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特開2023-107579吹付コンクリートを打設するためのシステムと方法
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  • 特開-吹付コンクリートを打設するためのシステムと方法 図1
  • 特開-吹付コンクリートを打設するためのシステムと方法 図2A
  • 特開-吹付コンクリートを打設するためのシステムと方法 図2B
  • 特開-吹付コンクリートを打設するためのシステムと方法 図3A
  • 特開-吹付コンクリートを打設するためのシステムと方法 図3B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107579
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】吹付コンクリートを打設するためのシステムと方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20230727BHJP
【FI】
E21D11/10 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008843
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 裕介
(72)【発明者】
【氏名】三河内 永康
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155DB01
(57)【要約】
【課題】レディーミクストコンクリートの利用効率が高く、かつ、大量の二酸化炭素の固定が可能な吹付工法を実現するためのシステムと方法を提供すること。
【解決手段】このシステムは、輸送ポンプ、二酸化炭素供給源、および急結剤添加装置を含む。輸送ポンプは、レディーミクストコンクリートをデリバリホースを介してノズルへ搬送するように構成される。二酸化炭素供給源は、二酸化炭素含有ガスを供給するように構成される。急結剤添加装置は、急結剤をデリバリホースまたはノズルに供給するように構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レディーミクストコンクリートをデリバリホースを介してノズルへ搬送するための輸送ポンプ、
二酸化炭素含有ガスを供給する二酸化炭素供給源、および
急結剤を前記デリバリホースまたは前記ノズルに供給する急結剤添加装置を含む、吹付コンクリートを打設するためのシステム。
【請求項2】
前記二酸化炭素供給源に接続され、前記二酸化炭素含有ガスを圧縮して前記デリバリホースと前記ノズルの少なくとも一方に供給する第1のコンプレッサをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素濃度は、400ppmより高く、100%以下である、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記デリバリホースに圧縮空気を供給する第2のコンプレッサをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記二酸化炭素含有ガスの温度を調整する温度コントローラをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記二酸化炭素含有ガスの湿度を調整する加湿器をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
レディーミクストコンクリートをデリバリホースを介してノズルに供給すること、
前記デリバリホースまたは前記ノズル内の前記レディーミクストコンクリートに急結剤を添加すること、および
前記デリバリホースおよび前記ノズルの少なくとも一方の中の前記レディーミクストコンクリートに対し、圧縮された二酸化炭素含有ガスを供給することを含む、吹付コンクリートの打設方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素濃度は、400ppmより高く、100%以下である、請求項7に記載の打設方法。
【請求項9】
前記デリバリホース中の前記レディーミクストコンクリートに圧縮空気を供給することをさらに含む、請求項7に記載の打設方法。
【請求項10】
温度コントローラを用いて前記二酸化炭素含有ガスの温度を制御することをさらに含む、請求項7に記載の打設方法。
【請求項11】
加湿器を用いて前記二酸化炭素含有ガスの湿度を制御することをさらに含む、請求項7に記載の打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、トンネル内壁や崖面、法面などに吹付コンクリートを打設するためのシステムと方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの内壁や崖面、法面を覆う工法として、吹付工法が用いられる。吹付工法は、急結剤が添加されたレディーミクストコンクリートに圧縮空気を加え、ノズル先端からレディーミクストコンクリートを掘削面、崖面、法面などにスプレーし、急速に硬化させる工法である。(特許文献1から8参照)。吹付工法を利用することで、トンネル掘削後の岩盤、地山、法面などの崩壊を防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-168026号公報
【特許文献2】特開2019-043813号公報
【特許文献3】特開2019-044341号公報
【特許文献4】特開2020-033723号公報
【特許文献5】特開2020-196217号公報
【特許文献6】特開2021-021224号公報
【特許文献7】特開2021-123963号公報
【特許文献8】特開2021-160972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、吹付工法に適用可能な新しいシステムと方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、レディーミクストコンクリートの利用効率が高く、かつ、大量の二酸化炭素の固定が可能な吹付工法を実現するためのシステムと方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、吹付コンクリートを打設するためのシステムである。このシステムは、輸送ポンプ、二酸化炭素供給源、および急結剤添加装置を含む。輸送ポンプは、レディーミクストコンクリートをデリバリホースを介してノズルへ搬送するように構成される。二酸化炭素供給源は、二酸化炭素含有ガスを供給するように構成される。急結剤添加装置は、急結剤をデリバリホースまたはノズルに供給するように構成される。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、吹付コンクリートを打設方法である。この打設方法は、レディーミクストコンクリートをデリバリホースを介してノズルに供給すること、デリバリホースまたはノズル内のレディーミクストコンクリートに急結剤を添加すること、およびデリバリホースおよびノズルの少なくとも一方の中のレディーミクストコンクリートに対し、圧縮された二酸化炭素含有ガスを供給することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態の一つである、吹付コンクリートを打設するためのシステムのブロック図。
図2A】本発明の実施形態の一つである吹付コンクリートの打設方法を利用してトンネル内に吹付コンクリートを打設する工程を説明する模式図。
図2B】本発明の実施形態の一つである吹付コンクリートの打設方法を利用してトンネル内に吹付コンクリートを打設する工程を説明する模式図。
図3A】本発明の実施形態の一つである吹付コンクリートの打設方法を利用してトンネル内に吹付コンクリートを打設する工程を説明する模式図。
図3B】本発明の実施形態の一つである吹付コンクリートの打設方法を利用してトンネル内に吹付コンクリートを打設する工程を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0009】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。同一、あるいは類似する複数の構造を総じて表す際にはこの符号が用いられ、これらを個々に表す際には符号の後にハイフンと自然数が加えられる。
【0010】
本明細書では、コンクリートとは、原料の一つであるセメントが水と反応して生成する水和物が硬化し、流動性を示さない硬化物を指す。コンクリートには直径が5mm以下の細骨材および直径が5mmを超える(例えば、5mmよりも大きく20mm以下、または10mm以上20mm以下)粗骨材を含んでもよい。一方、硬化前のコンクリート、すなわち、セメントと水を含む混合物が完全に硬化せずに流動性を有する状態のコンクリートをレディーミクストコンクリート(生コンクリートとも呼ばれる)と呼ぶ。レディーミクストコンクリートは、セメント、水、および骨材の他、AE剤(気泡分散剤)流動化剤、増粘剤などの添加剤を含んでもよい。
【0011】
1.吹付コンクリートを打設するためのシステム
本発明の実施形態の一つに係る、吹付コンクリートを打設するためのシステム(以下、単に打設システムと呼ぶ。)100の構成のブロック図を図1に示す。図1に示すように、打設システム100は、レディーミクストコンクリートを貯留するタンク102、レディーミクストコンクリートを圧送する輸送ポンプ104、輸送ポンプ104を介してタンク102と接続される耐圧性のデリバリホース106、デリバリホース106の先端に接続されるノズル108、および二酸化炭素含有ガスを供給する二酸化炭素供給源130を備える。打設システム100はさらに、二酸化炭素含有ガスを圧縮してデリバリホース106またはノズル108に供給する一つまたは複数のコンプレッサ132を備えてもよい。打設システム100はさらに、急結剤を添加するための急結剤添加装置120を含む。
【0012】
打設システム100では、タンク102に貯留されたレディーミクストコンクリートがノズル108を介してトンネルの掘削面、崖面、法面などにスプレーされる。レディーミクストコンクリートは、吹付コンクリートが打設される現場付近のレディーミクストコンクリート製造プラントから直接タンク102に供給されてもよく、あるいは、任意のレディーミクストコンクリート製造プラントからアジテータ車でレディーミクストコンクリートを運搬し、タンク102に供給してもよい。
【0013】
輸送ポンプ104はタンク102内のレディーミクストコンクリートをデリバリホース106に圧送するための装置である。輸送ポンプ104としては、ピストン式ポンプ、揺動弁(スイングバルブ)方式ポンプ、シリンダ揺動式ポンプなどの任意のポンプを利用することができる。図1では、タンク102と輸送ポンプ104は異なる構成として示されているが、これらの構成の機能を併せ持つコンクリートポンプを用いてもよい。図示しないが、コンクリートポンプは、レディーミクストコンクリートを投入するためのホッパー、レディーミクストコンクリートを圧送するための一つまたは複数のポンプ、レディーミクストコンクリートをデリバリホース106に注入するための圧送シリンダなどによって構成される。
【0014】
レディーミクストコンクリートをより効率的にスプレーするため、圧縮空気を供給するためのコンプレッサ110を設けてもよい。コンプレッサ110は、レシプロ式でもよく、ロータリー式でもよい。コンプレッサ110は、図1に示すようにデリバリホース106に接続されてもよいが、コンプレッサ110をさらにノズル108に接続し、ノズル108内で圧縮空気とレディーミクストコンクリートが混合されるように打設システム100を構成してもよい。
【0015】
デリバリホース106は輸送ポンプ104(またはコンクリートポンプ。以下同様。)を介してタンク102に接続され、輸送ポンプ104から圧送されるレディーミクストコンクリートをノズル108に輸送する。デリバリホース106は、可撓性と耐圧性を併せ持つホースであり、例えば内径が30mmから65mm程度、外径が45mmから90mm程度であり、芳香族ポリアミドやポリイミドなどの合成繊維を含むホースが例示される。ノズル108はデリバリホース106の先端に設けられる金属製のチューブ状部材であり、レディーミクストコンクリートの供給量、スプレー面積などに応じてスプレーガン形式やリングガン形式を採用することができる。
【0016】
二酸化炭素供給源130は、大気よりも高い濃度、具体的には400ppmより高く100%以下の濃度で二酸化炭素を含む二酸化炭素含有ガスを供給するように構成される。二酸化炭素含有ガスには、窒素や酸素などの大気の主要成分が含まれてもよく、あるいはアルゴンなどの希ガスを含まれてもよい。さらに、二酸化炭素含有ガスには水(水蒸気)が含まれてもよい。二酸化炭素供給源130は二酸化炭素が充填されたボンベでもよい。ボンベを用いる場合には、ボンベに取り付けられるレギュレータによって圧力が調整された二酸化炭素含有ガスが利用される。吹付コンクリートが打設される現場付近に二酸化炭素を大量に排出する施設(化学プラント、ゴミ焼却施設、火力発電所、その他各種工場など)が既設されている場合には、これらの施設を二酸化炭素供給源130として利用してもよい。後者の場合、施設の排出ガス、または排出ガスに対して脱塵、脱硫、脱硝などを行うことで得られる精製されたガスを二酸化炭素含有ガスとして利用してもよい。このように、施設からの排出ガスを利用することにより、二酸化炭素含有ガスを運搬するためのコストが削減され、運搬に伴う二酸化炭素の排出が防止される。
【0017】
一つまたは複数のコンプレッサ132は、二酸化炭素供給源130から供給される二酸化炭素含有ガスを圧縮し、デリバリホース106およびノズル108の少なくとも一方に供給するように構成される。コンプレッサ132もレシプロ式でもよく、ロータリー式でもよい。二酸化炭素供給源130とコンプレッサ132を設けることで、高圧の二酸化炭素含有ガスがデリバリホース106および/またはノズル108内でレディーミクストコンクリートと混合される。その結果、ノズル108からレディーミクストコンクリートをスプレーするための圧力が得られるとともに、二酸化炭素とレディーミクストコンクリートとの反応、例えば、レディーミクストコンクリート中の水酸化カルシウムと二酸化炭素との反応による炭酸カルシウムの生成反応を引き起こすことができる。その結果、後述するように、掘削面、崖面、法面などに対して効率よくレディーミクストコンクリートをスプレーすることができる。なお、二酸化炭素供給源130としてボンベを用いる場合には、コンプレッサ132を設けず、レギュレータによって調圧された二酸化炭素含有ガスを直接デリバリホース106またはノズル108に供給してもよい。
【0018】
なお、任意の構成として、図1に示すように、レディーミクストコンクリートと混合される二酸化炭素含有ガスの温度を制御するための温度コントローラ134や、湿度を制御するための加湿器136を二酸化炭素供給源130とデリバリホース106またはノズル108の間、二酸化炭素供給源130とコンプレッサ132の間、コンプレッサ132とデリバリホース106の間、および/またはコンプレッサ132とノズル108の間に設けてもよい。この場合には、二酸化炭素含有ガスの二酸化炭素濃度、温度、湿度を測定するための濃度計138、温度計140、湿度計142を適宜打設システム100に設けてもよい。濃度計138や温度計140、湿度計142は通信機能を備えてもよい。具体的には、それぞれバッテリを搭載し、随時または定期的に二酸化炭素濃度や温度、湿度を測定し、その情報を二酸化炭素供給源130や温度コントローラ134、加湿器136などへ無線または有線で送信するように構成されてもよい。二酸化炭素濃度、温度、湿度が制御された二酸化炭素含有ガスをレディーミクストコンクリートと混合させることで、二酸化炭素とレディーミクストコンクリートとの反応速度を制御することが可能となり、後述するように、ノズル108から噴射されるレディーミクストコンクリートの粘性の制御、リバウンド現象の抑制、二酸化炭素の効率的な固定をより精密に制御することができる。
【0019】
急結剤添加装置120は、デリバリホース106またはノズル108に接続され、デリバリホース106またはノズル108に対して急結剤を供給するように構成される。急結剤としては、例えばアルカリ金属の炭酸塩やケイ酸塩、アルミン酸ナトリウム、カルシウムアルミネートなどの固体状急結剤、および水を含む溶液または懸濁液を使用することができる。急結剤添加装置120から供給される急結剤がレディーミクストコンクリートと混合することで、レディーミクストコンクリートの水和反応が促進され、レディーミクストコンクリートの粘性が増大するとともに、スプレーされたレディーミクストコンクリートを短時間で凝固・固化することができる。その結果、リバウンド現象を効果的に抑制することができる。
【0020】
任意の構成として、打設システム100は、急結剤添加装置120に接続されるコンプレッサ122をさらに含んでもよい。コンプレッサ122を設けることで、急結剤をより高速でデリバリホース106またはノズル108に供給することができる。なお、コンプレッサ122に替わり、あるいはコンプレッサ122とともに、二酸化炭素含有ガスを圧縮するコンプレッサ132を急結剤添加装置120とデリバリホース106の間または急結剤添加装置120とノズル108の間に接続してもよい(図1参照。)。あるいは、二酸化炭素供給源130としてボンベを用いる場合には、レギュレータによって調圧された二酸化炭素含有ガスを急結剤添加装置120に供給するように打設システム100を構成してもよい。
【0021】
2.打設システムを用いる吹付コンクリートの打設方法
以下、打設システム100を用いるレディーミクストコンクリートの吹付方法について説明する。ここでは、一例として、岩盤を掘削して形成したトンネル内壁に吹付工法によってレディーミクストコンクリートを吹き付け、その後覆工コンクリートを形成する方法について説明する。なお、吹付コンクリートは、一次覆工コンクリートとも呼ばれることがあり、この場合、その表面に打設される覆工コンクリートは二次覆工コンクリートとも呼ばれる。
【0022】
まず、レディーミクストコンクリートを調製する。レディーミクストコンクリートは、セメントと骨材の混合物に水を加え、混練することで調製される。このとき、適宜AE剤(気泡分散剤)流動化剤、増粘剤などの添加剤を加えてもよい。調製されたレディーミクストコンクリートはタンク102に充填される。
【0023】
引き続き、タンク102に充填されたレディーミクストコンクリートを輸送ポンプ104を用いてデリバリホース106に圧送する。さらに、二酸化炭素供給源130から供給される二酸化炭素含有ガスをデリバリホース106および/またはノズル108に供給する。二酸化炭素含有ガスの圧力は、図示しないレギュレータを用いて調節してもよく、コンプレッサ132を用いて調節してもよい。同時に、急結剤添加装置120から急結剤をデリバリホース106および/またはノズル108に供給し、デリバリホース106またはノズル108内で急結剤とレディーミクストコンクリートを混合する。急結剤の供給は、図示しない輸送ポンプを用いてもよく、コンプレッサ122から圧縮空気を急結剤添加装置120に供給することで行ってもよい。また、濃度計138や温度計140、湿度計142からのデータを随時取得し、コンプレッサ132、温度コントローラ134、加湿器136を用いて二酸化炭素含有ガスの流量、二酸化炭素含有ガスの温度や湿度などを適宜調整してもよい。
【0024】
その後、ノズル108からレディーミクストコンクリートを噴射し、図2Aに示すトンネル内壁150にレディーミクストコンクリートを吹き付ける。吹き付けられたレディーミクストコンクリートは流動性を有するが、急結剤が混合されているために急速に硬化する。さらに、レディーミクストコンクリートには二酸化炭素含有ガスが供給されるため、レディーミクストコンクリート中の水酸化カルシウムが二酸化炭素と反応し、水に対する溶解性が極めて低い炭酸カルシウムが固体として析出する。この反応の寄与により、レディーミクストコンクリートの粘性はさらに増大する。その結果、吹き付けられたレディーミクストコンクリートは急速に硬化し、吹付コンクリート152がトンネル内壁150に形成される。なお、レディーミクストコンクリートと二酸化炭素の反応速度は、二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素濃度、温度、湿度によって影響を受ける。このため、二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素濃度、温度、湿度を適宜制御、調整することで、レディーミクストコンクリートの硬化速度を制御することが可能である。
【0025】
引き続き、吹付コンクリート152表面に覆工コンクリートを打設する。具体的には、図2Bに示すように、吹付コンクリート152の打設後にアーチ状の型枠154を形成し、型枠154と吹付コンクリート152の間にレディーミクストコンクリートを流し込み、硬化する。これにより、吹付コンクリート152を覆う覆工コンクリート156が形成される(図3A)。この後、型枠154を撤去することで、トンネル内壁150へのコンクリート壁の打設が完了する。
【0026】
従来の吹付工法では、吹き付けられたレディーミクストコンクリートが掘削面、崖面、法面から跳ね返ったり、一度付着したものの定着せずに流れ落ちたりすることがある。これらの現象は、リバウンド現象と呼ばれる。リバウンド現象が生じると、レディーミクストコンクリートを効率良く定着・硬化させることが困難となる。これに対し、本発明の実施形態の一つに係る吹付コンクリートの打設方法では、急結剤だけでなく、二酸化炭素との反応による炭酸カルシウムの析出がレディーミクストコンクリートの粘性と硬化速度の増大の効果に寄与する。このため、リバウンド現象を効果的に抑制し、効率良くレディーミクストコンクリートを使用することができる。
【0027】
さらに、打設システム100を用いる打設方法により、セメントの水和で生成する水酸化カルシウムと二酸化炭素との反応が与える炭酸カルシウムを高い濃度で含む吹付コンクリート152を打設することができる。このため、二酸化炭素含有ガスを用いずに打設した吹付コンクリートと比較し、炭酸カルシウムを高濃度で含む吹付コンクリート152は密度が大きく、圧縮強度が大きい。実際、発明者らは、セメントの約20%(60kg/m)の二酸化炭素を固定した場合、コンクリートの圧縮強度が8%から10%程度増大することを確認している。このため、本発明の実施形態の一つに係る打設方法を適用することで、従来の吹付コンクリートよりも高い強度を有する吹付コンクリート152を形成することができる。
【0028】
また、コンクリートの原料であるセメントは、その製造時に大量の二酸化炭素を放出する。しかしながら、本打設方法を適用することで、吹付コンクリート152は炭酸カルシウムを高い濃度で有することができるため、吹付コンクリート152は大量の二酸化炭素を固定することになる。セメントの種類やレディーミクストコンクリートの組成にも依存するが、発明者らによる試算では、最大で吹付コンクリート152の1立方メートルあたり120kgの二酸化炭素を固定できると示唆されている。したがって、本発明の実施形態に係る吹き付けコンクリートの打設システム100や打設方法は、大量の二酸化炭素固定に利用することが可能であり、二酸化炭素の削減と地球温暖化の抑制に寄与すると言える。
【0029】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0030】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0031】
100:打設システム、102:タンク、104:輸送ポンプ、106:デリバリホース、108:ノズル、110:コンプレッサ、120:急結剤添加装置、122:コンプレッサ、130:二酸化炭素供給源、132:コンプレッサ、134:温度コントローラ、136:加湿器、138:濃度計、140:温度計、142:湿度計、150:トンネル内壁、152:吹付コンクリート、154:型枠、156:覆工コンクリート
図1
図2A
図2B
図3A
図3B