製した。ペリプラズム調製物を、384ウェル黒色透明ボトムアッセイプレート(Costar社、カタログ番号3655)に移し、1.5nM抗His(Millipore社、カタログ番号05-949)/3nMヤギ抗マウスAlexa Fluor-488(Jackson Immunolabs社、カタログ番号115-545-071)及びDRAQ5(Thermo Scientific社、カタログ番号62251)によって予め染色した2000個のCHOヒトPD-1細胞と共に室温で少なくとも2時間インキュベートした。プレートを、TTP Mirrorballプレートリーダーにおいて488nm及び640nmで励起後、FL2(502nm~537nm)及びFL5(677~800nm)チャネルで読み取った。データを、FL5の境界及びピーク強度でゲートを設定し、ゲート設定したデータのFL2平均蛍光強度の中央値を、VH結合の決定のために使用した。
【0271】
CHO PD-1結合アッセイと並行して、ペリプラズム抽出物を、HTRF阻害アッセイにおけるシングルポイントスクリーニングによるPD-L1タンパク質とPD-1タンパク質との相互作用の阻害能に関して試験した。試料及び試薬は全て、PBS、0.1%(重量/体積)BSA、及び0.4Mフッ化カリウムを含むHTRFアッセイ緩衝液中で調製した。ペリプラズム抽出物を、25nM Strepタグ付きPD-L1(Acro Biosystems社、カタログ番号PD-1-H5282)、1.5nM抗ヒトFcクリプテートPAb(Cisbio社、カタログ番号61HFCKLB)、10nM StrepMAB-Oyster 645コンジュゲートと共に黒色384ウェル浅型プレート(Costar社、カタログ番号3676)において室温で少なくとも3時間インキュベートした。ペリプラズム抽出物試料緩衝液を含む総結合対照及び過剰量の非タグ付き競合物質を含む非特異的結合対照を、データ正規化のために各々のプレートに設定した。620nm及び665nmでの時間分解蛍光発光を、BMG PHERAstarプレートリーダーにおいて337nmで励起後に測定した。データを、非特異的結合対照ウェルから決定したバックグラウンドシグナルを差し引いた後の総結合対照の%(%対照)として表記した。
【0272】
FL2蛍光が>1000でCHOヒトPD-1細胞に結合し(図1a)、PD-L1に対するPD-1の結合を阻害する(図1b)VHファミリーを同定した。
【0273】
(実施例8)
シークエンシング
上記のように同定した各々の個々のVHクローンをファージミドからシークエンシングし、VH生殖系列及びCDR3アミノ酸類似性に基づいて群分けした。代表的なクローンを更に特徴付けした。更なるクローンを、Table 1(表1)に示されるクローン1.1の配列最適化によって生成した。標準的な方法を最適化のために使用した。上記のように単離されたクローン1.1から1.40を、単一のファミリーに群分けした。クローン1.41~1.115は、クローン1.1の配列最適化多様体である。
【0274】
(実施例9)
精製VHの調製及び特徴付け
a)精製VHの調製
精製VHを、ペリプラズム抽出物のニッケル-アガロースアフィニティクロマトグラフィー精製のために、VH C末端6xHISタグを使用することによって得た。各VHの開始培養物を、2%(重量/体積)グルコース+100μg/mlアンピシリンを補充した2×TY培地(2×TYブロス(Melford社、カタログ番号M2103)中、250rpmで振とうさせながら30℃で一晩成長させた。次いでこの一晩培養物を使用して2×TY培地50ml~200mlを接種し、250rpmで振とうさせながら37℃でおよそ6~8時間(OD600=0.6~1.0となるまで)インキュベートした。培養物を3200rpmで10分間遠心分離し、細胞ペレットを100μg/mlアンピシリン+1mM IPTGを含む新鮮な2×TYブロス中に再懸濁した。振とうフラスコを30℃及び250rpmで一晩インキュベートした。培養物を再度、3200rpmで10分間遠心分離し、上清を捨てた。細胞ペレットを、氷冷抽出緩衝液(20%(重量/体積)スクロース、1mM EDTA、50mM Tris-HCl pH8.0、又は50mM MOPS)中で軽くピペッティングして再懸濁した後、1:5希釈した氷冷抽出緩衝液で更に希釈した。細胞を氷中で30分間インキュベートした後、4500rpm、4℃で15分間遠心分離させた。上清を、イミダゾール(Sigma社、カタログ番号I2399-最終濃度10mM)及び予め平衡にしたニッケルアガロースビーズ(Qiagen社、Ni-NTA 50%溶液、カタログ番号30210)を含むチューブに移した。VH結合を軽く振とうさせながら4℃で2時間進行させた。ビーズをpolyprepカラム(BioRad社、カタログ番号731-1550)に移し、上清を重力流によって捨てた。カラムをPBS+0.05% Tween(登録商標)によって3回洗浄後、PBS/20mMイミダゾール5mlによって3回洗浄した。VHを、PBS/250mMイミダゾールを使用してカラムから溶出した。イミダゾールを、NAP-5カラム(GE Healthcare社、17-0853-01)による緩衝液交換及びPBSによる溶出によって精製VH調製物から除去した。精製VHの収率を、分光光度法によって推定し、SDS PAGEを使用して純度を評価した。
【0275】
或いは、VHを、pJExpressベクターを有するW3110大腸菌の上清から精製した。この手順に関して、培養物の最大400mlをTB培地中250rpmで振とうさせながら37℃で成長させた後、1mM IPTGによって一晩誘導した。得られた上清を回収し、VHを、Ni-セファロースエクセルカラム(HiScale 16、GE Healthcare社)を使用してAKTA Pure上で精製した。精製したVHの収率を分光光度法によって推定し、SDS PAGEを使用して純度を評価した。
【0276】
b)組換えヒトPD-1に対するヒトPD-L1及びPD-L2結合の阻害
精製VHをHTRFアッセイ緩衝液によって連続希釈し、実施例1に既に記述されているようにHTRF PD-1:PD-L1阻害アッセイにおいて試験し、IC50値を決定した。これらを以下のTable 3(表3)に示す。
【0277】
【表3】
【0278】
PD-L2阻害アッセイに関して、組換えヒトPD-1タンパク質を、製造元のプロトコールに従ってユーロピウムトリスビピリジンクリプテート(Cisbio社、カタログ番号62EUSPEA)によって標識し、PD-L2-Fc(Acro Biosystems社、カタログ番号PD2-H882R)を、EZ-リンクキットプロトコール(Thermo 21327)に従ってビオチン化した。VHの連続希釈液を、10nMストレプトアビジンAlexaFluor-647(Life Technologies社、カタログ番号S32357)、3nMビオチン化PD-L2-Fc、及びユーロピウムクリプテート標識PD-1-Fc(167倍希釈)と共にアッセイ容積10μl中、室温で少なくとも3時間インキュベートした。例えば、図2及びTable 4(表4)を参照されたい。
【0279】
【表4】
【0280】
c)Humabody(登録商標)1.1及びHumabody(登録商標)1.57エピトープ競合アッセイ
親の(非最適化)シングルドメイン抗体と比較して改善された活性及び/又は発現レベルを有する配列最適化シングルドメイン抗体を、最初に、FMATエピトープ競合アッセイにおいてCHOヒトPD-1細胞に対する親クローン1.1又は部分的に最適化したHumabody(登録商標)1.57の結合と競合することができるか否かに関して細菌ペリプラズム抽出物を試験することによって同定した。
【0281】
Humabody(登録商標)1.1又は1.57 VH配列を、PCRによって増幅し、C末端に融合したStrepタグと共に発現を可能にするベクターにサブクローニングした。発現ベクターによって形質転換したTG1細菌培養物を培養し、ペリプラズム抽出物を、抽出緩衝液(20重量/体積%スクロース、1mM EDTA、50mM Tris-HCl pH8.0)を使用して調製した後に、Strepタグ付きVHを、Strep-Tactinアフィニティ樹脂(Qiagen社、30002)を使用してペリプラズムから精製した。
【0282】
エピトープ競合アッセイに関して、試薬をFMATアッセイ緩衝液中で調製した。細菌のペリプラズム抽出物、緩衝液(総結合対照)、又は過剰量のHisタグVH競合剤(非特異的結合対照)を、384ウェル黒色透明ボトムアッセイプレートにおいて、ウェルあたり1nM 1.1Strepタグ付きタンパク質又は1nM 1.57-Strepタグ付きタンパク質、1.5nM Strep-Tag(登録商標)IIモノクローナル抗体(Millipore社、71590)、2.5nMヤギ抗マウスFc-Alexa Fluor 488及び2000 CHOヒトPD-1 DRAQ5染色細胞と共にインキュベートした。プレートを室温で少なくとも1.5時間インキュベートした後、Mirrorballプレートリーダー(TTP)において488nm及び640nmで励起後、FL2(502nm~537nm)及びFL5(677~800nm)チャネルにおいて蛍光を測定した。データは、非特異的結合対照ウェルから決定されたバックグラウンドシグナルを差し引いた後の総結合対照の%(すなわち、%対照)として表記した。親VHと比較して改善された活性を示すクローンを精製し、IC50決定のためにエピトープ競合アッセイにおいてマルチポイントで試験したか、又は以下に記載のレポーター遺伝子アッセイにおいて直接試験した(Table 5(表5)に示すデータ)。
【0283】
d)レポーター遺伝子アッセイ
VHがPD-1:PD-L1遮断の結果としてトランスフェクトJurkat細胞における機能的応答を増加させる能力を、NFAT-ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイを使用して評価した。NFAT応答エレメントと共にプロモーターの制御下でヒトPD-1及びルシフェラーゼレポーター遺伝子を発現するJurkatレポーター細胞株、並びにテトラサイクリン誘導プロモーターの制御下でT細胞受容体活性化因子及びヒトPD-L1を発現するCHO細胞株を、標準的な方法によって生成した。細胞をバルクで調製した後、液体窒素中で凍結保存した。
【0284】
CHOヒトPD-L1/TCR活性化因子細胞を、37℃の水浴中で融解し、(Hams F12/10% FBS/1μg/mlテトラサイクリン)に再懸濁し、96ウェル白色TC処理アッセイプレートに10000個/ウェルで播種した。プレートを37℃のCO2インキュベータ内で一晩インキュベートした。
【0285】
試料を、アッセイ培地(RPMI+2% FBS)中で連続希釈した。Jurkat PD-1レポーター細胞を、37℃の水浴中で融解し、培地で1回洗浄後、アッセイ培地中で5e5個/mlに希釈した。培地をCHO細胞から除去し、希釈した試料又はアッセイ培地(バックグラウンド対照)50μlを、プレートに添加した後、希釈したJurkatレポーター細胞50μlを添加した。プレートを37℃のCO2インキュベータ内で6時間インキュベートした後、インキュベータから外し、室温で10分間平衡にした。NanoGlo基質(NanGlo緩衝液中で1:50に希釈した基質100μl、Promega社、カタログ番号N1120)を添加し、プレートを室温で10分間インキュベートした後、発光シグナル(RLU)を測定した。データを倍率/バックグラウンドシグナルとして表記した。
【0286】
或いは、試料を、製造元のプロトコールに従ってPD-1/PD-L1遮断バイオアッセイシステム(Promega)を使用して試験した。
【0287】
レポーターアッセイにおける最適化Humabody(登録商標)の活性に関する例としてのEC50データを、以下のTable 5a(表5)に示す。
【0288】
【表5】
【0289】
【表6】
【0290】
e)種交叉反応性試験
精製VHを、HTRF結合アッセイフォーマットにおいて、ヒトPD-1(R&D Systems社、カタログ番号1086-PD)、カニクイザルPD-1(Acro Biosystems社、カタログ番号PD-1-C5254)及びマウスPD-1(R&D Systems社、カタログ番号1021-PD)に対するその結合能に関して試験した。全ての試薬及び連続希釈したVHを、PBS、0.1% BSA、及び0.4Mフッ化カリウムを含むアッセイ緩衝液中で調製した。試料又はアッセイ緩衝液(非特異的結合)を、黒色384ウェル浅型アッセイプレートにおいて、2nMヒト/カニクイザル又はマウスPD-1、1nM抗ヒト-FcクリプテートPAb(Cisbio社、カタログ番号61HFCKLB)、及び30nM抗His-D2(CisBio社、カタログ番号61HISDLA)と共に室温で少なくとも3時間インキュベートした。620nm及び665nmでの時間分解蛍光発光をBMG PHERAstarプレートリーダーにおいて337nmで励起後に測定した。HTRF比((665nm発光/620nm発光)×10000)を計算し、データを(非特異的結合)に関して補正し、特異的結合シグナルを生じた。
【0291】
Humabody(登録商標)1.1及び多様体1.57、1.92は、ヒト(図3a)及びカニクイザルPD-1(図3b)組換えタンパク質に対する結合を示したが、マウスPD-1タンパク質(図3c)と交叉反応しなかった。
【0292】
EC50値を以下のTable 6(表7)に示す。
【0293】
【表7】
【0294】
二価結合剤(1.57-4GS-1.57)及び半減期延長結合剤(1.57-4GS-MSA結合剤)も同様に試験し、上記のシングルドメイン抗体と同様に、ヒト及びカニクイザルPD-1組換えタンパク質に対する結合を示したが、マウスPD-1タンパク質と交叉反応しなかった。
【0295】
f)CHOヒトPD-1細胞に対するPD-L1及びPD-L2結合の阻害
精製VHをFMATアッセイ緩衝液中で連続希釈し、上記のようにCHOヒトPD-1細胞に対する結合に関して、及びCHOヒトPD-1細胞に対するヒトPD-L1結合の阻害に関して試験した。精製した一価及び多価VHがCHOヒトPD-1細胞に対するPD-L1及びPD-L2の結合をそれぞれ阻害する能力を、FMAT阻害アッセイ(図4)を使用して確認した。
【0296】
全ての試薬及び連続希釈したVHを、FMATアッセイ緩衝液中で調製した。VH、緩衝液(総結合対照)、又は過剰量の競合物質(非特異的結合対照)を、384ウェル黒色透明ボトムアッセイプレートにおいて、100pMヒトFcタグ付きヒトPDL-1、又は200pM PD-L2、3nM抗ヒトFc-Alexa Fluor-488、及びウェルあたり2000個のCHOヒトPD-1 DRAQ5染色細胞と共にインキュベートした。
プレートを室温で2時間インキュベートした後、Mirrorballプレートリーダー(TTP)において488nm及び640nmで励起後、FL2(502nm~537nm)及びFL5(677~800nm)チャネルにおいて蛍光を測定した。データは、非特異的結合対照ウェルから決定したバックグラウンドシグナルを差し引いた後の総結合対照の%(すなわち、%対照)として表記した。
【0297】
IC50値を以下のTable 7(表8)に示す。例としてのデータを図4a及び図4bに示す。
【0298】
【表8】
【0299】
g)レポーター遺伝子アッセイ
多価VH構築物の機能的活性を、上記のようなヒトPD-1レポーター遺伝子アッセイにおいて試験し、EC50値を決定した。これらを以下のTable 8(表9)に示す。例としてのデータを図9に示す。非ブロッキングVH(1)は、配列番号587を有する。非ブロッキングVH(2)は、配列番号588を有する。ブロッキング効果は、10から25倍増強されうる。
【0300】
【表9】
【0301】
h)血清中安定性
VH及び多価VH構築物の血清中安定性を、マウス血清(Sigma社、M5905)中で0、1、4、又は7日間インキュベーション後のその活性を測定することによって評価した。プレインキュベートした試料を連続希釈し、実施例3において既に記述したように1.57エピトープ競合アッセイにおいて試験した。血清とのインキュベーション後に観察された活性の損失はわずかであった(図5)。試験したHumabody(登録商標)分子は、1.57、1.64、1.57-4GS-MSA、及び1.92であった。例としてのデータを図5a及び図5bに示す。
【0302】
【表10】
【0303】
i)T細胞に対するVHの結合
T細胞に対する一価のシングルドメイン抗体及び多価結合剤の結合を、フローサイトメトリーを使用して測定した。末梢血単核球(PBMC)をヒト血液から密度勾配遠心分離によって単離した後、CD4+T細胞を、ネガティブ選択単離キットを使用して製造元のプロトコール(Miltenyi Biotech社、カタログ番号130-096-533)に従って精製した。T細胞を、10% FBS、2mMグルタミン、1×ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI培地中で2.5μg/ml PHAによって2~4日間刺激した。細胞を96ウェルプレート(75000個/ウェル)に移し、PBS/1% BSAによって10分間ブロックした後、染色緩衝液(PBS/1% BSA)中で連続希釈したVHと共に4℃で1時間インキュベートした。細胞を遠心分離によって染色緩衝液によって洗浄した後、10μg/mlビオチン化抗His抗体と共に4℃で40分間インキュベートした。細胞を再度洗浄し、ストレプトアビジンAlexa Fluor-488(10μg/ml)、及び1:5000希釈したLive Dead近IR染料(Molecular Probes社、カタログ番号L10119)によって4℃で30分間染色した。更に洗浄後、細胞を固定し、蛍光をフローサイトメトリーによって測定した。EC50値をTable 10(表11)に示す。生細胞でゲート設定したCD4+T細胞の染色の例としての結合曲線データを図6に示す。
【0304】
【表11】
【0305】
j)VHシングルドメイン抗体は、良好な安定性を証明する
精製VHを、サイズ排除クロマトグラフィーに供した。簡単に説明すると、精製VHを、酢酸Na pH5.5、150mM NaCl、又はPBS pH7.4のいずれかの中で0~14日間、4℃又は40℃のいずれかで貯蔵した後、Waters ACQUITY BEH 125Å SECカラム上での分離のために、PDA検出器(280nmでの検出)を含むWaters H-Class Bio UPLCを使用して様々な時点で分析した。試料を、10μl体積で注入し、200mM NaCl、100mMリン酸ナトリウム、pH7.4+5%プロパン-1-オールを含む移動相によって流速0.4ml/分で実行した。データを6分間収集し、開始時(T=0)に存在している量と比較して貯蔵後に残っている単量体ピークの面積を計算した。40℃で14日間インキュベートした抗PD-1 VHシングルドメイン抗体の例をTable 11(表12)に例証する。4℃で14日間インキュベート後、有意な変化は認められなかった。
【0306】
【表12】
【0307】
k)リンパ球混合反応におけるヒトT細胞活性化に及ぼすPD-1特異的Humabody(登録商標)の効果
単球を、ヒト末梢血単核球(PBMC)から単離し、STEMCELL Technologies樹状細胞分化培地、又はGM-CSF及びIL-4を使用して樹状細胞に7日間分化させた。樹状細胞を、同種異系CD4+T細胞と共に培養し、磁気分離を介してPBMCから単離した。共培養物を、PD-1特異的Humabody(登録商標)又は対照の存在下で2日間インキュベートした。T細胞刺激を、増殖アッセイ又は細胞上清からのサイトカイン定量によって測定した。
【0308】
Humabody(登録商標)1.57及び1.92は、同種異系樹状細胞/T細胞の共培養からのIL-2分泌を濃度依存的に増強する(図7a及び図7b)。IL-2レベルを均一な時間分解蛍光アッセイ(HTRF、CisBio社)によって2又は3日後に決定した。
【0309】
樹状細胞による刺激の非存在下では、PD-1特異的Humabody(登録商標)VH 1.57の影響がないことも示された。このことは、Humabody(登録商標)1.57が、刺激性シグナルを直接誘発しないことを示しており、その機構は、PD-1/PD-L1阻害性経路の遮断であると提唱される。
【0310】
l)結合速度論
結合速度論を、以下に記載される方法を使用して測定した。
【0311】
表面プラズモン共鳴を使用するヒトPD-1-huFcに対する結合速度論
ヒトPD-1-huFcに対するある特定のVHシングルドメイン抗体結合の結合速度論を、Biacore T200機器(GE Healthcare社)を使用して表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定した。組換えヒトPD-1-huFcを、pH5.5の10mM酢酸ナトリウム中で0.1~0.01mg/ml溶液の範囲の抗原を使用して、標準的なアミンカップリングによってCM5センサーチップ(GE Healthcare社)に固定した。参照フローセルでは、ブランク固定を実施した。単一サイクル速度論アッセイを使用して、相互作用を調べ、各Humabody(登録商標)の3倍希釈シリーズを最高濃度30nMから5点濃度で作製した。結合速度論は、Humabody(登録商標)をHBS EP+緩衝液中でチップ表面に流速30μl/分で流すことによって追跡した。結合工程の各々の接触時間は180秒間であり、解離工程は1200~3600秒まで変化した。データを、Biacore T200評価ソフトウェアを使用してダブルリファレンスを差し引いた後に、1:1結合モデルにフィットさせた。計算した親和性及び速度論定数を以下のTable 13(表13)に示す。
【0312】
【表13】
【0313】
Strepタグ付きヒトPD-1を使用した結合親和性及び速度論定数の決定
単一サイクル速度論アッセイを使用して、Biacore T200機器(GE Healthcare社)上でヒトPD-1とHumabody(登録商標)との相互作用を調べた。Strepタグ付き組換えヒトPD-1を、標準的なBiacore試薬を使用して、CM-5チップの1つのフローセルにアミンカップリングして、低密度表面(14RU)を作製した。参照フローセルでは、ブランク固定を実施した。各Humabody(登録商標)の3倍希釈シリーズを、最高濃度25nMから5点濃度で作製した。結合速度論は、Humabody(登録商標)をHBS EP+緩衝液中でチップ表面に流速30μl/分で流すことによって追跡した。結合工程の各々の接触時間は180秒間であり、解離工程は3300秒であった。データを、Biacore T200評価ソフトウェアを使用してダブルリファレンスを差し引いた後に、1:1結合モデルにフィットさせた。計算した親和性及び速度論定数を以下のTable 11(表14)に示す。
【0314】
【表14】
【0315】
非ブロッキングVH(3)は、配列番号589を有する。
【0316】
ヒトPD-1-Fcを使用する結合親和性及び速度論定数の決定
単一サイクル速度論アッセイを使用して、ヒトFcタグ付きPD-1とHumabody(登録商標)との相互作用をBiacore T200機器(GE Healthcare社)において試験した。プロテインGを、CM-5チップの2つのフローセルにアミンカップリングした。ヒトFcタグ付き組換えヒトPD-1を、フローセルの1つに捕捉した。他方を、参照フローセルとして使用した。各々のHumabody(登録商標)の3倍希釈シリーズを、50~150nMの範囲内の最高濃度から5点濃度で作製した。結合速度論は、Humabody(登録商標)をHBS EP+緩衝液中でチップ表面に流速30μl/分で流すことによって追跡した。結合工程の各々の接触時間は180秒間であり、解離工程は3600秒であった。データを、Biacore T200評価ソフトウェアを使用してダブルリファレンスを差し引いた後に、1:1結合モデルにフィットさせた。計算した親和性及び速度論定数を以下のTable 15(表15)に示す。
【0317】
【表15】
【0318】
(実施例10)
多価構築物
上記の多価構築物を、Xが2、4、6、又は9であるペプチドリンカー(G4S)xを使用して、単離されたVH核酸配列を連結させることによって生成し、タンパク質を発現させた。使用した技術は、標準的な分子生物学技術に基づいた。
【0319】
例えば、第1のブロッキングHumabody(登録商標)核酸配列を第2のブロッキングHumabody(登録商標)核酸配列に連結させた。一例では、第1及び第2の核酸配列は同じ配列であった。別の例では、第1及び第2の配列は同じ配列ではなかった。そのような二価結合剤を任意選択で半減期延長Humabody(登録商標)核酸配列(MSA結合剤)に連結させた。一価のVHシングルドメイン抗体が半減期延長Humabody(登録商標)核酸配列(MSA結合剤)に連結された構築物も同様に作製し、発現させた。
【0320】
これらの構築物のために使用したリンカー配列を、以下のTable 16(表16)に示す。
【0321】
【表16】
【0322】
多価結合剤の血清中安定性及びT細胞に対する結合は、上記の実施例に記載されるようにアッセイした。データを上記に示す。
【0323】
(実施例11)
皮下MC38マウス結腸腺癌を有するHuGEMM PD-1モデルにおけるHumabody(登録商標)化合物のin vivo有効性
PD-1 HuGEMMマウスは、C57BL/6マウスにおいてヒト化エクソン2を含むキメラヒト/マウスPD-1遺伝子(h/mPD-1)を有する遺伝子操作されたマウスモデル(GEMM)である。マウスはCrown Biosciences社が作製し、試験はCrown社が実行及び実施した。
【0324】
投与した化合物は、1.57-4GS-MSA結合剤及びHel4であった。化合物を、週に2回腹腔内(i.p.)投与した。
【0325】
Fudan IBS細胞リソースセンター(FDCC)からのMC38マウス結腸腺癌細胞を、10%熱不活化ウシ胎児血清(Kang Yuan Biology社)を補充したDMEM培地(Gibco社)において5%CO2を含む空気中、37℃で培養した。各々のマウスの右後方脇腹に、腫瘍を発生させるためにMC38細胞(1×106個)を皮下接種した。所望の腫瘍サイズを有するマウス全18匹を、本試験に登録した。マウスを、腫瘍サイズによって階層化した後、3つの実験群に無作為化した。これらのマウス18匹全ての平均腫瘍サイズは、無作為化時で85mm3であった。無作為化日を0日目とした。試験物質を、腫瘍を有するマウスに0日目から14日目まで週に2回5用量を投与した。
【0326】
本試験における動物の取り扱い、飼育、及び処置に関する全ての手順は、国際実験動物管理公認協会(AAALAC)の指針に従って、CrownBio社の施設内の動物飼育及び使用に関する委員会(IACUC)によって承認されたガイドラインに従って実施した。ルーチンのモニタリング時期に、動物を腫瘍の成長、運動性、食餌及び水の消費量、体重増加/減少、眼/体毛のマット感、及び他の任意の異常な行動に関してチェックした。
【0327】
腫瘍サイズを、キャリパーを使用して2つの寸法で週に2回測定し、体積を、式:TV=0.5a×b2を使用してmm3で表記し、式中a及びbはそれぞれ、腫瘍の長径及び短径である。次に、腫瘍サイズをTGI(%)の計算のために使用する。
【0328】
データは全て、平均値±SEMとして表記する。腫瘍体積における差の統計分析を、繰り返し測定の二元配置ANOVAを使用して実施した。データは全て、GraphPad Prism 5を使用して分析し、p<0.05は、統計学的に有意であると考えられた。図8に示すように、結合剤の投与により、腫瘍体積は低減した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023010753000001.xml
【外国語明細書】