(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107607
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】樹脂材料、積層造形物の製造方法、及び再生樹脂のアップサイクル方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/153 20170101AFI20230727BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230727BHJP
【FI】
B29C64/153
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008885
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 富生
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃寛
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA24
4F213AA34
4F213AB16
4F213AC04
4F213AM35
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL23
4F213WL25
(57)【要約】
【課題】積層造形時の反りを抑制可能な樹脂材料を提供する。
【解決手段】樹脂材料2は、ベース樹脂1とともにレーザ照射されることで積層造形に使用され、ベース樹脂1に含まれる重合単位と同種の第1重合単位と、隣接する前記第1重合単位間に配置され、隣接する前記第1重合単位の結合方向を調整する第2重合単位と、を含む調整樹脂22を含み、調整樹脂22では、2つの前記第1重合単位と前記第2重合単位との重合部分において、前記第2重合単位の重心から隣接する前記第1重合単位のそれぞれの重心に向けて引いた2本の直線の為す角度が100°以上140°以下であり、ベース樹脂1に対する調整樹脂22の吸着エネルギが20kJ/mol以上90kJ/mol以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂とともにレーザ照射されることで積層造形に使用され、
前記ベース樹脂に含まれる重合単位と同種の第1重合単位と、隣接する前記第1重合単位間に配置され、隣接する前記第1重合単位の結合方向を調整する第2重合単位と、を含む調整樹脂を含み、
前記調整樹脂では、2つの前記第1重合単位と前記第2重合単位との重合部分において、前記第2重合単位の重心から隣接する前記第1重合単位のそれぞれの重心に向けて引いた2本の直線の為す角度が100°以上140°以下であり、
前記ベース樹脂に対する前記調整樹脂の吸着エネルギが20kJ/mol以上90kJ/mol以下である
樹脂材料。
【請求項2】
前記ベース樹脂は、ジオールに由来する重合単位と、ベンゼン環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位とを含み、
前記第1重合単位は、ジオールに由来する重合単位、及び、ベンゼン環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位を含むとともに、前記第2重合単位は、ナフタレン環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位とを含み、
前記第2重合単位の含有率が、前記第1重合単位及び前記第2重合単位の総モル量に対して7mol%以上40mol%以下である
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項3】
前記第1重合単位はナフタレン環を含み、
前記ベース樹脂は、前記第1重合単位において前記ナフタレン環に結合した2つの官能基の結合同士の為す角度が同じになるように、2つの前記官能基を前記ナフタレン環に代えてベンゼン環に結合させた重合単位を含む
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項4】
前記調整樹脂は、2つの前記ナフタレン環の間に、前記ベース樹脂に含まれる2つの前記ベンゼン環の間のアルキル鎖よりも短いアルキル鎖を含む
請求項3に記載の樹脂材料。
【請求項5】
前記ベース樹脂は、ジオールに由来する重合単位と、前記ジオールがベンゼン環のパラ位に重合するジカルボン酸に由来する重合単位とを含み、
前記第2重合単位は、ナフタレン環の2,7位に主鎖が結合する構造を有する
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項6】
前記ベース樹脂は、アルカンジオールに由来する重合単位と、前記角度が160°以上200°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した第1芳香環を有する芳香族カルボン酸に由来する重合単位と、を含み、
前記第1重合単位は、アルカンジオールに由来する重合単位と、前記角度が160°以上200°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した第1芳香環を有する芳香族カルボン酸に由来する重合単位と、を含むとともに、
前記第2重合単位は、前記角度が100°以上140°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した第2芳香環を有する芳香族カルボン酸に由来する重合単位とを含む
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項7】
前記第1芳香環はベンゼン環を含み、
前記第2芳香環はナフタレン環を含む
請求項6に記載の樹脂材料。
【請求項8】
前記ベース樹脂は、ポリブチレンテレフタレートを含み、
前記第1重合単位は、直線的に重合単位が結合するポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、又は、ポリブチレンナフタレートの少なくとも一種に含まれる重合単位を含み、
前記第2重合単位は、前記角度が100°以上140°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した芳香環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位を含む
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項9】
前記第2重合単位は、前記第1重合単位の少なくとも一部の重合単位のうち、前記角度が異なる異性体を含む
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項10】
前記ベース樹脂は、ポリフェニレンサルファイドを含み、
前記第1重合単位は、前記ポリフェニレンサルファイドのうちの2つの硫黄原子がパラ位に結合するベンゼン環を含み、
前記第2重合単位は、前記ポリフェニレンサルファイドのうちの2つの硫黄原子がメタ位に結合するベンゼン環を含む
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項11】
前記ベース樹脂同士の化学結合を促進する触媒を含む
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項12】
繊維状、鱗片状又はビーズ状の少なくとも一形態を有する無機材料を含み、
前記無機材料の含有率は、前記ベース樹脂及び前記調整樹脂の合計量に対して、1原子%以上45原子%以下であり、
前記無機材料の平均粒径は0.001μm以上200μm以下である
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項13】
熱伝導率が50W/(m・K)以上の材料を含む
請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項14】
積層造形に使用されるベース樹脂と、樹脂材料と、を含む粉末にレーザ光を照射することで積層造形物を製造するとともに、
前記樹脂材料は、
前記ベース樹脂に含まれる重合単位と同種の第1重合単位と、隣接する前記第1重合単位間に配置され、隣接する前記第1重合単位の結合方向を調整する第2重合単位と、を含む調整樹脂を含み、
前記調整樹脂では、2つの前記第1重合単位と前記第2重合単位との重合部分において、前記第2重合単位の重心から隣接する前記第1重合単位のそれぞれの重心に向けて引いた2本の直線の為す角度が100°以上140°以下であり、
前記ベース樹脂に対する前記調整樹脂の吸着エネルギが20kJ/mol以上90kJ/mol以下である
積層造形物の製造方法。
【請求項15】
前記ベース樹脂は再生樹脂を含む
請求項14に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項16】
前記再生樹脂の含有量は、前記ベース樹脂及び前記調整樹脂の総量に対して、20質量%以上である
請求項15に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項17】
前記粉末は、積層造形物を構成する層に対応する粉末層毎に異なる成分又は組成の少なくとも一方を有する
請求項14に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項18】
積層造形装置において、前記ベース樹脂と前記樹脂材料とを含む粉末に対しレーザ光を照射することで、前記ベース樹脂及び少なくとも前記調整樹脂を溶融させる
請求項14に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項19】
前記ベース樹脂と前記樹脂材料との混合物を加熱溶融させた後で粉砕して粉末を作製し、作製した粉末を積層造形装置に供給して積層造形物を製造する
請求項14に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項20】
再生樹脂を含むベース樹脂と、樹脂材料と、を含む粉末にレーザ光を照射することで積層造形物を製造するとともに、
前記樹脂材料は、
前記ベース樹脂に含まれる重合単位と同種の第1重合単位と、隣接する前記第1重合単位間に配置され、隣接する前記第1重合単位の結合方向を調整する第2重合単位と、を含む調整樹脂を含み、
前記調整樹脂では、2つの前記第1重合単位と前記第2重合単位との重合部分において、前記第2重合単位の重心から隣接する前記第1重合単位のそれぞれの重心に向けて引いた2本の直線の為す角度が100°以上140°以下であり、
前記ベース樹脂に対する前記調整樹脂の吸着エネルギが20kJ/mol以上90kJ/mol以下である
再生樹脂のアップサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂材料、積層造形物の製造方法、及び再生樹脂のアップサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂粉末を用いた積層造形は、3次元積層造形の中でも、造形精度を高くできる上に、金型を必要としないため、既に様々な用途に使われている上に、今後ますます多用されることが期待されている。使用される樹脂の成分によっては、積層造形中に反りが発生し得る。これに対して、樹脂を共重合体とすることによって解決する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1の要約書には「温度制御に対してロバスト性が高く、かつ、造形品の耐熱性を向上させることのできる樹脂粉末を提供する。上記課題を解決するために、本発明による樹脂粉末は、熱可塑性のベース樹脂粉末に、ベース樹脂粉末の融点よりも高い融点を有する熱可塑性の高融点樹脂粉末を混合した混合樹脂粉末を用いる。例えばベース樹脂粉末にイソフタル酸共重合PBT(ポリブチレンテレフタレート)を用い、高融点樹脂粉末にホモPBTを用いる。または、例えばベース樹脂粉末にポリアミド12を用い、高融点樹脂粉末にMXDナイロンを用いる。」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
詳細は後記するが、本発明者の検討によれば、特許文献1に記載のイソフタル酸を用いた技術では、積層造形時の反りの発生に依然として改善の余地があることがわかった。
本開示が解決しようとする課題は、反りを抑制可能な樹脂材料、積層造形物の製造方法、及び再生樹脂のアップサイクル方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の樹脂材料は、ベース樹脂とともにレーザ照射されることで積層造形に使用され、前記ベース樹脂に含まれる重合単位と同種の第1重合単位と、隣接する前記第1重合単位間に配置され、隣接する前記第1重合単位の結合方向を調整する第2重合単位と、を含む調整樹脂を含み、前記調整樹脂では、2つの前記第1重合単位と前記第2重合単位との重合部分において、前記第2重合単位の重心から隣接する前記第1重合単位のそれぞれの重心に向けて引いた2本の直線の為す角度が100°以上140°以下であり、前記ベース樹脂に対する前記調整樹脂の吸着エネルギが20kJ/mol以上90kJ/mol以下である。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、反りを抑制可能な樹脂材料、積層造形物の製造方法、及び再生樹脂のアップサイクル方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ベース樹脂と本開示の樹脂材料に含まれる調整樹脂との作用を説明する図である。
【
図2】第1実施形態の積層造形物の製造方法を説明する図である。
【
図3】第2実施形態の積層造形物の製造方法を説明する図である。
【
図4】再生PBT50質量%に対してイソフタル酸を10mol%共重合させたPBTを50質量%混合させた場合の積層造形物の例を示す写真である。
【
図5】再生PBT20質量%に対してイソフタル酸を10mol%共重合させたPBTを80%質量混合させた場合の積層造形物の例を示す写真である。
【
図6】再生PBT及び共重合体の混合粉末において、再生PBTの含有率と結晶化速度との関係を示すグラフである。
【
図7】再生PBTを20質量%含む場合の反り変形を説明する図である。
【
図8】再生PBTを25質量%含む場合の反り変形を説明する図である。
【
図9】2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
【
図10】2,7-ナフタレンジカルボン酸を共重合させたPBTの結晶構造を示す図である。
【
図11】2,6-ナフタレンジカルボン酸を共重合させたPBTの結晶構造を示す図である。
【
図12】無機材料を使用し、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
【
図13】触媒を使用し、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
【
図14】無機材料及び触媒を使用し、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
【
図15】別の実施形態において、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
【
図16】別の実施形態において、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
【
図17】別の実施形態に係るポリフェニレンサルファイドの結晶構造を示す図である。
【
図18】メタ位に2つの硫黄原子が結合した第2重合単位を含む調整樹脂を使用し、第2重合単位の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0010】
また、以下の記載において、「成分に由来する重合単位」、「重合単位を形成する成分」等の表現が含まれる。例えば、重合単位が「-O-(CH2)4-O-」である場合、成分は例えば「1,4-ブタンジール」である。ただし、成分は1,4-ブタンジールに限定されず、例えばジカルボン酸との重合により「-O-(CH2)4-O-」という重合単位を形成する成分であれば、他の成分(例えば1,4-ブタンジールの誘導体)でもよい。他の成分及び他の重合単位についても同様である。即ち、成分表記は便宜的なものであり、重合単位が同じであれば、由来する成分、及び、その重合単位を形成する成分は、記載した成分に限定されない。
【0011】
図1は、ベース樹脂1と本開示の樹脂材料2に含まれる調整樹脂22との作用を説明する図である。
図1では、便宜のため、ベース樹脂1の分子鎖、及び、調整樹脂22の分子鎖が図示される。また、ベース樹脂1としてポリブチレンテレフタレート(以下、PBT、ホモPBT等という)の構造が例示される。さらに、調整樹脂22として、2,7-ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸をモノマーの一部として用いた構造が例示される。従って、調整樹脂22は、ホモPBTを構成する重合単位である、テレフタル酸に由来する重合単位に加え、2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する重合単位を含む。換言すれば、調整樹脂22は、ベース樹脂1を形成する1,4-ブタンジオール及びテレフタル酸と、更には2,7-ナフタレンジカルボン酸との共重合体である。従って、調整樹脂22は、2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する重合単位を含まないこと以外は、ベース樹脂1と同じ重合単位を有する。
【0012】
樹脂材料2は、積層造形に使用されるベース樹脂1とともにレーザ照射されることで積層造形に使用される。まず、具体的な使用方法を、
図2及び
図3を参照して説明する。
【0013】
図2は、第1実施形態の積層造形物203の製造方法を説明する図である。積層造形物203は、積層造形に使用されるベース樹脂1と、樹脂材料2(調整樹脂22を含む)と、を含む混合粉末20,21にレーザ光を照射することで製造される。
図2の例では、積層造形装置100において、ベース樹脂1と樹脂材料2とを含む混合粉末20,21に対しレーザ光を照射することで、ベース樹脂1及び少なくとも調整樹脂22を溶融させる。混合粉末20,21は、例えば粉末のベース樹脂1と、粉末の樹脂材料2とを含む。
【0014】
ベース樹脂1は、剛直な構造を有し、曲がり部を有する。ベース樹脂1と、樹脂材料2含まれる調整樹脂22との混合物の加熱溶融により、調整樹脂22がベース樹脂1に例えば物理的に吸着する。これにより、ベース樹脂1の主に主鎖が調整樹脂22に沿って曲げられて、ベース樹脂1及び調整樹脂22が固化するときに、これらの結晶化速度を遅くできる。この結果、急激な固化(結晶化)を抑制でき、ベース樹脂1及び調整樹脂22を用いた積層造形時の反りの発生を抑制できる。これにより、反りに起因する積層造形物203の割れを抑制できる。
【0015】
積層造形装置100は、例えば、レーザ光源41、ガルバノミラー42、造形容器5、ピストン9,10,11、ヒータ(不図示)等を備えて構成される。レーザ光源41は、積層造形に使用され、設置された混合粉末20,21を溶融させ積層接合するものである。ガルバノミラー42は、造形領域内でレーザ光44を動かすものである。造形容器5は、造形領域内に設置される。保管容器6,7は、造形容器5の両側に配置される。ピストン9,10,11は、保管容器6,7を上下方向に動作させるものである。ヒータ(不図示)は、造形容器5及び保管容器6,7を高温に保持するものである。保持温度は、ベース樹脂1及び樹脂材料2に応じて決定すればよいが、ベース樹脂1がPBT(再生樹脂を含んでもよい)を含む場合には例えば180℃以上200℃以下であり、ベース樹脂1がPPS(後記。再生樹脂を含んでもよい)を含む場合には例えば250℃以上270℃以下である。
【0016】
はじめに、
図2の左上に示す通り、ベース樹脂1の粉末と樹脂材料2の粉末との混合粉末20,21が積層造形装置100の保管容器6,7に設置される。混合粉末20,21は、積層造形物203を構成する層に対応する粉末層毎に異なる成分又は組成の少なくとも一方を有することが好ましい。ここでいう粉末層は、保管容器6,7に収容され、高さ方向に積み重なった混合粉末20,21の層である。粉末層毎に異なる成分又は組成の少なくとも一方を有することで、積層造形物203の形状に基づき、層毎の物性を変更できる。具体的には例えば、積層造形物203において特に強度が求められる層には、例えば無機材料(後記)等の強度向上成分を含有させる等が挙げられる。
【0017】
混合粉末20,21の平均粒径は例えば0.001μm以上200μm以下である。平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定でき、以下で記載する平均粒径も同様に測定できる。混合粉末20,21は、例えば、0.001μm以上200μm以下の平均粒径を有するベース樹脂1の粉末と、0.001μm以上200μm以下の平均粒径を有する樹脂材料2の粉末とを混合することで、作製できる。ただし、ベース樹脂1と樹脂材料2とが同一系内に存在していれば、混合しなくてもよい。
【0018】
詳細は後記するが、樹脂材料2を含む混合粉末20,21には、ベース樹脂1(特に再生樹脂)の分子量を高めるための反応促進用の触媒、剛性を高めるための無機材料等が含まれてもよい。これらの少なくとも一方を含むことが、反りの更なる抑制及び積層造形物203の強度向上の観点で好ましい。
【0019】
混合粉末20は、造形領域に供給する粉末敷設用のローラ40(粉末敷設ブレードでもよい)で敷設される。混合粉末20は、平面となるようにほぼ均一に設置される。積層造形物203は、造形部201,202によって造形される。
【0020】
混合粉末20,21を保管する保管容器6,7の温度が高くなり過ぎると、混合粉末20,21を造形容器5に平滑な形で敷設することが難しくなる。このため、造形領域内の温度より低くすることが好ましい。以下に詳細な手順を記載する。
【0021】
混合粉末20は、ピストン11によって押し上げられ、ローラ40が紙面左から右への向き8に沿ってに動くことで、造形容器5に造形用粉末101として敷設される。これが粉末敷設(1回目)である。次に、
図1の右上の図にあるレーザ照射(1回目)のところでは、レーザ光44を造形用粉末101に照射し、混合粉末20が溶融される。これによって、レーザ光44が当たった部分だけ造形用粉末101が固まって、造形部201が形成される。
【0022】
図2に示す例では、積層造形装置100において、ベース樹脂1と樹脂材料2とを含む混合粉末20(混合されない粉末でもよい)に対しレーザ光を照射することで溶融(焼結を含む)させて、ベース樹脂1に対して粉末敷設用が吸着する。ベース樹脂1と調整樹脂22とが溶融することでこれらが一様に混ざり易くなり、これらの接触機会が増大する。これにより、調整樹脂22がベース樹脂1に吸着し易くできる。
【0023】
この後、
図2の左下の図では、粉末敷設(2回目)が行われる。ここでは、ピストン9によって保管容器7に設置された混合粉末21が押し上げられ、次にローラ40が紙面右から左に移動することで、混合粉末21が造形容器5に2層目の造形用粉末102として敷設される。さらに次には、
図2の右下の図において、レーザ照射(2回目)が行われる。ここでは、レーザ光44が造形用粉末102に照射され、造形用粉末102が溶融する。これによって、レーザ光44が当たった部分だけ造形用粉末102が固まって、造形部202が形成される。
【0024】
造形用粉末102が固まるとき、レーザ光44が当たった部分の結晶化が早く起こってしまうと、体積収縮が生じ易くなる。1層目の造形部201は既に固まっているために造形部202に比べて分子が動き難い状態である。このため、体積収縮を抑制することになり、結果として2層目の造形部202には引張応力が発生して、反りが発生し易くなる。
【0025】
そこで、本開示では、ベース樹脂1を用いた積層造形の際、上記のように調整樹脂22をベース樹脂1に吸着させてベース樹脂1を折り曲げ、これにより、ベース樹脂1及び調整樹脂22の結晶化速度を遅くできる。この結果、反りを抑制できる。従って、調整樹脂22の結晶化速度は、ベース樹脂1の結晶化速度よりも遅い。結晶化速度は、例えば示差走査熱量測定により測定できる。
【0026】
1層目の造形部201及び2層目の造形部202は,例えば厚さ0.0001mmから厚さ0.5mmである。しかし、上記の工程を繰り返して数百~数十万層を積層することで、積層造形物203を製造できる。本開示では、3層目以降も、前記と同様に、結晶化速度を遅くさせる混合粉末20,21が用いられている。このため、反りを抑制する効果が得られ、ひずみの少ない積層造形物203が得られる。
【0027】
図3は、第2実施形態の積層造形物203の製造方法を説明する図である。第2実施形態では、混合粉末20,21(
図2)に代えて、粉末30,31にレーザ光4が照射される。粉末30,31は、ベース樹脂1と樹脂材料2との混合物を加熱溶融(焼結を含む)及び適宜混練した後で粉砕することで作製された粉末である。混合物の加熱溶融により、ベース樹脂1と調整樹脂22とが吸着する。
【0028】
図3に示す例では、樹脂材料2は、詳細は後記する触媒を含むことが好ましい。触媒を含むことで、加熱溶融によってベース樹脂1の分子量が大きく(分子鎖が長く)なる。また、加熱溶融前には、ベース樹脂1と樹脂材料2とは、事前に粉砕して例えば粉末化してもよく、これにより、一様に加熱溶融できる。ただし、ベース樹脂1と樹脂材料2とを加熱溶融時に一様にできる場合には、事前の粉砕は行わなくてもよい。加熱溶融後の事後粉砕は、例えば平均粒径が例えば0.001μm以上200μm以下になるように行われる。
【0029】
更に、
図3に示す例では、粉末30,31は、詳細は後記する無機材料又は高伝熱成分の少なくとも一方を含むことも好ましい。無機材料又は高伝熱成分の少なくとも一方は、任意の時期に含有でき、例えば、事前粉砕の前又は後、加熱溶融の前又は後、冷却の前又は後、事後粉砕の前又は後に含有できる。作製した粉末30,31が積層造形装置100に供給され、積層造形物203が製造される。
【0030】
図1に戻って、上記のように、ベース樹脂1は、調整樹脂22に沿って調整樹脂22に吸着する。吸着は、吸着位置は図示の例に何ら限定されないが、
図1において白抜き矢印で示すように、調整樹脂22を構成するナフタレン環付近が、ベース樹脂1を構成するベンゼン環付近に吸着する。吸着は、ベース樹脂1の少なくとも一部の部分と、調整樹脂22の少なくとも一部の部分とで生じればよく、ベース樹脂1の全体と調整樹脂22の全体とが吸着してもよい。吸着位置は、例えば、ベース樹脂1及び調整樹脂22のエントロピーを含めて、例えば第1原理計算により予測できる。
【0031】
ベース樹脂1に対する調整樹脂22の吸着エネルギが20kJ/mol以上90kJ/mol以下である。20kJ/mol以上であることで、ベース樹脂1を強固に吸着でき、調整樹脂22に沿ってベース樹脂1を曲げることができる。また、吸着によってベース樹脂1の分子鎖の運動を抑制して、結晶化速度を遅くできる。一方で、90kJ/mol以下であることで、強固過ぎる吸着ではなく適度な吸着により分子の運動をある程度許容でき、ベース樹脂1を曲げ易くできる。吸着エネルギは、好ましくは30kJ/mol以上、より好ましくは40kJ/mol以上、上限として、好ましくは80kJ/mol以下、より好ましくは70kJ/mol以下である。吸着エネルギは、例えば第1原理計算により算出できる。
【0032】
ベース樹脂1は重合単位が結合することで構成される。ベース樹脂1は、例えば、ジオールに由来する重合単位と、ベンゼン環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位とを含む。より具体的には、例えば、ベース樹脂1は、例えば、ジオールに由来する重合単位と、前記ジオールがベンゼン環のパラ位に重合するジカルボン酸に由来する重合単位とを含む。
【0033】
ジオールは例えばアルカンジオール等であり、アルカンを構成する炭素の数は例えば2以上、好ましくは4以上、上限としては例えば6以下である。ジカルボン酸は、例えば、ベンゼン環のパラ位にカルボン酸が結合したもので等ある。ジカルボン酸は、例えばテレフタル酸等である。ベース樹脂1は、例えば上記のPBTを含むほか、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等が挙げられる。
【0034】
ベース樹脂1は、再生樹脂を含むことが好ましい。即ち、例えばベース樹脂1がPBTである場合、PBTの再生樹脂が含まれることが好ましい。再生樹脂は例えば使用済みの樹脂、廃棄された樹脂等であり、重合単位等の基本構造が新品の樹脂と同じものである。例えば、新品のPBTと再生PBTとは、例えば詳細は後記するが分子量が異なり得るものの、重合単位は同じであり、いずれも、例えば1,4-ブタンジオールとテレフタル酸との共重合体である。再生樹脂をベース樹脂1として使用することで、カーボンニュートラル及び「持続可能な開発目標(SDGs)」に貢献できる。
【0035】
ベース樹脂1が再生樹脂を含む場合、上記の
図2及び
図3を参照して説明した積層造形物203の製造方法と同様の方法により、再生樹脂のアップサイクル方法を実現できる。即ち、再生樹脂を含むベース樹脂1と、樹脂材料2と、を含む粉末にレーザ光を照射することで、積層造形物203を製造できる。これにより、再生樹脂がアップサイクルされる。例えば使用済みである再生樹脂には、再生樹脂の製造時における製造時間短縮のために、タルク等の結晶化促進成分が含まれ得る。結晶化促進成分は、結晶化時間を速める成分である。このため、再生樹脂をベース樹脂1の少なくとも一部として使用すると、ベース樹脂1の結晶化速度が速いため、積層造形に使用すると、反りが発生し得る。しかし、本開示では、結晶化速度を遅くして反りの発生が抑制されるため、再生樹脂を積層造形物203にアップサイクルできる。
【0036】
再生樹脂は、例えば劣化により分子量(例えば数平均分子量)が低下する。そこで、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて樹脂中の分子量を測定し、最大分子量の半分以下の分子量の割合が例えば50%を超える場合に、再生樹脂が含まれると判断できる。また、再生樹脂には、上記のように、結晶化促進成分が含まれ得る。そこで、例えば、結晶化促進成分の有無を確認することで、再生樹脂が含まれるか否かを判断できる。
【0037】
樹脂材料2は調整樹脂22を含み、調整樹脂22は、ベース樹脂1に含まれる重合単位と同種の第1重合単位と、隣接する第1重合単位間に配置され、隣接する第1重合単位の結合方向を調整する第2重合単位と、を含む。重合単位は、調整樹脂22に含まれる繰り返し単位を構成するものであるが、必ずしも繰り返されなくてもよい。また、第1重合単位に関する「同種」は完全に同じ構造であるという意味に限定されず、例えば官能基の有無(例えばアルキル基の有無、芳香環の有無等)又は種類の少なくとも一方が同じという意味である。
【0038】
調整樹脂22は、例えば、第1重合単位を形成する第1モノマーと、第2重合単位を形成する第2モノマーとの共重合体である。ベース樹脂1が例えばPBTである場合、第1モノマーは、例えば1,4-ブタンジオール及びテレフタル酸であり、第2モノマーは例えば2,7-ナフタレンジカルボン酸である。第1重合単位は、1,4-ブタンジオールとテレフタル酸との縮合により構成される。
【0039】
本開示の例では、第1重合単位は、ジオールに由来する重合単位、及び、ベンゼン環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位を含む。これとともに、第2重合単位は、ナフタレン環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位とを含む。調整樹脂22において、第2重合単位の含有率が、第1重合単位及び第2重合単位の総モル量に対して7mol%以上40mol%以下である。このようにすることで、ベース樹脂1を調整樹脂22に吸着し易くできるとともに、ベース樹脂1を調整樹脂22によって適度に曲げて結晶化速度を適度に遅くできる。
【0040】
図1の太実線矢印で示すように、調整樹脂22では、2つの第1重合単位と第2重合単位との重合部分において、第2重合単位の重心P2から隣接する第1重合単位のそれぞれの重心P1に向けて2本の直線L1,L2が引かれる。そして、直線L1,L2の為す角度θが100°以上140°以下である。この角度θ1にすることで、第2重合単位を中心として、第1重合単位の結合方向を、ベース樹脂1の結晶化速度を遅くできるようにベース樹脂1を曲げることができる。
【0041】
角度θ1は、好ましくは110°以上、上限として好ましくは130°以下である。ナフタレン環では、2つの官能基が2,6位に結合することで角度θ1は180°になり、2つの官能基が直線的に結合する。一方で、2つの官能基が2,7位に結合することで角度θ1は120°になり、2つの官能基の結合方向が異なる。従って、第2重合単位は、ナフタレン環の2,7位に調整樹脂22の主鎖が結合する構造を有する。そして、主に、角度θ1が120°の場合が含まれるように、熱揺らぎを考慮して角度θ1は100°以上140°以下に設定される。重心は、第1重合単位及び第2重合単位のそれぞれの質量中心である。
【0042】
角度θ1で定義されるように分子鎖の向きが変化していることにより、分子鎖が整然と積み重なり難くなり、結晶化速度を低下できる。また、ナフタレン環は、周囲のベース樹脂1に含まれる重合単位(例えば1,4ブタンジオール及びテレフタル酸に由来する重合単位を68kJ/molの吸着エネルギで吸着する。このため、分子鎖の動きを抑制できる。これにより、分子鎖の向きを変える効果と併せて、結晶化速度を更に低下できる。
【0043】
ベース樹脂1及び調整樹脂22のそれぞれの分子量に制限はないが、ベース樹脂1を吸着し易く、更には曲げ易くする観点から、調整樹脂22の鎖長はベース樹脂1の鎖長と同じ、又はベース樹脂1の鎖長よりも長くできる。即ち、例えば調整樹脂22の数平均分子量が、ベース樹脂1の数平均分子量と同じ、又は大きくできる。
【0044】
ベース樹脂1及び調整樹脂22のそれぞれの使用量も特に制限されないが、1分子の調整樹脂22に対して1分子以上のベース樹脂1が吸着することから、調整樹脂22の使用量は、ベース樹脂1の使用量の等モル以下にできる。
【0045】
本開示の例では、ベース樹脂1は、アルカンジオールに由来する重合単位と、角度θ1が160°以上200°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した第1芳香環を有する芳香族カルボン酸に由来する重合単位と、を含む。このようなベース樹脂1は、例えば、上記のように、1,4-ブタンジオールと、第1芳香環としてベンゼン環を含むテレフタル酸との共重合体であるPBTである。テレフタル酸では、熱揺らぎ等を無視すれば、角度θ1は理論上180°である。
【0046】
一方で、調整樹脂22において、第1重合単位は、アルカンジオールに由来する重合単位と、角度θ1が160°以上200°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した第1芳香環を有する芳香族カルボン酸に由来する重合単位と、を含む。これとともに、第2重合単位は、角度θ1が100°以上140°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した第2芳香環を有する芳香族カルボン酸に由来する重合単位とを含む。このような調整樹脂22は、1,4-ブタンジオールと、テレフタル酸と、第2芳香環としてのナフタレン環を含む2,7-ナフタレンジカルボン酸と、の共重合体である。
【0047】
これらのように、ベース樹脂1と調整樹脂22とにおいて、基本骨格を共通(同種)にするとともに、調整樹脂22が更に角度θ1を調整する第2重合単位を含むことで、ベース樹脂1と調整樹脂22との全体的な骨格を同じにして、吸着し易くできる。
【0048】
上記のように、第1芳香環は例えばベンゼン環を含み、第2芳香環は例えばナフタレン環を含む。ナフタレン環は剛直である一方で、ベンゼン環はナフタレン環よりは分子運動し易いため、剛直なナフタレン環を含む調整樹脂22に沿って比較的分子運動し易いベース樹脂1を吸着できる。
【0049】
ベース樹脂1は、2つのベンゼン環の間にアルキル鎖を含む。調整樹脂22は、2つのナフタレン環の間に、ベース樹脂1に含まれる2つのベンゼン環の間のアルキル鎖よりも短いアルキル鎖を含む。炭素数が少ないほど鎖長が短くなる。アルキル鎖が短いと分子運動が速くなり、吸着し易くなる。従って、ベース樹脂1に含まれるアルキル鎖を、調整樹脂22のアルキル鎖の鎖長より短くすることで、ベース樹脂1を吸着し易くできる。
【0050】
本開示の例では、ベース樹脂1はPBTである。従って、調整樹脂22に含まれるアルキル鎖は、例えば炭素数2のアルキル鎖である。調整樹脂22は、例えば、1,4ブタンジオールにより形成されるアルキル鎖と同種であるが鎖長が短いエチレングリコールと、PBTと同様に第1芳香環を有する芳香族ジカルボン酸との共重合体である。これらにより、第1重合単位が形成される。更に、調整樹脂22は、第2重合単位として、角度θ1が100°以上140°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した芳香環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位を含む。このような調整樹脂22は、PENに対する更なる共重合成分(第2重合単位を形成する成分)として例えば2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する重合単位を含むPENを含む。
【0051】
また、ベース樹脂1のアルキル鎖の鎖長と、調整樹脂22のアルキル鎖の鎖長とは同じでもよい。この場合、調整樹脂22は例えばポリブチレンナフタレート(PBN)を含む。PBNは、例えば、1,4ブタンジオールと、PBTとは異なる芳香環を有する2,6-ナフタレンジカルボン酸とに由来する各重合単位を含む。調整樹脂22は、PBNに対する更なる共重合成分として例えば2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する重合単位を含むPBNを含む。
【0052】
さらに、調整樹脂22の第1芳香環は、ベンゼン環でもよい。この場合、調整樹脂22は、PBTに対する更なる共重合成分として例えば2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する重合単位を含むPBTを含む。
【0053】
従って、調整樹脂22での第1重合単位は、直線的に重合単位が結合するPBT、PEN又はPBNの少なくとも一種に含まれる重合単位を含むことができる。そして、調整樹脂での第2重合単位は、角度θ1が100°以上140°以下になる位置に2つのカルボン酸が結合した芳香環を含む芳香族ジカルボン酸に由来する重合単位を含む。芳香族ジカルボン酸は、上記のように例えば2,7-ナフタレンジカルボン酸である。これにより、ベース樹脂1を曲げることができる。
【0054】
また、調整樹脂22がPBNである場合、第1重合単位がナフタレン環を含む。この場合、ベース樹脂1は、第1重合単位においてナフタレン環に結合した2つの官能基の結合同士の為す角度が同じになるように、2つの官能基をナフタレン環に代えてベンゼン環に結合させた重合単位を含む。この場合、ベース樹脂1は、本開示の例のようにPBTを含む。即ち、概念的に言えば、ベース樹脂1と調整樹脂22とは、基本骨格(第2重合単位以外)において芳香環の種類が異なること以外は同じ構造を有する。
【0055】
また、第2重合単位は、第1重合単位の少なくとも一部の重合単位のうち、角度θ1が異なる異性体を含む。例えば、第1重合単位のうち例えば2,6-ジカルボン酸に由来する重合単位に対応し、第2重合単位は、角度θ1が異なる2,7-ジカルボン酸に由来する重合単位を含む。これにより、調整樹脂22の全体で構造がホモ体から大きく変わることを抑制でき、吸着し易くできる。調整樹脂22とは、PBN、PEN等である。
【0056】
樹脂材料2は、ベース樹脂1同士の化学結合を促進する触媒を含むことが好ましい。特に、ベース樹脂1が再生樹脂を含む場合、再生樹脂の分子量は、上記のように、新品の樹脂よりも小さくなっている(分子鎖が短くなっている)ことが多い。このため、触媒によって、化学反応を促進してベース樹脂1の分子量を大きく(分子鎖を長く)できる。
【0057】
触媒は、特に限定されないが、例えば、トリフルオロ酢酸架橋亜鉛四核クラスター、三酸化アンチモン、酸化亜鉛、酢酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、コバルトアセチルアセトネート、ナフテン酸コバルト及びそれらの水和物から選ばれる少なくとも1つが挙げられる。また、触媒の形状は特に限定されないが、例えば、0.001μm以上200μm以下の平均粒径を有する粒子にすることができる。さらに、触媒の含有率は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の合計量に対して、例えば1原子%以上5原子%以下である。
【0058】
樹脂材料2は、繊維状、鱗片状又はビーズ状の少なくとも一形態を有する無機材料を含むことが好ましい。無機材料の含有率は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の合計量に対して、例えば1原子%以上45原子%以下であり、無機材料の平均粒径は0.001μm以上200μm以下であることが好ましい。このような無機材料を含むことで、積層造形物203(
図2)の強度を向上できる。無機材料としては、例えば、ガラス、金属酸化物等が挙げられる。
【0059】
無機材料はガラスを含むことが好ましい。再生樹脂の中にはガラス(例えばガラス繊維)を含むものがあり、このような再生樹脂を使用する場合に、別途の無機材料を使用せずに、積層造形物203の強度を向上できる。
【0060】
樹脂材料2は、熱伝導率が50W/(m・K)以上、好ましくは100W/(m・K)以上の高伝熱材料を含むことが好ましい。このような材料を含むことで、以下の理由により、反りをより抑制できる。反りの原因は、造形容器5(
図2)の下層部にある既に固まった造形部201,202(
図2)が、造形容器5の上層部の結晶化に伴う体積収縮を抑制することによって発生する引張応力である。このため、下層部に上層部の熱が速やかに伝わることで、固まっていた下層部が軟らかくなって上層部の体積収縮を抑制しないようにできれば、引張応力及びこれに起因する反りが発生し難くなる。そこで、樹脂材料2が高伝熱材料を含むことで、下層部に速やかに熱を伝えることができ、引張応力を緩和して反りを抑制できる。
【0061】
熱伝導率が50W/(m・K)以上の高伝熱材料に特に制限はないが、50W/(m・K)以上の材料として例えば窒化ホウ素等が挙げられ、100W/(m・K)以上の材料として例えば窒化アルミニウム等が挙げられる。また、高伝熱材料の形状は特に減されないが、例えば、0.001μm以上200μm以下の平均粒径を有する粒子にすることができる。
【0062】
本開示の樹脂材料2に関する別の実施形態では、ベース樹脂1は、ベンゼン環のパラ位に硫黄原子が結合したポリフェニレンサルファイド(以下、PPS、ホモPPS等という)を含む。PPSでは、ベンゼン環と硫黄原子とは、直線的に交互に結合する。PPSは、例えば、硫化ナトリウムの存在下、パラジクロロベンゼンの重縮合により製造できる。
【0063】
一方で、調整樹脂22では、第1重合単位は、ポリフェニレンサルファイドのうちの2つの硫黄原子がパラ位に結合するベンゼン環を含む。このような構造は、例えばパラジクロロベンゼンに由来する重合単位である。第2重合単位は、前記ポリフェニレンサルファイドのうちの2つの硫黄原子がメタ位に結合するベンゼン環を含む。このような構造は、例えばメタジクロロベンゼンに由来する重合単位である。調整樹脂22は、直線的に結合する第1重合単位と、隣接する第1重合単位の結合方向を上記角度θ1として例えば120°に調整する第2構成単位とを含む。
【0064】
ベース樹脂1がPPSの場合であっても、対応するように調整樹脂22を使用することで、例えばメタクロロベンゼンの部分でベース樹脂1を曲げることができ、直線的に結合するベース樹脂1よりも結晶化速度を遅くできる。これにより、反りを抑制できる。
【0065】
図4は、再生PBT50質量%に対してイソフタル酸を10mol%共重合させたPBTを50質量%混合させた場合の積層造形物203の例を示す写真である。
図4は、ベース樹脂1として再生PBT(ホモPBTの再生樹脂)、調整樹脂22として上記特許文献1に開示されているイソフタル酸を第2モノマーとして10mol%の含有率でホモPBTに共重合させた共重合体を用いた。使用量は、それぞれ50質量%ずつとした。イソフタル酸は、ベース樹脂1に対する調整樹脂22の吸着エネルギが20kJ/mol以上90kJ/mol以下の範囲から外れるモノマーである。また、イソフタル酸はある程度分子運動可能であるから、ベース樹脂1の曲げ効果が弱い。
図4に示す通り、積層造形物203には割れ231が発生し、積層造形中に反りが発生したことがわかる。
【0066】
図5は、再生PBT20質量%に対してイソフタル酸を10mol%共重合させたPBTを80%質量混合させた場合の積層造形物203の例を示す写真である。再生PBTであるベース樹脂1の使用量を20質量%に減らし、調整樹脂22の使用量を80質量%に増やしたこと以外は
図4と同じ条件で積層造形物203を製造した。この結果、
図5に示す通り、破損の見られない積層造形物203を作成することができた。
【0067】
上記
図4及び
図5の結果から、特許文献1に記載の技術では、例えばベース樹脂1が再生PBTを含む場合、反りが発生し易いため、再生PBTの使用可能な量が少なく、カーボンニュートラル等への貢献効果が乏しい。また、上記のようにイソフタル酸は、ベース樹脂1に対する調整樹脂22の吸着エネルギが20kJ/mol以上90kJ/mol以下の範囲から外れるモノマーである。また、上記のように、イソフタル酸はある程度分子運動可能であるから、ベース樹脂1の曲げ効果が弱い。従って、図示は省略するが、再生樹脂ではない新品の樹脂(タルク等を含まない、分子量が十分大きい等)を用いた場合でも、吸着及び曲げ効果が小さく、結晶化速度を十分に低下できない。このため、積層造形中に反りが発生し易く、積層造形物203に割れが発生し易い。
【0068】
図6は、再生PBT及び調整樹脂22の混合粉末において、再生PBTの含有率と結晶化速度との関係を示すグラフである。縦軸は、新品のホモPBTの結晶化速度を1とした場合の相対的な結晶化速度を示す。
図6は、積層造形時の結晶化現象を、この際の結晶化現象を分子動力学法(例えば「R. Car, M. Parrinello (1985). Unified Approach for Molecular Dynamics and Density-Functional Theory. PHYSICAL REVIEW LETTERS. VOLUME 55, NUMBER 22, 2471-2474」に開示)を用いてシミュレーションして得られた結果である。
図6に示す通り、再生PBT(ホモPBT)が20質量%を超えると、結晶化速度がホモPBTの2倍を超える。
【0069】
図7は、再生PBTを20質量%含む場合の反り変形を説明する図である。再生PBTが20質量%の場合、
図6等を参照して説明したように結晶化速度が十分に遅い。従って、積層造形物203において各層は水平方向(紙面左右方向)に同様に延在し、反りの発生が抑制される。
【0070】
図8は、再生PBTを25質量%含む場合の反り変形を説明する図である。再生PBTが25質量%の場合、
図6等を参照して説明したように結晶化速度が速くなる。このため、積層造形時に反りが発生してしまい、各層は水平方向に対して湾曲する。この結果、割れ231(
図5)が発生する。
【0071】
上記の
図4~
図7を参照して説明したように、結晶化速度がホモPBTの2倍を超えた場合、割れ231が発生する。このように、再生樹脂が増えるほど結晶化速度も増大する。この傾向は、PBT以外の樹脂(PPS等)についても同様である。このため、調整樹脂22によって、ベース樹脂1と調整樹脂22との混合粉末の結晶化速度がホモ樹脂の結晶化速度の例えば2倍以下、中でもできるだけ1倍に近くなるように樹脂材料2及び調整樹脂22を決定することが、反り抑制の点で有効である。
【0072】
図9は、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
図9は、ベース樹脂1が再生PBT(ホモPBT)であり、第1重合単位が1,4ブタンジオール及びテレフタル酸に由来する重合単位であり、第2重合単位が2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する重合単位である場合の結果である。即ち、ベース樹脂1はジオールとベンゼン環を含む芳香族ジカルボン酸との共重合体であり、調整樹脂22がジオール及びベンゼン環を含む芳香族ジカルボン酸と、ナフタレン環を含む芳香族ジカルボン酸との共重合体である。
【0073】
図9では、2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する第2重合単位の調整樹脂22での含有率を横軸にとり、再生PBT及び調整樹脂22の混合粉末における再生PBTの含有率(質量%)を縦軸にとって評価結果を示した。丸は反りが無し、バツは反りがあり、三角は結晶化せずにボイドが形成されたことを表す。
図9の例では、触媒及び無機材料は何れも使用していない。
【0074】
図9に示すように、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率が7mol%未満では反りの発生を抑制できず、40mol%を超えると結晶化が起こらず、ボイドの形成を抑制できないことがわかった。また、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率が7mol%以上40mol%以下では、縦軸に示された再生PBTの含有率が最大50%になるまで反りが発生しないことがわかった。従って、第1重合単位及び第2重合単位の総モル量に対して、第2重合単位の含有率が7mol%以上40mol%以下であることが好ましいことがわかる。また、再生樹脂の含有量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の総量に対して例えば20質量%以上、
図9に示す例では、50質量%以下にできることがわかった。
【0075】
図10は、2,7-ナフタレンジカルボン酸を共重合させたPBTの結晶構造を示す図である。
図10の例では、2,7-ナフタレンジカルボン酸は、1,4-ブタンジオール、テレフタル酸及び2,7-ナフタレンジカルボン酸の合計量、即ち、第1重合単位及び第2重合単位の総モル量に対して、10mol%の割合で含まれる。
図10において楕円で囲った部分において、上記のように、角度θ1が100°以上140°以下である。もし熱揺らぎを考慮せず、理論的な値を示せば、角度θ1は図示のように120°である。
【0076】
図11は、2,6-ナフタレンジカルボン酸を共重合させたPBTの結晶構造を示す図である。
図11の例では、2,6-ナフタレンジカルボン酸は、1,4-ブタンジオール、テレフタル酸及び2,6-ナフタレンジカルボン酸の合計量に対して、10mol%の割合で含まれる。
図11において楕円で囲った部分において、角度θ2が170°以上180°以下である。2,6-ナフタレンジカルボン酸では、ナフタレン環の2,6位に2つのカルボン酸が結合する。このため、2つのカルボン酸同士の結合角度と一致する直線L1,L2の為す角度θ2は、もし熱揺らぎを考慮せず、理論的な値を示せば図示のように180°である。
図11に示すように、角度θ2が170°以上180°以下であれば、分子鎖の向きは実質的にほとんど変化していない。このため、直線的な分子鎖となっており、分子鎖が積み重なり易く、結晶化が速やかに起きる。これにより、反りが発生し易い。
【0077】
図12は、無機材料を使用し、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
図12に示す例では、触媒は使用していない。無機材料は、熱伝導率が約200W/(m・K)の繊維状の窒化アルミニウムであり、使用量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の合計量に対して10原子%である。無機材料を使用したこと以外は、
図9と同様の方法で評価した。
【0078】
上記の
図9に示した例と同様に、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率が7mol%以上40mol%以下では、縦軸に示された再生PBTの含有率が最大60%になるまで反りが発生しないことがわかった。上記
図9に示した結果は最大50%であったため、無機材料により強度を向上させることで反りを抑制し、より多くの再生PBTを使用できたと考えられる。また、再生樹脂の含有量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の総量に対して例えば20質量%以上、
図12に示す例では、60質量%以下にできることがわかった。
【0079】
図13は、触媒を使用し、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
図13に示す例では、触媒は三酸化アンチモンであり、使用量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の合計量に対して、3原子%である。触媒を使用したこと以外は、
図9と同様の方法で評価した。積層造形は、
図3に示す方法で行った。
【0080】
上記の
図9に示した例と同様に、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率が7mol%以上40mol%以下では、縦軸に示された再生PBTの含有率が最大70%になるまで反りが発生しないことがわかった。上記
図9に示した結果は最大50%であったため、触媒を使用して再生PBTを高分子化させることで分子運動を抑制し、結晶化速度を遅くできた結果、より多くの再生PBTを使用できたと考えられる。また、再生樹脂の含有量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の総量に対して例えば20質量%以上、
図13に示す例では、70質量%以下にできることがわかった。
【0081】
図14は、無機材料及び触媒を使用し、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。無機材料を上記
図12に示した例の条件で、触媒を上記
図13に示した例の条件で使用したこと以外は
図9と同様の方法で評価した。積層造形は、
図3に示す方法で行った。
【0082】
上記の
図9に示した例と同様に、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率が7mol%以上40mol%以下では、縦軸に示された再生PBTの含有率が最大80%になるまで反りが発生しないことがわかった。これは、無機材料による強度向上効果と、触媒による結晶化速度の低下効果とにより、最大含有率が80%にまで向上したと考えられる。また、再生樹脂の含有量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の総量に対して例えば20質量%以上、
図14に示す例では、80質量%以下にできることがわかった。
【0083】
図15は、別の実施形態において、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
図15に示す例では、ベース樹脂1は再生PBT(ホモPBT)である。また、調整樹脂22は、PBNである。調整樹脂22は、PBNの重合単位と同じ第1重合単位を含む他、2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する第2重合単位を含む。
図15に示す例では、触媒及び無機材料は何れも使用していない。
【0084】
図15に示す例でも、
図9等に示す例と同様に、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率が7mol%以上40mol%以下では、再生PBTの含有率が最大50%になるまで反りが発生しないことがわかった。従って、再生樹脂の含有量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の総量に対して例えば20質量%以上、
図15に示す例では、50質量%以下にできることがわかった。
【0085】
また、図示はしないが、上記
図12の例と同様にして無機材料を使用して評価を行ったところ、上記
図12と同様の結果が示された。また、上記
図13の例と同様にして触媒を使用して評価を行ったところ、上記
図13と同様の結果が示された。更に、上記
図14の例と同様にして無機材料及び触媒を使用して評価を行ったところ、上記
図14と同様の結果が示された。従って、ベース樹脂1に含まれる芳香環と、調整樹脂22の第1重合単位に含まれる芳香環とが異なっていても、これらの芳香環が同じ場合と同様に、反りを抑制できることが分かった。
【0086】
図16は、別の実施形態において、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。
図16に示す例では、ベース樹脂1は再生PBT(ホモPBT)である。また、調整樹脂22は、PENの重合単位と同じ第1重合単位を含む他、2,7-ナフタレンジカルボン酸に由来する第2重合単位を含む。
図16に示す例では、触媒及び無機材料は何れも使用していない。
【0087】
図16に示す例でも、
図9等に示す例と同様に、2,7-ナフタレンジカルボン酸の含有率が7mol%以上40mol%以下では、再生PBTの含有率が最大50%になるまで反りが発生しないことがわかった。また、再生樹脂の含有量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の総量に対して例えば20質量%以上、
図16に示す例では、50質量%以下にできることがわかった。
【0088】
また、図示はしないが、上記
図12の例と同様にして無機材料を使用して評価を行ったところ、上記
図12と同様の結果が示された。また、上記
図13の例と同様にして触媒を使用して評価を行ったところ、上記
図13と同様の結果が示された。更に、上記
図14の例と同様にして無機材料及び触媒を使用して評価を行ったところ、上記
図14と同様の結果が示された。従って、ベース樹脂1に含まれる芳香環と調整樹脂22に含まれる芳香環とが異なり、かつ、調整樹脂22に含まれるアルキル鎖の鎖長がベース樹脂1に含まれるアルキル鎖の鎖長よりも短くても、これらの芳香環及びアルキル鎖が同じ場合と同様に、反りを抑制できることが分かった。
【0089】
図17は、別の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド(以下、PPS等という)の結晶構造を示す図である。
図17に示す例では、ベース樹脂1はPPS(ホモPPS)であり、適宜、PPSの再生樹脂を含んでもよい。PPSでは、ベンゼン環のパラ位に2つの硫黄原子が直線的に結合する。調整樹脂22は、例えば、パラジクロロベンゼンとメタジクロロベンゼンとの共重合体である。
【0090】
図17に示すように、調整樹脂22では、2つの硫黄原子とベンゼン環とが直線的に結合する。そして、パラジクロロベンゼンに由来する第1重合単位に対し、楕円枠で囲ったメタジクロロベンゼンに由来する第2重合単位が結合する。第2重合単位により、直線的に結合する第1重合単位の結合方向が、角度θ1で曲げられるように調整される。これは、上記
図1に示した、PBTの分子鎖の向きを2,7-ナフタレンジカルボン酸で共重合することによって変化させた原理と同じ原理である。これにより、直線的な分子鎖が積み重なって結晶化を速やかに起こし易いのに対して、メタクロロベンゼンによって曲がった分子鎖は積み重なり難く、結晶化を遅くできる。
【0091】
また、調整樹脂22に含まれる第2重合単位は、周囲のベース樹脂1中のパラジクロロベンゼンに由来する重合単位を例えば54kJ/molという高い吸着エネルギで吸着する。このため、調整樹脂22により、ベース樹脂1の分子鎖の動きを抑制できる。この結果、上記PBTと同様に、分子鎖の向きを変える効果と併せて結晶化速度を更に低下でき、反りを抑制できる。
【0092】
図18は、メタ位に2つの硫黄原子が結合した第2重合単位を含む調整樹脂を使用し、第2重合単位の含有率に対する再生PBTの含有率を変えたときの反り抑制効果を示す結果である。横軸は、パラ位に2つの硫黄原子が結合した第1重合単位と、メタ位に2つの硫黄原子が結合した第2重合単位の合計モル量に対し、第2重合単位の含有率である。を縦軸は、再生PPS及び調整樹脂22の混合粉末における再生PPSの含有率(質量%)である。丸は反りが無し、バツは反りがあり、三角は結晶化せずにボイドが形成されたことを表す。
図18の例では、触媒及び無機材料は何れも使用していない。
【0093】
図18に示すように、メタジクロロベンゼンの含有率が7mol%未満では反りの発生を抑制できず、30mol%を超えると結晶化が起こらず、ボイドの形成を抑制できないことがわかった。また、メタジクロロベンゼンの含有率が7mol%以上30mol%以下では、縦軸に示された再生PPSの含有率が最大70%になるまで反りが発生しないことがわかった。従って、第2重合単位の含有率が7mol%以上30mol%以下であることが好ましいことがわかる。また、再生樹脂の含有量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の総量に対して例えば20質量%以上、
図18に示す例では、70質量%以下にできることがわかった。
【0094】
また、図示は省略するが、PBTに代えてPSSを使用したこと以外は
図12~
図14の例と同様にして無機材料及び触媒の効果を評価したところ、反りを発生させないまま、再生PPSの含有率を80質量%~85質量%にまで増やすことができることがわかった。従って、カーボンニュートラル等への貢献効果が特に大きいといえる。
【0095】
以上の
図9等に示すように、上限値は異なるものの、再生樹脂の含有量は、ベース樹脂1及び調整樹脂22の総量に対して、20質量%以上にできることがわかった。上記の
図4及び
図5に示すように、従来の例絵は20%以上の再生樹脂を含むと積層造形時に反りが発生し、積層造形物203(
図4)に割れ231が発生したが、本開示の例によれば、20質量%を超える量で再生樹脂を使用しても、反りの発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0096】
1 ベース樹脂
10 ピストン
100 積層造形装置
101 造形用粉末
102 造形用粉末
11 ピストン
2 樹脂材料
20 混合粉末
201 造形部
202 造形部
203 積層造形物
21 混合粉末
22 調整樹脂
231 割れ
30 粉末
31 粉末
4 レーザ光
40 ローラ
41 レーザ光源
42 ガルバノミラー
44 レーザ光
5 造形容器
6 保管容器
7 保管容器
8 向き
9 ピストン
L1 直線
L2 直線
P1 重心
P2 重心
θ1 角度
θ2 角度