(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107595
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】ペロブスカイト量子ドット複合体、インク、樹脂インク、ペロブスカイト量子ドット積層膜の製造方法、及び、ペロブスカイト量子ドット積層膜
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20230727BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20230727BHJP
C09K 11/02 20060101ALI20230727BHJP
C09D 11/106 20140101ALI20230727BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C08F2/44 Z
C09K11/08 G
C09K11/02 Z
C09D11/106
G02B5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008860
(22)【出願日】2022-01-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第68回応用物理学会春季学術講演会、予稿集、ウェブサイト掲載日2021年2月26日、発行者 公益社団法人応用物理学会 第68回応用物理学会春季学術講演会、オンライン開催、開催日2021年3月17日 第68回応用物理学会春季学術講演会、予稿集、DVD販売日2021年3月22日、発行者 公益社団法人応用物理学会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第70回高分子学会年次大会、予稿集、ウェブサイト掲載日2021年5月11日、発行者 公益社団法人 高分子学会 第70回高分子学会年次大会、オンライン開催、開催日2021年5月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第16回有機デバイス・物性院生研究会、予稿集、メール配信日2021年8月13日、発行者 公益社団法人応用物理学会 有機デバイス・物性SC 第16回有機デバイス・物性院生研究会、予稿集、ウェブサイト掲載日2021年8月14日、発行者 公益社団法人応用物理学会 有機デバイス・物性SC 第16回有機デバイス・物性院生研究会、オンライン開催、開催日2021年8月18日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第82回応用物理学会秋季学術講演会、予稿集、ウェブサイト掲載日2021年8月26日、発行者 公益社団法人応用物理学会 第82回応用物理学会秋季学術講演会、オンライン開催、開催日2021年9月12日 第82回応用物理学会秋季学術講演会、予稿集、DVD販売日2021年9月15日、発行者 公益社団法人応用物理学会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り THE 9TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON SMART SYSTEMS ENGINEERING 2021(Smasys2021)、予稿集、ウェブサイト掲載日2021年9月27日、発行者 山形大学 博士課程5年一貫教育リーディングプログラム・フレックス大学院事務室 SmaSys2021実行委員会 THE 9TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON SMART SYSTEMS ENGINEERING 2021(Smasys2021)、予稿集、公開日2021年10月18日、発行者 山形大学 博士課程5年一貫教育リーディングプログラム・フレックス大学院事務室 SmaSys2021実行委員会 THE 9TH INTERNATIONAL CONFERENCE ON SMART SYSTEMS ENGINEERING 2021(Smasys2021)、オンライン開催、開催日2021年10月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 34th International Microprocesses and Nanotechnology Conference(MNC2021)、予稿集、ウェブサイト掲載日2021年10月26日、発行者 公益社団法人応用物理学会 34th International Microprocesses and Nanotechnology Conference(MNC2021)、オンライン開催、開催日2021年10月26日
(71)【出願人】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】増原 陽人
(72)【発明者】
【氏名】山門 陵平
(72)【発明者】
【氏名】木村 汰勢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮太
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
4J011
4J039
【Fターム(参考)】
2H148AA05
2H148AA09
2H148AA24
4H001CA02
4H001CA05
4H001CC13
4H001XA35
4H001XA55
4H001XA82
4J011AA05
4J011AC04
4J011CA02
4J011CC10
4J011PA02
4J011PA86
4J011PA97
4J011PB15
4J011PB40
4J011PC02
4J011PC08
4J011SA76
4J011SA79
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA10
4J039AD21
4J039BA10
4J039BA34
4J039BA39
4J039BC04
4J039BC12
4J039BC19
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA27
4J039EA38
4J039EA48
4J039FA04
4J039GA34
(57)【要約】
【課題】架橋性官能基を有する配位子化合物を合成し、ペロブスカイトナノ結晶に導入することにより、薄膜形成後の安定性と発光特性とを両立した、架橋性配位子を有するペロブスカイト量子ドット複合体化合物を提供する。
【解決手段】ハロゲンを有するペロブスカイトナノ結晶に1又は2以上の架橋性配位子化合物が表面配位し、前記架橋性配位子化合物が、鎖状の不飽和結合を2つ以上有する有機酸化合物、鎖状の不飽和結合を2つ以上有する有機塩基化合物のいずれかであることを特徴とするペロブスカイト量子ドット複合体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲンを有するペロブスカイトナノ結晶に1又は2以上の架橋性配位子化合物が表面配位し、
前記架橋性配位子化合物が、鎖状の不飽和結合を2つ以上有する有機酸化合物、鎖状の不飽和結合を2つ以上有する有機塩基化合物のいずれかであることを特徴とするペロブスカイト量子ドット複合体。
【請求項2】
前記架橋性配位子化合物が鎖状の不飽和結合を2つ以上有する下記一般式(1)又は(2)で表される有機化合物であることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
【化1】
(一般式(1)又は(2)中、R
1は分岐鎖を含んでもよい有機酸、又は分岐鎖を含んでもよい有機塩基であり、R
2~R
4はそれぞれ独立に、一般式(3)で表される官能基、水素、メチル基、又はエチル基である。一般式(3)のXは、共有結合でつながった鎖状基であって、該鎖状基は、飽和炭化水素、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素、又はエステル結合のいずれかを含む構造を有し、主鎖の炭素原子と酸素原子の結合数が1~15個である。さらに、前記鎖状基は一部分岐を有してもよく、該分岐は、飽和炭化水素基、エステル基、又はケトン基で形成されていてもよい。)
【請求項3】
前記不飽和結合のうち少なくとも2つがビニル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
【請求項4】
前記架橋性配位子のR2~R4がそれぞれ独立に2-プロペノキシ基、4-ペンテノキシ基、4-ビニルフェニルメトキシ基、2-(ビニルオキシ)エトキシ基、水素、メチル基又はアクリルオキシ基であること特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
【請求項5】
前記ペロブスカイトナノ結晶が、1価のカチオン、元素周期表の第14族元素、及び第17族元素からなる群から選択される、請求項1に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
【請求項6】
前記ペロブスカイト量子ドットナノ結晶の平均粒径が1~30nmである請求項1又は5に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のペロブスカイト量子ドット複合体と、液体誘電率が20以上である極性溶媒と、液体誘電率が10以下である非極性溶媒とを含有することを特徴とするインク。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のペロブスカイト量子ドット複合体と、硬化型樹脂とを含有することを特徴とする樹脂インク。
【請求項9】
請求項7に記載のインクを基板に塗布して、基板上に塗膜を形成する工程1と、紫外線を照射して前記塗膜を架橋させる工程2とを有するペロブスカイト量子ドット積層膜の製造方法。
【請求項10】
基板と、前記基板上に一層又は二層以上形成された請求項7に記載のインクの紫外線架橋膜とからなることを特徴とするペロブスカイト量子ドット積層膜。
【請求項11】
基板と、前記基板上に二層以上形成された発光色が異なる請求項7に記載のインクの紫外線架橋膜とからなることを特徴とするペロブスカイト量子ドット積層膜。
【請求項12】
前記不飽和結合のうち少なくとも一部が飽和結合となり、架橋性配位子間で結合していることを特徴とする請求項10又は11に記載ペロブスカイト量子ドット積層膜。
【請求項13】
基板と、前記基板上に一層形成された[10]に記載のペロブスカイト積層膜に対して、1.3倍以上のフォトルミネッセンスを有する前記ペロブスカイト積層膜が二層以上形成された請求項10~12のいずれか一項に記載のペロブスカイト量子ドット積層膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いフォトルミネッセンス量子収率を有するペロブスカイト量子ドット複合体、及びインクに関する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイト量子ドットは、1粒子の大きさが直径1nmから数10nmの、量子力学に従う特異的な光学特性を発現させるペロブスカイトナノ結晶を有する粒子(ドット)である。励起した時に発する発光波長が化学組成と粒子サイズで連続的に制御でき、且つ発光波長分布のバラツキが非常に小さい発光特性を示すことから、近年注目されている。このペロブスカイト量子ドットは、発光ダイオード(LED)を含む多くの発光デバイスで必要な紫外域を主とする短波長の光を可視光に変換できることから、この技術を利用して、光励起による波長変換材料や、電気励起による自発光材料など、機能材料の高性能化を目指した研究が行われている。
【0003】
一方、ペロブスカイト量子ドットは、光劣化しやすい、或いは、有機溶媒などの溶液中でコロイド粒子の分散安定性に乏しいなど、デバイス用途への応用においていくつかの問題点がある。ペロブスカイト量子ドットは、核となるペロブスカイトナノ結晶の欠陥により発光特性が劣化する。そのため、一般的には有機アミンや有機酸等の有機配位子のキャッピングによる表面保護が行われるが、粒子表面にできる欠損を完全に保護することは難しく、この表面欠陥が失活部として、フォトルミネッセンスを低下させる主な原因となっている。
【0004】
ペロブスカイト量子ドットに配位した有機配位子が脱離し、露出部の欠陥を誘発させる原因に、極性の高い有機溶媒や水による結合エネルギーの低下が挙げられる。このような問題点を解決するのに、例えば、ペロブスカイトナノ結晶に配位子となる架橋性化合物を導入して、粒子内及び粒子間で架橋性化合物を重合させて、配位子シェル層を形成することにより、粒子表面に疎水性膜を形成、且つ配位子による網目構造を形成することで配位子脱離を抑制し、耐久性が向上できると考えられる。
【0005】
ペロブスカイト型の量子ドットに架橋性化合物を配位した例としては、ペロブスカイト化合物を含む蛍光粒子、光重合性化合物及び光重合開始剤を含み、良好な量子効率を示す硬化性組成物や硬化膜や(特許文献1)、ペロブスカイト化合物を含む蛍光粒子及び光重合性化合物に加えて、さらに分散剤を含み、該光重合性化合物に対する前記蛍光粒子の分散性が良好な硬化性組成物が開示されている(特許文献2)。また、ペロブスカイト化合物を含む蛍光粒子、光重合性化合物、光重合開始剤を含む硬化性組成物や(特許文献3)、ペロブスカイト化合物を含む蛍光粒子及び光重合性化合物に加えて、さらに酸化防止剤を含む硬化性組成物も開示されている(特許文献4)。
【0006】
また、内側空間と該空間に連通する細孔とを有する中空粒子に、半導体ナノ結晶の原料化合物を含む溶液を含浸し、乾燥することにより、前記中空粒子の前記内側空間に発光性を有するペロブスカイト型の半導体ナノ結晶を析出させる工程を有する発光粒子の製造方法が開示されている(特許文献5)。特許文献6には、半導体ナノ結晶の原料化合物を含む溶液と、Siを含有しシロキサン結合を形成し得る反応性基を有する化合物とを含む溶液とを混合することにより、発光性を有するペロブスカイト型の半導体ナノ結晶を析出させるとともに当該半導体ナノ結晶の表面に前記化合物を配位させ、その後、配位した前記化合物中の前記反応性基を縮合させることにより、前記半導体ナノ結晶の表面に前記シロキサン結合を有する表面層を形成した母粒子を得る工程1と、次いで、前記母粒子の表面を疎水性ポリマーで被覆したポリマー層を形成する工程2とを有する発光粒子の製造方法が開示されている。
【0007】
リノール酸が持つ2つの二重結合の架橋反応を利用して、溶液プロセスによりペロブスカイト量子ドットを不動態化する報告もある(非特許文献1)。
特許文献1~6及び非特許文献1は、いずれもペロブスカイト化合物の発光特性を利用した表示装置に使用するフィルムを指向した発明である。
【0008】
しかしながら、特許文献1~6のペロブスカイト化合物では、配位子の結合エネルギー低下による欠陥形成により光学特性が低下することがあった。また、非特許文献1のリノール酸のように、ペロブスカイト量子ドットを不動態化する配位子化合物中の不飽和結合の部分が、当該化合物の内部にあると、立体障害により重合しにくく、また、1つの配位子に不飽和結合を有する官能基の数も多い方が架橋による効果が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2020-70443号公報
【特許文献2】特開2020-70444号公報
【特許文献3】特開2020-70373号公報
【特許文献4】特開2020-70374号公報
【特許文献5】国際公開第2020/235480号
【特許文献6】国際公開第2020/235420号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】In Situ Light-Initiated Ligands Cross-Linking Enables Efficient All-Solution-Processed Light-Emitting Diodes, Yi Wei, et al., J. Phys. Chem. Lett. 2020, 11, 1154-1161.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、架橋性官能基を有する配位子化合物を合成し、ペロブスカイトナノ結晶に配位したペロブスカイト量子ドット複合体を作製することにより、薄膜形成後の安定性と発光特性とが両立した、架橋性配位子を有するペロブスカイト化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の事項からなる。
[1]ハロゲンを有するペロブスカイトナノ結晶に1又は2以上の架橋性配位子化合物が表面配位し、前記架橋性配位子化合物が、鎖状の不飽和結合を2つ以上有する有機酸化合物、鎖状の不飽和結合を2つ以上有する有機塩基化合物のいずれかであることを特徴とするペロブスカイト量子ドット複合体。
[2]前記架橋性配位子化合物が鎖状の不飽和結合を2つ以上有する下記一般式(1)又は(2)で表される有機化合物であることを特徴とする[1]に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
【化1】
(一般式(1)又は(2)中、R
1は分岐鎖を含んでもよい有機酸、又は分岐鎖を含んでもよい有機塩基であり、R
2~R
4はそれぞれ独立に、一般式(3)で表される官能基、水素、メチル基、又はエチル基である。一般式(3)中のXは、共有結合でつながった鎖状基であって、該鎖状基は、飽和炭化水素、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素、又はエステル結合のいずれかを含む構造を有し、主鎖の炭素原子と酸素原子の結合数が1~15個である。さらに、前記鎖状基は一部分岐を有してもよく、該分岐は、飽和炭化水素基、エステル基、又はケトン基で形成されていてもよい。)
[3]前記不飽和結合のうち少なくとも2つがビニル基であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
[4]前記架橋性配位子のR
2~R
4がそれぞれ独立に2-プロペノキシ基、4-ペンテノキシ基、4-ビニルフェニルメトキシ基、2-(ビニルオキシ)エトキシ基、水素、メチル基又はアクリルオキシ基であること特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
[5]前記ペロブスカイトナノ結晶が、1価のカチオン、元素周期表の第14族元素、及び第17族元素からなる群から選択される、[1]に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
[6]前記ペロブスカイト量子ドットナノ結晶の平均粒径が1~30nmである[1]又は[5]に記載のペロブスカイト量子ドット複合体。
【0013】
[7][1]~[6]のいずれかに記載のペロブスカイト量子ドット複合体と、液体誘電率が20以上である極性溶媒と、液体誘電率が10以下である非極性溶媒とを含有することを特徴とするインク。
[8][1]~[6]のいずれかに記載のペロブスカイト量子ドット複合体と、硬化型樹脂とを含有することを特徴とする樹脂インク。
【0014】
[9][7]に記載のインクを基板に塗布して、基板上に塗膜を形成する工程1と、紫外線を照射して前記塗膜を架橋させる工程2とを有するペロブスカイト量子ドット積層膜の製造方法。
【0015】
[10]基板と、前記基板上に一層又は二層以上形成された[7]に記載のインクの紫外線架橋膜とからなることを特徴とするペロブスカイト量子ドット積層膜。
[11]基板と、前記基板上に二層以上形成された発光色が異なる[7]に記載のインクの紫外線架橋膜とからなることを特徴とするペロブスカイト量子ドット積層膜。
[12]前記不飽和結合のうち少なくとも一部が飽和結合となり、架橋性配位子間で結合していることを特徴とする[10]又は[11]に記載ペロブスカイト量子ドット積層膜。
[13]基板と、前記基板上に一層形成された[10]に記載のペロブスカイト積層膜に対して、1.3倍以上のフォトルミネッセンスを有する前記ペロブスカイト積層膜が二層以上形成された[10]~[12]のいずれかに記載のペロブスカイト量子ドット積層膜。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、架橋性配位子を有するペロブスカイト化合物を合成することにより、架橋した配位子の疑似的なシェル層による配位子の脱離抑制と疎水化による耐水性の向上を達成した。このようなペロブスカイト化合物を用いて、架橋反応を行うことで、安定性と発光特性とを両立した薄膜を形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】架橋性配位子化合物として、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸を使用したペロブスカイト量子ドット複合体の紫外線照射前後の接触角の変化を表す(実施例1)。
【
図2】架橋性配位子化合物として、3,4,5-トリ(4-ペンテノキシ)安息香酸を使用したペロブスカイト量子ドット複合体の紫外線照射前後の接触角の変化を表す(実施例2)。
【
図3】架橋性配位子化合物として、3,4,5-トリ(4-ビニルフェニルメトキシ)安息香酸を使用した、実施例3のペロブスカイト量子ドット複合体の紫外線照射前後の接触角の変化を表す(実施例3)。
【
図4】架橋性配位子化合物として、2,2-(ビスアクリロイルオキシメチル)プロピオン酸を使用した紫外線照射前後の接触角の変化を表す(実施例4)。
【
図5】架橋性配位子化合物として、N,N,N-トリメチル-1-(3,4,5-トリス(アリルオキシ)フェニル)メタンアミニウム ブロミドを使用した紫外線照射前後の接触角の変化を表す(実施例5)。
【
図6】ペロブスカイト量子ドット複合体の液滴の接触角θ
Eと、ヤング-デュプレの式を用いて量子ドット塗膜の表面自由エネルギーσ
sを求める式の説明を補足するための図である。
【
図7】
図7(A)はペロブスカイト量子ドット積層膜を形成する工程を示す図であり、
図7(B)は基板上に成膜した後、マスキングし、成膜箇所に紫外線を部分的に照射し、洗浄することによってペロブスカイト量子ドット積層膜をパターン形成する様子を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1と比較例1のペロブスカイト量子ドット積層膜を複数回積層形成した際の、塗布1回に対するフォトルミネッセンス増加率の推移を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例1のペロブスカイト量子ドット複合体をガラス基板に塗布し、紫外線照射前後のペロブスカイト積層膜のフォトルミネッセンスの経時変化を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
[ペロブスカイト量子ドット複合体]
本発明のペロブスカイト量子ドット複合体は、ハロゲンを有するペロブスカイトナノ結晶に1又は2以上の架橋性配位子化合物が表面配位し、前記架橋性配位子化合物が、鎖状の不飽和結合を2つ以上有する有機酸化合物、鎖状の不飽和結合を2つ以上有する有機塩基化合物のいずれかである。
【0019】
ハロゲンを有するペロブスカイトナノ結晶(以下単に「ペロブスカイトナノ結晶」という。)は、一般式AMX3で表されるペロブスカイト型結晶構造の有機無機ハイブリッド材料、又は無機材料である。前記ペロブスカイトナノ結晶は、具体的には、1価のカチオンと、元素周期表の第14族元素と第17族元素とからなるペロブスカイトナノ結晶である。
【0020】
Aは1価のカチオンを形成する元素もしくは化合物であり、具体的には、セシウム、ルビジウム、カリウム、ナトリウム及びリチウムなどのアルカリ金属、メチルアンモニウム(MA)、ホルムアミジニウム(FA)及びグアニジウム(GA)などの有機化合物を表す。これらのうち、セシウム、メチルアンモニウム及びホルムアミジニウムが好ましい。
【0021】
Mは第14族元素であり、具体的には、鉛、ゲルマニウム、スズ及びケイ素などである。これらのうち、鉛及びスズが好ましい。また、Mの元素比率5%以下の範囲で、アンチモン、ビスマス、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、クロム、カドミウム、ユーロピウム、イッテルビウム及び銀を含んでもよい。
Xは第17族元素であり、具体的には、塩素、臭素及びヨウ素などのハロゲンである。
【0022】
AMX3の具体例には、(CsaMAbFA1-a-b)(PbcSndGe1-c-d)(CleBr1-e-fIf)3(0≦a、b、c、d、e、f≦1、a+b≦1、c+d≦1、e+f≦1)などがある。
【0023】
架橋性配位子化合物は、鎖状の不飽和結合を有する有機酸化合物及び鎖状の不飽和結合を有する有機塩基化合物のいずれかである。鎖状の不飽和結合は、1つのσ結合と2つのπ結合とから形成されるものであれば、特に限定されるものではないが、ビニル基を有するものが好ましい。
【0024】
鎖状の不飽和結合を有する有機酸化合物及び鎖状の不飽和結合を有する有機塩基化合物の好適な形態は、鎖状の不飽和結合を有する下記一般式(1)又は(2)で表される有機化合物である。
【化2】
【0025】
一般式(1)又は(2)中、R1は有機酸又は有機塩基である。
R2~R4はそれぞれ独立に、下記一般式(3)で表される不飽和結合を有する官能基(*は結合部位を表す。)、水素、メチル基、又はエチル基である。R2~R4に結合した官能基のうち、不飽和結合を有する官能基数は2つ以上、好ましくは3つである。
【0026】
一般式(3)中のXは、共有結合でつながった鎖状基であって、該鎖状基は、飽和炭化水素、芳香族炭化水素、不飽和炭化水素、又はエステル結合のいずれかを含む構造を有する基である。さらに、前記鎖状基は一部分岐を有してもよく、該分岐は、飽和炭化水素基、エステル基、又はケトン基で形成されていてもよい。Xの結合鎖長は特に限定されるものではないが、主鎖の炭素原子とヘテロ原子の結合数が1~30個、好ましくは、主鎖の炭素原子と酸素原子の結合数が1~15個、さらに好ましくは1~8個である。
【化3】
【0027】
特にR2~R4はそれぞれ独立に2-プロペノキシ基、4-ペンテノキシ基、4-ビニルフェニルメトキシ基、2-(ビニルオキシ)エトキシ基、水素、メチル基又はアクリロイルオキシ基が好ましい。
【0028】
前記有機酸は、例えば、カルボキシ基(-CO2H)、スルホ基(-SO3H)、ホスホニウム基(-PH3)、ホスホ基(-PO3H2)、アルキルホスフィンオキシド基(-PRaOOH)、ジアルキルホスフィンオキシド基(-PRbRcO)及びフェノール性水酸基などである。
前記有機塩基は、例えば、アミノアルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基、及びジアルキルアミノ基などである。具体例を挙げると、アミノメチル基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ハロゲン化アンモニウム基、アルキルハロゲン化アンモニウム基、ジアルキルハロゲン化アンモニウム基、トリアルキルハロゲン化アンモニウム基及びトリアルキルホスホニウム基などがある。
【0029】
一般式(1)又は(2)で表される有機化合物は、下記構造式で表される化合物であることが好ましい。
【化4】
【0030】
ペロブスカイト量子ドット複合体を赤外吸収分光法で観察すると、架橋性配位子化合物が、鎖状の不飽和結合を有する有機カルボン酸である場合、カルボキシ基がカルボキシラートイオンとなり、ペロブスカイト型結晶構造AMX3のMサイトに配位することが分かる。架橋性配位子化合物が、鎖状の不飽和結合とアミノメチル基とを有する有機塩基化合物である場合、アミノメチル基がメチルアンモニウムとなり、ペロブスカイト型結晶構造AMX3のXサイトに配位することが分かる。
【0031】
本発明のペロブスカイト量子ドット複合体では、ペロブスカイトナノ結晶に1又は2以上の架橋性配位子化合物が表面配位している。2以上の架橋性配位子化合物が配位する場合、有機酸配位子及び有機塩基配位子のいずれかが2以上配位してもよいし、有機酸配位子及び有機塩基配位子が2以上配位してもよいが、合成容易の点で前者が通常である。
【0032】
ペロブスカイト量子ドット複合体の平均粒径は、通常は1~30nm、好ましくは2~20nm、より好ましくは4~16nmである。ペロブスカイト量子ドット複合体の平均粒径を前記範囲とすることで、高い溶媒分散性を有するペロブスカイト量子ドット複合体を含むインクを調製することができる。平均粒径は、動的光散乱(DLS)光度計や透過型電子顕微鏡(TEM)等から求めることができる。例えば、50~500個のペロブスカイト量子ドット複合体をTEMで観察することにより測定された長軸方向の平均値から求めることができる。
【0033】
本発明のペロブスカイト量子ドット複合体は、ペロブスカイトナノ結晶と、該ペロブスカイトナノ結晶を覆う架橋性配位子化合物とからなる。このような構造を有するペロブスカイト量子ドット複合体は、結合エネルギー低下による配位子の脱離が防止されるため、長時間安定に存在することができる。ペロブスカイト量子ドット複合体の高い安定性は、発光特性の向上に資する。また、架橋した配位子の疑似的なシェル層による疎水化により、耐水性が向上する。
【0034】
本発明のペロブスカイト量子ドット複合体の製造方法は、特に制限されないが、例えば配位子支援再沈法(LARP)、ホットインジェクション法、メカニカルケミストリー法、超音波ビーズミル法、マイクロフローリアクター法、強制薄膜式フローリアクター法により製造することができる。
【0035】
本発明のペロブスカイト量子ドット複合体のLARPによる製造方法について説明する。架橋性配位子化合物と、有機酸配位子又は有機塩基配位子とを入れたスクリュー管に、ハロゲン化アルカリ金属及びハロゲン化金属を極性溶媒に溶解させた溶液を添加して攪拌後、遠心分離し、上澄みを回収し、ペロブスカイト量子ドット複合体の前駆体溶液を調製する。次いで、前駆体溶液に非極性溶媒を添加し、遠心分離する。沈殿物を回収し、非極性溶媒を添加して、再び遠心分離して、上澄みを回収すると、透明感のあるペロブスカイト量子ドット複合体の分散液が得られる。
【0036】
ここで、ハロゲン化アルカリ金属には、例えば、臭化セシウム(CsBr)、ヨウ化セシウム(CsI)、塩化セシウム(CsCl)、臭化ルビジウム(RbBr)、ヨウ化ルビジウム(RbI)、塩化ルビジウム(RbCl)、臭化カリウム(KBr)、ヨウ化カリウム(KI)、塩化カリウム(KCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、ヨウ化ナトリウム(NaI)及び塩化ナトリウム(NaCl)などが用いられる。これらの化合物は、一種を単独で、又は任意の比率で二種類以上を混合して用いることができる。
【0037】
ハロゲン化金属には、例えば、臭化鉛(II)(PbBr2)、ヨウ化鉛(II)(PbI2)、塩化鉛(II)(PbCl2)、臭化錫(II)(SnBr2)、ヨウ化錫(II)(SnI2)、塩化錫(II)(SnCl2)、臭化ゲルマニウム(II)(GeBr2)、ヨウ化ゲルマニウム(II)(GeI2)及び塩化ゲルマニウム(II)(GeCl2)などが用いられる。これらの化合物は、一種を単独で、又は任意の比率で二種類以上を混合して用いることができる。
【0038】
ハロゲン化アルカリ金属とハロゲン化金属との混合比率は、通常1:10~10:1、好ましくは1:3~3:1、より好ましくは1:1.5~1.5:1のモル比である。混合比率の差が大きくなるにつれて、AMX3のMサイトの金属元素の価数が異なるペロブスカイト結晶構造を取り、フォトルミネッセンス量子収率(PLQY)が低下する傾向にある。
【0039】
有機酸配位子は、ペロブスカイト量子ドット複合体を形成するカチオン、すなわち、主に一般式AMX3中のMと配位結合を形成する化合物である。
有機酸配位子は、有機カルボン酸化合物、有機スルホン酸化合物、有機ホスホン酸化合物、有機ホスホネート化合物又は有機ホスフィン酸化合物からなる群より選択される配位子である。例えば、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、グルタル酸、セバシン酸及び安息香酸などのカルボン酸、オクチルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、ジ-tert-オクチルホスフィン酸、トリ-n-オクチルホスフィンオキシド、テトラデシルホスホン酸及びジイソオキシルホスフィン酸などのリンのオキソ酸化合物、並びにベンゼンスルフィン酸などのスルフィン酸が挙げられる。これらの化合物は、一種を単独で、又は任意の比率で二種類以上を混合して用いることができる。
【0040】
有機塩基配位子は、ペロブスカイト量子ドット複合体を形成するアニオン、すなわち、主に一般式AMX3中のXと配位結合を形成する化合物、もしくはペロブスカイト量子ドット複合体の1価のカチオン、すなわち、一般式AMX3中のAと、有機塩基配位子のカチオン部を置換することで配位結合を形成する化合物である。
有機塩基配位子は、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物及び第四級アンモニウム塩からなる群より選択される配位子である。例えば、オレイルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、オクチルアミン、ヘキサデジルアミン及びオクタデシルアミン等の炭素数3~16の脂肪族アミン化合物、アニリン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、3-フェニル-2-プロペン-1-アミン、フェニルメチルアミン、2,2′-イミノジ安息香酸、3-フェニルプロピルアミン、4-フェニルブチルアミン、ナフチルアミン、4-アミノビフェニル及び3,4,5-トリス(プロパ-2-エン-1-イルオキシ)ベンジルアミンなどの炭素数6~34の芳香族アミン化合物、ジデシルジメチルアンモニウム塩、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、3-(N,N-ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロパンスルホナート塩及びステアリルトリメチルアンモニウム塩などの脂肪族第4級アンモニウム塩化合物が挙げられる。これらの化合物は、一種を単独で、又は任意の比率で二種類以上を混合して用いることができる。
【0041】
配位子は前記したように有機酸配位子と有機塩基配位子の二種類があることが望ましい。架橋性配位子化合物が、鎖状の不飽和結合を有する有機酸化合物である場合、有機塩基配位子を用いることができ、鎖状の不飽和結合を有する有機塩基化合物である場合、有機酸配位子を用いることができる。架橋性配位子化合物が有機酸化合物、有機塩基化合物であることによらず、有機酸配位子と有機塩基配位子の両方を用いてもよい。架橋性配位子化合物として有機酸化合物と有機塩基化合物の二種類を用いた場合、有機酸配位子及び有機塩基配位子は用いなくてもよい。
【0042】
有機酸配位子、有機塩基配位子及び架橋性配位子化合物が添加されると、ペロブスカイトナノ結晶が部分的に有機酸配位子又は有機塩基配位子で修飾される。このような修飾部位があると、ペロブスカイト量子ドット複合体の合成時にペロブスカイトナノ結晶の成長が調整されて、粒径をコントロールすることができる。結果として、所定の発光波長へ極大波長を変化させ、且つ発光波長分布ばらつきを小さくすることができる。
【0043】
有機酸配位子、有機塩基配位子及び架橋性配位子化合物の添加濃度は、前駆体溶液に溶解する濃度以下であればよい。通常、ハロゲン化アルカリ金属とハロゲン化金属の合計の添加重量に対して10質量%以上であると好ましい。
遠心分離し、上澄みを回収し、ペロブスカイト量子ドット複合体の前駆体溶液を調製する。次いで、前駆体溶液に非極性溶媒を添加し、遠心分離する。沈殿物を回収し、非極性溶媒を添加して、再び遠心分離して、上澄みを回収すると、透明感のあるペロブスカイト量子ドット複合体の分散液が得られる。
【0044】
架橋性配位子化合物を添加することで、ペロブスカイト量子ドット複合体を合成後に配位子交換により架橋性配位子で装飾することができる。交換修飾によるペロブスカイト量子ドット複合体の製造方法について説明する。
有機酸配位子と有機塩基配位子を入れたスクリュー管に、ハロゲン化アルカリ金属及びハロゲン化金属を極性溶媒に溶解させた溶液を添加して攪拌後、遠心分離し、上澄みを回収し、ペロブスカイト量子ドット複合体の前駆体溶液を調製する。次いで、前駆体溶液に非極性溶媒を添加し、遠心分離する。沈殿物を回収し、非極性溶媒を添加して、再び遠心分離して、上澄みを回収すると、分散液が得られる。
架橋性配位子化合物を有機溶媒に添加して配位子交換用溶液を調製する。前記分散液に配位子交換用溶液を添加し、攪拌すると、有機酸配位子又は有機塩基配位子が、架橋性配位子化合物における架橋性配位子と交換し、架橋性配位子を装飾したペロブスカイト量子ドット複合体の分散液が得られる。
【0045】
本明細書において、極性溶媒とは、液体誘電率が20以上であって、非極性溶媒と混和性のある非プロトン性溶媒である。一方、非極性溶媒とは、液体誘電率が10以下の溶媒である。
【0046】
[インク]
本発明のインクは、前記ペロブスカイト量子ドット複合体と、液体誘電率が20以上である極性溶媒と、液体誘電率が10以下である非極性溶媒とを含有する。
液体誘電率が20以上である極性溶媒には、例えば、N-メチルピロリドン(NMP;液体誘電率32.2)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF;液体誘電率36.7)及びアセトニトリル(液体誘電率35.9)などがある。
【0047】
一方、液体誘電率が10以下である非極性溶媒には、例えば、トルエン(液体誘電率2.4)、ヘキサン(液体誘電率1.9)、オクタデセン、酢酸エチル(液体誘電率6.4)、クロロベンゼン(液体誘電率5.6)及びクロロホルム(液体誘電率4.8)などがある。なお、液体誘電率が10以下である非極性溶媒は、前述のLARPによる製造方法において使用した非極性溶媒と同じである。
【0048】
前記極性溶媒に対する前記非極性溶媒の体積比は、通常7倍以上、好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上である。析出したペロブスカイト量子ドット複合体の再溶解抑制や反応収率を高くする観点から、極性溶媒は、非極性溶媒に比べて少ない方が望ましい。
極性溶媒は、ペロブスカイト量子ドット複合体の合成後に一部を除去してもよい。また、合成後に非極性溶媒を添加してもよい。
【0049】
前記インクの別の実施形態は、前記ペロブスカイト量子ドット複合体と、硬化型樹脂とを含有する樹脂インクである。
硬化型樹脂は、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれでもよく、またこれらの混合物であってもよい。硬化型樹脂は、芳香環を複数有するものなど、紫外線の吸収率の高いものが好ましい。
熱硬化性樹脂には、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、アミノ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、カルボジイミド樹脂、シクロカーボネート化合物、エポキシ化合物、多官能オキセタン化合物及びエピスルフィド樹脂などが挙げられる。
光硬化性樹脂には、公知の感光性モノマーであるアクリロイル化合物、エポキシ化合物、光重合性オリゴマーや光重合性ビニルモノマーなどが用いられる。これらの感光性モノマーは、ラジカル重合性及びカチオン重合性のモノマーのいずれでもよい。
硬化型樹脂は、一種を単独で、又は任意の比率で二種類以上を混合して用いることができる。
前記樹脂インク中、ペロブスカイト量子ドット複合体と硬化型樹脂との重量比は、通常、硬化剤樹脂に対してペロブスカイト量子ドット複合体が5.0重量%以下、好ましくは2.0重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下である。
【0050】
前記樹脂インクは、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、ポリカルボン酸樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂及びその誘導体からなる群より選択される化合物などの分散剤や、非極性溶媒、硬化開始剤、重合禁止剤、架橋剤、フッ素添加剤などが挙げられる。
【0051】
硬化開始剤は、露光時にラジカル、カチオン又はアニオンなどの活性種を発生する化合物である。ペロブスカイト量子ドットの励起エネルギーによってモノマーが活性化し重合は進むが、重合開始剤を添加することでより露光時間を短くすることができる。具体的には、有機過酸化物、アゾ化合物、及びトリエチルボランなどのラジカル開始剤、n-ブチルリチウムなどの求核剤、及びモノボランなどの求電子剤など多種のものが挙げられる。
【0052】
重合禁止剤は、貯蔵中にモノマーが不必要な重合することを防止する化合物である。具体的には、ヒドロキノン化合物などを用いることができる。
【0053】
架橋剤は、光硬化性樹脂を改質する化合物である。具体的には、ホモ二機能性架橋剤であるN-ヒドロキシエステル化合物、イミドエステル化合物、及びマレイミド化合物などを用いることができる。
【0054】
フッ素添加剤は、表面改質により樹脂インク、もしくは硬化後の樹脂膜に撥水性を付与するために用いる。パーフルオロアルキル基を備えた有機フッ素化合物が挙げられる。
【0055】
フーリエ変換赤外線分光(FTIR)や核磁気共鳴(NMR)で、前記インク中のペロブスカイト量子ドット複合体の状態を観察すると、ペロブスカイト量子ドットの表面に架橋性配位子が配位しているのが分かる。例えば、架橋性配位子化合物として3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸を用いて、有機酸配位子を使用せずにペロブスカイト量子ドット複合体を合成した場合、FTIRでカルボキシラートイオンが確認され、ペロブスカイト量子ドット表面に配位していることが確認できる。
前記インクに励起光、例えば、波長370nmの紫外線を照射すると、青~赤色(波長450~800nm)の蛍光を発する。
【0056】
前記インクを基板上にスピンコート法で成膜して、接触角計(DM-501、協和界面科学(株)製)を用いてその接触角を測定すると、50.0~90.0°である。紫外線を照射して塗膜を硬化した後、再び接触角を測定すると、0.5~45.0°程度接触角が大きくなる。これは、架橋性配位子のビニル基が架橋反応により飽和結合の網目構造となり、ペロブスカイト量子ドット複合体の表面が疎水化したことを示している。
【0057】
さらに、前記のような液滴法により求めた接触角から、ヤング-デュプレの式を用いて量子ドット塗膜の表面自由エネルギーを求めることができる。
ここで、固体と液体のぬれやすさは、
図6に示す接触角θ
Eの大きさで表される。三相(固体-気体、気体-液体及び固体-液体)の界面では、それぞれの界面を小さくする方向に表面張力が作用する。ここでCの接触線における力の釣り合いを考えたとき、σ
S、σ、σ
SLを
図5に示す3つの張力(N/m)とすれば、力の釣り合いはσ
S-σ
SL=σcosθ
Eと表される。この表面張力を、張力に逆らって単位面積の新たな界面を作るのに必要な仕事量と考えて、表面張力の単位(N/m)を(mN/m)に置き換えて理解すると、量子ドット塗膜の表面自由エネルギーはσ
SLに該当する。
大気下における水に対する濡れ性を求めると、前記塗膜の表面自由エネルギーを求めることができる。この表面自由エネルギーが紫外線照射の前後で低くなる、つまりは塗膜がより撥水となることが好ましい。
【0058】
一方、前記架橋性配位子を装飾していないペロブスカイト量子ドット複合体を基板上にスピンコート法で成膜して、紫外線硬化前後の接触角を測定すると、0.1~15.0°程度接触角が小さくなる。その理由としては、必ずしも明確ではないが、紫外線照射によりペロブスカイト量子ドットから有機酸配位子及び有機塩基配位子が欠落し、ペロブスカイトナノ結晶が露出することで親水化したという理由であると考えられる。
【0059】
前記塗膜の水分や極性溶媒による耐久性は、塗膜が疎水性であるほど向上することが分かっている。つまり、紫外線照射により表面自由エネルギーが低くなるということは、塗膜の耐久性が向上したことを示している。
【0060】
[ペロブスカイト量子ドット積層膜]
本発明のペロブスカイト量子ドット積層膜の製造方法は、前記インクを基板に塗布して、基板上に塗膜を形成する工程1と、紫外線を照射して前記塗膜を硬化させる工程2とを有する。
前記ペロブスカイト量子ドット積層膜は、基板と、前記基板上に一層又は二層以上形成された前記インクの紫外線硬化膜とからなることが好ましい。工程1及び工程2を複数回繰り返すことにより、基板上にペロブスカイト量子ドット積層膜を複数の層で形成することができる。
【0061】
図7(A)はペロブスカイト量子ドット積層膜を形成する工程を示している。基板上にスピンコートによりインクを成膜して紫外線を照射した後、再びインクを成膜して紫外線を照射する。これを繰り返すことにより、ペロブスカイト量子ドットの粒子間が三次元に相互に保持され、厚く塗布することが可能となり、PLQYを向上させることができる。このようにして形成した本発明のペロブスカイト量子ドット積層膜(実施例1)は、
図8に示すように従来の薄膜に対して2.23倍の発光強度を得ることができる。一方、架橋性配位子を用いないペロブスカイト量子ドット膜(比較例1)は複数回塗布を行っても発光強度が119%にしか上昇せず、3回以上塗布を重ねても発光強度が上がらなかった。また、
図7(B)に示すように、基板上にスピンコートによりインクを成膜した後、マスキングし、成膜箇所に紫外線を部分的に照射し、洗浄することによってペロブスカイト量子ドット積層膜をパターン形成することもできる。
なお、基板にはガラス板、樹脂板及び半導体板など公知のものが用いられる。
【0062】
得られたペロブスカイト量子ドット積層膜は、可視光から近赤外波長領域に発光を生じる。ペロブスカイト量子ドット積層膜は、励起により発光する性質を有し、具体的には、励起光による励起及び電気による励起により発光する性質を有する。ペロブスカイト量子ドット積層膜を励起する光の波長は200~800nm、具体的には250~750nm、より具体的には300~600nmである。
【0063】
本発明のペロブスカイト量子ドット積層膜は、硬化材料とともに使用することで、波長変換材料として好適である。硬化材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ガラス及びセラミックスなどが用いられる。
また、本発明のペロブスカイト量子ドット複合体を分散したインクを、基材に塗布することで電気励起時発光材料として使用することができる。
【実施例0064】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
ペロブスカイト量子ドット複合膜の合成方法と、ペロブスカイト量子ドット複合膜を用いた積層膜の作製方法を以下に示す。
[実施例1]
(1)架橋性配位子化合物の合成
没食子酸メチル0.950g及び炭酸カリウム(K
2CO
3)6.50gを入れた三口フラスコ中にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)62.5mLを添加し、窒素雰囲気中、65℃で攪拌した。次いで、この溶液中にアリルブロミド1.80mLを添加し、さらに3時間、65℃で攪拌した。反応混合物を抽出し、精製して、黄色油状物である3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸メチルを得た。
得られた黄色油状物0.370mL、エタノール(EtOH)3.00mL、水酸化カリウム(KOH)369mg及び水1.00mLを混合し、2時間加熱還流した。反応混合物に1mol/Lの塩酸を添加してpH2になるまで酸性化し、濾過し、白色固体である3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸を得た。
【化5】
【0065】
(2)ペロブスカイト量子ドット複合体の合成
臭化セシウム(CsBr)8.16mg及び臭化鉛(II)(PbBr2)22.1mgをスクリュー管に入れ、DMF850μLを添加して、25分間、超音波を照射することにより溶解させた。
一方、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸12.6mg及びオレイルアミン6.80μLを入れたスクリュー管に、臭化セシウム及び臭化鉛(II)のDMF溶液を170μL添加して、5分間、遠心分離(12,000rpm)し、ペロブスカイト量子ドット複合体の前駆体溶液を調製した。
前駆体溶液150μL及び酢酸エチル2.25mLをスクリュー管に入れて、15分間攪拌後、マイクロピペットで全量を遠心管に移して、遠心分離した。沈殿物を回収し、トルエン2.00mLを添加して、再び遠心分離して、上澄みを回収した。このようにして透明感のある薄緑色のペロブスカイト量子ドット複合体の分散液を得た。
なお、実施例1のペロブスカイト量子ドット複合体では、架橋性配位子化合物のカルボキシ基が鉛サイトに配位している。
【0066】
(3)ペロブスカイト量子ドット積層膜の作製及び評価
ペロブスカイト量子ドット複合体の分散液1.5mLの溶媒を減圧下に除去した後、トルエン50μLに再び溶解させた。ペロブスカイト量子ドット複合体のトルエン溶液をガラス基板上にスピンコート法(2,000rpm、20秒)で成膜し、波長365nmで照射光量3.0mW/cm2の紫外線を90分間、照射した。
【0067】
〔接触角の測定〕
ペロブスカイト量子ドット複合体のトルエン溶液を室温(20℃)でガラス基板上にスピンコート法(2,000rpm、20秒間)で成膜し、基板面に対するペロブスカイト量子ドット複合体のトルエン溶液の接触角を接触角計(DM-501、協和界面科学(株)製)を用いて測定した。塗膜に対して水滴を滴下し、水平方向から写真を撮影した。その写真をもとにθ/2法により、塗膜上に形成された液滴がなす接触角を算出した。
紫外線を90分間、照射した後、再び接触角を測定し、紫外線照射の前後で接触角の変化を調べた。
実施例1では、紫外線照射前では接触角が58.1°であったが、照射後、85.4°となり、接液部であるペロブスカイト量子ドット複合膜の疎水性が増すことで、接触角が大きくなることが確認された(
図1)。
【0068】
〔表面自由エネルギーの測定〕
前記のようにして液滴法により求めた接触角から、ヤング-デュプレの式を用いて量子ドット塗膜の表面自由エネルギーを求めた。
実施例1では、紫外線照射前では69.5mN/m、照射後は49.1mN/mであり、表面自由エネルギーの変化量は-20.4mN/mであった。
【0069】
〔耐水性の測定〕
実施例1において作製した量子ドット塗膜の架橋配位子の架橋反応による耐水性を比較するため、紫外線照射の前後の量子ドット塗膜を成形した基板を、加速劣化条件として水の中に浸漬し、フォトルミネッセンス(PL)の変化率を調べた。
紫外線照射前は超純水に浸漬開始から1.3分でPLが浸漬前の20%に低下した。一方、紫外線照射後は浸漬開始から4.3分後でPLが浸漬前の20%に低下しており、耐水性が向上した(
図9)。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸に代えて、下記構造式で表される3,4,5-トリ(4-ペンテノキシ)安息香酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性配位子化合物を合成し、次いでペロブスカイト量子ドット複合体を合成した。
【化6】
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では78.2°であったが、照射後は84.6°となり、接触角が大きくなることが確認された(
図2)。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では54.8mN/m、照射後は49.8mN/mであり、変化量は-5.0mN/mであった。
【0071】
[実施例3]
実施例1において、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸に代えて、下記構造式で表される3,4,5-トリ(4-ビニルフェニルメトキシ)安息香酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性配位子化合物及びペロブスカイト量子ドット複合体を合成した。
【化7】
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では68.4°であったが、照射後は73.6°となり、接触角が大きくなることが確認された(
図3)。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では62.2mN/m、照射後は58.3mN/mであり、変化量は-3.9mN/mであった。
【0072】
[実施例4]
実施例1において、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸に代えて、下記構造式で表される2,2-(ビスアクリロイルオキシメチル)プロピオン酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性配位子化合物を合成し、次いでペロブスカイト量子ドット複合体を合成した。
【化8】
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では78.9°であったが、照射後は82.7°となり、接触角が大きくなることが確認された(
図4)。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では54.3mN/m、照射後は51.3mN/mであり、変化量は-3.0mN/mであった。
【0073】
[実施例5]
(1)架橋性配位子化合物の合成
没食子酸メチル4.6g及び炭酸カリウム(K2CO3)41.5gを入れた三口フラスコ中にN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)100mLを添加し、窒素雰囲気中、65℃で攪拌した。次いで、この溶液中にアリルブロミド9.0mLを添加し、さらに3時間、65℃で攪拌した。反応混合物を抽出し、精製して、黄色油状物である3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸メチルを得た。
得られた黄色油状物6.0gをテトラヒドロフラン(THF)52.5mLと混合し、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)1.1g及びTHF6.9mLを含む溶液中に滴下し、1.5時間撹拌した。反応混合物に1mol/Lの塩酸を添加して、反応混合物を抽出し、無色液体である(3,4,5-トリス(2-プロペノキシ)フェニル)メタノールを得た。
得られた(3,4,5-トリス(2-プロペノキシ)フェニル)メタノール4.52gをジクロロメタン50mLと混合し、三臭化リン(PBr3)2.2mL及びジクロロメタン110mLを含む溶液中に滴下し、3時間撹拌した。反応混合物に水を添加して、反応混合物を抽出し、無色液体である1,2,3-トリス(アリルオキシ)-5-(ブロモメチル)ベンゼンを得た。
得られた1,2,3-トリス(アリルオキシ)-5-(ブロモメチル)ベンゼン3.6gをTHF180mL中に加え、約3mol/Lのトリメチルアミンエタノール溶液5.3mLと混合し、24時間撹拌した。溶媒を除去し、精製して、白色固体であるN,N,N-トリメチル-1-(3,4,5-トリス(アリルオキシ)フェニル)メタンアミニウムブロミドを得た。
【0074】
(2)架橋性配位子化合物を用いないペロブスカイト量子ドット複合体の合成
臭化セシウム(CsBr)8.16mg及び臭化鉛(II)(PbBr2)22.1mgをスクリュー管に入れ、DMF850μLを添加して、25分間、超音波を照射することにより溶解させた。
一方、オレイン酸13.9μL及びオレイルアミン6.80μLを入れたスクリュー管に、臭化セシウム及び臭化鉛(II)のDMF溶液を170μL添加して、ペロブスカイト量子ドット複合体の前駆体溶液を調製した。
前駆体溶液150μL及び酢酸エチル2.25mLをスクリュー管に入れて、15分間攪拌後、マイクロピペットで全量を遠心管に移して、遠心分離した。沈殿物を回収し、トルエン500μLを添加した。このようにして透明感のある薄緑色のペロブスカイト量子ドット複合体の分散液を得た。
【0075】
(3)配位子交換による架橋性配位子の導入
N,N,N-トリメチル-1-(3,4,5-トリス(アリルオキシ)フェニル)メタンアミニウムブロミド31.7mgにクロロホルム100μLを添加し、配位子交換用溶液を調製した。
ペロブスカイト量子ドット複合体の分散液1.5mLにオレイン酸18.9μLと配位子交換用溶液30μLを加え、5分間撹拌することでペロブスカイト量子ドット複合体のオレイルアミンとN,N,N-トリメチル-1-(3,4,5-トリス(アリルオキシ)フェニル)メタンアミニウム ブロミドの配位子交換を行った。ここにアセトニトリル1.5mLを添加して、3分間、遠心分離(16,500rpm)した。沈殿物を回収し、トルエン200μLを添加して、2分間遠心分離(8,000rpm)して、上澄みを回収した。このようにして透明感のある薄緑色のペロブスカイト量子ドット複合体の分散液を得た。
なお、実施例1~4と異なり、実施例5のペロブスカイト量子ドット複合体では、架橋性配位子化合物の4級アンモニウムカチオンがセシウムサイトを置換することで配位している。
【化9】
【0076】
(4)ペロブスカイト量子ドット積層膜の作製及び評価
ペロブスカイト量子ドット積層膜の作製及び評価については実施例1と同様に実施した。
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では77.6°であったが、照射後は78.9°となり、接触角が大きくなることが確認された(
図5)。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では55.3mN/m、照射後は54.3mN/mであり、変化量は-1.0mN/mであった。
【0077】
[比較例1]
実施例1において、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸に代えて、オレイン酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、ペロブスカイト量子ドット複合体を合成した。
【化10】
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では87.1°、照射後では86.5°であった。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では47.8mN/m、照射後は48.3mN/mであり、変化量は0.5mN/mであった。
【0078】
[比較例2]
実施例1において、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸に代えて、オクタン酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性配位子化合物を合成し、次いでペロブスカイト量子ドット複合体を合成した。
【化11】
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では72.3°、照射後では70.9°であった。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では59.3mN/m、照射後は60.4mN/mであり、変化量は1.1mN/mであった。
【0079】
[比較例3]
実施例1において、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸に代えて、4-(2-プロペノキシ)安息香酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、ペロブスカイト量子ドット複合体を合成した。
【化12】
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では75.4°、照射後では66.4°であった。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では57.0mN/m、照射後は63.7mN/mであり、変化量は6.7mN/mであった。
【0080】
[比較例4]
実施例1において、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸に代えて、4-ペンテン酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、ペロブスカイト量子ドット複合体を合成した。
【化13】
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では57.6°、照射後では55.8°であった。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では69.9mN/m、照射後は71.1mN/mであり、変化量は1.2mN/mであった。
【0081】
[比較例5]
実施例1において、3,4,5-トリ(2-プロペノキシ)安息香酸に代えて、10-ウンデセン酸を使用した以外は、実施例1と同様にして、ペロブスカイト量子ドット複合体を合成した。
【化14】
ペロブスカイト量子ドット複合体の接触角は、紫外線照射前では68.6°、照射後では68.3°であった。
表面自由エネルギーは、紫外線照射前では62.1mN/m、照射後は62.3mN/mであり、変化量は0.2mN/mであった。
【0082】
実施例1~5及び比較例1~5の結果を表1に示す。
【表1】