(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107620
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】金の浸漬剥離液及び金の剥離方法
(51)【国際特許分類】
C23F 1/00 20060101AFI20230727BHJP
C22B 11/00 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C23F1/00 103
C22B11/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008902
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】593002540
【氏名又は名称】株式会社大和化成研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】米 尚子
(72)【発明者】
【氏名】秦 朋美
(72)【発明者】
【氏名】中尾 誠一郎
【テーマコード(参考)】
4K001
4K057
【Fターム(参考)】
4K001AA04
4K001BA22
4K001CA05
4K057WA18
4K057WE04
4K057WF10
4K057WG01
4K057WG02
4K057WG03
4K057WG06
4K057WN01
(57)【要約】
【課題】環境への負担を軽減しつつ、液管理がしやすく、高い効率で金を剥離できる金の浸漬剥離液を提供すること。
【解決手段】-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含む金の浸漬剥離液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含む金の浸漬剥離液。
【請求項2】
前記化合物の濃度が1.0~800g/Lである、請求項1に記載の金の浸漬剥離液。
【請求項3】
前記化合物がリン酸又はその塩、ホスホン酸又はその塩、次亜リン酸又はその塩、ピロリン酸又はその塩、トリポリリン酸又はその塩、テトラポリリン酸又はその塩、ポリリン酸又はその塩から選択される無機系化合物、又は有機系化合物である、請求項1又は2に記載の金の浸漬剥離液。
【請求項4】
さらに、過酸化水素、ペルオキソ化合物、硝酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二銅、硫酸第二銅、過硫酸又はその塩、過マンガン酸又はその塩、亜硝酸又はその塩、硝酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、次亜塩素酸又はその塩、ヨウ素、ヨウ化水素又はその塩、過ヨウ素酸又はその塩、ヨウ素酸又はその塩、過臭素酸又はその塩、臭素酸又はその塩、クロム酸又はその塩、二クロム酸又はその塩、ベンゾキノン又はその誘導体から選択される少なくとも1種の酸化剤を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の金の浸漬剥離液。
【請求項5】
さらに、無機酸、有機酸、無機アルカリ、含窒素化合物、含リン化合物、又は含硫黄化合物である溶解助剤の少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の金の浸漬剥離液。
【請求項6】
さらに、少なくとも1種の界面活性剤を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の金の浸漬剥離液。
【請求項7】
金皮膜が付着した母材から金を剥離するための方法であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の金の浸漬剥離液に、前記母材を浸漬する工程と、
浸漬工程後に前記金の浸漬剥離液を濾過する工程を含む、金の剥離方法。
【請求項8】
前記浸漬工程において、前記金の浸漬剥離液のpHが10以下である、請求項7に記載の金の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金の浸漬剥離液及び金の剥離方法に関する。とりわけ、本発明は、環境への負担を軽減しつつ、高い効率で金を剥離できる金の浸漬剥離液、及びそのような剥離液を用いた金の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、廃電子回路基板、廃宝飾品などに含まれる金を剥離するための技術ついては、希少な貴金属資源の有効利用のために多くの提案がされている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開昭61-133390号公報)には、金属基体にめつきされた金を剥離するに際し、該金属基体をシアン化カリウム又はシアン化ナトリウムの水溶液中で酸素含有ガスによる撹拌下に処理することを特徴とするめつきされた金の剥離方法が開示されている。当該方法によれば、金剥離促進剤を省略可能になり、金剥離量管理を大幅に簡単にすることができることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2012-072490号公報)には、シアンを含む剥離液をpH5~8.5の範囲に調整した溶液に、金皮膜が付着したアルミニウム母材を添加して反応させて、溶液中に金を溶解させることを特徴とする、金の回収方法が開示されている。当該方法によれば、金皮膜が付着したアルミニウム母材から、その母材に損傷を与えることなく、簡便且つ安価に高収率で金を回収することができることが記載されている。
【0005】
また、特許文献3(特開2007-16259号公報)には、シアンを用いず、ヨウ素及びヨウ素イオンを含む剥離液により金を剥離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-133390号公報
【特許文献2】特開2012-072490号公報
【特許文献3】特開2007-16259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シアンを用いる場合、シアン化合物が猛毒であるため、作業者の目や皮膚、衣類への接触や吸入及び環境への漏洩を防止する対策が必要となる上、使用済シアン化合物の廃棄の際の無毒化処理の負担が大きいなどの多くの問題がある。そこで、シアン化合物による剥離効果に依存しない金の浸漬剥離液の組成の開発が必要になる。
【0008】
一方、ヨウ素およびヨウ素イオンを含む剥離液を用いる場合、シアンの問題を改善できるが、溶液の色が赤褐色のため、剥離液中での金の剥離状態を確認しにくいという問題がある。また剥離成分のヨウ素は気化しやすいため液管理も困難である。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑み完成されたものであり、一実施形態において、環境への負担を軽減しつつ、液管理がしやすく、高い効率で金を剥離できる金の浸漬剥離液を提供することを課題とする。また、本発明は、別の実施形態において、そのような剥離液を用いた金の剥離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討した結果、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を金の浸漬剥離液に含有させることにより、高い効率で金を剥離でき、シアン化合物などよりも環境への負担を大幅に低減できることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下に例示される。
【0011】
[1]
-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含む金の浸漬剥離液。
[2]
前記化合物の濃度が1.0~800g/Lである、[1]に記載の金の浸漬剥離液。
[3]
前記化合物がリン酸又はその塩、ホスホン酸又はその塩、次亜リン酸又はその塩、ピロリン酸又はその塩、トリポリリン酸又はその塩、テトラポリリン酸又はその塩、ポリリン酸又はその塩から選択される無機系化合物、又は有機系化合物である、[1]又は[2]に記載の金の浸漬剥離液。
[4]
さらに、過酸化水素、ペルオキソ化合物、硝酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二銅、硫酸第二銅、過硫酸又はその塩、過マンガン酸又はその塩、亜硝酸又はその塩、硝酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、次亜塩素酸又はその塩、ヨウ素、ヨウ化水素又はその塩、過ヨウ素酸又はその塩、ヨウ素酸又はその塩、過臭素酸又はその塩、臭素酸又はその塩、クロム酸又はその塩、二クロム酸又はその塩、ベンゾキノン又はその誘導体から選択される少なくとも1種の酸化剤を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の金の浸漬剥離液。
[5]
さらに、無機酸、有機酸、無機アルカリ、含窒素化合物、含リン化合物、又は含硫黄化合物である溶解助剤を少なくとも1種を含む、[1]~[4]のいずれか1項に記載の金の浸漬剥離液。
[6]
さらに、少なくとも1種の界面活性剤を含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載の金の浸漬剥離液。
[7]
金皮膜が付着した母材から金を剥離するための方法であって、
[1]~[6]のいずれか1項に記載の金の浸漬剥離液に、前記母材を浸漬する工程と、
浸漬工程後に前記金の浸漬剥離液を濾過する工程を含む、金の剥離方法。
[8]
前記浸漬工程において、前記金の浸漬剥離液のpHが10以下である、[7]に記載の金の剥離方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一実施形態によれば、環境への負担を軽減しつつ、液管理がしやすく、高い効率で金を剥離できる金の浸漬剥離液、及びそのような剥離液を用いた金の剥離方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
本発明の金の浸漬剥離液は一実施形態において、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含む。-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物とは、リン酸基、ホスフィン酸基、ホスホン酸基、ホスホノ基、ホスホリル基など-PO2
-基を含む陰イオンを含有する酸又はその塩を意味し、有機系化合物及び無機系化合物のいずれも使用できる。-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物としては、1種を単独に使用することができ、2種以上を組み合わせて使用することもできる。なお、「-PO2
-基を含む陰イオンを含有する」とは、当該化合物が金の浸漬剥離液の溶媒(例えば、水)に溶解するとき、-PO2
-基を含む陰イオンを放出することを意味する。
【0015】
なお、「-PO
2
-基」とは、以下の構造を意味する。
【化1】
【0016】
リン酸基を有する化合物は以下の構造式を有する。
【化2】
式中、R
aは水素原子、又はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属、又はアンモニウム、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
16(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキル基、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
16(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のハロゲン化アルキル基であり、R
bは水素原子、又はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属、又はアンモニウム、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
16(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキル基、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
16(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のハロゲン化アルキル基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリール基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のハロゲン化アリール基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアルキルアリール基、又は置換基を有してもよいC
1~C
16(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルカルボキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
16(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルカルボニル基、又は置換基を有してもよいC
1~C
16(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアミノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
16(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のヘテロ環化合物であり、R
cは水素原子、又はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属、又はアンモニウム、又はアミド基、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキル基、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のハロゲン化アルキル基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリール基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のハロゲン化アリール基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアルキルアルケン基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアルキルアリール基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルカルボキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルカルボニル基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアミノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアミド基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルヒドロキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアルコキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルイミノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルシアノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルエステル基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールメトキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールニトロ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールヒドロキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールカルボニル基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールカルボキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールアミノ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)の多環芳香族炭化水素基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のヘテロ環化合物、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルヘテロ環化合物、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアルドール誘導体である。
【0017】
ホスホン酸基を有する化合物は以下の構造式を有する。
【化3】
式中、R
d及びR
eは、各々独立して、水素原子、又はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属、又はアンモニウム、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキル基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアルキルアリール基であり、R
fは水素原子、又はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属、又はアンモニウム、又はアミド基、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキル基、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のハロゲン化アルキル基、又は置換基を有してもよいC
2~C
15(好ましくは、C
2~C
8、より好ましくは、C
2~C
6)のアルケン基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリール基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のハロゲン化アリール基、又は置換基を有してもよいC
3~C
15(好ましくは、C
3~C
8、より好ましくは、C
3~C
6)のアルキルアルケン基、又は置換基を有してもよいC
7~C
15(好ましくは、C
7~C
12、より好ましくは、C
7~C
10)のアルキルアリール基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルカルボキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルカルボニル基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアミノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアミド基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルヒドロキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアルコキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルイミノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルシアノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルエステル基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルメトキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールメトキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールニトロ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールヒドロキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールカルボニル基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールカルボキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールアミノ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
20(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
12)の多環芳香族炭化水素基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のヘテロ環化合物、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルヘテロ環化合物、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアルドール誘導体、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルホスホン酸基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のハロゲン化アルキルホスホン酸基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアミノホスホン酸基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアルキルアリールホスホン酸、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールホスホン酸基である。
【0018】
ホスフィン酸基を有する化合物は以下の構造式を有する。
【化4】
式中、R
gは水素原子、又はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属、又はアンモニウム、又はホスフィン酸基、又はホスホン酸基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアミド基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアミドアルキル基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のウレタン基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のウレタンアルキル基であり、R
h及びR
iは、各々独立して、水素原子、又はアルカリ金属、又はアルカリ土類金属、又はアンモニウム、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキル基、又は置換基を有してもよい直鎖若しくは分岐のC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のハロゲン化アルキル基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリール基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のハロゲン化アリール基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアルキルアリール基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルカルボキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルカルボニル基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアミノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアミド基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルヒドロキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルアルコキシ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルイミノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルシアノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルエステル基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルメトキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールメトキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールニトロ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールヒドロキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールカルボニル基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールカルボキシ基、又は置換基を有してもよいC
6~C
18(好ましくは、C
6~C
15、より好ましくは、C
6~C
10)のアリールアミノ基、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のヘテロ環化合物、又は置換基を有してもよいC
1~C
15(好ましくは、C
1~C
6、より好ましくは、C
1~C
4)のアルキルヘテロ環化合物である。
【0019】
無機系化合物としては、リン酸又はその塩、ホスホン酸又はその塩、次亜リン酸又はその塩、ピロリン酸又はその塩、トリポリリン酸又はその塩、テトラポリリン酸又はその塩、ポリリン酸又はその塩から選択される無機系化合物、又は有機系化合物が挙げられる。なお、本明細書において、単に「ホスホン酸」と表記する場合、それは亜リン酸(H3PO3)を意味する。
【0020】
有機系化合物としては、リン酸基を含む化合物、ホスホン酸基を含む化合物、又はホスフィン基を含む化合物等が挙げられる。
【0021】
リン酸基を含む化合物としては、リン酸メチル又はその塩、リン酸ジメチル又はその塩、リン酸トリメチル又はその塩、リン酸エチル又はその塩、リン酸ジエチル又はその塩、リン酸トリエチル又はその塩、リン酸プロピル又はその塩、リン酸ジプロピル又はその塩、リン酸トリプロピル又はその塩、リン酸イソプロピル又はその塩、リン酸ジイソプロピル又はその塩、リン酸ブチル又はその塩、リン酸ジブチル又はその塩、リン酸トリブチル又はその塩、リン酸ジ-tert-ブチル又はその塩、リン酸エチレンエチル又はその塩、リン酸ジオクチル又はその塩、リン酸ジデシル又はその塩、リン酸モノドデシル又はその塩、2-シアノエチルリン酸又はその塩、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)又はその塩、リン酸フェニル又はその塩、リン酸ジベンジル又はその塩、1-ナフチルリン酸又はその塩、リン酸4-ニトロフェニル又はその塩、リン酸ビス(4-ニトロフェニル)又はその塩、ベンフォチアミン又はその塩、o-ホスホリルエタノールアミン又はその塩、クレアチノールホスファート又はその塩、o-ホスホ-L-チロシン又はその塩、ホスホコリンクロリド又はその塩、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン又はその塩、リン酸ヘキサデシル2-(トリメチルアンモニオ)エチル又はその塩、L-o-ホスホセリン又はその塩、カルバミルリン酸又はその塩、α-グリセロリン酸又はその塩、β-グリセロリン酸又はその塩、D-グルコース6-リン酸又はその塩、アセチルリン酸又はその塩、リン酸4-メチルウンベリフェリル又はその塩、コンブレタスタチンA4リン酸又はその塩、リン酸クロロメチルジ-tert-ブチル又はその塩、リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル2-(トリメチルアンモニオ)エチル又はその塩、2’-デオキシシチジン5’-一リン酸又はその塩、シチジン5’-一リン酸又はその塩、アデノシン3’,5’-環状一リン酸又はその塩、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸又はその塩、ニコチンアミドモノヌクレオチド又はその塩、5’-アデニル酸又はその塩、3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン又はその塩、5-リン酸ピリドキサール又はその塩、リン酸ジエチル3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン-3-イル又はその塩、等が挙げられる。
【0022】
ホスホン酸基を含む化合物のモノホスホン酸基を含む化合物としては、メチルホスホン酸又はその塩、エチルホスホン酸又はその塩、(2-クロロエチル)ホスホン酸又はその塩、(2-ブロモエチル)ホスホン酸又はその塩、(4-ブロモブチル)ホスホン酸又はその塩、ビニルホスホン酸又はその塩、プロピルホスホン酸又はその塩、ヘキシルホスホン酸又はその塩、ブチルホスホン酸又はその塩、ヘプチルホスホン酸又はその塩、ノニルホスホン酸又はその塩、ウンデシルホスホン酸又はその塩、n-オクチルホスホン酸又はその塩、デシルホスホン酸又はその塩、テトラデシルホスホン酸又はその塩、ドデシルホスホン酸又はその塩、オクタデシルホスホン酸又はその塩、3-ホスホノプロピオン酸又はその塩、(アミノメチル)ホスホン酸又はその塩、アミノエチルホスホン酸又はその塩、(1-アミノエチル)ホスホン酸又はその塩、(3-ブロモプロピル)ホスホン酸又はその塩、フェニルホスホン酸又はその塩、(4-ヒドロキシフェニル)ホスホン酸又はその塩、(4-ヒドロキシベンジル)ホスホン酸又はその塩、(4-ブロモフェニル)ホスホン酸又はその塩、(4-ブロモフェニル)ホスホン酸ジエチル又はその塩、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸又はその塩、(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)ホスホン酸又はその塩、(2-エチルヘキシル)ホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル又はその塩、フェネチルホスホン酸又はその塩、(2-アミノフェニル)ホスホン酸又はその塩、(3-アミノフェニル)ホスホン酸又はその塩、(4-アミノフェニル)ホスホン酸又はその塩、4-ホスホノ安息香酸又はその塩、ベンズヒドリルホスホン酸又はその塩、4-メトキシフェニルホスホン酸又はその塩、シンナミルホスホン酸又はその塩、(4-アミノベンジル)ホスホン酸又はその塩、3-ホスホノ安息香酸又はその塩、4-ホスホノ酪酸又はその塩、メチルホスホン酸ジメチル又はその塩、(1-ジアゾ-2-オキソプロピル)ホスホン酸ジメチル又はその塩、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル又はその塩、テノホビル又はその塩、[2-(9H-カルバゾール-9-イル)エチル]ホスホン酸又はその塩、メチルホスホン酸ジフェニル又はその塩、ホソホマイシン又はその塩、[[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]メチル]ホスホン酸ジエチル又はその塩、[アミノ(3-ピリジル)メチル]ホスホン酸又はその塩、等が挙げられる。ビスホスホン酸基を含む化合物としては、メチレンジホスホン酸又はその塩、エチレンジホスホン酸又はその塩、1,2-エチレンジホスホン酸又はその塩、1,3-プロピレンジホスホン酸又はその塩、1,4-ブチレンジホスホン酸又はその塩、1,5-ペンチレンジホスホン酸又はその塩、1,6-ヘキシレンジホスホン酸又はその塩、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸又はその塩、アレンドロン酸又はその塩、クロドロン酸又はその塩、エチドロン酸又はその塩、アレンドロン酸又はその塩、o-キシレンジホスホン酸又はその塩、m-キシレンジホスホン酸又はその塩、p-キシレンジホスホン酸又はその塩、ゾレドロン酸又はその塩、チルドロン酸又はその塩、パミドロン酸又はその塩、イバンドロン酸又はその塩、ミノドロン酸又はその塩、1,4-フェニレンジホスホン酸又はその塩、リゼドロン酸又はその塩、グリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)又はその塩、等が挙げられる。トリスホスホン酸基を含む化合物としては、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)又はその塩、等が挙げられる。テトラホスホン酸基を含む化合物としては、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)又はその塩、等が挙げられる。
【0023】
ホスフィン基を含む化合物としては、メチルホスフィン酸またはその塩、ジメチルホスフィン酸又はその塩、エチルホスフィン酸又はその塩、エチルメチルホスフィン酸又はその塩、ジエチルホスフィン酸又はその塩、メチル-n-プロピルホスフィン酸又はその塩、トリス(ジエチルホスフィン酸)又はその塩、エチルホスフィン酸又はその塩、メタンジ(メチルホスフィン酸)又はその塩、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)又はその塩、フェニルホスフィン酸又はその塩、ジフェニルホスフィン酸又はその塩、(2-カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸又はその塩、メチルフェニルホスフィン酸又はその塩、ジフェニルホスフィン酸又はその塩、グルホシネート-アンモニウム、[ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィニルオキシ]カルバミン酸tert-ブチル又はその塩、p-(3-アミノプロピル)-p-ブチル-ホスフィン酸又はその塩、(3-アミノプロピル)(ジエトキシメチル)ホスフィン酸又はその塩、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸又はその塩、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチル又はその塩、等が挙げられる。
【0024】
本発明者らは、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を浸漬剥離液に使用することにより、処理対象物から、高い効率で金を剥離できることを発見した。-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物による剥離の作用については明らかではないが、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物の存在下で金の標準電極電位が卑にシフトし、酸化剤により金が酸化され、酸化金が生成することで金が剥離すると考えられる。ただし、本発明は、いかなる理論にも拘束されない。
【0025】
また、本発明者らは、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を使用する場合、当該化合物の濃度にかかわらず、一定程度の剥離効果が発揮されることも発見した。ただし、金を剥離するための時間を短縮する観点から、化合物の濃度は1.0g/L以上であることが好ましく、5.0g/L以上であることがさらにより好ましく、10.0g/L以上であることがさらにより好ましく、50.0g/L以上であることがさらにより好ましい。化合物の濃度の上限は特に限定されないが、例えば800g/L以下、又は700g/L以下、又は600g/L以下、又は500g/L以下、又は400g/L以下、又は300g/L以下、又は200g/L以下、又は100g/L以下とすることができる。
【0026】
また、本発明者らは、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を使用する場合、強酸性から強アルカリ性までの広いpH範囲で金の剥離効果が得られることも発見した。そのため、本実施形態に記載の金の浸漬剥離液は、例えば14以下のpHで使用することができ、又は13以下のpHで使用することができ、又は12以下のpHで使用することができ、又は11以下のpHで使用することができ、又は10以下のpHで使用することができ、又は9以下のpHで使用することができ、又は8以下のpHで使用することができる。また、本実施形態に記載の金の浸漬剥離液は、例えば1以上のpHで使用することができ、又は2以上のpHで使用することができ、又は3以上のpHで使用することができ、又は4以上のpHで使用することができ、又は5以上のpHで使用することができ、又は6以上のpHで使用することができる。
【0027】
このように、本発明の金剥離液は、使用できる濃度及びpHの範囲が広く、管理がしやすい。このような管理しやすい利点を担保するために、本発明の金の浸漬剥離液は一部の実施形態において、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物以外、単独で金の剥離効果を有する他の成分を含まない。
【0028】
また、金を剥離するにあたり、金の溶解を促進するために、本発明の一実施形態において、無機酸(-PO2
-基を含む陰イオンを含有する無機系化合物又は硝酸又はその塩を除く)、有機酸(-PO2
-基を含む陰イオンを含有する有機系化合物を除く)、無機アルカリ、含窒素化合物、含リン化合物(-PO2
-基を含む陰イオンを含有する無機系化合物又は-PO2
-基を含む陰イオンを含有する有機系化合物を除く)、又は含硫黄化合物である溶解助剤を金の浸漬剥離液に含めることができる。溶解助剤としては、1種を単独に使用することができ、2種以上を組み合わせて使用することもできる。もちろん、本発明の浸漬剥離液において、溶解助剤を含まないこともできる。
【0029】
溶解助剤としては、金の溶解を促進できる公知のものを使用することができる。無機酸としては、硫酸、塩酸などが挙げられる。有機酸としては、コハク酸又はその塩、リンゴ酸又はその塩、乳酸又はその塩、クエン酸又はその塩、酒石酸又はその塩などが挙げられる。無機アルカリとしては、水酸化物又はその塩などが挙げられる。含窒素化合物としては、アミン化合物、アミノ酸、アミノ酸誘導体、N含有複素環化合物、アミノカルボン酸化合物などが挙げられ、含リン化合物としては、脂肪族又は芳香族のホスフィンなどが挙げられ、含硫黄化合物としては、スルフィド化合物、ジスルフィド化合物、メルカプト化合物などが挙げられる。溶解助剤は、金の表面に形成された酸化金固体を金錯体として水溶液中にイオン化させる添加剤を意味する。
【0030】
また、本発明の一実施形態において、金の浸漬剥離液は界面活性剤をさらに含むことができる。界面活性剤は、処理対象物の表面に対する金の浸漬剥離液の濡れ性を高めるため、剥離効果を高めることが期待できる。
【0031】
界面活性剤としては、公知のものを使用することができ、例えばノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤を使用することができる。これらの中でも、ノニオン界面活性剤が特に好ましい。界面活性剤としては、1種を単独に使用することができ、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタンモノラウリン酸エステル等のソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、アルキルグリセリルグリコシド、メチルグルコシド脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。また、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル、ソルビタンモノラウリン酸エステルも好ましい。
【0033】
アニオン界面活性剤としてはアルキル(又はホルマリン縮合物)-β-ナフタレンスルホン酸(又はその塩)、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩系、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸エステル塩、高級アルコールリン酸モノエステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸(塩)、サルコシン誘導体、メチルアラニン誘導体、脂肪酸アルキルタウリン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸塩、ポリカルボン酸系高分子、ポリスルホン酸系高分子などがある。
【0034】
カチオン界面活性剤としては、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0035】
両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、脂肪族アミドプロピルベタイン、脂肪酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、脂肪族アミドプロピルジメチルアミンオキシド、イミダゾリウムベタイン、アルキルアミンオキシド、エチレンジアミン誘導体、等がある。
【0036】
金の浸漬剥離液が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の濃度は特に限定さないが、例えば0.001~50g/Lとすることができる。
【0037】
その他、本発明の他の実施形態では、金の浸漬剥離液には、公知の導電塩、酸化剤などを適宜添加することができる。酸化剤としては、公知のものを使用することができ、過酸化水素、ペルオキソ化合物、硝酸第二鉄、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二銅、硫酸第二銅、過硫酸又はその塩、過マンガン酸又はその塩、亜硝酸又はその塩、硝酸又はその塩、過塩素酸又はその塩、次亜塩素酸又はその塩、ヨウ素、ヨウ化水素又はその塩、過ヨウ素酸又はその塩、ヨウ素酸又はその塩、過臭素酸又はその塩、臭素酸又はその塩、クロム酸又はその塩、二クロム酸又はその塩、ベンゾキノン又はその誘導体、等がある。酸化剤としては、1種を単独に使用することができ、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
本発明の金の浸漬剥離液を用いた金の剥離方法としては、浸漬による方法が挙げられる。浸漬による方法は、本発明の金の浸漬剥離液に、処理対象物である金皮膜が付着した母材を浸漬する工程と、浸漬工程後に金の浸漬剥離液を濾過する工程を順に実施することを含む。浸漬の時間、温度等の条件は特に限定されず、適宜設定することができる。例えば、浸漬時の時間は5分~5時間、液温は20~90℃とすることができる。浸漬工程における金の浸漬剥離液のpHは、前述のように広く設定することができ、厳密な制御する必要はない。
【0039】
なお、剥離された金が剥離液に溶解しない場合、金の浸漬剥離液を濾過後に残渣から金を剥離することができ、剥離された金が剥離液に溶解した場合、濾過後の金の浸漬剥離液から金を剥離することができる。その後の金の回収及び精製は、必要に応じ、公知の方法で実施することができる。
【実施例0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、ここでの説明は単なる例示を目的とするものであり、それに限定されることを意図するものではない。
【0041】
(参考例)
40g/Lのシアン化ナトリウムと70mL/Lの過酸化水素を混合し、金の浸漬剥離液を調製した。剥離液のpHをpHメーターで測定したところ、11であった。得られた金の浸漬剥離液に、試験片として金箔の試験片(10mm×10mm×0.3mm)を40℃、30分浸漬し、浸漬前後に試験片の重量を測定し、重量減少により剥離性を確認すると、0.5mgであった。
【0042】
(実施例)
表1の実施例1~27に記載された組成で、金の浸漬剥離液を調整した。
試験片として金箔の試験片(10mm×10mm×0.3mm)を用いて、表1に示される実施例1~27の組成で剥離液を調製し、浸漬により金の剥離試験を行った。剥離条件は、温度:40℃、剥離時間:30分とした。pHは、硫酸、水酸化ナトリウムで調整した。
【0043】
評価は、金箔の試験片の剥離処理前後の重量差により剥離性を確認し、以下の基準で評価した。すなわち、参考例の剥離液より高い剥離効果の実施例は、◎又は〇と評価される。
◎:処理前後の重量減少が5mg以上
〇:処理前後の重量減少が1mg以上5mg未満
×:処理前後の重量減少が0mg以上1mg未満
××:処理前後の重量減少無し
【0044】
実施例1、2、3は-PO2
-基を含む陰イオンを含有する無機系化合物としてリン酸、酸化剤として35%過酸化水素を含有した剥離液で、濃度による剥離性の影響を評価した例である。
【0045】
実施例4は実施例2に溶解助剤として塩酸、乳酸、グリシン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩を含有した剥離液で、溶解助剤による剥離性の影響を評価した例である。
【0046】
実施例5、6、7は-PO2
-基を含む陰イオンを含有する無機系化合物としてホスホン酸、酸化剤として硫酸第二鉄、過硫酸ナトリウムを含有した剥離液で、pHによる剥離性の影響を評価した例である。
【0047】
実施例8は実施例6に溶解助剤として乳酸、グリシン、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾ-ルを含有した剥離液で、溶解助剤による剥離性の影響を評価した例である。
【0048】
実施例9、10、11は-PO2
-基を含む陰イオンを含有する無機系化合物として次亜リン酸ナトリウム、酸化剤として過硫酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを含有した剥離液で、pHによる剥離性の影響を評価した例である。
【0049】
実施例12、13、14は-PO2
-基を含む陰イオンを含有する無機系化合物としてピロリン酸、ポリリン酸、酸化剤として35%過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを含有した剥離液で、pHによる剥離性の影響を評価した例である。
【0050】
実施例15は実施例13に溶解助剤として塩酸、乳酸、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾ-ルを含有した剥離液で、溶解助剤による剥離性の影響を評価した例である。
【0051】
実施例16、17、18は-PO2
-基を含む陰イオンを含有する有機系化合物としてリン酸トリエチル、酸化剤として35%過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを含有した剥離液で、pHによる剥離性の影響を評価した例である。
【0052】
実施例19は実施例17に溶解助剤として塩酸、乳酸、グリシン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩を含有した剥離液で、pHによる剥離性の影響を評価した例である。
【0053】
実施例20、21、22は-PO2
-基を含む陰イオンを含有する有機系化合物としてエチレンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、酸化剤として35%過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過マンガン酸カリウムを含有した剥離液で、pHによる剥離性の影響を評価した例である。
【0054】
実施例23は実施例21に溶解助剤として乳酸、グリシン、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾ-ルを含有した剥離液で、溶解助剤による剥離性の影響を評価した例である。
【0055】
実施例24、25、26は-PO2
-基を含む陰イオンを含有する無機系化合物としてホスホン酸、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する有機系化合物としてN,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)、ジメチルホスフィン酸、酸化剤として35%過酸化水素、過硫酸ナトリウムを含有した剥離液で、pHによる剥離性の影響を評価した例である。
【0056】
実施例27は実施例26に溶解助剤としてグリシン、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾ-ル、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルアミンを含有した剥離液で、溶解助剤による剥離性の影響を評価した例である。
【0057】
上記各実施例の剥離液の組成、及び剥離性の評価結果を表1に示す。
【0058】
【0059】
(比較例)
表2の比較例1~20に記載した組成で、金の浸漬剥離液を調製した。実施例と同様の方法により、金の剥離試験を行い、評価を実施した。
【0060】
比較例1は実施例1、2、3の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0061】
比較例2は実施例4の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0062】
比較例3、4、5は実施例5、6、7の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0063】
比較例6は実施例8の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0064】
比較例7、8、9は実施例9、10、11の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0065】
比較例10、11、12は実施例12、13、14、16、17、18、20、21、22の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0066】
比較例13は実施例15の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0067】
比較例14は実施例19の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0068】
比較例15は実施例23の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0069】
比較例16、17、18は実施例24、25、26の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0070】
比較例19は実施例27の-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有しない組成である。
【0071】
比較例20は実施例5のpHを14にした組成である。
【0072】
表2から分かるように、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含まない場合、処理前後の重量減少は見られなかった。
【0073】
【0074】
以上の実施例の評価から分かるように、シアン化合物を使用しなくても、-PO2
-基を含む陰イオンを含有する化合物を含有する本発明の金の浸漬剥離液は同様に高い効率で金を剥離でき、また、濃度、pHの適用幅も広いため管理がしやすく、反応条件の制御がしやすいことが分かる。