(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107625
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】半導体発光デバイスおよびフォトカプラー
(51)【国際特許分類】
H01L 33/16 20100101AFI20230727BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20230727BHJP
H01L 31/12 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
H01L33/16
H01L33/30
H01L31/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008908
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】菅原 秀人
(72)【発明者】
【氏名】大塚 洋昭
(72)【発明者】
【氏名】村上 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鎌倉 孝信
【テーマコード(参考)】
5F241
5F889
【Fターム(参考)】
5F241AA44
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA23
5F241CA36
5F241CA76
5F241CA85
5F241CA86
5F241CA94
5F241CB05
5F889AB03
5F889CA09
5F889CA20
5F889DA02
5F889DA03
5F889DA14
5F889EA04
5F889EA06
(57)【要約】
【課題】高温の動作環境において高い信頼性を有する半導体発光デバイスおよびフォトカプラーを提供する。
【解決手段】半導体発光デバイスは、立方晶のガリウムヒ素(GaAs)基板と、前記GaAs基板上に設けられ、組成式In
xGa
1-xAs(0<x<1)で表されるインジウムガリウムヒ素(InGaAs)を含む発光層と、前記GaAs基板と前記発光層との間において、前記立方晶の(100)面に対して傾斜した前記GaAs基板の表面上に設けられる半導体多層膜と、を備える。前記半導体多層膜は、前記GaAs基板の前記表面に垂直な方向に、交互に積層された、第1層および第2層を含み、前記第1層は、前記第2層とは異なる組成を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶のガリウム砒素(GaAs)基板と、
前記GaAs基板上に設けられ、組成式InxGa1-xAs(0<x<1)で表されるインジウムガリウム砒素(InGaAs)を含む発光層と、
前記GaAs基板と前記発光層との間において、前記立方晶の(100)面に対して傾斜した前記GaAs基板の表面上に設けられる半導体多層膜と、
を備え、
前記半導体多層膜は、前記GaAs基板の前記表面に垂直な方向に、交互に積層された、第1層および第2層を含み、前記第1層は、前記第2層とは異なる組成を有する、半導体発光デバイス。
【請求項2】
前記GaAs基板の前記表面は、前記立方晶の(100)面に対し、8°から25°の間で傾斜している請求項1記載の半導体発光デバイス。
【請求項3】
前記GaAs基板は、前記表面とは反対側の裏面、前記表面および前記裏面につながる側面と、を有し、
前記GaAs基板の前記側面および前記側面と前記裏面とがつながる角の少なくともいずれか一方は、前記半導体多層膜に向かう方向に延びる結晶転位を含む請求項1または2に記載の半導体発光デバイス。
【請求項4】
前記GaAs基板の前記側面は、前記立方晶の(011)面または前記(011)面に等価な結晶面である請求項3記載の半導体発光デバイス。
【請求項5】
前記GaAs基板の前記結晶転位は、前記立方晶の(111)面に等価な結晶面に沿って延在する請求項3または4に記載の半導体発光デバイス。
【請求項6】
前記半導体多層膜は、前記発光層から放射される光を透過する請求項1乃至5のいずれか1つに記載の半導体発光デバイス。
【請求項7】
前記半導体多層膜の前記第1層は、組成式InyAl1-yP(0<y<1)で表されるインジウムアルミニウムリン(InAlP)層であり、前記第2層は、組成式AlvGa1-vAs(0≦v<1)で表されるガリウム砒素(GaAs)またはアルミニウムガリウム砒素(AlGaAs)層である請求項1乃至6のいずれか1つに記載の半導体発光デバイス。
【請求項8】
前記半導体多層膜の前記第1層は、InGaAs層であり、前記第2層は、組成式GaAswP1-w(0<w<1)で表されるガリウム砒素リン(GaAsP)層である請求項1乃至6のいずれか1つに記載の半導体発光デバイス。
【請求項9】
前記発光層を含むエピタキシャル成長層は、前記GaAs基板の反対側に位置する上面を有し、
前記エピタキシャル成長層は、前記上面の外縁に部分的な段差を有する請求項1乃至8のいずれか1つに記載の半導体発光デバイス。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載の半導体発光デバイスを、第1樹脂により封じ、
前記第1樹脂を介して、前記半導体発光デバイスを第2樹脂により覆う封止構造を有するフォトカプラーであって、前記第2樹脂は、前記第1樹脂よりも高硬度であるフォトカプラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体発光デバイスおよびフォトカプラーに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光デバイスには、高い信頼性が求められる。車載用途などでは、高温の動作環境、例えば、105℃において、安定して動作し、長寿命であることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-228047号公報
【特許文献2】特開平10-74978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、高温の動作環境において高い信頼性を有する半導体発光デバイスおよびフォトカプラーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る半導体発光デバイスは、立方晶のガリウムヒ素(GaAs)基板と、前記GaAs基板上に設けられ、組成式InxGa1-xAs(0<x<1)で表されるインジウムガリウムヒ素(InGaAs)を含む発光層と、前記GaAs基板と前記発光層との間において、前記立方晶の(100)面に対して傾斜した前記GaAs基板の表面上に設けられる半導体多層膜と、を備える。前記半導体多層膜は、前記GaAs基板の前記表面に垂直な方向に、交互に積層された、第1層および第2層を含み、前記第1層は、前記第2層とは異なる組成を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係る半導体発光デバイスを示す模式断面図である。
【
図2】実施形態に係る半導体発光デバイスの発光層を示す模式断面図である。
【
図3】実施形態に係る半導体発光デバイスの製造過程を示す模式断面図である。
【
図4】実施形態に係る半導体発光デバイスのCL像である。
【
図5】実施形態に係る半導体発光デバイスの特性を示すグラフである。
【
図6】実施形態に係る半導体発光デバイスを示す模式図である。
【
図7】実施形態の変形例に係る半導体発光デバイスを示す模式断面図である。
【
図8】実施形態に係る半導体発光デバイスを用いたフォトカプラーを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0008】
図1(a)および(b)は、実施形態に係る半導体発光デバイス1を示す模式断面図である。
図1(a)は、チップ断面図である。
図1(b)は、
図1(a)中の破線で囲まれた領域を示す部分断面図である。
【0009】
半導体発光デバイス1は、例えば、近赤外光を放出する発光ダイオードである。半導体発光デバイス1は、立方晶のガリウム砒素(GaAs)基板10と、エピタキシャル成長層20と、第1電極30と、第2電極40と、を含む。
【0010】
GaAs基板10は、例えば、n形の導電性を有する。GaAs基板10は、立方晶の(100)面に対して、例えば、(011)面方向に傾斜した表面10Fを有する。エピタキシャル成長層20は、GaAs基板10の表面10F上に設けられる。
【0011】
図1(a)に示すように、GaAs基板10の表面10Fと裏面10Bとをつなぐ側面10Sは、例えば、(011)面である。半導体発光デバイス1の断面形状は、例えば、(0-11)面に平行な断面において平行四辺形である。また、表面10Fの(011)面方向の傾斜角をθとすれば、立方晶の(1-1-1)面は、裏面10Bに対してθ+略55°の傾斜を有する。
【0012】
第1電極30は、GaAs基板10の裏面10B上に設けられる。第1電極30は、例えば、n側電極である。GaAs基板10の裏面10Bは、表面10Fの反対側に位置し、(100)面に対して傾斜している。
【0013】
第2電極40は、エピタキシャル成長層20上に設けられる。第2電極40は、例えば、p側電極である。第2電極40は、エピタキシャル成長層20の上に部分的に設けられる。
【0014】
図1(b)に示すように、エピタキシャル成長層20は、発光層21と、半導体多層膜23と、n形クラッド層25と、p形クラッド層27と、p形コンタクト層29と、を含む。
【0015】
発光層21は、組成式InxGa1-xAs(0<x<1)で表されるインジウムガリウム砒素(以下、InGaAs)を含む。InGaAsは、GaAs基板10より剛性(硬度)が低く、ヤング率が小さい。また、InGaAsは、GaAs基板10よりも大きな格子定数を有し、例えば、歪量子井戸構造を構成する。半導体多層膜23は、GaAs基板10と発光層21との間において、GaAs基板10の表面10F上に設けられる。
【0016】
半導体多層膜23は、GaAs基板10の表面10F上に設けられる。半導体多層膜23は、例えば、n形の導電性を有する。また、半導体多層膜23は、GaAs基板10の表面10Fに垂直な方向に、交互に積層された、少なくとも1つの第1層23aおよび少なくとも1つの第2層23bを含む。第1層23aは、第2層23bとは異なる組成を有する。第1層23aは、第2層23bとは異なる剛性(硬度)を有する。
【0017】
n形クラッド層25は、発光層21と半導体多層膜23との間に設けられる。n形クラッド層25は、例えば、組成式AlzGa1-zAs(0<z<1)で表されるアルミニウムガリウム砒素(以下、AlGaAs)を含む。
【0018】
p形クラッド層27は、発光層21上に設けられる。p形クラッド層27は、例えば、AlGaAsを含む。発光層21は、n形クラッド層25とp形クラッド層27との間に設けられる。
【0019】
p形コンタクト層29は、p形クラッド層27上に設けられる。p形コンタクト層29は、例えば、GaAsを含む。第2電極40は、p形コンタクト層29上に設けられ、例えば、p形コンタクト層29にオーミック接続される。
【0020】
図2は、実施形態に係る半導体発光デバイス1の発光層21を示す模式断面図である。発光層21は、量子井戸層21wと、障壁層21bと、を含む。量子井戸層21wと障壁層21bは、n形クラッド層25からp形クラッド層27に向かう方向、すなわち、GaAs基板10の表面10Fに垂直な方向(
図1(b)参照)に交互に積層される。量子井戸層21wは、例えば、隣り合う障壁層21bの間に設けられる。量子井戸層21wは、InGaAsを含む。障壁層21bは、例えば、AlGaAsを含む。InGaAs/AlGaAsで構成される量子井戸構造は、GaAs基板10に対する格子不整合に起因した歪量子井戸構造であり、発光波長は、例えば、950nmである。
【0021】
図3(a)~(d)は、実施形態に係る半導体発光デバイス1の製造過程を示す模式断面図である。
図3(a)~(d)は、半導体発光デバイス1のチップ化工程を表している。
【0022】
図3(a)に示すように、GaAs基板10の裏面10B上に第1電極30を形成する。第1電極30は、例えば、裏面10Bの全面に設けられる。第1電極30は、GaAs基板10にオーミック接続される。第1電極30は、例えば、金(Au)もしくは銀(Ag)を含み、発光層21から放射される光の反射膜として機能する。
【0023】
GaAs基板10の表面10F側には、複数の第2電極40が形成される。第2電極40は、エピタキシャル成長層20の上に設けられ(
図1(a)参照)、p形コンタクト層29に電気的に接続される。
【0024】
図3(b)に示すように、スクライブ針STを用いて、GaAs基板10の裏面10B側にスクライブラインSLを形成する。スクライブ針STは、先端にダイヤモンド刃を有し、GaAs基板10の裏面10B側において、第1電極30を分割し、GaAs基板10に至る溝状のスクライブラインSLを形成することができる。スクライブラインSLは、裏面10Bに垂直な方向に見た時、隣り合う第2電極40の間に位置するように形成される。
【0025】
図3(c)に示すように、GaAs基板10の表面10F側において、ブレーキング刃BEを用いてGaAs基板10を劈開する。ブレーキング刃BEは、スクライブラインSLの反対側の位置に押し当てられる。GaAs基板10は、ブレーキング刃BEにより押圧され、スクライブラインSLを起点として劈開される。
【0026】
図3(d)に示すように、GaAs基板10は、複数のチップ(半導体発光デバイス1)に分割される。半導体発光デバイスのチップサイズCSは、例えば、200マイクロメートル(μm)である。また、チップ厚CTは、例えば、150μmである。
【0027】
このような、チップ分割方法では、GaAs基板10の裏面10Bに形成されるスクライブラインSLの底に存在する機械的ダメージ、例えば、微小欠陥や破砕層が劈開の起点となるため、分割後のチップに機械的ダメージが残る。例えば、チップ分割後に、GaAs基板10をエッチングすることにより、このような機械的ダメージを除去することは可能であるが、例えば、微小欠陥の全てを除去することは難しい。
【0028】
図4(a)~(d)は、実施形態に係る半導体発光デバイス1のカソードルミネッセンス(CL)像である。CL測定に用いたチップは、高温、高電流下の加速信頼性試験(雰囲気温度125℃、動作電流120mA、500時間)において、所定の光出力における動作電圧が10%を超えて変化したものである。
【0029】
図4(a)~(d)は、チップ側面(
図1(a)参照)におけるCL像を示している。CL測定は、電子線励起されたキャリア(電子と正孔)の再結合に起因する発光現象を観察するものである。励起されたキャリアが欠陥にトラップされると非発光再結合する。このため、結晶中の欠陥が存在する領域は発光しない。
【0030】
図4(a)からわかるように、チップの劈開面である(011)面とGaAs基板10の裏面10Bとがつながる角(すなわちスクライブラインSL)を起点としてエピタキシャル成長層20の表面まで延びる暗線DLが見られる(
図1(a)参照)。この暗線は、例えば、(1-1-1)面に沿って延びている。
【0031】
図4(b)は、チップ側面を30μmエッチングした後に、観察されたCL像である。この場合も、(011)面とGaAs基板10の裏面10Bとがつながる角を起点としてエピタキシャル成長層20の表面まで延びる暗線DLが見られる。
【0032】
図4(c)は、チップ側面をさらに30μm(計60μm)エッチングした後に、観察されたCL像である。暗線DLは、(011)面とGaAs基板10の裏面10Bとがつながる角からエピタキシャル成長層20の表面まで延びている。
【0033】
図4(d)は、チップ側面をさらに30μm(計90μm)エッチングした後に、観察されたCL像である。暗線DLは、(011)面とGaAs基板10の裏面10Bとがつながる角を起点としてGaAs基板10の中央まで延びている。
【0034】
これらのCL像は、結晶欠陥がGaAs基板10の劈開面と裏面10Bとがつながる角からGaAs基板10中に平面的に広がっていることを示している。すなわち、結晶欠陥は、(1-1-1)面に沿った平面状の転位であることが分かる。また、
図4(d)に示すCL像では、暗線DLは、エピタキシャル成長層20に達しておらず、転位は、裏面10Bと劈開面とがつながる角を起点に延びているように見える。言い換えれば、転位は、スクライブラインSL(
図3(c)参照)を起点にGaAs基板10中に延びていることが分かる。このような転位は、例えば、動作環境の温度変化により徐々に延びる。また、チップが樹脂封じされる場合には、樹脂応力により転位の延びが加速される。
【0035】
このように、高温、高電流下の加速試験では、スクライブラインSLに残存する結晶欠陥が経時的に広がり、エピタキシャル成長層20に達することがある。これにより、発光特性が劣化する。上記の試験条件は、厳しい使用環境、例えば、車載用途を想定したものであり、通常の用途では発生しない転位の伝播がみられる。
【0036】
例えば、通常の信頼性試験は、室温下において、動作電流20mA、通電時間10000hの条件で実施される。このような条件下では、例えば、10%以上の輝度劣化が生じることはない。一方、エポキシ樹脂によりチップを封じ、高温下において通電試験を実施すると、樹脂応力により輝度劣化が生じることがある。このような樹脂応力による輝度劣化は、チップを非弾性樹脂(塑性変形が小さい)であるシリコーン樹脂により封止した後、エポキシ樹脂にて封止する2重の封止構造(
図8参照)を用いることにより抑制できる。しかしながら、上述の高温、高電流下の加速信頼性試験では、2重の樹脂封止構造においても、輝度劣化が生じることがある。
【0037】
エピタキシャル成長層20における半導体多層膜23は、異なる剛性を有する第1層23aと第2層23bとを組み合わせることにより、このような転位の発光層21への伝播を抑制し、半導体発光デバイス1の信頼性を向上させる。半導体多層膜23は、例えば、転位の伝播方向を第1層23aと第2層23bとの各界面にて変化させ、発光層21に到達しない様にする。あるいは、転位同士を結合し消滅させる効果を有する。しかしながら、厳しい加速条件下では、この転位抑止効果も十分でない場合がある。
【0038】
(実施例1)
半導体多層膜23(
図1(b)参照)には、例えば、組成式In
zAl
1-zP(0<z<1)で表されるインジウムアルミニウムリン(以下、InAlP)と、組成式Al
vGa
1-vAs(0≦v<1)で表されるGaAsおよびAlGaAsのいずれかと、を用いることができる。例えば、半導体多層膜23の第1層23aをInAlPとし、第2層23bをGaAs(v=0)とする。第1層23aおよび第2層23bの膜厚は、それぞれ、50ナノメートル(nm)である。半導体多層膜23は、第1層23a/第2層23bの対を10対含む。また、第2層23bがAlGaAs(0<v<1)であっても同様の効果が得られる。
【0039】
半導体多層膜23は、発光層21から放射される光を透過するように構成される。放射光は、半導体多層膜23を通過し、GaAs基板10内に伝播する。これにより、チップ全体を光らせることができる。従来技術に見られるように、発光層21の放射光を反射(ブラッグ反射)するように半導体多層膜23を構成すると、半導体多層膜23から第2電極40に向かう方向に光が放出される指向性の高い発光デバイスとなる。指向性が低い発光デバイスが適する用途、例えば、フォトカプラーなどには、半導体多層膜23が発光層21の放射光を透過するように構成することが好ましい。すなわち、発光層21の光は、チップの上面に限らず、側面からも放射され、チップ全体が光るように構成することが好ましい。
【0040】
(実施例2)
半導体多層膜23(
図1(b)参照)には、例えば、InGaAsと、組成式GaAs
wP
1-w(0<w<1)で表されるガリウム砒素リン(以下、GaAsP)を用いることができる。第1層23aをIn
0.1Ga
0.9Asとし、第2層23bをGaAs
0.9P
0.1とした。第1層23aおよび第2層23bの膜厚は、それぞれ、10nmである。半導体多層膜23は、第1層23a/第2層23bの対を10対含む。
【0041】
InGaAsおよびGaAsPのそれぞれの格子定数は、GaAsの格子定数に対する大小関係が逆である。また、InGaAsおよびGaAsPのそれぞれの線膨張係数は異なる。このため、半導体多層膜23中では、弾性限界内の格子歪により格子定数の差が補償され、格子不整合に起因した結晶欠陥は発生しない。この例では、半導体多層膜23中の弾性歪により、InGaAs/GaAsP界面における転位の伝播方向を変える効果が大きくなる。その結果、実施例1の半導体多層膜23に比べて転位の伝播を抑制する効果が大きく、加速信頼性試験における特性劣化チップの発生率を低減することができる。
【0042】
図5は、実施形態に係る半導体発光デバイス1の特性を示すグラフである。横軸は、GaAs基板10の傾斜角θ(
図1(a)参照)である。縦軸は、加速信頼性試験における特性劣化チップの発生率である。同図中の「A」により示されるグラフは、実施例1の半導体多層膜23を用いた場合の特性を表している。また、「B」により示されるグラフは、実施例2の半導体多層膜23を用いた場合の特性を表している。
【0043】
実施例1のInAlP/AlGaAsを含む半導体多層膜23では、傾斜角θをゼロとした場合、特性劣化チップの発生率は15%程度であり、傾斜角θが10°以上になると、特性劣化チップの発生率は0%になる。
【0044】
なお、AlvGa1-vAsのAl組成vを0~0.2に変化させた場合でも同じような結果を得ており、InAlPとの組み合わせるAlGaAsのAl組成には自由度が有ることが分かる。これは、Al組成vの違いにより、AlGaAsの剛性が大きく変化しないことが要因と考えられる。
【0045】
実施例2のInGaAs/GaAsPを含む半導体多層膜23では、傾斜角θをゼロとした場合、特性劣化チップの発生率は10%程度であり、傾斜角θが8°以上になると、特性劣化チップの発生率は0%になる。
【0046】
GaAs基板10の裏面10Bに対する転位の伝搬面(1-1-1)は、θ+略55°であり(
図1(a)参照)、傾斜角θが大きくなるほど、転位の半導体多層膜23への侵入角度が大きくなる。すなわち、半導体多層膜23への侵入角度が大きくなることにより、転位の伝播方向の変化が大きくなり、発光層21への影響が抑制されるものと考えられる。これは、GaAs基板10の表面10Fの(100)面に対する傾斜が大きくなるほど、エピタキシャル成長層20の表面モホロジがよくなるなど、結晶性の改善がみられることから、これらが相まって転位の伝播を抑制しているものと考えられる。
【0047】
このように、GaAs基板10の表面10Fを(100)面に対して傾斜させることにより、半導体発光デバイス1の信頼性を向上させることができる。また、GaAs基板10の傾斜角θを、好ましくは、8°以上、より好ましくは、10°以上とすることにより、より厳しい使用環境における信頼性を確保することができる。一方、傾斜角θが25°以上になると、低転位のエピタキシャル成長層を得ることが困難になる。したがって、傾斜角θは、8°以上、25°以下であることが好ましい。また、10°以上、25°以下であることがより好ましい。
【0048】
図6(a)および(b)は、実施形態に係る半導体発光デバイス1を例示する模式図である。
図6(a)は、チップ断面図であり、
図6(b)は、チップ表面を示す平面図である。
【0049】
図6(a)に示すように、半導体発光デバイス1では、エピタキシャル成長層20の上面の端にクラックCPが生じ易い。これは、(100)面に対して傾斜したGaAs基板10を用いることにより、エピタキシャル成長層20の上面と、劈開面である側面10Sとが交差する角の内角が鋭角であることに起因する。また、半導体多層膜23が剛性の異なる第1層23aおよび第2層23bを含むことも、このようなクラックCPが生じる1つの要因である。
【0050】
図6(b)に示すように、クラックCPは、チップ上面の1つの辺の凹部として確認される。
図3に示すチップ化の過程において、GaAs基板10は、スクライブラインSLから半導体多層膜23の位置まで、劈開面に沿って分断されるが、半導体多層膜23において、劈開面の連続性が阻害される。このため、エピタキシャル成長層20の上面において、部分的に欠けた外縁が生じるものと考えられる。
【0051】
図7は、実施形態の変形例に係る半導体発光デバイス2を示す模式断面図である。半導体発光デバイス2は、GaAs基板10と、発光層21と、半導体多層膜23と、第1電極50と、第2電極60と、を備える。
【0052】
図7に示すように、発光層21、半導体多層膜23、n形クラッド層25、p形クラッド層27およびp形コンタクト層29を含むエピタキシャル層20は、メサ構造を有する。第1電極50は、GaAs基板10に至る深さのメサ加工により露出されたGaAs基板10の表面10F上に設けられる。第1電極50は、n側電極である。また、n形クラッド層25に至る深さのメサ加工により、n形クラッド層25を露出させ、第1電極50をn形クラッド層25の上に設けても良い。
【0053】
第2電極60は、p形コンタクト層29上に設けられる。第2電極60は、p側電極である。第2電極60は、例えば、金(Au)もしくは銀(Ag)を含み、発光層21から第2電極60に向かって放射される光を反射し、GaAs基板10の裏面10Bから放出するように構成される。
【0054】
半導体発光デバイス2では、発光層21から上下方向に放射される光LOは、半導体多層膜23中およびGaAs基板10中を伝播し、GaAs基板10の裏面10Bから外部に放出される。この例でも、半導体多層膜23は、発光層21から放射される光LOを透過するように設けられる。
【0055】
図8は、実施形態に係る半導体発光デバイス1を用いたフォトカプラー70を示す模式断面図である。フォトカプラー70は、半導体発光デバイス1と、受光デバイス5と、を含む。半導体発光デバイス1および受光デバイス5は、相互に対向して配置され、光結合される。すなわち、受光デバイス5は、半導体発光デバイス1から放出される光を検出する。
【0056】
図8に示すように、半導体発光デバイス1は、入力側リード71上にマウントされ、電気的に接続される。受光デバイス5は、出力側リード73上にマウントされ、電気的に接続される。なお、フォトカプラー70は、複数の入力側リード71および複数の出力側リード73を含む。フォトカプラー70は、例えば、半導体発光デバイスの第1電極30(
図1参照)に電気的に接続された入力側リード71と、第2電極40(
図1参照)に金属ワイヤを介して電気的に接続された別の入力側リード71と、を含む。複数の出力側リード73は、受光デバイスのアノードおよびカソードにそれぞれ接続されたリードを含む。
【0057】
半導体発光デバイス1は、第1樹脂75中に封止される。第1樹脂75は、例えば、シリコーン樹脂である。第1樹脂75は、半導体発光デバイス1から放出される光を透過する。
【0058】
入力側リード71および出力側リード73は、半導体発光デバイス1と受光素子5とが対向するように配置される。続いて、入力側リード71の半導体発光デバイス1がマウントされた部分および出力側リード73の受光デバイス5がマウントされた部分を覆う第2樹脂77がモールドされる。第2樹脂77は、第1樹脂75を介して、半導体発光デバイス1を覆い、受光デバイス5を覆うように設けられる。第2樹脂77は、半導体発光デバイス1から放出される光を透過する。第2樹脂77は、例えば、エポキシ樹脂である。
【0059】
さらに、第2樹脂77を覆う第3樹脂79がモールドされる。第3樹脂79は、半導体発光デバイスから放出される光を遮蔽する。第3樹脂79は、例えば、カーボンを含むエポキシ樹脂である。
【0060】
フォトカプラー70では、半導体発光デバイス1を非弾性樹脂である第1樹脂75により封じる。さらに、半導体発光デバイス1を、第1樹脂75を介して、第1樹脂75よりも高硬度の樹脂77により封じる。このような2重の封止構造を用いることにより、半導体発光デバイス1に加わる樹脂応力を抑制し、その信頼性を向上させることができる。
【0061】
以上、説明したように、半導体発光デバイス1および2において、GsAs基板10と発光層21との間に半導体多層膜23を設け、GaAs基板10の表面10Fを(100)面に対して傾斜させることにより、チップ化の過程において生じる結晶欠陥が、その信頼性へ影響することを防ぐことが可能となる。例えば、発光層21がGaAs基板10より剛性(硬度)が低く、半導体多層膜23が剛性もしくは線膨張係数が相互に異なる複数の層を含む場合に、このような効果はより顕著である。
【0062】
すなわち、半導体多層膜23は、GaAs基板10から発光層21への転位の伝播を抑止する。さらに、GaAs基板10の結晶成長面を(100)面に対して傾斜させることにより、半導体多層膜23における転位の伝播抑止効果を高めることができる。半導体発光デバイス1の発光層21は、転位の伝播による発光特性の劣化が生じ易い歪量子井戸を有するため、上記の転位抑止効果はより顕著になる。
【0063】
なお、実施形態は、上記に例示したものに限られない。例えば、チップには、スクライブ法に代えて、ダイシング法を用いることができる。ダイシングブレードによる切断においても、切断面に欠陥が生じることから、(111)面に等価な結晶面に沿った転位の延伸が生じるものと考えられる。したがって、半導体多層膜23とGaAs基板10の表面10Fを傾斜させることを組合せる構成は、ダイシング法を用いる場合にも有効である。
【0064】
また、半導体多層膜23における第1層23aと第2層23bとの対数は10に限定される訳ではなく、少なくとも2対以上であればよい。また、転位の伝播抑止は、第1層23aと第2層23bとの界面で生じる。したがって、第1層23aおよび第2層23bの膜厚は種々変形してもよい。
【0065】
また、GaAs基板10の側面10Sとして、(011)面を例示したが、これに限定される訳ではない。例えば、(011)面と等価な(01-1)、(0-1-1)、(0-11)の各結晶面であっても良い。すなわち、GaAs基板10の表面10Fを(01-1)面に対して傾斜させた場合には、転位は(1-11)面に沿って伝播する。(0-1-1)面方向に傾斜させた場合は(111)面に沿って伝播し、(0-11)面方向に傾斜させた場合は、(11-1)面に沿って伝播する。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1、2…半導体発光デバイス、 10…GaAs基板、 10B…裏面、 10F…表面、 10S…側面、 20…エピタキシャル成長層、 21…発光層、 21b…障壁層、 21w…量子井戸層、 23…半導体多層膜、 23a…第1層、 23b…第2層、 25…n形クラッド層、 27…p形クラッド層、 29…p形コンタクト層、 30、50…第1電極、 40、60…第2電極、 70…フォトカプラー、 71…入力側リード、 73…出力側リード、 75…第1樹脂、 77…第2樹脂、 79…第3樹脂、 θ…傾斜角、 BE…ブレーキング刃、 CP…クラック、 CS…チップサイズ、 CT…チップ厚、 DL…暗線、 SL…スクライブライン、 ST…スクライブ針