(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107682
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】差動型レーザドップラ速度計、鉄道車両速度計測方法、部材、レーザドップラ速度計及び速度計測方法
(51)【国際特許分類】
G01S 17/58 20060101AFI20230727BHJP
G01S 17/50 20060101ALI20230727BHJP
G01S 17/32 20200101ALI20230727BHJP
【FI】
G01S17/58
G01S17/50
G01S17/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008983
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000101101
【氏名又は名称】アクト電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186288
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 英信
(72)【発明者】
【氏名】塩野 幸策
(72)【発明者】
【氏名】杉木 伸次
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA07
5J084AB01
5J084AC02
5J084AD04
5J084AD08
5J084BA03
5J084BA14
5J084BB01
5J084BB02
5J084BB04
5J084BB11
5J084BB14
5J084BB15
5J084BB16
5J084BB27
5J084BB40
5J084EA04
5J084EA07
(57)【要約】
【課題】
計測対象となる物体に対して、実質的な計測可能範囲を広げることで、計測中の幅(横)方向(計測方向に対して垂直方向)の揺動に対して、計測欠落を最小限とし、連続計測を可能にする。
【解決手段】
物体にレーザ光を照射し、物体からの散乱光を受けて物体の移動速度を計測する差動型レーザドップラ速度計測装置において、レーザ光源と、該レーザ光源からのレーザビームを平行ビームにするコリメータレンズと、前記平行ビームを二分するビームスプリッタの内少なくとも一つのレーザビームを反射して物体に照射するミラーと、前記物体からの散乱光を集光するレンズを含む光学系と、を有し、前記レーザビームは物体及び/又は物体近傍の離間した複数箇所に向けて照射される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体にレーザ光を照射し、物体からの散乱光を受けて物体の移動速度を計測する差動型レーザドップラ速度計測装置において、レーザ光源と、該レーザ光源からのレーザビームを平行ビームにするコリメータレンズと、前記平行ビームを二分するビームスプリッタと、前記ビームスプリッタで二分されたレーザビームの内少なくとも一つのレーザビームを反射して物体に照射するミラーと、前記物体からの散乱光を集光するレンズを含む光学系と、を有し、
前記レーザビームは物体及び/又は物体近傍の離間した複数箇所に向けて照射されること、を特徴とする差動型レーザドップラ速度計測装置。
【請求項2】
前記レーザ光源から前記物体に至る光路中に前記レーザビームを、計測方向に対して、略垂直方向に、分岐する部材を配置することを特徴とする請求項1に記載の差動型レーザドップラ速度計測装置。
【請求項3】
前記分岐する部材は回折光学素子であることを特徴とする請求項2に記載の差動型レーザドップラ速度計測装置。
【請求項4】
前記分岐する部材は該差動型レーザドップラ速度計測装置から物体までの間に配置されることを特徴とする請求項2又は3に記載の差動型レーザドップラ速度計測装置。
【請求項5】
前記分岐する部材は前記物体から、前記散乱光が受光される光路の間には配置されないことを特徴とする請求項2~4の何れか1項に記載の差動型レーザドップラ速度計測装置。
【請求項6】
前記請求項1~5に記載の差動型レーザドップラ速度計測装置を用いた鉄道車両速度計測方法。
【請求項7】
レーザドップラ速度計に取り付ける部材であって、レーザドップラ速度計からの物体に向けた照射光を分岐させて、物体及び/又は物体近傍の離間した複数箇所に向けた照射光とすることで、該レーザドップラ速度計の計測可能範囲を広げることを特徴とする部材。
【請求項8】
前記部材を用いた請求項7に記載のレーザドップラ速度計。
【請求項9】
前記レーザドップラ速度計を用いた速度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光によるドップラ効果を用いた速度計に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光線とドップラ効果を利用したレーザドップラ速度計は、計測対象物の速度が、非接触で正確に測れるため、今日、多くの分野で利用されている。その利用分野の一例としては、製鉄業や、鉄道の速度計測がある。製鉄業では、高温での作業工程で、接触しての計測が難しい圧延制御にレーザドップラ速度計が採用されている。一方、鉄道では、高速走行時には車輪の空転や滑りが発生するため車輪の回転からは正確な運航速度が計測できなかったが、非接触で正確に速度が図れるためレーザドップラ速度計が適用されている。
従来からのレーザドップラ速度計等による速度計測方法としては、主に以下の方式が用いられている。
【0003】
ミリ波ドップラ方式は、計測対象として近距離の物体(例えば、車両から近距離にあるレール軌道面や枕木等)にミリ波を当て、それら物体からの反射波を受信して計測(非接触計測)するため物体との接触不良等(例えば、滑走・空転)の影響はない。しかし、レーザ光に比べ波長も3000~1000培も長いことからビームの広がり角が大きく(広がりを抑えるためには大型のアンテナが必要になるため実用的でない)、計測が安定しないという問題があった。
【0004】
特許文献1のレーザドップラ方式は計測対象の物体にレーザビームを照射し、その反射光(散乱光)を光学系で受信して光電変換し、検出信号を得て、それを変調周波数に基づいて同期検波してドップラ周波数成分を抽出し、その抽出値に基づいて、物体の移動速度を算出するようにしたものである。この方式の非接触方式は長所ではあるが、地面に照射するレーザ光がシングルビームのため、受光面での広がり角により計測精度が落ちるという問題があった。
【0005】
これを改善したのが、対象物に照射するレーザ光を平行光にして、両レーザ光の反射光の差を求める差動方式の差動型レーザドップラ方式である。この方式は非接触方式の長所と、レーザ光を平行光にし、差動方式にすることで、受光面が若干広くても計測精度が落ちない利点があり、広く利用されている。
しかし、差動方式による焦点を結ぶ光学系のため、計測可能幅(焦点深度)が短く(浅く)なって計測可能場所が物体上の計測可能領域(例えば、レール上面)に限られてしまい、計測可能領域を外れると計測が中断するという問題があった。特許文献2、3は、これを改善するため、計測可能領域上にセンサ2台を配置したものであるが、実際には、2台ともレーザ光が計測可能領域面から外れてしまうことがあり、問題は残っていた。
【0006】
この差動型レーザドップラ方式の問題に対して、計測可能奥行(焦点深度)を長く(深く)して計測可能場所をレール面から高さ方向に若干外れても計測が中断しないようにしたものが特許文献4である。しかし、この方式でも幅(横)方向に対しては無力であり、鉄道車両においては、カーブなどでレーザ光がレール面から外れてしまうという問題は残っていた。
このような計測対象の揺動により連続計測が難しいときは、解決策として揺動方向にレーザ光を広げるという対策も考えられるがレーザ光のエネルギー密度低下、受光効率の低下の影響で実用が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-281238号公報
【特許文献2】特開平5-71929号公報
【特許文献3】特開平5-105082号公報
【特許文献4】特開2017-083467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、計測対象となる物体に対して、実質的な計測可能範囲を広げることで、計測中の幅(横)方向(計測方向に対して垂直方向)の揺動等に対して、計測欠落を最小限とし、連続計測を可能にすることである。
特に鉄道においては、レール幅を超えた揺動に対しても、鉄道車両の走行速度、走行距離及び走行方向を高精度で計測できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の差動型レーザドップラ速度計測装置は、レーザ光源と、該レーザ光源からのレーザビームを平行ビームにするコリメータレンズと、前記平行ビームを二分するビームスプリッタと、前記ビームスプリッタで二分されたレーザビームの内少なくとも一つのレーザビームを反射して物体に照射するミラーと、前記物体からの散乱光を集光するレンズを含む光学系と、を有し、
前記レーザビームは物体及び/又は物体近傍の離間した複数箇所に向けて照射されること、を特徴とする。
【0010】
上記のとおり構成することで、実質的な計測可能範囲が広がることで、鉄道、ローラコンベアでの速度監視や計尺等における対レール速度、移動距離などで揺動時の計測欠落の回避が可能となった。
また、従来の複数のレーザドップラ速度計測装置を使用した場合に比べローコストで優れた効果を実現できた。
【0011】
また、本発明の差動型レーザドップラ速度計測装置は、前記レーザ光源から前記物体に至る光路中に前記レーザビームを、計測方向に対して略垂直方向に、分岐する部材を配置することを特徴とする。
【0012】
上記のとおり構成することで、既存の光学系への影響を少なくした上で、効果的に計測可能領域の横(幅)方向を広げることができる。
【0013】
また、本発明の差動型レーザドップラ速度計測装置は、前記分岐する部材は回折光学素子であることを特徴とする。
【0014】
上記のとおり構成することで、小型で薄く設置が容易となった。
また、光源波長(周波数)と交叉角が全て同一となるため速度検出感度はそれぞれの交叉角において等しくなり、分岐による悪影響がなく、調整作業も殆ど必要なくなった。
さらに、回折光学素子の格子ピッチ、使用波長を選択することにより観測位置間隔を目的に合った形とすることができるので、計測幅の設定が簡単となった。
なお、透過型回折格子以外にもビームベンダを兼ねた反射型回折格子でも同様に構成できる。
【0015】
また、本発明の差動型レーザドップラ速度計測装置は、前記分岐する部材が該差動型レーザドップラ速度計測装置から物体までの間に配置されることを特徴とする。
【0016】
上記のとおり構成することで、レーザドップラ速度計内の既存の光学系はそのままの状態で利用できるので、通常品に対するオプション品やアダプタ化が容易である。
また、既にレーザドップラ速度計測装置として使用中のものに対しても、簡単に取り付けすることができる。
【0017】
また、本発明の差動型レーザドップラ速度計測装置は、前記分岐する部材は前記物体から、前記散乱光が受光される光路の間には配置されないことを特徴とする。
【0018】
上記のとおり構成することで、散乱光は分岐されずに受光するので、揺動時の受光感度の低下を抑えることができる。
【0019】
本発明の鉄道車両速度計測方法は前記差動型レーザドップラ速度計を用いた。
【0020】
上記のとおり構成することで、レール幅を超えた揺動に対しても計測できるので、鉄道車両の走行速度、走行距離及び走行方向を高精度で計測できる。
【0021】
本発明の部材はレーザドップラ速度計に取り付ける部材であって、レーザドップラ速度計からの物体に向けた照射光を分岐させて、物体及び/又は物体近傍の離間した複数箇所に向けた照射光とすることで、該レーザドップラ速度計の計測可能範囲を広げることを特徴とする。
【0022】
上記のとおり構成することで、実質的な計測可能範囲が広がることで、鉄道、ローラコンベアでの速度監視や計尺等における対レール速度、移動距離などで揺動時の計測欠落の回避が可能となった。
また、従来の複数のレーザドップラ速度計測装置を使用した場合に比べローコストで優れた効果を実現できた。
【0023】
また、本発明のレーザドップラ速度計は前記部材を用いることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の速度計測方法は、前記レーザドップラ速度計を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、鉄道、ローラコンベアでの速度監視や計尺等における対レール速度、移動距離などで揺動時の計測欠落の回避が可能となる。
また、複数のレーザドップラ速度計測装置を使用した場合に比べローコストである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第一の実施形態によるレーザドップラ速度計測装置の構成図である。
【
図2】実施例1の揺動の無い状態での概略説明図である。
【
図3】実施例1の揺動のある状態での概略説明図である。
【
図4】実施例1の揺動のある状態での概略説明図である。
【
図5】実施例1の揺動のある状態での概略説明図である。
【
図6】実施例1の揺動のある状態での概略説明図である。
【
図7】レーザドップラ速度計による他の実施形態についての概略説明図である。
【
図8】第二の実施形態によるレーザドップラ速度計の概略説明図である。
【
図9】第三の実施形態によるレーザドップラ速度計の概略説明図である。
【
図10】従来のレーザドップラ速度計の構成を示す図である。
【
図11】従来のレーザドップラ速度計の動作を説明するための図である。
【
図12】従来のレーザドップラ速度計の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
レーザドップラ速度計では、計測中に様々な要因で計測可能領域を超える揺動等が起こり計測欠落を生じることがあり問題となっていたが、本発明によりこのような計測欠落の回避が可能となった。
【0028】
まず、レーザドップラ速度計の原理について、
図10(従来のレーザドップラ速度計)を用いて説明する。
図10(a)はレーザドップラ速度計DIVに対して物体Oの進行方向(紙面裏側から表側方向)或はその逆方向(紙面表側から裏側方向)から見た図であり(以下、「紙面表裏方向移動図」という。)、
図10(b)はレーザドップラ速度計DIVに対して物体Oの移動方向と垂直な方向(物体Oが紙面左側から紙面右側方向に移動)から見た図である(以下、「紙面左右方向移動図」という。)。ここで、
図10を参照しながら、差動型レーザドップラ速度計の基本構成である光学系について、以下説明を行う。
【0029】
図10(b)では、レーザ光源1から出射されるレーザビームが、コリメータレンズ2で平行ビームとなり、周波数シフト素子(AOM)3に入射する。周波数シフト素子3は、入射されたレーザビームの周波数を40MHzシフトさせ、ある角度だけ回析した1次回折光52と、そのまま通過する0次回折光51を出射する。これらの出射光が偏光ビームスプリッタ4に入射されてP偏光である0次回析光51とS偏光である一次回析光52に二分される。0次回析光51は、ミラー82で曲げた後、ミラー83で折り返し、λ/4波長板86を介して円偏光とした後、移動する物体Oに照射される。
【0030】
一方、偏光ビームスプリッタ4で反射した一次回析光52は、ミラー81で反射されて、λ/4波長板85を介して、円偏光とした後、移動する物体Oに照射する。
【0031】
物体O上の照射箇所Mにて0次回折光51と1次回折光52が交差するように照射されることで、その散乱光が受光レンズ8により集光されて受光素子9にて光電変換を行い、ドップラシフト周波数の検出を行う。
その電気信号出力のビート信号周波数は、40MHzを中心にプラスやマイナス方向に変位し、変位した周波数量は物体Oの移動速度に比例する。この電気信号を処理することにより、物体Oの移動速度を算出する。
【0032】
前述のとおり、0次回析光51は、周波数シフト素子3から出射して、ビームスプリッタ4を透過し、ミラー82で曲げた後、ミラー83で折り返し、λ/4波長板86を通過して、移動する物体Oに至る光路であり、一次回析光52は、周波数シフト素子3から出射して、ビームスプリッタ4、ミラー81で反射されて、λ/4波長板85を介して、移動する物体Oに至る光路である。そして、0次回析光51は移動する物体の前方から入射し、一次回析光52は移動する物体の後方から入射しており、これらの光学系により差動型のレーザドップラ速度計を構成している。
【0033】
上記
図10で示される差動型レーザドップラ速度計を用いて、例えば、鉄道における車両の速度を計測する場合を
図11、12で示す。ここで、
図11、12はレーザドップラ速度計DIVを不図示の車両に取り付けた状態を示しており、車両の移動に伴って、地面に固定されたレールRに対するレーザドップラ速度計DIVの移動速度、すなわち車両の移動速度、を計測する構成の説明図である。
また、
図11(a)、12(a)は鉄道レールRに対する車両(レーザドップラ速度計DIV)の紙面表裏方向移動図であり、
図11(b)、12(b)はレーザドップラ速度計DIVから鉄道レールR上のレールRに向けられたレーザ照射領域をレーザドップラ速度計DIV側(上側)から見た図である。
【0034】
図11、12で示されるようにレールRの上面(頭部)が計測面となるが、R形状(丸みを帯びた形状)なので、レールRの上面全幅Lの内、有効幅Wが許容誤差にて計測できる面の範囲である。
通常、レールRの上面全幅Lは62~65mm、幅Wは40~50mmである。
ここで、通常は幅Wの中心Mを基準位置としてレーザドップラ速度計DIVからレーザ照射を行う(
図11参照)。
また、計測できるレーザ照射領域の限界は、例えば、
図12で示されるようにレーザドップラ速度計DIVの照射光からの照射領域M’である。
その結果、計測面上の照射領域について、レーザドップラ速度計が基準位置からレールRの横幅方向にW/2(±W/2)を超えて移動すると適切な計測ができなくなってしまう。
【0035】
これを改善したのが本願発明であり、以下図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものでなく、本実施形態と同じ技術的思想を成しえる構成を含むものである。
【0036】
図1は、第一の実施形態のレーザドップラ速度計の光学部分の構成図であり、
図10(従来のレーザドップラ速度計)において、物体及び/又は物体近傍の離間した複数箇所に向けてレーザビーム照射を行う構成としたものである。
具体的には、レーザドップラ速度計のレーザ光源から物体に至る光路中にレーザビームを、計測方向に対して、略垂直方向に分岐する部材100として回折光学素子(DOE)を配置した。
ここで、回折光学素子とは、周期的にスリットや凹凸等の形状を基板上につけた素子であり、そのスリットや凹凸形状の影響で発生する回折光を利用し、入射光を目的の強度分布や位相分布の光に変換するものである。
また、部材100は必ずしも回折光学素子に限られるものではないが、回折光学素子の場合、
図1(a)で示されるように物体側に向けて、-1次光を物体Oの計測対象箇所(照射領域n)に、0次光を物体Oの計測対象箇所(照射領域m)に、1次光を物体Oの計測対象箇所(照射領域p)に、それぞれ照射することが容易にできる。
ここで、従来のレーザドップラ速度計(
図10)は、0次回析光51と一次回折光52は物体及び/又は物体近傍では両者が交差するように物体O上の照射箇所M一箇所のみが照射されている。
これに対して、第一の実施形態のレーザドップラ速度計(
図1)は、0次回析光51と一次回折光52は物体及び/又は物体近傍では両者が交差するように三箇所(n、m及びp)が照射されている。
なお、図で用いられている記号や番号は特に説明がない場合には同一のものと解釈することができる。
なお、本明細書においては、部材100(回折光学素子)による回折光について、周波数シフト素子3による「0次回折光51」及び「1次回折光52」と区別する為、「1次光」、「0次光」及び「-1次光」という用語を用いる。
【0037】
具体的には、レーザドップラ速度計から射出される0次回析光51(及び一次回析光52)は、λ/4波長板86(及びλ/4波長板85)を介して円偏光になった後、
図1(a)で示されるように、部材100(回折光学素子)により、それぞれ少なくとも-1次光、0次光、+1次光の3つに分岐され、物体面上のn(-1次光の照射範囲)、m(0次光の照射範囲)、p(+1次光の照射範囲)の箇所にそれぞれ照射される。
【0038】
移動する物体面上のnに照射された光は散乱光となり、それが再度部材100を通過する際に、少なくとも-1次光、0次光、+1次光の3つに分岐され、その内、-1次光又は+1次光が受光レンズ8により集光されて受光素子9にて光電変換を行い、ドップラシフト周波数の検出が行われる。
同様に移動する物体面上のmに照射された光は散乱光となり、それが再度部材100を通過する際に、少なくとも-1次光、0次光、+1次光の3つに分岐され、その内、0次光が受光レンズ8で集光されて受光素子9にて光電変換を行い、ドップラシフト周波数の検出が行われる。
また、同様に、移動する物体面上のpに照射された光は散乱光となり、それが再度部材100を通過する際に、少なくとも-1次光、0次光、+1次光の3つに分岐され、その内、-1次光又は+1次光が受光レンズ8で集光されて受光素子9にて光電変換を行い、ドップラシフト周波数の検出が行われる。
通常これらの値は受光素子9にて合算されて検出される。
【0039】
したがって、物体面上のn、m又はpの何れかが適切に照射されていれば、物体速度を計測することが可能となる。
【0040】
[実施例1]
鉄道における車両の速度を計測する場合について、実施例1として
図2~6にて説明する。特に
図2,3は、従来の
図11、12にそれぞれ対応するものである。
【0041】
すなわち、基準位置では、
図11に対応した
図2で示されるように、レールRの上面Wの範囲内にあるn(-1次光の照射範囲)、m(0次光の照射範囲)、p(+1次光の照射範囲)の箇所がそれぞれ照射される。
【0042】
揺動によりW/2移動した位置では、
図12に対応した
図3で示されるように、レールRの上面Wの範囲内にあるm(0次光の照射範囲)、p(+1次光の照射範囲)の箇所がそれぞれ照射される。
【0043】
さらに、揺動によりW移動した位置では、
図4で示されるように、レールRの上面Wの範囲内にあるp(+1次光の照射範囲)の箇所が照射される。
【0044】
すなわち、部材100を使用することで、レーザドップラ速度計が基準位置からW移動したとしても、pの箇所を照射することができるので、照射可能領域が広がって車両の速度を計測することが可能になる。
【0045】
さらに、2次光までを利用すると、揺動によりW+W/2移動した位置であっても、
図5で示されるように、レールRの上面Wの範囲内にあるq(+2次光の照射範囲)の箇所を照射することができる。
【0046】
この場合、部材100の2次光を利用することで、レーザドップラ速度計が基準位置からW+W/2移動したとしても、p(+1次光の照射範囲)よりも外側のq(+2次光の照射範囲)の箇所を照射することができるので、さらに照射可能領域が広がって車両の速度を計測することが可能となる。
【0047】
図6(c)は、-1次光、0次光及び1次光の間隔をレールRの誤差を考慮した計測範囲であるWとすることで、
図5の様に2次光まで使用しなくても、-1次光、0次光及び1次光であっても、レーザドップラ速度計が基準位置からW+W/2の移動にも対応できることを示す図である。
【0048】
図6(d)は、0次光を低減させたものである。この場合、0次光の照射分を-1次光と+1次光に割り当てることで、2箇所だけを効果的に照射させることができるので、無駄を省き電気消費量を少なくすることができる。また、図で示されるように両者間の距離をWとすることで、Wの距離を移動しても対応できる。
【0049】
前述のとおり、実施例1の部材100(回折光学素子)は、透過型であるが、本発明の回折光学素子は透過型に限られない。例えば、反射型であっても同様の効果を奏し、本発明に含まれ得る。
また、位相型の回折光学素子は、入射光の位相分布を、像面で所望のパターンとなるような位相分布に変換するため、振幅型の回折光学素子と比べ、入射光に対する変換後の光のエネルギー効率が非常に高い。そのため、均一な強度分布のような単純な形状の回折光学素子だけでなく、複雑な形状の回折パターンを発生させる回折光学素子にも適用されており、位相型の回折光学素子が好ましい。
なお、部材100は、レーザ光を複数箇所へ照射することができれば、回折光学素子に限らず、他の光学素子(例えば、プリズム、ミラー、ビームスプリッタ―、レンズ等)であっても構わない。
【0050】
実施例1について、鉄道における車両の速度を計測する場合を示してきたが、他の用途について、
図7に示す。
図7(e)は幅の制限があまりなく、移動方向についてもそれ程厳密ではないもの、例えば製鉄業の圧延工程などの速度制御を行う際のレーザドップラ速度計による照射箇所を示したものである。
この場合にはレーザドップラ速度計の基準位置(例えば0次光があるとした場合に照射される箇所)をCとし、正三角形の頂点に相当する箇所(
図7(e)において、X1、X2及びX3、場合によってはCも)が照射箇所となるように設計された回折光学素子を用いている。
【0051】
図7(f)は移動方向が一定でないもの、例えば、海流等のレーザドップラ速度計による照射箇所を示したものである。
この場合にはレーザドップラ速度計からの照射箇所が正六角形の頂点及び中心に相当する箇所(
図7(f)において、Y1~Y7)となるように設計された回折光学素子を用いている。
【0052】
なお、差動型レーザドップラ速度計の小型化を図るために、
図1での周波数シフト素子3とλ/4波長板85、86を取り外した形態としても良い。この場合、周波数シフト素子3を取り外したため、レーザドップラ速度計は小型で安価となるが、移動する物体Oの移動方向(移動の極性)は検出できなくなる。
この形態については後述する第二の実施形態(実施例2)で詳細を説明する。
【0053】
また、差動型レーザドップラ速度計の光学系を簡略化したものについて第三の実施形態(実施例3)で詳細を説明する。
【0054】
なお、ミラー83で反射されるのが0次回折光51であり、ミラー81で反射されるのが1次回折光52であったが、その形態でなくてもよい。例えば、ミラー83で反射されるのが1次回折光で、ミラー81で反射されるのが0次回折光である形態であってもよい。
【0055】
(実施例1の諸元値例)
レーザ光の波長 : 690nm
測定距離 : 500mm
レール頭部有効計測可能幅W: 40mm
対応揺動幅(±1次光) : 116mm
対応揺動幅(±2次光) : 192mm
部材100(回折光学素子): 110本/mmの回折格子)
【0056】
[実施例2]
図8は、実施例2のレーザドップラ速度計の光学部分の構成図である。実施例2は、実施例1の差動型レーザドップラ速度計の小型化を図るために、実施例1(
図1)での周波数シフト素子3とλ/4波長板85、86を取り外した形態である。周波数シフト素子3を取り外したため、
図8のレーザドップラ速度計は、小型で安価となるが、移動する物体Oの移動方向(移動の極性)は検出できなくなる。
【0057】
図8において、レーザ光源1から出射されるレーザビームは、コリメータレンズ2で平行ビームになり、この出射光は無偏光ビームスプリッタ121に入射して直進する第一のビーム122と90度反射し横方向に向かう第二のビーム123に分離される。
ここで、
図8における第一のビーム122と第二のビーム123は、実施例1と異なり、周波数シフトが発生していない同じ光周波数のビームである。第一のビーム122及び第二のビーム123は、ミラー83及びミラー81でそれぞれ反射し、部材100(回折光学素子)により、少なくとも-1次光、0次光、+1次光の3つに分岐され、物体O面上のn(-1次光の照射範囲)、m(0次光の照射範囲)、p(+1次光の照射範囲)それぞれの箇所に照射される。
【0058】
物体O面上のn、m及びpに照射された光はそれぞれ散乱光となるが、実施例1と異なり、散乱光は部材100を通過せずに受光レンズ8により集光する。
それ故、散乱光は部材100(回折光学素子)により-1次光、0次光、+1次光等に分岐されないので光の損失が少なくなり、計測効率が上がる。
受光レンズ8を通過した光は、ミラー84で曲げられて、受光素子9にて光電変換しドップラシフト周波数の検出が行われるが、その電気信号出力のビート信号周波数は、移動する物体Oの速度の絶対値に比例して0Hzから変位する。このビート信号の周波数の電気信号を処理することにより、物体Oの移動速度を算出する。
【0059】
なお、この際の受光素子9は物体面上の照射箇所であるn、m及びpの全てが結像するように受光面積が広く構成されているか、または、散乱光が受光素子9に入射するまでの間にトーリックレンズを配置するなどして結像位置が一箇所となるように構成されていることが望ましい。
【0060】
また、本実施例では、小型化のために直線偏光によるレーザドップラ速度計を構成したが、λ/4波長板をそれぞれ、第一のビーム122、第二のビーム123内に挿入し、双方の偏波を円偏波として偏波依存のある物体Oに対応することもできる。
【0061】
[実施例3]
図9は、実施例3のレーザドップラ速度計の光学部分の構成図である。実施例3は、実施例1の差動型レーザドップラ速度計の光学系を簡略化したものであり、シンプルな構成となっている。
【0062】
図9において、レーザ光源1から出射されるレーザビームは、コリメータレンズ2で平行ビームとなり、周波数シフト素子(AOM)3に入射する。周波数シフト素子3は、実施例1と同様に、入射されたレーザビームの周波数を40MHzシフトさせ、ある角度だけ回析した1次回折光52と、そのまま通過する0次回折光51を出射し、これらの出射光(1次回折光52及び0次回折光51)は部材100(回折光学素子)により、それぞれ少なくとも-1次光、0次光、+1次光の3つに分岐され、偏光ビームスプリッタ4に入射してP偏光である0次回析光51(-1次光、0次光、+1次光)とS偏光である一次回析光52(-1次光、0次光、+1次光)に二分される。
【0063】
そして、0次回析光51(-1次光、0次光、+1次光)は、透過側に直進し、λ/2波長板5にてS偏光に変換後、移動する物体Oに向かい、一次回析光52(-1次光、0次光、+1次光)は、ミラー7を介して、移動する物体Oに向かうことで、物体O面上のn(-1次光の照射範囲)、m(0次光の照射範囲)、p(+1次光の照射範囲)の箇所がそれぞれ照射される。
ここで、0次回析光51(-1次光、0次光、+1次光)は移動する物体の前方から入射し、一次回析光52(-1次光、0次光、+1次光)は移動する物体の後方から入射しており、これらの光学系により差動型のレーザドップラ速度計を構成している。
なお、この2つの光路(0次回折光51と一次回折光52の間)には、若干の光路差長が存在する(
図9参照)。
物体O面上のn、m及びpに照射された光はそれぞれ散乱光となるが、実施例1と異なり、散乱光は部材100を通過せずに直接受光レンズ8により集光する。
それ故、散乱光は部材100(回折光学素子)により-1次光、0次光、+1次光等に分岐されないので光の損失が少なくなり、計測効率が上がる。
受光レンズ8を通過した光は、受光素子9にて光電変換しドップラシフト周波数の検出が行われ、物体Oの移動速度を算出する。
【0064】
なお、この際の受光素子9は物体面上の照射箇所であるn、m及びpの全てが結像するように受光面積が広く構成されているか、または、散乱光が受光素子9に入射するまでの間にトーリックレンズを配置されている、などして結像位置が一箇所となるように構成されていることが望ましい。
【0065】
本発明での実施例では、波長690nm及び785nmでの動作例を示したが、本発明での使用波長はこれらに限らない。波長は、405nmの青紫色、460nm帯の青色、530nm帯の緑色、660nm帯、高出力の1000nm帯、1300nm、1550nm帯の光通信用の波長帯、或はこれら以外の波長帯でも、レーザや光検出器が動作可能である限り動作は可能である。
また、実施例において、レーザドップラ速度計からレールまでの距離は、台車取り付けの場合250~350mm、車体取り付けの場合500~700mmが好ましく、レールRの上面全幅Lは62~65mm、幅Wは40~50mmであるが、本発明はこれらの数値範囲に限られるものではない。
なお、部材100にて投影される間隔(物体上の隣接する照射箇所との間隔)は、20~50mmが良く、30~45mmが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、計測対象物の速度や長さ及び距離を非接触で正確に測ることができる。そのため、本発明は、製鉄業の圧延工程における鋼片の寸法計測や圧延工程などの速度制御、鉄道での列車等移動物体の正確な速度や走行距離の計測及びレール等の正確な速度や長さ計測、道路インフラでの検測車等移動物体の正確な速度や移動距離の計測、自動車関連での車両の正確な速度や走行軌跡の計測、エンジン・ウインドウ・ドア等の可動物の正確な速度や距離の計測、電力業界・航空業界・船舶業界におけるエンジン・発電機等回転物の正確な速度の計測、化学工業・建設業・製造業・食品業・医療関係などの産業機器での開発機器・製造製品・製造装置における物質・材料の正確な速度や長さの計測に適用することができる。また、流体の流速や血流速の計測にも適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 レーザ光源
2 コリメータレンズ
3 周波数シフト素子
4 偏光ビームスプリッタ
5 λ/2波長板
6 無偏光ビームスプリッタ
7 ミラー
8 レンズ
9 受光素子
10 増幅器
51 0次回折光
52 1次回折光
81、82、83、84 ミラー
85、86 λ/4波長板
91 発振器
92 高周波電流重畳回路
O 物体
R 鉄道レール
L 鉄道レール上面幅
W 鉄道レール上面の計測可能幅
n -1次光が照射する領域
m 0次光が照射する領域
p 1次光が照射する領域
q 2次光が照射する領域
M 基準位置
DIV レーザドップラ速度計