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特開2023-107748合成RNA断片及びRNA依存性増幅のためのその使用
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  • 特開-合成RNA断片及びRNA依存性増幅のためのその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107748
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】合成RNA断片及びRNA依存性増幅のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20230727BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20230727BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20230727BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6844 Z
C12N15/12
C12N15/31
C12N15/33
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023006926
(22)【出願日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】63/302163
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/338881
(32)【優先日】2022-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】508324396
【氏名又は名称】美洛生物科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】リン, シー・ラング
(72)【発明者】
【氏名】リン, サム
(72)【発明者】
【氏名】ウー, デービッド ティーエス
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ28
4B063QQ52
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR35
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR80
4B063QS05
4B063QS24
4B063QS34
4B063QS36
4B063QS38
4B063QS39
(57)【要約】      (修正有)
【課題】RNAテンプレートと組み合わせ、PCRのためのプロモーターとして作用し、それによりin vitroでのsaRNAの増幅を実現することを可能とするRdRp結合部位を提供する。
【解決手段】ここに開示されるものは、5’-末端リボ核酸(RNA)依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)結合部位11及び3’-末端RdRp結合部位12の少なくとも一方によって隣接されるRNAテンプレート15を含み、したがってRNA依存性RNAサイクリング反応(RCR)を介してin vitroで増幅され得る合成RNA断片に向けられる。本合成RNA断片の使用による増幅RNA産物を生成する方法も、ここに開示される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成リボ核酸(RNA)断片であって、
5’-末端RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)結合部位及び3’-末端RdRp結合部位によって隣接されるRNAテンプレートを備え、
前記5’-末端及び3’-末端結合部位の各々は、個々に、5’-USUSCYW-3’及び5’-UAGSRVR-3’からなる群から選択されるポリリボヌクレオチド配列を備える、合成RNA断片。
【請求項2】
前記5’-末端RdRp結合部位は、5’-UCUCCUA-3’、5’-UGUGCUA-3’又は5’-UCUCCCU-3’のポリリボヌクレオチド配列を有する、請求項1に記載の合成RNA断片。
【請求項3】
前記3’-末端RdRp結合部位は、5’-UAGGAGA-3’、5’-UAGCACA-3’又は5’-UAGGGAGA-3’のポリリボヌクレオチド配列を有する、請求項1に記載の合成RNA断片。
【請求項4】
前記RNAテンプレートは、ポリリボヌクレオチド配列、又はポリリボヌクレオチド及びポリデオキシリボヌクレオチド配列のハイブリッドを備え、前記ポリリボヌクレオチド配列はコーディングRNA又はノンコーディングRNAである、請求項1に記載の合成RNA断片。
【請求項5】
前記コーディングRNAは、抗原をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)である、請求項4に記載の合成RNA断片。
【請求項6】
前記抗原は、癌抗原、腫瘍抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、寄生虫抗原又はそれらの組合せである、請求項5に記載の合成RNA断片。
【請求項7】
前記腫瘍抗原は、ネオアンチゲン、腫瘍由来溶解物、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチンタンパク質、上皮性腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、メラノーマ関連抗原(MAGE)、RASタンパク質及び腫瘍抑制因子タンパク質からなる群から選択される、請求項6に記載の合成RNA断片。
【請求項8】
前記細菌抗原は、Actinomyces、Aeromonas、Arthrobacter、Bacillus、Bacteroides、Bordetella、Borrelia、Brucella、Campylobacter、Chlamydia、Citrobacter、Clostridium、Corynebacterium、Escherichia、Enterobacter、Gardnerella、Helicobacter、Haemophilus、Klebsiella、Legionella、Listeria、Mycobacterium、Neisseria、Nocardia、Pasteurella、Proteus、Pseudomonas、Ureaplasma、Salmonella、Shigella、Spirillum、Spirochaeta、Staphylococcus、Streptobacillus、Streptococcus、Streptomyces、Treponema及びYersiniaからなる群から選択される細菌種に由来する、請求項6に記載の合成RNA断片。
【請求項9】
前記ウイルス抗原は、アデノウイルス、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、サイトメガロウイルス、デルタインフルエンザウイルス、デルタコロナウイルス、ガンマコロナウイルス、ヘパシウイルス、ヘパトウイルス、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、インフルエンザCウイルス、インフルエンザDウイルス、レンチウイルス、レトウイルス、リンホクリプトウイルス、オルソニューモウイルス、オルソヘパドナウイルス、オルソポックスウイルス、パピローマウイルス、クアランジャウイルス、ロタウイルス、シンプレックスウイルス及びバリセロウイルスからなる群から選択されるウイルス種に由来する、請求項6に記載の合成RNA断片。
【請求項10】
前記ウイルス抗原は、ベータコロナウイルスのスパイクタンパク質に由来する、請求項9に記載の合成RNA断片。
【請求項11】
前記真菌抗原は、アスペルギルス症、分芽菌症、カンジダ症、黒色分芽菌症、クリプトコッカス症、ヒストプラスマ症、マイセトーマ、パラコクシジオイデス症、白癬及び癜風からなる群から選択される真菌感染症を引き起こす真菌種に由来する、請求項6に記載の合成RNA断片。
【請求項12】
前記寄生虫抗原は、アフリカトリパノソーマ症、アメーバ症、シャーガス病、エキノコックス症、肝蛭症、鉤虫症、ヒメノレピス条虫症、リーシュマニア症、神経嚢虫症、オンコセルカ症、プラスモディウム感染症、パラゴニム症、ニューモシスチス肺炎(PCP)、住血吸虫症、トリコモナス症、条虫症及び鞭虫症からなる群から選択される寄生虫感染症を引き起こす寄生虫種に由来する、請求項6に記載の合成RNA断片。
【請求項13】
前記ノンコーディングRNAは、短鎖干渉RNA(siRNA)、リボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、マイクロRNA(miRNA)又はアプタマーである、請求項4に記載の合成RNA断片。
【請求項14】
前記miRNAは、前駆体miRNA又は成熟miRNAである、請求項13に記載の合成RNA断片。
【請求項15】
前記ノンコーディングRNAは、前駆体miRNA-302に由来する、請求項14に記載の合成RNA断片。
【請求項16】
前記RNAテンプレートは、非構造タンパク質の転写産物をコードするポリリボヌクレオチド配列を備える、請求項1に記載の合成RNA断片。
【請求項17】
前記非構造タンパク質は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)である、請求項16に記載の合成RNA断片。
【請求項18】
増幅RNA産物をin vitroで生成する方法であって、RNAサイクリング反応(RCR)を介して請求項1に記載の合成RNA断片を増幅し、それにより請求項1に記載の合成RNA断片の前記RNAテンプレートから転写された前記増幅RNA産物を生成するステップを備える方法。
【請求項19】
前記合成RNA断片の前記RNAテンプレートは、ポリリボヌクレオチド配列、又はポリリボヌクレオチド及びポリデオキシリボヌクレオチド配列のハイブリッドを備え、前記ポリリボヌクレオチド配列は非構造タンパク質の転写産物をコードする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
5-プライムキャップ(5’キャップ)及びポリ(A)テールを、前記増幅RNA産物に付加するステップをさらに備える請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記増幅RNA産物は、自己増幅RNA(saRNA)である、請求項18に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年1月24日に出願された米国仮特許出願第63/302,163号及び2022年5月5日に出願された第63/338,881号の優先権及び利益を主張し、その全体が参照によりここに取り込まれる。
【0002】
本開示は、核酸増幅技術の分野に関する。より具体的には、開示された発明は、新規合成リボ核酸(RNA)断片及びRNA依存性RNAサイクリング反応(RCR)におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0003】
最初にアルファウイルスゲノムに由来して以来、自己増幅リボ核酸(saRNA又はsamRAN)は、数十年にわたって癌及び感染性疾患に対するワクチンを開発するのに研究され、用いられてきた。初期のsaRNA設計は、ゲノム発現のための自己複製可能な組換えmRNAプラットフォームを再構築するバックボーンとしてウイルスゲノムの部分を用いるウイルスレプリコンに基づいている。結果として、saRNA構築物は、キャップ、5’非翻訳領域(UTR)、ペプチド/タンパク質コード配列、3’UTR及び可変長ポリ(A)テールを含むメッセンジャーRNA(mRNA)の基本要素を含むだけでなく、ウイルスの19ヌクレオチド(nt)保存配列要素(3’CSE)及び3’CSE配列を認識することによってin situでのRNA転写産物の自己転写及び増幅を可能とするRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)複合体をコードするアルファウイルスレプリカーゼ遺伝子も備える。それらの自己複製活性の結果として、saRNAは、低濃度で送達されて、同等の抗原発現を実現し得る。そのため、saRNAは、重要なRNAワクチン候補として浮上している。
【0004】
所望のRNA配列の増幅RNA産物をin vitroで生成する現在の方法体系は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及びin vitro転写(IVT)を組み合わせる方法に依存する。具体的には、方法は、主に以下の、逆転写2本鎖cDNAテンプレートを所望のRNA配列から調製するステップ、RNAテンプレートを逆転写2本鎖cDNAからin vitro転写を介して合成するステップ、合成RNAテンプレートを逆転写してRNA-cDNAハイブリッドを形成するステップ、PCRを反復することによってRNA-cDNAハイブリッドをプロモーター結合2本鎖cDNAに増幅するステップ、RNAをプロモーター結合2本鎖cDNAからin vitro転写を介して合成するステップ、及び増幅ハイブリッドRNA-cDNA産物のデオキシリボヌクレオチドをエンドヌクレアーゼによって消化し、それにより増幅RNA産物を生成するステップを備える。
【0005】
しかし、上記方法では、in vitroでのsaRNAの増幅に制限がある。前述のRdRpは、RNA-cDNAハイブリッドを生成するステップを省くように開発され、RNA介在性増幅に関与され得るが、RdRp結合部位として作用する3’CSEは、一般的なPCR又は逆転写PCRにおける潜在的なプライマーとして用いるには、未だに長すぎる。また、3’CSEは、ステムループを容易に形成する高次構造配列であるため、RNA転写が従来の原核生物のRNAポリメラーゼを用いることを阻害し、従来のin vitro転写(IVT)方法の実行の失敗をもたらす。
【0006】
前述を鑑み、関連技術において、RNAテンプレートと組み合わせ、PCRのためのプロモーターとして作用し、それによりin vitroでのsaRNAの増幅を実現することを可能とするRdRp結合部位を開発するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0007】
以下に、基本的な理解を読者に与えるために本開示の簡略化した概要を提示する。この概要は、本開示の網羅的な概観ではなく、本発明の鍵となる/重要な要素を特定するものでも本発明の範囲を記するものでもない。その専らの目的は、ここに開示される幾つかの概念を、後述のさらに詳細な説明の序章としての簡略な形態で提示することである。
【0008】
ここで実現され、広義に記載されるように、本開示の一態様は、合成リボ核酸(RNA)断片に向けられ、それは、5’-末端RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)結合部位、3’-末端RdRp結合部位又はそれらの組合せによって隣接されるRNAテンプレートを備え、5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位の各々は、個々に、5’-USUSCYW-3’及び5’-UAGSRVR-3’からなる群から選択されるポリリボヌクレオチド配列を備える。
【0009】
本開示のいくつかの実施形態によると、5’-末端RdRp結合部位は、5’-UCUCCUA-3’、5’-UGUGCUA-3’又は5’-UCUCCCU-3’のポリリボヌクレオチド配列を有する。
【0010】
本開示のいくつかの実施形態によると、3’-末端RdRp結合部位は、5’-UAGGAGA-3’、5’-UAGCACA-3’又は5’-UAGGGAGA-3’のポリリボヌクレオチド配列を有する。
【0011】
本開示のいくつかの実施形態によると、RNAテンプレートは、ポリリボヌクレオチド配列、又はポリリボヌクレオチド及びポリデオキシリボヌクレオチド配列のハイブリッドを備え、ポリリボヌクレオチド配列は、コーディングRNA又はノンコーディングRNAである。
【0012】
本開示の一実施形態によると、コーディングRNAは、抗原をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)であり得る。具体的には、抗原は、癌抗原、腫瘍抗原、細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、寄生虫抗原又はそれらの組合せであり得る。
【0013】
腫瘍抗原の例は、これらに限定されないが、ネオアンチゲン、腫瘍由来溶解物、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチンタンパク質、上皮性腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、メラノーマ関連抗原(MAGE)、RASタンパク質及び腫瘍抑制因子タンパク質を含む。
【0014】
例示の細菌抗原は、Actinomyces、Aeromonas、Arthrobacter、Bacillus、Bacteroides、Bordetella、Borrelia、Brucella、Campylobacter、Chlamydia、Citrobacter、Clostridium、Corynebacterium、Escherichia、Enterobacter、Gardnerella、Helicobacter、Haemophilus、Klebsiella、Legionella、Listeria、Mycobacterium、Neisseria、Nocardia、Pasteurella、Proteus、Pseudomonas、Ureaplasma、Salmonella、Shigella、Spirillum、Spirochaeta、Staphylococcus、Streptobacillus、Streptococcus、Streptomyces、Treponema及びYersiniaを含む細菌種に由来し得るが、これらに限定されない。
【0015】
例示のウイルス抗原は、これらに限定されないが、アデノウイルス、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、サイトメガロウイルス、デルタインフルエンザウイルス、デルタコロナウイルス、ガンマコロナウイルス、ヘパシウイルス、ヘパトウイルス、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、インフルエンザCウイルス、インフルエンザDウイルス、レンチウイルス、レトウイルス、リンホクリプトウイルス、オルソニューモウイルス、オルソポックスウイルス、パピローマウイルス、クアランジャウイルス、ロタウイルス、シンプレックスウイルス及びバリセロウイルスを含むウイルス種に由来し得る。
【0016】
本開示の好適な一実施形態によると、ウイルス抗原は、ベータコロナウイルスのスパイクタンパク質に由来する。
【0017】
例示の真菌抗原は真菌感染症を引き起こす真菌種に由来し得るものであり、真菌感染症はアスペルギルス症、ブラストミセス症、カンジダ症、黒色分芽菌症、クリプトコッカス症、ヒストプラスマ症、マイセトーマ、パラコクシジオイデス症、白癬及び癜風を含むが、これらに限定されない。
【0018】
例示の寄生虫抗原は、これらに限定されないが、アフリカトリパノソーマ症、アメーバ症、シャーガス病、エキノコックス症、肝蛭症、鉤虫症、ヒメノレピス条虫症、リーシュマニア症、神経嚢虫症、オンコセルカ症、プラスモディウム感染症、パラゴニム症、ニューモシスチス肺炎(PCP)、住血吸虫症、トリコモナス症、条虫症及び鞭虫症を含む寄生虫感染症を引き起こす寄生虫種に由来し得る。
【0019】
本開示のいくつかの実施形態によると、ノンコーディングRNAは、短鎖干渉RNA(siRNA)、リボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、マイクロRNA(miRNA)又はアプタマーである。
【0020】
本開示のある実施形態では、miRNAは前駆体miRNAであり、他の実施形態では、miRNAは成熟miRNAである。
【0021】
本開示の効果的な一実施例によると、ノンコーディングRNAは、前駆体miRNA-302に由来する。
【0022】
本開示のいくつかの実施形態によると、RNAテンプレートは、非構造タンパク質の転写産物をコードするポリリボヌクレオチド配列を備え、好適な一実施形態では、非構造タンパク質はRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)である。
【0023】
本開示の他の態様は、RNAサイクリング反応(RCR)を介して前述の合成RNA断片を増幅し、それにより上記合成RNA断片のRNAテンプレートから転写された増幅RNA産物を生成するステップを備える、in vitroで増幅RNA産物を生成する方法に向けられる。
【0024】
本開示のいくつかの実施形態によると、合成RNA断片のRNAテンプレートは、ポリリボヌクレオチド配列、又はポリリボヌクレオチド及びポリデオキシリボヌクレオチド配列のハイブリッドを備え、ポリリボヌクレオチド配列は非構造タンパク質の転写産物をコードする。本開示の好適な一実施形態によると、非構造タンパク質はRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)である。
【0025】
本開示のいくつかの実施形態によると、本方法は、5-プライムキャップ(5’キャップ)及びポリ(A)テールを増幅RNA産物に付加するステップをさらに備える。
【0026】
本開示のいくつかの好適な実施形態では、増幅RNA産物は、自己増幅RNA(saRNA)である。
【0027】
本開示の付随する特徴及び効果の多くは、添付図面との関連で検討される以下の詳細な説明を参照してより深く理解されることになる。
【0028】
本説明は、添付図面に照らして読まれる以下の詳細な説明から、より深く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】図は、本開示の一実施形態に係る例示の合成RNA断片1の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
一般的な慣行により、種々の説明される特徴/要素は縮尺通りに図示されないが、代わりに、本発明に関連する特定の特徴/要素を最も良く示すように図示される。また、種々の図面における同様の参照番号及び指定は、同様の要素/部分を示すように用いられる。
【0031】
添付図面との関連で以下に与えられる詳細な説明は、本実施例の説明としてのものであり、本実施例が構成又は利用され得る形態のみを示すものではない。その説明は、実施例の機能及び実施例を構成して動作させるためのステップの配列を説明する。ただし、同一又は同等の機能及び配列が、異なる実施例によっても実現され得る。
【0032】
1.定義
便宜上、明細書、実施例及び添付の特許請求の範囲で採用される特定の用語をここにまとめる。特に断りのない限り、ここに用いられるすべての技術的及び科学的用語は、この発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同様の意味を有する。
【0033】
単数形「a」、「an」及び「the」は、そうでないことを文脈が明示しない限り、複数の参照を含むものとして用いられる。
【0034】
発明の広い範囲を説明する数値範囲及びパラメータは概数であるものの、特定の実施例で説明される数値は可能な限り正確に報告される。ただし、いずれの数値も、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされる所定の誤差を本来的に含む。
【0035】
ここに用いられるように、用語「RNAテンプレート」は、所望のポリリボヌクレオチド配列が増幅され得るRNA介在性RNAサイクリング反応(RCR)においてコピーの合成のためのテンプレートとして作用する所望のポリリボヌクレオチド配列を含むことを意図する。したがって、RNAテンプレートは、実用的なニーズに応じて、コーディングRNA若しくはノンコーディングRNAのポリリボヌクレオチド配列又はコーディングRNA若しくはノンコーディングRNAに由来するポリリボヌクレオチド配列を備え得る。例えば、RNAテンプレートは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質をコードするポリリボヌクレオチド配列を備え得る。あるいは、RNAテンプレートは、テンプレートにポリリボヌクレオチドが存在する場合、ポリリボヌクレオチド及びポリデオキシリボヌクレオチド配列のハイブリッドも備え得る。
【0036】
ここに互換可能に用いられる用語「所望のRNA」又は「所望のポリリボヌクレオチド配列」は、標的としてみなされ、特定の目的のために増幅されることが予想されるそれらのRNA断片又はポリリボヌクレオチド配列をいう。本開示では、所望のRNAは、前駆体miRNAの断片又はウイルス非構造タンパク質の転写産物であり得る。
【0037】
ここに用いられるように、用語「RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)結合部位」は、RdRp酵素によって認識及び結合され得る短鎖RNA配列(例えば、10nt未満)をいう。通常、RdRp結合部位は、DNA又はRNAのポリヌクレオチドの末端に隣接されて、増幅方法体系、例えばRNAサイクリング反応(RCR)において有用なDNA/RNAテンプレートを形成し得る。本開示によると、RdRp結合部位は、5’-USUSCYW-3’又は5’-UAGSRVR-3’のポリリボヌクレオチド配列を備える。
【0038】
ここに互換可能に用いられる用語「「RNA依存性」又は「RNA介在性」RNAサイクリング反応(RCR)」は、増幅RNAを生成するために、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を用いてテンプレートとしてのポリリボヌクレオチド配列及び反応材料としてのリボヌクレオシド三リン酸(rNTP)を用いる、反復されるサイクリング反応をいう。
【0039】
ここに用いられる用語「非構造タンパク質」は、ウイルスによってコードされるがウイルス粒子の一部ではないタンパク質をいう。非構造タンパク質(nsP又はNSP)は、通常、ウイルスプロテアーゼ、RNAレプリカーゼ及び/又はRNAテンプレート指向性ポリメラーゼなどの、ウイルスが自己を複製するのに用いる種々の酵素及び転写因子を含む。
【0040】
ここに用いられる用語「マイクロRNA」又は「miRNA」は、遺伝子発現の制御において役割を果たすノンコーディングRNAの部類をいう。大部分のmiRNAは、DNA配列から1次miRNA(pri-miRNA)に転写され、前駆体miRNA(pre-miRNA)及び最終的に成熟miRNAにプロセッシングされる。したがって、ここに用いられる用語miRNAは、miRNAプロセッシング及び成熟に関与されるすべてのノンコーディングRNAをいい、好ましくは、前駆体miRNA及び成熟miRNAを含む。
【0041】
ここに用いられる用語「感染性疾患」は、通常、発熱、炎症、上部気道症状、下痢等などの急性症状引き起こす細菌、ウイルス、真菌又は寄生虫などの病原体によって引き起こされる障害をいう。
【0042】
2.好適な実施形態の詳細な説明
本開示は、リボ核酸(RNA)テンプレートの2つの末端に隣接され、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)によって認識されてin situ転写を開始し得る短鎖リボヌクレオチド(10nt未満)の開発に、少なくともある程度基づく。したがって、本開示は、RdRpに認識可能な新規短鎖リボヌクレオチドによって隣接されるRNAテンプレートを備え、したがってRNA依存性RNAサイクリング反応(RCR)を介してin vitroで増幅され得る合成RNA断片を提供する。また、本合成RNA断片の使用による増幅RNA産物を生成する方法も、ここに提供される。
【0043】
2.1 本開示の合成RNA断片
本発明の一態様は、リボ核酸(RNA)依存性RNA増幅工程に用いられるのに適した合成RNA断片に向けられる。合成RNA断片は、5’-末端RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)結合部位、3’-末端RdRp結合部位又はそれらの組合せによって隣接されるRNAテンプレートを備え、5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位の各々は、個々に、5’-USUSCYW-3’及び5’-UAGSRVR-3’からなる群から選択されるポリリボヌクレオチド配列を備える。
【0044】
本開示の一実施形態に係る本合成RNA断片1の例示の構造を示す図をより具体的に参照する。RNAテンプレート15は、5’-末端RdRp結合部位11若しくは3’-末端RdRp結合部位12又は双方によっていずれか隣接され得ることが留意されるべきである。好ましくは、図に示す概略構造のように、RNAテンプレート15は、5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位(11、12)の双方によって隣接される。
【0045】
本開示の合成RNA断片は、1本鎖又は2本鎖のいずれかのDNA又はcDNAテンプレートからin vitroで直接的に転写するステップを含む、当技術分野で周知の手順及び/又はツールを介して生成され得る。本開示のいくつかの実施形態によると、合成RNA断片は、米国特許出願公開第2022/0396798号及び国際公開第2022/260718号並びにLi及びJi,Methods in Molecular Biology,vol.221,2003年によって発表された研究論文に記載されるように、逆転写PCR(RT-PCR)又は一般のPCR手順及びin vitro転写(IVT)手順を組み合わせた方法によって生成される。具体的には、標的遺伝子又は配列断片の2本鎖cDNAテンプレート(以下、cDNAテンプレート)は、(PCRのためのフォワード及びリバースプライマーを含む)プライマー対の添加を伴う従来のRT-PCRを介して、単離された1本鎖DNA若しくはRNA、RNA-DNAハイブリッド又は2本鎖DNAから生成される。本開示によると、プライマー対は、RdRp結合部位の配列を相補するように設計及び合成され、したがって、本RdRp結合部位の相補的DNA配列は、cDNAテンプレートの5’-及び3’-末端に埋め込まれ、取り込まれる。なお、本RdRp結合部位は、RdRp活性を開始させるためのプロモーター様モチーフとして作用する。結果として生成されたcDNAテンプレートは、IVT手順を受けて、合成RNA断片を作成する。本開示によると、IVT手順を行うために、もたらされたcDNAテンプレートは、当技術分野で周知の手順及び/又はツールを介してプラスミド又はウイルスベクターにクローニングされてもよく、それにより、5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位によって隣接されるRNAテンプレートのRNA配列を備える本合成RNA断片を生成する。代替的な実施形態では、RdRp結合部位のプライマーを取り込み結果として生成されたcDNAテンプレートは、RNA依存性RNAサイクリング反応(RCR)の出発材料として作用することができ、それにより、本合成RNA断片を直接的に生成する。
【0046】
本開示のいくつかの好適な実施形態によると、5’-末端RdRp結合部位は、5’-UCUCCUA-3’、5’-UGUGCUA-3’又は5’-UCUCCCU-3’のポリリボヌクレオチド配列を有する。本開示の他の好適な実施形態によると、3’-末端RdRp結合部位は、5’-UAGGAGA-3’、5’-UAGCACA-3’又は5’-UAGGGAGA-3’のポリリボヌクレオチド配列を有する。効果的な一実施例では、RNAテンプレートは、5’-UCUCCUA-3’及び5’-UAGGAGA-3’によって隣接される。他の効果的な実施例では、RNAテンプレートは、5’-UGUGCUA-3’及び5’-UAGCACA-3’によって隣接される。さらなる効果的な実施例では、RNAテンプレートは、5’-UCUCCCU-3’及び5’-UAGGGAGA-3’によって隣接される。
【0047】
代替的に又は任意選択的に、本開示の5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位の各々は、個々に、5’-UAGSRVRA-3’及び5’-UYBYHCUA-3’からなる群から選択されるポリリボヌクレオチド配列を備える。
【0048】
上述されるように、本開示のRNAテンプレートは、RNAコピーを生成するのに有用な合成RNA断片を形成するように2つのRdRp結合部位によって隣接されている限り、コーディングRNA又はノンコーディングRNAの所望のポリリボヌクレオチド配列のいずれかであってもよく、いずれかを含んでいてもよい。
【0049】
本開示のいくつかの実施形態によると、コーディングRNAは、抗原をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)を含む。具体的に、コーディングRNAは、癌抗原、腫瘍抗原、真菌抗原、寄生虫抗原、細菌抗原、ウイルス抗原又はそれらの組合せをコードするmRNAであり得る。
【0050】
前述の腫瘍抗原の例は、限定されることなく、ネオアンチゲン、腫瘍由来溶解物、アルファフェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、ムチンタンパク質、上皮性腫瘍抗原(ETA)、チロシナーゼ、メラノーマ関連抗原(MAGE)、RASタンパク質、腫瘍抑制因子タンパク質及びそれらの組合せを含む。
【0051】
前述の細菌抗原の例は、Actinomyces、Aeromonas、Arthrobacter、Bacillus、Bacteroides、Bordetella、Borrelia、Brucella、Campylobacter、Chlamydia、Citrobacter、Clostridium、Corynebacterium、Escherichia、Enterobacter、Gardnerella、Helicobacter、Haemophilus、Klebsiella、Legionella、Listeria、Mycobacterium、Neisseria、Nocardia、Pasteurella、Proteus、Pseudomonas、Ureaplasma、Salmonella、Shigella、Spirillum、Spirochaeta、Staphylococcus、Streptobacillus、Streptococcus、Streptomyces、Treponema及びYersinia属を含む細菌種に由来するものを含むが、これらに限定されない。
【0052】
前述のウイルス抗原の例は、これらに限定されないが、アデノウイルス、アルファコロナウイルス、ベータコロナウイルス、サイトメガロウイルス、デルタインフルエンザウイルス、デルタコロナウイルス、ガンマコロナウイルス、ヘパシウイルス、ヘパトウイルス、インフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、インフルエンザCウイルス、インフルエンザDウイルス、レンチウイルス、レトウイルス、リンホクリプトウイルス、オルソニューモウイルス、オルソポックスウイルス、パピローマウイルス、クアランジャウイルス、ロタウイルス、シンプレックスウイルス及びバリセロウイルスを含むウイルス種に由来するものを含む。いくつかの実施形態では、ウイルス抗原は、ベータコロナウイルス属に由来し、好ましくは重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク(S)タンパク質又はヌクレオカプシド(N)タンパク質である。代替的な実施形態では、ウイルス抗原は、ヘパシウイルス属に由来し、好ましくはC型肝炎ウイルス(HCV)のコア抗原である。
【0053】
真菌抗原の例は、これらに限定されないが、アスペルギルス症、分芽菌症、カンジダ症、黒色分芽菌症、クリプトコッカス症、ヒストプラスマ症、マイセトーマ、パラコクシジオイデス症、白癬、癜風及びそれらの組合せを含む真菌感染症を引き起こす真菌種に由来するものを含む。
【0054】
前述の寄生虫抗原の例は、これらに限定されないが、アフリカトリパノソーマ症、アメーバ症、シャーガス病、エキノコックス症、肝蛭症、鉤虫症、ヒメノレピス条虫症、リーシュマニア症、神経嚢虫症、オンコセルカ症、プラスモディウム感染症、パラゴニム症、ニューモシスチス肺炎(PCP)、住血吸虫症、トリコモナス症、条虫症、鞭虫症及びそれらの組合せを含む寄生虫感染症を引き起こす寄生虫種に由来するものを含む。
【0055】
本開示の代替的な実施形態によると、RNAテンプレートは、短鎖干渉RNA(siRNA)、リボソームRNA(rRNA)、転移RNA(tRNA)、マイクロRNA(miRNA)又はアプタマーなどのノンコーディングRNAのポリリボヌクレオチド配列を含む。通常、miRNAの例は、これらに限定されないが、前駆体miRNA又は成熟miRNAを含む。効果的な一実施例によると、本RNAテンプレートは、ヒトの前駆体miRNA-302クラスターに由来するポリリボヌクレオチド配列を含む。
【0056】
いくつかの代替的な実施形態では、コーディング又はノンコーディングRNA配列に加えて、合成RNA断片は、ウイルスに由来する非構造タンパク質(nsP)をコードするポリリボヌクレオチド配列をさらに備える。通常、ポリリボヌクレオチド配列の転写産物は、RNAレプリカーゼ及び/又はRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)などの機能性タンパク質に翻訳されてRNA介在性複製を開始する。本合成RNA断片における使用に適した非構造タンパク質の例は、これらに限定されないが、ロタウイルス、ベータコロナウイルス、インフルエンザウイルス、ヘパシウイルス、オルソヘパドナウイルス、フレボウイルス等を含むウイルス種又は属に由来するものであり得る。本開示の効果的な一実施形態では、転写産物は、アルファウイルスに由来し、翻訳後にRdRpタンパク質全体を形成すると予想される4つの非構造タンパク質(nsP1~4)を有する。本開示の他の効果的な実施形態では、非構造タンパク質は、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2)に由来する。さらに他の効果的な実施形態では、非構造タンパク質は、NS5Bとして知られるようなC型肝炎ウイルス(HCV)RdRpに由来する。
【0057】
2.2 本合成RNA断片の使用を介した増幅
本開示の他の態様は、in vitroで増幅RNA産物を生成する方法に向けられる。方法は、RNAサイクリング反応(RCR)を介して本合成RNA断片を増幅し、それにより本合成RNA断片のRNAテンプレートから転写された増幅RNA産物を生成するステップを少なくとも備える。
【0058】
本開示によると、合成RNA断片は、RNAレプリカーゼ(すなわち、RdRp酵素)によって認識され得る少なくとも1つのRdRp結合部位を含み、したがって、RNA依存性(又はRNA介在性)RCRに用いられ得る。RNA依存性RCRの工程は、米国特許出願第17/648,336号並びに米国仮特許出願第63/302,163号及び第63/338,881号に記載されている。簡潔には、合成RNA断片及びRNAレプリカーゼ(すなわち、RdRp酵素)は、RNA合成に必要とされるリボヌクレオシド三リン酸分子(rNTP)を含む緩衝液条件で供給される。増幅が開始すると、ほとんどの場合にセンス鎖RNA配列である合成RNA断片は、テンプレートとして作用し、RdRp酵素をRdRp結合部位に結合させ、複製を実行して、相補的アンチセンス鎖RNA配列を生成し得る。アンチセンス鎖RNA配列も、RNAテンプレート及びRdRp結合部位を含み、したがって、アンチセンス鎖RNA配列は、センス鎖RNA配列を増幅する他のテンプレートとして作用することができ、センス鎖RNA配列はアンチセンス鎖RNA配列を再度増幅するテンプレートとしてさらに作用する。換言すると、センス鎖及びアンチセンス鎖RNAの双方は、相互についてのテンプレートとして作用して、RNA依存性RCRを介した所望のRNA増幅を実施し得る。したがって、複数の増幅サイクルは、実用的なニーズによる温度及び時間を含む所定の条件下で行われてもよく、最終的に所望の配列を有する合成RNA断片は、10から1000倍の増幅、例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990又は1000倍の増幅のように数倍に増幅され、それにより所望の増幅RNA産物を取得する。効果的な一実施例では、もたらされる増幅RNA産物は、最初の合成RNA断片に対して10倍の増加量である。他の効果的な実施例では、増幅RNA産物は、合成RNA断片に対して100倍の増加量である。他の効果的な実施例では、増幅RNA産物は、1000倍の増加量を有する。
【0059】
いくつかの実施形態によると、増幅は、6.0~8.0の範囲のpHレベルで、20℃~45℃で、20分から6時間にわたって実施される。
【0060】
本開示によると、結果として得られた増幅RNA産物は、反応条件に応じて、1次、2次又は3次構造のいずれかとなり得る。いくつかの実施形態では、本増幅RNA産物の構造は、1本鎖の2次構造のコンフォメーションである。他の実施形態では、本増幅RNA産物は、主に2本鎖RNA産物から構成される。
【0061】
上述のように、RNA依存性RCRに用いられる合成RNA断片は、ウイルスに由来する非構造タンパク質(nsP)をコードするポリリボヌクレオチド配列をさらに備える。合成RNA断片のRNAテンプレートにおいて、上記ポリリボヌクレオチド配列は、好ましくは、所望のRNAの上流に配置される。本開示のいくつかの実施形態では、転写産物は、アルファウイルスに由来し、翻訳後にRdRpタンパク質全体を形成すると予想される4つの非構造タンパク質(nsP1~4)を有する。本開示の他の実施形態では、非構造タンパク質は、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-1及びSARS-CoV-2)に由来する。さらに他の効果的な実施形態では、非構造タンパク質は、NS5Bとして知られるようなC型肝炎ウイルス(HCV)RdRpに由来する。
【0062】
したがって、合成RNA断片の全長に基づいて生成する増幅RNAは、非構造タンパク質転写産物をコードするポリリボヌクレオチド配列も含む。本増幅RNA産物は、rRNA、snRNA、tRNA、小核球(sno)RNA及びおそらくmRNAを介したRNA誘導性RNA修飾などの、当技術分野で周知の手段及びツールによって、これらに限定されないが、RNAスプライシング、ナンセンス変異依存分解(nonsense-mediated decay)(NMD)、RNA編集、5’-キャップ形成、3’-ポリ(A)テーリング及びそれらの組み合わせを含むRNAプロセッシングをさらに受ける。好適な一実施形態では、5プライムキャップ(5’キャップ)及びポリ(A)テールは、増幅RNA産物に付加され、それにより成熟メッセンジャーRNAを生成する。構造的に、結果として生成された増幅RNA産物は、5’キャップ、5’UTR、少なくとも1つの非構造タンパク質(nsP)、翻訳開始部位(TIS)、目的の所望の配列(コーディング又はノンコーディング配列のいずれか)、3’UTR及び3’ポリ(A)テールを少なくとも含む。したがって、結果として得られた増幅RNA産物は、自己増幅特性を所持し、したがって自己増幅RNA(saRNA)として多彩な用途に作用し得る。
【0063】
まとめると、本合成RNA断片は、RCR介在性RNA増幅に必要とされる5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位並びに自己複製に必要とされる非構造タンパク質(すなわち、RdRpポリメラーゼ)のポリリボヌクレオチド配列を構造的に含み、結果として、上述の本RCR方法により上記合成RNA断片を増幅することによって生成された増幅RNA産物は、mRNAワクチン開発に有益であるsaRNAの全長コンフォメーションを保持する。
【0064】
上記の特徴により、本開示は、ポリメラーゼによって認識され結合される新規の5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位を備える新規合成RNA断片を提供し、したがってin vitro環境でのRNA依存性増幅及び複製を可能とする。さらに、本開示の5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位は、ステムループ構造によって阻害されることなく、相補的対を形成してRNAテンプレートに対するRdRpの結合を安定化してRNA合成を開始する。全体として、saRNAは、RNA依存性RCR工程において効果的及び迅速に合成されることができ、それによって結果として生成されたsaRNAが高収率、高構造完全性及び高純度の有利な効果並びに多彩な用途を保持する。
【実施例0065】
材料及び方法
プライマー
表1 本出願において用いられたプライマー対
【表1】
【0066】
配列設計
本開示の5’-及び3’-末端RdRp結合部位のRNA配列は、コンピュータスクリーニングによって設計されSARS-CoV-2又はHCVウイルスに由来する。
【0067】
in vitro RNAトランスフェクション
ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)の単離されたメッセンジャーRNA、及び前駆体miRNA-302又はSARS-CoV-2のSタンパク質を、20:1~1:20の範囲の比率で混合し、0.5mLの細胞培養培地に溶解し、1~50μLのトランスフェクション試薬(in vivo-jetPEI、Westburg社、オランダ)を添加して混合物を形成した。そして、10~30分間のインキュベーション後、混合物を、50%~60%の培養密度の培養細胞を含む他の細胞培養培地に添加した。培地を、細胞の種類に応じて、12~48時間ごとにリフラッシュ(reflash)した。
【0068】
cDNAテンプレートの調製
単離された所望のRNA(0.01ng~10μg)、逆転写(RT)プライマー(0.01~20nmole)、dNTP及び逆転写酵素を、逆転写反応キット(SuperScript III cDNA RT kit、ThermoFisher Scientific社、アメリカ)の試薬(20~50μL)と混合して、製造元の指示に従って反応混合物を調製した。そして、反応混合物を、その相補的DNA(cDNA)テンプレートを生成するように、所望のRNAの長さ及び構造複雑性に応じて、37~65℃で1~3時間インキュベーションした。そして、RT由来のcDNAテンプレート(0.01pg~10μg)を、20~50μLのPCR緩衝液(High-Fidelity PCR master kit、ThermoFisher Scientific社、アメリカ)と混合し、PCR混合物を生成した。公開文献Li及びJi,Methods in Molecular Biology,vol.221,2003年並びに米国特許出願第17/648,336号、米国仮特許出願第63/302,163号及び第63/338,881号に記載されるように、PCR混合物は、熱変性(94℃、1分間)、アニーリング(30~58℃、30秒から1分間)及び伸長(72℃で、1~3分間)で構成される反応サイクルを5~40サイクルにわたって受け、それにより、in vitro転写(IVT)を含む更なる検討のためのテンプレートとして作用する増幅cDNAを生成した。
【0069】
表1に列挙されるように、ウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)のcDNA配列を生成するのに用いられたRTプライマー対の配列は、配列番号1である。
【0070】
in vitro転写
合成及び増幅されたcDNAテンプレートは、配列番号1~4を含むPCRに特異的なプライマー(以下、PCR-readyプライマー)によって、本5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位をcDNAテンプレート上に取り込まれた。具体的には、配列番号1及び2を、RdRp遺伝子を含むcDNAテンプレートとともに用い、配列番号3及び4を、ヒトpre-miR-302クラスター遺伝子(pre-miR-302)を含むcDNAテンプレートとともに用いた。増幅cDNAテンプレート(0.01ng~10μg)、0.1~50UのウイルスRdRp及びヘリカーゼ(Abcam社、マイアミ州、アメリカ/Creative Enzymes社、ニューヨーク州)、rNTP並びにT7、T3、M13及び/又はSP6を含むRNAポリメラーゼを、MgCl、NaCl、スペルミジンを補足されたTris-HCl緩衝液を含む、任意選択的にトリメチルグリシン(TMG)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び/又は3[N-モルホリノ]プロパンスルホン酸(MOPS)を各々0.001~10mMで添加された1×転写緩衝液において混合して、混合物を形成した。混合物を、RNA依存性増幅のための本合成RNA断片を生成するように、30~40℃で1~6時間にわたって反応させた。
【0071】
RNA依存性RNAサイクリング反応(RCR)
単離された合成RNA断片(0.01ng~10μg)、ウイルスRdRp及びヘリカーゼの混合物(0.1~50U)並びにrNTPを、MgCl、NaCl、スペルミジン、TMG、DMSO及び/又はMOPS(0.001~10mM)を補足されたTris-HCl緩衝液を含む1×転写緩衝液において混合し、それにより反応混合物を形成した。反応混合物は、20~45℃で1~6時間にわたってインキュベーションすることによってRNA依存性RCRを受け、それにより増幅RNA産物を生成した。
【0072】
統計
すべてのデータを、平均及び標準偏差(SD)として示した。各試験群の平均値及びそのSDを、それぞれMicrosoft ExcelのAVERAGE及びSTDEVによって計算した。データを、一元配置分散分析によって分析した。Tukey及びDunnettのt事後検定を用いて、統計ソフトウェア(SPSS v12.0)を実施することによって、各群におけるデータ差の有意性を特定した。p<0.05を有意であると見なした。
【実施例0073】
実施例1 5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位を含む本合成RNA断片の生成
本5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位は、「材料及び方法」の章に記載された方法によって設計及び合成された。結果として生成された5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位並びにそれらのRNA配列を表2に列挙する。
表2 本5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位
【表2】
【0074】
さらに、ウイルスRdRpのcDNAテンプレート、並びに表2の5’-末端RdRp結合部位及び3’-末端RdRp結合部位の各々によって隣接されたSARS-CoV-2のスパイクタンパク質又は前駆体miRNA-302は「材料及び方法」の章に記載された手順により合成され、そして、in vitro転写を受け、それにより本合成RNA断片を生成した。
【実施例0075】
実施例2 合成RNA断片を用いることによる自己増幅RNAの生成
この実施例では、本合成RNA断片がRNA依存性RCRの効率を向上するか否かを評価した。この目的のために、「材料及び方法」の章に記載された手順により、合成RNA断片をRNA依存性RCR(増幅)のためのテンプレートとして用いて、それにより自己増幅RNA(saRNA)を生成した。saRNAの収率を計算した。
【0076】
RNA依存性RCRは本合成RNA断片によって開始されることに成功し、saRNA産物は、高純度比(14/15~999/1000)で生成されることが見出された。さらに、saRNA産物は、構造完全性を保持し、したがって、その後細胞に送達された場合に元来の自己増幅能を継承する。
【0077】
まとめると、本5’-末端及び3’-末端RdRp結合部位は、ウイルスRdRpに高度に相補的であり、したがって、in vitroでの直接的なRNA介在性増幅を自動的に開始する。
【0078】
実施形態の上記説明は例示としてのみ与えられること及び種々の変形が当業者によってなされ得ることが理解されるはずである。上記仕様、実施例及びデータは、発明の例示の実施形態の構造及び使用の完全な説明を与える。発明の種々の実施形態がある程度の特殊性で又は1以上の個別の実施形態を参照して上述されたが、当業者であれば、この発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく開示の実施形態に対して多数の変更を行うことができるはずである。
図1
【配列表】
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【外国語明細書】