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特開2023-107692シワ形成リスクの評価のための測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107692
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】シワ形成リスクの評価のための測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230727BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
A61B5/00 N
G01N33/50 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009003
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000166959
【氏名又は名称】御木本製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】秦野 衛
(72)【発明者】
【氏名】山中 亜弥
(72)【発明者】
【氏名】須藤 秀
【テーマコード(参考)】
2G045
4C117
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB09
4C117XA01
4C117XB01
4C117XB13
4C117XD05
(57)【要約】
【課題】頚部における将来的なシワ形成リスクの評価のための測定方法を提供する。
【解決手段】シワ形成リスクの評価のための測定方法は、頚部におけるシワ形成リスクの評価において、対象者の鎖骨周辺部の肌の角層水分量を測定する方法であり、上記評価では、角層水分量が判定閾値未満の場合に、角層水分量が判定閾値以上の場合に比べて、シワ形成リスクが高いと評価され、さらに、角層水分量の測定時期に応じて判定閾値を変化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頚部におけるシワ形成リスクの評価において、対象者の鎖骨周辺部の肌の角層水分量を測定することを特徴とするシワ形成リスクの評価のための測定方法。
【請求項2】
前記角層水分量が判定閾値未満の場合に、前記角層水分量が前記判定閾値以上の場合に比べて、シワ形成リスクが高いと評価することを特徴とする請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
前記角層水分量の測定時期に応じて前記判定閾値を変化させることを特徴とする請求項2記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象者の頚部におけるシワ形成リスクの評価のための測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会の到来に伴い、見た目を若々しく見せたいと願う女性の数は、ますます増え続けている。例えば、ヒトの見た目年齢を決める大きな要因として、皮膚の老化兆候として代表されるシワが挙げられる。特に頚部のシワに関しては、悩みを抱える女性は多く、実際に、30代から50代にかけて、頚部のシワ形状が大きく変化することが報告されている(非特許文献1参照)。
【0003】
従来、頚部からデコルテ部位に至る鎖骨下のケアを意識したスキンケア化粧品が発売されている。その多くは、加齢や紫外線の影響による頚部のシワに着目したもので、様々な研究知見が得られている。しかしながら、頚部に限定した評価では、シワ形成に直接結びつく決定的な原因は明らかにされていない。また、頚部のシワとその近傍部位における皮膚生理機能の変化との関係性に関する知見も少ないのが現状である。
【0004】
ところで、例えば化粧品の販売店では、顧客の肌状態に基づいて、スキンケア化粧品や肌ケア方法を提案するといったサービスが提供されている。しかしながら、現状の肌状態に応じたサービスの提供にとどまり、例えば将来的なシワ形成リスクを評価し、その結果に基づくサービスの提供は行われていない。また現状では、頚部のシワ形成の予測に関する知見は、ほとんど知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本香粧品学会誌、2013、Vol37、p.81-89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、頚部の将来的なシワ形成リスクの評価のための測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシワ形成リスクの評価のための測定方法は、頚部におけるシワ形成リスクの評価において、対象者の鎖骨周辺部の肌の角層水分量を測定することを特徴とする。本発明において、シワ形成リスクとは、将来にかけてシワが形成される可能性をいい、そのリスクが高い場合はシワが形成される可能性が高いといえる。
【0008】
上記角層水分量が判定閾値未満の場合に、上記角層水分量が上記判定閾値以上の場合に比べて、シワ形成リスクが高いと評価することを特徴とする。
【0009】
上記角層水分量の測定時期に応じて上記判定閾値を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、頚部のシワが鎖骨周辺部における水分保持能と密接に関係するという知見に基づくものであり、上記測定方法によれば、対象者の頚部におけるシワ形成リスクを非侵襲的かつ簡便な手法で評価することができる。さらに、その評価結果を、スキンケア化粧品や肌ケア方法の提案などに利用することができる。
【0011】
また、角層水分量が判定閾値未満の場合に、シワ形成リスクが高いと評価し、さらに、角層水分量の測定時期によって判定閾値を変化させるので、角層水分量に影響を及ぼす測定時期に関わらずに、シワ形成リスクを精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】シワ形成リスクと角層水分量などとの関係の一例を示す図である。
図2】実施例での皮膚生理パラメータの測定部位を示す図である。
図3】頚部におけるシワ形成スコアと年齢との相関を示すグラフである。
図4】皮膚粘弾性(R2、R7)と年齢との相関を示すグラフである。
図5】皮膚粘弾性(R2、R7)の部位間比較を示すグラフである。
図6】角層水分量と年齢との相関を示すグラフである。
図7】角層水分量の部位間比較を示すグラフである。
図8】鎖骨下の角層水分量と各部位毎の皮膚粘弾性(R7)との相関を示すグラフである。
図9】鎖骨下の角層水分量の季節変動の影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、頚部のシワ形成の実態を明らかにすべく、頚部のシワの程度と頚部の近傍部位における皮膚計測値との関係性を鋭意検討した。その結果、鎖骨周辺部の肌の角層水分量と頚部のシワ形成が、密接に関係していることを見出し、そのことから、鎖骨周辺部の肌の角層水分量を指標として、頚部におけるシワ形成リスクを評価(判定)できることを見出した。
【0014】
本発明において、「頚部」とは、頭部と胴部を繋ぐ部分であって、いわゆる首の部分である。また、「鎖骨周辺部」とは、胴部のうち、鎖骨を中心とした部分であって、例えば鎖骨下や鎖骨上を含む部分である。本発明において、「頚部」と「鎖骨周辺部」は、ヒトにおける部位として明確に区別される。
【0015】
本発明の測定方法は、対象者の頚部におけるシワ形成リスクの評価において、鎖骨周辺部の肌の角層水分量を測定するものである。角層水分量は、角層水分量測定器を用いたコンダクタンス測定によって行われる。コンダクタンス測定は、高周波を用いた交流電流に対する電導度(Conductance;単位=μS)を測定する方法である。高周波電流は、物の表面を流れ易く、また電導度と水分含有量の間には密接な相関関係があることから、表層の角層水分量を迅速に測定できる。なお、コンダクタンス測定は、キャパシタンス(静電容量)測定に比べて、より表層における水分量の測定が可能である。
【0016】
測定部位の鎖骨周辺部は、好ましくは鎖骨下の部分である。また、角層水分量の測定環境は発汗のない環境であり、具体的には、20℃前後で、湿度が30%~50%である。
【0017】
シワ形成リスクの評価は、測定によって得られた角層水分量を指標として、頚部におけるシワ形成リスクを評価する。後述の実施例に示すように、複数の被験者を、頚部のシワが目立つ(高スコア)グループと目立たない(低スコア)グループに分類して、グループ間の皮膚生理パラメータを比較したところ、頬部における角層水分量と頚部における角層水分量は、グループ間で有意な差が見られなかったのに対して、鎖骨下における角層水分量は、グループ間で有意な差が見られた(後述の図7参照)。この結果は、頚部のシワが、該頚部における水分保持能よりも、頚部の近傍部位であって異なる部位である鎖骨下における水分保持能と密接に関係していることを表している。さらに、その関係性において年齢は主たる要因でないことが推察される。これらを踏まえると、鎖骨周辺部の肌の角層水分量は、頚部におけるシワ形成リスクの評価の指標になるといえる。
【0018】
また、図7の結果より、頚部のシワが目立たないグループでは、鎖骨下における角層水分量が、シワが目立つグループに対して有意に高く、さらに角層水分量が比較的一定に保持されていることが認められる。そのため、本発明の測定方法に基づくシワ形成リスクの評価では、角層水分量が判定閾値未満の場合に、角層水分量が判定閾値以上の場合に比べて、シワ形成リスクが高いと判断することができる。また、角層水分量が低いほどシワ形成リスクが高いと判断することもできる。
【0019】
図1の例では、鎖骨下における角層水分量に応じてシワ形成リスクを4段階(「A」~「D」)で評価している。この場合、角層水分量に関して、評価の各段階を区画する複数の判定閾値が設定されており、測定された角層水分量に応じて各段階に区分される。図1では、「A」評価はシワ形成リスクが最も低く、「D」評価はシワ形成リスクが最も高いと判断される。なお、シワ形成リスクの評価手法などは、図1の例に限定されるものではない。
【0020】
上記判定閾値は、実験結果などに基づいて設定することができる。例えば、後述の実施例に示すように、頚部のシワが目立たないグループでは、鎖骨下における角層水分量が400μS付近に密集しているのに対して、頚部のシワが目立つグループでは、鎖骨下における角層水分量は平均で280μS程度であった。この結果より、角層水分量が400μS前後に保たれているとき、頚部のシワ(横シワ)が目立たないといえる。上記判定閾値は、このような数値を考慮して設定することができる。
【0021】
また、ヒトの肌の角層水分量は、季節などの変化の影響を受ける。例えば、秋(11月)や冬(2月)の角層水分量は、春(5月)や夏(8月)の角層水分量よりも少ない傾向がある。そのため、本発明の測定方法に基づくシワ形成リスクの評価では、角層水分量の測定時期によって判定閾値を変化させることが好ましい。具体的には、鎖骨下の角層水分量が低くなる時期(例えば秋冬の時期)では、それ以外の時期(例えば春夏の時期)に比べて、判定閾値が小さくなるように変化させる。
【0022】
本発明の測定方法は、例えば、化粧品の販売店などにおいて利用することができる。具体的には、20代~30代の女性を対象者として、その対象者の鎖骨周辺部の肌の角層水分量を測定して、得られた角層水分量を指標として、10年後や20年後におけるシワ形成リスクを評価する。そして、評価結果に基づいて、将来生じうるシワ形成を予防するためのサービスを提供することができる。例えば、シワ形成の予防に有効な化粧料の提案や美容カウンセリングなどを行うことができる。
【0023】
また、本発明の基礎となる知見は、頚部のシワ改善に繋がる薬剤や化粧品などの開発のスクリーニングに利用することができる。例えば、スクリーニング対象の薬剤や化粧品などを鎖骨周辺部の肌に塗布して、その部位における角層水分量の変化に基づいて、頚部のシワ改善に対する有効性を判断することができる。
【0024】
以下には、頚部のシワ改善に繋がる化粧品の一形態として、乳化組成物について説明する。
【0025】
本発明に係る乳化組成物は、少なくとも加水分解コンキオリン及び加水分解コラーゲンを含むことが好ましく、さらに、サクシノイルアテロコラーゲンも含むことが好ましい。加水分解コンキオリンは、真珠母貝であるアコヤガイに含まれる硬タンパク質コンキオリンの加水分解物であり、加水分解コラーゲンは、コラーゲン又はゼラチンの加水分解物である。また、サクシノイルアテロコラーゲンは、サクシニル化されたアテロコラーゲンであり、該アテロコラーゲンは、例えばアコヤガイの外套膜から抽出される。
【0026】
また、上記乳化組成物は、保湿性向上の観点から、上述した3つの保湿成分の他に、さらに保湿成分を含むことが好ましい。他の保湿成分としては、化粧品の分野で一般に用いられる保湿成分であれば、制限なく用いることができる。例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンチレングリコールなどの多価アルコール;ソルビトール、グリコシルトレハロース・水添デンプン分解混合溶液、マルチトール、トレハロース、ラフィノースなどの糖類;バリン、ロイシン、アラニン、アルギニン、グルタミン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸などのアミノ酸類;ベタイン;サガラメエキス、ニンジン根エキスなどの植物エキスなどが挙げられる。これらの保湿成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0027】
上記の保湿成分の中でも、ベタイン、グリセリン、サガラメエキス、及びニンジン根エキスから選択される少なくとも1以上の保湿成分を含むことがより好ましい。ベタインは、天然のアミノ酸系保湿成分であり、水分を逃がさず肌にとどめる働きを有する。サガラメエキスは海藻由来の成分であり、潤いのもとになるセラミドやフィラグリンの産生を促進する働きを有する。また、ニンジン根エキスは、カロテノイドを豊富に含んでおり、抗酸化作用、皮膚代謝促進作用などを示す。
【0028】
また、上記乳化組成物は、細胞膜構成成分を含むことが好ましい。細胞膜構成成分としては、 天然の大豆や卵黄から抽出した大豆レシチン、卵黄レシチン、これらを水素添加した水素添加レシチン(水添レシチン)など、一般にリン脂質として知られるものを用いることができる。細胞膜構成成分とサクシノイルアテロコラーゲンとを組み合わせる(より好ましくは、更にベタイン及びグリセリンとを組み合わせる)ことで、肌内部で産生された水分を角層で保持しやすく、水分蒸散を効果的に抑制することができる。
【0029】
上記乳化組成物には、その他に、界面活性剤、カルボキシビニルポリマーなどの増粘剤、エモリエント剤(油性成分)、ビタミン類(例えば、ビタミンE誘導体)、無機塩類、キレート剤、防腐剤、pH調整剤、色素、水溶性薬剤なども必要に応じて適宜配合される。
【0030】
界面活性剤としては、イオン性界面活性剤や非イオン性界面活性剤を用いることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを用いることができる。界面活性剤としては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
エモリエント剤としては、流動パラフィン、スクワランなどの炭化水素油;パルミチン酸イソプロピルなどのエステル油;大豆油、オリーブ油、ヒマシ油などの植物油;メチルポリシロキサンなどのシリコーン油;オレイン酸などの高級脂肪酸;ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール;バチルアルコールなどのアルキルグリセリルエーテル;ワセリン、ラノリン、シア脂などを用いることができる。エモリエント剤としては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
本発明に係る乳化組成物として、特に好ましい形態は、加水分解コンキオリン、加水分解コラーゲン、サクシノイルアテロコラーゲン、ベタイン、サガラメエキス、ニンジン根エキス、水素添加レシチン、グリチルレチン酸誘導体、ビタミンE誘導体、エモリエント剤、界面活性剤、及び水を含むものである。実際に、この乳化組成物からなるクリーム剤を、頚部、デコルテ(鎖骨周辺部を含む)、手に対して、4週間継続塗布することにより、各部位の角層水分量が増え、潤いが向上している。
【0033】
本発明に係る乳化組成物に含まれる水の含有量は、例えば乳化組成物全量に対して30質量%~80質量%(好ましくは50質量%~80質量%)である。
【0034】
乳化組成物の製造方法は特に限定はなく、通常の乳化のほかに、多段階乳化、D相乳化、転相乳化、液晶乳化、PIT乳化、ゲル乳化、膜乳化などが選択でき、乳化装置も特に限定はなく、スターラー、インペラー攪拌、ホモミキサーなどの通常の乳化装置のほかに、マントン-ゴーリン型高圧ホモジナイザー、ジェット水流反転型高圧乳化機、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、スターバーストなどの高圧乳化機も使用でき、これら1つ又は2つ以上を組み合わせて必要な粒子径を得ることができる。
【0035】
乳化組成物は、他の成分との併用により種々の剤型とすることもできる。具体的には、ゲル状、ペースト状、液状、クリーム状、固形状などの剤型にできる。
【実施例0036】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
20代から50代の健常女性32名(平均年齢41.66±7.29歳)を対象に、以下の測定を実施した。なお、皮膚粘弾性測定については31名を対象とした。頬部はクレンジングの後、洗顔料にて洗浄し、頚部および鎖骨下については、ふき取りローションにて洗浄した。その後、21℃、45%RHの恒温恒湿室にて20分間の安静の後に以下の測定を行った。測定部位は、図2に示すとおり、頬部は、目尻から垂直方向に2cm下ろした点を基準点として、2cm四方を測定領域とし、頚部は、耳垂と鎖骨との中間位、鎖骨下は鎖骨下中央部を測定箇所とした。なお、実施時期は8月下旬であった。
【0038】
<視感評価>
専門評価者5名による視感評価により、シワ状態のグレードをKimらの分類(参考文献:Kim E.et al.,IFSCC,Buenos Aires (2010))を参考にした評価基準に従ってスコア化し(表1参照)、専門評価者の平均値を評点とした。視感評価は、写真画像によって行い、写真は正面から頚部を中心として下顎部から鎖骨下までを含む範囲で撮影を行った。さらに、シワ判定スコアについて、鎖骨下における角層水分量との間で有意な逆相関性が認められたため、G-P分析(四分位点による分割)で、高スコアグループと低スコアグループに群分けした。
【0039】
【表1】
【0040】
<皮膚粘弾性測定>
Cutometer MPA580(Courage+Khazaka(C+K)社製)を用いて、測定を行った。300mbarの陰圧負荷2秒後の皮膚伸長度(Uf)とプローブに吸い込まれた際の弾性伸びの高さ(Ua)の変化率をR2(Ua/Uf)、負荷解放直前(Uf)と解放0.1秒後(Ur)の伸展度の変化率をR7(Ur/Uf)として算出した。同一部位を3回測定し、その平均を測定値とした。
【0041】
<角層水分量測定>
SKICON-200EX(IBS社製)、周波数3.5MHzを用いて、各部位の測定を行った。1部位につき、7回計測を行い、最大値および最小値を除く5回の平均値を測定値とした(単位:μS)。
【0042】
各測定値について、測定部位ごとに全被験者、群分けしたグループの平均値と標準偏差(S.D.)を算出した。年齢と各項目群(シワ判定スコア、角層水分量、皮膚粘弾性)との相関性を、Spearmanの相関係数で判断した。部位差の検定は、Mauchlyの球面性検定で3項目間の対応のある検定を行い、有意差が認められた場合のみ、Bonferroni法を用いて多重比較を行った。各部位におけるグループ間の比較については、Studentのt検定によるグループ間比較を行った。なお、すべての検定において危険率5%以下である場合を有意とみなした。
【0043】
図3には、頚部におけるシワ判定スコアと年齢との相関を示す。図3には、Spearmanの相関係数(r)とp値を表示した(n=32)。図3に示すように、シワ判定スコアは、年齢との間で有意に逆相関し、加齢に伴ってシワが目立つ傾向が認められた。また、判定スコアの群分けは、G-P分析により全被験者に対して低スコアグループ(7名)と高スコアグループ(7名)に分けられた。低スコアグループおよび高スコアグループにおけるシワ判定スコアの平均値は、全体に比べ、それぞれ1以上の差が認められた(表2参照)。
【0044】
【表2】
【0045】
図4には、各部位毎の皮膚粘弾性(R2、R7)と年齢との相関を示す。図4には、Spearmanの相関係数(r)とp値を表示した(n=31)。図4に示すように、皮膚粘弾性(R2、R7)は、頬部、頚部、鎖骨下の全ての部位において、年齢との間で有意に逆相関し、加齢に伴って低下した。
【0046】
図5には、皮膚粘弾性(R2、R7)の部位間比較を示す。図5(a)及び(c)が全被験者(n=31)の結果を示し、図5(b)及び(d)が異なるグループ(低スコアグループ:n=7、高スコアグループ:n=10)の結果を示す。図5(a)及び(c)に示すように、部位差について、皮膚粘弾性は、頬部<頚部<鎖骨下の順に有意に高かった。低スコアグループ、高スコアグループにおいても同様に、頬部<頚部<鎖骨下の順に有意に高かった(図5(b)及び(d)参照)。なお、この結果は、頚部の皮膚が体幹部と頬部の中間的特徴を有するという過去の報告例を概ね支持する結果であった。
また、グループ間比較では、低スコアグループにおける頚部のR2は、高スコアグループに比べ有意に高かった(図5(b)参照)。一方、低スコアグループにおけるR7は、頚部だけでなく鎖骨下においても高スコアグループに比べ、有意に高い傾向が認められた(図5(d)参照)。なお、表3には、皮膚粘弾性(R7)について、全被験者の標準偏差に対する低スコアグループの標準偏差の割合を示す。
【0047】
【表3】
【0048】
以上、図3図5に示す皮膚粘弾性などの結果は、過去に報告されている知見と同様の傾向が認められた。次に、角層水分量について検討した。
【0049】
図6には、各部位毎の角層水分量と年齢との相関を示す。図6には、Spearmanの相関係数(r)とp値を表示し(n=32)、低スコアグループを濃い黒点で表示した。図6に示すように、頬部、頚部、鎖骨下の角層水分量は、いずれも年齢との相関が認められなかった。また、鎖骨下の角層水分量に関して、低スコアグループは若年層に限定せず、比較的狭い一定の領域(400μS付近)に密集していた(図6の右図参照)。
【0050】
図7には、角層水分量の部位間比較を示す。図7(a)が全被験者(n=32)の結果を示し、図7(b)が異なるグループ(低スコアグループ:n=7、高スコアグループ:n=7)の結果を示す。図7(a)に示すように、部位差について、頚部、鎖骨下の角層水分量は、いずれも頬部に比べ有意に高かった一方、頚部と鎖骨下との間に、有意な差は認められなかった。鎖骨下の角層水分量に関して、低スコアグループでは頚部との間に差が認められなかった一方、高スコアグループでは頚部に比べ有意に低かった(図7(b)参照)。また、グループ間比較では、低スコアグループにおける鎖骨下の角層水分量は、高スコアグループに比べ有意に高かった(図7(b)参照)。この特異な現象は、図6に示したように、全年齢で見た場合、鎖骨下の角層水分量と年齢との間に明確な相関関係は認められないことから、年齢が主たる要因でないことが推察される。
【0051】
ここで、図7(b)の低スコアグループは、頚部の皮膚が体幹部と頬部の中間的特徴を有するという過去の報告例を概ね支持する結果であった。一方で、高スコアグループは、驚くべきことに、これとは異なる結果を示した。これらの結果より、体幹部である鎖骨下の水分保持能の変化が、頚部のシワ形成に少なからず影響を与えていることが示唆された。
【0052】
また、表4に示すように、鎖骨下の角層水分量について、全被験者の標準偏差に対する低スコアグループの標準偏差の割合は、他部位に比べて小さかった。そのため、低スコアグループにおける鎖骨下の角層水分量は、比較的一定に保持されている傾向が認められた。
【0053】
【表4】
【0054】
続いて、図8には、鎖骨下の角層水分量と各部位毎のR7との相関を示す。図8には、低スコアグループを濃い黒点で表示した。低スコアグループの鎖骨下において、比較的一定の角層水分量を保持していた(表4及び図8参照)。加えて、鎖骨下のR7も同様に、全体の標準偏差に対する低スコアグループの標準偏差の割合が他部位と比較して小さいため、低スコアグループにおける鎖骨下のR7は、比較的一定の高い値である傾向が認められた(表3及び図8参照)。
【0055】
以上の結果より、鎖骨周辺部の肌の角層水分量と頚部のシワ形成は、密接に関係していることが明らかとなった。そのため、鎖骨周辺部の肌の角層水分量を指標とすることで、頚部におけるシワ形成リスクを評価することができる。
【0056】
次に、角層水分量の季節変動の影響について検討した。上記の被験者とは異なる20代の健常女性11名に対して、角層水分量の測定を行った。角層水分量の測定方法は、上記の測定と同様の方法で行った。今回は、各被験者に対して、5月、8月、11月にそれぞれ測定した。結果を図9に示す。
【0057】
図9には、鎖骨下の角層水分量と頚部のR7との相関を示す。図9に示すように、20代のヒトでも鎖骨下の角層水分量が低いヒトが存在することが分かる。一方で、全年代と比較すると、頚部のR7は総じて高い傾向があった。また、季節変動に関しては、5月と8月では、差がほとんど見られなかったのに対して、11月は、5月と8月に比べて、低い傾向があった。このことから、鎖骨下の角層水分量は、季節によって変動し、秋冬では、春夏に比べて、低くなると推察される。そのため、シワ形成リスクの評価に用いる判定閾値は測定時期(季節など)に応じて変化させることが好ましいと考えられる。
【0058】
本発明の測定方法によれば、頚部におけるシワ形成リスクを非侵襲的かつ簡便な手法で評価することができるので、化粧品の分野などにおいて広く利用することができる。また、従来では、頚部のシワに対する鎖骨周辺部へのアプローチは行われておらず、本発明は新しいアプローチを提供するものである。さらに、化粧品開発などへの応用も期待でき、鎖骨周辺部特有の最適な角層水分量を一定に保持するというアプローチは、非常に簡便で化粧品の分野などにおいて、価値が高いと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9