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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107707
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】酵素処理海藻エキス
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/00 20060101AFI20230727BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 8/362 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 8/9706 20170101ALI20230727BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20230727BHJP
   A61K 8/66 20060101ALN20230727BHJP
【FI】
C12P1/00 A
A61Q5/12
A61K8/362
A61K8/9706
C12P13/04
A61K8/66
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022019102
(22)【出願日】2022-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩士
(72)【発明者】
【氏名】喜田 幹子
【テーマコード(参考)】
4B064
4C083
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC231
4C083AC292
4C083AD471
4C083AD472
4C083CC33
4C083DD23
4C083DD27
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】 保湿効果等、毛髪や頭皮に対して良好な効果を有することが知られている海藻エキスについて、さらに過酸化水素除去能を付与し、価値を高めた海藻エキスを製造し、提供するものである。
【解決手段】 海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤を用いて処理することで、処理に使用した過酸化水素除去剤の過酸化水素消去能を無効化させた場合でも、過酸化水素除去能を有する酵素処理海藻エキスを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理海藻エキスの製造方法であって、
(工程I)L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素を用いて酵素処理する工程、及び
(工程II)工程Iの酵素処理により生成された過酸化水素を過酸化水素除去剤により除去する工程、
を含む、酵素処理海藻エキスの製造方法。
【請求項2】
2-オキソ酸含有酵素処理海藻エキスが得られる、請求項1記載の酵素処理海藻エキスの製造方法。
【請求項3】
L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理することにより得られる酵素処理海藻エキス。
【請求項4】
2-オキソ酸を含有する、請求項3に記載の酵素処理海藻エキス。
【請求項5】
L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理した酵素処理海藻エキスを有効成分とする、過酸化水素除去用組成物。
【請求項6】
L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理して得られる、2-オキソ酸を含有する酵素処理海藻エキスを有効成分とする、請求項5に記載の過酸化水素除去用組成物。
【請求項7】
L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理した酵素処理海藻エキスを有効成分とする、ダメージヘア予防・補修用組成物。
【請求項8】
染毛後又は脱色後の使用用である、請求項7記載のダメージヘア予防・補修用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素処理海藻エキス及びその利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
海藻エキスは、天然由来であり、安心して使用できる素材として知られ、多糖類を多く含み、保湿効果に優れることから、例えば、化粧品として利用され、特に毛髪用化粧料として利用されてきた(特許文献1)。
【0003】
一方、染毛剤や脱色剤に配合される過酸化水素が、使用後も毛髪に残留することで毛髪にダメージを与えてしまうという問題が指摘されており、様々な除去剤が報告されている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-272396号公報
【特許文献2】特許第4072594号公報
【特許文献3】特許第5891029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、保湿効果等、毛髪や頭皮に対して良好な効果を有することが知られている海藻エキスについて、さらに過酸化水素除去能を付与し、価値を高めた海藻エキスを製造し、提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤を用いて処理することで、処理に使用した過酸化水素除去剤の過酸化水素消去能を無効化させた場合でも、過酸化水素除去能を有する酵素処理海藻エキスを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]の態様に関する。
[1]酵素処理海藻エキスの製造方法であって、(工程I)L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素を用いて酵素処理する工程、及び(工程II)工程Iの酵素処理により生成された過酸化水素を過酸化水素除去剤により除去する工程、を含む、酵素処理海藻エキスの製造方法。
[2]2-オキソ酸含有酵素処理海藻エキスが得られる、[1]記載の酵素処理海藻エキスの製造方法。
[3]L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理することにより得られる酵素処理海藻エキス。
[4]2-オキソ酸を含有する、[3]に記載の酵素処理海藻エキス。
[5]L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理した酵素処理海藻エキスを有効成分とする、過酸化水素除去用組成物。
[6]L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理して得られる、2-オキソ酸を含有する酵素処理海藻エキスを有効成分とする、[5]に記載の過酸化水素除去用組成物。
[7]L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理した酵素処理海藻エキスを有効成分とする、ダメージヘア予防・補修用組成物。
[8]染毛後又は脱色後の使用用である、[7]記載のダメージヘア予防・補修用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、保湿効果等に加え、過酸化水素除去能を有する酵素処理海藻エキスを提供できる。また、過酸化水素除去用組成物として利用でき、毛髪用として用いることで、保湿効果等により毛髪や頭皮を保護することに加え、染毛等で残留し、毛髪にダメージを与えていた過酸化水素を除去することで、毛髪の損傷を防止できるダメージヘア予防・補修用組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に記載の酵素処理海藻エキスは、L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素で酵素処理する工程Iと、該酵素処理により生成された過酸化水素を過酸化水素除去剤により除去する工程IIとを備えることで得られる酵素処理海藻エキスであれば特に限定されない。工程Iは、L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素を用いて酵素処理する工程で、L-アミノ酸を含む海藻エキスと、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素とを含む溶液中で行うことができる。工程IIは、工程Iの酵素処理により生成された過酸化水素を過酸化水素除去剤により除去すればよく、工程Iの溶液中に過酸化水素除去剤を添加すればよく、工程Iの酵素と共に過酸化水素除去剤を添加してもよい。
【0010】
本発明に記載の海藻エキスは、L-アミノ酸を含むエキスであって、昆布、ワカメ、モズク、ヒジキ、ヒバマタ、ハバノリ、アカモク、アラメ等の褐藻類、アオサ、アオノリ、ヒトエグサ、スピルリナ等の緑藻類、アサクサノリ、スサビノリ、トサカノリ等の紅藻類等、海藻の抽出物であれば特に限定されず、市販の昆布エキス、海苔エキス等の海藻エキスを利用でき、L-グルタミン酸、L-アラニン、L-アスパラギン酸等を含むことが知られている。海藻エキスは一般的な方法で得ることができ、例えば、そのままの形状の海藻、細切処理若しくは粉砕処理した海藻、又は加水分解した海藻を、溶媒中で抽出することができ、溶媒は水が好ましいが、有機溶媒を含む溶媒でもよく、有機溶媒濃度は0~50重量%が好ましく、30重量%以下、10重量%以下若しくは5重量%以下がより好ましい。有機溶媒は、エタノール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等が例示できる。溶媒と海藻との比率は特に限定されないが、海藻1重量部に対して溶媒が0.5~100重量部が好ましく、1~50重量部がより好ましく、2~20重量部がさらに好ましい。抽出温度は、10~120℃が好ましく、15~100℃がより好ましく、20~90℃がさらに好ましい。抽出時間は、1分間~24時間が好ましく、2分間~12時間がより好ましく、5分間~5時間がさらに好ましく、10分間~2時間が特に好ましい。抽出は、常圧条件下、加圧条件下の何れでもよく、還流抽出でもよい。海藻原料と液部との分離は、不織布、フィルター等によるろ過、遠心分離等により分離し、液部を回収できる。
【0011】
本発明に記載の、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素は、以下の反応を触媒する酵素である。
L-アミノ酸+O+HO→2-オキソ酸+H+NH
該酵素は、酸素を電子受容体として利用し、L-アミノ酸を酸化して、2-オキソ酸を生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されず、L-グルタミン酸、L-アラニン又はL-アスパラギン酸の何れか1以上を基質とする酵素であればよく、L-グルタミン酸、L-アラニン及びL-アスパラギン酸からなる群より選ばれる1以上を基質とする酵素が好ましい。例えば、L-グルタミン酸酸化酵素、L-アミノ酸酸化酵素、L-アスパラギン酸酸化酵素が例示でき、L-グルタミン酸酸化酵素、L-アミノ酸酸化酵素及びL-アスパラギン酸酸化酵素からなる群より選ばれる1以上の酵素が好ましく、少なくともL-グルタミン酸酸化酵素を使用するのがより好ましい。L-グルタミン酸酸化酵素は、酸素を電子受容体として利用し、L-グルタミン酸を酸化して、α-ケトグルタル酸を生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されず、L-グルタミン酸を基質とする公知の酵素を用いることができ、例えば、特公昭61-26357号公報に記載のStreptomyces属に属する微生物由来のL-グルタミン酸酸化酵素が例示でき、例えば特願2021-133019に記載の、公知配列を利用して組換え製造したL-グルタミン酸酸化酵素を使用することもできる。L-アミノ酸酸化酵素は、酸素を電子受容体として利用し、L-アラニンを酸化して、ピルビン酸を生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されず、L-アラニンを基質とする公知の酵素を用いることができ、例えば、UniProt KB-Q8VPD4で開示されている公知配列を利用して組換え製造したL-アミノ酸酸化酵素を使用することもできる。L-アスパラギン酸酸化酵素は、酸素を電子受容体として利用し、L-アスパラギン酸を酸化して、オキサロ酢酸を生成する反応を触媒する酵素であれば特に限定されず、L-アスパラギン酸を基質とする公知の酵素を用いることができ、例えば、UniProt P10902で開示されている公知配列を利用して組換え製造したL-アスパラギン酸酸化酵素を使用することもできる。尚、オキサロ酢酸は常温では不安定なため、脱炭酸化が起きてピルビン酸となることが知られている。
【0012】
酵素量は、海藻エキス固形分1gに対して、1種類の酵素の酵素量が2~2,000ユニットが好ましく、5~1,000ユニットが好ましく、10~500ユニットがより好ましく、L-アミノ酸1μmolに対して、0.01~10ユニットが好ましく、0.02~5ユニットが好ましく、0.05~3ユニットがより好ましい。酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素の1ユニットとは、pH6.0、37℃の条件下で、基質とするL-アミノ酸に酵素を作用させて、1分間に1μmolのL-アミノ酸が分解される酵素量である。
【0013】
本発明に記載の、工程Iの酵素処理により生成された過酸化水素を除去する過酸化水素除去剤は、過酸化水素を除去できれば特に限定されないが、カタラーゼが好ましく、市販のカタラーゼを使用できる。カタラーゼの量は、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素1ユニットに対して、0.3ユニット以上が好ましく、0.5ユニット以上がより好ましく、1ユニット以上がさらに好ましく、5ユニット以上が特に好ましく、上限は特に制限されないが、例えば、1,000ユニット以下が好ましく、500ユニット以下がより好ましく、200ユニット以下がさらに好ましい。酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素が2種類の基質に作用する酵素の場合は、下限値が前記の2倍量、3種類の基質に作用する酵素の場合は、下限値が前記の3倍量を使用するのが好ましい。工程Iのみの場合、工程Iで生じた2-オキソ酸が、工程Iで生じた過酸化水素と反応して2-オキソ酸が減少してしまうため、工程IIを含むことが重要で、工程Iと工程IIとは、並行して行うのが好ましい。カタラーゼ1ユニットは、市販のカタラーゼの添付書類表示に従えばよい。
【0014】
工程I又は工程IIの処理条件は、工程Iで使用する酵素の最適pH、pH安定性等を考慮してpHを適宜設定できるが、例えば、pH3.0~9.0が例示でき、pH4.0~8.5が好ましく、pH5.0~8.0がより好ましく、pH8未満がさらに好ましく、温度は、酵素の最適温度、温度安定性等を考慮して適宜設定できるが、例えば、10~60℃が例示でき、20~55℃が好ましく、30~50℃がより好ましく、35℃以上がさらに好ましい。工程I又は工程IIの処理時間は処理条件に応じて適宜調整できるが、例えば、1分間~48時間が例示でき、5分間~24時間が好ましく、10分間~10時間がより好ましく、20分間~5時間がさらに好ましい。また、工程Iで使用する酵素の酵素反応に酸素が必要なため、処理中は通気及び/又は撹拌するのが好ましい。少なくとも50mM以上のリン酸カリウム、クエン酸ナトリウム又はリン酸ナトリウムの存在下で処理すると、沈殿が生じ易いため、使用しないのが好ましいが、海藻エキスの物性に影響を与えない範囲で、酸素を電子受容体として利用し、L-アミノ酸を酸化して、2-オキソ酸を生成する反応を触媒する酵素の安定剤、該反応の促進剤等を添加してもよい。
【0015】
工程I及びIIの後に、工程IIIとして熱処理を行うのが好ましく、熱処理は、75℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、85℃以上がさらに好ましく、処理時間は、温度によって適宜設定できるが、例えば30秒~60分間が例示でき、1~50分間が好ましく、2~40分間がさらに好ましく、工程I又は工程IIの酵素を失活させ、反応を停止させることを目的とする。
【0016】
本発明の酵素処理海藻エキスは、L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理することにより得ることができ、2-オキソ酸含有酵素処理海藻エキスであるのが好ましく、2オキソ酸濃度は0.1~500mMであるのが好ましく、0.5~300mMであるのがより好ましく、1.0~200mMであるのがさらに好ましい。2-オキソ酸は、α-ケトグルタル酸又はピルビン酸が好ましく、少なくともα-ケトグルタル酸であるのがより好ましい。
【0017】
本発明の酵素処理海藻エキスは、工程IIで使用した過酸化水素除去剤を除去した後においても過酸化水素除去能を有しており、過酸化水素除去用組成物として使用できる。該過酸化水素除去用組成物は、L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理した酵素処理海藻エキスが有効成分であって、また、L-アミノ酸を含む海藻エキスを、酸素を電子受容体としてL-アミノ酸を酸化する活性を有する酵素及び過酸化水素除去剤で処理することで得られる、2-オキソ酸、好ましくはα-ケトグルタル酸及び/又はピルビン酸を含有する酵素処理海藻エキスを有効成分とする過酸化水素除去用組成物である。本発明の過酸化水素除去用組成物は、工程IIで使用する過酸化水素除去剤を有効成分とするものではなく、工程Iで生じた2-オキソ酸を有効成分としており、一般的に過酸化水素除去剤として知られているカタラーゼは分子量が約24万であるのに対し、α-ケトグルタル酸、ピルビン酸等の2-オキソ酸の分子量は200未満と小さいことが特徴である。そのため、分子量が大きなカタラーゼが毛髪等に浸透できないのに対し、分子量が小さな2-オキソ酸は、浸透し易いため、本発明の過酸化水素除去用組成物は、毛髪で問題となる過酸化水素の除去に使用することで、優れた過酸化水素除去効果を発揮でき、特に染毛や脱色後に残存する過酸化水素を除去することができる。
【0018】
さらに、本発明の酵素処理海藻エキスは、過酸化水素により毛髪が受けるダメージを予防する他、多糖類も含むことから、過酸化水素により毛髪が受けたダメージを補修することができ、ダメージヘア予防・補修用組成物として有用である。ダメージヘア予防・補修用組成物中の、2-オキソ酸濃度は0.001~1mMであるのが好ましく、0.002~0.8mMであるのがより好ましく、0.005~0.6mMであるのがさらに好ましく、0.01~0.5mMであるのが特に好ましい。2-オキソ酸濃度は、α-ケトグルタル酸又はピルビン酸の濃度であるのが好ましく、α-ケトグルタル酸濃度とピルビン酸濃度の合計でもよい。
【実施例0019】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【実施例0020】
(酵素処理海藻エキスの調製)
熱水抽出物である昆布エキス(池田糖化工業株式会社製、Brix40%、塩分19%)(実施例1-1)又は海苔エキス(第一製網株式会社製、Brix46%、塩分15.5%)(実施例1-2)について、各々終濃度4.0%エキス固形分、終濃度10U/mLのL-グルタミン酸酸化酵素(特願2021-133019の実施例1に記載、比活性:260mg/mL)及び過酸化水素除去剤として終濃度1,000U/mLのカタラーゼ(牛肝臓由来、富士フイルム和光純薬株式会社製、比活性:約10,000U/mg)を含有する反応液を調製し、37℃で2時間反応後、85℃、15分処理によりL-グルタミン酸酸化酵素及びカタラーゼを失活させ、各反応を停止することで、実施例1-1の酵素処理昆布エキス及び実施例1-2の酵素処理海苔エキスを得た。尚、昆布エキスを含有する反応液のpHはpH7.0、反応液中のL-グルタミン酸濃度は7.6mMであり、海苔エキスを含有する反応液のpHはpH5.0、反応液中のL-グルタミン酸濃度は7.7mMだった。
【0021】
また、反応時間を1時間とする以外は実施例1-1と同様に実施して実施例1-3の昆布エキスを得た。
【0022】
また、L-グルタミン酸酸化酵素の終濃度を1U/mL、カタラーゼの終濃度を100U/mLとし、37℃で5時間反応させる以外は実施例1-1と同様に実施して実施例1-4の昆布エキスを、L-グルタミン酸酸化酵素の終濃度を10U/mL、カタラーゼの終濃度を10U/mLとする以外は実施例1-1と同様に実施して実施例1-5の昆布エキスを、L-グルタミン酸酸化酵素の終濃度を10U/mL、カタラーゼの終濃度を100U/mLとする以外は実施例1-4と同様に実施して実施例1-6の昆布エキスをそれぞれ得た。
【0023】
酵素処理前の昆布エキス及び海苔エキスを比較例1-1及び1-2として、酵素処理前後の各海藻エキス中に含まれるα-ケトグルタル酸量を測定した。測定は、酵素処理前の各海藻エキス又は酵素処理後の各海藻エキスに、グルタミン酸脱水素酵素(オリエンタル酵母株式会社製)、アンモニア、NADPHを添加し、37℃で一定時間インキュベート後、340nmにおける吸光度変化を分光光度計で測定することで行った。試薬のα-ケトグルタル酸を用いてあらかじめ検量線を作成しておくことで、各エキス中のα-ケトクルタル酸濃度を算出した。結果を表1に示した。
【0024】
【表1】
【0025】
表1より、何れの海藻エキスにおいても、酵素反応前には検出されなかったα-ケトグルタル酸が、酵素処理後に検出されており、海藻エキスを酵素処理することで、α-ケトグルタル酸が生成されることが分かった。
【実施例0026】
(過酸化水素除去剤の検討)
終濃度4.0%エキス固形分の熱水抽出昆布エキス、終濃度1U/mLのL-グルタミン酸酸化酵素、並びに過酸化水素除去剤である終濃度0.5~100U/mLのカタラーゼ(実施例2-1~2-4)を含有する反応液を調製し、37℃で5時間反応後、80℃、30分処理により酵素を失活させ、反応を停止することで、実施例2-1~2-4の酵素処理昆布エキスを得た。尚、カタラーゼを含まない反応液を調製し、同様に処理したものを比較例2とした。尚、試薬等は実施例1と同じものを使用した。実施例1に記載の方法でα-ケトグルタル酸量を測定し、結果を表2に示した。
【0027】
【表2】
【0028】
表2より、過酸化水素除去剤であるカタラーゼを含まない反応ではα-ケトグルタル酸が検出されず、α-ケトグルタル酸の生成には、L-グルタミン酸酸化酵素に過酸化水素除去剤であるカタラーゼを併用することが重要であることが分かった。
【実施例0029】
(酵素処理昆布エキスの過酸化水素除去能の評価)
1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)5μLと水32.5μLとの混合液37.5μLと、2.5μLの10mM過酸化水素(終濃度0.5mM)とを混合後、実施例1-1で得られた酵素処理昆布エキスを10μL添加し、37℃で30分間静置し、酵素処理昆布エキスの過酸化水素除去能を評価した。尚、反応液中のα-ケトグルタル酸濃度は1.5mMだった。また、実施例1-1で得られた酵素処理昆布エキスの代わりに酵素処理前の昆布エキスを添加する以外は前記と同様に処理したものを、比較例3とした。尚、反応液中のα-ケトグルタル酸は検出されなかった。その後、公知のトリンダー試薬を使用した過酸化水素の検出系で、過酸化水素濃度を測定した。結果を表3に示した。
【0030】
【表3】
【0031】
0.5mMの過酸化水素が存在する反応液において、酵素処理前の昆布エキスを添加して処理した比較例は、0.46mMの過酸化水素が残存していたが、酵素処理昆布エキスを添加して処理した実施例3においては、熱処理によりカタラーゼを失活させることで過酸化水素消去能を消失させているにも関わらず、過酸化水素が0.01mMにまで低減できていた。よって、添加したカタラーゼに起因する過酸化水素除去能ではなく、昆布エキスをL-グルタミン酸酸化酵素及びカタラーゼで処理することによって、生成したα-ケトグルタル酸に起因する、過酸化水素除去能を有する酵素処理海藻エキスが得られることが分かった。
【実施例0032】
(各pHによる反応性)
実施例1-1で使用した昆布エキスを、固形分含量が4%になるように希釈し、酸又はアルカリ溶液で、pH6.0、6.6、7.6、8.1にそれぞれ調整した。尚、未調整の酵素処理昆布エキスはpH7.1だった。各pHのエキス溶液に、実施例1で使用した200U/mL L-グルタミン酸酸化酵素溶液を0.5%、カタラーゼ粉末(スミチーム(登録商標)CTS、Aspergillus niger由来、新日本化学工業株式会社製、比活性:約55,000U/g品)を0.18%添加し、37℃で23時間反応後、80℃、30分処理により酵素を失活させ、反応を停止した。実施例1に記載の方法でα-ケトグルタル酸濃度を測定し、結果を表4に示した。少なくとも本pH範囲において、α-ケトグルタル酸を含む昆布エキスが取得できることを確認した。
【0033】
【表4】
【実施例0034】
(緩衝液成分の影響)
終濃度4%エキス固形分の昆布エキス(実施例1-1で使用したエキスと同じもの)、終濃度50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)若しくはクエン酸-リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)、又は無添加で、終濃度1U/mLのL-グルタミン酸酸化酵素(実施例1-1で使用した酵素と同じもの)、終濃度100U/mLのカタラーゼ(実施例4で使用した酵素と同じもの)を含有する反応液を調製し、37℃で6時間反応後、80℃、30分処理により酵素を失活させ、反応を停止した。実施例1に記載の方法でα-ケトグルタル酸濃度を測定し、結果を表5に示した。また、反応後の白色沈殿の有無についても表5にまとめた。
【0035】
【表5】
【0036】
50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)又は50mMクエン酸-リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)存在下で、酵素処理海藻エキスを調製すると、α-ケトグルタル酸生成への影響はみられなかったが、沈殿を生じることが分かった。よって、少なくとも50mM以上のリン酸カリウム、クエン酸ナトリウム又はリン酸ナトリウムの非存在下で、酵素処理海藻エキスを調製するのが好ましいと思われる。